特許第6876555号(P6876555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876555
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】トリムカバー及び乗物用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20210517BHJP
【FI】
   B60N2/58
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-137193(P2017-137193)
(22)【出願日】2017年7月13日
(65)【公開番号】特開2019-18654(P2019-18654A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2019年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆彦
【審査官】 望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−112611(JP,A)
【文献】 特開2004−188176(JP,A)
【文献】 特開2011−041680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/58
A47C 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用シートのクッションパッドを覆うトリムカバーであって、
第1表皮材と、
前記第1表皮材と縫い合わされている第2表皮材と、
前記第1表皮材と前記第2表皮材とを縫い合せている第1縫合ラインと交差する第2縫合ラインに沿って前記第1表皮材と縫い合わされている第3表皮材と、
前記第1縫合ラインと前記第2縫合ラインとの交点が置かれる前記第1表皮材の角部の裏面に重ねられており、前記第1縫合ラインに沿って前記第1表皮材及び前記第2表皮材と縫い合わされ、且つ前記第2縫合ラインに沿って前記第1表皮材及び前記第3表皮材と縫い合わされている補強材と、
を備えるトリムカバー。
【請求項2】
請求項1記載のトリムカバーであって、
前記補強材は、前記第1表皮材と一体に前記角部に連なって設けられており、折り返されることによって前記角部の裏面に重ねられているトリムカバー。
【請求項3】
請求項1記載のトリムカバーであって、
前記補強材は、前記第1表皮材とは別体に設けられているトリムカバー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項記載のトリムカバーであって、
前記第2表皮材と前記第3表皮材との間に、前記クッションパッドの挿入開口が形成されているトリムカバー。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項記載のトリムカバーと、
前記トリムカバーによって覆われているクッションパッドと、
を備える乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリムカバー及び乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載されるシートのクッションパッドを覆うトリムカバーは、一般に、複数の表皮材が縫い合わされて構成されている。例えば、シートクッションのトリムカバーでは、複数の表皮材として、座面のシート幅方向両側を覆う額縁と、座面のシート幅方向中央を覆う身頃と、側面を覆うまちと、を含み、額縁は身頃と縫い合わされており、また、額縁はまちとも縫い合わされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−309048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トリムカバーは、クッションパッドによって内方から押圧され、複数の表皮材の縫合部には負荷が加わる。ここで、額縁と身頃とを縫い合わせている縫合ラインと、額縁とまちとを縫い合せている縫合ラインとは互いに交差し、このように二つの縫合ラインが交差している縫合部には、ミシン針が刺し通された縫い孔が密集する。縫い孔が密集することで縫合部の強度は低下し、そこに加わる負荷に起因して、縫合部が断裂する虞がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたものであり、複数の縫合ラインが交差している縫合部の断裂を抑制可能なトリムカバー及び乗物用シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のトリムカバーは、乗物用シートのクッションパッドを覆うトリムカバーであって、第1表皮材と、前記第1表皮材と縫い合わされている第2表皮材と、前記第1表皮材と前記第2表皮材とを縫い合せている第1縫合ラインと交差する第2縫合ラインに沿って前記第1表皮材と縫い合わされている第3表皮材と、前記第1縫合ラインと前記第2縫合ラインとの交点が置かれる前記第1表皮材の角部の裏面に重ねられており、前記第1縫合ラインに沿って前記第1表皮材及び前記第2表皮材と縫い合わされ、且つ前記第2縫合ラインに沿って前記第1表皮材及び前記第3表皮材と縫い合わされている補強材と、を備える。
【0007】
