特許第6876448号(P6876448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876448
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】トンネル切羽前方変位計測方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/04 20060101AFI20210517BHJP
【FI】
   E21D9/04 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-13947(P2017-13947)
(22)【出願日】2017年1月30日
(65)【公開番号】特開2018-123471(P2018-123471A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 秀雄
【審査官】 松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−000933(JP,A)
【文献】 特開2012−077509(JP,A)
【文献】 特開2007−224594(JP,A)
【文献】 特開2015−113572(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0198042(US,A1)
【文献】 特開2001−341202(JP,A)
【文献】 特開2003−127231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル切羽から当該切羽前方に向けて計測用孔を削孔し、前記計測用孔に地中の変位に追従可能な地中変位計設置用のさや管を介して地中変位計を設置して地中変位を計測するトンネル切羽前方変位計測方法において、
前記さや管に、元の形状が中空の管状で外周面を圧潰又は圧縮変形されて内部の中空断面を圧縮して形成され、前記内部に流体を圧入することにより当該流体圧で前記外周面を半径方向に膨張させて前記管状に復元可能な管材を用い、
前記外周面を圧潰又は圧縮変形され前記管状に復元前のさや管を前記計測用孔に挿入し、
前記管状に復元前のさや管を前記計測用孔に挿入後、前記管状に復元前のさや管の内部に前記流体を圧入することにより前記管状に復元前のさや管の前記外周面を半径方向に膨張させて前記管状に復元させて前記計測用孔の内周面に密着させ、
前記計測用孔内に密着させた前記復元後のさや管の内部に前記地中変位計を挿入し、前記復元後のさや管を前記地中の変位に追従させて前記地中変位計によりトンネル切羽前方の変位を計測する、
ことを特徴とするトンネル切羽前方変位計測方法。
【請求項2】
さや管に、内部に加圧水を注入することにより外周面が半径方向に膨張可能でかつ計測用孔内で地中の変位に追従可能な鋼管を採用する請求項1に記載のトンネル切羽前方変位計測方法。
【請求項3】
さや管に、内部に蒸気圧を通すことにより外周面が半径方向に膨張可能でかつ計測用孔内で地中の変位に追従可能な樹脂管を採用する請求項1に記載のトンネル切羽前方変位計測方法。
【請求項4】
地中変位計に、加速度センサを内蔵された複数のセグメントがフレキシブルな関節を介して屈曲可能に連結されてなる極細の3D地中変位計を採用する請求項1乃至3のいずれかに記載のトンネル切羽前方変位計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネル工事などトンネル工事における切羽前方の地中変位を計測するのに用いるトンネル切羽前方変位計測方法に関し、特に、切羽前方の地中変位量をトンネル坑内から簡易に計測するトンネル切羽前方変位計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル工事などのトンネル工事では、トンネルの掘進に伴って、トンネル切羽前方の地中変位を計測しトンネルの安定性を評価することが重要になっている。
このような地中の変位量の計測は一般に地中変位計を用いて行われている。
図10に示すように、この計測では、まず、外径114mm又は75mm程度、肉厚5、6mm程度、長さ12、13mの長尺鋼管をさや管aとして、トンネル切羽天端から斜め前方に打設する。次いで、さや管aを地山(孔壁)と密着させるため、さや管aと地山(孔壁)との間にグラウトbを注入する。そして、さや管a内に、外径50mm程度の水平傾斜計又は外径42mm程度のパイプ式ひずみ計などの地中変位計cを挿入する。さや管a内に地中変位計cを挿入後、さや管a内で地中変位計cがぐらつかないように、さや管a内にグラウトbを注入してさや管aと地中変位計cとを一体化する。このようにして地中に打設した地中変位計cで地中の変位量を計測する。
