特許第6876056号(P6876056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876056
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】免疫原性組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20210517BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20210517BHJP
   C12N 15/33 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20210517BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 39/085 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 39/09 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 39/112 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 39/104 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 39/05 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 39/108 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 39/095 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 39/08 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20210517BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20210517BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20210517BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   C12N7/01
   C12N15/31
   C12N15/33
   A61K35/76
   A61K39/00 K
   A61K39/085
   A61K39/09
   A61K39/112
   A61K39/104
   A61K39/05
   A61K39/02
   A61K39/108
   A61K39/095
   A61K39/08
   A61K39/12
   A61K48/00
   A61P31/04
   A61P31/10
   A61P31/12
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-534785(P2018-534785)
(86)(22)【出願日】2017年1月3日
(65)【公表番号】特表2019-500049(P2019-500049A)
(43)【公表日】2019年1月10日
(86)【国際出願番号】EP2017050095
(87)【国際公開番号】WO2017114979
(87)【国際公開日】20170706
【審査請求日】2019年12月12日
(31)【優先権主張番号】1600075.4
(32)【優先日】2016年1月3日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】305060279
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェロン,クリスティアーヌ マリー−ポール シモーヌ ジャンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンニーニ,サンドラ
【審査官】 西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第03/076583(WO,A1)
【文献】 特開2011−144185(JP,A)
【文献】 国際公開第04/113375(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/116531(WO,A1)
【文献】 特開2014−221038(JP,A)
【文献】 特表2004−525931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
C12N 15/00−15/90
A61K 35/76
A61K 39/00−39/44
A61K 48/00
A61P 31/04
A61P 31/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種抗原タンパク質をコードする遺伝子および宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む、組み換えバクテリオファージであって、該組み換えバクテリオファージが宿主細菌に侵入した後、該異種抗原タンパク質の発現は、該異種抗原が該宿主細菌から放出されることを可能にするプロモーターにより駆動され、該異種抗原タンパク質は、ファージ外被/カプシドタンパク質の一部分として発現されず、前記異種抗原タンパク質が、発現後に、前記バクテリオファージにより感染された細菌の細胞質中に放出される、組み換えバクテリオファージ。
【請求項2】
バクテリオファージ尾部線維/基盤をコードする遺伝子の改変を通して宿主細菌に結合し、かつ該宿主細菌へとファージゲノムポリヌクレオチドを挿入するように適合されている、請求項1に記載の組み換えバクテリオファージ。
【請求項3】
前記宿主細菌が、ブドウ球菌、レンサ球菌、シゲラ属、シュードモナス属、プロピオニバクテリウム属、アシネトバクター属、髄膜炎菌、大腸菌、緑膿菌、C.ディフィシレ、アクネ菌、K.ニューモニエ、または淋菌(N. gonorrhoea)細菌である、請求項1〜2のいずれか1項に記載の組み換えバクテリオファージ。
【請求項4】
前記異種抗原タンパク質をコードする前記遺伝子が、初期プロモーターまたは強力プロモーターの制御下にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組み換えバクテリオファージ。
【請求項5】
前記殺傷遺伝子が、後期プロモーターまたは弱いプロモーターの制御下にある、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組み換えバクテリオファージ。
【請求項6】
前記バクテリオファージが、マイオウイルス科、サイフォウイルス科、ポドウイルス科、コルチコウイルス科(corticiviridae)、テクティウイルス科、レビウイルス科、シストウイルス科、イノウイルス科、リポスリクスウイルス科、ルディウイルス科、プラズマウイルス科およびフセロウイルス科からなる科の群より選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組み換えバクテリオファージ。
【請求項7】
前記異種抗原タンパク質が、グラム陽性またはグラム陰性細菌由来の細菌タンパク質である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組み換えバクテリオファージ。
【請求項8】
前記異種抗原タンパク質がウイルスタンパク質である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組み換えバクテリオファージ。
【請求項9】
前記異種抗原タンパク質が真菌タンパク質である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組み換えバクテリオファージ。
【請求項10】
前記異種抗原タンパク質が、ブドウ球菌、レンサ球菌、シゲラ属、シュードモナス属、プロピオニバクテリウム属、アシネトバクター属もしくは髄膜炎菌タンパク質、または大腸菌、緑膿菌、C.ディフィシレ、アクネ菌、K.ニューモニエ、淋菌(N. gonorrhaea)由来のタンパク質である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組み換えバクテリオファージ。
【請求項11】
溶原サイクルに必要とされる酵素をコードするファージゲノムポリヌクレオチドの一部分、例えばリコンビナーゼをコードする遺伝子を欠失させることにより溶原サイクルを行なうことができない、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組み換えバクテリオファージ。
【請求項12】
異種抗原タンパク質をコードする異種抗原遺伝子、および宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含む、組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドであって、該異種抗原タンパク質が、発現後に、該バクテリオファージにより感染された細菌の細胞質中に放出される、組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
【請求項13】
感染性疾患の予防的防止での使用のための、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組み換えバクテリオファージまたは請求項12に記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含む組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組み換え的に遺伝子操作されたバクテリオファージを用いる感染症の治療または予防の分野に関する。特に、本発明は、抗原を発現するように組み換え的に遺伝子操作されているバクテリオファージを開示する。そのような発現抗原は、感染性物質に対する免疫応答をプライミングすることができる。加えて、組み換えバクテリオファージは、例えば、バクテリオファージ溶菌メカニズムを用いるか、またはさらなる抗微生物性ペプチドの発現を通じて、宿主細菌を殺傷することができる。
【背景技術】
【0002】
