【文献】
Tetsuya Nakatsura,Glypican-3, overexpressed specifically in human hepatocellular carcinoma, is a novel tumor marker,Biochemical and Biophysical Research Communications,2003年,Vol.306,Page.16-25
【文献】
鈴木史朗,悪性卵巣腫瘍および悪性黒色腫における腫瘍マーカーとしてのGlypican-3,日本分子腫瘍マーカー研究会誌,2010年,Vol.25,Page.31-32
【文献】
Shimizu Yasuhiro,Next-Generation Cancer Immunotherapy Targeting Glypican-3,Frontiers in Oncology,2019年,Vol.9,Page.248
【文献】
Kazuya Ofuji,Pre-operative plasma glypican-3 levels detected by a novel ELISA system predict the risk of post-operative recurrence in patients with stage I hepatocellular carcinoma,HEPATOLOGY,2015年10月,Vol.62,Page.464A
【文献】
小高哲郎,小児腫瘍における癌胎児抗原glypican-3(GPC3)の組織発現と術前後における血中濃度測定の検討,日本小児血液学会・日本小児がん学会・日本小児がん看護学会・財団法人がんの子供を守る会公開シンポジウムプログラム・総会号,2010年,52nd-26th,Page.238
【文献】
千住覚,新規癌胎児性抗原を利用した肝細胞癌の診断と治療に関する研究 Glypican-3を用いた肝細胞癌の診断法ならびに免疫療法の開発に関する基礎研究,新規癌胎児性抗原を利用した肝細胞癌の診断と治療に関する研究 平成18年度 研究報告書,2007年,Page.17-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
グリピカン3(GPC3)の1〜358番目のアミノ酸配列を有するペプチドを認識する第1モノクローナル抗体と、アミノ酸配列TPKDNEISTFを認識する第2モノクローナル抗体と、血液試料とを混合する工程と、
前記第1モノクローナル抗体及び前記第2モノクローナル抗体の両方に認識されるGPC3ペプチドを測定する工程と
を含む、血液試料中のGPC3の測定値の取得方法。
プロセッサ及び前記プロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータを備え、前記メモリには、血液試料中のグリピカン3(GPC3)ペプチドの測定値を取得するステップを前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されており、
前記GPC3ペプチドが、GPC3の1〜358番目のアミノ酸配列を有するペプチドを認識する第1モノクローナル抗体と、アミノ酸配列TPKDNEISTFを認識する第2モノクローナル抗体との両方に認識されるペプチドであり、
前記測定値が、肝細胞がんの再発リスク診断を補助するための指標となる、
血液試料中のGPC3の測定値を取得するための装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態の肝細胞がん患者の再発リスクの予測を補助する方法は、GPC3のN末端側のアミノ酸配列を有するペプチドを認識する第1モノクローナル抗体と、GPC3のC末端側のアミノ酸配列を有するペプチドを認識する第2モノクローナル抗体を用い、肝細胞がん患者の血液試料中における、第1モノクローナル抗体及び第2モノクローナル抗体の両方に認識されるGPC3ペプチドの濃度(以下、「GPC3濃度」ともいう)を測定する工程を含む。
【0018】
血液試料としては、肝細胞がん患者から得られる血液(全血)、血漿、血清等が挙げられ、好ましくは血清または血漿が用いられる。また、血液試料は、血液、血漿または血清からペプチドを抽出する前処理を行って得られるペプチド溶液であってもよい。前処理方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。また、血液試料は、血液、血漿又は血清を適切な水性媒体で希釈して得られる希釈検体であってもよい。そのような水性媒体は、血中タンパク質の濃度測定を妨げない限り特に限定されず、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。GPC3濃度の測定を後述の免疫学的測定法で行う場合は、ブロッキング液(アルブミン、カゼインなどのブロッキング剤を含む溶液)で血液試料を希釈してもよい。
【0019】
血液試料は、根治的治療を受ける前の肝細胞がん患者から取得することが好ましい。ここで、肝細胞がんの根治的治療は、例えば、肝切除術、肝移植、経皮的エタノール注入療法、ラジオ波焼灼療法、及び陽子線や炭素線の重粒子線治療などが挙げられる。なお、肝細胞がん患者は、肝細胞がんの根治的治療の治療効果をより向上させるために当該根治的治療の前に行われる補助的又は予備的な治療を受けていてもよい。このような補助的又は予備的な治療としては、例えば、肝動脈塞栓術、肝動注化学療法やワクチンなどの免疫療法などが挙げられる。そのため、補助的又は予備的な治療として肝動脈塞栓術、肝動注化学療法やワクチンなどの免疫療法などを受けているが、上述の根治的治療をまだ受けていない患者から採取した血液試料も利用することができる。
【0020】
GPC3濃度の測定方法は、血液試料中のGPC3濃度を反映する値又は指標を取得できる方法であれば特に限定されず、当該技術において公知の測定法から適宜選択できる。そのような測定方法としては、抗原抗体反応を利用する免疫学的測定法が好ましく、例えば、酵素免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法、免疫比濁法、免疫沈降法、ウェスタンブロット法、アフィニティクロマトグラフィ法などが挙げられる。それらの中でも、酵素免疫測定法のELISA法、特にサンドイッチELISA法が好ましい。
【0021】
GPC3濃度の値は、測定値そのものであってもよいし、測定値を検量線に当てはめて取得される値であってもよい。検量線は、濃度が既知のGPC3タンパク質の希釈系列を調製し、これらを血液試料と同様に測定して得られた値から作成できる。この検量線に基づいて、試料中のGPC3濃度を定量することができる。検量線作成のためのGPC3タンパク質は、HepG2などの肝がん細胞株が分泌する生体由来のタンパク質であってもよいし、組換え型タンパク質であってもよい。
