特許第6876275号(P6876275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧

特許6876275環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法
<>
  • 特許6876275-環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法 図000024
  • 特許6876275-環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法 図000025
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876275
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/10 20060101AFI20210517BHJP
   C07D 319/06 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   C07D493/10 C
   C07D319/06
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-505872(P2018-505872)
(86)(22)【出願日】2017年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2017009403
(87)【国際公開番号】WO2017159525
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2020年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-50882(P2016-50882)
(32)【優先日】2016年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山根 正大
【審査官】 奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−302674(JP,A)
【文献】 特開昭59−134788(JP,A)
【文献】 特開2001−302673(JP,A)
【文献】 特開2005−029563(JP,A)
【文献】 特開2007−126448(JP,A)
【文献】 特開2011−074000(JP,A)
【文献】 特開2007−070339(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/118196(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 493/10
C07D 319/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸触媒下、原料ヒドロキシピバルアルデヒドと、少なくともペンタエリスリトール及び/又はトリメチロールプロパンと、をアセタール化反応させて、環状アセタール骨格を有するジオールを得るアセタール化反応工程を有し、
該アセタール化反応工程から分離した反応母液を次のアセタール化反応工程に再使用し、
前記原料ヒドロキシピバルアルデヒドが、ホルムアルデヒド、ネオペンチルグリコール、下記式(III)で示されるネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物、及びイソブチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種の不純物を含み、
【化1】
(式中、Rは、炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜4の炭化水素基、又は水素原子を示す。)
前記不純物を含む場合において、
前記ホルムアルデヒドの含有量が、前記原料ヒドロキシピバルアルデヒド100質量%に対して、0.80質量%以下であり、
前記ネオペンチルグリコール及び/又は前記ネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物の合計質量モル濃度が、前記原料ヒドロキシピバルアルデヒドの総量に対して、0.100mol/kg以下であり、
前記イソブチルアルデヒドの含有量が、前記原料ヒドロキシピバルアルデヒド100質量%に対して、0.05質量%以下である、
環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
【請求項2】
所定条件下のガスクロマトグラフィー分析における前記環状アセタール骨格を有するジオールの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間が1.45以下の成分を合計した面積分率濃度において、
アセタール化反応により得られる前記環状アセタール骨格を有するジオールが、不純物として、下記式(I)で示されるジオキサントリオールモノホルマールを0.04面積%以下含む、
【化2】
請求項1に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
【請求項3】
所定条件下のガスクロマトグラフィー分析における前記環状アセタール骨格を有するジオールの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間が1.45以下の成分を合計した面積分率濃度において、
アセタール化反応により得られる前記環状アセタール骨格を有するジオールが、不純物として、下記式(II)で示されるヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタールを0.19面積%以下含む、
【化3】
請求項1又は2に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
【請求項4】
所定条件下のガスクロマトグラフィー分析における前記環状アセタール骨格を有するジオールの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間が1.45以下の成分を合計した面積分率濃度において、
アセタール化反応により得られる前記環状アセタール骨格を有するジオールが、不純物として、下記式(IV)で示されるスピロモノアルコールを0.15面積%以下含む、
【化4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
【請求項5】
前記式(III)で示される前記エステル化合物が、下記式(V)で示されるイソ酪酸ネオペンチルグリコールモノエステル、及び/又は、下記式(VI)で示されるヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールモノエステルを含む、
【化5】
【化6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
【請求項6】
前記環状アセタール骨格を有するジオールが、スピログリコール及び/又はジオキサングリコールである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
【請求項7】
ホルムアルデヒドとイソブチルアルデヒドのアルドール縮合反応により粗ヒドロキシピバルアルデヒドを得るアルドール縮合反応工程を有する、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
【請求項8】
前記アルドール縮合反応工程により得られた前記粗ヒドロキシピバルアルデヒドに、水及び/又は有機溶媒を添加して前記原料ヒドロキシピバルアルデヒドを抽出する抽出工程、
前記アルドール縮合反応工程により得られた前記粗ヒドロキシピバルアルデヒドを蒸留して、前記原料ヒドロキシピバルアルデヒドを留出回収する蒸留工程、及び
前記アルドール縮合反応工程により得られた前記粗ヒドロキシピバルアルデヒドに、水及び/又は有機溶媒を添加して晶析し、固液分離により前記原料ヒドロキシピバルアルデヒドを回収する晶析工程の少なくともいずれかの工程を有する、
請求項7に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
【請求項9】
前記アセタール化反応工程の反応温度が40〜105℃であり、
前記アセタール化反応工程中の反応液のpH値が、0.1〜4.0であり、
前記アセタール化反応工程後、前記反応液を、環状アセタール骨格を有するジオールの固体と反応母液に固液分離し、前記反応母液の30〜98質量%を再使用して、次のアセタール化反応工程を行う、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(以下、「スピログリコール」ともいう。)は、主として樹脂原料として用いられる。従来、スピログリコールは、ヒドロキシピバルアルデヒド(以下、「HPA」ともいう。)とペンタエリスリトール(以下、「PE」ともいう。)とを酸触媒下、水溶液中でアセタール化反応させることにより合成される。そして、反応液をアルカリで中和後、反応中に析出したスピログリコールの結晶をろ過、水洗、乾燥することにより製品とする。
【0003】
