(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876146
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】遠心圧縮機及びこの遠心圧縮機を備えたターボチャージャ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/44 20060101AFI20210517BHJP
【FI】
F04D29/44 U
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-553678(P2019-553678)
(86)(22)【出願日】2017年11月20日
(86)【国際出願番号】JP2017041708
(87)【国際公開番号】WO2019097730
(87)【国際公開日】20190523
【審査請求日】2019年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 岳
【審査官】
田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−202323(JP,A)
【文献】
特開2015−183670(JP,A)
【文献】
特開平06−033898(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/071621(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラと、
前記インペラの外周側に渦巻き状のスクロール流路が形成されたハウジングと
を備える遠心圧縮機であって、
前記インペラの回転方向における前記スクロール流路の周方向位置を、前記スクロール流路の巻き終わりを基準とする角度位置で表し、該角度位置がθである周方向位置において前記インペラの回転軸線を含む平面によって前記スクロール流路を切断した場合の断面に対して、前記スクロール流路の断面積をAとし、前記回転軸線から前記スクロール流路の断面のスクロール中心までの距離をRとし、前記インペラの半径をrとして、
F(θ)=(A/R)/r
を定義すると、
0.35≦F(360°)≦0.65であり、
0.08×F(360°)≦F(60°)≦0.4×F(360°)であり、
前記θが60°から360°までの前記F(θ)の変化率である基準変化率Δを、
Δ=[F(360°)−F(60°)]/(360°−60°)
と定義すると、
前記スクロール流路は、60°から270°までの前記θの範囲内において少なくとも部分的に、前記基準変化率よりも小さい変化率で前記F(θ)が変化する第1領域を含み、
前記第1領域は、
前記F(θ)の変化率が減少する変化率減少領域と、
前記変化率減少領域の下流で前記F(θ)の変化率が増加する変化率増加領域と
を含む遠心圧縮機。
【請求項2】
前記変化率減少領域と前記変化率増加領域とは連続しており、前記変化率が減少から増加に転じる変曲位置は90°〜270°までの前記θの範囲内にある、請求項1に記載の遠心圧縮機。
【請求項3】
前記変曲位置の前記角度位置をθIPとし、
前記角度位置がθIPである周方向位置において前記インペラの回転軸線を含む平面によって前記スクロール流路を切断した場合の断面に対して、前記スクロール流路の断面積をAIPとし、前記回転軸線から前記スクロール流路の断面のスクロール中心までの距離をRIPとして、
FIP=(AIP/RIP)/r
を定義すると、
FIP<F(θIP)
である、請求項2に記載の遠心圧縮機。
【請求項4】
前記スクロール流路は、270°から360°までの前記θの範囲内において少なくとも部分的に、前記基準変化率よりも大きい変化率で前記F(θ)が変化する第2領域を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の遠心圧縮機。
【請求項5】
