(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、第1の実施形態に係る揮散装置10の外観図である。揮散装置10は、容器2(
図2)、中栓4(
図3、
図4)、吸液部材6(
図5)、押込み部材8(
図6)、およびカバー9(
図1)を有する。容器2、中栓4、押込み部材8、およびカバー9は、樹脂により形成されており、吸液部材6は、不織布により形成されている。揮散装置10は、これら複数の部材2、4、6、8、9を組み合わせて構成されている。
【0012】
図2に示すように、容器2は、芳香成分や消臭成分を含む薬液(図示せず)を収容する有底の略円筒形の胴部21、この胴部21の上部に突設した胴部21より小径の略円筒形の首部22、および胴部21の上端から首部22の下端に向けて上方にわずかに傾斜して連続した略円環状の肩部23を一体に有する、いわゆるボトル容器である。胴部21は、底部に向けて円筒をなだらかに収束させた外形を有し、背面側を偏平につぶした形状を有する。首部22の上端22aの内側には円形の開口24が形成され、首部22の外周には中栓4を固定するための円環状の凸条25が一体に突設されている。凸条25は必ずしも円環状である必要はなく、例えばネジ山に置き換えてもよい。
【0013】
胴部21の上端と肩部23の外周の間の外面側には、後述するカバー9の下端縁91を嵌合するための略円環状の凸部(図示せず)および略円環状の段部26が設けられている。この段部26にカバー9の下端縁91を嵌合して容器2にカバー9を嵌め合わせることにより、
図1に示すように、揮散装置10の外面が全体的に段差の無い滑らかな面になる。カバー9は、下端縁91から上端開口部92に向けてなだらかに収束した外形を有する筒状に形成され、胴部21と同様に、背面側を偏平につぶした形状を有する。また、カバー9は、その前面側および背面側のそれぞれに複数の揮散孔93を有する。揮散孔93の形状や大きさは任意に設定可能である。
【0014】
図3は中栓4の外観図であり、
図4は中栓4を中心線に沿って二等分した縦断面図である。
図3および
図4に示すように、中栓4は、略円筒形の筒状体41、この筒状体41の軸方向の下端41aを密閉状態で塞いだ略半球状の蓋体42、および筒状体41の上端41bに連続して外側に折り返した円環状の折返し部43を一体に有する。筒状体41は、容器2の開口24の内径よりわずかに小さな外径を有し、その下端41aを容器2内に位置せしめるように開口24から挿通配置される。このため、蓋体42は、容器2内に収容した薬液に没入される位置に配置される。
【0015】
筒状体41の下端41a近くの内面側には、内側に向けてわずかに膨出した円環状の肉厚部44(
図4参照)が設けられている。肉厚部44は、筒状体41の下端41aに向けて筒状体41の内径を徐々に小さくするようになだらかに膨らんでいる。つまり、筒状体41の内径は、肉厚部44の部分で下端41aに向けて徐々に縮径されている。肉厚部44を設けることにより、筒状体41の下端近くにおける機械強度を増している。これにより、後述するように蓋体42を筒状体41から分離する際に、筒状体41の下端41a近くに大きな力が作用した場合に、筒状体41が弾性変形して伸びてしまう不具合を抑制することができ、蓋体42の分離を確実にすることができる。またさらに、筒状体41のうち肉厚部44の上方にあたる部分の内径を、肉厚部44に向けて徐々に小さくさせてもよい。この場合、後述する揮散装置10の組み立て時に押込み筒81を容器2に固定した中栓4の筒状体41に挿通しやすくすることができる。
【0016】
蓋体42は、筒状体41の下端41aの肉厚部44のさらに内側に連続して、筒状体41と一体に設けられている。蓋体42の外周には、円環状のフランジ部45が設けられ、このフランジ部45を介して蓋体42が筒状体41の下端41aに接続している。フランジ部45と肉厚部44の内面との間には、蓋体42を分離するための円環状の肉薄部46が設けられている。肉薄部46は、筒状体41の下端側から円環状の溝を設けることによって形成されており、蓋体42の肉厚より薄く形成されている。蓋体42は、フランジ部45の内側から下方に略半球状に膨出した膨出部47を有する。この膨出部47の内側には、後述する吸液部材6の吸い上げ部分61の下端61aが挿入配置される。