また、本発明の一態様の乗物用シートは、前記トリムカバーと、前記トリムカバーによって覆われているクッションパッドと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の縫合ラインが交差している縫合部の断裂を抑制可能なトリムカバー及び乗物用シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態を説明するための、乗物用シートの一例の斜視図である。
図2図1のシートのトリムカバーの破線円IIで囲まれた縫合部を、トリムカバーを裏返した状態で示す斜視図である。
図3図2の縫合部の展開図である。
図4図2の縫合部の変形例の展開図である。
図5】(A)〜(C)は、図1のシートのトリムカバーの破線円Vで囲まれた縫合部に補強材を設ける場合の構成例をそれぞれ示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の実施形態を説明するための、乗物用シートの一例を示す。
【0011】
図1に示す乗物用シート1は、自動車等の車両に搭載される乗物用シートであって、シートに着座した乗員の臀部及び大腿部を支持するシートクッション2と、乗員の腰部及び背部を支持するシートバック3とを備える。シートクッション2及びシートバック3は、フレームと、フレームを覆うクッションパッドとを含み、クッションパッドはトリムカバーによって覆われている。
【0012】
シートバック3のトリムカバー5は、複数の表皮材として、シートバック3のシート幅方向両側の側面を覆う二枚のまち11と、シートバック3の上端面から乗員の腰部及び背部に接する背もたれ面を経てシートバック3の下端面を覆う前身頃12と、シートバック3の背もたれ面とは反対側の背面を覆う後身頃13とを含む。表皮材としては、例えば皮革、織布、不織布等が用いられる。トリムカバー5は、一種の表皮材によって形成されてもよいし、部位に応じて異なる複数種の表皮材によって形成されてもよい。
【0013】
まち11と前身頃12とは、シート上下方向に延びる前身頃12の側縁の略全長に亘ってこの側縁と並行している縫合ラインL1に沿って縫い合わされている。まち11と後身頃13とは、シート上下方向に延びる後身頃13の側縁の略全長に亘ってこの側縁と並行している縫合ラインL2に沿って縫い合わされている。縫合ラインL1と縫合ラインL2とは、まち11の下縁のシートバック背面側にて互いに交差している。
【0014】
また、前身頃12と後身頃13とは、シート幅方向に延びる後身頃13の上縁の略全長に亘ってこの上縁と並行している縫合ラインL3に沿って縫い合わされている。一方、後身頃13の下縁部13eは、前身頃12の下縁部12eと縫い合わされておらず、前身頃12の下縁部12eと後身頃13の下縁部13eとの間には、シート幅方向に延びる開口14が形成されている。シートバック3のフレーム及びクッションパッドは、開口14を通してトリムカバー5の内部に挿入される。なお、図示は省略するが、例えばフック、ファスナ等の係合部材が前身頃12の下縁部12eと後身頃13の下縁部13eとにそれぞれ設けられ、開口14は開閉可能に構成される。
【0015】
図2は、トリムカバー5を裏返した状態で、縫合ラインL1と縫合ラインL2とが交差している縫合部を示す。また、図3は、図2の縫合部を形成している複数の表皮材を展開して示す。
【0016】
上記のとおり、まち11(第1表皮材)と前身頃12(第2表皮材)とは、縫合ラインL1(第1方向ライン)に沿って縫い合わされており、まち11(第1表皮材)と後身頃13(第3表皮材)とは、縫合ラインL1と交差する縫合ラインL2(第2縫合ライン)に沿って縫い合わされている。そして、縫合ラインL1と縫合ラインL2との交点Pが置かれるまち11の角部11aの裏面には、補強材15が重ねられている。
【0017】
補強材15は、本例では、まち11と一体に形成されており、連結部16を介して角部11aに連なって設けられている。連結部16が折り返されることによって、補強材15は、角部11aの裏面に重ねられる。そして、角部11aの裏面に重ねられた補強材15は、縫合ラインL1に沿ってまち11及び前身頃12と縫い合わされており、また、縫合ラインL2に沿ってまち11及び後身頃13と縫い合わされている。
【0018】
交点Pを含む縫合ラインL1の一部と、交点Pを含む縫合ラインL2の一部とを覆い得る限りにおいて、補強材15の形状は特に限定されず、例えば三角形状であってもよいし、扇形状であってもよいし、矩形状であってもよい。
【0019】
縫合ラインL1と縫合ラインL2とが交差している縫合部17には、縫合ラインL1に沿ってミシン針が刺し通された縫い孔と、縫合ラインL2に沿ってミシン針が刺し通された縫い孔と形成されており、縫い孔が密集している。縫い孔が密集することに起因して縫合部17の強度は低下するが、補強材15が縫合ラインL1に沿ってまち11及び前身頃12に縫い付けられ、且つ縫合ラインL2に沿ってまち11及び後身頃13に縫い付けられていることにより、縫合部17が補強される。これにより、クッションパッドによって内方から押圧されることにより縫合部17に加わる負荷に対して、縫合部17の断裂を抑制できる。
【0020】
さらに、本例では、前身頃12の下縁部12eと後身頃13の下縁部13eとの間に、クッションパッドが挿入される開口14が形成されており、開口14の一端が縫合部17に及んでいる。クッションパッドが挿入される際に、開口14は拡開され、縫合部17には比較的大きな負荷が作用する。かかる負荷に対しても、縫合部17が補強材15によって補強されていることにより、縫合部17の断裂を抑制できる。
【0021】