このようなスピログリコールの製造方法としては、例えば、酸触媒を用いてHPAとPEとを水溶媒中で反応させて反応生成液を得て、得られた反応生成液をアルカリで中和し、中和後の反応生成液を75〜100℃に加熱してスピログリコールを製造する方法(例えば、特許文献1参照)、酸触媒を用いてHPAとPEとを水溶媒中で反応させて反応生成液を得て、得られた反応生成液をアルカリでpH7以上にしてスラリー状混合物を得て、得られたスラリー状混合物を120℃以上で加熱処理して、スピログリコールを製造する方法(例えば、特許文献2参照)、及び、酸触媒を用いてHPAとPEとを水と非混和性の有機溶媒と水との混合溶媒中で反応させて、スピログリコールを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。尚、従来、原料として用いられるHPAは、塩基触媒存在下にイソブチルアルデヒドとホルムアルデヒドとのアルドール縮合反応にて得られる。
【0004】
また、十分な高純度のスピログリコールを工業的に有利に製造する方法として、酸触媒を用いてPEとHPAとを反応させてスピログリコールを所定量含む反応液(スラリー)を得て、該反応液を中和することなく、ろ過してスピログリコールを分離し、生じたろ液の一部を次回の反応で再使用するスピログリコールの製造方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。さらに、十分な純度のスピログリコールを製造する方法として、PEとHPAとを反応させて得られる粗スピログリコールを、有機溶媒に溶解し、次いて得られた溶液に水を加えて不純物を水中に抽出除去した後、水層と有機層とを分離し、有機層を冷却しスピログリコールを再結晶する方法が知られている(例えば、特許文献5参照)。また、十分な高純度のスピログリコールを製造する方法として、スピログリコールの原料であるヒドロキシピバルアルデヒドを予め酸素含有ガスと接触させる工程を有するスピログリコールの製造方法が知られている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−148776号公報
【特許文献2】特開平3−27384号公報
【特許文献3】特開2001−55388号公報
【特許文献4】特開2005−29563号公報
【特許文献5】特開2000−34290号公報
【特許文献6】特開2001−302673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低純度のスピログリコールをポリマー原料等に用いた場合には、スピログリコール本来の特性を引き出すことができない。例えば、ビスフェノールとスピログリコールとの共重合ポリカーボネートは、本来、優れた光学特性と耐衝撃性を有するので、光学用途に用いられる樹脂として有用であるが、従来の純度の低い市販品スピログリコールを用いて重合したポリマーは満足する耐衝撃性特性が得られず、また着色問題もあって光学用途に用いることが不可能であった。こういった理由から、スピログリコールの純度は極力高いことが好ましい。
【0007】
しかしながら、特許文献4のような方法では、ろ別された反応液の少なくとも一部を次回の反応で再使用する場合、反応回数が増加するにつれ、原料のHPAに含まれるホルムアルデヒド等の不純物に由来する副反応生成物が蓄積することになる。そして、これらの副反応生成物の量がある一定値を超えると、副反応生成物がスピログリコール中へ析出してしまい、得られるスピログリコールの純度が低下するという問題がある。
【0008】
また、特許文献5のような方法では、工業的に多大の精製コストを要するという問題がある。
【0009】
さらに、特許文献6では、原料HPAに含まれる不純物量と、スピログリコール合成後のスピログリコールに含まれる不純物量との関係は十分に検討されていない。
【0010】
このような問題は5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン(以下、「ジオキサングリコール」ともいう。)等の環状アセタール骨格を有するジオールにも同様に当てはまり得る。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、環状アセタール骨格を有するジオールの原料であるHPAに含まれる不純物と、合成反応にて得られた環状アセタール骨格を有するジオールに含まれる不純物の関係を把握し、原料HPAに含まれる不純物量を制御し、高純度の環状アセタール骨格を有するジオールを製造可能な環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、特許文献1〜3及び5に記載の方法においては、スピログリコールの結晶をろ過して生じたろ液(以下、「反応母液」ともいう。)は酸触媒を中和した後、そのまま廃棄されることになる。即ち、反応母液中に含まれる有用な成分のHPA、PE及び反応中間体5,5−ジヒドロキシメチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン(以下、「DOT」ともいう。)を廃棄することとなる。また、この反応母液は生成するスピログリコールの数倍と非常に多量であり、この処理に多大の労力を必要とする。そのため、反応母液の破棄は、工業的に不利である。
【0013】
同様に有機溶媒による晶析によって精製を行う場合も、ろ過で生じたろ液(以下、「晶析母液」ともいう。)中に多量のスピログリコールが含まれており、これを廃棄することはスピログリコールを廃棄していることとなり工業的に不利である。
【0014】
このような状況を解決するためには、スピログリコールを合成する工程において反応母液を中和することなく、次回の反応に再使用する事が考えられるが、反応母液を次回の反応で再使用する場合、反応回数が増加するにつれ、反応母液中に反応中間体や不純物が蓄積するため、これらの不純物濃度がある一定値を超えるとスピログリコール中へ析出してしまい、得られるスピログリコールの純度が低下する。
【0015】
有機溶媒による晶析工程においても同様に、晶析母液を次回の晶析に再使用することが考えられるが、再使用回数が増加するにつれ晶析母液中に不純物が蓄積し、不純物濃度がある一定値を超えるようになると製品スピログリコール中へ析出してしまい、高純度のスピログリコールを得ることができなくなる。
【0016】
このような問題はジオキサングリコール等の環状アセタール骨格を有するジオールにも同様に当てはまり得る。
【0017】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、反応母液を繰り返し使用する場合であっても、高純度の環状アセタール骨格を有するジオールを工業的に有利に製造可能な環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、環状アセタール骨格を有するジオールの原料であるHPAに含まれる不純物が、合成反応にて得られた環状アセタール骨格を有するジオールに含まれる不純物に影響を与えることを見出し、原料HPAに含まれる不純物量を制御することにより上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
酸触媒下、原料ヒドロキシピバルアルデヒドと、少なくともペンタエリスリトール及び/又はトリメチロールプロパンと、をアセタール化反応させて、環状アセタール骨格を有するジオールを得るアセタール化反応工程を有し、
該アセタール化反応工程から分離した反応母液を次のアセタール化反応工程に再使用し、
前記原料ヒドロキシピバルアルデヒドが、ホルムアルデヒド、ネオペンチルグリコール、下記式(III)で示されるネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物、及びイソブチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種の不純物を含み、
【化1】
(式中、Rは、炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜4の炭化水素基、又は水素原子を示す。)
前記不純物を含む場合において、
前記ホルムアルデヒドの含有量が、前記原料ヒドロキシピバルアルデヒド100質量%に対して、0.80質量%以下であり、
前記ネオペンチルグリコール及び/又は前記ネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物の合計質量モル濃度が、前記原料ヒドロキシピバルアルデヒドの総量に対して、0.100mol/kg以下であり、
前記イソブチルアルデヒドの含有量が、前記原料ヒドロキシピバルアルデヒド100質量%に対して、0.05質量%以下である、
環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
〔2〕
所定条件下のガスクロマトグラフィー分析における前記環状アセタール骨格を有するジオールの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間が1.45以下の成分を合計した面積分率濃度において、
アセタール化反応により得られる前記環状アセタール骨格を有するジオールが、不純物として、下記式(I)で示されるジオキサントリオールモノホルマールを0.04面積%以下含む、
【化2】
〔1〕に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
〔3〕
