特許第6876334号(P6876334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876334
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】形質転換感受性のオオムギの作出方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/00 20060101AFI20210517BHJP
   C12Q 1/6895 20180101ALI20210517BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20210517BHJP
【FI】
   A01H1/00 Z
   C12Q1/6895 Z
   !C12N15/09 ZZNA
【請求項の数】4
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2018-524182(P2018-524182)
(86)(22)【出願日】2017年6月23日
(86)【国際出願番号】JP2017023218
(87)【国際公開番号】WO2017222051
(87)【国際公開日】20171228
【審査請求日】2020年1月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-124749(P2016-124749)
(32)【優先日】2016年6月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和広
(72)【発明者】
【氏名】久野 裕
【審査官】 宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】 久野 裕,オオムギの形質転換成否を左右する遺伝因子の同定,Database KAKEN, 研究課題/領域番号 24880025, 2013年度研究成果報告書,2015年,pp.1-4
【文献】 Sci. Rep.,2016年11月,no.6:37505,pp.1-11
【文献】 Plant Cell Rep.,2017年 4月,vol.36, no.4,pp.611-620
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00
C12Q 1/68−1/6897
C12N 15/09−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴールデンプロミスと任意のオオムギ品種を交雑させ、得られた後代において、下記(a)〜(c)の少なくとも1つのゲノム領域の存在を検出し、当該ゲノム領域がホモまたはヘテロでゴールデンプロミス型である個体を選抜することを含む、アグロバクテリウム法による形質転換に対して感受性のオオムギの作出方法。
(a)染色体3HにおけるマーカーNIASHv1109O03_00000798_3HとマーカーNIASHv1150F05_00000946_3Hで挟まれたゲノム領域
(b)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2027F11_00000300_2HとマーカーNIASHv2016D11_00000337_2Hで挟まれたゲノム領域
(c)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2108A23_00000279_2HとマーカーFLOUbaf102a14_00001505_2Hで挟まれたゲノム領域
【請求項2】
ゴールデンプロミスと任意のオオムギ品種を交雑させ、得られた後代において、下記(a)〜(c)の少なくとも1つのマーカーの存在を検出し、当該マーカーがホモまたはヘテロでゴールデンプロミス型である個体を選抜することを含む、アグロバクテリウム法による形質転換に対して感受性のオオムギの作出方法。
(a)染色体3HにおけるマーカーNIASHv1109O03_00000798_3H、マーカーNIASHv1150F05_00000946_3H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
(b)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2027F11_00000300_2H、マーカーNIASHv2016D11_00000337_2H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
(c)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2108A23_00000279_2H、マーカーFLOUbaf102a14_00001505_2H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
【請求項3】
下記(a)〜(c)の少なくとも1つのマーカーを挟み込むように設計された一対のオリゴヌクレオチドを含む、オオムギにおいてアグロバクテリウム法による形質転換に対する感受性を検査するための試薬であって、当該マーカーがホモまたはヘテロでゴールデンプロミス型であるか否かを検査し、ゴールデンプロミス型である場合に、当該形質転換に対して感受性であると判定するための試薬
(a)染色体3HにおけるマーカーNIASHv1109O03_00000798_3H、マーカーNIASHv1150F05_00000946_3H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカ
(b)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2027F11_00000300_2H、マーカーNIASHv2016D11_00000337_2H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
(c)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2108A23_00000279_2H、マーカーFLOUbaf102a14_00001505_2H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
【請求項4】
下記(a)〜(c)の少なくとも1つのマーカーを含むゲノム上の塩基配列にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む、オオムギにおいてアグロバクテリウム法による形質転換に対する感受性を検査するための試薬であって、当該マーカーがホモまたはヘテロでゴールデンプロミス型であるか否かを検査し、ゴールデンプロミス型である場合に、当該形質転換に対して感受性であると判定するための試薬
(a)染色体3HにおけるマーカーNIASHv1109O03_00000798_3H、マーカーNIASHv1150F05_00000946_3H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
(b)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2027F11_00000300_2H、マーカーNIASHv2016D11_00000337_2H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
(c)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2108A23_00000279_2H、マーカーFLOUbaf102a14_00001505_2H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オオムギ品種ゴールデンプロミスに由来する、アグロバクテリウム法による形質転換に対する感受性に関与するゲノム領域に関する。また、本発明は、当該ゲノム領域の存在を指標として、アグロバクテリウム法による形質転換に対して感受性のオオムギを作出する方法に関する。さらに、本発明は、当該ゲノム領域に結合するオリゴヌクレオチドを含む、オオムギにおいてアグロバクテリウム法による形質転換に対する感受性を検査するための試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
