(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0042】
積層型の従来の蒸着マスクにおいて、蒸着パターンの境界がぼけてしまう(蒸着ボケ)が生じる要因として、樹脂フィルムのたわみ、樹脂フィルムの加工時に発生するバリ等が挙げられる。樹脂フィルムのバリおよびたわみについて、本発明者が検討の結果、見出した知見を以下に説明する。
【0043】
<バリについて>
従来の方法では、
図21(c)および(d)を参照しながら説明したように、エタノールなどの液体88の表面張力によって樹脂フィルム81をガラス基板90に密着させた状態で、樹脂フィルム81の所定の領域(以下、「レーザ照射領域」と略する)にレーザ光Lを照射し、開口部89を形成する。本発明者が検討したところ、この方法では、樹脂フィルム81をガラス基板90に密着させる際に、ガラス基板90と樹脂フィルム81との界面に部分的に気泡が生じ、局所的に密着性が低くなるおそれがあることが分かった。さらに、本発明者は、樹脂フィルム81のあるレーザ照射領域の下方に気泡が存在していると、高い精度で開口部89を形成することが困難になるだけでなく、そのレーザ照射領域にバリが生成され易くなることを見出した。
図20を参照して詳しく説明する。
【0044】
図20(a)〜(d)は、ガラス基板90と樹脂フィルム81との間の気泡によってバリが生成される様子を説明するための模式的な断面図である。
図20では金属層および液体の図示を省略している。
【0045】
図20(a)に示すように、ガラス基板90などのサポート材上に、(例えば液体を介して)樹脂フィルム81を密着させる場合、ガラス基板90と樹脂フィルム81との間に部分的に隙間(気泡)94が生じ得る。この状態で、レーザアブレーション法により、樹脂フィルム81の加工(以下、単に「レーザ加工」と呼ぶことがある)を行うと、
図20(b)に示すように、樹脂フィルム81のうち気泡94上に位置する部分に、開口部を形成するためのレーザ照射領域92が配置される可能性がある。レーザ照射領域92には、例えば樹脂フィルム81の表面に焦点を合わせて、複数回のショットが行われる。
【0046】
レーザアブレーションは、固体の表面にレーザ光を照射したとき、レーザ光のエネルギーによって固体表面の構成物質が急激に放出される現象をいう。ここでは、放出される速度をアブレーション速度という。レーザ加工の際に、レーザ照射領域92において、エネルギーの分布に依存してアブレーション速度に分布が生じ、樹脂フィルム81の一部のみに先に貫通孔が形成される可能性がある。そうすると、
図20(c)に示すように、樹脂フィルム81のうち薄膜化された他の部分98は、樹脂フィルム81の裏側(すなわち、樹脂フィルム81とガラス基板90との間にある気泡94内)に折り返されてしまい、それ以上レーザ光Lで照射されなくなる。この結果、薄膜化された部分98が除去されずに残された状態で、開口部89が形成されてしまう。本明細書では、樹脂フィルム81のうち薄膜化された状態で残された部分98を「バリ」と呼ぶ。
【0047】
バリ98が樹脂フィルム81の裏面側に突出していると、蒸着マスクを蒸着対象基板に設置するときに、蒸着マスクの一部が蒸着対象基板から浮いてしまうことがある。このため、開口部89に対応した形状の蒸着パターンが得られない可能性がある。
【0048】
レーザ加工後に樹脂フィルム81のバリ98を取り除く処理(バリ取り工程)が行われることもある。例えば樹脂フィルム81の裏面を拭き取ること(ワイピング)が試みられている。しかしながら、バリ取り工程によって、樹脂フィルム81に生じたバリ98を全て取り除くことは難しい。また、
図20(d)に例示するように、ワイピングによって、一部のバリ98が開口部89の内部に突出するように戻されると、蒸着工程で、蒸着対象基板のうち開口部89で規定される領域の一部に蒸着材料が堆積されなくなる場合がある(「膜抜け」と呼ばれる。)。この結果、電極が露出し、短絡による点灯不良が生じる可能性がある。
【0049】
なお、上記では樹脂フィルムを例に説明したが、樹脂以外の材料からなるフィルムであっても、上記と同様の方法でレーザ加工を行えば、同様のバリが発生すると考えられる。
【0050】
<樹脂フィルムのたわみ>
従来の積層型マスクでは、樹脂フィルム、または樹脂フィルムと金属層(磁性金属体)との積層膜は、架張機等によって特定の層面内方向に引っ張られた状態で、フレームに固定されている(以下、「架張工程」と呼ぶ)。このようなマスクでは、樹脂フィルムに自重によるたわみが生じやすい。たわみが生じると、蒸着マスクと蒸着対象基板との間に隙間が形成され、蒸着ボケが生じる場合がある。
【0051】
特に、磁性金属体の開口部が大きくなると、この問題は顕著になる。例えば、より安価で簡便に蒸着マスクを製造するために、磁性金属体としてオープンマスクを使用する場合、オープンマスクの開口部は、1つのデバイスに対応する単位領域(アクティブエリア)Uに対応し、比較的大きいため、樹脂フィルムの自重によるたわみ量が増大しやすい。
【0052】
図22(a)は、参考例の蒸着マスク800を示す断面図である。蒸着マスク800は、磁性金属体(例えばオープンマスク)110と、磁性金属体110に接合された樹脂膜112とを有している。樹脂膜112のうち磁性金属体110の開口部内に位置する第1領域112aはたわみ(凹状に窪んだ部分)を有している。すなわち、樹脂膜112が上になるように蒸着マスク800を設置したとき、樹脂膜112の第1領域112aは、磁性金属体110の上面を含む基準面bsよりも下方に位置する。樹脂膜112のたわみ量(磁性金属体110の上面の高さh1と樹脂膜112の高さh2との差)Δhは、例えば、第1領域112aの略中央部で最大になる。
【0053】
蒸着を行う際には、
図22(b)に示すように、蒸着マスク800を、磁性金属体110の磁力によって蒸着対象基板114に固定する。このとき、樹脂膜112にたわみが存在していると、蒸着マスク800の樹脂膜112と蒸着対象基板114との間に隙間gが形成されてしまう。このため、特に磁性金属体110の中央部近傍で蒸着ボケが生じやすくなり、樹脂膜112の第1領域112aに形成された開口パターンに対応する蒸着パターンを形成することが困難になる。
【0054】
本発明者は、上記知見に基づいて検討した結果、ガラス基板などの支持基板上に樹脂層を形成し、支持基板上で樹脂層の加工(開口部の形成)を行うことで、バリの発生を抑えつつ高精度な加工が可能になること、および、樹脂層の形成条件によってたわみを低減できることを見出した(本出願人による未公開のPCT/JP2017/003409)。参考のため、PCT/JP2017/003409の記載内容の全てを本願に援用する。
【0055】
本発明者は、さらに検討を重ね、たわみに起因する蒸着ボケをより効果的に抑制することが可能な新規なマスク構造に想到した。
【0056】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0057】
(実施の形態)
<蒸着マスクの構造>
図1(a)および(b)を参照しながら、本発明の実施形態による蒸着マスク100を説明する。
図1(a)および(b)は、それぞれ蒸着マスク100を模式的に示す平面図および断面図である。
図1(b)は、
図1(a)中の1B−1B’線に沿った断面を示している。なお、
図1は、蒸着マスク100の一例を模式的に示すものであり、各構成要素のサイズ、個数、配置関係、長さの比率などは図示する例に限定されない。後述する他の図面でも同様である。
【0058】
蒸着マスク100は、磁性金属体20と、磁性金属体20の主面20s上に配置された積層体10とを備える。積層体10と磁性金属体20との間の少なくとも一部に位置する接着層50をさらに備えてもよい。接着層50は、積層体10と磁性金属体20とを接合する層である。
【0059】
蒸着マスク100は、積層体10と磁性金属体20とが積み重ねられた構造を有する積層型マスクである。以下では、積層体10および磁性金属体20を含む構造体30を「マスク体」と呼ぶことがある。
【0060】
マスク体30の周縁部には、フレーム40が設けられていてもよい。フレーム40は、磁性金属体20における主面20sと反対側の面に接合されていてもよい。
【0061】
磁性金属体20は、少なくとも1つの開口部(以下、「第1開口部」と呼ぶ)25を有している。この例では、磁性金属体20は、複数(6つ)の第1開口部25を有している。磁性金属体20のうち第1開口部25の周辺に位置し、金属の存在している部分(隣接する第1開口部25の間に位置する部分も含む)21を「中実部」と呼ぶ。磁性金属体20はオープンマスク構造を有していてもよい。つまり、1つのデバイスに対応する単位領域Uに対して1つの開口部を有していてもよい。
【0062】
後述するように、蒸着マスク100を用いて蒸着工程を行う際、蒸着マスク100は、磁性金属体20が蒸着源側、積層体10がワーク(蒸着対象物)側に位置するように配置される。磁性金属体20は磁性体であるので、磁気チャックを用いることにより、蒸着工程において蒸着マスク100をワーク上に簡便に保持および固定することができる。
