(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876527
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】トンネル内温度改善システム
(51)【国際特許分類】
E21F 3/00 20060101AFI20210517BHJP
F24F 5/00 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
E21F3/00
F24F5/00 101A
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-106197(P2017-106197)
(22)【出願日】2017年5月30日
(65)【公開番号】特開2018-199987(P2018-199987A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2020年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 潔
(72)【発明者】
【氏名】柴田 勝実
(72)【発明者】
【氏名】国分 茂夫
【審査官】
荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−229698(JP,A)
【文献】
実開平4−30193(JP,U)
【文献】
独国特許出願公開第3829531(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00−9/14
E21F 1/00−17/18
F24F 5/00
E02F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱源と、該発熱源の周囲に配設された冷媒配管と、該冷媒配管と第一流路を介して流体連通するラジエータと、該冷媒配管と第二流路を介して流体連通する重機対応熱交換器と、を備え、該第一流路に第一切換弁が介在し、該第二流路に第二切換弁が介在し、双方の切換弁の開閉制御にて冷媒配管−ラジエータ間の流体の還流と、冷媒配管−重機対応熱交換器間の流体の還流と、の切換えが実行されるようになっている、トンネル工事で使用される重機と、
トンネルの坑口外側にある冷媒供給源と、
トンネルの坑口外側にある熱媒常温化槽と、
前記冷媒供給源と前記重機対応熱交換器を繋いで冷媒を該冷媒供給源から該重機対応熱交換器に送る冷媒供給路と、
前記重機対応熱交換器と前記熱媒常温化槽を直接的もしくは間接的に繋いで熱媒を該重機対応熱交換器から該熱媒常温化槽に送る熱媒排出路と、を備えている、トンネル内温度改善システム。
【請求項2】
前記冷媒供給源は、泥土の含有されていない水を冷媒として供給する機器である請求項1に記載のトンネル内温度改善システム。
【請求項3】
前記冷媒供給源は、トンネル内の湧水を坑口外側へ運ぶ湧水流路と、該湧水流路と流体連通する沈殿浄化槽と、から構成され、
前記沈殿浄化槽で湧水中の泥土が取り除かれた濾過水が冷媒として前記冷媒供給路を介して前記重機対応熱交換器に送られる請求項1に記載のトンネル内温度改善システム。
【請求項4】
前記冷媒供給源は、トンネル内の湧水を坑口外側へ運ぶ湧水流路と、該湧水流路と流体連通する沈殿浄化槽と、該沈殿浄化槽と流体連通する坑口外熱交換器と、から構成され、
前記坑口外熱交換器には、前記沈殿浄化槽で湧水中の泥土が取り除かれた濾過水が送られるとともに、前記熱媒排出路を介して熱媒が送られ、
前記坑口外熱交換器において前記熱媒が前記濾過水によって放熱することで冷媒となり、前記冷媒供給路を介して前記重機対応熱交換器に送られるとともに、前記熱媒排出路からの熱媒の熱を該坑口外熱交換器にて回収することで温度上昇した前記濾過水は、前記熱媒常温化槽に排出される請求項1に記載のトンネル内温度改善システム。
【請求項5】
