(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る帯電装置について、図面を参照して説明する。
【0025】
図1は、本発明の第1実施形態に係る帯電装置の概略側面図である。
【0026】
本発明の第1実施形態に係る帯電装置10は、互いに対向して配置された第1電極30aおよび第2電極40と、第1電極30aと第2電極40との間に設けられた中間層50と、第1電極30aが設けられた基板30の上に形成された絶縁層60とを有する電子放出素子20を備え、第1電極30aと第2電極40との間に電圧を印加し、第2電極40から電子を放出させる。
【0027】
また、帯電装置10は、第1電極30aと第2電極40との間に電圧を印加する第1電源8a(電源部8の一部)を備えている。さらに、帯電装置10は、電子放出素子20(特に、第2電極40)と対向して配置された第3電極80と、第3電極80に電圧を印加する第2電源8b(電源部8の一部)を備えている。電子放出素子20から放出された電子は、第3電極80の電界によって引き寄せられて回収されたり、真空中においては加速エネルギーを与えられたりする。なお、帯電装置10を画像形成装置に適用した場合は、感光体ドラムが第3電極80に相当する。
【0028】
具体的に、電子放出素子20は、基板30の表面に設けられた第1電極30aの上に、絶縁層60、中間層50、第2電極40、および配線電極70が順に積層されている。
【0029】
基板30は、特に、表面が第1電極30aとしての機能を兼ねる電極基板であって、導電性を有する板状体で構成されている。本実施の形態において、基板30は、アルミニウム材(t0.5mm、A1000系、BF仕上げ、住友軽金属製)で形成されている。なお、基板30は、導電性が確保されていればよく、セラミックやガラスなどの絶縁性基板上に導電性薄膜(第1電極30a)を形成したものを用いてもよい。
【0030】
絶縁層60は、絶縁性を有する材料で形成され、電子放出素子20の一部の領域に設けられており、第1電極30aから第2電極40へ流れる電流を遮断する。本実施の形態では、絶縁層60は、電子放出素子20の周縁に沿って設けられている。つまり、基板30の上には、絶縁層60によって矩形状の開口部が形成されており、開口部の内側の領域では、第1電極30aが露出した電子放出領域RDとされ、開口部の外側の領域では、基板30が絶縁層60に覆われた絶縁領域RZとされている。また、絶縁層60は、基板30のうち、第1電極30aの上面よりも低くされた領域に設けられている。したがって、絶縁層60の下端が第1電極30aの上面よりも下に設けられた構造とされるので、絶縁層60と第1電極30aとの段差を容易に小さくすることができる。なお、基板30および絶縁層60の構造については、後述する
図2Aないし
図2Dを参照して詳細に説明する。
【0031】
中間層50は、電子放出素子20全体に積層されている。従って、中間層50は、絶縁層60が設けられた領域では、絶縁層60の上に積層され、それ以外の領域では、第1電極30aの上に積層されている。なお、本実施の形態では、中間層50を電子放出素子20全体に積層したが、これに限定されず、基板30端部の絶縁層60の一部が露出していてもよい。
【0032】
本実施の形態において、中間層50は、樹脂と、樹脂中に分散された導電性微粒子とで構成されている。樹脂は、例えば、シラノール(R
3Si−OH)を縮合重合したシリコーン樹脂である。導電性微粒子は、例えば、金、銀、白金、およびパラジウム等の導電性を有する金属粒子を用いてもよい。また、金属粒子以外の導電性材料としては、カーボン、導電性高分子、および半導電性材料などを用いてもよい。中間層50における導電性微粒子の含有量は、適宜設定すればよく、それによって、中間層50の抵抗値を調整することができる。中間層50は、スピンコート法、ドクターブレード法、スプレー法、およびディッピング法などの塗布方法によって形成される。
【0033】
本実施の形態での中間層50の作成方法では、先ず、樹脂であるシリコーン樹脂3g(室温硬化性樹脂、信越シリコーン製)と、導電性微粒子であるAgナノ粒子0.03g(平均径10nm、絶縁被覆アルコラート1nm膜、株式会社応用ナノ粒子研究所製)とを試薬瓶に入れて混合することで、混合液が作製される。そして、超音波振動器を用いて、試薬瓶に入れた混合液をさらに撹拌することで、塗布液が作製される。塗布液の粘度は、0.8〜15mPa・sとされているとスプレー塗布やスピンコートに好適である。また、塗布液中の樹脂成分比率は、10〜70wt%程度とされており、希釈溶媒等を用いて、適宜最適な条件に調整すればよい。塗布液は、基板30に塗布された後、大気中の湿気によって縮合重合してシリコーン樹脂となり、中間層50を形成する。
【0034】
第2電極40は、既存の方法を用いて形成すればよく、本実施の形態では、マグネトロンスパッタ装置を用いて形成されている。本実施の形態において、第2電極40は、Au−Pdで形成され、膜厚が50nmとされ、電極面積が49mm
2とされている。なお、第2電極40は、薄くすると、電子放出効率が向上するのに対し、膜抵抗が大きくなって電圧降下が発生したり、熱や機械的磨耗によって破壊し易くなったりし、厚くすると、第2電極40にトラップされて、外部へ放出される電子の量が減少し、電子の放出効率が減少するため、材料等に応じて適宜膜厚を調整すればよいが、第2電極40の膜厚は、より薄い方が好ましい。
【0035】
