(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876676
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】血液試料または吸引試料中の上皮細胞の濃度を決定するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20210517BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20210517BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20210517BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20210517BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/53 D
G01N33/543 597
G01N33/536 D
C12Q1/06
【請求項の数】16
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-506271(P2018-506271)
(86)(22)【出願日】2016年8月3日
(65)【公表番号】特表2018-529085(P2018-529085A)
(43)【公表日】2018年10月4日
(86)【国際出願番号】EP2016068541
(87)【国際公開番号】WO2017025409
(87)【国際公開日】20170216
【審査請求日】2019年7月29日
(31)【優先権主張番号】15180229.5
(32)【優先日】2015年8月7日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】15184733.2
(32)【優先日】2015年9月10日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】15186743.9
(32)【優先日】2015年9月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512136204
【氏名又は名称】パッハマン,ウルリッヒ
(73)【特許権者】
【識別番号】512136226
【氏名又は名称】パッハマン,カタリナ
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】パッハマン,ウルリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】パッハマン,カタリナ
【審査官】
草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−529774(JP,A)
【文献】
特表2010−516629(JP,A)
【文献】
特表2014−521307(JP,A)
【文献】
特表2006−522021(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0171091(US,A1)
【文献】
KATAY Hekimian 外3名,Demasking of epithelial cell adhesion molecule(EpCAM) on circulating epithelial tumor cells by Tween(R)20 treatment in breast cancer patients,CLINICAL CHEMISTRY AND LABORATORY MEDICINE,2012年 4月,Vol.50, No.4,Pages 701-708,URL,http://dx.doi.org/10.1515/cclm.2011.812
【文献】
MONIKA Pizon 外3名,Insulin-like growth factor receptor I (IGF-IR) and vascular endothelial growth factor receptor 2 (VEGFR-2) are expressd on the circulating epithelial tumor cells of breast cancer patients,PLOS ONE,2013年 2月13日,Vol.8, N0.2,PAGE(S):E56836(1-6),URL,http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0056836
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは哺乳動物に由来し、および抗凝固剤と混合された血液試料または吸引試料中の上皮細胞の濃度を決定するための方法であって、以下のステップ:
a)赤血球の溶解をもたらす緩衝液の添加により血液試料中または吸引試料中に存在する赤血球を溶解すること、この過程で溶解しなかった細胞を分離すること、および分離した細胞を緩衝液に懸濁させること、ここで赤血球が溶解される前に、血液試料または吸引試料を0℃〜40℃の温度で少なくとも24時間保存し、