【0017】
本実施形態では、蓋体42のフランジ部45と筒状体41の肉厚部44の間に筒状体41の下端側から円環状の溝を設けて肉薄部46を形成したが、筒状体41の内側から蓋体42のフランジ部45に円環状の溝を設けて肉薄部46を形成してもよい。また、溝は必ずしも円環状である必要はなく、不連続であってもよく、その深さも均一である必要はない。いずれにしても、未使用状態において蓋体42のフランジ部45と筒状体41の下端41aとの間が密閉されていればよく、後述するようにフランジ部45を押込み部材8の下端81aによって押圧したときに蓋体42を破封して開くことができるような構造の肉薄部46であればよい。
【0018】
折返し部43は、筒状体41より一回り大きい略円筒状の外形を有し、筒状体41の上端41bを外側に180°折り返して連続した断面略U字形に形成されている。折返し部43が筒状体41の外面に対向する内面43aには、上述した容器2の首部22に設けた凸条25を嵌合する円環溝状の嵌合凹部48が形成されている。凸条25をネジ山に置き換えた場合、嵌合凹部48の代りにネジ溝を設ければよい。折返し部43の内径は、容器2の首部22の外径と略同じかわずかに大きい。首部22の凸条25と折返し部43の嵌合凹部48は逆に設けてもよい。折返し部43の外面43bは、下方に向けて僅かに外側に拡がる方向に傾斜している。
【0019】
嵌合凹部48より上方における筒状体41と折返し部43との間の隙間49は、容器2の首部22の肉厚と略同じ幅を有する。また、隙間49の深さは、嵌合凹部48に凸条25を嵌合した状態で首部22の上端22aが折返し部43の内面に当接する深さに設定されている。よって、中栓4の筒状体41を容器2の開口24から挿通して蓋体42を容器2内に配置し、折返し部43の嵌合凹部48に首部22の凸条25を嵌合せしめると、首部22の上端22aが筒状体41と折返し部43との間の隙間49に嵌り、開口24が塞がれて容器が密閉されることになる。
【0020】
図5に示すように、吸液部材6は、容器2内の薬液に浸漬される略角柱状の吸い上げ部分61、およびこの吸い上げ部分61の上端61bに一体に連続した略矩形板状の揮散部分62を有する。吸液部材6は、例えば、均一な厚みを有する不織布を形状加工して形成されている。吸い上げ部分61の下端61aは、中栓4の蓋体42の内面形状(半球面形状)に合わせて面取りされている。吸液部材6の形状は任意に変更可能であり、後述する押込み部材8によって保持可能な形状であればよい。例えば、吸い上げ部分61と揮散部分62を別体にすることもでき、両者の厚みを異ならせることもでき、使用状態に配置したときに両者が少なくとも接触する構造であればよい。
【0021】
図6に示すように、押込み部材8は、吸液部材6の吸い上げ部分61を挿通配置する略円筒形の押込み筒81、吸液部材6の揮散部分62を収容配置する収容部82、および軸方向の上端に設けた略円板状の押圧部83を一体に有する。つまり、押込み部材8は、押込み筒81内に吸液部材6の吸い上げ部分61を挿通配置し且つ収容部82内に吸液部材6の揮散部分62を収容配置することで吸液部材6を保持することができる構造を有する。
【0022】
そして、押込み部材8は、吸液部材6を保持した状態で、押込み筒81を中栓4の筒状体41内に挿通し、且つ押圧部83をカバー9の上端開口部92(
図1参照)に嵌め込むことで取り付けられる。つまり、押込み筒81の外径は、中栓4の筒状体41の内径よりわずかに小さく設計されており、押圧部83の外形は、カバー9の上端開口部92内に挿通可能な形状にされている。押込み部材8の取り付け構造および取り付け方法については後述する。
【0023】
収容部82から離間した押込み筒81の下端81aには、下方に向けて尖った形状の破封爪84が設けられている。見方を変えると、破封爪84の先端が押込み筒81の下端81aとして機能する。つまり、押込み筒81を中栓4の筒状体41内に押し込んだとき、破封爪84の先端により蓋体42のフランジ部45が部分的に押圧されて肉薄部46に沿って蓋体42が押し開かれるようになっている。本実施形態において、破封爪84は、押込み筒81の先端を斜めに途中まで切断した形状を有する。破封爪84を押込み筒81の全周に連続して設けないことで、蓋体42を完全に分離することがなく、蓋体42の一部が筒状体41の下端41aにつながった状態にすることができる。
