(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876057
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】パラメータの最適化による呼吸メカニクス及び患者努力の同時推定
(51)【国際特許分類】
A61B 5/085 20060101AFI20210517BHJP
A61B 5/087 20060101ALI20210517BHJP
G06F 17/17 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
A61B5/085
A61B5/087
G06F17/17
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-535268(P2018-535268)
(86)(22)【出願日】2016年9月18日
(65)【公表番号】特表2018-536510(P2018-536510A)
(43)【公表日】2018年12月13日
(86)【国際出願番号】IB2016055568
(87)【国際公開番号】WO2017055959
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年9月12日
(31)【優先権主張番号】62/234,106
(32)【優先日】2015年9月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ヴィカリオ,フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】アルバネーゼ,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ドン
(72)【発明者】
【氏名】カラモレグコス,ニコラオス
(72)【発明者】
【氏名】チュバット,ニコラス ワディ
【審査官】
近藤 利充
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2014/0276173(US,A1)
【文献】
国際公開第01/83014(WO,A2)
【文献】
国際公開第2010/067244(WO,A1)
【文献】
米国特許第06435182(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0373845(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0071696(US,A1)
【文献】
国際公開第2013/144925(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0265787(US,A1)
【文献】
国際公開第2013/005201(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0010339(US,A1)
【文献】
Francesco Vicario et al.,Noninvasive Estimation of Respiratory Mechanics in Spontaneously Breathing Ventilated Patients: A Constrained Optimization Approach,IEEE Transactions on Biomedical Engineering,2015年 8月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 − 5/398
G06F 17/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間の関数としての気道内圧データを取得するよう構成されている気道内圧センサ及び時間の関数としての気道流量データを取得するよう構成されている気道流量センサと、
前記気道内圧データ及び前記気道流量データのうちの少なくとも1つにおいて呼吸間隔を検出するようプログラムされている電子プロセッサを含む呼吸検出器と、
前記の検出された呼吸間隔にわたる時間の関数としての呼吸筋圧を、
前記呼吸間隔にわたる前記気道内圧データ及び前記気道流量データを、気道内圧、気道流量、及び1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルを関連付ける肺の運動方程式にフィッティングして、前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルについての最適化されたパラメータ値を生成すること、及び
前記の検出された呼吸間隔にわたる時間の関数としての前記呼吸筋圧を、前記最適化されたパラメータ値を有する前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルとして推定すること
を含む動作により推定するようプログラムされている電子プロセッサを含む呼吸ごと呼吸変数推定器と、
を有
し、
前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルは、Pmus,profile(t,P0,Pp,Pe)であり、P0は、前記呼吸間隔の開始時における呼吸筋圧を表すフィッティングされたパラメータであり、Ppは、前記呼吸間隔にわたる最大の大きさの負の呼吸筋圧を表すフィッティングされたパラメータであり、Peは、前記呼吸間隔の終了時における呼吸筋圧を表すフィッティングされたパラメータであり、
前記肺の運動方程式は、
【数1】
及び
【数2】
のうちの1つであり、
【数3】
は、前記気道内圧データのサンプルを表し、