b)それぞれが少なくとも1つの標識を有し、およびそれぞれが上皮細胞接着分子(EpCAM)および/または少なくとも1つの上皮細胞に特異的な他の抗原に対する抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物を、ステップa)で得られた細胞懸濁液または前記細胞懸濁液の部分量へ添加すること、ここで該部分量は分離によって得られたものであり、抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物と細胞懸濁液または該部分量とを混合すること、および結果として得られた混合物を、少なくとも抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の細胞への結合の結合速度の低下の達成に必要な時間インキュベートすること、ここでインキュベーションが少なくとも12時間行われ、
c)ステップb)で得られた混合物中の抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の結合によって標識された細胞の数を決定すること、および
d)ステップc)でその数が決定された標識細胞の、血液試料または吸引試料中の濃度を計算すること、
ここで、非特異的結合部位および/またはFc受容体をブロックするためのブロッキング試薬が、ステップb)の、それぞれが少なくとも1つの標識を有する、抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の添加の前に、細胞懸濁液または細胞懸濁液の部分量に添加され、細胞懸濁液または細胞懸濁液の部分量と混合され、インキュベートされる、
を含む、前記方法。
【請求項2】
以下のさらなるステップ:
a1)ステップa)で得られた細胞懸濁物の少なくとも1つの部分量またはさらなる部分量を分離すること、
a2)それぞれが少なくとも1つの標識を有し、およびそれぞれが上皮細胞接着分子(EpCAM)および/または少なくとも1つの上皮細胞に特異的な他の抗原に対する抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物を、さらなる部分量中のそれらの濃度がステップb)の細胞懸濁液または部分量中の抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の濃度と同一であるような量でさらなる部分量へ添加すること、該抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物とさらなる部分量とを混合すること、および結果として得られた混合物を所定の温度でインキュベートすること、および
a3)前記さらなる部分量中に存在する細胞に結合した抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の量を、ステップa2)の混合から開始する時間関数として連続的または反復的に決定すること、そこから結合速度を確定すること、および抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の前記細胞への結合の結合速度の低下の達成に必要な時間を決定すること、
が、ステップa)とb)との間に実施され、ステップb)におけるインキュベーションが、所定の温度で行われ、ステップb)の時間が、少なくともステップa3)で決定された時間と同じ長さであるように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa3)の結合された抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の量の決定が、レーザー走査型サイトメトリー、蛍光顕微鏡法または光学顕微鏡法によって行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)のインキュベーションが、所定の温度で行われる、および/または所定の温度が、0〜30℃の範囲の温度である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップb)のインキュベーションが、少なくとも13時間、少なくとも14時間、少なくとも15時間、少なくとも16時間、少なくとも17時間、少なくとも18時間、少なくとも19時間、少なくとも20時間、少なくとも21時間、少なくとも22時間、少なくとも23時間、少なくとも24時間、少なくとも25時間、少なくとも26時間、少なくとも27時間、少なくとも28時間、少なくとも29時間、または少なくとも30時間で行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
標識が、蛍光色素による蛍光標識、発色団による色標識、またはビオチン、アビジン、ストレプトアビジンまたはいくつかの他のアフィニティータグ、エピトープタグもしくはプロテインタグによる間接的に検出可能な標識である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップc)の抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の結合によって標識された細胞の数の決定が、レーザー走査型サイトメトリー、蛍光顕微鏡法または光学顕微鏡法によって行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
結合された抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の量の決定および/または標識された細胞の数の決定が、蛍光顕微鏡法または光学顕微鏡法によって行われ、および細胞を同定するために画像認識ソフトウェアが用いられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
