(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高強度鋼の冷間加工のための金属加工工具または金属加工部材の基板表面上に堆積されるコーティングであって、前記コーティングは、CrNを備える下層(20)とTiCNを備える上層(30)とを備え、前記下層(20)は前記上層(30)よりも前記基板(1)近くに堆積され、
前記下層(20)は、好ましい(200)配向を有する立方晶構造を示す、酸素に富んだ窒化クロムからなり、
前記上層(30)は、水素に富んだ炭窒化チタンからなり、
前記下層(20)は式CrNyOxに対応する化学組成を有し、前記式において、0.20≦x≦0.45および0.55≦y≦0.8であり、xおよびyは、原子パーセントにおける非金属コーティング成分であるNおよびOの含有量の合計が100at.%、したがってx+y=1であると考えられる場合における、原子パーセントにおける酸素および窒素の割合であることを特徴とする、コーティング。
前記上層(30)はそれの層厚さに沿った様々な化学組成を示し、前記上層(30)の最外表面の方向において、窒素含有量は減少し炭素含有量の増加することを特徴とする、前述の請求項1〜請求項3のいずれかに記載のコーティング。
中間層は前記下層(20)と前記上層(30)との間に設けられ、前記中間層は、前記下層(20)上にCrN層として設けられる第一中間層(41)と、前記第一中間層(41)上にTiCrN層として設けられる第二中間層(42)と、前記第二中間層(42)上にTiCrCN層として設けられる第三中間層(43)とを備える、多層システムであることを特徴とする、前述の請求項1〜請求項4のいずれかに記載のコーティング。
前記第二中間層(42)は互いに交互に1層ずつ堆積されるTiNおよびCrNのナノ層を備える多層システムとして形成され、および/または、前記第三中間層(43)は互いに交互に1層ずつ堆積されるTiCNおよびCrCNのナノ層を備える多層システムとして形成されることを特徴とする、請求項5に記載のコーティング。
アセチレンを含むプロセスガスは中間層(43)および/または前記上層(30)を形成するために用いられる、先行する請求項12および請求項13のいずれかに記載の方法。
【背景技術】
【0004】
従来技術
先進高強度鋼(AHSS)は、〜550MPaから1000MPaを超える範囲の非常に高い引っ張り強度を示し、今日たとえば自動車産業の用途等の多くの産業用途で使用される。
【0005】
高強度鋼を加工することは、研磨磨耗および凝着摩耗の両方に関する特に高い摩耗耐性、ならびに優れた疲労耐性を示す加工部材または加工工具の使用を要求する。
【0006】
高強度鋼の冷間加工を改善するために、現在かなりの量の表面処理および/またはコーティング溶液が市販されている。これらの解決策は、たとえば、プラズマまたは低圧窒化プロセスのような異なる窒化方法を用いる表面の硬化と、PVD、CVDおよび他の堆積方法によって製造されるアルミニウムクロムとアルミニウムチタンとの複合合金によるコーティングとを備える。しかしながら、これらの解決策のいずれも、特にAHSSの冷間加工およびHSLA(高強度低合金鋼)の冷間加工のための疲労耐性および摩耗耐性に関する要件を増大させることを伴う、現在の要求を満たさない。
【0007】
一方で、窒化プロセスを用いる前述の表面硬化方法は、Fe
2-3Cを備える化合物層の形成および層間剥離を頻繁にもたらす。他方では、それらの単独での状況における既知のコーティングの使用は、AHSSの加工のために必要なほど十分に優れているわけではない。より賢い解決策は、表面硬化処理(たとえば窒化)および保護コーティング層(たとえばPVD−、CVD−、または類似の製造された層)の組み合わせであり得る。
【0008】
この点について、Escherら(第6回国際工具会議議事録、2002、カールスタート、ISBN 9189422821、9789189422827、771頁)は、シート金属加工用途のための主な要件として、低摩擦係数および低表面粗さを有するPVDコーティングを用いることによる凝着摩耗の低減を確認する。Escherらによれば、たとえば窒化による、または硬質の保護PVDコーティングを適用することによる工具の表面硬化は、工具の凝着摩耗に対して有利であると考えられる。Escherらは、様々なCVDおよび/またはPVDコーティングで低摩擦および高硬度を達成するためのいくつかの試みを開示する。表面硬化は、CVD炭化チタン(TiC)層を適用することによってうまく増大される。