特許第6876099号(P6876099)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6876099適応等化器、適応等化方法及び光通信システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876099
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】適応等化器、適応等化方法及び光通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/04 20060101AFI20210517BHJP
   H04B 10/61 20130101ALI20210517BHJP
   H04B 10/2569 20130101ALI20210517BHJP
   H04B 3/06 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   H04B3/04 A
   H04B10/61
   H04B10/2569
   H04B3/06 A
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-115330(P2019-115330)
(22)【出願日】2019年6月21日
(65)【公開番号】特開2021-2743(P2021-2743A)
(43)【公開日】2021年1月7日
【審査請求日】2019年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】591230295
【氏名又は名称】NTTエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】高椋 智大
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光輝
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 勉
(72)【発明者】
【氏名】仙北 智晴
【審査官】 前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2020−043492(JP,A)
【文献】 特開2013−223128(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/139256(WO,A1)
【文献】 Xu Zhang et al.,Joint Polarization Tracking and Equalization in Real-Time Coherent Optical Receiver,IEEE Photonics Technology Letters,米国,IEEE,2019年 7月22日,Volume 31, Issue 17,Pages.1421-1424
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/04
H04B 3/06
H04B 10/2569
H04B 10/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップ係数を変更することで受信信号の偏波変動を適応的に補償する適応等化フィルタと、
可変のステップサイズを用いて前記受信信号の偏波変動に応じたタップ係数を計算し、計算された前記タップ係数で前記適応等化フィルタの前記タップ係数を自身で更新する第1のタップ係数更新器と、
前記受信信号を入力とし前記適応等化フィルタの出力を受けることなく自身で、固定のステップサイズを用いて前記受信信号の偏波変動に応じたタップ係数を計算する第2のタップ係数更新器と、
前記第2のタップ係数更新器で計算されたタップ係数を用いて前記受信信号の偏波状態を推定する偏波状態推定器と、
前記偏波状態推定器で推定された偏波状態に対応したステップサイズを求め、求められた前記ステップサイズで前記可変のステップサイズを更新するステップサイズ更新器と
を備えることを特徴とする適応等化器。
【請求項2】
前記第1のタップ係数更新器及び前記第2のタップ係数更新器の各々は、伝送されてきた既知信号と前記既知信号の真値との比較誤差を最小化するように前記タップ係数をステップサイズ毎に更新して求める逐次更新アルゴリズムを用いて前記タップ係数を計算することを特徴とする請求項1に記載された適応等化器。
【請求項3】
前記ステップサイズ更新器は、偏波状態変動量及び偏波状態変動速度の少なくとも一方の所定範囲毎に最適な誤り率特性が得られるステップサイズが予め記憶されているメモリを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載された適応等化器。
【請求項4】
前記偏波状態推定器は、
前記受信信号の偏波状態の推定値の移動平均を求め、求められた平均値を前記ステップサイズ更新器に供給する移動平均回路、及び、
推定された偏波状態変動量からヒステリシス特性を利用してピークを検出するピーク検出回路
の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載された適応等化器。
【請求項5】
