【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)「環境中病原性微生物の迅速定量装置の実用化開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PCRに用いられる反応処理容器には、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域と、所定量の試料を分注するための分注領域とを備える流路が形成されているものがある。分注領域には、所定量の試料を規定するための分注流路と、分注流路から分岐する支流路と、支流路の端に配置された試料導入口とが形成される。分注領域の分注流路に充填された試料はサーマルサイクル領域に移動されてPCRに供されるが、支流路に試料が残留している可能性がある。
【0007】
試料のサーマルサイクル中には、ヒータにより流路のサーマルサイクル領域が加熱されているが、このサーマルサイクル領域に与えられている熱量が、分注領域に伝達する可能性がある。サーマルサイクル領域から伝達された熱量により、試料導入口に存在する空気が温度上昇して膨張すると、支流路の残留試料が膨張した空気により流路に押し出される可能性がある。すなわち、流路には、分注されたPCRに供される試料(「主試料」と称する)と、残留試料とが離間して存在することとなる。このように流路に主試料と残留試料とが離間して存在している場合、流路内を加圧しても推進力が主試料に好適に作用せず、主試料の移動を適切に行うことができない可能性がある。このように主試料の移動を適切に行うことができないと、安定したPCRを行うことができない可能性がある。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、試料の移動を適切に行って、安定したPCRを行うことができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の反応処理装置は、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域と、所定量の試料を分注するための分注領域とを備える流路が形成された反応処理容器であって、分注領域が、所定量の試料を規定するための分注流路と、分注流路と連通する試料導入口とを備える反応処理容器と、試料を流路内で移動および停止させる送液手段と、サーマルサイクル領域および分注領域の温度を制御する温度制御手段とを備える。温度制御手段は、試料にサーマルサイクルを与えているときの試料導入口付近の温度である動作時温度が、分注領域に試料が導入されているときの試料導入口付近の温度である初期温度よりも低くなるよう、分注領域の温度を制御する。
【0010】
初期温度は、室温よりも高い温度に設定されてもよい。
【0011】
サーマルサイクル領域と分注領域は、隣接して配置されてもよい。
【0012】
分注領域は、分注流路から分岐する支流路をさらに備えてもよい。試料導入口は、支流路の端に配置されてもよい。
【0013】
支流路は、分注流路から分岐する第1支流路および第2支流路を含んでもよい。試料導入口は、第1支流路の端に配置された第1試料導入口と、第2支流路の端に配置された第2試料導入口とを含んでもよい。
【0014】
本発明の別の態様は、反応処理方法である。この方法は、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域と、所定量の試料を分注するための分注領域とを備える流路が形成された反応処理容器であって、分注領域が、所定量の試料を規定するための分注流路と、分注流路と連通する試料導入口とを備える反応処理容器を準備するステップと、試料導入口から分注流路内に試料を導入するステップと、反応処理容器を反応処理装置にセットするステップと、試料にサーマルサイクルを与えているときの試料導入口付近の温度である動作時温度が、分注領域に試料が導入されているときの試料導入口付近の温度である初期温度よりも低くなるよう、分注領域の温度を制御するステップと、流路内の圧力を制御することで、サーマルサイクル領域内で試料を移動させるステップとを備える。
【0015】
温度を制御するステップにおいて、初期温度は、室温よりも高い温度に設定されてもよい。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、分注方法である。この方法は、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域と、所定量の試料を分注するための分注領域とを備える流路が形成された反応処理容器であって、分注領域が、所定量の試料を規定するための分注流路と、分注流路と連通する試料導入口とを備える反応処理容器を準備するステップと、試料導入口から分注流路内に試料を導入するステップとを備える。
【0017】
