(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カナの歯形の輪郭が、前記歯車のインボリュート曲線の圧力角よりも小さい圧力角のインボリュート曲線の輪郭を有する仮想の歯車の歯と噛み合わせたときに、前記カナから前記仮想の歯車に伝達するトルクが、略一定となる定トルク曲線に設定されている請求項6に記載の時計の輪列機構。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る時計の輪列機構の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0012】
[実施形態1]
<輪列機構の構成>
図1Aは、本発明の一実施形態である携帯用時計(例えば腕時計)における輪列機構1を示す模式図であり、駆動側の歯車10の歯11と従動側のカナ20の歯21との接触が開始した状態を示す。図示の輪列機構1は、例えば、二番車の歯車10と、三番車のカナ20とを備えている。歯車10とカナ20とは互いに噛み合って、歯車10とカナ20とが接触した噛合い点Tを通じて歯車10からカナ20にトルクを伝達する。歯車10の矢印方向(
図1Aにおいて時計回り方向)への回転により、カナ20は矢印方向(
図1Aにおいて反時計回り方向)に回転し、この回転により、噛合い点Tは、一点鎖線で示した軌跡Lを描く。
【0013】
歯車10は、例えば、歯の大きさを表す単位としてISO(国際標準化機構)で規定されているモジュールサイズで示すと、モジュールm=0.075[mm]で、72個の歯11を有している。各歯11の歯形の輪郭12は、圧力角α2が22[度]のインボリュート曲線で形成されている。この圧力角とは、日本工業規格(JIS B 0102)で定められており、歯面の1点において、その半径線と歯形への接線とのなす角度のことである。
【0014】
一方、カナ20は、例えばモジュールm=0.075[mm]で、8個の歯21を有している。各歯21の歯形の輪郭22は、歯11の圧力角α2よりも大きな圧力角α1(例えば、23.5[度])のインボリュート曲線に対応した仮想の歯車と噛み合う、この仮想の歯車とカナ20の歯21とが噛み合い始めてから噛み合い終わるまでの噛み合い期間において仮想の歯車からカナ20に伝達するトルクが略一定となる定トルク曲線で形成されている。これにより、歯車10の歯11とカナ20の歯21との噛み合い期間の前半の少なくとも一部の範囲(例えば、近寄り噛み合いの範囲)において歯車10からカナ20に伝達するトルクが略一定となる。歯車10の回転中心とカナ20の回転中心との間の距離(軸間距離)は、例えば3[mm]である。
【0015】
<輪列機構の作用>
上述したように構成された輪列機構1の作用について説明する。
図1B,1C,1D,1E,1Fは、いずれも輪列機構1を示す模式図であり、
図1B,1Cは、
図1Aを含めて上述した噛み合い期間の前半における近寄り噛み合いの範囲での、時系列的な順序で示したものである。つまり、
図1Aが噛み合い開始の状態、
図1Bが噛み合い開始から近寄り噛み合いの終わりまでの間の状態、
図1Cが近寄り噛み合いの終わりで、かつ遠のき噛み合いの開始の状態をそれぞれ示す。
【0016】
なお、近寄り噛み合い(approach contact)とは、日本工業規格(JIS B 0102)で定められた、被動(従動)歯車(本実施形態におけるカナ20)の歯先円とピッチ点との間にある、接触点の軌跡上の範囲の状態であり、遠のき噛み合い(recess contact)とは、日本工業規格(JIS B 0102)で定められた、ピッチ点と駆動歯車の歯先円との間にある,接触点の軌跡上の範囲の状態である。
【0017】
また、
図1C,1D,1E,1Fも、輪列機構1を示す模式図であり、
図1C,1D,1E,1Fは、上述した噛み合い期間の後半における遠のき噛み合いの範囲での、時系列的な順序で示したものである。つまり、
図1Cが近寄り噛み合いの終わりで、かつ遠のき噛み合いの開始の状態、
図1D,1Eが遠のき噛み合いの開始から遠のき噛み合いの終わりまでの状態(その1、その2)、
図1Fが遠のき噛み合いの終わりの状態をそれぞれ示す。なお、
図1Dは、時系列的に
図1Cと
図1Eとの間の状態である。
【0018】
図2は、本実施形態の時計の輪列機構1による、歯車10とカナ20とが噛み合っているときの、歯車10からカナ20へのトルクの伝達率(伝達効率)を示すグラフであり、グラフ中の(1)は
図1Aに示した噛み合い状態、(2)は
図1Bに示した噛み合い状態、(3)は
図1Cに示した噛み合い状態、(4)は
図1Dに示した噛み合い状態、(5)は
図1Eに示した噛み合い状態、(6)は
図1Fに示した噛み合い状態、にそれぞれ対応した、歯車10の回転角度(横軸)及びトルクの伝達率(縦軸)である。伝達率は1.0が100[%]の伝達を示し、0.9は90[%]の伝達を示す(以下、同じ。)。
【0019】
図2に示したグラフによれば、本実施形態の時計の輪列機構1は、
図1A,1B,1Cに示した近寄り噛み合いの範囲(歯車10の回転角度で約1.7[度]の範囲)で、歯車10からカナ20に伝達されるトルクのトルク伝達率が略一定(0.93〜0.94)となる。
【0020】
また、この実施形態の時計の輪列機構1は、
図1Cを過ぎてから
