(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アルカリ二次電池の一種として密閉型のニッケル水素二次電池が知られている。この密閉型のニッケル水素二次電池は、開口を有する外装缶内に、セパレータを介して重ね合わされた正極及び負極を含む電極群がアルカリ電解液とともに収容され、この外装缶の開口が封口体により気密に閉塞されることにより形成される。
【0003】
ところで、ニッケル水素二次電池においては、正極と負極とを誤って充電してしまった場合(誤充電)、あるいは過充電してしまった場合、電池内にガスが異常発生して電池内の圧力が上昇してしまい外装缶が変形して電池が破裂するおそれがある。そこで、このような電池の破裂を防止するために、ニッケル水素二次電池においては、電池内で発生したガスの圧力が一定の値を超えた場合に開弁してガスを外部に放出する安全弁を有する電池が種々開発されている(例えば、特許文献1等を参照)。
【0004】
このような安全弁は、通常、封口体に配設されている。安全弁を有する封口体の構造は、例えば、以下の通りである。
【0005】
封口体は、通気孔を有する蓋板であって、外装缶の開口に嵌め合わされる蓋板と、この通気孔を塞ぐように配置された弁体と、この弁体を収容するとともに正極端子を兼ねるキャップ部材とを備えている。なお、このキャップ部材の側面にはガス抜き孔が設けられている。上記した弁体は、弾性材料、例えば、ゴム系材料からなり、その形状は円柱状をなしている。この弁体は、キャップ部材の頂壁と蓋板との間で圧縮された状態にあり、所定の圧力まで通気孔の開口端を閉塞し、電池の密閉性を保つ。
【0006】
弁体は、電池内にガスが異常発生し、電池内のガスの圧力が上昇して、所定の圧力を超えると、そのガスの圧力により弁体が弾性変形し、蓋板の通気孔を開く。これにより、電池内のガスは通気孔及びガス抜き孔を介して外部に放出され、電池の破裂は防止される。その後、電池内のガスの圧力の低下にともない弁体は元の形状に戻り蓋板の通気孔を閉塞し、電池は再度密閉状態となる。
【0007】
ところで、安全弁が作動し、電池の内部からガスが放出されると、それにともないアルカリ電解液も電池の外部へ放出される。このように、アルカリ電解液が放出されると電池内のアルカリ電解液の量が減る。アルカリ電解液の量が減ると電池の充放電反応が阻害されるので、電池の寿命が尽きてしまう。
【0008】
ここで、弁体が変形し、通気孔を開く際の圧力を弁体の作動圧とすると、弁体の作動圧が比較的低い場合、電池の内圧が比較的低い圧力であっても弁体が変形し通気孔を開いてしまう。このように弁体の作動圧が低いと、少しの内圧上昇によっても通気孔が開かれてしまい、その都度アルカリ電解液が電池の外部に放出されてしまうので、電池の低寿命化を招く。
【0009】
電池の長寿命化を図るためには、電池の外装缶が変形し始める圧力(以下、破裂圧力という)よりは低い範囲内で、弁体の作動圧をこの破裂圧力に近い値までなるべく高くすることが有効である。このように弁体の作動圧を高めることにより、通気孔が開かれる頻度は低くなるので、アルカリ電解液が電池の外部に放出されることを抑制でき、電池の長寿命化を図ることができる。
【0010】
このため、電池の長寿命化を図るために、破裂圧力よりは低い範囲内で、弁体の作動圧をなるべく高くする試みがなされている。このような試みとしては、例えば、弁体を構成するゴムの材料配合を調整してゴム硬度を上げることや、キャップ部材内の寸法を調整するなどして、キャップ部材内に収容された弁体をより強く押圧し、弁体の圧縮率がより高まるようにすることが行われている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明が適用されるアルカリ二次電池について、例えば、AAサイズの円筒型ニッケル水素二次電池(以下、電池という)2に本発明を適用した場合を例に図面を参照して説明する。
【0021】
図1に示すように、電池2は、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶10を備えている。この外装缶10は導電性を有し、その底壁35は負極端子として機能する。外装缶10の中には、電極群22が収容されている。
【0022】
この電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28により形成される。詳しくは、電極群22は、セパレータ28を間に挟んだ状態で重ね合わされた正極24及び負極26が渦巻状に巻回されて形成される。電極群22の最外周は負極26の一部(最外周部)により形成され、外装缶10の内周壁と接触している。即ち、負極26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。