凝着摩耗はCVD−TiCとCVD−窒化チタン(TiN)層とからなる二層コーティングを用いることによって低減されることができる。靱性は、別の方法で堆積されるいくつかのCVD−TiC層とCVD−TiN層とからなる多層コーティングを用いることによって、明確に影響され得る。これらのコーティングは、CVDコーティングプロセスの間に必要な高温のために、工具鋼上にほとんど適用され得ないので、PVDの低温プロセスルーチンが評価される。Escherらによれば、PVD−TiNコーティングは約2400HVの不十分な低硬度を示し、約3000HVの硬度を示すPVD炭窒化チタン(TiCN)を加工するために炭素の添加によって増大され得る。さらに、Escherらは、約2000〜2200HVであるPVD窒化クロム(CrN)コーティングの低硬度にもかかわらず、この種類のコーティングが約6〜9μmの増大されたコーティング厚さを有する工具表面上に堆積する場合、この種類のコーティングは将来有望であると考えられ得る。
【0009】
しかしながら、Escherらによって提案されたものではないコーティングは、今日いくつかの産業用途(たとえば、自動車用途)において用いられる冷間金属加工プロセスの高く求められる要件を満たすことができ、したがって、満足な解決策を提供するコーティングを発展させることは、工具産業にとって最優先である。
【0010】
より最近は、Janossらは、WO2014/065892において、AHSS合金の加工のために用いられる金属加工部材の性能を向上させるための保護コーティングシステムの使用を提案する。提案されたコーティングシステムは、疲労耐性、摩耗耐性、摩擦耐性に関する前述の特性を組み合わせることが期待される。コーティングシステムは、少なくとも1つのドーパントでドープされた窒化クロムを備える金属加工部材上に配置される第一層と、低合金鋼に対して測定されるときに0.2以下の摩擦係数を有する潤滑性材料を備える第一層の上に配置される第二層とを備える。ドーパントは、W、V、Ti、Zr、Co、MoおよびTaのうちの1つ以上からなる群から選択されることができる。第二層はTiCNからなり得る。WO2014/065892に従うドープされたCrNコーティングは、ドープされたCrNの亀裂耐性の要因であると考えられる多数の配向の非柱状構造を有することを期待される。ドープされていないCrNがXRDパターンにおいて強い好ましい(220)配向を示す一方、ドープされたCrN膜は、多数の検出された配向、すなわち、わずかに好ましい(220)配向とともに、(111)、(200)および(220)を有すると確認された。ドーパントは、1〜10原子パーセントの範囲、好ましくは3〜7at.%の範囲、より好ましくは5at.%のドーパント含有量で存在し得る。コーティングシステムの全体の硬度は、約3600〜3800HVでなければならない。
【0011】
低合金鋼に対して測定されるときに0.2以下の摩擦係数を達成することは容易ではなく、コーティングパラメータおよび/またはコーティング技術の選択に関する望ましくない制限を伴う。
【0012】
これらの理由から、AHSSおよびHSLAの冷間加工作業の間のより高い摩耗耐性および疲労耐性を達成するために、冷間加工工具の性能を改善することを可能にする新しいコーティングを開発する必要が依然としてある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい実施形態の概略図は、
図1に示される。このコーティング10は、5つの層20,30,41,42,43を備える。下層20は基板1の表面上に直接設けられ、上層30は最外層として設けられる。これら2つの層20,30は、機能層として数えられる。3つの中間層41,42,43は、主として機能層20,30間の接着を強化するために設けられる。
【0018】
図1に示されるような中間層41,42,43の全体の厚さは、たとえばコーティング10の全体の厚さの約5〜20%であり得る。これは、たとえばコーティング10の全体の厚さ(
図1のコーティングシステム10に存在する全ての層の厚さの合計、すなわち、下層20の厚さ+第一中間層41の厚さ+第二中間層42の厚さ+第三中間層43の厚さ+上層30の厚さ)が約10μmである場合、中間層41,42,43の厚さの合計は約1μmであり得る。しかしながら、この例は本発明の限定として見られるべきではない。
【0019】
図2aおよび
図2bは、
図1に概略的に示されるような層構造を有するコーティングのSEMマイクログラフを示す。
【0020】
