特許第6876369号(P6876369)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876369
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20210517BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20210517BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20210517BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20210517BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210517BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20210517BHJP
【FI】
   H01M10/052
   H01M10/0567
   H01M10/0568
   H01M10/0569
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-6640(P2016-6640)
(22)【出願日】2016年1月15日
(65)【公開番号】特開2017-126542(P2017-126542A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2018年10月4日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 好洋
(72)【発明者】
【氏名】勝山 裕大
(72)【発明者】
【氏名】水野 弘行
【審査官】 川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−064983(JP,A)
【文献】 特表2015−522924(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/057968(WO,A1)
【文献】 特開2017−084675(JP,A)
【文献】 特開2014−072071(JP,A)
【文献】 特許第5817009(JP,B1)
【文献】 特開2015−162421(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0258357(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含有する正極、
負極活物質を含有する負極、及び
非水電解液(ただし、下記化学式(a)で表されるピリジン系化合物を含むものを除く。)を備えたリチウムイオン二次電池であって、
【化1】
(a)
上記非水電解液は、下記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩を0.5mol/L以上1.5mol/L以下含み、
【化2】
(1)
(一般式(1)中、Rは、フッ素又は炭素数1〜6のフッ化アルキル基を表す)
上記正極活物質は、下記一般式(2)
LiNixMnyCo(1−x−y)2 (2)
(一般式(2)中、0.9≦a≦1.1、0.6≦x<1、0<y<0.35、0<(1−x−y)<0.3)
で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
上記非水電解液は、下記一般式(3)で表される化合物、下記一般式(4)で表される化合物、および六フッ化砒酸リチウムよりなる群から選択される少なくとも一種の、上記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩とは異なる他の電解質塩をさらに含み、
LiPF(C2m+16−l(0≦l≦6、1≦m≦4) (3)
LiBF(C2o+14−n(0≦n≦4、1≦o≦4) (4)
上記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩濃度と上記他の電解質塩濃度とのモル比が1:0.25〜1:1であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
上記非水電解液が、カーボネート系溶媒を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池に関し、詳細には非水電解液を含むリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、スマートフォンやパーソナルコンピューター用の電源、さらには自動車用電源として用いられている。これらの用途に使用される電池では、高出力化、高エネルギー密度化、サイクル特性やレート特性の改善といった各種特性の向上を目的とした研究が重ねられている。またリチウムイオン二次電池は、用途拡大に伴って常温環境下だけでなく、高温環境下での使用も多くなっているため、高温環境下での特性の向上も求められている。
【0003】
