特許第6876478号(P6876478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876478
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス電極用バインダー
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20210517BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
【請求項の数】8
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-57521(P2017-57521)
(22)【出願日】2017年3月23日
(65)【公開番号】特開2018-160401(P2018-160401A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】金岡 友季
(72)【発明者】
【氏名】沖塚 真珠美
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−224239(JP,A)
【文献】 特開2008−266138(JP,A)
【文献】 特開2016−193822(JP,A)
【文献】 特開2012−204203(JP,A)
【文献】 特開2014−026824(JP,A)
【文献】 特開2002−260665(JP,A)
【文献】 特開2006−253091(JP,A)
【文献】 特開2012−195289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスの電極に用いられるバインダーであって、
50℃、10Hzにおける貯蔵弾性率が1×10〜1×1010Paであるバインダー(A)、及び、50℃、10Hzにおける貯蔵弾性率が1×10〜1×10Paであるバインダー(B)を含有し、
前記バインダー(A)は、ポリビニルアセタール系樹脂(A)であり、
前記バインダー(B)は、ポリビニルアセタール系樹脂(B)及び可塑剤を含有し、
前記バインダー(A)及び前記バインダー(B)の合計100重量%に対して、前記バインダー(A)を85〜99.9重量%、前記バインダー(B)を0.1〜15重量%含有する
ことを特徴とする蓄電デバイス電極用バインダー。
【請求項2】
バインダー(A)、バインダー(B)及び水性媒体を含有することを特徴とする請求項1記載の蓄電デバイス電極用バインダー。
【請求項3】
バインダー(A)は、微粒子形状であり、体積平均粒子径が10〜1000nmであることを特徴とする請求項1又は2記載の蓄電デバイス電極用バインダー。
【請求項4】
バインダー(A)は、50℃、10Hzにおける貯蔵弾性率が1×10〜1.5×10であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の蓄電デバイス電極用バインダー。
【請求項5】
バインダー(B)は、微粒子形状であり、体積平均粒子径が10〜1000nmであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の蓄電デバイス電極用バインダー。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の蓄電デバイス電極用バインダー、及び、活物質を含有する蓄電デバイス電極用組成物であって、前記活物質100重量部に対して、バインダー(A)及びバインダー(B)の合計含有量が0.1〜12重量部であることを特徴とする蓄電デバイス電極用組成物。
【請求項7】
請求項記載の蓄電デバイス電極用組成物を含有することを特徴とする蓄電デバイス電極。
【請求項8】
請求項記載の蓄電デバイス電極を含有することを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性及び粘着性を有し、得られる電極に強靭性及び柔軟性を付与することが可能な蓄電デバイス電極用バインダーに関する。更に、該蓄電デバイス電極用バインダーを含む蓄電デバイス電極用組成物、蓄電デバイス電極、及び、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型ビデオカメラや携帯型パソコン等の携帯型電子機器の普及に伴い、移動用電源としての二次電池の需要が急増している。また、このような二次電池に対する小型化、軽量化、高エネルギー密度化の要求は非常に高い。
このように、繰り返し充放電が可能な二次電池としては、従来、鉛電池、ニッケル−カドミウム電池等が主流となっている。しかしながらこれらの電池は、充放電特性は優れているが、電池重量やエネルギー密度の点では、携帯型電子機器の移動用電源として充分満足できる特性を有しているとはいえない。
【0003】
そこで、二次電池として、リチウム又はリチウム合金を負極電極に用いたリチウム二次電池の研究開発が盛んに行われている。このリチウム二次電池は、高エネルギー密度を有し、自己放電も少なく、軽量であるという優れた特徴を有している。
リチウム二次電池の充放電部の構造は、正極及び負極をセパレータを挟んで積層した積層式電池や、円筒形電池等の捲回式電池が用いられている。捲回式電池は、小さな容積に対して有効電極面積を広くすることができ、高容量化、高出力化することができる。
【0004】
現在、特に、リチウム二次電池の電極(負極)用のバインダーとして最も広範に用いられているのが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)に代表されるフッ素系樹脂である。
しかしながら、ポリフッ化ビニリデンは電極用スラリーを製造する際、溶剤への溶解性が悪く、製造効率を著しく低下させてしまうという問題があった。
これに対して、ポリフッ化ビニリデンを溶解させるスラリー用の溶剤としてN−メチルピロリドンが一般的に用いられているが、N−メチルピロリドンは沸点が高いためスラリー乾燥工程で大量の熱エネルギーが必要となるばかりか、完全に乾燥されなかったN−メチルピロリドンが電極中に残留してしまい、電池の性能を低下させてしまうという問題があった。
【0005】
一方、水系バインダーとしてはカルボキシメチルセルロース等が用いられているが、カルボキシメチルセルロースを用いた場合には、樹脂の柔軟性が不充分となるため、活物質を結着させる効果が不充分となったり、集電体への接着力が著しく低下したりするという問題があった。
また、特許文献1では、負極活物質として黒鉛層間距離(d002)が0.345〜0.370nmの低結晶炭素と、バインダーとしてスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを用いることで良好な負極が得られ、出力特性に優れた電池を得られることが示されている。
しかしながら、SBRは、低弾性であり、かつ、低反発であるため、活物質の膨張収縮に対する追従性が低く、特に活物質の収縮時にバインダーが剥離してしまうという問題があった。その結果、活物質間及び集電体界面で導通不良を起こしてしまい、繰り返しの充放電により、容量が低下してしまうという問題があった。
【0006】
また、高弾性、かつ、高反発であるバインダー樹脂を用いる方法も提案されているが、捲回式電池では、充放電時の活物質の膨張収縮により、捲回体内に不均一な応力分布が発生し、電極が圧迫されて、活物質間及び集電体界面の剥離や、電極のひび割れや電極端部の捲れが生じて、容量が低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−158099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、接着性及び粘着性を有し、得られる電極に強靭性及び柔軟性を付与することが可能な蓄電デバイス電極用バインダーを提供することを目的とする。更に、該蓄電デバイス電極用バインダーを含む蓄電デバイス電極用組成物、蓄電デバイス電極、及び、蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、蓄電デバイスの電極に用いられるバインダーであって、50℃、10Hzにおける貯蔵弾性率が1×10〜1×1010Paであるバインダー(A)、及び、50℃、10Hzにおける貯蔵弾性率が1×10〜1×10Paであるバインダー(B)を含有し、前記バインダー(A)は、ポリビニルアセタール系樹脂(A)であり、前記バインダー(B)は、ポリビニルアセタール系樹脂(B)及び可塑剤を含有し、前記バインダー(A)及び前記バインダー(B)の合計100重量%に対して、前記バインダー(A)を85〜99.9重量%、前記バインダー(B)を0.1〜15重量%含有する蓄電デバイス電極用バインダーである。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、蓄電デバイス電極用組成物に使用するバインダーとして、高弾性、且つ、高反発のポリビニルアセタール系樹脂(A)を主成分とし、低弾性、且つ、低反発のバインダーを所定量添加することにより、バインダー自体に粘着性を付与することができることを見出した。また、特に、円筒形電池のような捲回式電池に用いた場合に、電極のひび割れ及び電極端部の捲れを抑制することができ、繰返し充放電による容量の低下を抑制することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の蓄電デバイス電極用バインダーは、バインダー(A)を含有する。
上記バインダー(A)は、50℃、10Hzにおける貯蔵弾性率の下限が1×10Pa、上限が1×1010Paである。
上記バインダー(A)の貯蔵弾性率が1×10Pa以上であると、バインダー樹脂が柔らかくなりすぎることがなく、繰返しの充放電の際にも、バインダー樹脂の変形を少なくして、活物質の剥離を抑制することができる。上記バインダー(A)の貯蔵弾性率が1×1010Pa以下であると、バインダー樹脂が硬くなりすぎることがなく、活物質間及び集電体界面の接着性を向上させることができる。