栽培オオムギ(Hordeum vulgare)は、5.1Gbpのよく特徴付けられたゲノムを持つ二倍体の穀物である。オオムギは、世界における生産量が穀物の中で第4位にランクされており、食物、醸造、及び動物飼料に利用されている。作物としての重要性から、オオムギにおける多くの農学上又は産業上の特性が遺伝的に解析されてきた。形質転換は、遺伝学において必須のツールであり、生物ゲノムへのDNAの導入により、新規形質の導入だけでなく、内因性遺伝子の解析も可能となる。不運なことに、オオムギにおける遺伝的解析は、形質転換に関する技術的問題によって制約を受けており、これはシロイヌナズナやイネといった他の植物種におけるアグロバクテリウム法による形質転換の容易さと全く対照的である。オオムギにおいて最も汎用されているアグロバクテリウム法による形質転換法は、Tingayらにより開発されたものであり(非特許文献1)、外植片としてゴールデンプロミスの未熟胚を利用している。これ以外のオオムギの形質転換技術としては、イグリ(Igri)の花粉培養が数少ない代替法の一つになっている(非特許文献2)。研究目的となる特性の解析がゴールデンプロミスやイグリに発現しているアレルに制限されることから、この状況は、オオムギにおける相補解析に大いなる挑戦をもたらしている。一般的に、機能的なアレルの解析には、ゴールデンプロミスによる複数の戻し交雑を介して、標的アレル残しつつ、他のゲノム領域をゴールデンプロミス型へと置換した系統を開発する必要がある。最近、Yeoら(非特許文献3)は、さび病菌に対する非宿主性および部分的耐性の機能解析に適したオオムギ系統を開発すべく、ゴールデンプロミスの形質転換能とサスプトリット(SusPtrit)から受け継いださび病への高い感受性とを兼ね備えたゴールデンサスプトリット(Golden SusPtrit)という新しいオオムギ系統を開発した。この組換え系統における、アグロバクテリウム法による形質転換効率の増強は、ゴールデンプロミスの形質転換効率の要となる遺伝的因子の存在を示唆した。この研究では、ゴールデンプロミスにおけるアグロバクテリウム法による形質転換の要因となる遺伝的領域を予測するために、同じ倍加半数体マッピング集団における形質転換感受性系統(SG062N)と非感受性系統(SG133N)との間の遺伝的相違の比較も行った(非特許文献3)。
【0003】
形質転換能自体の遺伝的要因は具体的に調査されていないが、オオムギにおけるカルスから緑色シュートの再生のための要となる4つの量的形質遺伝子座(QTLs)が、以前、ステプトー(Steptoe)とモレックス(Morex)との雑種において同定された(非特許文献4、5)。ヤセイカンラン(Brassica oleracea)においてCoganら(非特許文献6)は、完熟種子を利用して、アグロバクテリウム・リゾジェネスを用いた根の形質転換に関与する3つのQTLを同定した。3つの遺伝子座のうち2つは、これら領域周辺のゲノム重複により生じたお互いのパラログであると推測される(非特許文献7)。バレイショ(Solanum tuberosum)において、El-Kharbotlyら(非特許文献8)は、R1遺伝子(バレイショ疫病菌[Phytophthora infestans]への抵抗性)と連鎖し、形質転換効率に関与する遺伝子座を見出した。イネの場合、Nishimuraら(非特許文献9)は、主要なQTLであるシュート再生のプロモーター(PSR)に関与するフェレドキシン亜硝酸還元酵素(ferredoxin-nitrate reductase)(NiR)をコードする遺伝子を単離した。この場合では、完熟種子由来のカルスに、カサラスのNiR遺伝子の完全なゲノム領域または過剰発現cDNAを導入することにより、イネのコシヒカリにおける再生効率が増加した。興味深いことに、Tyagiら(非特許文献10)は、緑色シュート再生の要となるオオムギ染色体6H上のQTLが、遺伝子座(AK371794)の近傍に存在することを報告した。
【0004】
アグロバクテリウム法による形質転換の効率は、調査している植物材料のタイプや遺伝的構成のみならず、環境や技術的要因にも大きく依存する。技術的要因には、培養条件、培地組成、アグロバクテリウム株のタイプ、および特定のバイナリーベクターや採用する選抜マーカーを含む(非特許文献11)。アグロバクテリウムとの相互作用に関わる遺伝的要因(T-DNAのホストゲノムへの組み込み、選抜条件下の細胞分裂、及びカルスからの再生の要となる遺伝子を含む)のみならず、形質転換に使用する外植片のタイプもまた重要な役割を担っている(非特許文献11)。
【0005】
最近、TALENs(Trans Activator-Like Effector Nucleases)やCRISPR/Cas9(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats/CRISPR associated proteins 9)のようなゲノム編集技術が植物において開発されてきている。しかしながら、オオムギにおけるこれらの技術の実用性は、Budhagatapalliら(非特許文献12)やLawrensonら(非特許文献13)によって報告されているように、ほとんどの植物種において、これらヌクレアーゼを導入する最初のステップとして形質転換が必要であるという事実により制約を受けている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tingay, S. et al., (1997) Plant J., 11, 1369-1376.
【非特許文献2】Kumlehn, J. et al., (2006) Plant Biotechnol. J., 4, 251-261.
【非特許文献3】Yeo, F.K.S. et al., (2014) Theor. Appl. Genet., 127, 325-337.
【非特許文献4】Mano, Y. et al., (1996) Japanese Journal of Breeding, 46, 137-142.
【非特許文献5】Bregitzer, P. and Campbell, R.D. (2001) Crop Sci., 41, 173-179.
【非特許文献6】Cogan, N. et al., (2002) Theor. Appl. Genet., 105, 568-576.
【非特許文献7】Cogan, N.O.I. et al., (2004) Plant Biotechnol. J., 2, 59-69.
【非特許文献8】El-Kharbotly, A. et al., (1995) Theor. Appl. Genet., 91, 557-562.
【非特許文献9】Nishimura, A. et al., (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 11940-11944.
【非特許文献10】Tyagi, N. et al., (2010) Crop Sci., 50, 1697-1707.
【非特許文献11】Cheng, M. et al., (2004) In Vitro Cell Dev. Biol. Plant, 40, 31-45.
【非特許文献12】Budhagatapalli, N. et al., (2015) G3: Genes Genom. Genet., 5, 1857-1863.
