(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、コーティング層の気孔率が大きくなるようにコーティング材の粒径を調整することで基材からのコーティング層の剥離を抑制している。すなわち、大粒径のコーティング材を用いてコーティング層を「疎」にすることによって、基材とコーティング層の熱膨張差を緩和し、コーティング層の剥離を抑制している。その結果、特許文献1は、コーティング層を形成した後の表面研磨が必要となり、製造工程を煩雑にしている。なお、小粒径のコーティング材を用いればコーティング層の表面研磨を省略することが可能となるが、その場合、気孔率が小さくなり、コーティング層の剥離を抑制することができない。そのため、簡易に製造可能であるとともにコーティング層の剥離が抑制された焼成用セッターが必要とされている。本明細書は、従来にない技術的思想に基づき、コーティング層の剥離が抑制された新規な焼成用セッターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、基材表面に種々の条件でコーティング層を形成し、コーティング層の剥離性について評価した結果、基材とコーティング層の結合面積がコーティング層の剥離の起こり易さに大きな影響を及ぼしていることを見出した。すなわち、基材とコーティング層の結合面積を所定範囲に調整することにより、基材からのコーティング層の剥離が大幅に抑制されることが判明した。本明細書で開示する焼成用セッターは、上記知見に基づくものである。
【0006】
本明細書で開示する焼成用セッターは、SiCとSiを主成分とする基材と、基材の表面を被覆しているとともにZr化合物とAl化合物を主成分とするコーティング層を備えていてよい。この焼成用セッターでは、基材とコーティング層の結合面積が、基材表面の面積に対して20%以上80%以下であってよい。
【0007】
上記焼成用セッターは、基材とコーティング層の結合面積が20%以上80%以下であり、従来の焼成用セッターよりも結合面積が大きい。なお、従来は、基材とコーティング層の結合面積が10%未満であり、上記焼成用セッターと比較して結合面積が小さい。上記焼成用セッターは、基材とコーティング層の結合面積を大きくすることにより、基材とコーティング層の熱膨張差に基づく両者の剥離を抑制している。また、上記焼成用セッターは、基材とコーティング層の結合面積を調整することによって両者の剥離を抑制しているので、コーティング材の粒径を制限する必要がない。そのため、小粒径のコーティング材を用いることができ、コーティング層を形成した後の研磨を省略することもできる。なお、本明細書でいう「主成分」とは、対象となる部材中に、主成分である材料が50質量%以上含まれていることを意味する。例えば、「SiCとSiを主成分とする基材」とは、基材中に、SiCとSiの合計が、50質量%以上含まれていることを意味する。
【0008】
コーティング層は、Zr化合物を主成分とする表層と、表層と基材の間に設けられているAl化合物を主成分とする中間層を含んでいてよい。この場合、表層は、被焼成物との反応を抑制する反応抑制層として機能する。また、中間層は、表層と基材の間に生じる熱応力(熱膨張差)を緩和する応力緩和層として機能する。コーティング層が表層と中間層を備えることにより、基材からのコーティング層の剥離をより確実に抑制することができる。なお、表層はZr化合物を主成分とし、中間層はAl化合物を主成分とすることにより、SiCとSiを主成分とする基材に対して、熱膨張率が、基材,中間層,表層の順に大きくなる。表層及び中間層を上記材料とすることにより、中間層が応力緩和層として好適に機能する。
【0009】
中間層は、微量成分としてFe,Si,Ca,Na,Mg,Kの少なくとも1つの元素を含んでいてよい。また、中間層に含まれる微量成分は、中間層の表層側と比較して、中間層の基材側に多く存在していてよい。中間層が微量成分として上記元素を含むことにより、基材と中間層の間にガラス層が形成され易くなり(基材と中間層の接触部分がガラス化し易くなり)、基材と中間層が良好に接合され、両者の接合面積が増大する。なお、本明細書でいう「微量成分」とは、対象となる部材中に含まれる質量が、対象部材の質量に対して3質量%以下であることを意味する。また、「中間層の基材側」とは、中間層の厚み方向(表層と基材を結ぶ方向)における中間層の中央より基材側の範囲のことを意味する。
【0010】
