特許第6876249号(P6876249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6876249ウォーム減速機および電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876249
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】ウォーム減速機および電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/16 20060101AFI20210517BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20210517BHJP
   F16H 55/24 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   F16H1/16 Z
   B62D5/04
   F16H55/24
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-82913(P2017-82913)
(22)【出願日】2017年4月19日
(65)【公開番号】特開2018-179237(P2018-179237A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 尚史
(72)【発明者】
【氏名】上田 浩央
(72)【発明者】
【氏名】城下 要
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−023760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/00
B62D 5/00
F16H 55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の第1端部と第2端部とを有し前記第2端部が電動モータと連結されるウォームシャフトと、
前記ウォームシャフトと噛み合うウォームホイールと、
前記ウォームシャフトの前記第1端部を支持する軸受と、
前記ウォームシャフトの前記第1端部および前記軸受を収容する第1端部収容部を区画する部分を有する内面と、前記内面の前記部分に設けられた凹部であって前記軸受の周方向に対向する一対の内壁面を有する凹部とを含むハウジングと、
前記軸受を介して前記ウォームシャフトの前記第1端部を前記ウォームホイール側に付勢する付勢部材と、
前記ハウジングの前記内面の前記部分と前記軸受の外周面との間に介在し前記ウォームホイール側に開放する円弧状の緩衝部と、前記緩衝部から延設されて前記凹部に収容され、前記一対の内壁面に係合することで前記緩衝部が前記軸受の前記周方向に回転するのを規制する回転規制部とを含む弾性部材と、備え、
前記回転規制部は、当該回転規制部から前記緩衝部側への荷重伝達を抑制する肉抜き部と、前記軸受の前記周方向に離隔し前記ハウジングの前記凹部の一対の内壁面とそれぞれ係合する一対の係合部とを含み、
前記肉抜き部は、前記一対の係合部間に介在し、前記ウォームシャフトの前記軸方向と平行な方向に深さを有する貫通または非貫通の穴により形成されている、ウォーム減速機。
【請求項2】
前記凹部の前記一対の内壁面のそれぞれと前記ハウジングの前記内面の前記部分とで、前記凹部の入口角部が形成され、
前記回転規制部は、前記入口角部との干渉を抑制する逃げ部を有する、請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項3】
請求項1または2に記載のウォーム減速機を介して前記電動モータの動力をステアリングシャフトに伝達する電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォーム減速機および電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動モータの回転出力をステアリングシャフトに伝達する電動パワーステアリング装置のウォーム減速機において、電動モータに駆動連結される一端を有するウォームシャフトと、ステアリングシャフトに連結されるウォームホイールとの間のバックラッシを抑制するために、付勢部材によってウォームシャフトの他端を軸受を介してウォームホイール側に付勢する構造が知られている。
【0003】
また、ウォームホイール側からウォームシャフトを通じて軸受に作用する荷重を吸収することで、ウォームシャフトを収容するハウジングと軸受との接触打音を抑制する技術が提案されている。
