特許第6876715号(P6876715)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6876715ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物、成形体及び中空成形体
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  • 特許6876715-ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物、成形体及び中空成形体 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876715
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物、成形体及び中空成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20210517BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20210517BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20210517BHJP
   C08L 61/00 20060101ALI20210517BHJP
   C08K 3/011 20180101ALI20210517BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   C08L77/00
   C08L23/16
   C08L23/26
   C08L61/00
   C08K3/011
   C08K3/22
【請求項の数】16
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2018-549082(P2018-549082)
(86)(22)【出願日】2017年11月2日
(86)【国際出願番号】JP2017039773
(87)【国際公開番号】WO2018084256
(87)【国際公開日】20180511
【審査請求日】2019年2月15日
(31)【優先権主張番号】特願2016-216083(P2016-216083)
(32)【優先日】2016年11月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺田 航介
(72)【発明者】
【氏名】榎本 竜弥
(72)【発明者】
【氏名】江端 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】皆川 馨
(72)【発明者】
【氏名】宝谷 洋平
(72)【発明者】
【氏名】天野 晶規
(72)【発明者】
【氏名】椛島 洋平
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−041554(JP,A)
【文献】 特開2006−045401(JP,A)
【文献】 特開2011−202136(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/083819(WO,A1)
【文献】 特表2016−501301(JP,A)
【文献】 特開平02−077458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
C08J 5/00− 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子数2〜14の脂肪族ジカルボン酸構造単位を全ジカルボン酸構造単位に対して80モル%以上含むジカルボン酸構造単位と、炭素原子数4〜12の脂肪族ジアミン構造単位を全ジアミン構造単位に対して80モル%以上含むジアミン構造単位とからなる脂肪族ポリアミド、又はアミドカルボン酸構造単位若しくはラクタム構造単位からなる脂肪族ポリアミドであって、示差走査熱量測定(DSC)で測定される融点(Tm)が200〜290℃である脂肪族ポリアミド[I]を10〜60質量%と、
エチレン構造単位[a]と、炭素原子数3〜20のα−オレフィン構造単位[b]と、メタロセン系触媒により重合可能な炭素−炭素二重結合を1分子内に1個以上有する非共役ポリエン構造単位[c]とを含むエチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]を33〜86質量%と、
官能基構造単位を0.3〜5.0質量%含むオレフィン系重合体[III]を0.1〜30質量%と、
フェノール樹脂系架橋剤[IV]を1〜10質量%と
架橋助剤[V]として、前記脂肪族ポリアミド[I]に対する質量比[V]/[I]が0.0001〜0.02である亜鉛化合物と、
を含むゴム組成物(ただし、[I]、[II]、[III]及び[IV]の合計100質量%とする)の架橋物であり、
前記エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴムの前記脂肪族ポリアミド[I]に対する質量比[II]/[I]は、54/46〜20/80であり、
前記脂肪族ポリアミド[I]を含むマトリクス相と、前記マトリクス相に分散し、架橋されたエチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]と前記オレフィン系重合体[III]とを含む分散相とを有し、
粒子径が3μm以上の前記分散相の割合は10%以下である、
ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記脂肪族ポリアミド[I]が、ポリアミド6、ポリアミド6/6、ポリアミド6/10、ポリアミド6/12、ポリアミド9/2及びポリアミド10/10からなる群より選ばれる一以上である、
請求項1に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記脂肪族ポリアミド[I]が、ポリアミド6、ポリアミド6/6及びポリアミド6/10からなる群より選ばれる少なくとも一以上である、
請求項2に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記脂肪族ポリアミド[I]の、ISO 1133による290℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1〜100g/10分である、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記オレフィン系重合体[III]の官能基構造単位が、カルボン酸基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基及びケトン基からなる群より選ばれる一以上の官能基由来の構造単位を含む、
請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記オレフィン系重合体[III]の官能基構造単位が、無水マレイン酸構造単位である、
請求項5に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記フェノール樹脂系架橋剤[IV]が、ハロゲン化フェノール樹脂系架橋剤を含む、
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
前記亜鉛化合物が、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、カルボン酸亜鉛及び水酸化亜鉛からなる群より選ばれる一以上である、
請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
前記亜鉛化合物が、酸化亜鉛である、
請求項8に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
透過型電子顕微鏡像により解析される前記分散相の平均粒子径が、0.3〜5.0μmである、
請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物から得られる、
成形体。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物から得られる、
中空成形体。
【請求項13】
前記中空成形体は、自動車関連部品である、
請求項12に記載の中空成形体。
【請求項14】
前記自動車関連部品は、吸気・排気系部品である、
請求項13に記載の中空成形体。
【請求項15】
前記吸気・排気系部品は、エアホース、エアダクト、ターボダクト、ターボホース、インテークマニホールド、又はエグゾ−ストマニホールドである、
請求項14に記載の中空成形体。
【請求項16】
炭素原子数2〜14の脂肪族ジカルボン酸構造単位を全ジカルボン酸構造単位に対して80モル%以上含むジカルボン酸構造単位と、炭素原子数4〜12の脂肪族ジアミン構造単位を全ジアミン構造単位に対して80モル%以上含むジアミン構造単位とからなる脂肪族ポリアミド、又はアミドカルボン酸構造単位若しくはラクタム構造単位からなる脂肪族ポリアミドであって、示差走査熱量測定(DSC)で測定される融点(Tm)が200〜290℃である脂肪族ポリアミド[I]を10〜60質量%と、
エチレン構造単位[a]と、炭素原子数3〜20のα−オレフィン構造単位[b]と、メタロセン系触媒により重合可能な炭素炭素二重結合を1分子内に1個以上有する非共役ポリエン構造単位[c]とを含むエチレン・αオレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]を33〜86質量%と、
官能基構造単位を0.3〜5.0質量%含むオレフィン系重合体[III]を0.1〜30質量%と、
フェノール樹脂系架橋剤[IV]を1〜10質量%と
架橋助剤[V]として、前記脂肪族ポリアミド[I]に対する質量比[V]/[I]が0.0001〜0.02である亜鉛化合物と、を含み、
前記エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴムの前記脂肪族ポリアミド[I]に対する質量比[II]/[I]は、54/46〜20/80であり、
を含むゴム組成物(ただし、[I]、[II]、[III]及び[IV]の合計100質量%とする)を準備する工程と、
前記ゴム組成物を動的架橋させる工程と
を含む、
ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物、成形体及び中空成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、加硫ゴムとは異なり加硫工程が不要であり、通常の熱可塑性樹脂の成形機で加工が可能という利点から、自動車部品、機械部品等の様々な用途への適用が検討されている。特にポリエステル系熱可塑性エラストマーは、耐久性、耐油性、耐熱性に優れ、しかも高弾性率ゆえに部材の薄肉化が可能で、軽量化や低コスト化のニーズにも合致することから、耐油ゴム代替材料として検討されている。
【0003】
例えば、蛇腹形状を有する樹脂製フレキシブルブーツ類の材料としては、従来はクロロプレンゴム材料が主に使用されていたが、近年では、製造工程の簡素化が可能であり、耐熱性が優れ、さらにブーツ材としての耐久寿命が長いという利点から、ポリエステル系熱可塑性エラストマーへの代替が進められている(例えば特許文献1)。