所定条件下のガスクロマトグラフィー分析における前記環状アセタール骨格を有するジオールの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間が1.45以下の成分を合計した面積分率濃度において、
アセタール化反応により得られる前記環状アセタール骨格を有するジオールが、不純物として、下記式(II)で示されるヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタールを0.19面積%以下含む、
【化3】
〔1〕又は〔2〕に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
〔4〕
所定条件下のガスクロマトグラフィー分析における前記環状アセタール骨格を有するジオールの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間が1.45以下の成分を合計した面積分率濃度において、
アセタール化反応により得られる前記環状アセタール骨格を有するジオールが、不純物として、下記式(IV)で示されるスピロモノアルコールを0.15面積%以下含む、
【化4】
〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
〔5〕
前記式(III)で示される前記エステル化合物が、下記式(V)で示されるイソ酪酸ネオペンチルグリコールモノエステル、及び/又は、下記式(VI)で示されるヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールモノエステルを含む、
【化5】
【化6】
〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
〔6〕
前記環状アセタール骨格を有するジオールが、スピログリコール及び/又はジオキサングリコールである、〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
〔7〕
ホルムアルデヒドとイソブチルアルデヒドのアルドール縮合反応により粗ヒドロキシピバルアルデヒドを得るアルドール縮合反応工程を有する、
〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
〔8〕
前記アルドール縮合反応工程により得られた前記粗ヒドロキシピバルアルデヒドに、水及び/又は有機溶媒を添加して前記原料ヒドロキシピバルアルデヒドを抽出する抽出工程、
前記アルドール縮合反応工程により得られた前記粗ヒドロキシピバルアルデヒドを蒸留して、前記原料ヒドロキシピバルアルデヒドを留出回収する蒸留工程、及び
前記アルドール縮合反応工程により得られた前記粗ヒドロキシピバルアルデヒドに、水及び/又は有機溶媒を添加して晶析し、固液分離により前記原料ヒドロキシピバルアルデヒドを回収する晶析工程の少なくともいずれかの工程を有する、
〔7〕に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
〔9〕
前記アセタール化反応工程の反応温度が40〜105℃であり、
前記アセタール化反応工程中の反応液のpH値が、0.1〜4.0であり、
前記アセタール化反応工程後、前記反応液を、環状アセタール骨格を有するジオールの固体と反応母液に固液分離し、前記反応母液の30〜98質量%を再使用して、次のアセタール化反応工程を行う、
〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高純度の環状アセタール骨格を有するジオールを製造可能な環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法、反応母液を繰り返し使用する場合であっても、高純度の環状アセタール骨格を有するジオールを工業的に有利に製造可能な環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法を提供することができる。また、このようにして得られる高純度の環状アセタール骨格を有するジオールは、主に樹脂原料として、工業的に有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例及び比較例におけるSPG合成回数とDOT−F濃度の変化を示すグラフである。
図2】実施例及び比較例におけるSPG合成回数とNPA濃度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0023】
〔環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法〕
本実施形態の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法は、酸触媒下、原料ヒドロキシピバルアルデヒド(以下、「原料HPA」ともいう。)と、少なくともペンタエリスリトール及び/又はトリメチロールプロパンと、をアセタール化反応させて、環状アセタール骨格を有するジオールを得るアセタール化反応工程を有し、
前記原料ヒドロキシピバルアルデヒドが、ホルムアルデヒド、ネオペンチルグリコール、下記式(III)で示されるネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物、及びイソブチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種の不純物を含み、
【化7】
(式中、Rは、炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜4の炭化水素基、又は水素原子を示す。)
前記不純物を含む場合において、
前記ホルムアルデヒドの含有量が、前記原料ヒドロキシピバルアルデヒド100質量%に対して、0.80質量%以下であり、
前記ネオペンチルグリコール及び/又は前記ネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物の合計質量モル濃度が、前記原料ヒドロキシピバルアルデヒドの総量に対して、0.100mol/kg以下であり、
前記イソブチルアルデヒドの含有量が、前記原料ヒドロキシピバルアルデヒド100質量%に対して、0.05質量%以下である。
【0024】
本実施形態の環状アセタール骨格を有するジオールの製造方法は、原料HPAに含まれる不純物であるホルムアルデヒド、ネオペンチルグリコール、ネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物、イソブチルアルデヒドの含有量を制御することにより、環状アセタール骨格を有するジオール合成時の副生成物である各種アセタール化合物の生成を抑制し、高純度の環状アセタール骨格を有するジオールを得ることができる。また、本実施形態により製造される環状アセタール骨格を有するジオールとしては、特に限定されないが、例えば、スピログリコール及び/又はジオキサングリコールが挙げられる。なお、スピログリコールは、下記式(A)で表される化合物であり、ジオキサングリコールは、下記式(B)で表される化合物である。
【化8】
【0025】
原料HPAは、不純物として、ホルムアルデヒドを所定量含んでもよいが、含まないことが好ましい。原料HPAに含まれ得るホルムアルデヒドの含有量は、原料HPA100質量%に対して、0.80質量%以下であり、好ましくは0.55質量%以下であり、より好ましくは0.35質量%以下である。原料HPAに含まれ得るホルムアルデヒドの含有量の下限は、特に限定されないが、検出限界以下、0質量%が好ましい。原料HPAに含まれ得るホルムアルデヒドの含有量は、アセチルアセトン比色法により測定することができ、より具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。また、原料HPAに含まれ得るホルムアルデヒドの含有量は後述する原料HPAの精製により低減させることができる。
【0026】
原料HPAは、不純物として、ネオペンチルグリコール及び/又は式(III)で示されるネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物を所定量含んでもよいが、含まないことが好ましい。式(III)で示されるエステル化合物としては、特に限定されないが、具体的には、下記式(V)で示されるイソ酪酸ネオペンチルグリコールモノエステル、及び/又は、下記式(VI)で示されるヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールモノエステルが挙げられる。
【化9】
(式中、Rは、炭素数1〜4の炭化水素基、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜4の炭化水素基、又は水素原子を示す。)
【化10】
【化11】
【0027】