タップ係数を変更することで受信信号の偏波変動を適応的に補償する適応等化フィルタリングを実行するステップと、
可変のステップサイズを用いて前記受信信号の偏波変動に応じたタップ係数を計算し、計算された前記タップ係数で前記適応等化フィルタリングの前記タップ係数を自身で更新する第1のタップ係数更新ステップと、
前記受信信号を入力とし前記適応等化フィルタの出力を受けることなく自身で、固定のステップサイズを用いて前記受信信号の偏波変動に応じたタップ係数を計算する第2のタップ係数更新ステップと、
前記第2のタップ係数更新ステップで計算されたタップ係数を用いて前記受信信号の偏波状態を推定する偏波状態推定ステップと、
前記偏波状態推定ステップで推定された偏波状態に対応したステップサイズを求め、求められた前記ステップサイズで前記可変のステップサイズを更新するステップサイズ更新ステップと
を備えることを特徴とする適応等化方法。
【請求項6】
前記第1のタップ係数更新ステップ及び前記第2のタップ係数更新ステップの各々は、伝送されてきた既知信号と前記既知信号の真値との比較誤差を最小化するように前記タップ係数をステップサイズ毎に更新して求める逐次更新アルゴリズムを用いて前記タップ係数を計算するステップを含むことを特徴とする請求項5に記載された適応等化方法。
【請求項7】
前記ステップサイズ更新ステップは、偏波状態変動量及び偏波状態変動速度の少なくとも一方の所定範囲毎に最適な誤り率特性が得られるステップサイズが予め記憶されているメモリを使用して、ステップサイズを選択するステップを含むことを特徴とする請求項5又は6に記載された適応等化方法。
【請求項8】
前記偏波状態推定ステップは、
前記受信信号の偏波状態の推定値の移動平均を求め、求められた平均値を前記ステップサイズ更新ステップに供給するステップ、及び、
推定された偏波状態変動量からヒステリシス特性を利用してピークを検出するステップ
の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載された適応等化方法。
【請求項9】
受信信号の波長分散による歪を補償する波長分散補償器と、
前記波長分散補償器の出力信号の偏波変動を補償する請求項1〜4の何れか1項に記載された適応等化器と、
前記適応等化器の出力信号を復号する復号器と
を備えることを特徴とする光通信システム。
【請求項10】
光信号を受信し、受信された光信号を前記受信信号に変換する光受信機
を更に備えることを特徴とする請求項9に記載された光通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ通信において伝送路の特性を補償する適応等化器、適応等化方法及び通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コヒーレント光通信では、受信側において処理タイミングとの同期誤差及び伝送信号の歪をデジタル信号処理により補償することで、数十Gbit/s以上の大容量伝送を実現している。デジタル信号処理では、主に、波長分散補償、周波数制御・位相調整、偏波多重分離及び偏波分散補償等の処理を行っている。
【0003】
特に、偏波状態SOP(State of Polarization)は、高速で変動を生じる場合がある。そのSOP変動に対するデジタル信号処理の追従性も重要な課題となっている。rad/μsオーダの速度でSOP変動が生じる場合、デジタル信号処理の追従性が低下し、符号誤り率BER(Bit Error Rate)が急激に悪化することが知られている。
【0004】
偏波多重分離及び偏波分散補償の処理は、主に適応等化によって行われる。デジタル信号処理における適応等化器は、一般的にデジタルフィルタで構成される。そのデジタルフィルタに伝送信号の歪が相殺されるタップ係数を設定することで、伝送信号を補償できる。タップ係数は時間的に変化する状況に適応して逐次更新され、SOP変動に追従した補償が行われる。
【0005】
適応等化器を構成するデジタルフィルタのタップ係数更新には、一般的には定包絡線基準アルゴリズム(CMA:Constant Modulus Algorithm)のような逐次更新アルゴリズムが用いられる。このタップ係数の適応制御時において、デジタル信号処理の追従性を決定するのがステップサイズμである。ステップサイズμが大きくなると、デジタル信号処理の追従性が向上し、高速なSOP変動に対する受信耐力が向上する。その一方、低速なSOP変動時には、雑音に対する影響を受けてBERが悪化する。
【0006】
そこで、特許文献1では、ステップサイズμをSOP変動速度に応じて適応制御することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−223128号公報
【特許文献2】特開2018−174413号公報
