(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カバーの外周面のうち任意の位置から軸方向インナー側の外周面の外径が小さくなるように形成され、前記外径が小さくなるように形成されている外周面に前記シール部材が設けられている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車輪用軸受装置では、外方部材のインナー側開口部の内側(アウター側)にカバーの嵌合部が嵌合する内側嵌合面が形成され、インナー側開口部の外側(インナー側)にカバーの弾性部材が密着するシール嵌合面が形成されている。内側嵌合面は、シール嵌合面よりも小さい内径に形成されている。カバーは、インナー側開口部に挿入され、その嵌合部が内側嵌合面に嵌合された後に、弾性部材がシール嵌合面に嵌合される。これにより、車輪用軸受装置は、インナー側開口部に挿入されたカバー自身によってカバーの嵌合部と外方部材の内側嵌合面とが隠されて視認できないため嵌合時の作業性が低下する。また、カバーの嵌合部が外方部材のシール嵌合面を通過する際に擦り傷等が生じることで弾性部材による気密性が低下する場合があった。
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、カバーの気密性を損なうことなく、容易にカバーを組み付けることができる車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪を有し、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材とのそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材のインナー側開口部の内周面に嵌合される有底円筒状のカバーと、を備えた車輪用軸受装置において、前記カバーの外周面に円環状のシール部材が設けられ、前記外方部材のインナー側開口部の内周面に、前記カバーの外周面が嵌合されるカバー嵌合部と、前記カバー嵌合部よりも大きい内径で前記カバーのシール部材が嵌合されるシール嵌合部とが形成され、前記シール嵌合部の軸方向長さが、前記カバーの開口側端から前記カバーのシール部材における前記シール嵌合部との接触位置までの軸方向長さよりも長く形成されているものである。
【0008】
車輪用軸受装置は、前記シール部材に前記外方部材のシール嵌合部の内径よりも大きい外径の環状凸部が形成されているものである。
【0009】
車輪用軸受装置は、前記環状凸部が軸方向に所定の幅を有する帯状部と、前記帯状部よりもインナー側に配置されているリップ部とから構成されているものである。
【0010】
車輪用軸受装置は、前記カバーの外周面のうち任意の位置から軸方向インナー側の外周面の外径が小さくなるように形成され、前記外径が小さくなるように形成されている外周面に前記シール部材が設けられているものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
即ち、第一の発明は、カバーの外周面が外方部材のシール嵌合部に接触することなく外方部材のインナー側開口部に挿入され、外方部材のカバー嵌合部にカバーの外周面が嵌合される前に外方部材のシール嵌合部にカバーのシール部材が嵌合される。つまり、カバーは、外方部材のシール嵌合部に沿ってシール部材が押し込まれることで、外周面が外方部材のシール嵌合部に接触することなく外方部材のカバー嵌合部に案内される。これにより、カバーの気密性を損なうことなく、容易にカバーを組み付けることができる。
【0013】
第二の発明は、外方部材のインナー側開口部のシール嵌合部に沿ってカバーのシール部材が圧入され、シール嵌合部にシール部材の環状凸部が密着する。これにより、カバーの気密性を損なうことなく、容易にカバーを組み付けることができる。
【0014】
第三の発明は、カバーのシール部材の帯状部が外方部材のインナー側開口部のシール嵌合部に軸方向の所定幅を持って接触し、摺動されることでカバーの外周面が外方部材のシール嵌合部に安定的に案内される。これにより、カバーの気密性を損なうことなく、容易にカバーを組み付けることができる。
【0015】
第四の発明は、カバーの外周面の外径が途中部から小さくなるように形成されることで、シール部材の配置空間を確保するとともに外周面の剛性の向上によりひずみが抑制され、シール部材のたわみ代が増大する。これにより、カバーの気密性を損なうことなく、容易にカバーを組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】車輪用軸受装置の各実施形態における全体構成を示す斜視図。