前記スクロール流路は、前記第2領域の下流側で前記θが360°となるまでの範囲において、前記基準変化率よりも小さい変化率で前記F(θ)が変化する第3領域を含む、請求項4に記載の遠心圧縮機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の遠心圧縮機を備えたターボチャージャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遠心圧縮機及びこの遠心圧縮機を備えたターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遠心圧縮機の作動領域の拡大が求められている。例えば、自動車エンジンでは、低速度領域における燃費改善・加速度性能向上が求められており、これに伴い、ターボチャージャにも低速・小流量側の作動領域の拡大が求められている。特許文献1には、小流量側の作動領域を拡大する目的ではないが、周方向に沿ってスクロール流路の断面積の拡大率を変化させることによって、舌部の影響により舌部と圧縮空気との間に発生した剥離に起因する損失を低減して効率を向上した遠心圧縮機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/132528号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
遠心圧縮機において小流量側の作動領域では、スクロール流路内に剥離が発生してスクロール流路内の流れの通過面積を減少させることにより、剥離発生箇所の内部流速が急増し、内部流動のエントロピーが増加するため、遠心圧縮機の効率が低下する。また、スクロール流路内に発生した剥離は、ディフューザー流路内に流入してディフューザー流路を塞ぐため、ディフューザー流路内の内部流動を悪化させて遠心圧縮機の効率を低下させ、さらにはサージングを発生させる。しかしながら、特許文献1に記載の遠心圧縮機の構成は、このような小流量側の作動領域での作動に起因する効率低下の要因を解決するためのものではなく、特許文献1に記載される剥離の発生範囲は、小流量側の作動領域での剥離の発生範囲とは異なるので、小流量側の作動領域を拡大することはできない。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、小流量側の作動領域を拡大した遠心圧縮機及びこの遠心圧縮機を備えたターボチャージャを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の少なくとも1つの実施形態に係る遠心圧縮機は、
インペラと、
前記インペラの外周側に渦巻き状のスクロール流路が形成されたハウジングと
を備える遠心圧縮機であって、
前記インペラの回転方向における前記スクロール流路の周方向位置を、前記スクロール流路の巻き終わりを基準とする角度位置で表し、該角度位置がθである周方向位置において前記インペラの回転軸線を含む平面によって前記スクロール流路を切断した場合の断面に対して、前記スクロール流路の断面積をAとし、前記回転軸線から前記スクロール流路の断面のスクロール中心までの距離をRとし、前記インペラの半径をrとして、
F(θ)=(A/R)/r
を定義すると、
0.35≦F(360°)≦0.65であり、
0.08×F(360°)≦F(60°)≦0.4×F(360°)であ
り、
前記θが60°から360°までの前記F(θ)の変化率である基準変化率Δを、
Δ=[F(360°)−F(60°)]/(360°−60°)
と定義すると、
前記スクロール流路は、60°から270°までの前記θの範囲内において少なくとも部分的に、前記基準変化率よりも小さい変化率で前記F(θ)が変化する第1領域を含み、
前記第1領域は、
前記F(θ)の変化率が減少する変化率減少領域と、
前記変化率減少領域の下流で前記F(θ)の変化率が増加する変化率増加領域と
を含む。
【0007】
上記(1)の構成によると、0.35≦F(360°)≦0.65とすることにより、大流量側の作動領域における摩擦損失の増大と、小流量側の作動領域における失速による効率低下とのバランスをとることができる。また、0.08×F(360°)≦F(60°)≦0.4×F(360°)とすることにより、小流量側の作動領域において、角度位置が60°である周方向位置の近傍でスクロール流路からディフューザー流路に導入される再循環流れが確保されるので、この再循環流れによって、スクロール流路内に剥離が発生しにくくなる。この結果、スクロール流路内の剥離の発生が抑制されるので、小流量側の作動領域を拡大することができる。
【0009】
上記(
1)の構成によると、第1領域では、F(θ)が基準変化率で変化する場合に比べてスクロール流路の断面積の拡大率が小さくなっているので、第1領域においてスクロール流路内を流通する圧縮流体の流速の低下が抑えられる。このため、上記(1)の構成によって剥離が発生しにくい状態が形成された領域より下流側でも、剥離が発生しにくい状態が形成されるようになるので、スクロール流路内の剥離の発生をさらに抑制し、小流量側の作動領域をさらに拡大することができる。
【0011】
上記(
