【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電極と、対向電極と、前記電極と前記対向電極との間に配置された光電変換層とを有する積層体を有し、更に、前記対向電極上を覆って前記積層体を封止する封止層を有する太陽電池であって、前記光電変換層は、一般式R−M−X
3(但し、Rは有機分子、Mは金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表される有機無機ペロブスカイト化合物を含み、前記封止層は、ポリシラザンからなるシリカを含み、厚みが50〜10000nmである太陽電池である。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、電極と、対向電極と、上記電極と上記対向電極との間に配置された光電変換層とを有する積層体を有する太陽電池において、上記光電変換層に有機無機ペロブスカイト化合物を用いることを検討した。上記有機無機ペロブスカイト化合物を用いることで、高い光電変換効率が期待できる。また、本発明者らは、上記対向電極上を覆って上記積層体を封止する封止層を設けることで、太陽電池の耐久性を向上させることを検討した。
しかしながら、上記有機無機ペロブスカイト化合物は耐湿性が低いことから、上記封止層として従来のような樹脂層を用いたのでは、太陽電池の耐久性、特に高温高湿環境下での耐久性が充分には得られなかった。
本発明者らは、上記封止層にポリシラザンからなるシリカを用い、かつ、上記封止層の厚みを特定範囲に調整することにより、太陽電池の高温高湿耐久性を向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、ポリシラザンは熱処理されることによりシリカとなるため、上記対向電極上を覆って上記積層体を封止するようにポリシラザン含有溶液を塗工した後、熱処理することにより、シリカを含む封止層を形成することができる。このような封止層は、従来のような樹脂層に比べて水蒸気バリア性が高く、また、塗工により形成されたものであるため、上記対向電極上及び上記積層体の側面に対する表面追従性も高い。従って、このような封止層を設けるとともにその厚みを特定範囲に調整することにより、太陽電池の高温高湿耐久性を向上させることができる。
【0010】
本発明の太陽電池は、電極と、対向電極と、上記電極と上記対向電極との間に配置された光電変換層とを有する積層体を有する。
なお、本明細書中、層とは、明確な境界を有する層だけではなく、含有元素が徐々に変化する濃度勾配のある層をも意味する。なお、層の元素分析は、例えば、太陽電池の断面のFE−TEM/EDS線分析測定を行い、特定元素の元素分布を確認する等によって行うことができる。また、本明細書中、層とは、平坦な薄膜状の層だけではなく、他の層と一緒になって複雑に入り組んだ構造を形成しうる層をも意味する。また、本明細書中、A〜Bとは、A以上、B以下を意味する。
【0011】
上記電極及び上記対向電極は、どちらが陰極になっても陽極になってもよい。上記電極及び上記対向電極の材料は特に限定されず、従来公知の材料を用いることができる。なお、上記対向電極は、パターニングされた電極であることが多い。
電極材料として、例えば、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金、Al/Al
2O
3混合物、Al/LiF混合物等が挙げられる。陽極材料として、例えば、金等の金属、CuI、ITO(インジウムスズ酸化物)、SnO
2、AZO(アルミニウム亜鉛酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)、GZO(ガリウム亜鉛酸化物)等の導電性透明材料、導電性透明ポリマー等が挙げられる。これらの材料は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0012】
上記光電変換層は、一般式R−M−X
3(但し、Rは有機分子、Mは金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表される有機無機ペロブスカイト化合物を含む。上記光電変換層が上記有機無機ペロブスカイト化合物を含む太陽電池は、有機無機ハイブリッド型太陽電池とも呼ばれる。
上記光電変換層に上記有機無機ペロブスカイト化合物を用いることにより、太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。また、上記有機無機ペロブスカイト化合物は耐湿性が低いことから、上記光電変換層に上記有機無機ペロブスカイト化合物を用いる場合には、太陽電池の高温高湿耐久性の向上のために後述する封止層を上記対向電極上を覆って上記積層体を封止するように設けることがより有効となる。
