(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スイング解析においては、スイング中に計測した計測データから、解析必要なデータを抽出して解析する。スイング解析上、スイング開始タイミング以降のデータが重要となることが多い。スイング開始タイミング以前のデータは重要でない場合が多く、このデータを解析範囲に含めると解析精度に影響する。スイング開始タイミングを特定する手法として、特許文献1〜3にはクラブまたは腕の角速度に基づく特定手法が開示されているが、特定精度の点で改善の余地がある。
【0005】
本発明の目的は、スイング開始タイミングの特定精度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
ゴルファ
の胴体に装着され、角速度センサを備えた第一の計測ユニットと、
前記ゴルファの左右の脚部の床反力を計測する第二の計測ユニットと、
前記第一の計測ユニットおよび前記第二の計測ユニットの計測結果に基づいて、前記ゴルファのスイング開始タイミングを特定する特定手段と、を備え
、
前記特定手段は、
前記第一の計測ユニットの計測結果に基づく前記ゴルファの背骨周りの角速度が第一の閾値範囲内であり、かつ、前記第二の計測ユニットの計測結果に基づく前記ゴルファの挙動の値が第二の閾値範囲内であるタイミングを前記スイング開始タイミングとして特定する、
ことを特徴とする計測システムが提供される。
【0007】
また、本発明によれば、
ゴルファ
の胴体に装着され、角速度センサを備えた第一の計測ユニット、および、前記ゴルファの左右の脚部の床反力を計測する第二の計測ユニットの各計測結果を取得する
取得工程と、
前記第一の計測ユニットおよび前記第二の計測ユニットの計測結果に基づいて、前記ゴルファのスイング開始タイミングを特定する
特定工程と、を備
え、
前記特定工程では、
前記取得工程で取得した前記第一の計測ユニットの計測結果に基づく前記ゴルファの背骨周りの角速度が第一の閾値範囲内であり、かつ、前記取得工程で取得した前記第二の計測ユニットの計測結果に基づく前記ゴルファの挙動の値が第二の閾値範囲内であるタイミングを前記スイング開始タイミングとして特定する、
ことを特徴とする計測方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スイング開始タイミングの特定精度を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<システムの構成>
図1は本発明の一実施形態に係る計測システムAの概要図である。計測システムAは、一対のフォースプレート1Rおよび1Lと、計測ユニット2〜5と、処理装置
6、表示装置
7と、入力装置
8とを含む。矢印X、矢印Yおよび矢印Zは、計測システムAの試打席における三次元の座標系を示しており、フォースプレート1Rおよび1Lと、計測ユニット2〜4とはこの座標系に対応して設置される。矢印X、矢印Yは互いに直交する水平方向を示し、矢印Zは鉛直方向を示す。矢印Xはゴルフボールの飛球線方向に設定される。
【0011】
フォースプレート1Rおよび1Lは、ゴルファの左右の脚部の床反力を計測する計測ユニットを構成する。フォースプレート1Rおよび1LはX方向に並べて配置されており、フォースプレート1Rはゴルファの右脚の床反力を計測することを予定し、フォースプレート1Lはゴルファの左脚の床反力を計測することを予定している。計測を受けるゴルファ100は、フォースプレート1Rに右脚を乗せ、フォースプレート1Lに左脚を乗せる。以下の説明において、フォースプレート1Rおよび1Lを区別しない場合は、フォースプレート1と呼ぶ。
【0012】
なお、本実施形態では、ゴルファの左右の脚部に対応して一対のフォースプレート1Rおよび1Lを用いるが、左右の脚部の床反力をそれぞれ計測可能な単一のフォースプレートも採用可能である。
【0013】
フォースプレート1は、例えば、床反力として、X、Y、Zの三軸方向の並進力と、Z軸まわりのモーメントを計測可能なものである。
図2(A)はフォースプレート1の一例を示す概要図である。フォースプレート1は、本体11と踏み板12との間に複数の荷重センサ13が配置されて構成されており、複数の荷重センサ13の検出結果から、三軸方向の並進力Fx、Fy、Fzと、Z軸まわりのモーメントMzが導出される。
【0014】
フォースプレート1は、また、複数の荷重センサ13の検出結果から足圧中心の位置と大きさを導出可能である。