バクテリオファージは、Fredrick Twartによって1915年に、およびFelix d'Herelleによって1917年に発見され、長年にわたって知られている。バクテリオファージは、細菌に感染し、かつその中で複製する、DNAまたはRNAゲノムを有するウイルスである。バクテリオファージは、細菌内で溶菌サイクルまたは溶原サイクルを行なうことができる。溶菌サイクル中、バクテリオファージの遺伝物質が細菌へと注入され、そこで転写、翻訳および複製が行なわれ、これによりバクテリオファージタンパク質および核酸のアッセンブリおよびパッケージングが引き起こされ、ならびに、場合によっては溶菌が生じ、このとき多数のバクテリオファージが放出されて、さらなる細菌に感染できるようになる。一部のバクテリオファージはまた、バクテリオファージ遺伝物質が細菌ゲノムに取り込まれる、溶原サイクルを行なうこともできる。
【0003】
バクテリオファージは、細菌感染症の治療のための臨床試験で現在試験されている。黄色ブドウ球菌、大腸菌および緑膿菌などの病原菌が、標的とされている。Wright A, Clin Otolaryngol (2009) 34:349には、抗生物質耐性緑膿菌に起因する慢性耳炎の治療のための治療用バクテリオファージ調製物の比較臨床試験(controlled clinical trail)が記載されている。Sarker SA et al., Virology (2012) 434:222には、バングラディシュ出身の健康な成人ボランティアに対する経口用T4様ファージカクテルの投与が記載されている(ClinicalTrials.gov identifier: NCT01818206)。
【0004】
細菌負荷の消滅または減少を目的として、複数の細菌標的に対して、遺伝子操作型バクテリオファージが開発されてきた。例としては、以下のものが挙げられる:SASP gene delivery: a novel antibacterial approach. Fairhead H, Drug News Perspect. (2009):197-203;Engineered Phagemids for Nonlytic, Targeted Antibacterial Therapies; Krom RJ et al., Nano Lett. (2015) 15, 4808?4813;Sequence-specific antimicrobials using efficiently delivered RNA-guided nucleases Citorik RJ et al., Nature Biotechnology (2014) 32, 1141;Exploiting CRISPR-Cas nucleases to produce sequence-specific antimicrobials, Bikard D. Nature Biotechnology (2014) 32, 1146。
【0005】
さらに、遺伝子操作型バクテリオファージは、ワクチンとして、または癌細胞を死滅させるための標的化された送達のためにも開発されてきた。しかしながら、そのようなバクテリオファージは、細菌に感染することを意図されていない(Therapeutic and prophylactic applications of bacteriophage components in modern medicine. Adhya S et al. Cold Spring Harb Perspect Med. (2014) 1, 1;Killing cancer cells by targeted drug-carrying phage nanomedicines Bar H. et al. BMC Biotechnol. (2008) 37;Phage protein-targeted cancer nanomedicines Petrenko VA and Jayanna PK. FEBS Lett. (2014) 588:341)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wright A, Clin Otolaryngol (2009) 34:349
【非特許文献2】Sarker SA et al., Virology (2012) 434:22
【非特許文献3】SASP gene delivery: a novel antibacterial approach. Fairhead H, Drug News Perspect. (2009):197-203
【非特許文献4】Engineered Phagemids for Nonlytic, Targeted Antibacterial Therapies; Krom RJ et al Nano Lett. (2015) 15, 4808-4813
【非特許文献5】Sequence-specific antimicrobials using efficiently delivered RNA-guided nucleases Citorik RJ et al. Nature Biotechnology (2014) 32, 1141
【非特許文献6】Exploiting CRISPR-Cas nucleases to produce sequence-specific antimicrobials, Bikard D. Nature Biotechnology (2014) 32, 1146
【非特許文献7】Therapeutic and prophylactic applications of bacteriophage components in modern medicine. Adhya S et al. Cold Spring Harb Perspect Med. (2014) 1, 1
【非特許文献8】Killing cancer cells by targeted drug-carrying phage nanomedicines Bar H. et al. BMC Biotechnol. (2008) 8, 37
【非特許文献9】Phage protein-targeted cancer nanomedicines Petrenko VA and Jayanna PK. FEBS Lett. (2014) 588:341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
抗生物質耐性の増加に伴い、細菌感染を治療または予防するためのさらなる戦略を開発することが重要になっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、組み換えバクテリオファージの使用での進歩を表わす。本発明の組み換えバクテリオファージは、バクテリオファージの溶菌機構または他の異種分子を用いて殺傷するために細菌を標的化して、該細菌を殺傷するだけでなく、抗原も発現する。抗原は、バクテリオファージ遺伝子が転写および翻訳される時間の間に、過剰発現され、かつ細菌の表面上に発現されるか、または細菌の溶菌/細胞死に際して放出される。抗原は、免疫応答を誘導することができ、それにより、バクテリオファージは、細菌を直接的に殺傷するだけでなく、免疫応答をプライミングすることも可能となり、それによって、残余の細菌を除去するか、またはその後の時点での再発/再感染を防止するために、免疫系により細菌を除去することができる。それゆえ、本発明のバクテリオファージは、細菌を殺傷すること、および、さらに細菌を除去するために免疫応答をプライミングすることの両方が可能である。
【0009】
したがって、異種抗原タンパク質をコードする遺伝子および宿主細菌を殺傷することが可能であるタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む組み換えバクテリオファージが提供される。
【0010】
本発明の第2の態様では、異種抗原タンパク質をコードする遺伝子および宿主細菌を殺傷することが可能であるタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む組み換えバクテリオファージが提供され、このとき、該異種抗原タンパク質は、ファージ外被/カプシドタンパク質の一部分としては発現されない。
【0011】
本発明の第3の態様では、異種抗原タンパク質をコードする異種抗原遺伝子および宿主細菌を殺傷することが可能であるタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含む組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドが提供され、このとき、該抗原遺伝子は、ファージカプシドタンパク質と異種タンパク質との融合タンパク質をコードしない。
【0012】
本発明の第4の態様では、異種抗原タンパク質をコードする異種抗原遺伝子および宿主細菌を殺傷することが可能であるタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含む組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドが提供される。
【0013】
本発明の第5の態様では、本発明の組み換えバクテリオファージまたは組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含む医薬組成物が提供される。
【0014】
本発明の第6の態様では、本発明の組み換えバクテリオファージまたは組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含むワクチンが提供される。
【0015】
本発明の第7の態様では、感染性疾患の予防的防止での使用のための、異種タンパク質をコードする遺伝子および宿主細菌を殺傷することが可能であるタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む組み換えバクテリオファージが提供され、このとき、該異種タンパク質は、ファージ外被/カプシドタンパク質の一部分としては発現されない。
【0016】
本発明の第8の態様では、以下のステップ:(a) 組み換えバクテリオファージが細菌に接触するように、それを必要とする患者に本発明の組み換えバクテリオファージを投与するステップ;(b) 該細菌への該ファージゲノムポリヌクレオチドの侵入ステップ;および(c) 前記異種タンパク質に対する免疫応答が惹起されるために十分なレベルでの、該異種抗原タンパク質の発現ステップを含む、治療方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の組み換えバクテリオファージを作製するための戦略を示す図である。
図2】組み換えバクテリオファージの遺伝的操作に関する可能性を示す図である。