【0023】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。このアルカリ電解液は、正極24と負極26との間での充放電反応を進行させる。このアルカリ電解液としては、一般的なニッケル水素二次電池に用いられるものが用いられる。例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
【0024】
セパレータ28の材料としては、一般的なニッケル水素二次電池に用いられるものが用いられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン繊維製不織布を用いることが好ましい。
【0025】
正極24は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の正極基材と、前記した空孔内及び正極基材の表面に保持された正極合剤とからなる。
【0026】
このような正極基材としては、例えば、発泡ニッケルを用いることができる。
【0027】
正極合剤は、正極活物質粒子、導電材、正極添加剤及び結着剤を含む。この結着剤は、正極活物質粒子、導電材及び正極添加剤を結着させると同時に正極合剤を正極基材に結着させる働きをなす。ここで、結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。
【0028】
正極活物質粒子は、水酸化ニッケル粒子又は高次水酸化ニッケル粒子である。
【0029】
導電材としては、例えば、コバルト酸化物(CoO)、コバルト水酸化物(Co(OH)
2)等のコバルト化合物及びコバルト(Co)から選択された1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
正極添加剤は、正極の特性を改善するために、必要に応じ適宜選択されたものが添加される。主な正極添加剤としては、例えば、酸化イットリウムや酸化亜鉛が挙げられる。
【0031】
正極24は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、正極活物質粒子からなる正極活物質粉末、導電材、正極添加剤、水及び結着剤を含む正極合剤スラリーを調製する。得られた正極合剤スラリーは、例えば発泡ニッケルに充填され、乾燥させられる。乾燥後、水酸化ニッケル粒子等が充填された発泡ニッケルは、ロール圧延されてから裁断される。これにより、正極合剤を保持した正極24が作製される。
【0032】
次に、負極26について説明する。
負極26は、帯状をなす導電性の負極芯体を有し、この負極芯体に負極合剤が保持されている。
【0033】
負極芯体は、貫通孔が分布されたシート状の金属材からなり、例えば、パンチングメタルシートを用いることができる。負極合剤は、負極芯体の貫通孔内に充填されるばかりでなく、負極芯体の両面上にも層状にして保持されている。
【0034】
負極合剤は、水素吸蔵合金の粒子、負極添加剤、導電材及び結着剤を含む。ここで、水素吸蔵合金は、負極活物質である水素を吸蔵及び放出可能な合金である。水素吸蔵合金の種類としては、特に限定はされないが、希土類元素、Mg及びNiを含む希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金が好適なものとして用いられる。上記した結着剤は水素吸蔵合金の粒子、負極添加剤及び導電材を互いに結着させると同時に負極合剤を負極芯体に結着させる働きをなす。ここで、結着剤としては親水性もしくは疎水性のポリマーを用いることができ、導電材としては、カーボンブラック、黒鉛、ニッケル粉等を用いることができる。
【0035】
負極添加剤は、負極の特性を改善するために、必要に応じ適宜選択されたものが添加される。
【0036】
負極26は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粉末と、導電材と、結着剤と、水とを準備し、これらを混練して負極合剤スラリーを調製する。なお、必要に応じて負極添加剤を更に添加しても構わない。得られた負極合剤スラリーは負極芯体に塗着され、乾燥させられる。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極芯体はロール圧延を施されて水素吸蔵合金の充填密度を高められた後、所定形状に裁断され、これにより負極26が作製される。
