(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876326
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】電子ビーム発生装置およびコレクタ電極
(51)【国際特許分類】
H01J 27/16 20060101AFI20210517BHJP
【FI】
H01J27/16
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-61059(P2017-61059)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2018-163832(P2018-163832A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2020年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146009
【氏名又は名称】株式会社昭和真空
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】荒川 俊明
(72)【発明者】
【氏名】中里 隼
【審査官】
中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−229056(JP,A)
【文献】
特開2002−216688(JP,A)
【文献】
特開2002−343776(JP,A)
【文献】
特開2003−242917(JP,A)
【文献】
特表2008−538603(JP,A)
【文献】
特開2009−085206(JP,A)
【文献】
特開2010−225411(JP,A)
【文献】
特開2012−128969(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0067430(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0101159(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスチャージチャンバ内に配置される円筒形状のコレクタ電極と、
高周波電界を印加して前記ディスチャージチャンバの内部にプラズマを生成させる高周波誘導コイルと、
前記コレクタ電極に対して正電位となる電圧が印加され、前記コレクタ電極の内部に生成されたプラズマから電子ビームを引き出すキーパ電極と
を備え、
前記コレクタ電極にはスリットが設けられ、このスリットに碍子が保持されている
ことを特徴とする電子ビーム発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子ビーム発生装置において、前記碍子は、前記スリットの全体を塞ぐように設けられることを特徴とする電子ビーム発生装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電子ビーム発生装置において、前記スリットは、前記円筒形状の軸と平行に設けられていることを特徴とする電子ビーム発生装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電子ビーム発生装置において、
前記コレクタ電極は、円筒形状に曲げ加工され周方向両端面に前記碍子を嵌め込み保持する構造が設けられた一枚の金属板からなる
ことを特徴とする電子ビーム発生装置。
【請求項5】
周囲に高周波誘導コイルが配置される円筒形状のコレクタ電極において、スリットが設けられ、このスリットに碍子が保持されていることを特徴とするコレクタ電極。
【請求項6】
周囲に高周波誘導コイルが配置される円筒形状のコレクタ電極において、スリットが設けられ、このスリットに、碍子を保持するための留具が設けられたことを特徴とするコレクタ電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム発生装置およびコレクタ電極に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や光学素子の製造分野において、イオンアシスト蒸着が用いられている。イオンアシスト蒸着は、イオン化されたガス分子のエネルギーにより堆積した膜の充填密度をコントロールするもので、基板の加熱温度が低くても高密着力かつ高密度の膜を形成することができる。イオンアシスト蒸着は、高温に加熱のできない基板、例えば樹脂レンズ等への成膜にも広く利用されている。例えば波長シフトが許されない光学膜も、イオンアシスト蒸着によりノンシフトで高精度な膜を成膜することができる。
【0003】
イオンアシスト蒸着において、イオン源から基板にイオンを照射し続けると、基板が正に帯電することになり、時間の経過と共にイオンアシスト効率が低下することになる。また、正に帯電した基板と周囲の部材との間で異常放電が発生し、膜欠陥や他の障害が発生する可能性もある。そこで、イオンアシスト蒸着時には、電子ビーム発生装置により電子ビームを発生し、その電子ビームを基板に照射することで、基板を中和させている。