従来からリチウム遷移金属複合酸化物やリチウム遷移金属リン酸化合物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池として注目されている。しかしながら遷移金属は電解液との分解反応によって放電特性が低下するなど様々な問題があり、所望の電池特性を向上させるために様々な技術が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、常温下における放電特性を改善する技術として、リチウム遷移金属複合酸化物を用いた正極活物質の表面に希土類化合物を被覆させた技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、負荷特性と初回充放電効率を改善する技術として、正極活物質にリチウム遷移金属複合酸化物を用いると共に、非水電解質塩としてリチウム塩濃度を2〜7mol/Lとすると共に、ニトリル系溶媒等を含有させた技術が開示されている。
【0006】
また特許文献3には、高温保存後の交流インピーダンスや出力特性を改善する技術として、正極活物質にリチウム遷移金属複合酸化物を用いると共に、特定の化合物を電解液中に含有させる技術が開示されている。
【0007】
更に特許文献4には、高温保存時の熱的安定性及び電池特性を向上させる技術として、リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いると共に、非水電解液にジスルホン酸エステルを0.05〜0.5質量%、不飽和結合を有するカーボネートを0.2〜1.5質量%含有させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−072071号公報
【特許文献2】特開2015−056241号公報
【特許文献3】特開2012−190699号公報
【特許文献4】特開2015−90857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
リチウムイオン二次電池の用途、及び要求特性は多岐にわたっており、また要求特性に応じて正極活物質や非水電解液の組成を適切に制御する必要がある。リチウムイオン二次電池は低温環境下での使用も想定されるが、上記従来技術では低温環境下でのレート特性は十分でなかった。特にエネルギー密度を高めるために正極活物質中のNi比率を増加させると、低温環境下では内部抵抗が上昇してレート特性が低下するという問題が生じていた。
【0010】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は正極活物質中のNi比率を高めても優れた低温レート特性を有するリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し得た本発明のリチウムイオン二次電池は、正極活物質を含有する正極、負極活物質を含有する負極、及び非水電解液を備えたリチウムイオン二次電池であって、上記非水電解液は、下記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩(以下、「フルオロスルホニルイミド塩(1)」ということがある)を0.2mol/L以上含み、
【0012】
【化1】
(1)
(一般式(1)中、Rは、フッ素又は炭素数1〜6のフッ化アルキル基を表す)
上記正極活物質は、下記一般式(2)
LiNixMnyCo(1−x−y)2 (2)
(上記式中、0.9≦a≦1.1、0.55≦x<1、0<y<0.45、0<1−x−y<0.45)
で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むことに要旨を有する。
【0013】
本発明を実施するにあたって上記非水電解液は、下記一般式(3)で表される化合物、下記一般式(4)で表される化合物、および六フッ化砒酸リチウムよりなる群から選択される少なくとも一種の電解質塩を含むものであることも好ましい実施態様である。
LiPFl(Cm2m+16-l(0≦l≦6、1≦m≦4) (3)
LiBFn(Co2o+14-n(0≦n≦4、1≦o≦4) (4)
【0014】
また上記非水電解液が、カーボネート系溶媒を含むことも好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極活物質として所定の金属元素比のLiNiMnCoO2を用いると共に、所定量のフルオロスルホニルイミド塩(1)を含む非水電解液を用いているため、正極活物質中のNi比率を高めても低温環境下で優れたレート特性を有するリチウムイオン二次電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
低温レート特性を改善するために、正極の合材層を薄膜化して内部抵抗を低減させることも考えられるが、薄膜化すると電池の活物質量も少なくなって電池容量自体が減少するという問題がある。またエネルギー密度の増大を図るために正極活物質のNi含有量を高くすると、LiBF4、LiPF6、LiAsF6など公知の電解質塩の濃度や組み合わせを替えても低温レート特性は改善せず、例えば−10℃の環境下では放電容量が30%未満の低い値しか得られないことがわかった。その原因はNi含有量が高くなると電池抵抗が悪化する傾向があり、特に低温においてこの傾向が顕著になるため低温レート特性が低下すると考えられる。
【0017】
そこで本発明者らは、リチウムイオン二次電池の低温環境下でのレート特性を改善する技術について検討を重ねた。その結果、所定の金属元素比で構成されたLiNiMnCoO2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質と、上記フルオロスルホニルイミド塩(1)を0.2mol/L以上含む非水電解液を用いることで低温レート特性を改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