【0004】
また、ポリアミド6、ポリアミド6/6等に代表されるポリアミドは、成形加工性、機械物性、耐薬品性等の物性に優れることから、自動車用、産業資材用、衣料用、電気・電子用、工業用等の各種分野の部品材料として広く用いられている。
【0005】
例えば、産業用チューブとしては、従来は金属製チューブが主流であったが、近年では重量の軽減のため樹脂化が進行している。例えば、ポリアミド11やポリアミド12は、柔軟性に優れることから、自動車用燃料配管等のチューブやホース成形品を始めとして、多く用いられつつある。また、ポリアミド12の柔軟性や低温での衝撃性をさらに高める方法として、特許文献2には、ポリアミド12と、可塑剤と、変性ポリオレフィンとからなる組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−173672号公報
【特許文献2】特開2000−248174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示されるようなポリエステル系熱可塑性エラストマーは、高温下では柔軟化し、弾性率が低下することから、その成形体は高温下で強度や形状を保持できないという問題があった。
【0008】
また、特許文献2に示されるような脂肪族ポリアミドと、可塑剤と、変性ポリオレフィンとを含む樹脂組成物の成形体は、室温での柔軟性は有しているものの、高温下では弾性率が低下しやすいという問題があった。そのため、高温下で強度や形状を保持できないだけでなく、高温に加熱されたフルード(例えば、クーラント液[以下、LLCと略す場合がある]やオートマチックトランスミッションフルード[以下、ATFと略す場合がある]、ブレーキフルード[以下、BFと略す場合がある]等)中で使用した場合、その耐油性が十分でなく、経時的に劣化して強度が著しく低下しやすいという問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、室温での柔軟性を有しつつ、高温下でも弾性率を維持し、且つ高い耐油性を有する成形体を付与しうるポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 炭素原子数2〜14の脂肪族ジカルボン酸構造単位を全ジカルボン酸構造単位に対して80モル%以上含むジカルボン酸構造単位と、炭素原子数4〜12の脂肪族ジアミン構造単位を全ジアミン構造単位に対して80モル%以上含むジアミン構造単位とからなる脂肪族ポリアミド、又はアミドカルボン酸構造単位若しくはラクタム構造単位からなる脂肪族ポリアミドであって、示差走査熱量測定(DSC)で測定される融点(Tm)が200〜290℃である脂肪族ポリアミド[I]と、エチレン構造単位[a]と、炭素原子数3〜20のα−オレフィン構造単位[b]と、メタロセン系触媒により重合可能な炭素−炭素二重結合を1分子内に1個以上有する非共役ポリエン構造単位[c]とを含むエチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]と、官能基構造単位を0.3〜5.0質量%含むオレフィン系重合体[III]と、フェノール樹脂系架橋剤[IV]と、架橋助剤[V]として、前記脂肪族ポリアミド[I]に対する質量比[V]/[I]が0.0001〜0.02である亜鉛化合物とを含むゴム組成物の架橋物である、ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
[2] 前記脂肪族ポリアミド[I]が、ポリアミド6、ポリアミド6/6、ポリアミド6/10、ポリアミド6/12、ポリアミド9/2及びポリアミド10/10からなる群より選ばれる一以上である、[1]に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
[3] 前記脂肪族ポリアミド[I]が、ポリアミド6、ポリアミド6/6及びポリアミド6/10からなる群より選ばれる少なくとも一以上である、[2]に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
[4] 脂肪族ポリアミド[I]の、ISO 1133による290℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1〜100g/10分である、[1]〜[3]のいずれかに記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
[5] 前記オレフィン系重合体[III]の官能基構造単位が、カルボン酸基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基及びケトン基からなる群より選ばれる一以上の官能基由来の構造単位を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
[6] 前記オレフィン系重合体[III]の官能基構造単位が、無水マレイン酸構造単位である、[5]に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
[7] 前記フェノール樹脂系架橋剤[IV]が、ハロゲン化フェノール樹脂系架橋剤を含む、[1]〜[6]のいずれかに記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
[8] 前記亜鉛化合物が、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、カルボン酸亜鉛及び水酸化亜鉛からなる群より選ばれる一以上である、[1]〜[7]のいずれかに記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
[9] 前記亜鉛化合物が、酸化亜鉛である、[8]に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
[10] [I]、[II]、[III]及び[IV]の合計100質量%に対して、前記脂肪族ポリアミド[I]を10〜60質量%と、前記エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]を33〜86質量%と、前記オレフィン系重合体[III]を0.1〜30質量%と、前記フェノール樹脂系架橋剤[IV]を1〜10質量%とを含む、[1]〜[9]のいずれかに記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
[11] 前記脂肪族ポリアミド[I]を含むマトリクス相と、前記マトリクス相に分散し、架橋された前記エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]と前記オレフィン系重合体[III]とを含む分散相とを有する、[1]〜[10]に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
[12] 透過型電子顕微鏡像により解析される前記分散相の平均粒子径が、0.3〜5.0μmである、[11]に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
[13] 透過型電子顕微鏡像により解析される粒径3.0μm以上の前記分散相の面積の合計量が、解析領域の全面積に対して10%以下である、[11]又は[12]に記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物。
[14] [1]〜[13]のいずれかに記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物から得られる、成形体。
[15] [1]〜[13]のいずれかに記載のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物から得られる、中空成形体。
[16] 前記中空成形体は、自動車関連部品である、[15]に記載の中空成形体。
[17] 前記自動車関連部品は、吸気・排気系部品である、[16]に記載の中空成形体。
[18] 前記吸気・排気系部品は、エアホース、エアダクト、ターボダクト、ターボホース、インテークマニホールド、又はエグゾ−ストマニホールドである、[17]に記載の中空成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、室温での柔軟性を有しつつ、高温下でも弾性率を維持し、且つ高い耐油性を有する成形体を付与しうるポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1A及びBは、本発明の一実施形態のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物の切断面のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、脂肪族ポリアミド[I]と、共重合体ゴム[II]と、官能基構造単位を0.3〜5.0質量%含むオレフィン系重合体[III]と、フェノール樹脂系架橋剤[IV]と、架橋助剤[V]として所定量の亜鉛化合物とを含むゴム組成物を架橋(動的架橋)して得られるポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物は、室温での柔軟性を有しつつも、高温下でも弾性率を維持し(高温下での弾性率の低下を少なくし)、且つ高い耐油性を有する成形体を付与しうることを見出した。
【0014】
この理由は明らかではないが、以下のように推測される。上記ゴム組成物を動的架橋して得られるポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物は、脂肪族ポリアミド[I]を主成分とするマトリクス相(海相)と、架橋された共重合体ゴム[II]とオレフィン系重合体[III]とを主成分とする分散相(島相)とを有し、且つ分散相の平均径が比較的小さく、微分散している。そのようなミクロ構造を有するポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物は、機械的強度が高められているので、高温下でも弾性率を維持しやすい。また、分散相を構成する共重合体ゴム[II]が架橋されているので、油による膨潤も生じにくく、耐油性も高まりやすい。
【0015】
さらに、ポリアミドとして脂肪族ポリアミド[I](好ましくは全脂肪族ポリアミド)を用いることで、例えば半芳香族ポリアミドを用いるよりもマトリクス相の結晶化度を高めうる。その結果、マトリクス相の高温下での弾性率を一層維持しやすいだけでなく、分散相が固定されやすくなるので、分散相を構成する共重合体ゴム[II]の油による膨潤も一層低減しうる。それにより、高温下でも弾性率を一層維持しやすく、且つ耐油性も一層高まると考えられる。そのような成形体は、高温下での酸性媒体中での加水分解に対する耐性(耐酸、耐加水分解性)にも優れるという効果も有しうる。
【0016】
そのようなポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体は、例えば自動車関連部品等の中空成形体として好適である。本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0017】
