特許第6876540号(P6876540)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876540
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】ダイシングテープ一体型接着性シート
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20210517BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   H01L21/78 M
   H01L21/52 G
【請求項の数】5
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2017-124702(P2017-124702)
(22)【出願日】2017年6月27日
(65)【公開番号】特開2019-9324(P2019-9324A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 龍一
(72)【発明者】
【氏名】志賀 豪士
(72)【発明者】
【氏名】高本 尚英
【審査官】 内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−151361(JP,A)
【文献】 特開2011−6687(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/109786(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と粘着剤層とを含む積層構造を有するダイシングテープと、
前記ダイシングテープの前記粘着剤層に剥離可能に密着している接着性シートとを備え、
前記接着性シートは、幅2mmの接着性シート試験片について初期チャック間距離16mm、−15℃、および荷重増加速度1.2N/分の条件で行われる引張試験での破断強度が1.2N以下であり且つ破断伸度が1.2%以下である、ダイシングテープ一体型接着性シート。
【請求項2】
前記接着性シートは、前記ダイシングテープの前記粘着剤層に密着している第1層と当該第1層上の第2層とを含む積層構造を有する、請求項1に記載のダイシングテープ一体型接着性シート。
【請求項3】
前記第2層の厚さに対する前記第1層の厚さの比の値は0.2〜1.5である、請求項2に記載のダイシングテープ一体型接着性シート。
【請求項4】
前記接着性シートは裏面保護フィルムである、請求項1から3のいずれか一つに記載のダイシングテープ一体型接着性シート。
【請求項5】
前記接着性シートは裏面保護フィルムであり、前記第1層は熱硬化性を有し、前記第2層は熱可塑性を示す、請求項2または3に記載のダイシングテープ一体型接着性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造過程で使用することのできるダイシングテープ一体型接着性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程においては、ワークである半導体ウエハに対してそれに対応するサイズのダイシングテープ一体型接着性シートが貼り合わされたうえで、当該半導体ウエハの個片化を経て、接着性フィルム付き半導体チップが得られる場合がある。ダイシングテープ一体型接着性シートとしては、ダイシングテープ一体型裏面保護フィルムや、いわゆるダイシングダイボンドフィルムなどが、挙げられる。ダイシングテープ一体型裏面保護フィルムは、基材と粘着剤層とを含む積層構造のダイシングテープ、及びその粘着剤層に密着している裏面保護フィルムを有し、半導体チップ裏面保護用のチップ相当サイズの接着性フィルムを伴う半導体チップを得るうえで使用される。一方、ダイシングダイボンドフィルムは、基材と粘着剤層とを含む積層構造のダイシングテープ、及びその粘着剤層に密着しているダイボンドフィルムを有し、チップ相当サイズのダイボンディング用接着フィルムを伴う半導体チップを得るうえで使用される。これらダイシングテープ一体型接着性シートに関する技術については、例えば下記の特許文献1〜4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−2173号公報
【特許文献2】特開2010−177401号公報
【特許文献3】特開2011−151360号公報
【特許文献4】特開2016−213244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダイシングダイボンドフィルムを使用してダイボンディング用接着フィルム付き半導体チップを得る手法の一つとして、ダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープをエキスパンドしてダイボンドフィルムを割断するための工程を経る手法が知られている。この手法では、まず、ダイシングダイボンドフィルムのダイボンドフィルム上にワークである半導体ウエハが貼り合わせられる。この半導体ウエハは、例えば、後にダイボンドフィルムの割断に共だって割断されて複数の半導体チップへと個片化可能なように、加工されたものである。次に、それぞれが半導体チップに密着している複数の接着フィルム小片がダイシングテープ上のダイボンドフィルムから生じるように当該ダイボンドフィルムを割断すべく、ダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープがエキスパンドされる(割断用のエキスパンド工程)。このエキスパンド工程では、ダイボンドフィルム上の半導体ウエハにおけるダイボンドフィルム割断箇所に対応する箇所でも割断が生じ、ダイシングダイボンドフィルムないしダイシングテープ上にて半導体ウエハが複数の半導体チップに個片化される。次に、例えば洗浄工程を経た後、各半導体チップがそれに密着しているチップ相当サイズの接着フィルムと共に、ダイシングテープの下側からピックアップ機構のピン部材によって突き上げられたうえでダイシングテープ上からピックアップされる。このようにして、ダイボンドフィルム用接着フィルム付きの半導体チップが得られる。この接着フィルム付き半導体チップは、その接着フィルムを介して、実装基板にダイボンディングによって固着されることとなる。
【0005】
ダイシングテープ一体型接着性シートが上述のような割断用エキスパンド工程に使用される場合、当該ダイシングテープ一体型接着性シートにおける接着性シートには、当該エキスパンド工程において割断予定箇所で適切に割断されることが要求される。
【0006】
本発明は、以上のような事情のもとで考え出されたものであって、その目的は、接着性フィルム付き半導体チップを半導体ウエハの個片化によって得るためにダイシングテープ一体型接着性シートを使用して行う割断用のエキスパンド工程において接着性シートの良好な割断を実現するのに適した、ダイシングテープ一体型接着性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、ダイシングテープ一体型接着性シートが提供される。このダイシングテープ一体型接着性シートは、ダイシングテープおよび接着性シートを備える。ダイシングテープは、基材と粘着剤層とを含む積層構造を有する。接着性シートは、ダイシングテープにおける粘着剤層に剥離可能に密着している。この接着性シートは、幅2mmの接着性シート試験片について初期チャック間距離16mm、−15℃、および荷重増加速度1.2N/分の条件で行われる引張試験での破断強度が、1.2N以下であり、好ましくは1.1N以下、より好ましくは1N以下である。これとともに、接着性シートは、同引張試験での破断伸度(伸張前の長さに対する、破断時の伸張分の長さの割合)が、1.2%以下であり、好ましくは1.1%以下、より好ましくは1%以下である。このような構成のダイシングテープ一体型接着性シートは、半導体装置の製造過程で使用することができる。具体的には、本発明のダイシングテープ一体型接着性シートは、接着性シートについていわゆる裏面保護フィルムの構成が採用されたダイシングテープ一体型裏面保護フィルムとして、半導体チップ裏面保護用のチップ相当サイズの接着性フィルムを伴う半導体チップを得るうえで使用することができる。また、本発明のダイシングテープ一体型接着性シートは、接着性シートについていわゆるダイボンドフィルムの構成が採用されたダイシングダイボンドフィルムとして、チップ相当サイズのダイボンディング用接着フィルムを伴う半導体チップを得るうえで使用することができる。
【0008】
本ダイシングテープ一体型接着性シートにおける接着性シートは、上述のように、幅2mmの接着性シート試験片について初期チャック間距離16mm、−15℃、および荷重増加速度1.2N/分の条件で行われる引張試験での破断強度が1.2N以下であり、好ましくは1.1N以下、より好ましくは1N以下である。このような構成は、半導体装置の製造過程で接着性フィルム付き半導体チップを得るうえで本ダイシングテープ一体型接着性シートを使用して割断用エキスパンド工程を実施する場合において、ダイシングテープ上の接着性シートを割断させるために当該接着性シートに作用させるべき割断力を抑制するうえで好適である。
【0009】
本ダイシングテープ一体型接着性シートにおける接着性シートは、上述のように、幅2mmの接着性シート試験片について初期チャック間距離16mm、−15℃、および荷重増加速度1.2N/分の条件で行われる引張試験での破断伸度が1.2%以下であり、好ましくは1.1%以下、より好ましくは1%以下である。このような構成は、半導体装置の製造過程で接着性フィルム付き半導体チップを得るうえで本ダイシングテープ一体型接着性シートを使用して割断用エキスパンド工程を実施する場合において、ダイシングテープ上の接着性シートを割断させるのに要する引張り長さを抑制するうえで好適である。
【0010】
以上のように、本発明のダイシングテープ一体型接着性シートは、ダイシングテープ上の接着性シートを割断させるために当該接着性シートに作用させるべき割断力を抑制するのに好適であるとともに、当該割断のための接着性シート引張り長さを抑制するのに好適である。このような本ダイシングテープ一体型接着性シートは、接着性フィルム付き半導体チップを半導体ウエハの個片化によって得るための割断用エキスパンド工程に使用される場合において、接着性シートの良好な割断を実現するのに適するのである。具体的には、後記の実施例および比較例をもって示すとおりである。
【0011】
本ダイシングテープ一体型接着性シートにおける接着性シートは、好ましくは、ダイシングテープの粘着剤層に剥離可能に密着している第1層と当該第1層上の第2層とを含む積層構造を有する。このような構成は、例えば、接着性シートにおいてダイシングテープ粘着剤層側表面に求められる特性と、当該表面とは反対のワーク貼着用表面に求められる特性とを、個別に発現させるのに適する。また、接着性シートにおける第1層および第2層に求められる機能を両立させるという観点からは、第2層の厚さに対する第1層の厚さの比の値は、好ましくは0.2〜1.5、より好ましくは0.3〜1.3、より好ましくは0.6〜1.1である。
【0012】
本ダイシングテープ一体型接着性シートにおける接着性シートが裏面保護フィルムである場合、好ましくは、上記の第1層は熱硬化性を有し且つ上記の第2層は熱可塑性を示す。本発明において第1層が熱硬化性を有するという構成は、裏面保護フィルムの第1層表面がレーザーマーキングによる刻印の施された後にいわゆるリフロー工程等の高温過程を経る場合において、刻印情報の視認性を確保するのに適する。また、本発明において第1層が熱硬化性を有する一方で第2層が熱可塑性を示すという構成は、裏面保護フィルムが例えば単一の熱硬化性層からなるという構成よりも、上述の割断用エキスパンド工程にて裏面保護フィルムの良好な割断を実現するのに適する。すなわち、裏面保護フィルムにおいて第1層が熱硬化性を有し且つ第2層が熱可塑性を示すという上記構成は、裏面保護フィルムにおいて刻印情報の視認性の確保と良好な割断性の実現とを両立するうえで好適なのである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一の実施形態に係るダイシングテープ一体型接着性シートの断面模式図である。
図2図1に示すダイシングテープ一体型接着性シートが使用される半導体装置製造方法における一部の工程を表す。
図3図1に示すダイシングテープ一体型接着性シートが使用される半導体装置製造方法における一部の工程を表す。
図4図1に示すダイシングテープ一体型接着性シートが使用される半導体装置製造方法における一部の工程を表す。
図5図1に示すダイシングテープ一体型接着性シートが使用される半導体装置製造方法における一部の工程を表す。
図6図1に示すダイシングテープ一体型接着性シートが使用される半導体装置製造方法における一部の工程を表す。
図7図1に示すダイシングテープ一体型接着性シートが使用される半導体装置製造方法における一部の工程を表す。
図8図1に示すダイシングテープ一体型接着性シートが使用される半導体装置製造方法における一部の工程を表す。
図9図1に示すダイシングテープ一体型接着性シートが使用される半導体装置製造方法における一部の工程を表す。
図10図1に示すダイシングテープ一体型接着性シートが使用される半導体装置製造方法における一部の工程を表す。
図11図1に示すダイシングテープ一体型接着性シートが使用される半導体装置製造方法における一部の工程を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一の実施形態に係るダイシングテープ一体型接着性シートXの断面模式図である。ダイシングテープ一体型接着性シートXは、半導体装置の製造過程で使用されうるものであり、接着性シートとしてのフィルム10とダイシングテープ20とを含む積層構造を有する。本実施形態において、フィルム10は、ワークである半導体ウエハ等の回路非形成面すなわち裏面に貼り合わされることとなる裏面保護フィルムである。ダイシングテープ20は、基材21と粘着剤層22とを含む積層構造を有する。粘着剤層22は、フィルム10側に粘着面22aを有する。粘着剤層22ないしその粘着面22aに対し、フィルム10は剥離可能に密着している。また、ダイシングテープ一体型接着性シートXは、ワークである半導体ウエハ等に対応するサイズの円盤形状を有する。このようなダイシングテープ一体型接着性シートXは、具体的にはダイシングテープ一体型裏面保護フィルムとして、半導体チップ裏面保護用のチップ相当サイズの接着性フィルムを伴う半導体チップを得るための例えば後記のようなエキスパンド工程に使用することのできるものである。
【0015】
裏面保護フィルムであるフィルム10は、レーザーマーク層11(第1層)とウエハマウント層12(第2層)とを含む積層構造を有する。レーザーマーク層11は、フィルム10においてダイシングテープ20側に位置し、ダイシングテープ20に密着している。レーザーマーク層11におけるダイシングテープ20側の表面には、半導体装置の製造過程においてレーザーマーキングが施されることとなる。また、本実施形態では、レーザーマーク層11は、熱硬化性成分を含有して既に熱硬化された状態にある。ウエハマウント層12は、フィルム10において半導体ウエハなどワークが貼り合わされる側に位置し、本実施形態では未硬化の状態にあって熱可塑性を示す。