本発明において上記効果が得られる理由は、フルオロスルホニルイミド塩(1)を含む電解液のバルクのイオン電導度が高いだけでなく、正極活物質表面にフルオロスルホニルイミド塩(1)分解物を含むイオン電導度の高い被膜が形成され界面抵抗が低くなるため、従来公知の電解質塩では困難な低抵抗化を達成できたと考えられる。このような効果は所定量の金属元素比で構成されたリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質と、所定量のフルオロスルホニルイミド塩(1)を含む非水電解液を用いる相乗効果によって初めて得られるものである。具体的には正極活物質として金属元素比を適切に制御したLiNiMnCoO2を用いることで、低温環境下における該正極活物質に起因する電池抵抗の上昇とエネルギー密度向上のバランスが図れると共に、イオン伝導度向上効果を有するフルオロスルホニルイミド塩(1)を非水電解液に所定量含ませることによって、上記正極活物質を用いた場合に低抵抗化が図れる。以下、本発明のリチウムイオン二次電池について説明する。
【0019】
1.リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な正極活物質を含有する正極、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含有する負極、及び非水電解液を有する。より詳細には、正極と負極との間にはセパレーターが設けられており、非水電解液は上記セパレーターに含浸された状態で、正極、負極等と共に外装ケースに収容されている。
【0020】
本発明に係るリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されず、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等、従来公知の形状はいずれも使用することができる。また、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に搭載するための高電圧電源(数10V〜数100V)として使用する場合には、個々の電池を直列に接続して構成される電池モジュールとすることもできる。
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池は、満充電電圧が好ましくは3.5V以上25℃以下の低温条件下での駆動に特に適したものである。上記構成を有することにより、好ましくは0℃以下、より好ましくは−10℃以下であって、好ましくは−30℃以上、より好ましくは−20℃以上の低温下、高電圧状態(好ましくは3.5V以上、5V以下)で優れた低温レート特性が得られる。なお、満充電電圧が高いほど高い電圧でリチウムイオン二次電池を駆動させられるためエネルギー密度を高めることはできるが、高すぎると安全性を確保し難い場合がある。よって、満充電電圧の範囲はより好ましくは4.0V以上、更に好ましくは4.2V以上であって、好ましくは4.9V以下、更に好ましくは4.7V以下である。
【0022】
2.正極
正極は、正極活物質、導電助剤及び結着剤等を含む正極合剤が正極集電体に担持されてなるものであり、通常、シート状に成形されている。
【0023】
2−1.正極集電体
正極集電体の材料としては特に限定されず、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼(SUS)、チタン等の導電性金属が使用できる。中でも、アルミニウムは薄膜に加工し易く、安価であるため好ましい。
【0024】
2−2.正極活物質
本発明において正極活物質は、LiaNixMnyCoz2(0.9≦a≦1.1、0.55≦x<1、0<y<0.45、0<1−x−y<0.45)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む。本発明ではエネルギー密度向上と低温レート特性の向上を考慮してLi、Ni、Mn、及びCoの比率を適切に制御する必要がある。なお、正極活物質は所定の金属元素比で構成されたLiNiMnCoO2を含んでいれば残部は特に限定されず、例えば不可避不純物で構成されていてもよいし、低温レート特性を阻害しない範囲で、必要に応じてリチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などを含んでもよい。例えば、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム鉄リン酸化合物などが挙げられる。
【0025】
Li:a=0.9〜1.1
Liは所定の範囲であれば低温レート向上に有効に作用するが、Liが多くなりすぎたり(aが1.1超)、少なすぎると(0.9未満)活物質の結晶構造が不安定となるため、Li比率は0.9以上、1.1以下とした。好ましいLi比率は1.0以上であり、より好ましくは1.0である。
【0026】
Ni:x=0.55以上〜1未満
Niはエネルギー密度向上元素であり、エネルギー密度向上効果を考慮するとNiは0.55以上、好ましくは0.58以上、更に好ましくは0.6以上である。本発明では上記フルオロスルホニルイミド塩(1)と組み合わせることでNi比率を高くしても電気抵抗の上昇を抑制して優れた低温レート特性が得られる。Ni比率を高めることでエネルギー密度向上効果が得られるため上限は限定されないが、MnとCoを必要量含有させるためには、Ni比率は1未満、好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.85以下である。
【0027】