なお、前身頃12の角部12aの裏面に補強材を重ね、この補強材を縫合ラインL1に沿ってまち11及び前身頃12に縫い合せ、さらに、後身頃13の角部13aの裏面に補強材を重ね、この補強材を縫合ラインL2に沿ってまち11及び後身頃13に縫い合せても、縫合部17を同様に補強することができるが、この場合、二枚の補強材を要する。これに対して、縫合ラインL1と縫合ラインL2との両方に接するまち11の角部11aの裏面に補強材15を重ねるようにすれば、一枚の補強材15で足り、縫製の手間を軽減できる。
【0022】
また、本例では、補強材15がまち11と一体に形成されており、部品点数を削減できる。さらに、まち11と補強材15とが同一の材料で形成されることから、仮に縫合部17の隙間等を通して補強材15が外部から視認されるとしても、補強材15が目立たず、シート1の外観を損なう虞がない。ただし、図4に示すように、補強材15は、まち11とは別体に形成されてもよい。補強材15がまち11とは別体に形成される場合に、補強材15に用いられる材料の自由度が高まる。そこで、補強材15の材料として、例えばまち11に用いられる材料よりも高強度な材料(例えば、不織布、カナキン材等)を使用し、縫合部17の強度をさらに高めることができる。
【0023】
補強材は、クッションパッドが挿入される開口14に隣設される縫合部17に限定されず、複数の縫合ラインが交差している縫合部に広く適用可能である。図5(A)〜図5(C)に示す例は、いずれもシートバック3の上端のシート幅方向両側の肩部に設けられる縫合部に補強材が適用されたものである。
【0024】
図5(A)に示す例では、まち11(第1表皮材)と前身頃12(第2表皮材)とが縫合ラインL1(第1縫合ライン)に沿って縫い合わされており、また、まち11(第1表皮材)と後身頃13(第3表皮材)とが縫合ラインL2(第2縫合ライン)に沿って縫い合わされており、互いに交差する縫合ラインL1と縫合ラインL2との両方に接するまち11の角部11bの裏面に補強材18が重ねられている。そして、補強材18は、縫合ラインL1に沿ってまち11及び前身頃12と縫い合わされており、また、縫合ラインL2に沿ってまち11及び後身頃13と縫い合わされている。
【0025】
図5(B)に示す例では、前身頃12(第1表皮材)と後身頃13(第2表皮材)とが縫合ラインL3(第1縫合ライン)に沿って縫い合わされており、また、前身頃12(第1表皮材)とまち11(第3表皮材)とが縫合ラインL1(第2縫合ライン)に沿って縫い合わされており、互いに交差する縫合ラインL3と縫合ラインL1との両方に接する前身頃12の角部12bの裏面に補強材19が重ねられている。そして、補強材19は、縫合ラインL3に沿って前身頃12及び後身頃13と縫い合わされており、また、縫合ラインL1に沿って前身頃12及びまち11と縫い合わされている。
【0026】
図5(C)に示す例では、後身頃13(第1表皮材)とまち11(第2表皮材)とが縫合ラインL2(第1縫合ライン)に沿って縫い合わされており、また、後身頃13(第1表皮材)と前身頃12(第2表皮材)とが縫合ラインL3(第2縫合ライン)に沿って縫い合わされており、互いに交差する縫合ラインL2と縫合ラインL3との両方に接する後身頃13の角部13bの裏面に補強材20が重ねられている。そして、補強材20は、縫合ラインL2に沿って後身頃13及びまち11と縫い合わされており、また、縫合ラインL3に沿って後身頃13及び前身頃12と縫い合わされている。
【0027】
なお、図5(A)〜図5(C)に示した各例の補強材は、それぞれ単独で用いられてもよいし、複数組み合わせて用いられてもよい。
【0028】
ここまで、シートバック3のトリムカバー5を例に本発明を説明したが、本発明は、図1に示すシートクッション2のトリムカバーにおいて、複数の縫合ラインが交差している縫合部にも適用することもできる。また、本発明は、自動車等の車両に搭載されるシートに限らず、航空機、船舶等の車両以外の乗物用のシートにも応用できる。
【0029】
以上、説明したとおり、本明細書に開示されたトリムカバーは、乗物用シートのクッションパッドを覆うトリムカバーであって、第1表皮材と、前記第1表皮材と縫い合わされている第2表皮材と、前記第1表皮材と前記第2表皮材とを縫い合せている第1縫合ラインと交差する第2縫合ラインに沿って前記第1表皮材と縫い合わされている第3表皮材と、前記第1縫合ラインと前記第2縫合ラインとの交点に隣設される前記第1表皮材の角部の裏面に重ねられており、前記第1縫合ラインに沿って前記第1表皮材及び前記第2表皮材と縫い合わされ、且つ前記第2縫合ラインに沿って前記第1表皮材及び前記第3表皮材と縫い合わされている補強材と、を備える。
【0030】
また、本明細書に開示されたトリムカバーは、前記補強材が、前記第1表皮材と一体に前記角部に連なって設けられており、折り返されることによって前記角部の裏面に重ねられている。
【0031】
また、本明細書に開示されたトリムカバーは、前記補強材が、前記第1表皮材とは別体に設けられている。
【0032】
また、本明細書に開示されたトリムカバーは、前記第2表皮材と前記第3表皮材との間に、前記クッションパッドの挿入開口が形成されている。
【0033】
また、本明細書に開示された乗物用シートは、前記トリムカバーと、前記トリムカバーによって覆われているクッションパッドと、を備える。
【符号の説明】
【0034】
1 乗物用シート
2 シートクッション
3 シートバック
5 トリムカバー
11 まち
11a 角部
11b 角部
12 前身頃
12a 角部
12b 角部
12e 下縁部
13 後身頃
13a 角部
13b 角部
13e 下縁部
14 開口
15 補強材
16 連結部
17 縫合部
18 補強材
19 補強材
20 補強材
L1 縫合ライン
L2 縫合ライン
L3 縫合ライン
P 交点
図1
図2
図3
図4
図5