【0003】
また、この種の切羽前方変位計測方法が特許文献1、2により提案されている。
(1)特許文献1は、トンネル切羽の安定性予測/判定方法に関するもので、この方法では、切羽から掘進方向前方側に向け、トンネルの天端部に先行ボーリング孔を穿設し、先行ボーリング孔内に、切羽前方の地中変位を計測する変位計測手段を設置し、変位計測手段で計測された計測値を、予め三次元解析結果を基に設定した管理限界と比較して切羽の安定性を予測/判定する。
この方法では特に、トンネル天端部上方に、例えば長さL=80m、ラップ2D=24m(Dはトンネル幅;本実施形態では約12m)、直径φ=116mmの先行ボーリング孔をボーリング機で穿設し、この先行ボーリング孔に5mの連結傾斜計を15個設置して、切羽前方の天端地中変位を測定する。連結傾斜計は、先行ボーリング孔内に挿入して配設された例えば直径75mm程度のガイド管内に、ガイドローラによって移動自在(揺動自在)に支持される水平傾斜計を備え、この水平傾斜計の変位信号を変換機、出力ケーブルで出力して、地中変位を計測できるように構成されている。なお、連結傾斜計に代えて、パイプ式歪計や光ファイバーひずみ計測、挿入式方位・傾斜計などが使用可能である。
このようにトンネル天端を先行して地中変位を測定することで、例えば、小土被りの都市トンネル等を施工する場合に、小土被り部の切羽の崩壊や地表陥没などの異常の兆候を切羽前方で早期に検知することができ、小土被り部の切羽の崩壊や地表陥没を未然に防止することができる。
(2)特許文献2は、先行地中変位計の設置方法に関するもので、この方法では、トンネル掘削予定箇所上の地山における変位計測開始点に向け、トンネル切羽から外管を打設する外管打設工程と、外管内に内管を挿入して当該内管外の外管内空に固化材を充填する内管挿入工程と、トンネル掘削に伴う外管及び内管の折り取りにより、変位計測開始点付近のトンネル掘削面に開口した内管に、屈曲可能な変位計を挿入する変位計設置工程と、内管と共に変位計測開始点付近のトンネル掘削面に開口した外管に、曲り管の一端を接続し、当該曲り管の他端を、変位計測開始点付近に設置された支保工よりトンネル掘進方向後方において、トンネル坑内に向けて配置する曲り管設置工程と有し、これらの工程により、トンネルに拡幅部を設けることなしに先行地中変位計を設置する。
この方法では特に、外管打設工程で、トンネル切羽の天端付近から所定長の鋼管を打設する。この鋼管5は、例えば12〜13m程度の長尺鋼管であり、その先端に掘削ビットを備える。トンネル切羽から地山に対する鋼管の打設に際しては、トンネル坑内に配置した油圧ジャンボ等の削孔用重機が、鋼管先端の掘削ビットを駆動させて地山に対する削孔動作を行い、鋼管を、トンネル切羽から地山の変位計測開始点、更には変位計測終了点に向けて徐々に掘進させる。また、内管挿入工程では、トンネル切羽に開口される鋼管の内空に、後に先行地中変位計をセットする塩ビ管を挿入し、この塩ビ管外方の鋼管内空と、鋼管とその周囲の地山との隙間空間とに、グラウトやモルタル、或いは樹脂等の適宜な固化材を充填する。このように固化材を鋼管内空および隙間空間に満たして固化させることで、地山と鋼管、および塩ビ管は一体化され、地山の各種挙動で生じる変位は、ほぼロスなく鋼管および塩ビ管に直接伝達されることになる。また、塩ビ管の内径は先行地中変位計の外径と近しく、塩ビ管に挿入された先行地中変位計は塩ビ管と一体に挙動出来るものとする。なお、外管としては上述の鋼管に限定されず、例えばGFRP(Glass fiber reinforced plastics)管を採用してもよい。また、内管としては上述の塩ビ管に限定されず、例えば鋼管を採用してもよい。そして、変位計設置工程では、トンネル掘削に伴う鋼管および塩ビ管の折り取りにより、変位計測開始点付近のトンネル掘削面には、鋼管および塩ビ管の端部が露出することになる。そこで、変位計測開始点付近のトンネル掘削面に端部が開口した塩ビ管に、屈曲可能な先行地中変位計を挿入する。この屈曲可能な先行地中変位計は、3D地中変位計と呼ばれる変位計であり、内部に加速度センサが内蔵された所定ピッチのセグメントが連結された構造を有し、各セグメント同士はフレキシブルな関節により一定範囲で屈曲可能になっている。
