【実施例1】
【0018】
図1は、実施例1に係る制御装置の構成を示す。
【0019】
制御装置101により制御される対象システムの一例として、エレベーターシステム102が採用されている。エレベーターシステム102は、乗りかご121と、釣合おもり122と、乗りかご121及び釣合おもり122を釣瓶状に懸架する主ロープ124と、N台(Nは2以上の整数)のインバータモジュール(以下、INV)111を有する電力変換装置110と、電力変換装置110から供給された電力を基に駆動することで主ロープ124を介して乗りかご121を昇降させるモータ123と、モータ123の回転速度を検出する速度センサ125と、モータ123の回転速度を弱める(例えばゼロにする)ブレーキ126とを有する。INV111が、パワーモジュールの一例である。INV111は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールである。
【0020】
制御装置101は、インターフェース部151と、記憶部152と、それらに接続されたプロセッサ部153とを有する。
【0021】
インターフェース部151は、エレベーターシステム102に接続された1以上のインターフェースデバイスを含む。具体的には、例えば、インターフェース部151は、電力変換装置110に接続されたインターフェースデバイスと、速度センサ125に接続されたインターフェースデバイスと、乗りかご121の開閉扉(図示せず)の開閉指令に応答して開閉扉を開閉するデバイス(図示せず)に接続されたインターフェースデバイスと、エレベーターシステム102の管理システム181とに接続されたインターフェースデバイスとを含む。なお、管理システム181は、一以上の計算機で構成されてよい。制御装置101のプロセッサ部153は、インターフェース部151を介して、管理システム181に表示用情報を表示することができる。
【0022】
記憶部152は、プログラムや情報を記憶する。プログラムとしては、例えば、エレベーターシステム102の運転を制御する運転制御プログラム161と、INV111の寿命を予測する寿命予測プログラム162とがある。情報としては、例えば、各INV111に関する情報を保持するINV管理テーブル171と、INV111と寿命との関係を示す寿命テーブル172とがある。
【0023】
プロセッサ部153は、記憶部152内のプログラムを実行することで、記憶部152内の情報を参照したり、エレベーターシステム102を制御したりする。
【0024】
図2は、INV111の寿命の考え方の一例を示す。
【0025】
電力変換装置110が有するINV111の台数Nは、下記の(p)及び(q)、
(p)INV111の負担とINV111の推定寿命との関係、及び、
(q)全てのINV111を均等に使用したと仮定した場合の各INV111の目標寿命、
から定まるINV台数よりも小さい値である。これにより、特定のX台のINV111の稼働量を多く維持することが行いやすくなる。具体的には、例えば、以下の通りである。
【0026】
例えば、参照符号201が示すように、INV111の負担を10%に維持した場合の当該INV111の推定寿命が10年であると定義する。この場合、モータ123に100%の負担を与えるためには、N=10(=100%÷10%)である。
【0027】
この前提を基準に、INV111の負担をm倍すると、INV111の寿命が1/m倍になるとする。
【0028】
例えば、参照符号202が示すように、INV111の負担を12.5%に維持するとする。m=1.25(=12.5%÷10%)のため、INV111の推定寿命は、8年(=10×1/1.25)となる。また、Nの値も8となる(100%÷12.5%)。
【0029】
また、例えば、参照符号203が示すように、INV111の負担を20%に維持するとする。m=2(=20%÷10%)のため、INV111の推定寿命は、5年(=10×1/2)となる。また、Nの値も5となる(100%÷20%)。
【0030】
このような考え方を一例として、Nを決定することができる。本実施例では、INV111の目標寿命を8年以上と考えるため、N=8が採用される(参照符号202)。Nが小さい程、N台のINV111を均等に使用したと仮定した場合、各INV111の負担は必然的に高くなり、結果として、各INV111の寿命は短くなる。
【0031】
INV111の負担が大きいと、INV111からの電流の値も高くなり、結果として、INV111の温度変化が大きくなる。INV111のようなパワーモジュールは、半導体素子を含むため、温度や温度変化が寿命に影響する。
【0032】
図3は、INV111に関し、電流と温度の関係の一例を示す。
【0033】
例えば、或る時間スイッチング素子がオン状態であると(或る時間電流Icが流れると)、その時間をかけてケース温度Tc及びジャンクション温度Tjが上昇する。スイッチング素子がターンオフすると、Tc及びTjは下がる。ここでは、放熱フィン温度Tfを基準として、TfとTcのピークとの差がΔTcであり、TfとTjのピークとの差がΔTjである。
【0034】
図4は、INV111に関し、温度変化と寿命の関係の一例を示す。
【0035】
図4に例示するように、INV111の寿命(ここでは、熱ストレスによる寿命であるパワーサイクル寿命)は、温度変化(ΔTj)が大きいと減る。また、使用温度が高いと、INV111の寿命が減る。なお、Tjminは、Tjの最低値である。Tjmaxは、Tjの最大値である。