【
図2】車輪用軸受装置の第一実施形態における全体構成を示す断面図。
【
図3】(a)車輪用軸受装置の第一実施形態におけるインナー側シール部材の構成を示す部分拡大断面図、(b)同じくインナー側シール嵌合部とカバーの初期挿入長さの関係を示す部分拡大断面図。
【
図4】車輪用軸受装置の第一実施形態において、インナー側シール嵌合部にカバーの嵌合部が挿入される状態を示す部分拡大断面図。
【
図5】車輪用軸受装置の第一実施形態において、インナー側シール嵌合部に初期挿入長さだけ挿入されたカバーの状態を示す部分拡大断面図。
【
図6】車輪用軸受装置の第一実施形態において、インナー側シール嵌合部にインナー側シール部材が嵌合されたカバーの状態を示す部分拡大断面図。
【
図7】車輪用軸受装置の第一実施形態において、インナー側シール嵌合部にインナー側シール部材が圧入され、カバー嵌合部に嵌合部が圧入されたカバーの状態を示す部分拡大断面図。
【
図8】車輪用軸受装置の第二実施形態における全体構成を示す断面図。
【
図9】車輪用軸受装置の第二実施形態におけるインナー側シール部材の構成を示す部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、
図1から
図3を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。
【0018】
図1と
図2とに示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材である外輪2、内方部材であるハブ輪3、内輪4、転動列である二列のインナー側ボール列5a、アウター側ボール列5b、カバー6、カバー6に設けられている円環状のインナー側シール部材7、アウター側シール部材8を具備する。ここで、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、軸方向とは、車輪用軸受装置1の回転軸に沿った方向を表す。
【0019】
図2に示すように、外輪2は、ハブ輪3と内輪4とを支持するものである。外輪2は、略円筒状に形成されている。外輪2は、例えばS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。外輪2のインナー側開口部2aは、カバー6が嵌合可能に開口され、インナー側シール嵌合部2bとカバー嵌合部2cとが形成されている。外輪2の内周面には、環状に形成されているインナー側の外側転走面2dと、アウター側の外側転走面2eとが周方向に互いに平行になるように形成されている。インナー側の外側転走面2dとアウター側の外側転走面2eとには、例えば高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲とする硬化層が形成されている。外輪2の外周面には、図示しない車体側の部材(ナックル)に取り付けるための車体取り付けフランジ2fが一体に形成されている。外輪2のアウター側開口部2gは、アウター側シール部材8が嵌合可能に形成されている。
【0020】
外輪2のインナー側開口部2aには、インナー側シール嵌合部2bとカバー嵌合部2cとが同一軸心上に形成されている。インナー側シール嵌合部2bは、インナー側シール部材7が嵌合される孔である。カバー嵌合部2cは、カバー6が嵌合される孔である。インナー側シール嵌合部2bは、シール嵌合径D1で外輪2のインナー側端からの軸方向長さであるシール嵌合長さL1の孔として形成されている。カバー嵌合部2cは、インナー側シール嵌合部2bのシール嵌合径D1よりも小さい所定の外径でインナー側シール嵌合部2bのアウター側端から所定の軸方向長さの孔として形成されている。つまり、外輪2のインナー側開口部2aの内周には、外側(インナー側)から順に大径側のインナー側シール嵌合部2bと小径側のカバー嵌合部2cとが形成されている。
【0021】
