(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876731
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】シャント抵抗器
(51)【国際特許分類】
H01C 17/242 20060101AFI20210517BHJP
H01C 1/04 20060101ALI20210517BHJP
H01C 13/00 20060101ALI20210517BHJP
H01C 17/065 20060101ALN20210517BHJP
【FI】
H01C17/242
H01C1/04
H01C13/00 J
!H01C17/065 500
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-8898(P2019-8898)
(22)【出願日】2019年1月23日
(62)【分割の表示】特願2015-91883(P2015-91883)の分割
【原出願日】2015年4月28日
(65)【公開番号】特開2019-80075(P2019-80075A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2019年1月23日
【審判番号】不服2020-12278(P2020-12278/J1)
【審判請求日】2020年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000175722
【氏名又は名称】サンコール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】特許業務法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】村上 建二
(72)【発明者】
【氏名】小早川 浩也
【合議体】
【審判長】
井上 信一
【審判官】
須原 宏光
【審判官】
赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/157435(WO,A1)
【文献】
特開平03−259501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 13/00
H01C 17/06
G01R 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対して板面方向に離間された一対の電極板材と前記一対の電極板材を連結し且つ所定の設定抵抗値を有する抵抗合金板材とを備えたシャント抵抗器であって、
前記抵抗合金板材の表面には、レーザー加工によって形成され且つ前記抵抗合金板材の設定抵抗値を示す視認可能な文字列パターンが前記一対の電極板材間の電流流れ方向に直交する当該抵抗合金板材の幅方向全域に亘って設けられ、
前記抵抗合金板材の抵抗値が初期抵抗値から前記設定抵抗値まで上昇するように前記文字列パターンの表面積及び削り取り深さが設定されていることを特徴とするシャント抵抗器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流値検出用に用いられるシャント抵抗器に関する。
【背景技術】
【0002】
シャント抵抗器は、電流値の検出対象となる電気回路に直列接続され、当該シャント抵抗器を挟んだ両側の電圧値を測定することによって、前記回路の電流値を検出する際に利用される部材であり、回転電動機におけるバスリング(バスバー)等の種々の分野において広く利用されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、所定厚み及び幅を有するCu等の金属板材から一対の電極部と前記一対の電極部を連結する連結部とを一体的に有する中間体を形成し、前記一対の電極部に跨がるようにCu−Mn系合金、Ni−Cr系合金又はCu−Ni合金等の抵抗合金板材を前記一対の電極部に接合し、その後に、前記連結部を切断除去するシャント抵抗器の製造方法が提案されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、絶縁基板上で対向配置された一対の電極導体を接続するように厚膜抵抗体を前記一対の電極導体に接合させると共に、前記厚膜抵抗体をレーザトリミングすることで所定の抵抗値を得る方法が提案されている。
【0005】
前記特許文献1に記載の製造方法は、抵抗合金板材の一対の電極部に対する取付姿勢の安定化を図り得る点において有用である。
また、前記特許文献2に記載の方法は、抵抗値を高精度に調整できる点において有用である。
【0006】
ところで、一般的に、種々の抵抗値のシャント抵抗器が製造され、電流値の検出対象となる電気回路の仕様に応じて、適切な抵抗値のシャント抵抗器が利用される。
【0007】
この際、シャント抵抗器は、抵抗値毎に管理されているが、一のシャント抵抗器の抵抗値を直ちに確認することができれば、一のシャント抵抗器を電気回路に取り付ける際の作業に際しシャント抵抗器の選択ミスを可及的に防止することができる。
【0008】
しかしながら、前記特許文献1及び2を含み、斯かる観点に着目した先行技術は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5374732号公報