図1D,1E,1Fに示した遠のき噛み合いの範囲(歯車10の回転角度で約3.3[度]の範囲)で、歯車10からカナ20に伝達されるトルクのトルク伝達率は、近寄り噛み合いの範囲よりも増大して0.98を超えた後に、近寄り噛み合いの範囲での0.93〜0.94程度まで減少する。
【0021】
図3は、本実施形態の時計の輪列機構1のトルク伝達率(実線)と、本発明が適用されない従来の時計の輪列機構のトルク伝達率(破線)とを示すグラフであり、横軸は歯車10の回転角度、縦軸はトルクの伝達率である。
図3において、実線で示した本実施形態の時計の輪列機構1のトルク伝達率は、
図2に示したものと同じであり、トルク伝達率は最小値T
MIN、最大値T
MAXである。
【0022】
図3において破線で示した従来の時計の輪列機構は、歯車がインボリュート曲線の輪郭の歯形を有し、カナがいわゆるETA社の独自の輪郭(定トルク曲線の輪郭ではない)の歯形を有する一般的な輪列機構であり、トルク伝達率の最小値T
MIN、は0.91より少し大きく、この値は本実施形態の輪列機構1におけるトルク伝達率の最小値T
MINよりも小さい。また、この一般的な輪列機構におけるトルク伝達率の最大値T
MAXは本実施形態の輪列機構1におけるトルク伝達率の最大値T
MAXと略同じ値である。
【0023】
本実施形態の時計の輪列機構1によれば、歯車10とカナ20とが噛み合う期間のうち近寄り噛み合いの範囲で、トルク伝達率が0.01以下の幅で略一定となる。この結果、輪列機構1のトルク伝達率の最小値は、
図3の破線で示した、本発明が適用されない一般的な時計の輪列機構におけるトルク伝達率の最小値よりも大きくなる。したがって、本実施形態の時計の輪列機構1は、従来の一般的な時計の輪列機構よりも、トルク伝達率の最大値と最小値との差であるトルク変動が抑制され、安定して動作する。
【0024】
<変形例>
実施形態の時計の輪列機構1は、カナ20が8個の歯21を有するものであったが、カナ20の歯21の数Zは8個に限定されるものではなく、7〜15個の範囲であればよい。カナ20の歯21の歯形の輪郭22が、上述したように、大きな圧力角α1の仮想の歯車と噛み合わせた噛み合い期間において定トルク曲線で形成されている場合、カナ20の歯21の数Zが6個以下であると、歯車10との噛み合いが適切ではなくなり、一方、数Zが16個以上であると、トルク変動が大きな問題にならないのに対して、数Zが7,8,9,10,11,12,13,14,15個の場合は、適切な噛み合いを実現しつつトルク変動を抑制する効果が大きい。
【0025】
なお、輪列機構1のカナ20の歯21の数Zは、より好ましくは7〜10個の範囲がよく、この場合、トルク変動を抑制する効果がより大きい。
【0026】
図4は、カナ20の歯数Zと、圧力角の差Δαとの対応関係を示す図グラフである。ここで、圧力角の差Δαは、カナ20が実際に噛み合う歯車10の歯11の歯形の輪郭12を形成するインボリュート曲線の圧力角α2と、カナ20の歯21の歯形の輪郭22を形成する定トルク曲線を算出するために用いられる仮想の歯車のインボリュート曲線における圧力角α1との差Δα(=α1−α2)である。
【0027】
本実施形態の時計の輪列機構1は、
図4に示すカナ20の歯数Z(=7,8,9,10,11,12,13,14,15)の範囲で、圧力角の差Δαは−(Z/2)+5よりも大きい(−(Z/2)+5<Δα)ことが好ましい。圧力角の差Δαが−(Z/2)+5よりも大きくないときは、カナ20の歯先が歯車10の歯底に接触するおそれがあり、圧力角の差Δαが−(Z/2)+5よりも大きいときは、そのおそれがない。
【0028】
また、本実施形態の時計の輪列機構1は、
図4に示すカナ20の歯数Z(=7,8,9,10,11,12,13,14,15)の範囲で、圧力角の差Δαは−(Z/2)+8よりも小さい(Δα<−(Z/2)+8)ことが好ましい。圧力角の差Δαが大きくなるにしたがって、近寄り噛み合いの範囲で略一定となるトルク伝達率は、その略一定の値が小さくなるとともに、遠のき噛み合いの範囲での最大となるトルク伝達率の値が大きくなって、全体でのトルク伝達率の差であるトルク変動が大きくなる。したがって、圧力角の差Δαが−(Z/2)+8よりも小さくないときは、トルク変動を抑制する効果が小さくなるが、圧力角の差Δαが−(Z/2)+8よりも小さいときは、トルク変動を十分に抑制することができる。
【0029】
なお、本実施形態の時計の輪列機構1は、カナ20の歯数Z(=7,8,9,10)の範囲で、圧力角の差Δαを破線で示したΔα<−(Z/2)+7の範囲にすることがより好ましく、この範囲(Δα<−(Z/2)+7)では、トルク変動を一層抑制することができる。
【0030】
上述した理由により、例えば、カナ20の歯数Zが8のときは、カナ20の歯21の歯形の輪郭22を形成する定トルク曲線を算出するために用いられる仮想の歯車のインボリュート曲線における圧力角α1と、歯車10の圧力角α2との差Δα(=α1−α2)を1.0より大きく、かつ4.0未満(好ましくは3.0未満)とすることで、カナ20の歯先がトルク伝達に不要な部分(歯車10の歯底等)に接触するおそれがなく、噛み合い期間の前半の少なくとも一部の範囲において、歯車10からカナ20に伝達するトルクが略一定となる時計の輪列部品を得ることができる。圧力角の差Δαを、好ましい3.0未満としたカナ20の場合は、差Δαを4.0未満としたものよりも、トルク変動を抑制する効果が大きい。
【0031】
図5は、本実施形態の輪列機構1(例えば、カナ20の歯数Zが8、噛み合う相手の歯車10の歯数が72)において、圧力角の差Δαを、1.5[度]、2[度]、3[度]と変化させたときの、