【0063】
積層体10は、磁性金属体20の主面20s上に、第1開口部25を覆うように配置されている。積層体10は、第1層m1と、第1層m1と磁性金属体20との間に配置された第2層m2とを含む。なお、積層体10は3以上の積層構造を有してもよい。各層の詳細な構造は後述する。
【0064】
積層体10のうち各第1開口部25内に位置する領域10aを「第1領域」、蒸着マスク100の法線方向から見たとき、磁性金属体20の中実部21と重なっている領域10bを「第2領域」と称する。
【0065】
積層体10の第1領域10aには複数の開口部(以下、「第2開口部」)13が形成されている。複数の第2開口部13は、ワークに形成されるべき蒸着パターンに対応したサイズ、形状および位置に形成されている。この例では、各単位領域Uにおいて、複数の第2開口部13が所定のピッチで配列されている。隣接する2つの単位領域Uの間隔は、典型的には、単位領域U内における隣接する2つの第2開口部13の間隔よりも大きい。また、この例では、第1領域10a上には磁性金属は存在していない。
【0066】
積層体10の第2領域10bは、接着層50を介して、磁性金属体20の第1開口部25の周辺(中実部21)に接合されている。接着層50は、特に限定されないが、金属層であってもよい。例えば、積層体10の第2領域10b上にめっき等で金属層を形成し、金属層と磁性金属体20の中実部21とを溶接することによって、積層体10と磁性金属体20とが接合されていてもよい。あるいは、接着層50は接着剤で形成されてもよい。なお、積層体10は、上記に例示した方法で磁性金属体20に接合されていればよく、フレーム40とは直接接合されていなくてもよい。
【0067】
<積層体10>
図2は、積層体10の一部の模式的な拡大断面図である。ここでは、蒸着マスク100の温度が室温以上の温度(「第1の温度」)T1である場合の積層体10の断面を示す。第1の温度T1は、例えば、蒸着工程における蒸着マスクの温度であり、室温よりも高くてもよい。第1の温度T1は、60℃以下であってもよい。
【0068】
本実施形態では、積層体10は、第1層m1と、第1層m1の磁性金属体20側(蒸着源側)に配置された第2層m2とを含む。
【0069】
磁性金属体20の各第1開口部25内において、第1の温度T1における、第1層m1の弾性率E1、第1層m1の厚さa1、第1層m1が有する内部応力σ1、第2層m2の弾性率E2、第2層m2の厚さa2、第2層m2が有する内部応力σ2(ただし、σ1、σ2は引張応力のときに正)は、下記式(1)、(2)を満足する。
σ1/E1−σ2/E2<0・・・(1)
0<a1×σ1+a2×σ2・・・(2)
【0070】
式(2)は、第1層m1および第2層m2を含む積層体10の第1領域10aが、全体として、層面内方向に引張応力(引張の内部応力)を有することを表している。積層体10の第1領域10aが引張応力を有することで、積層体10の第1領域10aに自重によって生じるたわみを少なくとも低減できる。
【0071】
式(1)は、第1領域10aにおいて、第2層m2の引張応力の方向におけるひずみ量が、第1層m1の引張応力の方向におけるひずみ量よりも大きい(すなわち、第2層m2の方が収縮率が高い)ことを表している。
【0072】
積層体10の各層が式(1)、(2)を満たすことで、
図2に示したように、積層体10の各第1領域10aは、第1の温度T1で、第1層m1側に凸となるように反る。言い換えると、磁性金属体20の上方に積層体10が位置するように蒸着マスク100を配置したときに、積層体10の第1領域10aは凸状に(上に凸になるように)反る。積層体10の下面と磁性金属体20との接合面を含む面bsを基準面とすると、第1領域10a全体に亘って、積層体10の下面の高さh2は、基準面bsの高さh1以上であってもよい。第1領域10aの中央部近傍で、積層体10の下面の高さh2と基準面bsの高さh1との差Δh(=h2−h1>0)は最大であってもよい。
【0073】
一例として、第1層m1および第2層m2の熱応力を制御することによって、第1層m1側に凸となるように反った(凸面状になる)積層体10を形成できる。以下、図面を参照しながら説明する。
【0074】
図14(a)および
図14(b)は、それぞれ、温度T0および温度T1における積層体10を模式的に示す図である。温度T0は、積層体形成時の温度、すなわち2つの層m1、m2が界面で接合・固定された時の温度である。ただし、積層体10に樹脂層を用いるとき、そのガラス転移温度超では、応力は緩和されると考えられるので、温度T0をガラス転移温度Tgとすればよい。温度(第1の温度)T1は、蒸着時の温度、すなわち蒸着マスク100を使用して蒸着を行う際の蒸着マスク100の温度である。温度変化における積層体10の端部の変位量δを反り量とする。ここでは、積層体10が第2層m2側に凸となるように反るときの反り量δを正とする。積層体10が第1層m1側に凸となるように反る場合には、反り量δは負の値になる。反り量δを、バイメタルの反りの理論式を用いて求めると以下のようになる。
【0075】
バイメタルの反りの理論式は、チモシェンコ(Timoshenko)の理論に従えば、以下に示す式(3)及び式(4)で表される。
【数3】
【数4】
【0076】
ここで、E1、E2は第1層m1および第2層m2の弾性率、a1、a2は第1層m1および第2層m2の厚さ、α1、α2は第1層m1および第2層m2の線膨張係数αである。h、m、nは、それぞれ、h=a1+a2、m=a1/a2、n=E1/E2である。また、Lは積層体10の幅(磁性金属体20の第1開口部25の幅)に相当する。ρは積層体10の曲率、θは積層体10の反りを円弧と想定した場合の円弧に対する中心角の半分である。半径ρの円弧を考え、弦の長さをLとする。また、中心から弦の中央を通る垂直線を引くと、弦の中央から円弧の垂直線との交点までの長さが反り量δとなる。
【0077】
式(3)における(α2−α1)(T1−T0)は、下記の内部応力σ1、σ2
σ1=−α1×(T1−T0)×E1
σ2=−α2×(T1−T0)×E2
を用いると、下記の式(5)で表すことができる。ここで、内部応力σ1、σ2は、T0からT1へ温度が変化したとき各層に発生する熱応力に相当する。応力の符号は、各層において引張が正、圧縮を負とする。
【0078】
σ1/E1−σ2/E2 (5)
式(5)が負のとき(すなわち、式(2)σ1/E1−σ2/E2<0を満足するとき)、式(3)から算出される曲率ρは負となり、式(4)から求められる反り量δも負となる。従って、式(2)を満足すれば、積層体10が第1層m1側に凸となるように反る(δ<0)。
【0079】
なお、上記の説明において、内部応力σ1、σ2ともに、熱応力に起因するものを例示したが、一般に、膜が有する内部応力は、熱応力の他、例えば、膜が硬化性樹脂で形成されている場合には、硬化収縮による内部応力(引張応力)が発生する。また、無機膜においては、成膜条件(例えばCVD条件)によって圧縮応力または引張応力が成膜時に発生する。
【0080】
本実施形態によると、積層体10は蒸着対象基板側に凸となるような反りを有するので、蒸着時に蒸着マスク100を蒸着対象基板に密着させることが可能になる。従って、
図22(a)および(b)を参照しながら前述した、蒸着マスクと蒸着対象基板との隙間gに起因する蒸着ボケを抑制できる。
【0081】
図3(a)は、本実施形態の蒸着マスク100の模式的な断面図、
図3(b)は、蒸着マスク100を用いた蒸着工程を説明するための断面図である。
【0082】
図3(a)に示したように、蒸着マスク100の積層体10は、第1層m1と第2層m2との内部応力差により、蒸着対象基板側に凸となるような反り11を有する。このため、
図3(b)に示したように、蒸着対象基板70に、方向(蒸着方向)71から蒸着を行う際に、蒸着マスク100を磁性金属体20によって蒸着対象基板70に密着させると、積層体10の凸面状の反り11は蒸着対象基板70に押し付けられ、蒸着対象基板70と積層体10との間には隙間が形成されない(または隙間を小さくできる)。従って、蒸着ボケを抑制でき、所望の蒸着パターンを実現できる。
【0083】
また、本実施形態によると、たわみに起因する蒸着パターンのずれを抑制するために、積層体10の第1領域10a上に別途磁性金属を配置する必要がない。従って、金属膜の精密なパターニング工程が不要になり、従来よりも製造プロセスおよび製造コストを大幅に低減できる。
【0084】
後述するように、本実施形態では、積層体10は、ガラス基板などの支持基板上に、第1層m1および第2層m2の順で形成される。この後、支持基板上で積層体10に対してレーザ加工を行うことによって、第2開口部13を形成してもよい。支持基板と積層体10とは密着されており、両者の間には気泡が存在していない(あるいはほとんど存在していない)ため、積層体10のレーザ加工工程においてバリの発生が抑制される。これにより、第2開口部13の近傍に生じるバリの数(単位面積当たりの個数)を従来よりも大幅に低減できる。支持基板は、積層体10に第2開口部13が形成された後に積層体10から剥離される。この方法を用いる場合には、第1層m1として、レーザリフトオフ法等により支持基板から剥離することができる層を用いる。