【0013】
上記Rは有機分子であり、C
lN
mH
n(l、m、nはいずれも正の整数)で示されることが好ましい。
上記Rは、具体的には例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、エチルメチルアミン、メチルプロピルアミン、ブチルメチルアミン、メチルペンチルアミン、ヘキシルメチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、イミダゾール、アゾール、ピロール、アジリジン、アジリン、アゼチジン、アゼト、アゾール、イミダゾリン、カルバゾール及びこれらのイオン(例えば、メチルアンモニウム(CH
3NH
3)等)やフェネチルアンモニウム等が挙げられる。なかでも、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン及びこれらのイオンやフェネチルアンモニウムが好ましく、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン及びこれらのイオンがより好ましい。
【0014】
上記Mは金属原子であり、例えば、鉛、スズ、亜鉛、チタン、アンチモン、ビスマス、ニッケル、鉄、コバルト、銀、銅、ガリウム、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム、インジウム、アルミニウム、マンガン、クロム、モリブデン、ユーロピウム等が挙げられる。これらの金属原子は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0015】
上記Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子であり、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、硫黄、セレン等が挙げられる。これらのハロゲン原子又はカルコゲン原子は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、構造中にハロゲンを含有することで、上記有機無機ペロブスカイト化合物が有機溶媒に可溶になり、安価な印刷法等への適用が可能になることから、ハロゲン原子が好ましい。更に、上記有機無機ペロブスカイト化合物のエネルギーバンドギャップが狭くなることから、ヨウ素がより好ましい。
【0016】
上記有機無機ペロブスカイト化合物は、体心に金属原子M、各頂点に有機分子R、面心にハロゲン原子又はカルコゲン原子Xが配置された立方晶系の構造を有することが好ましい。
図1は、体心に金属原子M、各頂点に有機分子R、面心にハロゲン原子又はカルコゲン原子Xが配置された立方晶系の構造である、有機無機ペロブスカイト化合物の結晶構造の一例を示す模式図である。詳細は明らかではないが、上記構造を有することにより、結晶格子内の八面体の向きが容易に変わることができるため、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上すると推定される。
【0017】
上記有機無機ペロブスカイト化合物は、結晶性半導体であることが好ましい。結晶性半導体とは、X線散乱強度分布を測定し、散乱ピークが検出できる半導体を意味している。上記有機無機ペロブスカイト化合物が結晶性半導体であることにより、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上する。
【0018】
また、結晶化の指標として結晶化度を評価することもできる。結晶化度は、X線散乱強度分布測定により検出された結晶質由来の散乱ピークと非晶質部由来のハローとをフィッティングにより分離し、それぞれの強度積分を求めて、全体のうちの結晶部分の比を算出することにより求めることができる。
上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度の好ましい下限は30%である。結晶化度が30%以上であると、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上する。結晶化度のより好ましい下限は50%、更に好ましい下限は70%である。