内方部材を構成するハブ輪3は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持するものである。ハブ輪3は、円柱状に形成されている。ハブ輪3は、例えばS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪3のインナー側端部には、外周面に縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、円周等配位置にハブボルト3eが設けられている。ハブ輪3には、外輪2のアウター側の外側転走面2eに対向するようにアウター側の内側転走面3cが形成されている。また、ハブ輪3には、車輪取り付けフランジ3bの基部側にアウター側シール部材8のリップ摺動面3dが形成されている。ハブ輪3には、小径段部3aに内輪4が設けられている。
【0022】
内輪4は、転動列であって車載時に車体側に配置されるインナー側ボール列5aと車載時に車輪側に配置されるアウター側ボール列5bとに予圧を与えるものである。内輪4は、円筒状に形成されている。内輪4は、例えば、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼から構成され、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲で硬化処理されている。内輪4の外周面には、周方向に環状の内側転走面4aが形成されている。内輪4は、圧入により、ハブ輪3の小径段部3aに固定されている。つまり、ハブ輪3のインナー側には、内輪4によって内側転走面4aが構成されている。ハブ輪3は、インナー側端部の内輪4の内側転走面4aが外輪2のインナー側の外側転走面2dに対向し、アウター側の内側転走面3cが外輪2のアウター側の外側転走面2eに対向するように配置されている。
【0023】
転動列であるインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、ハブ輪3を回転自在に支持するものである。インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、転動体である複数のボールが保持器によって環状に保持されている。インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、例えば、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼から構成され、ズブ焼入れにより芯部まで62〜67HRCの範囲で硬化処理されている。インナー側ボール列5aは、内輪4の内側転走面4aと、外輪2のインナー側の外側転走面2dとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列5bは、ハブ輪3の内側転走面3cと、外輪2のアウター側の外側転走面2eとの間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、外輪2に対してハブ輪3と内輪4とを回転自在に支持している。
【0024】
車輪用軸受装置1は、外輪2とハブ輪3と内輪4とインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとから複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、本実施形態において、車輪用軸受装置1には、複列アンギュラ玉軸受が構成されているが、複列円錐ころ軸受等の軸受で構成されていてもよい。
【0025】
カバー6は、外輪2のインナー側開口部2aを塞いで外部から泥水等の異物の入り込みを防止するものである。カバー6は、プレス加工によって底面を有する円筒状に形成されている。カバー6は、例えばフェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)から構成されている。カバー6は、嵌合部6a、段部6b、シール支持部6cおよび底部6dが一体に連結されている。シール支持部6cには、環状のインナー側シール部材7が設けられている。
【0026】
カバー6の円筒部分には、円筒状の嵌合部6aとシール支持部6cとが同一軸心上に形成されている。嵌合部6aは、外輪2のカバー嵌合部2cに嵌合される部分である。嵌合部6aは、カバー6の開口側端部に円筒状に形成されている。嵌合部6aは、インナー側開口部2aのインナー側シール嵌合部2bよりも小さく、カバー嵌合部2cに圧入嵌合可能な外径および軸方向長さの円筒である。つまり、嵌合部6aは、インナー側シール嵌合部2bに接触することなく、カバー嵌合部2cに圧入嵌合可能な外径および軸方向長さの円筒である。
【0027】