【0085】
第1層m1、第2層m2は、上記式(1)、(2)を満たすものであれば、その材料、厚さ等は特に限定しない。
【0086】
第1層m1および第2層m2の材料は、有機材料でもよいし、無機材料もよい。ただし、レーザ加工によって積層体10に第2開口部13を形成する場合には、第1層m1および第2層m2の材料として、レーザ加工が可能な材料を用いる。
【0087】
第1層m1の材料として、ポリイミド、ポリオレフィン、フッ素系ポリマー、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂材料、グラファイト、モリブデンシリサイド膜、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、グラファイト、モリブデンシリサイド膜、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、ITOやゾルゲル法やポリシラザン法による塗布型の酸化シリコン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、ITOなどの無機材料(金属材料を除く)、ニッケル、インバー合金、スーパーインバー合金などの金属材料を用いることができる。また、シルセスキオキサン等の有機・無機複合材料でもよい。第2層m2の材料として、ポリイミド、ポリオレフィン、フッ素系ポリマー、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂材料、グラファイト、モリブデンシリサイド膜、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、ITOやゾルゲル法やポリシラザン法による塗布型の酸化シリコン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、ITOなどの無機材料(金属材料を除く)、ニッケル、インバー合金などの金属材料を用いることができる。また、シルセスキオキサン等の有機・無機複合材料でもよい。アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂材料は、熱硬化型であってもよいし、紫外線(UV)、電子線(EB)などの化学線を用いて硬化させる化学線硬化型であってもよい。
【0088】
第1層m1および第2層m2の形成方法も特に限定されない。塗布法、CVD法、プラズマCVD法、スパッタ法などの公知の成膜方法を用いて、支持基板上に形成され得る。第1層m1を形成する方法、形成温度などの形成条件は、第2層m2を形成する方法、形成条件などと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0089】
第1層m1および第2層m2の一方または両方は、樹脂層であってもよい。樹脂層の材料としては、例えばポリイミドを好適に用いることができる。ポリイミドは、強度、耐薬品性および耐熱性に優れる。樹脂層の材料として、ポリパラキシレン、ビスマレイミド、シリカハイブリッドポリイミドなどの他の樹脂材料を用いてもよい。樹脂層の面内の線熱膨張係数(以下、「熱膨張係数」と略す。)αR(ppm/℃)は、蒸着対象となる基板の熱膨張係数と同程度であることが好ましい。このような樹脂層は、樹脂材料、ベーク条件などの形成条件などによって形成され得る。
【0090】
樹脂層は、支持基板上に、樹脂材料を含む溶液(例えば可溶型ポリイミド溶液)または樹脂材料の前駆体を含む溶液(例えばポリイミドワニス)を付与し、熱処理を行うことによって形成された層であってもよい。ここでいう熱処理は、可溶型ポリイミド溶液を用いる場合には溶媒除去工程(例えば100℃以上)、ポリイミドワニスを用いる場合にはプリベークおよびベーク(熱硬化)工程(例えば300℃以上)を行うための熱処理を含む。このようにして形成された樹脂層は、層面内方向に引張応力(引張の内部応力)を有し得る(つまりσ>0)。樹脂層の引張応力は、例えば、支持基板上で樹脂層を形成する際の熱処理条件などによって制御され得る。上記方法で形成される樹脂層の厚さは、例えば3μm以上であってもよい。これにより、より均一な厚さの樹脂層が得られる。
【0091】
一般に、熱処理により支持基板上に樹脂層を形成する場合、樹脂層に生じる残留応力をできるだけ低減し得る条件で熱処理が行われる。樹脂層の残留応力(引張応力)が大きくなると、支持基板の反りなどの問題が生じ、形状安定性や信頼性が低下する要因となるからである。これに対し、本実施形態は、樹脂層に所定の引張応力を故意に生成させ、それを利用して、樹脂層を含む積層体10を所定の方向に凸状に反らせることができる。
【0092】
第1層m1および第2層m2は、同じ材料から形成されていてもよい。例えば、第1層m1および第2層m2として、温度条件を異ならせて、内部応力の異なるポリイミド層を形成してもよい。
【0093】
第1層m1としてポリイミド層を形成し、第2層m2として、紫外線(UV)、電子線(EB)などの化学線を用いて硬化させる化学線硬化型の樹脂材料を用いて樹脂層を形成してもよい。化学線硬化型の樹脂材料を用いると、熱によらずに第2層m2に応力を付与できるため、熱による第1層m1の内部応力の変化を回避できるというメリットがある。
【0094】
UV硬化型のアクリル樹脂材料を用いる場合、アクリル樹脂層の内部応力は、例えば、使用するUV硬化性アクリルモノマーの平均(メタ)アクリル当量(=分子量/(メタ)アクリロイル基の数)を調整することで制御され得る(「UVインクジェットインク塗膜の内部応力制御、Ricoh Technical Report、2014年1月、No.39、p.139−145」)。
【0095】
第1層m1および/または第2層m2として、無機材料層を形成してもよい。例えば、第1層m1として、ポリイミド層などの樹脂層を形成し、第2層m2として、スパッタ法などにより無機材料層(酸化チタン層など)を形成してもよい。
【0096】
無機材料層の内部応力は、無機材料の組成、無機材料層の形成方法および形成条件などによって制御され得る。例えば、酸化チタン層は、密度が低いほど引張応力を有し易い。「特集、化学薄膜;薄膜の機械的特性の最適化と光学薄膜材料、O plus E、2008年8月、vol.30、No.8、p.1−7」によると、例えば電子ビーム蒸着法を用いると、密度が低く、引張応力(0超0.5GPa未満)を示す酸化チタン層が得られる。
【0097】
無機材料層として窒化シリコン層を形成する場合、窒化シリコン層の形成方法によって、その組成比や不純物含有量が異なるので、窒化シリコン層の熱物性値が異なる。「豊田中央研究所R&Dレビュー、1993年3月、vol.34、No.1、p.19−24」には、スパッタリング法、LPCVD法、プラズマCVD法によって窒化シリコン層を形成したときの組成、弾性率、熱膨張係数などが記載されている。さらに、窒化シリコン層をCVD法で形成する場合、原料ガスにおけるSiの割合を大きくする(SiH
2Cl
2/NH
3比を大きくする)、あるいは、成膜温度を高くすることで、窒化シリコン層に生じる応力をプラス方向(引張応力が大きくなる方向)に増加させることができる。一例として、成膜温度を約854℃、原料ガス比SiH
2Cl
2:NH
3を5:1に設定すると、窒化シリコン層の内部応力σは約60MPa程度になる。
【0098】
第1層m1および/または第2層m2は金属層でもよい。金属層は、例えば、支持基板上に、スパッタ法、電解めっき、無電解めっきなどの方法で形成され得る。例えば、支持基板(例えば石英ガラス基板)上に、第1層m1としてスーパーインバー合金膜、第2層m2としてインバー合金膜を、それぞれ無電解めっきで形成してもよい。
【0099】
なお、支持基板上では、積層体10の第1層m1、第2層m2のそれぞれは応力分布を有する場合があるが、支持基板を剥離すると、積層体10の各層m1、m2の引張応力の大きさは平均化され、面内で略均一になり得る。従って、積層体10の第1領域10a内で、略等しい大きさの引張応力を有し得る。
【0100】
積層体10の厚さ(この例では、第1層m1と第2層m2との合計厚さ)は、特に限定されない。ただし、積層体10が厚すぎると、蒸着膜の一部が所望の厚さよりも薄く形成されてしまうことがある(「シャドウイング」と呼ばれる)。シャドウイングの発生を抑制する観点からは、積層体10の厚さは、第2開口部13のテーパ角にもよるが、25μm以下であることが好ましい。また、積層体10自体の強度および洗浄耐性の観点から、積層体10の厚さは3μm以上であることが好ましい。
【0101】
<磁性金属体20>