例えば、特許文献1は、ギヤケース(ハウジング)の内周面と軸受の外周面とが、所定の隙間を介して対向しており、ギヤケースの内周面に設けられた環状溝と軸受の外周面との間に、軸受の外周面の全周に延びる環状の弾性部を介在させて、軸受とハウジングとの接触打音を抑制する。
【0004】
ところで、アシスト時のウォームシャフトとウォームホイールとの噛み合い反力によりウォームシャフトを介して軸受に作用する荷重の方向は、ギヤ諸元から定まっている。そこで、荷重が作用する方向を含む範囲に延びる円弧状の弾性部を用いる場合を想定すると、弾性部が軸受の周方向に回転しないように位置規制する必要がある。
一方、特許文献2では、軸受の外周面とハウジングの内周面との間に、円弧状の本体部を介在させる樹脂製の軸受ホルダが用いられている。軸受ホルダでは、円弧状の本体部から径方向外側に突出する中実の位置決め凸部が、ハウジングの内周面の凹部に収容されている。中実の位置決め凸部が、凹部の一対の内壁面に係合することで、軸受ホルダの本体部が軸受の周方向に回転することが規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−125113号公報
【特許文献2】特開2013−155789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軸受の周囲に円弧状の弾性部を配置するときに、特許文献2のように、円弧状の弾性部から径方向外側に突出する中実の位置決め凸部によって、円弧状の弾性部の回転を規制する場合、下記の不具合の発生が予想される。すなわち、前記回転の規制に際して、中実の位置決め凸部がハウジングの凹部の一対の内壁面と係合して変形し、その変形荷重が円弧状の弾性部に及ぼされる。このため、円弧状の弾性部が変形して、軸受の移動を十分に減衰できなくなり、接触打音が発生するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、低騒音のウォーム減速機および電動パワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、軸方向(X)の第1端部(21a)と第2端部(21b)とを有し前記第2端部が電動モータ(19)と連結されるウォームシャフト(21)と、前記ウォームシャフトと噛み合うウォームホイール(24)と、前記ウォームシャフトの前記第1端部を支持する軸受(22)と、前記ウォームシャフトの前記第1端部および前記軸受を収容する第1端部収容部(101)を区画する部分(54,55)を有する内面(20a)と、前記内面の前記部分に設けられた凹部であって前記軸受の周方向(C)に対向する一対の内壁面(82,83)を有する凹部(80)とを含むハウジング(20)と、前記軸受を介して前記ウォームシャフトの前記第1端部を前記ウォームホイール側に付勢する付勢部材(25)と、前記ハウジングの前記内面の前記部分と前記軸受の外周面との間に介在し前記ウォームホイール側に開放する円弧状の緩衝部(61)と、前記緩衝部から延設されて前記凹部に収容され、前記一対の内壁面に係合することで前記緩衝部が前記軸受の前記周方向に回転するのを規制する回転規制部(62;62P;62Q)とを含む弾性部材(60;60P;60Q)と、備え、前記回転規制部は、当該回転規制部から前記緩衝部側への荷重伝達を抑制する肉抜き部(67;67P;67Q)と、前記軸受の前記周方向に離隔し前記ハウジングの前記凹部の一対の内壁面とそれぞれ係合する一対の係合部(65;65P;65Q)とを含み、前記肉抜き部は、前記一対の係合部間に介在し、前記ウォームシャフトの前記軸方向と平行な方向に深さを有する貫通または非貫通の穴により形成されている、ウォーム減速機(1)を提供する。
【0009】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ
【0010】
請求項のように、前記凹部の前記一対の内壁面のそれぞれと前記ハウジングの前記内面の前記部分とで、前記凹部の入口角部(84)が形成され、前記回転規制部は、前記入口角部との干渉を抑制する逃げ部(68)を有していてもよい。
請求項の発明は、請求項1または2に記載のウォーム減速機を介して前記電動モータの動力をステアリングシャフト(8)に伝達する電動パワーステアリング装置(2)を提供する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明では、弾性部材の回転規制部による回転規制時に、回転規制部がハウジングの凹部の内壁面と係合して変形する。回転規制部に肉抜き部が設けられていて回転規制部が変形し易くなっている。このため、回転規制部の変形荷重が緩衝部に伝達されて緩衝部が変形してしまうことが抑制される。緩衝部は、回転規制部の変形の影響を受けることなく、軸受の移動を減衰することができる。したがって、軸受とハウジングとの接触打音を抑制して、低騒音のウォーム減速機を実現することができる。