【0016】
フィルム10におけるレーザーマーク層11は、樹脂成分として、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有してもよいし、硬化剤と反応して結合を生じ得る熱硬化性官能基を伴う熱可塑性樹脂を含む組成を有してもよい。
【0017】
レーザーマーク層11が熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有する場合の当該熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、および熱硬化性ポリイミド樹脂が挙げられる。レーザーマーク層11は、一種類の熱硬化性樹脂を含有してもよいし、二種類以上の熱硬化性樹脂を含有してもよい。エポキシ樹脂は、フィルム10から後記のように形成される裏面保護膜による保護の対象である半導体チップの腐食原因となりうるイオン性不純物等の含有量が少ない傾向にあることから、フィルム10のレーザーマーク層11中の熱硬化性樹脂として好ましい。また、エポキシ樹脂に熱硬化性を発現させるための硬化剤としては、フェノール樹脂が好ましい。
【0018】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、およびテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂などの二官能エポキシ樹脂や多官能エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂としては、ヒダントイン型エポキシ樹脂、トリスグリシジルイソシアヌレート型エポキシ樹脂、およびグリシジルアミン型エポキシ樹脂も挙げられる。また、レーザーマーク層11は、一種類のエポキシ樹脂を含有してもよいし、二種類以上のエポキシ樹脂を含有してもよい。
【0019】
フェノール樹脂はエポキシ樹脂の硬化剤として作用するものであり、そのようなフェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、およびノニルフェノールノボラック樹脂などのノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。また、当該フェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂、および、ポリパラオキシスチレンなどのポリオキシスチレンも挙げられる。レーザーマーク層11中のフェノール樹脂として特に好ましいのは、フェノールノボラック樹脂やフェノールアラルキル樹脂である。また、レーザーマーク層11はエポキシ樹脂の硬化剤として、一種類のフェノール樹脂を含有してもよいし、二種類以上のフェノール樹脂を含有してもよい。
【0020】
レーザーマーク層11がエポキシ樹脂とその硬化剤としてのフェノール樹脂とを含有する場合、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対してフェノール樹脂中の水酸基が好ましくは0.5〜2.0当量、より好ましくは0.8〜1.2当量である割合で、両樹脂は配合される。このような構成は、レーザーマーク層11の硬化にあたって当該エポキシ樹脂およびフェノール樹脂の硬化反応を充分に進行させるうえで好ましい。
【0021】
レーザーマーク層11における熱硬化性樹脂の含有割合は、レーザーマーク層11を適切に硬化させるという観点からは、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%である。
【0022】
レーザーマーク層11中の熱可塑性樹脂は例えばバインダー機能を担うものであり、レーザーマーク層11が熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有する場合の当該熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびフッ素樹脂が挙げられる。レーザーマーク層11は、一種類の熱可塑性樹脂を含有してもよいし、二種類以上の熱可塑性樹脂を含有してもよい。アクリル樹脂は、イオン性不純物が少なく且つ耐熱性が高いことから、レーザーマーク層11中の熱可塑性樹脂として好ましい。
【0023】
レーザーマーク層11が熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂を含有する場合の当該アクリル樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多く含む。「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および/または「メタクリル」を意味するものとする。
【0024】
アクリル樹脂のモノマーユニットをなすための(メタ)アクリル酸エステル、即ち、アクリル樹脂の構成モノマーである(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、および(メタ)アクリル酸アリールエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、s-ブチルエステル、t-ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、2-エチルヘキシルエステル、イソオクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、ウンデシルエステル、ドデシルエステル(即ちラウリルエステル)、トリデシルエステル、テトラデシルエステル、ヘキサデシルエステル、オクタデシルエステル、およびエイコシルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のシクロペンチルエステルおよびシクロヘキシルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニルおよび(メタ)アクリル酸ベンジルが挙げられる。アクリル樹脂の構成モノマーとして、一種類の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよいし、二種類以上の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよい。また、アクリル樹脂は、それを形成するための原料モノマーを重合して得ることができる。重合手法としては、例えば、溶液重合、乳化重合、塊状重合、および懸濁重合が挙げられる。
【0025】
アクリル樹脂は、例えばその凝集力や耐熱性の改質のために、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な一種類の又は二種類以上の他のモノマーを構成モノマーとしてもよい。そのようなモノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、アクリルアミド、およびアクリロニトリルが挙げられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸カルボキシペンチル、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、およびクロトン酸が挙げられる。酸無水物モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸および無水イタコン酸が挙げられる。ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、および(メタ)アクリル酸(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチルが挙げられる。エポキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルおよび(メタ)アクリル酸メチルグリシジルが挙げられる。スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、および(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸が挙げられる。リン酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートが挙げられる。
【0026】
レーザーマーク層11に含まれるアクリル樹脂は、好ましくは、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸2-エチルヘキシル、およびアクリル酸グリシジルから適宜に選択されるモノマーの共重合体である。このような構成は、裏面保護フィルムであるフィルム10において、レーザーマーキングによる刻印情報の視認性と割断用エキスパンド工程での後述の良好な割断性とを両立するうえで好ましい。
【0027】
レーザーマーク層11が、熱硬化性官能基を伴う熱可塑性樹脂を含む組成を有する場合、当該熱可塑性樹脂としては、例えば、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂を用いることができる。この熱硬化性官能基含有アクリル樹脂をなすためのアクリル樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多く含む。そのような(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、レーザーマーク層11に含有されるアクリル樹脂の構成モノマーとして上記したのと同様の(メタ)アクリル酸エステルを用いることができる。一方、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂をなすための熱硬化性官能基としては、例えば、グリシジル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、およびイソシアネート基が挙げられる。これらのうち、グリシジル基およびカルボキシ基を好適に用いることができる。すなわち、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂としては、グリシジル基含有アクリル樹脂やカルボキシ基含有アクリル樹脂を好適に用いることができる。また、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基の種類に応じて、それと反応を生じうる硬化剤が選択される。熱硬化性官能基含有アクリル樹脂の熱硬化性官能基がグリシジル基である場合、硬化剤としては、エポキシ樹脂用硬化剤として上記したのと同様のフェノール樹脂を用いることができる。
【0028】
レーザーマーク層11を形成するための組成物は、好ましくは熱硬化触媒を含有する。レーザーマーク層形成用組成物への熱硬化触媒の配合は、レーザーマーク層11の硬化にあたって樹脂成分の硬化反応を充分に進行させたり、硬化反応速度を高めるうえで、好ましい。そのような熱硬化触媒としては、例えば、イミダゾール系化合物、トリフェニルフォスフィン系化合物、アミン系化合物、およびトリハロゲンボラン系化合物が挙げられる。イミダゾール系化合物としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-ウンデシルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-エチル-4'-メチルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、および2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールが挙げられる。トリフェニルフォスフィン系化合物としては、例えば、トリフェニルフォスフィン、トリブチルフォスフィン、トリ(p-メチルフェニル)フォスフィン、トリ(ノニルフェニル)フォスフィン、ジフェニルトリルフォスフィン、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、メチルトリフェニルホスホニウム、メチルトリフェニルホスホニウムクロライド、メトキシメチルトリフェニルホスホニウム、およびベンジルトリフェニルホスホニウムクロライドが挙げられる。トリフェニルフォスフィン系化合物には、トリフェニルフォスフィン構造とトリフェニルボラン構造とを併有する化合物も含まれるものとする。そのような化合物としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリボレート、ベンジルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、およびトリフェニルホスフィントリフェニルボランが挙げられる。アミン系化合物としては、例えば、モノエタノールアミントリフルオロボレートおよびジシアンジアミドが挙げられる。トリハロゲンボラン系化合物としては、例えばトリクロロボランが挙げられる。レーザーマーク層形成用組成物は、一種類の熱硬化触媒を含有してもよいし、二種類以上の熱硬化触媒を含有してもよい。
【0029】
レーザーマーク層11は、フィラーを含有してもよい。レーザーマーク層11へのフィラーの配合は、レーザーマーク層11の弾性率や、降伏点強度、破断伸度などの物性を調整するうえで好ましい。フィラーとしては、無機フィラーおよび有機フィラーが挙げられる。無機フィラーの構成材料としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、窒化ホウ素、結晶質シリカ、および非晶質シリカが挙げられる。無機フィラーの構成材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル等の単体金属や、合金、アモルファスカーボン、グラファイトなども挙げられる。有機フィラーの構成材料としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、およびポリエステルイミドが挙げられる。レーザーマーク層11は、一種類のフィラーを含有してもよいし、二種類以上のフィラーを含有してもよい。当該フィラーは、球状、針状、フレーク状など各種形状を有していてもよい。レーザーマーク層11がフィラーを含有する場合の当該フィラーの平均粒径は、好ましくは0.005〜10μm、より好ましくは0.05〜1μmである。当該フィラーの平均粒径が10μm以下であるという構成は、レーザーマーク層11において充分なフィラー添加効果を得るとともに耐熱性を確保するうえで好適である。フィラーの平均粒径は、例えば、光度式の粒度分布計(商品名「LA−910」,株式会社堀場製作所製)を使用して求めることができる。また、レーザーマーク層11がフィラーを含有する場合の当該フィラーの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。同含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは47質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
