特許第6876040号(P6876040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6876040フッ素化溶媒と2−フラノンとを含む非水電解質組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876040
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】フッ素化溶媒と2−フラノンとを含む非水電解質組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20210517BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20210517BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20210517BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20210517BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20210517BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210517BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20210517BHJP
   C07D 307/58 20060101ALI20210517BHJP
   C07C 69/63 20060101ALN20210517BHJP
【FI】
   H01M10/0569
   H01M10/0567
   H01M10/0568
   H01M4/485
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M10/052
   C07D307/58
   !C07C69/63
【請求項の数】28
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2018-521203(P2018-521203)
(86)(22)【出願日】2016年9月1日
(65)【公表番号】特表2019-500716(P2019-500716A)
(43)【公表日】2019年1月10日
(86)【国際出願番号】US2016049830
(87)【国際公開番号】WO2017074556
(87)【国際公開日】20170504
【審査請求日】2019年8月1日
(31)【優先権主張番号】62/246,160
(32)【優先日】2015年10月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】バークハート, ステファン イー.
(72)【発明者】
【氏名】マンゾ, スティーヴン
【審査官】 井原 純
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2008−0065561(KR,A)
【文献】 国際公開第2014/165748(WO,A1)
【文献】 特開平11−273725(JP,A)
【文献】 特表2014−526125(JP,A)
【文献】 特開2014−203656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/00−4/62
C07D 307/00−307/94
C07B 31/00−61/00
C07C 1/00−409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)フッ素化溶媒と、
b)カーボネート補助溶媒と、
c)式(II)
(式中、
、R、R、およびR10が各々独立にH、F、直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル基、または直鎖もしくは分岐C〜C10フルオロアルキル基である)によって表される少なくとも1つのγ−ラクトンであって、2(5H)−フラノンを含むγ−ラクトンと、
d)少なくとも1つの電解質塩と
を含む電解質組成物であって、
フッ素化溶媒が、
a)式
−COO−R
によって表されるフッ素化非環状カルボン酸エステル、
b)式
−OCOO−R
によって表されるフッ素化非環状カーボネート、
c)式
−O−R
によって表されるフッ素化非環状エーテル、または
それらの混合物
であり、式中、
i)RがH、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)RおよびRが各々独立にフルオロアルキル基であり、かつ互いに同一であるかまたは異なるかのいずれかであり得;
iii)R、R、およびRが各々独立にアルキル基またはフルオロアルキル基であり、かつ互いに同一であるかまたは異なるかのいずれかであり得;
iv)RおよびRのいずれかまたは両方がフッ素を含み;および
v)それぞれ対とされるRおよびR、RおよびR、ならびにRおよびRが、少なくとも2個の炭素原子であるが7個以下の炭素原子を含み;かつ
フッ素化溶媒およびカーボネート補助溶媒は、異なる化合物である、
電解質組成物
【請求項2】
それぞれ対とされるRおよびR、RおよびR、ならびにRおよびRが、少なくとも2個のフッ素原子をさらに含むが、ただし、R、R、R、R、R、またはRのいずれも−CHFまたは−CHF−基を含有しない、請求項に記載の電解質組成物。
【請求項3】
フッ素化溶媒がフッ素化非環状カルボン酸エステルである、請求項に記載の電解質組成物。
【請求項4】
フッ素化非環状カルボン酸エステルが、CH−COO−CHCFH、CHCH−COO−CHCFH、FCHCH−COO−CH、FCHCH−COO−CHCH、CH−COO−CHCHCFH、CHCH−COO−CHCHCFH、FCHCHCH−COO−CHCH、CH−COO−CHCF、CHCH−COO−CHCFH、H−COO−CHCFH、H−COO−CHCF、またはそれらの混合物である、請求項に記載の電解質組成物。
【請求項5】
非環状カルボン酸エステルが2,2−ジフルオロエチルアセテートを含む、請求項に記載の電解質組成物。
【請求項6】
フッ素化溶媒がフッ素化非環状カーボネートである、請求項に記載の電解質組成物。
【請求項7】
フッ素化非環状カーボネートが、メチル2,2−ジフルオロエチルカーボネート;メチル2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート;メチル2,2,3,3−テトラフルオロプロピルカーボネート;2,2−ジフルオロエチルエチルカーボネート;2,2,2−トリフルオロエチルエチルカーボネート;またはそれらの混合物である、請求項に記載の電解質組成物。
【請求項8】
カーボネート補助溶媒が非フッ素化カーボネートを含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項9】
非フッ素化カーボネートが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルビニレンカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルブチルカーボネート、プロピルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、またはそれらの混合物を含む、請求項に記載の電解質組成物。
【請求項10】
カーボネート補助溶媒がフッ素化カーボネートを含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項11】
フッ素化カーボネートが、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン;4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン;4,5−ジフルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン;4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン;4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン;4,4,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン;またはそれらの混合物を含む、請求項10に記載の電解質組成物。
【請求項12】
フッ素化溶媒が、2,2−ジフルオロエチルアセテート;2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート;またはそれらの混合物を含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項13】
電解質組成物の全重量に基づいて0.1重量パーセント〜5重量パーセントのγ−ラクトンを含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項14】
式(III)
(式中、各々のQが独立に水素または任意選択的にフッ素化されたビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、もしくはC〜Cアルキル基である)によって表される環状サルフェートをさらに含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項15】
環状サルフェートがエチレンサルフェートを含む、請求項14に記載の電解質組成物。
【請求項16】
i)式(IV):
LiBF(4−2p)(C i(IV)
(式中、pが0、1、または2である)によって表されるボレート塩;および/または
ii)式(V):
LiPF(6−2q)(C i(V)
(式中、qが1、2、または3である)によって表されるオキサレート塩
から選択される少なくとも1つの成分をさらに含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項17】
ボレート塩がリチウムビス(オキサラト)ボレートを含む、請求項16に記載の電解質組成物。
【請求項18】
オキサレート塩がリチウムトリス(オキサラト)ホスフェートを含む、請求項16に記載の電解質組成物。
【請求項19】
(a)ハウジングと、
(b)ハウジング中に配置され、かつ互いにイオン伝導的に接触するアノードおよびカソードと、
(c)ハウジング中に配置され、かつアノードとカソードとの間にイオン伝導性経路を提供する、請求項1に記載の電解質組成物と、
(d)アノードとカソードとの間の多孔質セパレータと
を含む電気化学セル。
【請求項20】
リチウムイオン電池である、請求項19に記載の電気化学セル。
【請求項21】
アノードがアノード活物質を含み、アノード活物質がリチウムチタネート、黒鉛、リチウム合金、ケイ素、またはそれらの組合せである、請求項20に記載の電気化学セル。
【請求項22】
カソードが、Li/Li参照電極に対して4.6Vを超える電位範囲において30mAh/g超の容量を示すカソード活物質、またはLi/Li参照電極に対して4.1V以上の電位まで充電されるカソード活物質を含む、請求項20に記載の電気化学セル。
【請求項23】
カソードがカソード活物質を含み、カソード活物質が、
LiNiMnCo2−f
(式中、
RがAl、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組合せであり;
ZがF、S、P、またはそれらの組合せであり;および
0.8≦a≦1.2、0.1≦b≦0.9、0.0≦c≦0.7、0.05≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、b+c+d+eの合計が1であり、および0≦f≦0.08である)を含む、請求項20に記載の電気化学セル。
【請求項24】
カソードがカソード活物質を含み、カソード活物質が、式:
x(Li2−w1−vw+v3−e)・(1−x)(LiMn2−z4−d
(式中、
が0〜0.1であり;
AがMnまたはTiの1つまたは複数を含み;
QがAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Mg、Nb、Ni、Ti、V、Zn、ZrまたはYの1つまたは複数を含み;
eが0〜0.3であり;
vが0〜0.5であり;
wが0〜0.6であり;
MがAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Li、Mg、Mn、Nb、Ni、Si、Ti、V、Zn、ZrまたはYの1つまたは複数を含み;
dが0〜0.5であり;
が0〜1であり;
が0.3〜1であり;および
LiMn2−z4−d成分がスピネル構造を有し、Li2−ww+v1−v3−e成分が層状構造を有する)の構造によって表される複合材料を含む、請求項20に記載の電気化学セル。
【請求項25】
カソードがカソード活物質を含み、カソード活物質が、
Li1−b,R
(式中、
AがNi、Co、Mn、またはそれらの組合せであり;
RがAl、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組合せであり;
DがO、F、S、P、またはそれらの組合せであり;および
0.90≦a≦1.8および0≦b≦0.5である)を含む、請求項20に記載の電気化学セル。
【請求項26】
カソードがカソード活物質を含み、およびカソード活物質が、
Li1−xDO4−f
(式中、
AがFe、Mn、Ni、Co、V、またはそれらの組合せであり;
RがAl、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組合せであり;
DがP、S、Si、またはそれらの組合せであり;
ZがF、Cl、S、またはそれらの組合せであり;
0.8≦a≦2.2であり;
0≦x≦0.3であり;および
0≦f≦0.1である)を含む、請求項20に記載の電気化学セル。
【請求項27】
請求項19に記載の電気化学セルを含む、電子デバイス、輸送デバイス、または通信デバイス。
【請求項28】
a)フッ素化溶媒と、
b)カーボネート補助溶媒と、
c)式(II)
(式中、
、R、R、およびR10が各々独立にH、F、直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル基、または直鎖もしくは分岐C〜C10フルオロアルキル基である)によって表される少なくとも1つのγ−ラクトンであって、2(5H)−フラノンを含むγ−ラクトンと、
d)少なくとも1つの電解質塩と
を組み合わせて電解質組成物を形成する工程を含む方法であって、
フッ素化溶媒が、
a)式