上記バインダー(A)の貯蔵弾性率は、好ましい下限が2.0×10Pa、より好ましい下限が3.0×10Pa、好ましい上限が2.5×10Pa、より好ましい上限が1.5×10Paである。
なお、50℃、10Hzにおける貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置を用いることにより測定することができる。
【0012】
上記バインダー(A)の重量平均分子量は、10000〜10000000であることが好ましく、20000〜5000000であることがより好ましい。
【0013】
上記バインダー(A)のガラス転移温度は、好ましい下限が55℃、より好ましい下限が60℃、好ましい上限が250℃、より好ましい上限が190℃である。
【0014】
上記バインダー(A)は、ポリビニルアセタール系樹脂(A)である。
本発明では、バインダー(A)としてポリビニルアセタール系樹脂(A)を用いることで、活物質に引力的相互作用が働き、少量のバインダー量で活物質を固定化することが出来る。また、導電助剤とも引力的相互作用を及ぼし、活物質、導電助剤間距離をある一定範囲にとどめることが出来る。このように活物質と導電助剤との距離を程よいものとすることで、活物質の分散性が大幅に改善される。
更に、PVDF等の樹脂を用いる場合と比較して、集電体との接着性を著しく向上させることができる。加えて、カルボキシメチルセルロースを用いる場合と比較して、活物質の分散性、接着性に優れ、バインダーの添加量が少ない場合でも充分な効果を発揮することができる。
【0015】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)の水酸基量の好ましい下限は30モル%、好ましい上限は60モル%である。上記水酸基量が30モル%以上であると、電解液に対する耐性を充分なものとして、電極を電解液中に浸した際、樹脂成分が電解液中に溶出することを抑制することができる。上記水酸基量が60モル%以下であると、ポリビニルアセタール系樹脂(A)の水性媒体中での安定性を良好なものとして、バインダー樹脂の凝集を抑制して、活物質を充分に分散させることができる。
上記水酸基量のより好ましい下限は35モル%、より好ましい上限は55モル%である。
【0016】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)のアセタール化度は、単独アルデヒド、混合アルデヒドのいずれのアセタール化を用いる場合でも、全アセタール化度で好ましい下限が40モル%、好ましい上限が70モル%である。上記アセタール化度が40モル%以上であると、樹脂の柔軟性を良好なものとして、集電体への充分な接着力を発揮することができる。上記アセタール化度が70モル%以下であると、電解液に対する耐性を充分なものとして、電極を電解液中に浸した際の樹脂成分の電解液への溶出を抑制することができる。上記アセタール化度は、より好ましい下限が45モル%、より好ましい上限が65モル%である。
【0017】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)のアセチル基量は、好ましい下限が0.2モル%、好ましい上限が20モル%である。上記アセチル基量が0.2モル%以上であると、樹脂の柔軟性を良好なものとすることができる。上記アセチル基量が20モル%以下であると、電解液に対する耐性を充分なものとして、電極を電解液に浸した際の樹脂成分の電解液への溶出を抑制することができる。上記アセチル基量のより好ましい下限は1モル%である。
【0018】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)の重合度は、好ましい下限が250、好ましい上限が4000である。上記重合度が250以上であると、電解液への耐性を充分なものとして、電極の電解液への溶出を抑制することができる。上記重合度が4000以下であると、活物質との接着力を充分なものとして、リチウム二次電池の放電容量の低下を抑制することができる。上記重合度のより好ましい下限は280、より好ましい上限は3500である。
【0019】
また、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)はイオン性官能基を有することが好ましい。上記イオン性官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、及び、それらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の官能基が好ましい。なかでも、カルボキシル基、スルホン酸基、それらの塩がより好ましく、スルホン酸基、その塩であることが特に好ましい。ポリビニルアセタール系樹脂(A)がイオン性官能基を有することにより、リチウム二次電池電極用組成物中においてポリビニルアセタール系樹脂(A)の分散性が向上し、また、活物質及び導電助剤の分散性を特に優れたものとすることができる。
なお、上記塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0020】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)中のイオン性官能基の含有量は、好ましい下限が0.01mmol/g、好ましい上限が1mmol/gである。上記イオン性官能基の含有量が0.01mmol/g以上であると、ポリビニルアセタール系樹脂(A)のリチウム二次電池電極用組成物中での分散性、及び、電極とした際の活物質及び導電助剤の分散性を充分に向上させることができる。上記イオン性官能基の含有量が1mmol/g以下であると、電池とした際のバインダーの耐久性を向上させることができ、リチウム二次電池の放電容量を向上させることができる。上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)中のイオン性官能基の含有量は、より好ましい下限が0.02mmol/g、より好ましい上限が0.5mmol/gである。上記イオン性官能基の含有量は、NMRを用いることで測定することができる。
【0021】
上記イオン性官能基の存在形態については、ポリビニルアセタール系樹脂(A)構造中に直接存在していてもよく、グラフト鎖を含むポリビニルアセタール系樹脂(A)(以下、単にグラフト共重合体ともいう)のグラフト鎖に存在していてもよい。なかでも、電解液に対する耐性及び電極とした際の活物質及び導電助剤の分散性を優れたものとすることができることから、ポリビニルアセタール系樹脂(A)構造中に直接存在していることが好ましい。
上記イオン性官能基がポリビニルアセタール系樹脂(A)構造中に直接存在している場合は、ポリビニルアセタール系樹脂(A)の主鎖を構成する炭素にイオン性官能基が結合した鎖状分子構造であるか、アセタール結合を介してイオン性官能基が結合した分子構造であることが好ましい。また、アセタール結合を介してイオン性官能基が結合した分子構造であることが特に好ましい。
イオン性官能基が上記の構造で存在することで、リチウム二次電池電極用組成物中においてポリビニルアセタール系樹脂(A)の分散性が向上し、電極とした際の活物質及び導電助剤の分散性を特に優れたものとすることができるとともに、電池とした際のバインダーの劣化が抑制されることからリチウム二次電池の放電容量の低下を抑制することができる。
【0022】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)構造中に、上記イオン性官能基を直接有するポリビニルアセタール系樹脂(A)を製造する方法は特に限定されない。例えば、上記イオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコール原料にアルデヒドを反応させアセタール化する方法、ポリビニルアセタール系樹脂(A)を作製した後、該ポリビニルアセタール系樹脂(A)の官能基に対して反応性を有する別の官能基及びイオン性官能基を持った化合物と反応させる方法等が挙げられる。
【0023】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)が、アセタール結合を介してイオン性官能基を有している場合、アセタール結合とイオン性官能基が鎖状、環状のアルキル基や芳香族環により接続されていることが好ましい。なかでも、炭素数1以上のアルキレン基、炭素数5以上の環状アルキレン基、炭素数6以上のアリール基等により接続されていることが好ましく、特に、炭素数1以上のアルキレン基、芳香族環により接続されていることが好ましい。
これにより、電解液に対する耐性及び電極とした際の活物質及び導電助剤の分散性を優れたものとすることができるとともに、電池とした際のバインダーの劣化が抑制されることからリチウム二次電池の放電容量の低下を抑制することができる。
上記芳香族系置換基としては、ベンゼン環、ピリジン環等の芳香族環や、ナフタレン環、アントラセン環等の縮合多環芳香族基等が挙げられる。
【0024】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)が、アセタール結合を介してイオン性官能基を有している場合、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)は、下記式(1−1)で表される水酸基を有する構成単位、下記式(1−2)で表されるアセチル基を有する構成単位、下記式(1−3)で表されるアセタール基を有する構成単位、及び、下記式(1−4)で表されるイオン性官能基を含むアセタール基を有する構成単位を有するものであることが好ましい。
これにより、ポリビニルアセタール系樹脂(A)の分散性、活物質及び導電助剤の分散性を特に優れたものとすることができるとともに、集電体に対する接着力及び電解液に対する耐性も特に優れたものとすることができることから、リチウム二次電池の放電容量の低下を特に抑制することができる。
【0025】
【化1】
【0026】
式(1−3)中、Rは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表し、式(1−4)中、Rは炭素数1〜20のアルキレン基又は芳香環を表し、Xはイオン性官能基を表す。