【数4】
は、前記気道流量データのサンプルを表し、V(t)は、気道流量データの積分により計算された空気流量体積を表し、Rrsは、呼吸器系抵抗を表すフィッティングされたパラメータであり、Crsは、呼吸器系コンプライアンスを表すフィッティングされたパラメータであるか、又は、Ersは、呼吸器系エラスタンスを表すフィッティングされたパラメータであるかのいずれかである、呼吸モニタデバイス。
【請求項2】
前記呼吸ごと呼吸変数推定器は、線形問題
【数5】
の最小二乗最適化を実行することにより、前記呼吸間隔にわたる前記気道内圧データ及び前記気道流量データを、前記肺の運動方程式にフィッティングするようプログラムされており、
【数6】
は、前記呼吸間隔にわたる前記気道内圧データのベクトルであり、
【数7】
は、前記フィッティングすることにより最適化されたパラメータを含むパラメータベクトルであり、Mは結合行列である、請求項1記載の呼吸モニタデバイス。
【請求項3】
前記パラメータベクトル
【数8】
は、少なくとも1つの呼吸抵抗パラメータ及び少なくとも1つの呼吸コンプライアンス又はエラスタンスパラメータをさらに含む、請求項2記載の呼吸モニタデバイス。
【請求項4】
前記パラメータベクトル
【数9】
は、呼吸イナータンスパラメータをさらに含む、請求項3記載の呼吸モニタデバイス。
【請求項5】
前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルは、1回呼吸区分的直線パラメータ化呼吸筋圧プロファイル又は1回呼吸区分的放物線パラメータ化呼吸筋圧プロファイルである、請求項2乃至4いずれか一項記載の呼吸モニタデバイス。
【請求項6】
前記呼吸ごと呼吸変数推定器は、
前記呼吸間隔にわたる前記気道内圧データ及び前記気道流量データを、異なる1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルをそれぞれ有する複数の異なる肺の運動方程式にフィッティングし、
前記の検出された呼吸間隔にわたる時間の関数としての前記呼吸筋圧を、ベストフィットする肺の運動方程式により生成された前記最適化されたパラメータ値を有する前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルとして推定する
ようプログラムされている、請求項1乃至5いずれか一項記載の呼吸モニタデバイス。
【請求項7】
前記異なる1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルは、少なくとも1つの1回呼吸区分的直線パラメータ化呼吸筋圧プロファイル及び少なくとも1つの1回呼吸区分的放物線パラメータ化呼吸筋圧プロファイルを含む、請求項6記載の呼吸モニタデバイス。
【請求項8】
前記異なる1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルは、異なる時間パラメータ値を有する1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルを含み、時間パラメータは前記フィッティングすることによりフィッティングされない、請求項6乃至7いずれか一項記載の呼吸モニタデバイス。
【請求項9】
機械的人工呼吸器と、
前記の検出された呼吸間隔にわたる時間の関数としての前記の推定された呼吸筋圧を積分することにより、呼吸仕事率(PoB)又は呼吸仕事量(WoB)を推定するようプログラムされている電子プロセッサを含む呼吸仕事率又は仕事量推定器と、
をさらに有する、請求項1乃至8いずれか一項記載の呼吸モニタデバイス。
【請求項10】
前記呼吸検出器により検出された連続する呼吸間隔について前記呼吸ごと呼吸変数推定器により推定された、時間の関数としての前記呼吸筋圧の傾向線をプロットするよう構成されている、患者又は看護師のステーションモニタ
をさらに有する、請求項1乃至9いずれか一項記載の呼吸モニタデバイス。
【請求項11】
気道内圧データ及び気道流量データに対して作用する呼吸ごと呼吸変数推定方法であって、
前記気道内圧データ及び前記気道流量データのうちの少なくとも1つにおいて呼吸間隔を検出するステップと、
前記呼吸間隔にわたる前記気道内圧データ及び前記気道流量データを、気道内圧、気道流量、及び1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルを関連付ける肺の運動方程式にフィッティングして、前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルと呼吸器系抵抗と呼吸器系エラスタンス又はコンプライアンスとについての最適化されたパラメータ値を生成するステップと、
前記の検出された呼吸間隔にわたる時間の関数としての呼吸筋圧を、前記最適化されたパラメータ値を有する前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルとして推定するステップと、
前記呼吸器系抵抗を、前記呼吸器系抵抗についての前記最適化されたパラメータ値として推定するステップと、
前記呼吸器系エラスタンス又はコンプライアンスを、前記呼吸器系エラスタンス又はコンプライアンスについての前記最適化されたパラメータ値として推定するステップと、
を含み、
前記検出すること、前記フィッティングすること、及び前記推定することは、電子プロセッサにより実行さ
れ、
前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルは、Pmus,profile(t,P0,Pp,Pe)であり、P0は、前記呼吸間隔の開始時における呼吸筋圧を表すフィッティングされたパラメータであり、Ppは、前記呼吸間隔にわたる最大の大きさの負の呼吸筋圧を表すフィッティングされたパラメータであり、Peは、前記呼吸間隔の終了時における呼吸筋圧を表すフィッティングされたパラメータであり、