図3】本発明の組み換えバクテリオファージの意図される用途を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、異種抗原タンパク質をコードする遺伝子および宿主細菌を殺傷することが可能であるタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む組み換えバクテリオファージを開示し、このとき、該異種抗原タンパク質は、任意によりファージ外被/カプシドタンパク質の一部分としては発現されない。組み換えバクテリオファージは、典型的には、カプシドタンパク質から構成され、かつ組み換えファージゲノムポリヌクレオチドを含むウイルス頭部、細菌宿主細胞に結合するための手段および組み換えファージゲノムポリヌクレオチドを宿主細胞へと挿入するための手段を含有する尾部構造を含む。ゲノムポリヌクレオチドは、バクテリオファージゲノムの転写および翻訳に必須の配列、ならびに少なくともパッケージングシグナルを保持するように遺伝子操作されるが、しかしながら、バクテリオファージゲノムの他の部分は、異種抗原をコードする1個以上の遺伝子を用いて置き換えられていることができる。バクテリオファージゲノムが、溶原サイクルの進行を可能にするタンパク質をコードする遺伝子を含有しないことが好ましい。本発明のバクテリオファージゲノムは、生存可能なバクテリオファージの複製および放出を可能にする遺伝子をすべては含有しないこともまた好ましい。したがって、溶原サイクルのイニシエーションに関与するタンパク質をコードするか、またはバクテリオファージの構造タンパク質の一部をコードする遺伝子は、欠失させることができ、かつ/または少なくとも1種の抗原をコードする遺伝子を用いて置き換えることができる。任意により、組み換えバクテリオファージは、宿主細菌に対する受容体を含む。これは、典型的には、宿主細菌に特異的に結合して、バクテリオファージが該宿主細菌に結合すること、および該宿主細菌へとゲノムポリヌクレオチドを挿入することを可能にする、バクテリオファージの尾部由来のタンパク質である。
【0019】
「異種抗原」とは、該異種抗原が、野生型バクテリオファージには存在しない抗原であることを意味する。これは、バクテリオファージが感染するように設計されている細菌に存在する抗原であり得、またはバクテリオファージが感染しない異なる細菌由来の抗原であり得、またはウイルス由来もしくは真菌由来の抗原であり得る。
【0020】
「異種病原体」とは、バクテリオファージではない病原体を意味する。
【0021】
用語「宿主細菌」とは、組み換えバクテリオファージが結合し、かつその中にゲノムポリヌクレオチドを挿入することができる細菌を意味する。
【0022】
一実施形態では、本発明の組み換えバクテリオファージは、細菌宿主に対する免疫応答を生起することが可能である異種抗原タンパク質をコードする。この実施形態では、組み換えバクテリオファージは、最初に細菌に侵入およびそれを溶菌して、さらに細菌由来の抗原が発現されて、かつ宿主の免疫系に対して提示されるように仕向けることにより、同じ細菌種の細菌を標的化し、それにより免疫系が、該バクテリオファージに最初に感染されたものではない同じ亜種のさらなる細菌を標的化および殺傷する。つまり、本発明の一部分である「殺菌とプライミング」(kill and prime)コンセプトは、より効果的な、標的化された細菌のバクテリオファージ治療を可能にする。
【0023】
さらなる実施形態では、本発明の組み換えバクテリオファージは、該組み換えバクテリオファージの細菌宿主には存在しない異種抗原をコードする。異種抗原は、任意により異なる細菌種の細菌により発現される抗原であるか、または任意により真菌により発現される抗原であるか、またはウイルス抗原である。つまり、本発明の「殺菌とプライミング」コンセプトは、1種類の細菌種の細菌がバクテリオファージにより標的化されて殺傷されること、および宿主が、他の細菌種の細菌、またはウイルスもしくは真菌に対する免疫応答を生起することを可能にする抗原の発現を可能にする。したがって、この実施形態は、細菌病原体の混合物または細菌および/もしくはウイルスおよび/もしくは真菌病原体の混合物に起因する疾患を標的化するために有用であり得る。
【0024】
本発明の一実施形態では、異種抗原タンパク質をコードする遺伝子および宿主細菌を殺傷することが可能であるタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む組み換えバクテリオファージが提供される。つまり、組み換えバクテリオファージゲノムは、免疫応答をプライミングすることおよび宿主細菌を殺傷することが可能であるタンパク質をコードする。殺傷遺伝子は、任意により、細菌を溶菌することが可能なタンパク質をコードするバクテリオファージ遺伝子である。殺傷遺伝子は、任意により、殺細菌活性を有する異種遺伝子である。そのような遺伝子の例は、CRISPR-CasヌクレアーゼおよびSASP遺伝子であり、これは、細菌DNAに結合してこれを不活性化するペプチドをコードする(国際公開第04/113375号、同第16/55585号、同第16/55584号、同第16/55586号、同第16/55587号、Selle K. et al Trends Microbiol. 23 (2015) 225-232、Qi L et al Nat. Biotechnology 30, (2012) 1002-1006、Mali et al Science 339, (2013) 823-826、Gaj T. et al Trends Biotechnol. 31, (2013) 397-405、Wang H et al Cell 153, (2013) 910-918)。殺傷遺伝子のさらなる例としては、以下の文献に開示されているものが挙げられる:Mehta et al , Biotechnology and Bioenginneering (2016) 113; 2568-2576;SASP gene delivery: a novel antibacterial approach. Fairhead H, Drug News Perspect. (2009):197-203;Engineered Phagemids for Nonlytic, Targeted Antibacterial Therapies; Krom RJ et al., Nano Lett. (2015) 15, 4808-4813;Sequence-specific antimicrobials using efficiently delivered RNA-guided nucleases Citorik RJ et al. Nature Biotechnology (2014) 32 1141、Exploiting CRISPR-Cas nucleases to produce sequence-specific antimicrobials, Bikard D. Nature Biotechnology (2014) 32, 1146。
【0025】
異種抗原タンパク質の発現を駆動するためのプロモーターの選択は、宿主細菌が殺傷される前に十分な抗原が産生されなければならないので、重要である。したがって、一実施形態では、本発明の組み換えバクテリオファージは、異種抗原タンパク質をコードする遺伝子からの発現を駆動するために、強力プロモーターまたは初期プロモーターを用いる。任意により、異種抗原タンパク質の発現は、強力な初期プロモーターにより駆動される。あるいは、異種抗原タンパク質の発現は、強力な後期プロモーターにより駆動される。一実施形態では、異種抗原タンパク質をコードする遺伝子の複数のコピーが、組み換えバクテリオファージ中に存在し、それにより発現が増加する。例えば、1、2、3、4または5コピーの異種抗原タンパク質をコードする遺伝子が、組み換えバクテリオファージゲノム中に存在する。
【0026】
一実施形態では、本発明の組み換えバクテリオファージは、宿主細菌を殺傷することが可能であるタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む。一実施形態では、殺傷遺伝子は、後期プロモーターまたは弱いプロモーターの制御下にある。このことは、宿主細菌が、殺傷される前に、免疫応答をプライミングするために十分な抗原を発現することを確実にするという利点を有する。一実施形態では、殺傷遺伝子は、後期プロモーターでありかつ弱いプロモーターであるプロモーターの制御下にある。一実施形態では、異種抗原タンパク質は、強力かつ/または初期プロモーターにより駆動され、殺傷遺伝子は、後期かつ弱いプロモーターの制御下にある。
【0027】
一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、以下のウイルス科からなる科の群より選択される:マイオウイルス科(myoviridae)、サイフォウイルス科(siphoviridae)、ポドウイルス科(podoviridae)、コルチコウイルス科(corticiviridae)、テクティウイルス科(tectiviridae)、レビウイルス科(leviviridae)、シストウイルス科(cystoviridae)、イノウイルス科(inoviridae)、リポスリクスウイルス科(lipothrixviridae)、ルディウイルス科(rudiviridae)、プラズマウイルス科(plasmaviridae)およびフセロウイルス科(fuselloviridae)。一実施形態では、バクテリオファージは、マイオウイルス科またはサイフォウイルス科である。一実施形態では、バクテリオファージはサイフォウイルス科である。
【0028】
一実施形態では、異種抗原タンパク質は、グラム陽性またはグラム陰性細菌由来の細菌タンパク質である。任意により、異種抗原タンパク質は、組み換えバクテリオファージにより感染可能な細菌(すなわち、宿主細菌)中に天然に存在する。異種タンパク質は、任意により、組み換えバクテリオファージの感染後に、より高レベルで発現される。この場合、免疫応答が、細菌宿主中のタンパク質に対してプライミングされることができ、それにより、プライミングと殺傷とが同じ細菌を標的とする。このアプローチは、異種抗原タンパク質が、宿主細菌内で、低レベルで通常発現されている場合に適応可能であり得る。
【0029】
一実施形態では、異種抗原タンパク質は、組み換えバクテリオファージにより感染可能な細菌(すなわち、宿主細菌)中に天然に存在するタンパク質の変異体であり、このとき、該変異体は、該変異体の野生型とは異なる抗原性または免疫原性特性を有する。この場合、免疫応答が、細菌宿主中のタンパク質に対してプライミングされることができ、これにより、プライミングと殺傷とが同じ細菌を標的とする。このアプローチは、異種抗原タンパク質が、複数の血清型に存在する場合に適用可能であり得、かつ複数の血清型に対して標的化される免疫応答に関して有利である。
【0030】