また、上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度を上げる方法として、例えば、熱アニール、レーザー等の強度の強い光の照射、プラズマ照射等が挙げられる。
【0019】
上記光電変換層が上記有機無機ペロブスカイト化合物を含む場合、上記光電変換層は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物に加えて、更に、有機半導体又は無機半導体を含んでいてもよい。なお、ここでいう有機半導体又は無機半導体は、後述する電子輸送層又はホール輸送層としての役割を果たしてもよい。
上記有機半導体として、例えば、ポリ(3−アルキルチオフェン)等のチオフェン骨格を有する化合物等が挙げられる。また、例えば、ポリパラフェニレンビニレン骨格、ポリビニルカルバゾール骨格、ポリアニリン骨格、ポリアセチレン骨格等を有する導電性高分子等も挙げられる。更に、例えば、フタロシアニン骨格、ナフタロシアニン骨格、ペンタセン骨格、ベンゾポルフィリン骨格等のポルフィリン骨格、スピロビフルオレン骨格等を有する化合物や、表面修飾されていてもよいカーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等のカーボン含有材料も挙げられる。
【0020】
上記無機半導体として、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ガリウム、硫化スズ、硫化インジウム、硫化亜鉛、CuSCN、Cu
2O、CuI、MoO
3、V
2O
5、WO
3、MoS
2、MoSe
2、Cu
2S等が挙げられる。
【0021】
上記光電変換層は、上記有機無機ペロブスカイト化合物と上記有機半導体又は上記無機半導体とを含む場合、薄膜状の有機半導体又は無機半導体部位と薄膜状の有機無機ペロブスカイト化合物部位とを積層した積層体であってもよいし、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物部位とを複合化した複合膜であってもよい。製法が簡便である点では積層体が好ましく、上記有機半導体又は上記無機半導体中の電荷分離効率を向上させることができる点では複合膜が好ましい。
【0022】
上記薄膜状の有機無機ペロブスカイト化合物部位の厚みは、好ましい下限が5nm、好ましい上限が5000nmである。上記厚みが5nm以上であれば、充分に光を吸収することができるようになり、光電変換効率が高くなる。上記厚みが5000nm以下であれば、電荷分離できない領域が発生することを抑制できるため、光電変換効率の向上につながる。上記厚みのより好ましい下限は10nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は20nm、更に好ましい上限は500nmである。
【0023】
上記光電変換層が、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物部位とを複合化した複合膜である場合、上記複合膜の厚みの好ましい下限は30nm、好ましい上限は3000nmである。上記厚みが30nm以上であれば、充分に光を吸収することができるようになり、光電変換効率が高くなる。上記厚みが3000nm以下であれば、電荷が電極に到達しやすくなるため、光電変換効率が高くなる。上記厚みのより好ましい下限は40nm、より好ましい上限は2000nmであり、更に好ましい下限は50nm、更に好ましい上限は1000nmである。
【0024】
本発明の太陽電池においては、上記電極及び上記対向電極のうちの陰極となる側と、上記光電変換層との間に、電子輸送層が配置されていてもよい。
上記電子輸送層の材料は特に限定されず、例えば、N型導電性高分子、N型低分子有機半導体、N型金属酸化物、N型金属硫化物、ハロゲン化アルカリ金属、アルカリ金属、界面活性剤等が挙げられ、具体的には例えば、シアノ基含有ポリフェニレンビニレン、ホウ素含有ポリマー、バソキュプロイン、バソフェナントレン、ヒドロキシキノリナトアルミニウム、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸化合物、ペリレン誘導体、ホスフィンオキサイド化合物、ホスフィンスルフィド化合物、フルオロ基含有フタロシアニン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ガリウム、硫化スズ、硫化インジウム、硫化亜鉛等が挙げられる。
【0025】
