(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ベアリングにおいて軸線について互いに相対回動可能な環状の外周側部材と該外周側部材に少なくとも部分的に包囲された環状の内周側部材との間を密封する密封装置であって、
前記外周側部材に取り付けられる密封装置本体と、
前記密封装置本体の外側に位置し前記内周側部材に取り付けられる前記軸線を中心とする環状のスリンガとを備え、
前記密封装置本体は、前記軸線を中心とする環状の補強環と、該補強環に取り付けられている、弾性体から形成されている前記軸線を中心とする環状の弾性体部とを備え、
前記弾性体部は、前記スリンガの外周側の端部である外周側端部よりも前記外周側を通って延びて前記内周側部材との間に間隙を形成する外周側ラビリンスリップと、前記外周側ラビリンスリップよりも内周側に位置し前記スリンガとの間に間隙を形成する内周側ラビリンスリップと、前記内周側ラビリンスリップよりも前記内周側に位置し前記スリンガに当接するサイドリップとを備え、
前記外周側ラビリンスリップは、該外周側ラビリンスリップの先端部が前記スリンガの前記外周側端部よりも前記軸線方向において前記外側に位置すると共に、前記外周側ラビリンスリップの前記外周側において前記内周側に窪む前記軸線を中心とする環状の溝部を形成しており、
前記スリンガは、前記外周側端部の少なくとも先端側の部分において前記軸線方向において前記内周側部材から離間しており、前記内周側に窪む前記軸線を中心とする環状の溝隙間部を形成し、
前記スリンガは、前記内周側部材の曲周面に沿う形状に形成された前記軸線を中心とする環状の曲面部と、前記曲面部の前記外周側の端部から前記外周側に設けられている前記外周側端部へ直線状に延びる平坦な面であり前記軸線を中心とする円盤状の円盤部とを備え、
前記スリンガの前記曲面部及び前記円盤部は、前記曲周面に沿って内側から前記外周側へ連続して形成されていて、
前記溝隙間部は、前記スリンガの前記円盤部の前記外周側端部の外側面と前記曲周面との間に形成されている
ことを特徴とする密封装置。
前記弾性体部は、前記外周側部材の外周面から前記外周側に突出する前記軸線を中心とする環状の堰部を備え、該堰部は前記外周側ラビリンスリップとの間に前記溝部を形成していることを特徴とする請求項1記載の密封装置。
前記弾性体部は、前記外周側ラビリンスリップと前記内周側ラビリンスリップとの間において前記スリンガに間隙をもって対向してラビリンスシールを形成していることを特徴とする請求項1又は2記載の密封装置。
【背景技術】
【0002】
車両、例えば自動車において、車輪を回転自在に支持するハブベアリングは、雨水、泥水及びダスト等の異物に直接曝される環境にある。このため、従来から、ハブベアリングには、このハブベアリングの内部を密封するために、密封装置が取り付けられている。この密封装置は、ハブベアリングの内部の潤滑剤の密封を図ると共に内部に異物が侵入することの防止を図っている。
【0003】
また、ハブベアリングに用いられる密封装置には、ハブベアリングの内部に異物が侵入することを防止しつつ、密封装置がハブベアリングに加えるトルク抵抗を増加させないようにすることが求められている。
【0004】
図4は、従来のハブベアリングに取り付けられる密封装置(以下、ハブシールともいう。)の概略構成を示すための部分断面図である。
図4に示すように、従来のハブシールとしての密封装置100は、ハブベアリング200において、互いに同軸に相対回動する外輪201とハブ輪202との間の環状の空間203を密封するために、外輪201とハブ輪202との間に圧入されている。密封装置100は、空間203内に充填された転動体204の潤滑剤の漏洩を抑制すると共に空間203内に異物が侵入することを抑制している。
【0005】
密封装置100は、
図4に示すように、ハブベアリング200の外輪201の内周面に内嵌される金属製の補強環111と、補強環111を覆うように一体に形成されたゴム材から成る弾性体部112とを備えている。
【0006】
密封装置100において、弾性体部112は、サイドリップ115,116とラジアルリップ117とを有しており、サイドリップ115,116とラジアルリップ117は、ハブ輪202の曲周面202aに摺接している。サイドリップ115,116とラジアルリップ117とは、異物がハブベアリング200の空間203内へ侵入することを抑制している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照し説明する。はじめに、
