(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電子線を試料上で走査し、電子線の照射位置ごとに試料を透過した電子線の強度情報を取得して微分位相コントラスト像を生成する電子顕微鏡における画像取得方法であって、
各照射位置において試料に対する電子線の入射方向を変更しつつ、電子線を試料上で走査して、各照射位置ごとに試料を透過した電子線の強度情報を取得する工程と、
各照射位置ごとの電子線の強度情報に基づいて、前記微分位相コントラスト像を生成する工程と、
を含み、
各照射位置ごとの電子線の強度情報を取得する工程では、各照射位置において互いに異なる入射方向における電子線の強度を積算して、各照射位置ごとの電子線の強度情報を取
得する、画像取得方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子顕微鏡において、中倍率および低倍率での微分位相コントラスト法による観察に代表されるような、回折コントラストに依存しない結像モードにて観察を行う場合、等厚干渉縞や等傾角干渉縞などの回折コントラストが観察に大きな支障をきたす。そのため、ユーザーは、これらの回折コントラストが弱くなるような試料の傾斜条件を試行錯誤して探し出さなければならなかった。
【0007】
図19は、微分位相コントラスト法によりGaAs中のPN接合を観察した結果を、ベクトル方位マップとして示した画像である。
図19では、色で場の向きを表し、明暗で場の強度を表している。
【0008】
図19に示す画像では、観察対象であるPN接合のコントラストの他に、試料の厚さのムラに起因する等厚干渉縞や、試料の傾斜に起因する等傾角干渉縞が観察されている。こ
れらの回折コントラストは、
図19において、帯状に観察されている。
図19に示す画像は、これらの回折コントラストの影響が最小限になるように、試料の傾斜条件を試行錯誤して探し出して得られたものであるが、それでもなお回折コントラストの影響は完全には除去できていない。
【0009】
また、結晶性を有する試料において、電子線の入射方向が低次の晶帯軸に近いとき、多数の回折波が励起されるため、強く複雑な回折コントラストが観察される。そのため、低次の晶帯軸に沿った結晶方位から高感度の微分位相コントラスト法による観察を行うことは、原子分解能(高倍率)での観察を除いてほぼ不可能である。回折コントラストの影響を低減させるためには、低次の晶帯軸から大きく外れた方位から観察を行わざるを得ない。
図19に示す画像は、電子線の入射方向を、低次の晶帯軸から10°以上傾けて像を取得している。
【0010】
また、焼結体などの多結晶試料に対して微分位相コントラスト法による観察を行う場合も、回折コントラストの影響を受けるが、多結晶体における各結晶子の方位は一般的に揃っていないため、最適な試料の傾斜条件も結晶子ごとに異なる。そのため、複数の結晶子に対して同時に回折コントラストの影響が低減される試料の傾斜条件を探しだすことができない場合が多い。よって、結晶子ごとに最適な試料の傾斜条件を探し出して観察を行うという作業を行わなければならない。1つの結晶子のサイズは小さい場合が多く、1つの結晶子の結晶方位を合わせるという作業自体が困難であることを考えると、結晶子ごとに最適な試料の傾斜条件を探し出して観察を行うという作業は極めて困難である。
【0011】
なお、上記では、微分位相コントラスト法による観察を例に挙げて説明したが、透過電子顕微鏡および走査透過電子顕微鏡における、中倍率および低倍率における明視野像の観察など、等厚干渉縞や等傾角干渉縞などの回折コントラストの影響を受ける手法では、同様の問題が生じる。
【0012】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、回折コントラストの影響を低減できる画像取得方法を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、回折コントラストの影響が低減された画像を取得することができる電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明に係る画像取得方法は、
試料を透過した電子で電子顕微鏡像を生成する電子顕微鏡における画像取得方法であって、
試料に対する電子線の入射方向を相対的に変更して複数の前記電子顕微鏡像を取得する工程と、
複数の前記電子顕微鏡像を積算して、画像を生成する工程と、
を含
み、
前記電子顕微鏡像は、電子線を試料上で走査し、電子線の照射位置ごとに試料の電磁場による電子線の偏向量を計測して得られた微分位相コントラスト像である。
【0014】
このような画像取得方法では、等厚干渉縞や等傾角干渉縞などの回折コントラストの影響が低減された電子顕微鏡像を取得することができる。
また、このような画像取得方法では、微分位相コントラスト法によるコントラストを低減させることなく、回折コントラストの影響を低減させることができる。
【0015】
(2)本発明に係る画像取得方法において、
前記電子顕微鏡像を取得する工程では、試料に対する電子線の入射方向の相対的な変更は、電子線の入射方向に対して試料を傾斜させることで行われてもよい。
【0016】
(3)本発明に係る画像取得方法において、
前記電子顕微鏡像を取得する工程では、試料に対する電子線の入射方向の相対的な変更
は、試料に入射する電子線を偏向させて試料に対する電子線の入射方向を変更させることで行われてもよい。
【0021】
(4)本発明に係る画像取得方法は、
電子線を試料上で走査し、電子線の照射位置ごとに試料を透過した電子線の強度情報を取得して微分位相コントラスト像を生成する電子顕微鏡における画像取得方法であって、
各照射位置において試料に対する電子線の入射方向を変更しつつ、電子線を試料上で走査して、各照射位置ごとに試料を透過した電子線の強度情報を取得する工程と、
各照射位置ごとの電子線の強度情報に基づいて、前記微分位相コントラスト像を生成する工程と、
を含
み、
各照射位置ごとの電子線の強度情報を取得する工程では、各照射位置において互いに異なる入射方向における電子線の強度を積算して、各照射位置ごとの電子線の強度情報を取得する。
【0022】
このような画像取得方法では、等厚干渉縞や等傾角干渉縞などの回折コントラストの影響が低減された
