【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した問題を解決するために、メーザは電磁共振回路を有し、そして当該電磁共振回路は、ピックアップコイル、キャパシタンス及びフィルターコイルを含み、そして当該ピックアップコイルにおける有機分子又はメーザ可能な分子の活性媒体並びに当該活性媒体において反転分布を生じさせるための反転分布装置を含んでいる。この態様で作られたメーザは室温で操作可能でありそして連続的なマイクロ波放射又はラジオ波放射が可能である。上記活性媒体は自由に選択することが可能であり、その結果、異なるメーザ周波数を実現することが可能となる。共振器として電磁共振回路を用いることによって、MHzの範囲並びにkHzの範囲のメーザ周波数においてさえも小型設計が可能となる。1kHzから10MHzまでの周波数が可能である。
【0012】
本発明の一つの実施の形態において、反転分布装置は、有機分子又はメーザ可能な分子の核スピンが当該反転分布装置及びその装置によって得られる反転分布によって負のスピン温度となるように構成される。この実施の形態は、光学的ポンピング、ビーム分離又はDNP工程をなしで済ませるという有利な態様を可能とする。4桁までの周波数範囲、特に1kHzから10MHzまでの周波数範囲をカバーすることが可能となる。比較的小さい周波数にも拘らず、電磁共振回路として大きな設置面積は必要ではなくそして空洞共振器も使用することはない。
【0013】
一つの実施の形態において、活性媒体の有機分子又はメーザ可能な分子における負の核スピン温度を得るために、上記装置は、化学的、好ましくはパラ水素によってポンピングされる。このポンピングは、特に、活性媒体の有機分子又はメーザ可能な分子を及びパラ水素が結合可能な触媒を介して行われる。そして、反転分布を達成するために、上記パラ水素はその核スピンを活性媒体の有機分子又はメーザ可能な分子に転移することができる。特に、光学的ポンピングを行うために必要とされる技術的尽力に比較して上記した技術的尽力は低い。このような手法によって、コヒーレントな電磁波、即ち、いわゆるCWメーザを連続的に発生させることができるメーザを提供することが可能となる。CWメーザは長時間に亘って非常に正確な測定を可能とするが、そのような測定は同様の方法でパルスメーザを用いても不可能である。上記のようなCWメーザを用いると、例えば、非常に正確に作動するNMRセンサ又は磁界センサが実現する。
【0014】
好ましくは、活性媒体は液体である。気体状媒体と比較して、高いスピン密度が達成され、このことは低い技術的尽力でCWレーザを提供することに寄与している。固体媒体と比較して、反転分布の発生に対して著しく低いエネルギーを費やすのみで足りる。また、このような理由で、過度に高い尽力を費やすことなくCWメーザを提供することが可能となる。
【0015】
一つの実施の形態において、活性媒体は固体であり、特に、軟質ポリマーからなり、又は軟質ポリマーを含んでいる。
【0016】
一つの実施の形態において、反転分布装置は、液体の対応する有機分子又はメーザ可能な分子が負のスピン温度を有する媒体が提供されるように分離される方法で配置される。
【0017】
そのような分離方法は、水素中に含まれるパラ水素が分離されるような方法で水素に対する一つの実施の形態において実施される。この分離されたパラ水素は、活性媒体中で負のスピン温度を発生させるために、化学的ポンピングに対して使用される。あるいは、パラ水素は反転によって得られる。そのような反転は一般的に低温で行われる。
【0018】
核スピンが生じるより高いエネルギーレベルが低いエネルギーレベルよりもより強くなる場合に、負のスピン温度が発生する。
【0019】
一つよりも多い核の型を有する場合、より高い多極子秩序又は部分的な反転分布を有するより多くの複雑な非平衡占有を発生させる可能性がある。そのような状況からのメーザはいまだ実証されていない。この基本的に異なる原理は従来の反転分布に加えて本発明によって実現可能となる。このことは本発明の趣旨の範囲内における部分的な反転分布を表している。
【0020】