図1及び
図2を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置について説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1の概略構成を示す断面図であり、
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1が例えば自動車において車輪を回転自在に支持するハブベアリング50に取り付けられた状態を示す断面図である。
【0018】
図2に示すようにハブベアリング50は、外周側部材としての軸線xを中心とする環状の外輪51と、内周側部材としての外輪51に対して相対回動可能な軸線xを中心とする外輪51に部分的に包囲された環状のハブ52と、外輪51とハブ52との間に配設された複数のベアリングボール53とを備えている。ハブ52は、具体的には、内輪54とハブ輪55とを有しており、ハブ輪55の車輪取付フランジ56に複数本のハブボルト57によって図示しない車輪が取り付けられる。
【0019】
本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1は、ハブベアリング50の外輪51の内周面とハブ52のハブ輪55の外周面との間に取り付けられている。外輪51の内周面とハブ52の内輪54の外周面との間には、他の密封装置60が取り付けられている。なお、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1は、他の密封装置60に代えて、外輪51の内周面と内輪54の外周面との間に取り付けることも可能である。
【0020】
外輪51とハブ輪55との間の空間5にはハブベアリング50の空間5を密封するように軸線xを中心とする環状の密封装置1が配設されている。密封装置1はハブベアリング50のベアリングボール53等が設けられている領域内からの潤滑剤の漏洩の防止を図ると共に、この領域に雨水や泥水やダスト等の異物が外部から侵入することの防止を図っている。
【0021】
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1は、軸線xを中心とする環状の密封装置本体10と、軸線xを中心とする環状のスリンガ20とを備えている。スリンガ20は、密封装置本体10に対向して、密封装置本体10の外側に配設されている。
【0022】
密封装置本体10は、軸線xを中心とする環状の弾性体から成る弾性体部11と、軸線xを中心とする環状の金属製の補強環12とを備えている。
【0023】
弾性体部11は、補強環12に一体的に取り付けられている。弾性体部11の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。ゴム材は、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。補強環12の金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。
【0024】
ここで、説明の便宜上、外側とは、
図1に示すように、軸線x方向において矢印a方向とし、内側とは、軸線x方向において矢印b方向とする。つまり、外側とは、ハブベアリング50の外部側に面する方向の側であり、異物が存在する大気側に面する方向の側である。内側とは、ハブベアリング50の内部側に面する方向の側であり、空間5に面する方向の側である。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(
図1の矢印c方向)を外周側とし、軸線xに近づく方向(
図1の矢印d方向)を内周側とする。
【0025】
弾性体部11は、
図1に示すように、基体部14と、外周側ラビリンスリップ15と、内周側ラビリンスリップ16と、サイドリップ17と、ラジアルリップ18と、堰部19と、フランジ部21とを有している。基体部14は、径方向に延びる部分である外周側基体部14aと、径方向から傾斜して延びる部分である内周側基体部14bとを有しており、軸線xを中心とするほぼ円盤状に延びて環状に形成された部分である。外周側ラビリンスリップ15は、基体部14において基体部14の外周側の端部の近傍から外側且つ外周側に延びるリップ部分である。外周側ラビリンスリップ15は、後述するように、先端部がスリンガ20の外周側端部20cよりも軸線x方向において外側に位置するように延びている。