【非特許文献13】Lawrenson, T. et al., (2015) Genome Biol., 16, 1-13.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、オオムギのアグロバクテリウム法による形質転換の効率に関与するゲノム領域を同定し、当該ゲノム領域の存在を指標として、アグロバクテリウム法による形質転換に対して感受性のオオムギを作出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
植物における形質転換の成否は様々な要因に依存しており、ゴールデンプロミス(GP)の未熟胚は、オオムギにおけるアグロバクテリウム法による形質転換のための最も信頼できる材料である(Harwood, W.A. (2012) J. Exp. Bot., 63, 1791-1798.)。そこで、本発明者は、まず、オオムギにおけるアグロバクテリウム法による形質転換を制御する遺伝的因子を同定するために、BC3F8組換え染色体置換系統による形質転換実験を試みた。しかしながら、4,661の未熟胚から形質転換植物を得ることができなかった。これはおそらく、実験材料における形質転換に必要な因子の数が不十分であったと推測される。
【0009】
そこで、本発明者は、さらなる研究のための形質転換体集団を作出する機会を増大させるべく、異なるアプローチを採用した。すなわち、アグロバクテリウム法による形質転換の材料として、はるな二条(HN)とGPの交雑から得られるF2世代の未熟胚を利用した。この新しいアプローチでは、3030のF2個体から60の形質転換オオムギ植物体(HN×GP)を得ることに成功した。
【0010】
次いで、ゲノムワイドな解析のために、これら60の形質転換植物を利用して、期待される1:2:1の比からの有意なアレルの分離歪みを示すゲノム領域の同定を試みた。その結果、本発明者は、染色体2Hと3Hにおいて分離歪みを生じる主要な領域を見出し、TFA1、TFA2、およびTFA3と命名した。そこでは、形質転換体においてGPアレル頻度が非常に高かった。形質転換植物の中にTFAsがヘテロの個体も一定量存在したことから、形質転換効率を制御する何らかの潜在的因子が優性であることが示唆された。重要なことに、これらTFAsのGPアレルは、代替交雑であるMO×GPに由来する2つの形質転換植物でも保存されていた。
【0011】
このように本発明者は、F2集団においてアレルの分離歪みを測定することによって、オオムギにおけるアグロバクテリウム法による形質転換感受性の基礎をなすゲノム領域を世界で初めて同定することに成功した。そして、当該ゲノム領域の存在を指標とすることにより、アグロバクテリウム法による形質転換感受性のオオムギを効率的に作出することが可能であること、及び当該ゲノム領域に結合するオリゴヌクレオチドがアグロバクテリウム法による形質転換感受性のオオムギの検査に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、より詳しくは、以下を提供するものである。
【0013】
[1]ゴールデンプロミスと任意のオオムギ品種を交雑させ、得られた後代において、下記(a)〜(c)の少なくとも1つのゲノム領域の存在を検出し、当該ゲノム領域がホモまたはヘテロでゴールデンプロミス型である個体を選抜することを含む、アグロバクテリウム法による形質転換に対して感受性のオオムギの作出方法。
【0014】
(a)染色体3HにおけるマーカーNIASHv1109O03_00000798_3HとマーカーNIASHv1150F05_00000946_3Hで挟まれたゲノム領域
(b)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2027F11_00000300_2HとマーカーNIASHv2016D11_00000337_2Hで挟まれたゲノム領域
(c)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2108A23_00000279_2HとマーカーFLOUbaf102a14_00001505_2Hで挟まれたゲノム領域
[2]ゴールデンプロミスと任意のオオムギ品種を交雑させ、得られた後代において、下記(a)〜(c)の少なくとも1つのマーカーの存在を検出し、当該マーカーがホモまたはヘテロでゴールデンプロミス型である個体を選抜することを含む、アグロバクテリウム法による形質転換に対して感受性のオオムギの作出方法。
【0015】
(a)染色体3HにおけるマーカーNIASHv1109O03_00000798_3H、マーカーNIASHv1150F05_00000946_3H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
(b)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2027F11_00000300_2H、マーカーNIASHv2016D11_00000337_2H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
(c)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2108A23_00000279_2H、マーカーFLOUbaf102a14_00001505_2H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
[3]下記(a)〜(c)の少なくとも1つのマーカーを挟み込むように設計された一対のオリゴヌクレオチドを含む、オオムギにおいてアグロバクテリウム法による形質転換に対する感受性を検査するための試薬。
【0016】
(a)染色体3HにおけるマーカーNIASHv1109O03_00000798_3H、マーカーNIASHv1150F05_00000946_3H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
(b)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2027F11_00000300_2H、マーカーNIASHv2016D11_00000337_2H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
(c)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2108A23_00000279_2H、マーカーFLOUbaf102a14_00001505_2H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
[4]下記(a)〜(c)の少なくとも1つのマーカーを含むゲノム上の塩基配列にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む、オオムギにおいてアグロバクテリウム法による形質転換に対する感受性を検査するための試薬。
【0017】
(a)染色体3HにおけるマーカーNIASHv1109O03_00000798_3H、マーカーNIASHv1150F05_00000946_3H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
(b)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2027F11_00000300_2H、マーカーNIASHv2016D11_00000337_2H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
(c)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2108A23_00000279_2H、マーカーFLOUbaf102a14_00001505_2H、およびそれらマーカーで挟まれたゲノム領域に存在するマーカーからなる群より選択されるマーカー
【発明の効果】
【0018】