負のスピン温度を有する有機分子又はメーザ可能な分子は分極化されている。地球磁場、又は磁気遮蔽に起因して地球磁場よりも弱い磁場はこれに対して充分である。分極化は、活性媒体中の核スピンの秩序付けられた配列を意味する。スピン状態の異なる秩序クラスがある:単一スピン(双極子)、二つのスピン(四極子)及びマルチスピン配置(多極子)。反転した双極子状態(単一スピン状態)はまた反転占有とも呼ばれ、これは負のスピン温度に対応する。高次の分極は低次の分極よりも一層好ましい。従って、過分極、即ち、熱平衡を遥かに超えた活性媒体における核スピンの秩序付けられた配列はより好ましい。
【0021】
それを用いて本発明が実現された有機分子の例は、ピリジン、即ち、C
5H
5N、又はアセトニトリル、即ち、CH
3CNである。これらは溶剤、即ち、メタノールに溶解された。
【0022】
共振器の性能は、インストール空間の減少と共に改善されることが判明した。特に、ピックアップコイルは小さい方が好ましい。ピックアップコイルのインストール空間の減少そしてそれによる活性メーザ媒体のインストール空間の減少は当該活性メーザ媒体の共振器への結合を有利に改善する。これとは対照的に従来技術から公知のメーザの特性は、インストール空間のサイズとともに増加する。後者は、例えば、非特許文献5から公知のメーザに適用される。
【0023】
前記メーザの操作のための電磁共振回路の充分に高い特性を提供することに留意する必要がある。従って、フィルターコイル及びキャパシタンスは好ましくは少なくとも100、有利には少なくとも200、特に好ましくは少なくとも500の高い特性を有する。二者択一的に、又は追加的に共振回路の特性は少なくとも100、有利には少なくとも200、特に好ましくは少なくとも300である。
【0024】
フィルターコイルは、技術的に単純な態様で適切な電磁共振回路を得るために、接地センタータッピングを有している。
【0025】
フィルターコイルの特性及びキャパシタの特性は、ピックアップコイルの特性を一般的に超えており、好ましくは数倍、少なくとも2倍、特に好ましくは少なくとも3倍は超えている。円筒状コイルはピックアップコイルとしては好適であり、活性媒体を内部に保持した容器を円筒状コイル内に挿入可能となる。ピックアップコイルは、ほんの少しの巻線、例えば、10までの巻線を有することができる。ピックアップコイル及び/又はフィルターコイルからのワイヤー又はストランドは、例えば、銅、銀又は金から作られている。
【0026】
好ましくは、ピックアップコイル及び/又はフィルターコイルは、さらに改良された電磁共振回路を完成するために、ストランドを有し、そのストランドの細いワイヤーは特に絶縁性ワニス層によって電気的に絶縁されている。従って、ストランドは、好ましくは、高周波耐性を有している。
【0027】
下記する複数の実施の形態は、個別に並びにそれらの組み合わせにおいて、電磁共振回路の有利な性能をさらに改良する。
【0028】
前記センタータッピングは好ましくは前記フィルターコイルの中心に正確に設置されている。前記センタータッピングが前記中心に正確に配置されている場合には、前記センタータッピングは前記共振回路の寄生振動傾向を特に良好に抑圧する。これは積極的な効果である。
【0029】
前記センタータッピングは追加的なワイヤー又はストランドを備える一つの実施の形態において実現されている。前記追加的なワイヤー又はストランドの一端部は地面に接続されており、即ちアースされている。さらに、前記フィルターコイルの他のワイヤーの一端部は地面に接続されている。
【0030】
製造のために、例えば、2本の電気的伝導体(特に、第1及び第2ワイヤー又は第1及び第2ストランド)は互いに撚り合わされ又は一緒に配索される。続いて、2本の撚り合わされた電気的伝導体は前記コイルに巻き付けられる。前記第1電気的伝導体(ワイヤー又はストランド)の端部及び前記第2電気的伝導体(ワイヤー又はストランド)の反対側の端部はアースされている。そして、他の2つの端部は前記コイルの電気的端子を形成する。
【0031】
上記した2本の伝導体が同一の長さであれば、前記センタータッピングは前記中心に正確に位置する。
【0032】
前記フィルターコイルは電気的及び/又は磁気的シールドによって特別に遮蔽されている。磁気的シールドのために、シールドの壁はミューメタル又は鉄、好ましくは、高い透磁性の鉄、によって好ましくは構成されている。