【特許文献2】特開平10−032110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、斯かる従来技術に鑑みなされたものであり、設定抵抗値を使用者に確実に知らしめることができるシャント抵抗器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために、互いに対して板面方向に離間された一対の電極板材と前記一対の電極板材を連結し且つ所定の設定抵抗値を有する抵抗合金板材とを備えたシャント抵抗器であって、前記抵抗合金板材の表面には、レーザー加工によって形成され且つ前記抵抗合金板材の設定抵抗値を示す視認可能な文字列パターンが
前記一対の電極板材間の電流流れ方向に直交する当該抵抗合金板材の幅方向全域に亘って設けられ、前記抵抗合金板材
の抵抗値が
初期抵抗値から前記設定抵抗値
まで上昇するように前記文字列パターンの表面積及び削り取り深さが設定されているシャント抵抗器を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るシャント抵抗器によれば、
一対の電極板材間を連結する抵抗合金板材の表面に、レーザー加工によって形成され且つ前記抵抗合金板材の設定抵抗値を示す視認可能な文字列パターンが
前記一対の電極板材間の電流流れ方向に直交する当該抵抗合金板材の幅方向全域に亘って設けられ、前記抵抗合金板材
の抵抗値が
初期抵抗値から前記設定抵抗値
まで上昇するように前記文字列パターンの表面積及び削り取り深さが設定されているので、使用者に抵抗合金板材の設定抵抗値を確実に知らしめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係るシャント抵抗器の平面図である。
【
図2】
図2は、
図1におけるII-II線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るシャント抵抗器の一実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施の形態に係るシャント抵抗器1の平面図を示す。
又、
図2に、
図1におけるII-II線に沿った前記シャント抵抗器1の断面図を示す。
【0015】
図1及び
図2に示すように、前記シャント抵抗器1は、互いに対して板面方向に離間された一対の電極板材10、10と、前記一対の電極板材10、10を連結する抵抗合金板材20とを備えている。
【0016】
前記電極板材10は導電性部材とされ、例えば、Cuの金属板材が好適に利用される。
図1及び
図2に示すように、前記一対の電極板材10、10には、両者の間を連結する前記抵抗合金板材20の近傍に位置するように一対の検出用端子15、15が設けられている。
なお、
図1及び
図2中の符号18は、前記シャント抵抗器を所定位置に固定する為に用いられる締結用の貫通孔である。
【0017】
前記抵抗合金板材20は、所定の設定抵抗値を有するものとされる。
前記抵抗合金板材20は、例えば、Cu−Mn系合金、Ni−Cr系合金、Cu−Ni系合金が好適に利用される。
【0018】
本実施の形態においては、
図1に示すように、前記抵抗合金板材20の表面には、レーザー加工によって形成された文字列パターン25であって、当該抵抗合金板材20の設定抵抗値を示す視認可能な文字列パターン25が設けられている。
【0019】
図示の形態においては、前記抵抗合金板材20は抵抗値が0.1mΩとされており、その為、文字列パターン25として「0.1mΩ」がレーザー加工によって形成されている。
【0020】
詳しくは、前記文字列パターン25の表面積及び削り取り深さを調整することによって、前記抵抗合金板材20の抵抗値が初期抵抗値(レーザー加工前の状態の抵抗値)から設定抵抗値へ調整されている。
【0021】
即ち、所定表面積を有する前記文字列パターン25をレーザー加工によって所定深さだけ削り取ることによって、前記抵抗合金板材20の断面積が減少し、この断面積の減少に応じて前記抵抗合金板材20の抵抗値が初期抵抗値から設定抵抗値まで上昇することになる。
【0022】
斯かる構成の前記シャント抵抗器1によれば、前記文字列パターン25の表面積及び削り取り深さを調整することによって、前記抵抗合金板材20の抵抗値を所望の設定抵抗値に一致させるように構成されているので、製造コストの高騰を招くこと無く前記シャント抵抗器1を所望の設定抵抗値に調整させることができ、さらに、前記抵抗合金板材20の設定抵抗値を使用者に確実に知らしめることができる。
【0023】
従って、前記シャント抵抗器を抵抗値毎に管理する際の管理作業を効率良く行うことができ、さらに、前記シャント抵抗器を電気回路に連結させる際の前記シャント抵抗器の選択ミスを可及的に防止することができる。
【0024】
次に、前記シャント抵抗器1の製造方法について説明する。
まず、第1の製造方法について説明する。
