特許第6876732号(P6876732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6876732α−MSHのClpBタンパク質模倣体を介した食欲の調節に及ぼす細菌の影響
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876732
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】α−MSHのClpBタンパク質模倣体を介した食欲の調節に及ぼす細菌の影響
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20210517BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20210517BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 35/741 20150101ALI20210517BHJP
   C07K 14/37 20060101ALI20210517BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20210517BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20210517BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   A61K35/74 ZZNA
   A61K38/16
   A61P3/04
   A61K35/741
   C07K14/37
   C12N15/31
   C12N1/20 E
   C12N1/21
【請求項の数】12
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2019-19913(P2019-19913)
(22)【出願日】2019年2月6日
(62)【分割の表示】特願2016-536831(P2016-536831)の分割
【原出願日】2014年12月4日
(65)【公開番号】特開2019-89815(P2019-89815A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2019年2月6日
(31)【優先権主張番号】13306673.8
(32)【優先日】2013年12月5日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】14306552.2
(32)【優先日】2014年10月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511074305
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(73)【特許権者】
【識別番号】516164494
【氏名又は名称】センター ホスピタリエ ユニバーシティ デ ロウエン
(73)【特許権者】
【識別番号】516164483
【氏名又は名称】ユニバーシティ デ ロウエン
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】フェティソヴ,サーグエイ
(72)【発明者】
【氏名】デ,エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】テノウネ,ナオエル
(72)【発明者】
【氏名】ブレトン,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】チャン−チ−ソン,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】デシェロッテ,ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ルグラン,ロマン
【審査官】 原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−500068(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/011174(WO,A1)
【文献】 Poultry Science,2001年,Vol. 80,pp. 562-571
【文献】 British Journal of Nutrition,2012年,Vol. 107,pp. 1429-1434
【文献】 J Ind Microbiol.,1993年,Vol. 11, No. 4,pp. 253-257,要約, online, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7763897
【文献】 Clinical Nutrition,2013年 9月,Vol. 32, Suppl. 1,p. S4,OP009
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/74
A61K 35/741
A61K 38/16
A61P 3/04
C07K 14/37
C12N 1/20
C12N 1/21
C12N 15/31
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象または非ヒト哺乳類対象の肥満の治療または予防における使用のための経口組成物であって、
前記経口組成物は、ClpBタンパク質を発現する非病原性細菌を含み、
前記ClpBタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列を提示し、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一である、
経口組成物。
【請求項2】
それを必要とするヒト対象または非ヒト哺乳類対象において食欲を減少させるのに使用するための経口組成物であって、
前記経口組成物は、ClpBタンパク質を発現する細菌を含み、
前記ClpBタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列を提示し、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一である、
経口組成物。
【請求項3】
それを必要とするヒト対象または非ヒト哺乳類対象において体重を減少させるのに使用するための経口組成物であって、
前記経口組成物は、ClpBタンパク質を発現する細菌を含み、
前記ClpBタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列を提示し、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一である、
経口組成物。
【請求項4】
それを必要とするヒト対象または非ヒト哺乳類対象においてカロリー摂取量を減少させるのに使用するための経口組成物であって、
前記経口組成物は、ClpBタンパク質を発現する細菌を含み、
前記ClpBタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列を提示し、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一である、
経口組成物。
【請求項5】
前記細菌が共生非病原性細菌である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の経口組成物。
【請求項6】
前記細菌がプロバイオティクスである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の経口組成物。
【請求項7】
前記細菌が、前記ClpBタンパク質を過剰発現している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の経口組成物。
【請求項8】
前記細菌が、腸内細菌科の細菌である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の経口組成物。
【請求項9】
前記細菌が大腸菌である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の経口組成物。
【請求項10】
前記細菌が大腸菌K12である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の経口組成物。
【請求項11】
医薬組成物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の経口組成物。
【請求項12】
前記細菌が、1日あたり10億〜100億UFCの量である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌ClpBタンパク質およびClpB発現細菌、ならびに摂食障害に及ぼすこれらの影響に関する。さらに本発明は、少なくとも1つのClpB発現細菌に対する抗生剤を含む組成物、およびClpBタンパク質を発現しないプロバイオティクスを含む組成物、および摂食障害の治療または予防におけるそれらの使用に関する。また本発明は、対象が摂食障害を治療する方法に応答する可能性があるか否かを決定するための診断ツール、および摂食障害に対する免疫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摂食障害は、過去50年にわたり男性および女性を問わず全世界中で増加している。特に、西側諸国の人々が摂食障害を発症するリスクが最も高く、西洋化の度合いがこのリスクを高めていることを示唆する証拠がある。近年の進歩に伴い、科学者らは、食欲の中心プロセスの理解を深めている。動機づけ、ホメオスタシス、および自己調節制御のプロセス間の相互作用が、摂食行動に関与しており、これらが摂食障害の鍵となる構成要素であることが知られている。
【0003】
近年の科学において、さらなる調節因子であるヒトのマイクロバイオームが発見された。ハイスループットDNAシークエンシング技術の進歩により、ヒトのマイクロバイオームが探索され、これにより宿主とその細菌叢との間の分子的な関係の理解は大きく進歩した。この「第2のゲノム」である、マイクロバイオームは、4〜500万超の重複していない微生物の推定の遺伝子、および1〜2,000種の一般的に認められる細菌種の一覧である。各個体は、少なくとも160の共通の種と、個体の群を定義する多くの良好につり合いのとれた宿主‐微生物の分子的関係を有する。
【0004】
微生物の共同体と、それらのヒト宿主との間の共生関係の本質的な特性を理解することにより、常在性の共同体の特定の特性から、健康状態などの宿主の表現型を予測することが可能であり得ると考えられる。
【0005】
たとえば腸内細菌叢の組成は、肥満および糖尿病ならびに精神神経障害を含む宿主の代謝表現型に関連しており、腸内細菌が、脳により制御される機能および活動に影響を及ぼし得ることが示唆されている。
【0006】
よって本明細書の文脈において、細菌叢を宿主の行動と関連づける分子的機構を決定することが、宿主の生理機能における特定の微生物の役割を定義するために必要なステップと考えられる。
【0007】
神経性食欲不振症(AN)、過食症(BN)、およびむちゃ食い障害(BED)を含む摂食障害の原因となる分子的機構は現在わかっていない。従来のデータから、α−メラニン細胞刺激ホルモン(α−MSH)と反応する免疫グロブリン(Igs)または自己抗体が、食物摂取量および感情の調節に関与していることが示されたが、このような自己抗体の起源はわかっていない。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、プロテオミクスを使用して、共生腸内細菌大腸菌K12のClpBシャペロンタンパク質が、エネルギー代謝および感情の調節に関与する神経ペプチドである、α−メラニン細胞刺激ホルモン(α−MSH)の立体構造模倣体であることを発見した。
【0009】
本発明者らは、ClpB免疫マウスが、食物摂取、体重、不安、およびメラノコルチン受容体4のシグナリングに影響するα−MSHと交差反応性である抗ClpB IgGを産生することを示す。さらに、本発明者らは、マウスにおいて大腸菌が長期間胃に送達されると、食物摂取量を減少させ、ClpBおよびα−MSH反応性抗体の形成を刺激するが、一方ClpB欠損大腸菌は、食物摂取または抗体のレベルに影響を与えなかったことを示す。最終的に、本発明者らは、α−MSHと交差反応性である抗ClpBIgGの血漿中レベルが、AN、BN、およびBEDの患者で増加しており、摂食障害患者におけるED(摂食障害)調査票‐2スコア(inventory−2 score)が、抗ClpBのIgGおよびIgMと相関することを示す。
【0010】
結果として、本発明者らは、いくつかの共生および病原性の微生物に存在する細菌ClpBタンパク質が、α−MSHと交差反応性の自己抗体の産生の原因であり得て、摂食障害を有するヒトの食物摂取の変化および感情の変化に関連し得ることを示している。
【0011】
さらに、本発明者らは、摂食障害を罹患している患者のClpBタンパク質の血漿中濃度が増加することを示す。
【0012】
よって、ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の存在は、摂食障害、ならびに食欲および感情の調節障害に関連し得る。
【0013】
抗ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の存在は、摂食障害および食欲の調節障害と相関していることにより、代わりにClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを低下させることによって、食欲を調節することができ、これにより摂食障害の治療として使用することができる。
【0014】
よって、本発明は、摂食障害の治療または予防に使用するための少なくとも1つのClpB発現細菌に対する少なくとも1つの抗生剤を含む組成物に関する。
【0015】
さらに本発明は、対象の食欲を調製する非治療的な方法であって、少なくとも1つのClpB発現細菌に対する少なくとも1つの抗生剤を含む組成物の有効量を上記対象に投与することを含む、方法に関する。
【0016】
よって本発明は、摂食障害の治療または予防に使用するための、ClpBを発現しないプロバイオティクスを含む組成物にも関する。
【0017】
さらに本発明は、対照の食欲を調節する非治療的な方法であって、ClpBを発現しないプロバイオティクスを含む組成物の有効量を上記対象に投与することを含む、方法に関する。
【0018】
また本発明は、ワクチンまたは免疫原性組成物として使用するためのClpBタンパク質を含む組成物に関する。
【0019】
具体的に、上記使用するための組成物は、摂食障害に対する免疫に使用される。
【0020】
具体的に、上記使用するための組成物は、摂食障害の予防に使用される。
【0021】
また本発明は、対象の摂食障害を診断するin vitroでの方法であって、
a)上記対象由来の生物学的試料中のClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを測定することと、
b)上記ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の測定レベルを参照値と比較することと、
c)これら比較から対象が摂食障害を罹患しているか否かを推測することと
を含む、方法に関する。
【0022】
さらに本発明は、ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを低下させる治療に応答する可能性があるとして摂食障害を罹患している対象を選択するin vitroでの方法であって、
a)上記対象由来の生物学的試料中のClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを測定することと、
b)上記ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の測定レベルを参照値と比較することと、
c)ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを低下させる治療に関して対象を選択することであって、上記ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを低下させる治療が、少なくとも1つのClpB発現細菌に対する1つの抗生剤を含む組成物の有効量を上記対象に投与することと、および/またはClpBを発現しないプロバイオティクスを含む組成物の有効量を上記対象に投与することと、および/またはそれらの組み合わせを含む、ことと
を含む、方法に関する。
【0023】
本発明者らは、マウスにおける大腸菌の胃内送達が、細菌中のClpBタンパク質の存在により、食物摂取量および体重を減少させることを示し、さらに本発明は、肥満の治療または予防に使用するための、ClpBタンパク質を過剰発現(surexpressing)するプロバイオティクスを含む組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本発明者らは、プロテオミクスを使用して、共生腸内細菌大腸菌K12のClpBシャペロンタンパク質が、エネルギー代謝および感情の調節に関与する神経ペプチドである、α―メラニン細胞刺激ホルモン(α−MSH)の立体構造模倣体であること、およびClpB発現細菌の存在が食欲の調節障害をもたらすことを発見した。
【0025】
よって、本発明は、摂食障害の治療または予防に使用するための少なくとも1つのClpB発現細菌に対する少なくとも1つの抗生剤を含む組成物に言及する。
【0026】
本明細書中で使用される「ClpB発現細菌」は、シャペロンタンパク質ClpBを発現する細菌を指す。
【0027】
「タンパク質脱凝集シャペロン」、「シャペロンタンパク質ClpB」、「ClpBタンパク質」、または「ClpB」は、ヒートショックタンパク質F84.1としても知られており、六量体AAA+−ATPアーゼのHsp100/ClpBファミリーのメンバーである。このファミリーは、細菌、真菌、および植物のHsp100 ATPアーゼを含み、ClpBは、代表的な細菌ATPアーゼである。ストレス誘導性マルチシャペロンシステムの一部として、ClpBは、ストレス条件下で細胞が生存するための重大なプロセスであるタンパク質の脱凝集においてHsp70システム(DnaK、DnaJ、およびGrpE)と協調して熱誘導性損傷からの細胞の回復に関与している。
【0028】
感染プロセスの際に、細菌病原体は、病原体を除去するために宿主防御により生成されたストレス状態に晒され、熱ショックタンパク質および他のストレスタンパク質の合成を増加させることにより、その宿主防御に応答する。本発明の文脈において、ClpBは、熱耐性の獲得にとって必須の因子として、ならびに黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella turalensis)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、およびネズミチフス菌(Salmonella thyphimurium)などのいくつかのグラム陰性およびグラム陽性の病原性細菌のビルレンスおよび感染性にとって必須の因子として説明されている。