【0004】
このような用途で用いられる電子ビーム発生装置としては、特許文献1,2に開示されたものが知られている。これらの電子ビーム発生装置は、基本的に、円筒形状のコレクタ電極と、高周波電界を印加してディスチャージチャンバ内部にプラズマを生成させる高周波誘導コイルとを備え、さらに、コレクタ電極に対して正電位となる電圧が印加され、プラズマから電子ビームを引き出すキーパ電極を備えた構造を有する。コレクタ電極はディスチャージチャンバ内に配置され、その外側に高周波誘導コイルが配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−128969号公報
【特許文献2】特開2012−128970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のコレクタ電極は、消耗品として、機能面から可能な限りシンプルな構造で作られていた。具体的には、一枚の金属板を円筒形状に曲げ加工し、端面を接合せずにスリットとして開放したものが基本的な構造である。しかし、この構造では、円筒形状が変形し易く、変形によって放電ができない、または不安定になる場合があった。プラズマ生成時コレクタ電極は高温に達するため、繰り返しの使用により金属板が熱変形し、スリットの幅が狭くなってしまう。コレクタ電極のスリット幅がなくなると、渦電流が流れ、高周波誘導電界を阻害し、放電せず、プラズマを生成することができない。また、コレクタ電極とディスチャージチャンバとの間の距離dが長くなる方向に変形するため、コレクタ電極とディスチャージチャンバとの間にプラズマが回りこみ、コレクタ電極がスパッタされてディスチャージチャンバが汚染されてしまうという課題もあった。更に、ディチャージチャンバに導電材料が堆積することで、堆積膜が誘導電界に対してシールドとして作用し、着火性の悪化や放電が不安定になるという課題もあった。
【0007】
本発明は、このような課題を解決し、簡単な構造で、加熱冷却の繰り返しでも変形が少なく、ディスチャージチャンバの汚染も少ないコレクタ電極、およびこのコレクタ電極を用いた電子ビーム発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の側面によると、ディスチャージチャンバ内に配置される円筒形状のコレクタ電極と、高周波電界を印加してディスチャージチャンバの内部にプラズマを生成させる高周波誘導コイルと、コレクタ電極に対して正電位となる電圧が印加され、ディスチャージチャンバの内部に生成されたプラズマから電子ビームを引き出すキーパ電極とを備え、コレクタ電極にはスリットが設けられ、このスリットに碍子が保持されていることを特徴とする電子ビーム発生装置が提供される。
【0009】
碍子は、スリットの全体を塞ぐように設けられることが望ましい。スリットは、単純には、円筒形状の軸と平行に設けられる。コレクタ電極は、円筒形状に曲げ加工され周方向両端面に碍子を嵌め込み保持する構造が設けられた一枚の金属板からなる構造とすることができる。
【0010】
本発明の第二の側面によると、上述の電子ビーム発生装置のコレクタ電極、すなわち、周囲に高周波誘導コイルが配置される円筒形状のコレクタ電極であって、スリットが設けられ、このスリットに碍子が保持されていることを特徴とするコレクタ電極が提供される。
【0011】
本発明の第三の側面によると、周囲に高周波誘導コイルが配置される円筒形状のコレクタ電極であって、スリットが設けられ、このスリットに、碍子を保持するための留具が設けられたことを特徴とするコレクタ電極が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、簡単な構造で、熱変形が少なく、ディスチャージチャンバの汚染も少ないコレクタ電極、およびこのコレクタ電極を用いた電子ビーム発生装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明実施形態に係る電子ビーム発生装置を示す断面図である。
【
図2】従来の電子ビーム発生装置におけるコレクタ電極とディチャージチャンバとの構成を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るコレクタ電極の斜視図である。
【
図5】
図4のV−V断面からスリット側を見た図である。
【
図6】
図4のVI−VI断面から
図4の下方向を見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明実施形態に係る電子ビーム発生装置を示す断面図である。以下の説明では「上」、「下」、「底」等の用語を用いるが、これらは、電子ビーム発生装置からの出力される電子ビームの方向を基準としたもので、必ずしも実空間の特定の方向を示すものではない。
【0015】
図1に示す電子ビーム発生装置は、ディスチャージチャンバ14内に配置される円筒形状のコレクタ電極11と、高周波電界を印加してディスチャージチャンバ14の内部にプラズマを生成させる高周波誘導コイル12と、コレクタ電極11に対して正電位となる電圧が印加され、ディスチャージチャンバ14の内部に生成されたプラズマから電子ビームを引き出すキーパ電極13とを備える。