1.ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物
本発明のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物は、脂肪族ポリアミド[I]と、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]と、オレフィン系重合体[III]と、フェノール樹脂系架橋剤[IV]と、架橋助剤[V]としての亜鉛化合物とを含むゴム組成物の架橋物(動的架橋物)である。架橋物とは、部分架橋物又は完全架橋物である。
【0018】
1−1.脂肪族ポリアミド[I]
脂肪族ポリアミド[I]は、「アミド結合[−NH−C(=O)−]を含み、且つ芳香環を含まない構造単位」(芳香環を含まないアミド結合含有構造単位)を主成分として含む。ここで、「主成分として含む」とは、脂肪族ポリアミド[I]を構成するアミド結合含有構造単位の全モル数に対して、芳香環を含まないアミド結合含有構造単位の含有比率が80モル%以上、好ましくは90〜100モル%であることをいう。
【0019】
脂肪族ポリアミド[I]は、ジカルボン酸とジアミンを重縮合反応させて得られるものであってもよいし、アミノカルボン酸を重縮合反応させたものであってもよいし、ラクタムを開環重合反応させて得られるものであってもよい。即ち、脂肪族ポリアミド[I]は、ジカルボン酸構造単位とジアミン構造単位とで構成されるアミド結合含有構造単位;アミノカルボン酸構造単位;及びラクタム構造単位のうち少なくとも一種で構成される。
【0020】
(ジカルボン酸構造単位/ジアミン構造単位)
脂肪族ポリアミド[I]を構成するジカルボン酸構造単位は、脂肪族ジカルボン酸構造単位を含む。脂肪族ジカルボン酸は、好ましくは炭素原子数2〜14、より好ましくは炭素原子数4〜14、さらに好ましくは炭素原子数6〜12の脂肪族ジカルボン酸である。脂肪族ジカルボン酸の例には、蓚酸(C2)、アジピン酸(C6)、ピメリン酸(C7)、スベリン酸(C8)、アゼライン酸(C9)、セバシン酸(C10)、ドデカン二酸(C12)及びテトラデカン二酸(C14)等が含まれる。中でも、アジピン酸(C6)、ドデカン二酸(C12)が好ましい。脂肪族ジカルボン酸は、一種類であってもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。
【0021】
脂肪族ジカルボン酸構造単位の含有比率は、脂肪族ポリアミド[I]を構成するジカルボン酸構造単位の全モル数に対して80モル%以上であることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸構造単位の含有比率が80モル%以上であると、脂肪族ポリアミド[I]の結晶化度が高まりやすく、成形体に十分な耐熱性や耐油性を付与しうる。脂肪族ジカルボン酸構造単位の含有比率は、ジカルボン酸構造単位の全モル数に対して85〜100モル%であることがより好ましく、90〜100モル%であることがさらに好ましい。
【0022】
脂肪族ポリアミド[I]を構成するジカルボン酸構造単位は、本発明の効果を損なわない範囲で、少量の脂環族ジカルボン酸構造単位や芳香族ジカルボン酸構造単位をさらに含んでもよい。
【0023】
脂肪族ポリアミド[I]を構成するジアミン構造単位は、脂肪族ジアミン構造単位を含む。脂肪族ジアミンは、好ましくは炭素原子数4〜12、より好ましくは炭素原子数6〜10のα,ω−直鎖脂肪族ジアミンである。脂肪族ジアミンの例には、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等が含まれる。中でも、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミンが好ましく、テトラメチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミンがより好ましい。脂肪族ジアミンは、一種類であってもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。
【0024】
脂肪族ジアミン構造単位の含有比率は、脂肪族ポリアミド[I]を構成するジアミン構造単位の全モル数に対して80モル%以上であることが好ましい。脂肪族ジアミン構造単位の含有比率が80モル%以上であると、脂肪族ポリアミド[I]の結晶化度が高まりやすく、成形体に十分な耐熱性や耐油性を付与しうる。脂肪族ジアミン構造単位の含有比率は、ジアミン構造単位の全モル数に対して85〜100モル%であることがより好ましく、90〜100モル%であることがさらに好ましい。
【0025】
脂肪族ポリアミド[I]を構成するジアミン構造単位は、本発明の効果を損なわない範囲で、少量の脂環族ジアミン構造単位や芳香族ジアミンをさらに含んでもよい。
【0026】
(アミノカルボン酸構造単位)
脂肪族ポリアミド[I]を構成しうるアミノカルボン酸は、炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜10のアミノカルボン酸でありうる。そのようなアミノカルボン酸の例には、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が含まれる。アミノカルボン酸は、一種類だけ用いてもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。
【0027】
(ラクタム構造単位)
脂肪族ポリアミド[I]を構成しうるラクタムは、炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜10のラクタムでありうる。そのようなラクタムの例には、α−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ω−ラウロラクタム、ε−エナントラクタム等が含まれる。ラクタムは、一種類だけ用いてもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。
【0028】
脂肪族ポリアミド[I]の例には、ポリアミド6、ポリアミド6/6、ポリアミド4/6、ポリアミド6/10、ポリアミド6/12、ポリアミド6/14、ポリアミド6/13、ポリアミド6/15、ポリアミド6/16、ポリアミド9/2、ポリアミド9/10、ポリアミド9/12、ポリアミド9/13、ポリアミド9/14、ポリアミド9/15、ポリアミド6/16、ポリアミド9/36、ポリアミド10/10、ポリアミド10/12、ポリアミド10/13、ポリアミド10/14、ポリアミド12/10、ポリアミド12/12、ポリアミド12/13、ポリアミド12/14が含まれる。
中でも、良好な耐熱性を有することから、ポリアミド6、ポリアミド6/6、ポリアミド6/10、ポリアミド6/12、ポリアミド9/2及びポリアミド10/10が好ましく、ポリアミド6、ポリアミド6/6及びポリアミド6/10がより好ましい。脂肪族ポリアミド[I]は、一種類であってもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0029】
脂肪族ポリアミド[I]は、コンパウンドや成形時の熱安定性の観点から、その少なくとも一部の分子鎖の末端基が末端封止剤により封止されていることが好ましい。特に、溶融安定性、耐熱性、耐加水分解性の点から、分子鎖の末端アミノ基量は、好ましくは0.1〜300mmol/kg、より好ましくは5〜300mmol/kg、さらに好ましくは5〜200mmol/kg、特に好ましくは5〜100mmol/kgである。
【0030】
末端封止剤としては、ポリアミドの分子末端のアミノ基又はカルボキシル基と反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、反応性及び封止末端の安定性等の点から、モノカルボン酸又はモノアミンが好ましく、取扱いの容易さ等の点から、モノカルボン酸がより好ましい。その他、酸無水物モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類等も使用できる。
【0031】
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸は、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はない。モノカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸が挙げられる。これらは2種以上併用することもできる。中でも、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸がさらに好ましい。
【0032】
末端封止剤として使用されるモノアミンは、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はない。モノアミンの例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミンが挙げられる。これらは2種以上併用することもできる。中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性及び価格等の点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンがより好ましい。
【0033】
末端アミノ基量は、以下の方法で測定することができる。
脂肪族ポリアミド[I]の末端アミノ基量は、脂肪族ポリアミド[I]を0.5〜0.7gを精秤し、m−クレゾール30mLに溶解させる。そして、指示薬である0.1%チモルブルー/m−クレゾール溶液を1〜2滴加えて試料溶液とする。当該試料溶液について、0.02規定のp−トルエンスルホン酸溶液で黄色から青紫色になるまで滴定を実施し、末端アミノ基含量([NH]、単位:μ当量/g)を特定する。
【0034】
脂肪族ポリアミド[I]の示差走査熱量測定(DSC)より測定される融点(Tm)は、200〜290℃であることが好ましく、220〜280℃であることがより好ましい。脂肪族ポリアミド[I]がこのような融点(Tm)を有することにより、成形性を損なうことなく、良好な耐熱性を有する成形体を得ることができる。
【0035】
脂肪族ポリアミド[I]の示差走査熱量測定(DSC)より測定される溶融熱量(ΔH)は、45〜100mJ/mgであることが好ましい。溶融熱量(ΔH)が45mJ/mg以上であると、成形体が十分な耐油性や耐熱性を有しやすく、100mJ/mg以下であると、成形体が過剰に硬くなる(弾性率が過剰に高くなる)のを抑制しうる。
【0036】
脂肪族ポリアミド[I]の融点(Tm)と溶融熱量(ΔH)は、以下の条件で測定することができる。
DSC(示差走査型熱量測定法)を用いて、ポリアミド[I]を加熱して一旦320℃で5分間保持し、次いで10℃/分の速度で23℃まで降温し、その後10℃/分の速度で昇温する。このときの融解に基づく吸熱ピークの温度を、ポリアミドの融点(Tm)とする。また、得られるカーブの吸熱ピークと吸熱ピーク全体のベースラインとで区切られた面積から、溶融熱量(ΔH)(mJ/mg)を算出する。
【0037】