【特許文献3】特開2013−168983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で提案されている方法では、低速なSOP変動により小さなステップサイズμが一旦設定されると、高速なSOP変動への追従性が低下するという問題があった。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、様々なSOP変動に対して常に安定な追従性を実現する適応等化器、適応等化方法及び光通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明に係る適応等化器(70)は、タップ係数を変更することで受信信号(61)の偏波変動を適応的に補償する適応等化フィルタ(71)と、可変のステップサイズを用いて受信信号(61)の偏波変動に応じたタップ係数を計算し、計算されたタップ係数で適応等化フィルタ(71)のタップ係数を自身で更新する第1のタップ係数更新器(72)と、前記受信信号を入力とし前記適応等化フィルタの出力を受けることなく自身で、固定のステップサイズを用いて受信信号(61)の偏波変動に応じたタップ係数を計算する第2のタップ係数更新器(73)と、第2のタップ係数更新器(73)で計算されたタップ係数を用いて受信信号(61)の偏波状態を推定する偏波状態推定器(74)と、偏波状態推定器(74)で推定された偏波状態に対応したステップサイズを求め、求められたステップサイズで可変のステップサイズを更新するステップサイズ更新器(75)とを備えることを特徴とする。
【0011】
第1のタップ係数更新器(72)及び第2のタップ係数更新器(73)の各々は、伝送されてきた既知信号と既知信号の真値との比較誤差を最小化するようにタップ係数をステップサイズ毎に更新して求める逐次更新アルゴリズムを用いてタップ係数を計算するように構成されてもよい。
【0012】
ステップサイズ更新器(75)は、偏波状態変動量及び偏波状態変動速度の少なくとも一方の所定範囲毎に最適な誤り率特性が得られるステップサイズが予め記憶されているメモリ(97)を含んでいてもよい。
【0013】
偏波状態推定器(74)は、受信信号(61)の偏波状態の推定値の移動平均を求め、求められた平均値をステップサイズ更新器(75)に供給する移動平均回路(98)を含んでいてもよい。偏波状態推定器(74)はまた、推定された偏波状態変動量からヒステリシス特性を利用してピークを検出するピーク検出回路(99)を含んでいてもよい。
【0014】
また、本発明に係る適応等化方法は、タップ係数を変更することで受信信号(61)の偏波変動を適応的に補償する適応等化フィルタリングを実行するステップと、可変のステップサイズを用いて受信信号(61)の偏波変動に応じたタップ係数を計算し、計算されたタップ係数で適応等化フィルタリングのタップ係数を自身で更新する第1のタップ係数更新ステップと、前記受信信号を入力とし前記適応等化フィルタの出力を受けることなく自身で、固定のステップサイズを用いて受信信号(61)の偏波変動に応じたタップ係数を計算する第2のタップ係数更新ステップと、第2のタップ係数更新ステップで計算されたタップ係数を用いて受信信号(61)の偏波状態を推定する偏波状態推定ステップと、偏波状態推定ステップで推定された偏波状態に対応したステップサイズを求め、求められたステップサイズで可変のステップサイズを更新するステップサイズ更新ステップとを備えることを特徴とする。
【0015】
第1のタップ係数更新ステップ及び第2のタップ係数更新ステップの各々は、伝送されてきた既知信号と既知信号の真値との比較誤差を最小化するようにタップ係数をステップサイズ毎に更新して求める逐次更新アルゴリズムを用いてタップ係数を計算するステップを含んでいてもよい。
【0016】
ステップサイズ更新ステップは、偏波状態変動量及び偏波状態変動速度の少なくとも一方の所定範囲毎に最適な誤り率特性が得られるステップサイズが予め記憶されているメモリ(97)を使用して、ステップサイズを選択するステップを含んでいてもよい。
【0017】
偏波状態推定ステップは、受信信号(61)の偏波状態の推定値の移動平均を求め、求められた平均値をステップサイズ更新ステップに供給するステップを含んでいてもよい。偏波状態推定ステップはまた、推定された偏波状態変動量からヒステリシス特性を利用してピークを検出するステップを含んでいてもよい。
【0018】
また、本発明に係る光通信システムは、受信信号の波長分散による歪を補償する波長分散補償器(60)と、波長分散補償器(60)の出力信号の偏波変動を補償する上述した適応等化器(70)と、適応等化器(70)の出力信号を復号する復号器とを備えることを特徴とする。
【0019】
光通信システムは、光信号を受信し、受信された光信号を上記受信信号に変換する光受信機(40)を更に備えていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、適応等化フィルタ(71)のタップ係数を計算するための可変のステップサイズとは別に、固定のステップサイズを利用する。この固定のステップサイズを用いてタップ係数を計算し、このタップ係数を用いて偏波状態を推定する。このため、偏波状態が変動して可変のステップサイズがどのように変化しても、固定のステップサイズに基づいて偏波状態の高速に計算することができる。従って、様々な偏波状態の変動に対して常に安定な追従性を実現することができる。
【0021】