【0022】
第1モノクローナル抗体としては、GPC3のN末端側のアミノ酸配列を有するペプチドを認識するものであれば特に限定されない。ここで、GPC3のN末端側のアミノ酸配列とは、全長型GPC3において任意の1つの部位、例えば358番目のアミノ酸と359番目のアミノ酸との間で切断されたGPC3ペプチドのうち、全長GPC3においてN末端側を構成するペプチドのアミノ酸配列をいう。第1モノクローナル抗体は、好ましくはGPC3の1〜358番目のアミノ酸配列を有するペプチドを認識する抗体であり、より好ましくはGPC3の301〜358番目のアミノ酸配列を有するペプチドを認識する抗体である。
【0023】
第2モノクローナル抗体としては、GPC3のC末端側のアミノ酸配列を有するペプチドを認識するものであれば特に限定されない。ここで、GPC3のC末端側のアミノ酸配列とは、全長型GPC3において任意の1つの部位、例えば358番目のアミノ酸と359番目のアミノ酸との間で切断されたGPC3ペプチドのうち、全長GPC3においてC末端側を構成するペプチドのアミノ酸配列をいう。第2モノクローナル抗体は、好ましくはGPC3の359〜580番目のアミノ酸配列を有するペプチドを認識する抗体であり、より好ましくはGPC3の543〜552番目のアミノ酸配列を有するペプチドを認識する抗体である。
【0024】
上記の第1モノクローナル抗体及び第2モノクローナル抗体の由来は特に限定されず、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ウマ、ラクダなどのいずれの哺乳動物に由来する抗体であってもよい。また、抗体のアイソタイプも特に限定されず、測定法に応じて適宜選択すればよい。抗体には、抗体のフラグメント及びその誘導体も含まれ、例えば、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメントなどが挙げられる。
【0025】
これらの抗体及び抗体フラグメントの作製方法は当該技術において公知である。例えば、第1モノクローナル抗体は、GPC3のN末端側のアミノ酸配列のみを有するペプチドを用いてマウスを免疫し、免疫したマウスから脾臓を摘出して抗体産生細胞を取得し、得られた抗体産生細胞を腫瘍細胞と融合させてハイブリドーマを形成させ、適切に選択されたハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体を取得すること等によって作製することができる。第2モノクローナル抗体についても、GPC3のC末端側のアミノ酸配列のみを有するペプチドを用いて免疫すること以外は同様にして作製することができる。また、第1モノクローナル抗体及び第2モノクローナル抗体は、市販の製品であってもよい。ここで、第1モノクローナル抗体の作製に用いられるペプチド抗原のアミノ酸配列は、GPC3のN末端側のアミノ酸配列の一部又は全部である。第2モノクローナル抗体の作製に用いられるペプチド抗原のアミノ酸配列は、GPC3のC末端側のアミノ酸配列の一部又は全部である。
【0026】
本実施形態の方法においては、上記の第1モノクローナル抗体と上記の第2モノクローナル抗体とを用いるため、肝細胞がん患者の血液試料中における、第1モノクローナル抗体及び第2モノクローナル抗体の両方に認識されるGPC3ペプチドが検出対象となる。血液試料中におけるGPC3の存在形態としては、GPC3のN末端側のアミノ酸配列を有するがGPC3のC末端側のアミノ酸配列を有しないペプチド(N末端フォーム、例えばGPC3の1〜358、25〜358又は301〜358番目のアミノ酸配列を有するペプチド等)と、GPC3のC末端側のアミノ酸配列を有するがGPC3のN末端側のアミノ酸配列を有しないペプチド(C末端フォーム、例えばGPC3の359〜580又は543〜552番目のアミノ酸配列を有するペプチド等)と、GPC3のN末端側のアミノ酸配列及びGPC3のC末端側のアミノ酸配列の両方を有するペプチド(全長フォーム、例えばGPC3の1〜580又は301〜580番目のアミノ酸配列を有するペプチド等)とが考えられる。特許文献1及び2に記載されるような従来のGPC3検出系は、いずれもGPC3の全長フォームを検出対象とする方法ではない。例えば、特許文献1に記載の方法は、GPC3のN末端フォームの測定結果に基づいてがんの判定が行われている。特許文献2に記載の方法は、GPC3のC末端フォームの測定結果に基づいてがんの判定が行われている。特に、特許文献1に記載されるように、肝細胞がんの診断や予後予測においては、GPC3のN末端フォームを検出することが推奨されている。今回、本発明者らは、測定対象をGPC3の全長フォームとした。全長フォームのGPC3ペプチド検出系を用いることにより、従来の検出系を用いた場合よりも検出精度が向上し、高い信頼性をもって、肝細胞がん患者の再発リスクを予測できることを初めて見出した。このことは、従来の当該技術分野における知見に反して、本発明者らが意外にも見出した観点である。
【0027】
測定工程において、検出対象となるGPC3ペプチドは、上記の第1モノクローナル抗体及び第2モノクローナル抗体の両方によって認識されるものであれば特に限定されない。すなわち、検出対象となるGPC3ペプチドは、GPC3のN末端側のアミノ酸配列及びGPC3のC末端側のアミノ酸配列の両方を有するペプチド、言い換えればGPC3の全長フォームである。例えば、検出対象となるGPC3ペプチドは、GPC3の第1番目から第580番目のアミノ酸配列を含む全長タンパク質であり得るし、GPC3の第301番目から第552番目のアミノ酸配列を含むペプチドでもあり得る。全長GPC3ペプチドのアミノ酸配列は、配列番号57に示す。検出対象となるGPC3ペプチドには、糖鎖やヘパラン硫酸などが付加していてもよい。検出対象となるGPC3ペプチドは、上記の第1モノクローナル抗体及び第2モノクローナル抗体の両方によって認識されるものであるから、N末端フォームおよびC末端フォームは、実質的にはいずれも検出されないものと考えられる。本実施形態の方法は、実質的にGPC3の全長フォームだけを検出することができ、それにより、従来技術ではなし得なかった高精度の再発リスク予測に寄与することができる。なお、第1モノクローナル抗体および第2モノクローナル抗体によって、検出対象以外の成分(N末端フォーム、C末端フォーム、その他夾雑物質)を非特異的に検出することも考えられる。当業界において、バックグラウンドシグナルとして検出され得る非特異的反応を完全に排除するのが困難であることは周知である。上記の「実質的にGPC3の全長フォームだけを検出」とは、本発明の作用効果を失わない限りにおいて検出対象以外の成分の非特異的検出を含んでいてもよいことを意味する。