微分位相コントラスト像を取得することができる。
【0023】
(
5)本発明に係る電子顕微鏡は、
電子線を放出する電子源と、
試料に対する電子線の入射方向を相対的に変更する入射方向制御部と、
試料を透過した電子線を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて、画像を生成する画像生成部と、
を含み、
前記画像生成部は、
前記入射方向制御部で試料に対する電子線の入射方向を相対的に変更して得られた複数の電子顕微鏡像を取得する処理と、
複数の前記電子顕微鏡像を積算して、画像を生成する処理と、
を行
い、
前記電子顕微鏡像は、電子線を試料上で走査し、電子線の照射位置ごとに試料の電磁場による電子線の偏向量を計測して得られた微分位相コントラスト像である。
【0024】
このような電子顕微鏡では、等厚干渉縞や等傾角干渉縞などの回折コントラストの影響が低減された電子顕微鏡像を取得することができる。
【0025】
(6)本発明に係る電子顕微鏡は、
電子線を放出する電子源と、
前記電子源から放出された電子線を試料上で走査するための走査偏向素子と、
試料に対する電子線の入射方向を相対的に変更する入射方向制御部と、
試料を透過した電子線を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて、微分位相コントラスト像を生成する画像生成部と、を含み、
前記画像生成部は、
前記入射方向制御部で各照射位置において試料に対する電子線の入射方向を変更しつつ、前記走査偏向素子で電子線を試料上で走査して得られた各照射位置ごとの試料を透過した電子線の強度情報を取得する処理と、
各照射位置ごとの電子線の強度情報に基づいて、前記微分位相コントラスト像を生成する処理と、
を行
い、
各照射位置ごとの電子線の強度情報を取得する処理では、各照射位置において互いに異なる入射方向における電子線の強度を積算して、各照射位置ごとの電子線の強度情報を取得する。
【0026】
このような電子顕微鏡では、等厚干渉縞や等傾角干渉縞などの回折コントラストの影響が低減された
微分位相コントラスト像を取得することができる。
【0027】
(
7)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記入射方向制御部は、試料に照射される電子線を偏向させる偏向素子であってもよい。
【0028】
(
8)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記入射方向制御部は、試料を傾斜させる傾斜機構を備えた試料ステージであってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものでは
ない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0031】
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡の構成
図1は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100を模式的に示す図である。
【0032】
電子顕微鏡100は、走査透過電子顕微鏡(STEM)である。すなわち、電子顕微鏡100は、電子プローブ(収束した電子線)で試料S上を走査し、電子線の照射位置ごとに試料Sを透過した電子線の強度情報を取得して走査透過電子顕微鏡像(STEM像)を生成する装置である。
【0033】
電子顕微鏡100は、
図1に示すように、電子源10と、照射系レンズ11と、照射系偏向素子12と、走査コイル13(走査偏向素子の一例)と、対物レンズ14と、試料ステージ16(入射方向制御部の一例)と、試料ホルダー17と、中間レンズ18と、投影レンズ20と、結像系偏向素子22と、分割型検出器24(検出部の一例)と、制御装置30と、処理部40と、操作部50と、表示部52と、記憶部54と、を含む。
【0034】
電子源10は、電子線を放出する。電子源10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0035】
照射系レンズ11は、電子源10から放出された電子線を収束する。照射系レンズ11は、図示はしないが、コンデンサーレンズやコンデンサーミニレンズなどの複数の電子レンズで構成されていてもよい。コンデンサーレンズは、電子源10から放出された電子線を収束するためのレンズである。コンデンサーミニレンズは、コンデンサーレンズと対物レンズ14との間に配置される。コンデンサーミニレンズは、観察モードに適した収束角を持つ電子線を作るためのレンズである。
【0036】
照射系偏向素子12は、電子源10から放出された電子線を二次元的に偏向させる。照射系偏向素子12は、電子線を試料S上でシフトさせたり、電子線を試料S上で傾斜させたりすることができる。照射系偏向素子12は、例えば、2段の偏向コイルで構成されており、一段目の偏向コイルで電子線を偏向し、二段目の偏向コイルで偏向した電子線を振り戻すことができる。照射系偏向素子12で電子線を偏向させることにより、試料Sに対する電子線の入射方向を変更することができる。
【0037】
走査コイル13は、電子源10から放出された電子線を二次元的に偏向させる。走査コイル13は、照射系レンズ11で収束された電子線(電子プローブ)で試料S上を走査するためのコイルである。すなわち、走査コイル13は、電子線の試料S上での照射位置を走査するためのコイルである。
【0038】
対物レンズ14は、電子線を試料S上に収束させて、電子プローブを形成するためのレンズである。また、対物レンズ14は、試料Sを透過した電子線を結像する。対物レンズ14の後段には、図示はしないが、対物ミニレンズが配置されていてもよい。対物ミニレンズは、対物レンズ14と異なり、磁場を強めるポールピースを持たない。
【0039】
図示はしないが、電子顕微鏡100の照射系には、電子線の開き角や照射量を制御するためのコンデンサー絞りが組み込まれている。なお、電子顕微鏡100の照射系とは、試料Sに電子線を照射するための光学系をいい、後述する電子顕微鏡100の結像系とは、試料Sを透過した電子線を結像するための光学系をいう。
【0040】
