特許第6876135号(P6876135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6876135無段変速機の制御装置及び無段変速機の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876135
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】無段変速機の制御装置及び無段変速機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/04 20060101AFI20210517BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20210517BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20210517BHJP
   F16H 61/686 20060101ALI20210517BHJP
   F16H 61/16 20060101ALI20210517BHJP
   F16H 59/18 20060101ALI20210517BHJP
   F16H 59/70 20060101ALI20210517BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20210517BHJP
   B60W 10/11 20120101ALI20210517BHJP
【FI】
   F16H61/04
   F16H63/50
   F16H61/662
   F16H61/686
   F16H61/16
   F16H59/18
   F16H59/70
   B60W10/00 106
   B60W10/04
   B60W10/11
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-540835(P2019-540835)
(86)(22)【出願日】2018年8月7日
(86)【国際出願番号】JP2018029539
(87)【国際公開番号】WO2019049583
(87)【国際公開日】20190314
【審査請求日】2020年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2017-173689(P2017-173689)
(32)【優先日】2017年9月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 翔
(72)【発明者】
【氏名】古口 幸司
(72)【発明者】
【氏名】小松 真琴
(72)【発明者】
【氏名】信川 隆
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/045964(WO,A1)
【文献】 特開2011−021716(JP,A)
【文献】 特開2017−110795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
B60W 10/04
B60W 10/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと駆動輪との間に配置され、変速比を無段階に変化させることができるバリエータと、前記バリエータに対して直列に設けられ、前進用変速段として第1変速段と該第1変速段よりも変速比の小さな第2変速段とを有する副変速機を備えた無段変速機の制御装置であって、
前記副変速機を前記第1変速段から前記第2変速段にアップシフトする際、前記エンジンに対してトルクダウン要求を出力し、
トルクダウン要求中であって、前記副変速機のイナーシャフェーズが開始する前に、運転者がアクセルペダルを踏み込んだ場合、前記アップシフトをキャンセルするとともに、前記バリエータのダウンシフトを開始し、
トルクダウン要求中に、前記バリエータでダウンシフトするときの変速速度を、非トルクダウン要求中に前記バリエータでダウンシフトするときの変速速度よりも遅くする無段変速機の制御装置。
【請求項3】
エンジンと駆動輪との間に配置され、変速比を無段階に変化させることができるバリエータと、前記バリエータに対して直列に設けられ、前進用変速段として第1変速段と該第1変速段よりも変速比の小さな第2変速段とを有する副変速機を備えた無段変速機の制御方法であって、
前記副変速機を前記第1変速段から前記第2変速段にアップシフトする際、前記エンジンに対してトルクダウン要求を出力し、
トルクダウン要求中であって、前記副変速機のイナーシャフェーズが開始する前に、運転者がアクセルペダルを踏み込んだ場合、前記アップシフトをキャンセルするとともに、前記バリエータのダウンシフトを開始し、
トルクダウン要求中に、前記バリエータでダウンシフトするときの変速速度を、非トルクダウン要求中に前記バリエータでダウンシフトするときの変速速度よりも遅くする無段変速機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機の制御装置及び無段変速機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、副変速機を直列に接続した無段変速機(以下、「バリエータ」という。)において、副変速機の変速段を変更する際、駆動源のトルクを規制値以下となるように制限するトルクダウンを行う技術を開示している。
【0003】
ここで、目標タービン回転数は、アクセル踏み込み量の増加に伴って上昇するため、バリエータは目標タービン回転数を実現する変速比に向けてダウンシフトする。その際、駆動源からバリエータに入力されるトルクが、トルクダウンにより、バリエータのダウンシフトで生じるイナーシャトルクより小さくなると、加速度の低下が生じるという問題があった。本発明の目的は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、エンジンがトルクダウン中に、バリエータのダウンシフトを行う際、加速度の低下を抑制可能な無段変速機の制御装置を提供することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−209946号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明では、エンジンに対してトルクダウン要求中に、バリエータでダウンシフトするときの変速速度は、非トルクダウン要求中にバリエータでダウンシフトするときの変速速度よりも遅くした。
