(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第一実施形態について、
図1から
図9を参照して説明する。
図1から6は、本実施形態の医療用器具1を示す6面図であり、
図1は正面図、
図2は底面図、
図3は平面図、
図4は左側面図、
図5は右側面図、
図6は背面図である。
図1に示すように、医療用器具1は、細長い棒状の第一部材10と第二部材50が回動可能に連結された基本構成を有する。
【0013】
第一部材10は、棒状の本体部11と、本体部11に設けられた連結部20およびガイド部25とを備えている。
本体部11は、把持及び剥離の際に組織と接触する先端部12と、ガイド部25が設けられた基端部14と、先端部12と基端部14との間に配置された中間部13とを有する。
【0014】
先端部12は、先端に近づくにつれて徐々に細くなる先細り状に形成されている。先端部12には、
図1および
図2に示すように、把持の際に組織と接触する把持面12aと、剥離の際に組織と接触する剥離面12bとが形成されている。第一部材10において、把持面12aは、第二部材50と対向する側に形成され、剥離面12bは、第一部材10における把持面と反対側に形成されている。把持面12aおよび剥離面12bの形状に特に制限はないが、平坦に形成されるのが好ましい。必要に応じて、公知の表面粗し処理等により、把持面12aまたは剥離面12bに微小凹凸を設けて滑り止め機能を付与してもよい。
【0015】
中間部13は、長手方向に直交する断面が略半円状に形成されており、曲面状の第一外周面と略平面状の第二外周面とを有する。中間部13の断面形状は、長手方向において第一外周面の曲率半径が所定周期で増減を繰り返すように形成されている。これにより、中間部13の第一外周面には、
図1および
図4に示すように、一定の間隔で節13aが形成されており、竹に似た形状を有している。
【0016】
本実施形態の基端部14は、長手方向に直交する断面形状が中間部13と同様であり、中間部13と連続性を有するように形成されている。基端部14においては、曲面状の外周面の曲率半径は一定とされており、半円柱状に形成されている。
基端部14の長手方向に直交する断面形状は、必ずしも中間部13と同様でなくてもよい。例えば、基端部を板状に形成し、使用者名や使用科等の表示を付与しやすく構成してもよい。
【0017】
連結部20は、
図1および
図6に示すように中間部13と基端部14との境界部に設けられ、第二部材50に向かって突出している。連結部20には、軸部材21が挿通される軸孔20aが形成されている。
【0018】
図1および
図6に示すように、ガイド部25は、基端部14の基端付近に設けられた一対のガイド部材26および27を有する。
図3に示すように、一対のガイド部材26、27は、所定の間隔を空けて略平行に第二部材50に向かって突出している。
【0019】
第二部材50は、第一部材10と同様に、細長い棒状の基本形状を有し、先端部12、中間部13、および基端部14を備えている。
図5に示すように、第二部材50の中間部13も複数の節13aを有する。第一部材10と第二部材50とは、
図1および
図2に示すように、互いの把持面12aが対向するように配置されている。
【0020】
図1に示すように、第二部材50に形成された連結部20は、第一部材10に設けられたものと同様の形状であり、第一部材10に向かって突出している。
【0021】
第二部材50には、被ガイド部28が設けられている。
図1および
図3に示すように、被ガイド部28の形状は、ガイド部材26やガイド部材27と概ね同様であり、第一部材10に向かって突出して一対のガイド部材26、27間に進入している。
【0022】
第一部材10と第二部材50とは、互いの連結部20の軸孔20aが同軸となり、かつ被ガイド部28がガイド部25のガイド部材26、27間に進入した状態で、軸部材21が第一部材10および第二部材50の軸孔20aに挿通されることにより連結されている。これにより、第一部材10と第二部材50とは、互いの基端部14が非接続の状態であり、かつ軸部材21を回動中心として相対回動することができる。
【0023】
2つの連結部20間には、バネ部材30が配置されている。
図1および
図6に示すように、バネ部材30の第一の端部(不図示)は、2つの連結部20間に固定され、第二の端部30aは、第二部材50に形成された溝31内に進入している。バネ部材30は、溝31の底面を押すことにより、第二部材50の先端部12を第一部材10の先端部から離間するように付勢している。この付勢力はごく小さい値に設定されるのが好ましく、例えば0.1ニュートン(N)〜1.0N程度である。
バネ部材30の付勢力により、医療用器具1は、手を触れない状態において、
図1に示すように、一対の先端部12が互いに離間した初期形状に保持される。初期形状は、バネ部材や溝の形状等を変更することにより、所望の形状に設定することができる。