標識が蛍光標識であり、およびそれぞれの細胞についてレーザー走査型サイトメトリーまたは蛍光顕微鏡法で動的に決定されるものが、細胞あたりの総蛍光および前記細胞についてのバックグラウンド蛍光であり、いずれの場合にも特定の細胞について確認された全蛍光と前記細胞について確認されたバックグラウンド蛍光との間の差異として、細胞について同等の蛍光値が得られる、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
ステップa)の分離が、遠心分離、沈降または濾過によって行われる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
非特異的結合部位および/またはFc受容体をブロックするためのブロッキング試薬が、ステップb)およびa2)の、それぞれが少なくとも1つの標識を有する、抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の添加の前に、細胞懸濁液、細胞懸濁液の部分量またはさらなる部分量に、いずれの場合も添加され、細胞懸濁液、細胞懸濁液の部分量またはさらなる部分量と混合され、インキュベートされる、請求項2〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
いずれのステップにおいても界面活性剤が使用されず、および/またはいずれのステップにおいても細胞が固定されない、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
方法の全てのステップまたは少なくともステップb)およびc)が、自動化された方法で実施される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
少なくともステップb)、a2)、a3)およびc)が、自動化された方法で実施される、請求項2〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップa1)において、2つ以上の部分量が分離され、ステップa2)において、抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の異なる量が各部分量へいずれの場合にも添加され、およびそれぞれの部分量と混合され、ステップa3)において、結合率の低下に達するのに必要な時間をそれぞれの部分量について求め、所望の時間内に低下する結合率が達成される量の抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物がその後ステップb)の実施のために選択される、請求項2〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
上皮細胞に特異的な他の抗原が、以下の群:
アンドロゲン受容体、上皮成長因子受容体(EGF受容体)、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、前立腺特異的抗原(PSA)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、プログラム死リガンド1(PDL−1)、メランA、B7−H3、血管内皮増殖因子受容体(VEGF受容体)、Ki67、インシュリン様成長因子受容体(IGF受容体)およびHer2neu、
から選択される、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトまたは哺乳動物に由来し、抗凝固剤と混合された血液試料または吸引試料中の上皮細胞の濃度を決定するための方法に関する。吸引試料は、骨髄吸引物、胸膜吸引物または腹腔吸引物の試料であり得る。
【0002】
そのような方法は、US7,615,358B2から公知である。前記方法において、体液中に存在する上皮腫瘍細胞は、モノクローナル抗体HEA125によって認識されるヒト上皮抗原に対する抗体または抗体フラグメントの添加によって標識される。続いてサンプルを支持体に適用し、腫瘍細胞を支持体に接着させるためにインキュベートされる。これに関連して、支持体の表面は、例えばポリ−L−リジンなどの非特異的な細胞結合を支持する薬剤で被覆することができる。
【0003】
細胞の接着は通常10〜15分かかる。その後、接着している上皮腫瘍細胞の生存細胞を、それらの形態を介して同定し、定量し、体液中の生存上皮腫瘍細胞の濃度を計算する。これは、レーザー走査型サイトメトリーにより接着上皮腫瘍細胞の形態を分析することを含み、生きている腫瘍細胞はその独特の表面染色によって検出され、死細胞はその細胞内染色に基づいて除かれる。
【0004】
WO2014/047285A1は、タキサン治療から利益を得ることができる前立腺癌患者のサブグループを検出および/または治療するための方法を開示する。前記方法では、アンドロゲン受容体スプライスバリアントが患者から採取された試料中に存在するかどうかが決定される。この目的のために、循環腫瘍細胞を試料から捕捉し、特異的スプライスバリアントの1種の存在について試験することができる。捕捉は、固定化された抗体によって行うことができる。試験は、試料をスプライスバリアントに対する抗体と接触させ、スプライスバリアントへの抗体の結合を検出することを含む。
【0005】