図2相当のトルク伝達率を示すグラフであり、横軸は歯車10の回転角度、縦軸はトルクの伝達率である。
図5において、圧力角の差Δαが1.5[度]のときは、上述した実施形態の輪列機構1であり、
図2に示したグラフと同じである。
図5において、圧力角の差Δαが2[度]のときは、近寄り噛み合いの範囲で略一定となるトルク伝達率の値が、圧力角の差Δα=1.5[度]のときよりも小さくなるとともに、遠のき噛み合いの範囲で最大となるトルク伝達率の値は圧力角の差Δα=1.5[度]のときよりも大きくなって、トルク変動が大きくなる。
【0032】
図5において、圧力角の差Δαが3[度]のときは、近寄り噛み合いの範囲で略一定となるトルク伝達率の値が、圧力角の差Δα=2[度]のときよりもさらに小さくなるとともに、遠のき噛み合いの範囲で最大となるトルク伝達率の値は圧力角の差Δα=2[度]のときよりもさらに大きくなって、トルク変動が一層大きくなるが、圧力角の差Δα=4[度]未満の範囲である限り、本発明が適用されないものよりもトルク変動は抑制されている。したがって、トルク変動を十分に抑制する効果を得るために、圧力角の差Δαが−(Z/2)+8よりも小さいことが好ましい。なお、トルク変動を一層抑制する効果を得るために、圧力角の差Δαは−(Z/2)+7よりも小さいことがより好ましい。
【0033】
本実施形態の輪列機構1における歯車10は、歯11の歯形の輪郭が、圧力角α2=22[度]のインボリュート曲線であるが、本発明に係る時計の輪列機構における歯車の歯の歯形の輪郭を規定するインボリュート曲線は、圧力角α2が22[度]のものに限定されるものではなく、圧力角α2は22[度]以外の18[度]、19[度]、20[度]、21[度]、23[度]、24[度]、25[度]などであってもよい。圧力角α1及びα2は、22.5[度]や23.4[度]など、小数を含む角度でもよい。
【0034】
図6は、本実施形態の時計の輪列機構1における歯車10とカナ20との軸間距離を、正規の3[mm]に対してずれ量Δa[μm]だけ変化させたときの、トルク伝達率を示すグラフで、横軸は歯車10の回転角度、縦軸はトルクの伝達率であり、
図6において実線で表されたずれ量Δa=0[μm]のものは、軸間距離が正規の3[mm]であって
図2に示したグラフと同じである。
【0035】
図6において粗い破線で表されたずれ量Δa=+10[μm]のものは、軸間距離が正規の3[mm]に対して10[μm]長くなった状態であり、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最小トルク伝達率が正規の軸間距離の場合よりも大きくなるとともに、定トルク伝達率でない範囲における最大トルク伝達率が正規の軸間距離の場合よりも小さくなって、トルク変動は正規の軸間距離の場合よりも抑制されている。
【0036】
図6において一点鎖線で表されたずれ量Δa=+20[μm]のものは、ずれ量Δa=+10[μm]に対して軸間距離がさらに10[μm]長くなった状態であり、定トルク伝達率の範囲における最小トルク伝達率がずれ量Δa=+10[μm]の場合よりも大きくなるとともに、定トルク伝達率でない範囲における最大トルク伝達率がずれ量Δa=+10[μm]の軸間距離の場合よりも小さくなって、トルク変動はずれ量Δa=+10[μm]の軸間距離の場合よりもさらに抑制されている。
【0037】
図6において密な破線で表されたずれ量Δa=−10[μm]のものは、軸間距離が正規の3[mm]に対して10[μm]短くなった状態であり、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最小トルク伝達率が正規の軸間距離の場合よりも小さくなるとともに、定トルク伝達率でない範囲における最大トルク伝達率が正規の軸間距離の場合よりも大きくなって、トルク変動は正規の軸間距離の場合よりも大きくなる。
【0038】
図6において細かい破線で表されたずれ量Δa=−20[μm]のものは、ずれ量Δa=−10[μm]に対して軸間距離がさらに10[μm]短くなった状態であり、定トルク伝達率の範囲における最小トルク伝達率がずれ量Δa=−10[μm]の場合よりも小さくなるとともに、定トルク伝達率でない範囲における最大トルク伝達率がずれ量Δa=−10[μm]の軸間距離の場合よりも大きくなって、トルク変動はずれ量Δa=−10[μm]の軸間距離の場合よりもさらに大きくなる。
【0039】
ただし、軸間距離のずれ量Δaが−20[μm]〜+20[μm]の範囲では、歯車10とカナ20とは正常に噛み合うとともに、トルク変動に大きな変化はない。したがって、本実施形態の時計の輪列機構1は、軸間距離のずれ量Δaが−20[μm]〜+20[μm]の範囲では、
図3の破線で示した従来の一般的な時計の輪列機構に比べて、トルク変動は十分に抑制されている。
【0040】
本実施形態の時計の輪列機構1は、二番車の歯車10と三番車のカナ20との組み合わせであるが、本発明に係る時計の輪列機構はこれらの組み合わせに限定されない。すなわち、三番車の歯車と四番車のカナとの組み合わせ、四番車の歯車とがんぎ車のカナとの組み合わせ、香箱車と二番車のカナとの組み合わせであってもよく、さらに、その他の歯車同士の組み合わせであってもよい。
【0041】
<カナの歯の歯形の設定方法>