本実施形態は、例えばオープンマスクなどの、比較的大きいサイズの第1開口部25を有する磁性金属体20を使用する場合に特に有利である。第1開口部25の幅(短手方向に沿った長さ)は、例えば30mm以上、または50mm以上であってもよい。第1開口部25の幅の上限は特に限定しないが、例えば300mm以下であってもよい。第1開口部25のサイズが比較的大きい場合でも、積層体10の内在する引張応力により、積層体10に生じるたわみを低減できる。
【0102】
本実施形態では、磁性金属体20は、積層体10から面内方向に圧縮応力を受ける。なお、架張工程によって積層膜をフレームに固定する場合、金属膜および樹脂膜はともにフレームから面内方向に張力を受けており、樹脂膜が金属膜に圧縮応力を与える構成は得られない。また、樹脂膜のみを架張工程でフレームに固定する場合でも、樹脂膜は金属膜に密着されておらず、金属膜は樹脂膜から圧縮応力を受けないと考えられる。
【0103】
磁性金属体20の材料としては、種々の磁性金属材料を用いることができる。例えばNi、Cr、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などの熱膨張係数αMの比較的大きい材料を用いてもよいし、例えばFe−Ni系合金(インバー)、Fe−Ni−Co系合金など熱膨張係数αMの比較的小さい材料を用いてもよい。
【0104】
磁性金属体20の厚さは、特に限定されない。ただし、磁性金属体20が薄すぎると、磁気チャックの磁界から受ける被吸着力が小さくなり、蒸着工程において、蒸着マスク100をワーク上に保持することが困難になることがある。このため、磁性金属体20の厚さは5μm以上であることが好ましい。
【0105】
磁性金属体20の厚さは、蒸着工程におけるシャドウイングが生じない範囲内に設定されることが好ましい。従来の蒸着マスクでは、保持部材である金属層は、樹脂膜の開口部に近接して配置されていた。このため、蒸着工程におけるシャドウイングを抑制する観点から、金属層の厚さを小さく(例えば20μm以下)する必要があった。これに対し、本実施形態によると、積層体10が所定の引張応力を有しており、磁性金属体20を積層体10の第2開口部13に近接して配置しなくてもよい。このため、磁性金属体20の第1開口部25の端部を積層体10の第2開口部13から十分離して配置できる(例えば、磁性金属体20の中実部21と第2開口部13との最小距離Dmin:1mm以上)。最小距離Dminが大きいと、磁性金属体20を厚くしてもシャドウイングが生じ難いため、従来よりも磁性金属体20を厚くできる。磁性金属体20の厚さは、蒸着角、磁性金属体20のテーパ角、磁性金属体20の中実部21と第2開口部13との最小距離Dminの大きさにもよるが、例えば1000μm以上であってもよい。磁性金属体20としてオープンマスクを用いる場合、第1開口部25のサイズを単位領域Uよりも十分に大きくなるように設計しておくことで、オープンマスクの厚さを例えば300μm以上にできる。磁性金属体20の厚さの上限値は、特に限定しないが、例えば1.5mm以下であれば、シャドウイングを抑制することが可能である。このように、本実施形態によると、磁性金属体20の材料のみでなく、厚さの選択の自由度をも高めることができる。
【0106】
<フレーム40>
フレーム40は、例えば磁性金属から形成されている。あるいは、金属以外の材料、例えば樹脂(プラスチック)で形成されていてもよい。従来の蒸着マスクでは、架張工程によってフレームに固定された積層膜(樹脂膜および金属膜)からの張力でフレームが変形・破断しないように、フレームには適度な剛性が求められていた。このため、例えば厚さ20mmのインバーからなるフレームが使用されていた。これに対し、本実施形態では、架張工程を行わずに、あるいは磁性金属体20に大きな張力をかけずにフレーム40の取り付けを行うので、フレーム40には架張工程に起因する張力がかからない。従って、従来よりも剛性の小さいフレーム40を用いることも可能であり、フレーム40の材料の選択の自由度が高い。また、フレーム40を従来よりも薄くすることも可能である。従来よりも薄いフレームまたは樹脂製のフレームを用いると、軽量でハンドリング性に優れた蒸着マスク10が得られる。
【0107】
<蒸着マスクの製造方法>
図4〜
図8を参照しながら、蒸着マスク100の製造方法を例に、本実施形態の蒸着マスクの製造方法を説明する。
図4〜
図8の(a)および(b)は、それぞれ、蒸着マスク100の製造方法の一例を示す工程平面図および工程断面図である。
【0108】
まず、
図4(a)および(b)に示すように、支持基板60を用意し、支持基板60上に、第1層m1および第2層m2をこの順で形成する。支持基板60として、例えばガラス基板が好適に用いられ得る。ガラス基板のサイズおよび厚さは特に限定されない。ただし、支持基板60の熱膨張係数は、積層体10の第1層m1の熱膨張係数と同等以下であることが好ましい。支持基板60の熱膨張係数は、積層体10の各層の熱膨張係数よりも小さくてもよい。例えば、積層体10の各層の熱膨張係数が3.8ppm/℃と同程度以上であれば、支持基板60として、無アルカリガラス基板を好適に用いることができる。積層体10の各層の熱膨張係数が3.8ppm/℃よりも小さい場合には、支持基板60として、石英ガラス基板などの熱膨張係数がさらに小さい基板を用いるとよい。
【0109】
ここでは、第1層m1としてポリイミド層、第2層m2としてアクリル樹脂層を形成する例を説明する。なお、各層m1、m2の材料はこの例に限定されない。
【0110】
まず、支持基板60上に、樹脂材料の前駆体を含む溶液(例えばポリイミドワニス)または樹脂材料を含む溶液(例えば可溶型ポリイミド溶液)を付与する。溶液の付与方法としては、スピンコート法、スリットコーター法などの公知の方法を用いることができる。ここでは、樹脂材料としてポリイミドを用い、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を含む溶液(ポリイミドワニス)をスピンコート法で支持基板60上に塗布する。続いて、熱処理(ベーク)を行うことにより、ポリイミド層を形成する。熱処理温度は300℃以上、例えば400℃以上500℃以下に設定され得る。
【0111】
熱処理条件は、ポリイミド層に所定の引張応力を生成させるような条件に設定される。例えば0.2MPaより大きい(好ましくは3MPa以上の)引張応力を生成させるように設定されてもよい。引張応力の大きさは、ポリイミド層の材料や熱処理条件の他、例えば、支持基板60の厚さ、形状、サイズ、支持基板60の材料特性(ヤング率、ポアソン比、熱膨張係数など)によって変わり得る。ここでいう熱処理条件は、熱処理温度(最高温度)、昇温速度、高温(例えば300℃以上)での保持時間、熱処理時の雰囲気などを含む。また、昇温時の温度プロファイルのみでなく、冷却時の温度プロファイルをも含む。
【0112】
ポリイミド層に残留する引張応力を大きくするには、例えば、ポリイミドワニスのイミド化を急激に行わせるような条件に設定することが考えられる。一例として、昇温速度を大きくすることにより、引張応力を増加させることが可能である。例えば、ガラス基板上にポリイミド層を熱処理で形成する場合、ポリイミドワニスが付与されたガラス基板を、30℃/min以上のレートで300℃以上600℃以下の温度まで昇温させてもよい。また、昇温および冷却を含む全熱処理工程を通して、上記ガラス基板を例えば300℃以上の温度での保持される合計時間を短く(例えば30分以内)に設定することで、ポリイミド層に残留する引張応力を増加させることができる。さらに、昇温および冷却を含む全熱処理時間を比較的短くする(例えば1時間以内)、最高温度での保持時間(放置時間)を短くする(例えば5分以内)、最高温度到達後に急冷すること等によっても、引張応力を大きくできる。熱処理雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気または窒素ガス雰囲気であってもよいが、100Pa以下の減圧雰囲気下で熱処理を行うと、昇温速度をより容易に高めることができる。
【0113】
ポリイミドワニスの代わりに、溶媒可溶型のポリイミド(重合体)を含む溶液(可溶型ポリイミド溶液)を支持基板60上に塗布し、溶媒を除去(ベーク)することによってポリイミド層を形成してもよい。ベーク温度は、溶媒の沸点によって適宜選択され、特に限定しないが、例えば100℃〜320℃、好適には120℃〜250℃である。この場合でも、昇温速度を上記と同程度まで大きくしたり、高温での保持時間を短くすることによって、ポリイミド層に残留する引張応力を増加させることが可能である。
【0114】
続いて、ポリイミド層上に、UV硬化型のアクリル樹脂材料を用いて第2層m2を形成する。アクリル樹脂層は、例えば、UV硬化性アクリルモノマー又はオリゴマー、重合開始剤等を含むUV硬化樹脂組成物を第1層m1上に塗布し、組成物に含まれている溶剤を加熱(例えば60℃)して揮発させた後、紫外線の照射によって硬化させることで形成され得る。このようにして、第1層m1および第2層m2からなる積層体10を得る。