下部機能層20は、加工工具または加工部材の表面上に直接設けられ得、好ましくはCrNO
x(0.20<x<0.45)の一般式に対応する化学組成を有する、好ましくは酸素がドープされた窒化クロム層(本発明の文脈においてCrON層とも呼ばれる)である。ここでxは、原子パーセントにおける非金属コーティング成分であるNおよびOの含有量の合計が100at.%であると考えた場合における、原子パーセントにおける酸素の割合である。これは、たとえば、酸素に富んだ窒化クロムからなる下部機能層20の原子パーセントにおいて測定される組成の全体の濃度が、43at.%のクロム、42at.%の窒素および15at.%の酸素である場合に、xは0.263であることを意味する。
【0021】
本発明の文脈において、酸素がドープされた層または水素がドープされた層の用語は、酸素に富んだ層または水素に富んだ層の用語と同様の意味を有する。これは、たとえば、本発明の文脈において、酸素がドープされた窒化クロム層は酸素に富んだ窒化クロム層であり、酸素に富んだ窒化クロム層は窒化クロムを大部分として備えるが酸素も備える層であると理解されるべきであることを意味する。同様に、これは、たとえば、本発明の文脈において、水素がドープされた炭窒化チタン層は水素に富んだ炭窒化チタン層であり、水素に富んだ炭窒化チタン層は炭窒化チタン層を大部分として備えるが水素も備える層であると理解されるべきであることを意味する。
【0022】
上部機能層30は、好ましくは、チタン、炭素、窒素またはより好ましくは、チタン、炭素、窒素および水素を備える。最後の場合、その化学組成は、好ましくは一般式TiC
pN
q:H
z(0.6≦p+q≦0.8、0.33≦p/q≦4および0.2≦z≦0.4)を満たす。ここで、p、qおよびzは、非金属コーティング組成を意味し、それらの合計は金属組成チタンに対して100%に標準化される。
【0023】
好ましくは、上部機能層30の炭素含有量および窒素含有量は、層の底部から上部に向かって変化する。より具体的には、炭素含有量は底部から上部に向かって増加し、一方、窒素含有量は上層30内の底部から上部に向かって減少する。
【0024】
好ましくは、第一中間層41、第二中間層42および第三中間層43は、それぞれ、窒化クロム(CrN)、窒化チタンクロム(TiCrN)、および炭窒化チタンクロム(TiCrCN)または水素に富んだ炭窒化チタンクロム化合物からなる。
【0025】
好ましくは、第二中間層および第三中間層のクロム含有量は、第二中間層42の底部から第三中間層43の上部に向かう厚さにわたって減少し、好ましくは50at.%の濃度〜ゼロの濃度であり、全ての非金属元素および非金属元素の測定された濃度を考慮する。
【0026】
好ましくは、第二中間層および第三中間層のチタン含有量は、第二中間層42の底部から第三中間層43の上部に向かう厚さにわたって増加し、好ましくはゼロの濃度〜40at.%の濃度であり、全ての金属および非金属元素を考慮する原子パーセントで測定される濃度である。
【0027】
本発明のさらに好ましい実施形態に従えば、コーティング10は、少なくとも1つ以上の窒化クロム(CrN)層、好ましくは、基板1と下部機能層20との間に中間層として堆積される、化学量論的なCrNを備える。
【0028】
本発明のコーティングは、好ましくは、たとえばマグネトロンスパッタリングおよび/またはHIPIMSおよび/またはアークPVDの、物理蒸着(PVD)法によって堆積されることができる。
【0029】
特定の例では、本発明に従うコーティングは、CrおよびTiからなる元素金属ターゲットを備えるアーク源を用いることによって製造された。下部機能層20を堆積するために、1つ以上のCrターゲットが、酸素に富んだCrNを形成するための反応性ガスとして本質的に酸素と窒素とを備えるコーティング室で、アーク蒸着された。第一中間層41を堆積するために、窒素流のみがコーティング室の中に反応性ガスとしてさらに導入され、酸素流はCrNを形成するために導入されなかった。さらに第二中間層42を堆積するために、1つ以上のTiターゲットがTiCrNを形成するために窒素反応性雰囲気でアーク蒸着された。第三中間層を堆積するために、炭素包含ガス、この場合はアセチレン流がTiCrCNを形成するためにコーティング室に導入された。上部機能層30を堆積するために、窒素流は徐々に減少され、アセチレン流はTiCNを形成するために徐々に増加された。
【0030】