前記重機が複数存在し、それぞれの重機が前記冷媒供給路を構成する供給枝管と前記熱媒排出路を構成する排出枝管を備えていて、前記冷媒供給路を構成する供給主管から各供給枝管が分岐し、前記熱媒排出路を構成する排出主管から各排出枝管が分岐している請求項1〜4のいずれか一項に記載のトンネル内温度改善システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル工事の際のトンネル内温度環境を改善するトンネル内温度改善システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル等のトンネル工事においては、ジャンボやホイールローダー、ダンプトラックや吹付機といった様々な重機がトンネル内で作業に当たるが、各重機ともに駆動時に発する熱量が大きく、複数の重機からの熱量が蓄積されることでトンネル作業時のトンネル内温度は非常に高くなり易く、一般に稼働する重機の多い切羽近傍では高い温度環境が一層顕著になる。さらに、切羽近傍では高温環境になり易いといった課題に加えて重機からの排ガスや排ガス中の粉塵、発破時の粉塵や発破時の後ガスといった空気汚染物質の発生および滞留の問題もある。空気汚染物質対策として、送風機からの新鮮な空気の坑内への供給、トンネル内に設置された集塵機による集塵、空気汚染物質の坑外への排気を組み合わせる方法が適用されている。この際、温度環境の改善のみを目的として送風機に連通するダクトの送気口の位置を随時変更すると、集塵機による集塵機能が十分に発揮されずに、今度は排ガスや粉塵が坑外へ良好に排気されずにトンネル内に拡散するといった別の課題が生じ得ることから、トンネル内温度の昇温抑制と空気汚染物質の拡散抑制の双方を満足する坑内環境改善対策は極めて難しいのが現状である。
【0003】
ここで、特許文献1には、トンネルの切羽近傍などの所望の場所を冷却することのできるトンネル内の冷却装置が開示されている。具体的には、氷蓄熱槽とファン・コイルユニットを備えた冷却装置であり、氷蓄熱槽を冷水用配管が通過し、冷水用配管はファン・コイルユニットにおける冷却コイルに接続されている。冷却コイルにはファンから風が吹き付けられ、この風が冷風となって山岳トンネル内に供給され、山岳トンネル内が冷房されるようになっている。氷蓄熱槽の氷が溶けた際には、山岳トンネルの外部に設けられた製氷チラーによって氷蓄熱槽に氷が製造される。特許文献1では実施例として、氷蓄熱槽、冷却コイル、ポンプ、およびファンによって冷却ユニットが構成され、冷却ユニットが搬送装置に搭載されている形態が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−139733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の冷却装置によれば、大掛かりな設備を別途設けることなく、トンネルの切羽近傍などの所望の位置を好適に冷却できるとしている。ところで、ここで開示される実施例は既述するように冷却ユニットが搬送装置に搭載されており、トンネル内を搬送装置が移動してトンネル内の温度上昇を抑制するものであるが、施工工程にもよるものの、トンネル内にはジャンボやホイールローダー、ダンプや吹付機といった様々な重機が点在し、トンネル内のいたるところで各重機から熱が発せられることから、これら全ての発熱を特許文献1で開示される冷却ユニット搭載搬送装置で冷却しようとすると、各重機に固有の冷却ユニット搭載搬送装置を設ける必要があり、温度改善対策コストが嵩むことが容易に想像される。