上記焼成用セッターでは、コーティング層が表層と中間層を備える場合、表層と中間層の間に、AlとZrを含む化合物層が設けられていてもよい。表層と中間層の結合力が増大し、コーティング層の剥離(表層と中間層の剥離)を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(焼成用セッター)
本明細書で開示する焼成用セッターは、電子部品、セラミック部材等の被焼成物を焼成する際、被焼成物を載置するために用いられる。焼成用セッターの表面(載置面)形状は、三角形,四角形等の多角形であってよく、円形,楕円形等の外縁が曲面を有した形状であってもよい。また、焼成用セッターは、端部(被焼成物を載置する載置部の外側)にリブを備えていてもよい。焼成用セッターは、基材と、基材を被覆しているコーティング層を備えている。
【0013】
(基材)
基材は、炭化珪素(SiC)と珪素(Si)を主成分としている。すなわち、SiCとSiの質量の合計が、基材の質量の50質量%以上を占めている。SiCとSiは、基材中に、60質量%以上含まれていてよく、70質量%以上含まれていてよく、80質量%以上含まれていてよく、90質量%以上含まれていてよく、95質量%以上含まれていてよい。基材は、SiCとSi以外の微量元素を含んでいてよい。微量元素として、鉄(Fe),カルシウム(Ca),ナトリウム(Na),マグネシウム(Mg),カリウム(K),アルミニウム(Al)等が挙げられる。各々の微量元素は、基材中に0.01〜3質量%含まれていてよく、また、基材中の微量元素の合計が0.01〜3質量%であってよい。なお、基材は、C粉体,SiC粉体及び有機質バインダーを混合・成形した成形体を、金属Si存在下で、減圧した不活性ガス雰囲気又は真空中に配置し、成形体中に金属Siを含浸させて成形することができる。
【0014】
(コーティング層)
コーティング層は、基材の表面を被覆している。すなわち、コーティング層は、焼成用セッターの表面に露出している。コーティング層は、焼成用セッターの全面を被覆していてもよいし、焼成用セッターの表面(被焼成物を載置する面)のみを被覆していてもよい。コーティング層は、基材表面にコーティング材を塗布した後、1100〜1400度で焼成して基材表面に固着させてよい。コーティング材を塗布した後の焼成温度は、1200度以上であってよく、1240度以上であってよく、1300度以上であってよい。コーティング層は、
ジルコニウム(Zr)化合物とアルミニウム(Al)化合物を主成分としている。すなわち、Zr化合物とAl化合物の質量の合計が、コーティング層の質量の50質量%以上を占めている。Zr化合物とAl化合物は、コーティング層中に、60質量%以上含まれていてよく、70質量%以上含まれていてよく、80質量%以上含まれていてよく、90質量%以上含まれていてよく、95質量%以上含まれていてよい。コーティング層は、Zr化合物とAl化合物以外の微量元素を含んでいてよい。すなわち、コーティング層内に、Zr化合物とAl化合物以外の元素が3質量%以下含まれていてもよい。微量元素として、Fe,Si,Ca,Na,Mg,K等が挙げられ、コーティング層内にこれらの元素が1つ以上含まれていてよい。
【0015】
コーティング層は、基材の表面と結合している。基材とコーティング層の結合面積は、基材表面の面積に対して20%以上80%以下であってよい。基材とコーティング層の結合面積は、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよい。また、コーティング層は、組成が異なる表層と中間層を備えていてよい。
【0016】
(表層)
表層は、焼成用セッターの露出面であってよい。すなわち、表層は、被焼成物と接触する接触面を構成していてよい。表層の主成分は、Zr化合物であってよい。Zr化合物は、表層中に、50質量%以上含まれていてよく、60質量%以上含まれていてよく、70質量%以上含まれていてよく、80質量%以上含まれていてよく、90質量%以上含まれていてよく、95質量%以上含まれていてよい。Zr化合物として、カルシア(CaO)またはイットリア(Y
2O
3)で安定化された安定化ジルコニア、アルミナとジルコニアの共晶物、BaZrO
3、CaZrO
3等が挙げられる。表層の厚みは、10〜100μmであってよい。表層の厚みは、20μm以上であってよく、30μm以上であってよく、40μm以上であってよく、50μm以上であってよい。また、表層の厚みは、90μm以下であってよく、80μm以下であってよく、70μm以下であってよい。
【0017】
(中間層)