本発明で見出されたゲノム領域を指標としてオオムギ個体の選別を行うことにより、オオムギのアグロバクテリウム法による形質転換効率を増加させることが可能となった。本発明により、これまで形質転換が困難であったオオムギ品種においても、効率的に形質転換体を作出することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】形質転換HN×GP植物のジェノタイプの全体図面である。1番〜60番(図の左から右へ)の形質転換HN×GP植物のジェノタイピングをIllumina GoldenGate(R) assayの384-SNPプラットフォームを用いて実施した。オオムギのゲノム情報(IBGSC 2012)に基づく各染色体におけるマーカー位置(MP)に従って、124のSNPマーカーを示した。はるな二条からのアレル(HN)、ヘテロ領域(HE)、及びゴールデンプロミスからのアレル(GP)をそれぞれライトグレー、ダークグレー、及び黒色で示した。左に示した数値(cM)は、各染色体における末端のマーカー位置を示す。
図2】形質転換HN×GP植物におけるアレル及びSNPマーカーの分離解析したグラフである。アレル分離(A)及びカイ二乗(χ2)値(B-C)は、形質転換HN×GP植物における124のSNPマーカーのジェノタイピングにより計算した。SNPマーカーを、オオムギのゲノム情報(IBGSC 2012)におけるマーカーの順及び遺伝的距離に従って、各染色体における短腕(左)から長腕(右)へと示した。図の下に記載した数値(cM)は、各染色体における末端のマーカー位置を示す。(A)各SNPマーカーに関するゴールデンプロミス(GP)、はるな二条(HN)、及びヘテロ(HE)のアレルの割合を示す。(B)折れ線は、期待される分離比としての1:2:1を用いて計算したχ2値である。点線は、1%及び5%レベルでの統計的有意差を示す(df=2)。(C)折れ線は、[HN+HE]:[GP]及び[GP+HE]:[HN]に関して期待される分離比としての3:1を用いて計算されたχ2値を示す。2つの点線は、それぞれ1%及び5%レベルでの統計的有意差を示す(df=1)。TFAs(TFA1-10)は、分離歪みを示す遺伝子座である。
図3】形質転換HN×GP植物におけるHvNiR遺伝子の遺伝的構造とアレルを示す図と電気泳動写真である。(A)イントロン、開始コドン、及び終始コドンを含むHvNiR遺伝子領域の構造を示す。白色と灰色のくさびは、はるな二条とゴールデンプロミスとの間の、それぞれ1塩基多型(SNPs)及び2塩基以上の挿入/欠失を示す。161bpのレトロトランスポゾン様配列の挿入は、ゴールデンプロミスにおけるHvNiRの第一イントロンに存在していた。(B)形質転換HN×GP植物についてHvNiR特異的プライマーを用いてジェノタイピングを実施した。PCR断片の期待されるサイズは、それぞれはるな二条(H)とゴールデンプロミス(G)のアレルにおける280bpと417bpであった。Mは、100bpのラダーマーカーを示し、1-60は、個々の形質転換HN×GP植物を示す。
図4A】形質転換HN×GP植物における遺伝子座−遺伝子座相互作用の解析の結果を示す図である。(A)HvNiRのGP(上)、HE(中央)、及びHN(下)のアレルを有する形質転換HN×GP植物の間で、ゴールデンプロミス(GP, 黒色)、ヘテロ(HE, ダークグレー)、及びはるな二条(HN, ライトグレー)のアレルの割合を計算し、バンドチャートとして示した。110のSNPマーカーとHvNiR遺伝子マーカーを染色体における短腕(左)から長腕(右)へと示した。TFAs(TFA1-10)は、図2における分離歪みを示す遺伝子座である。マーカーのカイ二乗(χ2)検定(df=2)に基づく色分け図を、各帯グラフの下に示す。
図4B】形質転換HN×GP植物における遺伝子座−遺伝子座相互作用の解析の結果を示す図である。(B)ヒートマップを形質転換HN×GP植物における分離歪みの有意性を表すχ2検定(df=2)のp値に基づいて作成した。マーカー(遺伝子座A)をGP(左パネル)、HE(中央パネル)、及びHN(右パネル)のアレルにグループ分けし、各染色体において短腕(下)から長腕(上)へ縦軸上に整理した。次いで、各染色体において短腕(下)から長腕(上)へ横軸上に整理した全ての他のマーカー(遺伝子座B)につき、χ2検定(df=2)を実施した。有意性の程度を表すp値を打色の度合いで示す。
図5】TFA1、TFA2及びTFA3でのアレルタイプにより分類された形質転換HN×GP植物の頻度を示すグラフである。
図6】提案されるTFAに基づくオオムギの万能相補系の全体図である。標的遺伝子の相補性検定のため、F2植物は、標的遺伝子を持つ目的の品種とゴールデンプロミスとの間の交雑により作出しうる。F2植物の間で、標的遺伝子のホモのみならず、TFA1及びTFA2におけるGPアレル、及びTFA3におけるGP又はヘテロを持つ植物を同定するために、ジェノタイピングを実施し得る。この目的に合う植物は、およそ86のF2植物の間に1つの割合で見出されると推測される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<アグロバクテリウム法による形質転換に対して感受性のオオムギの作出方法>
本発明は、アグロバクテリウム法による形質転換に対して感受性のオオムギの作出方法を提供する。
【0021】
本発明において「アグロバクテリウム法による形質転換」とは、アグロバクテリウム菌を介して植物細胞のゲノムに外来遺伝子を導入し、植物を形質転換する方法を意味する。用いられるアグロバクテリウムとしては、特に制限はないが、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス、アグロバクテリウム・ビチス、アグロバクテリウム・リゾゲネス、またはアグロバクテリウム・ラジオバクターなどが挙げられる。具体的な方法としては、例えば、バイナリーベクター法を好適に用いることができる。
【0022】
本発明の方法においては、まず、ゴールデンプロミスと任意のオオムギ品種を交雑させる。ゴールデンプロミスは、これまでオオムギにおいてアグロバクテリウム法による形質転換を行うための材料として好適に用いられてきたが、本発明者は、当該形質転換を制御する遺伝的因子を含むと考えられるゲノム領域を同定することに成功した。従って、ゴールデンプロミスと任意のオオムギ品種を交雑させ、その後代において、当該ゴールデンプロミス由来のゲノム領域の存在を検出し、当該ゲノム領域が存在した場合、当該後代は、アグロバクテリウム法による形質転換に対して感受性のオオムギである蓋然性が高いと評価することができる。
【0023】
ゴールデンプロミスと交雑させるオオムギ品種としては、交雑可能な限り、特に制限はない。アグロバクテリウム法による形質転換に対する感受性を付与したい、あるいは感受性を高めたい所望のオオムギ品種を用いることができる。オオムギ品種としては、例えば、はるな二条などの二条オオムギが挙げられるが、これらに制限されない。
【0024】
後代としては、特に制限はないが、アグロバクテリウム法による形質転換に感受性のオオムギを効率的に作出するという観点から、好ましくはF2植物である。
【0025】
本発明の方法においては、次いで、得られた後代において、下記(a)〜(c)の少なくとも1つのゲノム領域の存在を検出する。
【0026】
(a)染色体3HにおけるマーカーNIASHv1109O03_00000798_3HとマーカーNIASHv1150F05_00000946_3Hで挟まれたゲノム領域(以下、「第一標的ゲノム領域」と称する)
(b)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2027F11_00000300_2HとマーカーNIASHv2016D11_00000337_2Hで挟まれたゲノム領域(以下、「第二標的ゲノム領域」と称する)
(c)染色体2HにおけるマーカーNIASHv2108A23_00000279_2HとマーカーFLOUbaf102a14_00001505_2Hで挟まれたゲノム領域(以下、「第三標的ゲノム領域」と称する)
