(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、GNSS(Global Navigation Satellite System)のL1バンド(1560MHz〜1605MHz)とGNSSのL5バンド(1150MHz〜1210MHz)の2周波数帯、あるいは、GNSSのL1バンドとGNSSのL2バンド(1197MHz〜1260MHz)の2周波数帯を同時に受信可能な衛星測位システムのアンテナ(以下、単にアンテナと称する)に適用した場合を一例とし、その実施の形態を図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、説明の便宜上、X軸、Y軸及びZ軸の直交三次元軸を図面上に記載する。X軸はアンテナの長さ方向、Y軸はアンテナの幅方向、Z軸はアンテナの天頂(鉛直上方)方向を表す。また、+Z軸方向を「上」、「上方」、「天頂」ないし「天頂方向」といい、上方からアンテナを視ることを「上面視」、Y軸からアンテナを視ることを「側面視」と表記する場合がある。
【0014】
本実施形態のアンテナの部品構造例を
図1に示す。
図1は、アンテナ1の分解組立図である。
図1を参照すると、アンテナ1は、アンテナケース10内に、緩衝体であるパッキン11で気密及び水密に封止されたGNSS基板アッセンブリ12を収容して構成される。
【0015】
アンテナケース10は、トップカバー10aとベースカバー10bとで構成される電波透過性の筐体である。トップカバー10aは、若干の丸みを持つ側部と、正方形状の開口部とを有し、上底部が略正方形となる有底筒状の硬質樹脂箱、例えばプラスチック箱であり、開口部の4つの角部が均等に切り欠かれている。また、各角部の内端部には、それぞれネジ101に対応するネジ穴が螺刻されている。ベースカバー10bは略正方形の環状体であって、4つの角部には、トップカバー10aとの位置決めに用いると共にネジ101を貫通させる孔が形成された突起部111が形成されている。
【0016】
この突起部111は、ベースカバー10bにトップカバー10aを被せたときに、トップカバー10aの4つの角部を封止する形状・サイズに成形されている。ベースカバー10bの角部間の4つの辺部の内側にはGNSS基板アッセンブリ12を支持するためのリブ112が形成され、1つの辺部には、窪みを有するケーブルガイド113が形成されている。ケーブルガイド113の窪みは、後述する給電ケーブル124の外径以下の径で成形されている。つまり、給電ケーブル124を押し込んで保持するように成形されている。
【0017】
GNSS基板アッセンブリ12は、表裏面を有する薄い絶縁板から成る回路基板121と、回路基板121の表面のほぼ中央部に設置される誘電体122と、誘電体122の表面に取り付けられたパッチ電極123と、給電ケーブル124と、ゴム、シリコンなどの軟質絶縁体で構成されるパッキン11と、で構成される。
【0018】
回路基板121の裏面には、4つの基板側給電端子を含む給電部が形成されている。この給電部については、後で詳しく説明する。給電ケーブル124の一端は給電部の出力部と導通接続されており、他端はベースカバー10bのケーブルガイド113に支持されてアンテナケース10の外部に露出する。また、給電ケーブル124の一端は、パッキン11によって気密性と水密性が保持されている。なお、GNSS基板アッセンブリ12は、この形状に限ることはない。取付テープ13は、ネジ101をベースカバー10bの突起部111の孔に貫通させるための4つの角部が内側に弧状に切り欠かれており、ベースカバー10bの裏面に貼り付けられている。
【0019】
パッチ電極123は、地導体(例えば車輌ルーフ)と略平行となる正方形状の金属板であり、誘電体122の表面の外周から僅かに内側寄りに固着される。パッチ電極123の構造例を
図2に示す。
図2の例では、パッチ電極123には、その中心点から等距離、等間隔、かつ点対称となる位置に、回路基板121の4つの基板側給電端子と1対1に対応する4つの電極側給電端子p11,p12,p13,p14が形成されている。
パッチ電極123の中心点と各電極側給電端子p11,p12,p13,p14の位置との距離は、使用する周波数帯でパッチ電極123のインピーダンスの整合(例えば、50オーム)がとれる距離に設定される。