本発明に従う他のコーティングは、上記に説明されたような類似のコーティングプロセスを用いることによって堆積された。しかし、その中で、第三中間層43の堆積を備えるステップの間に既に、窒素流は徐々に減少された。
【0031】
発明者は、驚くことに、上記に説明されたような本発明のコーティングを製造することによって、水素に富んだTiCN層が堆積され、冷間加工工具および冷間加工部材の性能を保護し向上するための特別に優れた特性を示したことを観察した。特にAHSS金属シートの加工によって観察した。上記に説明されたように堆積される炭素包含層で検出される水素含有量は、これらの層を合成するための炭素包含ガスとして用いられるアセチレンガスから生じると考えられる。
【0032】
発明者は、負の基板バイアスがコーティングプロセスの間に印加されるときに、特に有利なコーティング特性が達成されることができ、特にこのような方法では、第一機能層20を堆積する場合、負の基板バイアスが上部機能層30を堆積する場合よりも低い絶対値で調整されるということを観察した。
【0033】
特に優れたコーティング性能は、CrONからなる下部機能層20の堆積の間に40〜100Vの間、特に50〜80Vの間の絶対値を有する負の基板バイアスを印加することによって、および水素に富んだTiCNから本質的になる上部機能層30を堆積するために絶対値で70〜150Vの間、特に80〜120Vの間のレベルまで負の基板バイアスが増加することによって、達成された。
【0034】
また、有利なコーティング性能は、下部機能層20を堆積するために用いられる低いバイアスレベルから上部機能層30を堆積するために用いられるより高いバイアスレベルまで、徐々に負の基板バイアスを増加することによって得られた。
【0035】
本発明に従うコーティングを堆積するための方法の好ましい実施形態は、下部機能層20を堆積するために用いられる低いバイアスレベルから上部機能層30を堆積するために用いられるより高いバイアスレベルまで、負のバイアス電圧を増加することを備える。この方法では、増加は第二中間TiCrN層42の堆積にわたって行なわれる。バイアス電圧のこの増加は、たとえば徐々に行なわれることができる。
【0036】
工具の性能のさらなる向上を達成するために、いくつかの冷間工具は、本発明に従うコーティングの堆積の前に窒化プロセスを用いることによって硬化された。
【0037】
窒化工程および冷間プロセス工程の両方は、同じコーティング機で実施される。しかしながら、先行する窒化機における窒化工程、続いてPVDコーティングプロセスのために適合される別個のコーティング機におけるコーティング工程を実施することによって、それを行なうことも可能である。
【0038】
本発明の範囲内で製造され、検査され、テストされるコーティングの大部分は、Oerlikon Balzers社のタイプInnovaのコーティング機で製造された。しかしながら、本発明に従うコーティングはあらゆる種類のコーティング機、特に反応性PVDコーティングプロセスの実行を可能にするあらゆる種類のコーティング機で堆積されることができるため、これは本発明の範囲の制限として理解されるべきではない。発明のコーティングは、たとえば、同社のタイプBAI1200およびBAI1200XLのコーティング機でも堆積されることができた。
【0039】
本発明のショーケースとして、以下に説明されるような特性を有するいくつかの発明のコーティングが、製造され、検査され、テストされた。しかしながら、これらの特性は、本発明の範囲に対する制限としては決して理解されない。
【0040】
CrNの下部機能層20の厚さは、4〜5.5μmの範囲であった。機械的特性の観点から、この層は、それぞれ約30±2GPaおよび292±9GPaの、硬度(HIT)および弾性率(EIT)を示し、約10〜15nmの粒径(XRD検査を用いることによって測定された)を有する粒子を備える微粒子構造を示した。
【0041】
水素を包含するTiCNの上部機能層30の厚さは、2.8〜3.2μmの範囲であった。この層の硬度(HIT)および弾性率(EIT)は、底部から表面に向かって変化し、それぞれ33〜55GPaおよび330〜420GPaの範囲であった。非研磨状態のかつ100Cr6鋼に対する摩擦係数(COF)が決定され、得られる値は約0.5±0.1であった。このCOF値は、100Cr6鋼球および通常の負荷10Nおよび30cm/秒の線速度を用いて室温で実行される、ピン・オン・ディスクテスト(pin-on-the-disc test)において決定された。
【0042】