【0016】
ディスチャージチャンバ14は底のある円筒形状であり、コレクタ電極11は、ここに置かれる。高周波誘導コイル12は、ディスチャージチャンバ14の周囲に巻装される。ディスチャージチャンバ14の上面には、中央に孔のあるチャンバープレート15が設けられる。ディスチャージチャンバ14の底面には貫通孔が設けられ、この貫通孔に、ガス導入口16が挿通される。ガス導入口16の先端にはネジ山が設けられ、コレクタ電極11の底面には取付用の部材が設けられ、ナット17により、ディスチャージチャンバ14の底面を挟んで、ガス導入口16がコレクタ電極11に固定される。
【0017】
電子ビーム発生装置は真空槽内に置かれ、動作時には、ガス導入口16からディスチャージチャンバ14内に、プラズマ発生用のガス、例えばアルゴンArガスが導入される。この状態で高周波誘導コイル12に高周波電流を流すと、ディスチャージチャンバ14の内部に高周波誘導電界が生じ、プラズマが発生する。一方、コレクタ電極11とキーパ電極13との間には、キーパ電極13が正電位となる電圧が印加される。コレクタ電極11とキーパ電極13との電位差により、プラズマ中の電子がキーパ電極13側に引き寄せられ、キーパ電極13に設けられた孔から、電子ビームとして出力される。
【0018】
図2は、従来の電子ビーム発生装置におけるコレクタ電極11aとディスチャージチャンバ14との構成を示す斜視図である。
【0019】
図2に示すコレクタ電極11aは、一枚の金属板を円筒形状に曲げ加工し、周方向両端面を接合せずにスリットとして開放したものである。この構造では、円筒形状が変形し易く、コレクタ電極11aとディスチャージチャンバ14との間の距離dが長くなる方向に変形する。このため、上述したように、変形により放電ができない等の課題があった。
【0020】
図3は、本発明の実施形態に係るコレクタ電極11の斜視図である。コレクタ電極11にはスリット21が設けられ、このスリット21に、碍子22が嵌め込まれる。
図3では、説明のため、碍子22をコレクタ電極11から分離して示す。コレクタ電極11のスリット21には、碍子22を嵌め込むための留具23が設けられる。コレクタ電極11の底面には取付用部材31が設けられ、この取付用部材31には、ガス導入口16が挿通される貫通孔32が設けられる。ここで示す取付用部材31の形状および構造は単なる一例であり、種々の変形が可能である。碍子22はコレクタ電極11に保持される構成であればよく、ネジ止め等により取付固定してもよい。
【0021】
図3に示すコレクタ電極11は、円筒形状に曲げ加工され周方向両端面に碍子22を保持する構造としての留具23が設けられた一枚の金属板からなる。すなわち、このコレクタ電極11は、一枚の金属板を円筒形状に曲げ加工することにより形成され、端面を接合せずにスリット21としている。スリット21の上下端が曲げ加工され、留具23が形成されている。スリット21は、円筒形状の軸に対して斜めに設けられてもよいが、碍子22の取り付けを考慮すると、円筒形状の軸と平行に設けられていることが望ましい。碍子22は、スリット21の全体を塞ぐように設けられることが望ましい。碍子22の材料としては、ガラス製、あるいはディスチャージチャンバ14と同じアルミナを用いることができる。実施例ではアルミナを用いるものとするが、碍子22の材料はその他のセラミック類など絶縁性のある材料から適宜選択すればよい。また、実施例では一枚の金属板により碍子22を保持するが、円筒部とは別体の留具を備える構成であってもよい。例えば、金属板を溶接することにより留具を設けてもよい。また、実施例では碍子22を一体型のアルミナにより構成するが、複数に分割された絶縁材料をスリット内に保持させてもよい。絶縁材料がスリットの全体を覆わず、スリットの一部を絶縁材料で被覆する構成であってもよい。
【0022】
図4はコレクタ電極11の上面図であり、
図5は、
図4のV−V断面からスリット21側を見た図であり、
図6は、
図4のVI−VI断面から
図4の下方向を見た図である。
【0023】
以上説明した本発明の実施形態によれば、コレクタ電極11のスリット21に碍子22が嵌め込まれていることで、コレクタ電極11のスリット21に向かう方向の変形が防止され、コレクタ電極11とディスチャージチャンバ14との距離dが長くなる方向の変形を防止することができる。これにより、スリット21の間隔を維持し安定して放電を維持することができる。また、意図しない空間へのプラズマの回りこみを防止し、ディスチャージチャンバ14の汚染を防止することができる。さらに、スリット21が塞がれることにより、この部分でのスパッタリングによるディスチャージチャンバ14の汚染も防止できる。汚染が防止されることで、メンテナンスサイクルスを大幅に延ばすことができ、長時間の安定稼働が可能になる。また、碍子を消耗品として交換できるので、メンテナンス性が向上する。
【符号の説明】
【0024】
11 コレクタ電極
12 高周波誘導コイル
13 キーパ電極
14 ディスチャージチャンバ
15 チャンバープレート
16 ガス導入口
17 ナット
21 スリット
22 碍子
23 留具
31 取付用部材
32 貫通孔