配線電極70は、導電性材料で形成されている。なお、配線電極70を設けず、第2電極40に給電端子を当接させて給電を行ってもよい。
【0036】
上述したように、帯電装置10の電子放出源として用いる際に電子放出素子20は、感光体(第3電極80)から、例えば、0.5〜1.5mm程度隔てて配置するのが好ましい。また、電子放出素子20に印加する電圧は、20〜25Vとし、周波数は1〜2kHzのパルス波が好ましい。電源部8は、デューティ比と電圧値とを調整して、金属平板に対向したときに単位面積当たり5μA/cm
2の電子が放出されるように調整される。この条件で感光体は、回転周速度が225mm/sで回動し、表面が−400〜600Vになるように制御される。上述した帯電装置10は、放電を伴わず、人体に有害なオゾンを発生させずに、効率よく帯電できる。
【0037】
次に、基板30に絶縁層60を形成する工程を、
図2Aないし
図2Dを参照して説明する。
【0038】
図2Aは、表面処理された基板を示す説明図である。
【0039】
基板30は、上述した市販のアルミニウム材を用い、表面をエッチング処理して、所望の表面粗さに調整される。すなわち、市販の各種アルミニウム材の表面には、製造時に発生する圧延スジや含有不純物の露出や離脱による凹凸があり、大きな凹凸は、その後の中間層50形成や素子特性に不具合をもたらすことがある。つまり、基板の表面が粗すぎると、中間層の実質的な膜厚がばらつき、電子放出素子内部の電界強度の変動によって、電子放出状態の不均一化や、電流のリークの発生といった課題が生じる。また、表面が過剰に平坦にされていると、後述する保護膜HMとの密着性が下がり、絶縁層60のパターニングに不具合をもたらすことがある。このようなことを考慮すると、基板30の表面の粗さは、算術平均粗さRa(JIS B 0601(1994))が0.05〜0.8μm程度とされていることが望ましい。このように、基板30を最適な表面粗さに設定することで、放出性能の安定化を図ることができる。
【0040】
図2Bは、基板に保護膜を形成する工程を示す説明図である。
【0041】
図2Bでは、
図2Aに示す基板30の上に、保護膜HMが形成された状態を示している。保護膜HMは、フォトリソグラフィーやスクリーン印刷等で所定のパターンが形成されており、基板30のうち、電子放出領域RDに対応する部分に設けられている。つまり、絶縁領域RZに対応する部分は、保護膜HMに覆われておらず、基板30が露出している。
【0042】
図2Cは、基板に絶縁層を形成する工程を示す説明図である。
【0043】
図2Cでは、
図2Bに示す基板30の上に、絶縁層60が形成された状態を示している。絶縁層60は、電子放出領域RDを保護膜HMによって覆った状態で、陽極酸化処理を施すことで、絶縁領域RZだけに形成される。ここで、陽極酸化被膜は、元の金属表面の外側と内側とに向かって等方的に成長するため、絶縁層60は、下端が基板30の上面よりも下方となり、上端が基板30の上面よりも上方となる。この際、基板30の裏面(第1電極30aと反対の面)は、酸化被膜を形成してもよいし、裏面にも保護膜HMを塗布して、導体のままとしてもよい。これは、表裏のアルマイト膜の面積差に起因する温度変化時の反り対策や、給電構造の制約などを考慮して、適宜選択すればよい。
【0044】
図2Dは、基板から保護膜を除去する工程を示す説明図である。
【0045】
図2Dでは、
図2Cに示す基板から保護膜HMを除去した状態を示している。保護膜HMを除去することで、所定の絶縁層60のパターンが形成され、第1電極30a(基板30)が露出される。上述したように、陽極酸化被膜が等方的に成長した結果、絶縁層60と第1電極30aとの段差は、絶縁層60の厚さより小さく、略半分となる。なお、以下では説明の簡略化のため、絶縁層60と第1電極30aとの段差を境界段差d2と呼び、絶縁層60の厚さを絶縁層厚さd1と呼ぶことがある。
【0046】
図3は、本発明の第1実施形態に係る電子放出素子の概略断面図である。なお、
図3では、図面の見易さを考慮して、ハッチングを省略している。
【0047】
図3では、
図2Aないし
図2Dに示す工程によって作成された絶縁層60を有する基板30に対して、中間層50および第2電極40が形成されている。上述したように、絶縁層60と第1電極30aとの段差よりもやや内側の領域において、中間層50は、膜厚がわずかに薄くなるが、電子放出に影響がない程度とされている。以下では説明のため、中間層50の膜厚を中間層膜厚d3と呼ぶことがある。
【0048】
中間層膜厚d3は、0.3〜5μmが適切な厚みとされており、より望ましくは0.5〜3μmとされている。中間層膜厚d3が薄くなると、絶縁層60の段差近傍での膜厚低下が懸念されるので、境界段差d2を小さくする必要があるが、薄くなると絶縁層60としての安定性に不具合が生じる。一方、中間層膜厚d3が厚くなると、電子放出を行うための素子駆動電圧が高くなり、絶縁層60を厚くして、絶縁性を確保する必要がある。その結果、素子駆動時の発熱などによって、基板30に熱応力が付与されて、絶縁層60と導体部分とでの物性差によるひび割れや剥離が懸念される。そのため、上述した構成とすることで、絶縁性の確保や段差の安定化、さらには、素子駆動電圧低減や基板製造コスト低減に有効となる。
【0049】
次に、比較のため、従来の方法で絶縁層を形成した従来例について、図面を参照して説明する。
【0050】
図4Aは、従来例の基板を示す説明図である。
【0051】