Pizon, M. et al., PLOS ONE, February 2013, volume 8, issue 2, e56836, pages 1 to 6は、乳癌患者からの血液試料中の循環上皮腫瘍細胞上のIGF受容体1およびVEGF受容体2を決定するための方法を開示している。前記方法において、抗凝血剤としてEDTAで処理した血液サンプルは、採取後48時間以内に処理された。さらに、血液サンプル中の赤血球を溶解した。
【0006】
残りの細胞を、VEGF受容体2に対するPE標識マウスモノクローナル抗体ならびにEpCAMに対するFITCコンジュゲートマウス抗体、またはIGF受容体1に対するPE標識マウスモノクローナル抗体ならびにEpCAMに対するFITCコンジュゲートマウス抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。得られた細胞懸濁液の規定量をELISAプレートのウェルに移し、レーザー走査型サイトメーターを用いて測定した。
【0007】
Hekimian, K. et al., Clin. Chem. Lab. Med. 2012; 50(4), pages 701–708は、乳癌患者中を循環する上皮腫瘍細胞上の上皮細胞接着分子(EpCAM)を脱マスクするTween(登録商標)20処理を開示している。この刊行物は、EpCAMが糖タンパク質または膜リポタンパク質によってマスクされていることを推測しており、結果として抗体結合が妨げられることを示唆している。
【0008】
ある実験では、抗凝固処理された末梢血の1mlを、20μlのTween20とともにまたは界面活性剤を含まずに、いずれの場合も回収日、回収後1日目および回収後2日目に5分間インキュベートした。その後、そこに存在する赤血球を赤血球溶解緩衝液で溶解した。そして、EpCAMに対する抗体を用いて上皮細胞を検出した。Tween(登録商標)20で処理した場合、回収日、回収後1日目および回収後2日目に許容範囲内で均等に高い細胞数を検出することが可能であることが見出された。
【0009】
Tween(登録商標)20が存在しない場合、回収日に細胞を検出することは不可能であったが、1日目にはTween(登録商標)20処理よりも幾分少ない細胞を検出することが可能であり、2日目にはTween(登録商標)20処理の場合と同様に多くの細胞を検出することが可能であった。このことは、抗体とのインキュベーション前の血液試料の保存もまた、抗体に対する細胞上のEpCAMのアクセシビリティを増加させることを示す。
【0010】
本発明の目的は、ヒトまたは哺乳動物に由来し、および抗凝固剤と混合された血液試料または吸引試料中の上皮細胞の濃度を決定する代替方法を提供することである。
当該目的は、請求項1の特徴によって達成される。適切な態様は、請求項2〜15の特徴によって明らかになる。
【0011】
本発明は、ヒトまたは哺乳動物に由来し、抗凝固剤と混合された血液試料または吸引試料中の上皮細胞の濃度を決定する方法を提供する。前記方法において、上皮細胞に特異的な抗原に対する抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物をそれぞれ添加した後、時間関数としての細胞結合抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の数の増加が減速するまで、すなわち、結合速度が低下するまで、または時間に対する結合をプロットすることによって得られた結合曲線が平坦化し始め、飽和領域に入るまで、試料が保存される。
【0012】
そこで初めて標識細胞の数、および、そこから血液試料または吸引試料中の前記細胞のもとの濃度が決定される。具体的には、驚くべきことに、飽和曲線の平坦化の開始の達成は、所与の数の結合パートナーについて予想されるよりも非常に長い時間を要することがわかった。上皮細胞に特異的な抗原の多くは、最初はマスクされた状態で存在し、時間の経過により、はじめて抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の結合が可能になると考えられている。そこで初めて、確実に細胞数を決定することが可能である。
【0013】
具体的には、本発明によるヒトまたは哺乳動物に由来し、抗凝固剤と混合された血液試料または吸引試料中の上皮細胞の濃度を決定する方法は、以下:
a)赤血球の溶解をもたらす緩衝液の添加により血液試料中または吸引試料中に存在する赤血球を溶解すること、この過程で溶解しなかった細胞を分離すること、および分離した細胞を緩衝液に懸濁させること、
b)それぞれが少なくとも1つの標識を有し、およびそれぞれが上皮細胞接着分子(EpCAM)および/または少なくとも1つの上皮細胞に特異的な他の抗原に対する抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物を、ステップa)で得られた細胞懸濁液または前記細胞懸濁液の部分量へ添加すること、ここで該部分量は分離によって得られたものであり、抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物と細胞懸濁液または該部分量とを混合すること、および結果として得られた混合物を、少なくとも抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の細胞への結合の結合速度の低下の達成に必要な時間インキュベートすること、ここでインキュベーションが少なくとも12時間行われ、
c)ステップb)で得られた混合物中の抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の結合によって標識された細胞の数を決定すること、および