前記肺の運動方程式は、
【数10】
及び
【数11】
のうちの1つであり、
【数12】
は、前記気道内圧データのサンプルを表し、
【数13】
は、前記気道流量データのサンプルを表し、V(t)は、気道流量データの積分により計算された空気流量体積を表し、Rrsは、呼吸器系抵抗を表すフィッティングされたパラメータであり、Crsは、呼吸器系コンプライアンスを表すフィッティングされたパラメータであるか、又は、Ersは、呼吸器系エラスタンスを表すフィッティングされたパラメータであるかのいずれかである、方法。
【請求項12】
前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルは、前記呼吸間隔の開始時における初期圧力から、第1の時間Tpにおける最大の大きさの負圧まで延びる下降部分と、前記第1の時間Tpから第2の時間Teまで延びる上昇部分と、前記第2の時間Teから前記呼吸間隔の終了時まで延びる平坦部分と、を有する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
ディスプレイデバイス上に、時間の関数としての前記の推定された呼吸筋圧を表す傾向線を表示するステップと、
前記ディスプレイデバイス上に、時間の関数としての前記呼吸器系抵抗を表す傾向線を表示するステップと、
前記ディスプレイデバイス上に、時間の関数としての前記呼吸器系エラスタンス又はコンプライアンスを表す傾向線を表示するステップと、
をさらに含む、請求項11乃至12いずれか一項記載の方法。
【請求項14】
呼吸器系抵抗についての前記最適化されたパラメータ値は、2つの抵抗パラメータR
0及びR
1を含み、
該呼吸器系抵抗は、
【数14】
として推定される、請求項
11乃至
13いずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下は、一般に、呼吸技術、呼吸モニタリング技術、及び、機械的換気技術等の関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器系の臨床的評価は、例えば、呼吸筋圧、呼吸器系抵抗、及び呼吸器系コンプライアンス又はエラスタンスといった所定の呼吸値を推定することにより、定量的に行われ得る。
【0003】
典型的にはP
mus(t)と表記される呼吸筋圧は、呼吸中に患者により加えられる(負)圧である。より具体的には、吸気中に、横隔膜は、肺の体積を膨張させるように機能し、したがって、(閉塞気道の場合のように)所与の体積の空気について圧力を低下させる、又は、(通常の吸入の場合には)空気を肺に吸い込ませる。呼吸筋圧は、一般的に患者の自発呼吸努力の指標であるので、呼吸モニタリングのための有用な指標である。P
mus(t)を推定することは、患者及び機械的人工呼吸器が、呼吸器系に対して行われる機械的作業を分担する圧支持換気(PSV)等の機械的換気補助モードと組み合わせると特に価値がある。通常、目標は、患者を疲労させることなく効率的な呼吸を達成するのに十分な最小限の機械的換気を提供することである。したがって、P
mus(t)の定量的評価は、患者呼吸筋の萎縮及び疲労の両方を防ぐために、人工呼吸器により提供される適切なレベルの換気補助を選択するために用いられ得る。
【0004】
患者によりなされる努力を評価するために一般的に使用される臨床パラメータは、呼吸仕事率(PoB:power of breathing)又は呼吸仕事量(WoB:work of breathing)として知られている。PoBは、積分により、P
mus(t)の推定値から計算され得、すなわち、以下の通りである:
【数1】
上記の式において、Tは、好ましくは数回の呼吸を包含する何らかの選択された時間間隔である。PoBは、例えばジュール/分といった、単位時間当たりのエネルギー又はパワーの単位で測定される。式(1)における積分時間間隔Tが、1回呼吸(又は、P
mus(t)=0が呼気について想定され得るので呼吸の吸気期間)としてWoBについて規定されることを除いて、呼吸仕事量も同様である。したがって、WoBは、例えばジュール/呼吸といったエネルギー/呼吸の単位である。WoBの1つの複雑さは、呼吸持続時間が一般に呼吸ごとに変化し得ることである。
【0005】
呼吸筋圧P
mus(t)は、例えば、先端がバルーンであるカテーテルを患者の食道に挿入することにより食道圧(P
es)を測定することによって、侵襲的に測定され得る。この手法において、測定されたP
es(t)は、胸膜圧(P
pl)に対する良好な代替であると想定され、測定されたP
es(t)を、胸壁コンプライアンスC
rs(又はエラスタンスE
rs=1/C
rs)と組み合わせて使用して、いわゆるキャンベル線図を介して、又は、等価的に、P
mus(t)と、次に1回の呼吸期間又は吸気期間である時間間隔Tを用いた式(1)によるWoBと、の明示的な計算を介して、WoBを計算することができる。気道閉塞を伴う技術は、(何らかの種類の呼吸困難のために通常は既に弱っている状態にある)患者にストレスを与える可能性があるので、P
mus(t)の侵襲的測定は問題となり得る。さらに、P
mus(t)の侵襲的推定は、一般に、実際には非現実的であり得る仮定に基づき、又は、異常な呼吸状態(例えば、気道が閉塞された状態)で行われ、その結果、推定されるP
mus(t)は、通常の呼吸中に患者によりなされるものとは異なる可能性がある。
【0006】
呼吸器系抵抗(R
rs)及びコンプライアンス(C
rs)又はエラスタンス(E