1)の構成によると、第1領域の上流側で圧縮流体の流速の低下が抑えられるのに対し、第1領域の下流側で圧縮流体の流速の低下が緩和される。遠心圧縮機が小流量側の作動領域で作動する場合、角度位置が90°から180°の範囲の周方向範囲内に剥離が発生するので、第1領域の上流側で圧縮流体の流速の低下を抑えることで、剥離が発生しにくい状態をより確実に形成することができる。
【0012】
(
2)いくつかの実施形態では、上記(
1)の構成において、
前記変化率減少領域と前記変化率増加領域とは連続しており、前記変化率が減少から増加に転じる変曲位置は90°〜270°までの前記θの範囲内にある。
【0013】
上記(
2)の構成によると、第1領域の上流側で圧縮流体の流速の低下を確実に抑えることができるので、剥離が発生しにくい状態をより確実に形成することができる。
【0014】
(
3)いくつかの実施形態では、上記(
2)の構成において、
前記変曲位置の前記角度位置をθ
IPとし、
前記角度位置がθ
IPである周方向位置において前記インペラの回転軸線を含む平面によって前記スクロール流路を切断した場合の断面に対して、前記スクロール流路の断面積をA
IPとし、前記回転軸線から前記スクロール流路の断面のスクロール中心までの距離をR
IPとして、
F
IP=(A
IP/R
IP)/r
を定義すると、
F
IP<F(θ
IP)
である。
【0015】
上記(
3)の構成によると、第1領域において、変曲位置に至る変化率減少領域では少なくとも、F(θ)が基準変化率で変化した場合よりもF(θ)が小さくなるので、第1領域において圧縮流体の流速の低下が抑えられる領域が確実に存在することになる。その結果、スクロール流路内の剥離の発生がさらに確実に抑制されて、小流量側の作動領域をさらに確実に拡大することができる。
【0016】
(
4)いくつかの実施形態では、上記(
1)〜(
3)のいずれかの構成において、
前記スクロール流路は、270°から360°までの前記θの範囲内において少なくとも部分的に、前記基準変化率よりも大きい変化率で前記F(θ)が変化する第2領域を含む。
【0017】
上記(
4)の構成によると、上記(
1)〜(
3)のいずれかの構成によって剥離が発生しにくい状態にした領域(第1領域)よりも下流の第2領域において、角度位置が60°から360°の範囲でF(θ)が基準変化率で増加する場合に比べて、圧縮流体の流速の低下が緩和されるので、十分な静圧回復を実現できる。
【0018】
(
5)いくつかの実施形態では、上記(
4)の構成において、
前記スクロール流路は、前記第2領域の下流側で前記θが360°となるまでの範囲において、前記基準変化率よりも小さい変化率で前記F(θ)が変化する第3領域を含む。
【0019】
上記(
5)の構成によると、上記(
1)の構成によって静圧回復が実現された領域よりも下流の第3領域において、角度位置が60°から360°の範囲でF(θ)が基準変化率で増加する場合に比べて、圧縮流体の流速の低下が抑えられるので、圧縮流体の流れをスクロール流路の出口に向かわせる慣性力を圧縮流体に与えることができる。この結果、スクロール流路からディフューザー流路への再循環流れが必要以上に増加することを抑制できるので、遠心圧縮機の効率低下を低減することができる。
【0020】
(
6)本開示の少なくとも1つの実施形態に係るターボチャージャは、
上記(1)〜(
5)のいずれかの遠心圧縮機を備える。
【0021】
上記(
6)の構成によると、遠心圧縮機の小流量側の作動領域を拡大することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示の少なくとも1つの実施形態によれば、0.35≦F(360°)≦0.65とすることにより、大流量側の作動領域における摩擦損失の増大と、小流量側の作動領域における失速による効率低下とのバランスをとることができる。また、0.08×F(360°)≦F(60°)≦0.4×F(360°)とすることにより、小流量側の作動領域において、角度位置が60°である周方向位置の近傍でスクロール流路からディフューザー流路に導入される再循環流れが確保されるので、この再循環流れによって、スクロール流路内に剥離が発生しにくくなる。この結果、スクロール流路内の剥離の発生が抑制されるので、小流量側の作動領域を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機の平面模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機のスクロール流路のF(θ)の変化を表すグラフである。
【
図3】本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機のスクロール流路のF(θ)の変化率の一例を示すグラフである。