脂肪族ポリアミド[I]の融点や溶融熱量(ΔH)は、例えば脂肪族ポリアミド[I]を構成する単量体組成によって調整できる。脂肪族ポリアミド[I]の融点や溶融熱量(ΔH)を高めるためには、例えば脂肪族ポリアミド[I]を構成するジカルボン酸やジアミン、アミノカルボン酸やラクタムの炭素数を一定以下とすることが好ましい。
【0038】
脂肪族ポリアミド[I]の、ISO 1133による290℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、コンパウンド時の共重合体ゴム[II]との粘度を合わせて微分散化しやすくする観点から、0.1〜500g/10分であることが好ましく、0.1〜300g/10分、0.1〜100g/10分、1〜100g/10分であることがより好ましい。特に、共重合体ゴム[II]を主成分とする分散相の粒径を小さくしやすくする観点では、脂肪族ポリアミド[I]のメルトフローレート(MFR)は、一定以下であることが好ましい。
【0039】
脂肪族ポリアミド[I]は、前述の通り、溶液中で、ジカルボン酸とジアミンを重縮合反応させるか、アミノカルボン酸を重縮合反応させるか、又はラクタムを開環重合反応させて製造することができる。また、脂肪族ポリアミド[I]は、前述の通り、その少なくとも一部の分子鎖の末端基が末端封止剤により封止されていてもよい。
【0040】
脂肪族ポリアミド[I]を製造する際の末端封止剤の使用量は、最終的に得られる脂肪族ポリアミド[I]の相対粘度及び末端基の封止率から決定することが好ましい。具体的な使用量は、用いる末端封止剤の反応性、沸点、反応装置、反応条件等によって異なるが、通常、原料であるジカルボン酸とジアミンの総モル数に対して0.3〜10モル%の範囲内としうる。
【0041】
脂肪族ポリアミド[I]の含有量は、[I]成分、[II]成分、[III]成分及び[IV]成分の合計に対して10〜60質量%であることが好ましい。脂肪族ポリアミド[I]の含有量が10質量%以上であると、脂肪族ポリアミド[I]で構成されるマトリクス相の含有比率が高いので、成形体に十分な耐熱性や耐油性を付与しやすく、60質量%以下であると、成形体の柔軟性が損なわれにくい。脂肪族ポリアミド[I]の含有量は、[I]成分、[II]成分、[III]成分及び[IV]成分の合計に対して20〜60質量%であることがより好ましく、25〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0042】
1−2.エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]
エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]は、エチレン構造単位[a]と、炭素原子数3〜20のα−オレフィン構造単位[b]と、非共役ポリエン構造単位[c]とを含む共重合体ゴムである。
【0043】
(エチレン構造単位[a])
エチレン構造単位[a]の含有割合は、共重合体ゴム[II]を構成する全構造単位に対して50〜89質量%であることが好ましく、55〜83質量%であることがより好ましい。
【0044】
(炭素原子数3〜20のα−オレフィン構造単位[b])
共重合体ゴム[II]を構成する炭素原子数3〜20のα−オレフィンの例には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセン等が含まれる。中でも、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の炭素原子数3〜8のα−オレフィンが好ましい。α−オレフィンは、一種類であってもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。これらのα−オレフィン[b]は、原料コストが比較的安価で共重合性に優れると共に、共重合体ゴム[II]に優れた機械的性質と良好な柔軟性を付与するので好ましい。
【0045】
炭素原子数3〜20のα−オレフィン構造単位[b]の含有割合は、共重合体ゴム[II]を構成する全構造単位に対して10〜49質量%であることが好ましく、15〜43質量%であることがより好ましい。
【0046】
(非共役ポリエン構造単位[c])
共重合体ゴム[II]を構成する非共役ポリエンは、メタロセン系触媒により重合可能な炭素・炭素二重結合を1分子内に1個以上有する非共役ポリエンであり、その例には、脂肪族ポリエンや脂環族ポリエンが含まれる。
【0047】
脂肪族ポリエンの例には、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘプタジエン、1,6−オクタジエン、1,7−ノナジエン、1,8−デカジエン、1,12−テトラデカジエン、3−メチル−1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、4−エチル−1,4−ヘキサジエン、3,3−ジメチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘプタジエン、5−エチル−1,4−ヘプタジエン、5−メチル−1,5−ヘプタジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、5−エチル−1,5−ヘプタジエン、4−メチル−1,4−オクタジエン、5−メチル−1,4−オクタジエン、4−エチル−1,4−オクタジエン、5−エチル−1,4−オクタジエン、5−メチル−1,5−オクタジエン、6−メチル−1,5−オクタジエン、5−エチル−1,5−オクタジエン、6−エチル−1,5−オクタジエン、6−メチル−1,6−オクタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、6−エチル−1,6−オクタジエン、6−プロピル−1,6−オクタジエン、6−ブチル−1,6−オクタジエン、4−メチル−1,4−ノナジエン、5−メチル−1,4−ノナジエン、4−エチル−1,4−ノナジエン、5−エチル−1,4−ノナジエン、5−メチル−1,5−ノナジエン、6−メチル−1,5−ノナジエン、5−エチル−1,5−ノナジエン、6−エチル−1,5−ノナジエン、6−メチル−1,6−ノナジエン、7−メチル−1,6−ノナジエン、6−エチル−1,6−ノナジエン、7−エチル−1,6−ノナジエン、7−メチル−1,7−ノナジエン、8−メチル−1,7−ノナジエン、7−エチル−1,7−ノナジエン、5−メチル−1,4−デカジエン、5−エチル−1,4−デカジエン、5−メチル−1,5−デカジエン、6−メチル−1,5−デカジエン、5−エチル−1,5−デカジエン、6−エチル−1,5−デカジエン、6−メチル−1,6−デカジエン、6−エチル−1,6−デカジエン、7−メチル−1,6−デカジエン、7−エチル−1,6−デカジエン、7−メチル−1,7−デカジエン、8−メチル−1,7−デカジエン、7−エチル−1,7−デカジエン、8−エチル−1,7−デカジエン、8−メチル−1,8−デカジエン、9−メチル−1,8−デカジエン、8−エチル−1,8−デカジエン、6−メチル−1,6−ウンデカジエン、9−メチル−1,8−ウンデカジエン、さらには1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン等のα,ω−ジエンが含まれる。中でも、7−メチル−1,6−オクタジエンが好ましい。
【0048】
脂環族ポリエンの例には、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、5−プロピリデン−2−ノルボルネン、5−ブチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン(VNB);5−アリル−2−ノルボルネン等の5−アルケニル−2−ノルボルネン;2,5−ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン(DCPD)、ノルボルナジエン、テトラシクロ[4,4,0,12.5,17.10]デカ−3,8−ジエン、2−メチル−2,5−ノルボルナジエン、2−エチル−2,5−ノルボルナジエン等が含まれる。中でも、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)が好ましい。非共役ポリエン構造単位[c]は、一種類であってもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0049】
非共役ポリエン構造単位[c]の含有割合は、共重合体ゴム[II]を構成する全構造単位に対して1〜20質量%であることが好ましく、2〜15質量%であることがより好ましい。
【0050】
共重合体ゴム[II]の極限粘度[η]は、0.5〜5.0dl/gであることが好ましく、1.0〜4.5dl/gであることがより好ましく、1.5〜4.0dl/gであることが特に好ましい。この極限粘度[η]は、温度135℃、デカリン中で測定した値であり、ASTM D 1601に従って測定することにより求めることができる。
【0051】
共重合体ゴム[II]の含有量は、[I]成分、[II]成分、[III]成分及び[IV]成分の合計に対して33〜86質量%であることが好ましい。共重合体ゴム[II]の含有量が33質量%以上であると、成形体に十分な柔軟性を付与しやすく、86質量%以下であると、成形体の耐熱性や耐油性が損なわれにくい。共重合体ゴム[II]の含有量は、[I]成分、[II]成分、[III]成分及び[IV]成分の合計に対して33〜55質量%であることがより好ましく、共重合体ゴム[II]を含む分散相をより微分散させやすくし、高温下での貯蔵弾性率の低下を一層抑制し、かつ耐油性を一層高めやすくする観点では、33〜50質量%であることがさらに好ましく、33〜40質量%であることが特に好ましい。
【0052】
共重合体ゴム[II]と脂肪族ポリアミド[I]の質量比([II]/[I])は、コンパウンド時の両者の粘度を合わせて微分散化させやすくし、良好な10MPa貯蔵弾性率の維持温度と耐油性を得やすくする観点では、例えば20/80〜70/30であることが好ましく、30/70〜60/40であることがより好ましい。共重合体ゴム[II]の質量比が一定以上であると、成形体に十分な柔軟性を付与しやすく、共重合体ゴム[II]の質量比が一定以下であると、分散相の粒径を小さくしやすく、10MPa貯蔵弾性率の維持温度や耐油性が損なわれにくい。
【0053】
1−3.オレフィン系重合体[III]
オレフィン系重合体[III]は、官能基構造単位を0.3〜5.0質量%含むオレフィン系重合体である。官能基構造単位とは、官能基を有する化合物又は官能基を有するモノマー由来の構造単位である。官能基構造単位における官能基の例には、カルボン酸基(酸無水物基を含む)、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、及びケトン基等が含まれる。そのような官能基構造単位を有するオレフィン系重合体[III]は、官能基を有することにより脂肪族ポリアミド[I]との親和性を有し、且つオレフィン系骨格を有することにより共重合体ゴム[III]との親和性を有することから、両者の相溶性を高めうる。
【0054】
オレフィン系重合体[III]は、官能基を有する化合物を反応させることによりポリオレフィン分子鎖に官能基を導入した変性ポリオレフィン[III]−1、オレフィンモノマーと官能基を有するモノマーを共重合させて得られる官能基含有オレフィン系共重合体[III]−2が含まれる。