図2(B)に示すように、フォースプレート1Rで検出された右脚の足圧中心をRCOP、フォースプレート1Lで検出された左脚の足圧中心をLCOPとする。また、足圧中心RCOPおよびLCOPの位置と大きさから、両脚を全体で見た足圧中心COPを演算することができる。足圧中心COPは、足圧中心RCOPおよびLCOPを結ぶ線上で、足圧中心RCOPおよびLCOPの大きさの比率に応じた位置であり、足圧中心RCOPおよびLCOPの大きさが同じ場合は中点となり、足圧中心RCOPの方が大きい場合は、足圧中心RCOP側に偏った位置となる。
【0015】
足圧中心COPの経時的な変化を足圧中心COPの移動速度ということができる。以下の説明において、X方向の足圧中心COPの移動速度を速度Vと表記し、飛球線後方への速度を負とし、飛球線前方への速度を正とする。
【0016】
図1に戻り、計測ユニット2は角速度センサを少なくとも含む。計測ユニット2としては、例えば、ATR-Promotions社のTSND121を用いることができる。計測ユニット2はゴルファ100に装着され、例えば、胴体に装着される。図示の例では腰の位置に装着されている。図の例では背中側に装着されているが、胸側に装着してもよい。計測ユニット2は、
図2(C)に示すようにスイング中のゴルファ100の角速度ωを計測する。角速度ωは、概ね、ゴルファ100の背骨周りの角速度に該当する。
【0017】
図1を参照して、計測ユニット3はインパクトを検出する。本実施形態の場合、打撃音によりインパクトタイミングを検出する。このため、計測ユニット3はマイクロフォンであり、インパクトエリアの近くに配置されている。
【0018】
計測ユニット4は、慣性センサ(加速度センサあるいは角速度センサの少なくともいずれか一方)を含み、ゴルフクラブ101のグリップあるいはシャフトに装着される。計測ユニット4としては、例えば、ATR-Promotions社のTSND121を用いることができる。計測ユニット4の計測結果はゴルファのスイング解析に利用することができる。また、計測ユニット3に代えて、計測ユニット4の検出結果により、インパクトを検出してもよい。インパクト時にゴルフクラブ101の加速度または角速度は急激に変化する。よって、計測ユニット4の検出結果の変化のピークのタイミングをインパクトのタイミングとすることができる。
【0019】
計測ユニット5は、ゴルフクラブ101のヘッドスピードや打球の弾道を計測する。
図1の例では、計測ユニット5は、打撃されるゴルフボールに対して飛球線後方に配置された弾道測定器であり、このような測定器としては例えば、TRACKMAN社のTRACKMANを用いることができる。計測ユニット5の計測結果はゴルファのスイング解析に利用することができる。ヘッドスピードの計測を目的とする場合、計測ユニット5としては、弾道測定器に代えて、例えば、計測ユニット5’として図示するように、打撃されるゴルフボール近傍において、前側に配置され、ゴルフクラブヘッドの通過と通過時間を計測する計測器であってもよい。
【0020】
処理装置6は、一般的なパソコンから構成することが可能である。処理装置6は、互いに電気的に接続された処理部61と、記憶部62と、I/F部(インタフェース部)63と、を備える。処理部61はCPU等のプロセッサである。記憶部62は一又は複数の記憶デバイスを備える。記憶デバイスは、例えば、RAM、ROM、ハードディスク等である。記憶部62には処理部61が実行するプログラムや、各種のデータが格納される。処理部61が実行するプログラムは、処理部61が読取可能な複数の指示から構成することができる。
【0021】
I/F部63は外部デバイスと処理部61との間でデータの入出力を行う。I/F部63には、I/Oインタフェース、通信インタフェースを含むことができる。計測ユニット2〜5は処理装置6に有線通信または無線通信により通信可能に接続されており、これらの検知結果は処理装置6によって取得される。
【0022】
処理装置6には表示装置7と入力装置8が接続されている。表示装置7は、例えば、液晶表示装置等の電子画像表示装置であり、処理装置6の処理結果が表示される。入力装置8はマウスやキーボードであり、計測者が処理装置6に対してデータの入力や動作の指示を行うために用いられる。
【0023】
<計測処理例>
処理部61が実行する計測処理プログラムの例について
図3を参照して説明する。同図は計測処理プログラムのフローチャートである。本実施形態では、ゴルファ100にゴルフクラブ101によってゴルフボールを試打させる。そして、計測ユニット2〜5によりゴルファのスイングを解析する。
【0024】
S1では初期設定を行う。ここでは、解析に必要な各種の設定を行う。初期設定が終了すると、ゴルファ100に打撃の準備をしてもらい、S2で計測を開始すると共にゴルファ100にフォースプレート1上に立ってゴルフボールを打撃してもらう。計測開始により、微小時間毎の計測ユニット2〜5の各計測結果(計測データ)を取得して時間の情報とともに保存する。保存先として記憶部62を用いることができるが、処理装置6の外部に設けたデータロガーに保存してもよい。計測はゴルファ100がスイング開始から終了までの十分な時間だけ行い、計測終了を時間で定めてもよいし、計測者の操作により定めてもよい。