【0115】
積層体10を支持基板60上に形成すると、支持基板60の材料や厚さによっては支持基板60に反りが生じることがある。また、支持基板60上において、積層体10は応力分布を有する。例えば積層体10の中央部から端部に向かうほど引張応力が大きくなる。また、支持基板60の長さが大きい方向において、より大きな引張応力が生じ得る。
【0116】
次いで、
図5(a)および(b)に示すように、積層体10の一部上に接着層50を形成する。接着層50は、後述する磁性金属体20の第1開口部25に対応する開口部55を有する。接着層50は、積層体10のうち、磁性金属体20の中実部21に対応する領域(第2領域10bとなる領域)全体に形成されてもよいし、その一部に形成されてもよい。好ましくは、積層体10のうち第1領域10aとなる部分を包囲するように配置される。
【0117】
接着層50は金属層であってもよいし、接着剤で形成されていてもよい。接着層50は積層体10の上面に固着されていればよい。例えば、接着層50として、電解めっき、無電解めっきなどの方法で金属層を形成することができる。金属層の材料としては、種々の金属材料を用いることができ、例えば、Ni、Cu、Sn、Co、Feを好適に用いることができる。金属層の厚さは、後述する磁性金属体20への溶接工程で耐え得る大きさであればよく、例えば1μm以上100μm以下である。
【0118】
次いで、
図6(a)および(b)に示すように、支持基板60上に形成された積層体10を、第1開口部25を覆うように磁性金属体20上に固定する。積層体10と磁性金属体20とは、接着層50を介して接合される。積層体10のうち磁性金属体20の第1開口部25内に位置する領域10aが第1領域、中実部21と重なる領域10bが第2領域となる。
【0119】
磁性金属体20は、磁性金属材料から形成され、かつ、少なくとも1つの第1開口部25を有する。磁性金属体20の製造方法は、特に限定しない。例えば、磁性金属板を用意し、フォトリソグラフィプロセスによりフォトレジストで、エッチングマスクを形成し、ウェットエッチング法により磁性金属板に第1開口部25を形成することによって製造され得る。磁性金属体20の材料としては、例えばインバー(約36wt%のNiを含むFe−Ni系合金)を好適に用いることができる。
【0120】
接着層50が金属層である場合、積層体10側からレーザ光を照射し、接着層50を磁性金属体20に溶接してもよい。このとき、間隔を空けて複数箇所でスポット溶接を行ってもよい。スポット溶接を行う箇所の数やその間隔(ピッチ)は適宜選択され得る。このようにして、積層体10は、接着層50を介して磁性金属体20に接合される。
【0121】
なお、接着層50は金属層でなくてもよい。積層体10と磁性金属体20とは、接着剤から形成された接着層50を用いて接合されてもよい(ドライラミネートまたは熱ラミネート)。
【0122】
接着層50は、積層体10の第1領域10aとなる部分上には形成されないことが好ましい。第1領域10aに接着層50が形成されていると、後の工程で積層体10から支持基板60を剥離した後でも、積層体10の引張応力が第1領域10aで面内分布を有してしまう可能性がある。
【0123】
次に、
図7(a)および
図7(b)に示すように、例えばレーザアブレーション法により、積層体10の第1領域10aに複数の第2開口部13を形成する(レーザ加工工程)。このようにして、磁性金属体20および積層体10を含むマスク体30を得る。
【0124】
積層体10のレーザ加工には、パルスレーザを用いる。ここでは、YAGレーザを用い、波長が355nm(第3高調波)のレーザ光L1を積層体10の所定の領域に照射する。レーザ光L1のエネルギー密度は例えば0.36J/cm
2に設定される。前述したように、積層体10のレーザ加工は、積層体10の表面にレーザ光L1の焦点を合わせて、複数回のショットを行うことによって行われる。ショット周波数は例えば60Hzに設定される。なお、レーザ加工の条件(レーザ光の波長、照射条件など)は、上記に限定されず、積層体10を加工し得るように適宜選択される。
【0125】
本実施形態では、支持基板60上に形成された積層体10に対してレーザ加工を行う。支持基板60と積層体10との間には気泡が存在しないため、従来よりも高い精度で所望のサイズの第2開口部13を形成することが可能であり、バリ(
図20参照)の発生も抑制される。
【0126】
続いて、
図8(a)および
図8(b)に示すように、マスク体30を支持基板60から剥離する。支持基板60の剥離は、例えばレーザリフトオフ法により行うことができる。積層体10と支持基板60との密着力が比較的弱い場合には、ナイフエッジなどを用いて機械的に剥離を行ってもよい。
【0127】
ここでは、例えばXeClエキシマレーザを用い、支持基板60側からレーザ光(波長:308nm)を照射することによって、積層体10を支持基板60から剥離する。なお、レーザ光は、支持基板60を透過し、かつ、積層体10で吸収される波長の光であればよく、他のエキシマレーザあるいはYAGレーザなどの高出力レーザを用いてもよい。
【0128】
なお、レーザリフトオフ法を用いて支持基板60を剥離する場合、
図4(a)に示す工程において、支持基板60上に、まず、剥離層(犠牲層)として、アモルファスシリコン層、または、タングステン(W)などの高融点金属層を形成し、この後、剥離層上に第1層m1を形成してもよい。支持基板60と第1層m1との間に剥離層が設けられていると、レーザ照射によって支持基板60が剥離しやすくなる。このため、レーザリフトオフに必要なレーザパワーを低くできるので、レーザ照射による第1層m1へのダメージを低減できる。
【0129】
支持基板60を剥離すると、積層体10は、内在する引張応力によって、たるみなく(ピンと)張った状態になる。また、積層体10のうち磁性金属体20に接合されていない部分(ここでは第1領域10a)内では、所定の方向における引張応力の大きさが平均化され得る。
【0130】
この後、図示していないが、マスク体30にフレーム40を固定する(フレーム取り付け工程)。このようにして、
図1に示す蒸着マスク100が製造される。
【0131】
フレーム取り付け工程では、磁性金属体20の周辺部上にフレーム40を載置し、磁性金属体20の周辺部とフレーム40とを接合する。フレーム40は、例えばインバーなどの磁性金属で形成されている。積層体10側からレーザ光を照射することによって、磁性金属体20の周辺部とフレーム40とを溶接してもよい(スポット溶接)。スポット溶接のピッチは適宜選択され得る。なお、
図1に示す例では、支持基板60の法線方向から見たとき、フレーム40の内縁部と磁性金属体20の内縁部とが略整合しているが、磁性金属体20の一部がフレーム40の内側に露出していてもよい。あるいは、フレーム40は、磁性金属体20の周辺部全体および積層体10の一部を覆っていてもよい。
【0132】
前述のように、本実施形態では、積層体10および磁性金属体20を所定の層面内方向に引っ張ってフレーム40に固定する工程(架張工程)を行わないので、従来よりも剛性の小さいフレーム40を用いることが可能である。このため、フレーム40は、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などの樹脂から形成されていてもよい。また、マスク体30とフレーム40との接合方法は、レーザ溶接に限定されない。例えば接着剤を用いて磁性金属体20の周辺部とフレーム40とを接合してもよい。
【0133】
さらに、本実施形態では、磁性金属体20が十分な剛性を有している場合には、フレームを設けなくてもよい。
【0134】
<蒸着マスクの他の製造方法>
図4〜
図8を参照しながら前述した方法では、積層体10と磁性金属体20とを接合した後で、積層体10に第2開口部13を形成しているが、積層体10と磁性金属体20とを接合する前に、第2開口部13を形成してもよい。また、
図4〜
図8を参照しながら前述した方法では、マスク体30とフレーム40とを接合する前に、支持基板60をマスク体30から剥離しているが、フレーム40とマスク体30とを接合した後で、支持基板60を剥離してもよい。さらに、フレーム40とマスク体30とを接合した後で、積層体10に第2開口部13を形成してもよい。積層体10と磁性金属体20とを接合させる前に、磁性金属体20にフレーム40を取り付けてもよい。
【0135】
以下、図面を参照しながら、本実施形態の蒸着マスクの他の製造方法を説明する。図面では、
図4〜
図8と同じ構成要素には同じ参照符号を付している。また、
図4〜
図8を参照しながら前述した方法と異なる点を中心に説明し、各層の形成方法、材料、厚さ等が上記方法と同様である場合には説明を省略している。
【0136】
図9(a)〜(e)は、蒸着マスクの他の製造方法を例示する工程断面図である。
【0137】
まず、
図9(a)に示すように、支持基板60上に積層体10を形成する。
【0138】
次いで、