rs)は、患者の呼吸器系の機械的特性に関する定量的情報を提供する。これらの呼吸器系値は、呼吸器疾患を診断するために且つ/又は適切な機械的換気モダリティ及び/又は治療経路の選択を知らせるために、使用され得る。呼吸器系抵抗及びコンプライアンス(又はエラスタンス)の推定は、フローインタラプタ技術(吸気終末休止EIPとも呼ばれる)を適用することにより、行われ得る。しかしながら、これは、患者に生命維持呼吸を提供する治療上の機械的換気パターンを妨げる侵襲的技術である。
【0007】
以下は、上述の問題及び他の問題に対処する新たな改良されたシステム及び方法を開示する。
【発明の概要】
【0008】
1つの開示される態様において、呼吸モニタデバイスが開示される。気道内圧センサは、時間の関数としての気道内圧データを取得するよう構成されており、気道流量センサは、時間の関数としての気道流量データを取得するよう構成されている。呼吸検出器は、前記気道内圧データ及び前記気道流量データのうちの少なくとも1つにおいて呼吸間隔を検出するようプログラムされている電子プロセッサを含む。呼吸ごと呼吸変数推定器は、前記の検出された呼吸間隔にわたる時間の関数としての呼吸筋圧を、前記呼吸間隔にわたる前記気道内圧データ及び前記気道流量データを、気道内圧、気道流量、及び1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルを関連付ける肺の運動方程式にフィッティングして、前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルについての最適化されたパラメータ値を生成すること、及び、前記の検出された呼吸間隔にわたる時間の関数としての前記呼吸筋圧を、前記最適化されたパラメータ値を有する前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルとして推定することを含む動作により推定するようプログラムされている電子プロセッサを含む。いくつかの実施形態において、前記呼吸ごと呼吸変数推定器は、線形問題
【数2】
の最小二乗最適化を実行することにより、前記呼吸間隔にわたる前記気道内圧データ及び前記気道流量データを、前記肺の運動方程式にフィッティングするようプログラムされており、
【数3】
は、前記呼吸間隔にわたる前記気道内圧データのベクトルであり、
【数4】
は、前記フィッティングすることにより最適化されたパラメータを含むパラメータベクトルであり、Mは結合行列である。前記パラメータベクトル
【数5】
は、少なくとも1つの呼吸抵抗パラメータ及び少なくとも1つの呼吸コンプライアンス又はエラスタンスパラメータをさらに含み得、いくつかの実施形態において、呼吸イナータンスパラメータをさらに含む。
【0009】
別の開示される態様において、非一時的な記憶媒体は、気道内圧データ及び気道流量データに対して作用する呼吸ごと呼吸変数推定方法を実行するように電子プロセッサにより実行可能な命令を記憶している。前記方法は、前記気道内圧データ及び前記気道流量データのうちの少なくとも1つにおいて呼吸間隔を検出するステップと、前記呼吸間隔にわたる前記気道内圧データ及び前記気道流量データを、気道内圧、気道流量、及び1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイル(40、42)を関連付ける肺の運動方程式にフィッティングして、前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルについての最適化されたパラメータ値を生成するステップと、前記の検出された呼吸間隔にわたる時間の関数としての呼吸筋圧を、前記最適化されたパラメータ値を有する前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルとして推定するステップと、を含む。いくつかの実施形態において、前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルは、前記呼吸間隔の開始時における初期圧力から、第1の時間T
pにおける最大の大きさの負圧まで延びる下降部分と、前記第1の時間T
pから第2の時間T
eまで延びる上昇部分と、前記第2の時間T
eから前記呼吸間隔の終了時まで延びる平坦部分と、を有する。そのような実施形態において、前記フィッティングすることは、線形行列方程式を使用して、前記呼吸間隔の開始時における前記初期圧力P
0、前記第1の時間T
pにおける最大の大きさの前記負圧P
p、及び前記第2の時間T
eにおける圧力P
eを含む、前記1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルのパラメータについての最適化された値を生成し得る。線形問題として評価することを容易にするために、いくつかの実施形態において、前記線形行列方程式を使用する前記フィッティングすることは、前記呼吸筋圧プロファイルの時間パラメータをフィッティングしない。
【0010】
1つの利点は、呼吸努力の推定を呼吸ごとに提供することにある。
【0011】
別の利点は、吸気中の高頻度ノイズに対してロバストな、呼吸努力の推定を提供することにある。
【0012】
別の利点は、適切なレベルの機械的換気補助を設定する際に使用するための改善された精度を有する、自発呼吸患者についての呼吸仕事量(WoB)推定値又は呼吸仕事率(PoB)推定値を提供することにある。
【0013】