【0020】
パッチ電極123には、その外周の内側で、各電極側給電端子p11,p12,p13,p14に対しては外側に、正方形の各辺に沿って4つのスロットSL1、SL2、SL3、SL4が形成されている。「スロット」は金属板が切り欠かれた部分をいう。各スロットSL1、SL2、SL3、SL4は、パッチ電極123の中心点を通る対称軸に対して線対称で、かつ、中心点に対して点対称に位置する。
【0021】
また、4つのスロットSL1、SL2、SL3、SL4のうち、各辺と平行となる直線部分の略中間位置にはミアンダ(蛇行)部SL1m、SL2m、SL3m、SL4mが形成されている。電極側給電端子p11,p12,p13,p14は、直近のミアンダ(蛇行)部SL1m、SL2m、SL3m、SL4mのほぼ中央部に形成されている。
【0022】
ミアンダ部SL1m、SL2m、SL3m、SL4mは、それが無い場合よりも電気長を長くし、送受信周波数を低くするために形成される。そのため、ミアンダ部SL1m、SL2m、SL3m、SL4mのサイズを製造後又は製造前に適宜調整することで送受信可能周波数の微調整が可能になり、設計の自由度が増し、要求される送受信帯域に柔軟に対応可能となる。
【0023】
本実施形態のアンテナ1の1つの特徴は、所望の周波数の共振条件に適合する4つのスロットSL1、SL2、SL3、SL4が形成されたパッチ電極123が存在し、4つの電極側給電端子p11,p12,p13,p14が、パッチ電極123の中心点から等距離で1つずつ存在し、各電極側給電端子p11,p12,p13,p14における給電位相(給電時の位相、以下同じ)が隣り合う他の電極側給電端子p11,p12,p13,p14の給電位相と90度ずつ異なっている点である。
そのため、パッチ電極123は、正方形の一辺の長さ及び誘電体122の誘電率に起因する共振条件を満たす周波数の電波を送受信するアンテナ動作と、スロットSL1、SL2、SL3、SL4、ミアンダ部SL1m、SL2m、SL3m、SL4mの電気長をも考慮した共振条件を満たす周波数の電波を送受信するスロット動作とを行う。つまり「2共振」動作を行う。
【0024】
共振条件を満たす周波数は、アンテナ動作においては、パッチ電極123の一辺の長さ及び誘電体122の誘電率から定まる電気長が略1/2波長(及びその整数倍)となる周波数である。スロット動作においては、ミアンダ部SL1m、SL2m、SL3m、SL4m及びスロットSL1、SL2、SL3、SL4の全長及び誘電体122の誘電率から定まる電気長が略1/2波長(及びその整数倍)となる周波数である。
なお、ミアンダ部SL1m、SL2m、SL3m、SL4m及びスロットSL1、SL2、SL3、SL4の全長は、例えば、スロットの一端から他端までの縁の長さ及びミアンダ部の一端から他端までの縁の長さである。
線対称及び点対称の位置で、等振幅で順次隣り合う電極側給電端子との間に90度の位相をシフトしながら4点給電を行うため、パッチ電極で受信される電波は円偏波となる。位相のシフトが右回りの場合は右旋円偏波となり、左回りの場合は左旋円偏波となる。
つまり、本実施形態によれば、GNSSの2周波数帯(例えばL1バンドとL5バンド、あるいは、L1バンドとL2バンド)の円偏波の受信を1つのアンテナ1で実現することが容易になる。
【0025】
なお、本実施形態では、パッチ電極の正方形の各辺に沿って、ミアンダ部を形成したスロットを設けたことについて説明したが、スロットは、パッチ電極123の中心点を通る対称軸に対して線対称で、かつ、中心点に対して点対称に位置していれば、いずれの形状(例えば、ミアンダ部を設けない形状)でも、いずれの箇所(例えば、パッチ電極の正方形の各角部に沿った箇所)でもよい。
【0026】
次に、回路基板121に設けられる給電部20について説明する。
図3は、給電部20が回路基板121の裏面に設けられた様子を示す斜視図である。
図3ではその詳細を省略しているが、給電部20は、回路基板121の裏面にプリント形成された分布定数線路(導体パターン群)と受動素子を含む集中定数回路で構成している。給電部20は、後述する4つの基板側給電端子、4つのマッチング回路、6つの位相器、ならびに2つの混合器と、で構成される給電回路20aとLNA(低雑音増幅器)と、で構成される。