このようにしてトンネルに拡幅部を設けることなしに先行地中変位計を設置することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016− 933号公報
【特許文献2】特開2015−113572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のトンネル切羽前方変位計測方法では、次のような問題がある。
(1)さや管として外径114mm又は75mm程度の鋼管を用い、このさや管をトンネル切羽の天端付近に打設する場合、専用の削岩ビットなどが必要で、コストが増大する。また、さや管の設置に多くの時間を要する。
そこで、さや管の径を小さくし、さや管をトンネル切羽から切羽前方に向けて削孔した計測用孔に挿入することが望ましい。
(2)地中変位量の計測精度を確保するため、さや管(鋼管)と地山の孔壁とをグラウトで密着させる必要があり、このため、さや管(鋼管)と地山の孔壁との間にグラウトを注入する作業が必要となる。また、さや管内にグラウトを注入してさや管と地中変位計とを一体化した場合、地中変位計を回収できず、転用できない。このため、さや管を外管と内管の2重構造にすると、内管からさや管を引き抜き回収できる利点があるが、他面でさや管の設置に多くの時間を要する。
そこで、さや管と地山とを密着させるためのグラウトを不要にすることが望ましい。
(3)さや管に肉厚5、6mmの鋼管を用いると、剛性が高く、さや管内の地中変位計が地山の変位に追従しにくい場合がある。
そこで、さや管の剛性を低くして、さや管内の地中変位計を地山の変位に追従しやすくすることが望ましい。
【0006】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、この種のトンネル切羽前方変位計測方法において、さや管の設置を低コストにかつ短時間で行うこと、さや管と地山を密着させるためのグラウトを不要にすること、さや管の剛性を低くし、さや管内の地中変位計を地山の変位に追従しやすくすることなど、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は
トンネル切羽から当該切羽前方に向けて計測用孔を削孔し、前記計測用孔に地中の変位に追従可能な地中変位計設置用のさや管を介して地中変位計を設置して地中変位を計測するトンネル切羽前方変位計測方法において、
前記さや管に、元の形状が中空の管状で外周面を圧潰又は圧縮変形されて内部の中空断面を圧縮して形成され、前記内部に流体を圧入することにより当該流体圧で前記外周面を半径方向に膨張させて前記管状に復元可能な管材を用い、
前記外周面を圧潰又は圧縮変形され前記管状に復元前のさや管を前記計測用孔に挿入し、
前記管状に復元前のさや管を前記計測用孔に挿入後、前記管状に復元前のさや管の内部に前記流体を圧入することにより前記管状に復元前のさや管の前記外周面を半径方向に膨張させて前記管状に復元させて前記計測用孔の内周面に密着させ、
前記計測用孔内に密着させた前記復元後のさや管の内部に前記地中変位計を挿入し、前記復元後のさや管を前記地中の変位に追従させて前記地中変位計によりトンネル切羽前方の変位を計測する、
ことを要旨とする。
【0008】
また、この計測方法は、次のように具体化される。
(1)さや管に、内部に加圧水を注入することにより外周面が半径方向に膨張可能でかつ計測用孔内で地中の変位に追従可能な鋼管を採用する。また、さや管に、内部に蒸気圧を通すことにより外周面が半径方向に膨張可能でかつ計測用孔内で地中の変位に追従可能な樹脂管を採用してもよい。
(2)地中変位計に、加速度センサを内蔵された複数のセグメントがフレキシブルな関節を介して屈曲可能に連結されてなる3D地中変位計を採用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のトンネル切羽前方変位計測方法によれば、さや管に、元の形状が管状で外周面を圧潰又は圧縮変形されて内部の中空断面を圧縮して形成され、内部に流体を圧入することによりその流体圧で外周面を半径方向に膨張させて管状に復元可能な管材を用い、このさや管を計測用孔に挿入し、さや管の内部に流体を圧入することによりさや管の外周面を半径方向に膨張させて計測用孔の内周面に密着させ、計測用孔内に密着されたさや管の内部に地中変位計を挿入して、復元後のさや管を地中の変位に追従させて地中変位計によりトンネル切羽前方の変位を計測するようにしたので、さや管の設置を低コストにかつ短時間で行うことができ、また、さや管と地山を密着させるためのグラウトを不要にすることができ、さらに、さや管の剛性を低くして、地中変位計を地山の変位に追従しやすくすることができる、という本発明独自の格別な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態によるトンネル切羽前方変位計測方法を示す図