Mn:y=0超〜0.45未満
Mnは充電時の結晶の安定性に優れた元素であり、こうした効果を発揮させるためにMn比率は0超、好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上である。一方、Mnが多くなりすぎると充電時の正極電位が低くなりエネルギー密度向上効果が得られなくなるため、Mn比率は0.45未満、好ましくは0.35以下、更に好ましくは0.3以下である。
【0028】
Co:(1−x−y)=0超〜0.45未満
Ni及びMnとの関係で高密度化と結晶安定性を図る観点からCo比率は(1−x−y)とすればよい。なお、Coは正極の高容量化に寄与する元素であり、Co比率は0超、好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上とするのが望ましい。一方、Coは高価であり多くなりすぎると経済的に不利となるため、Co比率は0.45未満、好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.25以下である。
【0029】
正極活物質は具体的には、LiNi0.6Mn0.2Co0.22、LiNi0.8Mn0.1Co0.12などが例示される。
【0030】
2−3.導電助剤
導電助剤はリチウムイオン二次電池を高出力化するために用いられるものであり、導電助剤としては、主に導電性カーボンが用いられる。導電性カーボンとしては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、金属粉末材料、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相法炭素繊維等が挙げられる。
【0031】
導電助剤を用いる場合、正極合剤中の導電助剤の含有量としては、正極合剤100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であって、好ましくは10質量%以下である。導電助剤が少なすぎると、導電性が極端に悪くなり、負荷特性及び放電容量が劣化する虞がある。一方、多すぎると正極合剤層のかさ密度が高くなり、結着剤の含有量をさらに増やす必要があるため好ましくない。
【0032】
2−4.結着剤
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、メチルメタクリレートブタジエンゴム、クロロプレンゴム等の合成ゴム;ポリアミドイミド等のポリアミド系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリアクリルアミド、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル系樹脂;ポリアクリル酸;メチルセルロース、エチルセルロース、トリエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アミノエチルセルロース等のセルロース系樹脂;エチレンビニルアルコール、ポリビニルアルコール等のビニルアルコール系樹脂;等が挙げられる。これらの結着剤は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。また正極の製造時、これらの結着剤は、溶媒に溶けた状態であっても、溶媒に分散した状態であっても構わない。
【0033】
上記結着剤を用いる場合、正極合剤中の結着剤の含有量としては、正極合剤100質量%に対して好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であって、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9質量%以下、更に好ましくは8質量%以下である。結着剤が少なすぎると良好な密着性が得られず、正極活物質や導電助剤が集電体から脱離してしまう虞がある。一方、多すぎると内部抵抗の増加を招き電池特性に悪影響を及ぼしてしまう虞がある。
【0034】
導電助剤及び結着剤の含有量は、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視等)、イオン伝導性等を考慮して適宜調整することができる。
【0035】
正極を製造するに際して、正極活物質組成物に用いられる溶媒としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、燐酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、燐酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、及び水等が挙げられ、例えば、N−メチルピロリドン、ヘキサメチル燐酸トリアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、アセトン、エタノール、酢酸エチル等が挙げられる。これらの溶媒は組み合わせて使用してもよい。溶媒の使用量は特に限定されず、製造方法や、使用する材料に応じて適宜決定すればよい。
【0036】
2−5.正極の製造方法
正極の製造方法は、特に限定されないが、例えば、(i)分散用溶媒に正極合剤を溶解又は分散させた正極活物質組成物を正極集電体にドクターブレード法等で塗工したり、又は正極集電体を正極活物質組成物に浸漬した後、乾燥する方法;(ii)正極活物質組成物を混練成形し乾燥して得たシートを正極集電体に導電性接着剤を介して接合し、プレス、乾燥する方法;(iii)液状潤滑剤を添加した正極活物質組成物を正極集電体上に塗布又は流延して、所望の形状に成形した後、液状潤滑剤を除去し、次いで、一軸又は多軸方向に延伸する方法;等が挙げられる。また、必要に応じて乾燥後の正極合剤層を加圧してもよい。これにより正極集電体との接着強度が増し、電極密度も高められる。