シール支持部6cは、インナー側シール部材7を支持する部分である。シール支持部6cは、嵌合部6aと隣接する位置に径方向内側に延びる段部6bを介して円筒状に形成されている。つまり、シール支持部6cは、カバー6の外周面のうち任意の位置から軸方向で底部6d側を嵌合部6aよりも小さい外径に形成した円筒である。これにより、シール支持部6cは、カバー嵌合部2cの内周面との間にインナー側シール部材7を配置可能な空間を構成している。底部6dは、外輪2のインナー側開口部2aを覆う部分である。底部6dは、シール支持部6cと隣接する位置に中央部が突出した円盤状に形成されている。底部6dは、円筒状に形成されているカバー6の一方を塞ぐ底面を構成している。
【0028】
環状のインナー側シール部材7は、外輪2とカバー6との間の隙間を塞ぐものである。インナー側シール部材7は、カバー6のシール支持部6cの外周面に加硫接着されている。つまり、インナー側シール部材7は、嵌合部6aと隣接するようにして設けられている。インナー側シール部材7は、例えばNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムから構成されている。
【0029】
図3(a)に示すように、インナー側シール部材7の外周面には、外輪2のインナー側シール嵌合部2bのシール嵌合径D1よりも大きい外径(シール外径D2)の環状凸部が形成されている。環状凸部は、帯状部7aとリップ部7bとから構成されている。インナー側シール部材7の帯状部7aは、インナー側シール部材7の外周面のうち所定の軸方向幅の範囲(例えば0.1mmから2mmの範囲)が径方向外側に突出(例えばカバー6の嵌合部6aの外周面よりも0.1mmから2mm突出)した環状の突出部である。リップ部7bは、インナー側シール部材7の外周面のうち底部6d側の端部から径方向外側に突出した環状のシールリップである。
【0030】
帯状部7aとリップ部7bとは、外輪2のインナー側シール嵌合部2bのシール嵌合径D1よりも大きいシール外径D2に形成されている。帯状部7aとリップ部7bとは、インナー側シール部材7において最も大きい外径に形成されている。帯状部7aとリップ部7bとは、カバー6が外輪2のインナー側開口部2aに嵌合された際、インナー側シール嵌合部2bの内周面に密着するように構成されている。このようにして、カバー6は、外輪2のインナー側開口部2aのカバー嵌合部2cに嵌合部6aが嵌合されることで外輪2に固定され、インナー側シール嵌合部2bに帯状部7aとリップ部7bとが密着されることで外輪2とカバー6との間の隙間を塞いでいる。なお、インナー側シール部材7には、環状凸部として帯状部7aとリップとがそれぞれ形成されているが、帯状部7aのみやリップ部7bのみが形成されているものでもよい。
【0031】
図3(b)に示すように、インナー側シール部材7は、カバー6が外輪2のインナー側開口部2aに挿入されてインナー側シール部材7の帯状部7aの開口側端が外輪2のインナー側シール嵌合部2bと接触した際、嵌合部6aが外輪2のカバー嵌合部2cに挿入されないように(接触しないように)構成されている。つまり、インナー側シール部材7は、帯状部7aの開口側(アウター側)端がインナー側シール嵌合部2bの内周面に接触した際、カバー6の開口側端から帯状部7aの開口側端までの軸方向長さである初期挿入長さL2がインナー側シール嵌合部2bのシール嵌合長さL1よりも短くなるように構成されている。このように構成することで、カバー6は、シール支持部6cが弾性体であるインナー側シール部材7を介してインナー側シール嵌合部2bに支持され、径方向の位置調整が可能な状態になる。
【0032】
図2に示すように、アウター側シール部材8は、外輪2とハブ輪3との隙間を塞ぐものである。アウター側シール部材8は、略円筒状に形成された芯金に、例えばNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなる複数のシールリップが加硫接着されている。アウター側シール部材8は、外輪2のアウター側開口部2gに円筒部分が嵌合され、ハブ輪3のリップ摺動面3dに複数のシールリップが油膜を介して接触または近接することでハブ輪3に対して摺動可能に構成されている。これにより、アウター側シール部材8は、外輪2のアウター側開口部2gからの潤滑グリースの漏れ、および外部からの雨水や粉塵等の異物の入り込みを防止する。なお、アウター側シール部材8は、様々な仕様が存在しており、本実施形態の仕様に限定するものではない。また、インナー側シール部材7とアウター側シール部材8とは、芯金等にリップ等が加硫接着されているがそれ以外の接着方法でもよい。