【0033】
磁気的シールドは、好ましくは、実質的に磁気的に閉鎖されたチャンバー又は缶によって形成されている。しかしながら、前記メーザはまたそのようなシールドなしに作動する。このことは実施例において実現されている。
【0034】
磁気的シールドは電磁的干渉に対して有利に保護作用を行い、それによって、信号雑音比の改善に寄与する。
【0035】
前記シールドの壁は好ましくは二重壁であり、又は、缶の内部には、スペーサーによって第1の缶から一定の間隔を保って第2の缶が設けられている。そして、前記フィルターコイルは前記第2の缶の内部に配置されている。従って、特に好ましくは、前記シールドは二重壁チャンバー又は二重壁缶から構成される。
【0036】
NMR又はESR分光法の場合、前記フィルターコイルは、NMR又はESRの場合に用いられる磁場B
0から磁気的に遮蔽されることが可能となる。このシールドは更なる改良を提供する。
【0037】
前記磁気シールドの二重壁の壁又は前記磁気シールドの1個又は2個の缶の壁は有利には1mm〜3mmの厚さ、例えば、1.5mmの厚さである。電気シールドの壁は好ましくは3mmまでの厚さ及び/又は少なくとも0.5mmの厚さである。電気シールドの壁は好ましくはスロット付きである。電気シールドの壁は好ましくは銅製である。
【0038】
前記シールドは好ましくはアースされている。2個の缶の場合には、一般的に外側の缶がアースされる。しかしながら、二者択一的又は追加的に内側缶をアースすることも可能である。
【0039】
有利には、前記ピックアップコイルはNMR又はESR分光法に用いられる励磁コイルからは分離されている。このように第2のコイルが設けられ、この第2のコイルはNMR又はESR分光法を実行するための励磁コイルとして用いられる。これにより、励磁コイルとは独立している測定装置を最適化することが可能となり、この測定装置は信号雑音比の改善を可能とする。前記ピックアップコイルは好ましくは前記励磁コイルの内側に配置される。励磁コイルとピックアップコイルとの間隔は、2個のコイル間の不利な結合を充分に小さく維持するために、有利には少なくとも5mm、好ましくは少なくとも10mmである。前記励磁コイルの主軸(rf場方向)は、2個のコイル間の不利な結合を充分に小さく維持するために、好ましくは前記ピックアップコイルの受感軸に対して本質的に垂直に、好ましくは垂直に配置されている。
【0040】
一方でピックアップコイル及び他方でキャパシタ及びフィルターコイルは、一つの有利な実施の形態において特に低損失電気トランスファーラインによって互いに接続されている。このことは良好な電気伝導体からなる導線、例えば、銅からなる導線によって、例えば、少なくとも1mm
2の大きな断面を有する導線によって、2本の導線状の電気伝導体をルーピング又は撚り合わせるによって、及び/又は適切な電気的絶縁体、特にテフロン(登録商標)製の絶縁体によって達成される。導線の個々の伝導体及び/又は両方の電気伝導体は絶縁の目的のためにテフロン(登録商標)製の鞘に一緒に収めることが可能である。伝導体はワイヤー又はストランドとすることができる。
【0041】
一つの独立発明は導線を示し、この導線は好ましくは一緒に撚り合わされている2本のストランドからなり、特にESR又はNMR分光法用の低損失導線を提供するために、そのストランドは前記したテフロン(登録商標)製鞘を有している。
【0042】
前記導線が2本のストランドによって形成されている場合、少なくとも1mm
2というストランドの断面は、特に任意に設けられた絶縁体を含む2本のストランドの個々のワイヤーの断面の合計となる。さらに、低損失導線を提供し、それによって更に改良された信号雑音比を実現するために、前記導線のストランドは、特に表面にワニス塗布すること及び/又は高周波抵抗の態様で配置されることによって、好ましくは互いに電気的に絶縁されている。
【0043】
前記ピックアップコイルはストランド、即ち、細い個々のワイヤーからなる電気伝導体によって形成されている。前記ストランドの個々のワイヤーは有利には互いに電気的に絶縁されている。それ故に、個々のワイヤーの表面は有利には電気絶縁性のワニスで塗られている。前記ストランドは好ましくは耐高周波性である。