【0030】
レーザーマーク層11は、本実施形態では着色剤を含有する。着色剤は、顔料であってもよいし、染料であってもよい。着色剤としては、例えば、黒系着色剤、シアン系着色剤、マゼンダ系着色剤、およびイエロー系着色剤が挙げられる。レーザーマーキングによってレーザーマーク層11に刻印される情報について高い視認性を実現するうえでは、レーザーマーク層11は黒系着色剤を含有するのが好ましい。黒系着色剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト(黒鉛)、酸化銅、二酸化マンガン、アゾメチンアゾブラックなどアゾ系顔料、アニリンブラック、ペリレンブラック、チタンブラック、シアニンブラック、活性炭、フェライト、マグネタイト、酸化クロム、酸化鉄、二硫化モリブデン、複合酸化物系黒色色素、アントラキノン系有機黒色染料、およびアゾ系有機黒色染料が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、およびランプブラックが挙げられる。黒系着色剤としては、C.I.ソルベントブラック3、同7、同22、同27、同29、同34、同43、および同70も挙げられる。黒系着色剤としては、C.I.ダイレクトブラック17、同19、同22、同32、同38、同51、および同71も挙げられる。黒系着色剤としては、C.I.アシッドブラック1、同2、同24、同26、同31、同48、同52、同107、同109、同110、同119、および同154も挙げられる。黒系着色剤としては、C.I.ディスパーズブラック1、同3、同10、および同24も挙げられる。黒系着色剤としては、C.I.ピグメントブラック1および同7も挙げられる。レーザーマーク層11は、一種類の着色剤を含有してもよいし、二種類以上の着色剤を含有してもよい。また、レーザーマーク層11における着色剤の含有量は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上である。同含有量は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。着色剤含有量に関するこれら構成は、レーザーマーキングによってレーザーマーク層11に刻印される情報について高い視認性を実現するうえで好ましい。
【0031】
レーザーマーク層11は、必要に応じて、一種類の又は二種類以上の他の成分を含有してもよい。当該他の成分としては、例えば、難燃剤、シランカップリング剤、およびイオントラップ剤が挙げられる。難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、および臭素化エポキシ樹脂が挙げられる。シランカップリング剤としては、例えば、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、およびγ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが挙げられる。イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス、含水酸化アンチモン(例えば東亜合成株式会社製の「IXE-300」)、特定構造のリン酸ジルコニウム(例えば東亜合成株式会社製の「IXE-100」)、ケイ酸マグネシウム(例えば協和化学工業株式会社製の「キョーワード600」)、およびケイ酸アルミニウム(例えば協和化学工業株式会社製の「キョーワード700」)が挙げられる。金属イオンとの間で錯体を形成し得る化合物もイオントラップ剤として使用することができる。そのような化合物としては、例えば、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物、およびビピリジル系化合物が挙げられる。これらのうち、金属イオンとの間で形成される錯体の安定性の観点からはトリアゾール系化合物が好ましい。そのようなトリアゾール系化合物としては、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-{N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル}ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、6-(2-ベンゾトリアゾリル)-4-t-オクチル-6'-t-ブチル-4'-メチル-2,2'-メチレンビスフェノール、1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1-(1,2-ジカルボキシジエチル)ベンゾトリアゾール、1-(2-エチルヘキシルアミノメチル)ベンゾトリアゾール、2,4-ジ-t-ペンチル-6-{(H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル}フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、オクチル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-エチルヘキシル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-ブチルフェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ジ(1,1-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2,2'-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、および、メチル-3-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネートが挙げられる。また、キノール化合物や、ヒドロキシアントラキノン化合物、ポリフェノール化合物などの所定の水酸基含有化合物も、イオントラップ剤として使用することができる。そのような水酸基含有化合物としては、具体的には、1,2-ベンゼンジオール、アリザリン、アントラルフィン、タンニン、没食子酸、没食子酸メチル、およびピロガロールが挙げられる。
【0032】
フィルム10におけるウエハマウント層12は、樹脂成分として、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有してもよいし、硬化剤と反応して結合を生じ得る熱硬化性官能基を伴う熱可塑性樹脂を含む組成を有してもよい。
【0033】
ウエハマウント層12が熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有する場合の当該熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、および熱硬化性ポリイミド樹脂が挙げられる。ウエハマウント層12は、一種類の熱硬化性樹脂を含有してもよいし、二種類以上の熱硬化性樹脂を含有してもよい。エポキシ樹脂は、フィルム10から後記のように形成される裏面保護膜による保護の対象である半導体チップの腐食原因となりうるイオン性不純物等の含有量が少ない傾向にあることから、フィルム10のウエハマウント層12中の熱硬化性樹脂として好ましい。
【0034】
ウエハマウント層12におけるエポキシ樹脂としては、例えば、レーザーマーク層11が熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有する場合の当該熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂として上記したものが挙げられる。フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、およびテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂は、硬化剤としてのフェノール樹脂との反応性に富み且つ耐熱性に優れることから、ウエハマウント層12中のエポキシ樹脂として好ましい。
【0035】
ウエハマウント層12におけるエポキシ樹脂の硬化剤として作用しうるフェノール樹脂としては、例えば、レーザーマーク層11中のエポキシ樹脂の硬化剤であるフェノール樹脂として上記したものが挙げられる。ウエハマウント層12は、エポキシ樹脂の硬化剤として、一種類のフェノール樹脂を含有してもよいし、二種類以上のフェノール樹脂を含有してもよい。
【0036】
ウエハマウント層12がエポキシ樹脂とその硬化剤としてのフェノール樹脂とを含有する場合、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対してフェノール樹脂中の水酸基が好ましくは0.5〜2.0当量、より好ましくは0.8〜1.2当量である割合で、両樹脂は配合される。このような構成は、ウエハマウント層12を硬化させる場合に当該エポキシ樹脂およびフェノール樹脂の硬化反応を充分に進行させるうえで好ましい。
【0037】
ウエハマウント層12における熱硬化性樹脂の含有割合は、ウエハマウント層12を適切に硬化させるという観点からは、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%である。
【0038】
ウエハマウント層12中の熱可塑性樹脂は例えばバインダー機能を担うものである。ウエハマウント層12が熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有する場合の当該熱可塑性樹脂としては、例えば、レーザーマーク層11が熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有する場合の熱可塑性樹脂として上記したものが挙げられる。ウエハマウント層12は、一種類の熱可塑性樹脂を含有してもよいし、二種類以上の熱可塑性樹脂を含有してもよい。アクリル樹脂は、イオン性不純物が少なく且つ耐熱性が高いことから、ウエハマウント層12中の熱可塑性樹脂として好ましい。
【0039】
ウエハマウント層12が熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂を含有する場合の当該アクリル樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多く含む。そのようなアクリル樹脂のモノマーユニットをなすための(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、レーザーマーク層11が熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂を含有する場合の当該アクリル樹脂の構成モノマーとして上記した(メタ)アクリル酸エステルを用いることができる。ウエハマウント層12中のアクリル樹脂の構成モノマーとして、一種類の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよいし、二種類以上の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよい。また、当該アクリル樹脂は、例えばその凝集力や耐熱性の改質のために、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な一種類の又は二種類以上の他のモノマーを構成モノマーとしてもよい。そのようなモノマーとしては、例えば、レーザーマーク層11中のアクリル樹脂をなすための(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のモノマーとして上記したものを用いることができる。
【0040】
ウエハマウント層12に含まれるアクリル樹脂は、好ましくは、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸2-エチルヘキシル、およびアクリル酸グリシジルから適宜に選択されるモノマーの共重合体である。このような構成は、裏面保護フィルムであるフィルム10において、ワークに対する接着性と割断用エキスパンド工程での後述の良好な割断性とを両立するうえで好ましい。
【0041】
ウエハマウント層12が、熱硬化性官能基を伴う熱可塑性樹脂を含む組成を有する場合、当該熱可塑性樹脂としては、例えば、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂を用いることができる。この熱硬化性官能基含有アクリル樹脂をなすためのアクリル樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多く含む。そのような(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、レーザーマーク層11に含有されるアクリル樹脂の構成モノマーとして上記したのと同様の(メタ)アクリル酸エステルを用いることができる。一方、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂をなすための熱硬化性官能基としては、例えば、グリシジル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、およびイソシアネート基が挙げられる。これらのうち、グリシジル基およびカルボキシ基を好適に用いることができる。また、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基の種類に応じて、それと反応を生じうる硬化剤が選択される。熱硬化性官能基含有アクリル樹脂の熱硬化性官能基がグリシジル基である場合、硬化剤としては、エポキシ樹脂用硬化剤として上記したのと同様のフェノール樹脂を用いることができる。
【0042】
ウエハマウント層12を形成するための組成物は、好ましくは、熱硬化触媒を含有しなない。ウエハマウント層12を形成するための組成物に熱硬化触媒を配合する場合には、当該熱硬化触媒として、例えば、レーザーマーク層形成用組成物に配合されうる熱硬化触媒として上記したものを用いることができる。
【0043】
ウエハマウント層12は、フィラーを含有してもよい。ウエハマウント層12へのフィラーの配合は、ウエハマウント層12の弾性率や、降伏点強度、破断伸度などの物性を調整するうえで好ましい。ウエハマウント層12におけるフィラーとしては、例えば、レーザーマーク層11におけるフィラーとして上記したものが挙げられる。ウエハマウント層12は、一種類のフィラーを含有してもよいし、二種類以上のフィラーを含有してもよい。当該フィラーは、球状、針状、フレーク状など各種形状を有していてもよい。ウエハマウント層12がフィラーを含有する場合の当該フィラーの平均粒径は、好ましくは0.005〜10μm、より好ましくは0.05〜1μmである。当該フィラーの平均粒径が10μm以下であるという構成は、ウエハマウント層12において充分なフィラー添加効果を得るとともに耐熱性を確保するうえで好適である。また、ウエハマウント層12がフィラーを含有する場合の当該フィラーの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。同含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは47質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