中間層は、表層と基材の間に設けられていてよい。中間層は、表層及び基材に接合していてよい。すなわち、中間層が、表層と基材を接合していてよい。中間層の主成分は、Al化合物であってよい。Al化合物は、中間層中に、50質量%以上含まれていてよく、60質量%以上含まれていてよく、70質量%以上含まれていてよく、80質量%以上含まれていてよく、90質量%以上含まれていてよく、95質量%以上含まれていてよい。Al化合物として、ムライト(アルミニウムシリケート)が挙げられる。中間層の厚みは、50〜200μmであってよい。中間層の厚みは、60μm以上であってよく、70μm以上であってよく、80μm以上であってよく、100μm以上であってよい。また、中間層の厚みは、180μm以下であってよく、160μm以下であってよい。中間層の厚みは、表層の厚みより厚くてよい。
【0018】
コーティング層が表層と中間層を備える場合、上記した微量成分(Fe,Si,Ca,Na,Mg,K等)は、中間層に含まれていてよい。また、中間層に含まれる微量成分は、基材側に偏在していてよい。すなわち、微量成分は、中間層の表層側(中間層の厚み方向中央よりも表層側の範囲)と比較して、中間層の基材側(中間層の厚み方向中央よりも基材側の範囲)に多く存在してよい。微量成分は、基材,中間層に含まれるSi原料のガラス化を促進させ、基材と中間層の結合面積を増大させることに寄与する。
【0019】
コーティング層が表層と中間層を備える場合、表層と中間層の間に、AlとZrを含む化合物層が設けられていてよい。すなわち、表層と中間層の間に、Zr化合物を主成分とする表層と、Al化合物を主成分とする中間層が反応した反応層が設けられていてよい。反応層は、表層と中間層の剥離を抑制することに寄与する。なお、基材の表面に中間層,表層を形成した後に焼成を行い、コーティング層(表層及び中間層)を基材表面に固着させてよい。あるいは、表面に中間層を形成した後に焼成を行って基材表面に中間層を固着させた後、中間層の表面に表層を形成して再度焼成を行ってもよい。
【0020】
(評価方法)
基材とコーティング層の結合面積の測定位置、及び、結合面積の算出方法について説明する。
図4は、焼成用セッターの一例として、四角形(正方形)の焼成用セッター10を示している。基材とコーティング層の結合面積の測定は、コーティング層の状態が標準的である位置について行う。すなわち、結合面積の測定は、コーティング層の状態が特異な状態となる可能性がある位置を避けて行う。具体的には、焼成用セッター10の側面12から距離D12の位置に測定領域14を設定し、焼成用セッター10の重心20(図
4の場合、焼成用セッター10の中心と同一)から最も離れた位置にある測定領域14を遠方部14aと設定し、重心20と遠方部14aの中点を測定位置22とする。焼成用セッター10の場合、測定位置22が4箇所存在する。なお、焼成用セッターの形状が、四角形以外の多角形、円形,楕円形等の外縁が曲面を有した形状であっても、同様の方法で測定位置を決定する。なお、距離D12は、焼成用セッターの重心から側面までの距離が50mm以上の場合は20mmとする。また、重心から側面までの距離が50mm未満の場合は、距離D12は、重心から側面までの距離の20%とする。
【0021】
基材とコーティング層の結合面積は、上記した測定位置(図
4の測定位置22を参照)で焼成用セッターを切断し、その切断面を観察し、基材の表面長さに対する基材とコーティング層が接合している部分の長さの割合から算出する。例えば、
図2に示すように、焼成用セッターのSEM(Scanning Electron Microscope)画像を取得し、基材表面の長さを測定し、基材と中間層が結合している結合部分の長さを測定し、下記式(1)より結合面積を算出する。
結合面積=(結合部分の長さ)/(基材表面の長さ)×100・・・(1)
【実施例】
【0022】
基材表面に種々の条件でコーティング層を形成して焼成用セッターを製作し、製作した焼成用セッターについて繰り返し加熱試験を実施し、コーティング層の状態(剥離・膨れの有無)について評価した。
【0023】
図1に、実施例で用いた試料の特徴、及び、繰り返し加熱試験の結果を示す。実施例で用いた試料は、Si−SiC質の基材表面にスプレーコート法を用いてコーティング層を形成し、
図1に示す温度で2時間焼成することにより製作した。なお、コーティング材は、平均粒径100μmの原料をポットミルを用いて粉砕し、10〜20μmに調整した。実施例1〜5は、基材とコーティング層の結合面積を増大させるため、コーティング材(コーティング用スラリー)に焼結助剤を