−COO−R
によって表されるフッ素化非環状カルボン酸エステル、
b)式
−OCOO−R
によって表されるフッ素化非環状カーボネート、
c)式
−O−R
によって表されるフッ素化非環状エーテル、または
それらの混合物
であり、式中、
i)RがH、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)RおよびRが各々独立にフルオロアルキル基であり、かつ互いに同一であるかまたは異なるかのいずれかであり得;
iii)R、R、およびRが各々独立にアルキル基またはフルオロアルキル基であり、かつ互いに同一であるかまたは異なるかのいずれかであり得;
iv)RおよびRのいずれかまたは両方がフッ素を含み;および
v)それぞれ対とされるRおよびR、RおよびR、ならびにRおよびRが、少なくとも2個の炭素原子であるが7個以下の炭素原子を含み;かつ
フッ素化溶媒およびカーボネート補助溶媒は、異なる化合物である、
方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年10月26日出願の米国特許仮出願第62/246160号の利益を主張するものであり、この特許出願の全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本明細書における開示は、フッ素化溶媒と、カーボネート補助溶媒と、少なくとも1つの共役γ−ラクトンと、電解質塩とを含む電解質組成物に関する。本電解質組成物は、リチウムイオン電池などの電気化学セルに有用である。
【背景技術】
【0003】
カーボネート化合物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはこれらの金属を含む化合物から作られた電極を含有する非水電池、例えばリチウムイオン電池用の電解質溶媒として現在使用されている。現在のリチウムイオン電池電解質は、典型的には、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートなどの1つまたは複数の線状カーボネート;およびエチレンカーボネートなどの環状カーボネートを含有する。しかしながら、約4.2Vを超えるカソード電位においてこれらの電解質溶媒は分解する可能性があり、それは電池性能の低下をもたらし得る。
【0004】
一般に使用される非水電解質溶媒の制限を克服するために様々なアプローチが研究されてきた。例えば、環状カルボン酸無水物などの添加物が、ある種の電解質溶媒と組み合わせて使用されてきた(例えば、Jeonらの米国特許出願公開第2010/0273064 A1号明細書を参照されたい)。さらに、様々なフッ素化カルボン酸エステル電解質溶媒がリチウムイオン電池での使用のために研究されてきた(例えば、Nakamuraらの特開平4/328915B2号公報、特開平3/444607B2号公報、および米国特許第8,097,368号明細書を参照されたい)。これらの電解質は、4VスピネルLiMnカソードなど、高電位カソードを有するリチウムイオン電池に使用することができるが、サイクリング性能が特に高温で制限され得る。
【0005】
リチウムイオン電池において、特に高い電圧で(すなわち約5Vまで)作動するか、または高電圧カソードを組み込むこのような電池において使用されるときに、高温で改良されたサイクリング性能を有する電解質組成物が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
一実施形態において、
a)フッ素化溶媒と、
b)カーボネート補助溶媒と、
c)式(II)
(式中、
、R、R、およびR10が各々独立にH、F、直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル基、または直鎖もしくは分岐C〜C10フルオロアルキル基である)によって表される少なくとも1つの−ラクトンと、
d)少なくとも1つの電解質塩と
を含む電解質組成物が本明細書において提供される。いくつかの実施形態において、−ラクトンは2(5H)−フラノンを含む。
【0007】
一実施形態において、フッ素化溶媒は、
a)式
−COO−R
によって表されるフッ素化非環状カルボン酸エステル、
b)式
−OCOO−R
によって表されるフッ素化非環状カーボネート、
c)式:
−O−R
によって表されるフッ素化非環状エーテル、または
それらの混合物
であり、式中、
i)RがH、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)RおよびRが各々独立にフルオロアルキル基であり、かつ互いに同一であるかまたは異なるかのいずれかであり得;
iii)R、R、およびRが各々独立にアルキル基またはフルオロアルキル基であり、かつ互いに同一であるかまたは異なるかのいずれかであり得;
iv)RおよびRのいずれかまたは両方がフッ素を含み;および
v)それぞれ対とされるRおよびR、RおよびR、ならびにRおよびRが、少なくとも2個の炭素原子であるが7個以下の炭素原子を含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、フッ素化溶媒はフッ素化非環状カルボン酸エステルである。いくつかの実施形態において、フッ素化溶媒はフッ素化非環状カーボネートである。いくつかの実施形態において、フッ素化溶媒はフッ素化非環状エーテルである。いくつかの実施形態において、カーボネート補助溶媒は少なくとも1つの非フッ素化カーボネートを含む。いくつかの実施形態において、カーボネート補助溶媒はフッ素化カーボネートを含む。いくつかの実施形態において、カーボネート補助溶媒はエチレンカーボネートを含む。いくつかの実施形態において、カーボネート補助溶媒はフルオロエチレンカーボネートを含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、電解質組成物は、式(III)
(式中、各々のQが独立に水素または任意選択的にフッ素化されたビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、もしくはC〜Cアルキル基である)によって表される環状サルフェートをさらに含む。いくつかの実施形態において、環状サルフェートはエチレンサルフェートを含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、電解質組成物は、
i)式(IV):
LiBF(4−2p)(C (IV)
(式中、pが0、1、または2である)によって表されるボレート塩;および/または
ii)式(V):
LiPF(6−2q)(C (V)
(式中、qが1、2、または3である)によって表されるオキサレート塩
から選択される少なくとも1つの成分をさらに含む。
【0011】
一実施形態において、式(IV)によって表されるボレート塩は、リチウムビス(オキサラト)ボレートを含む。一実施形態において、式(V)によって表されるオキサレート塩は、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェートを含む。
【0012】
別の実施形態において
(a)ハウジングと、
(b)ハウジング中に配置され、かつ互いにイオン伝導的に接触するアノードおよびカソードと、
(c)ハウジング中に配置され、かつアノードとカソードとの間にイオン伝導性通路を提供する、電解質組成物と、
(d)アノードとカソードとの間の多孔質セパレータと
を含む電気化学セルが提供される。
【0013】
いくつかの実施形態では、電気化学セルはリチウムイオン電池である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の特徴および利点は、以下の詳細な説明を読むことで当業者によってより容易に理解されるであろう。別個の実施形態との関連で上記および下記において明確にするために記載される、本開示のある種の特徴がまた単一要素で組み合わせて提供されてもよいことは十分に理解されるべきである。逆に、単一実施形態との関連で、簡潔にするために、記載される本開示の様々な特徴が別々にまたは任意の副次的組み合わせで提供されてもよい。さらに、単数形への言及はまた、文脈が特に具体的に述べない限り、複数形を包含してもよい(例えば、「1つの(a)」および「1つの(an)」は、1つまたは複数を意味してもよい)。
【0015】
本出願で明記される様々な範囲での数値の使用は、特に明確に示さない限り、あたかも述べられた範囲内の最小値および最大値が両方とも単語「約」に先行されるかのように近似値として述べられる。このように、述べられた範囲の上および下へのわずかなばらつきは、範囲内の値と同じ結果を実質的に達成するために用いることができる。また、これらの範囲の開示は、最小値と最大値との間の各値およびあらゆる値を含む連続範囲を意図する。
【0016】
上におよび本開示の全体にわたって使用されるとき、以下の用語は、別記しない限り、以下の通り定義されるものとする。
【0017】
用語「電解質組成物」は、本明細書で用いる場合、電気化学セルでの電解質としての使用に好適な化学組成物を意味する。
【0018】
用語「電解質塩」は、本明細書で用いる場合、電解質組成物の溶媒に少なくとも部分的に可溶性であり、かつ電解質組成物の溶媒中でイオンに少なくとも部分的に解離して導電性電解質組成物を形成するイオン性塩を意味する。
【0019】
用語「アノード」は、そこで酸化が起こる電気化学セルの電極を意味する。バッテリーなどのガルバーニ電池では、アノードは、負電荷を有する電極である。二次(すなわち再充電可能)電池では、アノードは、そこで放電中に酸化が起こり、充電中に還元が起こる電極である。
【0020】
用語「カソード」は、そこで還元が起こる電気化学セルの電極を意味する。バッテリーなどのガルバーニ電池では、カソードは、正電荷を有する電極である。二次(すなわち再充電可能)電池では、カソードは、そこで放電中に還元が起こり、充電中に酸化が起こる電極である。
【0021】
用語「リチウムイオン電池」は、リチウムイオンが放電中にアノードからカソードへ、充電中にカソードからアノードへ移動するタイプの再充電可能な電池を意味する。
【0022】
リチウムとリチウムイオンとの間の平衡電位は、約1モル/リットルのリチウムイオン濃度を与えるのに十分な濃度でリチウム塩を含有する非水電解質と接触してリチウム金属を使用し、および参照電極の電位がその平衡値(Li/Li)から有意に変わらないように十分に小さい電流を受ける参照電極の電位である。そのようなLi/Li参照電極の電位は、ここでは0.0Vの値を割り当てられる。アノードまたはカソードの電位は、アノードまたはカソードと、Li/Li参照電極のそれとの間の電位差を意味する。本明細書では、電圧は、そのいずれの電極も0.0Vの電位では動作し得ない、セルのカソートとアノードとの間の電圧差を意味する。
【0023】
用語「アルキル基」は、本明細書で用いる場合、1〜10個の炭素原子を含有する飽和直鎖または分岐鎖炭化水素基を意味する。アルキル基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソアミル、ヘキシル、へプチル、およびオクチルが含まれる。
【0024】
用語「フルオロアルキル基」は、本明細書で用いる場合、少なくとも1個の水素がフッ素によって置換されているアルキル基を意味する。
【0025】
用語「カーボネート」」は、本明細書で用いる場合、具体的には、炭酸のジアルキルジエステル誘導体である有機カーボネートを意味し、有機カーボネートは、一般式:
OCOOR
(式中、RおよびRが、各々独立に、少なくとも1個の炭素原子を有するアルキル基から選択される)を有し、そこでアルキル置換基は同一または異なっていることができ、飽和または不飽和、置換または非置換であることができ、連結した原子によって環状構造を形成することができ、および/またはアルキル基のいずれかまたは両方の置換基として環状構造を含有することができる。
【0026】
a)フッ素化溶媒と、b)カーボネート補助溶媒と、c)本明細書に開示されたような少なくとも1つのγ−ラクトンと、d)少なくとも1つの電解質塩とを含むか、またはそれらから本質的になる電解質組成物が本明細書において開示される。フッ素化溶媒は、フッ素化非環状カルボン酸エステル、フッ素化非環状カーボネート、フッ素化非環状エーテル、またはそれらの組合せであってもよい。一実施形態において、フッ素化溶媒はフッ素化非環状カルボン酸エステルである。一実施形態において、フッ素化溶媒はフッ素化非環状カーボネートである。一実施形態において、フッ素化溶媒はフッ素化非環状エーテルである。用語「フッ素化溶媒」および「カーボネート補助溶媒」は、本明細書で用いる場合、電解質組成物の異なる、すなわち同じでない化合物を意味する。
【0027】
一実施形態において、電解質組成物は、環状サルフェートをさらに含む。
【0028】
本電解質組成物は、電気化学セル、特にリチウムイオン電池に有用である。フッ素化溶媒と、カーボネート補助溶媒と、本明細書に開示された少なくとも1つのγ−ラクトンと、少なくとも1つの電解質塩とを含むか、またはそれらから本質的になる電解質組成物が高いエネルギー密度および高温での改良されたサイクリング性能を有する二次電池を提供し得ることが見出されている。
【0029】
「から本質的になる」という語句は、電解質組成物がa)およびb)として記載された成分を溶媒として含有し得ることを意味する。電解質組成物は、a)またはb)成分の1つとして記載されていない他の溶媒を含まないかまたは本質的に含まない。「本質的に含まない」は、特定の成分が、電解質組成物の総重量を基準として5重量パーセント未満、または3重量パーセント未満、または1重量パーセント未満、または0.5重量パーセント未満で存在することを意味する。さらに、「から本質的になる」という言語は、電解質組成物が、リチウム塩ではない他の電解質塩を含まないかまたは本質的に含まないことを意味する。
【0030】
適したフッ素化非環状カルボン酸エステルは、式
−COO−R
(式中、
i)RがH、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)Rがアルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)RおよびRのいずれかまたは両方がフッ素を含み;および
iv)対とされるRおよびRが、少なくとも2個の炭素原子であるが7個以下の炭素原子を含む)によって表される。
【0031】
一実施形態において、RはHであり、かつRはフルオロアルキル基である。一実施形態において、Rはアルキル基であり、かつRはフルオロアルキル基である。一実施形態において、Rはフルオロアルキル基であり、かつRはアルキル基である。一実施形態において、Rはフルオロアルキル基であり、かつRはフルオロアルキル基であり、ならびにRおよびRは互いに同一であるかまたは異なるかのいずれかであり得る。一実施形態において、Rは1個の炭素原子を含む。一実施形態において、Rは2個の炭素原子を含む。