【0055】
変性ポリオレフィン[III]−1を構成するポリオレフィンの例には、炭素数2〜18のオレフィンの単独重合体又は共重合体であり、その例には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・α−オレフィン共重合体が含まれる。中でも、エチレン・α−オレフィン共重合体が好ましい。エチレン・α−オレフィン共重合体におけるα−オレフィンは、炭素数3〜10のα−オレフィンであることが好ましく、その例には、プロピレン、1−ブテン等が含まれる。エチレン・α−オレフィン共重合体の例には、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体が含まれる。
【0056】
変性ポリオレフィン[III]−1を構成する官能基を有する化合物の例には、官能基を有する不飽和カルボン酸又はその誘導体が含まれる。官能基を有する不飽和カルボン酸又はその誘導体の例には、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、エンドシス−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸(ナジック酸)等の不飽和カルボン酸、及びこれらの酸ハライド、アミド、イミド、酸無水物、エステル等の誘導体が挙げられる。中でも、不飽和ジカルボン酸又はその酸無水物が好ましく、マレイン酸、ナジック酸又はこれらの酸無水物がより好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。無水マレイン酸は、変性前のポリオレフィンとの反応性が比較的高く、無水マレイン酸同士の重合等が生じにくく、基本構造として安定な傾向がある。このため、安定した品質の変性ポリオレフィン[III]−1が得られやすい。
【0057】
変性ポリオレフィン[III]−1の例には、変性エチレン・α−オレフィン共重合体が含まれる。この変性エチレン・α−オレフィン共重合体の密度は、好ましくは0.80〜0.95g/cm、より好ましくは0.85〜0.90g/cmである。
【0058】
官能基含有オレフィン系共重合体[III]−2を構成するオレフィンモノマーは、炭素数2〜18のオレフィンモノマーであることが好ましく、その例には、エチレン、プロピレンが含まれ、好ましくはエチレンである。
【0059】
官能基含有オレフィン系共重合体[III]−2を構成する官能基を有するモノマーの例には、アクリル系モノマーやビニルモノマー等が含まれる。
【0060】
官能基含有オレフィン系共重合体[III]−2の例には、エチレン・酢酸ビニル・無水マレイン酸共重合体(アルケマ社製Orevac(登録商標)等)、エチレン・アクリル酸エステル・官能性アクリル酸エステル(例えばグリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレート)共重合体(アルケマ社製Lotader(登録商標)等)が含まれる。
【0061】
オレフィン系重合体[III]の官能基構造単位の含有率は、0.3〜5.0質量%であることが好ましく、0.4〜4.0質量%であることがより好ましい。官能基構造単位が0.3質量%以上であると、脂肪族ポリアミド[I]に対するエチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]の分散性が向上しやすいだけでなく、機械的強度が損なわれにくい。一方、官能基構造単位が5.0質量%以下であると、脂肪族ポリアミド[I]との過剰な反応が生じにくいので、ゲル化による溶融流動性の低下が生じにくく、成形性が損なわれにくい。
【0062】
官能基構造単位の含有率は、オレフィン系重合体[III]を構成する官能基を有しないモノマー由来の構造単位の合計質量に対する官能基を有する化合物又は官能基を有するモノマー由来の構造単位の含有割合(質量%)である。
【0063】
オレフィン系重合体[III]の官能基構造単位の含有率は、13C-NMR測定又はH-NMR測定により測定できる。具体的な測定条件は、以下の通りである。
【0064】
H-NMR測定の場合、日本電子(株)製ECX400型核磁気共鳴装置を用い、溶媒は、重水素化オルトジクロロベンゼンとし、試料濃度は20mg/0.6mL、測定温度は120℃、観測核はH(400MHz)、シーケンスはシングルパルス、パルス幅は5.12μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は7.0秒、積算回数は500回以上とする。基準のケミカルシフトは、テトラメチルシランの水素を0ppmとするが、例えば、重水素化オルトジクロロベンゼンの残存水素由来のピークを7.10ppmとしてケミカルシフトの基準値とすることでも同様の結果を得ることができる。官能基含有化合物由来の1Hなどのピークは、常法によりアサインしうる。
【0065】
13C-NMR測定の場合、測定装置は日本電子(株)製ECP500型核磁気共鳴装置を用い、溶媒としてオルトジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒、測定温度は120℃、観測核は13C(125MHz)、シングルパルスプロトンデカップリング、45°パルス、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値とする。各種シグナルのアサインは常法を基にして行い、シグナル強度の積算値を基に定量を行うことができる。
【0066】
オレフィン系重合体[III]の135℃デカリン(デカヒドロナフタレン)溶液中で測定される極限粘度[η]は、0.5〜4.0dl/gであることが好ましく、0.7〜3.0dl/gであることがより好ましく、0.8〜2.5dl/gであることがさらに好ましい。[η]が上記の範囲内であれば、樹脂組成物の溶融流動性と得られる成形体の靱性とを高いレベルで両立できる。
【0067】
オレフィン系重合体[III]の極限粘度[η]は、常法に基づき、以下の方法で測定することができる。
サンプル20mgをデカリン15mlに溶解し、ウベローデ粘度計を用い、135℃雰囲気にて比粘度(ηsp)を測定する。このデカリン溶液に更にデカリン5mlを加えて希釈後、同様の比粘度測定を行う。この希釈操作と粘度測定を更に2度繰り返した測定結果を基に、濃度(:C)をゼロに外挿したときの「ηsp/C」値を極限粘度[η]とする。
【0068】
オレフィン系重合体[III]の市販品の例には、三井化学(株)のタフマーシリーズ(無水マレイン酸変性エチレン−プロピレンゴム、無水マレイン酸変性エチレン−ブテンゴム等)、アドマー(無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリエチレン);(株)クラレのクラプレン(無水マレイン酸変性イソプレンゴム、マレイン酸モノメチルエステル変性イソプレンゴム)、セプトン(無水マレイン酸変性SEPS);三井デュポンポリケミカル(株)のニュクレル(エチレン-メタクリル酸共重合体)、HPR(無水マレイン酸変性EEA、無水マレイン酸変性EVA);Chemtura社のRoyaltuf(無水マレイン酸変性EPDM);Kraton社のクレイトンFG(無水マレイン酸変性SEBS);JX日鉱日石エネルギー(株)の日石ポリブテン(無水マレイン酸変性ポリブテン);Arkema社のボンダイン(無水マレイン酸変性EEA);旭化成(株)のタフテックM(無水マレイン酸変性SEBS);日本ポリエチレン(株)のレクスパールET(無水マレイン酸変性EEA);三菱化学(株)のモディック(無水マレイン酸変性EVA、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリエチレン);住友化学(株)のボンドファースト(E−GMA);LANXESS社のクライナック(カルボキシ変性ニトリルゴム);日本製紙(株)のアウローレン(無水マレイン酸変性EEA)等が含まれる(以上、全て商品名)。これらは、一種類で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0069】
オレフィン系重合体[III]の含有量は、[I]成分、[II]成分、[III]成分及び[IV]成分の合計に対して0.1〜30質量%であることが好ましい。オレフィン系重合体[III]の含有量が0.1質量%以上であると、[I]成分と[II]成分との相溶性を十分に高めうるので、成形体に十分な機械的強度を付与しやすく、30質量%以下であると、[I]成分や[II]成分の特性が損なわれにくい。オレフィン系重合体[III]の含有量は、[I]成分、[II]成分、[III]成分及び[IV]成分の合計に対して3〜30質量%であることがより好ましく、3〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0070】
また、オレフィン系重合体[III]と共重合体ゴム[II]の質量比([III]/[II])は、1/500〜1/1であることが好ましい。オレフィン系重合体[III]の質量比が一定以上であると、脂肪族ポリアミド[I]と共重合体ゴム[II]の相溶性が損なわれにくいので、成形体に十分な機械的強度を付与しやすく、一定以下であると、脂肪族ポリアミド[I]と共重合体ゴム[II]の特性が損なわれにくい。オレフィン系重合体[III]と共重合体ゴム[II]の質量比は、1/20〜1/1であることがより好ましく、1/20〜1/2であることがさらに好ましい。
【0071】
1−4.フェノール樹脂系架橋剤[IV]
フェノール樹脂系架橋剤は、代表的には、アルキル置換又は非置換のフェノールを、アルカリ触媒存在下でアルデヒド(好ましくはホルムアルデヒド)と縮合して得られるレゾ−ル樹脂である。アルキル置換フェノールのアルキル基は、炭素原子数1〜10のアルキル基であることが好ましい。特に、炭素原子数1〜10のアルキル基で置換されたジメチロールフェノール類又はフェノール樹脂が好ましい。
【0072】
フェノール樹脂系架橋剤の例には、下記式[IV−1]で表される化合物が含まれる。
【化1】
【0073】
式[IV−1]中、Rは、アルキル基等の有機基であり、好ましくは炭素原子数20未満の有機基、より好ましくは炭素原子数4〜12の有機基である。R'は、水素原子又は−CH−OHである。n、mは、0〜20の整数であり、好ましくは0〜15の整数、より好ましくは0〜10の整数である。
【0074】
フェノール樹脂系架橋剤の他の例には、メチロール化アルキルフェノール樹脂、ハロゲン化アルキルフェノール樹脂が含まれる。ハロゲン化アルキルフェノール樹脂とは、分子鎖末端の水酸基が臭素等のハロゲン原子で置換されたアルキルフェノール樹脂であり、その例には、下記式[IV−2]で表される化合物が含まれる。
【化2】
【0075】
式[IV−2]中のn、m及びRは、式[IV−1]中のn、m及びRとそれぞれ同義である。式[IV−2]のR'は、水素原子、−CH又は−CH−Brである。
【0076】