図9(b)に示すように、レーザ加工により、積層体10に第2開口部13を形成する。第2開口部13は、積層体10のうち、後の工程で磁性金属体20と接合したときに磁性金属体20の第1開口部25内に位置する領域に形成される。
【0139】
続いて、
図9(c)に示すように、接着層50を介して、積層体10と磁性金属体20とを接合する。接合方法は、
図5を参照しながら前述した方法と同様である。
【0140】
この後、
図9(d)に示すように、例えばレーザリフトオフ法により、積層体10から支持基板60を剥離する。
【0141】
次いで、
図9(e)に示すように、例えばレーザ光L2を用いてスポット溶接を行うことにより、フレーム40を磁性金属体20の周辺部に設ける。このようにして、蒸着マスク100を得る。
【0142】
図10(a)〜(e)は、蒸着マスクの他の製造方法を例示する工程断面図である。
【0143】
まず、
図10(a)に示すように、支持基板60上に積層体10を形成する。
【0144】
次いで、
図10(b)に示すように、接着層50を介して、積層体10と磁性金属体20とを接合する。
【0145】
続いて、
図10(c)に示すように、レーザ加工により、積層体10に第2開口部13を形成する。
【0146】
この後、
図10(d)に示すように、例えばレーザ光L2を用いてスポット溶接を行うことにより、フレーム40を磁性金属体20の周辺部に設ける。
【0147】
次いで、
図10(e)に示すように、例えばレーザリフトオフ法により、積層体10から支持基板60を剥離する。このようにして、蒸着マスク100を得る。
【0148】
図11(a)〜(e)は、蒸着マスクのさらに他の製造方法を例示する工程断面図である。
【0149】
まず、
図11(a)に示すように、支持基板60上に積層体10を形成する。
【0150】
また、
図11(b)に示すように、フレーム40に磁性金属体20を取り付けることにより、フレーム構造体を形成する。具体的には、磁性金属体20の周辺部上にフレーム40を載置し、周辺部とフレーム40とを接合する。ここでは、磁性金属体20側からレーザ光L3を照射することによって、磁性金属体20の周辺部とフレーム40とを溶接する。例えば、所定の間隔を空けて複数箇所でスポット溶接を行ってもよい。なお、架張溶接装置を用いて、磁性金属体20に所定の方向に一定の張力を付与した状態で、磁性金属体20をフレーム40に接合してもよい。ただし、本実施形態では、磁性金属体20はフレーム40に固定されていればよいので、大きな張力を付与する必要はない。
【0151】
続いて、
図11(c)に示すように、接着層50を介して、積層体10と磁性金属体20とを接合する。
【0152】
次いで、
図11(d)に示すように、レーザ加工により、積層体10に第2開口部13を形成する。
【0153】
この後、
図11(e)に示すように、例えばレーザリフトオフ法により、積層体10から支持基板60を剥離する。このようにして、蒸着マスク100を得る。
【0154】
図12(a)〜(e)は、蒸着マスクのさらに他の製造方法を例示する工程断面図である。
【0155】
まず、
図12(a)に示すように、支持基板60上に積層体10を形成する。
【0156】
次いで、
図12(b)に示すように、接着層50を介して、積層体10と磁性金属体20とを接合する。
【0157】
続いて、
図12(c)に示すように、例えばレーザ光L4を用いてスポット溶接を行うことにより、フレーム40を磁性金属体20の周辺部に設ける。
【0158】
この後、
図12(d)に示すように、レーザ加工により、積層体10に第2開口部13を形成する。
【0159】
次いで、
図12(e)に示すように、例えばレーザリフトオフ法により、積層体10から支持基板60を剥離する。このようにして、蒸着マスク100を得る。
【0160】
このように、本実施形態の蒸着マスク100は種々の方法で製造され得る。なお、
図9に例示した方法では、第2開口部13を形成した積層体10と磁性金属体20とを接合する際に、高精度な位置合わせを行う必要がある。これに対し、積層体10と磁性金属体20とを接合した後に第2開口部13を形成すると、そのような高精度な位置合わせを行わなくてもよいので有利である。
【0161】
また、
図10〜
図12に例示した方法では、支持基板60を剥離する前に、フレーム40の取り付けを行う。この場合、重量および嵩の大きいフレーム40が取り付けられた支持基板60を、レーザリフトオフ装置のステージに設置し、支持基板60の剥離を行うため、他の方法よりも、使用するレーザリフトオフ装置のステージを大きく、かつ、高強度にする必要がある。また、レーザヘッドとステージとの距離WD(ワークディスタンス)を大きくする必要がある。これに対し、支持基板60の剥離後に、フレーム40の取り付け工程を行うと、レーザリフトオフ装置のステージの大きさ、強度、WDなどに上記のような制限が課せられないため、より実用的である。
【0162】
図9〜
図12に例示した製造方法によると、支持基板60上に形成された積層体10に複数の第2開口部13を形成するので、所望のサイズの第2開口部13を従来よりも高い精度で形成でき、なおかつ、バリ98(
図20参照)の発生を抑制できる。
【0163】
なお、上記方法では、積層体10に第2開口部13を形成した後で、支持基板60を積層体10から除去しているが、支持基板60を積層体10から除去した後で、積層体10に第2開口部13を形成してもよい。この場合には、従来と同様に、積層体10における第1層m1側をエタノール等の液体を介してガラス基板に密着させて、積層体10のレーザ加工を行ってもよい。液体は、気泡の発生や蒸発を防ぐ観点から高沸点のものが好ましい。積層体10は凸面状であるため、ガラス基板との間に気泡が入りにくいので、従来よりもバリの発生を抑制できる。また、積層体10にバリが生じても、蒸着時に積層体10が蒸着対象基板側に凸に反っており、バリが形成された部分も蒸着対象基板に押し付けられるので、バリによる影響を低減できる。ただし、バリの発生を効果的に抑制するためには、支持基板60の除去前に積層体10に第2開口部13を形成しておくことが好ましい。
【0164】
また、本実施形態では、支持基板60上で積層体10を形成し、支持基板60に支持された状態の積層体10と磁性金属体20とを接合する。積層体10は残留応力として所定の引張応力を有しているので、積層体10を引っ張ってフレームに接合させる架張工程を行わない。大掛かりな架張機を用いた架張工程が不要になるので、製造コストを低減できるメリットがある。また、架張工程を行わないので、前述したように、従来よりもフレーム40の剛性を小さくすることが可能になり、フレーム40の材料選択の自由度、および、フレーム幅、厚さ等の設計の自由度が大きくなる。
【0165】
特許文献1などに記載の従来方法では、架張工程によって樹脂フィルムをフレームに固定した後で、樹脂フィルムに対するレーザ加工が行われる。これに対し、本実施形態では、フレーム40の取り付け工程は、積層体10のレーザ加工前に行ってもよいし、レーザ加工後に行ってもよい。レーザ加工後にフレーム40の取り付け工程を行う場合には、次のようなメリットがある。フレーム40が取り付けられる前の、支持基板60によって支持されたマスク体30(レーザ加工前のマスク体を含む)は、フレーム40が取り付けられた後のマスク体30よりも軽量で取り扱いやすいので、レーザ加工機への設置、搬送等の作業が容易になる。また、フレーム40が取り付けられていないので、積層体10にレーザ光L1を照射しやすく、積層体10を加工し易い。さらに、特許文献1の方法では、樹脂層のレーザ加工がうまくいかなかったときに、フレームから積層マスクを剥離する必要があるが、フレーム40を取り付ける前にレーザ加工を行う場合には、そのような剥離工程は不要である。
【0166】
(熱処理条件と樹脂層の引張応力との関係)
本発明者は、ポリイミド層を例に、樹脂層の形成条件(熱処理条件)と、樹脂層の引張応力との関係を検討した。以下、その方法および結果を説明する。
【0167】
・サンプルA〜Cの作製方法
熱処理条件を異ならせて、ガラス基板61上に、熱硬化型のポリイミドを用いてポリイミド膜62を形成し、サンプルA〜Cを得た。
図13(a)は、サンプルA〜Cの上面図である。
【0168】
まず、支持基板として、ガラス基板(旭硝子製AN−100)61を用意した。ガラス基板61の熱膨張係数は3.8ppm/℃、サイズは370mm×470mm、厚さは0.5mmであった。
【0169】
続いて、
図13(a)に示すように、ガラス基板61における所定の領域(330mm×366mm)に、ポリイミドワニス(宇部興産株式会社製U−ワニス−S)を塗布した。このポリイミドのガラス転移温度Tgは330℃、熱膨張係数は、上記ガラス基板の熱膨張係数と同程度である。
【0170】
次いで、ポリイミドワニスを塗布したガラス基板61に対して、圧力:20Paの真空雰囲気下で熱処理を行い、ポリイミド膜62を形成した。熱処理では、室温(ここでは25℃とした)から500℃(最高温度)まで昇温し、500℃で所定の時間保持した。この後、パージガスとして窒素ガスを供給し、次いで急冷(3分間)した。各サンプルにおける500℃までの昇温時間、500℃での保持時間、昇温速度(室温から500℃到達時まで)、およびポリイミド膜62の厚さを表1に示す。