【0027】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)中のイオン性官能基を有するアセタール結合の含有量は、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)中のイオン性官能基の含有量が上記適性範囲となるように調整することが好ましい。ポリビニルアセタール系樹脂(A)中のイオン性官能基の含有量を上記適性範囲とするためには、例えば、1つのアセタール結合によって、1つのイオン性官能基が導入されている場合、イオン性官能基を有するアセタール結合の含有量を0.1〜10モル%程度とすることが好ましい。また、1つのアセタール結合によって、2つのイオン性官能基が導入されている場合には、イオン性官能基を有するアセタール結合の含有量を0.05〜5モル%程度とすることが好ましい。また、ポリビニルアセタール系樹脂(A)の分散性と、樹脂の柔軟性及び集電体に対する接着力を共に高いものとするために、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)中のイオン性官能基を有するアセタール結合の含有量は、全アセタール結合の0.5〜20モル%であることが好ましい。
ポリビニルアセタール系樹脂(A)中のイオン性官能基の含有量を上記範囲内とすることで、リチウム二次電池電極用組成物中においてポリビニルアセタール系樹脂(A)の分散性が向上するとともに、電解液に対する耐性及び電極とした際の活物質及び導電助剤の分散性を優れたものとすることができる。さらに電池とした際のバインダーの劣化が抑制されることからリチウム二次電池の放電容量の低下を抑制することができる。
【0028】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)構造中にアセタール結合を介してイオン性官能基を有するポリビニルアセタール系樹脂(A)を製造する方法は特に限定されない。例えば、ポリビニルアルコール原料に上記イオン性官能基を有するアルデヒドをあらかじめ反応させた後にアセタール化する方法が挙げられる。また、ポリビニルアルコールをアセタール化する際に、アルデヒド原料に上記イオン性官能基を有するアルデヒドを混合してアセタール化する方法、ポリビニルアセタール系樹脂(A)を作製した後に上記イオン性官能基を有するアルデヒドを反応させる方法等が挙げられる。
【0029】
上記イオン性官能基を有するアルデヒドとしては、スルホン酸基を有するアルデヒド、アミノ基を有するアルデヒド、リン酸基を有するアルデヒド、カルボキシル基を有するアルデヒド等が挙げられる。具体的には例えば、4−ホルミルベンゼン−1,3−ジスルホン酸二ナトリウム、4−ホルミルベンゼンスルホン酸ナトリウム、2−ホルミルベンゼンスルホン酸ナトリウム、3−ピリジンカルバルデヒド塩酸塩、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド塩酸塩、4−ジメチルアミノベンズアルデヒド塩酸塩、ベタインアルデヒドクロリド、(2−ヒドロキシ−3−オキソプロポキシ)リン酸、5−リン酸ピリドキサール、テレフタルアルデヒド酸、イソフタルアルデヒド酸等が挙げられる。
【0030】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)は、アセタール結合を介してイオン性官能基を有しており、イオン性官能基はスルホン酸基又はその塩であり、アセタール結合とイオン性官能基がベンゼン環によって接続されていることが特に好ましい。上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)がこのような分子構造を有することで、リチウム二次電池電極用組成物中におけるポリビニルアセタール系樹脂(A)の分散性、電極とした際の活物質及び導電助剤の分散性、電池とした際のバインダーの耐久性を特に優れたものとすることができる。
【0031】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)が、ポリマーの主鎖を構成する炭素にイオン性官能基が結合した鎖状分子構造である場合、下記一般式(2)に示す構造単位を有することが好ましい。上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)が下記一般式(2)に示す構造単位を有することで、リチウム二次電池電極用組成物中におけるポリビニルアセタール系樹脂(A)の分散性、電池とした際のバインダーの耐久性を特に優れたものとすることができる。
【0032】
【化2】
【0033】
式(2)中、Cはポリマー主鎖の炭素原子を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数1以上のアルキレン基を表し、Rはイオン性官能基を表す。
【0034】
上記Rとしては特に水素原子が好ましい。
上記Rとしては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基等が挙げられる。なかでも、上記Rはメチレン基であることが好ましい。
上記Rは、ヘテロ原子を有する置換基によって置換された構造であってもよい。上記置換基としては、エステル基、エーテル基、スルフィド基、アミド基、アミン基、スルホキシド基、ケトン基、水酸基等が挙げられる。
【0035】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)構造中にイオン性官能基が直接存在するポリビニルアセタール系樹脂(A)を製造する方法は特に限定されない。例えば、上記イオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコール原料にアルデヒドを反応させアセタール化する方法、ポリビニルアセタール系樹脂(A)を作製した後、該ポリビニルアセタール系樹脂(A)の官能基に対して反応性を有する別の官能基及びイオン性官能基を持った化合物と反応させる方法等が挙げられる。
【0036】
上記イオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコール原料を作製する方法としては、例えば、酢酸ビニル等のビニルエステルモノマーと、下記一般式(3)に示す構造を有するモノマーとを共重合化させた後、得られた共重合樹脂のエステル部位をアルカリ又は酸によりケン化する方法が挙げられる。
【0037】
【化3】
【0038】
式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数1以上のアルキレン基を表し、Rはイオン性官能基を表す。
【0039】
上記一般式(3)に示す構造を有するモノマーとしては特に限定されず、例えば、3−ブテン酸、4−ペンテン酸、5−ヘキセン酸、9−デセン酸等のカルボキシル基と重合性官能基を有するもの、アリルスルホン酸、2−メチル−2−プロペン−1−スルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−(メタクリロイルオキシ)プロパンスルホン酸等のスルホン酸基と重合性官能基を有するもの、N,N−ジエチルアリルアミン等のアミノ基と重合性官能基を有するもの、及びこれらの塩等が挙げられる。
なかでも、アリルスルホン酸及びその塩を用いた場合、リチウム二次電池電極用組成物中においてポリビニルアセタール系樹脂(A)の分散性が向上するとともに、電解液に対する耐性及び電極とした際の活物質及び導電助剤の分散性を優れたものとすることができる。さらに電池とした際のバインダーの劣化が抑制されることからリチウム二次電池の放電容量の低下を抑制することができるため好適である。特に、アリルスルホン酸ナトリウムを用いることが好ましい。
これらのモノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
上記Rとしては特に水素原子が好ましい。
上記Rとしては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基等が挙げられる。なかでも、上記Rはメチレン基であることが好ましい。
上記Rは、ヘテロ原子を有する置換基によって置換された構造であってもよい。上記置換基としては、エステル基、エーテル基、スルフィド基、アミド基、アミン基、スルホキシド基、ケトン基、水酸基等が挙げられる。
【0041】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)中の上記一般式(2)に示す構造単位の含有量は、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)中のイオン性官能基の含有量が上記適性範囲となるように調整することが好ましい。ポリビニルアセタール系樹脂(A)中のイオン性官能基の含有量を上記適性範囲とするためには、例えば、上記一般式(3)によって、1つのイオン性官能基が導入されている場合、上記一般式(2)に示す構造単位の含有量を0.05〜5モル%程度とすることが好ましい。また、上記一般式(3)によって、2つのイオン性官能基が導入されている場合、上記一般式(2)に示す構造単位の含有量を0.025〜2.5モル%程度とすることが好ましい。
ポリビニルアセタール系樹脂(A)中のイオン性官能基の含有量を上記範囲内とすることで、リチウム二次電池電極用組成物中においてポリビニルアセタール系樹脂(A)の分散性が向上するとともに、電解液に対する耐性及び電極とした際の活物質及び導電助剤の分散性を優れたものとすることができる。さらに電池とした際のバインダーの劣化が抑制されることからリチウム二次電池の放電容量の低下を抑制することができる。
【0042】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)は、下記式(4)で表される構成単位を有することが好ましい。式(4)中、Rは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。