所与の実施形態は、本開示を読んで理解すると当業者に明らかになるであろう、前述の利点のうちの1つ、2つ、3つ以上、又は全てを提供し得る、且つ/又は、他の利点を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明は、様々なコンポーネント及びコンポーネントの配置、また、様々なステップ及びステップの配置の形態をとることができる。図面は、好ましい実施形態を例示するためだけにあり、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【
図1】患者モニタ及び機械的人工呼吸器を含む、例示的なアプリケーションと組み合わせた呼吸変数推定システムを示す図。
【
図2】
図1の呼吸ごと呼吸変数推定器により使用され得る、例示的な1回呼吸区分的直線パラメータ化呼吸筋圧対時間呼吸プロファイルをプロットした図。
【
図3】
図1の呼吸ごと呼吸変数推定器により使用され得る、例示的な1回呼吸区分的放物線パラメータ化呼吸筋圧対時間呼吸プロファイルをプロットした図。
【
図4】
図1のシステムの呼吸ごと呼吸変数推定器により適宜に実行される例示的なプロセスのブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において開示される手法では、呼吸筋圧P
mus(t)、呼吸器系抵抗R
rs、及び呼吸器系コンプライアンスC
rs又はエラスタンスE
rs=1/C
rsが、肺の運動方程式
【数6】
を評価することにより、呼吸ごとに同時に推定される。上記の式において、
【数7】
は、測定された気道内圧であり、
【数8】
は、測定された気道流量であり、V(t)は、呼吸空気体積量、すなわち、
【数9】
であり、P
baselineは定数である。この同時推定を実行する際、気道内圧
【数10】
及び気道流量
【数11】
がサンプリングされる。N個のサンプルを評価することは、N+2個の未知数(P
mus(t)のN個の値とR
rs及びC
rsの値とを含む)について解くことを必要とする。これは、データポイントの数(N)が未知数の数(N+2)よりも少ないので、劣決定問題である。
【0016】
問題が劣決定であることを超えて、ここで認識されるさらなる難しさは、測定された気道内圧
【数12】
及び気道流量
【数13】
が、特に急速に変化する一時的なフェーズである吸気中に、ノイズを多く含む可能性が高い、ということである。呼吸筋圧P
mus(t)を推定することを最大の対象とするのは、ノイズを多く含むこの一時的な吸気フェーズである。なぜならば、自発呼吸患者において呼吸筋圧がゼロでないと予想されるのが、吸気中であるからである。
【0017】
本明細書において開示される手法は、有利なことに、肺の運動に関する既知の生理的制約を利用する。第1に、自発呼吸患者において、その運動は、呼吸サイクルに従うと予想される。これは、患者による吸気の開始により人工呼吸器の圧力がトリガされる圧支持換気(PSV)等の補助モードで患者が機械的換気をしている場合に当てはまる。第2に、呼吸筋圧P
mus(t)は、特に、吸気開始時にベースライン値で始まり、何らかの(負の)ピーク値に達するまで減少し(すなわち、より負になり)、続いて吸気終了時にベースライン値に迅速に戻る所定のプロファイルを有すると予想される。吸気が終わった後、P
mus(t)は、呼吸の残りの期間の間(例えば、呼気期間中)、ベースライン圧力に近いままであると予想される。患者が正常でない呼吸又は不安定な呼吸をしている場合に、この一般プロファイルからのいくつかの実際のずれが、特定の呼吸サイクルにおいて存在し得るが、この一般プロファイルからの高頻度のずれ(すなわち、呼吸数よりもはるかに高い頻度でのずれ)は、ランダムであり呼吸にわたって平均してゼロに近づくべき測定ノイズに起因する可能性がより高い。
【0018】
本明細書において開示される手法は、呼吸筋圧P
mus(t)の1回呼吸パラメータ化プロファイル表現を使用して、1回呼吸にわたる測定された
【数14】
サンプルをフィッティングすることにより、これらの制約を利用する。このプロファイルのパラメータの適切な選択により、結果として生じる問題は、勾配降下法、Marquardt−Levenberg法、又は同様の最小二乗最適化等の技法により解くことができる線形問題である。非線形性を最適化問題に導入するであろうパラメータも、プロファイルに組み込まれ得るが、これらのパラメータは、グリッドサーチを用いて最適化される。実際には、非線形性を導入するであろうこれらのパラメータは、時間パラメータ(例えば、吸気にわたるピーク負値に対する時間及び吸気終了時間)である。
【0019】
さらに、1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルは、肺の運動方程式(式(2))のベースライン圧力P
baselineを取り入れることができる。呼吸にわたるP
baselineの漸進的ドリフトの可能性に対応するために、本明細書において開示される例示的な1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルは、吸気の開始時及び終了時において異なる有効ベースライン値P
0及びP
eをそれぞれ含む。結果として生じる、肺の変更された運動方程式は、以下のように記述され得る:
【数15】
上記の式において、P
mus,profile(t,P
0,P
p,P
e)は、1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイルである。最小二乗最適化は、圧力パラメータP
0、P
p、P
eを最適化する。これらの圧力パラメータは、吸気開始時におけるベースライン圧力P
0、吸気中に達した最大負圧P
p、及び、吸気終了時におけるベースライン圧力P
eである。典型的には、
【数16】
であると予想されるが、これらの値の間の何らかの差が、式(2)のベースライン圧力P
baselineの何らかの漸進的ドリフトを経時的に考慮する最小二乗フィッティングにより得られ得る。