【0171】
このようにして、サンプルA〜Cとして、ポリイミド膜62が形成されたガラス基板61を得た。サンプルA〜Cでは、ポリイミド膜62の引張応力によって、ガラス基板61に圧縮応力が付与され、
図13(b)に模式的に示したように、ガラス基板61に、凹面を形成するような反りが生じた。長辺方向および短辺方向におけるガラス基板61の反り量の平均値を表1に示す。
【0172】
・ポリイミド膜62の引張応力の算出
次いで、サンプルA〜Cにおけるガラス基板61の反り量から、ポリイミド膜62の引張応力を算出した。結果を表1に示す。引張応力は、Stoneyの式を用いて、ガラス基板61の厚さ、ヤング率、ポアソン比、ポリイミド膜62の厚さ、ガラス基板61の反りの曲率半径(近似値)から求めることができる。
【0173】
また、表1には、比較のため、昇温速度の小さい条件でポリイミド膜を作製した場合の結果も示す(「サンプルD」とする)。表1に示すように、サンプルDでは、120℃、150℃、180℃に到達後、その温度で所定時間保持することにより、段階的に450℃まで昇温した。サンプルDの引張応力は、ガラス基板61の反りを10μmとして算出した値である。
【0175】
さらに、同じ熱処理条件で6つのサンプルB1〜B6を作製し、ポリイミド膜62に生じた引張応力を算出した。サンプルB1〜B6の熱処理条件は、サンプルBと同様とした(室温〜500℃、圧力:20Pa、加熱時間:13分(昇温8分+保持5分)、昇温速度:59℃/分)。ただし、熱処理前に、ポリイミドワニスが付与されたガラス基板61が設置されたチャンバーを減圧する速度をサンプルBよりも小さくした。これらのサンプルについても、上記と同様に、ガラス基板の反り量からポリイミド膜の引張応力を求めた。結果を表2に示す。
【0177】
上記の結果から、熱処理条件によって、支持基板上の樹脂層に生じる引張応力を制御できることが確認された。例えば、昇温速度を大きくすることで、引張応力の大きい樹脂層を形成できることが分かった。なお、ここでは、サンプルごとに昇温速度を変えて熱処理を行ったが、昇温速度以外の熱処理条件を変えても、樹脂層の引張応力の大きさを異ならせることができる。
【0178】
(実施例)
続いて、実施例の蒸着マスクを説明する。実施例1〜3の蒸着マスクの積層体10の構造を表3に示す。なお、実施例1〜3では、積層体10を形成するための支持基板として、ガラス基板(旭硝子製AN−100、熱膨張係数:3.8ppm/℃)を用いた。
【0180】
以下に説明するように、各実施例の第1の温度T1(ここでは25℃)における第1層m1および第2層m2の弾性率E1、E2、第1層m1および第2層m2の厚さa1、a2、第1層m1および第2層m2の内部応力σ1、σ2(σ1、σ2は引張応力のときに正)は、下記式(1)、(2)を満足する。なお、各層のヤング率は、温度T0から第1の温度T1までの範囲で略一定とする。
σ1/E1−σ2/E2<0・・・(1)
0<a1×σ1+a2×σ2・・・(2)
【0181】
・実施例1
実施例1では、まず、前述したサンプルA〜Cと同じ熱硬化型のポリイミドを用いて、ガラス基板上に、第1層m1として、厚さa1が15μmのポリイミド層を形成する。ポリイミド層の形成温度t1は500℃、昇温条件は、例えば、59℃/分である。
【0182】
次いで、第1の温度T1(ここでは室温)で、ポリイミド層が形成されたガラス基板の反り量x1を測定し、Stoneyの式を用いてポリイミド層の内部応力σ1を算出する。
【0183】
続いて、第2層m2として、第1層m1上に、スパッタ法により、厚さa2が0.1μmの酸化チタン(TiO
2)層を形成する。酸化チタン層の形成温度t2は50℃である。温度t2は、積層体形成時の温度T0に相当する。
【0184】
次いで、第1の温度T1(ここでは室温)で、酸化チタン層が形成された後のガラス基板の反り量x2を測定する。この反り量x2と、酸化チタン層が形成される前の反り量x1との差分から、Stoneyの式を用いて酸化チタン層の内部応力σ2を算出する。
【0185】
実施例1において、反り量x1、x、2から得られた内部応力σ1、σ2の値を表3に示す。σ1>0、σ2>0であるため、内部応力σ1、σ2は引張応力である。従って、a1×σ1+a2×σ2>0となり、式(2)を満足する。
【0186】
また、以下に示すように、σ1/E1−σ2/E2<0となり、式(1)を満足し、第1層m1側に凸になるように反る(δ<0)ことが確認される。
σ1/E1=0.00056、
σ2/E2=0.00400
σ1/E1−σ2/E2=−0.00344<0
【0187】
なお、L(m)=0.1とし、バイメタルの理論式(3)における(α2−α1)(T1−T0)を(σ1/E1−σ2/E2)で置き換えることで曲率ρを求め、続いて、理論式(4)から反り量δを算出すると、以下のようになる。
ρ(m)=−0.00338
δ(m)=−0.370
これらの値ρ、δが負であることからも、積層体10が第1層m1側に凸となるように反る(δ<0)ことが確認される。
【0188】
・実施例2
実施例2では、まず、実施例1と同様の材料を用いて、ガラス基板上に、第1層m1として、厚さa1が15μmのポリイミド層を形成する。ポリイミド層の形成温度t1および昇温条件は、実施例1のポリイミド層と同じである。次いで、実施例1と同様に、反り量x1を測定し、Stoneyの式を用いて内部応力σ1を算出する。
【0189】
続いて、第2層m2として、第1層m1上に、UV硬化型のアクリル樹脂材料を用いて、厚さa2が1μmのアクリル樹脂層を形成する。アクリル樹脂層の形成温度t2(=積層体形成時の温度T0)は室温である。
【0190】
次いで、第1の温度T1で、酸化チタン層を形成した後の反り量x2を測定する。この反り量x2と、酸化チタン層を形成する前の反り量x1との差分から、Stoneyの式を用いて酸化チタン層の内部応力σ2を算出する。
【0191】
実施例2において、反り量x1、x、2から得られた内部応力σ1、σ2の値を表3に示す。σ1>0、σ2>0であるため、内部応力σ1、σ2は引張応力である。従って、a1×σ1+a2×σ2>0となり、式(2)を満足する。
【0192】
また、実施例1と同様にして、実施例2の積層体10について、σ1/E1−σ2/E2の値を求めると、
σ1/E1−σ2/E2=0.000556−0.000667<0
となり、実施例2の積層体10も、式(1)を満足し、第1層m1側に凸となるように反る(δ<0)ことが分かる。
【0193】
・実施例3
実施例3では、第1層m1として、上記サンプルCと同様のポリイミド層、第2層m2として、上記サンプルBと同様のポリイミド層を形成する。実施例3の積層体10においても、σ1、σ2はいずれも引張応力であり、式(2)を満足する。また、σ1/E1−σ2/E2<0であり、式(1)を満足し、第1層m1側に凸となるように反る(δ<0)。
【0194】
<蒸着マスクの他の構造例>
図15は、本実施形態の蒸着マスクの変形例を示す断面図である。
図15に例示するように、接着層50は、積層体10の周縁部のみに配置されていても構わない。磁性金属体20のうち、後で設けられるフレームと重なる部分を「周辺部」、フレームの開口内に位置する部分を「マスク部」とすると、接着層50は、磁性金属体20の周辺部と積層体10との間のみに配置されていてもよい。マスク部において、磁性金属体20の中実部21と積層体10とは接着されない。この場合、積層体10はマスク部全体に亘って凸面状になり得る。
【0195】
図16(a)および(b)は、それぞれ、本実施形態の他の蒸着マスク200、300を模式的に示す平面図である。これらの図において、
図1と同様の構成要素には同じ参照符号を付している。以下の説明では、蒸着マスク100と異なる点のみを説明する。
【0196】
蒸着マスク200、300では、磁性金属体20は、単位領域U内に複数の第1開口部25を有している。各第1開口部25内には、2以上の第2開口部13(図示している個数に限定されないのはいうまでもない)が位置している。
【0197】
第1開口部25は、
図16(a)に例示するように、単位領域U内に、行方向および列方向に配列された第2開口部13の列ごと(または行ごと)に配置されたスリットであってもよい。または、
図16(b)に例示するように、第1開口部25は、複数の列および複数の行に配列された第2開口部13を含むサブ領域ごとに配置されてもよい。
【0198】
なお、
図1および
図16には、複数の単位領域Uを有する蒸着マスクを例示したが、各単位領域Uの数および配列方法、各単位領域U内の第2開口部13の個数および配列方法などは、製造しようとするデバイスの構成によって決まり、図示する例に限定されない。単位領域Uの数は単数であってもよい。
【0199】
(有機半導体素子の製造方法)