【0012】
また、回転規制部による回転規制時において、回転規制部の一対の係合部が、これら一対の係合部間に介在する貫通または非貫通の穴(肉抜き部)側へ変形し易い。このため、緩衝部側へ回転規制部の変形荷重が及ぼされることを効果的に抑制することができる。
請求項の発明では、回転規制部に設けられた逃げ部によって、回転規制部と凹部の入口角部との干渉が抑制される。このため、回転規制部の耐久性が向上される。
【0013】
請求項の発明では、低騒音の電動パワーステアリング装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るウォーム減速機が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、ウォーム減速機の要部の断面図である。
図3図3は、図2のIII−III断面の模式図である。
図4図4は、図2のIV−IV断面の模式図である。
図5図5は、ウォームシャフトの第1端部収容部周辺の構造の断面図である。
図6図6は、ハウジングの第1端部収容の部分の断面図である。
図7図7は、ハウジングの第1開口周辺の部分、付勢部材および弾性部材の分解斜視図である。
図8図8は、図7とは別角度から見た弾性部材の斜視図である。
図9図9は、回転規制部が回転規制する状態を示す説明図である。
図10図10(a)は、第1変更例における弾性部材の概略図であり、図10(b)は、図10(a)のXb−Xb面断面である。
図11図11は、第2変更例における弾性部材の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るウォーム減速機1が適用された電動パワーステアリング装置2の概略構成を示す模式図である。
図1を参照して、電動パワーステアリング装置2は、操舵機構3および転舵機構4を備えている。電動パワーステアリング装置2は、運転者によるステアリングホイール(操舵部材)5の操作に基づいて転舵輪6を転舵させる。操舵機構3は、運転者によるステアリングホイール5の操作を補助するアシスト機構7を備えている。
【0016】
操舵機構3は、ステアリングホイール5の回転に連動して回転するステアリングシャフト8を含む。ステアリングシャフト8は、コラムシャフト9、インターミディエイトシャフト10およびピニオンシャフト11を含む。
コラムシャフト9は、ステアリングホイール5に連結される入力シャフト9aと、インターミディエイトシャフト10に連結される出力シャフト9bと、入力シャフト9aおよび出力シャフト9bを同軸上に連結するトーションバー9cとを含む。
【0017】
出力シャフト9bは、自在継手12を介して、インターミディエイトシャフト10に連結されている。インターミディエイトシャフト10は、自在継手13を介して、ピニオンシャフト11に連結されている。ピニオンシャフト11には、ピニオン11aが形成されている。
転舵機構4は、ラックシャフト14およびタイロッド15を有している。ラックシャフト14には、ピニオン11aに噛み合うラック14aが形成されている。タイロッド15は、その一端がラックシャフト14に連結されて、その他端が転舵輪6に連結されている。
【0018】
運転者のステアリングホイール5の操作に応じて、ステアリングホイール5が回転すると、コラムシャフト9およびインターミディエイトシャフト10を介して、ピニオンシャフト11が回転される。ピニオンシャフト11の回転は、ラックアンドピニオン機構により、ラックシャフト14の軸方向への往復運動に変換される。ラックシャフト14の往復運動により、転舵輪6の転舵角が変化する。
【0019】
アシスト機構7は、トルクセンサ16、車速センサ17、ECU(Electronic Control Unit )18、電動モータ19およびウォーム減速機1を有している。
トルクセンサ16は、入力シャフト9aと出力シャフト9bとの間の捩れ量に基づき操舵トルクTを検出する。ECU18は、トルクセンサ16により検出された操舵トルクTと車速センサ17により検出された車速Vとに基づいて、アシストトルクを決定する。電動モータ19は、ECU18により駆動制御される。電動モータ19の回転力(動力)は、ウォーム減速機1を介してステアリングシャフト8のコラムシャフト9の出力シャフト9bに伝達される。その結果、アシストトルクが出力シャフト9bに付与されて、運転者のステアリング操作が補助される。
【0020】
本実施形態では、コラムシャフト9に電動モータ19の動力が付与される電動パワーステアリング装置を例にして説明するが、本発明は、これに限られず、ウォーム減速機を備えた電動パワーステアリング装置に適用することができる。