【0044】
ストランデッド・ワイヤのワインディングを有するトロイダル形又は円筒形フィルターコイルが好適であることが証明されている。高特性Q
E>1000の外部共振器の実現のために、前記フィルターコイルは可能な最低のエネルギー損失の交流磁場に従うか又は低いAC損失を示す。このために、前記フィルターコイルは無視しうる浮遊磁場を有する必要があり、そして前記ワインディングのAC抵抗はできる限り低くする必要がある。また、前記フィルターコイルの誘電損失又は磁気コアにおける損失は最小にする必要がある。
【0045】
有利には、一方のピックアップコイルと他方のキャパシタ及びフィルターコイルとの間の間隔は少なくとも5cmであり、有利には少なくとも50cmであり、特に有利には少なくとも60cmである。これにより、B
0場(ESR又はNMR分光法の場合に存在するので)と通常にシールドされているフィルターコイルとの間の相互に妨害する磁気の影響を低減する。シールドはB
0場に不利に影響しないことが実現される。さらに、シールドはB
0場によって不利に飽和されることが排除される。
【0046】
前記キャパシタンスは、適正な共振を調節可能とするために、有利に同調可能である。有利には、前記キャパシタンスは多数の個々のキャパシタから形成され、それらのキャパシタは互いに並行して適切に接続され、そして前記キャパシタンスが必要に応じて変更できるような態様で接続可能とされている。これにより、高特性の同調可能なキャパシタンスを提供するために、高特性の市販のキャパシタを使用することが可能となる。
【0047】
特許文献1において、本発明のメーザがそれを用いて実現された共振回路が図面に基づいて説明されている。
【0048】
本発明は、ピックアップコイル、キャパシタンス及びフィルターコイル、前記ピックアップコイルにおけるメーザ可能な分子の活性媒体並びに反転分布、特に前記活性媒体中の部分的な反転分布を発生させるための反転分布装置を含む電磁共振回路を有するメーザに特に関するものである。
【0049】
前記反転分布装置は、前記分子の核スピンが負のスピン温度になるような態様で好ましくは構成されている。又は、前記反転分布装置は、複雑な非平衡占有(多極子秩序)が発生するような態様で好ましくは構成されている。
【0050】
前記メーザは、好ましくは、前記分子が負のスピン温度を取りうるような態様で、前記反転分布装置が前記活性媒体中で反転分布の発生のためのパラ水素を含むように構成されている。
【0051】
前記メーザは、好ましくは、複雑なスピン秩序がメーザ活性分子において発生可能なように構成されている。
【0052】
特に、反転分布装置は前記活性媒体中の反転分布、特に部分的反転分布の発生のための触媒、又は高い秩序の非平衡占有の発生のための触媒を含む。
【0053】
前記触媒によって、前記(部分的)反転分布は特にパラ水素の存在で良好に発生する。
【0054】
特に、前記活性媒体は液体である。固体もまた有益である。特に、固体は軟質ポリマーからなり、又は軟質ポリマーを含む。
【0055】
一つの実施の形態において、前記活性媒体はメタノールを含む。
【0056】
一つの実施の形態において、前記活性媒体は、メタノール、特に好ましくは、メタノール−d
4のような有機溶剤を含む。
【0057】
前記活性媒体は、一つの実施の形態において、ピリジン又はアセトニトリルを含む。
【0058】
前記活性媒体は、一つの実施の形態において、パラ水素によって過分極可能な物質を含む。
【0059】
前記活性媒体は、一つの実施の形態において、PHIP(パラ水素誘導分極)活性物質を含む。
【0060】
前記活性媒体は、一つの実施の形態において、SABRE(可逆的交換による信号増幅)活性物質を含む。
【0061】
前記活性媒体は、一つの実施の形態において、窒素化合物を含む。
【0062】
前記活性媒体は、一つの実施の形態において、一つ又は多くのN−複素環化合物及び/又はニトリルを含む。
【0063】
前記活性媒体は、一つの実施の形態において、ピリジン及び/又はアセトニトリルを含む。
【0064】
前記活性媒体は、一つの実施の形態において、[IrCl(cod)(IMes)]を含む。
【0065】
一つの実施の形態において、前記メーザは連続作動で操作される。