なお、給電回路20aをすべて分布定数線路で構成してもよい。
【0027】
給電部20の導体パターンを
図4に示す。
図5は、
図4に示した給電部20のうち給電回路20aを等価回路で示したものであり、
図6は
図4に示した給電部20とそれに接続されたレシーバ271とを示すブロック図である。便宜上、対応する部品については同一符号を付してある。以下、
図4,5,6を総合して、本実施形態における給電部20の構成を説明する。
【0028】
給電部20は、パッチ電極123に形成された4つの電極側給電端子p11,p12,p13,p14の位置と上面視で給電回路20の同じ位置に、4つの基板側給電端子p21,p22,p23,p24が形成されている。直近の電極側給電端子p11と基板側給電端子p21,電極側給電端子p12と基板側給電端子p22,電極側給電端子p13と基板側給電端子p23,電極側給電端子p14と基板側給電端子p24は、それぞれ導電ピン等でダイレクトに導通接続される。
【0029】
4つの基板側給電端子p21,p22,p23,p24は、それぞれ対応する線路毎にマッチング回路211,212,213,214が1対1で導通接続されている。マッチング回路211,212,213,214は、パッチ電極123と給電部20との間のインピーダンス整合を行う回路であり、4つの回路がすべて同じ形状・面積の導体パターン及び配置関係で集中定数回路で構成されている。マッチング回路211には+45度の位相シフトを行う位相器221,マッチング回路212には−45度の位相シフトを行う位相器222,マッチング回路213には+45度の位相シフトを行う位相器223,マッチング回路214には−45度の位相シフトを行う位相器224が、それぞれ接続されている。なお、本実施形態ではマッチング回路211,212,213,214を用いた構成について説明するが、これらマッチング回路が無くても本発明の実施は可能である。
【0030】
マッチング回路211,212,213,214の各々は、パッチ電極123によって4等分された受信信号(電力)に対しインピーダンス整合を行い、後段の各位相器221,222,223,224に出力する。位相器221は、マッチング回路211から出力された受信信号(電力)に対して+45度の位相シフトを行い、後段の混合器231に出力する。同様に、位相器222は、マッチング回路212から出力された受信信号(電力)に対して−45度の位相シフトを行い、後段の混合器231に出力する。位相器223は、マッチング回路213から出力された受信信号(電力)に対して+45度の位相シフトを行い、後段の混合器232に出力する。位相器224は、マッチング回路214から出力された受信信号(電力)に対して−45度の位相シフトを行い、後段の混合器232に出力する。
【0031】
各位相器221,222,223,224は、
図5に示されるように、本例ではπ型回路であり、そのカットオフ周波数(遮断周波数)は、GNSS周波数帯の任意の周波数であるが、本例ではGNSS周波数帯のバンドエッジ近傍となる周波数に設定されている。位相器221,222,223,224は、ハイパス、ローパスのいずれのフィルタ、あるいはT型回路を用いてもよい。なお、本実施形態における位相器221,222,223,224が第1位相回路に相当する。
【0032】
混合器231は、位相器221と位相器222から出力された2つの受信信号(電力)を入力し、1つに合成する。また、混合器232は、位相器223と位相器224から出力された2つの受信信号(電力)を入力し、1つに合成する。回路的には、
図5に示されるように、2つのπ型回路及び抵抗で構成される。π型回路は互いに並列に接続され、π型回路の入力端子間に抵抗が接続される。π型回路のカットオフ周波数(遮断周波数)は、GNSS周波数帯の任意の周波数であるが、本例ではGNSS周波数帯域のバンドエッジ近傍となる周波数に設定されている。π型回路は、ハイパス、ローパスのいずれのフィルタ、あるいは、T型回路を用いてもよい。なお、本実施形態の混合器231,232が第1混合回路に相当する。
【0033】