従来例の電子放出素子101では、第1実施形態と同様の基板102を用いている。なお、表面処理の有無については、適宜選択すればよい。
【0052】
図4Bは、従来例で絶縁層を形成する工程を示す説明図である。
【0053】
図4Bでは、
図4Aに示す基板102の上に、絶縁層103が形成された状態を示している。従来例では、第1実施形態とは異なり、基板102の全面に対して、一様に絶縁層103を形成している。
【0054】
図4Cは、従来例で保護膜を形成する工程を示す説明図である。
【0055】
図4Cでは、
図4Bに示す絶縁層103の上に、保護膜HMが形成された状態を示している。従来例において、保護膜HMは、絶縁領域RZに対応する部分に設けられており、電子放出領域RDでは、絶縁層103が露出している。
【0056】
図4Dは、従来例で絶縁層をエッチングする工程を示す説明図である。
【0057】
図4Dでは、
図4Cに示す基板102に対して、エッチングを施すことで、電子放出領域RDの絶縁層103を剥ぎ取った後、保護膜HMを除去している。絶縁層103を剥ぎ取る際には、基板102の凹凸や含有不純物に起因するアルマイト膜の成長バラつきを考慮して、絶縁層103の厚さよりも、1〜2μm程度深くエッチングする必要がある。そのため、従来例では、境界段差d2が絶縁層厚さd1よりも大きくなる。絶縁層厚さd1が2〜4μmである場合、境界段差d2は、3〜6μm程度となる。
【0058】
図5は、従来例の電子放出素子の概略断面図である。なお、
図5では、図面の見易さを考慮して、ハッチングを省略している。
【0059】
図5では、
図4Aないし
図4Dに示す工程によって作成された絶縁層103を有する基板102に対して、半導電層104(中間層)および第2電極105が形成されている。従来例では、
図3に示す第1実施形態と異なり、絶縁層103と第1電極との段差よりもやや内側の領域において、半導電層104が極端に薄くなっている。すなわち、半導電層104の膜厚に比べて段差が大きい場合、段差の縁部に塗膜が集中して膜厚が増大する。電子放出領域RDの中央では、一定の膜厚を保つように、塗膜が表面張力の作用で平坦化する。このとき、縁部と中央との狭間にある部分では、両方向から引っ張られて薄い塗膜となる。その結果、半導電層104には、局所的に薄い部分が生じる。
【0060】
次に、第1実施形態に係る電子放出素子20と、従来例の電子放出素子101とでの評価結果を説明する。それぞれの評価では、作製した電子放出素子20の電子放出性能のエージングテストを行った後、表面状態を観察した。
【0061】
図6は、
図3に示す電子放出素子の符号A近傍を示す表面図であって、
図7は、
図5に示す電子放出素子の符号B近傍を示す表面図である。
【0062】
図6および
図7は、それぞれ素子の表面の一部を撮影した拡大写真とされ、図面における破線は、それぞれ絶縁領域RZ(図面では、上辺および右辺)を示している。それぞれの素子では、電子放出によって第2電極40(第2電極105)の損傷している部分が黒ずんでいる。
図6に示すように、第1実施形態に係る電子放出素子20では、第2電極40の集中的な破壊は見られず、電子放出領域RD全域にわたって、均一な電子放出が継続した。これに対し、
図7に示す従来例では、絶縁領域RZの境界から100〜200μm程度内側の部分で、著しい表面電極破壊が進行している。このときの電子放出特性としては、放出電流の低下だけでなく、基板102側の第1電極と、表面側の第2電極105との間を流れる素子内電流も低下していた。電子放出素子101では、絶縁領域RZに設けられた第2電極105から給電されているが、素子内電流は、第2電極105を伝って流れており、表面電極の破壊によって給電路が著しく消失したため、素子内電流と放出電流とが低下したと考えられる。電子放出領域RDの中央側は、表面電極の破壊がさほど進んでおらず、継続使用可能な状態ではあるが、絶縁層103の段差付近の電極破壊により素子寿命を迎えている。
【0063】
上述したように、本実施の形態では、境界段差d2を絶縁層厚さd1より小さくすることで、絶縁層60として必要な厚さを確保しつつ、段差近傍での膜厚の局所的な低下を抑え、電極破壊進展による給電路減少を防ぎ、長寿命化を図ることができる。
【0064】
また、本実施の形態では、基板30の一部である絶縁領域RZに陽極酸化処理を施して、絶縁層60が形成される。陽極酸化被膜は、材料表面に対して、高さ方向の両側に向けて成長する。つまり、基板30の表面よりも下に絶縁層60が成長する構成とされるので、必要な絶縁層60の厚さを確保しつつ、小さな段差を形成することができる。また、基板30のうち、絶縁層60以外の部分は、第1電極30aに相当する電子放出領域RDとされるので、電子放出領域RDと絶縁領域RZとを単一の材料で形成でき、簡便に低コスト化を図ることができる。ところで、電子放出領域RDに陽極酸化処理を施した場合、陽極酸化被膜を剥離して、表面を露出させる際に生じる剥離面の凹凸発生が懸念される。しかしながら、本実施の形態では、電子放出領域RDに陽極酸化被膜を形成することなく、絶縁層60を形成できるので、電極面の表面性を安定させ、放出特性の安定化に寄与できる。
【0065】
基板30の材料となるアルミニウムは、比較的安価であって、酸化被膜とされたアルマイト膜が強固であるため、絶縁層60の機械的な損傷によるリーク発生を回避できる。なお、基板30は、アルミニウムだけに限らず、チタン、マグネシウム、ニッケル、およびステンレス板などの陽極酸化被膜が形成可能な材料を用いてもよい。