【0032】
別の実施形態において、RおよびRは本明細書において上に定義された通りであり、ならびに対とされるRおよびRは、少なくとも2個の炭素原子であるが7個以下の炭素原子を含み、および少なくとも2個のフッ素原子をさらに含むが、ただし、RまたはRのいずれもFCH−基または-FCH−基を含有しない。
【0033】
適したフッ素化非環状カルボン酸エステルの例には、限定しないが、CH−COO−CHCFH(2,2−ジフルオロエチルアセテート、CAS No.1550−44−3)、CH−COO−CHCF(2,2,2−トリフルオロエチルアセテート、CAS No.406−95−1)、CHCH−COO−CHCFH(2,2−ジフルオロエチルプロピオネート、CAS No.1133129−90−4)、CH−COO−CHCHCFH(3,3−ジフルオロプロピルアセテート)、CHCH−COO−CHCHCFH(3,3−ジフルオロプロピルプロピオネート)、HCF−CH−CH−COO−CHCH(エチル4,4−ジフルオロブタノエート、CAS No.1240725−43−2)、H−COO−CHCFH(ジフルオロエチルホルメート、CAS No.1137875−58−1)、H−COO−CHCF(トリフルオロエチルホルメート、CAS No.32042−38−9)、FCHCH−COO−CH(メチル3,3−ジフルオロプロピオネート)、FCHCH−COO−CHCH(エチル3,3−ジフルオロプロピオネート)、およびそれらの混合物が含まれる。一実施形態において、フッ素化非環状カルボン酸エステルは2,2−ジフルオロエチルアセテート(CH−COO−CHCFH)を含む。一実施形態において、フッ素化非環状カルボン酸エステルは2,2−ジフルオロエチルプロピオネート(CHCH−COO−CHCFH)を含む。一実施形態において、フッ素化非環状カルボン酸エステルは2,2,2−トリフルオロエチルアセテート(CH−COO−CHCF)を含む。一実施形態において、フッ素化非環状カルボン酸エステルは2,2−ジフルオロエチルホルメート(H−COO−CHCFH)を含む。
【0034】
適したフッ素化非環状カーボネートは、式
−OCOO−R
(式中、
i)Rがフルオロアルキル基であり;
ii)Rがアルキル基またはフルオロアルキル基であり;および
iii)対とされるRおよびRが、少なくとも2個の炭素原子であるが7個以下の炭素原子を含む)によって表される。
【0035】
一実施形態において、Rはフルオロアルキル基であり、かつRはアルキル基である。一実施形態において、Rはフルオロアルキル基であり、かつRはフルオロアルキル基であり、ならびにRおよびRは互いに同一であるかまたは異なるかのいずれかであり得る。一実施形態において、Rは1個の炭素原子を含む。一実施形態において、Rは2個の炭素原子を含む。
【0036】
別の実施形態において、RおよびRは本明細書において上に定義された通りであり、ならびに対とされるRおよびRは、少なくとも2個の炭素原子であるが7個以下の炭素原子を含み、少なくとも2個のフッ素原子をさらに含むが、ただし、RまたはRのいずれもFCH−基または-FCH−基を含有しない。
【0037】
適したフッ素化非環状カーボネートの例には、限定しないが、CH−OC(O)O−CHCFH(メチル2,2−ジフルオロエチルカーボネート、CAS No.916678−13−2)、CH−OC(O)O−CHCF(メチル2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート、CAS No.156783−95−8)、CH−OC(O)O−CHCFCFH(メチル2,2,3,3−テトラフルオロプロピルカーボネート、CAS No.156783−98−1)、HCFCH−OCOO−CHCH(2,2−ジフルオロエチルエチルカーボネート、CAS No.916678−14−3)、およびCFCH−OCOO−CHCH(2,2,2−トリフルオロエチルエチルカーボネート、CAS No.156783−96−9)、またはそれらの混合物が含まれる。
【0038】
適したフッ素化非環状エーテルは、式
−O−R
(式中、
i)Rがフルオロアルキル基であり;
ii)Rがアルキル基またはフルオロアルキル基であり;および
iii)対とされるRおよびRが、少なくとも2個の炭素原子であるが7個以下の炭素原子を含む)によって表される。
【0039】
一実施形態において、Rはフルオロアルキル基であり、かつRはアルキル基である。一実施形態において、Rはフルオロアルキル基であり、かつRはフルオロアルキル基であり、ならびにRおよびRは互いに同一であるかまたは異なるかのいずれかであり得る。一実施形態において、Rは1個の炭素原子を含む。一実施形態において、Rは2個の炭素原子を含む。
【0040】
別の実施形態において、RおよびRは本明細書において上に定義された通りであり、ならびに対とされるRおよびRは、少なくとも2個の炭素原子であるが7個以下の炭素原子を含み、および少なくとも2個のフッ素原子をさらに含むが、ただし、RまたはRのいずれもFCH−基または-FCH−基を含有しない。
【0041】
適したフッ素化非環状エーテルの例には、限定しないが、HCFCFCH−O−CFCFH(CAS No.16627−68−2)およびHCFCH−O−CFCFH(CAS No.50807−77−7)が含まれる。
【0042】
フッ素化溶媒は、フッ素化非環状カルボン酸エステル、フッ素化非環状カーボネート、フッ素化非環状エーテル、またはそれらの混合物を含んでもよい。用語「それらの混合物」は、本明細書で用いる場合、溶媒クラス中の混合物および溶媒クラス間の混合物の両方、例えば2つ以上のフッ素化非環状カルボン酸エステルの混合物、およびまた例えばフッ素化非環状カルボン酸エステルとフッ素化非環状カーボネートとの混合物を包含する。非限定的な例には、2,2−ジフルオロエチルアセテートと2,2−ジフルオロエチルプロピオネートとの混合物;および2,2−ジフルオロエチルアセテートと2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネートとの混合物が含まれる。一実施形態において、フッ素化溶媒は、2,2−ジフルオロエチルアセテート;2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート;またはそれらの混合物を含む。
【0043】
一実施形態において、フッ素化溶媒は、
a)式:
−COO−R
によって表されるフッ素化非環状カルボン酸エステル、
b)式:
−OCOO−R
によって表されるフッ素化非環状カーボネート、
c)式:
−O−R
によって表されるフッ素化非環状エーテル、または
それらの混合物
であり、式中、
i)RがH、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)RおよびRが各々独立にフルオロアルキル基であり、かつ互いに同一であるかまたは異なるかのいずれかであり得;
iii)R、R、およびRが各々独立にアルキル基またはフルオロアルキル基であり、かつ互いに同一であるかまたは異なるかのいずれかであり得;
iv)RおよびRのいずれかまたは両方がフッ素を含み;および
v)それぞれ対とされるRおよびR、RおよびR、ならびにRおよびRが、少なくとも2個の炭素原子であるが7個以下の炭素原子を含む。
【0044】
別の実施形態において、フッ素化溶媒は、
a)式:
−COO−R
によって表されるフッ素化非環状カルボン酸エステル、
b)式:
−OCOO−R
によって表されるフッ素化非環状カーボネート、
c)式:
−O−R
によって表されるフッ素化非環状エーテル、または
それらの混合物
であり、式中、
i)RがH、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)RおよびRが各々独立にフルオロアルキル基であり、かつ互いに同一であるかまたは異なるかのいずれかであり得;
iii)R、R、およびRが各々独立にアルキル基またはフルオロアルキル基であり、かつ互いに同一であるかまたは異なるかのいずれかであり得;
iv)RおよびRのいずれかまたは両方がフッ素を含み;および
v)それぞれ対とされるRおよびR、RおよびR、ならびにRおよびRが、少なくとも2個の炭素原子であるが7個以下の炭素原子を含み、および少なくとも2個のフッ素原子をさらに含むが、ただし、R、R、R、R、R、またはRのいずれもFCH−基または-FCH−基を含有しない。
【0045】
本明細書に開示された電解質組成物において、フッ素化溶媒またはそれらの混合物は、電解質組成物の所望の性質に応じて様々な量で使用することができる。一実施形態において、フッ素化溶媒は、電解質組成物の約5パーセント〜約95重量パーセントを占める。別の実施形態において、フッ素化溶媒は、電解質組成物の約10パーセント〜約90重量パーセントを占める。別の実施形態において、フッ素化溶媒は、電解質組成物の約10パーセント〜約80重量パーセントを占める。別の実施形態において、フッ素化溶媒は、電解質組成物の約30パーセント〜約70重量パーセントを占める。別の実施形態において、フッ素化溶媒は、電解質組成物の約50パーセント〜約70重量パーセントを占める。別の実施形態において、フッ素化溶媒は、電解質組成物の約60パーセント〜約80重量パーセントを占める。別の実施形態において、フッ素化溶媒は、電解質組成物の約45パーセント〜約65重量パーセントを占める。別の実施形態において、フッ素化溶媒は、電解質組成物の約5パーセント〜約30重量パーセントを占める。別の実施形態において、フッ素化溶媒は、電解質組成物の約60パーセント〜約65重量パーセントを占める。別の実施形態において、フッ素化溶媒は、電解質組成物の約20パーセント〜約45重量パーセントを占める。
【0046】
ここで使用するために適したフッ素化非環状カルボン酸エステル、フッ素化非環状カーボネート、およびフッ素化非環状エーテルを公知の方法を使用して調製してもよい。例えば、塩化アセチルを(塩基触媒を使用してまたは使用せずに)2,2−ジフルオロエタノールと反応させて2,2−ジフルオロエチルアセテートを形成してもよい。さらに、2,2−ジフルオロエチルアセテートおよび2,2−ジフルオロエチルプロピオネートは、Wiesenhoferらによって記載された方法(国際公開第2009/040367A1号パンフレット、実施例5)を使用して調製されてもよい。あるいは、2,2−ジフルオロエチルアセテートは、本明細書の以下の実施例に記載された方法を使用して調製され得る。他のフッ素化非環状カルボン酸エステルが、異なる出発カルボキシレート塩を使用して同じ方法を使用して調製されてもよい。同様に、メチルクロロホルメートを2,2−ジフルオロエタノールと反応させてメチル2,2−ジフルオロエチルカーボネートを形成してもよい。HCFCFCH−O−CFCFHの合成は、塩基(例えば、NaH等)の存在下で2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールをテトラフルオロエチレンと反応させることによって実施され得る。同様に、2,2−ジフルオロエタノールとテトラフルオロエチレンとの反応はHCFCH−O−CFCFHをもたらす。あるいは、本明細書に開示されたフッ素化溶媒のいくつかは、例えばMatrix Scientific(Columbia SC)などの企業から商業的に入手されてもよい。最良の結果を得るために、フッ素化非環状カルボン酸エステルおよびフッ素化非環状カーボネートを少なくとも約99.9%、より詳しくは少なくとも約99.99%の純度レベルまで精製することが望ましい。本明細書に開示されたフッ素化溶媒は、真空蒸留または回転バンド蒸留などの蒸留方法を使用して精製されてもよい。
【0047】
本明細書に開示された電解質組成物は、少なくとも1つのカーボネート補助溶媒を含む。カーボネート補助溶媒は、環状もしくは非環状カーボネート、または環状および非環状カーボネートの混合物を含んでもよい。カーボネート補助溶媒は、フッ素化カーボネート、非フッ素化カーボネート、またはフッ素化および非フッ素化カーボネートの混合物を含んでもよい。一実施形態において、カーボネート補助溶媒は環状カーボネートを含む。一実施形態において、カーボネート補助溶媒は非環状カーボネートを含む。一実施形態において、カーボネート補助溶媒は非フッ素化カーボネートを含む。一実施形態において、カーボネート補助溶媒はフッ素化カーボネートを含む。電池銘柄であるかまたは少なくとも約99.9%、例えば少なくとも約99.99%の純度レベルを有するカーボネートを使用することが望ましい。非フッ素化およびフッ素化カーボネートの両方は、商業的に入手可能であるかまたは当技術分野で公知の方法によって調製されてもよい。
【0048】
適した非フッ素化カーボネートには、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルビニレンカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルブチルカーボネート、プロピルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、またはそれらの混合物が含まれる。いくつかの実施形態において、非フッ素化カーボネートは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート、またはそれらの混合物を含む。一実施形態において、非フッ素化カーボネートは、エチレンカーボネートを含む。一実施形態において、非フッ素化カーボネートは、プロピレンカーボネートを含む。一実施形態において、非フッ素化カーボネートは、ジメチルカーボネートを含む。一実施形態において、非フッ素化カーボネートは、エチルメチルカーボネートを含む。一実施形態において、非フッ素化カーボネートは、ジエチルカーボネートを含む。一実施形態において、非フッ素化カーボネートは、ビニレンカーボネートを含む。
【0049】