更に、本発明では、上述したように推定された偏波状態に対応した可変のステップサイズを用いてタップ係数を計算し、そのタップ係数で適応等化フィルタ(71)のタップ係数を更新する。このため、偏波状態の変動が小さいときにも、BERの悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る光通信システムにおける送信側の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る光通信システムにおける受信側の構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の実施の形態に係る適応等化器の構成を示すブロック図である。
図4図4は、図3における適応等化フィルタの構成を示すブロック図である。
図5図5は、図4における偏波状態推定器の出力のイメージを示すグラフである。
図6図6は、図3におけるステップサイズ更新器の構成を示すブロック図である。
図7図7は、図3における偏波状態推定器の構成を示すブロック図である。
図8図8は、適応等化器の比較例のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
[光通信システム]
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る光通信システムは、送信側に、送信信号処理器10、及び光送信機20を備えている。
【0025】
送信信号処理器10は、入力データに対して所定の処理を施す回路である。具体的には、送信信号処理器10は、入力データを水平偏波用データと垂直偏波用データに分け、それぞれのデータに対して誤り訂正用符号化、帯域制限フィルタリング、及び変調用マッピング等の処理を行う。このような処理を施された水平偏波用データ11a及び垂直偏波用データ11bが、光送信機20に出力される。
【0026】
光送信機20は、水平偏波用データ11a及び垂直偏波用データ11bを光信号に変換し、変換された光信号を送信する回路である。この光送信機20は、信号光源(信号LD)21、2つの90゜合成器22a,22b、及び偏波合成器23を含んでいる。90゜合成器22a,22bは、信号光源21の出力光を水平偏波用データ11a及び垂直偏波用データ11bで変調することによって、これらのデータ11a,11bを光信号に変換する。偏波合成器23は、光信号に変換された水平偏波用データ11aと垂直偏波用データ11bを合成する。合成された光信号は、光ファイバ伝送路30を通して受信側に伝送される。
【0027】
図2に示すように、本発明の実施の形態に係る光通信システムは、受信側に、光受信機40、AD変換器50、波長分散補償器60、適応等化器70、及び復号器80を備えている。
【0028】
光受信機40は、光信号を受信し、受信された光信号を電気信号に変換し、変換された電気信号を出力する回路である。この光受信機40は、偏波分離器41、局部発振光源(局発LD)42、2つの90゜ハイブリッド回路43a,43b、及び光電変換器44を含んでいる。偏波分離器41は、光信号を2つの直交偏波成分、すなわちX偏波(水平偏波)とY偏波(垂直偏波)に分離する。90゜ハイブリッド回路43a,43bは、偏波分離器41から出力された光信号の各偏波に局部発振光源42の出力光を合成させ、光信号の各偏波を更に同相(I)成分と直交(Q)成分に分離する。光電変換器44は、90゜ハイブリッド回路43a,43bから出力された光信号の各成分を電気信号に変換し、この電気信号をX偏波信号45a及びY偏波信号45bとして出力する。以下、X偏波信号45a及びY偏波信号45bを受信信号と呼ぶ。
【0029】
AD変換器50は、光受信機40から出力された受信信号をデジタル信号に変換する。
【0030】
光ファイバ伝送路30を光信号が伝搬する際に、波長分散によって信号波形が歪む。波長分散補償器60は、その歪の大きさをAD変換器50から出力された受信信号から推定し、波長分散による受信信号の歪みを補償する。
【0031】
また、送信側においてX偏波信号とY偏波信号を合成して送信し、受信側においてX偏波信号とY偏波信号を分離する際に、偏波モード分散によって偏波変動が生じ、信号波形が歪む。適応等化器70は、波長分散補償器60から出力された受信信号の偏波変動による歪みを補償する等化処理を行う。なお、偏波分離は最初に光受信機40で行われるが、適応等化器70でより完全に偏波分離が処理される。
【0032】
復号器80は、適応等化器70から出力された受信信号を復号し、元のデータ(すなわち、送信信号処理器10の入力データ)を再生する。
【0033】
[適応等化器の構成]
次に、本発明の実施の形態に係る適応等化器70の構成について説明する。図3に示すように、適応等化器70は、適応等化フィルタ71、第1のタップ係数更新器72、第2のタップ係数更新器73、偏波状態推定器74、及びステップサイズ更新器75を備えている。
【0034】
適応等化フィルタ71は、タップ係数を更新することで受信信号61(Xin(n)、Yin(n))の偏波変動による波形歪みを適応的に補償する回路である。この適応等化フィルタ71は、一般的なデジタルフィルタ、特にはFIRフィルタ(Finite Impulse Response Filter)で構成できる。
【0035】
