(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1不織布シートに含まれる繊維の平均繊度及び前記第2不織布シートに含まれる繊維の平均繊度が、それぞれ1dtex以上15dtex以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の高伸度不織布シート。
JIS L 1913 6.3の規定に準じて測定されるタテ方向及びヨコ方向の伸び率が、それぞれ、120%以上300%以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の高伸度不織布シート。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの高伸度不織布シートは、伸張性の点では優れているものの、実際の護岸工事の現場では海水への沈降性が悪く、高伸度不織布シートが沈降するまでの一定時間、作業を中断しなければならないため、改善が求められていた。このような状況下、本発明は、海水への沈降性がよい高伸度不織布シート及びその製造方法の提供を課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、高伸度不織布シートを、熱収縮性の第1繊維を含む第1不織布シートと、前記第1繊維よりも乾熱収縮率が低い第2繊維を含む第2不織布シートを含む積層構造とし、前記第1繊維と前記第2繊維とを交絡且つ熱収縮させ、更に、前記第1不織布シートと前記第2不織布シートのいずれにも、親水化油剤を付着させることにより、高伸度不織布シートの海水への沈降時間が大幅に短縮することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明に係る高伸度不織布シート及び高伸度不織布シートの製造方法は、以下の点に要旨を有する。
[1] 少なくとも、熱収縮性の第1繊維を含む第1不織布シートと、前記第1繊維よりも乾熱収縮率が低い第2繊維を含む第2不織布シートを有する不織布積層体であって、
前記第1繊維と前記第2繊維とが交絡し、且つ、熱収縮しており、前記第1不織布シートと前記第2不織布シートのいずれにも、親水化油剤が付着していることを特徴とする高伸度不織布シート。
[2] 前記親水化油剤がポリエステル・ポリエーテル型またはシリコーンオイル型である[1]に記載の高伸度不織布シート。
[3] 前記第2繊維の繊維長が、20mm以上140mm以下である[1]または[2]に記載の高伸度不織布シート。
[4] 目付が500g/m
2以上2000g/m
2以下であり、厚さが4.2mm以上15mm以下である[1]〜[3]のいずれかに記載の高伸度不織布シート。
[5] 前記第1不織布シートに含まれる繊維の平均繊度及び前記第2不織布シートに含まれる繊維の平均繊度が、それぞれ1dtex以上15dtex以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の高伸度不織布シート。
[6] 前記第1繊維の静摩擦係数が0.265以上0.365以下、前記第2繊維の静摩擦係数が0.200以上0.310以下である[1]〜[5]のいずれかに記載の高伸度不織布シート。
[7] 前記第1繊維及び前記第2繊維は、それぞれ中実繊維である[1]〜[6]のいずれかに記載の高伸度不織布シート。
[8] JIS L 1913 6.3の規定に準じて測定されるタテ方向及びヨコ方向の伸び率が、それぞれ、120%以上300%以下である[1]〜[7]のいずれかに記載の高伸度不織布シート。
[9] 熱収縮性の第1繊維を含み、親水化油剤が付着している第1不織布シートを製造する工程;第1繊維よりも乾熱収縮率が低い第2繊維を含み、親水化油剤が付着している第2不織布シートを製造する工程;前記第1不織布シートと前記第2不織布シートを積層して、前記第1繊維と前記第2繊維とを交絡することにより、前記第1不織布シートと前記第2不織布シートが一体化された複合シートを製造する工程;及び複合シートに熱収縮処理を行う工程;を含む高伸度不織布シートの製造方法。
[10] 前記第1不織布シートを製造する工程が、親水化油剤が表面に付着した第1繊維を含む繊維ウェブをクロス積層する工程;クロス積層された繊維ウェブを長手方向に50%以上600%以下でドラフトをかけることにより、長手方向に第1繊維を再配列する工程;及び再配列された繊維ウェブにニードルパンチを施す工程;を含む[9]に記載の高伸度不織布シートの製造方法。