適したフッ素化カーボネートには、4−フルオロエチレンカーボネート(本明細書においてFECと略され、本明細書において4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとも称される)、ジフルオロエチレンカーボネート異性体、トリフルオロエチレンカーボネート異性体、テトラフルオロエチレンカーボネート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメチルカーボネート、ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)カーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート、またはメチル2,3,3−トリフルオロアリルカーボネート、またはそれらの混合物が含まれる。一実施形態においてフッ素化カーボネートはフルオロエチレンカーボネートを含む。一実施形態において、フッ素化カーボネートは、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン;4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン;4,5−ジフルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン;4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン;4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン;4,4,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン;またはそれらの混合物を含む。本明細書に開示されたフッ素化環状カーボネートは、商業的に入手されるかまたは当技術分野で公知の方法を使用して調製されてもよい。
【0050】
別の実施形態において、適したフッ素化環状カーボネートは、式(I)
(式中、
i)A、B、C、およびDの各々がH、F、飽和もしくは不飽和C〜Cアルキル基、または飽和もしくは不飽和C〜Cフルオロアルキル基であり、かつ互いに同一であっても異なっていてもよく;および
ii)A、B、C、およびDの少なくとも1つがフッ素を含む)によって表すことができる。用語「不飽和」は、本明細書で用いる場合、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含有するオレフィン性不飽和基を意味する。
【0051】
本明細書に開示された電解質組成物において、カーボネート補助溶媒は、電解質組成物の所望の性質に応じて様々な量で使用することができる。一実施形態において、電解質組成物は、電解質組成物の全重量に基づいて約0.5重量パーセント〜約99重量パーセントのカーボネートを含む。他の実施形態において、電解質組成物は、約0.5重量パーセント〜約95重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約90重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約85重量パーセント、または約0.5〜約80重量パーセント、または約0.5〜約75重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約70重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約65重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約60重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約55重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約50重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約45重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約40重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約35重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約30重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約25重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約20重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約15重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約10重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約5重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約3重量パーセントのカーボネート補助溶媒を含んでもよい。
【0052】
いくつかの実施形態において、電解質組成物は、約5重量パーセント〜約95重量パーセントの2,2−ジフルオロエチルアセテートを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、約10重量パーセント〜約90重量パーセント、または約20重量パーセント〜約80重量パーセント、または約30重量パーセント〜約80重量パーセント、または約40重量パーセント〜約80重量パーセント、または約50重量パーセント〜約80重量パーセント、または約60重量パーセント〜約80重量パーセントの2,2−ジフルオロエチルアセテートを含む。いくつかの実施形態では、2,2ジフルオロエチルアセテートは、下限および上限によって定義される重量百分率で電解質組成物中に存在する。範囲の下限は5、10、20、25、30、35、40、45、50、55、60、または65であり、範囲の上限は70、75、80、85、90、95、96、97、98、または99である。全ての重量百分率は、電解質組成物の総重量を基準とする。
【0053】
本明細書に開示された電解質組成物は、少なくとも1つの共役γ−ラクトンを含む。適したγ−ラクトンには、式(II):
(式中、R、R、R、およびR10が各々独立にH、F、直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル基、または直鎖もしくは分岐C〜C10フルオロアルキル基である)によって表されるラクトンが含まれる。式(II)において、R、R、R、およびR10は同一であっても異なっていてもよい。適したアルキル基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、およびへプチル基が含まれる。適したフルオロアルキル基の例には、少なくとも1個の水素がフッ素によって置換されたメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、およびへプチル基、ならびに-CF、-CFCF、-CFCFCF、および-CF(CFなどの過フッ素化アルキル基が含まれる。適したγ−ラクトンの例には、2(5H)−フラノンおよび3−メチル−2(5H)−フラノンが含まれる。一実施形態において、γ−ラクトンは2(5H)−フラノンを含む。2(5H)−フラノンは式(II)(式中、R、R、R、およびR10の各々がHである)によって表される。一実施形態において、γ−ラクトンは3−メチル−2(5H)−フラノンを含む(式(II)において、Rがメチルであり、かつR、R、およびR10の各々がHである)。
【0054】
本明細書に開示されたγ−ラクトンは、商業的に得ることができるか、または当技術分野で公知の方法を使用して調製することができる。少なくとも約99.0%、例えば少なくとも約99.9%の純度レベルまでγ−ラクトンを精製することが望ましい。精製は、当技術分野で公知の方法を用いて実施することができる。
【0055】
いくつかの実施形態において、電解質組成物は、電解質組成物の全重量に基づいて約0.1重量パーセント〜約5重量パーセントのγ−ラクトンを含む。いくつかの実施形態において、γ−ラクトンは、下限および上限によって定義される重量百分率で電解質組成物中に存在する。範囲の下限は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、または2.5であり、範囲の上限は、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、または5.0である。全ての重量百分率は、電解質組成物の総重量を基準とする。
【0056】
いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、エチレンカーボネート、および2(5H)−フラノンを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、ジメチルカーボネート、および2(5H)−フラノンを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、プロピレンカーボネート、および2(5H)−フラノンを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、エチルメチルカーボネート、および2(5H)−フラノンを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、フルオロエチレンカーボネート、および2(5H)−フラノンを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート;またはそれらの混合物、カーボネート補助溶媒、および2(5H)−フラノンを含む。
【0057】
任意選択的に、本明細書に開示された電解質組成物は、式(III):
(式中、各々のQが独立に水素または任意選択的にフッ素化されたビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、もしくはC〜Cアルキル基である)によって表される環状サルフェートをさらに含んでもよい。ビニル(HC=CH−)、アリル(HC=CH−CH−)、アセチレン(HC≡C−)、プロパルギル(HC≡C−CH−)、またはC〜Cアルキル基は、それぞれ非置換であっても部分的にまたは完全にフッ素化されてもよい。2種以上の環状サルフェートの混合物も使用してよい。適した環状サルフェートには、エチレンサルフェート(1,3,2−ジオキサチオラン,2,2−ジオキシド);1,3,2−ジオキサチオラン4−エチニル−、2,2−ジオキシド;1,3,2−ジオキサチオラン、4−エテニル−、2,2−ジオキシド;1,3,2−ジオキサチオラン、ジエテニル−、2,2−ジオキシド;1,3,2−ジオキサチオラン、4−メチル−、2,2−ジオキシド;および1,3,2−ジオキサチオラン、4,5−ジメチル−、2,2−ジオキシドが含まれる。一実施形態において、環状サルフェートはエチレンサルフェートを含む。
【0058】
いくつかの実施形態において、電解質組成物は、電解質組成物の全重量に基づいて約0.1重量パーセント〜約5重量パーセントの任意選択の環状サルフェートを含む。いくつかの実施形態では、環状サルフェートは、下限および上限によって定義される重量百分率で電解質組成物中に存在する。範囲の下限は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、または2.5であり、範囲の上限は、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、または5.0である。全ての重量百分率は、電解質組成物の総重量を基準とする。
【0059】
いくつかの実施形態において、電解質組成物は、電解質組成物の全重量に基づいて約0.1重量パーセント〜約5重量パーセントのγ−ラクトンと、約0.1重量パーセント〜約5重量パーセントの環状サルフェートとを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、電解質組成物の全重量に基づいて約0.1重量パーセント〜約2.5重量パーセントのγ−ラクトンと、約0.1重量パーセント〜約5重量パーセントの環状サルフェートとを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、電解質組成物の全重量に基づいて約0.1重量パーセント〜約5重量パーセントのγ−ラクトンと、約0.1重量パーセント〜約2.5重量パーセントの環状サルフェートとを含む。
【0060】
いくつかの実施形態において、電解質組成物は、電解質組成物の全重量に基づいて約0.1重量パーセント〜約5重量パーセントのγ−ラクトンと、約0.1重量パーセント〜約5重量パーセントのエチレンサルフェートとを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、電解質組成物の全重量に基づいて約0.1重量パーセント〜約2.5重量パーセントのγ−ラクトンと、約0.1重量パーセント〜約5重量パーセントのエチレンサルフェートとを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、電解質組成物の全重量に基づいて約0.1重量パーセント〜約5重量パーセントのγ−ラクトンと、約0.1重量パーセント〜約2.5重量パーセントのエチレンサルフェートとを含む。
【0061】
任意選択的に、本明細書に開示された電解質組成物は、
i)式(IV):
LiBF(4−2p)(C (IV)
(式中、pが0、1、または2である)によって表されるボレート塩;および/または
ii)式(V):
LiPF(6−2q)(C (V)
(式中、qが1、2、または3である)によって表されるオキサレート塩
から選択される少なくとも1つの成分をさらに含む。
【0062】
一実施形態において、成分は式(IV)のボレート塩を含む。一実施形態において、成分は式(V)のオキサレート塩を含む。一実施形態において、成分は、式(IV)のボレート塩および式(V)のオキサレート塩を含む。
【0063】
本明細書に開示されたボレート塩は、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート[LiBF(C)]、リチウムビス(オキサラト)ボレート[LiB(C]、またはそれらの混合物であってもよい。一実施形態において、ボレート塩はリチウムテトラフルオロボレートを含む。一実施形態において、ボレート塩はリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートを含む。一実施形態において、ボレート塩はリチウムビス(オキサラト)ボレートを含む。2種以上のこれらの混合物も使用してよい。本明細書に開示されたボレート塩は、商業的に入手されるかまたは当技術分野で公知の方法を使用して調製されてもよい。
【0064】