試料ステージ16は、試料Sを保持する。図示の例では、試料ステージ16は、試料ホ
ルダー17を介して、試料Sを保持している。試料ステージ16は、試料Sを水平方向や鉛直方向に移動させることができる。また、試料ステージ16は、傾斜機構を有しており、試料Sを、互いに直交する2つの軸まわりに傾斜(回転)させることができる。
【0041】
中間レンズ18および投影レンズ20は、試料Sを透過した電子線を分割型検出器24に転送する。
【0042】
結像系偏向素子22は、試料Sを透過した電子線を二次元的に偏向させる。結像系偏向素子22は、分割型検出器24の前段(電子線の流れの上流側)に配置されている。結像系偏向素子22で電子線を偏向させることにより、分割型検出器24の検出面25上の所望の位置に電子線を入射させることができる。
【0043】
分割型検出器24は、投影レンズ20の後方(電子線の流れの下流側)に設けられている。分割型検出器24は、試料Sを透過した電子線を検出する検出面25が複数の検出領域に分割された検出器である。
【0044】
図2は、分割型検出器24の検出面25を模式的に示す図である。
【0045】
分割型検出器24の検出面25は、
図2に示すように、複数の検出領域D1,D2,D3,D4に分割されている。
図2に示す例では、分割型検出器24は、円環状の検出面25を角度方向(円周方向)に4等分することで形成された、4つの検出領域D1,D2,D3,D4を備えている。各検出領域D1,D2,D3,D4では、独立して電子線を検出することができる。
【0046】
なお、検出面25における検出領域の数は特に限定されない。分割型検出器24は、図示はしないが、検出面25がその動径方向および偏角方向(円周方向)に分割されることにより形成された、複数の検出領域を有していてもよい。例えば、分割型検出器24は、検出面25が動径方向に4つ、偏角方向に4つに分割されることにより形成された、16個の検出領域を有してもよい。
【0047】
分割型検出器24は、例えば、図示はしないが、電子線を光に変換する電子−光変換素子(シンチレーター)と、電子−光変換素子を複数の検出領域D1,D2,D3,D4に分割するとともに各検出領域D1,D2,D3,D4からの光を伝送する光伝送路(光ファイバー束)と、光伝送路から伝送された検出領域D1,D2,D3,D4ごとの光を電気信号に変換する複数の光検出器(光電子増倍管)と、を含んで構成されている。分割型検出器24は、検出領域D1,D2,D3,D4ごとに、検出された電子線(信号)の強度(信号量)に応じた出力信号を処理部40に送る。
【0048】
制御装置30は、電子顕微鏡100を構成する各部(上述した光学系や試料ステージ16等)を制御するための装置である。制御装置30は、例えば、制御部42からの制御信号に基づいて、電子顕微鏡100を構成する各部を制御する。
【0049】
操作部50は、ユーザーによる操作に応じた操作信号を取得し、処理部40に送る処理を行う。操作部50は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどである。
【0050】
表示部52は、処理部40によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。表示部52は、例えば、画像生成部44で生成された画像を表示する。
【0051】
記憶部54は、処理部40のワーク領域となるもので、その機能はRAMなどにより実現できる。記憶部54は、処理部40が各種の制御処理や計算処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部54は、処理部40が各種プログラムに従って実行した算出結果等を一時的に記憶するためにも使用される。
【0052】
処理部40は、記憶部54に記憶されているプログラムに従って、各種の制御処理や計算処理を行う。処理部40は、記憶部54に記憶されているプログラムを実行することで、以下に説明する、制御部42、画像生成部44として機能する。処理部40の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)でプログラムを実行することにより実現することができる。なお、処理部40の機能の少なくとも一部を、ASIC(ゲートアレイ等)などの専用回路により実現してもよい。処理部40は、制御部42と、画像生成部44と、を含む。
【0053】
制御部42は、電子顕微鏡100を構成する各部を制御するための制御信号を生成する処理を行う。制御部42は、例えば、操作部50を介したユーザーの指令に応じて制御信号を生成し、制御装置30に送る処理を行う。
【0054】
画像生成部44は、分割型検出器24の出力信号を用いてSTEM像を生成する処理を行う。画像生成部44は、分割型検出器24の出力信号(すなわち、分割型検出器24の各検出領域D1,D2,D3,D4の検出結果)から、微分位相コントラスト法(DPC法)によるSTEM像(DPC像)を生成する処理を行う。DPC像(微分位相コントラスト像)は、電子線を試料S上で走査し、電子線の照射位置ごとに試料Sの電磁場による電子線の偏向量を計測して得られる像である。画像生成部44の処理の詳細については後述する。
【0055】
1.2. 画像取得方法
次に、第1実施形態に係る画像取得方法について説明する。
図3は、第1実施形態に係る画像取得方法の一例を示すフローチャートである。以下では、電子顕微鏡100を用いてDPC像を取得する例について説明する。
【0056】
(1)照射系および結像系の調整(ステップS100)
まず、電子顕微鏡100の照射系および結像系の調整を行う。具体的には、観察倍率の設定、結像系のカメラ長の設定等が行われる。また、走査コイル13で試料S上を走査することで検出面25上での電子線の位置が移動しないように光学系の調整が行われる。
【0057】
(2)試料の観察対象となる領域の決定(ステップS102)
次に、試料Sの観察対象となる領域を決定する。ユーザーは、試料ステージ16を操作して試料S中から観察対象となる領域を探し、当該領域を視野の中心にする。このとき、試料Sの傾斜条件は、低次の晶帯軸に沿って電子線が入射されるように設定されているものとする。
【0058】
(3)DPC像の取得(ステップS104)