次に、ウォーム減速機1の構成を説明する。図2は、ウォーム減速機1の要部の断面図である。図3は、図2におけるIII−III線に沿った断面の模式図であり、図4は、図2におけるIV−IV線に沿った断面の模式図である。
【0021】
図2を参照して、ウォーム減速機1は、ハウジング20、ウォームシャフト21、第1軸受22、第2軸受23、ウォームホイール24、付勢部材25、弾性部材60および蓋部材29を含む。
ウォームシャフト21は、その軸方向Xに離隔する第1端部21aおよび第2端部21bと、第1端部21aおよび第2端部21b間の中間部である歯部21cとを含む。第1端部21aは、電動モータ19側とは反対側におけるウォームシャフト21の軸方向端部である。第2端部21bは、電動モータ19側におけるウォームシャフト21の軸方向端部である。
【0022】
ウォームホイール24は、コラムシャフト9の出力シャフト9bに一体回転可能に連結されている。ウォームホイール24は、出力シャフト9bに一体回転可能に結合された環状の芯金24aと、芯金24aに外嵌された環状の樹脂部材24bとを含む。樹脂部材24bの外周面には、歯部24cが形成されている。ウォームホイール24の歯部24cは、ウォームシャフト21の歯部21cと噛み合っている。
【0023】
ウォームシャフト21は、電動モータ19の出力軸19aと略同軸上に配置されている。ウォームシャフト21の第2端部21bと、電動モータ19の出力軸19aの端部とは、動力伝達継手27を介して、トルク伝達可能に、かつ、揺動可能に連結されている。
動力伝達継手27は、第1回転要素27a、第2回転要素27bおよび中間要素27cを有する。第1回転要素27aは、ウォームシャフト21の第2端部21bに一体回転可能に連結されている。第2回転要素27bは、電動モータ19の出力軸19aに一体回転可能に連結されている。中間要素27cは、第1回転要素27aおよび第2回転要素27bの間に介在され、回転要素27a,27b間にトルクを伝達する。中間要素27cは、ゴムなどの弾性体で形成されている。
【0024】
ウォームシャフト21の第1端部21aには、第1軸受22が取り付けられている。ウォームシャフト21の第1端部21aは、第1軸受22を介してハウジング20に回転可能に支持されている。ウォームシャフト21の第2端部21bには、第2軸受23が取り付けられている。ウォームシャフト21の第2端部21bは、第2軸受23を介してハウジング20に回転可能に支持されている。動力伝達継手27の中間要素27cが弾性変形することによって、第2軸受23の軸受中心を中心とした、電動モータ19の出力軸19aに対するウォームシャフト21の揺動が許容される。
【0025】
第1軸受22は、たとえば、玉軸受により構成されている。第1軸受22は、内輪40、外輪41および複数の転動体42を含む。第1軸受22の内輪40は、ウォームシャフト21の第1端部21aの外周に設けられた嵌合凹部43に嵌合されている。そのため、内輪40は、ウォームシャフト21と一体回転可能である。内輪40は、ウォームシャフト21の第1端部21aの外周に設けられた位置決め段部44に軸方向Xから当接している。これにより、ウォームシャフト21に対する内輪40の軸方向移動が規制されている。
【0026】
第2軸受23は、たとえば、玉軸受により構成されている。第2軸受23は、内輪30、外輪31および複数の転動体32を含む。第2軸受23の内輪30は、ウォームシャフト21の第2端部21bに一体回転可能に隙間嵌めにより嵌合されている。外輪31は、ハウジング20に設けられた位置決め段部34と、ハウジング20の内面20aに設けられたねじ部にねじ嵌合された止定部材35との間で軸方向Xに挟持されている。これにより、外輪31の軸方向移動が規制されている。
【0027】
図3に示すように、付勢部材25は、たとえば、圧縮コイルばねである。付勢部材25は、第1軸受22を介してウォームシャフト21の第1端部21aをウォームホイール24に向けて弾性的に付勢している。弾性部材60は、たとえばゴムなどの弾性材料からなる。
図5は、ウォームシャフト21の第1端部21aの周辺の構造の断面図である。図6は、ハウジング20の要部の断面図である。図7は、ハウジング20の要部、付勢部材25および弾性部材60の分解斜視図である。図8は、図7とは別角度から見た弾性部材60の斜視図である。
【0028】
まず、弾性部材60の概略構成を説明する。図4図5および図7に示すように、弾性部材60は、緩衝部61と、回転規制部62と、連結部63と、軸方向付勢部64とを含む。図4に示すように、緩衝部61は、円弧状をなし、ハウジング20の内面20aと第1軸受22の外輪41の外周面との間に介在している。