【0028】
本実施形態において、第1モノクローナル抗体及び第2モノクローナル抗体は、必要に応じて、当該技術において公知の標識物質により標識されていてもよい。そのような標識物質としては、
32P、
35S、
3H及び
125Iなどの放射性同位体、フルオレセイン、ローダミン及びAlexa Fluor(登録商標)などの蛍光物質、アルカリフォスファターゼ(ALP)、セイヨウワサビペルオキシダーゼ及びルシフェラーゼなどの酵素、ビオチン、アビジン及びストレプトアビジンなどが挙げられる。
【0029】
測定において抗体を捕捉するための固相を用いる場合、固相の種類は特に限定されない。例えば、抗体を物理的に吸着する材質の固相、抗体と特異的に結合する分子が固定化されている固相などが挙げられる。抗体と特異的に結合する分子としては、プロテインA又はG、該抗体を特異的に認識する抗体(すなわち二次抗体)などが挙げられる。また、抗体と固相との間を介在する物質の組み合わせを用いて、両者を結合させることもできる。そのような物質の組み合わせとしては、ビオチンとアビジン(又はストレプトアビジン)、グルタチオンとグルタチオン-S-トランスフェラーゼ、ハプテンと抗ハプテン抗体などの組み合わせが挙げられる。例えば、第1モノクローナル抗体又は第2モノクローナル抗体をあらかじめビオチン修飾している場合、アビジン又はストレプトアビジンが固定化された固相によって該抗体を捕捉できる。
【0030】
固相の素材としては、有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレン、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレートなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム、コバルト及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。固相の形状は特に限定されず、例えば、粒子、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。
【0031】
測定工程は、非特異反応抑制剤の存在下で行われることが好ましい。非特異反応抑制剤が存在することにより、偽陽性と判定される可能性を抑えることができる。
非特異反応抑制剤としては、測定で使用する抗体が目的抗原以外の物質に結合することを抑制するものであれば特に制限されない。具体的には、マウス血清、ヒツジ血清、ヤギ血清、マウス抗体及びヒツジ抗体、ヤギ抗体などが挙げられる。非特異反応抑制剤は市販されており、例えば、TRUBlock(Meridian Life Science社)、ASSAY DEVELOPMENT BLOCKING KIT(SCANTIBODIS LABORATOR社)、THBR2(株式会社特殊免疫研究所)等が知られている。
【0032】
本実施形態の方法は、前記GPC3ペプチドの濃度が所定の閾値以上の場合は、肝細胞がんの再発リスクが高いと判定し、前記GPC3ペプチドの濃度が所定の閾値未満の場合は、肝細胞がんの再発リスクが低いと判定する工程(以下、単に「判定工程」ともいう)を含む。本明細書では、GPC3ペプチドの濃度が閾値以上の場合にGPC3陽性、閾値未満の場合にGPC3陰性ということがある。
【0033】
ここで、再発とは、肝細胞がんの根治的治療を受けた患者が再び肝細胞がんを罹患することをいう。「再発リスクが高い」とは、根治的治療を受けた肝細胞がん患者が当該根治的治療から再び肝細胞がんに罹患する可能性が高いことを意味する。一方、「再発リスクが低い」とは、根治的治療を受けた肝細胞がん患者が当該根治的治療から再び肝細胞がんに罹患する可能性が低いことを意味する。
【0034】
閾値は、特に限定されず、当業者が予め適宜設定することができる。例えば、術後一定の期間(たとえば、3年、4年、または5年)無再発であった複数の肝細胞がん患者(無再発患者群)及び術後がんが再発した複数の肝細胞がん患者(再発患者群)のGPC3全長フォームの濃度を予め測定し、無再発患者群と再発患者群を最も精度良く分類できる値に設定することができる。閾値の設定に際しては、検査の目的に応じて感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などを考慮して設定することができる。また、次のようにして、閾値を設定してもよい:
1)まず、無再発患者群から術前に得た血液試料と、再発患者群から術前に得た血液試料のそれぞれについて、GPC3濃度を測定する。
2)測定結果に基づいて、無再発の患者のGPC3濃度の値よりも高く、且つ、再発した患者のGPC3濃度の値よりも低い範囲から閾値を設定する。
好ましくは、無再発の患者とがんが再発した患者とを高精度に区別し得る値を、閾値として設定する。なお、後述の実施例では、GPC3濃度の閾値を15 pg/mLに設定している。本実施形態では、肝細胞がん患者の血液試料中のGPC3ペプチドの濃度を、上記のようにして予め設定された閾値と比較し、無再発患者群および再発患者群の何れに分類されるかが予測される。検査の結果として、たとえば、無再発患者群に分類される場合は再発リスクが低いという判定結果が出力され、再発患者群に分類される場合は再発リスクが高いという判定結果が出力される。
【0035】
あるいは、肝細胞がん患者ではない者、例えば、健常者又は肝細胞がん以外の疾患の患者についてGPC3濃度のデータを蓄積し、該データに基づいてGPC3の血中濃度の基準値(例えば平均値、中央値など)を定め、この基準値を閾値としてもよい。
【0036】
さらなる実施形態では、上記のようにして再発リスクが高いと判定された患者が、さらにB型肝炎ウイルスに感染している場合には、GPC3陰性の患者よりも肝細胞がんが早期に再発する可能性が高いと判定する、肝細胞がん患者の再発リスクの予測を補助する方法が提供される。すなわち、B型肝炎ウイルスに感染した肝細胞がん患者においては、GPC3検出有無に基づき、再発の有無だけでなく再発時期の予測が可能となる。
【0037】
B型肝炎ウイルス(Species: Hepatitis B virus;HBV)とは、国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses: ICTV)により2015年に公表されたウイルス分類を参照して、ヘパドナウイルス科(Family: Hepadnaviridae)オルソヘパドナウイルス属(Order: Orthohepadnavirus)に属するウイルスの一種を意味する。ウイルス分類においては、分類の再編や属名等の改変が頻繁に行われる。よって、将来ICTVまたはそれに準ずる学術的権威機関による分類において分類が再編されたり、属名等が改変されたりしたとしても、2015年のICTV分類におけるB型肝炎ウイルスに相当するウイルスは、本明細書でいうところのB型肝炎ウイルスに包含されるものとする。