一実施形態では、異種抗原タンパク質は、組み換えバクテリオファージにより感染可能な細菌では天然に発現されない。この実施形態では、免疫応答は、宿主細菌とは異なる生物に対してプライミングされる。このことは、「プライミングと殺菌」コンセプトが、1種類の細菌を殺傷し、かつ、異なる細菌、ウイルスまたは真菌であり得る異なる生物に対する免疫応答をプライミングすることを可能にする。一実施形態では、異種抗原タンパク質は、宿主細菌を殺傷することが可能である。
【0031】
一実施形態では、異種抗原タンパク質はウイルスタンパク質である。
【0032】
一実施形態では、異種抗原タンパク質は真菌タンパク質である、例えば、カンジダ・アルビカンス由来のタンパク質である。
【0033】
一実施形態では、異種抗原タンパク質は、ブドウ球菌、レンサ球菌、シゲラ属(Shigella)、シュードモナス属(Pseudomonas)、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)、アシネトバクター属(Acinetobacter)もしくは髄膜炎菌タンパク質、または大腸菌、緑膿菌(P. aeruginosa)、C.ディフィシレ(C. difficile)、アクネ菌(P.acnes)、K.ニューモニエ(K. pneumoniae)、淋菌(N. gonorrhaea)由来のタンパク質である。
【0034】
一実施形態では、異種抗原タンパク質は、発現後に、バクテリオファージにより感染された細菌の表面へと向かう。これは、異種抗原タンパク質に、適切なシグナル配列、例えば、I型、II型、III型またはIV型リーダー配列を連結することにより達成できる。一実施形態では、異種抗原タンパク質は、ペリプラズムへと向かう。これは、組み換えバクテリオファージに対して宿主として振る舞う細菌のペリプラズムへと異種抗原タンパク質を向かわせることが可能である適切なリーダー配列を、異種抗原タンパク質に連結することにより達成される。
【0035】
一実施形態では、異種抗原タンパク質は、発現後に、バクテリオファージにより感染された細菌の細胞質へと放出される。これは、異種タンパク質抗原に適切なリーダー配列を存在させないことにより達成できる。異種抗原タンパク質は、宿主細菌中で発現され、当初は細胞質中に存在する。宿主細菌が溶菌されると、異種抗原タンパク質は細菌から放出され、免疫系と相互作用することができ、それにより、異種抗原タンパク質に対する免疫応答が惹起される。これは、細菌の細胞死に際して生じ得る。
【0036】
一実施形態では、本発明の組み換えバクテリオファージは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9または10種の異種抗原タンパク質をコードする少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個の遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む。一実施形態では、遺伝子のそれぞれが、異なる異種抗原タンパク質をコードする。一実施形態では、遺伝子は、同じ異種抗原タンパク質の複数コピーをコードする。例えば、1、2、3、4または5個の遺伝子が、同じ異種抗原タンパク質のコピーをコードする。あるいは、2個の遺伝子が2種類の異なる異種抗原タンパク質をコードし、3個の遺伝子が3種類の異なる異種抗原タンパク質をコードし、4個の遺伝子が4種類の異なる異種抗原タンパク質をコードし、5個の遺伝子が5種類の異なる異種抗原タンパク質をコードするなどである。
【0037】
一実施形態では、同じ生物由来の複数種類のタンパク質が、ファージゲノムポリヌクレオチドによりコードされる。一実施形態では、各異種抗原タンパク質が別個の生物に由来し、それにより、複数種類の生物(1、2、3、4、5、6、7、8、9または10種の細菌種または細菌、ウイルスおよび/もしくは真菌種の混合物)に対する免疫応答が惹起される。一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、正常では単一の生物で見出される少なくとも1種類の異種抗原タンパク質をコードするゲノムを含む。一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、正常では単一の生物で見出される少なくとも2種類の異種抗原タンパク質をコードするゲノムを含む。一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、正常では単一の生物で見出される少なくとも3種類の異種抗原タンパク質をコードするゲノムを含む。一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、正常では単一の生物で見出される少なくとも4種類の異種抗原タンパク質をコードするゲノムを含む。一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、正常では単一の生物で見出される少なくとも5種類の異種抗原タンパク質をコードするゲノムを含む。一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、正常では2種類の異なる生物で見出される少なくとも2種類の異種抗原タンパク質をコードするゲノムを含む。一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、正常では2種類の異なる生物で見出される少なくとも3種類の異種抗原タンパク質をコードするゲノムを含む。一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、正常では2種類の異なる生物で見出される少なくとも4種類の異種抗原タンパク質をコードするゲノムを含む。一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、正常では2種類の異なる生物で見出される少なくとも5種類の異種抗原タンパク質をコードするゲノムを含む。一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、正常では3種類の異なる生物で見出される少なくとも3種類の異種抗原タンパク質をコードするゲノムを含む。一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、正常では3種類の異なる生物で見出される少なくとも4種類の異種抗原タンパク質をコードするゲノムを含む。一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、正常では3種類の異なる生物で見出される少なくとも5種類の異種抗原タンパク質をコードするゲノムを含む。
【0038】
一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、溶原サイクルを行なうことができない。これは、溶原サイクルに必要とされる酵素をコードするファージゲノムポリヌクレオチドの一部分(例えば、リコンビナーゼをコードする遺伝子)を欠失させることにより達成できる。そのようなポリヌクレオチドの一部分は、任意により、異種タンパク質をコードする遺伝子により置き換えられる。一実施形態では、そのようなポリヌクレオチドの一部分は、殺傷遺伝子、例えば、SASP遺伝子またはCRISPR-Casヌクレアーゼ(Mehta K et al Biotechnology and Bioenginerring (2016) 113; 2568-2576、国際公開第04/113375号、同第16/55585号、同第16/55584号、同第16/55586号、同第16/55587号)をコードする遺伝子により置き換えられる。
【0039】
一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、ブドウ球菌、レンサ球菌、シゲラ属、シュードモナス属、プロピオニバクテリウム属、アシネトバクター属、または大腸菌、緑膿菌、C.ディフィシレ、アクネ菌、K.ニューモニエ、髄膜炎菌、または淋菌(N. gonorrhaea)細菌などの病原性細菌に侵入することが可能である。組み換えバクテリオファージは、上記の細菌のうちの1種に特異的に結合するタンパク質をコードする遺伝子を任意により含む、ファージゲノムポリヌクレオチドを含有する。そのような遺伝子は、任意により、該ファージゲノムポリヌクレオチド中に保持される。一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、黄色ブドウ球菌細菌に侵入するように適合される。
【0040】
一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、バイオフィルムを分解するように適合される。一実施形態では、これは、ファージを遺伝子操作して、バイオフィルム破壊酵素を発現させることにより、達成される。一実施形態では、組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、ディスパーシンB(dispersin B;DspB)をコードする遺伝子(Itoh Y et al (2005) J. Bacteriol. 187: 382-387)、細菌莢膜多糖を分解する、ファージの表面上に保持されるデポリメラーゼをコードする遺伝子(Hughes KA et al Microbiology 144: 3039-3047 (1998))を含む。
【0041】
一実施形態では、異種遺伝子は、以下のタンパク質からなる群より選択されるブドウ球菌タンパク質をコードする:SitC/MntC/唾液結合タンパク質、EbhA、EbhB、エラスチン結合タンパク質(EbpS)、EFB(FIB)、SBI、ClfA、SdrC、SdrG、SdrH、リパーゼGehD、SasA、FnbA、FnbB、Cna、ClfB、FbpA、Npase、IsaA/PisA、SsaA、EPB、SSP-1、SSP-2、HBP、ビトロネクチン結合タンパク質、フィブリノーゲン結合タンパク質、コアグラーゼ、FigおよびMAP、IsdA、IsdB、HarA、MntC、アルファ毒素(Hla)、無毒化型アルファ毒素点突然変異(任意によりH35での点突然変異を含む)、RNA III活性化タンパク質(RAP)、プロテインA、プロテインAの変異体。一実施形態では、異種遺伝子は、国際公開第06/32472号に記載されるタンパク質をコードする。
【0042】
一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、異種抗原タンパク質をコードする遺伝子を含む。組み換えバクテリオファージが細菌宿主細胞に侵入する場合には、異種抗原タンパク質の発現は、異種抗原タンパク質が細菌宿主細胞から放出されることを可能にする適切なプロモーターにより駆動され、それにより、哺乳動物宿主の免疫系が異種抗原タンパク質に対する免疫応答を生起することが可能になる。免疫応答は、異種抗原タンパク質に対する抗体を生成するか(体液性応答)、もしくはT細胞媒介性免疫応答を生起する(細胞性応答)場合があり、または免疫応答は、体液性と細胞性の成分の混合であり得る。