フェノール樹脂系架橋剤の市販品の例には、田岡化学工業(株)のタッキロール201、タッキロール250−I、タッキロール250−III;SI Group社のSP1045、SP1055、SP1056;昭和電工(株)の ショウノールCRM;荒川化学工業(株)のタマノル531;住友ベークライト(株)社のスミライトレジンPR;群栄化学工業(株)のレジトップ(以上、全て商品名)等が含まれる。これらは、一種類で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。中でも、田岡化学工業(株)のタッキロール250−III(臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)やSI Group社のSP1055(臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)が好ましい。
【0077】
これらの中でも、ハロゲン化アルキルフェノール樹脂が特に好ましい。ハロゲンアルキルフェノール樹脂は、共重合体ゴム[II]との相溶性に優れるとともに、反応性に富んでおり、架橋反応開始時間を比較的早くできるので好ましい。
【0078】
フェノール樹脂系架橋剤[IV]が粉体状の架橋剤である場合、その平均粒径は、好ましくは0.1μm〜3mm、より好ましくは1μm〜1mm、特に好ましくは5μm〜0.5mmである。フレーク状の硬化剤は、ジェットミル、粉砕刃付粉砕機などの粉砕機により粉体状にしてから使用することが好ましい。
【0079】
フェノール樹脂系架橋剤[IV]の含有量は、[I]成分、[II]成分、[III]成分及び[IV]成分の合計に対して1〜10質量%であることが好ましい。フェノール樹脂系架橋剤[IV]の含有量が1質量%以上であると、[II]成分等を十分に架橋させやすいので、成形体に十分な耐熱性や耐油性を付与しやすく、フェノール樹脂系架橋剤[IV]の含有量が10質量%以下であると、[I]成分や[II]成分の特性が損なわれにくい。フェノール樹脂系架橋剤[IV]の含有量は、[I]成分、[II]成分、[III]成分及び[IV]成分の合計に対して、1〜8質量%であることがより好ましく、2〜6質量%であることがさらに好ましい。
【0080】
1−5.架橋助剤[V]
架橋助剤[V]は、亜鉛化合物であることが好ましい。亜鉛化合物は、Zn+2カチオンと、負電荷対イオンとを有する亜鉛塩である。負電荷対イオンは、非毒性であり、少なくとも約200℃以下で熱的に安定な負電荷対イオンであることが好ましく、少なくとも300℃以下で熱的に安定な負電荷対イオンであることがより好ましい。
【0081】
亜鉛化合物は、Zn2+カチオンと負電荷対イオンとを含めて約1000以下の分子量を有する。亜鉛化合物の例には、カルボン酸亜鉛、炭酸亜鉛、チタン酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、硫酸亜鉛、リン酸亜鉛、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛及びハロゲン化亜鉛が含まれる。ハロゲン化亜鉛の例には、ヨウ化亜鉛が含まれる。カルボン酸亜鉛の例には、酢酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、テレフタル酸亜鉛、イソフタル酸亜鉛、フタル酸亜鉛、コハク酸亜鉛、アジピン酸亜鉛、ピロメリット酸亜鉛、ベンゼントリカルボン酸亜鉛、ブタンテトラカルボン酸亜鉛およびトリフルオロメタンスルホン酸亜鉛が含まれる。これらの中でも、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、カルボン酸亜鉛、水酸化亜鉛及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる一以上であることが好ましく、架橋反応速度を速くしやすく、得られる分散相を微分散させやすくする観点では、酸化亜鉛がより好ましい。
【0082】
架橋助剤[V](亜鉛化合物)の含有量は、架橋助剤[V](亜鉛化合物)の脂肪族ポリアミド[I]に対する質量比[V]/[I]が、0.0001〜0.02、好ましくは0.0003〜0.01、より好ましくは0.0004〜0.01、さらに好ましくは0.0004〜0.009となるように設定される。質量比[V]/[I]が0.0001以上であると、架橋不足になりにくいので、共重合体ゴム[II]及びオレフィン系重合体[III]を主成分とする分散相の粒径が大きくなりすぎない(分散相を微分散させやすい)。それにより、ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物の貯蔵弾性率の維持温度が低くなりにくく、耐油性が低下しにくい。質量比[V]/[I]が0.02以下であると、架橋速度が速くなりすぎず、共重合体ゴム[II]を十分に微分散させた後に架橋させやすくなるため、共重合体ゴム[II]を主成分とする分散相の粒径が大きくなりすぎない(分散相を微分散させやすい)。それにより、ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物の貯蔵弾性率の維持温度が低くなりにくく、耐油性が低下しにくい。
【0083】
[I]成分、[II]成分、[III]成分、[IV]成分及び[V]成分の合計含有量は、ゴム組成物の全質量に対して80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0084】
1−6.他の成分
ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物を得るためのゴム組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分の例には、フェノール樹脂系架橋剤[IV]以外の他の架橋剤や架橋助剤、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、帯電防止剤(導電剤)、充填剤等が含まれる。
【0085】
他の架橋剤は、前述のゴム組成物の動的架橋が可能な架橋剤であればよく、その例には、硫黄系架橋剤が含まれる。但し、他の架橋剤は、有機過酸化物を含まないことが好ましい。他の架橋剤として有機過酸化物を使用した場合、本発明のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物に適した溶融混練温度が比較的高いことから、有機過酸化物の分解速度が速くなりすぎる場合がある。その結果、ゴム成分([II]成分、[III]成分)の架橋反応が急激に進みやすく、脂肪族ポリアミド[I]と十分には混練できず、分散が不十分となる場合がある。そのため、ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物の物性が著しく低下する場合がある。
【0086】
また、ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物を得るためのゴム組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、前述の脂肪族ポリアミド[I]以外のポリアミド(以下、「他のポリアミド」とも称する)をさらに含んでいてもよい。他のポリアミドの例には、ポリアミド11、ポリアミド12、芳香族ポリアミド等が含まれる。ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物には、これらの他のポリアミドが一種含まれてもよく、二種以上含まれてもよい。
【0087】
2.ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
本発明のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物は、前述の脂肪族ポリアミド[I]と、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]と、オレフィン系重合体[III]と、フェノール樹脂系架橋剤[IV]と、架橋助剤[V]として亜鉛化合物とを含むゴム組成物の少なくとも一部を動的に架橋させること、具体的には溶融流動状態(動的状態)で架橋させて得ることができる。
【0088】
このような動的架橋反応は、通常、前述の組成物を溶融混練装置に供給し、所定温度に加熱して溶融混練することにより行う。
【0089】
溶融混練は、[I]成分、[II]成分、[III]成分、[IV]成分及び[V]成分を同時に混練してもよいし;[I]成分、[II]成分、[III]成分及び[V]成分を混練した後、[IV]成分を添加してさらに混練してもよい。
【0090】
溶融混練装置は、例えば二軸押出機、単軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等を用いることができる。中でも、剪断力や連続生産性が良好である点から、二軸押出機が好ましい。溶融混練温度は、通常、200〜320℃である。溶融混練時間は、通常、0.5〜30分である。
【0091】
この動的架橋によって、ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物中で、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]が架橋される。つまり、ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物は、脂肪族ポリアミド[I]と、フェノール樹脂系架橋剤[IV]で架橋された共重合体ゴム[II]と、官能基構造単位を0.3〜5.0質量%含むオレフィン系重合体[III]と、架橋助剤[V]とを含みうる。そして、脂肪族ポリアミド[I]を主成分とする海相(マトリクス相)と、架橋された共重合体ゴム[II]と、オレフィン系重合体[III]とを主成分とする島相(分散相)とを有する海島構造が形成される。脂肪族ポリアミド[I]を主成分とする海相(マトリックス相)は、熱可塑性を発現しうる。一方、架橋した共重合体ゴム[II]と、オレフィン系重合体[III]とを主成分とする島相(分散相)は、ゴム弾性を発現しうる。そして、島相(分散相)の平均粒径は比較的小さく、微分散している。
【0092】
このように、ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物は、脂肪族ポリアミド[I]を主成分とするマトリックス成分(海相)と、そのマトリックス相(海相)に微分散し、かつ共重合体ゴム[II]とオレフィン系重合体[III]を主成分とする分散相(島相)とを有する。
【0093】
分散相(島相)の平均粒径は、0.3μm以上5.0μm以下であることが好ましく、0.3μm以上2.5μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上1.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0094】
そして、TEM測定で得られた画像において、粒径が3.0μm以上の分散相の面積を測定し、解析した領域の面積全体に対する当該分散相の累計面積の割合は、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、6%以下であることがさらに好ましく、3%以下であることが特に好ましい。
【0095】
粒径が3.0μm以上の分散相(分散相群(A))の累計断面積の、解析した領域の面積全体に対する割合が10%以下であると、耐油性が特に高くなりやすい。また、粒径が3.0μm以上の分散相(分散相群(A))の累計断面積の割合が6%以下、さらに3%以下であると、さらに10MPa貯蔵弾性率の維持温度の低下を一層抑制しやすく、特に累計断面積の割合が0%、即ち、3.0μm以上の大きな分散相群が存在しない場合には、室温での柔軟性を有しつつ、高温下でも弾性率を維持し、且つ高い耐油性のいずれにも優れたものとなりやすい。