本発明の実施形態による蒸着マスクは、有機半導体素子の製造方法における蒸着工程に好適に用いられる。
【0200】
以下、有機EL表示装置の製造方法を例として説明を行う。
【0201】
図17は、トップエミッション方式の有機EL表示装置500を模式的に示す断面図である。
【0202】
図17に示すように、有機EL表示装置500は、アクティブマトリクス基板(TFT基板)510および封止基板520を備え、赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbを有する。
【0203】
TFT基板510は、絶縁基板と、絶縁基板上に形成されたTFT回路とを含む(いずれも不図示)。TFT回路を覆うように、平坦化層511が設けられている。平坦化層511は、有機絶縁材料から形成されている。
【0204】
平坦化層511上に、下部電極512R、512Gおよび512Bが設けられている。下部電極512R、512Gおよび512Bは、赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbにそれぞれ形成されている。下部電極512R、512Gおよび512Bは、TFT回路に接続されており、陽極として機能する。隣接する画素間に、下部電極512R、512Gおよび512Bの端部を覆うバンク513が設けられている。バンク513は、絶縁材料から形成されている。
【0205】
赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbの下部電極512R、512Gおよび512B上に、有機EL層514R、514Gおよび514Bがそれぞれ設けられている。有機EL層514R、514Gおよび514Bのそれぞれは、有機半導体材料から形成された複数の層を含む積層構造を有する。この積層構造は、例えば、下部電極512R、512Gおよび512B側から、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層および電子注入層をこの順で含んでいる。赤画素Prの有機EL層514Rは、赤色光を発する発光層を含む。緑画素Pgの有機EL層514Gは、緑色光を発する発光層を含む。青画素Pbの有機EL層514Bは、青色光を発する発光層を含む。
【0206】
有機EL層514R、514Gおよび514B上に、上部電極515が設けられている。上部電極515は、透明導電材料を用いて表示領域全体にわたって連続するように(つまり赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbに共通に)形成されており、陰極として機能する。上部電極515上に、保護層516が設けられている。保護層516は、有機絶縁材料から形成されている。
【0207】
TFT基板510の上述した構造は、TFT基板510に対して透明樹脂層517によって接着された封止基板520によって封止されている。
【0208】
有機EL表示装置500は、本発明の実施形態による蒸着マスクを用いて以下のようにして製造され得る。
図18(a)〜(d)および
図19(a)〜(d)は、有機EL表示装置500の製造工程を示す工程断面図である。なお、以下では、赤画素用の蒸着マスク101R、緑画素用の蒸着マスク101G、青画素用の蒸着マスク101Bを順に用いてワーク上に有機半導体材料を蒸着する(TFT基板510上に有機EL層514R、514Gおよび514Bを形成する)工程を中心に説明を行う。
【0209】
まず、
図18(a)に示すように、絶縁基板上に、TFT回路、平坦化層511、下部電極512R、512G、512Bおよびバンク513が形成されたTFT基板510を用意する。TFT回路、平坦化層511、下部電極512R、512G、512Bおよびバンク513を形成する工程は、公知の種々の方法により実行され得る。
【0210】
次に、
図18(b)に示すように、真空蒸着装置内に保持された蒸着マスク101Rに、搬送装置によりTFT基板510を近接させて配置する。このとき、積層体10の第2開口部13Rが赤画素Prの下部電極512Rに重なるように、蒸着マスク101RとTFT基板510とが位置合わせされる。また、TFT基板510に対して蒸着マスク101Rとは反対側に配置された不図示の磁気チャックにより、蒸着マスク101RをTFT基板510に対して密着させる。
【0211】
続いて、
図18(c)に示すように、真空蒸着により、赤画素Prの下部電極512R上に、有機半導体材料を順次堆積し、赤色光を発する発光層を含む有機EL層514Rを形成する。
【0212】
次に、
図18(d)に示すように、蒸着マスク101Rに代えて、蒸着マスク101Gを真空蒸着装置内に設置する。積層体10の第2開口部13Gが緑画素Pgの下部電極512Gに重なるように、蒸着マスク101GとTFT基板510との位置合わせを行う。また、磁気チャックにより、蒸着マスク101GをTFT基板510に対して密着させる。
【0213】
続いて、
図19(a)に示すように、真空蒸着により、緑画素Pgの下部電極512G上に、有機半導体材料を順次堆積し、緑色光を発する発光層を含む有機EL層514Gを形成する。
【0214】
次に、
図19(b)に示すように、蒸着マスク101Gに代えて、蒸着マスク101Bを真空蒸着装置内に設置する。積層体10の第2開口部13Bが青画素Pbの下部電極512Bに重なるように、蒸着マスク101BとTFT基板510との位置合わせを行う。また、磁気チャックにより、蒸着マスク101BをTFT基板510に対して密着させる。
【0215】
続いて、
図19(c)に示すように、真空蒸着により、青画素Pbの下部電極512B上に、有機半導体材料を順次堆積し、青色光を発する発光層を含む有機EL層514Bを形成する。
【0216】
次に、
図19(d)に示すように、有機EL層514R、514Gおよび514B上に、上部電極515および保護層516を順次形成する。上部電極515および保護層516の形成は、公知の種々の方法により実行され得る。このようにして、TFT基板510が得られる。
【0217】
その後、TFT基板510に対して封止基板520を透明樹脂層517により接着することにより、
図17に示した有機EL表示装置500が完成する。
【0218】
なお、有機EL表示装置500において、封止基板520に代えて封止フィルムを用いてもよい。あるいは、封止基板(または封止フィルム)を使用せずに、TFT基板510に薄膜封止(TFE:Thin Film Encapsulation)構造を設けてもよい。薄膜封止構造は、例えば、窒化シリコン膜などの複数の無機絶縁膜を含む。薄膜封止構造は有機絶縁膜をさらに含んでもよい。
【0219】
また、ここでは、赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbの有機EL層514R、514Gおよび514Bにそれぞれ対応する3枚の蒸着マスク101R、101G、101Bを用いたが、1枚の蒸着マスクを順次ずらすことによって、赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbに対応する有機EL層514R、514Gおよび514Bを形成してもよい。
【0220】
あるいは、コンタミネーションの防止のため、積層構造を有する有機EL層514R、514Gおよび514Bの各層を、それぞれ異なる蒸着マスクを用いて形成してもよい。
【0221】
また、有機EL層514R、514Gおよび514Bのうち発光層を含む一部の層のみを、本実施形態の蒸着マスクを用いて形成してもよい。例えば、単位領域に対応して開口部が設けられたオープンマスクを用いて、発光層以外の層(正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層など)を形成し、本実施形態の蒸着マスクを用いて、赤画素、緑画素および青画素の発光層を形成してもよい。マイクロキャビティ構造を適用する場合には、発光層および正孔輸送層のみを蒸着マスクを用いて形成し、それ以外の層をオープンマスクを用いて形成してもよい。
【0222】
なお、上記の説明では、トップエミッション方式の有機EL表示装置500を例示したが、本実施形態の蒸着マスクがボトムエミッション方式の有機EL表示装置の製造にも用いられることはいうまでもない。
【0223】
本実施形態の蒸着マスクを用いて製造される有機EL表示装置は、必ずしもリジッドなデバイスでなくてもよい。本実施形態の蒸着マスクは、フレキシブルな有機EL表示装置の製造にも好適に用いられる。フレキシブルな有機EL表示装置の製造方法においては、支持基板(例えばガラス基板)上に形成されたポリマー層(例えばポリイミド層)上に、TFT回路などが形成され、保護層の形成後にポリマー層がその上の積層構造ごと支持基板から剥離(例えばレーザリフトオフ法が用いられる)される。
【0224】
また、本実施形態の蒸着マスクは、有機EL表示装置以外の有機半導体素子の製造にも用いられ、特に、高精細な蒸着パターンの形成が必要とされる有機半導体素子の製造に好適に用いられる。