【0029】
大腸菌K12では、シャペロンタンパク質ClpBは熱ショックタンパク質F84.1またはhtpMとしても知られている、アミノ酸857個のタンパク質である。
【0030】
典型的に、シャペロンタンパク質ClpBは、配列番号:1(NCBIの参照番号:NP_417083.1(2013年11月6日時点で利用可能)および/またはUniProtKB/Swiss−Prot番号:P63284(2013年11月6日時点で利用可能))を有する大腸菌K12由来のシャペロンタンパク質ClpBのアミノ酸配列を含む、またはからなる。好ましくは、シャペロンタンパク質ClpBのアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列と80〜100%同一のアミノ酸配列を含む、またはからなる。好ましくは、アミノ酸配列は、配列番号1と90〜100%同一、より好ましくは95〜100%、最も好ましくは95、96、97、98、99、または100%同一である。
【0031】
よって、ClpB発現細菌は、上記に定義されているシャペロンタンパク質ClpB、または配列番号1のアミノ酸配列と80〜100%同一、より好ましくは配列番号1のアミノ酸配列と95〜100%、最も好ましくは95、96、97、98、99、もしくは100%同一であるアミノ酸配列を含む、もしくはからなるポリペプチド、を発現または過剰発現する細菌を指す。
【0032】
本発明のクエリーアミノ酸配列とたとえば少なくとも95%「同一」のアミノ酸配列を有するポリペプチドでは、対象ポリペプチド配列が、クエリーアミノ酸配列のアミノ酸各100個あたり最大5個のアミノ酸変化を含み得ることを除き、対象のポリペプチドのアミノ酸配列がクエリー配列と同一であると意図される。言い換えると、クエリーアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るためには、対象配列中のアミノ酸残基のうち最大5%(100個のうち5個)が、別のアミノ酸を挿入、欠失、または置換され得る。
【0033】
本出願の文脈において、同一性のパーセンテージは、グローバルアライメントを使用して計算される。(すなわち2つの配列を、それらの全長にわたって比較される)。2つ以上の配列の同一性を比較する方法は、当業者によく知られている。たとえば「needle」プログラムを使用してもよく、これは、長さ全体を考慮する場合、2つの配列の最適なアライメント(ギャップを含む)を見つけ出すためにNeedleman‐Wunschのグローバルアライメントアルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970 J. Mol. Biol. 48:443−453)を使用する。needleプログラムは、たとえば、ebi.ac.ukワールドワイドウェブサイトで入手可能である。本発明に係る同一性のパーセンテージは、好ましくは、10.0に等しい「ギャップ開始」パラメータ、0.5に等しい「ギャップ伸長」パラメータ、およびBlosum62行列を用いてEMBOSS::needle(グローバル)プログラムを使用して計算する。
【0034】
参照配列と「少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である」アミノ酸配列からなるタンパク質は、参照配列と比較して、欠失、挿入、および/または置換などの変異を含み得る。置換の場合、参照配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列からなるタンパク質は、参照配列とは異なる種由来の相同配列に対応し得る。
【0035】
アミノ酸の置換は、保存的または非保存的であり得る。好ましくは、置換は保存的置換であり、ここでは1つのアミノ酸が、類似の構造および/または化学的な特性を有する別のアミノ酸に置換されている。好ましくは、置換は、以下の表に記載される保存的置換に対応する。
【表1】
【0036】
ClpB発現細菌は、当業者によく知られており、従来のいずれかの技術により同定され得る。
【0037】
一実施形態では、ClpB発現細菌は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)属、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella turalensis)属、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)属、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)属、ネズミチフス菌(Salmonella thyphimurium)属、大腸菌、腸内細菌科、ソンネ赤痢菌(Shigella sonnei)属、フレクスナー赤痢菌(Shigella flexneri)属、志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)属、ボイド赤痢菌(Shigella boydii)属、シトロバクター ヤンガエ(Citrobacter youngae)属、サルモネラ・ボンゴール(Salmonella bongori)属、およびサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)属で構成される群から選択される。
【0038】
ClpBタンパク質は、2つのヌクレオチド結合ドメイン(ATP1およびATP2)と、2つのオリゴマー形成ドメイン(NBD1およびNBD2)とを含む。N末端ドメインは、基質識別ドメインとして機能し、凝集したタンパク質をClpB六量体に動員し、かつ/または結合したタンパク質を安定化させる。NBD2ドメインは、オリゴマー形成の原因であり、一方NBD1ドメインは、おそらくはATP依存的に六量体を安定化させる。コイルドコイルドメインの運動は、おそらくは、機能的な六量体において隣接するClpBサブユニットのコイルドコイルモチーフ間で結合されている大きな凝集したタンパク質を引き離すことにより、ClpBがタンパク質を凝集状態から救出する能力にとって必須である。
【0039】
本発明者らは、共生腸内細菌大腸菌K12のClpBシャペロンタンパク質が、エネルギー代謝および感情の調節に関与する神経ペプチドである、α−メラニン細胞刺激ホルモン(α−MSH)の立体構造模倣体であることを同定した。
【0040】
「α−MSH」は、「α−メラニン細胞刺激細胞ホルモン」、「アルファ−MSH」「α−MSH」、「α―メラノトロピン」、「α―メラノコルチン」、または「α−インターメジン」としても知られており、トリデカペプチド構造を有するメラノコルチンファミリーの天然に存在する内在性ペプチドホルモンである。好ましくは、α−MSHのアミノ酸配列は、アミノ酸配列SYSMEHFRWGKPV(配列番号:3)(Gen Pept Sequence ID, PRF:223274(2013年12月2日時点で利用可能))を含む、またはからなる。しかしながら、そのアセチル状態が異なる3種類のα―メラニン細胞刺激ホルモンが存在し、このうちデスアセチルα−MSHは、アセチル基を欠損しており;モノアセチルα−MSHでは、配列番号3のSer−1のアミノ基がアセチル化されており;ジアセチルα−MSHでは、配列番号3のSer−1のアミノ基およびヒドロキシル基の両方がアセチル化されている。本明細書において使用されるα−MSHは、特にモノアセチル化α−MSHを指す。
【0041】
α−MSHは、中枢および末梢の両方で作用して、メラノコルチン受容体4型(MC4R)の活性化を介してエネルギー収支の調節およびエネルギー消費の増加に大いに関与する。ヒトおよびマウスのいずれにおいても、血漿中のα−MSHレベルは、体重変化に関連する。さらにα−MSHは、不安を増大させることにより、気分および感情を調節する。
【0042】
「模倣体」は、別のタンパク質を模倣するタンパク質を指す。タンパク質が、それが模倣するタンパク質と特定の特徴を共有する場合、このような模倣が可能である。
【0043】
「立体構造模倣体」は、別のタンパク質と少なくとも部分的に同じ立体構造を共有するタンパク質を指す。
【0044】
本発明者らは、ClpBタンパク質が、α−MSHと配列番号1由来の542〜548番目のアミノ酸の間に、アミノ酸配列「RWTGIPV」(配列番号:2として引用)の不連続な配列相同性を共有することを証明した。理論に拘束されるものではないが、このClpBの立体構造は、ClpBおよびα−MSHの両方に対する抗体の産生を刺激することができる。
【0045】
よって、本明細書中の「立体構造模倣体」は、ClpBに対する抗体の産生およびα−MSHに対する自己抗体の刺激能を指す。
【0046】
「少なくとも1つのClpB発現細菌に対する抗生剤」は、本明細書中で、ClpB発現細菌の増殖を阻害し、かつ/またはClpB発現細菌の量を減少させ、かつ/またはClpB発現細菌を破壊する抗菌化合物を指す。
【0047】
少なくとも1つのClpB発現細菌に対する抗生剤は、好ましくは選択的または優先的にClpB発現細菌の増殖を阻害し、量を減少させ、かつ/または破壊する。上記抗生剤は、好ましくは、真核細胞に負の影響を与えるものではない。
【0048】
ClpB発現細胞を特異的に標的化する抗生剤は、当業者によく知られており、Martin, I et al.(Journal of Medicinal Chemistry, 2013, 56: 7177−7189)にさらに記載されている。
【0049】
少なくとも1つのClpB発現細菌に対する抗生剤は、ClpBに結合し、その活性を調節することができる。
【0050】
特に、少なくとも1つのClpB発現細菌に対する抗生剤は、
i)ClpBのATPアーゼ活性を調節し、および/または
ii)ClpBの遊離型および/または基質結合型を阻害し、および/または
iii)ClpBの活性化を阻害する。
【0051】
一実施形態では、少なくとも1つのClpB発現細菌に対する抗生剤は、ベンジルベンゼンをスキャフォールドとするサリチルアルデヒド誘導体であり、詳しくは、5−(2−クロロベンジル)−2−ヒドロキシ−3−ニトロベンズアルデヒド(CAS Number 292644−32−7, Sigma Aldrich)または(2−{[(3,4−ジクロロフェニル)アミノ]チオキソメチルチオ}エトキシ)−N−ベンズアミド(Supplier Number ST034398,TimTec)である。
【0052】
本発明の少なくとも1つのClpB発現細菌に対する抗生剤の典型的な用量は、たとえば、約0.01mg/kg〜約30mg/kgの範囲であり得るが、特に上述の要因を考慮して、この例示的な範囲より下、またはこの範囲より上の用量が想定される。経口1日量の投与計画は、約0.01mg/kg全体重〜約30mg/kg全体重、特には、0.01、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30mg/kg体重であり得る。患者の進捗を、定期的な評価によりモニターして、用量をそれに応じて調節することができる。
【0053】
本発明では、本明細書中で使用される用語「治療する」または「治療」は、当該用語が適用される障害の進行、または当該障害もしくは病態の1つ以上の症状を反転、軽減、阻害することを意味する。
【0054】
「予防する」は、当該用語が適用される障害が発症するのを防止する、または障害の初期段階で障害を予防するために取られる手段を指す。予防するは、さらに、当該用語が適用される障害のさらなる進行を阻害することを指す。
【0055】
摂食障害の治療または予防は、好ましくは本明細書中、治療すべき対象のClpB発現細菌の量または濃度の減少を指す。
【0056】
本発明では、「対象」は、ヒト、またはげっ歯類(ラット、マウス、ウサギ)、霊長類(チンパンジー)、ネコ科(ネコ)、もしくはイヌ科(イヌ)などの非ヒト哺乳類を指す。好ましくは、対象はヒトである。本発明に係る対象は、具体的には、雄性または雌性であり得る。
【0057】
好ましくは、本発明に係る対象は、13歳超である。
【0058】
好ましくは、対象は雌性である。
【0059】
「摂食障害」(ED)は、精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM−5)およびそれ以前の版(DSM−4など)の基準により定義される精神疾患を意味する。異常な食習慣は、不十分または過剰な食物摂取を伴い、それによって個体の身体および精神の健康に損害を与え得る。神経性過食症(BN)、神経性食欲不振症(AN)、およびむちゃ食い障害(BED)は、摂食障害の最も一般的な具体的形態である。DSM−5の基準によると、神経性食欲不振症を有すると診断されるのは、顕著な低体重(年齢、性別、成長曲線、および身体的な健康で予測される最小限の体重に関連して)をもたらす持続的なエネルギー摂取制限、体重増加もしくは太ることへの強い恐怖、または体重増加を妨害する持続的な行動(顕著な低体重にもかかわらず)、自身の体重または体形が経験した障害、自己評価に関する体形および体重の不当な影響、または現在の低体重の重大性に関する認識の持続的な欠如を呈する人である。
【0060】
DSM−5の基準によると、神経性過食症と診断されるのは、再発性の過食エピソードを示す人である。過食エピソードは、別々の期間(たとえば任意の2時間以内)で、大部分の人々が同様の期間および同様の環境で摂食する量よりも明らかに多い量の摂食、およびエピソードの際の摂食に対する制御が欠如しているという認識(たとえば摂食を止めることができない、または何をまたはどのくらい摂食するかを制御できない感覚)、自己誘導型の嘔吐、下剤、利尿剤、もしくは他の薬物の誤用、絶食、または過度の運動などの体重増加を防止するための不適切な代償行為の繰り返しの両方を特徴とする。むちゃ食い障害および不適切な代償行為はいずれも、平均して、3か月の間少なくとも週に一度起こる。自己評価は、体形および体重により不当に影響を受けている。
【0061】
DSM−5の基準によると、むちゃ食い障害と診断されるのは、再発性のむちゃ食いエピソードを示す人である。むちゃ食いのエピソードは、別々の時間(たとえば任意の2時間以内)で、大部分の人々が同様の期間および同様の環境で摂食する量よりも明らかに多い量の摂食、エピソードの際の摂食に対する制御が欠如しているという認識(たとえば摂食を止めることができない、または何をもしくはどのくらい摂食するかを制御できない感覚)の両方を特徴とする。むちゃ食いは、以下の、
正常よりも著しく早く食べること、
食べ過ぎで不快になるまで食べること、
身体が空腹と感じていない場合に大量の食物を食べること、
大量に食べることによる困惑した感情のために1人で食べること、
後に自己嫌悪、落胆、または顕著な罪悪感を感じること
のうちの3つ以上に関連している。過食は、平均して、3か月の間少なくとも週に一度起こる。
【0062】
他の種類の摂食障害には、他の特定される食行動障害または摂食の障害(OSFED)が挙げられる。
【0063】
DSM−5の基準によると、OSFEDと診断される人は、臨床上顕著な苦痛および機能野の障害を引き起こすが、他の食行動および摂食の障害のいずれかに関する完全な基準を満たしていない食行動または摂食行動を示す人である。症状が別の障害(たとえば神経過食症‐低頻度)の特徴と一致しない特定の理由を明記する診断が割り当てられることもある。以下は、OSFEDのさらなる例である:
‐非定型性神経性食欲不振:顕著な体重減少があるにも関わらず個体の体重が正常の範囲内または正常な範囲より上である場合を除き、すべての基準を満たす。
‐(低頻度および/または限定された期間の)むちゃ食い障害:低頻度および/または3か月未満の場合を除き、BEDのすべての基準を満たす;
‐(低頻度および/または限定された期間の)神経性過食症:むちゃ食いおよび不適切な代償行動が低頻度および/または3か月未満で起こることを除き、神経性過食症のすべての基準を満たす。
‐排出性障害:過食がない中で体重または形状に影響する再発性の排出行動
‐夜間摂食症候群:再発性の夜間摂食エピソード、睡眠から目覚めた後の摂食、または夕食後の過剰な食物の消費。この行動は、環境の影響または社会的な規範ではうまく説明されない。この行動は、顕著な苦痛/機能障害を引き起こす。この行動は、別の精神健康障害(たとえばBED)によりうまく説明されない。
‐特定不能な食行動または摂食の障害(UFED):DSM−5の基準によると、このカテゴリーは、この行動が臨床的に顕著な苦痛/機能障害を引き起こすが、食行動または摂食の障害のいずれかの完全な基準を満たさない場合に当てはまる。このカテゴリーは、より具体的な診断を下すための情報が不十分であり得る(たとえば救急室での状況での)症状を含む、基準が満たされない理由を明記しない選択を行う場合に、臨床医によって用いられ得る。
【0064】
よって本発明の文脈において、摂食障害は、上述の障害リストを指すことができる。
【0065】
一実施形態では、摂食障害は、神経性食欲不振症(AN)、神経性過食症(BN)、むちゃ食い障害(BED)、過食、多食症、カヘキシーなどの消耗性疾患からなる群から選択される。
【0066】
「食欲」は、空腹として感じられる、食物を摂食する欲望を意味する。食欲は、すべての高等生物に存在し、代謝のニーズを維持するために適切なエネルギー摂取を調節するために役立つ。食欲は、消化管と、脂肪組織および肝臓などのエネルギー貯蔵臓器、ならびに脳の間の密接な相互作用により調節される。食欲は、摂取する食物量を測定すること、および対象の摂食欲求を評価することにより対象において評価される。
【0067】
「食欲の調節障害」は、持続して存在するかまたは1週間に数回再発する食欲の増加および食欲の減少を含み、それにより神経性食欲不振症、神経性過食症、カヘキシー、消耗性疾患、過食、むちゃ食い障害、および多食症に関与する異常な食欲を指す。
【0068】
一実施形態では、対象は、神経性食欲不振症、神経性過食症、むちゃ食い障害、カヘキシーおよび消耗性疾患、より具体的には、神経性食欲不振症、神経性過食症およびむちゃ食い障害からなる群から選択される摂食障害を罹患する。
【0069】
「食欲不振」は、食欲を感じることが低下することにより、食欲が低下することを指す。多くの場合、非科学的な刊行物でのこの用語は、神経性食欲不振症と互換的に使用されているが、食欲の減少には多くの潜在的な原因が存在しており、このうちの一部は無害であり得るが、その他は重篤な臨床病態を示し、または顕著なリスクをもたらす。
【0070】
「神経性食欲不振症」(AN)は、本発明では、正常な体重の少なくとも85%の体重を維持することができないことを特徴とする摂食障害を指す。さらに、神経性食欲不振症を罹患している対象は、体重の増加に関する極度の恐れならびに歪んだ自己認識を有しており、対象は、確かな反証があるにも関わらず彼自身/彼女自身を、過体重であると考えている。
【0071】