上記第一標的ゲノム領域はTFA1を含み、上記第二標的ゲノム領域はTFA2を含み、上記第三標的ゲノム領域はTFA3を含む。
【0027】
本発明においては、上記3つの標的ゲノム領域の少なくとも1つの存在を検出対象とするが、好ましくは2つ、最も好ましくは3つ全てを検出対象とする。また、各標的ゲノム領域全体を検出する必要はなく、その一部を検出しても良い。実際、各標的ゲノム領域において、一部でもゴールデンプロミス型であれば、全体がゴールデンプロミス型である蓋然性が高いことから(後掲の表1〜9)、例え、一部の検出であっても、アグロバクテリウム法による形質転換に対して感受性のオオムギの選抜において有用である。
【0028】
各標的ゲノム領域の存在の検出においては、まず、被験オオムギからDNA試料を調製する。DNAを抽出するためのオオムギとしては、成長した植物体のみならず、種子や幼植物体を用いることもできる。DNA試料を抽出するための組織としては、例えば、葉を利用することができる。オオムギからゲノムDNAを抽出する方法としては特に制限はなく、公知の手法を適宜選択して用いることができ、例えば、SDSフェノール法、CTAB法、アルカリ処理法が挙げられる。また、DNeasy Plant mini kit(QIAGEN, Germany)などの市販のキットを利用することもできる。
【0029】
標的ゲノム領域がゴールデンプロミス型であるか否かの判別においては、マーカーを用いることができる。本発明において「マーカー」とは、ゴールデンプロミスと他のオオムギ品種とを判別しうる染色体上の特定のゲノム領域を意味する。
【0030】
表1〜9に、ゴールデンプロミスとはるな二条との間に見出されたSNPマーカーを示した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
【表7】
【0038】
【表8】
【0039】
【表9】
【0040】
また、各SNPマーカーを含む周辺ゲノム領域の塩基配列を配列番号:1〜190に示した(これらは二本鎖DNAであるが、表中の「配列番号」の欄において、網掛けされている配列番号においては、配列表にアンチセンス鎖が記載されている。一方、網掛けされていない配列番号においては、配列表にセンス鎖が記載されている。)。本発明においては、これらSNPマーカーがゴールデンプロミス型の塩基であることを指標として、上記ゲノム領域の存在を検出することができる(センス鎖側における各SNPの塩基およびゴールデンプロミス型の塩基[2倍体ゲノム]は、表中に示した)。
【0041】
標的ゲノム領域におけるSNPの検出は、SNP部位を含むDNAを単離し、単離したDNAの塩基配列を決定することにより実施することができる。当該DNAの単離は、例えば、SNP部位を挟み込むように設計された一対のオリゴヌクレオチドを用いて、ゲノムDNAを鋳型としたPCR等によって行うことができる。単離したDNAの塩基配列の決定は、サンガー法やマキサムギルバート法など、当業者に公知の方法で行うことができる。
【0042】
SNPを検出する別の方法としては、PCR-SSP(PCR-配列特異的プライマー)法が挙げられる。当該方法においては、プライマーを構成する一対のオリゴヌクレオチドのうちの片方のオリゴヌクレオチドの3’末端がSNP部位の特定の塩基種に相補的な塩基種になるように設計する。このように設計された一対のオリゴヌクレオチドを用いたPCRにより増幅されるのは、SNP部位の特定の塩基種を有するオオムギ品種に由来するゲノムDNAを鋳型にした場合に限られ、SNP部位が異なる塩基種であるオオムギ品種に由来するゲノムDNAを鋳型にした場合は増幅されない。このような増幅の有無を指標として、SNPを検出することができる。
【0043】
SNPマーカー部位に制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を設定できる場合には、それらRFLPマーカーを指標として、例えば、PCR-RFLP法(または、CAPS[Cleaved Amplified Polymorphic Sequence]法)などにより検出することもできる。
【0044】
標的ゲノム領域における、これらマーカーは、ゴールデンプロミスと交雑の対象たる他のオオムギ品種における、各標的ゲノム領域の塩基配列を比較することにより、当業者であれば、適宜設定することができる。なお、各オオムギ品種の塩基配列については、例えば、IPK Barley BLAST Server(http://webblast.ipk-gatersleben.de/barley/)に掲載されている。
【0045】
SNPを検出するためのさらに別の方法としては、PCR-SSCP(PCR-一本鎖高次構造多型)法が挙げられる。SNP部位を挟み込むように設計された一対のオリゴヌクレオチドを用いたPCRにより増幅された2本鎖DNAを、熱やアルカリ等で処理することにより変性させ、1本鎖DNAにした後、変性剤を含まないポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけると、ゲル中で1本鎖DNAは分子内相互作用により折り畳まれ、高次構造を形成する。折り畳まれ構造の相互作用は、塩基種の相違により変化するため、分離した当該1本鎖DNAを銀染色やラジオアイソトープにより検出し、当該1本鎖DNAのゲル上での移動度を指標として、SNPを検出することができる。
【0046】
SNPを検出するさらに別の方法としては、インターカレーターを利用する方法が挙げられる。この方法においては、まず、被験オオムギからDNA試料を調製する。次いで、DNA二重鎖間に挿入されると蛍光を発するインターカレーターを含む反応系において、DNA試料を鋳型として、SNPを含む領域を増幅する。そして、反応系の温度を変化させ、インターカレーターが発する蛍光の強度の変動を検出し、検出した温度の変化に伴う蛍光の強度の変動を指標として、SNPを検出することができる。このような方法としては、高分解融解曲線解析(HRM)法が挙げられる。
【0047】
SNPを検出するさらに別の方法としては、SNPを含む領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブを利用する方法が挙げられる。この方法の一つの態様においては、まず、被験オオムギからDNA試料を調製する。一方で、SNPを含む領域に特異的にハイブリダイズし、レポーター蛍光色素及びクエンチャー蛍光色素が標識されたオリゴヌクレオチドプローブを調製する。そして、DNA試料に、オリゴヌクレオチドプローブをハイブリダイズさせ、さらにオリゴヌクレオチドプローブがハイブリダイズしたDNA試料を鋳型として、SNP部位を含むDNAを増幅する。そして、増幅に伴うオリゴヌクレオチドプローブの分解により、クエンチャーによる抑制が解除されたレポーター蛍光色素が発する蛍光を検出する。このような方法としては、ダブルダイプローブ法、いわゆるTaqMan(登録商標)プローブ法が挙げられる。
【0048】
レポーター蛍光色素及びクエンチャー蛍光色素が標識されたオリゴヌクレオチドプローブを利用する他の態様としては、SNP部位を含む領域に特異的にハイブリダイズするキメラオリゴヌクレオチド(RNAとDNAのキメラ)とRNase Hなどの酵素との組み合わせを利用するサイクリングプローブ法を利用することもできる。
【0049】
本発明におけるマーカーの検出は、上記実施態様に限定されるものではない。例えば、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE法)、インベーダー法、パイロシークエンシング法、シングルヌクレオチドプライマー伸長(SNuPE)法、アレル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)ハイブリダイゼーション法、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法、DNAアレイ法などの、その他の公知の技術も、本発明において利用しうる。
【0050】