【0044】
ウエハマウント層12は、着色剤を含有してもよい。ウエハマウント層12における着色剤としては、例えば、レーザーマーク層11における着色剤として上記したものが挙げられる。フィルム10におけるレーザーマーク層11側のレーザーマーキングによる刻印箇所とそれ以外の箇所との間で高いコントラストを確保して当該刻印情報について良好な視認性を実現するうえでは、ウエハマウント層12は黒系着色剤を含有するのが好ましい。ウエハマウント層12は、一種類の着色剤を含有してもよいし、二種類以上の着色剤を含有してもよい。また、ウエハマウント層12における着色剤の含有量は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上である。同含有量は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。着色剤含有量に関するこれら構成は、レーザーマーキングによる刻印情報について上述の良好な視認性を実現するうえで好ましい。
【0045】
ウエハマウント層12は、必要に応じて、一種類の又は二種類以上の他の成分を含有してもよい。当該他の成分としては、例えば、レーザーマーク層11に関して具体的に上記した難燃剤、シランカップリング剤、およびイオントラップ剤が挙げられる。
【0046】
レーザーマーク層11およびウエハマウント層12を含む積層構造を有するフィルム10の厚さは、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上であり、且つ、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。そして、ウエハマウント層12(第2層)の厚さに対するレーザーマーク層11(第1層)の厚さの比の値は、好ましくは0.2〜1.5、より好ましくは0.3〜1.3、より好ましくは0.6〜1.1である。
【0047】
以上のようなフィルム10(裏面保護フィルムとしての接着性のシート)は、幅2mmのフィルム試験片(接着性シート試験片)について初期チャック間距離16mm、−15℃、および荷重増加速度1.2N/分の条件で行われる引張試験での破断強度が、1.2N以下であり、好ましくは1.1N以下、より好ましくは1N以下である。これとともに、フィルム10は、同引張試験での破断伸度(伸張前の長さに対する、破断時の伸張分の長さの割合)が、1.2%以下であり、好ましくは1.1%以下、より好ましくは1%以下である。これらは破断強度および破断伸度については、TMA試験機(商品名「TMA Q400」,TAインスツルメント社製)を使用して行う引張試験において測定することができる。本測定においては、フィルム10から切り出されて使用試験機にセットされる試験片について、−15℃で5分間の保持を経た後、当該試験機の作動モードを引張モードとし、上述のように初期チャック間距離16mm、−15℃、および荷重増加速度1.2N/分の条件で引張試験を行うものとする。フィルム10における破断強度の調整および破断伸度の調整は、フィルム10内の各層に含まれるアクリル樹脂など熱可塑性樹脂の構成モノマー組成の調整や、フィルム10内の各層の厚さの調整などによって、行うことが可能である。
【0048】
ダイシングテープ一体型接着性シートXにおけるダイシングテープ20の基材21は、ダイシングテープ20ないしダイシングテープ一体型接着性シートXにおいて支持体として機能する要素である。基材21は例えばプラスチック基材であり、当該プラスチック基材としてはプラスチックフィルムを好適に用いることができる。プラスチック基材の構成材料としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフェニルスルフィド、アラミド、フッ素樹脂、セルロース系樹脂、およびシリコーン樹脂が挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−ブテン共重合体、およびエチレン−ヘキセン共重合体が挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリブチレンテレフタレートが挙げられる。基材21は、一種類の材料からなってもよし、二種類以上の材料からなってもよい。基材21は、単層構造を有してもよいし、多層構造を有してもよい。基材21上の粘着剤層22が後述のように紫外線硬化性である場合、基材21は紫外線透過性を有するのが好ましい。基材21は、プラスチックフィルムよりなる場合、無延伸フィルムであってもよいし、一軸延伸フィルムであってもよいし、二軸延伸フィルムであってもよい。本実施形態において好ましくは、基材21は、ポリ塩化ビニル製基材またはエチレン−酢酸ビニル共重合体製基材である。
【0049】
ダイシングテープ一体型接着性シートXの使用に際してダイシングテープ20ないし基材21を例えば部分的な加熱によって収縮させる場合には、基材21は熱収縮性を有するのが好ましい。また、基材21がプラスチックフィルムよりなる場合、ダイシングテープ20ないし基材21について等方的な熱収縮性を実現するうえでは、基材21は二軸延伸フィルムであるのが好ましい。ダイシングテープ20ないし基材21は、加熱温度100℃および加熱処理時間60秒の条件で行われる加熱処理試験による熱収縮率が好ましくは2〜30%、より好ましくは2〜25%、より好ましくは3〜20%、より好ましくは5〜20%である。当該熱収縮率は、いわゆるMD方向の熱収縮率およびいわゆるTD方向の熱収縮率の少なくとも一方の熱収縮率をいうものとする。
【0050】
基材21における粘着剤層22側の表面は、粘着剤層22との密着性を高めるための物理的処理、化学的処理、または下塗り処理が施されていてもよい。物理的処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、サンドマット加工処理、オゾン暴露処理、火炎暴露処理、高圧電撃暴露処理、およびイオン化放射線処理が挙げられる。化学的処理としては例えばクロム酸処理が挙げられる。
【0051】
基材21の厚さは、ダイシングテープ20ないしダイシングテープ一体型接着性シートXにおける支持体として基材21が機能するための強度を確保するという観点からは、好ましくは40μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは60μm以上である。また、ダイシングテープ20ないしダイシングテープ一体型接着性シートXにおいて適度な可撓性を実現するという観点からは、基材21の厚さは、好ましくは200μm以下、より好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。
【0052】
ダイシングテープ20の粘着剤層22は、粘着剤を含有する。この粘着剤は、ダイシングテープ一体型接着性シートXの使用過程において外部からの作用によって意図的に粘着力を低減させることが可能な粘着剤(粘着力低減可能型粘着剤)であってもよいし、ダイシングテープ一体型接着性シートXの使用過程において外部からの作用によっては粘着力がほとんど又は全く低減しない粘着剤(粘着力非低減型粘着剤)であってもよい。粘着剤層22中の粘着剤として粘着力低減可能型粘着剤を用いるか或いは粘着力非低減型粘着剤を用いるかについては、ダイシングテープ一体型接着性シートXを使用して個片化される半導体チップの個片化の手法や条件など、ダイシングテープ一体型接着性シートXの使用態様に応じて、適宜に選択することができる。
【0053】
粘着剤層22中の粘着剤として粘着力低減可能型粘着剤を用いる場合、ダイシングテープ一体型接着性シートXの使用過程において、粘着剤層22が相対的に高い粘着力を示す状態と相対的に低い粘着力を示す状態とを、使い分けることが可能である。例えば、ダイシングテープ一体型接着性シートXが後記のエキスパンド工程に使用される時には、粘着剤層22からのフィルム10の浮きや剥離を抑制・防止するために粘着剤層22の高粘着力状態を利用する一方で、それより後、ダイシングテープ一体型接着性シートXのダイシングテープ20からダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップするための後記のピックアップ工程では、粘着剤層22からダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップしやすくするために粘着剤層22の低粘着力状態を利用することが可能である。
【0054】
このような粘着力低減可能型粘着剤としては、例えば、ダイシングテープ一体型接着性シートXの使用過程において放射線照射によって硬化させることが可能な粘着剤(放射線硬化性粘着剤)や加熱発泡型粘着剤などが挙げられる。本実施形態の粘着剤層22では、一種類の粘着力低減可能型粘着剤が用いられてもよいし、二種類以上の粘着力低減可能型粘着剤が用いられてもよい。また、粘着剤層22の全体が粘着力低減可能型粘着剤から形成されてもよいし、粘着剤層22の一部が粘着力低減可能型粘着剤から形成されてもよい。例えば、粘着剤層22が単層構造を有する場合、粘着剤層22の全体が粘着力低減可能型粘着剤から形成されてもよいし、粘着剤層22における所定の部位(例えば、ワークの貼着対象領域である中央領域)が粘着力低減可能型粘着剤から形成され、他の部位(例えば、リングフレームの貼着対象領域であって、中央領域の外側にある領域)が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよい。また、粘着剤層22が多層構造を有する場合、多層構造をなす全ての層が粘着力低減可能型粘着剤から形成されてもよいし、多層構造中の一部の層が粘着力低減可能型粘着剤から形成されてもよい。
【0055】
粘着剤層22のための放射線硬化性粘着剤としては、例えば、電子線、紫外線、α線、β線、γ線、またはX線の照射によって硬化するタイプの粘着剤が挙げられ、紫外線照射によって硬化するタイプの粘着剤(紫外線硬化性粘着剤)を特に好適に用いることができる。
【0056】
粘着剤層22のための放射線硬化性粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤たるアクリル系ポリマーなどのベースポリマーと、放射線重合性の炭素−炭素二重結合等の官能基を有する放射線重合性のモノマー成分やオリゴマー成分とを含有する、添加型の放射線硬化性粘着剤が挙げられる。
【0057】
上記のアクリル系ポリマーは、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多く含む。アクリル系ポリマーのモノマーユニットをなすための(メタ)アクリル酸エステル、即ち、アクリル系ポリマーの構成モノマーである(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、および(メタ)アクリル酸アリールエステルが挙げられ、より具体的には、フィルム10のレーザーマーク層11におけるアクリル樹脂に関して上記したのと同様の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。アクリル系ポリマーの構成モノマーとして、一種類の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよいし、二種類以上の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよい。アクリル系ポリマーの構成モノマーとしては、好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシルおよびアクリル酸ラウリルが挙げられる。また、(メタ)アクリル酸エステルに依る粘着性等の基本特性を粘着剤層22にて適切に発現させるうえでは、アクリル系ポリマーの構成モノマー全体における(メタ)アクリル酸エステルの割合は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
【0058】
アクリル系ポリマーは、例えばその凝集力や耐熱性の改質のために、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な一種類の又は二種類以上の他のモノマーに由来するモノマーユニットを含んでいてもよい。そのようなモノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、アクリルアミド、およびアクリロニトリルが挙げられ、より具体的には、フィルム10のレーザーマーク層11中のアクリル樹脂をなすための(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のモノマーとして上記したものが挙げられる。
【0059】
アクリル系ポリマーは、そのポリマー骨格中に架橋構造を形成するために、(メタ)アクリル酸エステルなどのモノマー成分と共重合可能な多官能性モノマーに由来するモノマーユニットを含んでいてもよい。そのような多官能性モノマーとして、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ポリグリシジル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、およびウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および/または「メタクリレート」を意味するものとする。アクリル系ポリマーの構成モノマーとして、一種類の多官能性モノマーが用いられてもよいし、二種類以上の多官能性モノマーが用いられてもよい。(メタ)アクリル酸エステルに依る粘着性等の基本特性を粘着剤層22にて適切に発現させるうえでは、アクリル系ポリマーの構成モノマー全体における多官能性モノマーの割合は、好ましくは40質量%以下、好ましくは30質量%以下である。
【0060】
アクリル系ポリマーは、それを形成するための原料モノマーを重合して得ることができる。重合手法としては、例えば、溶液重合、乳化重合、塊状重合、および懸濁重合が挙げられる。ダイシングテープ20ないしダイシングテープ一体型接着性シートXの使用される半導体装置製造方法における高度の清浄性の観点からは、ダイシングテープ20ないしダイシングテープ一体型接着性シートXにおける粘着剤層22中の低分子量物質は少ない方が好ましいところ、アクリル系ポリマーの数平均分子量は、好ましくは10万以上、より好ましくは20万〜300万である。
【0061】
