【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。以下の各表における浸漬液組成の「%」は「質量%」を示す。
以下のいずれの実施例・比較例の浸漬状態においても、浸漬液は魚介類の表面全体と接触する状態で行った。
浸漬液のpHは、浸漬処理前にpH METER D-21(メーカー:堀場アドバンステクノ)を用いて20℃にて測定した。参考例1として、一般的な炭酸塩含有アルカリ製剤を用いた。また、貝殻焼成カルシウムとしては、ホタテ貝の焼成物(酸化カルシウム含量91質量%以上)を用いた。骨焼成カルシウムとしては魚骨(魚骨中の鱈骨の割合が97質量%以上)の焼成物(リン酸三カルシウム含量95質量%以上)を用いた。
【0040】
(ボイルエビ評価1)
(実施例1〜8、比較例1〜8、参考例1)
下記の表1又は表2に記載する組成の浸漬液を調製した。
エビとして解凍した未加熱のバナメイエビを用い、頭部、外殻、肢部及び尾を除去し、真水で洗浄した。洗浄後のエビを、エビの1.1倍重量である、上記で調製した浸漬液(水温5℃)に3時間浸漬させた。真水で洗浄後、芯温−18℃で凍結し、冷凍保管した。
冷凍したエビを冷水中で解凍させた後、95℃以上の水槽中で2分間加熱し、室温で3分以上放冷した。表面の水気を切ったエビを喫食し、下記方法にて繊維感の強さ及びプリッとした食感の有無を評価した。また、下記方法にて歩留を評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0041】
<歩留>
歩留については、エビに対して十分な水切りを実施した後、その重量を測定し、以下に示す式より浸漬歩留、加熱歩留、総歩留を算出し、エビの浸漬処理効果を評価した。
【0042】
浸漬歩留(%)=100×浸漬後重量(g)/浸漬前重量(g)
加熱歩留(%)=100×加熱後重量(g)/浸漬後、加熱前の解凍したエビの重量(g)
総歩留(%)=100×加熱後重量(g)/浸漬前重量(g)
なお歩留評価として、総歩留が85%以上を〇、75%以上85%未満を△、75%未満を×として評価した。
【0043】
<食感>
食感は、健常な成人3人の被験者(男性2名、女性1名、平均年齢44.7歳)が以下の基準で喫食し、下記基準で評価させた。得られた評価点の平均点について4.0点超を◎、3.5点超〜4.0点以下を〇、3.0点超〜3.5点以下を△、3.0点以下を×として評価した。
5点:参考例1に比べて繊維感がなく、プリッとした食感。
4点:参考例1に比べて同程度の繊維感と、プリッとした食感。
3点:参考例1に比べてやや硬く繊維感が残り、プリッとした食感に乏しいが、エビ身中の保水は感じられる。
2点:参考例1に比べて硬く繊維感は残るが、エビ身中の保水がやや感じられる。
1点:参考例1に比べて硬く繊維感の強い食感で、保水が感じられない。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
<結果>
表1及び表2に示す通り、ボイルエビでは加熱歩留が低くなりやすく、これにより硬い食感となりやすいため、浸漬処理を施すことでより柔らかな食感となることが求められる。
表1に示す通り、各実施例では浸漬歩留、加熱歩留、総歩留が参考例1と同等程度であり、参考例1と同等に繊維感が抑制されており、またプリッとした食感も得られた。一方表1及び表2に示す通り、各比較例では浸漬歩留、加熱歩留、総歩留が参考例1から大きく劣り、参考例1に比べて繊維感が残っており、またプリッとした食感は得られなかった。
上記結果から、炭酸塩を有する浸漬剤と同等の歩留及び食感を得るために、貝殻焼成カルシウム、骨焼成カルシウム及び塩化カリウムの配合が有効であることが示された。
【0047】
(ボイルエビ評価2)
上記表1、表2における実施例2、比較例5及び参考例1の浸漬液について、(ボイルエビ評価1)と同様の方法にてエビの浸漬及び加熱を行った。ボイル後のエビを健常な成人10人の被験者(男性6名、女性4名、平均年齢40.9歳)に喫食させ、以下の基準で食感及び食味を評価させた。
10名の評価点の平均値について「プリッとした食感」「軟質性」「呈味性」について、4.0点超をA、3.5点超〜4.0点以下をB、3.0点超〜3.5点以下をC、3.0点以下をDとして評価した。結果を表3に示す。
【0048】
(プリッとした食感評価基準)
5点:参考例1よりもプリッとした食感が良好である。
4点:参考例1と同等のプリッとした食感を感じる。
3点:参考例1よりもプリッとした食感が弱と感じる。
2点:参考例1よりもプリッとした食感が明らかに弱い。
1点:プリッとした食感がない。
(軟質性評価基準)
5点:参考例1よりも非常に柔らかいと感じる。
4点:参考例1と同等の柔らかさを感じる。