【0006】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、様々な重機がトンネル内に点在している場合でも、効果的にトンネル内の温度改善を図ることのできるトンネル内温度改善システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明によるトンネル内温度改善システムは、発熱源と、該発熱源の周囲に配設された冷媒配管と、該冷媒配管と第一流路を介して流体連通するラジエータと、該冷媒配管と第二流路を介して流体連通する重機対応熱交換器と、を備え、該第一流路に第一切換弁が介在し、該第二流路に第二切換弁が介在し、双方の切換弁の開閉制御にて冷媒配管−ラジエータ間の流体の還流と、冷媒配管−重機対応熱交換器間の流体の還流と、の切換えが実行されるようになっている、トンネル工事で使用される重機と、トンネルの坑口外側にある冷媒供給源と、トンネルの坑口外側にある熱媒常温化槽と、前記冷媒供給源と前記重機対応熱交換器を繋いで冷媒を該冷媒供給源から該重機対応熱交換器に送る冷媒供給路と、前記重機対応熱交換器と前記熱媒常温化槽を直接的もしくは間接的に繋いで熱媒を該重機対応熱交換器から該熱媒常温化槽に送る熱媒排出路と、を備えているものである。
【0008】
本発明のトンネル内温度改善システムは、トンネル施工をおこなう各重機がその構成要素の一つであり、各重機がいずれも、発熱源の周囲に冷媒配管を備え、さらに通常のラジエータの他に熱交換器(重機対応熱交換器)を備えていて、冷媒配管とラジエータの間の冷媒還流、および、冷媒配管と重機対応熱交換器の間の冷媒還流を切換え自在になっている点に一つの特徴を有するものである。ここで、「重機」としては、ジャンボやホイールローダー、バックホウ、ブレーカー車、ダンプトラック、吹付機、トラックミキサー車、集塵機などが挙げられる。また、重機に内蔵された「発熱源」としては、エンジンやモータ、コンプレッサーなどが挙げられる。また、重機対応熱交換器は、対応する重機の近傍に載置されている形態であってもよいし、対応する重機に熱交換器が直接搭載されている形態であってもよい。ここで、「前記重機対応熱交換器と前記熱媒常温化槽を直接的もしくは間接的に繋いで」とは、重機対応熱交換器と熱媒常温化槽が熱媒排出路にて直接繋がれる形態(直接的)のほか、重機対応熱交換器と熱媒常温化槽の間に別途の熱交換器等が介在し、重機対応熱交換器から熱媒排出路を経て排出された熱媒がこの別途の熱交換器で所望の温度に低下された後、冷媒供給路に再度戻る形態(間接的)を含む意味である。
【0009】
これらエンジンやモータ、コンプレッサーなどの発熱源においては、その周囲にウォータージャケット等の冷媒配管が配設されているのが一般的であり、重機がさらに備えるラジエータと冷媒配管の間で冷水等の冷媒が還流することにより発熱源が駆動する際の熱を冷却するのも一般的であるが、必要に応じて発熱源の周囲に冷媒配管を取り付けてもよく、たとえば、冷媒がエアである空冷方式の場合も発熱源の周囲にウォータージャケット等の冷媒配管を配設する。本発明のシステムでは、重機がラジエータの他に熱交換器(重機対応熱交換器)を備え、冷媒配管とラジエータが第一切換弁を途中に有する第一流路を介して流体連通し、冷媒配管と重機対応熱交換器が第二切換弁を途中に有する第二流路を介して流体連通するとともに、トンネル作業時とトンネル非作業時(作業をおこなっていない重機の移動時等)で双方の切換弁が切換え自在に構成されている。ここで、「双方の切換弁が切換え自在」とは、作業モード、非作業モードでそれぞれ、一方の切換弁が開制御されるとともに他方の切換弁が閉制御されることを意味している。
【0010】
第一切換弁と第二切換弁の開閉制御は作業員による手動にておこなう形態や、重機が制御部を備えていてこの制御部にて自動にておこなう形態などが挙げられる。たとえば、後者の自動制御の場合、重機が制御部を備えるとともに発熱源周囲の温度を随時センシングする温度センサを備えていて、一定の温度閾値を超えた段階で重機がトンネル作業モードであると認定して制御部から切換弁に切換え信号が送信され、第二切換弁が開制御されるとともに第一切換弁が閉制御され、冷媒供給源から供給された冷媒が重機対応熱交換器を介し、第二流路を介して重機の発熱源周囲の冷媒配管に提供される。冷媒配管を流通する冷媒はその流通過程で発熱源からの熱を回収して熱媒となり、第二流路を通って重機対応熱交換器に送られる。重機対応熱交換器では、冷媒供給路からの冷媒が、第二流路の熱媒の熱を回収する。その後に熱媒排出路を通って熱媒常温化槽に送られる。