下記式(4)で表される構成単位を有することで、結着性に優れるとともに、電解液に対する耐性を良好なものとして、電解液によって樹脂成分が膨潤したり、樹脂成分が電解液中に溶出したりすることを抑制することができる。その結果、得られる電極の電極密度を向上させることができる。
【0043】
【化4】
【0044】
上記式(4)中、Rで表される炭素数1〜20のアルキル基としては、特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。
上記Rとしては、活物質同士及び活物質と集電体との結着性をより優れたものとすることができるとともに、電解液に対する耐膨潤性をより高いものとすることができるという観点からプロピル基が好ましい。
【0045】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)中の上記式(4)で表される構成単位の含有量の好ましい下限は0.3モル%である。上記式(4)で表される構成単位の含有量が0.3モル%以上であると、電解液に対する耐性を向上させる効果を充分に発揮させることができる。また、樹脂の柔軟性が良好となり、クラックや割れの発生を抑制することができる。
上記式(4)で表される構成単位の含有量のより好ましい下限は0.4モル%、更に好ましい下限は0.5モル%、好ましい上限は5モル%、より好ましい上限は3モル%、更に好ましい上限は2モル%である。
【0046】
なお、上記式(4)で表される構成単位の含有量は、以下の方法により算出することができる。
具体的には、ポリビニルアセタール系樹脂(A)を重水素化ジメチルスルホキシドに濃度が1重量%となるように溶解させ、測定温度150℃でプロトンNMRを測定し、4.8ppm付近に現れるピーク(a)と、4.2ppm付近に現れるピーク(b)と、1.0〜1.8ppm付近に現れるピーク(c)と、0.9ppm付近に現れるピーク(d)の積分値を用いて次式により算出することができる。
式(4)で表される構成単位の含有量(モル%)={(a−b/2)/[(c−4d/3)/2]}×100
【0047】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)中の上記式(4)で表される構成単位の含有量は、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)の水酸基量が高い場合には、高く設定することが好ましい。ポリビニルアセタール系樹脂(A)の水酸基量が高い場合は、分子間の水素結合によってバインダーが硬くなりやすいことから、クラックや割れが発生しやすくなるが、上記式(4)で表される構成単位の含有量を増やすことによって樹脂の柔軟性が良好となり、クラックや割れの発生を抑制することができる。
一方、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)の水酸基量が低い場合には、ポリビニルアセタール系樹脂(A)中の上記式(4)で表される構成単位の含有量は、低く設定することが好ましい。
ポリビニルアセタール系樹脂(A)の水酸基量が低い場合には、上記式(4)で表される構成単位の含有量が低い範囲においても樹脂の柔軟性は充分に発揮され、クラックや割れの発生を抑制することができるとともに、電解液に対する耐性も高いものとすることができる。
【0048】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)中に、上記式(4)で表される構成単位を有するポリビニルアセタール系樹脂(A)を製造する方法としては、例えば、上記式(4)で表される構成単位を有する変性ポリビニルアルコール原料にアルデヒドを反応させアセタール化する方法が挙げられる。また、ポリビニルアセタール系樹脂(A)を作製する際に、ポリビニルアルコール原料の官能基に対して反応性を有する化合物を作用させて、式(4)で表される構成単位を分子内に保有させる方法が挙げられる。更に、ポリビニルアセタール系樹脂(A)を作製した後、該ポリビニルアセタール系樹脂(A)の官能基に対して反応性を有する化合物を反応させて、式(4)で表される構成単位を分子内に保有させる方法等が挙げられる。なかでも、生産性と式(4)で表される構成単位の含有量を調整しやすいこと等の点から、ポリビニルアセタール系樹脂(A)を作製した後、該ポリビニルアセタール系樹脂(A)の官能基に対して反応性を有する化合物を反応させて、式(4)で表される構成単位を分子内に保有させる方法が好適である。
【0049】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)の官能基に対して反応性を有する化合物を反応させる方法としては、ポリビニルアセタール系樹脂(A)の1つの水酸基に対して、1つの炭素原子に2つの水酸基を有するジェミナルジオール化合物を脱水縮合させる方法、ポリビニルアセタール系樹脂(A)の1つの水酸基に対して、アルデヒド化合物を付加させる方法等が挙げられる。なかでも、生産性と式(4)で表される構成単位の含有量を調整しやすいことから、ポリビニルアセタール系樹脂(A)の1つの水酸基に対して、アルデヒド化合物を付加させる方法が好適である。
【0050】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)の1つの水酸基に対して、アルデヒド化合物を付加させる方法としては、例えば、ポリビニルアセタール系樹脂(A)を酸性に調整したイソプロピルアルコールに溶解させた後、70〜80℃程度の高温条件でアルデヒドを反応させる方法等が挙げられる。また、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)中の上記式(4)で表される構成単位の含有量を上記適正範囲となるように調整するためには、上記反応時間や酸濃度を調整することが好ましい。ポリビニルアセタール系樹脂(A)中の上記式(4)で表される構成単位の含有量を低く設定する場合には、反応時間を長くすることが好ましく、また、酸濃度を高くすることが好ましい。ポリビニルアセタール系樹脂(A)中の上記式(4)で表される構成単位の含有量を高く設定する場合には、反応時間を短くすることが好ましく、また、酸濃度を低くすることが好ましい。好ましい反応時間は0.1〜10時間、好ましい酸濃度は0.5mM〜0.3Mである。
【0051】
上記バインダー(A)は、微粒子形状であることが好ましい。上記バインダー(A)が微粒子形状であることによって、活物質及び導電助剤の表面を全て覆うことなく、部分的に接着(点接触)することが可能となる。その結果、電解液と活物質との接触が良好となり、リチウム電池を使用した場合に大電流が付加されても、リチウムイオンの電導が充分に保たれ、電池容量の低下を抑制することができるという利点が得られる。
上記バインダー(A)の体積平均粒子径は10〜1000nmであることが好ましい。上記体積平均粒子径が10nm以上であると、電極とした際の活物質及び導電助剤の分散性を向上させることができ、リチウム二次電池の放電容量を向上させることができる。また、1000nm以下であると、活物質及び導電助剤の表面をバインダーが全て覆うことがなく、電解液と活物質との接触性を向上させることができることから、リチウム電池を大電流で使用した際にリチウムイオンの伝導が充分なものとなり、電池容量を向上させることができる。微粒子形状であるポリビニルアセタール系樹脂(A)のより好ましい体積平均粒子径は15〜800nmであり、さらに好ましい体積平均粒子径は15〜700nmである。
なお、上記体積平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置や透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡等を用いて測定することができる。
【0052】
上記バインダー(A)の体積平均粒子径は、CV値の上限が40%であることが好ましい。CV値が40%以下であると、大きな粒子径を持った微粒子が存在することがなく、大粒径粒子が沈降することによるリチウム二次電池電極用組成物の安定性の低下を抑制することができる。
上記CV値の好ましい上限は35%、より好ましい上限は32%、更に好ましい上限は30%である。なお、CV値は、標準偏差を体積平均粒子径で割った値の百分率(%)で示される数値である。
【0053】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)の製造方法は特に限定されない。例えば、ポリビニルアセタール系樹脂(A)を作製する工程を行った後、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)をテトラヒドロフラン、アセトン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチルや、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のポリビニルアセタール系樹脂(A)が溶解する有機溶剤に溶解させ、次いで、水等の貧溶媒を少量ずつ添加し、加熱及び/又は減圧して有機溶剤を除去することによりポリビニルアセタール系樹脂(A)を析出させて微粒子を作製する方法が挙げられる。また、大量の水に上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)が溶解した溶液を添加した後に必要に応じて加熱及び/又は減圧して有機溶剤を除去し、ポリビニルアセタール樹脂を析出させて微粒子を作製する方法が挙げられる。更に、ポリビニルアセタール系樹脂(A)を該ポリビニルアセタール系樹脂(A)のガラス転移温度以上で加熱してニーダー等で混練しながら、加熱加圧下で水を少量ずつ添加して混練する方法等が挙げられる。
なかでも、得られるポリビニルアセタール系樹脂(A)からなる微粒子の体積平均粒子径が小さく、粒子径分布が狭い微粒子を得ることができるため、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)を有機溶剤に溶解した後にポリビニルアセタール系樹脂(A)を析出させて微粒子を作製する方法が好ましい。