よって、神経性食欲不振症を罹患している人は、好ましくは、身体の不満、痩せ願望、完全主義、無力感、対人不信、社会的不安定、および快感消失からなる群から選択される心理学的な特徴のうちの少なくとも1つを有する。好ましくは、神経性食欲不振症を罹患している人は、身体の不満、痩せ願望、および完全主義からなる群から選択される心理学的な特徴のうち少なくとも1つを有する。さらに好ましくは、神経性食欲不振症を罹患している人は、無力感、対人不信、社会的不安定、および快感消失からなる群から選択される心理学的な特徴のうち少なくとも1つを有する。
【0072】
さらなる実施形態では、神経性食欲不振症を罹患している対象は、17未満のBMIを有する。
【0073】
「BMI」または「肥満度指数」は、対象の体重を対象の身長の2乗により除算することにより定義される。医療において一般的に使用される式は、kg/mの測定単位を生じる。
【0074】
「過食症」または「神経性過食症」は、むちゃ食いと排出、または短時間での大量の食物の消費後の、典型的に嘔吐、下剤または利尿剤の摂取、および/または過剰な運動により消費した食物を自身から取り除こうとする努力(排出)を特徴とする摂食障害である。一部の対象は、神経性過食症と神経性食欲不振症とを交互に有する傾向があり得る。過食症を罹患している対象は、通常25未満の正常なBMIの範囲を特徴としてもよい。
【0075】
「むちゃ食い障害」または「BED」は、別々の期間(たとえば任意の2時間以内)に、大部分の人々が同様の期間および同様の環境で摂食する量よりも多い食物の摂食からなるむちゃ食い特徴とする摂食障害を指し、制御不能の感覚を伴う。このむちゃ食いは、平均して、6か月間に少なくとも1週間に2回起こる。過食症とは反対に、むちゃ食いは、不適切な代償行動の繰り返しに関連していない。BEDを罹患している対象は、むちゃ食いを深刻に心配している。さらに、BEDを罹患している対象は、身体的に不快となるまで、または消費した食物量により吐き気がするまで摂食し、および/または倦怠感または不安がある場合に摂食し、および/または現実に空腹ではない場合であっても大量の食物を摂食し、および/または食物に対する困惑した感情および/またはむちゃ食い後の嫌悪感、消沈、または罪悪感により摂食が正常な期間でも1人で摂食する。むちゃ食い障害を有する対象は、衝動的に行動し、摂食に関する制御が欠如していると感じる。さらに、むちゃ食い障害を罹患している対象は、ストレス、不安、怒り、悲しみ、倦怠、および心配に対処する問題を有している。
【0076】
本発明では、BEDを罹患している対象は、好ましくは肥満であり、30超のBMIを有する。
【0077】
「過食」は、生物が消費する(または排泄を介して排出する)エネルギーに関連する過剰な食物の消費であり、体重増加をもたらす。過食は、場合によっては、むちゃ食い障害または過食症の1つの症状であり得る。強制過食者は、ストレスを感じる、うつ病の発作が起きる、かつ無力感を有している場合に自身を慰めるため食物に依存する。
【0078】
「多食症」は、「過食症」としても知られており、過剰な空腹(強迫性)または食欲の増加を指す。一実施形態では、多食症は、糖尿病、クライネ・レヴィン症候群、遺伝障害のプラダー・ウィリー症候群およびバルデ・ビードル症候群などの障害により引き起こされ得る。
【0079】
「消耗性疾患」は、衰弱性の疾患が、筋肉組織および脂肪組織を「消耗させる」プロセスを指す。消耗は、非常に低いエネルギー摂取(たとえば飢餓により引き起こされる)、感染症による栄養の喪失、または低摂取および高喪失の組み合わせにより引き起こされ得る。
【0080】
「カヘキシー」は、体重減少、および/または筋萎縮症、および/または疲労、脱力、および食欲の顕著な喪失に関連する消耗性の症候群であり、癌、AIDS、慢性閉塞性肺疾患、多発性硬化症、うっ血性心不全、結核、家族性アミロイドポリニューロパチー、水銀中毒(肢端疼痛症)、およびホルモンの欠損により引き起こされ得る。カヘキシーはまた消耗とも呼んでよく、AIDS、癌、後股関節骨折(post hip fracture)、慢性心不全、慢性閉塞性肺疾患(COLD)および/または慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性肺疾患、肝硬変、腎不全、ならびに関節リウマチおよび全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、敗血症、ならびに重篤な感染症などのいくつかの疾患に伴って見られる。さらに、消耗は老化に伴い見られる。
【0081】
一部の実施形態では、カヘキシーは癌により引き起こされる。
【0082】
カヘキシーの主要な兆候は、脂肪組織のみならず、筋肉組織、さらには骨の重量の損失である。この非脂肪性の組織は、「除脂肪体重」としても知られている。
【0083】
さらに、食欲の喪失、脱力(無力症)、およびヘモグロビンレベルの低下(貧血)が存在する。
【0084】
カヘキシーは、癌、感染症、AIDS、うっ血性心不全、関節リウマチ、結核、後股関節骨折(post hip fracture)、嚢胞性線維症、およびクローン病などの多くの異なる臨床病態の末期的な状態として、または慢性疾患において見出される。またカヘキシーは、疾患のいかなる明らかな症状も有さない高齢者でも起こり得る。
【0085】
「食欲の増大」は、対象が、身体が必要とするよりも多くの食物を摂取する食欲を指す。これは、体重の増加をもたらしても、もたらさなくてもよい。
【0086】
よって、「正常な食欲」は、対象が、身体が必要とする食物量に対応する食物を摂取することを指す。
【0087】
「食欲の減少」および/または「食欲の低下」は、身体が必要とするよりも少ない食物を対象が摂取する食欲を指す。これは、体重の減少をもたらしても、もたらさなくてもよい。
【0088】
「食物摂取量」は、たとえば、日記またはアンケートを使用した自己の記録、摂取前の食物の重量を使用した、ビュッフェ料理からのカロリー摂取の測定、またはペアにした食物の量の重量測定および分析を含む多数の技術を使用して測定することができる。食物摂取量は、食事ごとに、1日ごとに、週ごとに、または月ごとに測定してもよい。
【0089】
一実施形態では、本組成物は、対象の体重を減少させるためのものである。
【0090】
本組成物は、たとえば、食欲の増加が、むちゃ食い障害または過食によるものである、食欲を減少させるために使用され得る。
【0091】
本発明の一実施形態では、治療により、治療開始前の食物摂取量の平均値の2%の減少、より好ましくは3%または5%または7%の減少、さらにより好ましくは10%未満の減少などの少なくとも1%の食物摂取量の減少がもたらされる。
【0092】
別の実施形態では、脂肪、炭水化物、およびタンパク質などの様々な食品が、食品量あたり異なる量のカロリーを含むことから、摂取した食物量が摂取したカロリー摂取量に直接関連しない場合があるため、本治療は、食物摂取量の変化に関係なくカロリー摂取量の減少をもたらす。
【0093】
本発明の一実施形態では、本治療は、治療開始前の平均カロリー摂取量の2%の減少、より好ましくは3%、または5%、または7%の減少、さらにより好ましくは10%未満の減少などの、カロリー摂取量の少なくとも1%の減少をもたらす。
【0094】
一実施形態では、本組成物は、対象の体重増加を増大させるためのものである。
【0095】
本組成物はたとえば、食欲の低下が、食欲不振、神経性食欲不振症、神経性過食症、カヘキシーまたは消耗性疾患、特には食欲不振、神経性食欲不振症、または神経性過食症によるものである、食欲を刺激するために使用してもよい。
【0096】
本発明の一実施形態では、本治療は、治療の開始前と比較して、食物摂取量の1%の増加、たとえば2%の増加、より好ましくは平均食物摂取量を3%、または5%、または7%、さらにより好ましくは10%超の増加をもたらす。
【0097】
別の実施形態では、脂肪、炭水化物、およびタンパク質などの様々な食物の成分が食物の量あたり異なる量のカロリーを含むことから、摂取した食物量が摂取したカロリー摂取量に直接関連しない場合があるため、本治療は、食物摂取量の変化に関係なくカロリー摂取量を増加させる。
【0098】
本発明の好ましい実施形態では、本治療は、処置開始前と比較して、カロリー摂取量の少なくとも1%の増加、たとえば2%の増加、より好ましくは3%または5%または7%の増加、さらにより好ましくは10%の増加をもたらす。
【0099】
一部の実施形態では、本組成物は、神経性食欲不振症(AN)、神経性過食症(BN)、むちゃ食い障害(BED)、過食、多食症、カヘキシーなどの消耗性疾患からなる群から選択され、より具体的には神経性食欲不振症(AN)、神経性過食症(BN)およびむちゃ食い障害(BED)から選択される障害の治療または予防に使用するためのものである。
【0100】
また、対象の摂食障害を治療または発症の機会を減少させる方法であって、少なくとも1つのClpB発現細菌に対する少なくとも1つの抗生剤を含む組成物を、それを必要とする対象に投与すること、および/またはClpBを発現しないプロバイオティクスを含む組成物の有効量を上記対象に投与すること、および/またはその組み合わせを含む、方法を提供する。
【0101】
それを必要とする対象は、本明細書中で定義される摂食障害、特には神経性食欲不振症(AN)、神経性過食症(BN)、むちゃ食い障害(BED)、多食症、カヘキシーなどの消耗性疾患からなる群から選択され、より具体的には神経性食欲不振症(AN)、神経性過食症(BN)およびむちゃ食い障害(BED)から選択される摂食障害を罹患する対象である。
【0102】
また、本明細書中で定義される摂食障害の治療または予防を意図する薬物の製造のため、少なくとも1つのClpB発現細菌に対する少なくとも1つの抗生剤を含む組成物の使用を提供する。
【0103】
本発明者らは、食欲の調節障害が、ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の存在に関連しており、抗α−MSH反応性抗体、好ましくは抗ClpBのIgGおよび/またはIgM、ならびに抗α−MSH反応性IgGおよび/またはIgMの血漿中レベルの増加に関連することを発見した。
【0104】
一実施形態では、対象のClpB発現細菌の量または濃度を低下させることにより、上記対象の食欲が正常となる。
【0105】
理論に拘束されるものではないが、少なくとも1つのClpB発現細菌に対する少なくとも1つの抗生剤を含む組成物は、ClpB発現細菌の量を減少させ、これにより、ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルまたは濃度を低下させ、かつ/または抗α−MSH反応性抗体のレベルを低下させることにより、食欲を正常化させる。
【0106】
一実施形態では、本発明の文脈において使用する組成物は医薬組成物である。
【0107】
本発明の文脈において使用される医薬組成物は、好ましくは、選択された投与形式または投与経路にとって適切であるよう設計されており、薬学的に許容可能な希釈剤、キャリアー、および/または分散剤、バッファー、界面活性剤、保存剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤などの賦形剤を適宜使用する。当該組成物は、たとえば、Remington, The Science and Practice of Pharmacy, 19th Edition, Gennaro, Ed., Mack Publishing Co., Easton, PA 1995に開示される従来の技術に従い設計することができる。
【0108】
医薬組成物に適切なキャリアーは、本発明の抗生剤と組み合わせる場合に、抗生剤の分子活性を保持し、対象の免疫系と反応しない任意の物質を含む。
【0109】
本発明に係る医薬組成物は、適切な医薬的単位剤形の形態で経口投与され得る。本発明の医薬組成物は、錠剤、硬ゼラチンまたは軟ゼラチンカプセル、水溶剤、懸濁剤、およびリポソーム、および成形ポリマーゲルなどの他の徐放製剤を含む多くの形態で調製され得る。
【0110】
投与様式および剤形は、所定の治療用途にとって望ましく有効な治療剤または組成物の特性と密接に関連している。適切な剤形は、限定するものではないが、経口投与、静脈内投与、直腸投与、舌下投与、粘膜投与、経鼻投与、点眼投与、皮下投与、筋肉内投与、経皮投与、脊髄投与、髄腔内投与、関節内投与、動脈内投与、くも膜下投与、気管支投与、およびリンパ管投与、ならびに活性成分の全身性送達用の他の投与剤形が挙げられる。
【0111】
本発明の医薬組成物は、限定するものではないが、経皮(パッチ、ゲル、クリーム、軟膏、またはイオン導入を介して受動的に)、静脈内(ボーラス、点滴);皮下(点滴、デポー);経粘膜的(頬側および舌下、たとえば口腔内分散錠、ウェーハ、フィルム、および発泡製剤;結膜(点眼液);直腸(坐剤、浣腸);または皮内(ボーラス、点滴、デポー)を含む当業者に知られたいずれかの技術により投与され得る。
【0112】
経口の液体医薬組成物は、たとえば、水性または油性懸濁剤、液剤、乳剤、シロップ剤またはエリキシル剤の形態であり得るか、または使用前に水もしくは他の適切なビヒクルで構成するための乾燥生成物として提示され得る。当該液体医薬組成物は、懸濁剤、乳化剤、非水性ビヒクル(食用油を含み得る)、または保存剤などの従来の添加剤を含んでもよい。
【0113】
本発明の医薬組成物はまた、非経口投与(たとえば注射、たとえばボーラス注射または持続点滴による投与)用に製剤化されてもよく、アンプル、充填済シリンジ、少量の注入容器、または添加保存剤を含む多回用量容器中に単位投与剤形で存在してもよい。本医薬組成物は、油性または水性のビヒクル中の懸濁剤、溶剤、または乳剤などの剤形をとってもよく、懸濁剤、安定化剤、および/もしくは分散剤などの処方用薬剤を含んでもよい。あるいは、本発明の医薬組成物は、使用前に、適切なビヒクル、たとえば滅菌水、パイロジェンフリー水で構成するための、滅菌固体の無菌的単離、または溶液からの凍結乾燥によって得た粉末剤形であってもよい。
【0114】
キャリアーが固体である直腸投与に適した医薬組成物は、最も好ましくは単位用量の坐剤として示される。適切なキャリアーは、ココアバターおよび当技術分野において一般的に使用される他の物質を含み、坐剤は、医薬組成物を軟化または融解するキャリアーと混合後、冷却し成型することにより、従来通り形成され得る。
【0115】
吸入による投与では、本発明に係る医薬組成物は、吹送器、ネブライザー、または加圧パック、またはエアロゾルスプレーを送達する他の簡便な手段から、従来通り送達される。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適切な気体などの適切な推進剤を含み得る。加圧エアロゾルの場合、一定量を送達するためのバルブを提供することにより投与単位を決定してもよい。あるいは、吸入または吹送による投与では、本発明の医薬組成物は、医薬組成物とラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤との粉末混合物といった、乾燥粉末組成物の形態をとってもよい。粉末組成物は、たとえば、カプセルまたはカートリッジ、またはたとえば粉末が吸入器または吹送器を用いて投与され得るゼラチンまたはブリスターパックの単位投与剤形として示されてもよい。
【0116】
鼻腔内投与では、本発明の医薬組成物は、プラスチックボトルのアトマイザを介するなど、液体の噴霧を介して投与され得る。これらの典型的な例は、Mistometerg(イソプロテレノール吸入器‐ウィントロープ)およびMedihaler(登録商標)(イソプロテレノール吸入器‐ライカー)がある。
【0117】
また、本発明の医薬組成物は、芳香剤、着色剤、抗菌剤、または保存剤などの賦形剤も含んでもよい。
【0118】
投与計画は、たとえば少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100日の期間であってもよい。
【0119】
投与範囲は、投与される組成物に依存し、上記に定義されている。
【0120】
医学の技術分野においてよく知られているように、任意の1人の対象の用量は、患者の体格、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与時間および投与経路、全身健康状態、ならびに同時投与される他の薬剤を含む多くの要因に依存する。
【0121】
本発明の一態様では、本発明の治療または予防方法により、少なくとも1つのClpB発現細菌に対する少なくとも1つの抗生剤を含む組成物を投与することにより安定した体重の維持が可能となる。
【0122】
過体重または極端な低体重はまた、特定の文化では、あまり魅力的でないと考えられる容貌であると考えられる場合がある。
【0123】
よって、一実施形態では、本発明は、対象の食欲を調節する非治療的方法であって、少なくとも1つのClpB発現細菌に対する少なくとも1つの抗生剤を含む組成物の有効量を上記対象に投与することを含む、方法を指す。
【0124】
上述のすべての定義は、上記非治療的方法にもあてはまる。
【0125】
一実施形態では、有効量または治療的有効量は、対象に治療上の利点または利点を与えるために必要である活性剤の少なくとも最小用量であるが、中毒量未満の量を指す。言い換えると、たとえば摂食障害を治療するためのそのような量は、食物摂取の調節として対象の状態の改善を誘導、軽減、または引き起こす量である。
【0126】
一実施形態では、上記非治療的方法は、美容上の方法である。
【0127】
上述のように、また本発明は、摂食障害の治療または予防に使用するためのClpBタンパク質を発現しないプロバイオティクスを含む組成物に関する。
【0128】
上述のすべての定義は、上記組成物にも当てはまるものである。
【0129】
一実施形態では、摂食障害は、神経性食欲不振症(AN)、神経性過食症(BN)、むちゃ食い障害(BED)、多食症、カヘキシーなどの消耗性疾患からなる群から選択され、より具体的には神経性食欲不振症(AN)、神経性過食症(BN)、およびむちゃ食い障害(BED)から選択される。
【0130】
さらに、本発明は、対象の食欲を調節する非治療的方法であって、ClpBタンパク質を発現しないプロバイオティクスを含む組成物の有効量を上記対象に投与することを含む、方法に関する。
【0131】
上述のすべての定義は、上記の非治療的方法にも当てはまる。
【0132】
「プロバイオティクス」は、食事に導入することが意図される微生物の有効量を含む食品添加剤である。WHOによると、プロバイオティクスは、適切な量を投与すると、宿主の健康に利益を与える生きた微生物である(WHO,2001)。
【0133】
本発明の文脈において、食事に導入される細菌は、ClpBタンパク質を発現していない細菌である。特に、ClpBタンパク質を通常発現するがこのタンパク質の発現が欠失している細菌である。
【0134】
ClpB発現細菌は、当業者によく知られており、従来のいずれかの方法により同定され得る。
【0135】
一実施形態では、タンパク質の発現が欠失しているClpB発現細菌は、ヒトのプロバイオティクスまたは共生非病原性細菌、たとえば非病原性大腸菌で構成される群から選択される。
【0136】
ClpBタンパク質を発現しない細菌は、当業者に知られた方法により調製することができる。これは、たとえばDNA組み換えにより行うことができる。
【0137】
「有効量」は、本発明の文脈において、摂食障害の治療または予防における所望の効果を出現させる細菌の量を意味する。特に、有効量は、1日あたり10億〜100億UFCの量を意味する。