[11] 前記第2不織布シートを製造する工程が、親水化油剤が表面に付着した第2繊維を含む繊維ウェブをクロス積層する工程;クロス積層された繊維ウェブを長手方向に50%以上600%以下でドラフトをかけることにより、長手方向に第2繊維を再配列する工程;及び再配列された繊維ウェブにニードルパンチを施す工程;を含む[9]または[10]に記載の高伸度不織布シートの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い伸張性を有し、機械的強度特性にも優れ、更に海水への沈降時間が短い高伸度不織布シート及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る高伸度不織布シートは、少なくとも、熱収縮性の第1繊維を含む第1不織布シートと、前記第1繊維よりも乾熱収縮率が低い第2繊維を含む第2不織布シートを有する不織布積層体であって、前記第1繊維と前記第2繊維とが交絡し、且つ、熱収縮しており、前記第1不織布シートと前記第2不織布シートのいずれにも、親水化油剤が付着していることを特徴とする。従来品とは異なり、熱収縮率が高い第1不織布シートと、高伸度不織布シートのベースとなる第2不織布シートのいずれにも親水化油剤が付着することで、より短時間で高伸度不織布シートが海水中に沈むようになる。
【0009】
<親水化油剤>
親水化油剤としては、該親水化油剤を付着させると第1不織布シート及び第2不織布シートの親水性が向上するものであれば特に制限なく使用でき、例えば、ポリエステル・ポリエーテル型またはシリコーンオイル型等が挙げられる。
【0010】
ポリエステル・ポリエーテル型の親水化油剤としては、分子内に、1以上のエステル結合、1以上のエーテル結合、または1以上のエステル結合と1以上のエーテル結合の両方を有する樹脂が例示でき、具体的には、ポリエステル樹脂;ポリエーテル樹脂;ポリエステル・ポリエーテルブロック共重合体;等が挙げられる。ポリエステル・ポリエーテル型の親水化油剤の末端の少なくとも一部または全ての末端がアニオン化されていてもよい。ポリエステル・ポリエーテル型の親水化油剤としては、高松油脂株式会社製「SR−1000」、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製「プリシェード(登録商標)SR−2」、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製「KK−2000」、明成化学工業株式会社製「メイカフィニッシュSRM−42T」等の市販品も好ましい。
【0011】
シリコーンオイル型の親水化油剤としては、ポリシロキサンの側鎖または末端の少なくとも一部に有機基を導入した変性シリコーンオイルが好ましく、より好ましくはエポキシ変性またはポリエーテル変性のシリコーンオイルである。シリコーンオイル型の親水化油剤としては、信越化学工業株式会社製「X−22−4741」、信越化学工業株式会社製「POLON(登録商標)MF−13」、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製「ESN−741」等の市販品も好ましい。
【0012】
親水化油剤の付着量は、第1不織布シートまたは第2不織布シート100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下である。
【0013】
<第1不織布シート(収縮層)>
第1不織布シートは、熱収縮性の第1繊維を含む。第1不織布シートに熱収縮性の第1繊維を含ませておき、この第1繊維を熱収縮させることにより、高伸度不織布シートに高い伸びを付与することが可能となる。第1不織布シートは、長繊維不織布または短繊維不織布のいずれであってもよいが、第1繊維の選択の幅が広いことから短繊維不織布が好ましい。
【0014】
前記第1繊維の乾熱収縮率は、好ましくは5.0%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上であり、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは35%以下である。第1繊維の乾熱収縮率を前記範囲内に調整することにより、高伸度不織布シートに高い伸びを付与することが可能となる。
なお本明細書において繊維の乾熱収縮率は、JIS L 1015 8.15(b)の規定に準じて、140℃の温度下、30分間熱処理することにより測定される。
【0015】
第1繊維としては、収縮応力が高い熱収縮性繊維であることが好ましく、第1繊維を構成する素材としては、例えば、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等に由来する構成単位を含むポリエステル;固有粘度(IV)が0.30〜0.60のポリエステル;ポリスチレン;などが挙げられ、これらは、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0016】