混合器231の出力は、位相器241に入力される。また、混合器232の出力は、位相器242に入力される。位相器241は入力された受信信号(電力)を+90度の位相シフトを行い、後段の混合器251へ出力する。位相器242は入力された受信信号(電力)を−90度の位相シフトを行い、後段の混合器251へ出力する。混合器251は、位相器241と位相器242から出力された受信信号(電力)を入力し、これらの受信信号(電力)を合成してLNA261へ出力する。LNA261は、合成された受信信号(電力)を所定の増幅率で増幅して後段のレシーバ271へ出力する。混合器231,232,251は、例えば、ウィルキンソンデバイダーである。なお、本実施形態の位相器241,242が第2位相回路に相当し、混合器251が第2混合回路に相当する。
【0034】
次にレシーバ271について説明する。レシーバ271は、給電部20から出力される受信信号(電力)からデジタル信号を抽出し、当該抽出されたデジタル信号に基づいて移動体の現在位置をリアルタイムに算出する位置情報処理回路を有する。位置情報処理回路には、位置算出アルゴリズムが組み込まれており、時刻情報と現在位置情報とを出力する。このレシーバ271は、回路基板121に設けてもよいが、アンテナケース10外の他の回路基板に設けてもよい。なお、このアンテナ1と位置情報処理回路を有するレシーバ271とで、アンテナ1が取り付けられた車輌などの移動体の位置情報を算出する情報処理装置が構成される。
【0035】
[アンテナ特性]
以下、上記のように構成される本実施形態のアンテナ1のアンテナ特性について説明する。アンテナ特性の解析にはシミュレータを用い、直径15cmの地導体を用いてシミュレーションを行った。ここで、特徴別の特性比較のため、
図7(a)に示す2給電スロット無しの参照例電極323、同(b)に示す4給電スロット無しの参照例電極423、
図8に示す2給電スロット付きの参照例電極523を有するアンテナについて説明する。
参照例電極323,423,523は、
図2に示した本実施形態のパッチ電極と同じ材質・形状・外周サイズである。パッチ電極523は、電極側給電端子p31,p32が2つである点以外は、
図2に示したパッチ電極123と同じである。2給電の参照例電極323,523は、
図9に示す2給電の給電回路30に導通接続され、4給電の参照例電極423は、
図4,5,6に示す給電回路20aに導通接続されるものとする。
【0036】
図9における給電回路30は、アンテナで2分配された受信信号(電力)を、マッチング回路311,312でインピーダンス整合を行った後、位相器321,322に出力する。各位相器321,322は、マッチング回路311,312からの受信信号(電力)を互いに45度ずつ逆方向に位相をシフトさせ、混合器331がこれらの受信信号(電力)を合成する点が
図3,4,5,6に示した給電回路20aと異なる。比較説明の便宜上、参照例電極323を有するアンテナを「2給電」、参照例電極423を有するアンテナを「4給電」、参照例電極523を有するアンテナを「2給電2共振」、本実施形態のパッチ電極123を有するアンテナ1を「4給電2共振」と略称する場合がある。
【0037】
図10(a)は2給電、(b)は4給電における天頂(0度)の右旋円偏波利得対周波数の特性図であり、縦軸が利得(dBic)、横軸は周波数帯(GHz)である。「天頂(0度)」とはZ軸の方向をいう。4給電の場合は、2給電と比べてパッチ電極のサイズや地導体からの高さが同じでありながら、利得がGNSS周波数帯の全域にわたって高くなり、かつ、GNSS周波数帯における最大利得と最小利得との差が小さくなっている。つまり、4給電により広帯域化が図られることがわかる。
【0038】
図11(a)は2給電2共振、(b)は4給電2共振の天頂(0度)の右旋円偏波利得対周波数の特性図であり、縦軸、横軸は
図10と同じである。スロットSL1,SL2,SL3,SL4の影響で、実用レベルの利得が得られるのは、GNSSのL1バンド(1560MHz〜1605MHz)、GNSSのL5バンド(1150MHz〜1210MHz)、GNSSのL2バンド(1197MHz〜1260MHz)であるが、本実施形態のような4給電2共振の場合、各バンド付近での利得の低下が緩やかになっている。つまり、2共振の場合も4給電により広帯域化が図られることがわかる。