原料HPAに含まれ得るネオペンチルグリコール及び/又は式(III)で示されるネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物の合計含有量は、質量モル濃度基準で、0.100mol/kg以下であり、好ましくは0.080mol/kg以下であり、より好ましくは0.060mol/kg以下である。原料HPAに含まれ得るネオペンチルグリコール及び/又は式(III)で示されるネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物の含有量の下限は、特に限定されないが、検出限界以下、0mol/kgが好ましい。原料HPAに含まれ得るネオペンチルグリコール及び/又は式(III)で示されるネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物の含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができ、より具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。また、原料HPAに含まれ得るネオペンチルグリコール及び/又は式(III)で示されるネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物の含有量は後述する原料HPAの精製により低減させることができる。
【0028】
原料HPAは、不純物として、イソブチルアルデヒドを所定量含んでもよいが、含まないことが好ましい。原料HPAに含まれ得るイソブチルアルデヒドの合計含有量は、原料HPA100質量%に対して、0.10質量%以下であり、好ましくは0.07質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以下である。原料HPAに含まれ得るイソブチルアルデヒドの含有量の下限は、特に限定されないが、検出限界以下、0質量%が好ましい。原料HPAに含まれ得るイソブチルアルデヒドの含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができ、より具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。また、原料HPAに含まれ得るイソブチルアルデヒドの含有量は後述する原料HPAの精製により低減させることができる。
【0029】
アセタール化反応により得られる環状アセタール骨格を有するジオールは、不純物として、式(I)で示されるジオキサントリオールモノホルマールを含んでもよいが、含まないことが好ましい。
【化12】
【0030】
ジオキサントリオールモノホルマールの含有量は、所定条件下のガスクロマトグラフィー分析における環状アセタール骨格を有するジオールの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間が1.45以下の成分を100面積%として合計した場合の面積分率濃度として表すことができる。この場合、ジオキサントリオールモノホルマールの含有量は、0.04面積%以下であり、好ましくは0.03面積%以下であり、より好ましくは0.02面積%以下である。ジオキサントリオールモノホルマールの含有量の下限は、特に限定されないが、検出限界以下、0面積%が好ましい。ジオキサントリオールモノホルマールの含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができ、より具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。また、アセタール化反応により得られる環状アセタール骨格を有するジオールに含まれ得るジオキサントリオールモノホルマールの含有量は後述する原料HPA中のホルムアルデヒドを低減させることにより低減させることができる。なお、本明細書において「所定条件」とは、下記条件で、環状アセタール骨格を有するジオールの相対保持時間を1.00とした場合に、メタノールを除く相対保持時間が1.45以下の成分のGCチャート総面積を100面積%として測定することをいう。
(条件)
測定試料 :2.5質量%のメタノール溶液に調製
装置 :GC−1700(株式会社島津製作所製)
使用カラム:DB−1長さ30m×内径0.53mm、膜厚1.5μm(アジレント・テクノロジー株式会社製)
分析条件 :injection temp.280℃
detection temp.280℃
キャリアーガス:ヘリウム
カラム温度:80℃で4分保持→250℃迄6℃/分で昇温→250℃で10分保持
→280℃迄10℃/分で昇温→280℃で15分保持
検出器 :水素炎イオン化検出器(FID)
【0031】
アセタール化反応により得られる環状アセタール骨格を有するジオールは、不純物として、式(II)で示されるヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタールを含んでもよいが、含まないことが好ましい。
【化13】
【0032】
ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタールの含有量は、所定条件下のガスクロマトグラフィー分析における環状アセタール骨格を有するジオールの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間が1.45以下の成分を100面積%として合計した場合の面積分率濃度として表すことができる。この場合、ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタールの含有量は、0.19面積%以下であり、好ましくは0.13面積%以下であり、より好ましくは0.08面積%以下である。ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタールの含有量の下限は、特に限定されないが、検出限界以下、0面積%が好ましい。ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタールの含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができ、より具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。また、アセタール化反応により得られる環状アセタール骨格を有するジオールに含まれ得るヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタールの含有量は原料HPA中のネオペンチルグリコール及び/又は式(III)で示されるネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物を低減させることにより低減させることができる。
【0033】
アセタール化反応により得られる環状アセタール骨格を有するジオールは、不純物として、式(IV)で示されるスピロモノアルコールを含んでもよいが、含まないことが好ましい。
【化14】
【0034】
スピロモノアルコールの含有量は、所定条件下のガスクロマトグラフィー分析における環状アセタール骨格を有するジオールの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間が1.45以下の成分を100面積%として合計した場合の面積分率濃度として表すことができる。この場合、スピロモノアルコールの含有量は、0.15面積%以下であり、好ましくは0.13面積%以下であり、より好ましくは0.12面積%以下である。スピロモノアルコールの含有量の下限は、特に限定されないが、検出限界以下、0面積%が好ましい。スピロモノアルコールの含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができ、より具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。また、アセタール化反応により得られる環状アセタール骨格を有するジオールに含まれ得るスピロモノアルコールの含有量は原料HPA中のイソブチルアルデヒドを低減させることにより低減させることができる。
【0035】
〔アルドール縮合反応工程〕
本実施形態の製造方法は、環状アセタール骨格を有するジオールの原料である原料HPAを合成するアルドール縮合反応工程を含んでいてもよい。アルドール縮合反応工程は、ホルムアルデヒドとイソブチルアルデヒドのアルドール縮合反応により粗ヒドロキシピバルアルデヒド(以下、「粗HPA」ともいう。)を得る工程である。アルドール縮合反応工程においては、必要に応じて塩基性触媒を用いてもよい。また、ホルムアルデヒドには、ホルムアルデヒド水溶液(ホルマリン)が含まれるものとする。なお、粗HPAには、原料HPAに含まれるような不純物が含まれていてもよいものとする。
【0036】
アルドール縮合反応工程において用いる塩基性触媒としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの無機塩基;及び第3級アミン、ピリジンなどの有機塩基が挙げられる。このなかでも、第3級アミンが好ましい。このような塩基性触媒を用いることにより、塩基性が強すぎることによりHPAが未反応ホルムアルデヒドとのカニッツアロ反応を併発してHPAの収率が低下することが抑制され、また塩基性が弱すぎることにより反応速度の低下が抑制される傾向にある。
【0037】
第3級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、N−エチルピペリジン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N−メチルピロリジン、N−エチルピロリジンなどが挙げられる。このなかでも、好ましくは安価に入手可能なトリメチルアミン、トリエチルアミンであり、より好ましくはトリエチルアミンである。
【0038】
塩基性触媒の使用量は、塩基性触媒の種類によっても当然変動するが、イソブチルアルデヒド1モルに対して、好ましくは0.001〜0.5モルであり、より好ましくは0.01〜0.2モルである。