第1不織布シートには、第1繊維以外にも乾熱収縮率が0%以上5.0%未満の非熱収縮性繊維が含まれていてもよい。非熱収縮性繊維を構成する素材としては、固有粘度(IV)が0.60超〜0.90のポリエステル;全芳香族ポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン12等の脂肪族ポリアミド;アラミド等の芳香族ポリアミド;ポリエチレン等のポリオレフィン;超高分子量ポリエチレン;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルケトン;等が挙げられ、これらは、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
第1繊維の含有率は、含有率が高い程高い収縮応力が期待されるため、第1不織布シート100質量%中、好ましくは60質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは100質量%であり、98質量%以下であっても、95質量%以下であってもよい。
【0017】
第1繊維は、捲縮性を有していてもよく、第1繊維としては、顕在捲縮繊維、潜在捲縮繊維のいずれも使用可能である。捲縮発現後の第1繊維の捲縮数は、好ましくは2個/25mm以上、より好ましくは5個/25mm以上、更に好ましくは8個/25mm以上であり、好ましくは30個/25mm以下、より好ましくは25個/25mm以下、更に好ましくは20個/25mm以下である。捲縮数を前記範囲内に調整することにより、高伸度不織布シートを嵩高く仕上げることができ、高伸度不織布シートが海水に沈降する際の空気や水の通り穴を確保することや、高伸度不織布シートに機械的強度を付与することが可能となる。
【0018】
親水化油剤を第1不織布シートに満遍なく付着させ、高伸度不織布シートをより速く海水に沈めることができるように、前記親水化油剤は原綿の段階で第1繊維に添加しておき、ウェブを形成する前に親水化油剤を第1繊維の表面に付着させておくことが好ましい。親水化油剤で表面がコーティングされる前の第1繊維の静摩擦係数は、好ましくは0.265以上、より好ましくは0.275以上、更に好ましくは0.285以上であり、好ましくは0.365以下、より好ましくは0.355以下、更に好ましくは0.345以下である。一般的に、繊維に親水化油剤が付着すると、繊維の静摩擦係数は上昇する傾向にあり、これにより繊維間の摩擦力が上昇し、高伸度不織布の伸びが低下する。しかし親水化油剤を付着させる前の第1繊維の静摩擦係数を前記範囲内に調整することにより、繊維表面に親水化油剤が付着しても、第1繊維の静摩擦係数が上昇しすぎることなく、高伸度不織布シートに一定の伸びを付与することが可能となる。
【0019】
また本発明では、親水化油剤を第1不織布シートと第2不織布シートの両方に付着させ、これにより高伸度不織布シートを海水中に沈みやすくしているため、従来品のように、第1不織布シートを構成する繊維としては、繊維を構成している樹脂が未配向のものや配向の低いものに限られず、配向の高いもの(すなわち、結晶化の程度が高いもの)も好ましく使用できる。樹脂の配向の程度は、例えば、複屈折率を用いて確認できる。第1繊維の複屈折率は、通常0.020以上であり、好ましくは0.080以上、より好ましくは0.090以上、更に好ましくは0.100以上であり、好ましくは0.500以下、より好ましくは0.400以下、更に好ましくは0.300以下である。複屈折率を前記範囲内に調整することにより、安価で、製造が容易で、経時的安定性に優れ、且つ沈降性の良い高伸度不織布となる。
【0020】
高伸度不織布シートには適度な引張強さと引張伸びが求められるが、高伸度不織布シートに適度な引張強さと引張伸びを付与するために、第1繊維自体も、適度な強度と伸びを有していることが望ましい。
第1繊維の引張強さは、好ましくは0.5cN/dtex以上、より好ましくは1.0cN/dtex以上、更に好ましくは1.5cN/dtex以上であり、好ましくは6.0cN/dtex以下、より好ましくは5.5cN/dtex以下、更に好ましくは5.0cN/dtex以下である。
また第1繊維の引張伸び率は、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは60%以上であり、上限は特に限定されず通常200%以下であるが、好ましくは120%以下、より好ましくは110%以下、更に好ましくは100%以下である。
【0021】
第1繊維は、中実繊維または中空繊維のいずれであってもよいが、高伸度不織布シートの沈みやすさの観点からは、中実繊維であることが好ましい。