【0138】
上述のように、本発明は、ワクチンまたは免疫原性組成物として使用するためのClpBタンパク質を含む組成物にも関する。
【0139】
「免疫原性組成物」は、本発明の文脈において、個体に投与すると免疫応答を誘発もしくは免疫調節(すなわち免疫抑制もしくは免疫刺激)する、または個体に投与すると抗体の産生を誘導する、ClpBタンパク質を含む組成物を意味する。
【0140】
「ワクチン」は、特にその作用剤により、疾病から個体を保護または治療する、免疫応答を免疫調節するために投与される本明細書中に記載される免疫原性組成物などの組成物を意味する。本発明のワクチンは、特に、摂食障害の発症前に個体に投与するための予防ワクチン(予防接種)である。
【0141】
特に、上記組成物は、摂食障害に対する免疫において使用するためのものである。
【0142】
具体的には、上記組成物は、摂食障害を予防するために使用するためのものである。
【0143】
また、対象の免疫またはワクチン接種の方法であって、ClpBタンパク質を含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0144】
特に、上記方法は、対象の摂食障害の発症の機会を低下させるためのものである。
【0145】
それを必要とする対象は、摂食障害を罹患しやすい対象である。
【0146】
同様に、摂食障害に対する免疫のためのワクチンまたは免疫原性組成物の製造のためのClpBタンパク質を含む組成物の使用を提供する。
【0147】
特に、上記組成物は、摂食障害の予防のためのものである。
【0148】
特に、上記摂食障害は、神経性食欲不振症(AN)、神経性過食症(BN)、むちゃ食い障害(BED)、過食、多食症、カヘキシーなどの消耗性疾患、特に神経性食欲不振症、神経性過食症、およびむちゃ食い障害から選択される。
【0149】
一実施形態では、ワクチンまたは免疫原性組成物は、本明細書中に開示されるClpBタンパク質の組み合わせを含み得る。
【0150】
ワクチン組成物または免疫原性組成物を得る方法は、当技術分野においてよく知られている。一般的に、当該方法は、超音波処理、タンパク質消化、熱処理、凍結融解処理、浸透圧ショック処理などの技術を使用して細菌調製物からタンパク質を抽出することを含む。人工的な細菌調製物の例として、合成または組み換えの方法により一部分または全体が得られたタンパク質調製物が挙げられる。
【0151】
ClpBを含むワクチンまたは免疫原性組成物の典型的な用量は、たとえば、約0.01nmol/kg〜約1000nmol/kgの範囲であり得るが、この例示的な範囲より下または上の用量が想定されている。特に、上記用量は、約0.1nmol/kg全体重〜約100nmol/kg全体重、好ましくは約0.1nmol/kg〜約20nmol/kg、より具体的には、0.1nmol/kg〜約10nmol/kg、特に0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10nmol/kg体重である。
【0152】
上記ワクチンおよび免疫原性組成物に関して、注射可能な用途に適した剤形は、滅菌性の水溶液または分散液と、滅菌の注射可能な溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末とを含む。すべての場合、剤形は無菌的でなければならず、容易に注射針を通過する程度の流体でなければならない。剤形は、製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌などの微生物の混入作用から保護されなければならない。キャリアーは、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえばグリセロール、プロピレングリコール、および液体のポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、および/または植物油を含む溶媒または分散媒体であり得る。たとえば、適切な流動性は、レシチンなどのコーティングの使用により、分散の場合必要とされる粒径の維持により、および界面活性剤の使用により、維持され得る。微生物の作用の保護は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールによりもたらすことができる。多くの場合、たとえば糖または塩化ナトリウムといった等張剤を含むことが好ましい。注射可能組成物の持続吸収は、吸収を遅らせる薬剤、たとえばステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物において使用することによりもたらすことができる。
【0153】
水溶液の非経口投与では、たとえば、溶液は、必要に応じて適切に緩衝されているべきであり、液体の希釈剤は、十分な生理食塩水またはグルコースでまず等張にしなければならない。これら特定の水溶液は、特に、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腫瘍内投与、および腹腔内投与に適している。これに関連して、使用できる滅菌水性媒体は、本開示に照らして当業者によく知られている。たとえば、1つの用量を、1mlの等張性NaCl溶液に溶解してもよく、これを1000mlの皮下点滴療法の流体に添加、または提案される点滴部位に注射してもよい(たとえば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy, 21 st Edition, Lippincot and Williams, 2005参照)。治療する対象の状態に応じて用量の何らかの変更が必然的に起こる。さらに、ヒトの投与では、調製物は、FDAの生物学的製剤基準部により必要とされる無菌性、発熱性、一般的な安全性、および純度の基準を満たさなければならない。
【0154】
滅菌注射可能な溶液は、ろ過滅菌により適切な溶媒に必要量の活性化合物を組み込むことにより調製される。
【0155】
本明細書中に使用される「キャリアー」は、限定するものではないが、溶媒、分散媒体、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、バッファー、キャリアー溶液、懸濁剤、コロイド、リポソームおよびBomsel et al(2011)Immunity 34:269−280に記載されるものなどのビロソームが挙げられる。医薬活性物質のためのそのような媒体および作用剤の使用は当技術分野においてよく知られている。
【0156】
「薬学的に許容可能な」または「薬理学的に許容可能な」との文言は、ヒトに投与した場合にアレルギーまたは類似の望ましくない反応を生じない分子実体および組成物を指す。活性成分としてタンパク質を含む水性組成物の調製は当技術分野においてよく理解されている。典型的に、当該組成物は、液体溶液または懸濁液のいずれかとしての注射剤として調製されており、注射前に、液体の溶液または懸濁液にするために適した固体剤形もまた調製できる。
【0157】
本発明の特定の実施形態では、免疫原性組成物またはワクチン組成物は、1つまたは複数のアジュバントをさらに含む。
【0158】
本明細書中使用される用語「アジュバント」は、免疫原性組成物、特にワクチンの内容物に添加されている生成物を指し、上記組成物を投与する宿主に誘導される免疫反応の強さを増大させる。アジュバントは、特に、上記哺乳類が、上記組成物の投与後に産生できる特異的抗体の量を増加させ、よって免疫の有効性を増大させることができる。
【0159】
好ましくは、アジュバントは、ヒト宿主において副作用を示さない。
【0160】
アジュバントは、保護的免疫応答を増大させるよう作用する任意の化合物または複数の化合物を含む。アジュバントは、たとえば、乳化剤;ムラミルジペプチド;アブリジン;水酸化アルミニウムなどの水性アジュバント;酸素含有金属塩;キトサンベースのアジュバント、および様々なサポニン、油、ならびにAmpfaigen、LPS、細菌細胞壁抽出物、細菌DNA、CpG配列、合成オリゴヌクレオチドおよびそれらの組み合わせ(Schijns et al(2000) Curr. Opin. Immunol, 12:456)、Mycohacterialplilei(phlei)細胞壁抽出物(CWE)(米国特許第4,744,984号)、M.phlei DNA(M−D A)、およびM−DNA−M phlei細胞壁複合体(MCC)、熱不安定性エンテロトキシン(LT)、コレラ毒素(CT)、コレラ毒素Bサブユニット(CTB)、重合化リポソーム、変異毒素、たとえばLTK63およびLTR72、マイクロカプセル、インターロイキン(たとえばIL−1β、IL−2、IL−7、IL−12、INFγ)、GM−CSF、MDF誘導体、CpGオリゴヌクレオチド、LPS、MPL、ホスファゼン(phosphophazene)、Adju−Phos(登録商標)、グルカン、抗原製剤、リポソーム、DDE、DHEA、DMPC、DMPG、DOC/ミョウバン複合体、不完全フロイントアジュバント、ISCOMs(登録商標)、LT経口アジュバント、ムラミルジペプチド、モノホスホリルリピドA、ムラミルトリペプチド、およびホスファチジルエタノールアミン(phospatidylethanolamine)などの当技術分野において知られている他の物質のいずれかを含むことができる。乳化剤として役立ち得る化合物として、天然および合成の乳化剤、ならびに陰イオン性、陽イオン性、および非イオン性の化合物が挙げられる。酸素含有金属塩として、硫酸塩、水酸化物、リン酸塩、硝酸塩、ヨウ素酸塩、臭素酸塩、炭酸塩、水和物、酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、および酒石酸塩であるAl、K、Ca、Mg、Zn、Ba、Na、Li、B、Be、Fe、Si、Co、Cu、Ni、Ag、Au、およびCrの塩、ならびにその混合物が挙げられ、それらには、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、リン酸カルシウム、マーロックス(水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムの混合物)、水酸化ベリリウム、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、および硫酸バリウムが挙げられる。合成化合物のうち、陰イオン性乳化剤は、たとえば、ラウリン酸およびオレイン酸のカリウム、ナトリウム、およびアンモニウムの塩、脂肪酸のカルシウム、マグネシウム、およびアルミニウムの塩、ならびにラウリル硫酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩が挙げられる。合成陽イオン性薬剤として、たとえば、臭化セチルトリメチルアンモニウム(cetyltrhethylammonlum bromide)が挙げられ、合成非イオン性薬剤は、グリセリルエステル(たとえばモノステアリン酸グリセリル)、ポリオキシエチレングリコールのエステルおよびエーテル、ならびにソルビタン脂肪酸エステル(たとえばソルビタンモノパルミタート)およびそれらのポリオキシエチレン誘導体(たとえばポリオキシエチレンソルビタンモノパルミタート)により例示される。天然の乳化剤として、アカシア、ゼラチン、レシチン、およびコレステロールが挙げられる。
【0161】
他の適切なアジュバントは、単一の油、油の混合物、油中水型エマルジョンまたは水中油型エマルジョンなどの油状成分と共に形成することができる。油は、鉱油、植物油、または動物油であり得る。鉱油は、蒸留技術を介して石油から得た液体の炭化水素であり、当技術分野において流動パラフィン、流動ワセリン、または白色鉱油とも呼ばれる。適切な動物油は、たとえば、タラ肝油、ハリバ肝油、メンヘーデン油、オレンジラフィー油、およびサメ肝油が挙げられ、これらすべては市販されている。適切な植物油として、たとえば、キャノーラ油、アーモンド油、綿実油、コーン油、オリーブ油、ピーナッツ油、ベニバナ油、ゴマ油、ダイズ油などが挙げられる。完全フロイントアジュバント(FCA)および不完全フロイントアジュバント(FIA)は、ワクチンの調製に一般的に使用されている2つの一般的なアジュバントであり、本発明での使用にも適している。FCAおよびFIAはいずれも、鉱油中水型のエマルジョンであるが、FCAは、マイコバクテリウム種の死菌をも含む。粘膜ワクチンに特に好ましいアジュバントは、Lee et al(2011)Vaccine 29:417−425に記載されるようにガラクトシルセラミド(GalCer)を含む。
【0162】
免疫調節性サイトカインもまた、たとえば、アジュバントとして、ワクチンの有効性を高めるためにワクチン組成物に使用することができる。当該サイトカインの非限定的な例として、インターフェロンα(IFN−α)、インターロイキン2(IL−2)、および顆粒球コロニー刺激因子(GM−CSF)、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0163】
ワクチンおよび免疫原性組成物は、静脈内投与、動脈内投与、内視鏡的投与、病変内投与、経皮投与、皮下投与、筋肉内投与、随腔内投与、眼窩内投与、皮内投与、腹腔内投与、経気管投与、表皮下投与、胸骨内注射、静脈内、動脈内、皮内、経皮、筋肉内、鼻腔内、皮下、経皮、気管内、腹腔内、吸入、または鼻腔内噴霧、または気管内経路などにより投与され得る。組成物の投与は、点滴または注射(たとえば静脈内、筋肉内、皮内、皮下、髄腔内、十二指腸内、腹腔内など)による投与であり得る。さらに上記組成物は、「無針」送達システムにより投与することができる。
【0164】
注射は、複数回の注射に分けることができ、そのような分割された接種物は、好ましくは実質的に同時に投与される。分割接種として投与する場合、免疫原の用量は、好ましくは、必ずしも必要ではないが、各分割注射に等しく配分される。アジュバントがワクチン組成物に存在する場合、アジュバントの用量は、好ましくは、必ずしも必要ではないが、各分割注射に等しく配分される。分割接種のための個別の注射は、好ましくは、患者の身体で互いに実質的に近接して投与される。一部の好ましい態様では、注射は、身体で互いに少なくとも約1cm離して投与されている。一部の好ましい態様では、注射は、身体で互いに少なくとも約2.5cm離して投与される。非常に好ましい態様では、注射は、身体で互いに少なくとも約5cm離して投与され、一部の態様では、注射は、身体で互いに少なくとも約10cm離して投与され、一部の態様では、注射は、身体で互いに10cm超離して投与され、たとえば、身体で互いに少なくとも約12.5cm、15cm、17.5cm、20cm、またはそれ以上離して投与される。
【0165】
様々な代替的な医薬送達システムを使用してもよい。当該システムの非限定的な例として、リポソームおよびエマルジョンが挙げられる。ジメチルスルホキシドなどの特定の有機溶媒を使用してもよい。さらに、タンパク質を含有する固体のポリマーの半透性マトリックスなどの徐放システムを使用して、ワクチン組成物を送達してもよい。様々な徐放物質は当業者によく知られている。徐放カプセルは、その化学的性質に応じて、数日間〜数週間〜数か月間の範囲にわたりワクチン組成物を放出することができる。
【0166】
本組成物は、理想的には、摂食障害の発症の前、または摂食障害のいずれかの症状の前に対象に投与される。
【0167】
投与は、非経口経路または経口経路を介してもよい。投与経路は、たとえば静脈内、動脈内(intrarterial)、皮内、経皮、筋肉内、粘膜、皮下、経皮、気管内、腹腔内、灌流および洗浄を含む。たとえば、投与は、粘膜経路、たとえば経鼻、経口(消化管の粘膜を介した)、膣内、頬側、直腸、舌下、眼性、尿(urinal)、肺性、または耳鼻科(耳を介した)経路を介している。
【0168】
免疫は、様々な「単位用量」を含み得る。
【0169】
単位用量は、1回注射として投与される必要はなく、設定された期間にわたる持続点滴を含み得る。単位用量は、0.01nmol/kg〜約1000nmol/kgを含み得る。特に、上記用量は、約0.1nmol/kg全体重〜約100nmol/kg全体重、好ましくは約0.1nmol/kg〜約20nmol/kg、より具体的には、0.1nmol/kg〜約10nmol/kg、特に0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10nmol/kg体重である。
【0170】
一実施形態では、ワクチン組成物は、1日1回用量で投与されてもよく、または総1日量を、分割用量、たとえば1日に2、3、または4回に分けて投与してもよい。さらに、ワクチン組成物は、適切な鼻腔内ビヒクルの局所的な使用を介した鼻腔内剤形で、または当業者によく知られている経皮スキンパッチの剤形を使用して経皮経路を介して;埋め込み可能なポンプにより、または他のいずれかの適切な投与手段により投与することができる。経皮送達システムの剤形で投与する場合、用量の投与は、当然、投与計画全体を通して間欠的投与よりも持続的投与であろう。
【0171】
ワクチンの投与は、プライムブースト法をさらに含み得る。これらの方法では、1つまたは複数のプライミング免疫の後に1回また複数回の追加免疫を行う。実際の免疫原性組成物は、それぞれの免疫および免疫原性組成物の種類に関して同じまたは異なることができ、免疫原の経路および製剤もまた変化させることができる。1つの有益なプライムブースト法は、4週間離して2回のプライミング免疫後、最後のプライミング免疫から4週間後および8週間後に2回の追加免疫を提供する。
【0172】
免疫スケジュール(または投与計画)は、動物(ヒトを含む)に関してよく知られており、特定の対象および組成物に関して容易に決定することができる。よって、本組成物を、対象に1回または複数回投与できる。好ましくは、免疫原性組成物の個別の投与の間には、既定の時間間隔がある。この間隔は対象ごとに変化するが、典型的に10日から数週間の範囲であり、多くの場合、2、4、6、または8週間である。ヒトでは、この間隔は、典型的に2〜6週間である。本発明の特に好ましい実施形態では、この間隔は、より長く、好ましくは約10週間、12週間、14週間、16週間、18週間、20週間、22週間、24週間、26週間、28週間、30週間、32週間、34週間、36週間、38週間、40週間、42週間、44週間、46週間、48週間、50週間、52週間、54週間、56週間、58週間、60週間、62週間、64週間、66週間、68週間、または70週間である。
【0173】
免疫法は、典型的に本組成物の1〜6回の投与を行うが、わずか1、2、3、4、または5回であってもよい。免疫応答を誘導する方法は、組成物と共にアジュバントの投与をも含むことができる。一部の例では、年に1回、2回、または他のより長い間隔(5〜10年)で追加免疫を行うと、最初の免疫プロトコルを補完することができる。
【0174】
本発明の特定の実施形態は、本発明のワクチンまたは免疫原性組成物を対象に1回または複数回投与することにより、対象の摂食障害に対する免疫応答を誘導する方法であって、ClpBタンパク質が、対象の特異的免疫応答を誘導するために十分なレベルにある、方法を提供する。当該免疫は、望ましい免疫法に従って少なくとも2、4、または6週間(またはそれ以上)の時間間隔で複数回反復することができる。