中間層41,42,43の総厚さ(第一層、第二層および第三層の厚さの合計)は、0.7〜1μmの間で変化した。中間層の各層の厚さも変化した。第一中間層41の厚さと第三中間層43の厚さとが類似で、第二中間層42の厚さがより厚いとき、いくつかの場合で特に優れた結果が得られた。しかしながら、この観察は、本発明の制限として理解されるべきではない。
【0043】
図3は、本発明に従い堆積される、酸素に富んだCrN膜(本発明の文脈においてCrON膜またはCrON層としても呼ばれる)のシータ/2シータ解析パターンを示す。酸素に富んだCrN膜は、好ましくは下部機能層20として堆積されることができる。コーティングは立方晶構造を有し、(111)反射に対する(200)のピーク強度比は24〜40で変化する。基板ピークは、CrON膜に対応するピークとの区別を容易にするために、矩形とともに
図3に示される。
【0044】
摩耗および疲労に対する総コーティングの耐性は、衝撃摺動テスト(impact-sliding test)を用いてテストされた。衝撃摺動テストでは、10mm径を有するSAE52100鋼球がぶつかり、規定された機構でコーティングの表面上で摺動する。球は、200〜400Nの衝撃負荷でコーティング表面にぶつかり、次に0.1秒の時間枠で約3〜4mm下側に摺動する。衝撃は、テストされるべきコーティングされた表面に対して垂直方向の動きを描くように、またはテストされるべきコーティングされた表面に対して斜めの角度の動きを有するように製造され得る。衝撃は、3000または5000サイクル繰り返され得る。より厳しいテスト条件では、衝撃負荷は、300〜600Nまで増加され得る。このテストの方法を用いて、疲労亀裂、凝着摩耗、コーティング剥離および完全な層間剥離等のいくつかのコーティング不良機構が確認され得る。
【0045】
このテストを用いることによって、発明者は、従来技術に属し、現在AHSS金属の冷間金属加工のために用いられている他のコーティングと比較して、本発明のコーティングの優位性を決定した。
【0046】
本発明のコーティングの優位性は、ストリップ絞り加工テスト(strip-drawing test)によっても実証された。
【0047】
冷間加工鋼1.2379からなる冷間加工工具および冷間加工部材上の本発明に従い堆積されるコーティングは、初期実験において、TiCrN系のコーティングおよびCrN系のコーティングと比べて約〜30%より優れた性能を示した。比較工業テストでは、上記に述べられた比較のコーティングを用いることによっては50000部品しか製造されることができなかった一方、本発明のコーティングは、疲労を示すことなく64000部品の製造を可能にする。
【0048】
本発明のさらなる詳細および好ましい実施形態
本発明の一つの好ましい実施形態に従えば、下部機能層20は、CrN
yO
xの一般式によって与えられる化学組成を有する。xおよびyはそれぞれ、0.20≦x≦0.45および0.55≦y≦0.8の条件を満たし、ここでxおよびyは、非金属コーティング成分である酸素および窒素の原子の割合をそれぞれ意味し、これらの原子の割合は金属コーティング成分であるクロムに対してOおよびNの原子含有量の合計が1に標準化されるとき得られる。
【0049】
前述の文献が、好ましい(220)配向を得るために10at.%未満のドーパントレベルを有するドープされたCrNを目指すことを報告する一方、発明者は驚くべきことに、ドープされたCrN層における全体の元素組成を考慮して、10at.%よりも多いレベルでドーパント元素として酸素を用いることによって、そのことを見出した。したがって、特に酸素がドープされた層が化学式CrN
yO
x層(0.20≦x≦0.45)によって記載されるような組成を有するとき、
図3に見られることができる、好ましい(220)配向の形成をもたらすことができる。これは、思いがけず、加工工具作業のための非常に安定した下部機能層としての要件を満たす。(200)/(111)反射の好ましいピーク強度比は、10〜50、より好ましくは24〜40で変化する。
【0050】
好ましくは、CrN
yO
xは、下部機能層20の厚さの全体の範囲にわたって化学量論的である。窒素に対する酸素の比率が下部機能層20内で一定である場合、特に優れた結果が得られ得ることが見出された。これは、たとえばCrN
yO
x層の堆積の間に固定された比率における酸素に対する窒素のガス流を調整することによって、達成されることができる。
【0051】
本発明の別の好ましい実施形態では、CrN
yO
x層20は、