試料を導入するステップの後、試料導入口を封止するステップをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、試料の移動を適切に行って、安定したPCRを行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る反応処理装置について説明する。この反応処理装置は、PCRを行うための装置である。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0021】
図1(a)および
図1(b)は、本発明の実施形態に係る反応処理装置で使用可能な反応処理容器10を説明するための図である。
図1(a)は、反応処理容器10の平面図であり、
図1(b)は、反応処理容器10の正面図である。
図2は、
図1(a)に示す反応処理容器10のA−A断面図である。
図3は、
図1(a)に示す反応処理容器10のB−B断面図である。
図4は、反応処理容器10が備える基板14の平面図である。
【0022】
反応処理容器10は、下面14aに溝状の流路12が形成された樹脂性の基板14と、基板14の下面14a上に貼られた、流路12を封止するための流路封止フィルム16と、基板14の上面14b上に貼られた2枚の封止フィルム(第1封止フィルム18および第2封止フィルム20)とから成る。
【0023】
基板14は、温度変化に対して安定で、使用される試料溶液に対して侵されにくい材質から形成されることが好ましい。さらに、基板14は、成形性がよく、透明性やバリア性が良好で、且つ、低い自家蛍光性を有する材質から形成されることが好ましい。このような材質としては、ガラス、シリコン(Si)等の無機材料をはじめ、アクリル、ポリエステル、シリコーンなどの樹脂、中でもシクロオレフィンポリマー樹脂(COP)が好適である。基板14の寸法の一例は、長辺76mm、短辺26mm、厚み4mmである。
【0024】
基板14の下面14aには溝状の流路12が形成されている。本実施形態に係る反応処理容器10において、流路12の大部分は基板14の下面14aに露出した溝状に形成されている。金型等を用いた射出成形により容易に成形できるようにするためである。この溝を封止して流路として活用するために、基板14の下面14a上に流路封止フィルム16が貼られる。流路12の寸法の一例は、幅0.7mm、深さ0.7mmである。
【0025】
流路封止フィルム16は、一方の主面が粘着性を備えていてもよいし、押圧や紫外線などのエネルギー照射、加熱等により粘着性や接着性を発揮する機能層が一方の主面に形成されていてもよく、容易に基板14の下面14aと密着して一体化できる機能を備える。流路封止フィルム16は、粘着剤も含めて低い自家蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィンポリマー、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また、流路封止フィルム16は、板状のガラスや樹脂から形成されてもよい。この場合はリジッド性が期待できることから、反応処理容器10の反りや変形防止に役立つ。
【0026】
基板14における流路12の一端12aの位置には、第1空気連通口24が形成されている。基板14における流路12の他端12bの位置には、第2空気連通口26が形成されている。一対の第1空気連通口24および第2空気連通口26は、基板14の上面14bに露出するように形成されている。
【0027】
基板14中における第1空気連通口24と流路12の一端12aとの間には、第1フィルタ28が設けられている。基板14中における第2空気連通口26と流路12の他端12bとの間には、第2フィルタ30が設けられている。流路12の両端に設けられた一対の第1フィルタ28および第2フィルタ30は、低不純物特性が良好であるほか、空気のみを通し、PCRによって目的のDNAの増幅やその検出を妨げないように、または目的のDNAの品質が劣化しないようにコンタミネーションを防止する。フィルタ材料としては、例としてポリエチレンを撥水処理したものを用いることができるが、上記の機能を備えるようなものであれば公知の材料から選択できる。第1フィルタ28および第2フィルタ30の寸法は、基板14に形成されたフィルタ設置スペースに隙間なく収まるような寸法に形成され、例えば直径4mm、厚さ2mmであってよい。
【0028】
図1(a)に示すように、流路12は、試料にサーマルサイクルを与えるためのサーマルサイクル領域32と、所定量の試料を抽出する所謂分注を行うための分注領域34とを備える。サーマルサイクル領域32は、流路12における第1空気連通口24側に位置している。分注領域34は、流路12における第2空気連通口26側に位置している。サーマルサイクル領域32と分注領域34は連通している。分注領域34で分注した試料をサーマルサイクル領域32に移動させて、サーマルサイクル領域32に含まれる所定の温度に維持された反応領域間を連続的に往復移動させることにより、試料にサーマルサイクルを与えることができる。