【0039】
図12(a)は2給電、(b)は4給電の天頂(0度)の軸比対周波数特性図であり、縦軸は軸比(dB)、横軸は周波数帯(GHz)を表す。2給電の場合、L1バンド付近と一部の他の周波数の軸比(dB)が低下するが、4給電では、L5バンドのGNSS周波数帯だけでなく全体の周波数帯域にわたって、軸比が劇的に改善されることがわかる。
【0040】
図13(a)は2給電2共振、(b)は4給電2共振の軸比対周波数特性図であり、縦軸、横軸は
図12と同じである。2給電2共振の場合、スロットSL1,SL2,SL3,SL4の影響があまりにも大きく、GNSSのL1バンド、GNSSのL5バンド、GNSSのL2バンドのすべてのバンドにおいても軸比が1(dB)以上となるが、4給電
2共振では、
図12(b)とほぼ同じ特性が得られている。つまり、スロットSL1,SL2,SL3,SL4の影響を殆ど受けていないことがわかる。
【0041】
図14(a)は2給電、(b)は4給電の軸比対仰角特性図であり、縦軸は軸比(dB)、横軸は仰角(天頂0度から水平面に向かう角度)を表す。周波数は、1.55GHzと1.61GHzを選定した。GNSSのL1バンドを考慮したものである。2給電の場合、1.61GHzではどの仰角においても軸比(dB)は改善されない。1.55GHzでは、仰角が30度付近から軸比が1dB以下となるが、45度付近でも0.7dB以上のままである。これに対し、4給電では、15度付近の仰角まで軸比はほぼ0dBであり、40度を超えるあたりから軸比が1dBを超える。つまり、4給電により、軸比が改善されることがわかる。
【0042】
図15(a)は2給電2共振、(b)は4給電2共振の軸比対仰角特性図であり、縦軸、横軸は
図14と同じである。周波数は、1.55GHzと1.61GHzのほか、1.16GHz、1.21GHzを選定した。これらの周波数は、GNSSのL5バンドのほか、GNSSのL1バンドとGNSSのL2バンドを考慮したものである。
2給電2共振の場合、どの仰角においても軸比が1dB以下にならず、特に、1.21GHzでは、仰角が0度であっても軸比は4dBを超える。また、1.61GHzでは仰角が0度で軸比が約2dBであり、仰角が増えるにつれて軸比も大きくなる。そのため、2給電2共振の場合、GNSSのL2バンドとGNSSのL1バンドでは、受信信号から正確な位置情報を取得することが困難となる。これに対して4給電2共振では、どの周波数でも仰角が0度の場合、軸比が0dB近傍であり、特に、1.16GHzでは、仰角が45度を超えても軸比が0.6程度であり、軸比が劇的に改善されることがわかる。
【0043】
図16(a)は2給電、(b)は4給電における、右旋円偏波に対する垂直面内の指向特性図である。
図16中、地導体に垂直でパッチ電極323,423の中心を通るZ軸の上方が天頂(0度)、つまり、パッチ電極323,423の真上、右旋90度の方向がY軸であり、右旋270度(左旋90度)がX軸である。同心円は、利得(dBic)を表す。周波数は、1.55GHzと1.61GHzが選定されている。
2給電では、周波数によって指向特性にバラツキがあるが、4給電では周波数と無関係に天頂方向に指向性が向くことがわかる。
【0044】
図17(a)は2給電2共振、(b)は4給電2共振の指向特性図であり、グラフの内容は
図16と同じである。周波数は、1.55GHz、1.61GHz、1.16GHz、1.21GHzである。周波数によって指向性にバラツキが出るのは、2給電2共振も4給電2共振も同じであるが、4給電2共振の方が、バラツキの度合いは少ないことがわかる。
【0045】
以上の説明は、給電回路20aの後段にLNA261を配置しない場合の特性を示しているが、給電回路20aの後段にLNA261を配置した場合でもLNA261により利得が変化するだけであり特性自体は変わらない。なお、LNA261は、その配置位置によってアンテナ1のトップロス、すなわち、パッチ電極123から初段増幅器(本例ではLNA261)までの電力通過損失が変わる場合がある。
【0046】
図18は、GNSS周波数帯にわたる雑音指数の特性比較のためのグラフである。
図18(a)は、本実施形態の配置による場合の特性例である。この場合の配置例を現在例と呼ぶ。