【0006】
よって、バリエータのダウンシフトで生じるイナーシャトルクを抑制でき、加速度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1に係る無段変速機を搭載した車両の概略構成を示す図である。
図2】実施例1に係る変速機コントローラの内部構成を示す図である。
図3】実施例1に係る変速マップの一例を示す図である。
図4】実施例1の変速速度設定処理を表す制御ブロック図である。
図5】実施例1の変速速度制限値マップである。
図6】実施例1の変速速度設定処理を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施例1〕
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最Low変速比」は当該変速機構の最大変速比を意味し、「最High変速比」は当該変速機構の最小変速比を意味する。図1は本発明の実施例1に係る無段変速機を搭載した車両の概略構成図である。この車両は動力源としてエンジン1を備える。エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、バリエータ20、副変速機30(以下、バリエータ20と副変速機30を合わせて、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。
【0009】
また、車両には、エンジン1を制御するエンジンコントローラ1a、エンジン1の動力の一部を利用して駆動されるオイルポンプ10と、オイルポンプ10からの油圧を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11と、油圧制御回路11を制御する制御装置としての変速機コントローラ12とが設けられている。
【0010】
各構成について説明すると、変速機4は、バリエータ20と、バリエータ20に対して直列に設けられる副変速機30とを備える。「直列に設けられる」とは同動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機30が直列に設けられるという意味である。副変速機30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。
【0011】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備えるベルト式無段変速機である。プーリ21、22は、それぞれ固定円錐板と、この固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、この可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比vRatioが無段階に変化する。
【0012】
副変速機30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機30の変速段が変更される。例えば、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33とRevブレーキ34を解放すれば副変速機30の変速段は1速となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32とRevブレーキ34を解放すれば副変速機30の変速段は1速よりも変速比が小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32とHighクラッチ33を解放すれば副変速機30の変速段は後進となる。なお、以下の説明では、副変速機30の変速段が1速であるとき「変速機4が低速モードである」と表現し、2速であるとき「変速機4が高速モードである」と表現する。図2は、実施例1に係る変速機コントローラ12の内部構成を示す図である。変速機コントローラ12は、図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0013】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの開度(以下、「アクセル開度APO」という。)を検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ21の回転速度、以下、「プライマリ回転速度Npri」という。)を検出する回転速度センサ42の出力信号、車両の走行速度(以下、「車速VSP」という。)を検出する車速センサ43の出力信号、変速機4の油温を検出する油温センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号などが入力される。
【0014】
記憶装置122には、変速機4の変速制御プログラム、この変速制御プログラムで用いる変速マップ(図3)が格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されている変速制御プログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して変速制御信号を生成し、生成した変速制御信号を出力インターフェース124を介して油圧制御回路11に出力する。
【0015】
また、副変速機30でアップシフトを行う際、副変速機30への入力トルクを抑制するトルクダウン要求値をエンジンコントローラ1aに出力する。トルクダウン要求値とは、アクセルペダルの踏み込み量に応じて設定されるエンジントルクの上限値を表す値であり、副変速機30のイナーシャフェーズの進行を促すために実施される。また、トルクダウン要求中は、トルクダウン要求中フラグがONとなり、非トルクダウン要求中は、トルクダウン要求中フラグがOFFとなる。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0016】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、変速機コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにオイルポンプ10で発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比vRatio、副変速機30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0017】