【0022】
第1不織布シートに含まれる繊維の平均繊度は、好ましくは1dtex以上、より好ましくは2dtex以上、更に好ましくは3dtex以上であり、好ましくは15dtex以下、より好ましくは12dtex以下、更に好ましくは10dtex以下である。第1不織布シートに含まれる繊維の平均繊度を前記範囲内に調整することにより、繊維間に適度な空間を形成でき、この空間が、高伸度不織布シートが海水中に沈む際の空気や水の通り道となり、高伸度不織布シートを沈めやすくなるため好ましい。
なお、第1不織布シートが繊維長の異なる複数の繊維を含む時には、各繊維長の繊維の割合(質量基準)を考慮した加重平均によって、平均繊維長を求めることとする。以下、第2不織布シートでも同様である。
【0023】
第1不織布シートに含まれる繊維の平均繊維長は、熱収縮前において、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上、更に好ましくは40mm以上であり、好ましくは140mm以下、より好ましくは100mm以下、更に好ましくは80mm以下、特に好ましくは70mm以下である。第1不織布シートに含まれる繊維の平均繊維長が低くなるほど、繊維同士の絡み合いが少なくなり、高伸度不織布シートの伸びが良くなる。また平均繊維長が20mm以上であれば、高伸度不織布シートに必要な強度を付与することも可能となる。
なお、第1不織布シートが繊維長の異なる複数の繊維を含む時には、各繊維長の繊維の割合(質量基準)を考慮した加重平均によって、平均繊維長を求めることとする。以下、第2不織布シートでも同様である。
【0024】
第1不織布シートの目付は、好ましくは200g/m
2以上、より好ましくは250g/m
2以上、更に好ましくは300g/m
2以上であり、好ましくは500g/m
2以下、より好ましくは450g/m
2以下、更に好ましくは400g/m
2以下である。第1不織布シートの目付を前記範囲内に調整することにより、高伸度不織布シートに高い伸びを付与することが可能となる。また一般的に、乾熱収縮率が高い第1繊維は高価なため、製造コストも考慮して、第1不織布シートの目付は上記範囲内が好ましい。
【0025】
<第2不織布シート(ベース層)>
第2不織布シートは、前記第1繊維よりも乾熱収縮率が低い第2繊維を含有する。第2不織布シートは、高伸度不織布シートに所望の強度を付与し、更に第1不織布シートとの熱収縮性の違いを利用して第2不織布シート表面に形成され得る皺(好ましくは、深さが0.2〜3.0mmの凹凸皺)の存在により、高伸度不織布シートに所望の伸びを付与できる。第2不織布シートは、長繊維不織布または短繊維不織布のいずれであってもよいが、第2繊維の選択の幅が広いことから短繊維不織布が好ましい。
【0026】
第2繊維の乾熱収縮率は、好ましくは5.0%未満、より好ましくは4.0%以下、更に好ましくは3.0%以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは0%以上、より好ましくは0.5%以上、更に好ましくは1.0%以上である。第2繊維の乾熱収縮率を前記範囲内に調整することにより、高伸度不織布シートに所望の強度と伸びを付与できる。
【0027】
また第1繊維の乾熱収縮率と第2繊維の乾熱収縮率の差が大きい程、第2不織布シート表面に形成され得る皺が深くなり、該皺が第2不織布シート表面全体にうねる曲線を描くようにして多数形成される。該皺が深い程、また該皺の数が多い程、高伸度不織布シートの伸び率を高くすることが可能となる。そのため、第1繊維の乾熱収縮率と第2繊維の乾熱収縮率の差は、好ましくは5.0%以上、より好ましくは10.0%以上、更に好ましく15.0%以上、より更に好ましくは20.0%以上であり、好ましくは50.0%以下、より好ましくは40.0%以下、更に好ましくは35.0%以下である。第1繊維の乾熱収縮率と第2繊維の乾熱収縮率の差が前記範囲を下回ると、高伸度不織布シート表面に形成される皺が浅くなったり、皺の数が十分なものとならず、高伸度不織布シートの伸びが悪くなる虞がある。
【0028】
第2繊維としては、第1不織布シートに含まれていてもよい非熱収縮性繊維と同様のものが使用でき、コストや耐候性の観点から、固有粘度(IV)が0.60〜0.90のポリエステルを素材とする繊維が好ましい。また第2不織布シートは、本発明の効果を損なわない範囲で乾熱収縮率が5.0%以上50%以下の熱収縮性繊維を含んでいてもよいが、第1不織布シートと第2不織布シートの熱収縮率の差を大きくし、高伸度不織布シートの伸びを良くするために、該熱収縮性繊維の含有率は、第2不織布シート100質量%中、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。