【0024】
第一部材10および第二部材50の先端部12は、それぞれ中間部13とオフセットして接続されており、各先端部12は、中間部13よりも対向配置された他方の部材に近い位置にある。また、第一部材10および第二部材50の把持面12aは、
図1に示すように、初期形状において、医療用器具1の先端に近づくにつれて徐々に離間するように形成されている。
これにより、
図7に示すように、医療用器具1を閉じて一対の把持面12aを略接触するまで接近させても、把持面が設けられていない先端部12の基端側は離間した状態が維持され、中間部13間の距離は先端部12の基端側間よりもさらに長く保持されるため、後述するように箸に近い操作感が実現されている。
【0025】
上記のように構成された本実施形態の医療用器具1の使用時の動作について説明する。
使用者は、初期形状の医療用器具1を利き手に取り、第一部材10および第二部材50をそれぞれ所望の態様で保持する。医療用器具1の持ち方には特に制限はないが、後述する例では、標準的な持ち方の一例として、第一部材10を親指THと人差し指F1との間に挟み、第二部材50を親指TH、人差し指F1、および中指F2の3本の指を用いて軽く持つ方法を示している。これは、我が国で食事の際に使用する箸の持ち方と概ね同様である。
【0026】
医療用器具1を保持した状態で、第一部材10および第二部材50の一方を他方に対して軸部材21を中心に回動させると、一対の先端部12を接近および離間させて医療用器具1を開閉することができる。医療用器具1の開閉に伴い、把持面12aおよび剥離面12bも接近および離間するように動作する。
【0027】
図8に、医療用器具1による把持操作の一例を示す。上述したように、組織等を把持するために把持面12aを接近させても、中間部13間の距離が比較的大きく保たれており、使用者が操作しやすい。
把持操作時にはバネ部材30による反力が第一部材10および第二部材50の先端部12を離間させる方向に作用するが、バネ部材30による付勢力がごく小さい値に設定されている場合、生じる反力もごく小さくなる。その結果、把持面12aが把持した組織等から受ける反力への影響が著しく小さくなり、使用者は、把持した組織等に関して、硬さ等の性状を正確に把握して適切に手技を進めることができる。
【0028】
図9に、医療用器具1による剥離操作の一例を示す。剥離する組織等を一対の剥離面12bの一方に接触させた状態で、先端部12が離間するように第一部材10と第二部材50とを相対回動させることにより、組織等を移動させて剥離することができる。
剥離操作時は、先端部12を所定距離以上離間させると、バネ部材30が溝31の底面から離間し、バネ部材30による付勢力が第二部材50に作用しなくなる。この状態において、使用者は組織等から受ける反力のみを医療用器具1を通して手に感じることができるため、剥離対象の組織等について、硬さ等の性状や、癒着の程度等の状態などを正確に把握して適切に手技を進めることができる。バネ部材30が発生させる付勢力を十分に小さく設定した場合は、付勢力が組織等から受ける反力にほとんど影響しないため、バネ部材30が溝31の底面から離間しない状態でも同様に組織等の性状や状態等を正確に把握することができる。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の医療用器具1によれば、細長の第一部材10および第二部材50が回動可能に連結された構造を有するため、一対の把持片の接続部位が弾性変形を生じるように構成された従来の医療用器具と異なり、開閉操作のいずれにおいても過剰な付勢力や反力が生じない。その結果、使用者は、医療用器具1を保持する手で操作対象の組織から受ける微細な反力も詳細に感知することができ、医療用器具1を用いて把持操作及び剥離操作の両方を適切な大きさの力で好適に行うことができる。したがって、器具交換に要する手間及び時間を省くことができ、手術時間の短縮や患者負担の軽減に貢献することができる。
特に、脳神経外科の領域では、組織等から受ける反力のわずかな違いに基づいて組織等の性状や状態等を判断し、この判断に基づいて、組織に加える力の大きさを細かく調整して手技を行っているため、上記構成がもたらすメリットは著しく大きい。
【0030】
また、第一部材10と第二部材50とは、被ガイド部28が一対のガイド部材26、27の間に配置されていることにより、被ガイド部28がガイド部25にガイドされながら相対回動する。その結果、先端部12の先端の寸法が例えば1ミリメートル以下と細い場合であっても、把持操作時に先端のずれが発生しにくい。したがって、小さな対象物の把持操作であっても確実に行うことができる。
【0031】
さらに、中間部13が複数の節13aを有する形状であるため、使用者は手の大きさや指の長さ等に応じて適切な節に指を掛けて医療用器具1を保持することができる。したがって、幅広い使用者において、滑りにくく使用しやすい構成とすることができる。
【0032】