図18(b)は、初段の混合器231,232の前段にLNA261を2つ配置した場合の特性例である。このような配置を変形例1と呼ぶ。
図18(c)は、2段目の混合器251の前段にLNA261を配置した場合の特性例である。このような配置例を変形例2と呼ぶ。これらのグラフにおいて、縦軸は雑音指数(nf)であり、横軸はGNSS周波数(GHz)である。測定ポイントは、m13が1.615GHz、m14が1.560GHz、m15が1.215GHz、m16が1.165GHzである。
【0047】
これらの図を参照すると、
図18(a)の現在例では、雑音指数が、m13の測定ポイントで1.220、m14の測定ポイントで1.170、m15の測定ポイントで0.978、m16の測定ポイントで0.965である。これに対して、
図18(b)の変形例1では、雑音指数が、m13の測定ポイントで0.843、m14の測定ポイントで0.788、m15の測定ポイントで0.737、m16の測定ポイントで0.747である。
また、
図18(c)の変形例2では、雑音指数が、m13の測定ポイントで0.866、m14の測定ポイントで0.825、m15の測定ポイントで0.820、m16の測定ポイントで0.832である。
【0048】
つまり、現在例の雑音指数を、m13,m14の測定ポイントで1、m15,m16の測定ポイントで1.2とすると、変形例1では、m13、m24の測定ポイントで0.8、m15、m16の測定ポイントで0.7に改善されている。また、変形例2では、m13の測定ポイントで0.9、m14、m25,m26の測定ポイントで0.8に改善されている。つまり、パッチ電極123になるべく近い位置、つまり、位相器221〜224,241,242と混合器231,232,251の前段にLNA261を配置することで、アンテナ1のトータル雑音指数を良くすることができることが判明した。
【0049】
給電回路20aについては、
図4,
図5,
図6以外にも様々な形態で実施することができる。
図19は、
図6に示した位相器221〜224,241,242と混合器231,232,251の機能を一纏めにした、1つの4等分配各位相90度デバイス41を用いた場合の例である。この4等分配各位相90度デバイス41を用いることで、アンテナ1をより小型軽量にすることができる。
【0050】
図20は、
図6に示した位相器221〜224に代えて、入力信号の位相を+90度シフトさせて出力する位相器511、+180度シフトさせて出力する位相器512、+270度シフトさせて出力する位相器513、+360度シフトさせて出力する位相器514を設置するとともに、混合器231,232,251と位相器241,242に代えて、4等分デバイス61を設置したものである。混合器231,232,251を用いないので、より小型、簡略な給電回路を実現することができる。
【0051】
図21は、
図6に示した位相器221〜224と混合器231,232に代えて2つの3dBカプラー71,72、位相器241,242と混合器251に代えて、入力信号の位相を−90度シフトさせる1つの位相器81と3dBカプラー91とを設置したものである。各3dBカプラー71,72,91は、それぞれ50オームで終端される。3dBカプラー71,72,91は、混合器であっても良いが、ディスクリート部品である市販の汎用品カプラーを用いることもできる。このような構成の給電回路を用いることで、
図6に示した給電回路20aを有するアンテナ1よりも小型・軽量にすることができる。
【0052】
本実施形態のアンテナ1は、それ自体で、ロボット、ドローンのような移動体に搭載可能であるが、近年、様々な周波数帯のアンテナ部を1つのケースに混載した車載用のアンテナ装置においても使用可能である。
【0053】
図22は、本実施形態のアンテナ1を装備した車載用の複合アンテナ装置の分解組立図である。この複合アンテナ装置は、アンテナカバー10a’によって気密、水密に封止されるアンテナベース10b’上に、アンテナ1と、他の周波数帯の平面アンテナ102、デジタルテレビジョン放送用のポール状アンテナ103、AM/FM用の立体アンテナ104を収容して構成される。