【0024】
押込み筒81の下端であって破封爪84の周方向の反対側には、押込み筒81を中栓4の筒状体41内に押し込んで蓋体42を開けた後、筒状体41に一部がつながった状態の蓋体42を
図9に示す開状態に係止するための蓋係止部85が設けられている。蓋係止部85の突出長さは破封爪84の突出長さより短い。このため、押込み筒81を筒状体41内に押し込んだとき、破封爪84の先端が蓋体42のフランジ部45に先に突き当たり、蓋体42が筒状体41の下端41aから部分的に分離され、この分離開始部位の周方向の反対側で蓋係止部85によって蓋体42が開状態に係止される。破封爪84と蓋係止部85の間には、2つの切欠き部86が設けられている。
【0025】
収容部82は、吸液部材6の揮散部分62の形状に合った矩形の凹所71を有する。凹所71は、底壁部72、背面支持部73、一対の側壁部74、74、および押圧部83によって区画されている。つまり、凹所71の前面は開放しており、前面側から吸液部材6を取り付け可能となっている。底壁部72には、押込み筒81の上端開口に連通した円形の開口部72aが形成されている。
【0026】
背面支持部73は、両側の側壁部74、74との間にスリット75、75を介して設けた半円筒部分76を含む。スリット75、75は、揮散孔として機能する。半円筒部分76の中央には、上下に延びた揮散孔76aが設けられている。凹所71には、半円筒部分76の下部と開口部72aの縁をつないで傾斜したガイド面71aが設けられている。半円筒部分76の揮散孔76aの両側には、上下に延びた2本のリブ77、77が一体に突設されている。一対の側壁部74、74は、断面L字状に折り曲げた形状を有し、この折り曲げ部74a(
図6では一方のみを図示)が背面支持部73の一部として機能する。
【0027】
吸液部材6を押込み部材8に装着する場合、まず、凹所71の前面側から吸液部材6の吸い上げ部分61の下端61aを押込み部材8の開口部72aに挿通する。このとき、ガイド面71aによって下端61aが開口部72aに案内され、吸い上げ部分61が押込み筒81内に容易に挿通配置される。そして、吸い上げ部分61を押込み筒81内に挿通配置した後、吸液部材6の揮散部分62を収容部82の凹所71内に収容配置する。この状態で、揮散部分62の前面側は開放され、揮散部分62の背面は背面支持部73によって支えられる。つまり、揮散部分62bの背面が、半円筒部分76の縁部76b、76b、および側壁部74、74の折り曲げ部74a、74aによって支えられる。リブ77、77の端部77a、77aは、半円筒部分76の縁部76b、76bより凹所71から離れた位置にあり、半円筒部分76の縁部76b、76bとリブ77、77の間の空間が揮散部分62によって塞がれないようになっている。
【0028】
また、この状態で、吸液部材6の吸い上げ部分61の下端61aが、押込み筒81の下端81a、すなわち破封爪84の先端より下方に突出している。このように、破封爪84の先端より突出した吸い上げ部分61の下端61aは、吸液部材6を保持した状態の押込み部材8の押込み筒81を中栓4の筒状体41内に挿通配置した
図7に示す状態(蓋体42を破封しない状態)で、蓋体42の内側に配置される。言い換えると、蓋体42は、筒状体41の下端41aから突出する吸液部材6の吸い上げ部分61の下端61aを収容するため、下方に突出した半球形状に形成されている。
【0029】
収容部82の側壁部74、74の外側には、それぞれ、押込み部材8をカバー9に対して上下にスライド可能に取り付けるためのスライド突起87、87が突設されている。スライド突起87は、断面T字状に形成され、カバー9の内側に設けた一対のスライドレール94、94(
図7および
図8参照)に係合される。スライドレール94の下端はスライド突起87を挿通するため開放されている。押込み部材8を
図7に示す未使用状態に配置した状態で、スライド突起87の上端部87aがスライドレールの端部に当接し、押込み部材8がそれ以上上方に移動しないようになっている。