【0175】
本発明者らは、ClpBタンパク質および抗ClpB抗体、特には抗ClpB IgGと、摂食障害、特には神経性食欲不振症および神経性過食症との間の相関を発見した。
【0176】
結果として、本発明はまた、対象の摂食障害を診断するin vitroでの方法であって、
a)上記対象由来の生物学的試料中のClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを測定することと、
b)上記ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の測定レベルを参照値と比較することと、
c)対象が摂食障害を罹患しているか否かを推測することと
を含む、方法に関する。
【0177】
本発明の文脈において、対象は、抗ClpB抗体と呼ばれる、細菌タンパク質ClpBに対する抗体を産生する。
【0178】
本発明の文脈における対象により産生される抗体は、IgM、IgD、IgG、IgAおよび/またはIgEの抗体、特にはIgGおよび/またはIgMの抗体であり得る。
【0179】
本発明の文脈において、ClpB発現細菌株の形態での上記ClpBタンパク質の存在は、ClpBに対する抗体および/またはα−MSHに対する抗体の産生を増大させる。
【0180】
対象により産生されるα−MSHに対する抗体は、自己抗体とも呼ばれる。
【0181】
用語「自己抗体」は、免疫系により産生される、対象自身のタンパク質に対する抗体を指す。
【0182】
好ましくは、抗ClpB抗体は、上記に定義されるようにα−MSHと交差反応する。
【0183】
よって、一実施形態では、抗ClpB抗体は、抗α−MSH抗体でもある。
【0184】
「抗体」または「免疫グロブリン」(Ig)は、2つの重鎖がジスルフィド結合により互いに結合し、各重鎖がジスルフィド結合により軽鎖に結合する天然または通常の抗体であり得る。ラムダ(λ)およびカッパ(κ)の2種類の軽鎖が存在する。抗体分子の機能的な活性を決定する5つの主な重鎖のクラス(または同位体):IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEが存在する。各鎖は、別々の配列ドメインを含む。軽鎖は、2つのドメインまたは領域、すなわち可変ドメイン(VL)および定常ドメイン(CL)を含む。重鎖は、4つのドメイン、すなわち可変ドメイン(VH)と3つの定常ドメイン(CH1、CH2およびCH3、集合的にCHと呼ばれる)を含む。軽鎖(VL)および重鎖(VH)の両方の可変領域は、抗原に対する結合の認識および特異性を決定する。軽鎖(CL)および重鎖(CH)の定常領域ドメインは、抗体の鎖の会合、分泌、胎盤通過性、補体結合、およびFc受容体(FcR)に対する結合などの重要な生物学的特性を与える。Fvフラグメントは、免疫グロブリンのFabフラグメントのN末端部であり、1つの軽鎖および1つの重鎖の可変部からなる。抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原性決定基との間の構造上の相補性に存在する。抗体結合部位は、主に超可変領域または相補性決定領域(CDR)に由来する残基で構成される。時に、非超可変領域またはフレームワーク領域(FR)の残基が、ドメイン全体の構造に影響を与え、それにより結合部位に影響を与える。相補性決定領域またはCDRは、本来の免疫グロブリン結合部位の天然のFv領域の結合親和性および特異性を共に定義するアミノ酸配列を指す。免疫グロブリンの軽鎖および重鎖は、それぞれ、CDR1−L、CDR2−L、CDR3−LおよびCDR1−H、CDR2−H、CDR3−Hと呼ばれる3つのCDRを有する。よって、通常の抗体の抗原結合部位は、重鎖および軽鎖のV領域のそれぞれからのCDRセットを含む6つのCDRを含む。
【0185】
「フレームワーク領域」(FR)は、CDRの間に介在するアミノ酸配列、すなわち、単一の種において異なる免疫グロブリン間で比較的保存されている免疫グロブリンの軽鎖および重鎖の可変領域の一部を指す。免疫グロブリンの軽鎖および重鎖はそれぞれ、FR1−L、FR2−L、FR3−L、FR4−L、およびFR1−H、FR2−H、FR3−H、FR4−Hと呼ばれる4つのFRを有する。
【0186】
本明細書中で使用される「ヒトフレームワーク領域」は、天然に存在するヒト抗体のフレームワーク領域と実質的に同一(約85%以上、特に90%、95%、97%、99%、または100%同一)であるフレームワーク領域である。
【0187】
本明細書中で使用される「診断のための方法」または「診断方法」または単純に「診断」は、対象の可能性がある疾患または障害を判定または同定するための方法を指す。本発明の文脈において、診断方法は、摂食障害、特に、神経性食欲不振症(AN)、神経性過食症(BN)、むちゃ食い障害(BED)、過食、多食症、カヘキシーなどの消耗性疾患、特に神経性食欲不振症、神経性過食症およびむちゃ食い障害から選択される摂食障害を決定または同定することに関する。
【0188】
本明細書中で使用される用語「生物学的試料」は、生物起源の物質を意味する。生物学的試料の例として、限定するものではないが、血液、血漿、血清、または唾液が挙げられる。好ましくは、本発明に係る生物学的試料は、血液、血清、および/または血漿の試料であり、特には血漿の試料である。本発明に係る生物学的試料は、当業者に知られている任意の適切な採取手段により対象から得てもよい。
【0189】
本発明に係る摂食障害の診断方法は、ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の測定レベルを参照値と比較するステップb)を含む。
【0190】
好ましくは、参照値は、本発明の方法のステップa)の対象の生物学的な試料と同じ組織起源からの試料で測定される。
【0191】
好ましくは、「参照値」は、ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の正常なレベルに対応する。
【0192】
本明細書において意図されるClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の「正常なレベル」は、生物学的試料中のClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルがClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体に関する標準のカットオフ値内であることを意味する。この標準は、生物学的な試料の種類、および生物学的な試料中のlpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを測定するために使用される方法に依存する。特に、正常なレベルは、健常な集合のlpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の平均レベルである。
【0193】
特に、参照値は、健康な対象のlpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルに対応する。よって、参照値は、健常な対象由来の参照試料中のlpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルに対応し得る。
【0194】
特に、参照値は、健康な対象のClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルに対応し、特に、ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルがステップa)で測定される場合の健康な対象のClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルに対応する。
【0195】
本明細書中で使用される「健康な集団」は、以前に摂食障害と診断されていない対象から構成される集団を意味する。また健康な集団の対象は、好ましくは、そうでなければ摂食障害のいかなる症状も示さない。言い換えると、当該対象は、医師が診察した場合に健康であること、および疾患の症状を有していないことを特徴とする。
【0196】
よって、「健康な対象」は、以前に摂食障害と診断されていない対象を意味する。また、健常な対象は、そうでなければ摂食障害の症状を示さない。言い換えると、当該健常な対象は、医師が診察した場合、健康であること、および疾患の症状を有しないことを特徴とする。
【0197】
好ましくは、健康な対象は、上述の摂食障害のいかなるものも示さない。
【0198】
本発明の文脈において、ClpBタンパク質、抗ClpB抗体のレベルは、当業者に知られたいずれかの方法、たとえば酵素結合免疫吸着測定法により測定してもよい。
【0199】
特にClBタンパク質のレベルを、イムノアッセイもしくはイムノブロット、または、たとえば質量分析(MS)、キャピラリー電気泳動−質量分析(CE−MS)、液体クロマトグラフィー―質量分析法(LC−MS、LC−MS/MS)などの分析方法により測定する。
【0200】
本発明により使用される用語「イムノアッセイ」は、競合的、直接反応、またはサンドイッチ型のアッセイを含む。当該アッセイは、限定するものではないが、凝集反応試験、ELISAなどの酵素標識型および媒介型のイムノアッセイ、ビオチン/アビジン型アッセイ、ラジオイムノアッセイ、免疫電気泳動、および免疫沈降を含み、より直接的にはELISAに関連する。
【0201】
質量分析(MS)、キャピラリー電気泳動−質量分析(CE−MS)、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS/MS)は、すべてが、本発明に係る方法を実行するために適している、当業者に非常によく知られた分析方法である。
【0202】
特定の実施形態では、ClpBのDNAのレベルは、たとえば、ClpBのDNAアッセイの下で以下の実験の部分に開示される方法により対象の便のClpBのDNAを定量することにより測定する。または以下の通り測定する:DNAを、細菌細胞株の培養物から抽出し、QIAamp(登録商標)のDNA stool mini kit(QIAGEN、フランス)を使用して糞便から精製する。細菌を水に溶解し、5分間100℃で煮沸し、11,000rpmで1分間遠心した後、DNAを含む上清を−20℃で保存した。NCBIプライマー設計ツール(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/tools/primer−bjast/)を使用して、同定された1つのα−MSH様エピトープを含むClpBタンパク質フラグメントをコードする180bpのDNA領域を増幅する以下のヌクレオチドプライマーを設計する(フォワード:5’−GCAGCTCGAAGGCAAAACTA−3’(配列番号:4)およびリバース:5’−ACCGCTTCGTTCTGACCAAT−3’(配列番号:5)(Invitrogen Custom Primers,フランス、セルジー ポンドワーズ))。PCRを、MicroAmpチューブ(エッペンドルフ,ドイツハンブルク)中でサーマルサイクラーにおいて実施する。反応を、Go Taq(登録商標)Green Master Mix 2×(Promega,ウィスコンシン州マディソン)25μl、各プライマー1μl(20pmol)、2回蒸留水21μl、および細菌DNA1μlを含む50μlの容量で行った。PCRの条件は以下の通りである:(94℃で3分間の後に、94℃で30秒間、60℃で30秒間、および73℃で1.5分間を35サイクル)。PCR産物を、1%のアガロースゲル(シグマ)で可視化し、予想サイズ180bpおよび特異性を、ClpB変異株を使用してバリデートした。
【0203】
特に、ClpBと反応する抗体のレベルを、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を使用して測定する。
【0204】
典型的に、ClpBタンパク質(Delphi Genetics)を、典型的に、100μlおよび典型的に100mMのNaHCOバッファー(pH9.6)中で2μg/mlの濃度を使用してMaxisorpプレート(Nunc, ニューヨーク州ロチェスター)に、典型的に4℃で72時間コーティングする。プレートを、たとえば、典型的に0.05%のTween 200(pH7.4)を含むリン酸緩衝食塩水(PBS)で(たとえば5分×3)洗浄し、次に、たとえば、PBSで1:200に希釈したマウスまたはラットの血漿100μlと共に4℃で一晩インキュベートして遊離の抗体レベルを決定するか、または解離性の3MのNaCI、1.5Mグリシンバッファー(pH8.9)中で1:200に希釈して総抗体レベルを決定した。プレートを洗浄(3回)し、典型的に、アルカリホスファターゼ(AP)コンジュゲートヤギ抗ラットIgG(1:2000)、抗ラットIgM(1:1000)、抗マウスIgG(1:2000)、または抗マウスIgM(1:1000)100μlと共にインキュベートする。これらの抗体はすべてJackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.(ペンシルベニア州ウェスト・グローブ)製である。洗浄(3回)した後、典型的にp−ニトロフェニルリン酸溶液(シグマ)100μlをアルカリホスファターゼの基質として添加する。典型的に室温で40分間インキュベートした後、3NのNaOHを添加して反応を停止させる。OD(吸光度)を、典型的に、マイクロプレートリーダーMetertech 960(Metertech Inc.,台湾台北市)を使用して405nmで決定する。血漿試料を添加していないプレートの読み取りから得られたブランクのOD値を、試料のOD値から減算する。各決定は、典型的に2回の反復実験で行われる。反復実験の値の間の変動は、典型的に5%未満である。
【0205】
典型的に、類似のプロトコルを使用して、典型的に対応する抗ヒトIgGまたはIgMのAPコンジュゲート抗体を使用して典型的に1:400に希釈したヒト血漿中の抗ClpBのIgGおよびIgMを測定する。
【0206】
好ましくは、特に、抗ClpB抗体のレベルを、酵素結合免疫吸着測定法を使用して測定する場合、抗ClpB抗体の参照値は、特に血漿中の抗ClpB IgGのODで測定され、このOD値は、0〜3、より好ましくは2.0〜3.0.および/または0.0〜1.0である。
【0207】
好ましくは、本発明の方法では、ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の測定レベルは、本発明に係る参照値よりも高い(増加している)または低い(減少している)。
【0208】
さらに本発明者らは、対照において抗ClpB IgGが、いくつかの心理学的特徴の正常範囲と負に相関するが、AN患者では、抗ClpB IgGが、身体の不満および痩せ願望などの中心となる精神病理学的特徴と正に相関することを発見した。
【0209】
よって、本方法は、摂食障害を特徴付ける心理学的な兆候を評価するステップb2)をさらに含む。
【0210】
一実施形態では、参照値よりも増加した抗ClpB IgG抗体の値は、摂食障害、特にANの存在を示す。
【0211】
一実施形態では、摂食障害の存在を表す精神病理学的特徴は、身体の不満および痩せ願望である。
【0212】
特定の実施形態では、参照値よりも増加した抗ClpB IgG抗体の値、および/またはステップb2)における摂食障害と関連する身体的特徴の検出は、摂食障害、特にANの存在を示す。
【0213】
摂食障害に関連する「心理学的な特徴」を評価する方法は、当業者に知られている。
【0214】
一例では、摂食障害に関連する心理学的特徴候は、摂食障害調査票−2を使用してアッセイすることができる。
【0215】
「摂食障害調査票(EDI)」は、(a)神経性食欲不振症、制限型およびむちゃ食い型/排出型の両方;(b)神経性過食症;および(c)むちゃ食い障害(BED)を含む他で特定されない摂食障害といった摂食障害の存在を評価するために使用する自己記録型アンケートである。元となるアンケートは、8つのサブスケールに分けられる64の質問から構成された。EDI―2は、1991年の改訂版を指す。
【0216】
一実施形態では、本発明の診断方法のステップc)は、対象が摂食障害を罹患しているか否かを推測することを指し、ここでは、参照値よりも増加した抗ClpB抗体の値が、好ましくは摂食障害の存在を示す。
【0217】
別の実施形態では、ステップb2)で検出される摂食障害を有する身体的特徴の検出は、摂食障害の存在を示す。
【0218】
よって、本方法は、ステップa)で決定した抗ClpB IgGの総レベルと比較した、上記試料中のα−MSHと交差反応する抗ClpB IgGのレベルの比率を決定するさらなるステッププレ‐c)を含んでもよい。
【0219】
α−MSHと交差反応する抗ClpB IgGのレベルの比率は、たとえば、典型的に10−6Mのα−MSHペプチド(Bachem)と共に、PBSで1:400に希釈したヒト血漿試料を、たとえば4℃で一晩プレインキュベートした後に、ClpBタンパク質(Delphi Genetics)でコーティングした96ウェルMaxisorpプレート(Nunc)に試料を添加することにより決定され得る。ClpBと反応性のあるIgG抗体は、対応する抗ヒトAPコンジュゲート抗体(Jackson)を使用して、典型的にELISAにより検出する。α−MSHと交差反応性であるClpB IgGのパーセンテージは、それぞれ、100%に等しい個々の血漿試料で吸収処理を行わずに検出された抗ClpB IgGのレベルと比較して計算され得る。
【0220】
特定の実施形態では、参照値よりも増加した、抗ClpB抗体の総レベルと比較したα−MSHと交差反応する抗ClpB IgGのレベルの比率は、摂食障害の存在を示す。
【0221】
さらに、本発明は、それを必要とする対象の摂食障害を治療または発症の機会を低下させる方法であって、少なくとも1つのClpB発現細菌に対する1つの抗生剤を含む組成物を上記対象に投与すること、および/またはClpBを発現しないプロバイオティクスを含む組成物を上記対象に投与すること、および/またはそれらの組み合わせを含み、上記対象は、
a)上記対象由来の生物学的試料中のClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを測定することと、
b)上記ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の測定レベルを参照値と比較することと、
c)対象が摂食障害を罹患しているか否かを推測することと
により摂食障害を罹患していると上記対象を診断する、
方法に関する。
【0222】
上述したすべての定義は上記方法にも当てはまる。
【0223】
さらに、本発明は、ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを低下させる治療に応答する可能性がある、摂食障害を罹患している対象を選択するin vitroでの方法であって、
a)上記対象由来の生物学的な試料中のClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを測定することと、