なお、上記製造方法では、ポリビニルアセタール系樹脂(A)からなる微粒子を作製し、乾燥した後に水性媒体に分散させてもよく、ポリビニルアセタール系樹脂(A)からなる微粒子の作製時に使用した溶媒をそのまま水性媒体として使用してもよい。
【0054】
本発明の蓄電デバイス電極用バインダーは、バインダー(B)を含有する。
上記バインダー(B)は、50℃、10Hzにおける貯蔵弾性率の下限が1×10Pa、上限が1×10Paである。
上記バインダー(B)の貯蔵弾性率が1×10Pa以上であると、バインダー樹脂の溶出を抑制することができる。上記バインダー(B)の貯蔵弾性率が1×10Pa以下であると、バインダー樹脂の応力分散性を向上させて、電極のひび割れを防止することができる。
上記バインダー(B)の貯蔵弾性率は、好ましい下限が5.0×10Pa、より好ましい下限が7.0×10Pa、好ましい上限が9.0×10Pa、より好ましい上限が6.0×10Paである。
なお、50℃、10Hzにおける貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置を用いることにより測定することができる。
【0055】
上記バインダー(B)の重量平均分子量は、10000〜10000000であることが好ましい。
【0056】
上記バインダー(B)のガラス転移温度は、好ましい下限が−30℃、より好ましい下限が−10℃、好ましい上限が53℃、より好ましい上限が49℃である。
【0057】
上記バインダー(B)は、ポリビニルアセタール系樹脂(B)及び可塑剤を含有する。
上記バインダー(B)がポリビニルアセタール系樹脂(B)及び可塑剤を含有することにより、本発明の蓄電デバイス電極用バインダーは、応力分散性を向上させることができ、電極のひび割れを防止することができる。
【0058】
上記ポリビニルアセタール系樹脂(B)としては、例えば、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)として例示したものと同様のものが挙げられる。
本発明において、上記ポリビニルアセタール系樹脂(B)は、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)と同じ樹脂であってもよく、異なる樹脂であってもよい。バインダー(A)及びバインダー(B)の親和性を向上させることができることから、上記ポリビニルアセタール系樹脂(B)は、上記ポリビニルアセタール系樹脂(A)と同じ樹脂であることが好ましい。
【0059】
上記可塑剤としては、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機エステル系可塑剤、有機リン酸可塑剤等が挙げられる。なかでも、有機エステル系可塑剤が好ましい。
【0060】
上記一塩基性有機酸エステルとしては、グリコールと一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコールエステル等が挙げられる。上記グリコールとしては、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール及びトリプロピレングリコール等が挙げられる。上記一塩基性有機酸としては、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、n−ノニル酸及びデシル酸等が挙げられる。
【0061】
上記多塩基性有機酸エステルとしては、多塩基性有機酸と、炭素数4〜8の直鎖又は分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物等が挙げられる。上記多塩基性有機酸としては、アジピン酸、セバシン酸及びアゼライン酸等が挙げられる。
【0062】
上記有機エステル系可塑剤としては、具体的には、トリエチレングリコールジ−2−エチルプロパノエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ−n−オクタノエート、トリエチレングリコールジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ−n−ヘプタノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコールジ−2−エチルブチレート、1,3−プロピレングリコールジ−2−エチルブチレート、1,4−ブチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルペンタノエート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリレート、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ヘプチルとアジピン酸ノニルとの混合物、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル、油変性セバシン酸アルキド、及びリン酸エステルとアジピン酸エステルとの混合物等が挙げられる。なかでも、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート又はトリエチレングリコールジ−2−エチルプロパノエートであることが好ましく、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート又はトリエチレングリコールジ−2−エチルブチレートであることがより好ましく、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエートであることが更に好ましい。
【0063】
上記有機リン酸可塑剤としては、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート及びトリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0064】
上記バインダー(B)における上記可塑剤の含有量は特に限定されないが、ポリビニルアセタール系樹脂(B)100重量部に対して、好ましい下限が6重量部、好ましい上限が60重量部である。
上記可塑剤の含有量が6重量部以上であると、バインダー(B)の貯蔵弾性率を好適な範囲として、応力分散性を特に向上させることができる。上記可塑剤の含有量が60重量部以下であると、バインダー樹脂の溶出を抑制して、放電容量の低下を抑制することができる。
上記可塑剤の含有量は、より好ましい下限が10重量部、より好ましい上限が45重量部である。
【0065】
上記バインダー(B)の形状は特に限定されないが、微粒子形状であることが好ましい。
上記バインダー(B)が微粒子形状である場合、体積平均粒子径は10〜1000nmであることが好ましく、15〜700nmであることがより好ましい。
【0066】
本発明の蓄電デバイス電極用バインダー中、上記バインダー(A)及び上記バインダー(B)の合計100重量%に対して、上記バインダー(A)の含有量は85〜99.9重量%である。
上記バインダー(A)の含有量が85重量%以上であると、活物資の膨張収縮に対する追従性を向上させて、活物質間及び集電体界面の剥離を抑制することができる。上記バインダー(A)の含有量が99.9重量%以下であると、バインダー樹脂の応力分散性を向上させて、電極のひび割れや電極端部の捲れを抑制することができる。
上記バインダー(A)の含有量はより好ましい下限が90重量%、より好ましい上限が95重量%である。
【0067】
本発明の蓄電デバイス電極用バインダー中、上記バインダー(A)及び上記バインダー(B)の合計100重量%に対して、上記バインダー(B)の含有量は0.1〜15重量%である。
上記バインダー(B)の含有量が0.1重量%以上であると、バインダー樹脂の応力分散性を向上させて、電極のひび割れや電極端部の捲れを抑制することができる。上記バインダー(B)の含有量が15重量%以下であると、活物資の膨張収縮に対する追従性を向上させて、活物質間及び集電体界面の剥離を抑制することができる。
上記バインダー(B)の含有量はより好ましい下限が3重量%、より好ましい上限が10重量%である。
【0068】
上記バインダー(A)の貯蔵弾性率及び上記バインダー(B)の貯蔵弾性率との比(バインダー(A)の貯蔵弾性率/バインダー(B)の貯蔵弾性率)は、好ましい下限が400、より好ましい下限が430、好ましい上限が280、より好ましい上限が250である。
【0069】
本発明の蓄電デバイス電極用バインダーは、更に、水性媒体を含有していてもよい。
上記水性媒体を含有することで、電極に残留する溶媒を少なくすることができる。
上記水性媒体は水のみであってもよく、上記水に加えて、水以外の溶媒を添加してもよい。
上記水以外の溶媒としては、水への溶解性を有しており、なおかつ揮発性の高いものがよく、例えば、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、エタノール、メタノール等のアルコール類が挙げられる。上記溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記水以外の溶媒の添加量の好ましい上限は水100重量部に対して30重量部であり、より好ましい上限は20重量部である。
【0070】
本発明の蓄電デバイス電極用バインダー中の上記バインダー(A)及びバインダー(B)の合計含有量は特に限定されないが、好ましい下限は2重量%、好ましい上限は60重量%である。上記バインダー(A)及び上記バインダー(B)の合計含有量が2重量%以上であると、上記バインダーを活物質と混合して蓄電デバイス電極用組成物とした際の活物質に対するバインダー樹脂の量を充分なものとして、集電体への接着力を向上させることができる。上記バインダー(A)及び上記バインダー(B)の合計含有量が60重量%以下であると、バインダー樹脂の分散媒中での安定性を向上させて、活物質の分散性を向上させることができ、リチウム二次電池等の蓄電デバイスの放電容量の低下を抑制することができる。上記バインダー(A)及びバインダー(B)の合計含有量はより好ましくは5〜50重量%である。