内周側ラビリンスリップ16は、外周側ラビリンスリップ15よりも内周側に位置し、基体部14から外側且つ外周側に延びるリップ部分である。サイドリップ17は、内周側ラビリンスリップ16よりも内周側に位置し、基体部14の内周側の端部から外側且つ外周側に延びるリップ部分であり、ラジアルリップ18は、基体部14の内周側の端部から内側且つ内周側に延びるリップ部分である。堰部19は、基体部14において基体部14の外周側の端部の近傍から外周側ラビリンスリップ15に背向して内側に形成された部分であり、フランジ部21は、堰部19よりも内周側の位置で基体部14から内側へ延びる部分である。外周側ラビリンスリップ15、内周側ラビリンスリップ16、サイドリップ17、ラジアルリップ18、堰部19及びフランジ部21はいずれも軸線xを中心とする環状に形成されている。
【0026】
補強環12は、軸線xを中心とする環状に形成され、
図1に示すように、外周側の端部に位置する円筒状の円筒部12aと、円筒部12aから内周側に延びる円盤状の円盤部12bと、円盤部12bの内周側端部から内側に延びる円筒状の円筒部12cと、円筒部12cの内側端部から屈曲して
外側に延びさらに内側に屈曲して延びて内周側の端部に至る屈曲部12dとを備えている。補強環12の円筒部12cにおいて、補強環12は外輪51の内周側に嵌着されている。
【0027】
補強環12には、内周側及び外側から弾性体部11が取り付けられており、弾性体部11が補強されている。具体的には、補強環12の円盤部12bと屈曲部12dには、弾性体部11の基体部14が内周側から取り付けられており、補強環12の円筒部12aには、弾性体部11の堰部19が円筒部12aを覆うように取り付けられており、補強環12の円盤部12bと屈曲部12dとには、弾性体部11のフランジ部21が円盤部12bと屈曲部12dに挟まれるようにして取り付けられている。
図1に示すように、屈曲部12dの内周側の内周側端部は、弾性体部11に覆われ埋設されている。弾性体部11の堰部19の内周側の部分は、補強環12の円筒部12aの内周側の部分において、外輪51に嵌着されるガスケット部を形成しており、密封装置本体10が外輪51に圧入された際に、外輪51の外周面と補強環12の円筒部12aとの間において圧縮されて、径方向内側に向かう力を発生する。
【0028】
補強環12は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、弾性体部11は成形型を用いて架橋(加硫)成型によって成形される。この架橋成型の際に、補強環12は成形型の中に配置されており、弾性体部11が架橋接着により補強環12に接着され、弾性体部11が補強環12と一体的に成形される。
【0029】
スリンガ20は、金属製、例えば耐錆性に優れたステンレス鋼製の部材であり、軸線xを中心とする板状の環状の部材である。スリンガ20は、ハブ輪55の車輪取付フランジ56の内側の内周側の端部近傍(付根近傍)の曲周面55aに取り付けられている。曲周面55aは例えば双曲線状の曲面であり、スリンガ20の内周面に密接するような形状を有している。具体的には、スリンガ20は、曲周面55aに沿う形状に形成された軸線xを中心とする環状の曲面部20aと、曲面部20aの外周側の端部から曲周面55aに沿って外周側へ延びる軸線xを中心とする円盤状の円盤部20bとを備えている。具体的には、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1のスリンガ20の曲面部20aと円盤部20bは、曲周面55aに沿って内側から外周側へ連続して形成されている。なお、曲周面55aは、
図1に示すように、円筒表面状の面から曲面となり、径方向に延びる円盤状の面となっている。
【0030】
図1に示すように、密封装置1の外周側ラビリンスリップ15は、スリンガ20の円盤部20bの外周側の端部(外周側端部20c)よりも外周側を通って延びている。具体的には、外周側ラビリンスリップ15は、外周側端部20cよりも外周側を通って外周側端部20cを超えて、先端部がスリンガ20の円盤部20bよりも軸線x方向において外側に位置するように延びている。外周側ラビリンスリップ15の先端部は、ハブ輪55の曲周面55aとの間に微小な間隙31を形成しており、スリンガ20の円盤部20bの外周側端部20cよりも軸線x方向において外側に位置している。このように、外周側ラビリンスリップ15は、ラビリンスシールを形成している。また、外周側ラビリンスリップ15は、外周側ラビリンスリップ15の外周側において内周側に窪む軸線xを中心とする環状の溝部32を形成している。