【0037】
以上のようにして作製された正極24及び負極26は、セパレータ28を介在させた状態で、渦巻き状に巻回され、これにより電極群22が形成される。
【0038】
上記したような電極群22及びアルカリ電解液を収容した外装缶10は、その開口に封口体11が固定されている。この封口体11は、蓋板14、弁体18及びキャップ部材20を含む。
【0039】
蓋板14は、導電性を有する円板形状の部材であり、電池2の内側に位置する第1面14aと、この第1面14aとは反対側である電池2の外側に位置する第2面14bとを有している。また、蓋板14の中央には、通気孔としての中央貫通孔16が穿設されている。この中央貫通孔16は、通常、後述する弁体18により閉塞されている。外装缶10の開口内には、蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、蓋板14及び絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁37をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁37に固定されている。
【0040】
ここで、
図1から明らかなように、外装缶10内には、電極群22と蓋板14との間に正極リード30が配置されている。正極リード30は、その一端が正極24に接続され、その他端が蓋板14の第1面14aに接続されている。これにより、正極24と蓋板14は電気的に接続されている。なお、蓋板14と電極群22との間には円形の上部絶縁部材32が配置され、正極リード30は上部絶縁部材32に設けられたスリット39を通して延びている。また、電極群22と外装缶10の底部との間にも円形の下部絶縁部材34が配置されている。
【0041】
一方、蓋板14の第2面14bには、金属材からなり、正極端子を兼ねるキャップ部材20が電気的に接続され、これにより、正極24と正極端子(キャップ部材20)とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続される。
【0042】
このキャップ部材20は、
図2に示すように、円筒形状の胴体部40と、胴体部40の基端41の周縁に設けられたフランジ42と、基端41とは反対側の先端部43を閉塞するように設けられた頂壁44とを有している。また、
図2から明らかなように、胴体部40の下部には側方へ開口するガス抜き孔46が穿設されている。このキャップ部材20は、弁体18を覆うように配設され、フランジ42の部分が蓋板14の第2面14bに溶接されている。ここで、キャップ部材20の胴体部40の内径は、蓋板14の中央貫通孔16の直径よりも大きい。
【0043】
弁体18は、弾性材料、例えば、ゴム系材料からなり、蓋板14の中央貫通孔16を閉塞する。この弁体18は、封口体11において、キャップ部材20の中に収容され、蓋板14の側を基端部50とし、この基端部50とは反対側を頭部52とする。弁体18は、基端部50の側に位置付けられる円柱状の本体部54と、頭部52の側に位置付けられ、本体部54よりも拡径された拡径部56とを含んでいる。本体部54の中心軸線C1と、拡径部56の中心軸線C2とは一致している。つまり、本体部54と拡径部56とは同軸上にある。このため、弁体18は、全体として段付きの円柱状をなしており、縦断面形状を示すと
図3のようになる。ここで、弁体18における中心軸線Cに沿った方向の長さを弁体18の全高Hとし、拡径部56における中心軸線Cに沿った方向の長さを拡径部56の厚さTとする。また、本体部54の直径は、中央貫通孔16を覆うように、中央貫通孔16の直径よりも大きい値に設定される。拡径部56の直径は、本体部54の直径より大きく、キャップ部材20の内径と略同じ値に設定される。これら本体部54及び拡径部56の直径は、電池のサイズ、具体的にはキャップ部材20及び蓋板14の中央貫通孔16のサイズにより設定される。
【0044】
弁体18は、ゴム系材料からなるので弾性変形が可能であり、
図2に示すように、ある程度圧縮された状態でキャップ部材20の内部に収容される。これにより、弁体18は、頭部52がキャップ部材20の頂壁44の内面に当接し、全体的に蓋板14に向けて押圧される。そして、弁体18の本体部54の基端面58が中央貫通孔16を覆い気密に閉塞する。つまり、弁体18は、所定の圧力で中央貫通孔16を塞いでいる。換言すれば、弁体18は所定の作動圧を作用させている。したがって、電池2が過充電等されて、外装缶10内にガスが異常発生して電池2内のガスの圧力が上昇し、その圧力が上記した所定の作動圧を超えると、弁体18は圧縮されて変形し、中央貫通孔16が開かれる。その結果、外装缶10内から中央貫通孔16及びキャップ部材(正極端子)20のガス抜き孔46を介して外部にガスが放出される。ガスの放出により電池2内のガスの圧力が下がると弁体18は元の形状に戻り再度電池2を密閉する。