粘着剤層22ないしそれをなすための粘着剤は、アクリル系ポリマーなどベースポリマーの数平均分子量を高めるために例えば、外部架橋剤を含有してもよい。アクリル系ポリマーなどベースポリマーと反応して架橋構造を形成するための外部架橋剤としては、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、ポリオール化合物、アジリジン化合物、およびメラミン系架橋剤が挙げられる。粘着剤層22ないしそれをなすための粘着剤における外部架橋剤の含有量は、ベースポリマー100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0062】
放射線硬化性粘着剤をなすための上記の放射線重合性モノマー成分としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、および1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。放射線硬化性粘着剤をなすための上記の放射線重合性オリゴマー成分としては、例えば、ウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系など種々のオリゴマーが挙げられ、分子量100〜30000程度のものが適当である。放射線硬化性粘着剤中の放射線重合性のモノマー成分やオリゴマー成分の総含有量は、形成される粘着剤層22の粘着力を適切に低下させ得る範囲で決定され、アクリル系ポリマーなどのベースポリマー100質量部に対して、好ましくは5〜500質量部であり、より好ましくは40〜150質量部である。また、添加型の放射線硬化性粘着剤としては、例えば特開昭60−196956号公報に開示のものを用いてもよい。
【0063】
粘着剤層22のための放射線硬化性粘着剤としては、例えば、放射線重合性の炭素−炭素二重結合等の官能基をポリマー側鎖や、ポリマー主鎖中、ポリマー主鎖末端に有するベースポリマーを含有する内在型の放射線硬化性粘着剤も挙げられる。このような内在型の放射線硬化性粘着剤は、形成される粘着剤層22内での低分子量成分の移動に起因する粘着特性の意図しない経時的変化を抑制するうえで好適である。
【0064】
内在型の放射線硬化性粘着剤に含有されるベースポリマーとしては、アクリル系ポリマーを基本骨格とするものが好ましい。そのような基本骨格をなすアクリル系ポリマーとしては、上述のアクリル系ポリマーを採用することができる。アクリル系ポリマーへの放射線重合性の炭素−炭素二重結合の導入手法としては、例えば、所定の官能基(第1の官能基)を有するモノマーを含む原料モノマーを共重合させてアクリル系ポリマーを得た後、第1の官能基との間で反応を生じて結合しうる所定の官能基(第2の官能基)と放射線重合性炭素−炭素二重結合とを有する化合物を、炭素−炭素二重結合の放射線重合性を維持したままアクリル系ポリマーに対して縮合反応または付加反応させる方法が、挙げられる。
【0065】
第1の官能基と第2の官能基の組み合わせとしては、例えば、カルボキシ基とエポキシ基、エポキシ基とカルボキシ基、カルボキシ基とアジリジル基、アジリジル基とカルボキシ基、ヒドロキシ基とイソシアネート基、イソシアネート基とヒドロキシ基が挙げられる。これら組み合わせのうち、反応追跡の容易さの観点からは、ヒドロキシ基とイソシアネート基の組み合わせや、イソシアネート基とヒドロキシ基の組み合わせが、好ましい。また、反応性の高いイソシアネート基を有するポリマーを作製するのは技術的難易度が高いので、アクリル系ポリマーの作製または入手のしやすさの観点からは、アクリル系ポリマー側の上記第1の官能基がヒドロキシ基であり且つ上記第2の官能基がイソシアネート基である場合が、より好ましい。この場合、放射線重合性炭素−炭素二重結合と第2の官能基たるイソシアネート基とを併有するイソシアネート化合物、即ち、放射線重合性の不飽和官能基含有イソシアネート化合物としては、例えば、メタクリロイルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)、およびm-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネートが挙げられる。
【0066】
粘着剤層22のための放射線硬化性粘着剤は、好ましくは光重合開始剤を含有する。光重合開始剤としては、例えば、α-ケトール系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ケタール系化合物、芳香族スルホニルクロリド系化合物、光活性オキシム系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、カンファーキノン、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド、およびアシルホスフォナートが挙げられる。α-ケトール系化合物としては、例えば、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、α-ヒドロキシ-α,α'-ジメチルアセトフェノン、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、および1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが挙げられる。アセトフェノン系化合物としては、例えば、メトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、および2-メチル-1-[4-(メチルチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-1が挙げられる。ベンゾインエーテル系化合物としては、例えば、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、およびアニソインメチルエーテルが挙げられる。ケタール系化合物としては、例えばベンジルジメチルケタールが挙げられる。芳香族スルホニルクロリド系化合物としては、例えば2-ナフタレンスルホニルクロリドが挙げられる。光活性オキシム系化合物としては、例えば、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシムが挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、および3,3'-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノンが挙げられる。チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、および2,4-ジイソプロピルチオキサントンが挙げられる。粘着剤層22における放射線硬化性粘着剤中の光重合開始剤の含有量は、アクリル系ポリマーなどのベースポリマー100質量部に対して例えば0.05〜20質量部である。
【0067】
粘着剤層22のための上記の加熱発泡型粘着剤は、加熱によって発泡や膨張をする成分(発泡剤、熱膨張性微小球など)を含有する粘着剤である。発泡剤としては、種々の無機系発泡剤および有機系発泡剤が挙げられる。熱膨張性微小球としては、例えば、加熱によって容易にガス化して膨張する物質が殻内に封入された構成の微小球が挙げられる。無機系発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、およびアジド類が挙げられる。有機系発泡剤としては、例えば、トリクロロモノフルオロメタンやジクロロモノフルオロメタンなどの塩フッ化アルカン、アゾビスイソブチロニトリルやアゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレートなどのアゾ系化合物、パラトルエンスルホニルヒドラジドやジフェニルスルホン-3,3'-ジスルホニルヒドラジド、4,4'-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、アリルビス(スルホニルヒドラジド)などのヒドラジン系化合物、ρ-トルイレンスルホニルセミカルバジドや4,4'-オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)などのセミカルバジド系化合物、5-モルホリル-1,2,3,4-チアトリアゾールなどのトリアゾール系化合物、並びに、N,N'-ジニトロソペンタメチレンテトラミンやN,N'-ジメチル-N,N'-ジニトロソテレフタルアミドなどのN-ニトロソ系化合物が、挙げられる。上記のような熱膨張性微小球をなすための、加熱によって容易にガス化して膨張する物質としては、例えば、イソブタン、プロパン、およびペンタンが挙げられる。加熱によって容易にガス化して膨張する物質をコアセルベーション法や界面重合法などによって殻形成物質内に封入することによって、熱膨張性微小球を作製することができる。殻形成物質としては、熱溶融性を示す物質や、封入物質の熱膨張の作用によって破裂し得る物質を用いることができる。そのような物質としては、例えば、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、およびポリスルホンが挙げられる。
【0068】
上述の粘着力非低減型粘着剤としては、例えば、粘着力低減可能型粘着剤に関して上述した放射線硬化性粘着剤を予め放射線照射によって硬化させた形態の粘着剤や、いわゆる感圧型粘着剤などが、挙げられる。放射線硬化性粘着剤は、その含有ポリマー成分の種類および含有量によっては、放射線硬化されて粘着力が低減された場合においても当該ポリマー成分に起因する粘着性を示し得て、所定の使用態様で被着体を粘着保持するのに利用可能な粘着力を発揮することが可能である。本実施形態の粘着剤層22においては、一種類の粘着力非低減型粘着剤が用いられてもよいし、二種類以上の粘着力非低減型粘着剤が用いられてもよい。また、粘着剤層22の全体が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよいし、粘着剤層22の一部が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよい。例えば、粘着剤層22が単層構造を有する場合、粘着剤層22の全体が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよいし、上述のように、粘着剤層22における所定の部位(例えば、リングフレームの貼着対象領域であって、ウエハの貼着対象領域の外側にある領域)が粘着力非低減型粘着剤から形成され、他の部位(例えば、ウエハの貼着対象領域である中央領域)が粘着力低減可能型粘着剤から形成されてもよい。また、粘着剤層22が多層構造を有する場合、多層構造をなす全ての層が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよいし、多層構造中の一部の層が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよい。
【0069】
一方、粘着剤層22のための感圧型粘着剤としては、例えば、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤やゴム系粘着剤を用いることができる。粘着剤層22が感圧型粘着剤としてアクリル系粘着剤を含有する場合、当該アクリル系粘着剤のベースポリマーたるアクリル系ポリマーは、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多く含む。そのようなアクリル系ポリマーとしては、例えば、放射線硬化性粘着剤に関して上述したアクリル系ポリマーが挙げられる。
【0070】
粘着剤層22ないしそれをなすための粘着剤は、上述の各成分に加えて、架橋促進剤、粘着付与剤、老化防止剤、顔料や染料などの着色剤などを、含有してもよい。着色剤は、放射線照射を受けて着色する化合物であってもよい。そのような化合物としては、例えばロイコ染料が挙げられる。
【0071】
粘着剤層22の厚さは、好ましくは2〜20μm、より好ましくは3〜17μm、より好ましくは5〜15μmである。このような構成は、例えば、粘着剤層22が放射線硬化性粘着剤を含む場合に当該粘着剤層22の放射線硬化の前後におけるフィルム10に対する接着力のバランスをとるうえで、好適である。
【0072】
以上のような構成を有するダイシングテープ一体型接着性シートXは、例えば以下のようにして製造することができる。
【0073】
ダイシングテープ一体型接着性シートXにおけるフィルム10の作製においては、まず、レーザーマーク層11をなすこととなる樹脂フィルム(第1樹脂フィルム)と、ウエハマウント層12をなすこととなる樹脂フィルム(第2樹脂フィルム)とを個別に作製する。第1樹脂フィルムは、レーザーマーク層形成用の樹脂組成物を所定のセパレータ上に塗布して樹脂組成物層を形成した後、当該組成物層を加熱によって乾燥および硬化させることによって、作製することができる。セパレータとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、並びに、フッ素系剥離剤や長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙類などが、挙げられる。樹脂組成物の塗布手法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、およびグラビア塗工が挙げられる。第1樹脂フィルムの作製において、加熱温度は例えば90〜160℃であり、加熱時間は例えば2〜4分間である。一方、第2樹脂フィルムは、ウエハマウント層形成用の樹脂組成物を所定のセパレータ上に塗布して樹脂組成物層を形成した後、当該組成物層を加熱によって乾燥させることによって、作製することができる。第2樹脂フィルムの作製において、加熱温度は例えば90〜150℃であり、加熱時間は例えば1〜2分間である。以上のようにして、それぞれがセパレータを伴う形態で上述の第1および第2樹脂フィルムを作製することができる。そして、これら第1および第2樹脂フィルムの露出面どうしを貼り合わせる。これによって、レーザーマーク層11とウエハマウント層12との積層構造を有する上述のフィルム10が作製される。
【0074】
ダイシングテープ一体型接着性シートXのダイシングテープ20については、用意した基材21上に粘着剤層22を設けることによって作製することができる。例えば樹脂製の基材21は、カレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、共押出し法、ドライラミネート法などの製膜手法によって、作製することができる。製膜後のフィルムないし基材21には、必要に応じて所定の表面処理が施される。粘着剤層22の形成においては、例えば、粘着剤層形成用の粘着剤組成物を調製した後、まず、当該組成物を基材21上または所定のセパレータ上に塗布して粘着剤組成物層を形成する。粘着剤組成物の塗布手法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、およびグラビア塗工が挙げられる。次に、この粘着剤組成物層において、加熱によって、必要に応じて乾燥させ、また、必要に応じて架橋反応を生じさせる。加熱温度は例えば80〜150℃であり、加熱時間は例えば0.5〜5分間である。粘着剤層22がセパレータ上に形成される場合には、当該セパレータを伴う粘着剤層22を基材21に貼り合わせ、その後、セパレータが剥離される。これにより、基材21と粘着剤層22との積層構造を有する上述のダイシングテープ20が作製される。