【0029】
第2繊維は、捲縮性を有していてもよく、第2繊維としては、顕在捲縮繊維、潜在捲縮繊維のいずれも使用可能である。捲縮発現後の第2繊維の捲縮数は、好ましくは2個/25mm以上、より好ましくは5個/25mm以上、更に好ましくは8個/25mm以上であり、好ましくは30個/25mm以下、より好ましくは25個/25mm以下、更に好ましくは20個/25mm以下である。捲縮数を前記範囲内に調整することにより、高伸度不織布シートを嵩高く仕上げることができ、高伸度不織布シートが海水に沈降する際の空気や水の通り穴を確保することや、高伸度不織布シートに機械的強度を付与することが可能となる。
【0030】
親水化油剤を第2不織布シートに満遍なく付着させ、高伸度不織布シートをより速く海水に沈めることができるように、前記親水化油剤は原綿の段階で第2繊維に添加しておき、ウェブを形成する前に親水化油剤を第2繊維の表面に付着させておくことが好ましい。親水化油剤で表面がコーティングされる前の第2繊維の静摩擦係数は、好ましくは0.200以上、より好ましくは0.230以上、更に好ましくは0.250以上であり、好ましくは0.310以下、より好ましくは0.300以下、更に好ましくは0.290以下である。第1繊維の場合と同様に、一般的に、繊維に親水化油剤が付着すると、繊維の静摩擦係数は上昇する傾向にあり、これにより繊維間の摩擦力が上昇し、高伸度不織布の伸びが低下する。しかし親水化油剤を付着させる前の第2繊維の静摩擦係数を前記範囲内に調整することにより、繊維表面に親水化油剤が付着しても、第1繊維の静摩擦係数が上昇しすぎることなく、高伸度不織布シートに一定の伸びを付与することが可能となる。
第2繊維の静摩擦係数は、第1繊維の静摩擦係数よりも、高くても、低くても、同じであってもよいが、第1繊維の静摩擦係数よりも低いことが望ましい。
【0031】
また第1繊維と同様に、本発明では、第2不織布シートを構成する繊維として、繊維を構成している樹脂が未配向のものや配向の低いもの以外にも、配向の高いもの(すなわち、結晶化の程度が高いもの)も好ましく使用できる。第2繊維の複屈折率は、通常0.020以上であり、好ましくは0.080以上、より好ましくは0.090以上、更に好ましくは0.100以上であり、好ましくは0.500以下、より好ましくは0.400以下、更に好ましくは0.300以下である。第2繊維の複屈折率を前記範囲内に調整することにより、安価で、製造が容易で、経時的安定性に優れ、且つ沈降性の良い高伸度不織布となる。
【0032】
高伸度不織布シートには適度な引張強さと引張伸びが求められるが、高伸度不織布シートに適度な引張強さと引張伸びを付与するために、第2繊維も、適度な強度と伸びを有していることが望ましい。
第2繊維の引張強さは、好ましくは0.5cN/dtex以上、より好ましくは1.0cN/dtex以上、更に好ましくは1.5cN/dtex以上であり、好ましくは6.0cN/dtex以下、より好ましくは5.5cN/dtex以下、更に好ましくは5.0cN/dtex以下である。
また第2繊維の引張伸び率は、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは60%以上であり、上限は特に限定されず通常200%以下であるが、好ましくは120%以下、より好ましくは110%以下、更に好ましくは100%以下である。
【0033】
第2繊維は、中実繊維または中空繊維のいずれであってもよいが、高伸度不織布シートの沈みやすさの観点からは、中実繊維であることが好ましい。
【0034】
第2不織布シートに含まれる繊維の平均繊度は、好ましくは1dtex以上、より好ましくは2dtex以上、更に好ましくは3dtex以上であり、好ましくは15dtex以下、より好ましくは12dtex以下、更に好ましくは10dtex以下である。第2不織布シートに含まれる繊維の平均繊度を前記範囲内に調整することにより、繊維間に適度な空間を形成でき、高伸度不織布シートが海水中に沈む際、この空間を通じて空気や水が通り抜け、高伸度不織布シートを沈めやすくなるため好ましい。
【0035】
第2不織布シートに含まれる繊維の平均繊維長は、熱収縮前において、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上、更に好ましくは40mm以上であり、好ましくは140mm以下、より好ましくは100mm以下、更に好ましくは80mm以下、特に好ましくは70mm以下、より更に好ましくは60mm以下である。第2不織布シートに含まれる繊維の平均繊維長が低くなるほど、繊維同士の絡み合いが少なくなり、高伸度不織布シートの伸びが良くなる。また平均繊維長が20mm以上であれば、高伸度不織布シートに必要な強度を付与することも可能となる。