アンテナ1は、天頂方向に指向性があり、かつ、天頂方向の軸比がこれまでのアンテナよりも格段に改善されているので、他の周波数帯のアンテナ102,103,104が近接して配置してあっても、少なくともGNSS周波数帯においては、位置情報算出のための信号を正確に受信することができる。
【0054】
<実証実験>
図2及び
図6に示される構成の4給電2共振(レシーバ271搭載)のアンテナ1と、
図8及び
図9に示される構成の2給電2共振(レシーバ271搭載)の参照例アンテナとを用いた位置精度比較の実証実験について説明する。
実証実験は、各アンテナのレシーバ271で出力された位置情報を表示するための表示装置を当該レシーバ271に接続して車輌に搭載し、電波の受信環境が良くない道路を走行したときに算出される車輌の位置情報を当該表示装置に地図と共に表示して、その地図に対する位置情報の精度をそれぞれ視覚的に確認した。車輌の走行した道路は、高架式の有料道路の直下に存在する一般道路、つまり各アンテナの天頂方向に高架式の有料道路がある一般道路である。
【0055】
図23は、第1地域の一般道路を走行しているときの参照例アンテナによる車輌の走行位置(車輌の走行に伴い算出される複数の位置情報から成る走行軌跡)601を表示した画面であり、算出された車輌の走行位置601は、高架式の有料道路601aの影響を受けて、地図上では実際の一般道路から左側に大きくずれた位置を示していることが確認された。これに対し、
図24は、同じ一般道路を走行しているときのアンテナ1による走行位置602を表示した画面である。アンテナ1で検出された車輌の走行位置602は、高架式の有料道路の存在に拘らず、地図上では実際の一般道路から逸脱することなく正しい位置を示していることが確認された。
【0056】
図25は、第1地域と異なる第2地域の一般道路を走行しているときの参照例アンテナによる車輌の走行位置701を表示した画面であり、算出された車輌の走行位置701は、高架式の有料道路701aの影響を受けて、地図上では実際の一般道路から左側に大きくた位置を示していることが確認された。これに対し、
図26は、同じ一般道路を走行しているときのアンテナ1による走行位置702を表示した画面である。アンテナ1で算出された車輌の走行位置702は、地図上では実際の一般道路から逸脱することなく正しい位置を示していることが確認された。
【0057】
このように、本実施形態のアンテナ1は、第1地域と第2地域のいずれの天頂方向に障害物がある道路を走行しているときであっても位置情報を2給電2共振の第1参照例アンテナよりも高精度に算出できることが実証された。
【0058】
<本実施形態の要点>
以上の本実施形態の説明より、例えば下記の構成及びそれによる作用効果が導出される。
(1)誘電体と、前記誘電体に設けられたパッチ電極及び回路基板と、を備え、前記パッチ電極は4つの給電端子を有し、前記回路基板には、前記4つの給電端子の各々と1対1に導通する基板側給電端子と、前記基板側給電端子から出力される信号を位相シフトする位相回路と、前記位相回路で位相シフトされた信号を混合する混合回路と、前記混合回路で混合された信号を増幅する増幅回路と、が設けられているアンテナ。
この構成のアンテナでは、天頂方向のアンテナ特性が、例えば
図7(a),(b)に示したパッチ電極、あるいは、
図8に示したパッチ電極を有するアンテナよりも格段に改善する。そのため、上記実証実験から明らかな通り、このアンテナを搭載した移動体の位置精度が格段に向上する。
【0059】
(2)前記回路基板は、前記誘電体の前記パッチ電極が設けられた面側と反対の面側に設けられ、前記4つの給電端子の各々と前記基板側給電端子における対応導通部位とが対向するアンテナ。
この構成のアンテナでは、4つの給電端子の各々と基板側給電端子における対応導通部位とが誘電体の厚みによって定まる最短距離で導通接続されるので、外部からの影響が受けにくくなる。
【0060】
(3)前記パッチ電極に4つのスロットが形成されているアンテナ。
この構成のアンテナは、パッチ電極のサイズ及び誘電体の誘電率に起因する共振条件を満たす周波数の電波を送受信するアンテナ動作と、スロットの電気長をも考慮した共振条件を満たす周波数の電波を送受信するスロット動作とを行う。つまり「2共振」動作が可能になる。
【0061】
(4)前記4つの給電端子の給電位相が、それぞれ隣り合う他の給電端子の給電位相と90度異なっているアンテナ。