【0066】
本実施の形態において、絶縁層60は、基板30に表面処理を施した後に形成される。従来の方法では、基板30の表面性によって、絶縁層60の加工や電子放出領域RDの作用に不具合が生じる場合がある。そこで、陽極酸化処理の前に基板30の表面処理を施すことで、絶縁層60を安定的に形成することができる。また、陽極酸化被膜を形成した後に、保護膜HMで覆われた電子放出領域RDの表面性を改めて調整すると、段差が増大する懸念があるが、上述した構成とすることで、所望の表面性と段差形成とが両立できる。
【0067】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る電子放出素子について説明する。なお、第2実施形態は、第1実施形態に対して、略同様の構成とされているので、図面を省略し、第1実施形態と機能が実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0068】
第2実施形態は、第1実施形態に対して、絶縁層60を形成する工程が異なる。具体的に、基板30は、化学的な作用あるいは機械的な方法で、絶縁領域RZだけが掘り下げられ、その部分に、樹脂フィルム、セラミックス、またはガラスなどで形成された絶縁層60が設けられている。
【0069】
(評価結果)
次に、第1実施形態、従来例、および第2実施形態について、電子放出性能と電子放出領域RD周縁部の破壊度合とを評価した結果を示す。
【0070】
図8は、評価条件と評価結果とを示す特性図表である。
【0071】
評価においては、第1実施形態、従来例、および第2実施形態のそれぞれについて、絶縁層厚さd1、境界段差d2、および中間層膜厚d3を変更して、複数のサンプルを作製した。なお、以下では説明の簡略化のため、電子放出性能を「放出性能」と略し、電子放出領域RD周縁部の破壊度合を「ライフ」と略す。
【0072】
実施例1−1ないし実施例1−5、比較例1−1、および比較例1−2は、第1実施形態と同様の方法で作製した。つまり、絶縁層60は、アルマイト膜とされており、
図3のように段差を低減した構造とされている。実施例1−1ないし実施例1−3は、絶縁層厚さd1が4μmとされ、境界段差d2が2μmとされている。中間層膜厚d3は、実施例1−1が1.5μmで、実施例1−2が0.7μmで、実施例1−3が2.8μmである。実施例1−4および実施例1−5は、絶縁層厚さd1が2μmとされ、境界段差d2が1μmとされている。中間層膜厚d3は、実施例1−4が0.5μmで、実施例1−5が1.3μmである。比較例1−1および比較例1−2は、絶縁層厚さd1が4μmとされ、境界段差d2が2μmとされている。中間層膜厚d3は、比較例1−1が0.3μmで、比較例1−2が5.2μmである。実施例1−1ないし実施例1−5の評価結果は、放出性能とライフとのいずれも良好な結果であった。これに対し、比較例1−1および比較例1−2の評価結果は、放出性能とライフとのいずれか、または両方で不良となった。
【0073】
比較例2−1ないし比較例2−4は、従来例と同様の方法で作製した。つまり、絶縁層60は、アルマイト膜とされており、
図5のように従来の構造とされている。比較例2−1ないし比較例2−4において、比較例2−2だけが、絶縁層厚さd1が2μmとされ、境界段差d2が3μmとされており、残りは、絶縁層厚さd1が4μmとされ、境界段差d2が5μmとされている。中間層膜厚d3は、比較例2−1が1.5μmで、比較例2−2および比較例2−3が1.0μmで、比較例2−4が5.4μmである。比較例2−1および比較例2−4の評価結果は、放出性能とライフとのいずれか、または両方で不良となった。
【0074】
実施例2−1ないし実施例2−3、および比較例3−1は、第2実施形態と同様の方法で作製した。つまり、絶縁層60は、樹脂フィルムとされており、
図3のように段差を低減した構造とされている。実施例2−1および実施例2−2は、絶縁層厚さd1が4μmとされ、境界段差d2が2μmとされている。実施例2−3は、絶縁層厚さd1が6μmとされ、境界段差d2が4μmとされている。比較例3−1は、絶縁層厚さd1が4μmとされ、境界段差d2が2μmとされている。中間層膜厚d3は、実施例2−1が1.3μmで、実施例2−2および実施例2−3が1.5μmで、比較例3−1が0.6μmである。実施例2−1ないし実施例2−3は、放出性能とライフとのいずれも良好な結果であったのに対し、比較例3−1は、ライフが不良となった。
【0075】
上述した放出性能の結果と中間層膜厚d3との関連を見ると、0.3μm未満ではリーク発生が生じ、5.0μm以上では放出量不足が生じた。また、境界段差d2と中間層膜厚d3との関係を評価するため、「d2/d3」の値を算出した。そして、ライフ(周縁部の破壊)の結果と「d2/d3」との関連を見ると、「d2/d3」が3未満のときに良好な結果となった。すなわち、中間層膜厚d3は、d2<3×d3とされていることが望ましい。中間層膜厚d3に対して境界段差d2が大きすぎると、絶縁層60の段差近傍の膜厚低下が生じやすい。そのため、中間層膜厚d3を適切な範囲に設定することで、膜厚の低減度合いを抑えることができる。
【0076】
(第3実施形態)
図9は、本発明の第3実施形態に係る電子放出素子の概略断面図である。なお、第3実施形態は、第1実施形態に対して、略同様の構成とされているので、第1実施形態および第2実施形態と機能が実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0077】