【0025】
S3ではS2で取得した計測データからスイングの開始タイミングを特定する。詳細は後述する。S4ではS2で取得した計測データのうち、スイング解析に用いるデータの範囲を設定する。S2で取得した計測データの全てを、エネルギの演算に用いてもよいが、無駄が多い場合がある。本実施形態では、S3でスイングの開始タイミングを特定することで、スイング開始以前のデータをスイング解析に用いるデータの範囲から除外することができる。これにより、例えば、スイング前のゴルファの準備動作を計測データから除外し、スイング中にゴルファが発揮したエネルギを精度よく解析することができる。
【0026】
S5ではS4で設定した範囲内の計測データを用いてスイング解析を行う。スイング解析の内容は、例えば、スイング中にゴルファが発揮したエネルギと打撃に利用されたエネルギとの関係や、ゴルフクラブの軌道等、各種の解析を挙げることができる。解析結果は表示装置
7に表示することもできる。以上により一単位の処理を終了する。
【0027】
<スイング開始タイミングの特定例>
図4を参照してS3におけるスイング開始タイミングの特定例について説明する。本実施形態では、
フォースプレート1および
計測ユニット2の計測結果に基づいてスイング開始タイミングを特定する。二種類の計測結果を利用することで、スイング開始タイミングの特定精度を向上することができる。特に、
フォースプレート1の計測結果を利用することで、ワッグル等の影響を低減してスイング開始タイミングを特定することができる。
【0028】
図4(A)はスイング開始タイミングの特定に用いる計測データ(対象データ)の範囲を例示している。S2で取得した計測データには、実質的にスイング中ではない状態での計測データが含まれている。スイング開始タイミングの特定にあたり、S2で取得した計測ユニット1および2の各計測データを全て用いると演算や精度に影響を与える場合がある。そこで、本実施形態では、インパクトタイミングからさかのぼった所定期間内の計測データを利用する。
【0029】
図4(A)において、時間t0は計測の開始タイミングを示し、時間tiはインパクトタイミングを示す。インパクトタイミングは、計測ユニット3の計測データから特定し、音圧が急激に高くなったタイミングをインパクトタイミングとすることができる。対象データは、時間tiからT時間さかのぼった時間t1までの計測データであり、換言すると、時間t1から時間tiまでの、
フォースプレート1および
計測ユニット2の各計測データをスイング開始タイミングの特定に用いる。時間Tは例えば数秒(例えば2秒)である。
【0030】
スイング開始の際、一般にゴルファは少なくとも一瞬だけ略静止する。本実施形態ではゴルファが静止したタイミングを角速度ωと移動速度Vから特定し、これをスイング開始タイミングとする。まず、角速度ωについて説明する。
【0031】
図4(B)は時間t1から時間tiまでの角速度ωの変化を示している。角速度ωが閾値1の範囲内にある区間、ゴルファのZ軸周りの挙動としては静止したとみなす。閾値1は例えば±0.1rad/secである。
図4(B)の例では区間R11と区間R12において、角速度ωが閾値1の範囲内である。
【0032】
次に移動速度Vについて説明する。
図4(C)は時間t1から時間tiまでの移動速度Vの変化を示している。移動速度Vが閾値2の範囲内にある区間、ゴルファのX方向の挙動としては静止したとみなす。閾値2は例えば±100mm/secである。
図4(C)の例では区間R21〜区間R26において、移動速度Vが閾値2の範囲内である。
【0033】
次に、角速度ωが閾値1の範囲内で、かつ、移動速度Vが閾値2の範囲内である区間を抽出する。
図4(D)は抽出結果を示しており、区間R31および区間R32が抽出された区間である。そして、区間R31、区間R32のうち、最も遅い時刻をスイング開始タイミングと特定する。角速度ωと移動速度Vを用いることで、精度よくスイング開始タイミングを特定することができる。例えば、角速度ωのみでスイング開始タイミングを特定しようとすると、ゴルファによってはスイング開始前の準備動作で閾値を超えてしまい、精度よくスイング開始タイミングを特定できない場合がある。
【0034】
以上のようにしてスイング開始タイミングを特定することで、スイング開始タイミングの特定精度を向上することができる。上記実施形態では、角速度ωと移動速度Vを利用してスイング開始タイミングを特定したが、移動速度Vの代わりに、足圧中心COPの移動距離や移動角度を利用してもよいが、移動速度Vが好ましい。