d)ステップc)で
その数が決定された標識細
胞の、血液試料または吸引試料中の濃度を計算すること、のステップを含む。
【0014】
方法全体が、人体の外および動物の体の外で行われる。抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物およびステップb)の部分量の混合は、抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物を部分量に添加した直後に行うことができる。ステップb)のインキュベーションは、所定の温度、例えば0〜20℃、特に2〜15℃で行うことができる。
【0015】
ステップd)の血液試料または吸引試料において、ステップc)で
その数が決定された標識細
胞の濃度を計算する場合、以前に実施された血液試料または吸引試料についての細胞の希釈および/または濃縮を考慮する必要がある。
【0016】
通常、上皮細胞は循環血液中には見出されない。しかしながら、例えば、肺腫瘍、乳房腫瘍、腸腫瘍または前立腺腫瘍などの悪性上皮腫瘍の患者の血液中には、循環中の上皮腫瘍細胞が血液中に見出されることが明らかになっている。
さらに、慢性関節リウマチ、喘息、COPD、クローン病または潰瘍性大腸炎などの上皮組織の慢性炎症性疾患を有する患者の血液中には、例えば前記組織の上皮細胞が末梢血中に見出され得る。
【0017】
さらに、上皮細胞は、例えば、手術または挫傷など上皮組織に損傷を与える事象の結果として末梢血中に入る。したがって、ヒトまたは哺乳類に由来する血液試料または吸引試料中の上皮細胞の濃度を可能な限り正確に決定することができた場合、上皮腫瘍疾患または上皮組織の慢性炎症疾患の診断、疾患経過または治癒プロセスのモニタリング、および健康診断またはマススクリーニングのための目的に有用である。これに関連して、細胞は、上皮腫瘍の細胞、炎症組織由来の上皮細胞または上皮組織に損傷を与える事象の結果として血流に入った他の上皮細胞であり得る。
【0018】
抗凝固剤は、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸塩またはヘパリンであり得る。
抗体フラグメントは、例えば、Fab’、F(ab’)
2またはFabであり得る。しかしながら、それらは組換え抗体フラグメント、例えばscFv、di−scFv、sdAb(単一領域抗体)、または化学的に結合した抗体フラグメント、例えばF(ab’)
2であり得る。抗体模倣物は、抗原と結合することができる抗体と同様であるが、抗体または抗体フラグメント自体ではない化合物である。ほとんどの場合、通常それらは人工ペプチド、タンパク質またはレクチンである。
【0019】
ステップc)の結合した抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の量の決定は、ステップb)の混合から開始する時間関数として行われる。結合速度がどのように決定されるかは、抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の基質への結合を研究する分野において当業者に知られている。
【0020】
本発明の発明者らは、循環上皮細胞の表面上の上皮細胞特異的抗原に対する標識された抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の結合が、予期されるようにその添加および混合の数分後に飽和を達成はせず、その代わり、飽和が数時間後に初めて達成されることをした。これは単に抗原−抗体反応のみに基づき得ないため、以前にマスクされたエピトープのアクセシビリティが増加していると推定される。
【0021】
アクセシビリティは、Hekimian, K. et al.から知られているように、抗体とのインキュベーションに先立って保管によって既に増加している。しかしながら、抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の存在下での長期インキュベーションによって再び増加する。その理由は、その結合の結果として、抗原の脱マスクが達成され得るからであろう。そのような効果は、当業者には全く驚くべきことである。
【0022】
以下のさらなるステップは、ステップa)およびb)の間で実施され得る。
a1)ステップa)で得られた細胞懸濁物の少なくとも1つの部分量またはさらなる部分量を分離すること、
a2)それぞれが少なくとも1つの標識を有し、およびそれぞれが上皮細胞接着分子(EpCAM)および/または少なくとも1つの上皮細胞に特異的な他の抗原に対する抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物を、さらなる部分量中のそれらの濃度がステップb)の細胞懸濁液または部分量中の抗体、抗体フラグメントまたは抗体の濃度と同一であるような量でさらなる部分量へ添加すること、該抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物とさらなる部分量とを混合すること、および結果として得られた混合物を所定の温度でインキュベートすること、および
【0023】