上述した実施形態の時計の輪列機構1におけるカナ20の歯21の歯形の輪郭22の具体的な設定方法を以下に説明する。なお、本発明に係る時計の輪列機構におけるカナは、以下で説明した設定方法で設定されたものに限定されるものではなく、以下の設定方法は一例に過ぎない。
【0042】
図7は、カナ20の歯21の歯形の輪郭22の具体的な設定方法を説明するための模式図である。
【0043】
まず、
図7に示すように、カナ20と実際に噛み合う歯車10の圧力角よりも大きい圧力角α1となる仮想の歯車10′を想定する。この仮想の歯車10′の回転中心をO2、カナ20の回転中心をO1、カナ20と仮想の歯車10′との噛合い点をT、噛合い点Tにおけるカナ20と仮想の歯車10′との歯形の輪郭の共通接線L1の法線(共通法線)L2と、回転中心O1,O2を結ぶ直線L3との交点をP、摩擦角をλとする。
【0044】
噛合い点Tにおいて、共通法線L2から摩擦角λだけ傾いた直線L4と直線L3との交点をQ、直線L3と直線L4とのなす角度をθ、回転中心O1,O2からそれぞれ共通接線L1に下した垂線L5,L6との各交点をa1,a2とする。回転中心O1から交点Qまでの長さをR1、回転中心O2から交点Qまでの長さをR2、回転中心O1から交点a1までの長さをP1、回転中心O2から交点a2までの長さをP2とする。このとき、カナ20が仮想の歯車10′に対して略一定のトルクで回転するためには、長さR1及び長さR2が一定であればよい。
【0045】
ここで、回転中心O1を中心とした半径R1の円E1と仮に設定した歯形曲線F1との交点K1と、回転中心O1と、を結んだ直線L7を基準線とし、基準線L7と共通接線L1とのなす角度β1、回転中心O2を中心とした半径R2の円E2と仮に設定した歯形曲線F2との交点K2と、回転中心O2と、を結んだ直線L8を基準線とし、基準線L8と共通接線L1とのなす角度β2とすると、歯形曲線F1,F2はそれぞれ、接線極座標(P1,β1)、接線極座標(P2,β2)で表すことができる。
【0046】
歯車10の歯11の歯形曲線F2はインボリュート曲線であるため、接線極座標(P2,β2)に基づいて、インボリュート曲線に対する定トルク曲線としての歯形曲線F1の接線極座標(P1,β1)を算出する。
【0047】
すなわち、歯形曲線F2を規定する接線極座標(P2,β2)がインボリュート曲線であるとの条件により、下記式(1)が成り立つ。
【0048】
【数1】
となる。ただし、式(1)において、αは上述した仮想の歯車10′の圧力角α1である。
【0049】
また、接線極座標の関係により、噛合い点Tから交点a1までの長さP3、噛合い点Tから交点a2までの長さP4に関して下記式(2),(3)が成り立つ。
【0051】
そして、近寄り噛合いの場合は、下記式(4),(5),(6),(7)が成り立つ。
【0053】
したがって、式(1)〜(7)により、歯形曲線F2を求める。具体的には式(1),(3)、(6)、(7)を用いて、噛合い点Tの軌跡に相当する極座標(r,θ)を求め、得られた値を式(2),(4),(5)に代入して、接線極座標(P1,β1)が求められる。
【0054】
すなわち、P1は、極座標(r,θ)を式(4)に代入することにより求められる。また、β1は、式(2),(4),(5)により、以下の式(8)となる。
【0056】
そして、式(8)において、β1をθの関数で不定積分し、その初期値によって定数項cが求められて、β1が求められる。すなわち、tan{(θ+λ)/2}=t、R2cos(α)=Rg2とおいて式(8)をtの関数で不定積分すると、以下の式(9)が得られる。
【0058】
なお、式(9)における定数項cは、β1に初期値α、θに初期値(π/2−α−λ)をそれぞれ代入して求められる。
以上により、接線極座標(P2,β2)で規定される歯車10の歯形であるインボリュート曲線(歯形曲線F2)に対応した、カナ20の歯形である定トルク曲線(歯形曲線F1)を規定する接線極座標(P1,β1)が求められる。
これにより求められたカナ20は、カナ20が実際に噛み合う歯車10から、噛み合い期間の前半の少なくとも一部の範囲において、伝達されるトルクが略一定となる。
【0059】
[実施形態2]
<輪列機構の構成>
上述した実施形態1の輪列機構1は、カナ20の歯21の歯形の輪郭22が、歯11の圧力角α2よりも大きな圧力角α1のインボリュート曲線に対応した仮想の歯車10′と噛み合う、この仮想の歯車10′とカナ20の歯21とが噛み合い始めてから噛み合い終わるまでの噛み合い期間において仮想の歯車10′からカナ20に伝達するトルクが略一定となる定トルク曲線で形成されたものである。しかし、本発明に係る輪列機構は、この形態に限定されるものではない。
【0060】
すなわち、本発明に係る輪列機構は、カナ20の歯21の歯形の輪郭22が、歯11の圧力角α2よりも小さい圧力角α1のインボリュート曲線に対応した仮想の歯車10′と噛み合う、この仮想の歯車10′とカナ20の歯21とが噛み合い始めてから噛み合い終わるまでの噛み合い期間において仮想の歯車10′からカナ20に伝達するトルクが略一定となる定トルク曲線で形成されたものであってもよい。そして、このように構成された輪列機構1は、本発明に係る輪列機能の第2の実施形態(実施形態2)とすることができる。
【0061】
<輪列機構の作用>