【0029】
流路12のサーマルサイクル領域32は、後述の反応処理装置に反応処理容器10が搭載された際に、比較的高温(約95℃)に設定される反応領域(以下「高温領域36」と称する)と、それより低温(約55℃)に設定される反応領域(以下、「中温領域38」と称する)と、高温領域36と中温領域38を接続する接続領域40とを含む。高温領域36は第1空気連通口24側に位置しており、中温領域38は第2空気連通口26側(言い換えると分注領域34側)に位置している。
【0030】
高温領域36および中温領域38はそれぞれ、曲線部と直線部とを組み合わせた連続的に折り返す蛇行状の流路を含んでいる。このように蛇行状の流路とした場合、後述の温度制御手段を構成するヒータ等の限られた実効面積を有効に使うことができ、反応領域内での温度のばらつきを低減することが容易であるとともに、反応処理容器の実体的な大きさを小さくでき、反応処理装置の小型化に貢献できるという利点がある。接続領域40は、直線状の流路であってよい。
【0031】
流路12の分注領域34は、サーマルサイクル領域32の中温領域38と第2フィルタ30との間に位置している。上述したように、分注領域34は、PCRに供される所定量の試料を抽出する分注機能を有する。分注領域34は、所定量の試料を規定するための分注流路42と、分注流路42から分岐する2つの支流路(第1支流路43および第2支流路44)と、第1支流路43の端に配置された第1試料導入口45と、第2支流路44の端に配置された第2試料導入口46とを備える。第1試料導入口45は、第1支流路43を介して分注流路42と連通している。第2試料導入口46は、第2支流路44を介して分注流路42と連通している。分注流路42は、最小限の面積で所定量の試料を分注するために蛇行状の流路とされている。第1試料導入口45および第2試料導入口46は、基板14の上面14bに露出するように形成されている。第1試料導入口45は比較的小径に形成され、第2試料導入口46は比較的大径に形成されている。第1支流路43が分注流路42から分岐する分岐点を第1分岐点431とし、第2支流路44が分注流路42から分岐する分岐点を第2分岐点441としたとき、PCRに供される試料の体積は第1分岐点431と第2分岐点441の間の分注流路42内の体積によって決まる。
【0032】
本実施形態においては、サーマルサイクル領域32と第2フィルタ30との間に分注領域34を設けたが、分注領域34の位置はこれに限定されず、サーマルサイクル領域32と第1フィルタ28の間に設けられてもよい。
【0033】
第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28、第2フィルタ30、第1試料導入口45および第2試料導入口46は、基板14の上面14bに露出している。そこで、第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28および第2フィルタ30を封止するために第1封止フィルム18が基板14の上面14bに貼り付けられる。第1試料導入口45および第2試料導入口46を封止するために第2封止フィルム20が基板14の上面14bに貼り付けられる。第1封止フィルム18および第2封止フィルム20を貼った状態では、全流路は閉空間となっている。
【0034】
第1封止フィルム18は、第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28および第2フィルタ30を同時に封止可能なサイズのものが用いられる。第1空気連通口24、第2空気連通口26への加圧式ポンプ(後述する)の接続は、ポンプ先端に備わった中空のニードル(先端がとがった注射針)で第1空気連通口24、第2空気連通口26に穿孔することにより行う。そのため、第1封止フィルム18は、ニードルによる穿孔が容易な材質や厚みから成るフィルムが好ましい。本実施形態では、第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28および第2フィルタ30を同時に封止するサイズの封止フィルムについて記載したが、これらを別個に封止する態様でもよい。また、第1空気連通口24、第2空気連通口26を封止しているフィルムを剥がして加圧式ポンプと接続してもよい。
【0035】
第2封止フィルム20は、第1試料導入口45および第2試料導入口46を封止可能なサイズのものが用いられる。第1試料導入口45および第2試料導入口46を通じての試料の流路12内への導入は、第2封止フィルム20を一旦、基板14から剥がして行い、所定量の試料の導入後には第2封止フィルム20を再び基板14の上面14bに戻し貼り付ける。そのため、第2封止フィルム20としては、数サイクルの貼り付け/剥がしに耐久するような粘着性を備えるフィルムが望ましい。また第2封止フィルム20は、試料導入後には新しいフィルムを貼り付ける態様であってもよく、この場合は繰り返しの貼り付け/剥がしに関する特性の重要性は緩和されうる。