【0036】
図5は、エレベーターシステム102の1回の運転に関し、エレベーターの乗りかご速度と、モータ123に提供される電流と、INV111の温度との関係の一例を示す。なお、
図5は、積載100%の上昇方向運転時の関係を示す。典型的には、運転方向が異なると、電流波形も異なる。
【0037】
エレベーターシステム102の1回の運転は、乗りかご121が昇降を開始してから停止することである。具体的には、例えば、1回の運転では、開始期間P1と、定速期間P2と、停止期間P3とがある。乗りかご121の開閉扉の開閉後に、開始期間P1において乗りかご121が徐々に加速し(モータ123の回転速度が徐々に早くなり)、一定の速度に達すると、定速期間P2になる。定速期間P2では、乗りかご121の速度が一定である(モータ123の回転速度が一定である)。停止までの残り距離が或る距離に達すると、停止期間P3に入る。停止期間P3では、乗りかご121が徐々に減速してやがて停止する(モータ123の回転速度が徐々に減速してやがて停止する)。そして、再び開閉扉の開閉が生じる。移動距離(移動元のフロアと移動先のフロアとの距離)に応じて、定速期間P2は無くてもよいし、加速及び減速での傾き(単位時間当たりの加速量又は減速量)は異なってもよい。
【0038】
期間P1〜P3において、開始期間P1で最も大きい電流値が必要となる。定速期間P2では、必要とされる電流値が減り、停止期間P3では、必要とされる電流が更に減る。
【0039】
期間P1〜P3において、開始期間P1での大きい電流を受けて、温度(例えばTj)はピークに達する。その後、定速期間P2及び停止期間P3にかけて徐々に温度が下がる。
【0040】
図5に例示する運転の制御は、運転制御プログラム161により行われる。具体的には、例えば、運転制御プログラム161が、電力変換装置110において停止対象となるINV111を切り替えることで、モータ123への電流の値を制御し、以って、モータ123の回転速度を制御する。
【0041】
図6は、INV管理テーブル171の構成を示す。
【0042】
INV管理テーブル171は、INV111と運転に関する情報との関係を保持する。具体的には、例えば、INV管理テーブル171は、各INV111について、INV番号(INV111の番号)と、INV111が使用された運転の回数とを示す。
【0043】
図7は、寿命テーブル172の構成を示す。
【0044】
寿命テーブル172は、INV111の負担と、INV111が使用された運転の回数と、INV111の寿命との関係を保持する。
図7の例によれば、INV111の実質負担が20%のケースにおいて、運転回数がC3回ならば、寿命はL3である。
【0045】
図8は、運転制御処理の流れを示す。
【0046】
運転制御プログラム161は、K回の運転毎に(Kは自然数、本実施例ではK=1)、停止対象のINV111の切り替え(S801)と、テーブル更新(S802)とを行う。S802では、運転制御プログラム161は、INV管理テーブル171で管理されているINV1〜8のうちの使用されたINV(つまり停止対象とされたINV以外のINV)の各々について、運転回数にKを加算する。
【0047】
すなわち、運転制御プログラム161は、N台のINV111のうちのX台(Xは1以上N未満の整数)のINV111の各々の稼働量を、Y台(Y=N−X)のINV111のいずれの稼働量よりも多く維持するようになっている。稼働量の一例が、運転回数である。すなわち、本実施例では、X台のINV111の各々について、カウントされる運転回数を、Y台のINV111のいずれについてカウントされる運転回数よりも多く維持する。これにより、X台のINV111がY台のINV111よりも早くに寿命が尽きることが容易に予測できる。故に、寿命が早くに尽きるINV111を予測して寿命が尽きる前に当該INV111を交換するといった措置を取ることができる。
【0048】
図9は、本実施例での、停止対象のINV111の切り替え、を示す。
【0049】
本実施例では、N=8であるため、INV1〜8が存在する。
【0050】
本実施例では、X=1である。X台のINV111は、INV1である。従って、Y=7(=8−1)である。Y台のINV111は、INV2〜8である。INV1が、X台の第1のパワーモジュールの一例である。INV2〜8が、Y台の第2のパワーモジュールの一例である。
【0051】
運転制御プログラム161は、下記(A)及び(B)、
(A)INV2〜8から、直前回の(A)で選択されたP台(Pは1以上Y未満の整数)の停止対象のINVと少なくとも一部が異なるP台(今回のP=直前回のP、又は、今回のP≠直前回のP)の停止対象のINVを選択し、
(B)今回の(A)で選択されたP台の停止対象のINVを停止する、
を定期的に又は不定期的に行うことで、INV1についての運転回数を、INV2〜8の各々の運転回数よりも多く維持する。
【0052】
なお、運転制御プログラム161は、INV1の停止量(例えば、INV1が停止対象となる運転の回数)を、ゼロ、又は、INV2〜8のいずれのINVの停止量よりも少なく維持する。すなわち、本実施例では、INV1は、停止対象とされることが無いが、INV2〜8のいずれのパワーモジュールよりも少ない頻度で停止対象とされてもよい。
【0053】
上述したように、運転制御プログラム161は、エレベーターシステム102をK回運転する毎に(Kは自然数)、(A)及び(B)を行う。