3点:参考例1よりやや劣るが柔らかく感じる。
2点:参考例1よりは硬いが、食用に問題はないと感じる。
1点:参考例1よりも硬く、食用に問題がある。
(呈味性の評価基準)
5点:異味を感じず、非常に良好であると感じる。
4点:異味を感じず、良好であると感じる。
3点:異味を感じず、やや良好であると感じる。
2点:若干の異味を感じ、美味しさを感じない。
1点:異味を感じ、不味く感じる。
【0049】
【表3】
【0050】
<結果>
表3に示す通り、実施例2はプリッとした食感、柔らかさ及び呈味性の各評価項目において参考例1と同等以上の評価が得られた。これに比べて、比較例5は、プリッとした食感に劣るものであった。
【0051】
(油調エビ評価)
(実施例9〜13、比較例9、10、参考例2)
下記の表4に記載の組成の浸漬液を調製した。
エビとして未加熱のバナメイエビを用い、一晩冷蔵庫に入れて解凍した後、頭部、外殻、肢部及び背腸を除去し、真水で洗浄し、伸ばし工程をした。エビを、エビと同重量の浸漬液(水温5℃)に1時間浸漬させた。真水で洗浄、水切り後、芯温−18℃で凍結し、冷凍保管した。伸ばし工程はエビの第1腹節から第4腹節までの各腹節に一か所ずつ、エビの長手方向と略直交する切れ目を入れ、背側から押圧することにより行った。
冷凍したエビを冷水中で解凍させた後、打ち粉(加工澱粉が80質量%以上)、バッター液(加工澱粉及び小麦粉の合計割合が80質量%以上であるバッター粉と、水とを質量比1:3で混合したもの)、パン粉をこの順で付け後、−40℃の冷凍庫に入れて急速凍結した。冷凍状態のまま170℃で3分間油調した後、10分間立てて油切りした。得られたエビを喫食し、エビの繊維感の強さ及び歯ごたえを評価した。また、下記方法にて歩留を評価した。結果を表4に示す。
【0052】
<歩留>
歩留については、浸漬前重量及び浸漬後重量は十分な水切りをしたエビの重量を測定した。加熱後重量は加熱後のエビに対して10分間の油切りを実施した後、衣を含むエビの重量を測定した。加熱前重量としては、衣付着後、加熱前の冷凍状態における、衣を含むエビの重量を測定した。これらを用い、以下に示す式より浸漬歩留、加熱歩留、総歩留を算出し、エビの浸漬処理効果を評価した。なお、衣率は、(加熱前重量−浸漬後重量)/加熱前重量×100(%)である。
浸漬歩留(%)=100×浸漬後重量(g)/浸漬前重量(g)
加熱歩留(%)=100×加熱後重量(g)/加熱前重量(g)
総歩留(%)=100×加熱後重量(g)/浸漬前重量(g)
また、総歩留が285%未満が×、285%以上295%未満が△、295%以上が〇として評価した。
【0053】
健常な成人4人の被験者(男性3名、女性1名、平均年齢40.3歳)が以下の基準で喫食し、平均点を表に記載した。
(エビの繊維感)
5点:参考例2に比べてとてもエビの繊維感が強い。
4点:参考例2に比べてエビの繊維感が強い。
3点:参考例2とエビの繊維感が同程度である。
2点:参考例2に比べて、エビの繊維感が少ない。
1点:参考例2に比べてエビの繊維感が大幅に少ない。
(歯ごたえ)
5点:参考例2に比べて歯ごたえがとてもある。
4点:参考例2に比べて歯ごたえがある。
3点:参考例2と歯ごたえが同程度である。
2点:参考例2に比べて歯ごたえが少ない。
1点:参考例2に比べて歯ごたえが非常に少ない。
【0054】
【表4】
【0055】
表4に示す通り、油調エビでは加熱歩留が比較的高く、これにより柔らかな食感となりやすいため、浸漬処理を施すことでより適度な硬さを有する食感となることが求められる。
表4に示す通り、油調の場合には、貝殻焼成カルシウム、骨焼成カルシウム、塩化カルシウムを組み合わせた浸漬液を用いた各実施例では、炭酸塩含有浸漬液である参考例2と同等の適度なエビの繊維感及び歯ごたえのある食感を得つつ、参考例2に比して高い歩留を得た。なお骨焼成カルシウムを用いない比較例9は食感改善効果に劣る結果となった。
【0056】
(実施例14〜18)
下記表5に記載した組成の浸漬液及び表4の参考例2の組成の浸漬液を用いて実施例9と同様に加熱エビを得、各工程における歩留及び加熱したエビの食感を評価した。なお官能評価は、健常な成人4人の被験者(男性3名、女性1名、平均年齢43.3歳)にて上記実施例9と同様の方法にて行った。結果を表5に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
表5より、表4から焼成カルシウムや塩化カリウムの量比等の組成を変更した場合も、油調するエビを本発明の浸漬剤により前処理した場合、従来の炭酸塩浸漬剤と同等以上の歩留と、適度な繊維感等といった食感が得られることが判る。
【0059】
(参考例3、実施例19及び20)