【0033】
このように構成される車輪用軸受装置1には、ハブ輪3と内輪4とがインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとを介して外輪2に回転自在に支持されている。また、車輪用軸受装置1は、外輪2のインナー側開口部2aと内輪4との隙間をカバー6で塞がれ、外輪2のアウター側開口部2gとハブ輪3との隙間をアウター側シール部材8で塞がれている。これにより、車輪用軸受装置1は、内部からの潤滑グリースの漏れおよび外部からの雨水や粉塵等の入り込みを防止しつつ外輪2に支持されているハブ輪3と内輪4とが回転する。
【0034】
次に、
図4から
図7を用いて、車輪用軸受装置1におけるカバー6の組み付けについて具体的に説明する。カバー6は、開口側から車輪用軸受装置1の外輪2のインナー側開口部2aに軸方向に挿入される。
【0035】
図4に示すように、車輪用軸受装置1は、カバー6の嵌合部6aが外輪2のインナー側シール嵌合部2bに挿入される。カバー6は、その嵌合部6aがインナー側シール嵌合部2bの内周面に接触することなく外輪2のカバー嵌合部2cに向かって軸方向に移動される(白塗矢印参照)。この際、嵌合部6aとインナー側シール嵌合部2bとの間に十分な隙間が構成されているので、カバー6の嵌合部6aは、容易にインナー側シール嵌合部2bに挿入される。
【0036】
図5に示すように、カバー6は、外輪2の内部に向かって軸方向に移動されることで(白塗矢印参照)、インナー側シール部材7の帯状部7aが外輪2のインナー側シール嵌合部2bのインナー側端に接触する。この際、カバー6は、外輪2に初期挿入長さL2だけ挿入されている。カバー6の嵌合部6aの開口側端は、初期挿入長さL2よりも長いシール嵌合長さL1に形成されているインナー側シール嵌合部2bの途中部まで到達している。すなわち、帯状部7aがインナー側シール嵌合部2bのインナー側端に接触した状態において、カバー6は、嵌合部6aの開口側端が外輪2のカバー嵌合部2cに挿入されていない(嵌合されていない)。
【0037】
図6に示すように、カバー6は、さらに外輪2の内部に向かって軸方向に移動されることで(白塗矢印参照)、インナー側シール部材7の帯状部7aが外輪2のインナー側シール嵌合部2bに圧入される。シール外径D2に形成されている帯状部7aの外周面は、軸方向に移動されるにつれてシール外径D2よりも小さいシール嵌合径D1に形成されているインナー側シール嵌合部2bの内周面に押し付けられる。帯状部7aの外周面には、インナー側シール嵌合部2bの内周面から径方向内側に向かう反力が加わる(黒塗矢印参照)。カバー6は、インナー側シール嵌合部2bへの圧入により帯状部7aの外周面にインナー側シール嵌合部2bの内周面からの反力が加わる範囲が増えるにつれて、カバー6の軸心がインナー側シール嵌合部2bの軸心に略一致するように調心される。
【0038】
カバー6は、帯状部7aの外周面がインナー側シール嵌合部2bの内周面によってその全周を径方向内側に押圧されることにより、カバー6の軸心とインナー側シール嵌合部2bの軸心とが略一致する。この際、帯状部7aの外周面は、全周が所定の軸方向幅を有する接触面としてインナー側シール嵌合部2bの内周面に密着される。つまり、帯状部7aは、インナー側シール嵌合部2bの内周面に密着することで、外輪2とカバー6との隙間を塞ぎながらカバー6(嵌合部6aおよびシール支持部6c)の軸心がインナー側シール嵌合部2bの軸心に略一致するように調心している。カバー6は、インナー側シール嵌合部2bの内周面に沿って案内されながら軸方向に移動する。
【0039】
図7に示すように、カバー6は、さらに外輪2の内部に向かって軸方向に移動されることで、嵌合部6aが外輪2のカバー嵌合部2cに到達する。外輪2のインナー側シール嵌合部2bとカバー嵌合部2cとは、同一軸心上に形成されている。従って、カバー6の嵌合部6aは、その軸心がカバー嵌合部2cの軸心に略一致した状態でカバー嵌合部2cに到達している。つまり、カバー6の嵌合部6aは、インナー側シール嵌合部2bの内周面に沿って軸方向に案内されることで、その軸心とカバー嵌合部2cの軸心とが略一致した状態でカバー嵌合部2cに圧入される。
【0040】