図3における(200)反射のピークフィッティングから得られるような、8〜16nm、より好ましくは10〜12nmの間の粒径を示す。この粒径の範囲では、特に優れた機械的特性が得られた。
【0052】
本発明の好ましい実施形態に従えば、ドーパントのないCrN中間層は、基板1と下部機能層CrN
yO
x20との間に堆積され、工具基板の意図されない酸化を回避し、機能層の接着を著しく向上することができる。
【0053】
本発明の好ましい実施形態に従えば、下部機能層20の厚さは全体のコーティング厚さの約49〜59%である。下部機能層の部分は、6μmより大きい総厚さの相対的に厚いコーティングの成長の間に、本発明のコーティングの亀裂耐性および圧力制御の向上を可能にする。
【0054】
本発明のさらに好ましい実施形態に従えば、中間層41,42,43の厚さの合計は全体のコーティング厚さの約11〜18%である。中間層41,42,43の詳細は、
図5のSEMマイクログラフにおいて示される。それは、中央のTiCrN化合物層42が、下にあるCrN層41および上にあるTiCrCN層43の厚さのほぼ2倍を有することを示す。底層のCrON層20から上層のTiCN:H層30までの滑らかな遷移を有するために、チタンおよび炭素の含有量が増加する一方でクロムおよび窒素の含有量は減少する。クロムおよび窒素の含有量は、層43のより薄いCrCNナノ層に対する、層42のより厚いCrNナノ層の相対的な比較によって、概略的に再現される。チタンおよび炭素の含有量は、42のより薄いTiNナノ層に対する、層43のより厚いTiCNナノ層の相対的な比較によって概略的に再現され、水素を備えることができる。この精巧な中間層の概念は、水素がドープされたTiCN:H層30の最適化された接着を可能にし、加工工具用途におけるコーティングの全体の性能の向上を可能とする。
【0055】
本発明のさらに好ましい実施形態に従えば、上部機能層TiCN:H層30の厚さは全体のコーティング厚さの約27〜36%である。本発明のコーティングの性能の著しい改善は、コーティングの上層が総コーティング厚さの50%未満、好ましくは27〜36%の間である場合に、達成されることができる。
【0056】
本発明のさらに好ましい実施形態に従えば、上部機能TiCN:H層30は、立方晶構造と、10〜20の(200)反射に対する(111)のピーク強度比とを有する。これは、
図4において、シータ/2シータのX線回折パターンで見られることができる。強度値は、バックグラウンド信号の削減後のピークフィッティングによって得られた。優れた機械的特性は、0.8の形状因子でシェラーの式(Sherrer equation)を用いて、(200)反射からの前述されたピーク評価によって得られるような、粒径が5〜30nm、より好ましくは5〜20nmの間、最も好ましくは5〜8nmの間の範囲であるとき、上層30から得られる。
【0057】
好ましくは、化学組成TiC
pN
qH
zを有する上部機能層30における非金属コーティング成分であるC,NおよびHの濃度に対応する構造係数の合計は、条件p+q+z=1を満たす。さらに、最外層30は、上部機能層30の最外表面に向かって増加する炭素および減少する窒素を有する、炭素および窒素の勾配を有し得る。発明者は、コーティングの表面に向かって、増加する炭素含有量、わずかに減少する窒素含有量が、TiC
pN
qH
z層の硬度(HIT)および弾性率(EIT)を増加させることを見出した。驚くべきことに、100Cr6鋼に対する非研磨状態におけるTiC
pN
qH
z層の摩擦係数は、約0.5±0.1であった。
【0058】
衝撃摺動テストからの結果は上記に述べられ、疲労亀裂、凝着摩耗、コーティング剥離および完全な層間剥離等の潜在的なコーティング不良機構が評価された。発明のコーティングのいくつかの例は、従来技術のTiAlNおよびTiCrN系のコーティングに対してテストされた。いくつかの結果は
図6に提示される。市販のコーティングがはるかに少ない数のサイクルにおいて既に不良となった一方、発明のコーティングの実施例は最多の衝撃摺動のためのテストに耐えることができたことが明確に見られることができる。
【0059】
本発明に従うコーティングのいくつかは、さらに、TiCrN系の参照のコーティングでコーティングされた工具と比較して、1180MPaの二層AHHSシート金属の加工において用いられる工具寿命の数回の顕著な増加を示す。類似のテストは現在、市販のTiCrNコーティングならびに競合のコーティングでコーティングされた工具の工具寿命に対して、200〜400%の範囲で増加された工具寿命の結果を用いて実施されている。