一実施形態において、電解質組成物は、約0.001重量パーセント〜約15重量パーセントの式(IV)のボレート塩を含む。他の実施形態において、電解質組成物は、約0.01重量パーセント〜約15重量パーセント、または約0.1重量パーセント〜約15重量パーセント、または約1重量パーセント〜約15重量パーセント、または約1重量パーセント〜約10重量パーセント、または約1重量パーセント〜約5重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約3重量パーセントのボレート塩を含んでもよい。
【0065】
本明細書に開示されたオキサレート塩は、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート[LiPF(C)],リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート[LiPF(C]、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート[LiP(C]、またはそれらの混合物であってもよい。一実施形態において、オキサレート塩はリチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェートを含む。一実施形態において、オキサレート塩はリチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェートを含む。一実施形態において、オキサレート塩はリチウムトリス(オキサラト)ホスフェートを含む。2種以上のこれらの混合物も使用してよい。本明細書に開示されたオキサレート塩は、商業的に入手されるかまたは当技術分野で公知の方法を使用して調製されてもよい。
【0066】
一実施形態において、電解質組成物は、約0.001重量パーセント〜約15重量パーセントの式(V)のオキサレート塩を含む。他の実施形態において、電解質組成物は、約0.01重量パーセント〜約15重量パーセント、または約0.1重量パーセント〜約15重量パーセント、または約1重量パーセント〜約15重量パーセント、または約1重量パーセント〜約10重量パーセント、または約1重量パーセント〜約5重量パーセント、または約0.5重量パーセント〜約3重量パーセントのオキサレート塩を含んでもよい。
【0067】
一実施形態において、電解質組成物は、電解質組成物の全重量に基づいて約0.001重量パーセント〜約15重量パーセントのボレート塩、オキサレート塩、またはそれらの組合せを含む。一実施形態において、電解質組成物は、約0.1重量パーセント〜約5重量パーセントのリチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート、またはそれらの混合物を含む。
【0068】
いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、エチレンカーボネート、および2(5H)−フラノンを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、エチレンカーボネート、2(5H)−フラノン、およびLiBOBを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、ジメチルカーボネート、および2(5H)−フラノンを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、ジメチルカーボネート、2(5H)−フラノン、およびLiBOBを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、プロピレンカーボネート、および2(5H)−フラノンを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、プロピレンカーボネート、2(5H)−フラノン、およびLiBOBを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、エチルメチルカーボネート、および2(5H)−フラノンを含む。いくつかの実施形態において、電解質組成物は、2,2−ジフルオロエチルアセテート、エチルメチルカーボネート、2(5H)−フラノン、およびLiBOBを含む。
【0069】
本明細書に開示された電解質組成物はまた、少なくとも1つの電解質塩を含有する。適した電解質塩には、限定しないが、
リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)、
リチウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(LiPF(C)、
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、
リチウムビス(ペルフルオロエタンスルホニル)イミド、
リチウム(フルオロスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、
テトラフルオロホウ酸リチウム、
過塩素酸リチウム、
ヘキサフルオロヒ酸リチウム、
トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、
リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、
ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム、
ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、
Li1212−x(式中、xが0〜8に等しい)、および
リチウムフルオリドとB(OCなどのアニオン受容体との混合物
が含まれる。
【0070】
2種以上のこれらまたは同等の電解質塩の混合物も使用してよい。一実施形態において、電解質塩は、リチウムヘキサフルオロホスフェートを含む。電解質塩は、電解質組成物中に約0.2M〜約2.0M、例えば約0.3M〜約1.5M、または例えば約0.5M〜約1.2Mの量において存在し得る。
【0071】
本明細書に開示された電解質組成物は、特にリチウムイオン電池での使用のために、従来の電解質組成物に有用であると当業者に知られている添加剤をさらにまたは任意選択的に含むことができる。例えば、本明細書に開示された電解質組成物はまた、リチウムイオン電池の充電および放電中に発生するガスの量を低減するために有用であるガス低減添加剤を含むことができる。ガス低減添加剤は任意の有効量において使用することができるが、電解質組成物の約0.05重量%〜約10重量%、代わりに約0.05重量%〜約5重量%、または代わりに電解質組成物の約0.5重量%〜約2重量%を占めるように含有され得る。
【0072】
慣例的に公知である適したガス低減添加剤は、例えば、ハロベンゼン、例えばフルオロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、またはハロアルキルベンゼン;1,3−プロパンスルトン;無水コハク酸;エチニルスルホニルベンゼン;2−スルホ安息香酸環状無水物;ジビニルスルホン;トリフェニルホスフェート(TPP);ジフェニルモノブチルホスフェート(DMP);γ−ブチロラクトン;2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン;1,2−ナフトキノン;2,3−ジブロモ−1,4−ナフトキノン;3−ブロモ−l,2−ナフトキノン;2−アセチルフラン;2−アセチル−5−メチルフラン;2−メチルイミダゾール1−(フェニルスルホニル)ピロール;2,3−ベンゾフラン;フルオロ−シクロトリホスファゼン、例えば2,4,6−トリフルオロ−2−フェノキシ−4,6−ジプロポキシ−シクロトリホスファゼンおよび2,4,6−トリフルオロ−2−(3−(トリフルオロメチル)フェノキシ)−6−エトキシ−シクロトリホスファゼン;ベンゾトリアゾール;ぺルフルオロエチレンカーボネート;アニソール;ジエチルホスホネート;フルオロアルキル置換ジオキソラン、例えば、2−トリフルオロメチルジオキソランおよび2,2−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン;トリメチレンボレート;ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4,5,5−トリメチル−2(3H)−フラノン;ジヒドロ−2−メトキシ−5,5−ジメチル−3(2H)−フラノン;ジヒドロ−5,5−ジメチル−2,3−フランジオン;プロペンスルトン;ジグリコール酸無水物;ジ−2−プロピニルオキサレート;4−ヒドロキシ−3−ペンテン酸γ−ラクトン;CFCOOCHC(CH)(CHOCOCF、CFCOOCHCFCFCFCFCHOCOCF;α−メチレン−γ−ブチロラクトン;3−メチル−2(5H)−フラノン;5,6−ジヒドロ−2−ピラノン;ジエチレングリコール、ジアセテート;トリエチレングリコールジメタクリレート;トリグリコールジアセテート;1,2−エタンジスルホン酸無水物;1,3−プロパンジスルホン酸無水物;2,2,7,7−テトラオキシド1,2,7−オキサジチエパン;3−メチル−2,2,5,5−テトラオキシド1,2,5−オキサジチオラン;ヘキサメトキシシクロトリホスファゼン;4,5−ジメチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン;2−エトキシ−2,4,4,6,6−ペンタフルオロ−2,2,4,4,6,6−ヘキサヒドロ−1,3,5,2,4,6−トリアザトリホスホリン;2,2,4,4,6−ペンタフルオロ−2,2,4,4,6,6−ヘキサヒドロ−6−メトキシ−1,3,5,2,4,6−トリアザトリホスホリン;4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン;1,4−ビス(エテニルスルホニル)−ブタン;ビス(ビニルスルホニル)−メタン;1,3−ビス(エテニルスルホニル)−プロパン;1,2−ビス(エテニルスルホニル)−エタン;エチレンカーボネート;ジエチルカーボネート;ジメチルカーボネート;エチルメチルカーボネート;および1,1’−[オキシビス(メチレンスルホニル)]ビス−エテンである。
【0073】
使用することができる他の適した添加剤は、HF捕獲剤、例えばシラン、シラザン(Si−NH−Si)、エポキシド、アミン、アジリジン(2個の炭素を含有する)、炭酸の塩、例えばシュウ酸リチウム、B、およびZnOである。
【0074】
別の実施形態において、電解質組成物を形成するための方法が提供される。この方法は、
a)フッ素化溶媒と、
b)カーボネート補助溶媒と、
c)式(II)
(式中、
、R、R、およびR10が各々独立にH、F、直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル基、または直鎖もしくは分岐C〜C10フルオロアルキル基である)によって表される少なくとも1つのγ−ラクトンと、
d)少なくとも1つの電解質塩と
を組み合わせて電解質組成物を形成する工程を含む。成分を任意の適した順に組み合わせることができる。組み合わせる工程は、順々にまたは同時に電解質組成物の個々の成分を添加することによって達成することができる。いくつかの実施形態において、成分a)、b)、およびc)を組み合わせて第1の溶液を製造する。第1溶液の形成後、ある量のリチウム塩が、リチウム塩の所望の濃度を有する電解質組成物をもたらすために第1溶液に添加される。いくつかの実施形態において、成分a)およびb)を組み合わせて初期溶液を製造する。初期溶液の形成後、ある量の電解質塩が、リチウム塩の所望の濃度をおおよそ有する電解質組成物をもたらすために初期溶液に添加され、および次に成分c)が添加され、リチウム塩および成分c)の所望の濃度を有する電解質組成物をもたらす。典型的には、電解質組成物は、均質混合物を形成するために成分の添加中および/または添加後に攪拌される。フッ素化溶媒は本明細書に開示された通りである。
【0075】
別の実施形態において、
(a)ハウジングと、
(b)ハウジング中に配置され、かつ互いにイオン伝導的に接触するアノードおよびカソードと、
(c)ハウジング中に配置され、かつアノードとカソードとの間にイオン伝導性通路を提供する、本明細書に上に記載の電解質組成物と、
(d)アノードとカソードとの間の多孔質セパレータと
を含むか、またはそれらから本質的になる電気化学セルが本明細書において提供される。いくつかの実施形態では、電気化学セルはリチウムイオン電池である。
【0076】
ハウジングは、電気化学セル構成要素を収納するための任意の好適な容器であり得る。ハウジング材料は当技術分野でよく知られており、例えば、金属およびポリマーハウジングを含むことができる。ハウジングの形状は特に重要ではないが、好適なハウジングは、小さいまたは大きい円筒、プリズムケースまたはパウチの形状に製造することができる。
【0077】
アノードおよびカソードは、電気化学セルのタイプに応じて任意の適した導電性材料からなってもよい。アノード材料の適した例には、限定されないが、リチウム金属、リチウム金属合金、リチウムチタネート、アルミニウム、白金、パラジウム、黒鉛、遷移金属酸化物、およびリチウム化酸化スズが含まれる。カソード材料の適した例には、限定されないが、黒鉛、アルミニウム、白金、パラジウムの他、リチウムまたはナトリウム、インジウムスズ酸化物を含む電気活性遷移金属酸化物、および例えばポリピロールおよびポリビニルフェロセンなどの導電性ポリマーが含まれる。
【0078】
いくつかの実施形態では、適したカソード材料は、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiCo0.2Ni0.2、LiV、LiNi0.5Mn1.5、LiFePO、LiMnPO、LiCoPO、およびLiVPOFなど、リチウムおよび遷移金属を含むカソード活物質を含むことができる。他の実施形態では、カソード活物質は、例えば、
LiCoG(0.90≦a≦1.8および0.001≦b≦0.1である);
LiNiMnCo2−f(式中、0.8≦a≦1.2、0.1≦b≦0.9、0.0≦c≦0.7、0.05≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、b+c+d+eの合計が約1であり、および0≦f≦0.08である);
Li1−b,R(0.90≦a≦1.8および0≦b≦0.5である);
Li1−b2−c(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5および0≦c≦0.05である);
LiNi1−b−cCo2−d(式中、0.9≦a≦1.8、0≦b≦0.4、0≦c≦0.05、および0≦d≦0.05である);または
Li1+zNi1−x−yCoAl(式中、0<x<0.3、0<y<0.1、および0<z<0.06である)
を含むことができる。
【0079】