【0037】
3.負極
負極は、負極活物質、結着剤及び必要に応じて導電助剤等を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなるものであり、通常、シート状に成形されている。
【0038】
3−1.負極集電体
負極集電体の材料としては、銅、鉄、ニッケル、銀、ステンレス鋼(SUS)等の導電性金属を用いることができる。これらの中でも銅は、薄膜への加工が容易であるので好ましい。
【0039】
3−2.負極活物質
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池で使用される従来公知の負極活物質を用いることができ、リチウムイオンを吸蔵、放出可能なものであればよい。具体的には、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛材料、石炭、石油ピッチから作られるメソフェーズ焼成体、難黒鉛化性炭素等の炭素材料、Si、Si合金、SiO等のSi系負極材料、Sn合金等のSn系負極材料、リチウム金属、リチウム−アルミニウム合金等のリチウム合金が負極活物質として挙げられる。
【0040】
負極活物質の含有量は、負極合剤100質量部に対して、好ましくは80質量部以上、より好ましくは90質量部以上であって、好ましくは99質量部以下である。
【0041】
負極の製造方法としては、正極の製造方法と同様の方法を採用できる。また、負極の製造時に使用する導電助剤、結着剤、材料分散用の溶媒も、正極と同様のものが用いられる。
【0042】
4.非水電解液
4−1.フルオロスルホニルイミド塩(1)
本発明の非水電解液は、電解質塩として機能する下記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩を0.2mol/L以上含むものであり、好ましくは更に溶媒を含む。必要に応じて添加剤等を含んでもよい。
【0043】
【化2】
(1)
(一般式(1)中、Rは、フッ素又は炭素数1〜6のフッ化アルキル基を表す)
【0044】
炭素数1〜6のフッ化アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状、または、これらの組み合わせからなるものであってもよい。また、フッ化アルキル基は、炭素数1〜6のアルキル基が有する水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものが挙げられる。具体的には、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。これらの中でもXとして、フッ素原子、トリフルオロメチル基及びペンタフルオロエチル基が好ましい。
【0045】
具体的なフルオロスルホニルイミド塩(1)としては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド等が挙げられる。より好ましくはリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドであり、更に好ましくはリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミドである。
【0046】
フルオロスルホニルイミド塩(1)は、単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、フルオロスルホニルイミド塩(1)は、市販品を使用してもよいし、従来公知の方法により合成した物を用いてもよい。
【0047】
非水電解液中のフルオロスルホニルイミド塩(1)の濃度は0.2mol/L以上であり、好ましくは0.3mol/L以上、より好ましくは0.5mol/L以上であって、好ましくは2.5mol/L以下、より好ましくは2.0mol/L以下、更に好ましくは1.5mol/L以下である。
【0048】
フルオロスルホニルイミド塩(1)の非水電解液中の濃度が高すぎると正極集電体が腐食する虞がある。一方、濃度が低すぎると、イミド塩によるイオン伝導度向上効果が小さいため、十分な低温レート特性が得られない場合がある。
【0049】
4−2.電解質塩
本発明の非水電解液は、電解質塩として上記フルオロスルホニルイミド塩(1)とは異なる電解質塩(以下、「他の電解質塩」ということがある)を含んでもよいし、含まなくてもよい。他の電解質塩としては特に限定されず、リチウムイオン二次電池の電解液において用いられている従来公知の電解質塩はいずれも使用できる。
【0050】
他の電解質塩としては、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF3SO3-)、フルオロリン酸イオン(PF6-)、過塩素酸イオン(ClO4-)、テトラフルオロ硼酸イオン(BF4-)、ヘキサフルオロ砒酸イオン(AsF6-)、テトラシアノ硼酸イオン([B(CN)4-)、テトラクロロアルミニウムイオン(AlCl4-)、トリシアノメチドイオン(C[(CN)3-)、ジシアナミドイオン(N[(CN)2-)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン(C[(CF3SO23-)、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン(SbF6-)およびジシアノトリアゾレートイオン(DCTA)等をアニオンとする無機又は有機カチオン塩等の従来公知の電解質塩が使用できる。
