【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[材料と方法]
(1)植物材料
ハイブリッドF1オオムギ植物(HN×GP又はMO×GP)は、種子親は、それぞれはるな二条(HN)又はモレックス(MO)に由来し、花粉親はゴールデンプロミス(GP)に由来する。植物は、24時間サイクル当たり16時間の日照下、15℃/13℃(昼/夜)で生育させた。およそ受粉の14日後に、未熟胚を単離するために穀果を収穫した。
【0060】
(2)アグロバクテリウム法による形質転換
オオムギの形質転換をHenselら(Hensel, G. et al., (2008) J. Plant Physiol., 165, 71-82)のプロトコールに従って実施した。切断した未熟胚を、Hieiら(Hiei, Y. et al., (2006) Plant Cell Tiss. Org. Cult., 87, 233-243.)及びZhengら(Zheng, L. et al., (2011) Plant Cell Physiol., 52, 765-774.)に従い、アグロバクテリウムの接種前に、43℃で4分、100mg/lのアセトリシリゴン溶液に浸した。beta-glucuronidase(GUS)遺伝子及びhygromycin phosphotransferase(HPT)遺伝子を有するバイナリーベクターpIG121-Hm(Hiei, Y. et al., (1994) Plant J., 6, 271-282.)を保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1を接種に使用した。
【0061】
(3)PCRによるDNA解析
ゲノムDNAをDNeasy Plant mini kit(QIAGEN, Germany)を用いてオオムギ植物の葉から抽出した。PCR増幅は、次のプログラムで実施した。95℃、2分で初期変性、「95℃、30秒で変性、55℃(GUS遺伝子に関して)又は60℃(HPT遺伝子に関して)で30秒のアニーリング、72℃、30秒の伸長」を28サイクル(72℃、10分の最終伸長を伴う)。PCRのための10μlの反応混合物は、鋳型として50ngのゲノムDNA、1×GoTaq(R) Green Master Mix(Promega, USA)、及び0.5μMの以下の各特異的プライマーを含む。
【0062】
GUS遺伝子に対して、gus4(5’-AACAGTTCCTGATTAACCACAAACC-3’/配列番号:191)及びgus5(5’-GCCAGAAGTTCTTTTTCCAGTACC-3’/配列番号:192)、及びHPR遺伝子に対してhph1(5’-GCTGGGGCGTCGGTTTCCACTATCGG-3’/配列番号:193)及びhph2(5’-CGCATAACAGCGGTCATTGACTGGAGC-3’/配列番号:194)。
【0063】
(4)HvNiR遺伝子のクローニング
HvNiR遺伝子(それぞれGP及びHNに関して、Acc. No. LC097010及びLC097011)をクローニングするために、次のプログラムでPCR増幅を実施した。98℃、2分で開始変性、「98℃、10秒で変性、55℃、15秒でプライマーアニーリング、及び72℃、150秒で伸長」を30サイクル(72℃、10分の最終伸長を伴う)。PCRのための30μlの反応混合物は、鋳型として50ngのはるな二条又はゴールデンプロミスのゲノムDNA、1×PrimeSTAR(R) Max DNA Polymerase (TAKARA, Japan)、並びに0.5μMの特異的プライマーHvNiR-F1(5’-AACCACAAGCAGCATCCATG-3’/配列番号:195)及びHvNiR-R1(5’-GAGATCATCAGGAGAAGGAG-3’/配列番号:196)を含む。PCR産物は、pCRTM4-TOPO(R)(Invitrogen, USA)にクローニングし、TOPO(R) TA Cloning(R) Kit for Sequencing(Invitrogen, USA)を用いて製造業者のプロトコールに従って配列決定した。
【0064】
(5)ジェノタイピング
製造業者のプロトコールに従いDNeasy Plant mini kit(QIAGEN, Germany)にて抽出したゲノムDNAを用いて作出した全ての形質転換植物のジェノタイピングに、Illumina GoldenGate(R) oligonucleotide pool assays(Close, T.J. et al., (2009) BMC Genomics, 10, 1-13.)の384-SNPプラットフォームを採用した。
【0065】