上記の化学式中、Aは、Ni、Co、Mn、またはそれらの組み合わせであり;Dは、O、F、S、P、またはそれらの組み合わせであり;Eは、Co、Mn、またはそれらの組み合わせであり;Gは、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、V、またはそれらの組み合わせであり;Rは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組み合わせであり;Zは、F、S、P、またはそれらの組み合わせである。好適なカソードおよびカソード活物質には、米国特許第5,962,166号明細書;同第6,680,145号明細書;同第6,964,828号明細書;同第7,026,070号明細書;同第7,078,128号明細書;同第7,303,840号明細書;同第7,381,496号明細書;同第7,468,223号明細書;同第7,541,114号明細書;同第7,718,319号明細書;同第7,981,544号明細書;同第8,389,160号明細書;同第8,394,534号明細書;および同第8,535,832号明細書、ならびにそれらの中の参考文献に開示されているものが含まれる。「希土類元素」とは、La〜Luのランタニド元素、ならびにYおよびScを意味する。別の実施形態において、カソード材料は、NMCカソード、すなわちLiNiMnCoOカソードである。より具体的には、Ni:Mn:Coの原子比が1:1:1であるカソード(LiNi1−b−cCo2−d、式中、0.98≦a≦1.05、0≦d≦0.05、b=0.333、c=0.333であり、RがMnを含む)またはNi:Mn:Coの原子比が5:3:2であるカソード(LiNi1−b−cCo2−d、式中、0.98≦a≦1.05、0≦d≦0.05、c=0.3、b=0.2であり、RがMnを含む)である。
【0080】
別の実施形態において、カソード活物質は、式LiMn(式中、JがNi、Co、Mn、Cr、Fe、Cu、V、Ti、Zr、Mo、B、Al、Ga、Si、Li、Mg、Ca、Sr、Zn、Sn、希土類元素、またはそれらの組合せであり;ZがF、S、P、またはそれらの組合せであり;および0.9≦a≦1.2、1.3≦b≦2.2、0≦c≦0.7、0≦d≦0.4である)の複合材料を含む。
【0081】
別の実施形態では、カソードは、Li/Li参照電極に対して4.6Vよりも大きい電位範囲で30mAh/gよりも大きい容量を示すカソード活物質である。そのようなカソードの一例は、カソード活物質としてのスピネル構造を有するリチウム含有マンガン複合酸化物を含む安定化マンガンカソードである。ここで使用するのに適したカソードにおいてリチウム含有マンガン複合酸化物は、式LiNiMn2−y−z4−d(式中、xは、0.03〜1.0であり;xは、充電および放電中のリチウムイオンおよび電子の放出および取込みに従って変化し;yは、0.3〜0.6であり;Mは、Cr、Fe、Co、Li、Al、Ga、Nb、Mo、Ti、Zr、Mg、Zn、V、およびCuの1つまたは複数を含み;zは、0.01〜0.18であり;dは、0〜0.3である)の酸化物を含む。上式の一実施形態では、yは、0.38〜0.48であり、zは、0.03〜0.12であり、dは、0〜0.1である。上式の一実施形態では、Mは、Li、Cr、Fe、CoおよびGaの1つまたは複数である。安定化マンガンカソードはまた、米国特許第7,303,840号明細書に記載されているような、マンガン含有スピネル構成要素と、リチウムに富む層状構造とを含有するスピネル層状複合材料を含んでもよい。
【0082】
別の実施形態において、カソード活物質は、式:
x(Li2−w1−vw+v3−e)・(1−x)(LiMn2−z4−d
(式中、
xが約0.005〜約0.1であり;
AがMnまたはTiの1つまたは複数を含み;
QがAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Mg、Nb、Ni、Ti、V、Zn、ZrまたはYの1つまたは複数を含み;
eが0〜約0.3であり;
vが0〜約0.5であり;
wが0〜約0.6であり;
MがAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Li、Mg、Mn、Nb、Ni、Si、Ti、V、Zn、ZrまたはYの1つまたは複数を含み;
dが0〜約0.5であり;
yが約0〜約1であり;
zが約0.3〜約1であり;および
LiMn2−z4−d成分がスピネル構造を有し、およびLi2−ww+v1−v3−e成分が層状構造を有する)の構造によって表される複合材料を含む。一実施形態において、xは約0〜約0.1である。
【0083】
別の実施形態において、カソードはカソード活物質を含み、カソード活物質は、
Li1−xDO4−f
(式中、
AがFe、Mn、Ni、Co、V、またはそれらの組合せであり;
RがAl、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組合せであり;
DがP、S、Si、またはそれらの組合せであり;
ZがF、Cl、S、またはそれらの組合せであり;
0.8≦a≦2.2であり;
0≦x≦0.3であり;および
0≦f≦0.1である)を含む。
【0084】
別の実施形態では、カソードは、Li/Li参照電極に対して4.0V、4.1V、4.2V、4.3V、4.35V、4.40V、4.45V、4.5V、4.55V以上のまたは4.6Vよりも大きい電位まで充電されるカソード活物質を含む。他の例は、4.5Vを超える高めの充電電位まで充電される米国特許第7,468,223号明細書に記載されたカソードなどの層状−層状高容量酸素放出カソードである。一実施形態において、カソードは、Li/Li参照電極に対して4.6Vを超える電位範囲において30mAh/g超の容量を示すカソード活物質、またはLi/Li参照電極に対して4.1V以上の電位まで充電されるカソード活物質を含む。
【0085】
本明細書において使用するために適したカソード活物質は、例えば、Liuら(J.Phys.Chem.C13:15073−15079,2009)によって記載されている水酸化物前駆体法などの方法を使用して調製することができる。その方法では、水酸化物前駆体が、必要量のマンガン、ニッケルおよび他の所望の金属酢酸塩を含有する溶液からKOHの添加によって沈澱させられる。得られた沈殿物をオーブンで乾燥させ、次に所望の量のLiOH・HOとともに酸素中において約800℃〜約1000℃で3〜24時間焼成する。あるいは、カソード活物質は、米国特許第5,738,957号明細書に記載されているような固相反応法またはゾル−ゲル法を用いて製造することができる。
【0086】
カソード活物質がその中に含有されるカソードは、有効量の、例えば、約70重量パーセント〜約97重量パーセントのカソード活物質を、N−メチルピロリドンなどの好適な溶媒中のポリ二フッ化ビニリデンなどのポリマーバインダー、および導電性炭素と混合してペーストをもたらし、ペーストが次にアルミ箔などの電流コレクタ上へコートされ、カソードを形成するために乾燥されることによって製造することができる。重量百分率は、カソードの総重量を基準とする。
【0087】
本明細書に開示された電気化学セルはアノードをさらに備え、ここで、アノードは、リチウムイオンを貯蔵および放出することができるアノード活物質を含む。好適なアノード活物質の例としては、例えば、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−鉛合金、リチウム−ケイ素合金、リチウム−スズ合金などのリチウム合金;黒鉛およびメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)などの炭素材;黒リン、MnPおよびCoPなどのリン含有材料;SnO、SnOおよびTiOなどの金属酸化物;アンチモンまたはスズを含有するナノ複合材料、例えばアンチモン;アルミニウム、チタン、またはモリブデンの酸化物を含有するナノ複合材料、およびYoonら(Chem.Mater.21,3898−3904,2009)によって記載されているものなどのカーボン;ならびにLiTi12およびLiTiなどのリチウムチタネートが含まれる。一実施形態では、アノード活物質は、リチウムチタネートまたは黒鉛である。別の実施形態において、アノードは黒鉛である。いくつかの実施形態において、アノード活物質がリチウムチタネート、黒鉛、リチウム合金、ケイ素、またはそれらの組合せである。
【0088】
アノードは、カソードについて上に記載されたものに類似の方法であって、例えば、フッ化ビニルベースのコポリマーなどのバインダーが有機溶媒または水に溶解または分散され、次にペーストを得るためにアノード活性(導電性)材料と混合される方法によって製造することができる。ペーストは、電流コレクタとして使用されることになる、金属箔、好ましくはアルミ箔または銅箔上へコートされる。ペーストは、アノード活物質が電流コレクタに結合するように、好ましくは熱を使って乾燥させられる。好適なアノード活物質およびアノードは、日立、NEI Inc.(Somerset,NJ)、およびFarasis Energy Inc.(Hayward,CA)などの企業から商業的に入手可能である。
【0089】
電気化学セルは、多孔質セパレータをアノードとカソードとの間にさらに含む。多孔質セパレータは、アノードとカソードとの間の短絡を防ぐのに役立つ。多孔質セパレータは、典型的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、またはそれらの組み合わせなどの微孔性ポリマーの単層または多層シートからなる。多孔質セパレータの細孔サイズは、イオンの輸送を可能にするのに十分に大きく、アノードとカソードとの間のイオン伝導性接続を提供するが、直接または粒子貫通からのいずれかでのアノードとカソードとの接触、またはアノードおよびカソード上に生じ得る樹状突起を防ぐのに十分に小さいものである。本明細書での使用に好適な多孔質セパレータの例は、米国特許出願公開第2012/0149852号明細書、現在は米国特許第8,518,525号明細書に開示されている。
【0090】
本明細書に開示された電気化学セルは、様々な用途に使用することができる。例えば、電気化学セルは、グリッド貯蔵のために、またはコンピュータ、カメラ、ラジオ、電動工具、通信デバイス、もしくは輸送デバイス(モータービークル、自動車、トラック、バス、もしくは飛行機など)などの様々な電動デバイスもしくは電子的に支援されたデバイスでの電源として使用することができる。本開示はまた、開示される電気化学セルを含む電子デバイス、通信デバイス、または輸送デバイスに関する。
【実施例】
【0091】
本明細書に開示された概念が以下の実施例において説明される。上記の考察およびこれらの実施例から、当業者は、本明細書に開示された概念の本質的な特性を確認することができ、その趣旨および範囲から逸脱せずに、様々な用途および条件に適合する様々な変更形態および改良形態がなされ得る。
【0092】
使用される略語の意味は以下の通りである:「℃」はセルシウス度を意味する;「g」はグラムを意味する;「mg」はミリグラムを意味する;「μg」はミクログラムを意味する;「L」はリットルを意味する;「mL」はミリリットルを意味する;「モル」はモルを意味する;「mmol」はミリモルを意味する;「M」はモル濃度を意味する;「wt%」は重量パーセントを意味する;「mm」はミリメートルを意味する;「cm」はセンチメートルを意味する;「ppm」は百万分率を意味する;「h」は時間を意味する;「min」は分を意味する;「s」は秒を意味する;「psi」はポンド毎平方インチを意味する;「Pa」はパスカルを意味する;「A」はアンペアを意味する;「mA」はミリアンペアを意味する;「mAh/g」は、ミリアンペア時/グラムを意味する;「V」はボルトを意味する;「rpm」は回転/分を意味する;「NMR」は核磁気共鳴分光学を意味する;「GC/MS」はガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリーを意味する;「Ex」は実施例を意味する、および「CompEx」は比較例を意味する。
【0093】
材料および方法
2,2−ジフルオロエチルアセテート(DFEA)の調製
酢酸カリウムとHCFCHBrとを反応させることにより、以下の実施例において使用される2,2−ジフルオロエチルアセテートを調製した。以下は、調製のために使用される典型的な手順である。
【0094】
酢酸カリウム(Aldrich,Milwaukee,WI、99%)を4〜5時間にわたって0.5〜1mmHg(66.7〜133Pa)の真空下で100℃において乾燥させた。乾燥された材料は、Karl Fischer滴定によって測定されたとき、5ppm未満の含水量を有した。ドライボックス中において、212グラム(2.16モル、8モル%過剰)の乾燥酢酸カリウムを、重い磁気攪拌子を含有する1.0Lの3口丸底フラスコへ入れた。フラスコをドライボックスから取り出し、ヒュームフード内に移し、熱電対ウェル、ドライアイス冷却器、および添加漏斗を備え付けた。
【0095】
スルホラン(500mL、Aldrich、99%、カールフィッシャー滴定によって測定されたときに600ppmの水)を溶融させ、窒素流下で液体として3口丸底フラスコに添加した。攪拌を開始し、反応媒体の温度を約100℃にした。HCFCHBr(290g、2モル、E.I.du Pont de Nemours and Co.、99%)を添加漏斗内に置き、反応媒体にゆっくりと添加した。添加は弱発熱であり、反応媒体の温度は、添加の開始後15〜20分で120〜130℃に上昇した。HCFCHBrの添加は、内部温度を125〜135℃に維持する速度に維持された。添加は約2〜3時間かかった。反応媒体をさらに6時間にわたって120〜130℃において撹拌した(典型的にこの時点での臭化物の変換は約90〜95%であった)。次に、反応媒体を室温に冷却し、一晩かき混ぜた。翌朝、加熱をさらに8時間続けた。
【0096】
この時点で出発臭化物はNMRによって検出できず、粗反応媒体は、0.2〜0.5%の1,1−ジフルオロエタノールを含有した。反応フラスコ上のドライアイス冷却器をテフロン(登録商標)バルブ付きホースアダプターと取り替え、フラスコをコールドトラップ(−78℃、ドライアイス/アセトン)を通して機械式真空ポンプに連結した。反応生成物を1〜2mmHg(133〜266Pa)の真空下で40〜50℃においてコールドトラップ中へ移した。移動は、約4〜5時間を要し、220〜240gの約98〜98.5%純度の粗HCFCHOC(O)CHをもたらし、それは、少量のHCFCHBr(約0.1〜0.2%)、CFCHOH(0.2〜0.8%)、スルホラン(約0.3〜0.5%)および水(600〜800ppm)で汚染されていた。
【0097】