【0043】
一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、強力プロモーターの制御下にある異種抗原タンパク質をコードする遺伝子および弱くかつ/または後期プロモーターの制御下にある宿主細菌を殺傷することが可能であるタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含み、このとき、任意により、ファージゲノムポリヌクレオチドは、異種抗原タンパク質をコードする遺伝子が、構造タンパク質をコードするファージ遺伝子を置き換え、かつ殺傷遺伝子が、溶原サイクルに関与する遺伝子を置き換えるように遺伝子操作される。このことにより、組み換えバクテリオファージは、生存可能な子孫ファージを生成することが不可能になり、かつ溶原サイクルを行なうことが不可能になる。しかしながら、組み換えバクテリオファージは、免疫応答をプライミングし、かつ宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質の産生を通して細菌宿主を殺傷するために十分な量で、異種抗原タンパク質を生成することが可能である。
【0044】
一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、強力プロモーターの制御下にある異種抗原タンパク質をコードする遺伝子および弱くかつ/または後期プロモーターの制御下にある宿主細菌を殺傷することが可能であるタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含み、このとき、任意により、ファージゲノムポリヌクレオチドは、異種抗原タンパク質をコードする遺伝子が、構造タンパク質をコードするファージ遺伝子を置き換え、かつ殺傷遺伝子が、溶原サイクルに関与する遺伝子を置き換えるように遺伝子操作される。このことにより、組み換えバクテリオファージは、生存可能な子孫ファージを生成することが不可能になり、かつ溶原サイクルを行なうことが不可能になる。しかしながら、組み換えバクテリオファージは、免疫応答をプライミングし、かつ宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質の産生を通して細菌宿主を殺傷するために十分な量で、異種抗原タンパク質を生成することが可能である。加えて、組み換えバクテリオファージは、野生型バクテリオファージの同等の構成要素よりも高い親和性を有して、必要とされる宿主細菌に結合するように遺伝子操作されている、改変型構成要素(例えば、尾部線維または基盤(plate))を含有することを通じて、宿主細菌に結合するように適合されている。
【0045】
一実施形態では、組み換えバクテリオファージは、強力プロモーターの制御下にある異種抗原タンパク質をコードする遺伝子および弱くかつ/または後期プロモーターの制御下にある宿主細菌を殺傷することが可能であるタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含み、このとき、任意により、ファージゲノムポリヌクレオチドは、異種抗原タンパク質をコードする遺伝子が、構造タンパク質をコードするファージ遺伝子を置き換え、かつ殺傷遺伝子が、溶原サイクルに関与する遺伝子を置き換えるように遺伝子操作される。このことにより、組み換えバクテリオファージは、生存可能な子孫ファージを生成することが不可能になり、かつ溶原サイクルを行なうことが不可能になる。しかしながら、組み換えバクテリオファージは、免疫応答をプライミングし、かつ宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質の産生を通して細菌宿主を殺傷するために十分な量で、異種抗原タンパク質を生成することが可能である。加えて、組み換えバクテリオファージは、バイオフィルムを分解するように適合されており(例えば、バイオフィルム破壊酵素を発現する遺伝子をプロモーターの制御下に含有することにより)、かつ、野生型バクテリオファージの同等の構成要素よりも高い親和性を有して、必要とされる宿主細菌に結合するように遺伝子操作されている、改変型構成要素(例えば、尾部線維または基盤)を含有することを通じて、宿主細菌に結合するように適合されている。
【0046】
本発明のさらなる態様は、任意により本発明のバクテリオファージ内に含められるか、または独立している、組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドである。本発明は、上記の組み換えバクテリオファージのうちのいずれかと関連する組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを包含する。一実施形態では、組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、異種抗原タンパク質をコードする異種抗原遺伝子を含み、このとき、該抗原遺伝子は、ファージカプシドタンパク質と異種タンパク質との融合タンパク質をコードしない。
【0047】
さらなる実施形態では、組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、異種抗原タンパク質をコードする異種抗原遺伝子および宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含む。
【0048】
一実施形態では、組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドは、ファージカプシドへのゲノムのパッケージングに関連する配列を保持し、かつバクテリオファージゲノムの転写および/または複製に関連する遺伝子を保持するが、完全なバクテリオファージのすべての構造エレメントを作製するために必要な遺伝子をすべては保持していない。バクテリオファージの構造タンパク質をコードする一部の遺伝子は、任意により、上記の通り、1種以上の異種抗原をコードする遺伝子を用いて置き換えられる。一実施形態では、バクテリオファージの構造タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が、宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子により置き換えられる。一実施形態では、バクテリオファージの構造タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が、異種抗原タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子および宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子により置き換えられる。
【0049】
一実施形態では、異種抗原タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子は、強力プロモーターおよび/または初期プロモーターの制御下にある。一実施形態では、宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子は、弱いプロモーターまたは後期プロモーターの制御下にある。
【0050】
本発明のさらなる実施形態は、上記の組み換えバクテリオファージまたは組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含む医薬組成物である。一実施形態では、医薬組成物は、製薬上許容される賦形剤、例えば、局所用クリーム剤または軟膏剤としての投与を可能にする賦形剤をさらに含む。
【0051】
本発明のさらなる態様は、本発明の組み換えバクテリオファージまたは組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含むワクチンである。
【0052】
本発明のさらなる態様は、本発明の組み換えバクテリオファージに関する医学的使用および治療方法である。したがって、感染性疾患の予防的防止での使用のための、異種タンパク質をコードする遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む組み換えバクテリオファージが提供され、このとき、該異種タンパク質は、ファージ外被/カプシドタンパク質の一部分としては発現されない。感染性疾患は、任意により、細菌感染、ウイルス感染または真菌感染、例えば、黄色ブドウ球菌感染を含む。
【0053】
同様に、以下のステップ:(a) 組み換えバクテリオファージが細菌と接触するように、それを必要とする患者に対して、異種タンパク質をコードする遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む組み換えバクテリオファージを投与するステップ;(b) 該細菌へのバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドの侵入ステップ、および該異種タンパク質に対する免疫応答が惹起されるために十分なレベルでの該異種抗原タンパク質の発現ステップを含む治療方法が提供される。
【0054】
本発明の組み換えバクテリオファージの主要な用途は、疾患、特に、細菌感染を含む感染性疾患、または細菌およびウイルス構成要素もしくは細菌および真菌構成要素を含む疾患の治療および/または予防のためである。本発明の組み換えバクテリオファージは、異種抗原に対して免疫応答が惹起されるために十分なレベルで、少なくとも1種の異種抗原を発現する。組み換えバクテリオファージは、殺傷遺伝子もまた発現し、それにより、該抗原の発現に続いて、細菌宿主が殺傷される。この場合、感染症は、感染症の細菌構成要素を殺傷することにより治療され、かつ免疫応答がプライミングされる。
【0055】
本特許明細書中で言及されるすべての参考文献または特許出願は、参照により本明細書中に組み入れられる。本発明は以下の実施形態を包含する:
1.異種抗原タンパク質をコードする遺伝子および宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む、組み換えバクテリオファージ。
2.宿主細菌に結合し、かつ該宿主細菌へとファージゲノムポリヌクレオチドを挿入するように適合されている、実施形態1に記載の組み換えバクテリオファージ。
3.バクテリオファージ尾部線維/基盤をコードする遺伝子の改変を通して宿主細菌に結合するように適合されている、実施形態2に記載の組み換えバクテリオファージ。
4.前記宿主細菌が、ブドウ球菌、レンサ球菌、シゲラ属、シュードモナス属、プロピオニバクテリウム属、アシネトバクター属、髄膜炎菌、大腸菌、緑膿菌、C.ディフィシレ、アクネ菌、K.ニューモニエ、または淋菌(N. gonorrhoea)細菌である、実施形態1〜3のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