【0075】
ダイシングテープ一体型接着性シートXの作製においては、次に、ダイシングテープ20の粘着剤層22側にフィルム10のレーザーマーク層11側を貼り合わせる。貼合わせ温度は例えば30〜50℃であり、貼合わせ圧力(線圧)は例えば0.1〜20kgf/cmである。粘着剤層22が上述のような放射線硬化性粘着剤を含む場合、当該貼り合わせの前に粘着剤層22に対して紫外線等の放射線を照射してもよいし、当該貼り合わせの後に基材21の側から粘着剤層22に対して紫外線等の放射線を照射してもよい。或いは、ダイシングテープ一体型接着性シートXの製造過程では、そのような放射線照射を行わなくてもよい(この場合、ダイシングテープ一体型接着性シートXの使用過程で粘着剤層22を放射線硬化させることが可能である)。粘着剤層22が紫外線硬化型である場合、粘着剤層22を硬化させるための紫外線照射量は、例えば50〜500mJ/cm2である。ダイシングテープ一体型接着性シートXにおいて粘着剤層22の粘着力低減措置としての照射が行われる領域(照射領域R)は、例えば図1に示すように、粘着剤層22におけるダイボンドフィルム貼合せ領域内のその周縁部を除く領域である。
【0076】
以上のようにして、ダイシングテープ一体型接着性シートXを作製することができる。ダイシングテープ一体型接着性シートXには、フィルム10側に、少なくともフィルム10を被覆する形態でセパレータ(図示略)が設けられていてもよい。ダイシングテープ20の粘着剤層22よりもフィルム10が小サイズで粘着剤層22においてフィルム10の貼り合わされていない領域がある場合には例えば、セパレータは、フィルム10および粘着剤層22を少なくとも被覆する形態で設けられていてもよい。セパレータは、フィルム10や粘着剤層22が露出しないように保護するための要素であり、ダイシングテープ一体型接着性シートXを使用する際には当該フィルムから剥がされる。
【0077】
図2から図7は、上述のダイシングテープ一体型接着性シートXが使用される半導体装置製造方法の一例を表す。
【0078】
本半導体装置製造方法においては、まず、図2(a)および図2(b)に示すように、半導体ウエハWに改質領域30aが形成される。半導体ウエハWは、第1面Waおよび第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。本工程では、粘着面T1aを有するウエハ加工用テープT1が半導体ウエハWの第1面Wa側に貼り合わされた後、ウエハ加工用テープT1に半導体ウエハWが保持された状態で、ウエハ内部に集光点の合わせられたレーザー光がウエハ加工用テープT1とは反対の側から半導体ウエハWに対してその分割予定ラインに沿って照射され、多光子吸収によるアブレーションに因って半導体ウエハW内に改質領域30aが形成される。改質領域30aは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための脆弱化領域である。半導体ウエハにおいてレーザー光照射によって分割予定ライン上に改質領域30aを形成する方法については、例えば特開2002−192370号公報に詳述されているところ、本実施形態におけるレーザー光照射条件は、例えば以下の条件の範囲内で適宜に調整される。
【0079】
〔レーザー光照射条件〕
(A)レーザー光
レーザー光源 半導体レーザー励起Nd:YAGレーザー
波長 1064nm
レーザー光スポット断面積 3.14×10-8cm2
発振形態 Qスイッチパルス
繰り返し周波数 100kHz以下
パルス幅 1μs以下
出力 1mJ以下
レーザー光品質 TEM00
偏光特性 直線偏光
(B)集光用レンズ
倍率 100倍以下
NA 0.55
レーザー光波長に対する透過率 100%以下
(C)半導体基板が載置される裁置台の移動速度 280mm/秒以下
【0080】
次に、ウエハ加工用テープT1に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化され、これにより、図2(c)に示すように、複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Aが形成される(ウエハ薄化工程)。半導体ウエハ30Aにおいて、改質領域30aは第2面Wb側に露出している。
【0081】
次に、図3(a)に示すように、ウエハ加工用テープT1に保持された半導体ウエハ30Aが、ダイシングテープ一体型接着性シートXのフィルム10ないしそのウエハマウント層12に対して貼り合わせられる。この後、図3(b)に示すように、半導体ウエハ30Aからウエハ加工用テープT1が剥がされる。
【0082】
例えばこの後、ダイシングテープ一体型接着性シートXにおけるフィルム10のレーザーマーク層11に対し、ダイシングテープ20の基材21の側からレーザーを照射してレーザーマーキングを行う(レーザーマーキング工程)。このレーザーマーキングによって、後に半導体チップへと個片化される半導体素子ごとに、文字情報や図形情報などの各種情報が付与される。本工程では、一のレーザーマーキングプロセスにおいて、半導体ウエハ30A内の多数の半導体素子に対して一括的に効率よくレーザーマーキングを行うことが可能である。本工程で用いられるレーザーとしては、例えば、気体レーザーおよび固体レーザーが挙げられる。気体レーザーとしては、例えば、炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)およびエキシマレーザーが挙げられる。固体レーザーとしては、例えばNd:YAGレーザーが挙げられる。
【0083】
ダイシングテープ一体型接着性シートXにおける粘着剤層22が放射線硬化性粘着剤層である場合には、ダイシングテープ一体型接着性シートXの製造過程での上述の放射線照射に代えて、半導体ウエハ30Aのフィルム10への貼り合わせの後に、基材21の側から粘着剤層22に対して紫外線等の放射線を照射してもよい。照射量は、例えば50〜500mJ/cm2である。ダイシングテープ一体型接着性シートXにおいて粘着剤層22の粘着力低減措置としての照射が行われる領域(図1に示す照射領域R)は、例えば、粘着剤層22におけるフィルム10貼合わせ領域内のその周縁部を除く領域である。
【0084】
次に、ダイシングテープ一体型接着性シートXにおける粘着剤層22上にリングフレーム41が貼り付けられた後、図4(a)に示すように、半導体ウエハ30Aを伴う当該ダイシングテープ一体型接着性シートXがエキスパンド装置の保持具42に固定される。
【0085】
次に、相対的に低温の条件下での第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)が、図4(b)に示すように行われ、半導体ウエハ30Aが複数の半導体チップ31へと個片化されるとともに、ダイシングテープ一体型接着性シートXのフィルム10が小片のフィルム10'に割断されて、フィルム付き半導体チップ31が得られる。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が、ダイシングテープ一体型接着性シートXの図中下側においてダイシングテープ20に当接して上昇され、半導体ウエハ30Aの貼り合わされたダイシングテープ一体型接着性シートXのダイシングテープ20が、半導体ウエハ30Aの径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。このエキスパンドは、ダイシングテープ20において、例えば1〜100MPaの引張応力が生ずる条件で行われる。本工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは−20〜−5℃、より好ましくは−15〜−5℃、より好ましくは−15℃である。本工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43が上昇する速度)は、例えば1〜500mm/秒である。また、本工程におけるエキスパンド量(突き上げ部材43が上昇する距離)は、例えば50〜200mmである。このようなクールエキスパンド工程により、ダイシングテープ一体型接着性シートXのフィルム10が小片のフィルム10'に割断されてフィルム付き半導体チップ31が得られる。具体的に、本工程では、半導体ウエハ30Aにおいて脆弱な改質領域30aにクラックが形成されて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、本工程では、エキスパンドされるダイシングテープ20の粘着剤層22に密着しているフィルム10において、半導体ウエハ30Aの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、ウエハのクラック形成箇所に対向する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ20に生ずる引張応力が作用する。その結果、フィルム10において半導体チップ31間のクラック形成箇所に対向する箇所が割断されることとなる。本工程の後、図4(c)に示すように、突き上げ部材43が下降されて、ダイシングテープ20におけるエキスパンド状態が解除される。
【0086】
次に、相対的に高温の条件下での第2エキスパンド工程が、図5(a)に示すように行われ、フィルム付き半導体チップ31間の距離(離間距離)が広げられる。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が再び上昇され、ダイシングテープ一体型接着性シートXのダイシングテープ20がエキスパンドされる。第2エキスパンド工程における温度条件は、例えば10℃以上であり、好ましくは15〜30℃である。第2エキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43が上昇する速度)は、例えば0.1〜10mm/秒である。また、第2エキスパンド工程におけるエキスパンド量は例えば3〜16mmである。後記のピックアップ工程にてダイシングテープ20からフィルム付き半導体チップ31を適切にピックアップ可能な程度に、本工程ではフィルム付き半導体チップ31の離間距離が広げられる。本工程の後、図5(b)に示すように、突き上げ部材43が下降されて、ダイシングテープ20におけるエキスパンド状態が解除される。エキスパンド状態解除後にダイシングテープ20上のフィルム付き半導体チップ31の離間距離が狭まることを抑制するうえでは、エキスパンド状態を解除するより前に、ダイシングテープ20における半導体チップ31保持領域より外側の部分を加熱して収縮させるのが好ましい。
【0087】
次に、フィルム付き半導体チップ31を伴うダイシングテープ20における半導体チップ31側を水などの洗浄液を使用して洗浄するクリーニング工程を必要に応じて経た後、図6に示すように、フィルム付き半導体チップ31をダイシングテープ20からピックアップする(ピックアップ工程)。例えば、ピックアップ対象のフィルム付き半導体チップ31について、ダイシングテープ20の図中下側においてピックアップ機構のピン部材44を上昇させてダイシングテープ20を介して突き上げた後、吸着治具45によって吸着保持する。ピックアップ工程において、ピン部材44の突き上げ速度は例えば1〜100mm/秒であり、ピン部材44の突き上げ量は例えば50〜3000μmである。
【0088】
次に、図7に示すように、フィルム付き半導体チップ31が実装基板51に対してフリップチップ実装される。実装基板51としては、例えば、リードフレーム、TAB(Tape Automated Bonding)フィルム、および配線基板が挙げられる。半導体チップ31は、実装基板51に対してバンプ52を介して電気的に接続されている。具体的には、半導体チップ31がその回路形成面側に有する電極パッド(図示略)と実装基板51の有する端子部(図示略)とが、バンプ52を介して電気的に接続されている。バンプ52は、例えばハンダバンプである。半導体チップ31と実装基板51との間には、熱硬化したアンダーフィル剤53が介在している。例えば、実装基板51がその上にフィルム付き半導体チップ31を伴う状態でいわゆるリフロー工程を経ることにより、実装基板51に対する当該半導体チップ31のフリップ実装が実現される。
【0089】
以上のようにして、半導体チップ31の裏面に保護膜であるフィルム10'が設けられている半導体装置を製造することができる。
【0090】
本半導体装置製造方法おいては、半導体ウエハ30Aがダイシングテープ一体型接着性シートXに貼り合わされるという上述の構成に代えて、次のようにして作製される半導体ウエハ30Bがダイシングテープ一体型接着性シートXに貼り合わされてもよい。
【0091】
半導体ウエハ30Bの作製においては、まず、図8(a)および図8(b)に示すように、半導体ウエハWに分割溝30bが形成される(分割溝形成工程)。半導体ウエハWは、第1面Waおよび第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。本工程では、粘着面T2aを有するウエハ加工用テープT2が半導体ウエハWの第2面Wb側に貼り合わされた後、ウエハ加工用テープT2に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWの第1面Wa側に所定深さの分割溝30bがダイシング装置等の回転ブレードを使用して形成される。分割溝30bは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための空隙である(図8および図9では、分割溝30bを模式的に太線で表す)。
【0092】
次に、図8(c)に示すように、粘着面T3aを有するウエハ加工用テープT3の、半導体ウエハWの第1面Wa側への貼り合わせと、半導体ウエハWからのウエハ加工用テープT2の剥離とが、行われる。
【0093】
次に、図8(d)に示すように、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化される(ウエハ薄化工程)。研削加工は、研削砥石を備える研削加工装置を使用して行うことができる。このウエハ薄化工程によって、本実施形態では、複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Bが形成される。半導体ウエハ30Bは、具体的には、当該ウエハにおいて複数の半導体チップ31へと個片化されることとなる部位を第2面Wb側にて連結する部位(連結部)を有する。半導体ウエハ30Bにおける連結部の厚さ、即ち、半導体ウエハ30Bの第2面Wbと分割溝30bの第2面Wb側先端との間の距離は、例えば1〜30μmである。
【0094】