具体的には、外周側ラビリンスリップ15は、その先端部が上記微小な間隙31を空けてハブ輪55の曲周面55aに対向するように延びており、また、外周側ラビリンスリップ15は、径方向において外周側に、スリンガ20の円盤部20bの外周側端部20cに対して間隔を形成してスリンガ20を外周側から覆っている。溝部32は、雨水、泥水及びダスト等の異物が間隙31を通過する手前で捕獲収容し、溝部32に捕獲収容された異物はその自重により落下し、溝部32に捕獲収容された異物を密封装置1の外部へ排出することができる。なお、密封装置本体10が回転する場合は、溝部32に捕獲収容された異物を、ハブベアリング50の回転に伴う遠心力の作用により密封装置1の外部へ排出することができる。
【0031】
堰部19は、外輪51の外周面51aから外周側に突出して軸線xを中心とする環状に形成されている。堰部19は、外周側ラビリンスリップ15との間に上記溝部32を形成しており、具体的には、堰部19の外側の外側面19cが外周側ラビリンスリップ15の外周側の面と共に溝部32を形成している。堰部19の内側面19aは、異物が外部から侵入した場合に防波堤の役割をなし、異物が密封装置1の内部に侵入することを抑制する。堰部19の内側面19aを超えた異物は、堰部19の外周面19b及び外側面19cを伝って溝部32に捕獲収容され、上述のように捕獲収容された異物はその自重によって落下し、密封装置1の外部へ排出される。
【0032】
外周側ラビリンスリップ15と内周側ラビリンスリップ16との間における弾性体部11の基体部14の径方向に延びる部分である外周側基体部14aは、スリンガ20の円盤部20bとの間で径方向に延びる微小幅の間隙26を形成し、間隙26によるラビリンスシールLを形成している。基体部14の外周側基体部14aは、例えば
図1に示すように軸線xを中心とする円環板又は円盤状に形成されており、外側の面において間隙26を空けてスリンガ20の円盤部20bに対向している。
【0033】
内周側ラビリンスリップ16は、外周側ラビリンスリップ15よりも内周側に位置し、その先端においてスリンガ20の曲面部20aとの間に微小な間隙33を形成して、ラビリンスシールを形成している。内周側ラビリンスリップ16は弾性体部11の基体部14との間に内周側ラビリンスリップ16の外周側において内周側に窪む軸線xを中心とする環状の溝部34を形成している。ラビリンスシールLを通過して内周側ラビリンスリップ16に至る異物の一部は溝部34に捕獲収容され、溝部34に捕獲収容された異物はその自重により落下していき、下方に落下した異物は、ハブベアリング50(スリンガ20)の回転に伴う遠心力の作用によりラビリンスシールLを通過して密封装置1の外部へ排出される。なお、密封装置本体10が回転する場合、溝部34に捕獲された異物は、密封装置本体10の回転による遠心力の作用を受け、ラビリンスシールLを通過して密封装置1の外部に排出される。
【0034】
サイドリップ17は、先端部において所定の締め代(接触幅)を持ってスリンガ20の曲面部20aの内側の面に当接し、シール部を形成している。また、ラジアルリップ18は、先端部において所定の締め代を持ってスリンガ20の曲面部20aの外周側の面に当接し、シール部を形成している。内周側ラビリンスリップ16を通過した異物は、サイドリップ17及びラジアルリップ18によって空間5内に侵入することが抑制される。
【0035】
図1に示すように、ハブ輪55の曲周面55aは円盤部20bが位置する近傍で外側へ膨れた段差を形成する形状に形成されており、スリンガ20の円盤部20bと曲周面55aとの間に、内周側に窪む軸線xを中心とする環状の溝隙間部36を形成している。すなわち、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1では、ハブ輪55の曲周面55aの外側へ膨れた形状の部位(段部)を利用することによってスリンガ20が円盤部20bとハブ輪55の曲周面55aとの間に溝隙間部36を形成している。外部から曲周面55aを伝って間隙31を通過して侵入する異物は溝隙間部36に捕獲収容される。溝隙間部36に捕獲収容された異物はその自重により落下し、溝隙間部36に捕獲収容された異物を密封装置1の外部に排出することができる。また、溝隙間部36に捕獲収容された異物、及び自重により落下して溝隙間部36に付着している異物は、ハブベアリング50(スリンガ20及びハブ輪55)の回転に伴う遠心力の作用により密封装置1の外部へ排出される。なお、スリンガ20が回転しない場合においても、溝隙間部36に捕獲収容された異物はその自重により落下するので、溝隙間部36に捕獲収容された異物を密封装置1の外部に排出することができる。