次に、試料Sを傾斜させることにより試料Sに対する電子線の入射方向を相対的に変更して複数のDPC像を取得する。
【0059】
具体的には、まず、試料Sの観察対象となる領域で、照射系のフォーカスを合わせる。次に、結像系偏向素子22を用いて試料Sを透過した電子線が分割型検出器24の検出面25の中心に位置するように調整を行う。
【0060】
次に、DPC像を取得する。
図4および
図5は、DPC像を取得する際の、電子顕微鏡
100の動作を説明するための図である。
【0061】
電子顕微鏡100において、電子源10から放出された電子線は、照射系レンズ11を構成しているコンデンサーレンズ11aおよびコンデンサーミニレンズ11bで試料S上に収束され、走査コイル13によって試料S上で走査される。試料Sを透過した電子線は、対物ミニレンズ15、中間レンズ18および投影レンズ20によって分割型検出器24の検出面25に転送される。このとき、照射系の絞り2(コンデンサー絞り)の面と、検出面25と、が共役の関係になるように電子顕微鏡100の光学系が調整されている。
【0062】
処理部40は、分割型検出器24の出力信号を取り込む。画像生成部44は取り込まれた分割型検出器24の出力信号に基づき各検出領域D1,D2,D3,D4ごとに電子線の強度情報(信号量の情報)を取得する。画像生成部44は、各検出領域D1,D2,D3,D4ごとに得られた電子線の強度情報に基づき検出面25上における電子線のシフト方向とその大きさを計算する。この電子線のシフト方向とその大きさは、試料S中の電磁場の向きと大きさに対応する。そのため、画像生成部44は、分割型検出器24の出力信号に基づいて、電子線の照射領域ごとに電子線のシフト方向とその大きさを計算することで、DPC像を生成する。
【0063】
画像生成部44は、例えば、試料S中の電磁場の大きさをコントラストに対応させることで、試料S中の電磁場の分布を画像化してDPC像を生成する。また、画像生成部44は、試料S中の電磁場の向きを色で表し、試料S中の電磁場の強度を明暗で表すことで、試料S中の電磁場の分布を画像化してDPC像を生成してもよい。
【0064】
このようにして、DPC像を取得することができる。
【0065】
なお、上記では、対物レンズ14が発生させる磁場の影響を低減するために、対物レンズ14の励磁を切った状態で撮影を行う例について説明したが、対物レンズ14を励磁させて撮影を行ってもよい。この場合も、上記の例と同様にDPC像を取得することができる。
【0066】
次に、
図5に示すように、試料ステージ16の傾斜機構を用いて、試料Sを傾斜させる。これにより、試料Sに対する電子線の入射方向が変更される。この状態でDPC像を取得する。DPC像の取得は、試料Sの傾斜角が異なる他は、同一の条件で行われる。なお、試料ステージ16の傾斜機構を用いて試料Sを傾斜させる際に視野が移動した場合は、試料ステージ16を操作して視野を戻してDPC像の取得を行う。試料Sの傾斜は、例えば、ユーザーが操作部50を介して試料ステージ16(傾斜機構)を動作させることにより行われる。
【0067】
試料Sを傾斜させるごとにDPC像を取得する工程を繰り返し行い、複数のDPC像を取得する。これにより、互いに試料Sに対する電子線の入射方向の異なる複数のDPC像を得ることができる。
【0068】
図6および
図7は、試料ステージ16の傾斜機構を用いて試料Sを傾斜させている様子を模式的に示す図である。試料ステージ16の傾斜機構は、
図6および
図7に示すように、互いに直交する2つの軸(X軸およびY軸)まわりに試料Sを傾斜させることができる。そのため、本工程では、試料SのX軸まわりの傾斜角θ
XおよびY軸まわりの傾斜角θ
Yのそれぞれを所定の角度刻みで傾斜させ、傾斜させるごとにDPC像を取得する。なお、X軸およびY軸は、それぞれ照射系の光軸Lに関して直交する軸である。また、電子線は、光軸Lに沿って試料Sに入射する。
【0069】
例えば、傾斜角θ
Xおよび傾斜角θ
Yをそれぞれ−1°から+1°の範囲で、1°刻みで傾斜させた場合、傾斜角θ
Xおよび傾斜角θ
Yの組み合わせは、(θ
X,θ
Y)=(−1,−1)、(−1,0)、(−1,+1)、(0,−1)、(0,0)、(0,+1)、(+1,−1)、(+1,0)、(+1,+1)の9つになる。そのため、傾斜角θ
Xおよび傾斜角θ
Yをそれぞれ−1°から+1°の範囲で、1°刻みで傾斜させた場合、互いに試料Sに対する電子線の入射方向の異なるDPC像を9つ得ることができる。
【0070】
なお、傾斜角θ
Xおよび傾斜角θ
Yの範囲および傾斜角の刻み(傾斜ステップ)は特に限定されないが、より回折コントラストの影響を低減させるためには、様々な傾斜角で試料Sを傾けて(すなわち様々な入射方向から試料Sに対して電子線を入射させて)、取得するDPC像の数を多くすることが望ましい。
【0071】
(4)DPC像の積算(ステップS104)
次に、互いに試料Sに対する電子線の入射方向の異なる複数のDPC像を積算して1つの画像(DPC像)を生成する。なお、複数のDPC像は、積算処理を行う前に、各DPC像間の位置合わせを行い、画像間の視野ずれを補正してもよい。また、複数のDPC像を積算した後に、平均化処理を行ってもよい。
【0072】
互いに試料Sに対する電子線の入射方向の異なる複数のDPC像を積算して得られた画像は、例えば試料Sに対する電子線の入射方向が1方向のDPC像と比べて、等厚干渉縞や等傾角干渉縞などの回折コントラストの影響が低減される。これは、DPC法によるコントラストは、試料Sに対する電子線の入射方向によって変化しない(または変化が極めて小さい)が、等厚干渉縞や等傾角干渉縞などの回折コントラストは試料Sに対する電子線の入射方向に応じて敏感に変化するためである。
【0073】
以上の工程により、回折コントラストが低減されたDPC像を得ることができる。
【0074】
本実施形態に係る画像取得方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0075】
本実施形態に係る画像取得方法は、試料Sに対する電子線の入射方向を相対的に変更して複数のDPC像を取得する工程と、複数のDPC像を積算して、画像を生成する工程と、を含む。そのため、本実施形態に係る画像取得方法では、等厚干渉縞や等傾角干渉縞などの回折コントラストの影響が低減されたDPC像を得ることができる。また、本実施形態に係る画像取得方法によれば、DPC法によるコントラストを低減させることなく、回折コントラストの影響を低減させることができる。