5.前記宿主細菌が黄色ブドウ球菌細菌である、実施形態4に記載の組み換えバクテリオファージ。
6.前記異種抗原タンパク質をコードする前記遺伝子が、初期プロモーターまたは強力プロモーターの制御下にある、実施形態1〜5のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
7.前記ファージゲノムポリヌクレオチドが、宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含む、実施形態1〜6のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
8.前記殺傷遺伝子が、後期プロモーターまたは弱いプロモーターの制御下にある、実施形態7に記載の組み換えバクテリオファージ。
9.前記バクテリオファージが、マイオウイルス科、サイフォウイルス科、ポドウイルス科、コルチコウイルス科(corticiviridae)、テクティウイルス科、レビウイルス科、シストウイルス科、イノウイルス科、リポスリクスウイルス科、ルディウイルス科、プラズマウイルス科およびフセロウイルス科からなる科の群より選択される、実施形態1〜8のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
10.前記バクテリオファージが、マイオウイルス科またはサイフォウイルス科である、実施形態9に記載の組み換えバクテリオファージ。
11.前記異種抗原タンパク質が、グラム陽性またはグラム陰性細菌由来の細菌タンパク質である、実施形態1〜10のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
12.前記異種抗原タンパク質が、前記組み換えバクテリオファージにより感染可能である細菌中に天然に存在し、該異種タンパク質が、該組み換えバクテリオファージの感染後に、より高レベルで発現される、実施形態11に記載の組み換えバクテリオファージ。
13.前記異種抗原タンパク質が、前記組み換えバクテリオファージにより感染可能である細菌中に天然に存在するタンパク質の変異体であり、該変異体が、該変異体の野生型とは異なる抗原性または免疫原性特性を有する、実施形態11または12に記載の組み換えバクテリオファージ。
14.前記異種抗原タンパク質が、前記組み換えバクテリオファージにより感染可能である細菌中で発現されない、実施形態13に記載の組み換えバクテリオファージ。
15.前記異種抗原タンパク質が、前記細菌を殺傷することが可能である、実施形態14に記載の組み換えバクテリオファージ。
16.前記異種抗原タンパク質がウイルスタンパク質である、実施形態1〜10のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
17.前記異種抗原タンパク質が真菌タンパク質である、実施形態1〜10のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
18.前記異種抗原タンパク質が、ブドウ球菌、レンサ球菌、シゲラ属、シュードモナス属、プロピオニバクテリウム属、アシネトバクター属もしくは髄膜炎菌タンパク質、または大腸菌、緑膿菌、C.ディフィシレ、アクネ菌、K.ニューモニエ、淋菌(N. gonorrhaea)由来のタンパク質である、実施形態1〜17のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
19.前記異種抗原タンパク質が、発現後に、前記バクテリオファージにより感染された細菌の表面に向かう、実施形態1〜18のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
20.前記異種抗原タンパク質が、発現後に、前記バクテリオファージにより感染された細菌の細胞質中に放出される、実施形態1〜18のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
21.前記異種抗原タンパク質が、前記細菌の細胞死に際して該細菌の細胞質から放出される、実施形態18に記載の組み換えバクテリオファージ。
22.前記異種抗原タンパク質が、ファージ外被/カプシドタンパク質の一部分として発現されず、かつ、任意により、前記組み換えバクテリオファージが宿主細菌に対する受容体を含む、実施形態1〜21のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
23.少なくとも2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種または10種の異種抗原タンパク質をコードする少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個の遺伝子を含むファージゲノムポリヌクレオチドを含む、実施形態1〜22のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
24.溶原サイクルおよび/または溶菌サイクルを行なうことができない、実施形態1〜23のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
25.バイオフィルムを分解するように適合されている、実施形態1〜24のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
26.前記異種遺伝子が、以下のタンパク質:SitC/MntC/唾液結合タンパク質、EbhA、EbhB、エラスチン結合タンパク質(EbpS)、EFB(FIB)、SBI、ClfA、SdrC、SdrG、SdrH、リパーゼGehD、SasA、FnbA、FnbB、Cna、ClfB、FbpA、Npase、IsaA/PisA、SsaA、EPB、SSP-1、SSP-2、HBP、ビトロネクチン結合タンパク質、フィブリノーゲン結合タンパク質、コアグラーゼ、FigおよびMAP、IsdA、IsdB、HarA、MntC、アルファ毒素(Hla)、任意によりH35での点突然変異を含む無毒化型アルファ毒素点突然変異、RNA III活性化タンパク質(RAP)、プロテインA、プロテインAの変異体からなる群より選択されるブドウ球菌タンパク質をコードする、実施形態1〜25のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージ。
27.異種抗原タンパク質をコードする異種抗原遺伝子、および宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含む組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドであって、該抗原遺伝子が、ファージカプシドタンパク質と異種タンパク質との融合タンパク質をコードしない、上記組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
28.宿主細菌に対する受容体をコードする遺伝子を含む、実施形態27に記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
29.前記宿主細菌が、以下の細菌:ブドウ球菌、レンサ球菌、シゲラ属、シュードモナス属、プロピオニバクテリウム属、アシネトバクター属、髄膜炎菌、大腸菌、緑膿菌、C.ディフィシレ、アクネ菌、K.ニューモニエ、および淋菌(N. gonorrhaea)からなる群より選択される病原性細菌である、実施形態28に記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
30.前記宿主細菌が黄色ブドウ球菌である、実施形態29に記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
31.異種抗原タンパク質をコードする異種抗原遺伝子、および宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含む、組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
32.前記異種抗原遺伝子が、感染された細菌の表面へと異種遺伝子により発現される異種タンパク質を向かわせるリーダー配列を含む、実施形態27〜31のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
33.前記異種抗原タンパク質をコードする前記遺伝子が、初期プロモーターまたは強力プロモーターの制御下にある、実施形態27〜32のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
34.前記ファージゲノムポリヌクレオチドが、宿主細菌を殺傷することが可能なタンパク質をコードする殺傷遺伝子を含む、実施形態27〜30のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
35.前記殺傷遺伝子が、後期プロモーターまたは弱いプロモーターの制御下にある、実施形態27〜34のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
36.前記バクテリオファージが、マイオウイルス科、サイフォウイルス科、ポドウイルス科、コルチコウイルス科(corticiviridae)、テクティウイルス科、レビウイルス科、シストウイルス科、イノウイルス科、リポスリクスウイルス科、ルディウイルス科、プラズマウイルス科およびフセロウイルス科からなる科の群より選択される、実施形態27〜35のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
37.前記バクテリオファージが、マイオウイルス科またはサイフォウイルス科である、実施形態36に記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
38.前記異種抗原タンパク質が、グラム陽性またはグラム陰性細菌由来の細菌タンパク質である、実施形態27〜37のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
39.前記異種抗原タンパク質が、前記組み換えバクテリオファージにより感染可能である細菌中に天然に存在し、該異種タンパク質が、該組み換えバクテリオファージの感染後に、より高レベルで発現される、実施形態38に記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