粗生成物のさらなる精製は、大気圧での回転バンド蒸留を用いて実施した。106.5〜106.7℃の沸点を有する留分を集め、不純物プロファイルをGC/MSを使用してモニタした(毛管カラムHP5MS、フェニル−メチルシロキサン、Agilent 19091S−433、30.m、250μm、0.25μm、キャリヤーガス − He、流量1mL/分、温度プログラム:40℃、4分、温度傾斜30℃/分、230℃、20分)。典型的に、240gの粗生成物の蒸留は、約120グラムの99.89%純度のHCFCHOC(O)CH(250〜300ppmのHO)および80gの99.91%純度の物質(約280ppmの水を含有する)を与えた。水がカールフィッシャー滴定によって検出できなくなるまで(すなわち1ppm未満)、水を3Aモレキュラーシーブでの処理によって蒸留生成物から除去した。
【0098】
リチウムビス(オキサラト)ボレートの精製
窒素パージされたドライボックス中において、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB、Sigma−Aldrich,Milwaukee,WI)を以下の手順によって精製した。11.25gのLiBOBを50mLの無水アセトニトリルを有する400mLビーカーに添加した。混合物を撹拌し、約30分間40℃に加熱した。暖かい混合物を、Whatman#1フィルターを通して濾過して第2のビーカー内に移し、室温に冷却させた。透明な溶液が得られた。この透明な溶液に約50mLの冷たい無水トルエン(−30℃)を添加した。これをさらに30分間撹拌して沈殿物を形成した。溶液をWhatman#1フィルターを通して濾過し、濾過ケークを冷たい無水トルエンで洗浄した。濾過ケークを真空濾過漏斗上で乾燥させた後、固形分をドライボックスから取り出し、130℃の真空炉内に置き、軽い窒素パージを使用して15時間乾燥させて精製LiBOBを得て、それをその後、窒素パージされたドライボックス内で処理した。
【0099】
実施例1および比較例2
比較例A、B、およびC
代表的なカソード調製
LiMn1.5Ni0.45Fe0.05(Fe−LNMO)カソード活物質の代表的な調製
以下は、実施例1および2および比較例A、B、およびCにおいて使用されるカソード活物質の調製のために使用される典型的な手順である。LiMn1.5Ni0.45Fe0.05の調製のために、401gの酢酸マンガン(II)四水和物(Aldrich、Milwaukee WI、製品番号63537)、125gの酢酸ニッケル(II)四水和物(Aldrich、製品番号72225)および10gの無水酢酸鉄(II)(Alfa Aesar,Ward Hill,MA、製品番号31140)を秤上でビン内に秤量し、次に5.0Lの脱イオン水に溶解した。KOHペレットを30リットルの反応器内で10リットルの脱イオン水に溶解させて3.0M溶液をもたらした。金属酢酸塩を含有する溶液を添加漏斗に移し、急速攪拌される反応器中へ滴下させて混合水酸化物材料を沈澱させた。全ての5.0Lの金属酢酸塩溶液が反応器に添加されると、撹拌が1時間続けられた。次に、撹拌を止め、沈殿物を一晩沈降させた。沈降後に、液体を反応器から除去し、15Lの新しい脱イオン水を添加した。反応器の内容物を攪拌し、再び沈降させ、液体を除去した。この洗浄プロセスを繰り返した。次に、沈殿物は、Dacron(登録商標)紙で覆われた2つの(均等に分かれた)粗いガラスフリット濾過漏斗に移された。濾液のpHが6.0(脱イオン洗浄水のpH)に達するまで固形分を脱イオン水で洗浄し、さらに20Lの脱イオン水を各々の濾過ケークに添加した。最後に、ケークを120℃の真空オーブン内で一晩乾燥させた。この時点での収量は典型的に80〜90%であった。
【0100】
水酸化物沈殿物を微粉砕し、炭酸リチウムと混合した。この工程は、Pulverisette自動乳鉢および乳棒(FRITSCH、ドイツ)を使用して50gのバッチで行われた。各々のバッチについて水酸化物沈殿物を秤量し、次にPulveresette内で5分間それのみで微粉砕した。次に、少量の過剰な炭酸リチウムを有する化学量論量をこの系に添加した。50gの水酸化物沈殿物のために10.5gの炭酸リチウムを添加した。微粉砕を合計60分間続け、10〜15分毎に停止して、鋭い金属へらを使用して乳鉢および乳棒の表面から材料を掻き取った。湿度によって材料が塊を形成する場合、それを微粉砕中に40メッシュスクリーンを通して一回、次いで微粉砕の後に再びふるい分けした。
【0101】
すり潰された材料を浅い長方形アルミナトレイ内部でエアボックス炉において焼成した。トレイは、サイズが158mm×69mmであり、それぞれ約60グラムの材料を保持した。焼成手順は、15時間で室温から900℃まで上昇、12時間にわたり900℃に保持、次に15時間で室温まで冷却からなった。
【0102】
焼成後、粉末をボールミルにかけて粒径を小さくした。次に、54gの粉末をポリエチレンジャー内で54gのイソプロピルアルコールおよび160gの5mm直径ジルコニアビーズと混合した。ジャーを次に6時間にわたりローラーの対上で回転させて粉砕した。スラリーを遠心分離によって分離し、粉末を120℃で乾燥させて湿分を取り除いた。
【0103】
ポリイミド/炭素複合物を使用するアルミニウム箔電流コレクタ上のプライマーの調製
以下は、実施例および比較例において使用されるアルミニウム箔電流コレクタ上のプライマーの調製のために使用される典型的な手順である。ポリアミド酸を調製するためにプレポリマーを最初に調製した。0.98:1のPMDA/ODA(ピロメリット酸無水物//ODA(4,4’−ジアミノジフェニルエーテル)プレポリマー)の化学量論を使用して20.6wt10%のPMDA:ODAプレポリマーを調製した。プレポリマーは、穏やかにかき混ぜながら室温でおよそ45分にわたってODAをN−メチルピロリドン(NMP)に溶解させることによって製造した。PMDA粉末を(小さiアリコートで)混合物にゆっくりと添加して、溶液の一切の温度上昇を制御した。PMDAの添加は、約2時間にわたって実施された。添加および得られた溶液の撹拌は制御された温度条件下であった。ポリアミド酸の最終濃度は20.6wt%であり、酸無水物対アミン成分のモル比は、およそ0.98:1であった。別個の容器中において、ピロメリット酸無水物(PMDA)の6wt%溶液を、1.00gのPMDA(Aldrich 412287,Allentown,PA)および15.67gのNMP(N−メチルピロリドン)と組み合わせることによって調製した。4.0グラムのPMDA溶液をプレポリマーにゆっくり添加し、粘度は、(ブルックフィールド粘度計−#6スピンドルによって測定されるように)およそ90,000ポアズに増加した。これにより、計算された最終PMDA:ODA比が1.01:1である完成プレポリマー溶液が得られた。5.196グラムの完成プレポリマーを次に15.09グラムのNMPで希釈して5wt%溶液をもたらした。バイアル中において、16.2342グラムの希釈された完成プレポリマー溶液を0.1838グラムのTimCal 30 Super C−65カーボンブラックに添加した。2.72のプレポリマー:炭素比を有する、3.4wt%の最終固形分のために、これを9.561グラムのNMPでさらに希釈した。Paasche VL#3 Airbrush噴霧機(Paasche Airbrush Company,Chicago,IL)を使用して、この材料をアルミニウム箔(25μmの厚さ、1145−0、Allfoils,Brooklyn Heights,OH)上に噴霧した。噴霧前に箔を秤量して、0.06mg/cmの所望の密度に達するための必要なコーティングを同定した。箔をガラス板上へ平らにし、コートされるまでエアブラシを使って手動により噴霧した。箔を次にホットプレート上で125℃において乾燥させ、所望の密度に達したことを保証するために測定した。箔は、ポリアミド酸の0.06mg/cmでコートされることがわかった。箔が乾燥したら直ちにおよび所望のコーティングで箔を以下のイミド化手順に続いて400℃でイミド化した。
40℃から125℃へ(4℃/分のランプ)
125℃から125℃へ(30分ソーク)
125℃から250℃へ(4℃/分のランプ)
250℃から250℃へ(30分ソーク)
250℃から400℃へ(5℃/分のランプ)
400℃から400℃へ(20分ソーク)
【0104】
ペーストの調製
以下は、カソードを作製するために使用される典型的な手順である。バインダーは、N−メチルピロリドン中のポリフッ化ビニリデンの5.5%溶液(Solef(登録商標)5130(Solvay,Houston,TX))として得られた。以下の材料を使用して電極ペーストを製造した:上に調製された4.16gのLiMn1.5Ni0.45Fe0.05カソード活性粉末;0.52gのカーボンブラック(Denka uncompressed、DENKA Corp.、日本);4.32gのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)溶液;および7.76g+1.40gのNMP(Sigma Aldrich)。材料は、以下に記載されるように、80:10:10のカソード活性粉末:PVDF:カーボンブラックの比で組み合わせられた。最終ペーストは28.6%の固形分を含有した。
【0105】
カーボンブラック、NMPの第1の部分、およびPVDF溶液を最初にプラスチックバイアル内で組み合わせて、2回、それぞれの回について2000rpmで60秒間遠心混合した(ARE−310、Thinky USA,Inc.,Laguna Hills,CA)。カソード活性粉末とNMPの第2の部分とを添加し、ペーストを2回遠心混合した(2×2000rpmで1分)。バイアルを氷浴に入れ、ホモジナイザー(モデルPT 10−35 GT、7.5mm径固定子、Kinematicia,Bohemia,NYから入手可能)の回転子−固定子シャフトをバイアル中へ挿入した。バイアルトップと固定子との間のギャップをアルミ箔で包んでバイアル中への水侵入を最小限にした。得られたペーストを2回それぞれ6500rpmで15分間および次にさらに2回9500rpmで15分間均質化した。4回の均質化期間のそれぞれの間にホモジナイザーをペーストバイアル中の別の場所に移動させた。
【0106】
自動コーター(AFA−II、MTI Corp.,Richmond,CA)を使用して、0.41〜0.51mmのゲート高さを有するドクターブレードを使用してアルミニウム箔(25μmの厚さ、1145−0、Allfoils,Brooklyn Heights,OH)上にペーストをキャストした。電極を機械式対流オーブン(モデルFDL115,Binder Inc.,Great River NY)中95℃で30分間乾燥させた。結果として生じた51mm幅のカソードを125mm厚さの真ちゅうシート間に入れ、ニップ力が、260kgで出発して最終通過が770kgである、通過のそれぞれにおいて増加する状態で、周囲温度で100mm径スチールロールを用いて3回カレンダーを通過させた。カソード活物質のローディングは、7〜8mg/cmであった。
【0107】
代表的なアノードの作製
以下は、アノードを作製するために使用される典型的な手順である。アノードペーストは以下の材料から作製された:5.00gの黒鉛(CPreme(登録商標)G5,Conoco−Philips,Huston,TX);0.2743gのカーボンブラック(Super C65,Timcal,Westlake,OH);3.06gのPVDF(NMP中13%。KFL #9130、Kureha America Corp.);11.00gの1−メチル−2−ピロリジノン(NMP);および0.0097gのシュウ酸(Sigma−Aldrich、>99%純度)。材料は、以下に記載されるように、88:0.17:7:4.83の黒鉛:シュウ酸:PVDF:カーボンブラックの比で組み合わせられた。最終ペーストは29.4%の固形分を含有した。
【0108】
シュウ酸、カーボンブラック、NMP、およびPVDF溶液がプラスチックバイアル中で組み合わせられた。材料を、自転公転式ミキサーを用いて2000rpmで60秒間混合した。混合を2回繰り返した。次に、黒鉛を添加した。得られたペーストを2回遠心混合した。バイアルを次に氷浴中に取り付け、毎回6500rpmで15分間回転子−固定子を用いて2回、次に9500rpmで15分間さらに2回均質化した。固定子シャフトがバイアルに入る場所をアルミ箔で包んでバイアルへの水蒸気侵入を最小限にした。4回の均質化期間のそれぞれの間にホモジナイザーをペーストバイアル中の別の場所に移動させた。ペーストを次に3回遠心混合した。
【0109】
自動コーターを使用して230μmゲート高さを有するドクターブレードを使用して銅箔(CF−LBX−10、Fukuda、京都、日本)上にペーストをキャストした。電極を機械式対流オーブン内で95℃において30分間乾燥させた。結果として生じた51mm幅のカソードを125μm厚さの真ちゅうシート間に入れ、ニップ力が、260kgで出発して最終通過が770kgである、通過のそれぞれにおいて増加する状態で、周囲温度で100mm径スチールロールを用いて3回カレンダーを通過させた。アノード活物質のローディングは3〜4mg/cmであった。
【0110】
電解質の調製
実施例1について、70重量パーセントの2,2−ジフルオロエチルアセテート(DFEA、本明細書に上に記載されたように調製された)と30重量パーセントのエチレンカーボネート(EC,BASF,Independence,OH)とを窒素パージされたドライボックス内で組み合わせることによって電解質組成物を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させた。0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを使用して濾過後、十分なLiPFを添加してLiPF中の調合物1Mを製造した。1.96gのこの混合物を0.04gの2(5H)−フラノン(Sigma−Aldrich、98%純度)(それは0.2ミクロンのPTFEフィルターが端部に付けられたアルミナ充填シリンジを通して濾過されている)と組み合わせて、最終電解質組成物を生じた。
【0111】
実施例2のために、70重量パーセントの2,2−ジフルオロエチルアセテートと30重量パーセントエチレンカーボネートとを窒素パージされたドライボックス内で組み合わせることによって電解質組成物を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させた。0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを使用して濾過後、十分なLiPFを添加してLiPF中の調合物1Mを製造した。1.92gのこの混合物を0.04gの2(5H)−フラノン(それは0.2ミクロンのPTFEフィルターが端部に付けられたアルミナ充填シリンジを通して濾過されている)、および0.04gの精製LiBOBと組み合わせて、最終電解質組成物を生じた。