【0030】
また、収容部82の側壁部74、74の外側には、それぞれ、押込み部材8を
図7に示す未使用状態に配置した状態で、カバー9の係合爪95、95に係合する係合突起88、88が突設されている。係合突起88、88は、スライド突起87の上方に離間して設けられている。押込み部材8の係合突起88、88をカバー9の係合爪95、95に係合した状態で、押込み部材8が
図7に示す未使用状態に係止される。この状態で、押込み部材8が中栓4の上方に離間している。
【0031】
さらに、収容部82の底壁部72の下面側には、径方向に離間した一対の保持爪89、89が下方に突設されている。保持爪89、89は、押込み部材8を
図8および
図9に示す使用状態に押し込んだとき、中栓4の折返し部43の下端縁に係合し、この位置に押込み部材8を係止するよう機能する。つまり、押込み部材8の押圧部83を押し込んで、押込み部材8を使用状態に配置すると、押込み部材8がこの位置に保持されて未使用状態に戻ることができない構造になっている。
【0032】
中栓4の折返し部43の外面43bは、上述したように、下方に向けて外側に拡がる方向に傾斜している。このため、押込み部材8を押し込んだとき、保持爪89が外面43bによって押されて外側に湾曲するように弾性変形する。そして、保持爪89が外面43bを超えた後、保持爪89が元の形状に復元され、折返し部43の下端縁に係合する。このため、押込み部材8を使用状態に押し込むと、ユーザーが一対の保持爪89、89を外側に広げて係合を解除しない限り未使用状態に戻すことができない。なお、ユーザーが押込み部材8を押し込んで使用状態に配置したことは、これら保持爪89が折返し部43の下端縁に係合する際の係合音により認識することができ、押込み部材8を使用状態に押し込んだことの動作確認ができる。
【0033】
押圧部83は、ユーザーによって押圧される上面が湾曲して下方に向けて中央が凹んだ形状に形成されている。押圧部83は、
図1に示す未使用状態で、カバー9の上端開口部92から一部が突出している。押圧部83が上端開口部92から突出していることにより、ユーザーが押圧部83を認識し易く、押圧部83を深く押し込み易い。なお、
図1に示すように、押圧部83とカバー9の上端開口部92との間には、僅かな隙間96が設けられている。言い換えると、押圧部83の外周縁が一部凹ませてあり、上端開口部92との間に隙間96が形成されている。この隙間96は、薬液を揮散させるための揮散孔として機能する。
【0034】
以下、上述した揮散装置10の組み立て手順について説明する。
第1に、薬液を収容した容器2の開口24から中栓4の筒状体41を挿入し、筒状体41の下端41aを薬液中に没入する。そして、中栓4の折返し部43の嵌合凹部48に容器2の首部22の凸条25を嵌合し、中栓4を容器2の首部22に固定する。この状態で、容器2が中栓4によって密閉される。また、この状態(
図7の状態)で、中栓4の蓋体42が膨出した側の頂部と容器2の底との間には、蓋体42が開いた際に容器2の底に接触しない程度の隙間(
図9参照)が設けられている。この隙間は必ずしも蓋体42を全開にできる大きさで設ける必要はなく、少なくとも、蓋体42を開いた使用状態(
図8および
図9に示す状態)で吸液部材6の吸い上げ部分61の下端61aが容器2の底に接触することができればよい。
【0035】
第2に、押込み部材8に吸液部材6を装着する。このとき、まず、押込み部材8の前方から凹所71の底にある開口部72a内に吸液部材6の吸い上げ部分61の下端61aを挿入し、吸い上げ部分61を押込み部材8の押込み筒81内に押し込む。このとき、凹所71の背面側にあるガイド面71aに吸い上げ部分61の下端61aが押し付けられ、ガイド面71aに沿って下端61aが開口部72aに向けて案内される。そして、吸い上げ部分61を押込み筒81内に挿入した後、揮散部分62を凹所71内に収容配置する。
【0036】