【0096】
TEM測定は、以下の方法で行うことができる。
まず、ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物を押出成形して、試験片を準備する。準備した試験片をミクロトーム等で研削し、得られる任意の断面約45μm×75μm以上の範囲を、透過型電子顕微鏡(測定装置:株式会社日立ハイテクノロジー社製H−7650)を用いて、3000倍に拡大して解析する。解析は、画像解析ソフト ImageJを用いて二値化処理して行う。
【0097】
図1A及びBは、本発明の一実施形態のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物の切断面のTEM写真である。図1Aは、3000倍で観察したTEM写真であり、図1Bは、10000倍で観察したTEM写真である。
【0098】
図1に示されるように、脂肪族ポリアミド[I]を主成分とするマトリクス相(図1の他部より色が白い部位、マトリックス成分)と、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]とオレフィン系重合体[III]とを主成分とする分散相(図1の他部より色が黒い部分、分散成分)の占有域をそれぞれ特定する。
特定された分散相の占有域の一つ毎に、画像解析を行い、その面積を算出する。
そして、その面積と等しい面積の真円の直径を求め、それぞれの占有域について求めた値を算術平均したものを分散相の平均粒径とする。
即ち、各分散相の粒径は、得られた画像において、各分散相の面積Sを求め、Sを用いて、(4S/π)×0.5を各分散相の粒径とする。
【0099】
なお、本実施形態における平均粒径は、0.3μm以上の粒径の分散相(分散相群(Aとする)について測定したものである。その理由は、0.3μm未満の粒径の分散相(分散相群(B)とする)は、全分散相(又は全粒子)中に占める面積比率が1%未満であり、独立して存在する外部添加剤の粒子群も多数含まれ、本実施形態の耐油性に与える影響がほとんど無いと考えられるからである。
【0100】
このようなポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物から得られるシート状又はチューブ状の成形体は、脂肪族ポリアミド[I]を主成分とするマトリックス相と、共重合体ゴム[II]とオレフィン系重合体[III]とを主成分とする(架橋ゴム成分を主成分とする)分散相とを有するモルフォロジーが制御されており、かつマトリックス相中に分散相が微細に分散した状態の相構造を有する。それにより、室温での柔軟性を有しつつ、高温下でも弾性率の低下が少なく、且つ高い耐油性を有する。
【0101】
モルフォロジーの制御は、主に脂肪族ポリアミド[I]と共重合体ゴム[II]との粘度バランスや、架橋反応速度などによって調整することができる。具体的には、脂肪族ポリアミド[I]と共重合体ゴム[II]の粘度バランスは、例えば脂肪族ポリアミド[I]のMFRや共重合体ゴム[II]と脂肪族ポリアミド[I]との質量比などによって調整することができる。架橋反応速度は、例えば架橋剤[IV]の種類や架橋助剤[V]の種類や量などによって調整することができる。
従って、粒径の小さい分散相を微分散させやすくするためには、例えば脂肪族ポリアミド[I]のMFRは小さくすることが好ましく、共重合体ゴム[II]の質量比は多くしすぎないことが好ましく、架橋剤[IV]としてハロゲン化フェノール樹脂を選択することが好ましく、架橋助剤[V]は反応速度が高い酸化亜鉛を選択することが好ましく、架橋助剤[V]の含有量は適切な範囲に調整することが好ましい。
【0102】
3.成形体とその用途
前述のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形体は、種々の用途に用いることができ、例えば自動車部品、建材部品、スポーツ用品、医療器具部品、工業部品等、各種用途の成形体として有用である。
【0103】
中でも、前述のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体は、高温域での弾性率の低下が抑制されると共に樹脂が溶融した際の粘度が適度に保たれ、且つ高い耐油性を有することから、中空成形体(産業用チューブ)や、特定の成形方法(ブロー成形及び二色成形等)で得られる成形体に好適である。
【0104】
<中空成形体(産業用チューブ)>
産業用チューブは、前述のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物を含む層を少なくとも含む。産業用チューブとは、特に産業機器に使用されるチューブを意味する。産業用チューブの例には、車両(例えば自動車)、空圧・油圧機器、塗装機器、医療機器等の産業機器に必要な流体(燃料、溶剤、薬品、ガス等)を通すチューブが挙げられる。特に、車両配管用チューブ(例えば燃料系チューブ、吸気系チューブ、冷却系チューブ)、空圧チューブ、油圧チューブ、ペイントスプレーチューブ、医療用チューブ(例えばカテーテル)等の用途において非常に有用である。
【0105】
<射出成形、ブロー成形又は二色成形により得られる成形体>
射出成形、ブロー成形又は二色成形により得られる成形体は、そのような物性が要求される各種用途(例えば自動車、電気製品)に広く利用可能である。射出成形、ブロー成形又は二色成形により得られる成形体の例には、等速ジョイントブーツ、ダストカバー等のブーツ部品、オイルシール、ガスケット、パッキン、ダストカバー、バルブ、ストッパ、精密シールゴム、ウェザストリップ等が挙げられる。中でも、自動車用等速ジョイントブーツが好ましい。自動車用等速ジョイントブーツの製造方法としては、例えば射出成形法、ブロー成形法(インジェクションブロー成形法、プレスブロー成形法)等、公知の方法を採用できる。
【0106】
これらの中でも、前述のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形体は、自動車関連部品である吸気・排気系部品や自動車用等速ジョイントブーツ、ダストカバー、各種ブーツ部品等の樹脂製フレキシブルブーツの材料として、好ましくは吸気・排気系部品として特に有用である。
【0107】
吸気・排気系部品の例には、エアホース、エアダクト、ターボダクト、ターボホース、インテークマニホールド、又はエグゾ−ストマニホールド等が含まれる。
【実施例】
【0108】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0109】
1.材料
<脂肪族ポリアミド[I]>
I−1:ポリカプロアミド(ポリアミド6)(東レ社製、商品名アミラン「CM1046、融点=225℃、溶融熱量(ΔH)=69mJ/mg、末端アミン量=30mmol/kg、MFR=9g/10分)
I−2:ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド6/6)(東レ社製、商品名アミラン「CM3001−N」、融点=265℃、溶融熱量(ΔH)=74mJ/mg、末端アミン量=20mmol/kg、MFR=90g/10分)
I−3:ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド6/6)(デュポン社製、商品名zytel 101、融点265℃、溶融熱量(ΔH)=69mJ/mg、末端アミン量=41mmol/kg、MFR=65g/10分)
I−4:ポリヘキサメチレンデカミド(ポリアミド6/10)(東レ社製、商品名アミラン「CM2001、融点=225℃、溶融熱量(ΔH)=83mJ/mg、末端アミン量=18mmol/kg、MFR=250g/10分)
I−5:ポリヘキサメチレンデカミド(ポリアミド6/10)(アルケマ社製、商品名Hiprolon70NN、融点=225℃、溶融熱量(ΔH)=85mJ/mg、末端アミン量=17mmol/kg、MFR=92g/10分)
I−6:ポリヘキサメチレンデカミド(ポリアミド6/10)(デュポン社製、商品名Zytel RSLC3060、融点=223℃、溶融熱量(ΔH)=77mJ/mg、末端アミン量=52mmol/kg、MFR=31g/10分)
【0110】
<比較用樹脂>
R−1:ポリアミドエラストマー(ダイセルエボニック社製、商品名ベスタミド「E47−S4」、融点=160℃)
R−2:ポリアミドエラストマー(ダイセルエボニック社製、商品名ベスタミド「X4442」、融点=170℃)
R−3:ポリアミド12(可塑剤入り)(アルケマ社製、商品名Rilsamid「AESNO P40 TL」、融点=175℃)
R−4:ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸との塩/ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との塩の共重合体(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名ポリアミドMXD6 レニー「#6007」、融点=243℃、溶融熱量(ΔH)=52mJ/mg、末端アミン量=9mmol/kg、MFR=23g/10分)
R−5:ポリアミド12(宇部興産(株)製、商品名UBESTA3030U、融点=178℃、末端アミン量=18mmol/kg、MFR=9g/10分)
R−6:ポリアミド6T6I66(6T/6I/66=44/36/20)
ジカルボン酸成分=テレフタル酸44質量%、イソフタル酸36質量%、アジピン酸20質量%
ジアミン成分=1,6−ヘキサンジアミン
融点(Tm)=265℃
分子鎖の末端アミノ基量=19mmol/kg
これらの脂肪族ポリアミド[I]や比較用樹脂の融点、溶融熱量、末端アミン量及びMFRは、それぞれ前述した方法で測定した値である。
【0111】
<エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム[II]>
共重合体ゴム[II]として、エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体ゴム([η]=2.4dl/g、エチレン含量65質量%、ジエン含量4.6質量%)を用意した。
【0112】
<オレフィン系重合体[III]>
オレフィン系重合体[III]として、以下のように合成した変性ポリオレフィンを用意した。
【0113】
まず、十分に窒素置換したガラス製フラスコに、ビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドを0.63mg入れ、メチルアミノキサンのトルエン溶液(Al:0.13ミリモル/リットル)1.57ml及びトルエン2.43mlをさらに添加して、触媒溶液を得た。
充分に窒素置換した内容積2リットルのステンレス製オートクレーブに、ヘキサン912mlと1−ブテン320mlを導入し、系内の温度を80℃に昇温した。引き続き、トリイソブチルアルミニウム0.9ミリモル及び上記触媒溶液2.0ml(Zrとして0.0005ミリモル)をエチレンで圧入することにより重合を開始した。