【0051】
電解質塩の中でも、一般式(3):LiPFl(Cm2m+16-l(0≦l≦6、1≦m≦4)で表される化合物(フルオロリン酸塩)、一般式(4):LiBFn(Co2o+14-n(0≦n≦4、1≦o≦4)で表される化合物(フルオロ硼酸塩)及び六フッ化砒酸リチウム(LiAsF6)よりなる群から選択される1種以上の化合物が好ましい。これらの電解質塩を併用することでフルオロスルホニルイミド塩(1)に起因する正極集電体の腐食を抑制できる。
【0052】
一般式(3)で表される化合物(以下、電解質塩(3)と称する場合がある)としては、LiPF6、LiPF3(CF33、LiPF3(C253、LiPF3(C373、LiPF3(C493等が好ましいものとして挙げられる。より好ましくはLiPF6、LiPF3(C253であり、更に好ましくはLiPF6である。
【0053】
一般式(4)で表される電解質塩(以下、電解質塩(4)と称する場合がある)としては、LiBF4、LiBF(CF33、LiBF(C253、LiBF(C373等が好ましいものとして挙げられ、LiBF4、LiBF(CF33がより好ましく、LiBF4がさらに好ましい。
【0054】
好ましい他の電解質塩としては、LiPF6、LiPF3(C253、LiBF(CF33であり、より好ましくはLiPF6、LiPF3(C253であり、更に好ましくは、LiPF6である。特に、イオン伝導度の点からはLiPF6が好ましい。電解質塩は上記例示の化合物を単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
本発明の非水電解液が上記他の電解質塩を含む場合、他の電解質塩の含有量は、他の電解質塩とフルオロスルホニルイミド塩(1)との濃度の合計が飽和濃度以下の範囲で使用される限りその濃度は特に限定されないが、好ましくは0.5mol/L以上、より好ましくは0.8mol/L以上、更に好ましくは1.0mol/L以上であって、好ましくは2.5mol/L以下、より好ましくは2.0mol/L以下、更に好ましくは1.5mol/L以下である。本発明ではフルオロスルホニルイミド塩(1)を含有させることで上記効果が得られるが、より一層優れた低温レート特性向上効果を得るためには、フルオロスルホニルイミド塩(1)濃度を高めることが望ましい。好ましくはフルオロスルホニルイミド塩(1):他の電解質塩=1:0〜1:20、より好ましくは1:0.1〜1:4、更に好ましくは1:0.25〜1:1である。
【0056】
4−3.溶媒
本発明の非水電解液に用いることのできる溶媒としては、カーボネート系溶媒を含んでいればよい。またカーボネート系溶媒以外にもフルオロスルホニルイミド塩(1)及び他の電解質塩を溶解、分散させられるものであれば特に限定されず、非水系溶媒、溶媒に代えて用いられるポリマー、ポリマーゲル等の媒体等、電池に用いられる従来公知の溶媒を組み合わせて使用できる。
【0057】
非水系溶媒としては、誘電率が大きく、電解質塩の溶解性が高く、沸点が60℃以上であり、且つ、電気化学的安定範囲が広い溶媒が好適である。この様な非水系溶媒としてカーボネート系溶媒を用いればよく、鎖状炭酸エステル類、環状炭酸エステル類等の炭酸エステル類が例示される。非水系溶媒はカーボネート系溶媒1種を単独で用いてもよく、また、カーボネート系溶媒同士、あるいはカーボネート溶媒と他の溶媒とを任意に組み合わせて用いてもよい。また他の溶媒も上記誘電率、溶解性、沸点、電気的安定性に加えて含有水分量が低い有機溶媒(非水系溶媒)が好ましい。
【0058】
例えば下記有機溶媒からカーボネート系溶媒を必須的に含めれば適宜組み合わせることができる。具体的にはエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,6−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ−テル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル(エチルメチルカーボネート)、炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート)、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン(エチレンカーボネート)、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート)、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2−ビニル炭酸エチレン等の環状炭酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等のラクトン類;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル、バレロニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等の硫黄化合物類;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類;ニトロメタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン等を挙げることができる。