【0076】
また、本実施形態に係る画像取得方法によれば、ユーザーが回折コントラストが弱くなるような試料Sの傾斜条件を試行錯誤して探し出す必要がなく、容易に回折コントラストの影響が低減されたDPC像を得ることができる。
【0077】
さらに、本実施形態に係る画像取得方法によれば、任意の方位からDPC像観察を行うことができる。したがって、例えば、試料S中の電磁場の分布と結晶方位との関係を明らかにすることができる。
【0078】
また、本実施形態に係る画像取得方法によれば、多結晶体の観察を行う場合に、視野内の結晶子の全部に対して、回折コントラストの影響を低減させることができる。
【0079】
図8は、傾斜角θ
Xおよび傾斜角θ
Yをそれぞれ−1°から+1°の範囲で、0.3°刻みで傾斜させて、64セットのDPC像を積算して得られた画像である。
図9は、比較例として取得したDPC像であり、試料に対する電子線の入射方向を晶帯軸近傍にして得
られたDPC像である。
【0080】
図9に示すDPC像では、試料に対する電子線の入射方向が晶帯軸近傍であるため、回折コントラストの影響が大きく、PN接合のコントラスト(PN接合の電場をDPC法により可視化して得られたコントラスト)と回折コントラストとが重なり、PN接合のコントラストが見えづらい。これに対して、
図9に示すDPC画像では、回折コントラストの影響が低減され、目的であるPN接合の線状のコントラストが明瞭に観察できた。この結果から、本実施形態によれば、PN接合の電場に起因するDPC法によるコントラストを損なうことなく、回折コントラストの影響を低減できることがわかった。
【0081】
なお、上記では、試料Sに対する電子線の入射方向を相対的に変更して複数のDPC像を取得し、当該複数のDPC像を積算することで回折コントラストの影響が低減されたDPC像を生成する場合について説明したが、本実施形態に係る画像生成方法は、DPC像に限定されず、その他の電子顕微鏡像にも適用可能である。
【0082】
例えば、本実施形態に係る画像生成方法は、明視野STEM像にも適用できる。明視野STEM像は、試料Sを透過した電子線のうち、散乱されずに透過した電子線、および所定の角度以下で散乱した電子線を検出器(明視野STEM検出器)で検出して得られるSTEM像である。本実施形態に係る画像生成方法を明視野STEM像に適用する場合も、DPC像の場合と同様に、試料Sに対する電子線の入射方向を相対的に変更して複数の明視野STEM像を取得し、当該複数の明視野STEM像を積算することで画像を生成すればよい。これにより、回折コントラストの影響が低減された明視野STEM像を生成することができる。
【0083】
また、本実施形態に係る画像生成方法は、バルク試料中の析出物の形態観察や、結晶中の転位のコア近傍の観察など、試料の微小な厚さムラや試料の傾斜の変化に対して注目する部分のコントラストが敏感に変化しないような試料の観察の際に特に有効である。
【0084】
1.3. 電子顕微鏡の動作
次に、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の動作について説明する。電子顕微鏡100では、処理部40が、上述したステップS104およびステップS106の処理を行う。以下、処理部40の処理について説明する。
【0085】
図10は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の処理部40の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0086】
まず、処理部40は、ユーザーが画像取得開始の指示を行ったか否かを判定する(ステップS110)。処理部40は、例えば、ユーザーによって画像取得開始ボタンや、キーボード、GUI等により画像取得開始の操作が行われた場合に、ユーザーが画像取得開始の指示を行ったと判定する。
【0087】
画像取得開始の指示が行われたと判断された場合(ステップS110でYesの場合)、制御部42は、試料Sが設定された傾斜角となるように試料ステージ16の傾斜機構を制御する(ステップS112)。例えば、記憶部54には、あらかじめ試料Sの傾斜角θ
Xおよび傾斜角θ
Yの範囲、および傾斜ステップ等の傾斜角を設定するための情報が記憶されており、制御部42はこれらの情報を読み出して傾斜角を設定する。
【0088】
次に、制御部42は、電子線が試料S上で走査されるように走査コイル13を制御する。処理部40は分割型検出器24の出力信号を取り込み、画像生成部44は分割型検出器24の出力信号に基づいてDPC像を生成する(ステップS114)。
【0089】
次に、処理部40は、設定された数だけDPC像が取得されたか否かを判定する処理を行う(ステップS116)。取得されるDPC像の数は、上述した試料Sの傾斜角θ
Xおよび傾斜角θ
Yの範囲、および傾斜ステップ等の傾斜角を設定するための情報から決まる。
【0090】
設定された数だけDPC像が取得されていないと判定された場合(ステップS116でNOの場合)、ステップS112に戻って試料Sを傾斜させる処理(ステップS112)およびDPC像を取得する処理(ステップS114)が行われる。試料Sを傾斜させる処理では、記憶部54に記録された傾斜角を設定するための情報に基づいて、新たな傾斜角が設定される。ステップS112、ステップS114、およびステップS116の処理は、設定された数だけDPC像が取得されるまで繰り返し行われる。
【0091】
設定された数だけDPC像が取得されたと判定された場合(ステップS116でYESの場合)、画像生成部44は、取得された互いに試料Sに対する電子線の入射方向の異なる複数のDPC像を積算して1つの画像(DPC像)を生成する処理を行う(ステップS118)。そして、処理部40は、生成された画像を表示部52に表示させる処理を行い、処理を終了する。
【0092】
電子顕微鏡100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0093】