回転規制部62は、緩衝部61から第1軸受22の径方向Rの外方(ウォームホイール側とは反対側)に延設されており、ハウジング20の内面20aに設けられた回転規制部収容凹部80に収容されている。図7に示すように、連結部63は、緩衝部61の一対の円弧端部611間を連結しており、図5に示すように、蓋部材29とウォームシャフト21の第1端部21aとの間に介在している。軸方向付勢部64は、連結部63から蓋部材29側に突出形成された凸部である(図7も参照)。
【0029】
図5に示すように、蓋部材29は、筒状部29aと、筒状部29aの軸方向の一端を閉塞する端壁部29bと、筒状部29aの軸方向の他端から筒状部29aの径方向外方に延設された環状フランジ部29cとを含む。
図2を参照して、ハウジング20は、ウォームシャフト21、第1軸受22、第2軸受23、ウォームホイール24、付勢部材25、弾性部材60および蓋部材29などを収容する内部空間28を有している。内部空間28は、ハウジング20の内面20aによって区画されている。内部空間28は、ウォームシャフト収容空間100、ウォームホイール収容空間110、第1開口51および第2開口52を有する。
【0030】
ウォームシャフト収容空間100には、ウォームシャフト21が収容される。ウォームホイール収容空間110には、ウォームホイール24が収容される。各開口51,52は、ウォームシャフト収容空間100と、内部空間28の外部とを連通する。
ウォームシャフト収容空間100は、軸方向Xに延びる円筒内空間である。ウォームシャフト収容空間100は、第1端部収容部101、第2端部収容部102および歯部収容部103を有する。
【0031】
図5図6および図7に示すように、ハウジング20の内面20aには、第1開口51側から、蓋部材嵌合凹部53と、弾性部材嵌合凹部54と、軸受収容凹部55とがこの順で形成されている。蓋部材嵌合凹部53は、第1開口51を区画し、蓋部材29の筒状部29aが内嵌される環状凹部である。弾性部材嵌合凹部54は、弾性部材60の緩衝部61が内嵌される環状凹部である。弾性部材嵌合凹部54の周方向の一部に、回転規制部収容凹部80が形成されている。
【0032】
図5に示すように、軸受収容凹部55は、第1軸受22の外輪41の外周面の周囲を隙間を設けて取り囲む環状凹部であり、ウォームシャフト21の第1端部21aに外嵌された第1軸受22を収容する。
図6に示すように、弾性部材嵌合凹部54の内径D4は、蓋部材嵌合凹部53の内径D3よりも小さく、軸受収容凹部55の内径D5よりも大きくされている(D3>D4>D5)。
【0033】
蓋部材嵌合凹部53と弾性部材嵌合凹部54との境界に、第1開口51側に向く環状の第1段部56が形成されている。第1段部56は、蓋部材29の端壁部29bと対向する。弾性部材嵌合凹部54と軸受収容凹部55との境界に、第1開口51側に向く環状の第2段部57が形成されている。図5に示すように、第2段部57は、弾性部材嵌合凹部54に嵌合された、弾性部材60の緩衝部61の電動モータ側の端縁61dと当接して、ハウジング20に対して緩衝部61を軸方向Xに位置決めしている。
【0034】
図5および図6に示すように、ウォームシャフト収容空間100の第1端部収容部101は、ハウジング20の内面20aに設けられた弾性部材嵌合凹部54と軸受収容凹部55とによって区画されている。第1端部収容部101は、軸方向Xにおけるウォームシャフト収容空間100の一端である。第1端部収容部101は、第1開口51を介して内部空間28の外部に連通している。
【0035】
図2を参照して、第1端部収容部101は、第1軸受22がウォームシャフト21とウォームホイール24との芯間距離D1が増減する方向に移動する軸受移動孔として機能する(図3も参照)。図2に示すように、芯間距離D1は、ウォームシャフト21の中心軸C1と、ウォームホイール24の中心軸C2との距離である。
また、図5および図6に示すように、ハウジング20の内面20aにおいて、第1軸受22に対して、ウォームホイール24側とは反対側に開口する付勢部材収容孔70が形成されている。付勢部材収容孔70に、付勢部材25が収容されている。付勢部材収容孔70には、第1端部収容部101に開口する内側開口70aと、内部空間28の外部に開口する外側開口70bとが形成されている。外側開口70bは、閉塞部材71で閉塞されている。付勢部材25は、閉塞部材71と第1軸受22の外輪41の外周面との間に介在し、第1軸受22を介してウォームシャフト21の第1端部21aをウォームホイール24側に弾性的に付勢する。
【0036】