【0011】
熱媒を公共用水域等へ放流するに際しては、その温度をたとえば45℃以下等にすることが環境省の一律排水基準等で規制されている。そこで、熱媒常温化槽に送られた熱媒をここで常温化して常温水を生成し、この常温水を公共用水域等へ放流する。このように、本発明のシステムによれば、重機ごとにその発熱源から発せられる熱が冷媒配管を流通する冷媒にて効果的に回収されることから、トンネル内に複数の重機が分散して作業している等の場合であっても、トンネル内を所望の温度環境下に維持することができる。
【0012】
ここで、トンネル内に複数の重機が存在する場合に、それぞれの重機が前記冷媒供給路を構成する供給枝管と前記熱媒排出路を構成する排出枝管を備えていて、前記冷媒供給路を構成する供給主管から各供給枝管が分岐し、前記熱媒排出路を構成する排出主管から各排出枝管が分岐している形態を挙げることができる。
【0013】
より具体的には、いわゆるリバースリターン方式とダイレクトリターン方式が適用できる。リバースリターン方式の場合、冷媒供給路を構成する供給主管が坑口側から切羽側に延び、供給主管から分岐した各重機に固有の供給枝管が各重機の重機対応熱交換器に接続され、冷媒供給源に近い坑口側の重機から順に冷媒が供給され、一方で、熱媒排出路を構成する排出主管が冷媒供給源に近い坑口側の重機から切羽側の重機まで延びて反転し、坑口外へ出るようにして延び、排出主管から分岐した各重機に固有の排出枝管が各重機の重機対応熱交換器に接続され、冷媒供給源に近い坑口側の重機から順に熱媒が排出されるものである。一方、ダイレクトリターン方式の場合、冷媒供給に関してはリバースリターン方式と同様の構成を取り、一方で熱媒排出に関しては冷媒供給源から最も遠い切羽側の重機から順に熱媒を排出するものである。なお、圧力バランスの観点で言えば、配管長さが冷媒供給系統と熱媒排出系統で等しくなるリバースリターン方式が好ましい。
【0014】
ここで、冷媒供給源には以下で示す様々な形態があり、冷媒供給源の形態の相違に応じてシステムの構成も相違する。
【0015】
冷媒供給源の第一の形態は、前記冷媒供給源が泥土の含有されていない水を冷媒として供給する機器からなる形態である。
【0016】
この機器としては、清水が収容された水タンクと、このタンク内の水を冷媒供給路に送り出すポンプとからなる形態を挙げることができ、冷媒供給路に清水(冷媒)を給水するシステムである。単に冷媒を給水するだけでもよいが、トンネル内に提供する冷媒の温度を所望に調整してもよい。トンネル内で作業する重機の種類や重機の台数等に応じて発熱量が変化することから、重機の種類や重機の台数、複数種類の重機の組み合わせごとに発熱量を予め特定しておき、それぞれの発熱量ごとにトンネル内を最適温度まで冷却する(言い換えれば発熱量を抑制する)のに必要な清水温度や時間当たりの清水供給量を設定しておくこともできる。
【0017】
また、冷媒供給源の第二の形態は、前記冷媒供給源が、トンネル内の湧水を坑口外側もしくはトンネル内へ運ぶ湧水流路と、該湧水流路と流体連通する沈殿浄化槽と、から構成され、前記沈殿浄化槽で湧水中の泥土が取り除かれた濾過水が冷媒として前記冷媒供給路を介して前記重機対応熱交換器に送られる形態である。
【0018】
トンネル内に湧き出す湧水は一般に冷水であるが、湧水ゆえに多分に泥土を含んでおり、泥土を含んだ状態の湧水をそのまま熱交換器や冷媒配管に提供するとこれらの機器に泥土詰まりが生じてしまうことから、冷媒として湧水を適用する場合には本実施の形態のように湧水を沈殿浄化槽に通してここで泥土を取り除き、泥土が除かれた濾過水を冷媒として冷媒供給路を介して重機対応熱交換器に送るようにする。トンネル内の湧水量が多い場合はこの湧水を有効利用するのが好ましく、本実施の形態の冷媒供給源が好適である。
【0019】