【0036】
第2不織布シートの目付は、高伸度不織布に必要な強度を付与するため、好ましくは600g/m
2以上、より好ましくは700g/m
2以上、更に好ましくは800g/m
2以上であり、好ましくは1500g/m
2以下、より好ましくは1400g/m
2以下、更に好ましくは1300g/m
2以下である。
なお、第2不織布シートの目付を前記範囲内にするには、かなり厚みのある不織布にする必要があるため、前記範囲の目付を有する1枚の不織布を製造しようとすると、製造装置の制約上、難しい場合がある。このような場合は、第2繊維を含む不織布シートを2枚以上作成し、これらを積層した積層不織布を第2不織布シートとして使用するとよい。
【0037】
また高伸度不織布シート表面(第2不織布シート側表面)に、熱収縮によりある程度の深さ及び数を有する皺を形成しながら、高伸度不織布に適度な強度を付与するため、第2不織布シートの目付は、第1不織布シートの目付に対し、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2.0倍以上、更に好ましくは2.5倍以上であり、より更に好ましくは3.0倍以上であり、好ましくは5.0倍以下、より好ましくは4.5倍以下、更に好ましくは4.0倍以下である。
【0038】
<製造方法>
本発明の高伸度不織布シートは、好ましくは短繊維不織布を製造する一般的な方法により製造することができ、乾式法または湿式法のいずれも採用できるが、本発明の高伸度不織布シートの製造方法は、具体的には、
熱収縮性の第1繊維を含み、親水化油剤が付着している第1不織布シートを製造する工程;
第1繊維よりも乾熱収縮率が低い第2繊維を含み、親水化油剤が付着している第2不織布シートを製造する工程;
前記第1不織布シートと前記第2不織布シートを積層して、前記第1繊維と前記第2繊維とを交絡することにより、前記第1不織布シートと前記第2不織布シートが一体化された複合シートを製造する工程;及び
複合シートに熱収縮処理を行う工程;
を含む点に特徴を有する。
【0039】
第1不織布シート及び第2不織布シートに親水化油剤を付着させる方法としては、(1)第1繊維を含む第1不織布シート及び第2繊維を含む第2不織布シートをそれぞれ公知の方法により製造し、得られる第1不織布シート及び第2不織布シートに、親水化油剤をコーティング、スプレー塗布、またはディッピング等により付着させる方法、及び(2)親水化油剤を原綿段階の第1繊維或いは第2繊維に付着させ、親水化油剤が表面に付着した第1繊維或いは第2繊維を用いて、それぞれ公知の方法により第1不織布シートまたは第2不織布シートを製造する方法、等が例示される。本発明では、親水化油剤を第1不織布シート及び第2不織布シートに満遍なく付着させることができるように、上記(2)に示す方法がより好ましい。
【0040】
第1不織布シートまたは第2不織布シートを製造する工程は、更に、親水化油剤が表面に付着した第1繊維または第2繊維を含む繊維ウェブをクロス積層する工程;クロス積層された繊維ウェブを長手方向に50%以上600%以下(好ましくは100%以上、より好ましくは250%以上、好ましくは500%以下)でドラフトをかけることにより、長手方向に第1繊維または第2繊維を再配列する工程;及び再配列された繊維ウェブにニードルパンチを施す工程;を含むことが好ましい。
繊維ウェブをクロス積層することにより、高伸度不織布シートの幅方向に対して強度を高くしやすくなる。また、ウェブをパラレルカードにより紡出する場合には、拡幅機により横方向に広げることも好ましい形態のひとつである。
一方、高伸度不織布シートは不織布中の繊維の配列が多い方向に対して熱収縮率が高くなりやすい。そこで、シートの長手(マシン)方向にドラフトをかけることにより、クロス積層により形成された主に幅方向に配列された繊維を、長手(マシン)方向に再配列することが可能となる。これにより、高伸度不織布シートのタテ・ヨコの強力バランスが良くなる。ドラフトをかける方法としては、ドラフターを用いても良いし、単にカードからの供給速度とニードルパンチ機の速度比の設定を後者がより高くなるように設定することで可能となる。その際、ウェブ層の幅は、ドラフトをかける前の幅から3〜30%程度狭くなることが好ましい。ドラフト比に反比例するような形でウェブ層の幅が狭くなってしまうと製造時の取り扱いが不便になる。
ニードルパンチ加工における突き刺し密度は、好ましくは5箇所/cm
2以上、より好ましくは10箇所/cm
2以上、更に好ましくは15箇所/cm
2以上であり、好ましくは50箇所/cm