図4に示す適応等化フィルタ71は、バタフライ型の回路構成を有する。すなわち、入力Xin(n)がFIRフィルタ91及びFIRフィルタ93に与えられる。また、入力Yin(n)がFIRフィルタ92及びFIRフィルタ94に与えられる。FIRフィルタ91の出力とFIRフィルタ92の出力が加算回路95で加算され、その加算結果が出力Xout(n)となる。また、FIRフィルタ93の出力とFIRフィルタ94の出力が加算回路96で加算され、その加算結果が出力Yout(n)となる。入力Xin(n)及び入力Yin(n)は、光受信機40で偏波分離され、波長分散補償器50で波長分散補償されたX偏波信号及びY偏波信号である。FIRフィルタ91、92、93、94に設定されるタップ係数をそれぞれhxx(n)、hxy(n)、hyx(n)、hyy(n)とすると、出力Xout(n)及び出力Yout(n)は下記の式で表される。但し、「*」は畳み込み演算を示す。nはデータのサンプル順を示す。なお、各タップ係数は、複数のタップ係数のグループである。
out(n)=hxx(n)*Xin(n)+hxy(n)*Yin(n)
out(n)=hyx(n)*Xin(n)+hyy(n)*Yin(n)
【0036】
この適応等化フィルタ71によって、偏波分離や波形歪の補償が実現される。偏波の状態が変動する場合、補償精度を向上するため、適応等化フィルタ71のタップ係数も偏波変動に応じて更新される必要がある。
【0037】
第1のタップ係数更新器72は、可変のステップサイズμを用いて受信信号61(Xin(n)、Yin(n))の偏波変動に応じたタップ係数を計算し、計算されたタップ係数で適応等化フィルタ71のタップ係数を更新する回路である。適応等化フィルタ71のタップ係数を計算するアルゴリズムとして例えばCMAが用いられ、下式によりタップ係数が更新される。但し、εx(n)及びεy(n)は誤差評価関数である。Xin*(n)及びYin*(n)は、FIRフィルタ91〜94の入力Xin(n)及びYin(n)の複素共役である。
xx(n+1)=hxx(n)+μεx(n)Xout(n)・Xin*(n)
xy(n+1)=hxy(n)+μεx(n)Xout(n)・Yin*(n)
yx(n+1)=hyx(n)+μεy(n)Yout(n)・Xin*(n)
yy(n+1)=hyy(n)+μεy(n)Yout(n)・Yin*(n)
【0038】
第1のタップ係数更新器72は、原則的には適応等化フィルタ71と同様のフィルタを有することができる。その場合、適応等化フィルタ71の出力Xout(n)及びYout(n)の供給を受けずに、当該第1のタップ係数更新器72の回路内でCMAの計算が可能である。勿論、適応等化フィルタ71の出力Xout(n)及びYout(n)の供給を受けることで、適応等化フィルタ71と同様のフィルタを有しない構成も可能である。
【0039】
なお、適応等化フィルタ71のタップ係数を求めるアルゴリズムは、CMAに限定されず、ステップサイズμを使用する各種の逐次更新アルゴリズム、例えば、その他のブラインド等化方式(RDE(Radius directed equalization)等)も使用可能である。更に、RLS(Recursive Least-Squares)やLMS(Least Mean Square)等のように、送信側でトレーニング信号又はパイロット信号等の既知信号を光信号に挿入し、伝送されてきた既知信号とこの既知信号の真値との比較誤差を最小化するようにタップ係数をステップサイズ毎に更新して求める逐次更新アルゴリズムを用いることもできる。第1のタップ係数更新器72の可変のステップサイズμは、後述するステップサイズ更新器75から供給される。
【0040】
第2のタップ係数更新器73は、固定のステップサイズμ0を用いて受信信号61(Xin(n)、Yin(n))の偏波変動に応じたタップ係数を計算する回路である。ここで計算されたタップ係数は、後述する偏波状態の推定に使用されるものであり、適応等化フィルタ71には供給されない。
【0041】
第2のタップ係数更新器73は、適応等化フィルタ71のタップ係数を計算するように第1のタップ係数更新器72と同じように構成されるが、高速な偏波変動を観測できるようにステップサイズμとして比較的大きめの固定ステップサイズμ0を用いている。この固定ステップサイズμ0は、使用される逐次更新アルゴリズムにおいて種々の偏波変動において最適な収束が得られるように経験的に求められたステップサイズである。特許文献3で求められるステップサイズを使用することも可能である。固定ステップサイズμ0は、例えば、後述するステップサイズ更新器75から第1のタップ係数更新器72に設定される可変のステップサイズμの想定される値の平均値よりも大きい値、或いは可変のステップサイズμの想定される最大値と最小値の中間値よりも大きい値に設定することができる。
【0042】
第2のタップ係数更新器73の計算にCMAを用いた場合、第1のタップ係数更新器72と同様に、以下の計算式によって、タップ係数が計算される。
xx(n+1)=hxx(n)+μ0εx(n)Xout(n)・Xin*(n)
xy(n+1)=hxy(n)+μ0εx(n)Xout(n)・Yin*(n)
yx(n+1)=hyx(n)+μ0εy(n)Yout(n)・Xin*(n)
yy(n+1)=hyy(n)+μ0εy(n)Yout(n)・Yin*(n)
【0043】