なお、本実施例で対象としたSNPマーカーの検出においては、例えば、Illumina GoldenGate(R) oligonucleotide pool assays(Close, T.J. et al., (2009) BMC Genomics, 10, 1-13.)の384-SNPプラットフォームを利用することもできる。
【0051】
本発明の方法においては、次いで、標的ゲノム領域がホモまたはヘテロでゴールデンプロミス型である個体を選抜する。図5から明らかなように、標的ゲノム領域がホモでゴールデンプロミス型である個体のみならず、ヘテロでゴールデンプロミス型である個体も、ホモではるな二条型である場合と比較して、アグロバクテリウム法による形質転換に感受性である蓋然性が高い。本発明においては、好ましくは、3つの標的ゲノム領域のうち、2以上がホモまたはヘテロでゴールデンプロミス型である個体を選抜し、より好ましくは3つ全てがホモまたはヘテロでゴールデンプロミス型である個体を選抜する。
【0052】
最も好ましい態様においては、第一標的ゲノム領域と第二標的ゲノム領域がホモでゴールデンプロミス型であり、かつ、第三標的ゲノム領域がホモまたはヘテロでゴールデンプロミス型である個体を選抜する(図6)。これによりアグロバクテリウム法による形質転換に感受性の個体を効率的に選抜することができる。
【0053】
<アグロバクテリウム法による形質転換に対する感受性を検査するための試薬>
本発明は、オオムギにおいてアグロバクテリウム法による形質転換に対する感受性を検査するための試薬を提供する。
【0054】
本発明の試薬の一つの態様は、上記マーカーを挟み込むように設計された一対のオリゴヌクレオチドを含む。このようなオリゴヌクレオチドは、例えば、プライマーとして、上記マーカーを含むゲノム領域を増幅するために用いることができる。ここで「挟み込むように設計された」とは、一対のオリゴヌクレオチドによる増幅産物がマーカー部位を含むように、当該オリゴヌクレオチドが設計されていることを意味する。従って、例えば、当該オリゴヌクレオチドをSNPの検出に用いる場合、検出法によっては、当該一対のオリゴヌクレオチドのうち、いずれか一方のオリゴヌクレオチドは、SNPの塩基配列に相補的な塩基配列を含んでいてもよい。
【0055】
本発明の試薬の他の一つの態様は、上記マーカーを含むゲノム上の塩基配列にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む。このようなオリゴヌクレオチドは、例えば、プローブとして、上記マーカーを含むゲノム領域を検出するために用いることができる。当該オリゴヌクレオチドは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下において、マーカー部位に特異的にハイブリダイズするものが好ましい。当該オリゴヌクレオチドは、適宜、蛍光色素、アイソトープ、ビオチン等によって標識して用いてもよい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5’端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、及びクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素又はビオチンなどによって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0056】
上記オリゴヌクレオチド(プライマーおよびプローブ)の鎖長は、少なくとも15塩基である。通常は、15〜100塩基であり、好ましくは17〜30塩基である。当該オリゴヌクレオチドは、例えば、市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。オリゴヌクレオチドプローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。また、上記オリゴヌクレオチドは、天然のヌクレオチド(DNAやRNA)のみから構成されていなくともよく、非天然型のヌクレオチドにてその一部又は全部が構成されていてもよい。非天然型のヌクレオチドとしては、例えば、PNA(polyamide nucleic acid)、LNA(登録商標、locked nucleic acid)、ENA(登録商標、2'-O,4'-C-Ethylene-bridged nucleic acids)が挙げられる。
【0057】
本発明の試薬においては、有効成分であるオリゴヌクレオチド以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[材料と方法]
(1)植物材料
ハイブリッドF1オオムギ植物(HN×GP又はMO×GP)は、種子親は、それぞれはるな二条(HN)又はモレックス(MO)に由来し、花粉親はゴールデンプロミス(GP)に由来する。植物は、24時間サイクル当たり16時間の日照下、15℃/13℃(昼/夜)で生育させた。およそ受粉の14日後に、未熟胚を単離するために穀果を収穫した。
【0060】
(2)アグロバクテリウム法による形質転換
オオムギの形質転換をHenselら(Hensel, G. et al., (2008) J. Plant Physiol., 165, 71-82)のプロトコールに従って実施した。切断した未熟胚を、Hieiら(Hiei, Y. et al., (2006) Plant Cell Tiss. Org. Cult., 87, 233-243.)及びZhengら(Zheng, L. et al., (2011) Plant Cell Physiol., 52, 765-774.)に従い、アグロバクテリウムの接種前に、43℃で4分、100mg/lのアセトリシリゴン溶液に浸した。beta-glucuronidase(GUS)遺伝子及びhygromycin phosphotransferase(HPT)遺伝子を有するバイナリーベクターpIG121-Hm(Hiei, Y. et al., (1994) Plant J., 6, 271-282.)を保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1を接種に使用した。
【0061】
(3)PCRによるDNA解析
ゲノムDNAをDNeasy Plant mini kit(QIAGEN, Germany)を用いてオオムギ植物の葉から抽出した。PCR増幅は、次のプログラムで実施した。95℃、2分で初期変性、「95℃、30秒で変性、55℃(GUS遺伝子に関して)又は60℃(HPT遺伝子に関して)で30秒のアニーリング、72℃、30秒の伸長」を28サイクル(72℃、10分の最終伸長を伴う)。PCRのための10μlの反応混合物は、鋳型として50ngのゲノムDNA、1×GoTaq(R) Green Master Mix(Promega, USA)、及び0.5μMの以下の各特異的プライマーを含む。
【0062】
GUS遺伝子に対して、gus4(5’-AACAGTTCCTGATTAACCACAAACC-3’/配列番号:191)及びgus5(5’-GCCAGAAGTTCTTTTTCCAGTACC-3’/配列番号:192)、及びHPR遺伝子に対してhph1(5’-GCTGGGGCGTCGGTTTCCACTATCGG-3’/配列番号:193)及びhph2(5’-CGCATAACAGCGGTCATTGACTGGAGC-3’/配列番号:194)。
【0063】
(4)HvNiR遺伝子のクローニング