カバー6の嵌合部6aの外周面は、軸方向に移動するにつれて外輪2のカバー嵌合部2cの内周面に押し付けられる範囲が増大する。嵌合部6aの外周面には、カバー嵌合部2cの内周面から径方向内側に向かう反力が加わる(薄墨矢印参照)。カバー6の嵌合部6aは、その軸心とカバー嵌合部2cの軸心とが略一致しているので、嵌合部6aの外周面がカバー嵌合部2cの内周面によってその全周を径方向内側に押圧される。これにより、カバー6の嵌合部6aは、カバー嵌合部2cによって全体が圧縮された状態でカバー嵌合部2cに圧入嵌合される。この際、車輪用軸受装置1は、嵌合部6aとカバー嵌合部2cとの位置関係を外部から視認できないが、嵌合部6aの軸心とカバー嵌合部2cの軸心とが略一致するようにインナー側シール部材7の帯状部7aによって調心されているので、容易に嵌合部6aがカバー嵌合部2cに挿入される。
【0041】
このように構成することで、車輪用軸受装置1は、カバー6の嵌合部6aが外輪2のインナー側シール嵌合部2bに接触することなく外輪2のインナー側開口部2aに挿入される。また、車輪用軸受装置1は、外輪2のカバー嵌合部2cにカバー6の嵌合部6aが嵌合される前に外輪2のインナー側シール嵌合部2bにカバー6のインナー側シール部材7が嵌合される。車輪用軸受装置1は、インナー側シール嵌合部2bにインナー側シール部材7の帯状部7aとリップ部7bとが密着することでカバー6による気密性が向上されるとともに、嵌合部6aの軸心とカバー嵌合部2cの軸心とが調心される。また、カバー6に段部6bが形成されることで外輪2のカバー嵌合部2cに嵌合される嵌合部6aの剛性が向上して圧入時のひずみが抑制される。これにより、カバー6の気密性を損なうことなく、容易にカバー6を組み付けることができる。
【0042】
次に、
図8と
図9とを用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第二実施形態である車輪用軸受装置9について説明する。なお、以下の各実施形態に係る車輪用軸受装置9は、
図1から
図7に示す車輪用軸受装置1において、車輪用軸受装置1に替えて適用されるものとして、その説明で用いた名称、図番、符号を用いることで、同じものを指すこととし、以下の実施形態において、既に説明した実施形態と同様の点に関してはその具体的説明を省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0043】
図8に示すように、カバー10は、外輪2のインナー側開口部2aを塞いで外部から泥水等の異物の入り込みを防止するものである。カバー10は、プレス加工によって底面を有する円筒状に形成されている。カバー10は、嵌合部10a、シール支持部10bおよび底部10cが一体に連結されている。また、カバー10には、環状のインナー側シール部材11が設けられている。
【0044】
図9に示すように、カバー10の円筒部分には、円筒状の嵌合部10aと、シール支持部10bとが同一軸心上に形成されている。シール支持部10bは、インナー側シール部材11を支持する部分である。シール支持部10bは、カバー10の外周面の任意の位置から底部10cに向かうにつれて任意の割合で外径が小さくなる円錐状に形成されている。シール支持部10bの外周面に設けられているカバー10は、インナー側シール部材11の径方向の厚みが軸方向の位置に応じて任意の割合で変更されている。インナー側シール部材11には、環状凸部である帯状部11aとリップ部11bとが形成されている。インナー側シール部材11は、帯状部11aやリップ部11b等の形状やその役割に適したたわみを生じる径方向の厚みに構成されている。これにより、カバー10の気密性を損なうことなく、容易にカバー10を組み付けることができる。
【0045】
本願における車輪用軸受装置1、9は、内方部材として一つの内輪4が嵌合されたハブ輪3を備え、取付フランジを有している外方部材である外輪2と内方部材である内輪4とハブ輪3の嵌合体で構成された内輪回転仕様の第3世代構造としているが、これに限定するものではない。外方部材である外輪2と内方部材である一対の内輪4で構成された第1世代構造や、取付フランジを有している外方部材である外輪2と内方部材である一対の内輪4とで構成され、この一対の内輪4がハブ輪3の外周に嵌合される内輪回転仕様の第2世代構造であってもよい。また、車輪用軸受装置1、9は、従動輪用の車輪用軸受装置として説明したが駆動輪用の車輪用軸受装置でもよい。
【0046】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。