第3に、上記のように吸液部材6を保持した押込み部材8をカバー9の内側に取り付ける。このとき、押圧部83を先頭にしてカバー9の下端縁91側から押込み部材8を挿入し、カバー9の内部にある一対のスライドレール94に押込み部材8の一対のスライド突起87を挿通する。同時に、押込み部材8の押圧部83をカバー9の上端開口部92に挿入する。そして、押込み部材8の一対の係合突起88、88にカバー9の一対の係合爪95、95が係合するまで、押込み部材8をカバー9の内側に押し込む。この状態で押込み部材8がカバー9に係合され、カバー9の下端側から脱落する心配がない。
【0037】
上述した第1の手順は、上述した第2、第3の手順とは別になされるものであり、第2、第3の手順と平行して、或いは第2、第3の手順より後にしてもよい。
【0038】
最後に、カバー9と一体にされた押込み部材8の押込み筒81を、容器2に固定した中栓4の筒状体41内に挿通し、カバー9の下端縁91を容器2の段部26に嵌め込む。これにより、揮散装置10の組み立てが完了する。この状態で、押込み部材8の押込み筒81の下端81aから突出した吸液部材6の吸い上げ部分61の下端61aが、中栓4の蓋体42の内面に当接した状態となり、押込み筒81の下端81a、すなわち破封爪84の先端が蓋体42のフランジ部45から上方に僅かに離間した状態となる。
【0039】
上記のように組み立てた揮散装置10を未使用状態から使用状態にする場合、ユーザーは、カバー9の上端開口部92内にあって一部が上端開口部92から突出した状態にある押込み部材8の押圧部83を下方に押圧して上端開口部92内に押し込む。これにより、押込み部材8は、
図7に示す状態から
図8に示す状態に移動され、
図9に示すように、中栓4の蓋体42が破封され、揮散装置10の使用が開始される。
【0040】
このとき、まず、押込み部材8の一対の係合突起88がカバー9の対応する係合爪95から外れ、押込み部材8の一対の保持爪89が中栓4の折返し部43に接触し、押込み部材8の破封爪84の先端が中栓4の蓋体42のフランジ部45に当接する。保持爪89が折返し部43に接触するタイミングと破封爪84がフランジ部45に当接するタイミングは略同じであるが、接触するタイミングを少しずらすように、保持爪89の長さなどを調節してもよい。破封爪84の先端が中栓4のフランジ部45に向けて移動するとき、筒状体41の肉厚部44の内面に破封爪84の先端が接触しつつ下方に移動し、フランジ部45に向けて破封爪84の先端が案内される。
【0041】
この状態から押込み部材8の押圧部83をさらに押し込むと、一対の保持爪89が折返し部43の外面43bに摺接しながら弾性変形して外側に広がり、折返し部43を乗り越えた後、元の形に戻って折返し部43の下端縁に係合する。同時に、破封爪84の先端が、フランジ部45を押し、破封爪84が押し付けられた部位から蓋体42が開かれ始める。このとき、上述したように蓋体42の内面に当接した状態の吸液部材6の吸い上げ部分61が蓋体42を内側から押し、蓋体42を開く力を補助する。
【0042】
押込み部材8がその移動可能範囲における最下端まで押し込まれて一対の保持爪89が折返し部43の下端縁に係合すると、
図9に示すように、蓋体42が略90°下方に回動した状態に開かれ、破封爪84より下方に突出した吸い上げ部分61の下端61aが容器2の底に接触する。吸液部材6は不織布などにより形成されているため、薬液を吸収すると膨張し、吸い上げ部分61の長さもわずかに長くなる。このため、吸い上げ部分61の長さは、
図8および
図9に示す使用状態に配置した際に、薬液を吸収した吸い上げ部分61の下端61aが容器2の底に接触する程度の長さに設定すればよい。
【0043】
本実施形態によると、中栓4の下端に設けた蓋体42を略半球状にして筒状体41の下端から下方に膨出させたため、押込み部材8の破封爪84の先端81aが蓋体42のフランジ部45を押圧する位置より吸液部材6の吸い上げ部分61の下端61aを下方に配置することができ、蓋体42を開いた状態で、破封爪84より吸い上げ部分61の下端61aを飛び出させることができる。このため、突き刺しによる開封を可能としつつ吸液部材6の下端61aを容器2の底に当接させることができる。
【0044】
なお、本実施形態では、筒状体41の下端41aから突出した吸い上げ部材61の下端61aと容器2の底との間に、破封した蓋体42が挟まることのないように、蓋体42を筒状体41から分離しないことに加えて、開いた蓋体42を