上述したように構成された実施形態2の輪列機構1は、カナ20の歯21の数Zが、例えば11〜20個の範囲であればよい。カナ20の歯21の歯形の輪郭22が、上述したように、小さな圧力角α1の仮想の歯車10′と噛み合わせた噛み合い期間における定トルク曲線で形成されている場合、歯21の数Zが11,12,13,14,15,16,17,18,19,20個の場合は、適切な噛み合いを実現しつつトルク変動を抑制する効果が大きい。なお、トルク変動を一層抑制する観点からは、カナ20の歯21の数Zは、特に、16〜20個の範囲であることが好ましい。
【0062】
実施形態2の時計の輪列機構1は、
図4に示すカナ20の歯数Z(=11,12,13,14,15,16,17,18,19,20)の範囲(特に、16〜20個の範囲)で、圧力角の差Δαは−(Z/2)+5よりも大きい(−(Z/2)+5<Δα)ことが好ましい。
【0063】
また、実施形態2の時計の輪列機構1は、
図4に示すカナ20の歯数Z(=11,12,13,14,15,16,17,18,19,20)の範囲(特に、16〜20個の範囲)で、圧力角の差Δαは−(Z/2)+8よりも小さい(Δα<−(Z/2)+8)ことが好ましい。圧力角の差Δαが大きくなる(Δαは負数であるため、Δαが大きくなることはΔαが0に近づくことに等しい。)にしたがって、近寄り噛み合いの範囲で略一定となるトルク伝達率は、その略一定の値が小さくなるとともに、遠のき噛み合いの範囲での最大となるトルク伝達率の値が大きくなってトルク変動が大きくなる。したがって、圧力角の差Δαが−(Z/2)+8よりも小さくないときは、トルク変動を抑制する効果が小さくなるが、圧力角の差Δαが−(Z/2)+8よりも小さいときは、トルク変動を十分に抑制することができる。
【0064】
なお、実施形態2の時計の輪列機構1は、カナ20の歯数Z(=11,12,13,14,15,16,17,18,19,20)の範囲で、圧力角の差Δαを破線で示したΔα<−(Z/2)+7の範囲にすることがより好ましく、この範囲(Δα<−(Z/2)+7)では、トルク変動を一層抑制することができる。
【0065】
上述した理由により、例えば、カナ20の歯数Zが17のときは、カナ20の歯21の歯形の輪郭22を形成する定トルク曲線を算出するために用いられる仮想の歯車10′のインボリュート曲線における圧力角α1と、歯車10の圧力角α2との差Δα(=α1−α2)を−3.5より大きく、かつ−0.5未満(好ましくは−1.5未満)とすることで、カナ20の歯先がトルク伝達に不要な部分(歯車10の歯底等)に接触するおそれがなく、噛み合い期間の前半の少なくとも一部の範囲において、歯車10からカナ20に伝達するトルクが略一定となる時計の輪列部品を得ることができる。圧力角の差Δαを、好ましい−1.5未満としたカナ20の場合は、差Δαを−0.5未満としたものよりも、トルク変動を抑制する効果が大きい。
【0066】
図8は、実施形態2の輪列機構1(例えば、カナ20の歯数Zが17、噛み合う相手の歯車10の歯数が109)において、圧力角の差Δαを、0[度]、−1[度]、−2[度]と変化させたときの、
図5相当のトルク伝達率を示すグラフであり、横軸は歯車10の回転角度、縦軸はトルクの伝達率である。
図8において、圧力角の差Δαが−1[度]のときは、近寄り噛み合いの範囲で略一定となるトルク伝達率の値が、圧力角の差Δα=−2[度]のときよりも小さくなるとともに、遠のき噛み合いの範囲で最大となるトルク伝達率の値は圧力角の差Δα=−2[度]のときよりも大きくなって、トルク変動が大きくなる。
【0067】
図8において、圧力角の差Δαが0[度]のときは、近寄り噛み合いの範囲で略一定となるトルク伝達率の値が、圧力角の差Δα=−1[度]のときよりもさらに小さくなるとともに、遠のき噛み合いの範囲で最大となるトルク伝達率の値は圧力角の差Δα=−1[度]のときよりもさらに大きくなって、トルク変動が一層大きくなる。したがって、トルク変動を十分に抑制する効果を得るために、圧力角の差Δαが−(Z/2)+8よりも小さいことが好ましい。なお、トルク変動を一層抑制する効果を得るために、圧力角の差Δαは−(Z/2)+7よりも小さいことがより好ましい。
【0068】
実施形態2の時計の輪列機構は、二番車の歯車10と三番車のカナ20との組み合わせ、三番車の歯車と四番車のカナとの組み合わせ、四番車の歯車とがんぎ車のカナとの組み合わせ、香箱車と二番車のカナとの組み合わせ、のいずれであってもよく、さらに、その他の歯車同士の組み合わせであってもよい。
【0069】
<カナの歯の歯形の設定方法>
上述した実施形態2の時計の輪列機構1におけるカナ20の歯21の歯形の輪郭22の具体的な設定方法は、実施形態1の時計の輪列機構1におけるカナ20の歯21の歯形の輪郭22の具体的な設定方法と同じであるので、説明を省略する。ただし、実施形態1で説明した設定方法において、仮想の歯車10′の圧力角α1を、カナ20と実際に噛み合う歯車10の圧力角α2よりも小さい圧力角α1と読み替えて適用するものとする。なお、本発明に係る時計の輪列機構におけるカナは、実施形態1で説明した設定方法で設定されたものに限定されるものではなく、その設定方法は一例に過ぎない。
【0070】
上述した実施形態1の輪列機構1は、噛み合わされる歯車10の歯の圧力角α2よりも大きな圧力角α1(Δαが正となる)の輪郭形状の歯21を有するカナ20を説明し、そのカナ20の歯数Zとして好ましい値を7〜15とした。一方、実施形態2の輪列機構1は、噛み合わされる歯車10の歯の圧力角α2よりも小さな圧力角α1(Δαが負となる)の輪郭形状の歯21を有するカナ20を説明し、そのカナ20の歯数Zとして好ましい値を11〜20とした。
【0071】