B型肝炎ウイルスの遺伝子型は特に限定されず、本願の出願日において既知のジェノタイプA〜J及びこれらのサブタイプ(例えばAa/1等)のいずれであってもよいし、将来発見され得る、本願の出願日において未知のジェノタイプであってもよい。
【0038】
感染とは、少なくとも検出可能なレベルで患者の体液、特に血液中にB型肝炎ウイルスが存在することを意味する。
【0039】
被検者がB型肝炎ウイルスに感染しているか否かが分かっていない場合、診断補助方法は、肝細胞がん患者の血液試料中において、B型肝炎ウイルスを検出する工程をさらに含んでいてもよい。B型肝炎ウイルスに感染しているか否かは、当業者に公知のウイルス検出方法によって調べることができる。このような検出方法としては、例えば酵素免疫測定法のELISA法、直接シーケンス法等が挙げられる。
【0040】
一方、被検者がB型肝炎ウイルスに感染していることが予め分かっている場合、B型肝炎ウイルスの検出工程を行うことを要しない。例えば、B型肝炎に罹患していると診断され、その後肝細胞がんに進行した患者が被検者である場合、被検者がB型肝炎ウイルスに感染していることがわかっているため、B型肝炎ウイルスの検出工程を行う必要はない。
【0041】
この実施形態では、肝細胞がんを有するB型肝炎ウイルス感染者の血液試料が用いられる。上記と同様にGPC3ペプチドの濃度を測定し、所定の閾値と比較することにより、上記の感染者は、GPC3ペプチドの濃度が所定の閾値以上のGPC3陽性群(第1群)またはGPC3ペプチドの濃度が所定の閾値未満のGPC3陰性群(第2群)に分類される。GPC3陽性群は、GPC3陰性群に比べて肝細胞がんの無再発期間が短い(早期に再発する)可能性が高いと判定される。GPC3陰性群は、GPC3陽性群よりも肝細胞がんの無再発期間が長い、または再発しない可能性が高いと判定される。
【0042】
別の実施形態では、肝細胞がんを有するB型肝炎ウイルス感染者のうち、GPC3陽性群は所定の期間内に肝細胞がんが再発する可能性が高いと判定される。所定の期間としては、GPC3陽性群とGPC3陰性群の無再発期間の情報に基づき、GPC3陽性群とGPC3陰性群とをもっとも高精度に分離できる期間とすることができる。たとえば、所定の期間は、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、または12ヶ月とすることができる。
【0043】
本発明には、肝細胞がんの治療方法が含まれる。この方法は、上述の判定工程によって「再発リスクが高い」と判定された患者に対して根治的治療を行う工程;および根治的治療後に肝細胞がんの再発リスクを低下させる薬剤を投与する工程を含む。根治的治療については、上述のとおりである。再発リスクを低下させる薬剤としては公知の薬剤を用いることができ、たとえば、インターフェロンなどの抗ウイルス薬などが挙げられる。
【0044】
本発明には、肝細胞がん患者の再発リスクの予測を補助するデータの取得に適する装置が含まれる。また、本発明には、肝細胞がん患者の再発リスクの予測を補助するデータの取得をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム製品も含まれる。なお、該コンピュータプログラム製品が備える媒体は、コンピュータプログラムが非一時的に記録され、且つ、コンピュータが読取可能な媒体であってもよい。
【0045】
以下に、上記の本実施形態の方法を実施するのに好適な装置の一例を、図面を参照して説明する。しかし、本発明はこの例に示される形態のみに限定されない。
図1は、肝細胞がん患者の再発リスクの予測を補助するデータを取得するための、再発リスク予測補助装置の概略図である。
図1に示された再発リスク予測補助装置11は、測定装置22と、該測定装置22と接続された判定装置33とを含んでいる。
【0046】
本実施形態において、測定装置の種類は特に限定されず、GPC3の測定方法に応じて適宜選択できる。
図1に示される例では、測定装置22は、標識抗体を用いるELISA法により生じるシグナルを検出可能なプレートリーダーである。プレートリーダーは、マーカーの測定に用いた標識物質に基づくシグナルの検出が可能であれば特に限定されず、標識物質の種類に応じて適宜選択できる。以下に説明する例では、シグナルは、化学発光シグナルや蛍光シグナルなどの光学的情報である。
【0047】
抗原抗体反応を行ったプレートを測定装置22にセットすると、測定装置22は、GPC3と特異的に結合した標識抗体に基づく光学的情報を取得し、得られた光学的情報を判定装置33に送信する。なお、測定装置22に取得される光学的情報には、濃度値の算出のための濃度既知の検体の情報も含まれている。また、以下に説明する例では、測定装置22は、適切な標識抗体を選択することにより、B型肝炎ウイルスの検出のために用いることもできる。
【0048】
判定装置33は、コンピュータ本体33aと、入力部33bと、検体情報や判定結果などを表示する表示部33cとを含む。判定装置33は、測定装置22から光学的情報を受信する。そして、判定装置33のプロセッサは、光学的情報に基づいて、肝細胞がん患者の再発リスクの予測を補助するデータを取得するプログラムを実行する。なお、入力部33bから、後述する「B型肝炎ウイルスに感染している」や「B型肝炎ウイルスの検出が必要」を入力することができる。
【0049】
図2は、再発リスク予測補助装置11のコンピュータ本体33aのソフトウェアを機能ブロックで示すブロック図である。
図2に示されるように、判定装置33は、受信部301と、記憶部302と、算出部303と、判定部304と、出力部305とを備える。受信部301は、測定装置22と、ネットワークを介して通信可能に接続されている。判定部304には、入力部33bを介して肝細胞がんの再発リスク予測の実施のための情報、例えば高リスクと判定された検体がB型肝炎ウイルスに感染しているか否か、あるいは、B型肝炎ウイルスの検出を行なうか否かに関する情報を入力することができる。
【0050】