電子顕微鏡100では、画像生成部44は、試料ステージ16によって試料Sに対する電子線の入射方向を相対的に変更して得られた複数のDPC像を取得する処理と、複数のDPC像を積算して画像を生成する処理と、を行う。そのため、電子顕微鏡100によれば、容易に、等厚干渉縞や等傾角干渉縞などの回折コントラストの影響が低減されたDPC像を得ることができる。
【0094】
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡
第2実施形態に係る電子顕微鏡の構成は、
図1に示す電子顕微鏡100の構成と同じであり、図示およびその説明を省略する。
【0095】
2.2. 画像取得方法
上述した第1実施形態に係る画像取得方法では、試料Sに対する電子線の入射方向の相対的な変更は、電子線の入射方向に対して試料Sを傾斜させることで行われた。
【0096】
これに対して、第2実施形態に係る画像取得方法では、試料Sに対する電子線の入射方向の相対的な変更は、試料Sに入射する電子線を偏向させて試料Sに対する電子線の入射方向を変更させることで行われる。
【0097】
すなわち、第1実施形態では、試料ステージ16(傾斜機構)が試料Sに対する電子線の入射方向を相対的に制御する入射方向制御部として機能していたが、本実施形態では、照射系偏向素子12が入射方向制御部として機能する。以下では、上述した第1実施形態に係る画像取得方法と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0098】
図11は、第2実施形態に係る画像取得方法の一例を示すフローチャートである。
【0099】
(1)照射系および結像系の調整(ステップS200)
まず、電子顕微鏡100の照射系および結像系の調整を行う。本工程では、上述したステップS100で説明した調整に加えて、照射系偏向素子12で電子線を偏向させること
によって生じる分割型検出器24の検出面25に入射する電子線のずれを補正するための調整を行う。
【0100】
具体的には、まず、照射系偏向素子12で電子線を一定量だけ偏向させる。このとき、照射系偏向素子12による電子線の偏向量に応じて検出面25上で電子線の入射領域が移動するため、その移動分を結像系偏向素子22で振り戻し、電子線の入射領域を検出面25の中心に位置させる。このときの照射系偏向素子12および結像系偏向素子22の設定(センタリング条件)を記録する。この工程を、照射系偏向素子12による電子線の偏向量を変えながら繰り返し行う。
【0101】
(2)試料の観察対象となる領域の決定(ステップS202)
次に、試料Sの観察対象となる領域を決定する。本工程(ステップS202)は、上述したステップS102と同様に行われる。
【0102】
(3)DPC像の取得(ステップS204)
次に、照射系偏向素子12を用いて電子線を偏向させることにより試料Sに対する電子線の入射方向を変更して複数のDPC像を取得する。
【0103】
具体的には、まず、試料Sの観察対象となる領域で、照射系のフォーカスを合わせる。そして、電子線が試料Sの低次の晶帯軸に沿って入射するように照射系偏向素子12を設定する。
【0104】
次に、DPC像を取得する。DPC像の取得は、上述したステップS104と同様に行われる。
【0105】
次に、照射系偏向素子12を用いて試料Sに対する電子線の入射方向を変更する。この状態でDPC像を取得する。DPC像の取得は、電子線の入射方向が異なる他は、同一の条件で行われる。電子線の入射方向の変更は、例えば、ユーザーが操作部50を介して照射系偏向素子12を動作させることにより行われる。
【0106】
なお、照射系偏向素子12を用いて電子線を偏向させる際には、ステップS200で記録されたセンタリング条件に基づいて、結像系偏向素子22を動作させる。これにより、照射系偏向素子12で電子線を偏向させることに起因する検出面25上での電子線の位置ずれを補正することができる。
【0107】
電子線を偏向させて電子線の入射方向を変更するごとにDPC像を取得する工程を繰り返し行い、複数のDPC像を取得する。これにより、互いに試料Sに対する電子線の入射方向の異なる複数のDPC像を得ることができる。
【0108】
図12および
図13は、照射系偏向素子12を用いて電子線を偏向して試料Sに対する電子線の入射方向を変更している様子を模式的に示す図である。
【0109】
試料Sに対する電子線の入射方向は、
図12および
図13に示すように、電子線の入射角θと、電子線の方位角φと、で決まる。そのため、本工程では、電子線の入射角θおよび方位角φのそれぞれを所定の角度刻みで変化させる。
【0110】
なお、入射角θおよび方位角φの範囲および角度の刻み(角度ステップ)は特に限定されないが、より回折コントラストの影響を低減させるためには、様々な入射方向から電子線を入射させて、取得するDPC像の数を多くすることが望ましい。
【0111】
(4)DPC像の積算(ステップS204)
次に、互いに試料Sに対する電子線の入射方向の異なる複数のDPC像を積算して1つの画像(DPC像)を生成する。本工程(ステップS204)は、上述したステップS104と同様に行われる。
【0112】
以上の工程により、回折コントラストが低減されたDPC像を得ることができる。
【0113】
本実施形態に係る画像取得方法によれば、上述した第1実施形態に係る画像取得方法と同様の作用効果を奏することができる。
【0114】
2.3. 電子顕微鏡の動作
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡の動作について説明する。第2実施形態に係る電子顕微鏡では、処理部40が、上述したステップS204およびステップS206の処理を行う。以下、処理部40の処理について説明する。
【0115】
図14は、第2実施形態に係る電子顕微鏡の処理部40の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0116】
まず、処理部40は、ユーザーが画像取得開始の指示を行ったか否かを判定する(ステップS210)。本処理(ステップS210)は、上述したステップS110と同様に行われる。
【0117】