HvNiR遺伝子マーカーを用いたジェノタイピングのために、PCR増幅を改良したタッチダウンPCRプログラム(Don, R.H. et al., (1991) Nucleic Acids Res., 19, 4008.)を用いて実施した。95℃、2分で開始変性、「95℃、30秒で融解、65℃(サイクル毎に1℃減少)、20秒でアニーリング、及び72℃、30秒で伸長」を10サイクル、「95℃、10秒の変性、55℃、20秒のアニーリング、及び72℃、30秒で伸長」を20サイクル(72℃、10分の最終伸長を伴う)。PCRのための10μlの反応混合物は、鋳型として50ngのゲノムDNA、1×GoTaq(R) Green Master Mix、並びに0.5μMの特異的プライマーHvNiR-GPspeF(5’-CCCGCATGCATATCCCATAG-3’/配列番号:197)及びHvNiR-GPspeR(5’-CCCGGACTAGTCCAAGATAC-3’/配列番号:198)を含む。PCR産物は、TBE running buffer中、1.5%アガロースゲル(Wako, Japan)を用いた電気泳動で解析した。
【0066】
(6)歪んだ分離の検出
カイ二条(χ2)検定を実施した。推定優性比の3:1又は1:3(df=1)のみならず、帰無仮説に関して期待されるメンデル比の1:2:1(df=2)を用いて、有意な分離歪みを示すゲノム領域を同定した。Microsoft(R) Excel(R)を全ての計算、チャート、及び色分け図のために用いた。
【0067】
[結果]
(1)形質転換HN×GP植物の作出
以前、本発明者は、GPとHNの間の交雑(形質転換のための外植体としてのHNへ3回に渡る戻し交雑を伴う)から生じたBC3F8P組換え染色体置換系統の未熟胚の使用を試みたが、何らの形質転換植物は得られなかった。
【0068】
ここでは、HNとGPの間の交雑(HN×GP)から生じたF2未熟胚を、GUS(β-glucuronidase)およびHPT(Hygromycin PhosphoTransferase)の遺伝子を有するバイナリーベクターpIG121-Hmを保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1で接種した(Hiei, Y. et al., (1994) Plant J., 6, 271-282.)。3,030の未熟胚から、誘導/選抜培地上での選抜後、293のハイグロマイシン耐性カルスが観察された。再生培地上でこれらのカルスの64個から緑色シュートが再生された。全体で60の独立した植物から、再生培地上で健康な根が生じ、それらをポットに移植し、制御された環境で成長させた。60の候補植物の葉からDNAを単離し、次いで、ジェノタイピングとPCR解析に用いた。このPCR解析において、全ての60の候補植物がGUSとHPTのトランスジーンに関してPCR陽性であった。トランスジーンの組み込みを示すこれらのデータは、全ての60の候補が、アグロバクテリウム法による形質転換を許容するGPからの遺伝的因子を保持していることを示唆した。
【0069】
(2)形質転換HN×GP植物のSNPマーカー解析
60の形質転換HN×GP植物のジェノタイプを、オオムギオリゴヌクレオチドプール解析1(Close, T.J. et al., (2009) BMC Genomics, 10, 1-13.)由来の384-SNP Illumina GoldenGate(R) プラットフォームの124マーカーのサブセットを用いて決定した。
【0070】
本解析における全てのマーカーの遺伝的位置は、コンセンサス遺伝子地図(Close, T.J. et al., (2009) BMC Genomics, 10, 1-13.)から得ることができる。形質転換HN×GP植物のジェノタイピングデータは、上記表1〜9に示し、各染色体におけるマーカーの順序に基づくジェノタイプは、
図1に示した。各形質転換HN×GP植物は、独特なジェノタイプを持っていたが、この事実は、これら60の植物が独立した形質転換事象から生じたことを示唆する。
【0071】
(3)アレル頻度と分離歪み解析
アレル頻度は、ジェノタイピングデータに基づいて計算し、対応する染色体にマッピングした(
図2A)。メンデルの独立の法則は、GPのホモ、ヘテロ、HNのホモというアレルが、1:2:1の比で分離することを予言する。GPアレルは、染色体2Hにおけるマーカー2580-1456(位置: 55.0cM)と3256-1196(120.8cM)の間の領域及び染色体3Hにおける4105-1417(46.3cM)と8020-87(88.8cM)の間の領域において、40%を超える頻度を示した(
図2A)。
【0072】
形質転換のための選抜により生じた分離歪みを同定するために、カイ二乗(χ2)検定を用いた(