受信部301は、測定装置22から送信された情報を受信する。記憶部302は、判定に必要な閾値及び各マーカーの濃度値を算出するための式や処理プログラム、さらにB型肝炎ウイルス検出を行う場合には、抗原抗体反応においてB型肝炎ウイルスに感染している場合及び/又は感染していない場合に得られる光学的情報(シグナル等)などを記憶する。算出部303は、受信部301で取得された情報を用い、記憶部302に記憶された式にしたがって、各マーカーの濃度値を算出する。判定部304は、算出部303によって算出されたマーカーの濃度値が、記憶部302に記憶された閾値以上であるか又はそれ未満であるかを判定し、さらにB型肝炎ウイルス検出を行う場合には、受信部301において測定装置22から取得した光学的情報が、記憶部302に記憶されたものと一致するか否かに基づいて、B型肝炎ウイルス感染の有無を判定する。出力部305は、判定部304による判定結果を、肝細胞がん患者の再発リスクの予測を補助するデータとして出力する。
【0051】
図3は、
図2に示すコンピュータ本体33aのハードウェア構成を示すブロック図である。
図3に示されるように、コンピュータ本体33aは、CPU(Central Processing Unit)330と、ROM(Read Only Memory)331と、RAM(Random Access Memory)332と、ハードディスク333と、入出力インターフェイス334と、読出装置335と、通信インターフェイス336と、画像出力インターフェイス337とを備えている。CPU330、ROM331、RAM332、ハードディスク333、入出力インターフェイス334、読出装置335、通信インターフェイス336及び画像出力インターフェイス337は、バス338によってデータ通信可能に接続されている。
【0052】
CPU330は、ROM331に記憶されているコンピュータプログラム及びRAM332にロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。CPU330がアプリケーションプログラムを実行することにより、
図2に示す各機能が実行される。これにより、判定装置33が、肝細胞がん患者の再発リスクの予測を補助するデータを取得するための装置として機能する。
【0053】
ROM331は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されている。ROM331には、CPU330によって実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。
【0054】
RAM332は、SRAM、DRAMなどによって構成されている。RAM332は、ROM331及びハードディスク333に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。RAM332はまた、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU330の作業領域として利用される。
【0055】
ハードディスク333は、CPU330に実行させるためのオペレーティングシステム、アプリケーションプログラム(肝細胞がん患者の再発リスクの予測を補助するデータを取得するためのコンピュータプログラム)などのコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。
【0056】
読出装置335は、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、DVD−ROMドライブなどによって構成されている。読出装置335は、可搬型記録媒体340に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。
【0057】
入出力インターフェイス334は、例えば、USB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインターフェイスと、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成されている。入出力インターフェイス334には、キーボード、マウスなどの入力部33bが接続されている。操作者は、当該入力部33bにより、コンピュータ本体33aに各種の指令やデータを入力することが可能である。
【0058】
通信インターフェイス336は、例えば、Ethernet(登録商標)インターフェイスなどである。コンピュータ本体33aは、通信インターフェイス336により、プリンタなどへの印刷データの送信が可能である。測定装置22は、通信インターフェイス336により、判定装置33への測定データ(光学的情報)の送信が可能である。
【0059】
画像出力インターフェイス337は、LCD、CRTなどで構成される表示部33cに接続されている。これにより、表示部33cは、CPU330から与えられた画像データに応じた映像信号を出力することができる。表示部33cは、入力された映像信号にしたがって画像(画面)を表示する。
【0060】
次に、再発リスク予測補助装置11による、肝細胞がん患者の再発リスクの予測を補助するデータ取得の処理手順を説明する。
図4Aは、再発リスク予測の補助データ取得のフローチャートの一例である。ここでは、GPC3と特異的に結合した標識抗体に基づく光学的情報からGPC3の濃度値を取得し、得られた濃度値を用いて判定を行なう場合を例として挙げて説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。
【0061】
まず、ステップS1−1において、再発リスク予測補助装置11の受信部301は、測定装置22から光学的情報を受信する。次に、ステップS1−2において、算出部303は、受信部301が受信した光学的情報から、記憶部302に記憶された濃度値を算出するための式にしたがって、GPC3の濃度値を算出する。
【0062】
その後、ステップS1−3において、判定部304は、ステップS1−2で算出された濃度値が、記憶部302に記憶された閾値以上であるか、それともそれ未満であるかを判定する。ここで、GPC3の濃度値が閾値以上であるとき、ルーチンは、ステップS1−4に進行し、判定部304は、肝細胞がん患者の再発リスクが高いことを示す判定結果を出力部305に送信する。また、GPC3の濃度値が閾値未満であるとき、ルーチンは、ステップS1−5に進行し、判定部304は、肝細胞がん患者の再発リスクが低いことを示す判定結果を出力部305に送信する。
【0063】
そして、ステップS1−6において、出力部305は、判定結果を出力し、表示部33cに表示させる。これにより、再発リスク予測補助装置11は、肝細胞がん患者の再発リスクの予測を補助するデータを医師などに提供することができる。
【0064】
図4Bは、B型肝炎ウイルスに感染していることが分かっている検体について行われる再発リスク予測の補助データ取得のフローチャートの一例である。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。