第3実施形態では、第1実施形態に対して、絶縁層60の形状が異なる。具体的に、第3実施形態では、絶縁層60の上端と基板30の上面とで高さが略一致している。つまり、第3実施形態は、絶縁層60と第1電極30aとの段差がない構造とされており、境界段差d2が0μmである。第1実施形態のように、陽極酸化処理によって絶縁層60を形成した際には、絶縁層60だけを掘り下げて高さを調整すればよいし、第2実施形態のように、貼り合わせて絶縁層60を設けた際には、予め基板30を掘り下げる深さと樹脂フィルム等の厚さとを調整すればよい。段差がない構造とすることで、中間層50の膜厚の変動を抑制することができる。
【0078】
(第4実施形態)
図11は、本発明の第4実施形態に係る電子放出素子の概略断面図である。なお、第4実施形態は、第1実施形態に対して、略同様の構成とされているので、第1実施形態ないし第3実施形態と機能が実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0079】
第4実施形態では、第1実施形態に対して、中間層50の構成が異なっている。具体的に、本実施の形態において、中間層50は、絶縁性微粒子53と導電性微粒子54とで構成された微粒子層51とされ、絶縁層60の開口部内に設けられており、中間層50によって第1電極30aが覆われている。
【0080】
微粒子層51は、絶縁性微粒子53に導電性微粒子54を担持させた担持粒子55で構成されていることが好ましく、絶縁性微粒子53の二次粒子径は、導電性微粒子54の粒子径より大きいことが好ましい。絶縁性微粒子53および導電性微粒子54などの微粒子については、分散した状態での大きさが一次粒子径とされ、凝集した状態での大きさが二次粒子径とされている。
【0081】
絶縁性微粒子53は、平均二次粒子径が0.05μm〜5.0μmであることが好ましい。つまり、絶縁性微粒子53の平均二次粒子径は、導電性微粒子54を担持させる場合、0.05μmより小さいと担持しにくく、5.0μmより大きいと中間層50の膜厚が厚くなりすぎるため好ましくない。また、絶縁性微粒子53は、平均一次粒子径が、1nm〜1000nmであることが好ましく、5nm〜400nmがより好ましく、さらに20nm〜200nmが好ましい。
【0082】
絶縁性微粒子53の材料としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タングステン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、タンタル酸ナトリウム(NaTaO
3)、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、および酸化マンガン等の金属酸化物や、LaTiO
2N、CaTaO
2N、SrTaO
2N、BaTaO
2N、LaTaON
2、CaNbO
2N、SrNbO
2N、BaNbO
2N、およびLaNbON
2といった遷移金属を含むタンタル(ニオブ)系酸窒化物や、酸窒化タンタル等の酸窒化物や、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、および窒化タンタル等の窒化物や、硫化カドミウム等の硫化物などを用いることができる。
【0083】
特に、光触媒機能を有する絶縁性微粒子53の材料としては、半導体材料であってもよく、光触媒機能を有する金属酸化物、酸窒化物、窒化物、硫化物が好ましい。絶縁性微粒子53の材料は、例えば、酸化チタン(TiO
2)、チタン酸バリウム(BaTiO
3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)、酸化タングステン(WO
3)、タンタル酸ナトリウム(NaTaO
3)、酸化亜鉛、硫化カドミウムなどを用いることができ、これらを組み合わせて使ってもよい。なお、後述する光析出法を用いて製造する際、絶縁性微粒子53においては、光触媒として機能する金属酸化物、酸窒化物、窒化物、および硫化物であることが必須となり、酸化チタン(TiO
2 )を用いることが好適とされている。酸化チタンの結晶構造は、アナターゼ型、ルチル型、およびブルッカイト型のいずれであってもよい。酸化チタンは、平均二次粒子径が0.1μm〜5.0μmであって、平均一次粒子径が1nm〜1000nmであることが好ましい。
【0084】
導電性微粒子54は、絶縁性微粒子53に担持可能であれば、どのような導電体でも用いることができるが、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、抗酸化力が高い導電体である必要があり、金属が好ましく、さらに貴金属が好ましい。導電性微粒子54については、例えば、金、銀、銅、ロジウム、白金、パラジウム、ニッケル、ルテニウム、およびコバルトといった材料が挙げられる。また、導電性微粒子54の材料は、フラーレン類やカーボンナノチューブ類などの金属以外の微小粉体も使用できる。導電性微粒子54の粒径は、絶縁性微粒子53よりも小さく、その範囲は3nm〜80nmであり、好ましくは5nm〜10nmである。
【0085】
次に、第4実施形態での製造工程の一例を以下に示す。なお、本発明はこれに限定されず、異なる周知の製造方法を用いてもよい。
【0086】
<絶縁層形成工程>