図3は変速機コントローラ12の記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。この変速マップ上では変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとに基づき決定される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比vRatioに副変速機30の変速比subRatioを掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比Ratio」という。)を表している。この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8のときの変速線)、パーシャル線(アクセル開度APO=4/8のときの変速線)、コースト線(アクセル開度APO=0のときの変速線)のみが示されている。
【0018】
変速機4が低速モードのときは、変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる低速モード最Low線とバリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる低速モード最High線の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードのときは、変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる高速モード最Low線とバリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる高速モード最High線の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0019】
副変速機30の各変速段の変速比は、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとりうる変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である低速モードレシオ範囲と高速モードでとりうる変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である高速モードレシオ範囲とが部分的に重複し、変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域にあるときは、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0020】
変速機コントローラ12は、この変速マップを参照して、車速VSP及びアクセル開度APO(車両の運転状態)に対応するスルー変速比Ratioを到達スルー変速比DRatioとして設定する。この到達スルー変速比DRatioは、当該運転状態でスルー変速比Ratioが最終的に到達すべき目標値である。そして、変速機コントローラ12は、スルー変速比Ratioを所望の応答特性で到達スルー変速比DRatioに追従させるための過渡的な目標値である目標スルー変速比tRatioを設定し、スルー変速比Ratioが目標スルー変速比tRatioに一致するようにバリエータ20及び副変速機30を制御する。
【0021】
そして、変速機4の動作点がB領域からA領域へ移動した場合には、変速機コントローラ12は副変速機30のダウンシフト制御とバリエータ20のアップシフト制御を、あるいは、変速機4の動作点がB領域からC領域へ移動した場合には、変速機コントローラ12は副変速機30のアップシフト制御とバリエータ20のダウンシフト制御を開始する。すなわち、変速機コントローラ12は、副変速機30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比vRatioを副変速機30の変速比subRatioが変化する方向と逆の方向に変化させる協調変速制御を行う。
【0022】
協調変速制御では、変速機4の動作点がB領域からC領域へ移動した場合には、変速機コントローラ12は、副変速機30の変速段を1速から2速に変更(以下、「1−2変速」という。)するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを変速比大側に変化させる。逆に、変速機4の動作点がB領域からA領域へ移動した場合には、変速機コントローラ12は、副変速機30の変速段を2速から1速に変更(以下、「2−1変速」という。)するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを変速比小側に変化させる。協調変速制御を行うのは、変速機4のスルー変速比Ratioの段差により生じる入力回転の変化に伴う運転者の違和感を抑えるためである。
【0023】
(トルクダウン要求中の変速速度設定処理)
副変速機30を1速から2速に変更するときは、Lowブレーキ32を解放し、Highクラッチ33を締結するいわゆる架け替え制御が実施される。具体的には、Lowブレーキ32の締結容量を、完全締結容量から、現在のエンジントルクを伝達可能なギリギリの容量まで低下させる。そして、Highクラッチ33の締結容量を徐々に上昇させつつ、Lowブレーキ32の締結容量を徐々に低下させる。これにより、変速比を1速から2速へと徐々に変更するイナーシャフェーズを行う。このとき、イナーシャフェーズにおいて、エンジン回転数を引き下げる必要があるが、エンジン1から入力されるトルクが大きすぎると、変速を進行させることが難しい。また、Lowブレーキ32の締結容量をギリギリに低下させた際、エンジン回転数が吹き上がるおそれもある。そこで、エンジンコントローラ1aにトルクダウン要求値を出力し、イナーシャフェーズを促す。
【0024】