【0036】
第1封止フィルム18および第2封止フィルム20は、流路封止フィルム16と同様に、一方の主面に粘着剤層が形成され、または押圧により粘着性や接着性を発揮する機能層が形成されていてもよい。第1封止フィルム18および第2封止フィルム20は、粘着剤も含めて低い自家蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィンポリマー、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン又はアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また上述したように複数回の貼り付け/剥離によっても、その粘着性等の特性が使用に影響をきたす程度に劣化しないことが望ましいが、剥離して試料等の導入後に、新たなフィルムを貼り付ける態様である場合は、この貼り付け/剥がしに関する特性の重要性は緩和されうる。
【0037】
次に、以上のように構成された反応処理容器10の使用方法について説明する。まず、サーマルサイクルにより増幅すべき試料を準備する。試料としては、例えば、一または二以上の種類のDNAを含む混合物に、PCR試薬として蛍光プローブ、耐熱性酵素および4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を添加したものがあげられる。さらに反応処理対象のDNAに特異的に反応するプライマーを混合する。市販されているリアルタイムPCR用試薬キット等も使用することができる。
【0038】
次に、第2封止フィルム20を基板14から剥がし、第1試料導入口45および第2試料導入口46を開放する。
【0039】
次に、試料導入口に試料をスポイトやシリンジ等で導入する。
図5は、試料50が反応処理容器10内に導入された様子を模式的に示す。試料50は、第1試料導入口45および第2試料導入口46のいずれか一方から分注流路42に導入される。導入の方法はこれらに限られないが、例えばピペットやスポイトで適量の試料50を直接導入してよい。ピペットで導入する場合、比較的小径の第1試料導入口45から試料50を導入する。この場合、試料50は、分注流路42内を第2試料導入口46に向かって充填される。スポイトで導入する場合、比較的大径の第2試料導入口46から試料50を導入する。この場合、試料50は、分注流路42内を第1試料導入口45に向かって充填される。いずれか一方の試料導入口から導入された試料のうち、支流路の体積を超えて余剰なものはもう一方の試料導入口に溜まる。それ故試料導入口部分を一種のサーバーとして活用する目的で、ある一定のスペースを有するように作製してもよい。後述するように、第1空気連通口24、第2空気連通口26からの加圧により、第1分岐点431および第2分岐点441間の分注流路42に充填された試料50がPCRに供されることになる。このように、反応処理容器10の分注領域34は、所定量の試料を抽出する分注機能を果たす。
【0040】
次に、第2封止フィルム20を再び基板14に貼り戻し、第1試料導入口45および第2試料導入口46を封止する。剥がした第2封止フィルム20に代えて、新たな第2封止フィルム20を貼ってもよい。以上で反応処理容器10への試料50の導入は完了である。
【0041】
図6は、反応処理容器の変形例を説明するための図である。
図6に示す反応処理容器60は、第1試料導入口45と第2試料導入口46が分注流路42に直結するように設けられている点が
図1(a)に示す反応処理容器10と異なる。すなわち、反応処理容器60は、支流路を備えておらず、第1試料導入口45および第2試料導入口46が分注流路42に直接連通している。また、反応処理容器60は、第1試料導入口45と第2試料導入口46に、余剰な試料を溜めることができる程度に、サーバーとしての一定のスペースを備えている。
【0042】
反応処理容器60の分注流路42も、所定量の試料を抽出する分注機能を果たす。反応処理容器60では、分注されない(PCRに供されない)試料は、第1試料導入口45と第2試料導入口46のいずれかに設けられたスペースに留まることになる。
【0043】
上記の反応処理容器における分注機能は、ピペット単体で試料を精密に分注しながら導入することを妨げるものではない。
【0044】
図7は、本発明の実施形態に係る反応処理装置100を説明するための模式図である。
【0045】
本実施形態に係る反応処理装置100は、反応処理容器10が載置される反応処理容器載置部(図示せず)と、温度制御システム102と、CPU105とを備える。温度制御システム102は、