【
図4】本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機のスクロール流路のF(θ)の変化率の別の例を示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機のスクロール流路のF(θ)の変化率のさらに別の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明のいくつかの実施形態について説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、本発明の範囲をそれにのみ限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0025】
以下に示す本開示のいくつかの実施形態に係る遠心圧縮機を、ターボチャージャの遠心圧縮機を例にして説明する。ただし、本開示における遠心圧縮機は、ターボチャージャの遠心圧縮機に限定するものではなく、単独で動作する任意の遠心圧縮機であってもよい。以下の説明において、この圧縮機によって圧縮される流体は空気であるが、任意の流体に置き換えることが可能である。
【0026】
図1に示されるように、遠心圧縮機1は、ハウジング2と、ハウジング2内で回転軸線Lを中心に回転可能に設けられたインペラ3とを備えている。ハウジング2は、インペラ3の外周側に渦巻き状のスクロール流路5が形成されたスクロール部4と、スクロール流路5の半径方向内側でスクロール流路5の周方向に沿ってスクロール流路5と連通するディフューザー流路7が形成されたディフューザー部6とを備えている。
【0027】
本開示において、スクロール部4の巻き終わりを基準とする周方向位置を、回転軸線Lを中心とする中心角すなわち角度位置θで表すこととする。したがって、巻き終わりの周方向位置を表す角度位置θは0°となる。ただし、巻き終わりからスクロール流路5に沿って一周して巻き終わりに戻ってきたことを意味するための巻き終わりの位置は、角度位置θ=360°と表される。また、周方向の任意の範囲は角度位置θの範囲によって表すことができ、角度位置θの範囲によって表される範囲を角度範囲と定義する。
【0028】
角度位置がθである周方向位置において回転軸線Lを含む平面によってスクロール流路5を切断した場合の断面に対して、スクロール流路5の断面積をAとし、回転軸線Lからスクロール流路5の断面のスクロール中心O
Sまでの距離をRとし、インペラ3の半径をrとして、
F(θ)=(A/R)/r
を定義する。
【0029】
遠心圧縮機1では、
角度位置θ=360°におけるF(θ)の値は、
0.35≦F(360°)≦0.65 ・・・(1)
となっている。
【0030】
また、遠心圧縮機1では、
角度位置θ=60°におけるF(θ)の値は、
0.08×F(360°)≦F(60°)≦0.4×F(360°) ・・・(2)
となっている。
【0031】
図2に示されるように、角度範囲が60°から360°までにおいて、スクロール流路5(
図1参照)は、F(θ)の値が斜線で示された範囲内で変化するように構成されている。
【0032】
尚、条件(1)は、F(360°)=0.5を中心とする±30%の範囲である。
図1に示されるように、遠心圧縮機1が大流量側の作動領域で動作すると、角度位置θ=360°において摩擦損失が増大するおそれがあり、遠心圧縮機1が小流量側の作動領域で動作すると、角度位置θ=360°において失速による効率低下が発生するおそれがある。F(θ)を条件(1)に設定することにより、大流量側の作動領域及び小流量側の作動領域で生じ得る上記課題のバランスをとることができる。
【0033】
また、小流量側の作動領域において、スクロール流路5内を流通する圧縮空気がスクロール流路5の流路面積の変化(流速の変化)とスクロール流路の曲率の変化(流通方向の変化)とに対応しきれずに、角度範囲90°から180°までの範囲においてスクロール流路5内に剥離が発生する。これに対し、条件(2)とすることにより、小流量側の作動領域において、角度位置が60°である周方向位置の近傍でスクロール流路5からディフューザー流路7に導入される再循環流れが確保されるので、この再循環流れによって、角度範囲90°から180°までの範囲においてスクロール流路5内に剥離が発生しにくくなる。この結果、スクロール流路5内の剥離の発生が抑制されるので、小流量側の作動領域を拡大することができる。
【0034】