さらに、冷媒供給源の第三の形態において、前記冷媒供給源は、トンネル内の湧水を坑口外側へ運ぶ湧水流路と、該湧水流路と流体連通する沈殿浄化槽と、該沈殿浄化槽と流体連通する坑口外熱交換器と、から構成され、前記坑口外熱交換器には、前記沈殿浄化槽で湧水中の泥土が取り除かれた濾過水が送られるとともに、前記熱媒排出路を介して熱媒が送られ、前記坑口外熱交換器において前記熱媒が前記濾過水によって放熱することで冷媒となり、前記冷媒供給路を介して前記重機対応熱交換器に送られるとともに、前記熱媒排出路からの熱媒の熱を該坑口外熱交換器にて回収することで温度上昇した前記濾過水は、前記熱媒常温化槽に排出される形態である。
【0020】
この形態の冷媒供給源も、冷媒として湧水を適用するのは第二の形態と同じであるが、この第三の形態では、沈殿浄化槽と熱媒常温化槽の間に坑口外熱交換器を介在させ、この坑口外熱交換器に濾過水とトンネルから排出されてきた熱媒を流通させ、この流通過程で熱媒の温度を低下させて冷媒を再生し、再生された冷媒は再び冷媒供給路を介して重機対応熱交換器に送られ、濾過水は熱媒常温化槽に送られて放流される。
【発明の効果】
【0021】
以上の説明から理解できるように、本発明のトンネル内温度改善システムによれば、当該システムを構成する重機ごとにその発熱源から発せられる熱が冷媒配管を流通する冷媒にて効果的に回収されることにより、トンネル内で作業する重機の種類や重機の台数、異種重機の組み合わせ等が異なっても、トンネル内の温度環境を所望に調整し、維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のトンネル内温度改善システムの実施の形態1を示した模式図である。
【
図2】重機内における冷却システムを説明した模式図である。
【
図3】本発明のトンネル内温度改善システムの実施の形態2を示した模式図である。
【
図4】本発明のトンネル内温度改善システムの実施の形態3を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明のトンネル内温度改善システムの実施の形態1〜3を説明する。なお、図示例は、重機として集塵機、トラックミキサー車および吹付機がトンネル内で並行してトンネル作業をおこなっている状態を示しており、これら三種の重機はいずれもトンネル内温度改善システムの構成要素であるが、一台の重機のみがトンネル作業をしている場合はこの一台の重機がシステム構成要素であるし、他種の重機をはじめとして四台以上の重機が並行してトンネル作業をおこなっている場合はこれら全ての重機がシステム構成要素となる。
【0024】
(トンネル内温度改善システムの実施の形態1)
図1は本発明のトンネル内温度改善システムの実施の形態1を示した模式図であり、
図2は重機内における冷却システムを説明した模式図である。
【0025】
図示するトンネル内温度改善システム10は、山岳MにおいてトンネルTを施工する工事に適用されるシステムであり、三種類の重機1(集塵機1A,トラックミキサー車1B,吹付機1D)と、トンネルTの坑口Sの外側にある冷媒供給源2と、熱媒常温化槽4と、から大略構成されている。集塵機1A,トラックミキサー車1B,吹付機1Dはいずれもラジエータ1bと重機対応熱交換器1aを備えている。なお、重機対応熱交換器1aは、集塵機1A等の重機の近傍に載置されてもよいし、重機に直接搭載されてもよいが、図示例は重機に搭載された形態を示す。さらに、トンネルT内の坑口側に配設される送気ダクトの図示は省略している。
【0026】
冷媒供給源2は、トンネルT内にX1方向で湧き出す湧水を坑口Sの外側へ運ぶ湧水流路3aと、湧水流路3aと流体連通する沈殿浄化槽3とから構成される。なお、図示を省略するが、沈殿浄化槽3には湧水から泥土が濾過されてなる濾過水を送り出すポンプが内蔵されている。
【0027】