図9に示す開状態に係止するようにした。つまり、押込み部材8が最下端まで押し込まれる直前に、押込み部材8の下端にある蓋係止部85を筒状体41の下端41aより下方に突出せしめて、蓋体42の縁を支えるようにした。これにより、吸液部材6の吸い上げ部分61の下端61aと容器2の底との間に蓋体42が挟まれる不具合を防止することができ、容器2の底に残った薬液を吸い上げて揮散させることができる。
【0045】
また、本実施形態のように、蓋体42を略半球状にすることで、蓋体42を筒状体41の下端に一部をつなげたまま下方に回動させたとき、蓋体42の回動の先端が描く円弧状の軌跡を小さくすることができ、蓋体42と容器2の底までの距離を最小にとどめることができる。これに対し、例えば、蓋体42を円筒状にした場合、同じ半径の円筒では、半球状の蓋体42と比較して回動の先端が描く軌跡が大きくなってしまう。例えば、本実施形態のように蓋体42を略半球状にすることで、中栓4の筒状体41を少し長くすることもでき、設計の自由度を高めることができる。
【0046】
また、押込み部材8の押込み筒81を中栓4の筒状体41内に挿通して押し込む際に、押込み筒81の外周面を肉厚部44の内面に摺接させた状態でスライドさせるため、
図8および
図9に示すように、押込み部材8を使用状態に押し込んだ状態で、押込み筒81の外周面と筒状体41の内周面(肉厚部44の内面)が密着されてシールされる。これにより、押込み筒81の外周面と筒状体41の内面との間の隙間に薬液が侵入することを防止でき、この隙間を介して薬液が漏れる不具合を防止することができる。
【0047】
以上のように、第1の実施形態によると、筒状の破封爪84によって蓋体42のフランジ部45を押すことによって蓋体42を筒状体41の下端41aから徐々に分離させ、押込み筒81内に挿通した吸液部材6の吸い上げ部分61の下端61aを破封爪84より突出させたため、蓋体42を開いた状態で吸い上げ部分61の下端61aを容器2の底に接触させることができ、容器2内の底に残った薬液を吸い上げて揮散させることができ、薬液の無駄を無くすことができる。
【0048】
また、本実施形態によると、揮散装置10の使用を開始する際に、従来のように、一旦カバー9を開けて容器2を破封し、吸液部材6を薬液に浸漬させた後、カバー9を元に戻すといった面倒な作業が不要となり、押込み部材8の押圧部83を「カチッ」と音がするまで押し込むだけの簡単な操作によって使用を開始することができ、利便性を向上させることができる。
【0049】
次に、
図10および
図11を参照して、第2の実施形態に係る揮散装置110について説明する。
図10は、未使用状態の揮散装置110の縦断面図であり、
図11は、使用状態の揮散装置110の縦断面図である。ここでは、上述した第1の実施形態の揮散装置10と同様に機能する構成要素に同一符号を付してその詳細な説明を省略し、第1の実施形態の揮散装置10と異なる構成についてのみ説明する。揮散装置110の組み立て手順についても、第1の実施形態の揮散装置10と同じであるため、その説明を省略する。
【0050】
本実施形態の揮散装置110は、押込み部材8の押圧部83’を比較的薄い平らな板状体により形成し、その分、吸液部材6の揮散部分62’を収容する凹所71をカバー9の上端近くに配置した。これにより、揮散装置110の全長に対する吸い上げ部分61’の長さの比率を高めており、容器2’の軸方向の高さ(すなわち容量)を増大させている。また、本実施形態では、吸液部材6が押込み部材8に対して上下にスライド可能に保持されている。
【0051】
つまり、揮散部分62’の上下方向のサイズは、凹所71の上下方向のサイズより小さい。言い換えると、
図10に示す未使用状態において、揮散部分62’と凹所71の底壁部72との間に空間が形成されている。このため、押込み部材8を
図10の未使用状態から
図11の使用状態に押し込んだとき、すなわち蓋体42’が開いたとき、吸液部材6が自重により落下し、吸い上げ部分61’の下端61aが容器2の底に接触するようになっている。言い換えると、
図10の未使用状態では、吸液部材6の吸い上げ部分61’の下端61aが、筒状体41の下端を密閉している蓋体42’の内面に当接して支えられている。