第4実施形態では、上述した第1実施形態と同様にして、基板30の上面に絶縁層60を形成する。絶縁層形成工程において、例えば、基板30としてアルミニウム板を使用した場合は、
図2Aないし
図2Cに示すように、スクリーン印刷法によって、開口部を有するようにパターニング形成した絶縁層60を基板30に形成する。絶縁層60は、陽極酸化処理によって形成すればよい。
【0087】
具体的に、基板30は、厚さ0.5mmのアルミ基板を用いた。アルミ基板に対し、5mm×5mmの電子放出領域をマスキングして、陽極酸化処理を行った。陽極酸化処理の条件は、20±1℃の15wt%硫酸浴、電流密度1A/dm
2、250秒間とした。その後、アルミ基板に対し、蒸留水(pH:6.0、90℃)で封孔処理を約30分間行うことで、厚さ2μmの絶縁層60を形成した。なお、封孔処理は、pH:5.5〜7.5で90〜100℃の蒸留水で行えばよい。
【0088】
<絶縁性微粒子塗布工程>
絶縁性微粒子塗布工程では、絶縁層60の開口部内に、スピンコート法、滴下法、およびスプレーコート法等の塗布法を用いて、絶縁性微粒子53を塗布する。具体的に、絶縁性微粒子15aであるTiO
2粒子(X線粒径:200nm)をスピンコート法で塗布し、膜厚は1.3μmであった。
【0089】
<導電性微粒子担持工程>
導電性微粒子担持工程では、絶縁性微粒子53に導電性微粒子54を担持させて、担持粒子55を形成する。導電性微粒子54については、無電解メッキや金属イオンを含む水溶液を還元して金属を担持させる方法として、含浸法、クエン酸還元法、空気還元法、および光析出法がある。
【0090】
本実施の形態では光析出法を用いたので、これについて詳細に説明する。光析出法では、光触媒機能を持つ絶縁性材料に、担持させたい金属に関連する金属イオン等を含む溶液(反応溶液)を接触させた状態で、光触媒機能を発揮する光を当てる。これによって、絶縁性材料(半導体材料も含む)で電子を励起させ、金属イオン等を還元し、絶縁性材料に金属を担持させる。
【0091】
反応溶液に用いられる溶媒としては、担持させたい金属に関連する金属イオン等が溶解しうる溶媒であれば特に制限がない。ただし、金属イオンが金属に還元されるのに併せて、絶縁性材料では、還元と対をなす酸化反応が生じるので、反応溶液の溶媒は、金属イオンの還元を邪魔しない溶媒であることが好ましい。反応溶液において、好適な溶媒は、水や、メタノール水溶液等のアルコールと水との混合溶媒が挙げられる。光触媒反応においてアルコール溶媒を含む場合には、励起された電子(励起電子)の価電子帯の穴(正孔)と反応してアルコールを酸化させる。正孔が消費されることで、励起電子と正孔との再結合が抑制され、還元反応を促進させることができる。
【0092】
光析出法は、撹拌することで反応がさらに進行するため、撹拌しながら光触媒反応をさせてもよい。また、光触媒反応に用いる光源は、光触媒機能を発揮することのできる波長を有する光を照射することが望ましく、例えば、絶縁性材料を酸化チタン(TiO
2)とした場合では、紫外線ランプが適用される。
【0093】
本実施の形態では、絶縁性微粒子53である酸化チタン(TiO
2)に導電性微粒子54である銀を担持させた。反応溶液である5μmol/Lの硝酸銀水溶液100mlが入れられた容器に、絶縁性微粒子53を塗布した基板30を投入した。この状態で、光源である紫外線ランプから紫外線を照射した。その結果、酸化チタンの光触媒機能により、銀イオンが酸化チタン上で還元されて、銀の微粒子が担持された担持粒子55が形成された。その後、室温雰囲気中で一晩自然乾燥させて、基板30上に、担持粒子55で構成された中間層50を形成した。
【0094】
<第2電極形成工程>
第2電極形成工程では、中間層50および絶縁層60の上に、第2電極40を形成する。第2電極40の形成方法は、例えば、真空蒸着法やスパッタ法を用いればよい。第2電極40が2層以上とされている場合は、各種金属をそれぞれのパターンに合わせて順次積層すればよい。本実施の形態において、第2電極40は、Auを材料とし、膜厚は40nmであって、マグネトロンスパッタ装置によって形成された。第2電極40は、素子面積(電子放出領域RD)よりも一回り大きい7mm×7mmの範囲に設けられている。
【0095】
上述した方法で作製した電子放出素子20において、断面を観察した結果、絶縁層厚さd1が4μmであり、境界段差d2が2μmであり、中間層膜厚d3が1.3μmであった。また、本実施の形態に係る電子放出素子20は、第1実施形態と同様にして評価した結果、放出性能とライフとのいずれも良好な結果を得ることができ、d1>d2、d2<3×d3との関係が成り立っている。
【0096】
次に、第4実施形態の変形例について説明する。
【0097】
図12は、本発明の第4実施形態に係る電子放出素子の変形例を示す概略断面図である。
【0098】
変形例では、微粒子層51と第2電極40との間にバインダー層52が積層されている。なお、変形例においても、微粒子層51が中間層50に相当する。バインダー層52は、バインダー樹脂で形成されており、絶縁性を有する材料であれば特に限定は無く、殆どの樹脂が使用可能であって、例えば、シリコーン樹脂を使用でき、その硬化タイプも特に限定されない。バインダー層52は、微粒子層51より薄いことが好ましく、微粒子層51とバインダー層52とを合わせた厚さは、0.3〜5μmであることが好ましい。バインダー層52を設けた場合では、微粒子層51中にバインダー樹脂が含まれていてもよい。また、