尚、条件(2)は、F(60°)がF(360°)の8%〜40%であることを表しているが、F(60°)がF(360°)の8%未満では、再循環流れが十分に確保できないため、剥離の発生を十分に抑制することができない。また、F(60°)がF(360°)の40%よりも大きいと、再循環流れによる剥離の発生の抑制効果が頭打ちになり、再循環流れが多すぎることによるデメリットが大きくなる。
【0035】
次に、以下のいくつかの実施形態において、角度範囲が60°から360°までの範囲におけるF(θ)の変化の形態と、F(θ)の変化に起因する作用効果とを説明する。
図3に示されるように、角度範囲が60°から360°までの範囲においてF(θ)が一定に変化(増加)する場合の変化率を基準変化率Δとすると、
Δ=[F(360°)−F(60°)]/(360°−60°)
と定義される。すなわち、基準変化率Δは、
図3の一点鎖線で描かれた直線の傾きに相当する。
【0036】
一実施形態において、スクロール流路5(
図1参照)は、角度範囲θが60°から270°までの範囲内において、基準変化率Δよりも小さい変化率でF(θ)が変化する第1領域を含んでいる。ここで、F(θ)の変化率は、F(θ)の接線の傾きに相当する。尚、第1領域の下流端から角度位置θ=360°までの範囲は、F(θ)がどのように変化してもよい。第1領域では、F(θ)が基準変化率Δで変化する場合に比べてスクロール流路5の断面積の拡大率が小さくなっているので、第1領域においてスクロール流路5内を流通する圧縮空気の流速の低下が抑えられる。このため、F(60°)及びF(360°)の設定によって、スクロール流路5内に剥離が発生しにくい状態が形成された領域より下流側でも、剥離が発生しにくい状態が形成されるようになるので、スクロール流路5内の剥離の発生をさらに抑制し、小流量側の作動領域をさらに拡大することができる。
【0037】
尚、60°から270°までの角度範囲の全範囲において、F(θ)の変化率が基準変化率Δよりも小さくなっていてもよいし、60°から270°までの角度範囲の一部の範囲において、F(θ)の変化率が基準変化率Δよりも小さくなっていてもよい。後者の場合、F(θ)の変化率が基準変化率Δよりも小さくなっている領域が第1領域となる。したがって、スクロール流路5は、60°から270°までの角度範囲内において少なくとも部分的に第1領域を含んでいてもよい。
【0038】
この実施形態において、F(θ)の変化率が基準変化率Δよりも小さい条件を満たしていれば、どのような変化率でF(θ)が変化してもよい。その一例として
図3に、角度位置θとF(θ)の2階微分F”(θ)とのグラフが示されている。第1領域は、角度位置θが60°からα(<270°)までの範囲でF”(θ)<0となる変化率減少領域と、角度範囲αからβ(α<β≦270°)までの範囲でF”(θ)>0となる変化率増加領域とを含んでもよい。
【0039】
この構成によると、第1領域の上流側(60°からαまでの範囲)でF(θ)の変化率が低下しているので、圧縮空気の流速の低下が抑えられるのに対し、第1領域の下流側(αからβまでの範囲)でF(θ)の変化率が増加しているので、圧縮空気の流速の低下が緩和される。遠心圧縮機が小流量側の作動領域で作動する場合、角度位置が90°から180°の範囲の周方向範囲内に剥離が発生するので、第1領域の上流側で圧縮空気の流速の低下を抑えることで、剥離が発生しにくい状態をより確実に形成することができる。
【0040】
変化率減少領域と変化率増加領域との間にF”(θ)=0となる角度範囲が存在してもよいが、
図3の例では、変化率減少領域と変化率増加領域とは連続しており、変化率が減少から増加に転じる変曲位置IPは、90°〜270°までの角度範囲内にあってもよい。この構成によると、第1領域の上流側で圧縮空気の流速の低下を確実に抑えることができるので、剥離が発生しにくい状態をより確実に形成することができる。
【0041】
また、
図3の例では、変曲位置IPの角度位置θ
IP=αである周方向位置において回転軸線L(
図1参照)を含む平面によってスクロール流路5(
図1参照)を切断した場合の断面に対して、スクロール流路5の断面積をA
IPとし、回転軸線Lからスクロール流路5の断面のスクロール中心O
S(
図1参照)までの距離をR
IPとして、
F
IP=(A
IP/R
IP)/r
を定義すると、
F
IP<F(α)
となっていてもよい。
【0042】
この構成によると、第1領域において、変曲位置IPに至る変化率減少領域では少なくとも、F(θ)が基準変化率Δで変化した場合よりもF(θ)が小さくなるので、第1領域において圧縮空気の流速の低下が抑えられる領域が確実に存在することになる。その結果、スクロール流路5内の剥離の発生がさらに確実に抑制されて、小流量側の作動領域をさらに確実に拡大することができる。