【0112】
比較例Aのために、70重量パーセントの2,2−ジフルオロエチルアセテートと30重量パーセントエチレンカーボネートとを窒素パージされたドライボックス内で組み合わせることによって電解質組成物を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させた。0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを使用して濾過後、十分なLiPF(リチウムヘキサフルオロホスフェート、BASF,Independence,OH)を添加して、LiPF中の最終電解質組成物1Mを製造した。
【0113】
比較例Bのために、70重量パーセントのエチルメチルカーボネート(EMC、BASF,Independence,OH)と30重量パーセントエチレンカーボネートとを窒素パージされたドライボックス内で組み合わせることによって電解質組成物を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させた。0.2ミクロンのPTFEシリンジフィルターを使用して濾過後、十分なLiPFを添加してLiPF中の調合物1Mを製造した。1.96gのこの混合物を0.04gの2(5H)−フラノン(それは0.2ミクロンのPTFEフィルターが端部に付けられたアルミナ充填シリンジを通して濾過されている)と組み合わせて、最終電解質組成物を生じた。
【0114】
比較例Cのために、70重量パーセントの2,2−ジフルオロエチルアセテートと30重量パーセントエチレンカーボネートとを窒素パージされたドライボックス内で組み合わせることによって電解質組成物を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させた。0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを使用して濾過後、十分なLiPFを添加してLiPF中の調合物1Mを製造した。1.96gのこの混合物を0.04gのガンマ−ブチロラクトン(GBL、Sigma−Aldrich、98%純度)と組み合わせて、最終電解質組成物を調製した。
【0115】
コインセルの製造
円形の直径14.3mmのアノードおよび直径12.7mmのカソードを本明細書において上に記載された電極板から打ち抜き、グローブボックス(Vacuum Atmospheres、Hawthorne,CA、HE−493清浄器を有する)の副室内のヒーター内に置き、真空下で一晩90℃においてさらに乾燥させ、アルゴンで満たしたグローブボックス内に入れた。非水電解質リチウムイオンCR2032コインセルを電気化学的評価のために作製した。コインセル部品(ケース、スペーサー、波形バネ、ガスケットおよび蓋)ならびにコインセルクリンパーは、宝泉株式会社、日本国、大阪から得られた。セパレータは、Celgard(登録商標)モノレイヤーPPバッテリーセパレータ2500(Celgard/Polypore International,Charlotte,NC)であった。
【0116】
55℃でのコインセルの評価
実施例1、比較例A、比較例B、および比較例Cの電解質組成物の各々を使用して、合計12のセルのために3つのコインセルを製造した。実施例2の電解質組成物を使用して2つのコインセルを製造した。全てのコインセルを、3.4〜4.9Vの電圧制限間での一定電流充電および放電を用いて、かつカソード活物質の1グラム当たり12mAの一定電流(CC)を用いて、周囲温度で市販のバッテリーテスター(Series4000,Maccor,Tulsa,OK)を用いて形成のために2回サイクルさせた。
【0117】
形成手順後、セルを55℃でのオーブン中に入れ、250サイクルについておよそ2Cレートである、カソード活物質の1グラム当たり240mAの電流で3.4〜4.9Vの電圧制限間での一定電流充電および放電を用いてサイクルさせた。
【0118】
結果は表1に記載され、それは使用された溶媒および添加剤、形成の最初のサイクルで測定されたクーロン効率(CE)、10回目のサイクルでのCE、および55℃で250サイクルでの放電容量維持率を提供する。クーロン効率は、(放電容量)/(充電容量)として定義される。250サイクルでの放電容量維持率は、製造された通りのセル容量の百分率として与えられる。製造された通りのセル容量は、カソード活物質の質量で正規化された容量である、120mAh/gでカソード活物質の質量を乗じることによって計算される。
【0119】
【0120】
表1の結果は、電解質添加剤として2(5H)−フラノンの使用(実施例1)が同じ溶媒ブレンドを使用するが、2(5H)−フラノン添加剤を使用しないセル(比較例A)、または2(5H)−フラノン添加剤を使用するが、非フッ素化溶媒ブレンドを使用するセル(比較例B)の場合と比較して、大幅に改良された容量維持率およびクーロン効率を有する電気化学セルを提供したことを示す。また、2(5H)−フラノンおよびLiBOBと同じ溶媒ブレンドとの組合せ(実施例2)は、比較例Aの場合と比較して、改良された容量維持率およびクーロン効率を有する電気化学セルを提供した。比較例Cは、同じ溶媒ブレンドを使用して、共役2(5H)−フラノンの代わりに非共役γ−ブチロラクトンを代用することにより、サイクル経過しなかった電気化学セルを提供した − 実施例1の結果と比較して明らかに劣った結果を示す。
【0121】
実施例3
比較例D
NMC(532)カソード活物質を含有するカソードの代表的な作製
以下は、実施例3および比較例Dにおいて使用されるカソードを作製するために使用される典型的な手順である。バインダーは、N−メチルピロリドン(Sigma−Aldrich)中のポリフッ化ビニリデン(Solef(商標)5130(Solvay,Houston,TX))の5%溶液として調製される。以下の材料を使用して電極ペーストを製造した:9.36gのLiNi0.5Mn0.3Co0.2カソード活性粉末;0.52gのカーボンブラック(SuperC65(Timcal));10.4gのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)溶液および3.0gのNMP(Sigma Aldrich)。材料は、以下に記載されるように、90:5:5のカソード活性粉末:PVDF:カーボンブラックの重量比で組み合わせられた。
【0122】
シュウ酸、カーボンブラック、NMPのさらなる部分、およびPVdF溶液をバイアル内で組み合わせて、2回、それぞれの回について2000rpmで60秒間遠心混合した(ARE−310、Thinky USA,Inc.,Laguna Hills,CA)。カソード活性粉末を添加し、ペーストを2回遠心混合した(2×2000rpmで1分)。ホモジナイザー(モデルPT 10−35 GT、7.5mm径の固定子、Kinematicia,Bohemia,NY)の回転子−固定子シャフトをバイアル内へ挿入し、得られたペーストを5分間それぞれ9500rpmで均質化した。次に、ペーストを1分間2000rpmで遠心混合して脱気した。
【0123】
自動コーター(AFA−II、MTI Corp.,Richmond,CA)を使用して、0.290mmのゲート高さを有するドクターブレードを使用してアルミニウム箔(25μmの厚さ、1145−0、Allfoils,Brooklyn Heights,OH)上にペーストをキャストした。電極を機械式対流オーブン(モデルFDL−115,Binder Inc.,Great River NY)中において80℃から100℃への15分の傾斜から出発して、その後、100℃での保持を有する温度傾斜および保持を用いて乾燥させた。カソードを0.5mm厚さのステンレス鋼シート間に入れ、ニップ力が、9psigで出発して最終通過について30psigで終わる、通過のそれぞれで増加する状態で、125℃で100mm径スチールロールを用いて3回カレンダーを通過させた。
【0124】
カソード活物質のローディングは約14.8mg/cmであった。
【0125】
代表的なアノードの作製
以下は、実施例3および比較例Dにおいて使用されるアノードの作製のために使用される典型的な手順である。アノードペーストは以下の材料から作製された:6.2062gの黒鉛(CPreme(登録商標)G5,Conoco−Philips,Huston,TX);0.3406gのカーボンブラック(SuperC65,Timcal,Westlake,OH);3.7975gのPVDF(NMP中13%、KFL#9130、Kureha America Corp.);13.0974gの1−メチル−2−ピロリジノン(NMP);および0.0119gのシュウ酸。材料は、以下に記載されるように、88:0.17:7:4.83の黒鉛:シュウ酸:PVDF:カーボンブラックの重量比で組み合わせられた。最終ペーストは29.4%の固形分を含有した。
【0126】
シュウ酸、カーボンブラック、NMPの半分、およびPVDF溶液がプラスチックバイアル中で組み合わせられた。材料を、自転公転式ミキサーを用いて2000rpmで60秒間混合した。混合を2回繰り返した。次に黒鉛を残りのNMPと一緒に添加した。得られたペーストを2回遠心混合した。混合中にわたりバイアルの位置を調節して、回転子−固定子を使用して5分間10,000rpmでバイアルを均質化した。次に、バイアルを60秒間2000rpmで再び混合した。
【0127】
自動コーターを使用して、290μmのゲート高さを有するドクターブレードを使用して銅箔(CF−LBX−10、福田、京都、日本)上にペーストをキャストした。電極を機械式対流オーブン中95℃で30分間乾燥させた。得られた102mm幅のアノードをKaptonのシートが重ねられた390μm厚さのステンレス鋼シート間に入れ、ニップ力が、340kgで出発して最終通過が1130kgである、通過のそれぞれにおいて増加すると共にフィルムの投入方向が180°シフトされる状態で、125℃に保持された100mm径の鋼ロールを使用して4回カレンダーを通過させた。
【0128】
アノード活物質のローディングは約8.4mg/cmであった。
【0129】
電解質の調製
比較例Dのために、70重量パーセントの2,2−ジフルオロエチルアセテートと30重量パーセントのエチレンカーボネート(EC,BASF,Independence,OH)とを窒素パージされたドライボックス内で組み合わせることによって電解質組成物を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させた。0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを使用して濾過後、十分なLiPFを添加してLiPF中の調合物1Mを製造した。
【0130】
実施例3のために、70重量パーセントの2,2−ジフルオロエチルアセテートと30重量パーセントのエチレンカーボネートとを窒素パージされたドライボックス内で組み合わせることによって電解質組成物を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させた。0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを使用して濾過後、十分なLiPFを添加してLiPF中の調合物1Mを製造した。1.92gのこの混合物を0.04gの2(5H)−フラノンおよび0.04gのエチレンサルフェート(ES)と組み合わせて、最終電解質組成物を生じた。使用前に、2(5H)−フラノンを、0.2ミクロンのPTFEフィルターが端部に付けられたアルミナ充填シリンジを通して濾過した。エチレンサルフェート(Sigma−Aldrich)を真空昇華によって精製した。
【0131】
コインセルの製造
円形の直径14.3mmのアノードおよび直径12.7mmのカソードを上に記載された電極板から打ち抜き、グローブボックス(Vacuum Atmospheres、Hawthorne,CA、HE−493清浄器を有する)の副室内のヒーター内に置き、真空下で一晩90℃においてさらに乾燥させ、アルゴンで満たしたグローブボックス内に入れた。非水電解質リチウムイオンCR2032コインセルを電気化学的評価のために作製した。コインセル部品(ケース、スペーサー、波形バネ、ガスケットおよび蓋)ならびにコインセルクリンパーは、宝泉株式会社、日本国、大阪から得られた。セパレータは、CelgardモノレイヤーPPバッテリーセパレータ2500(Celgard/Polypore International,Charlotte,NC)であった。
【0132】
45℃でのコイルセルの評価
実施例3および比較例Dの電解質組成物の各々を使用して、合計6のセルのために、3つのコインセルを製造した。コインセルを最初に0.25Cレートで36分間充電し、その後、12時間休止した。次に、最初の充電をC/20において定電圧ホールドカッティングオフで4.35Vまで続け、その後、10分間休止し、次いで0.5Cで3.0Vまで放電した。第2のサイクルは、10分の休止と、その後、4.35Vまで0.2Cレートでの充電とからなり、4.35Vでのホールドおよび0.05Cレートのカットオフがあった。10分の休止が続き、次に3.0Vまで0.2Cレートでの放電が起こった。形成手順は、周囲温度で商用バッテリーテスター(Series4000、Maccor,Tulsa,OK)を使用して行われた。
【0133】
形成手順後、セルを45℃でのオーブン中に入れ、およそ1Cレートである、カソード活物質の1グラム当たり170mAの電流で19サイクルの反復プロトコルを用い、その後、およそ0.2Cレートである、1グラム当たり34mAの電流で1サイクルを使用して3.0〜4.35Vの電圧制限間での一定電流充電および放電を用いてサイクルさせた。これを120サイクル反復した。
【0134】
結果は表2に記載され、それは、使用された溶媒および添加剤、45℃で110サイクルでの放電容量維持率、平均放電容量維持率、110サイクルでのクーロン効率、および110サイクルでの平均クーロン効率を示す。250サイクルでの放電容量維持率は、製造された通りのセル容量の百分率として与えられる。製造された通りのセル容量は、カソード活物質の質量で正規化された容量である、170mAh/gでカソード活物質の質量を乗じることによって計算される。
【0135】
【0136】
表2の結果は、2,2−ジフルオロエチルアセテート/エチレンカーボネートの70/30溶媒ブレンドと添加剤として2(5H)−フラノンとエチレンサルフェートとの両方を含有する電解質組成物(実施例3)の使用が、同じ溶媒ブレンドを使用して添加剤を使用しないセル(比較例D)の場合と比較して、大幅に改良された容量維持率および改良されたクーロン効率を有する電気化学セルを提供したことを示す。