図12に示す構造に限らず、極端には、微粒子層51とバインダー層52とが混合した層(単層)となっていても構わない。つまり、
図11に示す構造であって、中間層50は、担持粒子55とバインダー樹脂とを含む構成とされていてもよい。
【0099】
変形例における製造工程では、導電性微粒子担持工程と第2電極形成工程との間に、バインダー含有工程が行われる。
【0100】
<バインダー含有工程>
バインダー含有工程では、バインダーとなる絶縁性樹脂を微粒子層51の上に供給する。ここでは、絶縁性樹脂の供給量や方法等によって、微粒子層51とバインダー層52との厚さを調整することで、第1電極30aと第2電極40との距離を調整することができる。バインダー層52は、周知の方法で形成すればよく、例えば、スピンコート法やスプレーコート法を用いてシリコーン樹脂などを塗布し、硬化させて形成される。
【0101】
(第5実施形態)
図13は、本発明の第5実施形態に係る電子放出素子の概略断面図である。なお、第5実施形態は、第1実施形態に対して、略同様の構成とされているので、第1実施形態ないし第4実施形態と機能が実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0102】
第5実施形態では、第1実施形態に対して、中間層50の構成が異なる。本実施の形態において、中間層50は、複数の細孔56を有するポーラスアルミナ層57とされており、細孔56内には、導電性微粒子54が担持されている。
【0103】
本実施の形態において、基板30(第1電極30a)は、アルミ基板(例えば厚さ0.5mm)とされており、ポーラスアルミナ層57は、アルミ基板の表面に形成された陽極酸化層である。なお、アルミ基板に代えて、基板(例えばガラス基板)上にアルミニウム層を形成した構造としてもよく、ポーラスアルミナ層57は、基板に支持されたアルミニウム層の表面に形成された陽極酸化層であってもよい。このように、基板30がガラス基板のような絶縁基板である場合では、アルミニウム層と基板30との間に、導電層を形成し、アルミニウム層と導電層とを第1電極30aとして用いればよい。第1電極30aとして機能するアルミニウム層(陽極酸化後に残存する部分)の厚さは、例えば、10μm以上であることが好ましい。
【0104】
細孔56は、ポーラスアルミナ層57(基板30)の上面で開口しており、ポーラスアルミナ層57と第1電極30aとの境界に向かって、掘り下げられた形状とされている。細孔56は、複数設けられており、電子放出領域内に分散して配置されている。細孔56の深さは、第1電極30aに到達しない程度とされている。以下では説明のため、ポーラスアルミナ層57のうち、細孔56と第1電極30aとの間であって、ポーラスアルミナ層57の底部を構成する層をバリア層57aと呼ぶことがある。
【0105】
細孔56は、上方(第2電極40の側)から見た状態での開口径(面積円相当径)が、約50nm以上約3μm以下となっている。なお、細孔56は、深さ方向において径が異なっていてもよく、底部側で径が小さくなっていてもよい。なお、ポーラスアルミナ層57、バリア層57a、および細孔56のサイズについては、後述する製造方法と併せて、詳細に説明する。
【0106】
導電性微粒子54は、アルミナに担持可能であれば、どのような導電体でも用いることができ、上述した第4実施形態における導電性微粒子54と同様の材料を適用できる。本実施の形態において、導電性微粒子54は、細孔56の開口径よりも粒径が小さく、その範囲は1nm〜80nmであり、好ましくは3nm〜10nmの範囲である。例えば、導電性微粒子54として銀ナノ粒子(以下、「Agナノ粒子」と表記する。)を用いた場合では、平均粒径が1nm以上50nm以下であることが好ましく、より好適には、平均粒径が3nm以上10nm以下であることが好ましい。Agナノ粒子は、有機化合物(例えばアルコール誘導体および/または界面活性剤)で被覆されていてもよい。
【0107】
次に、第5実施形態での製造工程の一例を以下に示す。なお、本発明はこれに限定されず、異なる周知の製造方法を用いてもよい。
【0108】
第5実施形態では、上述した第1実施形態と同様にして、基板30の上面に絶縁層60を形成する。
【0109】
<ポーラスアルミナ層形成工程>
ポーラスアルミナ層形成工程では、絶縁層60の開口部内を、陽極酸化することによってポーラスアルミナ層57を形成する。ここで、絶縁層60は、マスキングによって保護しておけばよい。また、必要に応じて、陽極酸化後にエッチングを行ってもよく、陽極酸化とエッチングとを交互に複数回繰り返してもよい。陽極酸化およびエッチングの条件を調整することによって、種々の断面形状およびサイズを有する細孔56が形成される。
図13では、ポーラスアルミナ層57に円柱状の細孔56が形成されている。
【0110】
ポーラスアルミナ層57を形成する際の陽極酸化では、電解液として、例えば、蓚酸、酒石酸、燐酸、クロム酸、クエン酸、およびリンゴ酸からなる群から選択される酸を含む水溶液が用いられる。開口径、隣接間距離(細孔56同士の間隔)、細孔56の深さ、ポーラスアルミナ層57の厚さ、およびバリア層57bの厚さは、陽極酸化条件(例えば、電解液の種類、印加電圧)の調整によって制御される。
【0111】