40.前記異種抗原タンパク質が、前記組み換えバクテリオファージにより感染可能である細菌中に天然に存在するタンパク質の変異体であり、該変異体が、該変異体の野生型とは異なる抗原性または免疫原性特性を有する、実施形態38または39に記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
41.前記異種抗原タンパク質が、前記組み換えバクテリオファージにより感染可能である細菌中で天然に発現されない、実施形態38に記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
42.前記異種抗原タンパク質が、前記細菌を殺傷することが可能である、実施形態41に記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
43.前記異種抗原タンパク質がウイルスタンパク質である、実施形態27〜37のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
44.前記異種抗原タンパク質が真菌タンパク質である、実施形態27〜37のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
45.前記異種抗原タンパク質が、ブドウ球菌、レンサ球菌、シゲラ属、シュードモナス属、プロピオニバクテリウム属、アシネトバクター属もしくは髄膜炎菌タンパク質、または大腸菌、緑膿菌、C.ディフィシレ、アクネ菌、K.ニューモニエ、淋菌(N. gonorrhaea)由来のタンパク質である、実施形態27〜44のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
46.前記異種抗原タンパク質が、発現後に、前記バクテリオファージにより感染された細菌の表面に向かう、実施形態27〜45のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
47.前記異種抗原タンパク質が、発現後に、前記バクテリオファージにより感染された細菌の細胞質中に放出される、実施形態27〜44のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
48.前記異種抗原タンパク質が、前記細菌の細胞死に際して該細菌の細胞質から放出される、実施形態44に記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
49.少なくとも2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種または10種の異種抗原タンパク質をコードする少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個の遺伝子を含む、実施形態27〜48のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
50.溶原サイクルに関連する少なくとも1種の遺伝子が不活性化されている、実施形態27〜49のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
51.バクテリオファージ構造タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子が欠失している、実施形態27〜50のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
52.バイオフィルムを分解することが可能なタンパク質をコードする遺伝子を含む、実施形態27〜51のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
53.黄色ブドウ球菌結合タンパク質をコードする遺伝子を含む、実施形態27〜52のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
54.以下のタンパク質:SitC/MntC/唾液結合タンパク質、EbhA、EbhB、エラスチン結合タンパク質(EbpS)、EFB(FIB)、SBI、ClfA、SdrC、SdrG、SdrH、リパーゼGehD、SasA、FnbA、FnbB、Cna、ClfB、FbpA、Npase、IsaA/PisA、SsaA、EPB、SSP-1、SSP-2、HBP、ビトロネクチン結合タンパク質、フィブリノーゲン結合タンパク質、コアグラーゼ、FigおよびMAP、IsdA、IsdB、HarA、MntC、アルファ毒素(Hla)、任意によりH35での点突然変異を含む無毒化型アルファ毒素点突然変異、RNA III活性化タンパク質(RAP)、プロテインA、プロテインAの変異体からなる群より選択されるブドウ球菌タンパク質をコードする遺伝子を含む、実施形態27〜53のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
55.実施形態1〜26のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージまたは実施形態27〜54のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含む、医薬組成物。
56.局所治療として製剤化される、実施形態55に記載の医薬組成物。
57.実施形態1〜26のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージまたは実施形態27〜54のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを含む、ワクチン。
58.感染性疾患の予防的防止での使用のための、実施形態1〜26のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージまたは実施形態27〜53のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
59.前記使用が、前記異種抗原タンパク質に対する免疫応答をプライミングすることおよび宿主細菌を殺傷することを含む、実施形態58に記載の使用のための組み換えバクテリオファージまたは組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
60.前記感染性疾患が、細菌感染、ウイルス感染または真菌感染を含む、実施形態58または59に記載の使用のための組み換えバクテリオファージまたは組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
61.前記感染性疾患が、細菌感染を含む、実施形態60に記載の使用のための組み換えバクテリオファージまたは組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
62.前記感染性疾患が、ウイルス感染を含む、実施形態60または61に記載の使用のための組み換えバクテリオファージまたは組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
63.前記感染性疾患が、真菌感染を含む、実施形態60〜62のいずれかに記載の使用のための組み換えバクテリオファージまたは組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチド。
64.以下のステップ:(a) 前記組み換えバクテリオファージまたは前記組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドが細菌と接触するように、それを必要とする患者に対して、実施形態1〜26のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージまたは実施形態27〜53のいずれかに記載の組み換えバクテリオファージゲノムポリヌクレオチドを投与するステップ;(b) 該細菌への該ファージゲノムポリヌクレオチドの侵入ステップ;および(c) 前記異種タンパク質に対する免疫応答が惹起されるために十分なレベルでの該異種抗原タンパク質の発現ステップを含む、感染性疾患の治療方法。
65.さらなるステップ:(d) 宿主細菌の殺傷を引き起こす殺傷遺伝子の発現ステップを含む、実施形態64に記載の治療方法。
66.前記感染性疾患が、細菌感染、ウイルス感染または真菌感染を含む、実施形態64または65に記載の治療方法。
67.前記感染性疾患が、細菌感染を含む、実施形態66に記載の治療方法。
68.前記感染性疾患が、ウイルス感染を含む、実施形態66または67に記載の治療方法。
69.前記感染性疾患が、真菌感染を含む、実施形態66〜68のいずれかに記載の治療方法。
【0056】
本発明がよりよく理解できるように、以下の実施例が説明される。これらの実施例は、例示のみを目的とし、いかなる様式でも本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0057】
実施例1:組み換えバクテリオファージの作製
遺伝子操作型バクテリオファージを効率的に作製するために、バクテリオファージゲノムは、酵母人工染色体(YAC)または細菌人工染色体(BAC)骨格へと挿入され、これらの骨格は、それぞれ、酵母または細菌での選択および複製のための構成要素を含む。
【0058】
あるいは、ファージゲノムは、組み換え性コンピテント細菌(recombineering competent bacteria)を用いることにより、細菌内で直接的に遺伝子操作することができる(図1)。例えば、Nobrega FL. et al. Trends in Microbiology 2015 23:185に記載される通りである。
【0059】
ファージの遺伝的操作の多数の可能性が、図2に示される。バクテリオファージゲノムの一部分を欠失させて、それにより、転写および翻訳に必須の配列ならびにパッケージングシグナルを保持する最小合成バクテリオファージゲノムを取得することができる。溶原サイクルに関与するタンパク質およびカプシドタンパク質をコードするものをはじめとする他の遺伝子を欠失させ、かつ選択された遺伝子を用いて置き換えることができる。図2に開示される4種類の可能性は、(i) 選択された宿主細胞を殺傷することが可能なタンパク質をコードする、キラー遺伝子(弱いかまたは後期プロモーターの制御下)、(ii) 宿主細菌が殺傷される前に、十分な高レベルの発現を可能にする、強力または初期プロモーターの制御下での、少なくとも1種の異種抗原遺伝子、(iii) バクテリオファージが、必要とされる範囲の細菌宿主細胞に感染することを可能にする、改変型尾部線維/基盤、および(iv) 任意により、バイオフィルム破壊酵素をコードする遺伝子を含む。遺伝子の選択的除去および置き換えは、バクテリオファージゲノムが、概ね同じサイズを保持することを可能にする。
【0060】