【0036】
次いで、
図3を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2について説明する。
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2の概略構成を示す断面図である。
【0037】
本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2は、上述の本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1と同様に、
図2に示すハブベアリング50に適用される。密封装置2は、ハブベアリング50の外輪51の内周面とハブ52のハブ輪55の外周面との間に取り付けられている。外輪51の内周面とハブ52の内輪54の外周面との間には、他の密封装置60が取り付けられている。なお、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2は、他の密封装置60に代えて、外輪51の内周面と内輪54の外周面との間に取り付けることも可能である。
【0038】
外輪51とハブ輪55との間の空間5にはハブベアリング50の空間5を密封するように軸線xを中心とする環状の密封装置2が配設されている。密封装置2はハブベアリング50のベアリングボール53等が設けられている領域内からの潤滑剤の漏洩の防止を図ると共に、この領域に雨水や泥水やダスト等の異物が外部から侵入することの防止を図っている。
【0039】
図3に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2は、軸線xを中心とする環状の密封装置本体10と、軸線xを中心とする環状のスリンガ40とを備えている。スリンガ40は、密封装置本体10に対向して、密封装置本体10の外側に配設されている。
【0040】
密封装置本体10は、軸線xを中心とする環状の弾性体から成る弾性体部11と、軸線xを中心とする環状の金属製の補強環12とを備えている。
【0041】
弾性体部11は、補強環12に一体的に取り付けられている。弾性体部11の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。ゴム材は、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。補強環12の金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。
【0042】
ここで、説明の便宜上、外側とは、
図3に示すように、軸線x方向において矢印a方向とし、内側とは、軸線x方向において矢印b方向とする。つまり、外側とは、ハブベアリング50の外部側に面する方向の側であり、異物が存在する大気側に面する方向の側である。内側とは、ハブベアリング50の内部側に面する方向の側であり、空間5に面する方向の側である。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(
図3の矢印c方向)を外周側とし、軸線xに近づく方向(
図3の矢印d方向)を内周側とする。
【0043】
弾性体部11は、
図3に示すように、基体部14と、外周側ラビリンスリップ15と、内周側ラビリンスリップ16と、サイドリップ17と、ラジアルリップ18と、堰部19と、フランジ部21とを有している。基体部14は、径方向に延びる部分である外周側基体部14aと、径方向から傾斜して延びる部分である内周側基体部14bとを有しており、軸線xを中心とするほぼ円盤状に延びて環状に形成された部分である。外周側ラビリンスリップ15は、基体部14において基体部14の外周側の端部の近傍から外側且つ外周側に延びるリップ部分であり、内周側ラビリンスリップ16は、外周側ラビリンスリップ15よりも内周側に位置し、基体部14から外側且つ外周側に延びるリップ部分である。サイドリップ17は、内周側ラビリンスリップ16よりも内周側に位置し、基体部14の内周側の端部から外側且つ外周側に延びるリップ部分であり、ラジアルリップ18は、基体部14の内周側の端部から内側且つ内周側に延びるリップ部分である。堰部19は、基体部14において基体部14の外周側の端部の近傍から外周側ラビリンスリップ15に背向して内側に形成された部分であり、フランジ部21は、堰部19よりも内周側の位置で基体部14から内側へ延びる部分である。外周側ラビリンスリップ15、内周側ラビリンスリップ16、サイドリップ17、ラジアルリップ18、堰部19及びフランジ部21はいずれも軸線xを中心とする環状に形成されている。