図9(a)および図9(b)は、半導体ウエハ30Bがダイシングテープ一体型接着性シートXに貼り合わされた後に行われる第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を具体的に表す。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が、ダイシングテープ一体型接着性シートXの図中下側においてダイシングテープ20に当接して上昇され、半導体ウエハ30Bの貼り合わされたダイシングテープ一体型接着性シートXのダイシングテープ20が、半導体ウエハ30Bの径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。このエキスパンドは、ダイシングテープ20において例えば15〜32MPaの引張応力が生ずる条件で行われる。クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは−20〜−5℃、より好ましくは−15〜−5℃、より好ましくは−15℃である。クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43が上昇する速度)は、例えば0.1〜100mm/秒である。また、クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量は、例えば3〜16mmである。
【0095】
本工程では、半導体ウエハ30Bにおいて薄肉で割れやすい部位に割断が生じて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、本工程では、エキスパンドされるダイシングテープ20の粘着剤層22に密着しているフィルム10において各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝に対向する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ20に生ずる引張応力が作用する。その結果、フィルム10において半導体チップ31間の分割溝に対向する箇所が割断されることとなる。こうして得られるフィルム付き半導体チップ31は、図6を参照して上述したピックアップ工程を経た後、半導体装置製造過程における実装工程に供されることとなる。
【0096】
本半導体装置製造方法おいては、図8(d)を参照して上述したウエハ薄化工程に代えて、図10に示すウエハ薄化工程を行ってもよい。図8(c)を参照して上述した過程を経た後、図10に示すウエハ薄化工程では、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、当該ウエハが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化されて、複数の半導体チップ31を含んでウエハ加工用テープT3に保持された半導体ウエハ分割体30Cが形成される。本工程では、分割溝30bそれ自体が第2面Wb側に露出するまでウエハを研削する手法(第1の手法)を採用してもよいし、第2面Wb側から分割溝30bに至るより前までウエハを研削し、その後、回転砥石からウエハへの押圧力の作用により分割溝30bと第2面Wbとの間にクラックを生じさせて半導体ウエハ分割体30Cを形成する手法(第2の手法)を採用してもよい。採用される手法に応じて、図8(a)および図8(b)を参照して上述したように形成される分割溝30bの、第1面Waからの深さは、適宜に決定される。図10では、第1の手法を経た分割溝30b、または、第2の手法を経た分割溝30bおよびこれに連なるクラックについて、模式的に太線で表す。このようにして作製される半導体ウエハ分割体30Cが半導体ウエハ30Aの代わりにダイシングテープ一体型接着性シートXに貼り合わされたうえで、図3から図6を参照して上述した各工程が行われてもよい。
【0097】
図11(a)および図11(b)は、半導体ウエハ分割体30Cがダイシングテープ一体型接着性シートXに貼り合わされた後に行われる第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を具体的に表す。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が、ダイシングテープ一体型接着性シートXの図中下側においてダイシングテープ20に当接して上昇され、半導体ウエハ分割体30Cの貼り合わされたダイシングテープ一体型接着性シートXのダイシングテープ20が、半導体ウエハ分割体30Cの径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。このエキスパンドは、ダイシングテープ20において、例えば1〜100MPaの引張応力が生ずる条件で行われる。本工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは−20〜−5℃、より好ましくは−15〜−5℃、より好ましくは−15℃である。本工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43が上昇する速度)は、例えば1〜500mm/秒である。また、本工程におけるエキスパンド量は、例えば50〜200mmである。このようなクールエキスパンド工程により、ダイシングテープ一体型接着性シートXのフィルム10が小片のフィルム10'に割断されてフィルム付き半導体チップ31が得られる。具体的に、本工程では、エキスパンドされるダイシングテープ20の粘着剤層22に密着しているフィルム10において、半導体ウエハ分割体30Cの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝30bに対向する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ20に生ずる引張応力が作用する。その結果、フィルム10において半導体チップ31間の分割溝30bに対向する箇所が割断されることとなる。こうして得られるフィルム付き半導体チップ31は、図6を参照して上述したピックアップ工程を経た後、半導体装置製造過程における実装工程に供されることとなる。
【0098】
例えば以上のような半導体装置製造過程において使用されうるダイシングテープ一体型接着性シートXにおけるフィルム10(裏面保護フィルムとしての接着性のシート)は、上述のように、幅2mmのフィルム試験片(接着性シート試験片)について初期チャック間距離16mm、−15℃、および荷重増加速度1.2N/分の条件で行われる引張試験での破断強度が1.2N以下であり、好ましくは1.1N以下、より好ましくは1N以下である。このような構成は、例えば上述のような半導体装置の製造過程でフィルム付き半導体チップ31を得るうえでダイシングテープ一体型接着性シートXを使用して割断用エキスパンド工程(上記の第1エキスパンド工程)を実施する場合において、ダイシングテープ20上のフィルム10を割断させるために当該フィルム10に作用させるべき割断力を抑制するうえで好適である。
【0099】
ダイシングテープ一体型接着性シートXにおけるフィルム10(裏面保護フィルムとしての接着性のシート)は、上述のように、幅2mmのフィルム試験片(接着性シート試験片)について初期チャック間距離16mm、−15℃、および荷重増加速度1.2N/分の条件で行われる引張試験での破断伸度が1.2%以下であり、好ましくは1.1%以下、より好ましくは1%以下である。このような構成は、例えば上述のような半導体装置の製造過程でフィルム付き半導体チップ31を得るうえでダイシングテープ一体型接着性シートXを使用して割断用エキスパンド工程(上記の第1エキスパンド工程)を実施する場合において、ダイシングテープ20上のフィルム10を割断させるのに要する引張り長さを抑制するうえで好適である。
【0100】
以上のように、ダイシングテープ一体型接着性シートXは、ダイシングテープ20上のフィルム10を割断させるために当該フィルム10に作用させるべき割断力を抑制するのに好適であるとともに、当該割断のためのフィルム10引張り長さを抑制するのに好適である。このようなダイシングテープ一体型接着性シートXは、割断用エキスパンド工程に使用される場合において、フィルム10の良好な割断を実現するのに適するのである。
【0101】
ダイシングテープ一体型接着性シートXにおけるフィルム10は、上述のように、ダイシングテープ20の粘着剤層22に剥離可能に密着しているレーザーマーク層11(第1層)とその上のウエハマウント層12(第2層)とを含む積層構造を有する。このような構成は、フィルム10においてダイシングテープ粘着剤層側表面に求められる特性と、当該表面とは反対のワーク貼着用表面に求められる特性とを、個別に発現させるのに適する。また、ウエハマウント層12の厚さに対するレーザーマーク層11の厚さの比の値は、上述のように、好ましくは0.2〜1.5、より好ましくは0.3〜1.3、より好ましくは0.6〜1.1である。このような構成は、フィルム10におけるレーザーマーク層11(第1層)およびウエハマウント層12(第2層)に求められる機能を両立させるうえで好ましい。
【0102】
本実施形態のダイシングテープ一体型接着性シートXは、ダイシングテープ一体型裏面保護フィルムであり、上述のように、レーザーマーク層11が熱硬化性を有し且つウエハマウント層12が熱可塑性を示す。レーザーマーク層11が熱硬化性を有するという構成は、フィルム10のレーザーマーク層11表面がレーザーマーキングによる刻印の施された後にいわゆるリフロー工程等の高温過程を経る場合において、刻印情報の視認性を確保するのに適する。また、レーザーマーク層11が熱硬化性を有する一方でウエハマウント層12が熱可塑性を示すという構成は、割断用エキスパンド工程にてフィルム10の良好な割断を実現するのに適する。すなわち、フィルム10においてレーザーマーク層11が熱硬化性を有し且つウエハマウント層12が熱可塑性を示すという上記構成は、フィルム10において刻印情報の視認性の確保と良好な割断性の実現とを両立するうえで好適なのである。
【0103】
ダイシングテープ一体型接着性シートXにおいて、フィルム10の厚さは、上述のように、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上であり、且つ、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。このような構成は、フィルム10における上述の良好な割断性を実現するうえで好ましい。
【実施例】
【0104】
〔実施例1〕
〈裏面保護フィルムの作製〉
ダイシングテープ一体型接着性シートにおける裏面保護フィルムの作製においては、まず、レーザーマーク層(LM層)をなすこととなる第1樹脂フィルムと、ウエハマウント層(WM層)をなすこととなる第2樹脂フィルムとを個別に作製した。
【0105】
第1樹脂フィルムの作製においては、まず、アクリル樹脂A1(商品名「テイサンレジン SG-P3」,重量平均分子量は85万,ガラス転移温度Tgは12℃,ナガセケムテックス株式会社製)100質量部と、エポキシ樹脂B1(商品名「KI-3000-4」,東都化成株式会社製)51.5質量部と、エポキシ樹脂B2(商品名「JER YL980」,三菱化学株式会社製)22質量部と、フェノール樹脂C1(商品名「MEH7851-SS」,明和化成株式会社製)76.5質量部と、フィラー(商品名「SO-25R」,シリカ,平均粒径は0.5μm,株式会社アドマテックス製)187.5質量部と、黒系染料(商品名「OIL BLACK BS」,オリエント化学工業株式会社製)15質量部と、熱硬化触媒(商品名「キュアゾール 2PZ」,四国化成工業株式会社製)22質量部とを、メチルエチルケトンに加えて混合し、固形分濃度36質量%の樹脂組成物を得た。次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して当該樹脂組成物を塗布して樹脂組成物層を形成した。次に、この組成物層について130℃で2分間の加熱を行って乾燥および熱硬化させ、PETセパレータ上に厚さ8μmの第1樹脂フィルム(レーザーマーク層をなすこととなるフィルム)を作製した。
【0106】
第2樹脂フィルムの作製においては、まず、アクリル樹脂A1(商品名「テイサンレジン SG-P3」,ナガセケムテックス株式会社製)100質量部と、エポキシ樹脂B3(商品名「EPPN-501HY」,日本化薬株式会社製)65.5質量部と、フェノール樹脂C2(商品名「MEH7851-H」,明和化成株式会社製)84.5質量部と、フィラー(商品名「SO-25R」,シリカ,平均粒径は0.5μm,株式会社アドマテックス製)177質量部と、黒系染料(商品名「OIL BLACK BS」,オリエント化学工業株式会社製)15質量部とを、メチルエチルケトンに加えて混合し、固形分濃度36質量%の樹脂組成物を得た。次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して当該樹脂組成物を塗布して樹脂組成物層を形成した。次に、この組成物層について130℃で2分間の加熱を行って乾燥させ、PETセパレータ上に厚さ7μmの未硬化状態の第2樹脂フィルム(ウエハマウント層をなすこととなるフィルム)を作製した。
【0107】
上述のようにして作製したPETセパレータ上の第1樹脂フィルムとPETセパレータ上の第2樹脂フィルムとをラミネーターを使用して貼り合わせた。具体的には、温度100℃および圧力0.85MPaの条件で、第1および第2樹脂フィルムの露出面どうしを貼り合わせた。以上のようにして、実施例1の裏面保護フィルムを作製した。実施例1ならびに後記の各実施例および各比較例におけるレーザーマーク層(LM層)とウエハマウント層(WM層)の組成を表1,2に掲げる(表1,2において、各層の組成を表す各数値の単位は、当該層内での相対的な“質量部”である)。
【0108】
〈ダイシングテープの作製〉
冷却管と、窒素導入管と、温度計と、撹拌装置とを備える反応容器内で、アクリル酸2-エチルヘキシル100質量部と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル19質量部と、重合開始剤たる過酸化ベンゾイル0.4質量部と、重合溶媒たるトルエン80質量部とを含む混合物を、60℃で10時間、窒素雰囲気下で撹拌した(重合反応)。これにより、アクリル系ポリマーP1を含有するポリマー溶液を得た。次に、このアクリル系ポリマーP1を含有するポリマー溶液と、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)と、付加反応触媒としてのジブチル錫ジラウリレートとを含む混合物を、50℃で60時間、空気雰囲気下で撹拌した(付加反応)。当該反応溶液において、MOIの配合量は、上記アクリル系ポリマーP1100質量部に対して12質量部であり、ジブチル錫ジラウリレートの配合量は、アクリル系ポリマーP1100質量部に対して0.1質量部である。この付加反応により、側鎖にメタクリレート基を有するアクリル系ポリマーP2を含有するポリマー溶液を得た。次に、当該ポリマー溶液に、アクリル系ポリマーP2100質量部に対して2質量部のポリイソシアネート化合物(商品名「コロネートL」,東ソー株式会社製)と、2質量部の光重合開始剤(商品名「イルガキュア369」,BASF社製)と、トルエンとを加えて混合し、固形分濃度28質量%の粘着剤組成物を得た。次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して粘着剤組成物を塗布して粘着剤組成物層を形成した。次に、この組成物層について120℃で2分間の加熱乾燥を行い、PETセパレータ上に厚さ5μmの粘着剤層を形成した。次に、ラミネーターを使用して、この粘着剤層の露出面にエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)製の基材(商品名「NRW #125」,厚さ125μm,グンゼ株式会社製)を室温で貼り合わせた。そして、この貼合せ体について、23℃で72時間の保存を行った。以上のようにしてダイシングテープを作製した。