b)上記ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の測定レベルを参照値と比較することと、
c)ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを低下する治療に関して対象を選択することと
を含み、
上記ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを低下させる治療が、少なくとも1つのClpB発現細菌に対する1つの抗生剤を含む組成物の有効量を上記対象に投与すること、および/またはClpBを発現しないプロバイオティクスを含む組成物の有効量を上記対象に投与すること、および/またはその組み合わせを含む、
方法に関する。
【0224】
一実施形態では、参照値よりも増加したClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の値を有する対象は、ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを低下させる治療に応答する可能性があると選択される。
【0225】
一実施形態では、よって本方法は、摂食障害を特徴づける心理学的特徴が上記に定義されるように評価されるステップb2)をさらに含んでもよい。
【0226】
本発明の診断方法のステップc)は、ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを減少させる治療に関して対象を選択することを指し、ここで参照値よりも増加したClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の値を有する対象が、ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを低下させる治療に応答する可能性があるとして選択される。
【0227】
特定の実施形態では、参照値よりも増加したClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体の値を有する、かつ/またはステップb)で検出された摂食障害に関連する身体的特徴を有する対象は、ClpBタンパク質および/または抗ClpB抗体のレベルを減少させる治療に応答する可能性があるとして選択される。
【0228】
一実施形態では、摂食障害の存在を示す精神病理学的特徴は、身体の不満および痩せ願望である。
【0229】
さらに、本発明者らは、マウスにおける大腸菌の長期的な胃内送達が食物摂取を減少させることを示したことから、さらに本発明は、肥満の治療または予防に使用するための、ClpBタンパク質を過剰発現するプロバイオティクスを含む組成物に関する。
【0230】
「肥満」は、本明細書中では、好ましくは対象のBMIが30を超える医学的な状態を指す。
【0231】
「過剰発現する」は、量が増加した遺伝子の発現によるタンパク質の人工的な発現を意味し、ここではClpBタンパク質をコードする遺伝子の発現の増加を意味する。
【0232】
ClpBタンパク質を過剰発現する細菌は、当業者に知られた方法により調製できる。これは、たとえばClpBのDNAを発現するベクターによる細菌の形質転換により行うことができる。
【0233】
一実施形態では、ClpB過剰発現細菌は、プロバイオティックまたは共生性のヒトの非病原性細菌として知られている細菌、たとえば非病原性大腸菌から選択されている。
【0234】
「有効量」は、望ましい効果の発現を可能にする細菌の量を意味する。特に、有効量は、1日あたり10億〜100億UFCの量を意味する。
【0235】
本願を通して、用語「含む」は、具体的に記載したすべての特性、ならびに任意の特性、追加的な特性、特定していない特性を含むと解釈すべきである。本明細書中で使用されるように、用語「含む」の使用はまた、具体的に言及された特性以外のいかなる特性も存在しない(すなわち「〜からなる」)実施形態を開示する。
【0236】
本発明を、以下の図面および実施例を参照してより詳細に記載する。
【0237】
配列
配列番号1:NCBI参照番号NP_417083.1として参照され、Uni−Prot entry P63284として参照される大腸菌K12由来のシャペロンタンパク質ClpBのアミノ酸配列を示す。
配列番号2:配列番号1の大腸菌K12由来のシャペロンタンパク質ClpBのアミノ酸配列の542〜548番目のアミノ酸を示す。
配列番号3:Gen Peptの配列ID PRF:223274として参照されるホモサピエンス由来のα−MSHのアミノ酸配列を示す。
配列番号4:ヌクレオチドプライマーClpBの核酸配列を示す。
配列番号5:ヌクレオチドプライマーClpBの核酸配列を示す。
【図面の簡単な説明】
【0238】
図1】大腸菌K12タンパク質とα−MSHとの間の分子模倣性のプロテオミクスによる同定 (a)大腸菌の細胞質タンパク質の二次元ゲル電気泳動。(b、c)α−MSHであらかじめ吸着させた(c)または吸着させていない(b)、Rb抗α−MSH IgGで検出した大腸菌タンパク質のイムノブロット。スポット周囲の赤色の丸は、α−MSH IgGにより特異的に認識され、タンパク質同定のために使用した。青色の丸は、非特異的スポットを示す。スポット1〜4で同定されたタンパク質は、ClpBのアイソフォームである。(d)ストレッチャープログラムを使用したα−MSHおよびClpBのアミノ酸配列のアライメント。(e)抗α−MSH IgGで明らかにした組み換えClpBのウェスタンブロット。レーン1および2は、それぞれ20および10μgのClpBである。
図2】マウスにおけるClpBの免疫 ClpB免疫マウス(ClpB+Adj)を、アジュバント(Adj)、PBS、または対照(Ctr)を投与したマウスと比較した。(a)32日の試験期間の体重変化。食物摂取および食行動パターンを、BioDAQケージで最後の2週間で試験した。試験の最後の10日間での毎日の平均食物摂取量(b)、食事の量(c)、および食事の回数(d)。(e)α−MSH(100μgkg−1体重、i.p)またはPBSの注射後24時間にわたる食物摂取量。(f)10−6Mのα−MSHによる吸着の前後のClpB反応性IgGの血漿中レベル。(g)平衡解離定数(KD値)として示される抗ClpB IgGの親和性。(h)α−MSH反応性総IgGの血漿中レベル。(i)抗α−MSH IgGの親和性(KD)。(j)α−MSH単独で刺激後の、またはClpB免疫マウスもしくはAdj注射マウスからプールしたIgG(0.5mgml−1)と共に刺激後のMC4Rを過剰発現するヒト胎児腎293細胞のcAMPアッセイ。(k)cAMPアッセイを、抗α−MSH IgGを枯渇させたIgGで実施した。(a)α−MSH注射(100μgkg−1体重,i.p.)前の二元配置繰り返し測定の分散分析(ANOVA)、P<0.0001、ボンフェローニの事後検定、*a:少なくともP<0.05、ClpB群対対照<;*b:少なくともP<0.05、アジュバント群対対照<;*c:P<0.05、スチューデントのt検定(ClpB群対<PBS);および*d:P<0.05、スチューデントのt検定(ClpB群対対照<)。(b)ANOVA P=0.0002,テューキーの検定(***P<0.001,**P<0.01,#P<0.05,スチューデントのt検定。(c)ANOVA P=0.007,テューキーの検定(**P<0.01)。(e)スチューデントのt検定(*P<0.05)。(f,g)ANOVA P<0.0001,テューキーの検定(***P<0.001 ClpB+Adjvs他の群),対応のあるt検定(##P<0.01,###P<0.001)。(h)ANOVA(P=0.0002),テューキーの検定(***P<0.001,*P<0.05);(i)クラスカル・ワリス検定(P=0.003),ダンの事後検定(**P<0.01,(平均値±s.e.m、n=8)。(j)ANOVA(P=0.005,テューキーの検定*P<0.05);ANOVA(P=0.04),スチューデントのt検定(#P<0.05、a:ClpB対α−MSH、b:ClpB対アジュバント(平均値±s.e.m.;j,n=6、k,n=3))
図3】マウスにおける大腸菌の補充 マウスにおける大腸菌K12の野生型(WT)、ClpB欠失(AClpB)大腸菌K12、またはLB培地のいずれかの毎日胃内強制投与(1〜21日)の、体重(a)、食物摂取量(b)、食事量(c)、および食事の回数(d)に及ぼす効果。(e)細菌ClpBのDNAの180塩基対のフラグメントのPCRの検出、第1のレーンは分子量マーカーであり、第2のレーンは、大腸菌K12のWTのin vitro培養物由来のDNA、第3のレーンは、大腸菌K12 △ClpBのin vitro培養物由来のDNAであり、残りのレーンは、21日目に回収したマウスの糞便由来のDNAである。10−6Mのα−MSHによる吸着の前後の、抗ClpB IgM(f)、およびIgG(g)の酵素結合免疫吸着測定法における吸光度で表す血漿中レベル 抗α−MSH IgM(h)、およびIgG(i)の血漿中レベル。(j)抗α−MSH IgGの親和性(平衡定数)。(a)二元配置繰り返し測定の分散分析(ANOVA)(P=0.3),ボンフェローニの事後検定(2日目)、(**P<0.01 対照対野生型大腸菌)。(b)ANOVA 1〜2日目(P=0.0006)、テューキーの検定(***P<0.001,*P<0.05,野生型大腸菌対a:対照およびb:LB)。(c)クラスカル・ワリス(K−W)検定(3週目、P=0.0001)、ダンの事後検定(***P<0.001,**P<0.01,野生型大腸菌対a:対照、b:LB、およびC:△ClpB)。(d)ANOVA 1〜2日目(P=0.006)、テューキーの検定(**P<0.01、*P<0.05), K−W検定、3週目(P<0.0001),ダンの事後検定(***P<0.001、**P<0.01、野生型大腸菌対a:対照、b:LB、およびC:△AClpB)(f)吸着前のK−W検定(P=0.02)、ダンの事後検定(*P<0.05)、吸着後のANOVA(P<O.0001)、テューキーの事後検定(**P<0.01、野生型大腸菌対他の群)。(g)吸着前のANOVA(P=0.01)、テューキーの事後検定(*P<0.05)、野生型大腸菌対他の群)、対応のあるt検定(##P<0.01)。(h)スチューデントのt検定(野生型大腸菌対他の群 *P<0.05。(j)K−W検定 P=0.02、(ダンの検定 *P<0.05)、マン・ホイットニー検定、(#P<0.05(平均値±s.e.m.,n=8)。
図4】ED患者における抗ClpB抗体 健康な女性(対照、Ctr)、およびAN、BN、およびBEDを伴う患者における抗ClpB IgG(a)およびIgM(b)の血漿中レベル。10−6Mのα−MSHによる吸着の前後のClpB IgG(c)およびIgM(d)の血漿中レベル。α−MSH交差反応性の抗ClpBのIgG(e)およびIgM(f)のパーセンテージ。(b)スチューデントt検定(*P<0.05)。(c,d)対応のあるt検定(***P<0.001、**P<0.01)。(e)クラスカル・ワリス検定(P<0.0001)、ダンの事後検定,(**P<0.01)、マン・ホイットニー検定#P<0.05。(f)分散分析(P=0.02)、テューキーの事後検定(*P<0.05(平均値±s.e.m.、対照:n=65,AN:n=27、BN:n=32およびBED:n=14))
図5】摂食障害および健康な対照(Ctr)、AN、神経性食欲不振症、BN、神経性過食症、BED、むちゃ食い障害を伴う患者の細菌ClpBタンパク質の血漿中濃度。*p<0.05、ClpB濃度の平均値対対照のスチューデントt検定。対照の平均値+2標準偏差(SD)より高いClpB濃度を有する患者のパーセンテージ(%)。
【実施例】
【0239】
実施例
以下の実施例は、共生腸内細菌大腸菌K12が、エネルギー代謝および感情の調節に関与する神経ペプチドであるα―メラニン細胞刺激ホルモン(α−MSH)の立体構造模倣体であることを例証する。またこれら実施例は、ClpB発現腸内細菌と、ClpBタンパク質およびα−MSHと交差反応性である抗ClpB抗体の産生を介した動機づけ行動および感情の調節との分子的関連を明らかにするものである。またさらに、ClpBタンパク質およびClpB抗体の産生の増大におけるClpB発現微生物の関与、ならびに異常な食行動および感情の確立を裏付ける。
【0240】
実施例1
材料および方法
大腸菌K12培養物およびタンパク質抽出物
この試験で使用する細菌細胞株は大腸菌K12であり、フランスのルーアン大学のUMR 6270 CNRS研究所により提供されたものであった。大腸菌K12を、ルリア−ベルターニ(LB)ブロス(MP Biomedicals,フランス、イルキルシュ)中、37℃で24時間培養した。タンパク質の抽出を、Marti et al.(PLoS ONE 2011,e26030)に記載されるように実施した。簡潔に説明すると、細菌を、4000g、4℃で30分間の遠心分離により収集し、得られたペレットを、抽出バッファー(300mMのNaClおよび20mMのTris−HCl(pH8))に再懸濁した。懸濁物を、超音波処理(3×3分,パルスをON(1秒間)、OFF(1秒間)、振幅の21%で)により破砕し、10000g、4℃で10分間遠心分離した。上清を回収し、60000g、4℃で45分間超遠心分離し、タンパク質を細胞質(上清)とエンベロープ(ペレット)の分画にさらに分離した。タンパク質の濃度を、2−D Quantキット(GE Healthcare, 米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)を使用して測定した。
【0241】
二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動
二次元(2D)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)のため、400μgの大腸菌K12タンパク質抽出物を、等電点電気泳動バッファー(iso−electro focusing buffer)(7Mの尿素、2Mのチオウレアおよび0.5%の両性電解質(pH4〜7)、20mMのDTT、2mMのTBP、2%のCHAPS、および0.005%のブロモフェノールブルー)に添加し、軽く振盪させながら室温で60分間可溶化した。一次元のゲル分離を、ReadyStrip IPG Strip(18cm、pH4−7NL,Bio−Rad、フランス、ルマルヌ=ラ=コケット)を使用して行った。等電点電気泳動バッファーによってストリップを受動的に24時間再水和させた後に、タンパク質試料を、カソードから1.5cmの場所に配置したローディングカップを通してストリップに添加した。等電点電気泳動を、Ettan IPGphor 3システム(GE Healthcare、フランスオルセー)により、4段階(31,500Vh):500Vで1時間、1000Vの勾配、10 000Vの勾配、および10 000 Vで2時間)で行った。2%のDTTおよび2.5%のヨードアセトアミドをそれぞれ用いる2回の平衡段階の後、第2の次元、すなわちSDS−PAGE,(10%のポリアクリルアミドゲル、20cm×18cm×1mm)を、ゲルあたり12mAで、Ettan Daltsix vertical electrophoresis system(GE Healthcare)で実施した。SDS−PAGEの後、2Dゲルを、2%(vol:vol)オルトリン酸および50%(vol:vol)のメタノール中、室温で2時間固定した。次にゲルを水ですすぎ、タンパク質のスポットを、CBB G−250(Bio−Rad)染色用(34%(vol:vol)メタノール、17%(wt:vol)硫酸アンモニウム、2%(vol:vol)オルトリン酸および0.66gのCBB G−250/リットル)により可視化した。
【0242】
イムノブロッティング
2D−PAGEの後、大腸菌の細胞質タンパク質を、ドライ式転写法(Trans Blot Cell, Bio−Rad,米国)および膜の大きさ1平方センチあたり一定の電流(0.8mA.cm−2)により、Hybond−ECL PVDFメンブレン(GE Healthcare)に2時間転写した。転写後、膜を、リン酸緩衝食塩水(PBS;10mmol.l−1のTris(pH8)および150mM.l−1のNaCI)プラス0.05%(vol:vol)のTween 20中5%(wt容量)のミルクでブロッキングした。洗浄した後、膜を、ポリクローナルウサギ抗α−MSH IgG(1:1000,Peninsula Laboratories, 米国カリフォルニア州 サン・カルロス)と共に一晩インキュベートし、洗浄した後、次にポリクローナルブタ抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートIgs(1:3000;Dako,フランス、トラップ)と共にインキュベートした。イムノブロットを、ECL検出システム(GE Healthcare)により明らかにし、グレースケールマーカー(Kodak)を使用してあらかじめ較正したImageScanner II(GE Healthcare)でスキャンし、Labscan 6.00 ソフトウェア(GE Healthcare)で可視化した。10−6Mのα−MSHペプチド(Bachem AG,スイス、ブーベンドルフ)によるウサギ抗α−MSH IgGの吸着後に同じ技法を実施した。
【0243】
タンパク質の同定
関心対象のタンパク質のスポットを、Ettan Spot Picker(GE Healthcare)を使用してCPPG−250染色した2Dゲルから切除し、タンパク質の自動ゲル内消化を、Ettan Digester(GE Healthcare)で実施した。次にタンパク質抽出物を、5%(vol:vol)アセトニトリル/0.1%(vol:vol)ギ酸10μLに再懸濁し、次にナノスプレー源(nanospray source)およびHPLC−チップキューブのインターフェース(Agilent Technologies, フランス、クールタブフ)を備えた6340 イオントラップ質量分析器に結合したnano−LC1200で分析した。簡潔に述べると、ペプチドを濃縮し、40nlのRPC18トラップカラムで脱塩し、Zorbax(30−nmの孔径、5−μmの粒径)C18カラム(43mm長×75μmの内径;Agilent Technologies)で分離した。9分間の直線勾配(0.1%のギ酸中3〜80%のアセトニトリル)を流速400nl.min−1で使用し、溶離液を、イオントラップ質量分析器で分析した。タンパク質同定のため、MS/MSピークのリストを抽出し、MASCOT Daemon バージョン2.2.2(Matrix Science)検索エンジンを使用することによりタンパク質データベースと比較した。この検索を、以下の特定のパラメータ:酵素の特異性、トリプシン;残った1つの切断部位は許容される;固定修飾なし;可変修飾、メチオニン酸化、システイン、カルバミドメチル化、セリン、チロシン、およびスレオニンのリン酸化;モノアイソトピック;ペプチド電荷2+および3+;前駆体イオンの質量許容差、1.5Da;断片化に関する質量許容差、0.6Da;機器としてのESI−TRAP;分類、大腸菌;国立生物工学情報センター(NCBI)データベース(NCBInr 20120531(18280215の配列、6265275233の残基);米国メリーランド州ベセスダ)を用いて実施した。以下の基準:それぞれMASCOTスコア454(P<0.01)を有する少なくとも2つの上位にランク付けされたペプチド(赤色の太字)、またはそれぞれMASCOT スコア447(P<0.05)を有する少なくとも2つの上位にランク付けされたペプチドによる同定のうち1つを満たす場合、タンパク質のヒットが自動的にバリデートされた。偽陽性の比率を評価するために、すべての初回データベース検索を、MASCOTの「デコイ」を使用して実施した。偽陽性の比率が決して1%を超えなければ、結果は適切であると考えられる。