【0071】
本発明の蓄電デバイス電極用バインダーは、蓄電デバイスの電極に用いられるバインダーである。
上記蓄電デバイスとしては、リチウム二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等が挙げられる。なかでも、リチウム二次電池、リチウムイオンキャパシタに特に好適に使用することができる。
【0072】
本発明の蓄電デバイス電極用バインダーに活物質を添加することで蓄電デバイス電極用組成物とすることができる。このような本発明の蓄電デバイス電極用バインダー、及び、活物質を含有する蓄電デバイス電極用組成物もまた本発明の1つである。
【0073】
本発明の蓄電デバイス電極用組成物中の上記バインダー(A)及び上記バインダー(B)の合計含有量は特に限定されないが、活物質100重量部に対して、好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は12重量部である。上記合計含有量が0.1重量部以上であると、集電体への接着力を充分に向上させることができ、12重量部以下であると、リチウム二次電池の放電容量が低下を抑制することができる。より好ましくは、0.5〜5重量部である。
【0074】
本発明の蓄電デバイス電極用組成物は、活物質を含有する。
本発明の蓄電デバイス電極用組成物は、正極、負極のいずれの電極に使用してもよく、また、正極及び負極の両方に使用してもよい。従って、活物質としては、正極活物質、負極活物質がある。
【0075】
上記正極活物質としては、例えば、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物、マンガン酸リチウム(LiMn)、リン酸リチウム化合物(LiXMPO(式中、Mは、Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Mg,Zn,V,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Si,B及びMoから選ばれる少なくとも1種、0≦X≦2))等が挙げられる。また、電気伝導性に乏しい、鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を存在させることで、炭素材料で覆われた電極活物質として用いてもよい。また、これら化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。
なお、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
上記負極活物質としては、例えば、従来からリチウム二次電池の負極活物質として用いられている材料を用いることができ、例えば、天然グラファイト(黒鉛)、人造グラファイト、アモルファス炭素、カーボンブラック、または、これらの成分に異種元素を添加したもの等が挙げられる。なかでも、黒鉛が好ましく、特に球状天然黒鉛が好ましい。
また、リチウムイオン吸蔵能力の高いシリコン(Si、SiO、Si合金)を負極活物質として用いてもよい。
【0077】
本発明の蓄電デバイス電極用組成物は、導電助剤を含有することが好ましい。
上記導電助剤は、蓄電デバイスを高出力化するために用いられるものであり、正極に使用する場合、負極に使用する場合に応じて適当なものを使用することができる。
上記導電助剤としては、例えば、黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維等が挙げられる。なかでも、アセチレンブラックが好ましい。
【0078】
本発明の蓄電デバイス電極用組成物には、上述した活物質、導電助剤、ポリビニルアセタール系樹脂、水性媒体以外にも、必要に応じて、難燃助剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤のような添加剤を添加してもよい。なかでも、蓄電デバイス電極用組成物を集電体に塗工する際に、塗膜を均一なものとすることができることから、増粘剤を添加することが好ましい。
【0079】
本発明の蓄電デバイス電極用組成物を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、上記活物質、導電助剤、ポリビニルアセタール系樹脂、水性媒体及び必要に応じて添加する各種添加剤をボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0080】
本発明の蓄電デバイス電極用組成物は、例えば、導電性基体上に塗布し、乾燥する工程を経ることで、蓄電デバイス電極が形成される。このような蓄電デバイス電極用組成物を用いて得られる蓄電デバイスもまた本発明の1つである。
本発明の蓄電デバイス電極用組成物を導電性基体に塗布する際の塗布方法としては、例えば、押出しコーター、リバースローラー、ドクターブレード、アプリケーターなどをはじめ、各種の塗布方法を採用することができる。
【発明の効果】
【0081】
本発明は、接着性及び粘着性を有し、得られる電極に強靭性及び柔軟性を付与することが可能な蓄電デバイス電極用バインダーを提供することができる。更に、該蓄電デバイス電極用バインダーを含む蓄電デバイス電極用組成物、蓄電デバイス電極、及び、蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0082】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0083】
(ポリビニルアセタール系樹脂微粒子1の分散液の調製)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応容器内に、ポリビニルアセタール系樹脂(重合度1100、ブチラール化度52モル%、水酸基量47.8モル%、アセチル基量0.2モル%)20重量部をイソプロパノール80重量部に溶解させた。その後、溶解液に2−ホルミルベンゼンスルホン酸ナトリウムを1重量部、12Mの濃塩酸を0.05重量部加え、70℃にて4時間反応させた。次いで、ブチルアルデヒド0.2重量部と12Mの濃塩酸1重量部を添加し、82℃にて6時間反応を行った後、反応液を冷却し、再沈法にて樹脂の精製を行い、最後に乾燥させて樹脂を回収した。次に、得られた樹脂を再度イソプロパノール80重量部に溶解させ、水200重量部を滴下添加した。次いで液温を30℃に保ち、減圧しながら撹拌を行うことでイソプロパノール及び水を揮発させた後、固形分が20重量%となるまで濃縮して、ポリビニルアセタール系樹脂からなる微粒子1(以下、ポリビニルアセタール系樹脂微粒子1ともいう)が分散した分散液(ポリビニルアセタール系樹脂微粒子1の含有量:20重量%)を作製した。
得られたポリビニルアセタール系樹脂をNMRにより測定したところ、式(4)で表される構成単位(式(4)中、Rがプロピル基)の含有量1モル%、ブチラール化度51モル%、水酸基量45モル%、アセチル基量0.2モル%、ポリビニルアセタール系樹脂に含まれるイオン性官能基の量0.2mmol/g、イオン性官能基を有するアセタール結合(式(1−4)中、Rがベンゼン環、Xがスルホン酸ナトリウム)の含有量2.8モル%であった。また、得られたポリビニルアセタール系樹脂微粒子1の体積平均粒子径を透過型電子顕微鏡により測定したところ、90nmであり、Tg(ガラス転移温度)は83℃であった。
【0084】
(ポリビニルアセタール系樹脂微粒子2の分散液の調製)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応容器内に、ポリビニルアセタール系樹脂(重合度1700、ブチラール化度37.2モル%、水酸基量61モル%、アセチル基量1.8モル%)20重量部をイソプロパノール80重量部に溶解させた。その後、溶解液に4−ホルミルベンゼン−1,3−ジスルホン酸二ナトリウムを6重量部、12Mの濃塩酸を0.05重量部加え、70℃にて4時間反応させた。次いで、ブチルアルデヒド1重量部と12Mの濃塩酸0.5重量部を添加し、75℃にて4時間反応を行った後、反応液を冷却し、再沈法にて樹脂の精製を行い、最後に乾燥させて樹脂を回収した。次に、得られた樹脂を再度イソプロパノール80重量部に溶解させ、水200重量部を滴下添加した。次いで液温を30℃に保ち、減圧しながら撹拌を行うことでイソプロパノール及び水を揮発させた後、固形分が20重量%となるまで濃縮して、ポリビニルアセタール系樹脂からなる微粒子2(以下、ポリビニルアセタール系樹脂微粒子2ともいう)が分散した分散液(ポリビニルアセタール系樹脂微粒子2の含有量:20重量%)を作製した。
得られたポリビニルアセタール系樹脂をNMRにより測定したところ、式(4)で表される構成単位(式(4)中、Rがプロピル基)の含有量1モル%、ブチラール化度38.5モル%、水酸基量45モル%、アセチル基量1.5モル%、ポリビニルアセタール系樹脂に含まれるイオン性官能基の量は1.8mmol/g、イオン性官能基を有するアセタール結合(式(1−4)中、Rがベンゼン環、Xがスルホン酸ナトリウム)の含有量は14モル%であった。また、得られたポリビニルアセタール系樹脂微粒子2の体積平均粒子径を透過型電子顕微鏡により測定したところ、9nmであり、Tgは70℃であった。
【0085】
(ポリビニルアセタール系樹脂微粒子3の分散液の調製)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応容器内に、ポリビニルアセタール系樹脂(重合度800、ブチラール化度50.5モル%、水酸基量47.7モル%、アセチル基量1.8モル%)20重量部をイソプロパノール80重量部に溶解させた。その後、溶解液に2−ホルミルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.25重量部、12Mの濃塩酸を0.05重量部加え、70℃にて4時間反応させた。次いで、ブチルアルデヒド1重量部と12Mの濃塩酸0.5重量部を添加し、75℃にて4時間反応を行った後、反応液を冷却し、再沈法にて樹脂の精製を行い、最後に乾燥させて樹脂を回収した。次に、得られた樹脂を再度イソプロパノール80重量部に溶解させ、水200重量部を滴下添加した。次いで液温を30℃に保ち、減圧しながら撹拌を行うことでイソプロパノール及び水を揮発させた後、固形分が20重量%となるまで濃縮して、ポリビニルアセタール系樹脂からなる微粒子3(以下、ポリビニルアセタール系樹脂微粒子3ともいう)が分散した分散液(ポリビニルアセタール系樹脂微粒子3の含有量:20重量%)を作製した。