【0059】
これらの中でも、鎖状炭酸エステル類、環状炭酸エステル類等の炭酸エステル類(カーボネート系溶媒)、ラクトン類、エーテル類が好ましく、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等がより好ましく、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒がさらに好ましい。
【0060】
上記ポリマーやポリマーゲルを用いる場合は次の方法を採用すればよい。すなわち、従来公知の方法で成膜したポリマーに、上述の非水系溶媒に電解質塩を溶解させた溶液を滴下して、電解質塩並びに非水系溶媒を含浸、担持させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質塩とを溶融、混合した後、成膜し、ここに非水系溶媒を含浸させる方法(以上、ゲル電解質);予め電解質塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液とポリマーとを混合した後、これをキャスト法やコーティング法により成膜し、有機溶媒を揮発させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質塩とを溶融し、混合して成形する方法(真性ポリマー電解質);等が挙げられる。
【0061】
溶媒に代えて用いられるポリマーとしては、エポキシ化合物(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、アリルグリシジルエーテル等)の単独重合体又は共重合体であるポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のメタクリル系ポリマー、ポリアクリロニトリル(PAN)等のニトリル系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン等のフッ素系ポリマー、及びこれらの共重合体等が挙げられる。
【0062】
4−4.その他の成分
本発明に係る非水電解液は、リチウムイオン二次電池の各種特性の向上を目的とする添加剤を含んでいてもよい。
【0063】
添加剤としては、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、メチルビニレンカーボネート(MVC)、エチルビニレンカーボネート(EVC)等の不飽和結合を有する環状カーボネート;フルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート及びエリスリタンカーボネート等のカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブサルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、テトラメチルチウラムモノスルフィド、トリメチレングリコール硫酸エステル等の含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルスクシンイミド等の含窒素化合物;モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩等のリン酸塩;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素化合物;等が挙げられる。
【0064】
上記添加剤は、本発明の非水電解液100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であって、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。添加剤の使用量が少なすぎるときには、添加剤に由来する効果が得られ難い場合があり、一方、多量に他の添加剤を使用しても、添加量に見合う効果は得られ難く、また、非水電解液の粘度が高くなり伝導率が低下する虞がある。
【0065】
なお、非水電解液100質量%とは、上述したフルオロスルホニルイミド塩(1)、電解質塩、溶媒、及び適宜用いられる添加剤等、非水電解液に含まれる全ての成分の合計を意味する。
【0066】
5.セパレーター
セパレーターは正極と負極とを隔てるように配置されるものである。セパレーターには特に制限がなく、本発明では、従来公知のセパレーターはいずれも使用できる。具体的なセパレーターとしては、例えば、非水電解液を吸収、保持できるポリマーからなる多孔性シート(例えば、ポリオレフィン系微多孔質セパレーターやセルロース系セパレーター等)、不織布セパレーター、多孔質金属体等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン系微多孔質セパレーターは、有機溶媒に対して化学的に安定であるという性質を有するため好適である。
【0067】
多孔性シートの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造を有する積層体等が挙げられる。
【0068】
不織布セパレーターの材質としては、例えば、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、アラミド、ガラス等が挙げられ、要求される機械強度等に応じて、上記例示の材質を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
6.電池外装材