したがって、実施形態1のカナ20と実施形態2のカナ20の両方において好ましい歯数Zが11〜15のカナ20については、結果的に、噛み合わされる歯車10の歯の圧力角α2よりも大きな圧力角であってもよいし、噛み合わされる歯車10の歯の圧力角α2よりも小さな圧力角であってもよいことになるが、両者を比較した場合には、噛み合わされる歯車10の歯の圧力角α2よりも小さな圧力角であることが好ましい。
【0072】
以上をまとめると、好ましい一例の輪列機構1としては、歯数Zが7〜10のカナ20は、噛み合わされる歯車10の歯の圧力角α2よりも大きな圧力角α1(Δαが正となる)の輪郭形状とし、歯数Zが16〜20のカナ20は、噛み合わされる歯車10の歯の圧力角α2よりも小さな圧力角α1(Δαが負となる)の輪郭形状とすることができる。そして、好ましい一例の輪列機構1としては、歯数Zが11〜15のカナ20は、噛み合わされる歯車10の歯の圧力角α2よりも大きな圧力角α1(Δαが正となる)の輪郭形状であってもよいし、小さな圧力角α1(Δαが負となる)の輪郭形状であってもよいが、より好ましくは、噛み合わされる歯車の歯の圧力角α2よりも小さな圧力角α1(Δαが負となる)の輪郭形状である。
【0073】
[実施形態3]
<輪列機構の構成>
図9は、本発明の実施形態3である携帯用時計(例えば腕時計)における輪列機構1を示す模式図であり、駆動側のカナ20の歯21と従動側の歯車10の歯11とが接触した状態を示す。図示の輪列機構1は、例えば、機械式時計の動力ぜんまいを巻き上げる輪列機構に用いられているカナ20と歯車10とを備えている。カナ20と歯車10とは互いに噛み合って、カナ20と歯車10とが接触した噛合い点Tを通じてカナ20から歯車10にトルクを伝達する。カナ20の矢印方向(
図9において時計回り方向)への回転により、歯車10は矢印方向(
図9において反時計回り方向)に回転する。
【0074】
歯車10は、例えば、モジュールm=0.090[mm]で、90個の歯11を有している。各歯11の歯形の輪郭12は、圧力角α2が22[度]のインボリュート曲線で形成されている。
【0075】
一方、カナ20は、例えばモジュールm=0.090[mm]で、8個の歯21を有している。各歯21の歯形の輪郭22は、歯11の圧力角α2よりも小さい圧力角α1(例えば、20[度])のインボリュート曲線に対応した仮想の歯車と噛み合う、この仮想の歯車とカナ20の歯21とが噛み合い始めてから噛み合い終わるまでの噛み合い期間においてカナ20から仮想の歯車に伝達するトルクが略一定となる定トルク曲線で形成されている。
【0076】
これにより、歯車10の歯11とカナ20の歯21との噛み合い期間の前半の少なくとも一部の範囲(例えば、近寄り噛み合いの範囲)においてカナ20から歯車10に伝達するトルクが略一定となる。また、歯車10の歯11とカナ20の歯21との噛み合い期間の後半の少なくとも一部の範囲(例えば、遠のき噛み合いの範囲)においても、カナ20から歯車10に伝達するトルクが略一定となる。歯車10の回転中心とカナ20の回転中心との間の距離(軸間距離)は、例えば4.41[mm]である。
【0077】
<輪列機構の作用>
図10は、実施形態3の輪列機構1による、歯車10とカナ20とが噛み合っているときの、カナ20から歯車10へのトルクの伝達率を示すグラフであり、横軸のカナ20の回転角度の負の範囲は噛み合い期間の前半であり、カナ20の回転角度の正の範囲は噛み合い期間の後半である。
【0078】
図10に示したグラフによれば、実施形態3の時計の輪列機構1は、近寄り噛み合いの一部範囲(カナ20の回転角度で約12[度](−22[度]〜−10[度])の範囲)で、カナ20から歯車10に伝達されるトルクのトルク伝達率が略一定(0.94〜0.95)となる。さらに、実施形態3の時計の輪列機構1は、遠のき噛み合いの一部範囲(カナ20の回転角度で約25[度](−8[度]〜+17[度])の範囲)においても、カナ20から歯車10に伝達されるトルクのトルク伝達率が略一定(約0.96)となる。
【0079】
図11は、実施形態3の輪列機構1のトルク伝達率(実線)と、本発明が適用されない従来の時計の輪列機構のトルク伝達率(破線)とを示すグラフであり、横軸はカナ20の回転角度、縦軸はトルクの伝達率である。
図11において、実線で示した本実施形態の時計の輪列機構1のトルク伝達率は、
図10に示したものと同じであり、トルク伝達率は最小値T
MIN、最大値T
MAXである。
【0080】
図11において破線で示した従来の時計の輪列機構は、歯車がインボリュート曲線の輪郭の歯形を有し、カナがいわゆるETA社の独自の輪郭(定トルク曲線の輪郭ではない)の歯形を有する一般的な輪列機構であり、トルク伝達率の最小値T
MIN、は0.92より少し大きく、この値は実施形態3の輪列機構1におけるトルク伝達率の最小値T
MIN(0.93より少し大きい)よりも小さい。また、この一般的な輪列機構におけるトルク伝達率の最大値T
MAXは0.97より少し大きく、この値は実施形態3の輪列機構1におけるトルク伝達率の最大値T
MAX(0.96より少し大きい)よりも大きい。
【0081】
実施形態3の時計の輪列機構1によれば、歯車10とカナ20とが噛み合う期間のうち近寄り噛み合いの一部範囲及び遠のき噛み合いの一部範囲でそれぞれ、トルク伝達率が0.01以下の幅で略一定となる。また、実施形態3の時計の輪列機構1は、