【0039】
〔粗ヒドロキシピバルアルデヒド精製工程〕
本実施形態の製造方法は、アルドール縮合反応工程により得られた粗ヒドロキシピバルアルデヒドを精製して原料HPAを得る粗ヒドロキシピバルアルデヒド精製工程を有していてもよい。粗HPA精製工程としては、特に限定されないが、例えば、アルドール縮合反応工程により得られた粗HPAに、水及び/又は有機溶媒を添加して原料HPAを抽出する抽出工程;アルドール縮合反応工程により得られた粗HPAを蒸留して、原料HPAを留出回収する蒸留工程;アルドール縮合反応工程により得られた粗HPAに、水及び/又は有機溶媒を添加して晶析し、固液分離により原料HPAを回収する晶析工程が挙げられる。これら工程は、1種単独で実施しても、2種以上を併せて実施してもよい。
【0040】
(抽出工程)
抽出工程において用いる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、イソブチルアルデヒドが挙げられる。抽出工程においては、イソブチルアルデヒド層に原料HPAが抽出される。
【0041】
(蒸留工程)
粗HPAの蒸留条件としては、特に限定されないが、塔頂部の温度が、88〜150℃で、塔頂絶対圧力が1.0kPa〜1MPaが挙げられる。
【0042】
(晶析工程)
晶析工程において用いる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水が挙げられる。また、固液分離方法としては、特に限定されないが、例えば、濾過や、遠心分離など公知の手段を用いることができる。晶析の温度操作条件としては、特に限定されないが、10〜80℃が挙げられる。
【0043】
粗ヒドロキシピバルアルデヒド精製工程においては、原料HPA中のホルムアルデヒドの含有量が、原料HPA100質量%に対して、0.80質量%以下となるように精製することが好ましい。原料HPA中のホルムアルデヒドの含有量が0.80質量%を超過する場合、環状アセタール骨格を有するジオールの合成反応(アセタール化反応工程)中に、HPA、PE、及びホルムアルデヒドにてアセタール化が起こり、2−メチル−2−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3−イル)プロパン−1−オール(以下、「ジオキサントリオールモノホルマール」ともいう。)が副生成する量が増加する。ジオキサントリオールモノホルマールが一定量以上存在すると、環状アセタール骨格を有するジオールの結晶中に混入し易くなり、結果として得られる環状アセタール骨格を有するジオールの純度が低下する。
【0044】
また、粗ヒドロキシピバルアルデヒド精製工程においては、原料HPA中のネオペンチルグリコールと、2−メチルプロパン酸3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル(以下、「イソ酪酸ネオペンチルグリコールモノエステル」ともいう。)、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロパノアート(以下、「ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールモノエステル」ともいう。)などのネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物の質量モル濃度の合計が0.100mol/kg以下となるように精製することが好ましい。原料HPA中のネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物が0.100mol/kgを超過する場合、環状アセタール骨格を有するジオールの合成反応(アセタール化反応工程)中に、エステル化合物が加水分解して、ネオペンチルグリコールが生成し、ネオペンチルグリコールとHPAのアセタール化が起こり、2−メチル−2−(5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−1−プロパノール(以下、「ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタール」ともいう。)が副生成する量が増加する。ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタールが一定量以上存在すると、環状アセタール骨格を有するジオールの結晶中に混入し易くなり、結果として得られる環状アセタール骨格を有するジオールの純度が低下する。
【0045】
さらに、粗ヒドロキシピバルアルデヒド精製工程においては、原料HPA中のイソブチルアルデヒドの含有量が、原料HPA100質量%に対して、0.05質量%以下となるように精製することが好ましい。原料HPA中のイソブチルアルデヒドが0.05質量%を超過する場合、環状アセタール骨格を有するジオールの合成(アセタール化反応工程)中に、イソブチルアルデヒド、HPA、及びPEにてアセタール化が起こり、2−メチル−2−(9−プロパン−2−イル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3−イル)プロパン−1−オール(以下、「スピロモノアルコール」ともいう。)が副生成する量が増加する。スピロモノアルコールが一定量以上存在すると、環状アセタール骨格を有するジオールの結晶中に混入し易くなり、結果として得られる環状アセタール骨格を有するジオールの純度が低下する。
【0046】
ジオキサントリオールモノホルマール、ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタール、スピロモノアルコールは水溶媒中での環状アセタール骨格を有するジオールの合成反応中に環状アセタール骨格を有するジオールの結晶中に取り込まれ易いか、若しくは反応母液に対する溶解度が低いことが理由で環状アセタール骨格を有するジオールの製品中に比較的多く取り込まれ易い傾向にある。
【0047】
〔アセタール化反応工程〕
アセタール化反応工程は、酸触媒下、原料HPAと、PEと、をアセタール化反応させて、環状アセタール骨格を有するジオールを得る工程である。アセタール化反応工程において、PEに対する原料HPAのモル比(HPA/PE)は、好ましくは1.0〜4.0であり、より好ましくは1.5〜2.5である。モル比(HPA/PE)が4.0以下であることにより、反応に関わらない過剰な原料HPA量が少なくなり、HPA同士が2量化するなどの副反応が抑制されるため、原単位の悪化や環状アセタール骨格を有するジオールの純度の悪化を抑制できる傾向にある。一方、モル比(HPA/PE)が1.0以上であることにより、環状アセタール骨格を有するジオールの反応中間体が多量にできてしまうことによる環状アセタール骨格を有するジオールの収率低下を抑制でき、この中間体による環状アセタール骨格を有するジオールの純度の悪化や、PEの原単位の悪化を抑制できる傾向にある。
【0048】
アセタール化反応工程においては、必要に応じて溶媒を用いることができる。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水を用いることができる。
【0049】
本実施形態の製造方法においては、必要に応じて、反応系に種晶を添加してもよい。種晶としては、主として環状アセタール骨格を有するジオールからなる結晶を用いる。種晶の粒径は、特に制限されず、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上である。種晶の添加量は、反応系への全供給量(原料、溶媒、触媒及び種晶)に対して、好ましくは1.5〜30質量%であり、より好ましくは1.5〜5質量%である。種晶の添加量が1.5質量%以上であることにより、粒径改善の効果がより効率的に発揮され、得られる環状アセタール骨格を有するジオールの結晶のろ過時間が短縮でき、又ろ過時にケーキに割れが入りにくく洗浄性がより向上したり、湿潤ケーキの含液率が低下する傾向にある。一方、これよりも多いと反応で得られる結晶量が少なくなり、環状アセタール骨格を有するジオールの製造効率が悪くなる。尚、種晶は、反応前に添加してもよいし、反応中に添加してもよい。
【0050】
反応に使用される酸触媒としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、燐酸、硝酸などの鉱酸、又はパラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。このとき、酸触媒の使用量は、その酸触媒の種類によって異なるが、一般的には、反応中の反応液のpH値が好ましくは0.1〜4.0、より好ましくは1.0〜2.0の間となるようにする。pH値が0.1以上であることにより、装置腐食などの危険性がより低下する傾向にある。また、pH値が4.0以下であることにより、反応性がより向上し、環状アセタール骨格を有するジオールの収率がより向上する傾向にある。
【0051】
アセタール化反応の反応温度は、好ましくは40〜105℃であり、より好ましくは60〜95℃である。反応温度が40℃以上であることにより、反応時間がより短くなり工業的に有利となる傾向にある。また、反応温度が105℃以下であることにより、HPAの変質が抑制され、環状アセタール骨格を有するジオールの収率や純度がより向上する傾向にある。
【0052】