【0045】
ここで、本発明においては、弁体18をキャップ部材20の内部に収容する際、弁体18を圧縮する圧縮率は、25%以上、30%以下とすることが好ましい。圧縮率が25%未満の場合、弁体18を蓋板14に押し付ける力が弱くなり、最低限の作動圧を得ることが難しくなる。逆に圧縮率が高すぎる場合、例えば、圧縮率が30%を超える場合、作動圧は高められるが、キャップ部材20を蓋板14に溶接する作業がし難くなり、溶接不良が発生するおそれがある。また、圧縮率が30%を超えると、弁体18が弾性変形し難くなり、弁体18の作動圧のばらつきが大きくなる。その結果、所望の圧力で弁体が作動せず、電池の内圧が著しく上昇する不具合が起こるおそれがあり、電池の安全性が低下する。このため、弁体の圧縮率は、上記範囲に設定することが好ましい。
【0046】
ところで、弁体18の圧縮率を30%以上に高めることで得られる作動圧は、通常、3.0MPa程度である。この場合、電池の内圧が3.0MPaに達した場合に弁体18が変形して中央貫通孔16を開いてガスを放出する。しかしながら、電池の外装缶10が変形し始めるのは、電池の内圧が5.0MPaを超えるような状況になってからである。つまり、一般的な電池における破裂圧力は、5.0MPaを超える圧力である。このため、電池の内圧が5.0MPa以下であれば、外装缶10の変形は起こらず、電池は破裂しないので、電池の安全性は確保される。このため、弁体18は、電池の内圧が5.0MPaを超える前に作動すればよく、弁体18の作動圧は5.0MPaまで上げることが望まれる。つまり、電池においては、内圧が5.0MPaになるまでは許容されるので、この圧力を許容圧力とする。このように、弁体の作動圧が3.0MPaを超え、5.0MPaまで高められれば、不要な開弁を減らすことができ、従来よりもアルカリ電解液の放出を抑えられ、電池の寿命を延ばすことができる。
【0047】
そこで、本発明者は、弁体の圧縮率をあまり上げずに、弁体の作動圧を上げることについて鋭意検討を行った。この検討過程で、弁体の全高Hと拡径部の厚さTとの比率に着目し、斯かる比率を調整することにより弁体の圧縮率をあまり上げなくても弁体の作動圧を従来よりも高めることができることを見出した。
【0048】
すなわち、本発明においては、弁体の全高Hに対する弁体の拡径部の厚さTの比率Rを27%以上とする。つまり、以下の(I)式で求められる比率Rが、27%≦Rの関係を満たすようにする。
【0049】
R[%]=(T/H)×100・・・(I)
【0050】
比率Rが、27%以上であると弁体の作動圧は3.0MPaを超える。
【0051】
なお、比率Rの上限としては、弁体の作動圧が5MPa以下となる47%とすることが好ましい。
【0052】
より好ましい比率Rの範囲は、36%≦R≦47%である。
【0053】
ここで、弁体18を構成するゴム系材料としては、一般的なニッケル水素二次電池に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴムが挙げられる。ここで、エチレンプロピレンジエンゴムは、耐アルカリ性に優れ、クロロプレンゴムと比較した場合、耐熱性、耐寒性に優れているので、弁体18を構成するゴム系材料としては、エチレンプロピレンジエンゴムを用いることがより好ましい。ニッケル水素二次電池においては、今後、使用可能温度領域の拡大が望まれているので、エチレンプロピレンジエンゴムを用いることは、高温環境下及び低温環境下で使用できる電池の開発において有利となる。なお、エチレンプロピレンジエンゴムの硬度(JIS−A)は、30〜90度のものを用いることが好ましい。
【0054】
以上説明したように、本発明によれば、従来のように弁体18の圧縮率を上げなくても、弁体18の全高Hに対する弁体18の拡径部の厚さTの比率Rを調整することで、電池内圧の許容圧力まで弁体の作動圧を上げることができる。このため、電池の密閉性が向上し、アルカリ電解液の放出を抑制できるので、電池の長寿命化が図れる。また、弁体の作動圧の高度化が不要な場合にも、本発明によれば、弁体のゴムの材料硬度を下げて成形性を向上させる効果が得られる。更に、本発明によれば、弁体の圧縮率を下げても作動圧を上げることができるので、圧縮率を高めることにより作動圧を上げていた従来の電池に比べ、電池の安全性を向上させることができる。つまり、本発明によれば、より安全で且つ長寿命のアルカリ二次電池を提供することができる。