得られたポリビニルアセタール系樹脂をNMRにより測定したところ、式(4)で表される構成単位(式(4)中、Rがプロピル基)の含有量1モル%、ブチラール化度51.8モル%、水酸基量45モル%、アセチル基量1.5モル%、ポリビニルアセタール系樹脂に含まれるイオン性官能基の量は0.05mmol/g、イオン性官能基を有するアセタール結合(式(1−4)中、Rがベンゼン環、Xがスルホン酸ナトリウム)の含有量は0.7モル%であった。また、得られたポリビニルアセタール系樹脂微粒子3の体積平均粒子径を透過型電子顕微鏡により測定したところ、700nmであり、Tgは75℃であった。
【0086】
(ポリビニルアセタール系樹脂4の調製)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応容器内に、ポリビニルアセタール系樹脂(重合度1000、ブチラール化度47.8モル%、水酸基量51モル%、アセチル基量1.2モル%)20重量部をイソプロパノール80重量部に溶解させた。その後、溶解液に2−ホルミルベンゼンスルホン酸ナトリウムを1重量部、12Mの濃塩酸を0.05重量部加え、70℃にて4時間反応させた。次いで、12Mの濃塩酸0.3重量部を添加し、74℃にて3時間反応を行った後、反応液を冷却し、再沈法にて樹脂の精製を行い、最後に乾燥させてポリビニルアセタール系樹脂4を作製した。
なお、得られたポリビニルアセタール系樹脂をNMRにより測定したところ、ブチラール化度47.4モル%、水酸基量48.6モル%、アセチル基量1モル%、ポリビニルアセタール系樹脂に含まれるイオン性官能基の量は0.2mmol/g、イオン性官能基を有するアセタール結合(式(1−4)中、Rがベンゼン環、Xがスルホン酸ナトリウム)の含有量は3モル%であり、Tgは76℃であった。
【0087】
【表1】
【0088】
(可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子1の作製)
ポリビニルアセタール系樹脂微粒子1を100重量部量り取り、トリエチレングリコール−2−エチルヘキサノエート5重量部を添加して、低弾性率である可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子1を作製した。得られた可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子1の体積平均粒子径を透過型電子顕微鏡により測定したところ、90nmであり、Tg(ガラス転移温度)は78℃であった。
【0089】
(可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子2の作製)
ポリビニルアセタール系樹脂微粒子1を100重量部量り取り、トリエチレングリコール−2−エチルヘキサノエート10重量部を添加して、低弾性率である可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子2を作製した。得られた可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子2の体積平均粒子径を透過型電子顕微鏡により測定したところ、90nmであり、Tgは66℃であった。
【0090】
(可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子3の作製)
ポリビニルアセタール系樹脂微粒子1を100重量部量り取り、トリエチレングリコール−2−エチルヘキサノエート15重量部を添加して、低弾性率である可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子3を作製した。得られた可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子3の体積平均粒子径を透過型電子顕微鏡により測定したところ、90nmであり、Tgは58℃であった。
【0091】
(可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子4の作製)
ポリビニルアセタール系樹脂微粒子1を100重量部量り取り、トリエチレングリコール−2−エチルヘキサノエート50重量部を添加して、低弾性率である可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子4を作製した。得られた可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子4の体積平均粒子径を透過型電子顕微鏡により測定したところ、90nmであり、Tgは43℃であった。
【0092】
(実施例1〜7)
(リチウム二次電池正極用組成物の調製)
表2に示すポリビニルアセタール系樹脂及び可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子を表2に示す割合で混合し、更に、溶媒として水18重量部を加えて、蓄電デバイス電極用バインダーを調製した。
得られた蓄電デバイス電極用バインダー20重量部に対して、正極活物質としてコバルト酸リチウム(日本化学工業社製、セルシードC−5)50重量部、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)1重量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム社製、CMCダイセル#2200)1重量部を加えて、リチウム二次電池正極用組成物を得た。
【0093】
(実施例8〜14)
(リチウム二次電池負極用組成物の調製)
表2に示すポリビニルアセタール系樹脂及び可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子を表2に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス電極用バインダーを調製した。
得られた蓄電デバイス電極用バインダー20重量部に対して、負極活物質として球状天然黒鉛(日本黒鉛工業社製、CGB−20)50重量部、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)1重量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム社製、CMCダイセル#2200)1重量部を加えて混合し、リチウム二次電池負極用組成物を得た。
【0094】
(実施例15〜21)
(リチウム二次電池負極用組成物の調製)
表2に示すポリビニルアセタール系樹脂及び可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子を表2に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス電極用バインダーを調製した。
得られた蓄電デバイス電極用バインダー20重量部に対して、負極活物質として球状天然黒鉛(日本黒鉛工業社製、CGB−20)45重量部及びシリコン(SiO、大阪チタニウムテクノロジーズ社製)5重量部、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)1重量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム社製、CMCダイセル#2200)1重量部を加えて混合し、リチウム二次電池負極用組成物を得た。
【0095】
(比較例1〜4)
表3に示すポリビニルアセタール系樹脂及び可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子を表3に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス電極用バインダーを調製した。
得られた蓄電デバイス電極用バインダーを用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池電極用組成物を得た。
【0096】
(比較例5)
バインダーとしてスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)ラテックス(体積平均粒子径180nm、固形分率50重量%)を用いた以外は実施例1と同様にして、リチウム二次電池正極用組成物を得た。
【0097】
(比較例6〜9)
表3に示すポリビニルアセタール系樹脂及び可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子を表3に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス電極用バインダーを調製した。
得られた蓄電デバイス電極用バインダーを用いた以外は実施例8と同様にしてリチウム二次電池負極用組成物を得た。
【0098】
(比較例10)
バインダーとしてスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)ラテックス(体積平均粒子径180nm、固形分率50重量%)を用いた以外は実施例8と同様にして、リチウム二次電池負極用組成物を得た。
【0099】
(比較例11)
可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子及びスチレン−ブタジエン共重合体を表3に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス電極用バインダーを調製した。