図2】同計測方法に用いるさや管の構成を示す図((a)はさや管の一部破断斜視図(b)はさや管の部分断面斜視図)
図3】同計測方法に用いる地中変位計の構成を示す図(側面図)
図4】同計測方法において切羽前方の地中にさや管を設置する工程を示す図
図5】同計測方法において切羽前方の地中のさや管内に地中変位計を設置する工程を示す図
図6】同計測方法の現場実験の概要を示す図
図7】同計測方法の現場実験の結果を示す図
図8】同計測方法の室内実験の概要を示す図
図9】同計測方法の室内実験の結果を示す図
図10】従来のトンネル切羽前方変位計測方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。
図1にトンネル切羽前方変位計測方法を示している。
図1に示すように、このトンネル切羽前方変位計測方法では、トンネル切羽T1から切羽T1前方に向けて計測用孔T10を削孔し、計測用孔T10にさや管1を挿入しこの計測用孔T10にさや管1を介して地中変位計2を設置して地中変位を計測する。その具体的な手順については後述する。
【0012】
この計測方法では、さや管1に、元の形状が中空の管状で外周面を圧潰又は圧縮変形されて内部の中空断面を圧縮して形成され、内部に流体を圧入することによりその流体圧で外周面を半径方向に膨張させて管状に復元可能な管材を使用する。
ここでは、さや管1に、内部に加圧水を注入することにより外周面が半径方向に膨張可能な鋼管を採用する。
このような鋼管としては、一般に地山の補強に使用される鋼管膨張型ロックボルトが知られている。
図2に示すように、鋼管膨張型ロックボルト1は、本来中空の薄肉の鋼管で、これが外周面10から押圧され板状に形成され、長手方向を軸方向として筒状に曲げられて、軸方向に延びる凹部11を有する断面C字状に形成される。この場合、このロックボルト1は、外径36mm、長さ6m、鋼管内部に供給される水の圧力によって変形可能に肉厚2〜3mm程度で、また、鋼管内部に流体が流入できるように、鋼管は完全には押しつぶされていない程度の板状になっている。このようにして形成された(管状に復元前の)鋼管の先端部には、スリーブ12が取り付けられる。スリーブ12は円筒状に形成され、鋼管の先端部が挿入され、溶接などによって固定される。なお、鋼管の先端部の口は溶接などによって閉じられる。他方、鋼管の後端部にもまた、スリーブ13が取り付けられる。このスリーブ13は円筒状に形成され、鋼管の後端部が挿入され、溶接などによって固定される。このスリーブ13の軸方向中間部には、注水孔(図示省略)が形成されており、この注水孔は鋼管の後端部側に形成された貫通孔(図示省略)に連通して、鋼管の内部に連通される。なお、鋼管の後端部は溶接などによって閉じられる。このようにして(管状に復元前の)鋼管の内部は、先端部及び後端部が閉じられた閉空間になっており、後端部側のスリーブ13の注水孔を介して外部と連通される。
このようにしてこの(管状に復元前の)ロックボルト1は、後端部側のスリーブ13に注水用アダプタが取り付けられ、この注水用アダプタに注水ホースが接続されて、水源から水圧ポンプなどにより加圧水を注水ホースに送り、注水孔を通して鋼管の内部に供給することにより、鋼管の内部に加圧水が注入されて、鋼管の外周面10の凹部11を小さくしながら、鋼管の外周面10が径方向に、この場合、内径が45mm〜55mm程度に膨張するようになっている。
このロックボルト1をさや管1として利用する。
【0013】
また、この計測方法では、地中変位計2に、さや管1、すなわち、鋼管膨張型ロックボルト1の内径よりも小径の既存の地中変位計を使用する。ここでは、特許文献2にも記載され、一般に知られている外径25mmの極細3D地中変位計2を採用する。図3に示すように、極細3D地中変位計2は、重力加速度センサ(MEMS)21を内臓された複数のセグメント20がフレキシブルな関節22を介して屈曲可能に連結されて構成される。
【0014】
この計測方法では、このようなさや管1や地中変位計2を用いて、次のような手順でトンネル切羽前方の地中変位を簡易に計測する。
ステップ1(図1参照)
まず、トンネルの切羽T1天端付近から斜め前方に向けて計測用孔T10を削孔する。