【0056】
(実施例1)
(1)封口体の製造
硬度(JIS−A)が84度であるエチレンプロピレンジエンゴムを準備した。このエチレンプロピレンジエンゴムを、
図3に示すような段付きの円柱状に成形して弁体18を製造した。このとき、弁体18の全高Hは3.5mm、拡径部56の厚さTは0.95mm、拡径部56の外径は4.5mm、弁体18の本体部54の外径は2.64mmとした。ここで、弁体18の全高Hに対する拡径部56の厚さTの比率Rは27%である。
【0057】
得られた弁体18をキャップ部材20の内部に収容するとともに、このキャップ部材20を蓋板14の第2面14b上に溶接した。このとき、弁体18は蓋板14の中央貫通孔16を塞ぐ位置に配設した。ここで、中央貫通孔16の孔径は1.8mmとした。また、キャップ部材20の各部の寸法については、弁体18を圧縮率27%で収容できる所定の寸法とした。このようにして封口体11を製造した。この封口体11は、弁体の作動圧測定用としての20個及び電池へ組み込むための電池組み込み用としての5個の合計25個を製造した。
【0058】
(2)AAサイズの円筒型ニッケル水素二次電池の組み立て
次に、一般的なAAサイズのニッケル水素二次電池に用いられる正極24及び負極26をこれらの間にポリプロピレン繊維製不織布から成るセパレータ28を挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群22を作製した。
【0059】
得られた電極群22を、AAサイズ用の有底円筒形状の外装缶10内に水酸化ナトリウム水溶液からなるアルカリ電解液とともに収容した。
【0060】
次いで、電池組み込み用の封口体11と正極24とを正極リード30で電気的に接続し、その後、封口体11を、絶縁パッキン12を介して外装缶10の上端開口にかしめ固定した。このようにしてAAサイズの電池2を製造した。なお、製造した電池2の定格容量は2300mAhである。
【0061】
(3)初期活性化処理
得られた電池2に対し、温度25℃の環境下にて、0.1Cの電流で16時間の充電を行った後に、0.2Cの電流で電池電圧が0.5Vになるまで放電させる充放電作業を2回繰り返し、初期活性化処理を行った。このようにして、電池2を使用可能状態とした。
【0062】
(実施例2)
弁体の拡径部の厚さTを1.25mmとし、弁体の全高Hに対する拡径部の厚さTの比率Rを36%としたことを除いて、実施例1の封口体11と同様にして、実施例2における作動圧測定用及び電池組み込み用の封口体をそれぞれ製造した。
【0063】
そして、得られた電池組み込み用の封口体を用い、実施例1と同様にして使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。
【0064】
(実施例3)
弁体の拡径部の厚さTを1.50mmとし、弁体の全高Hに対する拡径部の厚さTの比率Rを43%としたことを除いて、実施例1の封口体11と同様にして、実施例3における作動圧測定用及び電池組み込み用の封口体をそれぞれ製造した。
【0065】
そして、得られた電池組み込み用の封口体を用い、実施例1と同様にして使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。
【0066】
(比較例1)
弁体の拡径部の厚さTを0.75mmとし、弁体の全高Hに対する拡径部の厚さTの比率Rを21%としたことを除いて、実施例1の封口体11と同様にして、
比較例1における作動圧測定用及び電池組み込み用の封口体をそれぞれ製造した。
【0067】
そして、得られた電池組み込み用の封口体を用い、実施例1と同様にして使用可能状態のニッケル水素二次電池を製造した。
【0068】
2.評価
(1)弁体の作動圧の測定
AAサイズ用の外装缶と同形状のシリンダであって、作動圧測定用の封口体を装着可能なシリンダと、このシリンダ内へガス(空気)を加圧しながら供給できるガス供給手段とを備える作動圧測定装置を準備した。
【0069】
上記した作動圧測定装置におけるシリンダに作動圧測定用の封口体を装着した。次いで、封口体が装着されたシリンダを25℃の環境下に置き、この状態でシリンダ内の空気圧を上げていった。そして、弁体が開弁して空気が外部へ放出されたときの圧力を作動圧として測定した。得られた結果を作動圧として、表1に示した。また、得られた作動圧と、弁体の全高Hに対する拡径部の厚さTの比率Rとの関係をグラフとして