得られた蓄電デバイス電極用バインダーを用いた以外は実施例8と同様にしてリチウム二次電池負極用組成物を得た。
【0100】
(比較例12)
表3に示すポリビニルアセタール系樹脂及び可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子を表3に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス電極用バインダーを調製した。
得られた蓄電デバイス電極用バインダーを用いた以外は実施例8と同様にしてリチウム二次電池負極用組成物を得た。
【0101】
(比較例13〜16)
表3に示すポリビニルアセタール系樹脂及び可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子を表3に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス電極用バインダーを調製した。
得られた蓄電デバイス電極用バインダーを用いた以外は実施例15と同様にしてリチウム二次電池負極用組成物を得た。
【0102】
(比較例17)
バインダーとしてスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)ラテックス(体積平均粒子径180nm、固形分率50重量%)を用いた以外は実施例15と同様にして、リチウム二次電池負極用組成物を得た。
【0103】
(比較例18)
表3に示すポリビニルアセタール系樹脂及び可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子を表3に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にして蓄電デバイス電極用バインダーを調製した。
得られた蓄電デバイス電極用バインダーを用いた以外は実施例15と同様にしてリチウム二次電池負極用組成物を得た。
【0104】
<評価>
実施例及び比較例で用いたポリビニルアセタール系樹脂微粒子、可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、実施例及び比較例で得られた二次電池電極用組成物(正極用、負極用)について以下の評価を行った。結果を表2及び表3に示した。
【0105】
(1)貯蔵弾性率
実施例及び比較例で用いたポリビニルアセタール系樹脂微粒子、可塑剤混合ポリビニルアセタール系樹脂微粒子について、DVA−200(アイティー計測制御社製)を用い、周波数10Hz、5℃/minの昇温速度で加熱して、50℃、10Hzにおける貯蔵弾性率を測定した。また、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスについては、水分を除去することにより樹脂成分を分離し、同様にして貯蔵弾性率を測定した。
【0106】
(2)分散性(平均分散径)
実施例及び比較例で得られたリチウム二次電池電極用組成物10重量部と水90重量部を混合、希釈した後、超音波分散機(エスエヌディ社製、「US−303」)にて10分間撹拌した。その後レーザー回折式粒度分布計(堀場製作所社製、LA−910)を用いて粒度分布測定を行い、平均分散径を測定した。
【0107】
(3)接着性(剥離力)
実施例1〜7、比較例1〜5で得られたリチウム二次電池正極用組成物については、アルミ箔に対する接着性を評価し、実施例8〜21、比較例6〜18で得られたリチウム二次電池負極用組成物については、銅箔に対する接着性を評価した。
【0108】
(3−1)アルミ箔に対する接着性
アルミ箔(厚み15μm)の上に、乾燥後の膜厚が40μmとなるようにリチウム二次電池正極用組成物を塗工、乾燥し、アルミ箔上に電極がシート状に形成された試験片を得た。
このサンプルを縦10cm、横5cmに切り出し、AUTOGRAPH(島津製作所社製、「AGS−J」)を用い、試験片を固定しながら電極シートを引き上げ、アルミ箔から完全に電極シートが剥離するまでに要する剥離力(N)を計測した。
【0109】
(3−2)銅箔に対する接着性
上記「(3−1)アルミ箔に対する接着性」において、アルミ箔を銅箔(厚み15μm)に変更した以外は全く同じ方法にて剥離力を計測した。
【0110】
(4)耐電解液性
(バインダー樹脂シートの作製)
離型処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、乾燥後の膜厚が50μmとなるように実施例及び比較例で用いられたポリビニルアセタール系樹脂溶液を塗工、乾燥してバインダー樹脂シートを作製した。
得られたバインダー樹脂シートを30×50mmに切り出し、試験片を作製した。
【0111】
得られた試験片を110℃で2時間乾燥させて得られたフィルムの重量を計量することにより、フィルムの重量(a)を計測した。
次に、電解液としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶液(体積比1:1)を用い、得られたフィルムを電解液に25℃で3日間浸漬させた。その後、フィルムを取り出し、直ちに表面の電解液をふき取って除去した後、計量することにより、重量(b)を計測した。
その後、該フィルムを純水500gに2日間浸漬させてフィルム内部の電解液を完全に除去し、110℃で2時間乾燥させた後、計量することにより、重量(c)を計測した。
各重量から、バインダーの溶解率及び膨潤率を次式により算出した。
溶解率(%)=[(a−c)/a]×100
膨潤率(%)=(b/c)×100
なお、溶解率の値が高いほど電解液に樹脂が溶解しやすいことを意味し、膨潤率が高いほど樹脂が電解液によって膨潤しやすいことを意味する。
【0112】
(5)柔軟性
実施例1〜7、比較例1〜5で得られたリチウム二次電池正極用組成物については、アルミ箔を用いて作製した電極の柔軟性を評価し、実施例8〜21、比較例6〜18で得られたリチウム二次電池負極用組成物については、銅箔を用いて作製した電極の柔軟性を評価した。
(5−1)アルミ箔を用いた柔軟性
アルミ箔(厚み15μm)の上に、乾燥後の膜厚が40μmとなるようにリチウム二次電池電極用組成物を塗工、乾燥し、アルミ箔上に電極がシート状に形成された試験片を得た。
このサンプルを縦50cm、横2cmに切り出し、直径2mmのガラス棒に巻き付けて1日放置した後、サンプルの巻き付けを解いて電極のクラックや割れの発生を以下の基準で評価した。
◎:クラックや割れは全く確認されなかった
○:クラックや割れが僅かに確認されたが、活物質の剥がれは全く確認されなかった
△:クラックや割れが確認され、部分的な活物質の剥がれも確認された
×:全面的にクラックや割れが確認され、大部分の活物質の剥がれも確認された
(5−2)銅箔を用いた柔軟性
上記「(5−1)アルミ箔を用いた柔軟性」において、アルミ箔を銅箔(厚み15μm)に変更した以外は全く同じ方法にて柔軟性を評価した。
【0113】
(6)電池性能評価
(6−1)実施例1〜7、比較例1〜5
(a)コイン電池の作製
実施例1〜7、比較例1〜5で得られたリチウム二次電池正極用組成物を厚さ15μmのアルミ箔に均一に塗布、乾燥し、これをφ16mmに打ち抜いて正極層を得た。
電解液としてLiPF(1M)を含有するエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(体積比1:1)を用い、該電解液を正極層に含浸させた後、この正極層を正極集電体上に置き、さらにその上に電解液を含浸させた厚さ25mmの多孔質PP膜(セパレータ)を置いた。
更に、この上に負極層となるリチウム金属板を置き、この上に絶縁パッキンで被覆された負極集電体を重ね合わせた。この積層体を、かしめ機により圧力を加え、密閉型のコイン電池を得た。
【0114】
(b)放電容量評価、及び、充放電サイクル評価
得られたコイン電池について、(宝泉社製、充放電試験装置)を用いて放電容量評価、及び、充放電サイクル評価を行った。
この放電容量評価、充放電サイクル評価は電圧範囲2.7〜4.2V、評価温度は25℃と50℃で行った。なお、充放電サイクル評価は、初回の放電容量に対する30サイクル目の放電容量の割合より算出した。
なお、比較例2、4及び5については、セルに電解液を注入したところ、樹脂成分の溶出によって、電極からの活物質の剥がれが確認された。この状態で、二次電池の作製および放電容量の評価を行ったが、充放電ができなかったため、「測定不能」とした。
【0115】
(6−2)実施例8〜21、比較例6〜18
実施例8〜21、比較例6〜18で得られたリチウム二次電池負極用組成物を厚さ15μmの銅箔に均一に塗布、乾燥し、これをφ16mmに打ち抜いて負極層を得た。
得られた負極層を用いた以外は、(6−1)と同じ方法にて密閉型のコイン電池を得た後、放電容量評価、及び、充放電サイクル評価を行った。なお、充放電サイクル評価は、初回の放電容量に対する30サイクル目の放電容量の割合より算出した。
なお、比較例7、9、10、14、16及び17については、セルに電解液を注入したところ、樹脂成分の溶出によって、電極からの活物質の剥がれが確認された。この状態で、二次電池の作製および放電容量の評価を行ったが、充放電ができなかったため、「測定不能」とした。
【0116】
(7)電極捲れ性
上記「(3)接着性(剥離力)」で得られた試験片をφ1.5mmの丸棒に巻き付け、100回連続して擦った時の電極端部の捲れを目視にて以下の基準で評価した。
◎:折り曲げ部には捲れがない
○:折り曲げ部には捲れがあるが、下地(アルミ箔、銅箔)は確認できない
×:折り曲げ部には捲れがあり、下地(アルミ箔、銅箔)が確認できる
【0117】
【表2】
【0118】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、接着性及び粘着性を有し、得られる電極に強靭性及び柔軟性を付与することが可能な蓄電デバイス電極用バインダーを提供することができる。更に、該蓄電デバイス電極用バインダーを含む蓄電デバイス電極用組成物、蓄電デバイス電極、及び、蓄電デバイスを提供することができる。