加えて、バネ部材30が第一部材10および第二部材50を初期形状となるように付勢しているため、相対回動可能な構成でありながら、非使用時の形状が初期形状に安定しやすい。したがって、手術時における医療用器具1の受け渡し中に相対回動が生じることを抑制し、受け渡しを円滑に行うことができる。
【0033】
本実施形態において、ガイド部材の位置と連結部の位置とは逆転されてもよい。すなわち、連結部が基端部に設けられてもよい。さらに、ガイド部材および連結部の両方が中間部あるいは基端部に設けられてもよい。
【0034】
本発明の医療用器具の開閉動作は、わが国で食事等に用いる箸に近いため、日本で生活する使用者であれば、使い慣れた箸と概ね同様の動作で違和感なく使用することが可能である。日本食の普及等により箸が世界的に使用されるようになった現在では、より多くの使用者が本発明の医療用器具を違和感なく使用することができると推測される。
【0035】
なお、上述した医療用器具1の保持態様は一例であり、医療用器具1の使用態様がこれにより制限されるものではない。上述した箸が、我が国ならびに世界各地において様々な持ち方で使用されているのと同様に、使用者は自身が使用しやすい態様で医療用器具1を保持し、第一部材10と第二部材50とを相対回動させて把持操作及び剥離操作を行うことができる。
【0036】
本発明の第二実施形態について、
図10を参照して説明する。本実施形態の医療用器具は、ガイド部および被ガイド部の構成において第一実施形態と異なっている。以下の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0037】
図10は、本実施形態の医療用器具101を示す正面図である。医療用器具101は、ガイド部25および被ガイド部28に代えて、ガイド部125および被ガイド部128を備えている。
【0038】
ガイド部125は、第一部材10の先端部12において、第二部材50に対向する面に設けられた凹部である。被ガイド部128は、第二部材50の先端部12において、第一部材50に対向する面から突出するように設けられた突起である。被ガイド部128の寸法は、少なくとも一部がガイド部125内に進入できるように設定されている。
ガイド部125および被ガイド部128の位置は、被ガイド部128がガイド部125内に進入したときに、一対の先端部12の先端位置が揃うように設定されている。
【0039】
医療用器具101においては、把持操作時に使用者が一対の先端部12を接近させると、被ガイド部128がガイド部125にガイドされてガイド部125内に進入する。その結果、一対の先端部12の先端位置がずれなく揃い、好適に把持操作を行うことができる。
【0040】
本実施形態において、被ガイド部は、対向する第一部材に近づくにつれて細くなる先細り形状であってもよい。この場合、第一部材と第二部材との相対回動時に先端位置にわずかなずれが生じても、所定範囲内であれば誘い込まれてガイド部内に進入するため、先端のずれを好適に修正して先端位置を揃えることができる。
また、ガイド部が有底の凹部でなく、貫通孔として形成されてもよい。
【0041】
さらに、ガイド部が第二部材に設けられ、被ガイド部が第一部材に設けられてもよい。この点は第一実施形態においても同様である。
【0042】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において異なる実施形態の構成要素を組み合わせたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0043】
本発明の医療用器具の材質には特に制限はないが、生体適合性や滅菌処理への耐性等の観点からは、チタンやステンレス鋼等が好ましい。
【0044】
また、第一部材および第二部材の2つの連結部間には、相対回動時の摩擦を低減するために、シート状の摩擦低減部材が配置されてもよい。これにより、開閉操作時に生じる摩擦抵抗を低減し、組織に加える力の減衰を抑制することができるとともに、把持操作及び剥離操作をより円滑に行うことができる。摩擦低減部材の材質としては、例えばフッ素系樹脂を例示することができる。
【0045】
さらに、本発明の医療用器具において、第一部材および第二部材を初期形状に付勢するためのバネ部材は必須ではない。バネ部材を備えない場合、非使用時の形状の安定性は若干低下するものの、把持操作と剥離操作との両方を好適に行えるという効果については問題なく発揮される。
また、バネ部材を備える場合に、一対の把持面が接触或いは接近して第一部材と第二部材とが非平行となった状態が初期形状となるように付勢態様を設定してもよい。
また、バネ部材が第一部材および第二部材の一方でなく、両方に設けられてもよい。
【0046】
本発明の医療用器具の適用領域は、上述した脳外科領域には限られない。他の領域であっても、把持操作と剥離操作を一つの医療機器で行うことにより、手術時間の短縮や患者負担の軽減に貢献することができる。