図11の破線で示した本発明が適用されない従来の一般的な時計の輪列機構よりも、トルク伝達率の最大値T
MAXと最小値T
MINとの差であるトルク変動が抑制され、安定して動作する。
【0082】
<変形例>
実施形態3の時計の輪列機構1は、カナ20が8個の歯21を有するものであったが、カナ20の歯21の数Zは8個に限定されるものではなく、7〜12個の範囲であればよい。カナ20の歯21の歯形の輪郭22が、上述したように、小さい圧力角α1の仮想の歯車10′と噛み合わせた噛み合い期間において定トルク曲線で形成されている場合、カナ20の歯21の数Zが6個以下や13個以上であると、歯車10との噛み合いが適切ではなくなり、一方、数Zが7,8,9,10,11,12個の場合は、適切な噛み合いを実現しつつトルク変動を抑制する効果が大きい。
【0083】
図12は、カナ20の歯21の数Zが12個で、歯車10とカナ20との噛み合い期間の前半の少なくとも一部の範囲及び噛み合い期間の後半の少なくとも一部の範囲において、カナ20から歯車10に伝達するトルクが略一定となるように構成された変形例の輪列機構1におけるトルク伝達率を示すグラフであり、横軸はカナ20の回転角度、縦軸はトルクの伝達率である。なお、
図12に示したトルク伝達率は、例えば、モジュールm=0.090[mm]で、90個の歯11を有し、歯11の歯形の輪郭12が圧力角α2=20[度]のインボリュート曲線で形成されている歯11と、モジュールm=0.090[mm]で、8個の歯21を有し、歯21の歯形の輪郭22が圧力角α1=20[度]のインボリュート曲線に対応した仮想の歯車と噛み合うカナ20の組み合わせによるものである。
【0084】
カナ20の歯21の数Zが12個の場合は、歯車10とカナ20との噛み合い期間の前半の少なくとも一部の範囲及び噛み合い期間の後半の少なくとも一部の範囲において、カナ20から歯車10に伝達するトルクが略一定となるものであれば、カナ20の圧力角α1が歯車10の圧力角α2と等しくてもよい。このように構成された輪列機構1によっても、適切な噛み合いを実現しつつ、
図12に示すように、カナ20から歯車10に伝達するトルクの変動を抑制することができる。
【0085】
なお、輪列機構1のカナ20の歯21の数Zは、より好ましくは7〜10個の範囲がよく、この場合、トルク変動を抑制する効果がより大きい。
【0086】
図13は、カナ20の歯数Zと、圧力角の差Δαとの対応関係を示す図グラフである。ここで、圧力角の差Δαは、カナ20が実際に噛み合う歯車10の歯11の歯形の輪郭12を形成するインボリュート曲線の圧力角α2と、カナ20の歯21の歯形の輪郭22を形成する定トルク曲線を算出するために用いられる仮想の歯車10′のインボリュート曲線における圧力角α1との差Δα(=α1−α2)である。
【0087】
実施形態3の時計の輪列機構1は、
図13に示すカナ20の歯数Z(=7,8,9,10,11,12)の範囲で、圧力角の差Δαは(Z/2)−8よりも大きくかつ(Z/2)−5よりも小さい((Z/2)−8<Δα<(Z/2)−5)ことが好ましい。圧力角の差Δαが(Z/2)−8よりも小さかったり(Z/2)−5よりも大きかったりすると、カナ20の歯先や歯車10の歯先が相手方に接触するおそれがあり、適切な噛み合いが実現できないおそれがある。
【0088】
しかし、圧力角の差Δαが(Z/2)−8よりも大きくかつ(Z/2)−5よりも小さい((Z/2)−8<Δα<(Z/2)−5)ときは、そのおそれがなく、適切な噛み合いを実現しつつ、カナ20から歯車10に伝達するトルクの変動を抑制することができる。
【0089】
なお、実施形態3の時計の輪列機構1は、圧力角の差Δαが負という条件の下では、カナ20の歯数Zは、7,8,9,10の範囲であることがより好ましい。
【0090】
実施形態3の輪列機構1における歯車10は、歯11の歯形の輪郭が、圧力角α2=22[度]のインボリュート曲線であるが、本発明に係る時計の輪列機構における歯車の歯の歯形の輪郭を規定するインボリュート曲線は、圧力角α2が22[度]のものに限定されるものではなく、圧力角α2は22[度]以外の18[度]、19[度]、20[度]、21[度]、23[度]、24[度]、25[度]などであってもよい。圧力角α1及びα2は、22.5[度]や23.4[度]など、小数を含む角度でもよい。
【0091】
図14は、実施形態3の時計の輪列機構1における歯車10とカナ20との軸間距離を、正規の4.41[mm]に対してずれ量Δa[μm]だけ変化させたときの、トルク伝達率を示すグラフで、横軸は歯車10の回転角度、縦軸はトルクの伝達率であり、
図14において実線で表されたずれ量Δa=0[μm]のものは、軸間距離が正規の4.41[mm]であって
図10に示したグラフと同じである。
【0092】
図14において粗く短い破線で表されたずれ量Δa=+10[μm]のものは、軸間距離が正規の4.41[mm]に対して10[μm]長くなった状態であり、噛み合い期間の前半の、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最小トルク伝達率が正規の軸間距離の場合よりも小さくなるとともに、噛み合い期間の後半の、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最大トルク伝達率が正規の軸間距離の場合よりも大きくなって、トルク変動は正規の軸間距離の場合よりも大きくなっている。
【0093】