沈殿浄化槽3から延びる冷媒供給路5a(供給主管)はトンネルT内の切羽側まで延び、供給主管5aから分岐した供給枝管5bが各重機対応熱交換器1aに流体連通している。一方、熱媒排出路5d(排出主管)が冷媒供給源2に近い坑口側の集塵機1Aから切羽側の吹付機1Dまで延びて反転し、坑口外へ出るようにして延び、排出主管5dから分岐した排出枝管5cが各重機1A,1B,1Dの重機対応熱交換器1aに流体連通している。
【0028】
トンネルT内に湧き出す湧水は冷水であり、かつ内部に泥土を含んでいることから、冷媒として湧水を適用するに当たり、トンネルT内で湧き出した湧水を湧水流路3aを介してX2方向で沈殿浄化槽3に送り、ここで泥土を取り除き、泥土が除かれた濾過水を冷媒として供給主管5aを介し(X3方向)、各供給枝管5bを介して(X4方向)各重機1A,1B,1Dの有する重機対応熱交換器1aに送る。一方、各重機1A,1B,1Dに送られた冷媒が発熱源から発せられる熱を回収して熱媒となった後、冷媒供給源2に最も近い坑口側の集塵機1Aから順に熱媒が排出枝管5cを介して排出主管5dに排出され(X5方向)、各排出枝管5cから排出された熱媒は排出主管5dを介して熱媒常温化槽4に送られる(X6方向)。
【0029】
ここで、
図2を参照して、トラックミキサー車1Bにおける冷却機構について説明する。図示する発熱源1cはエンジンであり、このエンジン1cには多数の冷媒配管1d(ウォータージャケット)が予め内蔵されており、各冷媒配管1dは相互に流体連通している。なお、発熱源1cであるモータ、コンプレッサー等が既存のウォータージャケットを備えていない場合や、既存のウォータージャケットに別途のウォータージャケットを追加する場合には、これらモータ等に新規のウォータージャケットを加工したものを使用すればよい。トラックミキサー車1Bはラジエータ1bと重機対応熱交換器1aを備えており、冷媒配管1dとラジエータ1bが第一切換弁1fを途中に有する第一流路1eを介して流体連通し、冷媒配管1dと重機対応熱交換器1aが第二切換弁1hを途中に有する第二流路1gを介して流体連通している。
【0030】
トラックミキサー車1Bがトンネル作業モードである場合、作業員が第二切換弁1hを開に切換えるとともに第一切換弁1fを閉に切換え、冷媒供給源2から供給された冷媒(の冷熱)が重機対応熱交換器1aを介し、第二流路1gを介してトラックミキサー車1Bのエンジン1c周囲の冷媒配管1dに提供される。冷媒配管1dを流通する冷媒はその流通過程でエンジン1cからの熱を回収して熱媒となり、熱媒は重機対応熱交換器1aを介して冷媒供給源2から供給された冷媒に熱を伝達することにより、温度が低下する。すなわち、トンネル作業モードでは第二流路1gを冷媒と熱媒が還流する(Y2方向)。エンジンからの熱を回収した熱媒は重機対応熱交換器1aにて冷媒供給源2から供給された冷媒に温熱を放熱することで温度が低下する。重機対応熱交換器1aにて昇温した冷媒供給源2からの冷媒は、排出枝管5cを介し、排出主管5dを介して熱媒常温化槽4に送られる。
【0031】
一方、トラックミキサー車1Bがトンネル非作業モード(作業をおこなっていない状態)である場合、今度は、作業員が第二切換弁1hを閉に切換えるとともに第一切換弁1fを開に切換え、冷媒配管1dを流通する冷媒がエンジン1cから熱を回収して熱媒となり、熱媒が第一流路1eを流通してラジエータ1bに送られ、ここで冷却され、第一流路1eを流通して冷媒配管1dに送られる。すなわち、トンネル非作業モードでは第一流路1eを冷媒と熱媒が還流する(Y1方向)。
【0032】
このように、各重機1A,1B,1Dともに固有の冷却システムにてトンネル作業モードとトンネル非作業モードで冷却態様を変更しながら、冷媒による発熱源1cの冷却を随時おこなうことにより、各重機1A,1B,1DからトンネルT内へ放熱された熱が蓄積してトンネルT内温度が上昇するのを効果的に抑制することができる。また、坑口Sにおいては、供給主管5aと排出主管5dがともに一本ずつ通過するのみであることから、坑口Sにてこれらの配管が錯綜するといった課題は生じない。なお、重機種ごとの一台当たりの発熱量を例示すると、削孔作業で使用されるジャンボの発熱量は121kWであり、ずり出し作業で使用されるホイールローダー、バックホウ、ブレーカーの発熱量はそれぞれ122kW、68kW、103kWであり、吹付機の発熱量は177kWであり、集塵機の発熱量は220kWである。