【0044】
補強環12は、軸線xを中心とする環状に形成され、
図3に示すように、外周側の端部に位置する円筒状の円筒部12aと、円筒部12aから内周側に延びる円盤状の円盤部12bと、円盤部12bの内周側端部から内側に延びる円筒状の円筒部12cと、円筒部12cの内側端部から屈曲して外周側に延びさらに内側に屈曲して延びて内周側の端部に至る屈曲部12dとを備えている。補強環12の円筒部12cにおいて、補強環12は外輪51の内周側に嵌着されている。
【0045】
補強環12には、内周側及び外側から弾性体部11が取り付けられており、弾性体部11が補強されている。具体的には、補強環12の円盤部12bと屈曲部12dには、弾性体部11の基体部14が内周側から取り付けられており、補強環12の円筒部12aには、弾性体部11の堰部19が円筒部12aを覆うように取り付けられており、補強環12の円盤部12bと屈曲部12dとには、弾性体部11のフランジ部21が円盤部12bと屈曲部12dに挟まれるようにして取り付けられている。
図3に示すように、屈曲部12dの内周側の内周側端部は、弾性体部11に覆われ埋設されている。弾性体部11の堰部19の内周側の部分は、補強環12の円筒部12aの内周側の部分において、外輪51に嵌着されるガスケット部を形成しており、密封装置本体10が外輪51に圧入された際に、外輪51の外周面と補強環12の円筒部12aとの間において圧縮されて、径方向内側に向かう力を発生する。
【0046】
補強環12は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、弾性体部11は成形型を用いて架橋(加硫)成型によって成形される。この架橋成型の際に、補強環12は成形型の中に配置されており、弾性体部11が架橋接着により補強環12に接着され、弾性体部11が補強環12と一体的に成形される。
【0047】
スリンガ40は、金属製、例えば耐錆性に優れたステンレス鋼製の部材であり、軸線xを中心とする板状の環状の部材である。スリンガ40は、ハブ輪55の車輪取付フランジ56の内側の内周側の端部近傍(付根近傍)の曲周面55aに取り付けられている。曲周面55aは例えば双曲線状の曲面であり、スリンガ40の内周面に密接するような形状を有している。具体的には、スリンガ40は、曲周面55aに沿う形状に形成された軸線xを中心とする環状の曲面部40aと、曲面部40aの外周側の端部から内側に曲周面55aから離間して外周側に延びる円盤状の軸線xを中心とする円盤部40bとを備えている。密封装置2のスリンガ40の円盤部40bには、円盤部40bの外周側の端部及び外側を覆うように軸線xを中心とする環状の弾性体から成るガスケット部23が設けられている。ガスケット部23は上述の弾性体部11と同様に架橋接着によりスリンガ40に接着されている。ガスケット部23は円盤部40bの外周側の端部(外周側端部40c)を覆う外周端部23aと、円盤部40bの外部を覆い曲周面55aに密着される外側部23bとを有している。
【0048】
図3に示すように、密封装置2の外周側ラビリンスリップ15は、スリンガ40の円盤部40bの外周側端部40c及びガスケット部23の外周端部23aよりも外周側を通って延びている。外周側ラビリンスリップ15の先端部は、ハブ輪55の曲周面55aとの間に微小な間隙31を形成しており、スリンガ40の円盤部40bの外周側端部40cよりも軸線x方向において外側に位置している。このように、外周側ラビリンスリップ15は、ラビリンスシールを形成している。また、外周側ラビリンスリップ15は、外周側ラビリンスリップ15の外周側において内周側に窪む軸線xを中心とする環状の溝部32を形成している。具体的には、外周側ラビリンスリップ15は、その先端部が上記微小な間隙31を空けてハブ輪55の曲周面55aに対向するように延びており、また、外周側ラビリンスリップ15は、径方向において外周側に、スリンガ40の円盤部40bの外周側端部40cに対して間隔を形成している。溝部32は、雨水、泥水及びダスト等の異物が間隙31を通過する手前で捕獲収容し、溝部32に捕獲収容された異物はその自重により落下し、溝部32に捕獲収容された異物を密封装置2の外部へ排出することができる。なお、密封装置本体10が回転する場合は、溝部32に捕獲収容された異物を、ハブベアリング50の回転に伴う遠心力の作用により密封装置2の外部へ排出することができる。