画像取得開始の指示が行われたと判断された場合(ステップS210でYesの場合)、制御部42は、試料Sに対する電子線の入射方向が設定された入射方向となるように照射系偏向素子12を制御する(ステップS212)。例えば、記憶部54には、あらかじめ電子線の入射方向を設定するための入射角θおよび方位角φの範囲、および角度ステップ等の情報が記憶されており、制御部42はこれらの情報を読み出して電子線の入射方向を設定する。
【0118】
次に、制御部42は、電子線が試料S上で走査されるように走査コイル13を制御する。処理部40は分割型検出器24の出力信号を取り込み、画像生成部44は分割型検出器24の出力信号に基づいてDPC像を生成する(ステップS214)。
【0119】
次に、処理部40は、設定された数だけSTEM像が取得されたか否かを判定する処理を行う(ステップS216)。本処理(ステップS216)は、上述したステップS116と同様に行われる。
【0120】
設定された数だけSTEM像が取得されていないと判定された場合(ステップS216でNOの場合)、ステップS212に戻って、ステップS212、ステップS214が行われる。電子線を偏向させる処理(ステップS212)では、記憶部54に記録された電子線の入射方向を設定するための情報に基づいて、新たな電子線の入射方向が設定される。ステップS212、ステップS214、およびステップS216の処理は、設定された数だけSTEM像が取得されるまで繰り返し行われる。
【0121】
設定された数だけSTEM像が取得されたと判定された場合(ステップS216でYESの場合)、画像生成部44は、取得された互いに試料Sに対する電子線の入射方向の異なる複数のSTEM像を積算して1つの画像(DPC像)を生成する処理を行う(ステップS218)。そして、処理部40は、生成された画像を表示部52に表示させる処理を行い、処理を終了する。
【0122】
本実施形態に係る電子顕微鏡によれば、上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡100と同様の作用効果を奏することができる。
【0123】
3. 第3実施形態
3.1. 電子顕微鏡
第3実施形態に係る電子顕微鏡の構成は、
図1に示す電子顕微鏡100の構成と同じであり、図示およびその説明を省略する。
【0124】
3.2. 画像取得方法
上述した第1実施形態および第2実施形態に係る画像取得方法では、試料Sに対する電子線の入射方向を相対的に変更して複数のDPC像を取得し、取得した複数のDPC像を積算して画像を生成することで、回折コントラストの影響が低減されたDPC像を取得していた。
【0125】
これに対して、第3実施形態に係る画像取得方法では、電子線を試料S上で走査する際の各照射位置において試料Sに対する電子線の入射方向を変更しつつ、電子線を試料S上で走査して、各照射位置ごとに試料Sを透過した電子線の強度情報を取得し、当該強度情報に基づいて、画像を生成することにより、回折コントラストの影響が低減されたDPC像を取得する。以下では、上述した第1実施形態に係る画像取得方法および第2実施形態に係る画像取得方法と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0126】
図15は、第3実施形態に係る画像取得方法の一例を示すフローチャートである。
【0127】
(1)照射系および結像系の調整(ステップS300)
まず、電子顕微鏡100の照射系および結像系の調整を行う。本工程(ステップS300)は、上述したステップS100と同様に行われる。
【0128】
(2)試料の観察対象となる領域の決定(ステップS302)
次に、試料Sの観察対象となる領域を決定する。本工程(ステップS302)は、上述したステップS102と同様に行われる。
【0129】
(3)照射位置ごとの電子線の強度情報の取得(ステップS304)
次に、各照射位置において電子線の入射方向を変更しつつ、電子線を試料上で走査して各照射位置ごとに試料Sを透過した電子線の強度情報を取得する。すなわち、本工程では、試料S上で電子線を走査する際の各照射位置において電子線をロッキング(ビームロッキング)させつつ、電子線を試料S上で走査する。
【0130】
図16は、電子線のロッキングについて説明するための図である。電子線のロッキングとは、
図16に示すように、電子線EBの照射位置を試料S上の一点に止めたまま、電子線の入射方向(すなわち、電子線の入射角θおよび電子線の方位角φの少なくとも一方)を変更すること(すなわち、電子線の入射方向を走査すること)をいう。
【0131】
本工程では、具体的には、まず、電子源10から放出された電子線を最初の照射位置において照射系偏向素子12を用いてロッキングし、試料Sを透過した電子線を分割型検出器24で検出して当該電子線の強度情報を取得する。電子線は、あらかじめ設定された複数の入射方向から入射される。
【0132】
次に、電子源10から放出された電子線を走査コイル13を用いて次の照射位置に移動させ、当該次の照射位置において照射系偏向素子12を用いて電子線をロッキングし、試料Sを透過した電子線を分割型検出器24で検出して当該電子線の強度情報を取得する。
電子線は、最初の照射位置と同様にあらかじめ設定された複数の入射方向から入射される。すなわち、ここでの電子線の入射条件は、最初の照射位置での電子線の入射条件と同じである。
【0133】
この動作を繰り返し行うことで、各照射位置ごとに試料Sを透過した電子線の強度情報を取得することができる。
【0134】
本工程では、
図16に示すように、電子線の入射角θおよび電子線の方位角φのそれぞれを所定の角度刻みで変化させる。各測定位置での電子線の入射方向の変更条件は同じである。
【0135】
なお、入射角θおよび方位角φの範囲および角度の刻み(角度ステップ)は特に限定されないが、より回折コントラストの影響を低減させるためには各照射位置での入射方向の変更回数は多いことが望ましい。
【0136】
上記のように、照射系偏向素子12で電子線の入射方向を変更した場合、分割型検出器24の検出面25に入射する電子線に位置ずれが生じる。そのため、照射系偏向素子12における電子線の偏向量に応じて、結像系偏向素子22を用いて電子線を振り戻す。これにより、照射系偏向素子12で電子線を偏向させることに起因する検出面25上での電子線の位置ずれを補正することができる。
【0137】
(4)画像の生成(ステップS306)