図7に示すように、反応処理容器載置部に載置される反応処理容器10に対して、反応処理容器10の流路12における高温領域36を約95℃(高温領域)、中温領域38を約55℃に精度よく維持、制御できるように構成されている。
【0046】
温度制御システム102は、サーマルサイクル領域の各温度領域の温度を維持するものであって、具体的には、流路12の高温領域36を加熱するための高温用ヒータ104と、流路12の中温領域38を加熱するための中温用ヒータ106と、各温度領域の実温度を計測するための例えば熱電対等の温度センサ(図示せず)と、高温用ヒータ104の温度を制御する高温用ヒータドライバ108と、中温用ヒータ106の温度を制御する中温用ヒータドライバ110とを備える。さらに、本実施形態に係る反応処理装置100は、流路12の分注領域34を加熱するための分注用ヒータ112と、分注用ヒータ112の温度を制御する分注用ヒータドライバ114とを備える。温度センサによって計測された実温度情報は、CPU105に送られる。CPU105は、各温度領域の実温度情報に基づいて、各ヒータの温度が所定の温度となるよう各ヒータドライバを制御する。各ヒータは例えば抵抗加熱素子やペルチェ素子等であってよい。温度制御システム102はさらに、各温度領域の温度制御性を向上させるための他の要素部品を備えてもよい。
【0047】
本実施形態に係る反応処理装置100は、さらに、試料50を反応処理容器10の流路12内で移動および停止させるための送液システム120を備える。送液システム120は、第1ポンプ122と、第2ポンプ124と、第1ポンプ122を駆動するための第1ポンプドライバ126と、第2ポンプ124を駆動するための第2ポンプドライバ128と、第1チューブ130と、第2チューブ132とを備える。
【0048】
反応処理容器10の第1空気連通口24には、第1チューブ130の一端が接続される。第1空気連通口24と第1チューブ130の一端の接続部には、気密性を確保するためのパッキン134やシールが配置されることが好ましい。第1チューブ130の他端は、第1ポンプ122の出力に接続される。同様に、反応処理容器10の第2空気連通口26には、第2チューブ132の一端が接続される。第2空気連通口26と第2チューブ132の一端の接続部には、気密性を確保するためのパッキン136やシールが配置されることが好ましい。第2チューブ132の他端は、第2ポンプ124の出力に接続される。
【0049】
第1ポンプ122、第2ポンプ124は、例えばダイアフラムポンプからなるマイクロブロアポンプであってよい。第1ポンプ122、第2ポンプ124としては、例えば株式会社村田製作所製のマイクロブロアポンプ(型式MZB1001T02)などを使用することができる。このマイクロブロアポンプは、動作時に一次側より二次側の圧力を高めることができるが、停止した瞬間または停止時には一次側と二次側の圧力が等しくなる。
【0050】
CPU105は、第1ポンプドライバ126、第2ポンプドライバ128を介して、第1ポンプ122、第2ポンプ124からの送風や加圧を制御する。第1ポンプ122、第2ポンプ124からの送風や加圧は、第1空気連通口24、第2空気連通口26を通じて流路12内の試料50に作用し、推進力となって試料50を移動させる。より詳細には、第1ポンプ122、第2ポンプ124を交互に動作させることにより、試料50のいずれかの端面にかかる圧力が他端にかかる圧力より大きくなるため、試料50の移動に係る推進力が得られる。第1ポンプ122、第2ポンプ124を交互に動作させることによって、試料50を流路内で往復式に移動させて、反応処理容器10の流路12の各温度領域に繰り返し曝すことができ、その結果、試料50にサーマルサイクルを与えることが可能となる。より具体的には、高温領域において変性、中温領域においてアニーリング・伸長の各工程を繰り返し与えることにより、試料50中の目的のDNAを選択的に増幅させる。言い換えれば高温領域は変性温度域、中温領域はアニーリング・伸長温度域とみなすことができる。また各温度領域に滞留する時間は、試料50が各温度領域の所定の位置で停止する時間を変えることによって適宜設定することができる。
【0051】
本実施形態に係る反応処理装置100は、さらに、蛍光検出器140を備える。上述したように、試料50には所定の蛍光プローブが添加されている。DNAの増幅が進むにつれ試料50から発せられる蛍光信号の強度が増加するので、その蛍光信号の強度値をPCRの進捗や反応の終端の判定材料としての指標とすることができる。
【0052】
蛍光検出器140としては、非常にコンパクトな光学系で、迅速に測定でき、かつ明るい場所か暗い場所かにもかかわらず、蛍光を検出することができる日本板硝子株式会社製の光ファイバ型蛍光検出器FLE−510を使用することができる。この光ファイバ型蛍光検出器は、その励起光/蛍光の波長特性を試料50の発する蛍光特性に適するようにチューニングしておくことができ、様々な特性を有する試料について最適な光学・検出系を提供することが可能であり、さらに光ファイバ型蛍光検出器によってもたらされる光線の径の小ささから、流路などの小さいまたは細い領域に存在する試料からの蛍光を検出するのに適している。