【0060】
本発明に関するコーティングが、たとえば深絞り(deep drawing)、パンチ(punching)、圧縮(pressing)、アイロン(ironing)、縁取り(trimming)、曲げ(bending)、スタンプ(stamping)またはこのようなものによる、たとえば金属箔、シート、プレートまたはブロックの加工等の、特に高強度鋼の冷間加工作業のための加工工具または加工工具部材状に塗布されることができる。
【0061】
本発明は具体的に以下を開示する。
−金属加工工具または金属加工部材のための発明のコーティングであって、特に高強度鋼の冷間加工のために用いられることができ、コーティングはCrNを備える下層20とTiCNを備える上層30とを備え、前記下層20は前記上層30よりも金属加工工具1の基板表面近くに堆積され、
下層20は、好ましい(200)配向を有する立方晶構造を示す、酸素に富んだ窒化クロムからなり、
上層30は、水素に富んだ炭窒化チタンからなる、コーティング。
【0062】
−上述された本発明のコーティングの好ましい実施形態であって、下層20は化学式CrN
yO
xに対応する化学組成を有し、0.20≦x≦0.45および0.55≦y≦0.8であり、xおよびyは、原子パーセントにおける非金属コーティング成分であるNおよびOの含有量の合計が100at.%、したがってx+y=1であると考えられる場合における、原子パーセントにおける酸素および窒素の割合である、好ましい実施形態。
【0063】
−上述された本発明のコーティングのさらなる好ましい実施形態であって、下層20は化学式CrN
yO
xに対応する化学組成を有し、0.20≦x≦0.45、好ましくは0.25<x<0.40であり、原子パーセントにおける非金属コーティング組成のNおよびOの含有量の合計が100at.%、したがってx+y=1であると考えられる場合における、xおよびyは原子パーセントにおける酸素および窒素の割合である、さらなる好ましい実施形態。
【0064】
−上述された本発明のコーティングのいずれかに従うコーティングであって、上層30は式TiC
pN
qH
zを満たす化学組成を有し、0.6≦p+q≦0.8、0.33≦p/q≦4、および0.2≦z≦0.4であり、p、qおよびzは非金属コーティング成分を意味し、それらの合計は金属成分チタンに対して100%に標準化される、コーティング。
【0065】
−上述された本発明のコーティングのいずれかに従うコーティングであって、上層30はそれの層厚さに沿って様々な化学組成を示し、前記上層30の最外表面の方向における窒素含有量の減少および炭素含有量の増加を示すことを特徴とする、コーティング。
【0066】
−上記に直接的に説明された本発明のコーティングの好ましい実施形態であって、上層30は炭素および窒素の勾配濃度を示し、層の最外層に向かって炭素含有量は増加し窒素含有量は減少し、水素含有量は0.2≦z≦4内のままである、好ましい実施形態。
【0067】
−上述された本発明のコーティングのいずれかに従うコーティングであって、中間層は下層20と上層30との間に設けられ、中間層は、下層20上にCrN層として設けられる第一中間層41と、第一中間層41上にTiCrN層として設けられる第二中間層42とを備え、前記第二中間層42は互いに一層ずつ交互に堆積されたTiNナノ層およびCrNナノ層を含み、前記中間層は、第二中間層42上にTiCrCN層として設けられる第三中間層43を備え、前記第三中間層43は互いに1層ずつ交互に堆積されたTiCNナノ層およびCrCN層を含む、多層システムである、コーティング。
【0068】
−上記に直接説明された本発明のコーティングの好ましい実施形態であって、第三中間層43は水素を包含する、好ましい実施形態。
【0069】
−上記に説明されたような多層システムとして堆積される中間層を備える上記の本発明のコーティングのいずれかの好ましい実施形態であって、炭素含有量は中間層43から上層30の最外表面まで徐々に増加する、好ましい実施形態。
【0070】
−CrN
yO
xの下層20を備える上述された発明のコーティングのいずれかに従うコーティングであって、前記下部機能層20は10〜50の範囲における、好ましくは24〜40のサブ範囲における(200)/(111)のXRD強度比を示す、コーティング。
【0071】
−TiC
pN
q:H
zの上層30を備える上述された発明のコーティングのいずれかに従うコーティングであって、上部機能TiC
pN
q:H