このようにして計算されたタップ係数が、偏波状態推定器74に供給される。第2のタップ係数更新器73の計算では、固定ステップサイズμ0が用いられるので、後述するステップサイズ更新器75からのステップサイズμに拠らず、タップ係数演算における収束性を安定的に確保できる。なお、第2のタップ係数更新器73でも、第1のタップ係数更新器72と同様に、タップ係数を求めるアルゴリズムは、CMAに限定されず、ステップサイズを使用する各種の逐次更新アルゴリズムが使用可能である。
【0044】
偏波状態推定器74は、第2のタップ係数更新器73で計算されたタップ係数を用いて、第2のタップ係数更新器73の入力信号の偏波状態SOPを推定する回路である。第2のタップ係数更新器73の入力信号は、適応等化フィルタ71及び第1のタップ係数更新器72の入力信号と同じく、受信信号61である。よって、偏波状態推定器74で推定された偏波状態SOPは、第1のタップ係数更新器に入力される受信信号61の偏波状態SOPでもある。
【0045】
偏波状態SOPの推定方法には複数の方法がある。例えば特許文献1に開示された方法を使用することができる。すなわち、適応等化フィルタ71のタップ係数から偏波状態SOPを示すストークスパラメータを求め、そのストークスパラメータから偏波状態変動量及びSOP変動速度を求める。光信号の偏波状態SOPを表現するストークスパラメータは、以下の式により計算できる。
1=cos(2φ)cos(2ψ)
2=sin(2φ)cos(2ψ)
3=sin(2φ)
【0046】
ここで、φ及びψは、X偏波について、次のように表される。
φx=tan-1(|hxy(f)|/|hxx(f)|),
ψx=tan-1(Im{hxy(f)/hxx(f)}/Re{hxy(f)/hxx(f)})
但し、hxx(f)及びhxy(f)は、周波数領域でのf=0における適応等化器70の係数のセントラルタップである。これはY偏波についても同様に適用できる。
【0047】
ある時刻t1からt2におけるΔt=t2−t1秒後の偏波状態変動量Δθは、ストークスベクトルS(t1)=[S1(t1),S2(t1),S3(t1)]とS(t2)=[S1(t2),S2(t2),S3(t2)]の内積で求められる。このため、SOP変動速度ωは、次のように計算できる。
ω=Δθ/Δt=cos-1(S(t1)・S(t2)/(|S(t1)||S(t2)|))/Δt
【0048】
偏波状態推定器74は、偏波状態SOPとしてSOP変動速度ωをステップサイズ更新器75に出力する。なお、偏波状態推定器74は、偏波状態SOPとして偏波状態変動量Δθを出力してもよい。Δtは設定値であるから、本明細書では、偏波状態変動量ΔθとSOP変動速度ωを同義として考える。
【0049】
また、偏波状態SOPの推定方法として、特許文献2に開示された方法を使用することもできる。すなわち、適応等化フィルタ71のタップ係数からSOP変動速度ωを直接求める。
【0050】
適応等化によって更新される適応等化器70のFIRフィルタ91〜94のタップ係数がストークスパラメータと関係性を有していることを利用する点は、特許文献1と同じである。特許文献2では更に、タップ係数の時間変化が、偏波状態の変動を示すことを利用している。偏波状態の変動S(n)は、タップ係数hxx,i、hxy,i、hyx,i、hyy,iを用いて、下式で示される。
【0051】
【数1】
【0052】
但し、MはFIRフィルタ91〜94のタップ数である。iはタップの順番を示す。Δhxx,i(n)、Δhxy,i、Δhyx,i、Δhyy,iは、タップ係数の時間変化量であり、それぞれ次のように表される。
Δhxx,i(n)=hxx,i(n)−hxx,i(n-1)
Δhxy,i(n)=hxy,i(n)−hxy,i(n-1)
Δhyx,i(n)=hyx,i(n)−hyx,i(n-1)
Δhyy,i(n)=hyy,i(n)−hyy,i(n-1)
【0053】
xx(n)は、タップ係数ベクトルhxxの各要素の時間変化量の絶対値を加算した値である。同様に、Sxy(n)、Syx(n)、Syy(n)もタップ係数ベクトルhxy、hyx、hyyの各要素の時間変化量の絶対値を加算した値である。上式により変動S(n)を算出し、算出された変動S(n)の周期を算出する。変動S(n)の周期の逆数(周波数)を算出することにより、偏波状態のSOP変動速度ωを推定できる。あるいは、変動S(n)に対してフーリエ変換を行い、偏波状態のSOP変動速度ωを推定してもよい。推定されたSOP変動速度ωは、偏波状態推定器74の出力として、ステップサイズ更新器75に供給される。
【0054】
偏波状態推定器74の出力のイメージを図5示す。これは、所定の偏波変動速度で偏波状態がランダムに変化するようにコントロールされた受信信号61(偏波スクランブラと称する)を生成して適応等化装置70に供給した場合に、偏波状態推定器74から出力される偏波状態変動量Δθを時間に対して描いたイメージである。この図によると、偏波状態変動量Δθは、所定の偏波変動速度の周期T毎にピークを発生することが分る。従って、このピークの周期Tを検出することでも、SOP変動速度ωは推定可能である。なお、SOP変動速度ωが速い場合、SOP変動速度ωが遅い場合と比較して、所定の時間幅における偏波状態変動量Δθのピークの数が多くなる傾向にあることが実験的に把握されている。
【0055】