【0053】
光ファイバ型の蛍光検出器140は、光学ヘッド142と、蛍光検出器ドライバ144と、光学ヘッド142と蛍光検出器ドライバ144とを接続する光ファイバ146とを備える。蛍光検出器ドライバ144には励起光用光源(LED、レーザその他特定の波長を出射するように調整された光源)、光ファイバ型合分波器及び光電変換素子(PD,APD又はフォトマル等の光検出器)(いずれも図示せず)等が含まれており、これらを制御するためのドライバ等からなる。光学ヘッド142はレンズ等の光学系からなり、励起光の試料への指向性照射と試料から発せられる蛍光の集光の機能を担う。集光された蛍光は光ファイバ146を通じて蛍光検出器ドライバ144内の光ファイバ型合分波器により励起光と分けられ、光電変換素子によって電気信号に変換される。
【0054】
本実施形態に係る反応処理装置100においては、高温領域と中温領域とを接続する流路内の試料50からの蛍光を検出することができるように光学ヘッド142が配置される。試料50は流路内を繰り返し往復移動させられることで反応が進み、試料50に含まれる所定のDNAが増幅するので、検出された蛍光の量の変動をモニタリングすることで、DNAの増幅の進度をリアルタイムで知ることができる。また、本実施形態に係る反応処理装置100においては、後述するように、蛍光検出器140からの出力値を利用して、試料50の移動制御に活用する。蛍光検出器は、試料からの蛍光を検出する機能を発揮するものであれば光ファイバ型蛍光検出器に限定されない。
【0055】
図8は、本実施形態に係る反応処理装置で解決すべき課題を説明するための図である。
図8に示す反応処理容器10では、分注領域34の第1分岐点431および第2分岐点441間の分注流路42に充填された試料50が、サーマルサイクル領域32に移動されている。具体的には、試料50が充填された反応処理容器10を反応処理装置100にセットし、第2ポンプ124のみを作動させることにより、分注領域34内の試料50をサーマルサイクル領域32に推進させる。その後、上述したように、第1ポンプ122、第2ポンプ124(
図7参照)を交互に動作させることによって、試料50を流路12内で往復式に移動させて、高温領域36と中温領域38とを連続的に往復移動させることにより、試料50にサーマルサイクルを与えることができる。
【0056】
高温領域36と中温領域38との間での往復移動中(すなわちPCRのサーマルサイクル中)には、中温領域38に与えられている熱量が、隣接する分注領域34に伝達する可能性がある。上記において、
図5を参照して、分注領域34の第1分岐点431および第2分岐点441間の分注流路42に充填された試料50がPCRに供される(以下、PCRに供される試料50のことを適宜「主試料50」と称する)ことを説明したが、第1支流路43、第2支流路44、第1試料導入口45、第2試料導入口46にPCRに供されることを予定せず、分注されない試料が残留している場合がある(以下、適宜「残留試料」と称する)。中温領域38から伝達された熱量により、第1試料導入口45、第2試料導入口46と第2封止フィルム20との間に閉じ込められた空気が温度上昇して膨張すると、第1支流路43、第2支流路44の残留試料が膨張した空気により流路12に押し出される可能性がある。
図8には、流路12に押し出された残留試料70が図示されている。なお、
図8に示す残留試料70は、中温領域38に近い第2支流路44に残留したものであるが、当然ながら、中温領域38から伝達される熱量によっては、第1支流路43の残留試料72が流路12に押し出される可能性もある。
【0057】
図8に示すように、主試料50と残留試料70は離間しており、該離間部分には空気が存在している。本発明者は、このように流路12に主試料50と残留試料70とが存在している場合、主試料50を移動するために第1空気連通口24、第2空気連通口26から加圧を行っても、推進力が主試料50に好適に作用せず、主試料50の移動が停止する、または主試料50の移動速度が非常に遅くなることを見いだした。
【0058】
そこで、本実施形態に係る反応処理装置100では、温度制御システム102は、CPU105からの指示の下、主試料50にサーマルサイクルを与えているときの第1試料導入口45、第2試料導入口46付近の温度である動作時温度T
1が、分注領域34に試料が導入されているときの第1試料導入口45、第2試料導入口46付近の温度である初期温度T
0よりも低くなるよう(すなわち、T
1<T