【0065】
まず、ステップS2−1において、再発リスク予測補助装置11の受信部301は、測定装置22から光学的情報を受信する。次に、ステップS2−2において、算出部303は、受信部301が受信した光学的情報から、記憶部302に記憶された濃度値を算出するための式にしたがって、GPC3の濃度値を算出する。
【0066】
その後、ステップS2−3において、判定部304は、ステップS2−2で算出された濃度値が、記憶部302に記憶された閾値以上であるか、それともそれ未満であるかを判定する。GPC3の濃度値が閾値未満であるとき、ルーチンは、ステップS2−8に進行し、判定部304は、肝細胞がん患者の再発リスクが低いことを示す判定結果を出力部305に送信する。
【0067】
一方、ステップS2−3において、GPC3の濃度値が閾値以上であるとき、ルーチンは、ステップS2−4に進行し、判定部304は肝細胞がん患者の再発リスクが高いと判定し、その後ルーチンはステップS2−5に進行する。
【0068】
ステップS2−5において、入力部33bから「B型肝炎ウイルスに感染している」と入力された場合には、ルーチンはステップS2−6に進行し、判定部304は、肝細胞がんが所定の期間内に再発する可能性が高いことを示す判定結果を出力部305に送信する。一方、ステップS2−5において、入力部33bから「B型肝炎ウイルスに感染している」と入力されていない場合には、ルーチンはステップS2−7に進行し、判定部304は、肝細胞がん患者の再発リスクが高いことを示す判定結果を出力部305に送信する。
【0069】
そして、ステップS2−9において、出力部305は、判定結果を出力し、表示部33cに表示させる。これにより、再発リスク予測補助装置11は、肝細胞がん患者の再発リスクの予測を補助するデータを医師などに提供することができる。
【0070】
図4Cは、B型肝炎ウイルスの検出工程を行う場合の再発リスク予測の補助データ取得のフローチャートの一例である。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。
【0071】
まず、ステップS3−1において、再発リスク予測補助装置11の受信部301は、測定装置22から光学的情報を受信する。次に、ステップS3−2において、算出部303は、受信部301が受信した光学的情報から、記憶部302に記憶された濃度値を算出するための式にしたがって、GPC3の濃度値を算出する。
【0072】
その後、ステップS3−3において、判定部304は、ステップS3−2で算出された濃度値が、記憶部302に記憶された閾値以上であるか、それともそれ未満であるかを判定する。GPC3の濃度値が閾値未満であるとき、ルーチンは、ステップS3−10に進行し、判定部304は、肝細胞がん患者の再発リスクが低いことを示す判定結果を出力部305に送信する。
【0073】
一方、ステップS3−3において、GPC3の濃度値が閾値以上であるとき、ルーチンは、ステップS3−4に進行し、判定部304は肝細胞がん患者の再発リスクが高いと判定し、その後ルーチンはステップS3−5に進行する。そして、ステップS3−5において、入力部33bから「B型肝炎ウイルスの検出が必要」と入力されていない場合には、ルーチンはステップS3−9に進行し、判定部304は、肝細胞がん患者の再発リスクが高いことを示す判定結果を出力部305に送信する。
【0074】
一方、入力部33bから「B型肝炎ウイルスの検出が必要」と入力された場合には、ルーチンはステップS3−6に進行し、受信部301は、測定装置22から、B型肝炎ウイルス感染の有無に関する情報を受信する。その後、ルーチンはステップS3−7に進行し、判定部304は、ステップS3−6で取得した情報に基づいて、患者がB型肝炎ウイルスに感染しているか否かを判定する。患者がB型肝炎ウイルスに感染していると判定された場合、ルーチンはステップS3−8に進行し、判定部304は、肝細胞がんが所定の期間内に再発する可能性が高いことを示す判定結果を出力部305に送信する。一方、患者がB型肝炎ウイルスに感染していないと判定された場合、ルーチンはステップS3−9に進行し、判定部304は、肝細胞がんの再発リスクが高いことを示す判定結果を出力部305に送信する。
【0075】
そして、ステップS3−11において、出力部305は、判定結果を出力し、表示部33cに表示させる。これにより、再発リスク予測補助装置11は、肝細胞がん患者の再発リスクの予測を補助するデータを医師などに提供することができる。
【0076】
本発明には、GPC3のN末端側のアミノ酸配列を有するペプチドを認識する第1モノクローナル抗体と、GPC3のC末端側のアミノ酸配列を有するペプチドを認識する第2モノクローナル抗体とを含む、肝細胞がん患者の再発リスク診断用キットも含まれる。第1モノクローナル抗体及び第2モノクローナル抗体については上記のとおりである。キットは、上記の非特異反応抑制剤をさらに含んでいてもよい。また、キットは、上記の固相、例えば96穴プレートや磁性粒子などをさらに含んでいてもよい。
【0077】
本実施形態において、キットは、例えば
図5に示されるように、GPC3のN末端側のアミノ酸配列を有するペプチドを認識する第1モノクローナル抗体を含む第1試薬を収容した第1試薬容器501と、GPC3のC末端側のアミノ酸配列を有するペプチドを認識する第2モノクローナル抗体を含む第2試薬を収容した第2試薬容器502とを含む。本実施形態のキットは、上記の方法を記載した添付文書503と、第1試薬容器501、第2試薬容器502及び試薬添付文書503を収容する箱500とをさらに含んでいてもよい。
【0078】
また、キットは、B型肝炎ウイルスを検出するための物質を含む試薬をさらに含んでいてもよい。B型肝炎ウイルスを検出するための物質は特に限定されず、B型肝炎ウイルスの検出方法の種類によって適宜選択することができる。このような物質としては、例えばB型肝炎ウイルスのエンベロープ等を特異的に認識する抗体やB型肝炎ウイルスのゲノムDNAの増幅に適したプライマー等が挙げられる。
【0079】
本発明には、第1モノクローナル抗体および第2モノクローナル抗体の、GPC3ペプチド検出試薬キット製造のための用途も含まれる。また、本発明には、B型肝炎ウイルスを検出するための物質の、GPC3ペプチド検出試薬キット製造のための用途も含まれる。第1モノクローナル抗体、第2モノクローナル抗体、B型肝炎ウイルスを検出するための物質およびキットについては、上述の通りである。
【0080】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0081】
実施例1:再発リスク予測