【数17】
という表記は、式(3)が、時間パラメータT
p及びT
eについての固定値を用いて評価されることを表す。時間パラメータT
pは、プロファイルがピーク負圧P
pに達する時間であり、時間パラメータT
eは、プロファイルがベースライン圧力P
eに戻る時間である。時間パラメータT
p及びT
eを最小二乗フィッティングに組み込むことは、解くことが計算上はるかに難しい非線形問題をもたらすであろう。したがって、本明細書における例示的な例では、時間パラメータT
p及びT
eが、グリッドサーチを用いてフィッティングされる。すなわち、式(3)が、いくつかの可能な(T
p,T
e)ペアについて最適化され、フィッティングされる呼吸にわたる、測定された
【数18】
に対するベストフィットをもたらす最適化が選択される。
【0020】
有利なことに、フィッティングされる呼吸にわたる、測定された
【数19】
サンプルに対する式(3)の最小二乗フィッティングは、R
rs、C
rs、P
0、P
p、及びP
eという5つのパラメータのみをフィッティングすることを伴う。サンプリングレートが10ミリ秒ごとに1サンプルであり、呼吸が3秒の持続時間である場合、データセットは、N=300個のサンプルを含むので、この問題は、ここでは非常に優決定である。急速収束はまた、パラメータについての物理的に現実的な開始値を使用することにより促進される。例えば、いくつかの適切な開始パラメータは、P
0=P
e=0又はP
0=P
e=P
avgであり、ここで、P
avgは、呼気フェーズ中の平均圧力である。残りのパラメータについての適切な開始値は、モニタリングされている患者のタイプについての典型的な文献値として選択され得る。パラメータ値を初期化するための他の選択肢も企図されている。5つのパラメータのこのフィッティングは高速であるので、1回呼吸の時間フレーム(典型的には、呼吸数が毎分12〜20回の範囲内である健常成人の場合、1回呼吸当たり3〜5秒)においていくつかの可能な(T
p,T
e)ペアについて最適化を繰り返し、最小のフィッティング誤差を伴う最適化を選択することができる。したがって、出力遅延は、いくつかの実施形態において、1回呼吸以下すなわち5秒以下のオーダーである。この短い遅延は、次のものを含む関心パラメータのほぼリアルタイムの傾向取りを可能にするのに十分である:最適にフィッティングされたプロファイル
【数20】
として推定されたP
mus(t)、並びに、呼吸器系パラメータR
rs及びC
rs(又はE
rs)。この短い遅延はまた、式(1)の評価によるほぼリアルタイムの呼吸仕事量(WoB)又は呼吸仕事率(PoB)を提供する。1回呼吸にわたって計算されるWoBの場合、式(1)の積分の評価がWoB(P
0,P
p,P
e,T
p,T
e)の形式の代数式を評価することに簡約されるように、パラメータ(P
0,P
p,P
e,T
p,T
e)によりパラメータ化された
【数21】
の閉形式の積分を解析的に計算することが企図されている。
【0021】
次に
図1を参照して、上記の原理を使用する呼吸パラメータ推定システムが、例示的な患者モニタ及びその機械的人工呼吸器設定アプリケーションとともに説明される。機械的人工呼吸器10は、患者12が自発的に呼吸している、圧支持換気(PSV)等の補助モードで患者12の機械的換気を提供している。機械的人工呼吸器10は、注入空気ホース14を介して患者に加圧空気を供給し、呼気が、排出空気ホース16を介して人工呼吸器10に戻る。患者への/からの空気の連通は、フルフェイスマスク又は気管チューブ等の適切な患者アクセサリ18を介する。
【0022】
図1に概略的に示されているように、気流回路は、気道内圧
【数22】
を測定(すなわちサンプリング)する気道内圧センサ20と、気道流量
【数23】
を測定する気道流量センサ22と、を含む。空気漏れが時折存在する非侵襲的換気の場合、気道流量
【数24】
は、漏れ推定アルゴリズムを使用して、空気漏れについて任意的に補正されてもよい。積分器24は、空気体積量
【数25】
を計算する。さらに、本明細書において開示される呼吸変数推定手法は、呼吸ごとに作用するので、呼吸検出器28は、取得された
【数26】
サンプルストリームを、1回呼吸にそれぞれ対応する時間セグメントに区分化するよう構成されている。
図1の例示的な実施形態において、呼吸検出器28は、気道内圧サンプル
【数27】
を解析し、例えば、息の吸い込みの開始を示す、
【数28】
の特徴的な急激な減少として、吸気の開始を検出することができる。次いで、連続する各呼吸が、1つの吸気期間の開始から次の吸気期間の開始までの間隔として規定される。代替的に、呼吸検出器は、気道流量信号
【数29】
を解析して、連続する呼吸を検出することもできるし、又は、気道内圧及び気道流量の両方を解析して、呼吸間隔を検出することもできる。呼吸解析器により識別された各呼吸は、ここでは時間間隔[0,T
tot]と表記され、ここで、時間0は、吸気期間の開始時における最初のサンプルに対応し、時間T
totは、呼吸の終了、すなわち、呼吸検出器28により検出された次の呼吸の開始の直前の最後のサンプルに対応する。
【0023】
呼吸ごと呼吸変数推定器30は、呼吸検出器28により線引きされた各呼吸間隔[0,T
tot]について、式(3)又は別の適切な肺の運動方程式を評価して、呼吸間隔にわたる呼吸筋圧P
mus(t)と呼吸器系抵抗R
rs及びコンプライアンスC
rs又はエラスタンスE
rsとを決定する。例えば、式(3)の等価呼吸回路34が、