0)、分注領域34の温度を制御する。これにより、主試料50のサーマルサイクル中に中温領域38からの熱量が第1試料導入口45、第2試料導入口46に伝達された場合であっても、第1試料導入口45、第2試料導入口46と第2封止フィルム20との間に閉じ込められた空気の膨張を抑制できるので、第1支流路43、第2支流路44の残留試料が流路12に押し出される事態を防止することができる。その結果、流路12には主試料50のみが存在することとなり、第1空気連通口24、第2空気連通口26からの加圧により主試料50の移動を適切に行って、安定したPCRを行うことができる。
【0059】
次に、本発明者が行った実験結果について説明する。
【0060】
(実験1)
分注領域34の分注流路42に試料を導入した反応処理容器10を用意し、反応処理装置100にセットした。そして、分注領域34の温度を40℃に設定した。分注領域34の温度が40℃に上がったことを確認した後10秒待って、第2空気連通口26から空気を送り込み、サーマルサイクル領域32に試料を移動開始したのとほぼ同時に(すなわち第2ポンプ124の作動とほぼ同時に)、分注領域34の温度設定を30℃に変更した。実験に使用した反応処理装置100の場合、通常1分程度で設定温度まで分注領域34の温度が下がる。その後、50サイクルのPCRを5回行ったところ、途中で試料が停止することなく、PCRが終了した。PCR終了後の反応処理容器10を観察したところ、残留試料が流路12に押し出される現象は確認されなかった。
【0061】
(実験2)
分注領域34の分注流路42に試料を導入した反応処理容器10を用意し、反応処理装置100にセットした。そして、分注領域34の温度を40℃に設定した。分注領域34の温度が40℃に上がったことを確認した後10秒待って、第2空気連通口26から空気を送り込み、サーマルサイクル領域32に試料を移動開始したのとほぼ同時に(すなわち第2ポンプ124の作動とほぼ同時に)、分注用ヒータ112をオフにした。このときの室温は18℃であった。その後、50サイクルのPCRを5回行ったところ、途中で試料が停止することなく、PCRが終了した。PCR終了後の反応処理容器10を観察したところ、残留試料が流路12に押し出される現象は確認されなかった。
【0062】
(比較実験)
分注領域34の分注流路42に試料を導入した反応処理容器10を用意し、反応処理装置100にセットした。そして、分注領域34の温度を40℃に設定した。分注領域34の温度が40℃に上がったことを確認した後、そのまま分注領域34が40℃の状態で50サイクルのPCRを行った。結果は、1回目は4サイクルで試料が停止、2回目は6サイクルで試料が停止、3回目は4サイクルで試料が停止した。反応処理容器10の観察によるところ、いずれの実験においても主試料から数mm〜数十mm離間して、1mm〜2mmの長さの押し出された残留試料が確認された。
【0063】
以上の実験結果から、本実施形態に係る反応処理装置100によれば、試料導入口付近の動作時温度T
1を初期温度T
0よりも低くすることで、残留試料が流路に押し出される事態を防止でき、主試料の移動を適切に行って安定したPCRを実行できることが分かる。
【0064】
上記実験では、試料導入口付近の初期温度T
0を室温(通常20℃前後)よりも高い温度(実験では40℃)に設定した。試料導入口付近の初期温度T
0を室温程度に設定した場合、T
1<T
0を満たすためには動作時温度T
1を室温よりも低い温度に制御する必要があるが、そのために冷却装置を用意しなければならない。一方、上記実験のように初期温度T
0を室温よりも高い温度に設定しておけば、分注用ヒータ112の設定温度を低くしたり、分注用ヒータ112をオフしたりすることで対応できるので、動作時温度T
1の制御が容易である。
【0065】
図9は、異なる実施形態に係る反応処理容器80を説明するための図である。本実施形態に係る反応処理容器80は、基板14におけるサーマルサイクル領域32と分注領域34との間に、切欠部82が形成されている点が
図1(a)に示す反応処理容器10と異なる。サーマルサイクル領域32と分注領域34との間に切欠部82を設けることにより、サーマルサイクル中に、サーマルサイクル領域32の中温領域38に与えられている熱量が分注領域34に伝達するのを防止できる。これにより、第1試料導入口45、第2試料導入口46と第2封止フィルム20との間に閉じ込められた空気が温度上昇して膨張するのを防止できるので、第1支流路43、第2支流路44の残留試料が膨張した空気により流路12に押し出されることを防ぐことができる。
【0066】
上述の実施形態では、反応処理装置100の温度制御システム102によって分注領域34の温度制御を行うことにより、第1支流路43、第2支流路44の残留試料が流路12に押し出されることを防止した。一方、本実施形態に係る反応処理容器80によれば、分注領域34の温度制御を行うことなく、残留試料が流路12に押し出されることを防止できる。
【0067】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。