図14において短い一点鎖線で表されたずれ量Δa=+20[μm]のものは、ずれ量Δa=+10[μm]に対して軸間距離がさらに10[μm]長くなった状態であり、噛み合い期間の前半の、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最小トルク伝達率がずれ量Δa=+10[μm]の場合よりも小さくなるとともに、噛み合い期間の後半の、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最大トルク伝達率がずれ量Δa=+10[μm]の軸間距離の場合よりも大きくなって、トルク変動はずれ量Δa=+10[μm]の軸間距離の場合よりもさらに大きくなっている。
【0094】
図14において粗く長い破線で表されたずれ量Δa=+30[μm]のものは、ずれ量Δa=+20[μm]に対して軸間距離がさらに10[μm]長くなった状態であり、噛み合い期間の前半の、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最小トルク伝達率がずれ量Δa=+20[μm]の場合よりも小さくなるとともに、噛み合い期間の後半の、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最大トルク伝達率がずれ量Δa=+20[μm]の軸間距離の場合よりも大きくなって、トルク変動はずれ量Δa=+20[μm]の軸間距離の場合よりもさらに大きくなっている。
【0095】
図14において密な短い破線で表されたずれ量Δa=−10[μm]のものは、軸間距離が正規の4.41[mm]に対して10[μm]短くなった状態であり、噛み合い期間の前半の、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最小トルク伝達率が正規の軸間距離の場合よりも大きくなるとともに、噛み合い期間の後半の、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最大トルク伝達率が正規の軸間距離の場合よりも小さくなって、トルク変動は正規の軸間距離の場合よりも小さくなっている。
【0096】
図14において長い一点鎖線で表されたずれ量Δa=−20[μm]のものは、ずれ量Δa=−10[μm]に対して軸間距離がさらに10[μm]短くなった状態であり、噛み合い期間の前半の、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最小トルク伝達率がずれ量Δa=−10[μm]の場合よりも大きくなるとともに、噛み合い期間の後半の、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最大トルク伝達率がずれ量Δa=−10[μm]の軸間距離の場合よりも小さくなって、トルク変動はずれ量Δa=−10[μm]の軸間距離の場合よりもさらに小さくなっている。
【0097】
図14において細かい破線で表されたずれ量Δa=−30[μm]のものは、ずれ量Δa=−20[μm]に対して軸間距離がさらに10[μm]短くなった状態であり、噛み合い期間の前半の、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最小トルク伝達率がずれ量Δa=−20[μm]の場合よりも大きくなるとともに、噛み合い期間の後半の、略一定となると定トルク伝達率の範囲における最大トルク伝達率がずれ量Δa=−20[μm]の軸間距離の場合よりも小さくなって、トルク変動はずれ量Δa=−20[μm]の軸間距離の場合よりもさらに小さくなっている。
【0098】
ただし、軸間距離のずれ量Δaが−30[μm]〜+30[μm]の範囲では、歯車10とカナ20とは正常に噛み合うとともに、トルク変動に大きな変化はない。したがって、本実施形態3の時計の輪列機構1は、軸間距離のずれ量Δaが−30[μm]〜+30[μm]の範囲では、
図11の破線で示した従来の一般的な時計の輪列機構に比べて、トルク変動は十分に抑制されている。
【0099】
実施形態3の時計の輪列機構1は、動力ぜんまいを巻き上げる輪列機構に用いられているカナ20と歯車10との組み合わせであるが、本発明に係る時計の輪列機構はこれらの組み合わせに限定されない。
【0100】
<カナの歯の歯形の設定方法>
上述した実施形態3の時計の輪列機構1におけるカナ20の歯21の歯形の輪郭22の具体的な設定方法は、実施形態1の時計の輪列機構1におけるカナ20の歯21の歯形の輪郭22の具体的な設定方法と同じであるので、説明を省略する。ただし、実施形態1で説明した設定方法において、仮想の歯車10′の圧力角α1を、カナ20と実際に噛み合う歯車10の圧力角α2よりも小さい圧力角α1と読み替えて適用するものとする。なお、本発明に係る時計の輪列機構におけるカナは、実施形態1で説明した設定方法で設定されたものに限定されるものではなく、その設定方法は一例に過ぎない。
【0101】
なお、上述した各実施形態や各変形例の輪列機構1は、好ましい一例にすぎず、本発明に係る輪列機構の技術的範囲は、これら各実施形態や各変形例に限定されない。
【0102】
本出願は、2016年6月23日に日本国特許庁に出願された特願2016−124837及び日本国特許庁を受理官庁とする2017年4月11日付け国際出願PCT/JP2017/014822に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。