図4に示したように、各回の運転では温度変化が生じるため、K回の運転毎に(A)及び(B)を行うことは、INV111の寿命制御の点で好ましいと考えられる。
【0054】
本実施例では、P=1且つK=1である。具体的には、本実施例では、
図9に示すように、運転毎に、INV2〜8の範囲で、停止対象とされるINVの番号は1インクリメントされる。つまり、ラウンドロビンで、停止対象が変わる。これは、INV2〜8の稼働量を均等に維持することの一例である。このため、INV2〜8については、寿命を平準化することができる。
【0055】
本実施例では、上述したように、X=1及びP=1であるが、X及びPの各々の値は、N台のINV111のうち、寿命が相対的に早くに尽きるINVの目標寿命と、Nの値を決める根拠となった目標寿命とに基づいて定まる。具体的には、例えば、INVの負担F%に対して、INVの推定寿命G年とした場合、上述の例では、F=10のときG=10である。また、上述の例では、Fをm倍するとGが1/m倍となる。このため、INV1の目標寿命を5年とした場合(G=5)、INV1の負担は20%である(F=20)。一方、残りのINV2〜8の各々については、N=8とされた根拠となった目標寿命が8年以上であるが、P=1で、その目標寿命を達成することが期待できる。P=1とすれば、INV2〜8のうち運転中に使用されるINVは6台であり、6台のINVの各々の負担Lは、(100%−20%)÷6≒13.3%となるが(「L={100%−(X*F%)}÷(Y−P)」の一例)、実質負担Uは、13.3%×6/7≒11.4%となり(「U=L*{(Y−P)/Y}」の一例)、12.5%(=目標寿命8年のときのINV負担(
図2参照))以下になるからである。つまり、結果として、INV2〜8の各々の推定寿命は、約8.7年となる。このように、本実施例では、寿命が相対的に早くに尽きるINV111の予測がし易いことと、残りのINV111の寿命を目標寿命以上とすることの両方を実現することが期待できる。
【0056】
また、本実施例では、運転制御プログラム161は、エレベーターシステム102のメンテナンス期間中、又は、INV1が故障した場合、INV1を停止し、INV2〜8の稼働を維持する。すなわち、エレベーターシステム102のメンテナンス期間中、又は、INV1が故障した場合でも、エレベーターシステム102の運転を維持することができる。作業員は、INV1が停止している間に、INV1を交換することができる。なお、例えば、電力変換装置110が、INV1を電気的に切断する機構(例えばスイッチ)901を有していて、運転制御プログラム161は、INV1の停止として、当該機構901によりINV1を電気的に切断する処理を行ってよい。
【0057】
また、本実施例では、INV1は、INV2〜8よりも取り出し作業側(具体的には、例えば、INVの交換作業側)に近い位置に設けられているINV111である。本実施例では、INV1の寿命が相対的に早く尽きる可能性が高く、残りのINV2〜8は同時期に寿命が尽きる可能性が高い。このため、INV1のみが独立した交換対象となり、INV2〜8の交換は電力変換装置110の交換となる見込みが高い。このため、取り出し作業に最も近い位置にあるINV1が高負担のINVとされることで、INV1の交換作業を行い易い。つまり、短時間でINV1を交換できることが期待できる。
【0058】
また、本実施例では、INV1(X台の第1のパワーモジュールのうちの少なくとも1つの一例)については、INV2〜8と比して、多くのセンサが設けられている、多くの種類のセンサが設けられている、及び、当該残りのパワーモジュールについては設けられていない種類のセンサが設けられている、のうちの少なくとも1つである。具体的には、例えば、INV1についてのセンサ群(1以上のセンサ)902Aについて、INV2〜8の各々についてのセンサ群902Bと比較すると、センサの数が多い、センサの種類が多い、及び、センサ群902Bには無いセンサを含んでいる、のうちの少なくとも1つに該当する。つまり、センサ群902Aは、センサ群902Bよりも、INV111をより詳細に解析するためのセンサ群である。INV1は、INV2〜8よりも高負担のため、センサ群902AがINV1について設けられることで、INVをより詳細に解析できることが期待できる。また、そのようなセンサ群902Aは高負担のINV1についてのみ設けられればよいため、資源の節約も実現できる。
【0059】
また、本実施例では、
図2及び
図9を参照して説明した通り、INV負担から推定寿命がわかるが、INV負担と運転回数との関係から、より正確な寿命予測をすることができる。具体的には、例えば、寿命予測プログラム162が、定期的に(又は、1回の運転が終了する都度に)、
図10に例示の寿命予測処理を開始する。寿命予測プログラム162は、各INV111(例えば、前回の寿命予測処理以降に運転回数が更新された各INV111)について、INV111に対応した運転回数(INV管理テーブルに記録されている運転回数)と、当該INV111の負担とに対応した寿命を、寿命テーブル172から特定する(S1001)。特定した寿命(予測寿命)が尽きそうな(例えば、予測寿命までの運転回数が所定運転回数未満である)INV111があれば(S1002:Y)、寿命予測プログラム162は、そのINV111の番号を含んだ警告を、管理システム181に通知(出力)する(S1003)。これにより、寿命が尽きる前にINV1を交換することの確実性を高めることができる。