アセタール化反応の方法としては、回分式でも半回分式でも連続式でもよく、これらを組み合わせてもよい。回分式の場合、反応器に原料HPA以外の原料をすべて仕込み、所定の温度まで加熱した後に原料HPA又はその水溶液を0.5〜24時間、好ましくは1〜6時間かけて連続的に加える。環状アセタール骨格を有するジオールは合成反応中に析出し、反応液はスラリー状となる。添加時間が短い(短時間で多量に添加する)ことにより、反応が急激に進むために結晶粒径が小さくなる傾向にある。添加時間が上記範囲内であることにより、環状アセタール骨格を有するジオールの純度がより高くなり、また、反応にかかる時間も短縮できるため工業的見地から好ましい。
【0053】
〔環状アセタール骨格を有するジオールの分離精製工程〕
本実施形態の製造方法は、反応液中に析出した環状アセタール骨格を有するジオールを分離し、分離した環状アセタール骨格を有するジオールを洗浄などする環状アセタール骨格を有するジオールの分離精製工程を有していてもよい。上記反応で得られた反応液は、目的物である環状アセタール骨格を有するジオールが析出したスラリー状であり、ここからろ過や遠心分離などによって環状アセタール骨格を有するジオールの結晶を分離することができる。ろ過によって分離された環状アセタール骨格を有するジオールは塩基性水溶液及び/又は水を用いて洗浄される。
【0054】
洗浄水の使用量は、分離された含液環状アセタール骨格を有するジオールの重量に対して、好ましくは0.1〜10倍であり、より好ましくは0.5〜3倍である。洗浄によって回収される洗浄液は、そのまま、もしくは反応母液と混合して次回の反応に用いることもできる。
【0055】
塩基性水溶液の塩基の種類としては、特に限定されないが、例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸バリウムなどの無機塩基やジエチルアミン、トリエチルアミンなどの有機塩基を用いることができる。このなかでも、環状アセタール骨格を有するジオールを用いて誘導体を合成したときの誘導体の物性、着色及び臭気などの点から、無機塩基を使用することが好ましい。
【0056】
ここで反応液から環状アセタール骨格を有するジオールの結晶を分離して得られた反応母液中には、酸触媒、未反応のHPAやPE、反応中間体が多く含まれている。本実施形態では、アセタール化反応工程後、反応液を、環状アセタール骨格を有するジオールの固体と反応母液に固液分離し、反応母液の30〜98質量%を再使用して、次のアセタール化反応工程を行うことができる。
【0057】
再使用する反応母液の量は、反応母液総量に対して、好ましくは30〜98質量%であり、より好ましくは50〜90質量%である。再使用率が98質量%以下であることにより、不純物が母液中に蓄積され難く、環状アセタール骨格を有するジオール中へ不純物が析出することをより抑制できる傾向にある。
【0058】
〔ポリエステル樹脂〕
本実施形態のポリエステル樹脂は、ジオール構成単位とジカルボン酸構成単位とを含み、前記ジオール構成単位が、下記式(A)及び/又は式(B)で表される環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位を含む。
【化15】
【0059】
〔ジオール構成単位〕
ジオール構成単位は、式(A)及び/又は式(B)で表される環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位を含み、必要に応じて、その他のジオールに由来する構成単位を含んでもよい。
【0060】
環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位の含有量は、ジオール構成単位の総量に対して、好ましくは1〜80モル%であり、より好ましくは3〜60モル%であり、さらに好ましくは5〜55モル%であり、特に好ましくは10〜50モル%である。
【0061】
(その他のジオール)
その他のジオールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルジオール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(別名ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(別名ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(別名ビスフェノールS)等のビスフェノール類;上記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び上記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0062】
このなかでも、ポリエステル樹脂の機械的性能、経済性等の面からエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく、特にエチレングリコールが好ましい。その他のジオールは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0063】
その他のジオールに由来する構成単位の含有量は、ジオール構成単位の総量に対して、20〜99モル%であり、好ましくは40〜97モル%であり、より好ましくは45〜95モル%であり、さらに好ましくは50〜90モル%である。
【0064】
〔ジカルボン酸構成単位〕
ジカルボン酸構成単位としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。このなかでも、ポリエステル樹脂の機械的性能、及び耐熱性の面からテレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および2,7−ナフタレンジカルボン酸といった芳香族ジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、およびイソフタル酸が好ましい。その中でも、経済性の面からテレフタル酸がもっとも好ましい。ジカルボン酸は、は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0065】
〔ポリエステル樹脂の製造方法〕
ポリエステル樹脂を製造する方法は、特に限定されず、従来公知の方法を適用することができる。例えば、エステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法または溶液重合法を挙げることができる。原料としては、上述したように精製したものを用いることが好ましい。
【0066】
上記各方法においては、公知の触媒を使用することができる。公知の触媒としては、特に限定されないが、例えば、金属マグネシウム、ナトリウム、マグネシウムのアルコキサイド;亜鉛、鉛、セリウム、カドミウム、マンガン、コバルト、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、アルミニウム、錫、ゲルマニウム、アンチモン、チタニウムなどの脂肪酸塩、炭酸塩、水酸化物、塩化物、酸化物などが挙げられる。これらの中でも、マンガン、チタン、アンチモン、ゲルマニウムの化合物が好ましく、酢酸マンガン、テトラブトキシチタン、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウムが特に好ましい。これら触媒は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0067】
上記各方法においては、必要に応じて、公知の添加剤を使用してもよい。公知の添加剤としては、特に限定されないが、例えば、エーテル化防止剤、熱安定剤及び光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤、耐電防止剤、滑剤、酸化防止剤、離型剤、塩基性化合物等が挙げられる。
【0068】
エーテル化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン化合物等を挙げることができる。
【0069】
熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、リン化合物が挙げられる。このなかでもリン酸エステルが好ましく、リン酸トリエチルがより好ましい。
【0070】
塩基性化合物としては、特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、水酸化物、カルボン酸塩、酸化物、塩化物、アルコキシドが挙げられる。このなかでも、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸リチウムが特に好ましい。
【0071】
〔用途〕
本実施形態のポリエステル樹脂は、種々の用途に用いることができる。例えば、射出成形体、シート、フィルム、パイプ等の押し出し成形体、ボトル、発泡体、粘着材、接着剤、塗料等に用いることができる。更に詳しく述べるとすれば、シートは単層でも多層でもよく、フィルムも単層でも多層でもよく、また未延伸のものでも、一方向、又は二方向に延伸されたものでもよく、鋼板などに積層してもよい。ボトルはダイレクトブローボトルでもインジェクションブローボトルでもよく、射出成形されたものでもよい。発泡体は、ビーズ発泡体でも押出し発泡体でもよい。
【実施例】
【0072】
次に本発明を更に具体的に説明する。但し本発明はこれに限定されるものではない。
【0073】
[環状アセタール骨格を有するジオールのガスクロマトグラフィー分析条件]