HvNiR遺伝子(それぞれGP及びHNに関して、Acc. No. LC097010及びLC097011)をクローニングするために、次のプログラムでPCR増幅を実施した。98℃、2分で開始変性、「98℃、10秒で変性、55℃、15秒でプライマーアニーリング、及び72℃、150秒で伸長」を30サイクル(72℃、10分の最終伸長を伴う)。PCRのための30μlの反応混合物は、鋳型として50ngのはるな二条又はゴールデンプロミスのゲノムDNA、1×PrimeSTAR(R) Max DNA Polymerase (TAKARA, Japan)、並びに0.5μMの特異的プライマーHvNiR-F1(5’-AACCACAAGCAGCATCCATG-3’/配列番号:195)及びHvNiR-R1(5’-GAGATCATCAGGAGAAGGAG-3’/配列番号:196)を含む。PCR産物は、pCRTM4-TOPO(R)(Invitrogen, USA)にクローニングし、TOPO(R) TA Cloning(R) Kit for Sequencing(Invitrogen, USA)を用いて製造業者のプロトコールに従って配列決定した。
【0064】
(5)ジェノタイピング
製造業者のプロトコールに従いDNeasy Plant mini kit(QIAGEN, Germany)にて抽出したゲノムDNAを用いて作出した全ての形質転換植物のジェノタイピングに、Illumina GoldenGate(R) oligonucleotide pool assays(Close, T.J. et al., (2009) BMC Genomics, 10, 1-13.)の384-SNPプラットフォームを採用した。
【0065】
HvNiR遺伝子マーカーを用いたジェノタイピングのために、PCR増幅を改良したタッチダウンPCRプログラム(Don, R.H. et al., (1991) Nucleic Acids Res., 19, 4008.)を用いて実施した。95℃、2分で開始変性、「95℃、30秒で融解、65℃(サイクル毎に1℃減少)、20秒でアニーリング、及び72℃、30秒で伸長」を10サイクル、「95℃、10秒の変性、55℃、20秒のアニーリング、及び72℃、30秒で伸長」を20サイクル(72℃、10分の最終伸長を伴う)。PCRのための10μlの反応混合物は、鋳型として50ngのゲノムDNA、1×GoTaq(R) Green Master Mix、並びに0.5μMの特異的プライマーHvNiR-GPspeF(5’-CCCGCATGCATATCCCATAG-3’/配列番号:197)及びHvNiR-GPspeR(5’-CCCGGACTAGTCCAAGATAC-3’/配列番号:198)を含む。PCR産物は、TBE running buffer中、1.5%アガロースゲル(Wako, Japan)を用いた電気泳動で解析した。
【0066】
(6)歪んだ分離の検出
カイ二条(χ2)検定を実施した。推定優性比の3:1又は1:3(df=1)のみならず、帰無仮説に関して期待されるメンデル比の1:2:1(df=2)を用いて、有意な分離歪みを示すゲノム領域を同定した。Microsoft(R) Excel(R)を全ての計算、チャート、及び色分け図のために用いた。
【0067】
[結果]
(1)形質転換HN×GP植物の作出
以前、本発明者は、GPとHNの間の交雑(形質転換のための外植体としてのHNへ3回に渡る戻し交雑を伴う)から生じたBC3F8P組換え染色体置換系統の未熟胚の使用を試みたが、何らの形質転換植物は得られなかった。
【0068】
ここでは、HNとGPの間の交雑(HN×GP)から生じたF2未熟胚を、GUS(β-glucuronidase)およびHPT(Hygromycin PhosphoTransferase)の遺伝子を有するバイナリーベクターpIG121-Hmを保持するアグロバクテリウム・ツメファシエンス株AGL1で接種した(Hiei, Y. et al., (1994) Plant J., 6, 271-282.)。3,030の未熟胚から、誘導/選抜培地上での選抜後、293のハイグロマイシン耐性カルスが観察された。再生培地上でこれらのカルスの64個から緑色シュートが再生された。全体で60の独立した植物から、再生培地上で健康な根が生じ、それらをポットに移植し、制御された環境で成長させた。60の候補植物の葉からDNAを単離し、次いで、ジェノタイピングとPCR解析に用いた。このPCR解析において、全ての60の候補植物がGUSとHPTのトランスジーンに関してPCR陽性であった。トランスジーンの組み込みを示すこれらのデータは、全ての60の候補が、アグロバクテリウム法による形質転換を許容するGPからの遺伝的因子を保持していることを示唆した。
【0069】
(2)形質転換HN×GP植物のSNPマーカー解析
60の形質転換HN×GP植物のジェノタイプを、オオムギオリゴヌクレオチドプール解析1(Close, T.J. et al., (2009) BMC Genomics, 10, 1-13.)由来の384-SNP Illumina GoldenGate(R) プラットフォームの124マーカーのサブセットを用いて決定した。
【0070】
本解析における全てのマーカーの遺伝的位置は、コンセンサス遺伝子地図(Close, T.J. et al., (2009) BMC Genomics, 10, 1-13.)から得ることができる。形質転換HN×GP植物のジェノタイピングデータは、上記表1〜9に示し、各染色体におけるマーカーの順序に基づくジェノタイプは、図1に示した。各形質転換HN×GP植物は、独特なジェノタイプを持っていたが、この事実は、これら60の植物が独立した形質転換事象から生じたことを示唆する。
【0071】
(3)アレル頻度と分離歪み解析
アレル頻度は、ジェノタイピングデータに基づいて計算し、対応する染色体にマッピングした(図2A)。メンデルの独立の法則は、GPのホモ、ヘテロ、HNのホモというアレルが、1:2:1の比で分離することを予言する。GPアレルは、染色体2Hにおけるマーカー2580-1456(位置: 55.0cM)と3256-1196(120.8cM)の間の領域及び染色体3Hにおける4105-1417(46.3cM)と8020-87(88.8cM)の間の領域において、40%を超える頻度を示した(図2A)。
【0072】
形質転換のための選抜により生じた分離歪みを同定するために、カイ二乗(χ2)検定を用いた(図2B及び2C)。予測されたメンデル比(HN:HE:GP=1:2:1)に関するχ2値をオオムギゲノム上のマーカー位置でプロットした(図2B)。最大のχ2値は52.1であり、これは染色体3Hにおけるマーカー4105-1417を伴っていた。一方、4105-1417(46.3cM)と8020-87(88.8cM)の間の周辺領域は、統計的に有意な分離歪みを示した(df=2, p<0.01)。本発明者は、この領域をTFA1(TransFormation Amenability 1)と命名した。有意な分離歪みを持つ他の領域が染色体2H上の2580-1456(55.0cM)と3256-1196(120.8cM)の間に観察された(df=2, p<0.01)。この領域は、マーカー6117-1507(82.8cM, χ2=22.9)と7576-818(117.9cM, χ2=13.6)を伴う2つのピークを含んでおり、これらの遺伝子座をそれぞれTFA2、TFA3と命名した。これらの領域における増加したGPアレルの頻度は、GPにおける形質転換効率に関わる因子がそこに存在していることを示唆した。興味深いことに、増加したHNアレルの頻度が、染色体5Hにける8377-1022(30.99cM)と4684-775(34.25cM)の間に観察され、TFA4と命名した。有意な分離歪みを伴う遺伝子座のχ2値を表1〜9にまとめた。
【0073】
同定された遺伝子座の優性の方向性を試験するために、χ2検定において優性分離比(3:1)を用いた(図2C)。GPアレルが機能的に劣性([HN+HE]:[GP]=3:1)であるという仮定の下、TFA1、TFA2、及びTFA3に加え、有意な歪みを示す領域やマーカーが、染色体2Hにおけるマーカー1865-396(21.6cM)と7032-201(29.2cM)の間に、染色体3Hにおける7818-967(150.4cM)に、及び染色体4HにおけるABC14522-1-8-350(5.5cM)と2055-947(21.6cM)の間に観察された。これら追加された遺伝子座は、それぞれTFA5、TFA6、及びTFA7と命名した(図2Cの折れ線)。一方、GPアレルが優性([GP+HE]:[HN]=3:1)であるという仮定の下、TFA1、TFA3、及びTFA4と並んで、染色体4Hにおける4986-1214(84.3cM)と4564-604(87.5cM)の間、染色体5HにおけるConsensusGBS0451-1(155.1cM)、染色体6HにおけるConsensusGBS0346-1(12.5cM)と1769-545(17.0cM)の間の遺伝子座が同定された。これらの新しい遺伝子座は、それぞれTFA8、TFA9、及びTFA10と命名した(図2C)。興味深いことに、TFA2のχ2値は、[HN+HE]:[GP]=3:1の下で有意な分離歪みを示したが、GP優性条件の下では有意ではなかった。