図4に示した。
【0070】
(2)アルカリ電解液の放出量の測定
初期活性化処理済みの実施例1〜3及び比較例1の電池について、質量を測定した。この質量を充電前質量とした。
【0071】
次に、各電池について、40℃の環境下にて、1.0Cの充電電流を流し、電池電圧が最大値に達した後、10mV低下するまで充電するいわゆる−ΔV制御での充電を行った。そして、充電後の電池を同じ環境下で10分間放置し休止させた。この−ΔV制御での充電及び休止を1サイクルとし、このサイクルを6回繰り返した。これにより、電池を過充電状態とした。
【0072】
過充電状態とされた後の電池について、質量を測定した。この質量を過充電後質量とした。
【0073】
次に、以下の(II)式より、過充電の前後の電池の質量の差を求めた。得られた結果を過充電時減少質量として表1に示した。ここで、この過充電時減少質量は、過充電により電池内にガスが発生し、電池の内圧が上昇したことにともない安全弁が作動した際に外部へ放出されたアルカリ電解液の量に相当する。この過充電時減少質量が多いほど放出されたアルカリ電解液の量は多く、その分だけ電池の寿命は短くなると考えられる。
【0074】
過充電時減少質量=充電前質量−過充電後質量・・・(II)
【0076】
(3)考察
表1より、比較例1の弁体の作動圧は2.6MPaであり、従来の弁体において到達できる最高の作動圧である3.0MPaよりも低い。つまり、比較例1の弁体及び電池は、従来品と同等の性能を有する弁体及び電池である。この比較例1においては、過充電時減少質量が0.05gであり、これだけの量のアルカリ電解液が電池の外部に放出されたと考えられる。つまり、弁体の作動圧が3.0MPa以下である従来の電池では、0.05gのアルカリ電解液が過充電により放出されていたと言える。
【0077】
一方、実施例1の電池の過充電時減少質量は0.01gであり、比較例1よりもアルカリ電解液の放出量が少なく抑えられている。また、実施例2及び3の電池の過充電時減少質量は0gであり、アルカリ電解液は外部に放出されていない。このように、実施例1〜3の電池では、アルカリ電解液の放出量が少ないあるいはアルカリ電解液が放出されないので、アルカリ電解液の枯渇による電池寿命の低下は有効に抑制される効果が得られる。
【0078】
このような効果は、弁体の作動圧が3.0MPa以上に高められているためである。つまり、実施例においては、過充電により電池内部にガスが発生して電池内圧が上昇しても、電池の外装缶が変形するような破裂圧力に達しない範囲内で十分に高い作動圧が確保されているので、安全弁が頻繁に開放されることが抑制されているからである。このため、実施例は、本来、安全弁を開放しなくてよい場合にまで開放していた事態を避けることができ、無駄な開弁を減らす又は無くすことができているものと考えられる。
【0079】
本発明によれば、弁体の全高に対する拡径部の厚さの比率を調整することにより、上記したような無駄な開弁を減らす又は無くすことを容易に行うことができる。このため、得られる電池の寿命を延ばすことができる。
【0080】
表1の結果より、3.0MPaを超える作動圧を得るには、弁体の全高Hに対する拡径部の厚さTの比率Rを27%以上とする必要があることがわかる。
【0081】
また、弁体の作動圧と、弁体の全高Hに対する拡径部の厚さTの比率Rとの関係を示した
図4より、弁体の作動圧と、比率Rは、ほぼ比例していることがわかる。この関係から、
図4中に仮想線で示したように、電池の許容圧力である5.0MPaを得ることができる比率Rは、47%であることがわかる。よって、弁体の全高Hに対する拡径部の厚さTの比率Rの上限は47%にすることが好ましいといえる。
【0082】
更に、表1より、過充電時減少質量を0gとする、つまり、アルカリ電解液の放出を防止するためには、4MPa以上の作動圧を得ることが好ましいことがわかる。そして、このように4MPa以上の作動圧を得るには、弁体の全高Hに対する拡径部の厚さTの比率Rを36%以上とすることが好ましいことがわかる。
【0083】
以上より、本発明によれば、アルカリ二次電池の安全性を維持しつつ、電池の寿命特性を向上させることができることは明らかである。
【0084】
なお、本発明は上記した一実施形態及び実施例に限定されることはなく、種々の変形が可能であって、例えば、電池の種類は、ニッケル水素二次電池に限定されず、ニッケル−カドミウム二次電池、リチウムイオン二次電池等であってもよい。また、電池の形状は円筒形に限定されず、角形電池であってもよい。