また、図4図5および説明図である図9に示すように、弾性部材嵌合凹部54には、弾性部材60の回転規制部62を収容する回転規制部収容凹部80が形成されている。図9に示すように、回転規制部収容凹部80は、弾性部材嵌合凹部54から窪む底部81と、周方向に離隔する一対の内壁面82,83とにより区画されている。各内壁面82,83と弾性部材嵌合凹部54との交叉によって、回転規制部収容凹部80の入口角部84が形成されている。
【0037】
次いで、弾性部材60の構成を詳細に説明する。図4に示すように、弾性部材60の緩衝部61は、ハウジング20の内面20aと第1軸受22の外輪41の外周面との間に介在し、ウォームホイール24側に開放する円弧状の板で形成されている。図7および図8に示すように、緩衝部61は、円弧面からなる外面61aと、円弧面からなる内面61bと、蓋部材29側の端縁61cと、電動モータ19側の端縁61dとを含む。図5に示すように、緩衝部61の外面61aは、弾性部材嵌合凹部54に嵌合され、緩衝部61の内面61bは、第1軸受22の外輪41の外周面に嵌合される。
【0038】
緩衝部61の内面61bと第1軸受22の外輪41の外周面との間に、隙間が介在していてもよい。緩衝部61の外面61aがハウジング20の内面20aの弾性部材嵌合凹部54と嵌合され、緩衝部61の内面61bが第1軸受22の外輪41の外周面に嵌合された状態で、緩衝部61が非圧縮の状態のときには、軸受収容凹部55と第1軸受22の外輪41の外周面との間に、隙間S1が設けられている。
【0039】
緩衝部61は、ウォームホイール側からウォームシャフト21を介して第1軸受22に作用する荷重で第1軸受22がウォームホイール側とは反対側に移動するときに、弾性圧縮される。緩衝部61は、弾性反発力で、第1軸受22の移動を減衰させる。なお、第1軸受22に作用する荷重が過大となるときは、第1軸受22の外輪41の外周面と軸受収容凹部55とが当接して隙間S1がゼロになる。すなわち、緩衝部61の圧縮量が、前記隙間S1の量以下に制限されることで、緩衝部61の耐久性が確保される。
【0040】
図5および図8に示すように、緩衝部61には、付勢部材25との干渉を避けるために、電動モータ19側の端縁61dに開口するようにして外面61aおよび内面61bを貫通する、例えば半円状の逃げ溝61eが形成されている。
図9に示すように、回転規制部62は、緩衝部61の外面61aから径方向外側(ウォームホイール側とは反対側)へ延設されている。回転規制部62は、周方向Cに延び軸方向X(図9では示さず。図9の紙面と直交する方向)に所定の厚みを有する略矩形板状をなしている。回転規制部収容凹部80に収容された回転規制部62は、回転規制部収容凹部80の一対の内壁面82,83と係合することで、緩衝部61が第1軸受22の周方向Cに回転するのを規制する。
【0041】
回転規制部62は、一対の係合部65と、架橋部66と、肉抜き部67とを含む。一対の係合部65は、緩衝部61に接続された基端部65aと、基端部65aからウォームホイール側とは反対側に離隔する先端部65bとを有する柱状部である。一対の係合部65は、周方向Cに離隔し、回転規制部収容凹部80の一対の内壁面82,83とそれぞれ係合可能である。具体的には、緩衝部61の回転方向に応じて何れか一方の係合部65が、対応する内壁面82,83と係合されて、緩衝部61の回転が規制される。各係合部65に基端部65aには、回転規制時において、当該基端部65aと回転規制部収容凹部80の対応する入口角部84との緩衝を抑制する例えば凹湾曲状の逃げ部68が形成されている。
【0042】
架橋部66は、一対の係合部65の先端部65b間に架け渡されて先端部65bどうしを接続している。肉抜き部67は、周方向Cに関して一対の係合部65の間に介在している。肉抜き部67は、径方向Rに関して、架橋部66と緩衝部61の外面61aとの間に介在している。すなわち、肉抜き部67は、一対の係合部65間において、ウォームシャフト21の軸方向Xと平行な方向に貫通する貫通孔(図7も参照)により形成されている。
【0043】
図7および図8に示すように、連結部63は、略矩形板状をなしており、円弧状の緩衝部61の一対の円弧端部611において、蓋部材29側の縁部間を連結する。図5に示すように、連結部63は、ウォームシャフト21の第1端部21aの端面および蓋部材29の端壁部29bと対向している。図8に示すように、連結部63と一対の円弧端部611とが組み合わされて、溝形を形成している。ウォーム減速機1の組立時において、弾性部材60をハウジング20内に組み込むときに、連結部63を把持することで弾性部材60を容易に組み込むことができる。特に、組立時にロボットハンドを用いて連結部63を把持することが可能となり、自動組立に適している。
【0044】