a3)前記さらなる部分量中に存在する細胞に結合した抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の量を、ステップa2)の混合から開始する時間関数として連続的または反復的に決定すること、そこから結合速度を確定すること、および抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の前記細胞への結合の結合速度の低下の達成に必要な時間を決定すること、
【0024】
ここでステップb)におけるインキュベーションが、所定の温度で行われ、ステップb)の時間が、少なくともステップa3)で決定された時間と同じ長さであるように選択される。
【0025】
ステップa3)において決定される抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の量は、相対量または絶対量であり得る。相対量は、減少する結合率の決定には十分である。同一条件でa)〜c)またはa)〜d)を繰り返し実施する場合には、ステップa3)の時間を決定するステップa1)〜a3)を1回のみ実施すれば十分であり、ステップb)は、ステップa3)において1回だけ決定された時間と少なくとも同じ長さになるように、それぞれの場合において選択される。
【0026】
結合実験において慣習的であるように、ステップa2)およびb)における抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物は、それぞれ細胞懸濁液、部分量またはさらなる部分量中のそれらの濃度がはるかに超えるような量で添加されるが、少なくとも2倍が、EpCAMまたは上皮細胞に特異的な他の抗原の適した濃度である。ステップb)およびa2)では、ステップc)およびa3)の決定においてより良好な測定結果を得るために、例えば未結合の抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物から生じるバックグラウンドシグナルを減じるために、抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物を添加し、5分〜60分間のインキュベートの後、例えば15分後、またはステップb)およびc)またはa2)およびa3)の間に、例えばPBSを用いて懸濁液の希釈を実施し得る。
【0027】
ステップa3)の決定の結果、上皮細胞の濃度の信頼できる決定に必要とされる抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物との細胞のインキュベーション時間が決定される。前記時間は8時間から25時間の間であり得る。しかしながら、比較的高い温度が選択されると、例えば6〜8時間後などに、より早く結合速度を達成することもできる。逆に、比較的低い温度、すなわち0〜8℃、特に2〜8℃の場合には、結合速度の低下には25時間以上が必要であり、例えば、25〜30時間後で初めて起こる。
【0028】
所定の温度は、0〜30℃、特に0〜20℃、特に2〜15℃、特に8〜15℃の範囲の温度であり得る。
ステップb)のインキュベーションは、例えば、少なくとも13時間、少なくとも14時間、少なくとも15時間、少なくとも16時間、少なくとも17時間、少なくとも18時間、少なくとも19時間、少なくとも20時間、少なくとも21時間、少なくとも22時間、少なくとも23時間、少なくとも24時間、少なくとも25時間、少なくとも26時間、少なくとも27時間、少なくとも28時間、少なくとも29時間、または少なくとも30時間である。
【0029】
標識は、蛍光色素、例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)またはフィコエリトリン(PE)、発色団による色標識、またはビオチン、アビジン、ストレプトアビジンまたはいくつかの他の親和性タグ、エピトープタグまたはタンパク質タグによる間接的に検出可能な標識であり得る。抗体の直接標識は、例えば二次抗体による間接標識と比較して、上皮細胞の一部が通常失われる洗浄工程を省くことができるという利点を有する。
【0030】
ステップa3)の結合抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の量の決定および/またはステップc)の抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の結合によって標識された細胞の数の決定は、レーザー走査型サイトメトリー、蛍光顕微鏡法、より詳細には定量蛍光顕微鏡法、または光学顕微鏡法、より詳細には定量的光学顕微鏡法によって行なうことができる。結合された抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物の量の決定および/または標識された細胞の数の決定が蛍光顕微鏡法または光学顕微鏡法によって行われる場合、画像認識ソフトウェアを用いて細胞を同定することができる。
【0031】
標識が蛍光標識である場合、それぞれの細胞についてレーザー走査型サイトメトリーまたは蛍光顕微鏡において動的に決定され得るものは、細胞あたりの全蛍光および前記細胞についてのバックグラウンド蛍光であり、特定の細胞について確認された全蛍光と該細胞について確認されたバックグラウンド蛍光との間の差異として、各細胞について同等の蛍光値を得ることが可能である。
【0032】
バックグラウンド蛍光を動的に決定する場合、細胞の全蛍光を測定する際に、該測定の時に、前記細胞の領域、すなわち、前記細胞の細胞膜から細胞直径の約半分までの距離におけるバックグラウンドの蛍光もまた測定される。これにより、特定の測定の精度と測定結果の有効性を高めることができる。
【0033】