【0043】
また、別の実施形態が
図4に示されている。
図4の実施形態は、
図3の実施形態に対し、第1領域の下流側におけるF(θ)の変化率を特定したものである。したがって、第1領域の構成は、
図3の実施形態と同じである。この実施形態では、第1領域に続いて角度位置θ=360°まで、すなわちβから360°までの角度範囲において、スクロール流路5(
図1参照)は、基準変化率Δよりも大きい変化率でF(θ)が変化する第2領域を含んでいる。第2領域では、F(θ)が基準変化率Δで変化する場合に比べてスクロール流路5の断面積の拡大率が大きくなっていることから、スクロール流路5内を流通する圧縮空気の流速の低下が緩和されるので、十分な静圧回復を実現できる。
【0044】
尚、
図4の実施形態では、βから360°までの角度範囲が第2領域であったが、この範囲に限定するものではない。少なくとも270°から360°までの角度範囲において、F(θ)が基準変化率Δよりも大きい領域があればよい。この場合、F(θ)の変化率が基準変化率Δよりも大きくなっている領域が第2領域となる。したがって、スクロール流路5は、270°から360°までの角度範囲内において少なくとも部分的に、基準変化率Δよりも大きい変化率でF(θ)が変化する第2領域を含んでいればよい。
【0045】
また、さらに別の実施形態が
図5に示されている。
図5の実施形態は、
図4の実施形態に対して、270°から360°までの範囲におけるF(θ)の変化率を変更したものである。この実施形態では、270°から360°までの範囲における第2領域は、角度範囲が60°から360°までの範囲においてF(θ)が基準変化率Δで変化(増加)する場合よりもF(θ)の値が大きくなる領域を含んでいる。第2領域に続いて角度位置θ=360°まで、すなわちγ(>270°)から360°までの角度範囲において、スクロール流路5(
図1参照)は、基準変化率Δよりも小さい変化率、
図5の実施形態では負の変化率でF(θ)が変化(減少)する第3領域を含んでいる。
【0046】
第3領域では、F(θ)が基準変化率Δで変化する場合に比べてスクロール流路5の断面積の拡大率が小さくなっているので、圧縮空気の流速の低下が抑えられて、圧縮空気の流れをスクロール流路5の出口に向かわせる慣性力を圧縮空気に与えることができる。この結果、スクロール流路5からディフューザー流路7(
図1参照)への再循環流れが必要以上に増加することを抑制できるので、遠心圧縮機1(
図1参照)の効率低下を低減することができる。
【0047】
図3〜5の各実施形態では、スクロール流路5は、角度範囲θが60°から270°までの範囲内において、基準変化率Δよりも小さい変化率でF(θ)が変化する第1領域を含んでいたが、角度範囲θが120°から270°までの範囲内に第1領域を含んでいてもよい。上述したように、小流量側の作動領域において角度範囲90°から180°までの範囲においてスクロール流路5内に剥離が発生するが、剥離が発生する範囲の前半、すなわち角度範囲が90°から120°までの範囲を含む領域では、上記条件(1)及び(2)の設定によって剥離の発生を抑制し、剥離が発生する範囲の後半、すなわち角度範囲が120°から180°までの範囲を含む領域では、F(θ)の変化率を基準変化率Δよりも小さくすることによって剥離の発生を抑制することができる。尚、この場合、
図3の実施形態における変曲位置IPは、180°〜270°までの角度範囲内にあればよい。
【0048】
このように、0.35≦F(360°)≦0.65とすることにより、大流量側の作動領域における摩擦損失の増大と、小流量側の作動領域における失速による効率低下とのバランスをとることができる。また、0.08×F(360°)≦F(60°)≦0.4×F(360°)とすることにより、小流量側の作動領域において、角度位置が60°である周方向位置の近傍でスクロール流路5からディフューザー流路7に導入される再循環流れが確保されるので、この再循環流れによって、角度範囲90°から180°までの範囲においてスクロール流路5内に剥離が発生しにくくなる。この結果、スクロール流路5内の剥離の発生が抑制されるので、小流量側の作動領域を拡大することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 遠心圧縮機
2 ハウジング
3 インペラ
4 スクロール部
5 スクロール流路
6 ディフューザー部
7 ディフューザー流路
IP 変曲位置
O
S スクロール中心
Δ 基準変化率
θ 角度位置