軸方向付勢部64は、連結部63の蓋部材29側の面に突出形成された凸部からなる。図5に示すように、軸方向付勢部64は、蓋部材29の端壁部29bに弾性的に当接しており、その当接反力が、緩衝部61の電動モータ19側の端縁61dをハウジング20の内面20aの第2段部57に押圧するように作用する。このため、ハウジング20に対して緩衝部61の軸方向位置の保持が安定する。
【0045】
図2を参照して、第2端部収容部102には、第2端部21bと、第2端部21bに取り付けられた第2軸受23と、第2端部21bに連結された動力伝達継手27とが収容されている。第2端部収容部102は、軸方向Xにおけるウォームシャフト収容空間100の他端である。第2開口52は、軸方向Xにおけるハウジング20の他端に形成されている。第2端部収容部102は、第2開口52を介して、内部空間28の外部に連通している。
【0046】
歯部収容部103には、歯部21cが収容されている。歯部収容部103は、ウォームホイール収容空間110に連通している。
本実施形態によれば、図9に示すように、弾性部材60の回転規制部62による回転規制時に、回転規制部62がハウジング20の回転規制部収容凹部80の内壁面82または83と係合して変形する。回転規制部62に肉抜き部67が設けられていて回転規制部62が変形し易くなっている。このため、回転規制部62の変形荷重が緩衝部61に伝達されて緩衝部61が変形してしまうことが抑制される。緩衝部61は、回転規制部62の変形の影響を受けることなく、第1軸受22の径方向Rの移動を減衰することができる。したがって、第1軸受22とハウジング20との接触打音を抑制して、低騒音のウォーム減速機1を実現することができる。
【0047】
また、回転規制部62による回転規制時において、回転規制部62の一対の係合部65が、これら一対の係合部65間に介在する貫通穴(肉抜き部67)側へ変形し易い。このため、緩衝部61側へ回転規制部62の変形荷重が及ぼされることを効果的に抑制することができる。
また、回転規制部62に設けられた逃げ部68によって、回転規制部62と回転規制部収容凹部80の入口角部84との干渉が抑制される。このため、回転規制部62の耐久性が向上される。
【0048】
また、ウォーム減速機1を低騒音にすることで、低騒音の電動パワーステアリング装置2を実現することができる。
本発明は、前記実施形態に限定されるものではない。例えば、図9の前記実施形態では、弾性部材60の回転規制部62に、貫通穴からなる肉抜き部67が設けられているが、これに代えて、図10(a)、および図10(a)のXb−Xb断面図である図10(b)に示される第1変更例のように、弾性部材60Pの回転規制部62Pにおいて、非貫通の孔からなる肉抜き部67Pが設けられていてもよい。第1変更例では、一対の係合部65の耐久性が向上される。
【0049】
また、図9の前記実施形態では、弾性部材60の柱状の一対の係合部65の先端部65b間が、架橋部66を介して接続されているが、図11に示される第2変更例のように、弾性部材60Qの回転規制部62Qが、互いに独立した柱状の一対の係合部65Qで形成されてもよい。貫通穴からなる肉抜き部67Qは、緩衝部61とは反対側に開放される。第2変更例では、回転規制部62Qによる回転規制時に、係合部65Qが、より変形し易くなり、緩衝部61への荷重伝達が一層抑制される。
【0050】
その他、本発明は、特許請求の範囲記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0051】
1…ウォーム減速機、2…電動パワーステアリング装置、19…電動モータ、20…ハウジング、20a…内面、21…ウォームシャフト、21a…第1端部、21b…第2端部、22…第1軸受、22…ウォームホイール、25…付勢部材、41…外輪、51…第1開口、53…蓋部材嵌合凹部、54…弾性部材嵌合凹部(第1端部収容部を区画する部分)、55…軸受収容凹部(第1端部収容部を区画する部分)、56…第1段部、57…第2段部、60;60P;60Q…弾性部材、61…緩衝部、61a…外面、61b…内面、62;62P;62Q…回転規制部、63…連結部、64…軸方向付勢部、65;65Q…係合部、65a…基端部、65b…先端部、66…架橋部、67;67P;67Q…肉抜き部、68…逃げ部、70…付勢部材収容孔、80…回転規制部収容凹部、81…底部、82,83…内壁面、84…入口角部、100…ウォームシャフト収容空間、101…第1端部収容部、611…円弧端部、C…(軸受の)周方向、R…(軸受の)径方向、X…(ウォームシャフトの)軸方向
図1
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