【0049】
堰部19は、外輪51の外周面51aから外周側に突出して軸線xを中心とする環状に形成されている。堰部19は、外周側ラビリンスリップ15との間に上記溝部32を形成しており、具体的には、堰部19の外側の外側面19cが外周側ラビリンスリップ15の外周側の面と共に溝部32を形成している。堰部19の内側面19aは、異物が外部から侵入した場合に防波堤の役割をなし、異物が密封装置2の内部に侵入することを抑制する。堰部19の内側面19aを超えた異物は、堰部19の外周面19b及び外側面19cを伝って溝部32に捕獲収容され、上述のように捕獲収容された異物はその自重によって落下し、密封装置2の外部へ排出される。
【0050】
外周側ラビリンスリップ15と内周側ラビリンスリップ16との間における弾性体部11の基体部14の径方向に延びる部分である外周側基体部14aは、スリンガ40の円盤部40bとの間で径方向に延びる微小幅の間隙26を形成し、間隙26によるラビリンスシールLを形成している。基体部14の外周側基体部14aは、例えば
図3に示すように軸線xを中心とする円環板又は円盤状に形成されており、外側の面において間隙26を空けてスリンガ40の円盤部40bに対向している。
【0051】
内周側ラビリンスリップ16は、外周側ラビリンスリップ15よりも内周側に位置し、その先端においてスリンガ40の曲面部40aとの間に微小な間隙33を形成して、ラビリンスシールを形成している。内周側ラビリンスリップ16は弾性体部11の基体部14との間に内周側ラビリンスリップ16の外周側において内周側に窪む軸線xを中心とする環状の溝部34を形成している。ラビリンスシールLを通過して内周側ラビリンスリップ16に至る異物の一部は溝部34に捕獲収容され、溝部34に捕獲収容された異物はその自重により落下していき、下方に落下した異物は、ハブベアリング50(スリンガ40)の回転に伴う遠心力の作用によりラビリンスシールLを通過して密封装置2の外部へ排出される。なお、密封装置本体10が回転する場合、溝部34に捕獲された異物は、密封装置本体10の回転による遠心力の作用を受け、ラビリンスシールLを通過して密封装置2の外部に排出される。
【0052】
サイドリップ17は、先端部において所定の締め代(接触幅)を持ってスリンガ40の曲面部40aの内側の面に当接し、シール部を形成している。また、ラジアルリップ18は、先端部において所定の締め代を持ってスリンガ40の曲面部40aの外周側の面に当接し、シール部を形成している。内周側ラビリンスリップ16を通過した異物は、サイドリップ17及びラジアルリップ18によって空間5内に侵入することが抑制される。
【0053】
図3に示すように、スリンガ40の円盤部40bは曲面部40aから移行する部位で内側へ変位して形成されており、また、ハブ輪55の曲周面55aは円盤部40bが位置する近傍で外側へ膨れた形状に形成されている。すなわち、密封装置2では、スリンガ40が曲面部40aに対して内側へ変位する円盤部40bを有しており、また、ハブ輪55の曲周面55aが外側へ膨れた形状の部位(段部)を有しており、この結果、スリンガ40の円盤部40bは曲周面55aから離間した位置にある。そして、円盤部40bの外周側端部40cを覆うガスケット部23は、ガスケット部23の外側部23bと対向する曲周面55aとの間に、内周側に窪む軸線xを中心とする環状の溝隙間部36を形成している。外部から曲周面55aを伝って間隙31を通過して侵入する異物は溝隙間部36に捕獲収容される。溝隙間部36に捕獲収容された異物はその自重により落下し、溝隙間部36に捕獲収容された異物を密封装置2の外部に排出することができる。また、溝隙間部36に捕獲収容された異物、及び自重により落下して溝隙間部36に付着している異物は、ハブベアリング50(スリンガ40及びハブ輪55)の回転に伴う遠心力の作用により密封装置2の外部へ排出される。なお、スリンガ40が回転しない場合においても、溝隙間部36に捕獲収容された異物はその自重により落下するので、溝隙間部36に捕獲収容された異物を密封装置2の外部に排出することができる。
【0054】
なお、溝隙間部36を形成するためには、