【0052】
また、本実施形態では、押込み部材8を押し込んだときに、保持爪89を容器2の首部22の外周に設けた円環状のリブ27に係合させるようにした。これにより、第1の実施形態のように押込み部材8を中栓4に係合させるのではなく、容器2に対して直接係合させることができ、中栓4の状態にかかわらず押込み部材8を使用状態に確実に保持せしめることができる。
【0053】
以上のように、第2の実施形態によると、押込み部材8を押し込んで蓋体42’を開けたとき、吸液部材6を自重により落下させて吸い上げ部分61’の下端61aを容器2の底に接触させるようにしたため、吸液部材6の揮散部分62を小さくすることができ、揮散装置10の組み立て時に吸液部材6を押込み部材8に装着しやすくすることができ、揮散装置110の製造コストを低減することができる。また、このような簡単な構成を採用した上で、吸液部材6の吸い上げ部分61’の下端61aを常に同じ圧力で容器2の底に当接させることができ、信頼性を高めることができる。本実施形態においても、上述した第1の実施形態と同様の効果を奏することができることは言うまでもない。
【0054】
図12は、上述した第1の実施形態の揮散装置10の変形例である揮散装置200を示す縦断面図である。ここでも、上述した第1の実施形態と同様に機能する構成要素には同一符号を付してその詳細な説明を省略し、第1の実施形態と異なる構成要素についてのみ説明する。
【0055】
この揮散装置200によると、吸液部材6を移動不能に保持した押込み部材8’が、スライド突起87や係合突起88を備えておらず、代わりに一対の係合爪201、201を備えている。係合爪201、201は、それぞれ、収容部82の側壁部74、74の外側から上方に向けて湾曲して突設されており、押込み部材8’の径方向の反対側に離間対向して設けられている。
【0056】
一方、カバー9は、上端開口部92の縁に一対の係合突起202、202を備えている。係合突起202、202は、押込み部材8’の係合爪201、201に対応して設けられており、押込み部材8’をカバー9の上端開口部92から挿通して装着するとき、係合爪201、201をそれぞれ係合せしめるようになっている。
【0057】
このため、この変形例によると、押込み部材8’をカバー9の上端開口部92を介して挿通して取り付けることができ、揮散装置200の組み立てを容易にできる。なお、この変形例の構造は、第2の実施形態の揮散装置110に適用することもできる。
【0058】
以上、いくつかの実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
以下、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
薬液を収容した容器と、
前記容器内に位置した下端および前記容器の上部に開口した上端を有する筒状体と、
前記筒状体の下端を塞ぐ蓋体と、
前記容器内の薬液を吸い上げて揮散させる吸液部材と、
前記吸液部材を保持して前記筒状体の内部に配置され、前記蓋体を押して前記筒状体の下端から少なくとも部分的に分離させる押込み部材と、を有し、
前記押込み部材によって前記蓋体を開けた使用状態で、前記吸液部材の下端が前記押込み部材の下端より突出して前記容器の底に接触することを特徴とする揮散装置。
[2]
前記蓋体は、前記筒状体の下端から下方に膨出した膨出部を有し、
前記蓋体を開く前の未使用状態で、前記吸液部材の前記下端が前記押込み部材の下端より突出して前記膨出部の内面に当接していることを特徴とする[1]に記載の揮散装置。
[3]
前記押込み部材は、前記蓋体の一部を押して前記筒状体の下端から少なくとも部分的に分離させる破封爪、および開いた蓋体を開状態に係止する蓋係止部をその下端に備えていることを特徴とする[1]または[2]に記載の揮散装置。
[4]
前記押込み部材は、前記吸液部材を自重により落下可能に保持しており、
前記蓋体を開く前の未使用状態において、前記吸液部材の下端が前記蓋体の内面に当接して支えられていることを特徴とする[1]に記載の揮散装置。
[5]
前記吸液部材は、前記蓋体を開けたとき、自重により落下して、その下端が前記容器の底に当接することを特徴とする[4]に記載の揮散装置。