図2B及び2C)。予測されたメンデル比(HN:HE:GP=1:2:1)に関するχ2値をオオムギゲノム上のマーカー位置でプロットした(
図2B)。最大のχ2値は52.1であり、これは染色体3Hにおけるマーカー4105-1417を伴っていた。一方、4105-1417(46.3cM)と8020-87(88.8cM)の間の周辺領域は、統計的に有意な分離歪みを示した(df=2, p<0.01)。本発明者は、この領域をTFA1(TransFormation Amenability 1)と命名した。有意な分離歪みを持つ他の領域が染色体2H上の2580-1456(55.0cM)と3256-1196(120.8cM)の間に観察された(df=2, p<0.01)。この領域は、マーカー6117-1507(82.8cM, χ2=22.9)と7576-818(117.9cM, χ2=13.6)を伴う2つのピークを含んでおり、これらの遺伝子座をそれぞれTFA2、TFA3と命名した。これらの領域における増加したGPアレルの頻度は、GPにおける形質転換効率に関わる因子がそこに存在していることを示唆した。興味深いことに、増加したHNアレルの頻度が、染色体5Hにける8377-1022(30.99cM)と4684-775(34.25cM)の間に観察され、TFA4と命名した。有意な分離歪みを伴う遺伝子座のχ2値を表1〜9にまとめた。
【0073】
同定された遺伝子座の優性の方向性を試験するために、χ2検定において優性分離比(3:1)を用いた(
図2C)。GPアレルが機能的に劣性([HN+HE]:[GP]=3:1)であるという仮定の下、TFA1、TFA2、及びTFA3に加え、有意な歪みを示す領域やマーカーが、染色体2Hにおけるマーカー1865-396(21.6cM)と7032-201(29.2cM)の間に、染色体3Hにおける7818-967(150.4cM)に、及び染色体4HにおけるABC14522-1-8-350(5.5cM)と2055-947(21.6cM)の間に観察された。これら追加された遺伝子座は、それぞれTFA5、TFA6、及びTFA7と命名した(
図2Cの折れ線)。一方、GPアレルが優性([GP+HE]:[HN]=3:1)であるという仮定の下、TFA1、TFA3、及びTFA4と並んで、染色体4Hにおける4986-1214(84.3cM)と4564-604(87.5cM)の間、染色体5HにおけるConsensusGBS0451-1(155.1cM)、染色体6HにおけるConsensusGBS0346-1(12.5cM)と1769-545(17.0cM)の間の遺伝子座が同定された。これらの新しい遺伝子座は、それぞれTFA8、TFA9、及びTFA10と命名した(
図2C)。興味深いことに、TFA2のχ2値は、[HN+HE]:[GP]=3:1の下で有意な分離歪みを示したが、GP優性条件の下では有意ではなかった。
【0074】
(4)HvNiR遺伝子のクローニングとジェノタイピング
イネのNirのオオムギオルソログが形質転換効率に関与しているか否かを試験するために、本発明者は、HNとGPの間の比較のために、これら2つの栽培品種からNiRオルソログを単離した。予想された開始コドンと終始コドンを含む推定HvNiR遺伝子は、HNでは2,965bpで、GPでは3,097bpであった。HNとGPにおけるHvNiR遺伝子の解析により4つのエキソンと3つのイントロンが明らかとなり、HNとGPの間のDNA配列の比較により、イントロンにおける14のSNPsとエキソンにおける3つの同義置換SNPsが見出された(
図3A)。加えて、HNアレルは第一イントロンにおいて7bpと23bpの挿入を保持していた一方、GPアレルは第一イントロンにおいてレトロトランスポゾン様配列に相同な161bpの挿入を保持していた(
図3A)。これらの相違にも拘わらず、HN及びGPにおけるHvNiRの予想されるアミノ酸配列は同一であった。
【0075】
HvNiRの第一イントロンにおける挿入が形質転換効率に関係しているか否かを探るべく、ジェノタイピングのためのGP特異的な161bpの挿入をまたぐ領域を増幅する共優性配列タグ部位(STS)マーカーを設計し、60の形質転換HN×GP植物からのDNAを用いてSTS解析を行った。アレルの解析により、分離比12:37:11(HN:HE:GP)が明らかとなり、これは分離歪みのない単因子のメンデル比(
図3B, 1:2:1比でχ2=3.3)に適合する。
【0076】
(5)ゲノムワイドな遺伝子座−遺伝子座相互作用