上記電子輸送層は、薄膜状の電子輸送層のみからなっていてもよいが、多孔質状の電子輸送層を含むことが好ましい。特に、上記光電変換層が、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物部位とを複合化した複合膜である場合、より複雑な複合膜(より複雑に入り組んだ構造)が得られ、光電変換効率が高くなることから、多孔質状の電子輸送層上に複合膜が製膜されていることが好ましい。
【0026】
上記電子輸送層の厚みは、好ましい下限が1nm、好ましい上限が2000nmである。上記厚みが1nm以上であれば、充分にホールをブロックできるようになる。上記厚みが2000nm以下であれば、電子輸送の際の抵抗になり難く、光電変換効率が高くなる。上記電子輸送層の厚みのより好ましい下限は3nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は5nm、更に好ましい上限は500nmである。
【0027】
本発明の太陽電池においては、上記電極及び上記対向電極のうちの陽極となる側と、上記光電変換層との間に、ホール輸送層が配置されていてもよい。
上記ホール輸送層の材料は特に限定されず、例えば、P型導電性高分子、P型低分子有機半導体、P型金属酸化物、P型金属硫化物、界面活性剤等が挙げられ、具体的には例えば、ポリエチレンジオキシチオフェンのポリスチレンスルホン酸付加物、カルボキシル基含有ポリチオフェン、フタロシアニン、ポルフィリン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化スズ、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化銅、硫化スズ等、フルオロ基含有ホスホン酸、カルボニル基含有ホスホン酸、CuSCN、CuI等の銅化合物、表面修飾されていてもよいカーボンナノチューブ、グラフェン等のカーボン含有材料等が挙げられる。
【0028】
上記ホール輸送層の厚みは、好ましい下限は1nm、好ましい上限は2000nmである。上記厚みが1nm以上であれば、充分に電子をブロックできるようになる。上記厚みが2000nm以下であれば、ホール輸送の際の抵抗になり難く、光電変換効率が高くなる。上記厚みのより好ましい下限は3nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は5nm、更に好ましい上限は500nmである。
【0029】
本発明の太陽電池は、更に、基板等を有していてもよい。上記基板は特に限定されず、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス等の透明ガラス基板、セラミック基板、透明プラスチック基板、金属箔等が挙げられる。
【0030】
本発明の太陽電池は、更に、上記対向電極上を覆って上記積層体を封止する封止層を有する。
上記対向電極上を覆って上記積層体を封止する封止層を設けることにより、太陽電池の高温高湿耐久性を向上させることができる。これは、上記封止層を設けることにより、水分が太陽電池の内部に浸透することを抑制できるためと考えられる。ここで、上記封止層は、その端部を閉じるようにして、上記積層体全体を覆うことが好ましい。これにより、水分が太陽電池の内部に浸透することを確実に防止することができる。
【0031】
上記封止層は、上記対向電極上に直接形成されて(上記対向電極と接して)いてもよいし、上記対向電極との間に他の層を介して形成されていてもよい。なかでも、太陽電池の高温高湿耐久性を向上させる観点からは、上記対向電極上に直接形成されていることが好ましい。
【0032】
上記封止層は、ポリシラザンからなるシリカを含み、厚みが50〜10000nmである。
上記封止層にポリシラザンからなるシリカを用い、かつ、上記封止層の厚みを上記範囲に調整することにより、太陽電池の高温高湿耐久性を向上させることができる。即ち、ポリシラザンは熱処理されることによりシリカとなるため、上記対向電極上を覆って上記積層体を封止するようにポリシラザン含有溶液を塗工した後、熱処理することにより、シリカを含む封止層を形成することができる。このような封止層は、従来のような樹脂層に比べて水蒸気バリア性が高く、また、塗工により形成されたものであるため、上記対向電極上及び上記積層体の側面に対する表面追従性も高い。従って、このような封止層を設けるとともにその厚みを上記範囲に調整することにより、太陽電池の高温高湿耐久性を向上させることができる。
【0033】
上記ポリシラザンは、シラザン骨格を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、パーヒドロポリシラザン、オルガノポリシラザン等が挙げられる。なかでも、低温でシリカに転化できることから、パーヒドロポリシラザンが好ましい。