【0074】
(4)HvNiR遺伝子のクローニングとジェノタイピング
イネのNirのオオムギオルソログが形質転換効率に関与しているか否かを試験するために、本発明者は、HNとGPの間の比較のために、これら2つの栽培品種からNiRオルソログを単離した。予想された開始コドンと終始コドンを含む推定HvNiR遺伝子は、HNでは2,965bpで、GPでは3,097bpであった。HNとGPにおけるHvNiR遺伝子の解析により4つのエキソンと3つのイントロンが明らかとなり、HNとGPの間のDNA配列の比較により、イントロンにおける14のSNPsとエキソンにおける3つの同義置換SNPsが見出された(図3A)。加えて、HNアレルは第一イントロンにおいて7bpと23bpの挿入を保持していた一方、GPアレルは第一イントロンにおいてレトロトランスポゾン様配列に相同な161bpの挿入を保持していた(図3A)。これらの相違にも拘わらず、HN及びGPにおけるHvNiRの予想されるアミノ酸配列は同一であった。
【0075】
HvNiRの第一イントロンにおける挿入が形質転換効率に関係しているか否かを探るべく、ジェノタイピングのためのGP特異的な161bpの挿入をまたぐ領域を増幅する共優性配列タグ部位(STS)マーカーを設計し、60の形質転換HN×GP植物からのDNAを用いてSTS解析を行った。アレルの解析により、分離比12:37:11(HN:HE:GP)が明らかとなり、これは分離歪みのない単因子のメンデル比(図3B, 1:2:1比でχ2=3.3)に適合する。
【0076】
(5)ゲノムワイドな遺伝子座−遺伝子座相互作用
通常、遺伝子座−遺伝子座相互作用の解析には、対立する特性(例えば、与えられたストレスに対する抵抗性 vs 耐性)を持つ集団が用いられる。本発明者は、形質転換効率をマップするための形質転換植物を開発しているが、いずれの系統も形質転換感受性であるため、本発明者の集団には選択バイアスがあり、標準的なソフトウェアは、遺伝子座−遺伝子座相互作用を検出するために役立たない。形質転換HN×GP植物における遺伝子座−遺伝子座相互作用を解析するために、本発明者は、単一マーカーのアレルタイプによりジェノタイプをグループ分けし、その後、最初のマーカーに関係のある他のマーカーの分離比とχ2値を計算した。例えば、HvNiR遺伝子座を用いて、HvNiRにおけるアレルに基づき、HN×GP植物を、GPに関する11植物のグループ、HEに関する37植物のグループ、HNに関する12植物のグループに分け(それぞれ、図4Aにおける上、中央、下のパネル)、その後、他の遺伝子座のそれぞれにおけるアレルの比(バンドチャート)とχ2検定のp値(ヒートマップ, df=2)を比較した。HvNiRは、染色体6Hの長腕上に存在しているため、この領域のアレルの頻度はHvNiRの頻度と一致した。染色体2H上では、GP-及びHN-タイプのHvNiRグループにおけるTFA2周辺に、GPアレルに偏向した歪みが観察されたが、これはHE-タイプグループには観察されなかった(図4A)。TFA3周辺もまた、GP及びHEアレルがHN-及びHE-タイプのHvNiRグループにおいて優性であったが、GPタイプのグループでは優性ではなかった。興味深いことに、GP-タイプのHvNiR植物の間では、TFA1周辺に分離歪みはなかった。さらなる分離歪みは、GP-タイプのHvNiR植物における染色体4Hの長腕上にも観察された(図4A)。
【0077】
上記の方法を用いて、全ての非冗長なマーカー(全部で111)のχ2検定を形質転換HN×GP植物において行った。最初に、本発明者は、一つの遺伝子座(遺伝子座A)と他の遺伝子座(遺伝子座B)の間のアレルの組み合わせの数を計算し(例えば、遺伝子座A-Bに関してGP-HN)、その後、遺伝子座Aの各タイプのアレルの間における、遺伝子座Bの歪みに関するχ2値(df=2)を計算した。図4Bは、縦軸上の遺伝子座Aに対する横軸上の遺伝子座Bの有意な分離歪みを表す、P値の色分け図であり、GP(左パネル)、HE(中央パネル)、及びHN(右パネル)の各アレルの場合に分けている。分離歪みが、ほとんどすべてのマーカーに対して、遺伝子座BとしてのTFA1周辺において観察された。但し、HN×GP植物がGPアレルを持つHvNiRを含む染色体6Hの領域では、分離の歪みは観察されなかった(図4Bの左パネル)。この染色体6Hの領域にGPアレルを持つ植物は、TFA2のみならず、染色体4Hの長腕において分離歪みを示した(図4Bの左パネル)。これらの遺伝子座は別として、主要な分離歪みが、遺伝子座AとしてのGPアレルマーカーを伴う場合において、1H-4H、2H-7H、3H-7H、4H-5H、7H-2H、及び7H-4Hで観察された(図4Bの右パネル)。HN×GP植物における遺伝子座AとしてHNアレルマーカーを伴う場合において、分離歪みは、TFA1に加えて、1H-2H、1H-5H、2H-6H、3H-2H、6H-2H及び7H-2Hで観察された(図4Bの右パネル)。特に、遺伝子座Aとしての染色体6Hと7HにおけるHNアレルを伴う植物では、遺伝子座Bとしての染色体2Hにおける広範囲な分離歪みを示した。
【0078】
(6)代替交雑による形質転換感受性に関する遺伝的因子の検証
オオムギにおける形質転換の重要な遺伝的因子として、TFAs、特に、TFA1、TFA2、及びTFA3を検証するために、本発明者は、モレックス(MO)とゴールデンプロミスの交雑(MO×GP)に由来するF2未熟胚に対してアグロバクテリウム法による形質転換を行った。
【0079】
具体的には、「Morex」と「Golden Promise」の交雑第一世代(F1)個体の未熟胚(F2世代)にアグロバクテリウムの感染実験を行った。アグロバクテリウムを感染させた未熟胚は、3日間の共存培養を行い、7日間は抗生物質が入っていない培地に置床して無選抜培養した。その後ハイグロマイシンを含む選抜培地にて耐性カルスの選抜を行った。選抜は、14日間を2回(計28日間)行った。明らかに増殖したカルスのみを再分化培地に継代した。14日毎に新しい再分化培地に継代し、42日後に再分化しなかったカルスは破棄した。再分化したシュートは、ホルモンフリー培地に移して発根させ、鉢上げした。1,722の未熟胚からの2つの独立した形質転換MO×GP植物が得られ、GoldenGate(R)プラットフォームを用いてジェノタイピングした。その結果を表10〜12に示す。
【0080】
【表10】
【0081】
【表11】
【0082】
【表12】
【0083】
TFA1、TFA2、及びTFA3の各領域では、双方の植物において、ホモGPとヘテロのジェノタイプに対応していた。これらの事実は、TFA1,TFA2、及びTFA3のGPアレルが、オオムギの代替ハプロタイプにおける形質転換に有効であることを確認するものである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明で見出された形質転換感受性に関与するゲノム領域を指標としてオオムギ個体の選別を行うことにより、あらゆるオオムギ品種の形質転換効率を増加させることが可能となる。従って、本発明は、特に、オオムギの育種に大きく貢献しうるものである。
【配列表フリーテキスト】
【0085】
配列番号1〜190
<223> SNP
配列番号191〜198
<223> プライマー配列
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]