正極、負極、セパレーター及び非水電解液等を備えた電池素子は、リチウムイオン二次電池使用時の外部からの衝撃、環境劣化等から電池素子を保護するため電池外装材に収容される。本発明では、電池外装材の素材は特に限定されず従来公知の外装材はいずれも使用することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0071】
1.非水電解液の調製
1−1.非水電解液
エチレンカーボネート(EC:キシダ化学株式会社製、LBGグレード)と、エチルメチルカーボネート(MEC:キシダ化学株式会社製、LBGグレード)を3:7(体積比)で混合した非水溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6:森田化学株式会社製)、及びリチウムビス(フルオロスルホニルイミド)(LiFSI:株式会社日本触媒製)、四フッ化硼酸リチウム(LiBF4:キシダ化学株式会社製、LGBグレード)を表1に示す濃度となるように溶解させて、試験No.1−18で用いる非水電解液を夫々調製した。
【0072】
2.コインリチウム型リチウムイオン二次電池
2−1.正極シート
表1に示す正極活物質(LiaNixMnyCo(1-x-y)2)、導電助剤(アセチレンブラック2質量部とグラファイト2質量部の混合物)、及び結着剤(PVdF)を93:4:3の質量比で混合した後、溶媒(N−メチルピロリドン)に分散させた正極合剤スラリーをアルミニウム箔(正極集電体)上に塗工し、乾燥、圧縮して、正極シートを作製した。なお、正極活物質の組成はICP発光分光分析法により分析した。
【0073】
2−2.負極シート
負極活物質(球状加工天然黒鉛)、導電助剤(カーボンブラック)、及び結着剤(スチレン−ブタジエンゴム2.0質量部とカルボキシメチルセルロース1.2質量部の混合物)を96.3:0.5:3.2の質量比で混合した負極合剤スラリーを銅箔(負極集電体)上に塗工し、乾燥、圧縮して負極シートを作製した。
【0074】
2−3.電池の作製
上記正極シート、上記負極シート、及びポリエチレン製セパレーターを、それぞれ円形(正極φ12mm、負極φ14mm、セパレーターφ16mm)に打ち抜いた。宝泉株式会社より購入したCR2032コイン型電池用部品(正極ケース(アルミクラッドSUS304L製)、負極キャップ(SUS316L製)、スペーサー(1mm厚、SUS316L製)、ウェーブワッシャー(SUS316L製)、ガスケット(ポリプロピレン製))を用いてコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、ガスケットを装着した負極キャップ、ウェーブワッシャー、スペーサー、負極シート(負極の銅箔側がスペーサーと対向するように設置)、セパレーターをこの順で重ねた後、上記電解液(1)をセパレーターに含浸させた。次いで、正極合剤塗布面が負極活物質層側と対向するように正極シートを設置し、その上に正極ケースを重ね、カシメ機でしめることにより試験No.1−18で用いるコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0075】
3.電池評価
低温負荷特性
上記各コインリチウム型リチウムイオン二次電池について、温度25℃の環境下、充放電試験装置(株式会社アスカ電子製)を使用し、所定の充電条件(0.2C、4.2V、定電流定電圧モード0.02Cカット)で充電を行った。10分の休止時間を経た後、放電終止電圧2.75V、放電電流0.2Cで、定電流放電を行って電池の放電容量を測定した。その後、再び、温度25℃の環境下、所定の充電条件(0.2C、4.2V、定電流定電圧モード0.02Cカット)で充電を行った。環境温度を−10℃に変更して2時間の休止時間を経た後、放電終止電圧2.75V、放電電流1Cで定電流放電を行って放電容量を測定した。25℃での放電定電流0.2Cにおける放電容量を100としたときの、−10℃での放電定電流1Cにおける放電容量の割合を低温負荷特性として表1に示す。
低温レート特性(%)=(−10℃における1C放電容量/25℃における0.2C容量)×100
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示すように本発明の規定を満足する正極活物質とLiFSIを含む非水電解液を用いたNo.1〜13は、LiFSIを含まない非水電解液を用いたNo.14〜18と比べると優れた低温レート特性を示した。
【0078】
同じ正極活物質を用いたNo.1〜10を比べるとLiFSI濃度が高くなる程、低温レート特性が向上する傾向を示した。特にLiFSI濃度が0.5mol/L以上であるNo.3〜7、9、10はより優れた低温レート特性を示した。No.3、11、13を比べるとNi比率が高まると低温レート特性は低下するが(No.3とNo.11)、LiFSI濃度を高めることで、Ni比率が高くても高い低温レートを維持できることがわかる(No.11とNo.13)。
【0079】
一方、LiFSIを含まない非水電解液を用いたNo.14〜17では、Ni比率および電解質塩濃度にかかわらず低温レート特性が低かった。またNi比率が低く、且つLiFSIを含まない非水電解液を用いたNo.18は低温レート特性が低かった。
【0080】
以上の結果から、正極活物質のNi含有量の増加は、抵抗上昇要因となるため、従来では十分な低温レート特性が得られなかったが、所定の比率を満足するように正極活物質を制御すると共に、所定量のフルオロスルホニルイミド塩(1)を含む非水電解液を用いているため、イオン伝導度が向上すると共に電池抵抗が低下して低温レート特性を改善できたと考えられる。