【0034】
上記ポリシラザンの重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい下限は150、好ましい上限は100000である。上記重量平均分子量が150以上であれば、上記封止層が充分な水蒸気バリア性を有することができ、太陽電池の高温高湿耐久性が向上する。上記重量平均分子量が100000以下であれば、上記封止層が充分な表面追従性を有することができる。上記重量平均分子量のより好ましい下限は1000、より好ましい上限は50000である。
【0035】
上記封止層は、非晶質であることが好ましい。非晶質であることにより、上記封止層が緻密な層となり、水蒸気バリア性が向上する。
【0036】
また、結晶化の指標として結晶化度を評価することもできる。結晶化度は、X線散乱強度分布測定により検出された結晶質由来の散乱ピークと非晶質部由来のハローとをフィッティングにより分離し、それぞれの強度積分を求めて、全体のうちの結晶部分の比を算出することにより求めることができる。
上記封止層の結晶化度の好ましい上限は10%である。上記結晶化度が10%以下であると、上記封止層が緻密な層となり、水蒸気バリア性が向上する。
なお、上記封止層は、ポリシラザンからなるシリカを含むものであるため、非晶質となったり上記範囲の結晶化度を有したりすることができる。
【0037】
上記封止層は、ポリシラザンからシリカへの転化が進んだものであることが好ましい。ポリシラザンからシリカへの転化が進んでいることにより、上記封止層は、欠陥が少なく、水蒸気バリア性の高い膜となる。
【0038】
ポリシラザンからシリカへの転化率の指標として、赤外スペクトルでの吸光度を評価することができる。
赤外スペクトルでは、Si−H結合に由来する吸収が2050〜2400cm
−1に、Si−O結合に由来する吸収が500〜1500cm
−1にある。Si−H結合に由来する吸収を示す領域の最大の吸光度と、Si−O結合に由来する吸収を示す領域の最大の吸光度との比(以下、「Si−H/Si−O吸光度比」とも称する)を求めることによって、ポリシラザンからシリカへの転化率を評価することができる。
上記封止層は、Si−H/Si−O吸光度比の好ましい下限が0.01、好ましい上限が0.3である。上記封止層のSi−H/Si−O吸光度比が上記範囲内であれば、上記封止層は、ポリシラザンからシリカへの転化が充分に進んでおり、水蒸気バリア性が向上する。上記封止層のSi−H/Si−O吸光度比のより好ましい上限は0.1、更に好ましい上限は0.05である。
【0039】
上記封止層の厚みは、下限が50nm、上限が10000nmである。上記厚みが50nm以上であれば、上記封止層が充分な水蒸気バリア性を有することができ、太陽電池の高温高湿耐久性が向上する。上記厚みが10000nm以下であれば、上記封止層の厚みが増した場合であっても、発生する応力が小さいため、上記封止層及び各層の剥離を抑制することができる。上記封止層の厚みの好ましい下限は500nm、好ましい上限は1000nmである。
なお、上記封止層の厚みは、光学干渉式膜厚測定装置(例えば、大塚電子社製のFE−3000等)を用いて測定することができる。
【0040】
上記封止層を形成する方法として、上記対向電極上を覆って上記積層体を封止するようにポリシラザン含有溶液を塗工した後、熱処理する方法が好ましい。
上記ポリシラザン含有溶液を塗工する方法は特に限定されず、例えば、ドクターブレード法、ダイコート法、スプレーコーティング法等が挙げられる。上記ポリシラザン含有溶液に対して熱処理する際の加熱温度は特に限定されないが、好ましい下限が60℃、好ましい上限が150℃である。上記加熱温度が60℃以上であれば、充分な水蒸気バリア性を有する封止層を得ることができる。上記加熱温度が150℃以下であれば、加熱による太陽電池の性能劣化を抑制することができる。上記加熱温度のより好ましい下限は80℃、より好ましい上限は120℃である。上記ポリシラザン含有溶液に対して熱処理する際の加熱時間も特に限定されず、好ましい下限が5分、好ましい上限が60分である。
【0041】
本発明の太陽電池は、更に、上記封止層の外側を封止する無機層を有することが好ましい。
上記封止層の外側を封止する無機層を設けることにより、太陽電池の高温高湿耐久性を更に向上させることができる。上記封止層と同様に、上記無機層もその端部を閉じるようにして、上記積層体全体を覆うことが好ましい。
【0042】