得られた環状アセタール骨格を有するジオールの純度分析は下記条件のガスクロマトグラフィーにより行った。環状アセタール骨格を有するジオールの相対保持時間を1.00とした場合に、メタノールを除く相対保持時間が1.45以下の成分のGCチャート総面積を100面積%とし、各成分の面積分率濃度を求めた。
(条件)
測定試料 :2.5質量%のメタノール溶液に調製
装置 :GC−1700(株式会社島津製作所製)
使用カラム:DB−1長さ30m×内径0.53mm、膜厚1.5μm(アジレント・テクノロジー株式会社製)
分析条件 :injection temp.280℃
detection temp.280℃
キャリアーガス:ヘリウム
カラム温度:80℃で4分保持→250℃迄6℃/分で昇温→250℃で10分保持
→280℃迄10℃/分で昇温→280℃で15分保持
検出器 :水素炎イオン化検出器(FID)
【0074】
[HPAの分析条件]
以下のようにして得られた粗HPA及び精製HPAの純度は、下記条件のガスクロマトグラフィー分析及びホルムアルデヒドの定量方法により測定した。
(ガスクロマトグラフィー分析条件)
測定試料 :1質量%のアセトン溶液に調製
装置 :GC−6890N(アジレント・テクノロジー株式会社製)
使用カラム:DB−1長さ30m×内径0.53mm、膜厚1.5μm(アジレント・テクノロジー株式会社製)
分析条件 :injection temp.200℃
detection temp.250℃
キャリアーガス:ヘリウム
カラム温度:60℃で7分保持→250℃迄6℃/分で昇温→250℃で20分保持
検出器 :水素炎イオン化検出器(FID)
【0075】
(ホルムアルデヒドの定量)
UVスペクトロメーターを用いてアセチルアセトン比色法で測定した。
【0076】
<製造例1>(粗HPA水溶液の調製)
イソブチルアルデヒド(和光純薬品)200質量部と、40質量%ホルマリン(三菱瓦斯化学品)225質量部と、を仕込み、40℃、窒素気流下で攪拌しながら、触媒としてトリエチルアミン(和光純薬品)9.9質量部を5分間かけて加え、アルドール縮合反応を行った。トリエチルアミン添加終了時、反応液温度は65℃に達した。ここから、反応液温度を徐々に上げ、30分後には反応液温度を90℃とした。反応液温度90℃で50分間反応を継続させた後、外部冷却によって、反応液温度を60℃まで冷却し、反応を停止させた。
【0077】
続いて、70〜80℃、圧力40kPaの条件下で、この反応液から、未反応のイソブチルアルデヒド、トリエチルアミン、及びメタノール等の低沸点成分を留去して、粗HPA水溶液425質量部を得た。粗HPA水溶液の組成を、ガスクロマトグラフィー(アジレント・テクノロジー社製)を用いて分析した。その結果、粗HPA水溶液は、HPA62.5質量%、イソブチルアルデヒド0.30質量%、ネオペンチルグリコール1.17質量%、ホルムアルデヒド1.55質量%、トリエチルアミン1.29質量%、ギ酸0.38質量%、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールモノエステル0.85質量%、イソ酪酸ネオペンチルグリコールモノエステル0.15質量%、水30.52質量%、その他1.29質量%を含むものであった。
【0078】
<製造例2>(精製HPAの調製)
製造例1で得られた粗HPA水溶液260質量部及び水590質量部を晶析槽に仕込み、HPAの濃度19.0質量%とし、60℃に保った。この溶液を攪拌しながら、40℃まで冷却し、39〜40℃で保持した。90分後、この後、HPAの結晶を含むスラリーの全量を遠心分離機にて固液分離し、得られたHPA結晶を水100質量部を使用して洗浄した。この結果、857.5質量部の濾液を回収し、湿ケーキを91.9質量部得た。このケーキを窒素気流下、30℃で乾燥し、HPAの結晶71.3質量部を得た。粗HPAに対するHPA結晶の回収率は44.1%であった。この結晶を、ガスクロマトグラフィー(アジレント・テクノロジー社製)を用いて分析した。その結果、HPA結晶は、HPA99.3質量%、ネオペンチルグリコール0.00質量%(検出限界以下)、イソ酪酸ネオペンチルグリコールモノエステル0.00質量%(検出限界以下)、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸モノエステル0.50質量%、イソブチルアルヒド0.05質量%、ホルムアルデヒド0.00質量%(検出限界以下)、その他0.15質量%を含むものであった。得られた精製HPA結晶と水を混合し、精製HPA結晶を60質量%含むHPA水溶液Aを調製した。
【0079】
<製造例3>(イソ酪酸ネオペンチルグリコールモノエステルの調製)
ネオペンチルグリコール(三菱瓦斯化学品)280.8質量部、ピリジン(和光純薬品)79.0質量部、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン(和光純薬品)12.2質量部、及び塩化メチレン(和光純薬品)2500質量部を混合し、25℃とした。ここにイソ酪酸クロリド(和光純薬品)95.4質量部の塩化メチレン溶液を4時間かけて滴下した。25℃にて16時間撹拌後、水を用いた抽出にて未反応のネオペンチルグリコールや不純物を除去した。得られた油層の溶媒を単蒸留にて除去した後の缶出液の純度を分析したところ、イソ酪酸ネオペンチルグリコールモノエステル96.4質量%、その他3.60質量%であった。
【0080】
<参考例4>(スピログリコール合成1回目)
水1800質量部にペンタエリスリトール116質量部を溶解し、メタンスルホン酸(和光純薬品)を溶液のpHが1.6となるように添加した。ここに製造例2で調製したHPA水溶液A290質量部を3時間かけて滴下した。反応温度は90℃であった。滴下終了後90℃のまま12時間熟成した。熟成終了後、反応液を、765質量部と、1441質量部にわけ、1441質量部の反応液を固液分離することによって、湿スピログリコール183質量部と、ろ液1130質量部を得た。その後、得られた湿スピログリコールを、500ppm水酸化ナトリウム水溶液500質量部にて中和洗浄し、次いで、水500質量部にて洗浄を行った。その後、スピログリコールの乾燥を行った。なお、765質量部に分けた反応液にもスピログリコール結晶が含まれるが、当該スピログリコール結晶は続く2回目以降の反応において種晶として作用する。
【0081】
<参考例5>(スピログリコール合成2回目〜15回目)
1回目の反応で得られた反応液765質量部、1回目の反応で得られたろ液のうち1000質量部、水25質量部、ペンタエリスリトール116質量部、メタンスルホン酸0.7質量部を混合した。この際、溶液のpHは1.6であった。ここにHPA水溶液A290質量部を3時間かけて滴下した。反応温度は90℃であった。滴下終了後90℃のまま3時間熟成した。熟成終了後、反応液を、765質量部と、残りの1431.7質量部にわけ、1431.7質量部の反応液を固液分離することによって、湿スピログリコール244質量部と、ろ液1083質量部を得た。
【0082】
そして、3回目以降の反応においても、同様に、その前の回で得られた反応液765質量部、ろ液1000質量部、水25質量部、ペンタエリスリトール116質量部、メタンスルホン酸0.7質量部を混合し、HPA水溶液A290質量部を3時間かけて滴下して、反応を繰り返し行った。各回の反応にて、前回の反応液全体の母液の約80〜90質量%を次回の反応に用いた。この合成反応を繰返し行い、安定した母液組成となった。15回目の反応にて乾燥後のスピログリコールを合計で236部を得た。仕込んだペンタエリスリトール(ろ液中のペンタエリスリトールを除く)に対するスピログリコールの収率は91.7モル%であった。
【0083】
得られたスピログリコールの純度をガスクロマトグラフィーを用いて分析した。その結果、スピログリコールは、スピログリコール99.60面積%、ジオキサントリオールモノホルマール0.01面積%、ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタール0.10面積%、スピロモノアルコール0.13面積%含むものであった。
【0084】
<実施例1>(精製HPAを用いたスピログリコール繰返し合成)
参考例5の15回目の反応で得られた反応液765質量部と、ろ液1000質量部、水25質量部、ペンタエリスリトール116質量部、メタンスルホン酸0.7質量部を混合し、HPA水溶液A290質量部を3時間かけて滴下して、参考例5と同様の合成を行った(図1及び2中のSPG合成回数1回に相当)。そして、この1回目の反応で得られた反応液765質量部を用いて、ろ液1000質量部、水25質量部、ペンタエリスリトール116質量部、メタンスルホン酸0.7質量部を混合し、HPA水溶液A290質量部を3時間かけて滴下して、スピログリコールの合成反応を繰り返しおこなった。このようなスピログリコール合成反応を、得られたスピログリコールに含まれる不純物濃度が安定するまで、更に繰り返した。
【0085】
SPG合成回数11回目の合成で得られたスピログリコールのガスクロマトグラフィー純度は、スピログリコール99.58面積%、ジオキサントリオールモノホルマール0.01面積%、ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタール0.11面積%、スピロモノアルコール0.14面積%であった。結果を表1にまとめる。また、スピログリコールに含まれる不純物濃度の推移を図1及び2に示す。