z層30は好ましい(111)配向を有する立方晶構造を示し、好ましくは5〜20の範囲における、より好ましくは11〜15のサブ範囲における(111)/(200)のXRD強度比を特徴とする、コーティング。
【0072】
−上述された発明のコーティングのいずれかによるコーティングであって、下部機能層20は5〜30nmの範囲における、好ましくは8〜20nmのサブ範囲における、より好ましくは10〜15nmのサブ範囲における、(200)反射からの粒径を示す、コーティング。
【0073】
−上述された本発明のコーティングのいずれかに従うコーティングであって、上部機能層は5〜30nm、より好ましくは5〜20nmの間、最も好ましくは5〜8nmの間の(200)反射からのXRD粒径を示す、コーティング。
【0074】
−上述された本発明のコーティングのいずれかに従うコーティングであって、総コーティング総厚さは4〜40μm、好ましくは6〜30μmの間である、コーティング。
【0075】
−上記に説明された本発明のコーティングの好ましい実施形態であって、下部20の厚さがコーティングの総層厚さの49〜59%に対応する値である、好ましい実施形態。
【0076】
−上記に説明された本発明のコーティングの好ましい実施形態であって、下層20と上層30との間の中間層として用いられる多層システムを形成する中間層41,42,43の厚さの合計は、コーティング総層厚さの11〜18%に対応する値である、好ましい実施形態。
【0077】
−上記に説明された本発明のコーティングの好ましい実施形態であって、上層30の厚さはコーティングの総層厚さの27〜36%に対応する値である、好ましい実施形態。
【0078】
−上記に説明された本発明のコーティングの好ましい実施形態であって、コーティングは、窒化クロムの中間層、好ましくは、下層20下に配置され、コーティングの接着を向上させるために金属加工工具1の基板表面と下部機能層20との間に堆積されることとなる、量子論的なCrNをさらに備える、好ましい実施形態。
【0079】
−上述された発明のコーティングのいずれかに従うコーティングでコーティングされる、発明の金属加工工具または金属加工部材。
【0080】
−発明の金属加工工具または金属加工部材の好ましい実施形態であって、コーティングが堆積される加工工具1の基板表面は窒化された鋼表面である、好ましい実施形態。
【0081】
−上述された発明のコーティングのいずれかに従うコーティングを形成するための発明の堆積方法であって、金属加工のために用いられる金属加工工具または加工部材の基板表面はPVDプロセスを用いることによってコーティングされ、堆積方法はガス抜きと、加熱Arイオンエッチングと、CrN
yO
xの下部機能層20の堆積と、多層システム41,42,43としての中間層の堆積と、水素に富んだTiC
pN
q:H
zの上部機能層30の堆積とを備える、堆積方法。
【0082】
−上述された発明のコーティング方法の好ましい実施形態であって、前記PVDプロセスは陰極アーク蒸着またはスパッタリングまたはHIPIMSプロセス、またはそれらの組み合わせである、好ましい実施形態。
【0083】
−上記に直接的に説明された本発明のコーティング方法の好ましい実施形態であって、負のバイアス電圧は、コーティングされるべき基板において印加され、下部機能層20の堆積の間に−40V〜−100Vの間で一定の第一レベルで保たれ、負のバイアス電圧はその後−70V〜−150Vの間で第二レベルまで絶対値を増加させ、上部機能層30の堆積のためのこの第二レベルで一定に保たれ、第二レベルは第一レベルよりも高い、好ましい実施形態。
【0084】
−上記に直接的に説明された本発明のコーティング方法の好ましい実施形態であって、負のバイアス電圧は第二中間層(42)内から徐々に絶対値を増加させる、好ましい実施形態。
【0085】
−上記に説明された本発明のコーティング方法のいずれかの好ましい実施形態であって、コーティングされるべき基板表面の窒化プロセスはArイオン基板エッチングの前に行なわれる、好ましい実施形態。
【0086】
−上記に説明された本発明のコーティング方法のいずれかの好ましい実施形態であって、プロセスガスは中間層43および/または上部機能層30を堆積するためのPVDプロセスを実施するために用いられ、用いられたプロセスガスはアセチレンを含む、好ましい実施形態。
【0087】
−上記に直接説明された本発明のコーティング方法の好ましい実施形態であって、アセチレン流は中間層43の堆積から上部機能層30の最外表面の堆積に向かって徐々に増加される、好ましい実施形態。