2以下、より好ましくは45箇所/cm
2以下、更に好ましくは40箇所/cm
2以下である。突き刺し密度は、第1不織布シート及び第2不織布シートで同一であっても異なっていてもよい。
【0041】
複合シートの製造に際し、積層した第1不織布シートと第2不織布シートは、ニードルパンチにより各不織布シート中の第1繊維と第2繊維を交絡することにより一体化されることが好ましい。ニードルパンチ加工における突き刺し密度は、好ましくは5箇所/cm
2以上、より好ましくは10箇所/cm
2以上、更に好ましくは15箇所/cm
2以上であり、好ましくは50箇所/cm
2以下、より好ましくは45箇所/cm
2以下、更に好ましくは40箇所/cm
2以下である。
【0042】
熱収縮処理は、例えば、親水化油剤の分解温度より低い温度で実施する必要があり、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは170℃以下、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは140℃以上である。また熱収縮処理は、好ましくは0.5〜6分間、より好ましくは1〜5分間実施するとよい。熱収縮処理には、例えば、熱風通過型熱処理機を用いるとよい。
熱収縮処理により、タテ方向及びヨコ方向それぞれに熱収縮した高伸度不織布シートが得られるが、該高伸度不織布シートの熱収縮率は、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれにおいて、好ましくは2.0%以上、より好ましくは3.0%以上、更に好ましくは4.0%以上であり、好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下、更に好ましくは10%以下である。高伸度不織布シートの熱収縮率が前記範囲内であれば、伸びと強度が良好な高伸度不織布シートとなる。
【0043】
<高伸度不織布シート>
高伸度不織布シートの目付は、好ましくは500g/m
2以上、より好ましくは850g/m
2以上、更に好ましくは1200g/m
2以上であり、好ましくは2000g/m
2以下、より好ましくは1800g/m
2以下、更に好ましくは1600g/m
2以下である。高伸度不織布シートの目付を前記範囲内に調整することにより、高伸度不織布の強度を維持できる。
【0044】
高伸度不織布シートの厚さは、好ましくは4.2mm以上、より好ましくは7.0mm以上、更に好ましくは9.5mm以上であり、好ましくは15mm以下、より好ましくは14mm以下、更に好ましくは13mm以下である。高伸度不織布シートの厚さを前記範囲内に調整することにより、高伸度不織布シートをある程度嵩高くしておくことで、高伸度不織布シートの伸び率を高い状態で維持できる。また高伸度不織布シートを目付の割に嵩高くしておくことで、高伸度不織布シートを海水中へ沈降させる際の空気や水の通り道を確保できるというメリットもある。
【0045】
本発明の高伸度不織布シートは、機械的強度に優れているため、適度な伸びと引張強さを有している。
JIS L 1913 6.3の規定に準じて測定される高伸度不織布シートのタテ方向及びヨコ方向の伸び率は、それぞれ、好ましくは120%以上、より好ましくは130%以上、更に好ましくは140%以上であり、好ましくは300%以下、より好ましくは280%以下、更に好ましくは260%以下である。
【0046】
JIS L 1913 6.3の規定に準じて測定される高伸度不織布シートのタテ方向及びヨコ方向の引張強さは、それぞれ、好ましくは500N/5cm以上、より好ましくは650N/5cm以上、更に好ましくは800N/5cm以上であり、好ましくは3000N/5cm以下、より好ましくは2900N/5cm以下、更に好ましくは2800N/5cm以下である。また高伸度不織布シートは、タテ・ヨコの強力バランスを良くするため、高伸度不織布シートのヨコ方向の引張強さは、タテ方向の引張強さに対し、好ましくは0.8倍以上、より好ましくは1.1倍以上、更に好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは2.5倍以下、より好ましくは2.0倍以下、更に好ましくは1.8倍以下である。
【0047】
<使用方法>
本発明に係る高伸度不織布シートは、高い伸張性と優れた機械的強度を有するため、土木用途、建築用途などに好ましく用いられる。また海水への沈降性も良好なことから、護岸工事における防砂シートとしても好ましく用いられる。高伸度不織布シートを水に沈める際には、第1不織布シートと第2不織布シートのどちらが上になってもよいが、好ましくは第2不織布シートが上面になるようにするとよく、実施例の欄に記載する手順で測定される高伸度不織布シートの沈降時間は、好ましくは10分以下、より好ましくは1分以下、更に好ましくは30秒以下である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0049】