【0086】
<実施例2>(精製HPAにホルムアルデヒドを添加した場合のスピログリコール繰返し合成)
製造例2で作製した精製HPAと水とホルムアルデヒドとを混合して、精製HPAを60質量%含み、且つ、精製HPA100質量%に対してホルムアルデヒド0.33質量%を含むHPA水溶液Bを調製した。HPA水溶液Aに代えて、HPA水溶液Bを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて合成反応を繰り返した。
【0087】
14回目に得られたスピログリコールのガスクロマトグラフィー純度は、スピログリコール99.60面積%、ジオキサントリオールモノホルマール0.02面積%、ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタール0.12面積%、スピロモノアルコール0.14面積%であった。結果を表1にまとめる。また、スピログリコールに含まれる不純物濃度の推移を図1及び2に示す。
【0088】
<実施例3>(精製HPAにイソ酪酸ネオペンチルグリコールモノエステルを添加した場合のスピログリコール繰返し合成)
製造例2で作製した精製HPAと水とイソ酪酸ネオペンチルグリコールモノエステルとを混合して、精製HPAを60質量%含み、且つ、精製HPA100質量%に対してイソ酪酸ネオペンチルグリコールモノエステル0.58質量%を含むHPA水溶液Cを調製した。HPA水溶液Aに代えて、HPA水溶液Cを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて合成反応を繰り返した。
【0089】
13回目に得られたスピログリコールのガスクロマトグラフィー純度は、スピログリコール99.58面積%、ジオキサントリオールモノホルマール0.01面積%、ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタール0.18面積%、スピロモノアルコール0.15面積%であった。結果を表1にまとめる。また、スピログリコールに含まれる不純物濃度の推移を図1及び2に示す。
【0090】
<比較例1>(精製HPAにホルムアルデヒドを添加した場合のスピログリコール繰返し合成)
製造例2で作製した精製HPAと水とホルムアルデヒドとを混合して、精製HPAを60質量%含み、且つ、精製HPA100質量%に対してホルムアルデヒド0.83質量%を含むHPA水溶液Dを調製した。HPA水溶液Aに代えて、HPA水溶液Dを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて合成反応を繰り返した。
【0091】
11回目に得られたスピログリコールのガスクロマトグラフィー純度は、スピログリコール99.41面積%、ジオキサントリオールモノホルマール0.05面積%、ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタール0.15面積%、スピロモノアルコール0.13面積%であった。結果を表1にまとめる。また、スピログリコールに含まれる不純物濃度の推移を図1及び2に示す。
【0092】
<比較例2>(精製HPAにネオペンチルグリコールを添加した場合のスピログリコール繰返し合成)
製造例2で作製した精製HPAと水とネオペンチルグリコールとを混合して、精製HPAを60質量%含み、且つ、精製HPA100質量%に対してネオペンチルグリコール2.50質量%を含むHPA水溶液Eを調製した。HPA水溶液Aに代えて、HPA水溶液Eを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて合成反応を繰り返した。
【0093】
13回目に得られたスピログリコールのガスクロマトグラフィー純度は、スピログリコール99.56面積%、ジオキサントリオールモノホルマール0.01面積%以下、ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタール0.20面積%、スピロモノアルコール0.13面積%であった。結果を表1にまとめる。また、スピログリコールに含まれる不純物濃度の推移を図1及び2に示す。
【0094】
<比較例3>(精製HPAにヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールモノエステルを添加した場合のスピログリコール繰返し合成)
製造例2で作製した精製HPAと水とヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールモノエステルとを混合して、精製HPAを60質量%含み、且つ、精製HPA100質量%に対してヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールモノエステル2.50質量%を含むHPA水溶液Fを調製した。HPA水溶液Aに代えて、HPA水溶液Fを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて合成反応を繰り返した。
【0095】
16回目に得られたスピログリコールのガスクロマトグラフィー純度は、スピログリコール99.54面積%、ジオキサントリオールモノホルマール0.01面積%、ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタール0.22面積%、スピロモノアルコール0.15面積%であった。結果を表1にまとめる。また、スピログリコールに含まれる不純物濃度の推移を図1及び2に示す。
【0096】
<比較例4>(精製HPAにイソブチルアルデヒドを添加した場合のスピログリコール合成)
製造例2で作製した精製HPAと水とイソブチルアルデヒドとを混合して、精製HPAを60質量%含み、且つ、精製HPA100質量%に対してイソブチルアルデヒド3.33質量%を含むHPA水溶液Gを調製した。HPA水溶液Aに代えて、HPA水溶液Gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて合成反応を行った。
【0097】
1回目に得られたスピログリコールのガスクロマトグラフィー純度は、スピログリコール96.20面積%、ジオキサントリオールモノホルマール0.01面積%、ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタール0.10面積%、スピロモノアルコール3.53面積%であった。結果を表1にまとめる。
【0098】
【表1】
【0099】
表1及び図1及び図2の略記号を以下に示す。なお、表1中に記載の原料HPA中のHCHO、IBD、BNE、NPG、及びESGの質量%等の各量は、原料ヒドロキシピバルアルデヒドの総量に対する値であり、水を含めた60%HPA水溶液全体に対する比率ではない。
DOT−F;ジオキサントリオールモノホルマール
NPA ;ヒドロキシピバルアルデヒドネオペンチルグリコールアセタール
SPM ;スピロモノアルコール
HCHO ;ホルムアルデヒド
IBD ;イソブチルアルデヒド
BNE ;イソ酪酸ネオペンチルグリコールモノエステル
NPG ;ネオペンチルグリコール
ESG ;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールモノエステル
【0100】
上記のように、スピログリコールの合成においては、原料HPAに含まれる不純物であるホルムアルデヒド、ネオペンチルグリコール、ネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物、イソブチルアルデヒドの含有量を制御することにより、環状アセタール骨格を有するジオール合成時の副生成物である各種アセタール化合物の生成を抑制し、高純度のスピログリコールを得ることができることがわかった。なお、比較例4においても、他の比較例と同様の傾向が認められた。
【0101】
また、特に、ジオキサングリコールについて上記スピログリコールと類似する実験を行ったところ、イソブチルアルデヒドとトリメチロールプロパンがアセタール反応した化合物や、ネオペンチルグリコール、ネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物に由来する化合物などが副生することが確認された。これにより、ジオキサングリコール等の環状アセタール骨格を有するジオールの合成においても、実質的に同様の反応経路を経由するため、ネオペンチルグリコール、ネオペンチルグリコール骨格を持つエステル化合物、イソブチルアルデヒド等を制御することにより、環状アセタール骨格を有するジオール合成時の副生成物である各種アセタール化合物の生成を抑制できることが類推される。
【0102】
本出願は、2016年3月15日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2016−050882)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
スピログリコールは、分子内に環式アセタールを有する多価アルコールで、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリエーテルポリオール、エポキシ樹脂等の高分子材料の中間体、あるいはモノマーとして、更には接着剤、可塑剤、樹脂安定剤、潤滑油等の原料として有用な化合物である。したがって、本発明は少なくともこれら用途において産業上の利用可能性を有する。
図1
図2