エチレンを連続的に供給することにより全圧を8.0kg/cm−Gに保ち、80℃で30分間重合を行った。少量のエタノールを系中に導入して重合を停止させた後、未反応のエチレンをパージした。得られた溶液を大過剰のメタノール中に投入することにより、白色固体を析出させた。
この白色固体を濾過により回収し、減圧下で一晩乾燥し、白色固体状のエチレン・1−ブテン共重合体を得た。このエチレン・1−ブテン共重合体の密度は、0.862g/cm、MFR(ASTM D1238規格、190℃、2160g荷重)は、0.5g/10分、1−ブテン構造単位含有率は4モル%であった。
このエチレン・1−ブテン共重合体100質量部に、無水マレイン酸1.0質量部と過酸化物(日油(株)製、商品名パーヘキシン25B)0.04質量部とを混合し、得られた混合物を230℃に設定した1軸押出機で溶融グラフト変性することによって、上記の無水マレイン酸変性エチレン・1−ブテン共重合体を得た。
【0114】
得られた無水マレイン酸変性エチレン・1−ブテン共重合体の無水マレイン酸グラフト変性量(官能基構造単位含有率)は0.97質量%であり、135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度[η]1.98dl/gであった。官能基構造単位の含有率は、前述の13CNMR法で測定し、極限粘度[η]は前述の方法で測定した。
【0115】
<未変性オレフィン系重合体>
未変性オレフィン系重合体:上記で得られた変性前のエチレン・1−ブテン共重合体
【0116】
<フェノール樹脂系架橋剤[IV]>
フェノール樹脂系架橋剤[IV]として、フレーク状の臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(田岡化学工業(株)製、商品名タッキロール250−III)をヘンシェルミキサーにて10秒間攪拌して粉状にしたものを用意した。
【0117】
<比較用架橋剤>
過酸化物(日油(株)製、商品名パーヘキシン25B)
【0118】
<架橋助剤[V]>
ハクスイテック(株)製、酸化亜鉛2種
正同化学工業(株)製、炭酸亜鉛
日東化成工業(株)製、ステアリン酸亜鉛
【0119】
2.ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物の調製
<実施例1>
ポリアミド[I−1]47質量%、共重合体ゴム[II]40質量%、オレフィン系重合体[III]10.47質量%、フェノール樹脂系架橋剤[IV]2.5質量%及び0.03質量%(質量比[V]/[I]=0.0006)の架橋助剤(ハクスイテック(株)製、酸化亜鉛2種)を予備混合し、これを二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX−30)に供給し、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数300rpmで、溶融混練した。この二軸押出機から押出されたストランドを切断して、ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。
【0120】
<実施例2〜12、参考例1、比較例1〜10>
表1又は2に示されるような組成に変更した以外は実施例1と同様にしてポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。
【0121】
実施例1〜12、参考例1及び比較例1〜10で得られたペレットを用いて成形した試験片の貯蔵弾性率E’、耐油性、加熱減量試験での質量変化率、及びTEM測定を、それぞれ以下の方法で測定した。
【0122】
[貯蔵弾性率E’]
(23℃貯蔵弾性率E’)
得られたペレットをプレス機に投入し、プレス温度:融点+25℃の条件で熱プレスを行い、厚さ約500μmのフィルム(試験片)を得た。得られたフィルムをアイティー計測制御社製のDVA−225にセットし、引張モード、昇温速度:3℃/min、周波数:1Hzの条件で貯蔵弾性率(E')を測定し、規定温度(23℃)での貯蔵弾性率(E’)を読み取った。
【0123】
(10MPa維持温度)
得られた貯蔵弾性率(E’)から、10MPaを維持する最大の温度を読み取り、10MPa維持温度とした。一般に、10MPaよりも下回ると、自重での変形等が発生する場合が多く、成形体の形状が保持できなくなる。
【0124】
[耐油性]
耐油性の評価は、JIS K6258の全面浸せき試験に準拠して行った。
具体的には、得られたペレットをプレス機に投入し、プレス温度:融点+25℃の条件で熱プレスを行い、30mm×30mm×厚さ2mmの角板(試験片)を得た。
得られたフィルムを、JIS K6258に準拠して、120℃又は175℃に保持したIRM903オイル中に72時間浸した後、質量変化率(質量%)を求めた。
【0125】
[加熱減量試験]
(質量変化率)
1)得られたペレットをプレス機に投入し、プレス温度:融点+25℃の条件で熱プレスを行い、20cm×20cm×厚さ約500μmのフィルム(試験片)を得た。そして、このフィルムの質量(M0)を測定した。
2)次いで、真空乾燥機にて、150℃減圧下で10時間保持した。その後、再度フィルムの質量(M1)を測定した。
3)上記1)と2)のフィルムの質量をそれぞれ下記式に当てはめて、質量変化率(質量%)を算出した。
質量変化率(質量%)=(M0−M1)/M0×100
【0126】
(試験前弾性率/試験後弾性率)
前述の質量変化率と同様にして、加熱試験後のフィルム(試験片)の貯蔵弾性率を前述の貯蔵弾性率E’と同じ方法で測定した。
そして、加熱試験後の貯蔵弾性率E’と加熱試験前の貯蔵弾性率(23℃での貯蔵弾性率E’)の比(試験後弾性率/試験前弾性率)(%)を算出した。
【0127】
[透過型電子顕微鏡(TEM)測定]
得られたペレットを、マイクロトームにて研削し、超薄切片をトリミングした。得られた超薄切片の断面を、四酸化ルテニウムの蒸気に一定時間晒して、分散相とマトリクス相のうち分散相のみを選択的に染色させた。これを、透過電子顕微鏡(TEM、株式会社日立ハイテクノロジー社製H−7650)を用いて、3000倍率でそれぞれ観察した。得られたTEM画像から、染色された分散相(分散相群(A))の平均粒径、粒径3.0μm以上の分散相の面積の合計及び解析面積(解析を行った領域の面積)を求め、粒径3.0μm以上の分散相が解析面積全体に対して占める割合を算出した。
【0128】
実施例1〜12の評価結果を表1に、参考例1及び比較例1〜10の評価結果を表2に示す。
【表1】
【表2】
【0129】
表1及び2に示されるように、実施例1〜12のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体は、比較例1及び2のポリアミド系熱可塑性エラストマーや比較例3のポリアミド組成物、比較例4及び10のポリアミドから得られる成形体よりも、10MPa貯蔵弾性率の維持温度が高く、耐油性も高いことがわかる。これは、実施例1〜12の成形体では、動的架橋により特定の海島構造が形成されたこと、及び分散相を構成する共重合体ゴム[III]が架橋していることによると考えられる。また、比較例5のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物は、ペレットを作製することができず、測定が不可能であった。
【0130】
また、脂肪族ポリアミド[I]を含む実施例1〜12のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体は、半芳香族ポリアミドR−4を含む参考例1のポリアミド系熱可塑性エラストマーから得られる成形体よりも、10MPa貯蔵弾性率の維持温度が高く、耐油性も高いことがわかる。これは、マトリクス相を構成する脂肪族ポリアミド[I]の結晶化度が高く、高温での剛性(貯蔵弾性率)が高まったこと、それにより共重合体ゴム[II]成分が油により膨潤するのを抑制されたことによると考えられる。
【0131】
また、実施例3のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体は、未変性オレフィン重合体を用いた比較例9のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体よりも、10MPa貯蔵弾性率の維持温度が高く、耐油性も高いことがわかる。また、実施例3のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体は、変性オレフィン重合体[III]を含まない比較例8のポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体よりも、10MPa貯蔵弾性率の維持温度が高く、耐油性も高いことがわかる。
【0132】
また、MFRの値が小さな脂肪族ポリアミド[I]を用いることで、得られる分散相の粒径が小さくなり、微分散しやすくなることがわかる。それにより、特に高温下での耐油性をより高めうることがわかる(実施例6〜8の対比)。
【0133】
また、共重合体ゴム[II]と脂肪族ポリアミド[I]の質量比([II]/[I])が40以下/60以上であると、つまり、共重合体ゴム[II]の質量比を一定以下であると、得られる分散相の粒径が小さくなり、微分散しやすくなることがわかる。それにより、10MPa貯蔵弾性率の維持温度と耐油性をより高めうることがわかる(実施例3〜5の対比)。
【0134】
また、架橋助剤[V](好ましくは酸化亜鉛)の含有量を、質量比[V]/[I]が0.0001〜0.02となるように設定することで、10MPa貯蔵弾性率の維持温度と耐油性をより高めうることがわかる。これは、架橋助剤[V]の含有量を上記範囲とすることで、架橋速度が適度に遅くなり、共重合体ゴム[II]が分散されてから動的架橋が進行し、共重合体ゴム[II]の分散が良好な特定の海島構造が形成されやすくなったためであると考えられる(実施例3、9及び10と、比較例6及び7との対比)。
【0135】
また、架橋助剤[V]として酸化亜鉛を用いることで、炭酸亜鉛やステアリン酸亜鉛を用いるよりも、10MPa貯蔵弾性率の維持温度と耐油性をより高めうることがわかる。これは、酸化亜鉛が、炭酸亜鉛やステアリン酸亜鉛よりも架橋剤[V]を活性化させる速度が高いからであると考えられる(実施例3、11及び12の対比)。
【0136】
また、粒径が3.0μm以上の分散相の累計断面積を、解析した面積全体に対して10%以下とすることで、耐油性がより高まり(実施例1〜12と、参考例1及び比較例1〜10との対比)、粒径が3.0μm以上の分散相の累計断面積を5%以下、さらには3%以下とすることで、10MPa貯蔵弾性率の維持温度も一層高まることがわかる(実施例1〜12の対比)。さらに、分散相の平均粒径が1.5μm以下であると、10MPa貯蔵弾性率の維持温度や耐油性も一層高まることがわかる(実施例3〜5の対比、実施例9〜12の対比)。
【0137】
本出願は、2016年11月4日出願の特願2016−216083に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明によれば、室温での柔軟性を有しつつ、高温下でも弾性率を維持し、且つ高い耐油性を有する成形体を付与しうるポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物を提供することができる。
図1