この場合、計測用孔T10の削孔にドリルジャンボを使用し、削岩ビットは外径45mmのものを使用する。これらの機器、装置は、通常のトンネル掘削作業に使用するもので、この削孔には特別な機械、装置を必要としない。
ステップ2(図4参照)
計測用孔T10の削孔後、続いて、図4(1)に示すように、計測用孔T10に管状に復元前のさや管1を挿入する。
この場合、計測用孔T10にさや管1として外径36mm、長さ5mの鋼管膨張型ロックボルト1を、人力で(押し込み)、挿入する。
このさや管1は、外周面10が圧潰又は圧縮変形されて管状に復元前の小径の管材のため、さや管1の計測用孔T10への挿入は容易である。また、これらステップ1、2は、山岳トンネル工事で通常行うロックボルトの打設作業と略同様の作業であり、これらの作業は短時間で実施可能である。
ステップ3(図4参照)
管状に復元前のさや管1を計測用孔T10に挿入後、次いで、図4(2)、(3)に示すように、計測用孔T10内の管状に復元前のさや管1の内部に流体を圧入することによりその流体圧で管状に復元前のさや管1の外周面10を半径方向に膨張させて元の管状に復元させて計測用孔T10の内周面に密着させる。
この場合、さや管1として用いる鋼管膨張型ロックボルト1の後端部側のスリーブ13に注水用アダプタを取り付けてこのスリーブ13の注水孔に連通させ、この注水用アダプタに注水ホースを介して水圧ポンプを接続する。そして、このロックボルト1の内部に水圧ポンプで加圧水を注入し、ロックボルト1(の外周面10)を水圧で膨張させて計測用孔T10の内周面(孔壁)に密着させる。このロックボルト1は内径45mm〜55mm程度まで拡径可能で、ロックボルト1(の外周面10)は計測用孔T10の内周面(孔壁)に十分に密着される。これにより、さや管1と計測用孔T10(地山の孔壁)との間にグラウトは不要であり、さや管1と計測用孔T10(地山の孔壁)との間にグラウトの注入を行う必要がない。
ステップ4(図5参照)
計測用孔T10内でさや管1を膨張させた後、図5に示すように、さや管1の後端部、この場合、トンネル切羽T1側から見て手前側の端部を開口し、計測用孔T10内に密着させた復元後のさや管1の内部に地中変位計2を挿入する。
この場合、さや管1、すなわち、ロックボルト1の後端部側にスリーブ13が取り付けられているので、このスリーブ13とともにロックボルト1の後端部側を切断し、ロックボルト1の後端部を開口する。このロックボルト1は膨張により、内径45mm〜55mm程度まで拡径されるので、後端部の開口から、地中変位計2が容易に挿入可能となる。そして、このさや管1内に後端部の開口から外径25mmの極細3D地中変位計2を挿入する。
ステップ5(図1参照)
このようにしてトンネル切羽T1前方の地中に設置した地中変位計2で切羽T1前方の地中の変位を計測する。
そして、トンネルの掘進に伴って、適宜、このステップ(1)−(5)を繰り返す。
【0015】
本願出願人は、このトンネル切羽前方変位計測方法による計測精度を確認するため、この計測方法の現場実験を行った。現場実験の概要を図6に示し、その結果を図7に示す。
図6に示すように、この現場実験では、トンネルを図中右側から左方向に掘り進めていき、1日目を計測開始時として、1日目の切羽の位置で、既述のとおり、この切羽の天端付近から斜め前方に向けて計測用孔T10を削孔し、計測用孔T10にさや管1を挿入しこの計測用孔T10にさや管1を介して地中変位計2を設置して、この地中変位計2(以下、坑内から設置した地中変位計2という。)で、1日目の切羽の位置から1日目の時点を初期値(0(ゼロ))としてトンネルの掘進に伴って発生する地中の変位を計測した。
また、このトンネル切羽前方変位計測方法による計測精度を確認するため、さらに、トンネル切羽からどの程度前方から地山の沈下が始まるのか、また、トンネル切羽の前方のみが下がっているのか、あるいはトンネル自体が下がっているのか、又はその両方が下がっているのか、を併せて確認するため、トンネルの掘削前に、トンネルの掘削予定位置の上方所定の位置にトンネル坑外から長さ20mの長い地中変位計3を略水平に設置して、この地中変位計3(以下、坑外から設置した地中変位計3という。)で、1日目の切羽の位置よりも後方所定の位置からトンネルの掘進に伴って発生する地中の変位を計測した。
図7の上方に、切羽の位置が4日目の位置に達した時点の地中の変位(1日目の時点を初期値(0)とした変位)を示す。ここで、坑内から設置した地中変位計2で計測した地中の変位が黒丸であり、坑外から設置した地中変位計3で計測した地中の変位が白丸である。図7の下方に、切羽の位置が5日目の位置に達した時点の地中の変位(1日目の時点を初期値(0)とした変位)を示す。ここで、坑内から設置した地中変位計2で計測した地中の変位が黒丸であり、坑外から設置した地中変位計3で計測した地中の変位が白丸である。