図3に示す場合のようにスリンガ40が曲面部40aに対して内側へ変位する円盤部40bを有すると共にハブ輪55の曲周面55aが外側へ膨れた形状の部位を有する必要があるとは限らない。例えば、ハブ輪55の曲周面55aが外側へ膨れた形状の部位を有さず曲周面55aが滑らかに連続的に形成されている場合であっても、スリンガ40が曲面部40aに対して内側へ変位する円盤部40bを有するようにすれば、曲周面55aと円盤部40bとの間に溝隙間部36を形成することは可能である。また、ハブ輪55の曲周面55aが密封装置2を設置する位置近傍に外側へ膨れた形状の部位を有する場合には、スリンガ40が曲面部40aのみを有し円盤部40bを有しない場合であっても、ハブ輪55の曲周面55aの外側へ膨れた形状の部位を活用することによってスリンガ40が曲面部40aとハブ輪55の曲周面55aとの間に溝隙間部36を形成することが可能になる。なお、
図1に示す密封装置1においても同様であってもよい。
【0055】
以上、本発明の実施の形態に係る密封装置1,2においては、外周側ラビリンスリップ15は、スリンガ20の円盤部20bの外周側端部20c、又は、スリンガ40の円盤部40bの外周側端部40c及びガスケット部23の外周端部23aよりも外周側を通って延びると共に、外周側ラビリンスリップ15の先端がスリンガ20,40の円盤部20b,40bの外周側端部20c,40cよりも軸線x方向において外側に位置するので、ハブ輪55の曲周面55aとの間に微小な間隙31を形成することが可能になり、ラビリンスシールを形成することができる。このため、微小な間隙31によって異物が侵入しにくくすることができ、外周側ラビリンスリップ15によって、発生するトルク抵抗の増大を回避しつつ、異物の侵入防止機能を向上させることができる。また、外周側ラビリンスリップ15は、スリンガ20,40の円盤部20b,40bと基体部14の外周側基体部14aとの間の間隙26を外周側から覆っているので、より異物の侵入防止機能を向上させることができる。
【0056】
また、外周側ラビリンスリップ15の外周側に溝部32が形成されているので、異物が間隙31に侵入する前に異物を溝部32に捕獲収容することが可能になり、溝部32に捕獲収容された異物をその自重により落下させて密封装置1,2の外部へ排出することができる。
【0057】
また、外輪51の外周面51aから外周側に突出して堰部19が形成されているので、堰部19の内側面19aは異物が外部から侵入した場合に防波堤の役割をなすことができ、異物が密封装置1,2の内部に侵入することを抑制することができる。
【0058】
また、堰部19の外側の外側面19cは外周側ラビリンスリップ15の外周側の面と共に溝部32を形成しているので、堰部19の内側面19aを超えた異物は堰部19の外周面19b及び外側面19cを伝って溝部32に捕獲収容され、溝部32に捕獲収容された異物はその自重により落下し、溝部32に捕獲収容された異物を密封装置1,2の外部へ排出することができる。
【0059】
また、基体部14の外周側基体部14aは、間隙26によるラビリンスシールLを形成しているので、異物の流動抵抗を大きくし異物が空間5内へ侵入することを抑制することができる。
【0060】
また、スリンガ20の円盤部20bの外周側端部20c、又は、スリンガ40の円盤部40bの外周側端部40cを覆うガスケット部23は、ガスケット部23の外側部23bと対向するハブ輪55の曲周面55aとの間に、内周側に窪む軸線xを中心とする環状の溝隙間部36を形成しているので、外部から曲周面55aを伝って間隙31を通過する異物を溝隙間部36に捕獲収容し、溝隙間部36に捕獲収容された異物を、その自重により落下させて密封装置1,2の外部へ排出することができると共に、ハブベアリング50の回転に伴う遠心力の作用により密封装置1,2の外部へ排出することができる。
【0061】
また、内周側ラビリンスリップ16は、弾性体部11の基体部14との間に内周側に窪む軸線xを中心とする環状の溝部34を形成しているので、異物を溝部34に捕獲収容し、溝部34に捕獲収容された異物を下方に落下させ、落下した異物をハブベアリング50の回転に伴う遠心力の作用により密封装置1,2の外部へ排出することができる。また、内周側ラビリンスリップ16は、スリンガ20,40の曲面部20a,40aとの間に微小な間隙33を形成してラビリンスシールを形成しているので、微小な間隙33によって異物が侵入しにくくすることができる。
【0062】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に係る密封装置1,2に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。