各照射位置ごとの強度情報に基づいて、画像(DPC像)を生成する。DPC像は、上述したステップS104と同様に生成される。
【0138】
このようにして各照射位置において電子線をロッキングしつつ電子線を走査して得られたDPC像は、上述した第2実施形態に係る画像取得方法で得られたDPC像と同等であり、本実施形態によれば、回折コントラストの影響が低減されたDPC像を得ることができる。
【0139】
以上の工程により、回折コントラストが低減されたDPC像を得ることができる。
【0140】
本実施形態に係る画像取得方法によれば、上述した第1実施形態に係る画像取得方法および第2実施形態に係る画像取得方法と同様の作用効果を奏することができる。
【0141】
さらに、本実施形態に係る画像取得方法によれば、第2実施形態に係る画像取得方法と異なり、電子線で試料S上を1回走査するだけで、回折コントラストが低減されたDPC像を得ることができる。
【0142】
3.3. 電子顕微鏡の動作
次に、第3実施形態に係る電子顕微鏡の動作について説明する。第3実施形態に係る電子顕微鏡では、処理部40が、上述したステップS304およびステップS306の処理を行う。以下、処理部40の処理について説明する。
【0143】
図17は、第3実施形態に係る電子顕微鏡の処理部40の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0144】
まず、処理部40は、ユーザーが画像取得開始の指示を行ったか否かを判定する(ステップS310)。本処理(ステップS310)は、上述したステップS110と同様に行われる。
【0145】
画像取得開始の指示が行われたと判断された場合(ステップS310でYesの場合)、制御部42は、各照射位置において電子線の入射方向を変更しつつ、電子線が試料S上で走査されるように照射系偏向素子12および走査コイル13を制御する(ステップS312)。そして、画像生成部44は、分割型検出器24の出力信号に基づいて、DPC像を生成する(ステップS314)。そして、処理部40は、生成された画像を表示部52に表示させる処理を行い、処理を終了する。
【0146】
本実施形態に係る電子顕微鏡によれば、上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡100および第2実施形態に係る電子顕微鏡と同様の作用効果を奏することができる。
【0147】
4. 第4実施形態
4.1. 電子顕微鏡
図18は、第4実施形態に係る電子顕微鏡200を模式的に示す図である。以下、第4実施形態に係る電子顕微鏡200において、上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0148】
上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡100は、走査電子顕微鏡であった。これに対して、第4実施形態に係る電子顕微鏡200は、いわゆる透過電子顕微鏡である。すなわち、電子顕微鏡200では、試料Sに電子線を照射して試料Sを透過した電子線を結像して透過電子顕微鏡像(TEM像)を取得することができる。
【0149】
電子顕微鏡200は、撮像装置202を備えている。撮像装置202は、結像系によって結像されたTEM像を撮影する。撮像装置202は、例えば、CCDカメラ、CMOSカメラ等のデジタルカメラである。
【0150】
電子顕微鏡200では、電子源10から放出された電子線は、照射系レンズ11によって集束されて試料Sに照射される。試料Sに照射された電子線は、試料Sを透過して対物レンズ14によって結像される。対物レンズ14によって結像されたTEM像は、中間レンズ18および投影レンズ20によってさらに拡大されて撮像装置202の撮像面203に投影され、撮像装置202で撮影される。
【0151】
4.2. 画像取得方法
上述した第1実施形態に係る画像取得方法では、回折コントラストの影響が低減されたDPC像を取得する場合について説明したが、本実施形態に係る画像取得方法では、回折コントラストが低減されたTEM像を取得することができる。
【0152】
本実施形態に係る画像取得方法は、第1実施形態に係る画像取得方法と同様である。すなわち、本実施形態に係る画像取得方法では、試料ステージ16によって試料Sを傾斜させることにより試料Sに対する電子線の入射方向を相対的に変更して複数のTEM像を取得し、当該複数のTEM像を積算して画像を生成する。この結果、回折コントラストが低減されたTEM像を得ることができる。
【0153】
具体的には、試料ステージ16の傾斜機構で、上述したステップS104の工程と同様に、試料Sを所定の傾斜ステップで傾斜させつつ、試料Sを傾斜させるごとにTEM像の撮影を行うことで、互いに試料Sに対する電子線の入射方向の異なる複数のTEM像を取得する。そして、これらのTEM像を積算して画像を生成することで、回折コントラストの影響が低減されたTEM像を得ることができる。
【0154】
本実施形態に係る画像取得方法によれば、回折コントラストの影響が低減されたTEM像を得ることができる。
【0155】
4.3. 電子顕微鏡の動作
本実施形態に係る電子顕微鏡200の動作は、「4.2.画像取得方法」で説明した相違点を除いて電子顕微鏡100の動作と同様であり、その説明を省略する。
【0156】
本実施形態に係る電子顕微鏡200によれば、回折コントラストの影響が低減されたTEM像を得ることができる。
【0157】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0158】
例えば、第4実施形態に係る画像取得方法では、第1実施形態に係る画像取得方法を、TEM像に対して適用した例について説明したが、第2実施形態に係る画像取得方法を、TEM像に対して適用することも可能である。すなわち、照射系偏向素子12によって電子線を偏向させることにより試料Sに対する電子線の入射方向を変更して複数のTEM像を取得し、当該複数のTEM像を積算して画像を生成してもよい。この場合にも、回折コントラストの影響が低減されたTEM像を得ることができる。
【0159】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。