陽極酸化の後、細孔56は、エッチングによって径を拡大することができ、ポーラスアルミナ層57をアルミナのエッチャントに接触させればよい。ここで、ウェットエッチングを採用した場合では、細孔壁およびバリア層57bをほぼ等方的にエッチングすることができる。ウェットエッチングにおいては、エッチング液の種類、濃度、およびエッチング時間を調整することによって、エッチング量(すなわち、開口径、隣接間距離、細孔56の深さ、およびバリア層57bの厚さ等)を制御することができる。エッチング液は、例えば、燐酸の水溶液や、蟻酸、酢酸、およびクエン酸などの有機酸の水溶液や、クロム燐酸混合水溶液を用いることができる。
【0112】
ポーラスアルミナ層57は、形状に拘わらず、約10nm以上約5μm以下の厚さであることが好ましい。ポーラスアルミナ層57は、厚さが10nmよりも薄いと、充分な導電性微粒子(たとえばAgナノ粒子)を担持することができず、所望の電子放出効率を得られないことがある。また、ポーラスアルミナ層57は、厚さに特に上限はないものの、厚くすると電子放出効率が飽和する傾向があるので、製造効率の観点から、5μmよりも厚くする必要がない。
【0113】
本実施の形態において、細孔56は、深さが10nm以上5μm以下とされているが、深さが50nm以上500nm以下であってもよい。なお、細孔56の深さは、ポーラスアルミナ層57の厚さに応じて適宜設定すればよい。
【0114】
バリア層57bは、厚さが1nm以上1μm以下であることが好ましく、厚さが100nm以下であることがさらに好ましい。バリア層57bは、1nmよりも薄い場合、電圧印加時に短絡が起こることがあり、1μmよりも厚い場合、中間層50に充分な電圧を印加できないことがある。バリア層57bの厚さは、一般に、細孔56の隣接間距離および開口径(二次元的な大きさ)と伴に、陽極酸化条件に依存する。
【0115】
本実施の形態において、陽極酸化処理の条件は、蓚酸(0.05M、5℃)を用い、化成電圧80Vで約25分間とした。その後、燐酸(0.1M、25℃)で20分間、エッチングを行った。これにより、細孔56は、深さが約2000nmで、開口径が100nmで、隣接間距離が200nmとなった。そして、バリア層57bは、厚さが約30nmとなった。
【0116】
<導電性微粒子担持工程>
導電性微粒子担持工程では、ポーラスアルミナ層57の細孔56内に導電性微粒子54を担持させる。具体的には、有機溶媒などの分散媒中に導電性微粒子54が分散された分散液を、ポーラスアルミナ層形成工程を経た基板30へ付与する。
【0117】
本実施の形態では、導電性微粒子54としてAgナノ粒子を用いており、Agナノ粒子を有機溶媒に分散させた分散液を、ポーラスアルミナ層57上に付与した。分散液におけるAgナノ粒子の含有率は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、例えば、2質量%である。本実施の形態で用いた分散液において、分散溶媒はトルエンであって、Ag濃度は1.3質量%であった。なお、以下では説明のため、本実施の形態で用いた分散液を、単に、分散液と省略することがある。
【0118】
分散液中のAgナノ粒子は、有機化合物で被覆されていてもよく、それによって分散性が向上する。Agナノ粒子を被覆する有機化合物は、アルコール誘導体および/または界面活性剤であって、アルコール誘導体は、例えば、アルコキシドであり、界面活性剤は、例えば、カルボン酸、ならびにこれらの誘導体を末端に有する有機物である。分散液に用いたAgナノ粒子は、アルコール誘導体に被覆された状態での平均粒径が6nmであった。
【0119】
分散液を付与する方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート法や、スプレーコート法などを用いて塗布し、細孔中に浸入させることで導電性微粒子54を担持させる。本実施の形態では、上述した分散液200μL(マイクロリットル)を、ポーラスアルミナ層57上に滴下し、スピンコートを行った。スピンコートの条件は、500rpmで5秒間の回転をさせた後、1500rpmで10秒間の回転とした。分散液が塗布された基板30は、150℃で1時間焼成された。このように、焼成工程を行うことで、Agナノ粒子を被覆する有機物を、除去または減少させることができる。焼成の温度は、100℃〜250℃であることが好ましい。
【0120】
以上の工程の後は、上述した第4実施形態の第2電極形成工程と同様にして、第2電極40を形成することで、第5実施形態に係る電子放出素子20が得られる。
【0121】
上述した方法で作製した電子放出素子20において、断面を観察した結果、絶縁層厚さd1が4μmであり、境界段差d2が3μmであり、中間層膜厚d3が2.03μmであった。また、本実施の形態に係る電子放出素子20は、第1実施形態と同様にして評価した結果、放出性能とライフとのいずれも良好な結果を得ることができ、d1>d2、d2<3×d3との関係が成り立っている。
【0122】
なお、今回開示した実施の形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。従って、本発明の技術的範囲は、上記した実施の形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【0123】
なお、この出願は、日本で2016年7月21日に出願された特願2016−143060号に基づく優先権を請求する。その内容はこれに言及することにより、本出願に組み込まれるものである。また、本明細書に引用された文献は、これに言及することにより、その全部が具体的に組み込まれるものである。