【0244】
OFFGELからのタンパク質の同定
大腸菌K12のタンパク質の24分画への高分解能の分離を、OFFGEL pH3−10キット(Agilent Technologies)を使用して3100 OFFGEL フラクショネーターで行った。タンパク質の試料(400μg)の調製およびOFFGELシステムのすべての部品の組み立てを、Agilent Quick start Guideに記載される手順に従って行った。OFFGEL分画を、30時間後に64KVhに達するまで最大制限電流パラメータ(8000V、50μΑ、および200mW)を用いて標準的なプログラムOG24PROを使用して実施した。実験の最後に、すべての画分を、0.8mlのディープウェル(Thermo Fisher Scientific,フランス イルキルシュ)に移し、−20℃で保存した。OFFGELの中心部から回収した9個のタンパク質含有分画を、ウサギ抗α−MSH IgG(Peninsula Laboratories)を使用するウェスタンブロットにより調べた後、上述のようにタンパク質を同定した。
【0245】
マウスにおける免疫および行動
すべての実験プロトコルを、アメリカ国立衛生研究所のガイドラインおよびEUの指令(US National Institutes of Health guidelines and EU directives)に従い行い、動物実験は、施設内倫理委員会(Institutional Ethical Committees)により承認された。2ヶ月齢の雄性C57Bl6マウス(Janvier Laboratories,フランスラ・トゥーレット)を、12時間の明暗周期(700時間の光)で1週間動物施設に馴化させ、標準的なマウス保持ケージ(n=8)で維持した。マウスに、常時入手可能である飲料水と共に標準的なげっ歯類固形飼料(RM1 diet,SDS,UK)を自由に与え、毎日優しく保持して体重を測定した。馴化の最中にマウスを、ケージあたりのマウスあたりの平均体重が類似するように4つのケージに分けた。1週間馴化した後、各ケージのマウスを、4つの試験群の1つに割り当て、以下の処置:((i)群1、ClpB免疫(n=8):ClpBタンパク質(Delphi Genetics,ベルギーゴスリ)50μg/マウスを、完全フロイントアジュバント(Sigma,米国ミズーリ州セントルイス)とPBSの1:1(vol:vol)混合物200μl中で腹腔内(i.p)投与;(ii)群2、アジュバント注射対照(n=8):完全フロイントアジュバントを含むPBS(1:1(vol:vol),i.p.)200μl;(iii)群3;PBS注射対照(n=8):200μlのPBS(i.p);および(iv)群4、未処置の対照(n=8):注射をしていない)を行い、次にすべてのマウスを保持ケージに戻した。15日後、マウスに、追加免疫を行い、以下の処置:((i)群1(n=8)、ClpBタンパク質(Delphi Genetics)50μg/マウスを含む不完全フロイントアジュバント(Sigma)とPBSの1:1(vol:vol)混合物200μlのi.p.;(ii)群2(n=8);不完全フロイントアジュバントを含むPBS200μl(1:1(vol:vol),i.p.);(iii)群3(n=8):PBS200μl(i.p.);およびiv)群4(n=8):注射投与なし)を行った。追加免疫の翌日に、自動給餌モニタをそれぞれ備えるBioDAQマウスケージ(Research Diets,Inc.,米国ニュージャージー州ニューブランズウィック)にマウスを個々に入れた。食料(Serlab, フランス、モンタテール)および飲料水を自由に入手可能な状態にし、体重を毎日測定した。BioDAQケージに3日間馴化させた後に、マウスに以下の処置:((群1、2、および3(それぞれn=8)すなわちClpBで免疫したマウスに、アジュバントおよびPBSをそれぞれ注射し、すべてのマウスにα−MSHペプチド(Bachem AG)100μg.kg−1 体重を含むPBS100μl(i.p.)を、1000時間目に急性的に注射した)を行った。対照のマウス(n=8)にはPBSのみ(i.p.)を投与した。給餌データを、BioDAQ データビューワー2.3.07(Research Diets)を使用して連続的にモニターして分析した。食事のパターン分析のため、食事の間隔を、300秒に設定した。
【0246】
給餌試験の後、マウスを、食料および水を自由に入手可能な個々のマウス保持ケージに入れ、2日間連続して行ったO迷路(Med Associate, Inc., 米国バーモント州セントオールバンズ)試験において自発運動活性および不安について分析した。O迷路試験から2時間後に、マウスをギロチンでの頭部切断により屠殺し、体躯の血液をEDTA含有チューブに回収した。血漿を、3500rpm(1.4g)、4℃で15分間遠心分離することにより分離し、アッセイするまで−80℃で保存した。
【0247】
自発運動活性および不安の試験
BioDAQケージでの給餌試験の後に、マウスを、Versamax動物活性モニター(AccuScan Instruments, Inc.,米国、オハイオ州コロンバス)を使用して自発運動活性に関して分析した。自発運動活性試験の翌日に、すべてのマウスを、高架式O迷路での不安に関して試験した。高架式O迷路は、げっ歯類の不安を試験するために薬理学的に検証されたより一般的に使用される高架式十字迷路法の変形である。O迷路の利点は、従来の十字迷路の曖昧な中心の四角がない点である。O迷路は、床から80cmの高さの円形の赤外線プラットフォームからなり、灰色のプラスチック製の2つのオープン区画および2つのクローズド区画を特徴とした。クローズド区画は、迷路の表面から20cm上に延びた壁により囲まれており、黒色の赤外線プレキシグラスのふたで覆われていた。各試験を、2つのクローズド区画の一方にマウスを配置することにより開始した。試験は5分間続行し、O迷路の上方に配置したビデオカメラおよびEthoVisionビデオ追跡ソフトウェア(Noldus IT、オランダヴァーヘニンゲン)を使用して記録した。開口部および閉鎖部で費やした距離および時間の測定値を分析した。それぞれのマウスの試験のあいだに、O迷路を30%のエタノールで清潔にした。
【0248】
ClpBおよびα−MSH自己抗体アッセイ
ClpB、α−MSH、および副腎皮質刺激ホルモンと反応する自己抗体Absの血漿中レベルを、公開されているプロトコル(Fetissov SO., Methods Biol Mol 2011)に従って酵素結合免疫吸着測定法を使用して測定した。簡潔に説明すると、ClpBタンパク質(Delphi Genetics)、α−MSH、または副腎皮質刺激ホルモンペプチド(Bachem AG)を、100mMのNaHCOバッファー中100μlおよび2μg/mlの濃度(PH9.6)で使用して、96ウェルのMaxisorpプレート(Nunc, ニューヨーク州ロチェスター,USA)の上に4℃で72時間コーティングした。プレートを0.05% Tween 200を含むPBS(pH7.4)で洗浄し(5分間、3回)、次にPBSで1:200に希釈したマウス血漿100μlと共に4℃で一晩インキュベートして遊離の自己抗体のレベルを決定するか、または解離性の3MのNaClおよび1.5Mのグリシンバッファー(pH8.9)で1:200に希釈して総自己抗体のレベルを決定した。プレートを洗浄し(3回)、100μlのアルカリホスファターゼ(AP)コンジュゲートヤギ抗マウスIgG(1:2000)または抗マウスIgM(1:1000)と共にインキュベートした。これらはすべてJackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.(米国ペンシルベニア州ウェスト・グローブ)から入手した。洗浄(3回)を行った後、100μlのp−ニトロフェニルリン酸溶液(Sigma)を、APの基質として添加した。室温で40分間インキュベートした後、3NのNaOHを添加することにより、反応を停止させた。吸光度をマイクロプレートリーダーMetertech 960(Metertech Inc., 台湾、台北市)を使用して405nmで決定した。血漿試料を添加していないプレートの読み取りから得たブランクの吸光度の値を、試料の吸光度の値から除算した。各決定を2回の反復実験で行った。反復実験値間の変動は、5%未満であった。同様のプロトコルを使用して、対応する抗ヒトIgGまたはIgM APコンジュゲート抗体(1:2000, Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.)を使用して、ヒト血漿(1:400)中の抗ClpBのIgGおよびIgMを測定した。
【0249】
α−MSHによるClpB抗体の吸収
PBSで1:200に希釈したマウスの血漿試料、またはPBSで1:400に希釈したヒトの血漿試料を、4℃で一晩10−6Mのα−MSHペプチド(Bachem AG)と共にプレインキュベートした後、試料を、ClpBタンパク質(Delphi Genetics)でコーティングした96ウェルMaxisorpプレート(Nunc)に添加した。ClpBと反応性であるIgGおよびIgM抗体を、対応する上述の抗マウスまたは抗ヒトAPコンジュゲート抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.)を使用する酵素結合免疫吸着測定法により検出した。α−MSHと交差反応性のClpB抗体のパーセンテージを、100%に等しい個々のそれぞれの血漿試料中で吸収することなく検出した抗ClpB抗体のレベルと比較して計算した。
【0250】
血漿からのIgGの精製
IgGの精製および親和性のアッセイを、公開されているプロトコル(Legrand et al., Protoc Exch 2014, doi:10.1038/protex2014.004)に従って行った。血漿グロブリンの抽出を、C18SEPカラム(Phoenix Pharmaceuticals, 米国カリフォルニア州バーリンゲーム)上での血漿の酸性化および分離により行い、次にマウスの血漿500μlをバッファーA(1%のトリフルオロ酢酸水溶液)500μlと混合した。カラムを、700rpmで3分間の遠心により1mlのバッファーB(60%のアセトニトリルの1%トリフルオロ酢酸溶液)中で活性化し、バッファーA 3mlで3回すすいだ。希釈した血漿(Aバッファーに1:1で希釈)をカラムに添加し、溶離液(1ml)をIgGのさらなる精製のため保存した(−20℃で凍結保存)。総IgGを、Melon Gelキット(Thermo Fisher Scientific,米国イリノイ州ロックフォールド)を使用してマウス血漿試料の溶離液から精製した。キットの精製バッファーで1:4に希釈した血漿の溶離液を、カラムに沈着させた洗浄済みのmelon gel上に添加した。カラムを6000rpmで1分間スピンさせ、IgG含有溶離液を残して−20℃で凍結保存した後、凍結乾燥した。凍結乾燥したIgGを、HBS−EPバッファー(GE Healthcare, 米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)で再構成した。環状アデノシン一リン酸(cAMP)の実験のため、ClpB群およびアジュバント対照群の8匹のマウスから精製したIgGを、それぞれ、2つに分けた2つのプールにそれぞれ混合した。1つのパートをcAMPアッセイに直接使用し、もう一方を、活性化したUltraLinkビーズ(Pierce,米国イリノイ州ロックフォールド)にコーティングしたα−MSH(Bachem AG)に対するアフィニティクロマトグラフィーを使用することによりさらに精製した。α−MSH IgGを枯渇させたIgG溶離液を保存し、凍結乾燥し、PBSで希釈した。
【0251】
親和性動態アッセイ
ClpBおよびα−MSHに関するマウスIgGの親和性動態を、BIAcore 1000機器(GE Healthcare)での表面プラズモン共鳴現象に基づく生体分子特異的相互作用分析により決定した。α−MSH(Bachem AG)またはClpBタンパク質(Delphi Genetics)を、10mMの酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)(GE Healthcare)中0.5mg.ml−1に希釈し、アミンカップリングキット(GE Healthcare)を使用することによりセンサーチップCM5(GE Healthcare)に共有結合させた。すべての測定を、同じα−MSHまたはClpBコーティングチップで実施した。親和性動態分析では、840nmolおよびブランクの試料(HBS−EPバッファーのみ)の2回の反復実験を含む、各IgGの試料の5つの段階希釈液:3360、1680、840、420、および210(nmol)についてマルチサイクル法を実行した。各サイクルは、2分間の分析物の注射と、流速30μl/分での25℃、5分間の解離を含んだ。
【0252】
各試料の注射の間、結合表面を、10mMのNaOHで再生し、センサーグラムの同じベースラインレベルを得た。親和性動態のデータを、BiaEvaluation 4.1 .1プログラム(GE Healthcare)を使用して分析した。動態データを適合させるために、Langmurの1:1のモデルを使用し、ブランクの値を減算することにより、試料の値を補正した。
【0253】
In vitroでのcAMPアッセイ
ヒトMC4Rを発現するヒト胎児腎293細胞の安定した細胞株を、レンチウイルスの形質導入技術を使用して作製し、Amsbio(英国、オクソン)から購入した。トランスフェクトした細胞中のMC4R mRNAの高い発現を、Amsbioおよび本出願人の研究室での逆転写PCRによりバリデートした。各実験の前に細胞中のトランスジーンの存在を、MC4Rレンチウイルスベクターと同じ状況ではあるが、異なるプロモーターの下で遺伝子を挿入した緑色蛍光タンパク質の蛍光顕微鏡での可視化により確認した。α−MSHペプチド(Bachem AG)を、誘導バッファー:PBS、500μΜのIBMX、100μΜのRO 20−1724(Sigma)、20mMのMgCl中で、それぞれ、0.6、3、4.5、6、15、30、45、60および120pmolのα−MSHの用量に対応する2、1、750、500、250、100、75、50および10nMの最終濃度に希釈した。同様に、1つのブランクの試料を含めた。解凍した後、湿潤細胞培養インキュベーターにおいて、250mlの組織培養フラスコ(BD−Falcon、Beckton−Dickinson 米国マサチューセッツ州ベドフォード)中で、(2mMのL−グルタミン、10%の胎児仔ウシ血清、0.1mMの非必須アミノ酸および1%のペニシリン‐ストレプトアビジン)を補充したダルベッコ変法イーグル培地4.5g.l−1グルコース(Eurobio,フランス、クールタブフ)で細胞を8〜10日間、37℃および5%のCO2で培養した。実験日に、培養したMC4Rヒト胎児腎293細胞を、0.25%のトリプシン‐EDTA(Sigma−Aldrich)で処理し、細胞のペレットをPBSに再懸濁して、無処置のバイオルミネセンス白色96マイクロウェルプレート(Nunc,デンマーク、ロスキレ)中に、ウェル(10μl)あたり5000個の細胞を得た。生物発光アッセイcAMP−Glo Maxアッセイキット(Promega,米国ウィスコンシン州マディソン)を、製造社の説明書に従って使用して、cAMPの産生を測定した。簡潔に説明すると、細胞を、異なる濃度のα−MSHペプチド単独、またはClpB免疫群もしくはアジュバント対照群からのマウスのIgGプールとα−MSHとを共に室温で15分間インキュベートし、これらはα−MSHの直前に細胞に添加した。cAMP標準物質(キットにより提供)の段階希釈液を同じマイクロプレートでアッセイした。cAMP検出溶液を各ウェルに添加し、次に細胞を、撹拌してホモジナイズし、2分間、1000rpmで遠心沈降させ、次に23℃で20分間インキュベートした。キナーゼ‐Glo試薬の基質を各ウェルに添加し、23℃で10分間インキュベートした後、発光を、バイオルミネセンス機器(Safas Spectrometer、モナコ)で読み取った。各希釈液の3回の試験を、別々のウェルで実施し、別の日に2回反復し、天然のIgGを使用する場合のcAMP活性化の曲線の各点でN=6を得た。α−MSH IgG画分からの天然のIgGを枯渇させた後、上述の各α−MSHの濃度およびIgGで、同じ実験を行った。
【0254】
マウスにおける大腸菌の強制経口投与
1か月齢のC57Bl6マウス(Janvier Laboratories)を、動物施設に1週間馴化させ、上述のように維持した。マウスを以下の4つの群(それぞれn=8)に分けた:(i)108個の大腸菌K12細菌の強制経口投与;(ii)ClpBを欠損する108個の大腸菌K12細菌の強制経口投与;(iii)LB培地のみの強制経口投与;(iv)いかなる治療も受けていない対照。ClpB変異細胞株は、Bernd Bukauの研究室(ZMBH, Heidelberg University,ドイツハイデルベルク)で作製され、Dr Axel Mogkにより、対応する野生型(WT)の大腸菌の細胞と共に供与された。マウスを個々にBioDAQケージ(Research Diets)に入れ、細菌を含む、または含まない0.5mlのLB培地を、暗サイクルの始まる前に強制経口投与により21日間毎日投与した。強制経口投与の最終日に、マウスの糞便を回収し、凍結した。強制経口投与の後、マウスを断頭により屠殺し、体躯の血液を、EDTA含有チューブに回収した。血漿を、4℃で10分間3500rpmで遠心することにより分離し、アッセイするまで−80℃で保存した。抗ClpBおよび抗α−MSH IgGおよびIgMの血漿中レベルを上述のようにアッセイした。
【0255】
ClpB DNAアッセイ
DNAを、WTおよびClpBの変異細胞株の培養物から抽出した。同様に、QIAampR DNA Stool Mini Kit(Qiagen、フランス)を使用してマウスの糞便からも精製した。細菌を水に溶解し、5分間100℃で煮沸し、11,000rpmで1分間遠心沈降させた後、DNAを含有する上清を−20℃で保存した。NCBIプライマー設計ツール(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/tools/primer−blast/)を使用して、本出願人は、同定された1つのα−MSH様エピトープを含むClpBタンパク質フラグメントをコードする180塩基対のDNA領域を増幅する以下のヌクレオチドプライマーを設計した(図1e):フォワード:5’−GCAGCTCGAAGGCAAAACTA−3’(配列番号:4)およびリバース:5’−ACCGCTTCGTTCTGACCAAT−3’(SEDIDNO:5)(Invitrogen Custom Primers,フランスセルジー ポンドワーズ)。PCRを、MicroAmpチューブ(エッペンドルフ,ドイツハンブルク)中でサーマルサイクラーにおいて実施した。反応を、25μlのGo Taq Green Master Mix2×(Promega)、1μl(20pmol)の各プライマー、21μlの2回蒸留水、および1μlの細菌DNAを含む50μl容量で行った。PCRの条件は以下の通りであった:94℃で3分間の後に、30秒で94℃、30秒で60℃、および1.5分で72℃を35サイクル。PCR生成物を、1%のアガロースゲル(Sigma)で可視化し、予想サイズ180塩基対および特異性を、ClpB変異細胞株を使用してバリデートした。