ステップa)の未溶解細胞の分離は、遠心分離、単なる沈降または濾過によって行うことができる。ステップa)の緩衝液中の分離細胞の懸濁は、分離の直後、すなわち、細胞が乾燥せず、分離後の乾燥によって損傷されないように行われる。緩衝液はPBS、すなわちリン酸緩衝生理食塩水であってもよい。
【0034】
この方法の一態様において、非特異的結合部位および/またはFc受容体をブロックするためのブロッキング試薬は、いずれの場合も、それぞれb)およびa2)の、少なくとも1つの標識を有する、抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物を添加する前に、細胞懸濁液、細胞懸濁液の部分量またはさらなる部分量に添加され、細胞懸濁液、細胞懸濁液の部分量またはさらなる部分量と混合される。
【0035】
本方法の1つの態様において、いずれのステップにおいても界面活性剤が使用されず、および/またはいずれのステップにおいても細胞が固定されていない。その結果、上皮細胞への損傷を避けることができ、測定結果に影響を与えることがある。これは、損傷のない細胞膜を有する細胞の濃度または生きた上皮細胞の濃度さえも、この方法で決定されることが意図される場合に特に顕著である。
【0036】
本方法の全てのステップまたは少なくともステップb)およびc)または少なくともステップb)、a2)、a3)およびc)は、この目的のために設計された機械によって自動化された方法で実施することができる。その結果、測定結果の再現性を客観化し、改善することができる。
【0037】
この方法の一態様において、ステップa1)において、2つ以上の部分量が分離され、ステップa2)において、抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物いずれの場合にも異なる量が各部分量へ添加され、特に、即座にそれぞれの部分量と混合され、ここでステップa3)において、前記結合率の低下に達するのに必要な時間を前記それぞれの部分量について求められ、所望の時間内に低下する結合率が達成される量の抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物がその後ステップb)の実施のために選択される。
【0038】
上皮細胞に特異的な他の抗原は、例えばアンドロゲン受容体、上皮成長因子受容体(EGF受容体)、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、前立腺特異抗原(PSA)、プログラム死リガンド(PDL−1)、メランA、B7−H3、血管内皮増殖因子受容体(VEGF受容体)、Ki67、インスリン様成長因子受容体(IGF受容体)およびHer2neuから選択される。
【0039】
血液試料または吸引試料は、前記血液試料または前記吸引試料が、赤血球が溶解される前に、0〜40℃の温度で少なくとも14時間、特に少なくとも16時間、特に少なくとも18時間、特に少なくとも20時間、特に少なくとも22時間、特に少なくとも24時間保存し得る。結果として、上皮細胞に特異的な抗原のアクセシビリティのさらなる改善を達成することが可能である。
【0040】
本発明は、例示的な態様に基づいて以下により詳細に説明される。EDTAで抗凝固処理した血液1mlを室温で24時間放置する。その後、試料を赤血球溶解緩衝液(155mM NH
4Cl、10mM KHCO
3、1mM KHCO
3)で15mlまで充填し、8℃で15分間保存する。その後、試料を780gで7分間遠心分離する。上清は、完全に廃棄される。ペレットを500μlのPBS EDTA(137mM NaCl、2.8mM KCl、8.1mM NaHPO
4、1.47mM NaHPO
4、2mM EDTA、pH 7.4)に再懸濁する。
【0041】
試料から、50μlを反応チューブに添加し、15μlのFcRブロッキング試薬(Miltenyi Biotec GmbH)と混合し、8℃で15分間インキュベートする。その後、EpCAM(HEA-125、Miltenyi Biotec GmbH)に対するモノクローナル抗体5μlを添加し、懸濁液と混合する。これに続いて、光からの保護下で8℃で15分間インキュベートする。その後、430μlのPBS−EDTAを添加し、懸濁液と混合する。
【0042】
得られた懸濁液を8℃の暗所でインキュベートする。改めて混合した後、iCysレーザー走査型顕微鏡(CompuCyte、Beckman Coulter GmbH)を用いて異なる時間の後に一度に100μlを取り出した。測定は、蛍光捕捉に適した異なる顕微鏡を用いて行うこともできる。異なる時間における測定された結合から、抗体との混合から開始して、結合速度が低下するのに必要な時間を決定することが可能である。
【0043】
その後、PBS−EDTAに再懸濁した細胞ペレット50μlを15μlのFcRブロッキング試薬と混合し、混合後、8℃で15分間インキュベートする。その後、EpCAMに対する上記抗体5μlを添加し、細胞懸濁液と混合する。光からの保護下で8℃で15分間インキュベートした後、430μlのPBS−EDTAを添加し、懸濁液と混合する。その後、懸濁液を8℃の暗所で、結合速度が低下するのに必要な時間、例えば14時間または16時間インキュベートする。
【0044】
懸濁液を改めて混合した後、100μlを取り出し、レーザー走査顕微鏡または蛍光捕捉に適した別の顕微鏡下で検査する。前記検査において、抗体の結合によって標識された細胞の数が決定され、これから元の血液試料中の前記細胞の濃度が決定される。