HCC患者血液サンプル39例は、患者からの同意を得て、国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)にて肝切除治療前に採取し、遠心分離により血漿を取得した。このうち28例は肝切除治療後4年以内にHCCの再発が確認されており、11例は無再発であった。
健常人血漿サンプル50例はサンフコ社より購入した。いずれのサンプルも使用直前まで-80℃で凍結保存した。
【0082】
各患者および健常人血漿サンプル中のGPC3の測定は以下の通りに行った。まず、96ウェルイムノプレート(MaxiSorp黒色96ウェルイムノプレート、ThermoScientifc社)に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈した2 μg/mLの市販GPC3 N末端認識モノクローナル抗体を50 μLずつコートし、室温で1時間インキュベートした。次に、300 μLのHISCL洗浄液(シスメックス社)を用いて9回洗浄後、ブロッキングバッファー(150 mM NaCl、10 mg/mL BSA、5 mg/mL Casein、0.01 w/v % NaN
3を含むpH 7.4の緩衝液)を250 μL加え、室温で2時間インキュベートした。その後、300 μLのHISCL洗浄液を用いて9回洗浄後、ブロッキングバッファーにHISCL用非特異反応抑制剤(シスメックス社)を加えて作製した希釈バッファーで2倍に希釈した測定サンプルを50 μL加え、室温で1時間インキュベートした。続いて、300 μLのHISCL洗浄液を用いて9回洗浄し、Alkaline Phosphatase Labeling Kit - SH(同仁化学研究所)を用いて添付プロトコール通りに標識した市販GPC3 C末端認識モノクローナル抗体を、希釈バッファーで終濃度0.1 μg/mLとなるように希釈し、50 μLずつ加えて室温で1時間インキュベートした。その後、300 μLのHISCL洗浄液を用いて9回洗浄し、HISCL発光基質セット(シスメックス社)を100 μLずつ加え、室温・暗所で30分間インキュベートしたのち、マイクロプレートリーダー(Infinite F200 PRO、TECAN社)で発光強度を測定した。
【0083】
検量線作製用の標準サンプルには、全長型のリコンビナントGPC3(R&D systems社)を15 〜 20,000 pg/mLとなるようにブロッキングバッファーで希釈したものを使用した。また、検量線は4パラメーターロジスティック回帰法を用いて作製した。全ての測定終了後、検量線を用いて発光強度から測定サンプル中のGPC3濃度を定量した。
【0084】
得られた測定結果に対して、閾値を15 pg/mLとして陽性/陰性の判定を行った。
図6および表1に示すように、再発28例の陽性率は71.4 %(20/28例)となったのに対して、無再発11例の陽性率は9.1 %(1/11例)となり、既存の他のHCCマーカー(AFPおよびPIVKA-II)と比べて無再発の判定効率が向上したことがわかる。また、
図6に示すように、健常人ではGPC3がほとんど検出されなかった。このことは、GPC3が健常人の肝臓組織において殆ど検出されないという知見に合致する。よって、本実施形態の方法は、GPC3の検出精度が極めて高いといえる。
【0085】
【表1】
【0086】
実施例2:Kaplan -Meierを用いた再発リスク予測
さらに、実施例1で得られた測定結果で判定したGPC3陽性/陰性群について、再発リスク予測の有意差があるか検定した。再発の有無についてKaplan -Meier曲線を作成し、ログランク検定を行なったところ、
図7に示す通りP値は0.0002となり、GPC3陽性群は有意に再発しやすい傾向が見られることが示された。なお、統計解析ソフトにはStatFlex ver.6(アーテック社)を用いた。
【0087】
実施例3:今回使用した抗体のエピトープ解析
実施例1及び2で使用した抗体のエピトープを解析し、HCCの再発リスク判定精度が飛躍的に向上した理由が全長型GPC3を正しく捉えることであるかについて検証した。
検出用に用いたC末端認識型モノクローナル抗体のエピトープ解析は、
図8のようなオーバーラッピングペプチド(表2)を用いた競合ELISAによって行なった。
【0088】
【表2】
【0089】
市販のC末端認識型モノクローナル抗体を終濃度0.2 μg/mLとなるようにブロッキングバッファー(150 mM NaCl、2.5 mM EDTA、 0.1 mg/mL BSAを含むpH 7.0の緩衝液)で希釈した溶液35 μLを、モル比で抗体の10倍濃度となるようにブロッキングバッファーで調製した競合ペプチドあるいは全長型リコンビナントGPC3溶液35 μLと混合し、室温で1時間インキュベートし、競合阻害溶液とした。また、PBSで10 ng/mLとなるよう希釈した全長型リコンビナントGPC3を50 μLずつ96ウェルイムノプレート(MaxiSorp白色96ウェルイムノプレート、ThermoScientifc社)に加え、室温で1時間インキュベートした。このプレートを300 μLのHISCL洗浄液を用いて3回洗浄し、250 μLのブロッキングバッファーを加え、室温で1時間インキュベートした。次に、300 μLのHISCL洗浄液を用いて3回洗浄し、50μLの競合阻害溶液を加え、室温で1時間インキュベートした。その後、300 μLのHISCL洗浄液を用いて3回洗浄し、ブロッキングバッファーで5000倍に希釈したPeroxidase-conjugated Affinipure Goat Anti-Mouse IgG(Jackson Immuno Research社)を50 μL加え、室温で1時間インキュベートした。最後に、300 μLのHISCL洗浄液を用いて9回洗浄し、SuperSignal ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Scientific社)を50 μL加え、室温で5分間インキュベートし、マイクロプレートリーダーで発光強度を測定した。競合の強さは吸収率として評価し、競合ペプチドを添加したことによって下がったシグナル強度の差分を、競合ペプチドを一切添加しなかった際のシグナル強度で割ることによって算出した。
【0090】
競合ペプチドとしては、まず配列番号の順にペプチドの4種混合溶液を用いて測定を行った。
図9に示した通り、配列番号53から56の混合物を添加した際に高い吸収率を示すことが明らかとなった。
【0091】
次に、阻害が確認された競合ペプチド混合液およびその前後の配列番号ペプチドについて、それぞれ単独で用いて測定を実施した。