【0256】
細菌ClpBタンパク質の血漿中濃度
細菌ClpBの血漿中濃度を、以下のプロトコルに従い酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を使用して測定した。Delphi Genetics(ベルギーゴスリ)によりカスタム生成されたウサギポリクローナル抗ClpB IgGを、100mMのNaHCOバッファー(pH9.6)中で100μlおよび2μg/mlの濃度を使用して96ウェルMaxisorpプレート(Nunc, ニューヨーク州ロチェスター)に、4℃で24時間コーティングした。プレートを、0.5%のTween 200(pH7.4)を含むリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄(5分間×3)した。標準物質としてのDelphi Geneticsによりカスタム生成された組み換えClpBタンパク質を、サンプルバッファー(PBS、アジ化ナトリウム0.02%、pH7.4)中で5、10、25、50、70、100、および150pMに段階希釈し、2回の反復実験でウェルに添加した。摂食障害の患者および健康な対照からの血漿試料(サンプルバッファー中1:25)を、2回の反復実験で残りのウェルに添加し、ClpBの標準物質および血漿試料を室温(RT)で2時間インキュベートした。プレートを、0.05%Tween 200(pH7.4)を含むPBSで洗浄した(5分間×3)。Delphi Geneticsによりカスタム生成され、α−MSHと交差反応性がないようにあらかじめ選別したマウスモノクローナル抗ClpB IgG(サンプルバッファー中1:500)をウェルに添加し、室温で90分間インキュベートした。プレートを、0.05%のTween 200(pH7.4)を含むPBSで洗浄した(5分間×3)。Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc(ペンシルベニア州ウェスト・グローブ)製の、アルカリホスファターゼコンジュゲートヤギ抗マウスIgG(サンプルバッファー中1:2000)をウェルに添加し、室温で90分間インキュベートした。プレートを、0.05% Tween 200(pH7.4)を含むPBSで洗浄し(5分間×3)、次に100μlのp−ニトロフェニルリン酸溶液(Sigma、ミズーリ州セントルイス)を、アルカリホスファターゼの基質として添加した。室温で40分間インキュベートした後、反応を、3NのNaOHを添加することにより停止させた。マイクロプレートリーダーMetertech 960(Metertech Inc、台湾、台北市)を使用して、吸光度(OD)を405nmで決定した。血漿試料またはClpBタンパク質標準物質希釈液を添加していないプレートの読み取りから得たブランクのOD値を、試料のOD値から減算した。ClpBの血漿中濃度を、ClpB標準曲線のODに基づき計算し、血漿の希釈に関して補正した。
【0257】
統計分析
データを分析し、グラフを、GraphPad Prism 5.02(GraphPad ソフトウェア Inc.、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を使用してプロットした。正規性を、コルモゴロフ‐スミルノフ検定により評価した。群の差異を、正規性の結果に従って、テューキーまたはダンの事後検定を用いた分散分析(ANOVA)またはノンパラメトリックのクラスカル・ワリス検定により分析した。体重の変化を、二元配置繰り返し測定の分散分析およびボンフェローニの事後検定で分析した。個々の群を、正規性の結果に従って、スチューデントのt検定またはマン・ホイットニー検定を使用して比較した。α−MSHによるClpB抗体の吸収作用を、対応のあるt検定を使用して分析した。ピアソンまたはスピアマンの相関係数を、変数の正規性に従い計算した。cAMPの産生を、非線形回帰適合(log(α−MSH)対正規化cAMP応答)を使用して分析し、この等式はY=100/(1+10(LogEC50−X×HillSlope)であった。データは、平均値±標準偏差として示されており、すべての検定でp<0.05は、統計的に有意であると考えられた。
【0258】
結果
細菌α−MSH模倣体のプロテオミクスの同定
α−MSHに対して分子模倣性を有する細菌タンパク質を同定するために、プロテオミクス技術に基づく研究戦略を開発した。総タンパク質を、大腸菌K12培養物から抽出し、細胞質分画を、2Dゲル電気泳動(図1a)により分離し、フッ化ポリビニリデンのメンブレンに移した。細菌タンパク質における多数のα−MSH様エピトープの検出の可能性を上げるために、メンブレンを、ポリクローナル抗α−MSHIgGを用いて明らかにした。13個の免疫陽性タンパク質のスポットが見出され(図1b)、このうちスポット1〜8は、10−6Mのα−MSHによって抗体をあらかじめ吸着させた後に消失し(図1c)これにより特異的α−MSH模倣体エピトープが確認された。質量分析を使用して、最も強力なα−MSH様染色を示すタンパク質のスポット1、2、3、および4は、ClpB、a857−a.aタンパク質、すなわち857アミノ酸タンパク質脱凝集シャペロン、またはClpB(MW 95526)(分子量:95526Da、アクセッション番号:NP_417083.1、配列番号:1)と命名される熱ショックタンパク質のアイソフォームとして同定された。より強度の低い染色されたα−MSH様スポット5〜8(それぞれ880、877、874、および800の最高MASCOTスコアを有する)は、548a.aタンパク質シャペロンGroEL(分子量:57293Da;アクセッション番号:YP_001732912.1)のアイソフォームであった。大腸菌タンパク質の分離の代替戦略も、同様に、OFFGEL フラクショネーターの後に1次元ゲル電気泳動、およびα−MSHであらかじめ吸着または吸着されていない抗α−MSH IgGによるウェスタンブロットを使用して、使用した(データは示していない)。1つのバンドが、抗α−MSH IgGにより特異的に認識され、ClpBタンパク質を含むことが見出された(最高MASCOTスコア:1065)。これら結果に基づき、ClpBを、α−MSHとの分子模倣体のさらなるバリデーションのための標的タンパク質として選択した。α−MSHと細菌ClpBとの間のアミノ酸配列相同性を解析するために、両方の配列を、Needleman−Wunschアルゴリズム(http://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/)を使用するEmboss Stretcherプログラムでアライメントした。このアライメントにより、α−MSHとの不連続なアミノ5個の配列相同性を示すClpBタンパク質の部位が明らかとなった(図1d)。この推定上のα−MSH様エピトープは、ClpBタンパク質の構造のらせん間ループに位置し、このことはタンパク質の表面に暴露されることを示し、すなわち、自己抗体結合のために近づくことができることを示した。抗α−MSH IgGにより明らかにされた組み換えClpBタンパク質のウェスタンブロットにより、96kDaのバンドを示し(図1e)、これにより、ClpBタンパク質がα−MSH様エピトープを含むことが確認された。これらの結果は、分子模倣体の概念に従う少なくとも5連続アミノ酸配列の相同性の存在が、細菌タンパク質が、神経ペプチドと交差反応性であるIgGにより認識されるために必須の条件ではないことを示す。
【0259】
ClpBを用いたマウスの免疫
大腸菌のClpBがα−MSHと交差反応性である自己抗体であり、食行動および不安に影響するか否かを試験するために、マウスを組み換え細菌ClpBタンパク質で免疫した。アジュバントを含むClpBまたはアジュバントのみを投与したマウスは、注射後数日間、より低い体重を示した(図2a)。しかしながら、4週間後、ClpB免疫マウスは、対照と比較して高い体重を有した(+5%)(図2a)。少なくとも10日間の実験の間測定した平均1日食物摂取量も同様に、他の群と比較して、ClpB免疫マウスにおいて増加した(図13%)(図2b)。食事の回数は変化しなかったため(図2d)、食物摂取の増加は、食事量の増加によるものであり(図2c)、ClpB免疫が、空腹機構よりむしろ満腹感に干渉したことを示している。これは、満腹感を誘導するα−MSHの既知の役割と一致するものである。α−MSH食欲不振誘発作用に対するClpB免疫の関連性をさらにバリデートするために、マウスにα−MSHをi.p.注射した。24時間後では、食物摂取量および体重は、ClpB免疫化マウスにおいて影響を受けず(図2e)、これは、マウスが、非免疫マウスに存在する投与されたα−MSHの食欲不振誘発性作用に感受性ではないことを示した。給餌実験の後、マウスの自発運動活性および不安に関連する行動を、オープンフィールドおよびO迷路試験で試験した。総自発運動活性およびオープン領域対境界領域で費やした時間は、試験群間で有意差はなかった(データは示していない)。しかしながら、O迷路のクローズドアームでは、ClpB免疫マウスは、対照と比較してより短い距離を移動し(データは示していない)、他のすべての群と比較して短い時間を費やし(データは示していない)、このことから、不安の減少が示された。免疫の有効性を確認するために、抗ClpB IgGの血漿中レベルをアッセイし、その親和性を測定した。ClpB免疫マウスでは、より親和性の低い(図2g)抗ClpB IgGレベルの強い増加(図2f)が見いだされ、近年のIgGの誘導と一致した。α−MSH反応性IgGの血漿中レベルの増加もまた、ClpB免疫マウスで見出された(図2h);これらのIgGは、同様に、対照と比較してα−MSHに対する低い親和性を特徴とした(図2i)。α−MSHによるマウスの血漿の吸着は、抗ClpB IgGの血漿中レベルを有意に減少さ、抗ClpB IgGのすべてではない一分画がα−MSHと交差反応性であることを確認した(図2f)。α−MSH IgMの自己抗体の血漿中レベルは、群の間で有意差はなかった(データは示していない)。ClpB免疫が、副腎刺激ホルモンと交差反応する自己抗体を誘導し得るか否かによらず、α−MSH配列を含有するアミノ酸39個のペプチドも同様に解析した。血漿中の副腎皮質刺激ホルモン反応性IgGに有意差は見出されず(データは示していない)、ClpBとα−MSHとの間で立体構造模倣体の選択性を示した。
【0260】
MC4Rシグナリングに及ぼすマウスのIgG作用
MC4Rシグナリングに及ぼす、ClpB免疫誘導型α−MSH交差反応性IgGの影響を決定するために、MC4R発現細胞におけるα−MSH誘導型cAMP産生に及ぼすそれらの作用を試験した。α−MSHをClpB免疫マウス由来のIgGと共にプレインキュベートした場合、α−MSH単独、またはアジュバント注射マウス由来のIgGとプレインキュベートしたα−MSHと比較して、cAMPの濃度が低いことが見出され、2つのα−MSHの最高濃度での減少は8〜10%であった(図2j)。プールしたIgGからα−MSH反応性IgGを枯渇させた後、ClpB免疫マウス由来の残りのIgGはα−MSH誘導型cAMPの放出に全く作用を示さず(図2k)、これは、ClpB免疫マウスにおける抗α−MSH交差反応性IgGが、α−MSHに応答するcAMP産生の低下の原因であることを示した。よって、MC4Rの活性化およびシグナリングの減少は、ClpB免疫マウスで観察される食物摂取の増加および不安の減少を説明し得るものである。
【0261】
マウスにおける大腸菌の強制経口投与
大腸菌が、ClpBタンパク質に対する免疫原性の応答を誘導し、α−MSHと交差反応性である抗ClpB自己抗体の産生をもたらし得るか否かを試験するために、大腸菌K12の野生型およびΔClpB株を、強制経口投与によりマウスに3週間毎日与えた。別のマウスの群には、細菌培養物の培地のみを強制経口投与して、対照群にはいずれの処置も行わなかった。強制経口投与の最初は、野生型大腸菌を投与したマウスにおいて体重および食物摂取量の減少を伴ったが、その後対照レベルへと徐々に回復した(図3aおよびb)。再度、強制経口投与の最終週では、野生型大腸菌を投与したマウスにおいて給餌パターンが影響を受け、食事量の減少を示したが、食事の回数は増加した(図3cおよびd)。顕著に、ΔClpB大腸菌を投与したマウスは、いずれの時点でも、体重の増加、食物摂取量、または給餌パターンのいずれにおいても対照と有意差がなかった。これらのデータは、宿主の食物摂取量の急性的な減少、ならびに大腸菌感染後の給餌パターンの長期的調節に細菌ClpBが特異的に関与していることを裏付けるものである。予測されるように、ClpBのDNAは、野生型大腸菌を投与されたマウスの糞便にはより多く存在したが、一部の対照マウスでは低いレベルが検出された(図3e)。強制経口投与の3週間後、抗ClpB IgMおよびIgGの両方の血漿中レベルは、対照およびΔClpB大腸菌群と比較して野生型大腸菌を投与したマウスで増加した(図3fおよびg)。α−MSHによる血漿の吸着は、野生型大腸菌を強制経口投与したマウスにおける抗ClpB IgGのレベルを減少させ(図3g)、このことは、α−MSHと交差反応性である抗ClpB IgGの存在を示すものである。興味深いことに、抗ClpB自己抗体のIgMクラスの血漿中レベルは、α−MSHによる吸着後に増加し、これはα−MSHが、野生型大腸菌の強制経口投与マウスで増加したClpBと交差反応性であるα−MSH IgM免疫複合体の解離を引き起こしたことを示唆している(図3f)。抗α−MSH IgMの血漿中レベルもまた、他のすべての群と比較して野生型大腸菌の送達により増加したが(図3h)、抗α−MSH反応性IgGは、ごくわずかに増加したに過ぎず、有意性に達しなかった(図3i)。しかしながら、α−MSH IgGの親和性動態解析は、会合または解離の比率が有意に変化することなく(データは示していない)、大腸菌を強制経口投与で投与したマウスでは平衡解離定数の値がより低いことが明らかとなった(図3j)。α−MSH反応性自己抗体のIgMクラスのレベルの増加を含むこれらの変化は、新規抗原に関するClpBに対する免疫応答を反映し得る。実際、野生型大腸菌を投与していないマウスの糞便においてClpB DNAのレベルが低いか又は検出不能であることは、ClpB発現微生物が、試験したマウスにおいて主要な腸内共生細菌ではなかったことを示している。よって、食事量および体重増加に関連する低親和性抗α−MSH IgGのレベルの増加を示したClpB免疫化マウスとは対照的に、大腸菌を強制経口投与したマウスは、抗α−MSH反応性IgMおよびIgGの両方の産生の増加を示し、食事量および体重の減少に関連する親和性が増加した。
【0262】
ED患者における抗ClpB抗体
α−MSH交差反応性自己抗体の産生を刺激する大腸菌ClpBタンパク質の能力をバリデートするため、次に、EDに対する細菌性ClpBの関連性を、AN、BN、またはBEDの患者における抗ClpB抗体を試験することにより決定した。抗ClpB IgGおよびIgMはいずれも、ED患者、ならびに健康な対照の血漿中で容易に検出可能であることが見出されたが、両者の平均レベルに有意な差異はなかった(図4aおよびb)。しかしながら、すべての試験群で高い変動が存在し、これは、ClpB様抗原に直面した個体の既往が異なることを示している。ヒトの抗ClpB抗体が同様にα−MSHと交差反応性であるか否かを確認するために、血漿試料を、10−6Mのα−MSHによって吸着させると、すべての試験群で抗ClpB IgGおよびIgMの検出可能なレベルの有意な減少をもたらした(図4cおよびd)。さらにα−MSH交差反応性抗ClpB IgGの相対的なレベルは、ED患者の3つすべての群、特にBSおよびBED対健康な対照で増加した(図4e)。α−MSH交差反応性抗ClpB IgMのレベルの増加は、BNと比較してANで見出された(図4f)。EDに対する抗ClpB IgGおよびIgMの関連性をさらに決定するために、これらの血漿中レベルが、ED患者の行動特徴およびEDI−2により測定した対照と相関し得るか否を試験した。対照では、ClpB IgGは、数個の心理学的な特徴の正常な範囲と反比例するが、AN患者では、ClpB IgGのレベルは、身体の不満および痩せ願望などの中心となる精神病理学的特徴と正に相関することが見出された(表1)。さらに、ANおよびBED患者では、EDI−2のサブスケールスコアがClpB IgMと正反対に相関し、ANでは陰性であったが、BEDでは陽性であった(表1)。しかしながら、BED患者では、ClpB IgMが、年齢と負に相関し、抗ClpB IgMの最高レベルが、疾患の急性型に関連することが示唆された。明らかに、AN患者において、ClpB IgGまたはIgMと、痩せ願望または対人不信との間に見出された相関は、それぞれ、同じ心理学的な特徴と、これまでの試験でのAN患者の異なる群で見出されたα−MSH反応性IgGまたはIgMとの相関と厳密に類似であった。
【表2】
【0263】
細菌ClpBタンパク質の血漿中濃度
ClpBタンパク質は、10pM〜180pMの範囲で、すべての試験対象の血漿試料で検出され、健康な対照では、平均レベルが約30pMであった。ClpBの平均血漿中レベルは、AN、BN、およびBEDを含む摂食障害の患者のすべての群で有意に増加した(図5参照)。2標準偏差に等しいまたは2標準偏差を超える、診断上関連する濃度変化の一般的な基準を当てはめることにより、ANの21.7%、BNの32%、およびBEDの25%の患者が、血漿中ClpBのレベルの増加を示した。
【0264】
結論
これら結果は、ClpB発現腸内細菌とClpBタンパク質およびα−MSHと交差反応性の抗ClpB抗体の産生を介した動機づけ行動および感情の調節との間の分子的な関連を明らかにする。これらの結果は、腸内細菌叢の特異的変化が、ED患者で観察される行動および感情の異常をもたらし得ることを示している。ED患者においてClpBタンパク質およびα−MSHと交差反応性の抗ClpB IgGのレベルが増加したこと、ならびに患者の精神病理学的な特徴と抗ClpB抗体が相関するという知見は、ClpB抗体の産生の増加、ならびに異常な摂食行動および感情の確立におけるClpB発現微生物の関与を裏付けるものである。
【0265】
結論として、これら結果は、ClpBを、ED患者における精神病理学的特徴と関連するα−MSHと交差反応性の自己抗体起源の原因であるタンパク質と同定し、よって、Clp発現微生物をEDの診断および治療のための新規の特異的な標的として同定するものである。
図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]