<繊維の乾熱収縮率>
JIS L 1015 8.15(b)法に準じて、140℃の温度下、30分間熱処理することにより測定した。
【0050】
<捲縮数>
JIS L 1015 8.12.1法に準じて測定した。
【0051】
<繊維の静摩擦係数>
親水化油剤で表面がコーティングされる前の第1繊維及び第2繊維の静摩擦係数は、JIS L 1015 8.13法に準じて測定した。
【0052】
<繊維の複屈折率>
原綿段階の繊維において任意の測定箇所20点を採取し、偏光顕微鏡(株式会社ニコン社製「OPTIPHOT−POL型」)を用いて、繊維径とレタデーションを読み取り、複屈折率を求めた。
【0053】
<繊維の引張強さ及び伸び率>
JIS L 1015 8.7法に準じて測定した。
【0054】
<不織布シートの目付>
JIS L1913 6.2法に準じて測定した。
【0055】
<不織布シートの厚さ>
JIS L1913 6.1B法に準じて測定した。
【0056】
<高伸度不織布シートの熱収縮率>
連続熱収縮処理を行う前の複合シートに、タテ方向及びヨコ方向にそれぞれL
A1及びL
B1(実際はL
A1=L
B1=1m)の長さを表す直線を書いておき、連続熱収縮処理後のタテ方向の長さL
A2及びヨコ方向の長さL
B2を測定し、下記式に基づいてタテ方向及びヨコ方向の熱収縮率を求めた。
タテ方向の熱収縮率(%)=(L
A1−L
A2)/L
A1×100
ヨコ方向の熱収縮率(%)=(L
B1−L
B2)/L
B1×100
【0057】
<高伸度不織布シートの引張強さ及び伸び率>
JIS L 1913 6.3の規定に準じて測定した。
【0058】
<高伸度不織布シートの沈降時間>
JIS L 1907 7.1.3の規定に準じて測定した。ただし、水を3.5%塩水に変えて測定を実施した。
【0059】
<繊維>
実施例で使用した繊維を表1に示す。ここで第1繊維とは、ポリエステル繊維(高安株式会社製「タカヤスエステル」SDK)に、親水化油剤(高松油脂株式会社製「SR1000」、ポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートのブロック共重合物)を、親水化油剤の付着量が0.5質量%となるように原綿段階で付与した繊維である。また第2繊維とは、繊維長の異なるポリエステル繊維に、親水化油剤(高松油脂株式会社製「SR1000」)を、親水化油剤の付着量が0.5質量%となるように原綿段階で付与した繊維である。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例1
表1の第1繊維(繊度8.0dtex、繊維長64mm、乾熱収縮率27.0%)100質量%をパラレルカード機より繊維ウェブを紡出し、クロス積層した。クロス積層したコンベアとニードルパンチ機デリベリロールのドラフト比を400%になるように設定して表2に示す条件でニードルパンチ加工を行い、第1不織布シートを得た。
一方、表1の第2A繊維(繊度6.6dtex、繊維長76mm、乾熱収縮率2.6%)100質量%をパラレルカード機より繊維ウェブを紡出し、クロス積層した。クロス積層したコンベアとニードルパンチ機デリベリロールのドラフト比を400%になるように設定して表2に示す条件でニードルパンチ加工を行い、第2不織布シートを得た。
得られた第1不織布シートの上面に、2枚の第2不織布シートを積層して、表2に示す条件でニードルパンチ加工を行い、第1不織布シートと2枚の第2不織布シートを複合化した。続いて、157℃に加熱した熱風通過型熱処理機に前記工程で得られた複合シートを供給し、約3分間の連続熱収縮処理を行い、高伸度不織布シートを得た。複合シートは、連続熱収縮処理により、タテ方向で5.0%、ヨコ方向で8.0%収縮した。結果を表2に示す。
【0062】
実施例2〜8
表2に記載の条件以外は実施例1と同様にして高伸度不織布シートを得た。結果を表2に示す。
【0063】
比較例1
第1不織布シートを構成する繊維として、親水化油剤(高松油脂株式会社製「SR1000」)を付与していないポリエステル繊維を100質量%用いたこと以外は、実施例1と同様にして高伸度不織布シートを得た。しかし、得られた高伸度不織布シートを用いて沈降時間を測定したところ、第1不織布シートと第2不織布シートの層間に残った空気はいつまでも排出されず、高伸度不織布シートは30分以上水面に浮いたまま沈降しなかった。
【0064】
【表2】