【0033】
なお、他の形態として、エンジン1cの近傍に不図示の温度センサを配設しておき、この温度センサでエンジン1cの温度を随時センシングし、センシングデータを不図示の制御装置に送信する形態が挙げられる。この制御装置にはトラックミキサー車1Bがトンネル作業モードにある際のエンジン1cの温度に関する温度閾値が格納されており、センシングデータがこの温度閾値を超えた段階でトラックミキサー車1Bがトンネル作業モードであると認定し、温度閾値以下の場合にはトラックミキサー車1Bがトンネル非作業モードであると認定する。そして、トンネル作業モード、トンネル非作業モードごとに、第一切換弁1fと第二切換弁1hの開閉切換えを自動制御するものである。
【0034】
排出主管5dを介してX6方向で熱媒が熱媒常温化槽4に送られた後、熱媒常温化槽4では、熱媒の温度をたとえば45℃以下に低下させ、温度低下した熱媒をX7方向で公共用水域等へ放流する。
【0035】
(トンネル内温度改善システムの実施の形態2)
図3は本発明のトンネル内温度改善システムの実施の形態2を示した模式図である。図示するトンネル内温度改善システム10Aは、坑口Sの外側において、湧水流路3aと、湧水流路3aと流体連通する沈殿浄化槽3と、沈殿浄化槽3と流体連通する坑口外熱交換器6とから構成される冷媒供給源2Aを備えるものである。
【0036】
湧水流路3aをX2方向で流通する湧水は沈殿浄化槽3に送られ、さらにX8方向で坑口外熱交換器6に送られる。一方、トンネル作業モードの場合、各重機1A,1B,1Dから排出された熱媒は排出主管5dを介してX6方向で坑口外熱交換器6に送られる。坑口外熱交換器6では、排出主管5dからの熱媒が沈殿浄化槽からの湧水(冷水)との熱交換により冷却・再生され、再生された冷媒は供給主管5aを介して再度各重機1A,1B,1Dに送られる。一方、熱媒を冷媒に再生させ、温度が上昇した湧水はX9方向で熱媒常温化槽4に送られ、45℃以下に低下された後、温度低下した熱媒はX7方向で公共用水域等へ放流される。
【0037】
(トンネル内温度改善システムの実施の形態3)
図4は本発明のトンネル内温度改善システムの実施の形態3を示した模式図である。図示するトンネル内温度改善システム10Bは、
図1で示すトンネル内温度改善システム10の冷媒供給源2を変更したものであり、ここでは、トンネル内から湧き出した湧水を沈殿浄化槽で濾過する代わりに、清水(水道水を含む)を冷媒として収容する清水タンク7と、この清水タンク7内の清水(冷媒)を集塵機1Aの重機対応熱交換器1aに送るポンプ8とから構成される冷媒供給源2Bを備えたものである。
【0038】
なお、この形態は、各重機1A等に清水を給水する給水方式によるものであり、湧水から泥土を濾過する沈殿浄化槽に比べて、清水タンク7とポンプ8とから構成される冷媒供給源2Bは極めて構成がシンプルとなる。
【0039】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0040】
1…重機、1A…重機(集塵機),1B…重機(トラックミキサー車),1D…重機(吹付機)、1a…重機対応熱交換器、1b…ラジエータ、1c…発熱源(エンジン)、1d…冷媒配管(ウォータージャケット)、1e…第一流路、1f…第一切換弁、1g…第二流路、1h…第二切換弁、1j…温度センサ、1k…制御装置、2,2A,2B…冷媒供給源、3…沈殿浄化槽、3a…湧水流路、4…熱媒常温化槽、5a…冷媒供給路(供給主管)、5b…冷媒供給路(供給枝管)、5c…熱媒排出路(排出枝管)、5d…熱媒排出路(排出主管)、6…坑口外熱交換器、7…清水タンク、8…ポンプ、10,10A,10B…トンネル内温度改善システム、M…山岳、T…トンネル、F…切羽、S…坑口