図3の変速マップに示すように、例えばB領域のP点で示す動作点で走行している状態から、車速VSPの上昇に伴って動作点がC領域に移行し、副変速機30の変速段を1速から2速へアップシフトする要求が出力されると共に、トルクダウン要求値が出力される。このトルクダウン要求値は、エンジン1から出力するトルクの上限値として要求される。次に、トルクダウン要求中であって、イナーシャフェーズが開始する前に、運転者のチェンジマインドによって、運転者がアクセルペダルを踏み込んだ場合、動作点がB領域のQ点に移行し、1速から2速へのアップシフトをキャンセルする1→2キャンセル線を跨ぐと、副変速機30でのアップシフトがキャンセルされると共に、バリエータ20のダウンシフトが開始される。
【0025】
このとき、トルクダウン要求中にバリエータ20のダウンシフトを行うには、バリエータ20よりもエンジン側の回転数(以下、入力側回転数と記載する。)を上昇させる必要がある。ここで、バリエータ20の変速速度を通常制御において設定される変速速度とすると、入力側回転数の急激な上昇に伴うイナーシャトルク(以下、単にイナーシャトルクと記載する。)の増大によって、トルクダウン要求値をイナーシャトルクが上回る場合がある。そうすると、駆動輪7に出力されるトルクが減少し、加速度の急激な低下、すなわち引きショックを生じる場合があった(図6の前後Gにおける比較例参照)。そこで、実施例1では、トルクダウン要求中にバリエータ20のダウンシフトを行う場合には、通常制御時の変速速度よりも遅い変速速度に設定し、イナーシャトルクの増大を抑制することとした。
【0026】
図4は、実施例1の変速速度設定処理を表す制御ブロック図である。変速速度制限値演算部101では、図5に示す制限値マップから、トルクダウン要求値に基づいて変速速度制限値を演算する。図5は、実施例1の変速速度制限値マップである。トルクダウン要求値が小さいときは、イナーシャトルクがトルクダウン要求値を上回りやすいため、変速速度を小さく制限する。一方、トルクダウン要求値が大きいほど、変速速度が高くなるように制限する。これにより、入力トルクに応じた変速速度を実現できる。
【0027】
変速速度制限値設定部102では、トルクダウン要求中フラグがONのときは、変速速度制限値演算部101で演算された変速速度制限値を出力し、トルクダウン要求中フラグがOFFのときは、実質的に制限のかからない大きな値である所定値Tαを出力する。変速速度設定部103では、通常制御時に設定される通常変速速度と変速速度制限値設定部102で設定された値とを比較し、小さい方を変速速度として出力する。よって、トルクダウン要求中フラグがONのときは、通常変速速度よりも小さな変速速度制限値が出力される。一方、トルクダウン要求中フラグがOFFのときは、所定値Tαは通常変速速度よりも大きな値であるため、通常変速速度が出力される。
【0028】
図6は、実施例1の変速速度設定処理を表すタイムチャートである。尚、最初の走行状態は、図3の変速マップ中のB領域に示すP点の動作点である。時刻t1において、動作点がB領域からC領域に移行し、副変速機30にアップシフト指令が出力されると共に、トルクダウン要求値がエンジンコントローラ1aに出力される。よって、駆動輪7に出力されるトルクは、ドライバ要求トルクに比べて小さなトルクに制限される。時刻t2において、副変速機30のイナーシャフェーズが開始する前に、運転者がアクセルペダルを踏み込み、動作点がC領域からB領域に移行すると、副変速機30でのアップシフトがキャンセルされる。そして、バリエータ20のダウンシフトが開始される。このとき、変速速度に制限を掛けない比較例の場合、イナーシャトルクが一気に増大するため、駆動輪7に出力されるトルクが急減し、それに伴って前後加速度が変動しながら増大してしまう。これに対し、実施例1では、変速速度に制限がかかっているため、イナーシャトルクが急激に増大することがなく、駆動輪7に出力されるトルクが安定するため、引きショックを抑制できる。
【0029】
以上説明したように、実施例1にあっては、以下の作用効果を奏する。
(1)エンジン1と駆動輪7との間に配置され、変速比を無段階に変化させることができるバリエータ20の制御装置または制御方法であって、エンジン1に対してトルクダウン要求中に、バリエータ20でダウンシフトするときの変速速度は、非トルクダウン要求中にバリエータ20でダウンシフトするときの変速速度よりも遅い。
よって、エンジントルクがイナーシャトルクよりも小さくなる状況を回避することができ、加速度の低下を抑制できる。
(2)バリエータ20に対して直列に設けられ、前進用変速段として1速と2速を有する副変速機30を備えた。すなわち、アップシフトする際、トルクダウン要求が出力される。このとき、チェンジマインド等によってアップシフトを中止すると共にバリエータ20がダウンシフトする場面が生じたとしても、加速度の低下を抑制できる。
【0030】
以上、本発明を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0031】
例えば、上記実施例では、バリエータ20としてベルト式無段変速機構を備えているが、バリエータ20は、Vベルト23の代わりにチェーンがプーリ21、22の間に掛け回される無段変速機構であってもよい。あるいは、バリエータ20は、入力ディスクと出力ディスクの間に傾転可能なパワーローラを配置するトロイダル式無段変速機構であってもよい。
【0032】
また、上記実施形態では、副変速機30は前進用の変速段として1速と2速の2段を有する変速機構としたが、副変速機30を前進用の変速段として3段以上の変速段を有する変速機構としても構わない。また、副変速機30をラビニョウ型遊星歯車機構を用いて構成したが、このような構成に限定されない。例えば、副変速機30は、通常の遊星歯車機構と摩擦締結要素を組み合わせて構成してもよいし、あるいは、ギヤ比の異なる複数の歯車列で構成される複数の動力伝達経路と、これら動力伝達経路を切り換える摩擦締結要素とによって構成してもよい。また、プーリ21、22の可動円錐板を軸方向に変位させるアクチュエータとして油圧シリンダ23a、23bを備えているが、アクチュエータは油圧で駆動されるものに限らず電気的に駆動されるものあってもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6