図1に示す割合で添加した。焼結助剤として、Na,Ca,Mg,Fe,Si等を含む市販の焼結助剤を用いた。なお、実施例3と4は、焼成温度のみが異なる。また、比較例として、コーティング材に焼結助剤を添加しないでコーティング層を形成し、
図1に示す温度で2時間焼成した試料(比較例1〜3)を製作した。
【0024】
繰り返し加熱試験は、各試料を昇温速度100℃/時間で1350℃まで加熱し、1350℃で2時間保持し、その後室温まで自然冷却する工程を1サイクルとし、5サイクル実施した。各サイクル終了後、焼成用セッターの外観を観察し、コーティング層の剥離・膨れの有無を評価した。コーティング層の剥離・膨れが全く確認されなかったものを「A」とし、剥離・膨れは観察されなかったものの剥離・膨れの兆しがあるものを「B」とし、剥離・膨れが確認されたものを「C」とし、
図1に示す。
【0025】
図1に示すように、基材とコーティング層の接合面積が20%以上80%以下の試料(実施例1〜5)は、繰り返し加熱試験を5サイクル実施しても、コーティング層の剥離・膨れが確認されなかった。一方、接合面積が20%未満の試料(比較例1〜3)は、いずれも1サイクル終了時にコーティング層の剥離・膨れが確認された。なお、本実施例では差異が確認できなかったが、基材上におけるコーティング層の状態がばらつく可能性(塗装ムラの発生等)を考慮すると、接合面積は40%(43%)以上であることが好ましい。また、コーティング層を基材に固着させるときの焼き付けムラ(焼成ムラ)が生じる可能性を考慮すると、接合面積は50%(52%)以上であることが好ましい。また、コーティング層中の不純物(結合助剤)を抑制するという観点より、接合面積は60%以下であることが好ましい。
【0026】
また、実施例1及び比較例3の試料について測定部分22(
図4も参照)の断面のSEM画像を取得し、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて断面の元素分析を行った。
図2は実施例1の試料の結果を示し、
図3は比較例3の試料の結果を示している。なお、
図2及び
図3には、Na,Si,Ca,Y及びZrのマッピングデータを示している。
【0027】
SEM画像から明らかなように、実施例1の焼成用セッターは、比較例3の焼成用セッターよりも基材とコーティング層(中間層)がよく接合している(接合面積が大きい)。また、実施例1の中間層に含まれる元素に着目すると、焼結助剤に由来するNa,Si,Caといった微量元素が、中間層の表層側と比較して、中間層の基材側に多く存在していることが確認された(
図2)。より具体的には、微量元素が、中間層と基材の界面に偏在している。一方、
図3に示すように、比較例3の焼成用セッターは、中間層と基材の界面に微量元素が確認されない。中間層と基材の界面に微量元素が偏在している焼成用セッター(実施例1)は、基材と中間層の接合面積が大きく、耐久性が高いことが確認された。
【0028】
また、中間層と基材の界面の微量元素の偏在が結合面積に影響を与えることは、
図1に示す結果からも確認される。
図1に示すように、焼結助剤の添加量が増えるに従って、基材と中間層の結合面積が増大している(実施例1,2,4,5及び比較例3)。なお、焼成温度を上昇させることによっても、基材と中間層の結合面積が増大することが確認される(実施例3と4、比較例1〜3)。しかしながら、
図1に示す結果より、焼成温度の変化が結合面積に与える影響と比べ、微量元素(焼結助剤)の添加量の変化が結合面積に与える影響の方が大きいことが確認される。
【0029】
また、
図2に示すように、中間層の表層側に着目すると、実施例1の焼成用セッターでは、表層に特有の元素(Y,Zr)が中間層の表層側(中間層と表層の界面)に存在していることが確認された(
図3も比較参照)。すなわち、実施例1の焼成用セッターは、表層と中間層の間に、中間層に由来するAlと表層に由来するY及びZrとを含む化合物が形成されていることが確認された。換言すると、実施例1の焼成用セッターは、表層と中間層の界面に、両層に含まれる元素を含む化合物が形成されていることが確認された。この結果は、実施例1の焼成用セッターは表層と中間層が強固に接合され、中間層から表層が剥離し難くなっていることを示している。すなわち、実施例1の焼成用セッターでは、
被焼成物との反応を抑制する表層が、焼成用セッターから剥離することを抑制することができることを示している。
【0030】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。