偏波状態推定器74における偏波状態SOPの推定方法は、適応等化フィルタ71のタップ係数を用いた方法であればどの方法も利用可能であり、上記の方法に限定されない。
【0056】
ステップサイズ更新器75は、偏波状態推定器74で推定された偏波状態に対応したステップサイズμを求め、そのステップサイズμで第1のタップ係数更新器72の可変のステップサイズμを更新する回路である。要するに、ステップサイズ更新器75は、偏波状態推定器74から出力されるSOP変動速度ωに応じて、第1のタップ係数更新器72のCMAのステップサイズμを適応制御する。
【0057】
特許文献1によると、あるSOP変動速度ωでSOP変動が生じている受信信号61に適応等化処理を適用した際に、符号誤り率BERが最小となる最適なステップサイズは、以下の関係式で近似できる。但し、A及びBは0でない定数である。
μ=(Aω)1/2+B
【0058】
この関係式を用いることで、適応等化フィルタ71に入力される受信信号61のSOP変動速度ωに対応するステップサイズμを決定することが可能となる。なお、定数A、Bは、特許文献1では、デジタル信号処理によって適応的に求められることが示されている。上記の関係式によると、小さなSOP変動速度ωに対しては、比較的小さなステップサイズμが得られ、大きなSOP変動速度ωに対しては、比較的大きなステップサイズμが得られる。なお、上記の関係式の代わりに、近似式を用いることも可能である。多少の誤差は、許容可能である。
【0059】
事前の測定により、偏波状態変動量Δθ及びSOP変動速度ωの少なくとも一方に対し、最適な誤り率特性が得られるステップサイズμの値を求め、その対応関係を図6に示すメモリ97に記憶させておいてもよい。これにより、ステップサイズ更新器75は、偏波状態推定器74の推定結果に基づいて、適切なステップサイズμを即座に選択することができる。
【0060】
この場合、偏波状態変動量Δθ及び/又はSOP変動速度ωの所定範囲毎に、ステップサイズμを対応づけてもよい。言い換えると、偏波状態変動量Δθ及び/又はSOP変動速度ωに対してある程度幅を持たせてステップサイズμを記憶させてもよい。これにより、メモリ量を低減することができる。また、そのような幅を設けることで、第2のタップ係数更新器73のタップ係数の計算や偏波状態推定器74の偏波状態変動量Δθ及びSOP変動速度ωの計算精度を吸収(容認)することができる。
【0061】
偏波状態推定器74から出力されるSOP変動速度ωが低速の場合(例えば0.1kHz程度以下)、タップ係数の更新毎に偏波状態推定器74の出力にバタつきが見られる。このため、偏波状態推定器74で推定される偏波状態変動量Δθ及びSOP変動速度ωの各々を平均化してステップサイズ更新器75に供給することが好ましい。この際、偏波状態変動量Δθ及びSOP変動速度ωの各々を、移動平均(例えば32ビット分)するとより好ましい。これにより、ステップサイズ更新器75によるステップサイズμの設定のバタつきを防ぐことができる。このような平均化を行うには、偏波状態推定器74に図7に示すような移動平均回路98を設ければよい。この移動平均回路98は、受信信号61の偏波状態の推定値の移動平均を求め、求められた平均値をステップサイズ更新器75に供給する回路である。偏波状態推定器74とステップサイズ更新器75との間に、移動平均回路98と同様の機能を有する回路を設けてもよい。
【0062】
先に、偏波状態推定器74における偏波状態SOPの推定方法に関し、図5を参照して、偏波状態変動量Δθのピークの周期TからSOP変動速度ωを推定する方法について説明した。この偏波状態変動量Δθのピークの検出に際しては、ヒステリシス特性を持たせることが好ましい。例えば、図5において、偏波状態変動量Δθが指定期間内に設定閾値を指定回数超えたらピークとして検出し、設定閾値以下を指定回数下回るとピークの検出待ちの状態にする。もちろん、設定閾値及び指定回数はピーク検出状態とピーク検出待ち状態で必ずしも同じである必要はない。これにより、ピーク検出によるSOP変動速度ωの推定結果においても、ステップサイズ更新器75によるステップサイズμの設定においても、バタつきを防ぐことができる。このようなピーク検出を行うには、偏波状態推定器74に図7に示すようなピーク検出回路99を設ければよい。このピーク検出回路99は、推定された偏波状態変動量Δθからヒステリシス特性を利用してピークを検出する回路である。
【0063】
[適応等化器の動作]
次に、本発明の実施の形態に係る適応等化器70の動作を比較例と比較して説明する。図8に示す適応等化器の比較例は、特許文献1に開示されているデジタル信号処理部を本実施の形態に係る適応等化器70の機能と整合させて書き直したものである。比較例では、偏波状態推定器174の推定計算に使用されるタップ係数が、ステップサイズ更新器175によってステップサイズμが適応制御されるタップ係数更新器175から供給される。それ以外の構成は、適応等化器70の構成と同じである。
【0064】