図7から明らかなように、坑内から設置した地中変位計2による計測結果と坑外から設置した地中変位計3による計測結果はよく一致しており、この簡易なトンネル切羽前方変位計測方法でも切羽前方の地中変位を精度よく計測できることを確認した。
【0016】
本願出願人はまた、このトンネル切羽前方変位計測方法による計測精度をさらに確認するため、室内実験を実施した。室内実験の概要を図8に示し、その結果を図9に示す。
図8に示すように、この室内実験では、さや管1に鋼管膨張型ロックボルトを用い、地中変位計2に極細3D地中変位計を用い、鋼管膨張型ロックボルト1内に極細3D地中変位計2を挿入して、このロックボルト1の一端(この場合、右端)を台座Bに固定し、他端(この場合、左端)を機械Mを使って強制的に引張り上げることにより、ロックボルト1を曲げていき、その変位量を3D地中変位計2で計測し、併せて、このロックボルト1の実際の変位量を外部の変位計4で計測した。また、この場合、ロックボルト1を比較的小さく曲げたときと比較的大きく曲げたときの2段階に分けて計測を行った。
図9に3D地中変位計2による計測結果を曲線グラフで示し、外部の変位計4による計測結果(真の値)を棒グラフで示す。図9において、下方に小さく曲がる曲線で表す曲線グラフがロックボルト1を比較的小さく曲げたときの3D地中変位計2による計測結果で、変位量が80.1、51.9、29.0、11.9の棒で表す棒グラフがそのときの真の値である。また、図9において、上方に大きく曲がる曲線で表す曲線グラフがロックボルト1を比較的大きく曲げたときの3D地中変位計2による計測結果で、変位量が20.9、12.0、5.8、2.0の棒で表す棒グラフがそのときの真の値である。
図9から明らかなように、鋼管膨張型ロックボルト1内に挿入した3D地中変位計2による計測結果と外部の変位計4で計測した真の値はよく一致しており、この簡易なトンネル切羽前方変位計測方法が高い精度で変位を計測できることを確認した。
【0017】
以上説明したように、このトンネル切羽前方変位計測方法では、さや管1に鋼管膨張型ロックボルトを用い、このロックボルト1を計測用孔T10に挿入し、このロックボルト1の内部に加圧水を注入することによりロックボルト1の外周面10を半径方向に膨張させて計測用孔T10の内周面に密着させ、計測用孔T10内に密着されたロックボルト1の内部に地中変位計2として極細3D地中変位計を挿入して、この地中変位計2によりトンネル切羽T1前方の変位を計測するようにしたことで、次のようなこの計測方法独自の顕著な効果を奏する。
(1)計測用孔T10へのさや管1の設置、さや管1内への地中変位計2の設置を簡単容易に行うことができ、これらの設置コストを従来の施工方法に比べて5分の1程度に削減することができる。
(2)計測用孔T10へのさや管1の設置、さや管1内への地中変位計2の設置を簡単容易としたことで、これらの設置に要する時間を従来の施工方法に比べて5分の1程度に短縮することができる。
(3)さや管1と地山を密着させるためのグラウトを不要とし、グラウトの注入作業を省くことができる。また、この場合、さや管1に地中変位計2を挿入するだけで、さや管1内にグラウトを注入しないので、地中変位の計測完了後、さや管1から地中変位計2を回収し転用することができる。これらの点でもコストの低減に資することかできる。
(4)さや管1が薄肉の鋼管で剛性が小さいので、地中変位計2が地山の変位に追従しやすくなり、地中変位の計測精度を向上させることができる。
【0018】
なお、この実施の形態では、さや管1に、鋼管膨張型ロックボルトなど内部に加圧水を注入することにより外周面が半径方向に膨張可能な薄肉の鋼管を採用したが、これに代えて、内部に蒸気圧を通すことにより外周面が半径方向に膨張可能な樹脂管を採用してもよい。このようにしても上記実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0019】
T1 トンネル切羽
T10 計測用孔
1 さや管(鋼管膨張型ロックボルト)
10 外周面
11 凹部
12、13 スリーブ
2 地中変位計(極細3D地中変位計)
20 セグメント
21 重力加速度センサ
22 関節
3 地中変位計
B 台座
M 機械
4 変位計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10