図10に示したとおり、配列番号53および54において強い吸収率を示すことが明らかとなった。
【0092】
このことから、
図11に示した通り、配列番号53および54に共通して存在する配列である、GPC3の543番目から552番目までの配列TPKDNEISTF(配列番号58)をC末端認識型モノクローナル抗体のエピトープであると決定した。
捕捉用に用いたN末端認識型モノクローナル抗体のエピトープ解析は、
図12のような部分リコンビナント蛋白質を用いたウェスタンブロット解析によって行なった。
【0093】
全長型リコンビナントGPC3およびN末部分リコンビナントGPC a.a.121-220(Abnova社)、a.a. 301-400(Abnova社)をそれぞれ5 ngずつ取り、4倍希釈したSample Buffer Solution 2ME+(和光純薬社)に溶解させた。この溶液を98℃で5分間加熱した後、SuperSep Ace 15% 13well(和光純薬社)に全量をアプライして電気泳動を行なった。その後、SilverQuest Silver Staining Kit(Thermo Scientific社)を用いてゲルを染色した。なお、操作はキット添付の取扱い説明書に従った。
【0094】
また、同様に電気泳動を行なったゲルをImmobilon-FL PVDF(Merck Millipore社)へ、4℃、100 V、1時間の条件でトランスファーした。このメンブレンを0.05 v/v % Tween-20、40 mg/mL BSAを含んだトリス緩衝生理食塩水(TBS)中に浸し、室温で1時間振盪した。さらにメンブレンを、0.1 v/v % Tween-20、50 mg/mL スキムミルクを含んだトリス緩衝生理食塩水で0.5 μg/mLになるよう希釈したN末端認識型モノクローナル抗体溶液中に浸し、室温で1時間振盪した。
【0095】
その後、メンブレンを0.05 v/v % Tween-20を含んだトリス緩衝生理食塩水を用いて3回洗浄し、0.1 v/v % Tween-20、50 mg/mL スキムミルクを含んだトリス緩衝生理食塩水で1000倍に希釈したPolyclonal Goat Anti-Mouse Immunoglobulins/HRP溶液中に浸し、室温で1時間振盪した。
【0096】
最後に、メンブレンを0.05 v/v % Tween-20を含んだトリス緩衝生理食塩水を用いて3回洗浄し、Pierce Western Blotting Substrate Plus(Thermo Scientific社)を用いて発光させた。発光後のメンブレンはImageQuant LAS4000 mini(GEヘルスケア社)を用いて撮像した。なお、操作はキット添付の取扱い説明書に従った。
【0097】
図13に銀染色(左)およびウェスタンブロット(右)の結果を示す。この結果より、本実施例で使用したN末端認識型モノクローナル抗体は、GPC3の301 - 400 a.a.および25 - 358 a.a.に対して反応することが分かった。よって、
図14の通り両者に共通して存在する配列である301 - 358 a.a.が本抗体のエピトープ領域であると決定した。
【0098】
実施例4:非特異反応抑制剤の添加効果の検証
GPC3の301番目から358番目のペプチドを認識する第一のN末端認識型モノクローナル抗体(ビオチン標識)と、GPC3の543番目から552番目のペプチドを認識する第二のC末端認識型モノクローナル抗体(アルカリフォスファターゼ標識)を用いて、自動免疫測定装置HISCL-800(シスメックス社)によって市販血漿10種(Proteogenex社)の測定を行った。なお、抗体のビオチン標識はBiotin Labeling Kit - SH(同仁化学研究所)を添付プロトコール通りに用いて行なった。
【0099】
検量線作製用のサンプルはELISAと同様のものを使用した。また、各抗体の希釈溶液については、ELISAと同様の希釈率のものを作製し、希釈溶媒にはELISA用のブロッキングバッファー(非特異対策なし)および終濃度2 mg/mLのマウスIgGを加えたブロッキングバッファー(非特異対策あり)の2種類を用意した。
【0100】
図15(およびその拡大図の
図16)に示すように、非特異反応抑制剤を添加しなかった場合、いずれの検体も閾値である15 pg/mLを上回っており、偽陽性が発生してしまう恐れがあることが分かる。なお、
図15及び
図16中、「HAMA」は、ヒト抗マウス抗体(Human Anti -Mouse Antibody)を表す。
【0101】
実施例5:B型肝炎患者早期再発予測
HCC患者血液サンプル39例のうち、4年以内に再発が見られた28例について、ウイルス感染の有無に基づく解析を実施した。再発群は年齢中央値68歳(63-72)であり、このうちHCV陽性は18例、HBV陽性は7例、ウイルス感染なしは3例であった。また、無再発期間は中央値10ヶ月(3-21)であった。
【0102】
具体的な実験操作としては、まず、市販のGPC3 N末端認識型モノクローナル抗体を、Biotin Labeling Kit - SH(同仁化学研究所)を用いてビオチン化した。次いで、市販のGPC3 C末端認識型モノクローナル抗体を、Alkaline Phosphatase Labeling Kit - SH(同仁化学研究所)を用いてALP化した。上記で得られたビオチン化抗体と、測定サンプル及び非特異反応抑制剤とを懸濁し、得られた懸濁液に、ストレプトアビジン修飾されたHISCL磁性ビーズを添加して懸濁した。ビーズを集磁して上清を除き、HISCL洗浄液でビーズを洗浄してB/F分離を行った。得られたビーズと、上記で得られたALP化抗体及び非特異反応抑制剤とを懸濁し、ビーズを集磁し、上記と同様にしてB/F分離を行った。得られたビーズにHISCL基質バッファー及びHISCL発光基質を懸濁し、HISCL-800を用いて、発光強度を測定した。なお、用いるビオチン化抗体とALP化抗体の量については、15 pg/mLの全長型のリコンビナントGPC3(R&D systems社)をS/N = 2以上で測定可能なように調整した。
【0103】
GPC3陽性群および陰性群について、ウイルス感染タイプごとに分けて無再発期間を比較した結果を
図17に示す。
図17中、破線より上は無再発群の患者を表し、破線より下は再発群の患者を表す。また、菱形はGPC3陽性群を表し、三角はGPC3陰性再発群を表し、特に四角はGPC3陰性無再発群を表す。
図17から明らかなように、HBV陽性患者においては、GPC3陽性群は、再発が認められたGPC3陰性群に比べて再発までの期間(無再発期間)が短い(平均3.7ヶ月)ことがわかった。また、HBV陽性であってGPC3陽性の全患者において再発が認められた。