図1に概略的に示されている。計算された呼吸筋圧、抵抗、及びコンプライアンス又はエラスタンスの値は、例えば、患者又は看護師のステーションモニタ26に表示される且つ/又は式(1)に従ってWoB計算器32(又は代替的にPoB計算器)により処理される等、様々に使用され得る。計算されたPoB又はWoBは、1つ以上の人工呼吸器設定を評価して任意的に調整する際の医師による参照のために、例えば、傾向線として且つ/又は現在の数値として、機械的人工呼吸器10のディスプレイコンポーネント36上に表示され得る。計算されたPoB又はWoB(及び場合によっては他の入力)に基づくこれらの設定の自動閉ループ制御も企図されている。
【0024】
データ取得及び処理コンポーネント20、22、24、28、30、32は、特定の実装形態において様々に構成され得る。例えば、気道内圧センサ20は、患者アクセサリ18に組み込まれ得るのに対し、気道流量センサ22は、患者アクセサリ18に組み込まれ得る、若しくは、空気ホース14、16のうちの1つに取り付けられ得る、又は、機械的人工呼吸器10内に収容され得る。データ解析コンポーネント24、28、30、32は、機械的人工呼吸器10のマイクロコントローラ若しくはマイクロプロセッサ又は他の電子プロセッサ、及び/又は、患者又は看護師のステーションモニタ26のマイクロプロセッサ若しくはマイクロコントローラ又は他の電子プロセッサ等の任意の電子データ処理デバイスにより実装され得る。データ処理は、さらに、開示されているデータ処理機能及び他の機能(例えば、データ取得、ディスプレイデバイス制御等)を実行するように電子プロセッサにより読み取り可能であり実行可能である命令を記憶する非一時的な記憶媒体として具現化され得る。非一時的な記憶媒体は、例えば、ハードディスクドライブ若しくは他の磁気記憶媒体、及び/又は、光ディスク若しくは他の光記憶媒体、及び/又は、フラッシュメモリ若しくは他の電子記憶媒体、及び/又は、他の同様のものを含み得る。取得された
【数30】
及び
【数31】
の電子データ処理を可能にするために、これらの信号がサンプリングされてデジタル化される。サンプリング及びアナログ/デジタル(A/D)変換回路は、それぞれのセンサ20、22に組み込まれることもあるし、又は、サンプリング及びA/D変換は、機械的人工呼吸器10又は患者若しくは看護師のステーションモニタ26のセンサ入力ポートに関連付けられたサンプリング及びA/Dコンバータにより実行されることもある。これらのデータ取得及び前処理又はデータフォーマット化の詳細は、
図1には示されていない。
【0025】
引き続き
図1を参照し、さらに
図2を参照して、呼吸ごと呼吸変数推定器30の例示的な実施形態が説明される。この例示的な実施形態は、
図2に示され、以下で与えられる1回呼吸区分的直線パラメータ化呼吸筋圧プロファイル40を使用する:
【数32】
【0026】
この例示的な1回呼吸パラメータ化呼吸筋圧プロファイル40において、時間パラメータT
p及びT
eは、既知であると仮定され、プロファイルは、P
mus(t)が、t=0とt=T
pとの間で直線的に減少し、t=T
pとt=T
eとの間で直線的に増加し、t=T
eからt=T
totまで一定のままである、と仮定する。式(4)の呼吸筋圧プロファイルP
mus,profile(t,P
0,P
p,P
e)(ここで再度、T
p及びT
eは固定値として得られる)を使用して、式(3)の肺の運動方程式を、1回呼吸にわたる測定サンプルのセット
【数33】
、
【数34】
、...、
【数35】
に適用することは、以下の行列方程式をもたらす:
【数36】
上記の式(5)において、P
Yという表記は、本明細書の別の箇所で使用されている
【数37】
という気道内圧表記に取って代わり(下付き文字「Y」は、患者アクセサリ18としてのY部品の例示的な使用を示している)、呼吸器系抵抗R
rs及びエラスタンスE
rsはそれぞれ、短縮形R及びEにより表されている。行列方程式(5)は、最小二乗最適化(例えば、勾配降下法、Marquardt−Levenberg法等)を用いて、パラメータベクトル[R E P
0 P
p P
e]
Tについて解かれ、呼吸筋圧は、P
0、P
p、及びP
eについての最適化された値とT
p及びT
eについての仮定された固定値とを用いる式(4)を使用して、呼吸間隔[0,T
tot]にわたって推定される。
【0027】
式(5)は、有利なことに、
【数38】
の形で表現することができる線形問題であり、ここで、
【数39】
は、測定値ベクトル(より詳細には、式(5)における気道内圧データベクトル
【数40】
)であり、
【数41】
は、パラメータベクトル(より詳細には、式(5)における[R E P
0 P
p P
e]
T)であり、Mは結合行列である。原理的には、T
p及びT
eも、最小二乗最適化のパラメータであり得る。しかしながら、結果として生じる問題は、
【数42】
の形で表現可能な線形問題ではないであろう。したがって、いくつかの実施形態において、呼吸筋圧プロファイルの時間パラメータは、最小二乗フィッティングによりフィッティングされない。
【0028】
本明細書における例示的な例において、T
p及びT
eの最適化は、式(5)がT
p及びT
eのいくつかの異なる選択肢について解かれ、最良の最適化結果のT
p及びT
eの値が選択されるグリッドサーチを用いて実行される。2つのパラメータT
p及びT
eのみが含まれ、さらに、これらのパラメータが、生理的に合理的な値の狭い範囲を有するからである。少なくとも、0<T
p<T
e<T
totが成り立ち、これらの制約は、呼吸間隔[0,T
tot]にわたる吸気期間の生理的に合理的な範囲を考慮することにより、さらに狭められ得る。
【0029】
引き続き
図1及び
図2を参照し、さらに
図3を参照すると、呼吸ごと呼吸変数推定のさらなる改善を提供するために、最小二乗最適化はまた、2つ以上の異なる呼吸筋圧プロファイル形状について繰り返され得、最良の最適化(すなわち、最小のフィッティング誤差を伴う最適化)が選択される。非限定的な例として、