通常、遺伝子座−遺伝子座相互作用の解析には、対立する特性(例えば、与えられたストレスに対する抵抗性 vs 耐性)を持つ集団が用いられる。本発明者は、形質転換効率をマップするための形質転換植物を開発しているが、いずれの系統も形質転換感受性であるため、本発明者の集団には選択バイアスがあり、標準的なソフトウェアは、遺伝子座−遺伝子座相互作用を検出するために役立たない。形質転換HN×GP植物における遺伝子座−遺伝子座相互作用を解析するために、本発明者は、単一マーカーのアレルタイプによりジェノタイプをグループ分けし、その後、最初のマーカーに関係のある他のマーカーの分離比とχ2値を計算した。例えば、HvNiR遺伝子座を用いて、HvNiRにおけるアレルに基づき、HN×GP植物を、GPに関する11植物のグループ、HEに関する37植物のグループ、HNに関する12植物のグループに分け(それぞれ、
図4Aにおける上、中央、下のパネル)、その後、他の遺伝子座のそれぞれにおけるアレルの比(バンドチャート)とχ2検定のp値(ヒートマップ, df=2)を比較した。HvNiRは、染色体6Hの長腕上に存在しているため、この領域のアレルの頻度はHvNiRの頻度と一致した。染色体2H上では、GP-及びHN-タイプのHvNiRグループにおけるTFA2周辺に、GPアレルに偏向した歪みが観察されたが、これはHE-タイプグループには観察されなかった(
図4A)。TFA3周辺もまた、GP及びHEアレルがHN-及びHE-タイプのHvNiRグループにおいて優性であったが、GPタイプのグループでは優性ではなかった。興味深いことに、GP-タイプのHvNiR植物の間では、TFA1周辺に分離歪みはなかった。さらなる分離歪みは、GP-タイプのHvNiR植物における染色体4Hの長腕上にも観察された(
図4A)。
【0077】
上記の方法を用いて、全ての非冗長なマーカー(全部で111)のχ2検定を形質転換HN×GP植物において行った。最初に、本発明者は、一つの遺伝子座(遺伝子座A)と他の遺伝子座(遺伝子座B)の間のアレルの組み合わせの数を計算し(例えば、遺伝子座A-Bに関してGP-HN)、その後、遺伝子座Aの各タイプのアレルの間における、遺伝子座Bの歪みに関するχ2値(df=2)を計算した。
図4Bは、縦軸上の遺伝子座Aに対する横軸上の遺伝子座Bの有意な分離歪みを表す、P値の色分け図であり、GP(左パネル)、HE(中央パネル)、及びHN(右パネル)の各アレルの場合に分けている。分離歪みが、ほとんどすべてのマーカーに対して、遺伝子座BとしてのTFA1周辺において観察された。但し、HN×GP植物がGPアレルを持つHvNiRを含む染色体6Hの領域では、分離の歪みは観察されなかった(
図4Bの左パネル)。この染色体6Hの領域にGPアレルを持つ植物は、TFA2のみならず、染色体4Hの長腕において分離歪みを示した(
図4Bの左パネル)。これらの遺伝子座は別として、主要な分離歪みが、遺伝子座AとしてのGPアレルマーカーを伴う場合において、1H-4H、2H-7H、3H-7H、4H-5H、7H-2H、及び7H-4Hで観察された(
図4Bの右パネル)。HN×GP植物における遺伝子座AとしてHNアレルマーカーを伴う場合において、分離歪みは、TFA1に加えて、1H-2H、1H-5H、2H-6H、3H-2H、6H-2H及び7H-2Hで観察された(
図4Bの右パネル)。特に、遺伝子座Aとしての染色体6Hと7HにおけるHNアレルを伴う植物では、遺伝子座Bとしての染色体2Hにおける広範囲な分離歪みを示した。
【0078】
(6)代替交雑による形質転換感受性に関する遺伝的因子の検証
オオムギにおける形質転換の重要な遺伝的因子として、TFAs、特に、TFA1、TFA2、及びTFA3を検証するために、本発明者は、モレックス(MO)とゴールデンプロミスの交雑(MO×GP)に由来するF2未熟胚に対してアグロバクテリウム法による形質転換を行った。
【0079】
具体的には、「Morex」と「Golden Promise」の交雑第一世代(F1)個体の未熟胚(F2世代)にアグロバクテリウムの感染実験を行った。アグロバクテリウムを感染させた未熟胚は、3日間の共存培養を行い、7日間は抗生物質が入っていない培地に置床して無選抜培養した。その後ハイグロマイシンを含む選抜培地にて耐性カルスの選抜を行った。選抜は、14日間を2回(計28日間)行った。明らかに増殖したカルスのみを再分化培地に継代した。14日毎に新しい再分化培地に継代し、42日後に再分化しなかったカルスは破棄した。再分化したシュートは、ホルモンフリー培地に移して発根させ、鉢上げした。1,722の未熟胚からの2つの独立した形質転換MO×GP植物が得られ、GoldenGate(R)プラットフォームを用いてジェノタイピングした。その結果を表10〜12に示す。
【0080】
【表10】
【0081】
【表11】
【0082】
【表12】
【0083】
TFA1、TFA2、及びTFA3の各領域では、双方の植物において、ホモGPとヘテロのジェノタイプに対応していた。これらの事実は、TFA1,TFA2、及びTFA3のGPアレルが、オオムギの代替ハプロタイプにおける形質転換に有効であることを確認するものである。