比較例では、適応等化フィルタ171のタップ係数がタップ係数更新器172によって計算される。受信信号161の偏波状態の変動が小さくなると、タップ係数更新器172で計算されるタップ係数の変化も小さくなる。このタップ係数が偏波状態推定器174に供給され、偏波状態が推定される。この場合、タップ係数の変化が小さいため、偏波状態変動量ΔθやSOP変動速度ωは小さな値として推定される。ステップサイズ更新器175には小さな値として推定されたSOP変動速度ωが供給されるので、比較的小さなステップサイズが算出され、タップ係数更新器172のステップサイズμとして設定される。
【0065】
結果的に、受信信号161の偏波状態変動量ΔθやSOP変動速度ωが小さいと推定された場合、比較的小さなステップサイズμが設定される。偏波変動が小さい場合は、高速の追従性を必要としないため、ステップサイズμは小さくてもよい。
【0066】
次に、その後、受信信号161の偏波状態の変動が大きくなった場合について考える。上述したように比較的小さなステップサイズμがタップ係数更新器172に一旦設定されると、その後に偏波状態の変動が大きくなっても、ステップサイズμが小さいため偏波状態の変動に追従できず、適正なタップ係数が計算できない。偏波状態推定器174には適正なタップ係数が供給されないため、適正な偏波状態が推定できず、ステップサイズも適正な値が設定されない。その結果、タップ係数の更新の追従性が遅くなるという問題が発生する。
【0067】
これに対し、本実施の形態では、適応等化フィルタ71のタップ係数が、まず第1タップ係数更新器72によって計算される。受信信号61の偏波状態の変動が小さくなると、第1のタップ係数更新器72で計算されるタップ係数の変化も小さくなる。また、同時に第2のタップ係数更新器73によってもタップ係数が計算され、受信信号61の偏波状態の変動が小さくなると、第2のタップ係数更新器73で計算されるタップ係数の変化も小さくなる。
【0068】
この第2のタップ係数更新器73で計算されたタップ係数が偏波状態推定器74に供給され、偏波状態が推定される。この場合、タップ係数の変化が小さいため、偏波状態変動量ΔθやSOP変動速度ωは小さな値として推定される。ステップサイズ更新器75には小さな値として推定されたSOP変動速度ωが供給されるので、比較的小さなステップサイズが算出され、第1のタップ係数更新器72のステップサイズμとして設定される。
【0069】
結果的に、受信信号61の偏波状態変動量ΔθやSOP変動速度ωが小さいと推定された場合、比較的小さなステップサイズμが設定される。偏波変動が小さい場合は、高速の追従性を必要としないため、ステップサイズμは小さくてもよい。
【0070】
次に、その後、受信信号61の偏波状態の変動が大きくなった場合について考える。本実施の形態では、偏波状態は、第2のタップ係数更新器73で計算されたタップ係数から推定される。第2のタップ係数更新器73には予め比較的大きな固定のステップサイズμ0が設定されているため、偏波状態の変動の大小に関わらずタップ係数は比較的大きなステップサイズμ0で更新される。従って、第2のタップ係数更新器73は、タップ係数を高速に求めることができる。高速に求められたタップ係数が偏波状態推定器74に供給され、偏波状態も高速に推定でき、偏波状態の大きな変動に対応したステップサイズμが第1のタップ係数更新器72に設定できる。その結果、タップ係数の更新の安定的な追従性が確保できる。
【0071】
なお、ステップサイズμ0が比較的大きな固定値のため、タップ係数の計算精度の多少の劣化が予想される。しかし、上述したとおり、ステップサイズ更新器75のメモリ97において、各ステップサイズに対応づけられるSOP変動速度ωに幅を持たせることで、タップ係数の計算精度の劣化を吸収することが可能となる。
【0072】
以上示したように、本実施の形態では、第2のタップ係数更新器73が常に比較的大きい値に固定されたステップサイズを用いてタップ係数を計算し、偏波状態推定器74が第2のタップ係数更新器73によって更新されたタップ係数を用いて偏波状態を推定する。従って、偏波状態が大きく変動した場合でも、常に偏波状態を高速に追従でき、偏波状態の変動量に応じたステップサイズμをタップ係数更新の計算に使用できる。その結果、偏波状態の変動に追従した安定な適応等化を実現できる。
【0073】
なお、図3に示した適応等化器70を構成するエレメント71〜75は、ハードウェアでディスクリートに構成することができる。また、エレメント71〜75の一部又は全部の機能を、コンピュータをプログラムに従って動作させることによって実現することも可能である。
【符号の説明】
【0074】
10…送信信号処理器、11a…水平偏波用データ、11b…垂直偏波用データ、20…光送信機、21…信号光源(信号LD)、22a,22b…90゜合成器、23…偏波合成器、30…光ファイバ伝送路、40…光受信機、41…偏波分離器、42…局部発振光源(局発LD)、43a,43b…90゜ハイブリッド回路、44…光電変換器、45a…X偏波信号、45b…Y偏波信号、50…AD変換器、60…波長分散補償器、61…受信信号、70…適応等化器、71…適応等化フィルタ、72…第1のタップ係数更新器、73…第2のタップ係数更新器、74…偏波状態推定器、75…ステップサイズ更新器、80…復号器、91〜94…FIRフィルタ、95,96…加算回路、97…メモリ、98…移動平均回路、99…ピーク検出器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8