第1の製造方法は、前記一対の電極板材10、10が前記抵抗合金板材20によって連結されてなる抵抗器素材を用意する工程と、前記抵抗合金板材20の初期抵抗値を測定する工程と、前記設定抵抗値を示す視認可能な文字列パターン25(例えば、0.1mΩ)が形成されるように前記抵抗合金板材20の表面のうち文字列パターン25を形成する領域を削り取るレーザー加工であって、削り取り深さが所定の基準深さとなるようなレーザー出力値でレーザー加工を行う基準出力レーザー加工工程と、前記基準出力レーザー加工を行うことによって前記文字列パターン25が基準深さを有する状態とされた前記抵抗合金板材20の抵抗値(文字列パターン基準深さ状態抵抗値)を測定する工程と、前記初期抵抗値及び前記文字列パターン基準深さ状態抵抗値に基づき、1回の基準出力レーザー加工によって変化する抵抗合金板材の基準変化抵抗値を算出する工程と、文字列パターン基準深さ状態抵抗値及び設定抵抗値の差違と基準変化抵抗値とに基づいて算出される必要回数だけ基準深さレーザー加工を行う工程とを含むものとされる。
【0025】
例えば、前記設定抵抗値が0.100mΩである場合において、前記抵抗器素材の初期抵抗値(レーザー加工を行う前の状態の抵抗値)が0.05mΩであり、前記文字列パターン基準深さ状態抵抗値が0.06mΩであったとする。
【0026】
この場合には、前記基準変化抵抗値は0.01mΩ(=0.06mΩ−0.05mΩ)となり、文字列パターン基準深さ状態抵抗値(0.06mΩ)及び設定抵抗値(0.100mΩ)の差違(0.04mΩ)と基準変化抵抗値(0.01mΩ)とに基づいて算出される必要回数である4回だけ前記基準深さレーザー加工を行うことで、前記抵抗合金板材20の抵抗値を設定抵抗値である0.100mΩとすることができる。
【0027】
前記第1の製造方法によれば、所望の設定抵抗値を有し且つ当該設定抵抗値を使用者に確実に知らしめることができる前記シャント抵抗器1を確実に且つ効率良く製造することができる。
【0028】
前記第1の製造方法に代えて、下記構成の第2の製造方法によっても前記シャント抵抗器1を製造することができる。
【0029】
前記第2の製造方法は、前記抵抗器素材を用意する工程と前記抵抗合金板材の初期抵抗値を測定する工程とを有し、これらの工程の後に、想定される複数の設定抵抗値毎に用意された変化抵抗値/レーザー出力に関するデータを用いて、レーザー加工する際のレーザー出力値を算出し、前記レーザー出力値のレーザーを用いて前記文字列パターン25を形成するレーザー加工工程を備えるものとされる。
【0030】
前記変化抵抗値/レーザー出力に関するデータは、設定抵抗値を示す視認可能な所定表面積の文字列パターン25が形成されるように前記抵抗合金板材20の表面のうち前記文字列パターン25を形成する領域を削り取るレーザー加工を行うことによって変化する抵抗合金板材の変化抵抗値の大きさとレーザー出力の大きさとの関係を示すデータであり、予め実験等によって得られている。
【0031】
前記第2の製造方法における前記レーザー加工工程においては、初期設定値と設定抵抗値との差違に基づき得られる変化させるべき抵抗値と前記変化抵抗値/レーザー出力に関するデータとに応じて後続するレーザー加工時において必要とされるレーザー出力値を算出し、前記レーザー出力値のレーザーで前記文字列パターン25を形成する領域に対してレーザー加工を行う。
【0032】
前記第2の製造方法においても、所望の設定抵抗値を有し且つ当該設定抵抗値を使用者に確実に知らしめることができる前記シャント抵抗器1を確実に且つ効率良く製造することができる。
【0033】
前記第1及び第2の製造方法に代えて、下記構成の第3の製造方法によっても前記シャント抵抗器1を製造することができる。
【0034】
前記第3の製造方法は、前記抵抗器素材を用意する工程と前記抵抗合金板材20の初期抵抗値を測定する工程とを有し、これらの工程の後に、想定される複数の設定抵抗値毎に用意された変化抵抗値/文字列パターン表面積に関するデータを用いて後続する所定基準出力値のレーザーによるレーザー加工を行う際にレーザー加工すべき文字列パターンの表面積を算出し、前記表面積を有するように前記基準出力値のレーザーによって前記文字列パターン25を形成するレーザー加工工程を備えるものとされる。
【0035】
前記変化抵抗値/文字列パターン表面積に関するデータは、設定抵抗値を示す視認可能な文字列パターン25を形成する為に前記抵抗合金板材20の表面のうち前記文字列パターン25を形成する領域を前記基準出力値のレーザーによって削り取る際の前記文字列パターン25の表面積とこのレーザー加工によって変化する抵抗合金板材の変化抵抗値の大きさとの関係を示すデータであり、予め実験等によって得られている。
【0036】
前記第3の製造方法における前記レーザー加工工程においては、初期設定値と設定抵抗値との差違に基づき得られる変化させるべき抵抗値と前記変化抵抗値/文字列パターン表面積に関するデータとに応じて、レーザー加工を行うべき文字列パターンの表面積を算出し、前記表面積を有するように前記基準出力値のレーザーによって前記文字列パターン25が形成される。
【0037】
前記第3の製造方法においても、所望の設定抵抗値を有し且つ当該設定抵抗値を使用者に確実に知らしめることができる前記シャント抵抗器1を確実に且つ効率良く製造することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 シャント抵抗器
10 電極板材
20 抵抗合金板材
25 文字列パターン