上記無機層は、金属酸化物、金属窒化物又は金属酸窒化物を含むことが好ましい。上記金属酸化物、金属窒化物又は金属酸窒化物は、水蒸気バリア性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、Si、Al、Zn、Sn、In、Ti、Mg、Zr、Ni、Ta、W、Cu若しくはこれらを2種以上含む合金の酸化物、窒化物又は酸窒化物が挙げられる。なかでも、上記無機層に水蒸気バリア性及び柔軟性を付与するために、Zn、Snの両金属元素を含む金属元素の酸化物、窒化物又は酸窒化物が好ましい。
【0043】
なかでも、上記金属酸化物、金属窒化物又は金属酸窒化物は、一般式Zn
aSn
bO
cで表される金属酸化物であることが特に好ましい。上記無機層に上記一般式Zn
aSn
bO
cで表される金属酸化物を用いることにより、上記金属酸化物がスズ(Sn)原子を含むため、上記無機層に適度な可撓性を付与することができ、上記無機層の厚みが増した場合であっても応力が小さくなるため、上記無機層、電極、半導体層等の剥離を抑えることができる。これにより、上記無機層の水蒸気バリア性を高め、太陽電池の高温高湿耐久性をより向上させることができる。
【0044】
上記一般式Zn
aSn
bO
cで表される金属酸化物においては、ZnとSnとの総和に対するSnの比Xs(重量%)が70>Xs>0を満たすことが好ましい。
なお、上記無機層中の上記一般式Zn
aSn
bO
cで表される金属酸化物に含まれる亜鉛(Zn)、スズ(Sn)及び酸素(O)の元素比率は、X線光電子分光(XPS)表面分析装置(例えば、VGサイエンティフィックス社製のESCALAB−200R等)を用いて測定することができる。
【0045】
上記無機層は、上記一般式Zn
aSn
bO
cで表される金属酸化物を含む場合、更に、ケイ素(Si)及び/又はアルミニウム(Al)を含むことが好ましい。
上記無機層にケイ素(Si)及び/又はアルミニウム(Al)を添加することにより、上記無機層の透明性を高め、太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。
【0046】
上記無機層の厚みは、好ましい下限が30nm、好ましい上限が3000nmである。上記厚みが30nm以上であれば、上記無機層が充分な水蒸気バリア性を有することができ、太陽電池の高温高湿耐久性が向上する。上記厚みが3000nm以下であれば、上記無機層の厚みが増した場合であっても、発生する応力が小さいため、上記無機層及び各層の剥離を抑制することができる。上記厚みのより好ましい下限は50nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は100nm、更に好ましい上限は500nmである。
なお、上記無機層の厚みは、光学干渉式膜厚測定装置(例えば、大塚電子社製のFE−3000等)を用いて測定することができる。
【0047】
図2は、本発明の太陽電池の一例を模式的に示す断面図である。
図2に示す太陽電池1は、基板7上に電極2と、対向電極3と、この電極2と対向電極3との間に配置された光電変換層4とを有し、対向電極3上に封止層5が配置され、封止層5上に無機層6が配置されたものである。ここで封止層5の端部は、基板7に密着することにより閉じている。なお、
図2に示す太陽電池1において、対向電極3はパターニングされた電極である。
【0048】
本発明の太陽電池を製造する方法は特に限定されず、例えば、上記基板上に上記電極、上記光電変換層、上記対向電極をこの順で形成した後、上記対向電極上を覆って上記積層体を封止するように上記封止層を形成し、上記封止層の外側を封止するように上記無機層を形成する方法等が挙げられる。
【0049】
上記光電変換層を形成する方法は特に限定されず、真空蒸着法、スパッタリング法、気相反応法(CVD)、電気化学沈積法、印刷法等が挙げられる。なかでも、印刷法を採用することで、高い光電変換効率を発揮できる太陽電池を大面積で簡易に形成することができる。印刷法として、例えば、スピンコート法、キャスト法等が挙げられ、印刷法を用いた方法としてロールtoロール法等が挙げられる。
【0050】
上記無機層を形成する方法として、真空蒸着法、スパッタリング法、気相反応法(CVD)、イオンプレーティング法が好ましい。なかでも、緻密な層を形成するためにはスパッタリング法が好ましく、スパッタリング法のなかでもDCマグネトロンスパッタリング法がより好ましい。上記スパッタリング法においては、金属ターゲット、及び、酸素ガス又は窒素ガスを原料とし、上記封止層上に原料を堆積して製膜することにより、無機層を形成することができる。