図3は、間隔[0,T
p)がP
0で始まりP
pで終わる減少している放物線関数であり、間隔[T
p,T
e)がP
pで始まりP
eで終わる増加している放物線関数であり、間隔[T
e,T
tot]が一定値P
eを有する1回呼吸区分的放物線パラメータ化呼吸筋圧プロファイル42を示している。時間パラメータT
p及びT
eは、ここでも既知であると仮定され、グリッドサーチを用いて最適化され得る。最小二乗最適化はまた、2つの放物線セグメント[0,T
p)及び[T
p,T
e)についての異なるボーイング(bowing)パラメータを有する、1回呼吸放物線パラメータ化呼吸筋圧プロファイル42の異なるインスタンスについて繰り返され得る。所与のプロファイル形状及び時間パラメータのセットT
p及びT
eを用いた各最小二乗最小化は、
【数43】
の形の線形問題であるので、比較的多数(例えば、12以上)のこのような最適化が、1〜2秒で実行され得、その結果、最適化全体を、1回呼吸の時間フレームで完了することができる。これは、呼吸ごとに繰り返されて、1つの呼吸間隔未満の時間遅延で連続波形P
mus(t)が生成される。
【0030】
まとめると、
図2及び
図3の直線プロファイル及び放物線プロファイルをそれぞれ使用して、呼吸ごと呼吸変数推定が、次のように実行され得る:(1)時間ペア(T
p,T
e)のセットを規定し、(2)各ペアについて、区分的直線プロファイル及び区分的放物線プロファイルを用いて、対応する最小二乗最適化問題を構築し(1つの最適化問題が
図2の区分的一次プロファイルを用い、もう1つの最適化問題が
図3の区分的二次プロファイルを用いる2つの最適化問題が、各時間ペアについて構築される)、(3)各最小二乗最適化問題を解き、対応する二乗和を計算し、(4)全ての最小二乗最適化のうち、最小の二乗和を見つけ、(5)最小の二乗和を持つ解についての適切なプロファイルとパラメータベクトル[R E P
0 P
p P
e]
Tとを使用して、呼吸について、P
mus(t)と呼吸器系抵抗及びエラスタンスとを推定するように計算する。ステップ(1)〜ステップ(5)が、連続する各呼吸について繰り返される。
【0031】
いくつかの実施形態において、1回呼吸区分的放物線パラメータ化呼吸筋圧プロファイルは、呼吸間隔の開始時(時間t=0)の初期圧力(P
0)から、第1の時間T
pにおける最大の大きさの負圧(P
p)まで延びる下降部分と、第1の時間T
pから第2の時間T
eまで延びる上昇部分と、第2の時間T
eから呼吸間隔の終了まで延びる平坦部分と、を含む一般形状を有する。この一般形状は、
図2及び
図3のプロファイル40及び42、並びに、多数の変形(例えば、t=0とt=T
pとの間の放物線形状及びt=T
pとt=T
eとの間の直線形状を有するもの)を包含する。
【0032】
図1を特に参照すると、前述の実施形態において、使用される肺の運動方程式は、式(2)の一次形式である。これは、抵抗及びコンプライアンスを直列に含むRC回路である、
図1に示されている等価呼吸回路34を使用して、呼吸器系をモデル化する。他の企図される実施形態において、呼吸器系は、より複雑な等価呼吸回路により表される。例えば、以下の肺の二次運動方程式
【数44】
は、呼吸器系イナータンスを表すパラメータLを含み、単一の抵抗R
rcを、放物線抵抗を特徴付ける抵抗パラメータR
0及びR
1で置き換える。したがって、式(6)の肺の運動方程式は等価LRC回路である。
【0033】
図4を参照すると、一実施形態において、それぞれの式(6)及び(2)の肺の二次運動方程式及び一次運動方程式は、2パスアプローチで適用される。ブロック50、52により表される第1のパスにおいて、式(6)のLRC回路が、
図2の1回呼吸区分的直線パラメータ化呼吸筋圧プロファイル40と、時間パラメータペア(T
p,T
e)についてのいくつかの異なる値と、を使用してフィッティングされ(ブロック50)、
図3の1回呼吸区分的放物線パラメータ化呼吸筋圧プロファイル42と、時間パラメータペア(T
p,T
e)についてのいくつかの異なる値と、を使用してフィッティングされる(ブロック52)。ブロック54は、最小の残差二乗和(すなわち、最小のフィッティング誤差)を持つ最小二乗(LS)解を選択し、時間パラメータT
eを、最小の残差二乗和(すなわち、最小のフィッティング誤差)を持つこのLS解の値に設定する。ブロック60、62により表される第2のパスにおいて、式(2)のRC回路が、
図2の1回呼吸区分的直線パラメータ化呼吸筋圧プロファイル40と、時間パラメータT
pについてのいくつかの異なる値と、を使用してフィッティングされ(ブロック60)、
図3の1回呼吸区分的放物線パラメータ化呼吸筋圧プロファイル42と、時間パラメータT
pについてのいくつかの異なる値と、を使用してフィッティングされる(ブロック62)。ブロック60、62のLS最適化を実行する際、時間パラメータT
eは、ブロック54において選択された値に固定されたままである。その後、ブロック64において、最小の残差二乗和を持つ、ブロック60、62からの最小二乗(LS)解が選択され、R
rs、C
rs(又はE
rs)、及びP
mus(t)〜P
mus,profile(t)を含むパラメータのセット66が、最小の残差二乗和を持つ選択されたLS解から生成される。
【0034】
本発明が、好ましい実施形態を参照して説明された。前述の詳細な説明を読んで理解すると、変形形態及び変更形態が想起されるであろう。本発明は、請求項又はその均等の構成の範囲に含まれる限りにおいて全てのそのような変形形態及び変更形態を含むものと解釈されることが意図されている。