【0109】
〈ダイシングテープ一体型裏面保護フィルムの作製〉
PETセパレータを伴う実施例1の上述の裏面保護フィルムを直径330mmの円形に打ち抜き加工した。PETセパレータを伴う上述のダイシングテープを直径370mmの円形に打ち抜き加工した。そして、当該裏面保護フィルムからレーザーマーク層側のPETセパレータを剥離し、当該ダイシングテープからPETセパレータを剥離した後、裏面保護フィルムにおいて露出したレーザーマーク層側と、ダイシングテープにおいて露出した粘着剤層側とを、ラミネーターを使用して貼り合わせた。この貼り合わせにおいて、貼合わせ速度を10mm/分とし、温度条件を40℃とし、圧力条件を0.15MPaとした。また、貼り合わせは、ダイシングテープの中心とダイボンドフィルムの中心とが一致するように位置合わせしつつ行った。以上のようにして、ダイシングテープとダイボンドフィルムとを含む積層構造を有する実施例1のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを作製した。
【0110】
〔実施例2〕
第2樹脂フィルム(ウエハマウント層をなすこととなる樹脂フィルム)の作製において、アクリル樹脂A1100質量部に代えてアクリル樹脂A2(商品名「テイサンレジン SG-N50」,重量平均分子量は45万,ガラス転移温度Tgは0℃,ナガセケムテックス株式会社製)100質量部を用いたこと、および、フィラー(商品名「SO-25R」,株式会社アドマテックス製)の含有量を177質量部に代えて217質量部としたこと以外は、実施例1のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムと同様にして、実施例2のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを作製した。
【0111】
〔実施例3〕
第2樹脂フィルム(ウエハマウント層をなすこととなる樹脂フィルム)の作製において、アクリル樹脂A1100質量部に代えてアクリル樹脂A2(商品名「テイサンレジン SG-N50」,ナガセケムテックス株式会社製)100質量部を用いたこと、および、フィラー(商品名「SO-25R」,株式会社アドマテックス製)の含有量を177質量部に代えて265質量部としたこと以外は、実施例1のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムと同様にして、実施例3のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを作製した。
【0112】
〔実施例4〕
第2樹脂フィルム(ウエハマウント層をなすこととなる樹脂フィルム)の作製において、アクリル樹脂A1100質量部に代えてアクリル樹脂A3(商品名「テイサンレジン SG-708-6」,重量平均分子量は70万,ガラス転移温度Tgは4℃,ナガセケムテックス株式会社製)100質量部を用いたこと、および、フィラー(商品名「SO-25R」,株式会社アドマテックス製)の含有量を177質量部に代えて265質量部としたこと以外は、実施例1のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムと同様にして、実施例4のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを作製した。
【0113】
〔実施例5〕
第2樹脂フィルム(ウエハマウント層をなすこととなる樹脂フィルム)の作製において、アクリル樹脂A1100質量部に代えてアクリル樹脂A4(商品名「テイサンレジン SG-70L」,ナガセケムテックス株式会社製)100質量部を用いたこと以外は、実施例1のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムと同様にして、実施例5のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを作製した。
【0114】
〔実施例6〕
裏面保護フィルムの作製においてレーザーマーク層の厚さを8μmから20μmとし且つウエハマウント層の厚さを7μmから5μmとしたこと以外は実施例1のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムと同様にして、実施例6のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを作製した。
【0115】
〔実施例7〕
裏面保護フィルムの作製においてレーザーマーク層の厚さを8μmから5μmとし且つウエハマウント層の厚さを5μmから5μmとしたこと以外は実施例1のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムと同様にして、実施例7のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを作製した。
【0116】
〔実施例8〕
裏面保護フィルムの作製においてレーザーマーク層の厚さを8μmから10μmとし且つウエハマウント層の厚さを7μmから15μmとしたこと以外は実施例1のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムと同様にして、実施例8のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを作製した。
【0117】
〔比較例1〕
アクリル樹脂A1(商品名「テイサンレジン SG-P3」,ナガセケムテックス株式会社製)100質量部と、エポキシ樹脂B3(商品名「EPPN-501HY」,日本化薬株式会社製)70質量部と、フェノール樹脂C1(商品名「MEH7851-SS」,明和化成株式会社製)80質量部と、フィラー(商品名「SO-25R」,株式会社アドマテックス製)175質量部と、黒系染料(商品名「OIL BLACK BS」,オリエント化学工業株式会社製)15質量部とを、メチルエチルケトンに加えて混合し、固形分濃度30質量%の樹脂組成物を得た。次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して当該樹脂組成物を塗布して樹脂組成物層を形成した。次に、この組成物層について130℃で2分間の加熱を行って乾燥させ、PETセパレータ上に厚さ25μmの裏面保護フィルムを作製した。そして、比較例1の当該裏面保護フィルムを実施例1における上述の裏面保護フィルムの代わりに用いたこと以外は実施例1のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムと同様にして、比較例1のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを作製した。
【0118】
〔比較例2〕
アクリル樹脂A1(商品名「テイサンレジン SG-P3」,ナガセケムテックス株式会社製)100質量部と、エポキシ樹脂B1(商品名「KI-3000-4」,東都化成株式会社製)50質量部と、エポキシ樹脂B2(商品名「JER YL980」,三菱化学株式会社製)20質量部と、フェノール樹脂C1(商品名「MEH7851-SS」,明和化成株式会社製)75質量部と、フィラー(商品名「SO-25R」,株式会社アドマテックス製)175質量部と、黒系染料(商品名「OIL BLACK BS」,オリエント化学工業株式会社製)15質量部とを、メチルエチルケトンに加えて混合し、固形分濃度30質量%の樹脂組成物を得た。次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して当該樹脂組成物を塗布して樹脂組成物層を形成した。次に、この組成物層について130℃で2分間の加熱を行って乾燥させ、PETセパレータ上に厚さ25μmの裏面保護フィルムを作製した。そして、比較例2の当該裏面保護フィルムを実施例1における上述の裏面保護フィルムの代わりに用いたこと以外は実施例1のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムと同様にして、比較例2のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを作製した。
【0119】
〔比較例3〕
裏面保護フィルムの作製においてウエハマウント層の厚さを7μmから17μmとしたこと以外は実施例1のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムと同様にして、比較例3のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを作製した。
【0120】
〈裏面保護フィルムの破断強度および〉
実施例1〜8および比較例1〜3の上述の裏面保護フィルムから切り出された各フィルム試験片(幅2mm×長さ20mm)について、TMA試験機(商品名「TMA Q400」,TAインスツルメント社製)を使用して行う引張試験での破断強度(N)および破断伸度(%)を測定した。本引張試験は、測定に付されるフィルム試験片について−15℃で5分間の保持を経た後、当該試験機の作動モードを引張モードとし、初期チャック間距離16mm、−15℃、および荷重増加速度1.2N/分の条件で行った。使用したTMA試験機における荷重上限1.2Nにて破断しなかった場合、破断強度を「1.2超」と評価し、破断伸度については、荷重1.2Nでの伸度(%)を超えるものと評価した。これら結果を表1,2に掲げる。
【0121】
〈裏面保護フィルムの割断性〉
実施例1〜8および比較例1〜3の上述の各ダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを使用して、以下のような貼合わせ工程、割断のための第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)、および、離間のための第2エキスパンド工程(常温エキスパンド工程)を行った。
【0122】
貼合わせ工程では、ウエハ加工用テープ(商品名「UB-3083D」,日東電工株式会社製)に保持された半導体ウエハ分割体をダイシングテープ一体型裏面保護フィルムの裏面保護フィルムに対して貼り合わせ、その後、半導体ウエハ分割体からウエハ加工用テープを剥離した。貼合わせにおいては、ラミネーターを使用し、温度条件を80℃とし、圧力条件を0.15MPaとした。また、半導体ウエハ分割体は、次のようにして形成して用意したものである。まず、ウエハ加工用テープ(商品名「V12S-R2-P」,日東電工株式会社製)にリングフレームと共に保持された状態にあるベアウエハ(直径12インチ,厚さ780μm,東京化工株式会社製)について、その一方の面の側から、ダイシング装置(商品名「DFD6260」,株式会社ディスコ製)を使用してその回転ブレードによって個片化用の分割溝(幅25μm,深さ330μm,一区画0.8mm×0.8mmの格子状をなす)を形成した。次に、分割溝形成面にウエハ加工用テープ(商品名「UB-3083D」,日東電工株式会社製)を貼り合わせた後、上記のウエハ加工用テープ(商品名「V12S-R2-P」)をウエハから剥離した。この後、バックグラインド装置(商品名「DGP8760」,株式会社ディスコ製)を使用して、ウエハの他方の面(分割溝の形成されていない面)の側からの研削によって当該ウエハを厚さ300μmに至るまで薄化した。以上のようにして、半導体ウエハ分割体(ウエハ加工用テープに保持された状態にある)を形成した。この半導体ウエハ分割体には、複数の半導体チップ(0.8mm×0.8mm)が含まれている。
【0123】
クールエキスパンド工程は、ダイセパレート装置(商品名「ダイセパレータ DDS2300」,株式会社ディスコ製)を使用して、そのクールエキスパンドユニットにて行った。具体的には、まず、半導体ウエハ分割体を伴う上述のダイシングテープ一体型裏面保護フィルムにおけるダイシングテープ粘着剤層に、直径12インチのSUS製リングフレーム(株式会社ディスコ製)を室温で貼り付けた。次に、当該ダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを装置内にセットし、同装置のクールエキスパンドユニットにて、半導体ウエハ分割体を伴うダイシングテープ一体型裏面保護フィルムのダイシングテープをエキスパンドした。このクールエキスパンド工程において、温度は−15℃であり、エキスパンド速度(突き上げ速度)は100mm/秒であり、エキスパンド量(突き上げ量)は15mmである。
【0124】
常温エキスパンド工程は、ダイセパレート装置(商品名「ダイセパレータ DDS2300」,株式会社ディスコ製)を使用して、その常温エキスパンドユニットにて行った。具体的には、上述のクールエキスパンド工程を経た半導体ウエハ分割体を伴うダイシングテープ一体型裏面保護フィルムのダイシングテープを、同装置の常温エキスパンドユニットにてエキスパンドした。この常温エキスパンド工程において、温度は23℃であり、エキスパンド速度は1mm/秒であり、エキスパンド量は15mmである。この後、常温エキスパンドを経たダイシングテープ一体型裏面保護フィルムにおける、ワーク貼着領域より外側の周縁部について、加熱収縮処理を施した。本処理において、加熱温度は200℃である。
【0125】
裏面保護フィルムの割断性については、ダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを使用して行った以上のような過程を経た後に、裏面保護フィルムの割断予定ライン全域において割断が生じた場合を優(◎)と評価し、裏面保護フィルムで生じた割断が割断予定ラインの90%以上100%未満であった場合を良(○)と評価し、裏面保護フィルムで生じた割断が割断予定ラインの90%未満であった場合を不良(×)と評価した。その評価結果を表1,2に掲げる。
【0126】
[評価]
実施例1〜8の裏面保護フィルムによると、裏面保護フィルム付き半導体チップを得るためにダイシングテープ一体型裏面保護フィルムを使用して行うエキスパンド工程において、良好な割断を実現することができた。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【符号の説明】
【0129】
X ダイシングテープ一体型接着性シート
10,10’ フィルム(接着性シート)
20 ダイシングテープ
21 基材
22 粘着剤層
W,30A,30B 半導体ウエハ
30C 半導体ウエハ分割体
30a 改質領域
30b 分割溝
31 半導体チップ
図1
図2
図3
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図5
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図11