この構成のアンテナによれば、円偏波の軸比の向上が可能となる。
【0062】
(5)前記位相回路は、第1位相回路と第2位相回路とを含み、前記混合回路は、第1混合回路と第2混合回路とを含み、前記第1位相回路は、前記基板側給電端子の後段に配置され、前記第2位相回路は前記第1位相回路の後段に配置され、前記第1混合回路は、前記第1位相回路の後段で、前記第2位相回路の前段に配置され、前記第2混合回路は、前記第2位相回路の後段に配置され、前記増幅回路は前記第2混合回路の後段に配置されているアンテナ。
前記第1位相回路は、例えば、入力信号を正方向45度に位相シフトする2つの位相器と、入力信号を負方向45度に位相シフトする2つの位相器とを有するものである。
また、前記第2位相回路は、例えば、入力信号を正方向90度に位相シフトする位相器と、入力信号を負方向90度に位相シフトする位相器とを有するものである。
この構成のアンテナでは、複数の位置で受信され、分配入力された複数の信号をそれぞれ所定量ずつ位相シフトさせた後に混合するので、複数の方向から伝搬されてくる円偏波を高精度に受信することができる。
【0063】
ある実施の態様では、前記混合回路が、ウィルキンソンデバイダーである。このような構成によれば、回路の主たる部分を基板への印刷による導体パターン群によって実現することができ、アンテナの量産化が容易になる。
【0064】
(6)前記増幅回路は、前記混合回路の前段に設けられている、アンテナ。 また、このアンテナでは、例えば、前記位相回路は、第1位相回路と第2位相回路とを含み、前記混合回路は、第1混合回路と第2混合回路とを含み、前記第1位相回路は、前記基板側給電端子の後段に配置され、前記第2位相回路は前記第1位相回路の後段に配置され、前記第1混合回路は、前記第1位相回路の後段で、前記第2位相回路の前段に配置され、前記第2混合回路は、前記第2位相回路の後段に配置され、前記増幅回路は、前記第1混合回路または前記第2混合回路の前段に配置されている。
この構成のアンテナでは、混合回路の前段で受信信号を増幅することで、通過損失を抑制できるとともに、信号対雑音比に優れた信号を出力することができる。
【0065】
(7)移動体に搭載される情報処理装置であって、上記のいずれかのアンテナと、前記アンテナから出力される信号に基づいて当該アンテナの位置情報を算出する位置情報処理回路とを備える、情報処理装置。この構成の情報処理装置によれば、例えば、自動運転の車輌の位置情報を高精度に算出することができる。
(8)4つの給電端子を有するパッチ電極と、前記パッチ電極からの受信信号を信号処理する回路基板とを有する衛星測位システムの第1アンテナと、前記第1アンテナとは異なる周波数帯の信号を受信する第2アンテナと、前記第1アンテナと前記第2アンテナとを載置するアンテナベースと、前記アンテナベースと共に前記第1アンテナと前記第2アンテナとを収容するアンテナケースと、を備える複合アンテナ装置では、多周波に対応する第1アンテナを他のアンテナ(第2アンテナ)と共に同一の収容空間に収容することで、装置の小型化、省スペース化することができる。
(9)誘電体と、前記誘電体に設けられたパッチ電極と、前記パッチ電極に設けられた4つの給電端子と、を備え、前記4つの給電端子の各々の給電位相がそれぞれ隣り合う他の給電端子の給電位相と90度異なると共に、その各々には、前記パッチ電極からの受信信号を信号処理する回路基板側に設けられた基板側給電端子と直接導通する、アンテナでは、円偏波の軸比の向上が可能となる。
【0066】
(10)なお、パッチ電極における前記4つのスロットを、それぞれ、ミアンダ部を有する同一形状のスロットである構成にしてもよい。このような構成では、共振条件を満たす周波数をスロットで調整することができるので、アンテナ設計の自由度を増すことができる。
【解決手段】本発明のアンテナは、パッチ電極を有する誘電体と給電部を有する回路基板とを備える。パッチ電極には、4つの電極側給電端子p11〜p14が形成されている。給電回路には、4つの電極側給電端子p11〜p14と導通接続する4つの基板側給電端子が形成されている。電極側給電端子p11〜p14には、等振幅で90度ずつ位相シフトした受信信号(電力)が給電される。