遺伝子操作型バクテリオファージは、複製起点(ori)、パッケージングシグナルおよびファージ尾部認識構成要素などの必須のファージゲノム構成要素を、数種類の異種構成要素と共に含む、最小ファージゲノムに基づく。これらの構成要素のうちの第1のものは、初期または強力プロモーターにより駆動されるワクチン抗原をコードする少なくとも1種の遺伝子である。第2の構成要素は、その発現が後期または弱いプロモーターにより駆動される、キラー分子をコードする遺伝子である。第3の任意的構成要素は、その発現が後期プロモーターにより駆動される、バイオフィルムを破壊することが可能なデポリメラーゼをコードする少なくとも1種の遺伝子である。遺伝子操作型バクテリオファージは、数種類の必須遺伝子を欠失しているので、哺乳動物被験体の治療に用いる場合に、完全な溶菌サイクルまたは溶原サイクルを開始することができないであろう。しかしながら、該バクテリオファージは、図3に示される通り、バクテリオファージカプシドアッセンブリ機構を含有する大腸菌または他の非病原性細菌細胞中で複製することができるであろう。例えば、BAC構築物は、遺伝子操作型バクテリオファージ構成要素と、細菌特異的構成要素との両方を含む(図3を参照されたい)。
【0061】
ファージ増幅および精製
遺伝子操作型バクテリオファージは、誘導性プロモーターまたは構成的プロモーターの下にバクテリオファージカプシド機構を発現する、大腸菌または細菌標的の非病原性菌株のいずれかで作製される。
【0062】
細菌宿主細胞は、細菌人工ゲノム(BAC)構築物または適切な人工的遺伝子操作型バクテリオファージゲノムを用いてトランスフェクションされる。細菌宿主細胞がトランスでカプシド機構を発現する場合、細菌宿主細胞は、ファージを生成することが可能であり、その細胞内で遺伝子操作型バクテリオファージのゲノムが完全なバクテリオファージへとパッケージングされる。トランスフェクションされる細菌宿主細胞は、好適な培地中で培養され、それにより該細菌宿主細胞中でファージ複製が進行する。ファージ増殖は、培養物濁度、pO2、pHを用いてモニタリングすることができるか、または予め決定された長さのインキュベーション時間にわたって継続させることができる。公知のファージ生活環パラメータに基づく。溶菌を誘導し、かつファージを放出させるために、遠心分離により濃縮された感染細胞を、有機溶媒(例えば、クロロホルム)、EDTA、リゾチームまたはバクテリオファージ溶解素(lysin)を用いて処理することができる(Gill JJ and Hyman P Current Pharmaceutical Biotechnology 2010 11:2-14)。
【0063】
溶菌後、残余の細胞または比較的大型の細胞残渣を、低速遠心分離により除去し、ファージ含有上清を残留させる。続いて、ポリエチレングリコール(PEG)を用いた沈殿およびそれに続く透析によるPEGの除去によるか(Yamamoto et al (1970) 40; 734-744)、または、細胞残渣を除去するために0.2mmフィルターを通過させ、次に、ファージは保持するが培地構成要素および一部の細胞タンパク質の通過は許容する100kDaメンブレンに対する接線流ろ過を用いることにより、ファージを精製することができる。このステップには、スケーラブルクロマトグラフィーが続き、これにより最大で70%の回収率を得ることができる(Yamamoto et al (1970) 40; 734-744)。ファージ提示型ビリオンのハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーが、Biotechniques (2005) 39; 879に記載されている。T4バクテリオファージは、強アニオン交換モノリシッククロマトグラフィーカラムを用いて精製することができる(Smrekar F et al J. Chromotogr. B Analyt. Technol. Life. Sci. (2008) 861; 177-180)。
【0064】
プライミングと殺傷のために適合されたバクテリオファージを用いる疾患の治療
遺伝子操作型バクテリオファージを用いる治療的処置の最終的な目標は、急性または慢性細菌性疾患を治療することおよび永続的な免疫を介して長期間にわたって疾患再発を予防することである。
【0065】
バクテリオファージ「プライミングと殺菌」コンセプトが、選択された抗原に対する免疫応答のプライミングを引き起こすために十分なワクチン抗原が産生されることを可能にしながら、宿主細菌を殺傷することが可能であることを実証するために、in vitro実験とin vivo実験の両方が行なわれる。in vitroでの実証のために、遺伝子操作型バクテリオファージを細菌に感染させるであろう。宿主細胞が殺傷される前に十分な抗原が産生されるように、強力プロモーターの制御下でワクチン抗原が発現される。抗原は、宿主細菌が生存している間に分泌されるか、または細菌が殺傷された後に細菌細胞質から放出されることができる。相当な量のプライミング抗原が発現されるまでキラー分子が発現されないように、キラー分子は、後期プロモーターの制御下に発現される。十分なレベルのキラー分子が発現されたときには、これが細菌を死滅させるであろう。したがって、これらの実験は、殺傷効率および永続的な免疫を誘導する能力の両方を実証することが目的である。
【0066】
病原体として細菌を用いるin vivo前臨床モデルが、「プライミングと殺菌」コンセプトを実証するために用いられる。確立された感染モデルで、細菌病原体を動物に感染させる。続いて、動物は、遺伝子操作型バクテリオファージを用いて処置される。ワクチン抗原に対する免疫応答を評価できるように、7〜14日後に、動物から血液サンプルが採取される。バクテリオファージが細菌病原体を殺傷する能力は、賦形剤を用いて処置された対照群と比較して、バクテリオファージを用いて処置された動物から単離できる細菌のCFU数を評価することにより、実証される。ワクチン抗原を標的とする保護免疫応答の誘導は、動物から採取された血清に対するELISAなどの好適なアッセイによりモニタリングされる。
【0067】
引き続く実験は、同じ細菌により引き起こされる疾患の再発に対する保護を実証する。これらの実験では、細菌病原体およびその後に遺伝子操作型バクテリオファージに、動物を感染させる。「プライミングと殺菌」の最初のサイクルが生じ、このとき、バクテリオファージ感染細菌が、免疫応答をプライミングし、続いて、組み換えバクテリオファージにより発現されるキラー分子により殺傷される。「プライミングと殺菌」の最初のサイクルは、動物が、細菌病原体による最初の感染を生き延びること、およびプライミングされることを可能にする。それより後の時点で、プライミングされた動物が、それらがプライミングされた病原体によりチャレンジ(challenge)される。プライミングされた動物の生存率、回復率および病原体量が、対照群の動物のものと比較されるであろう。
【0068】
バクテリオファージコンセプトの有効性の許容能を強化するために、本発明者らは、遺伝子操作型バクテリオファージ構築物にバイオフィルム分解性デポリメラーゼを導入するオプションも検討する。上記のチャレンジ実験を、ワクチン抗原およびキラー分子を発現するように遺伝子操作されたバクテリオファージまたはワクチン抗原、キラー分子およびバイオフィルムを分解することが可能なデポリメラーゼを発現するように遺伝子操作されたバクテリオファージのいずれかを用いて繰り返す。遺伝子操作型バクテリオファージの有効性を強化するデポリメラーゼの能力が実証される。
【0069】
実施例2:「プライミングと殺菌」バクテリオファージの有効性の実証
遺伝子操作型バクテリオファージが、細菌に感染し、ワクチン抗原を発現し、かつ続いて細菌を殺傷することを実証するために、in vitro実験とin vivo実験の両方が行なわれる。遺伝子操作型バクテリオファージが、病原体を殺傷し、免疫応答を誘導し、かつ再発感染に対して保護する能力を実証するために、2種類の異なる前臨床的チャレンジモデルが用いられる。
【0070】
コンセプトを実証するために、モデル病原体として黄色ブドウ球菌が用いられる。黄色ブドウ球菌アルファ毒素ワクチン抗原が、コンセプトの前臨床試験のために選択される。
【0071】
ワクチン抗原として、強力初期プロモーターの制御下にある黄色ブドウ球菌由来のタグ付けされた無毒化型αトキソイドおよびキラー分子として後期プロモーターの下にバクテリオファージの通常の溶菌機構を含有するように、BAC(または適切な人工遺伝子操作型バクテリオファージゲノム)中で、バクテリオファージゲノムが遺伝子操作される。バクテリオファージゲノムが、バクテリオファージカプシド機構を含む宿主細胞の補助なしには生存可能なバクテリオファージを生成しないように、バクテリオファージゲノムの他の構成要素は欠失させる。BACを、誘導性または構成的プロモーターの下にバクテリオファージカプシド機構を発現する大腸菌へとトランスフェクションし、バクテリオファージが生成されるように培養する。バクテリオファージは回収され、上記の通りに精製される。
【0072】
精製された遺伝子操作型バクテリオファージは、バクテリオファージがそれに感染するように遺伝子操作されている異種宿主細菌(黄色ブドウ球菌)を殺傷するその能力について、in vitroで評価される。
【0073】
第2のin vitroアッセイでは、遺伝子操作型バクテリオファージにより感染された宿主細菌(黄色ブドウ球菌)でのタグ付けされたアルファトキソイドの発現が、タグ付けされたアルファトキソイドに対して特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティングにより評価される。
【0074】
遺伝子操作型バクテリオファージが、効率的に殺菌し、かつアルファトキソイドを発現することを実証した後、遺伝子操作型バクテリオファージは、以下の2種類のin vivoモデルで評価される:マウス鼻内致死性チャレンジモデルおよびモルモット皮膚壊死(dermonecrosis)モデル。マウス鼻内致死性チャレンジモデルは、Newman株またはWright株などの黄色ブドウ球菌株を107〜109CFU用いて、C57ブラックマウスにチャレンジすることを含む。遺伝子操作型バクテリオファージが、保護をもたらし、かつ免疫応答を生起する能力は、細菌チャレンジのすぐ後に遺伝子操作型バクテリオファージを用いて処置することにより評価される。生存率は7日間モニタリングされ、免疫応答は7〜21日後に評価される。モルモット皮膚壊死モデルに関しては、モルモットが、黄色ブドウ球菌のアルファ毒素分泌株(例えば、Newman株またはWright株)を用いて、モルモット1頭当たり6箇所に皮内的にチャレンジされる。遺伝子操作型バクテリオファージが、保護をもたらし、かつ免疫応答を生起する能力は、細菌チャレンジのすぐ後に遺伝子操作型バクテリオファージを用いて処置することにより評価される。生存率は7日間モニタリングされ、免疫応答は7〜21日後に評価される。
図1
図2
図3