表6に記載の浸漬液を調製した。
サバとして、三枚おろしされ未加熱状態で冷凍されたサバの切り身を用いた。サバを解凍した後、真水で洗浄後、水切りした。サバの1重量倍の浸漬液(水温5℃)に3時間浸漬させた。真水で洗浄、水切り後、スチ―ムコンベクション(ホットエアー)で7分間、300℃で加熱した。その間、芯温80℃以上であった。得られた加熱サバについて、以下の基準で食感を評価した。また、下記方法にて歩留を評価した。結果を表6に示す。
【0060】
(食感評価)
〇:参考例3と同程度の柔らかい食感を持っている。
△:参考例3と比べ、やや劣るが柔らかい食感を持っている。
×:参考例3と比べ、明らかに硬く柔らかい食感を持っていない。
【0061】
【表6】
【0062】
(参考例4,5、実施例21)
表7に記載の浸漬液を調製した。
イカとして未加熱状態で冷蔵されたスルメイカを用いた。イカについて、耳、足及び内臓を除去した胴を縦に半分に切って更に短冊状に切った後、真水で洗浄した。洗浄後のイカを、イカと同重量の浸漬液(水温5℃)に3時間浸漬させた。浸漬状態において、浸漬液はイカの表面全体と接触する状態であった。真水で洗浄、水切り後、90℃以上の沸騰水で2分間ボイルした後、水切りした。得られた加熱イカについて、以下の基準で食感を評価した。また、下記方法にて歩留を評価した。結果を表7に示す。
【0063】
(食感評価)
〇:参考例4と同程度の柔らかい食感と歯切れの良さを持っている。
△:参考例4と比べ、やや劣るが柔らかい食感と歯切れの良さを持っている。
×:参考例4と比べ、硬く柔らかい食感を持っておらず、歯切れも悪い。
【0064】
歩留については、イカに対して十分な水切りをした後、その重量を測定し、以下に示す式より浸漬歩留、加熱歩留、総歩留を算出し、イカの浸漬処理効果を評価した。
浸漬歩留(%)=100×浸漬後重量(g)/浸漬前重量(g)
加熱歩留(%)=100×加熱後重量(g)/加熱前重量(g)
総歩留(%)=100×加熱後重量(g)/浸漬前重量(g)
【0065】
【表7】
【0066】
(参考例6,7、実施例22)
表8に記載の浸漬液を調製した。
ホタテとして無加熱で冷凍されたホタテガイ貝柱を用いた。ホタテガイを解凍した後、真水で洗浄した。洗浄後のホタテを、6/10重量倍の浸漬液(水温5℃)に3時間浸漬させた。浸漬状態において、浸漬液はホタテの表面全体と接触する状態であった。真水で洗浄、水切り後、芯温−18℃で凍結し、真空パックして、冷凍保管した。冷凍したホタテを真空パックのまま流水にあて解凍させた後、スチームコンベクション(コンビ水蒸気)で5分間、100℃で加熱した。得られたホタテについて、以下の基準で食感を評価した。また、下記方法にて歩留を評価した。結果を表8に示す。なお、参考例6及び7の食感は同等であった。
【0067】
(食感評価)
〇:参考例6および参考例7と同程度の柔らかい食感を持っている。
△:参考例6および参考例7と比べ、やや劣るが柔らかい食感と歯切れの 良さを持っている。
×:参考例6および参考例7と比べ、明らかに硬く柔らかい食感を持っていない。
【0068】
歩留については、浸漬後のホタテに対して十分な水切りをし、加熱後のホタテに対して水気を切り、5分放冷を実施した後、その重量を測定し、以下に示す式より浸漬歩留、加熱歩留、総歩留を算出し、ホタテの浸漬処理効果を評価した。
浸漬歩留(%)=100×浸漬後重量(g)/浸漬前重量(g)
加熱歩留(%)=100×加熱後重量(g)/加熱前重量(g)
総歩留(%)=100×加熱後重量(g)/浸漬前重量(g)
【0069】
【表8】
【0070】
(参考例8、実施例23、24)
浸漬液組成を表9に変更したほかは表6の実施例と同様の手順でサバの浸漬、加熱を行い、歩留を測定した。また得られた加熱サバを以下の基準で評価した。結果を表9に示す。表6と表9とも合わせ、サバは、総歩留が高くなるほど、とろみのある食感となった。
【0071】
(食感評価)
◎:参考例8よりも柔らかく、ほぐれやすい。
〇:参考例8と同程度の柔らかさとほぐれやすさ。
△:参考例8よりもやや硬くややほぐれにくい。
×:参考例8よりも硬くほぐれにくい。
【0072】
【表9】
【0073】
(参考例9、実施例25〜27)
浸漬液組成を表10に変更したほかは表7の実施例と同様の手順でイカの浸漬、加熱を行い、歩留を測定した。結果を表10に示す。また加熱したイカを健常な成人4人の被験者(男性3名、女性1名、平均年齢42.5歳)に喫食させ、参考例9を基準とした柔らかさ、歯切れについて、以下の基準で評価させた評価点の平均点を合せて表10に示す。
【0074】
(柔らかさ評価基準)
5点 参考例9よりも柔らかい。
4点 参考例9よりもやや柔らかい。
3点 参考例9と同程度
2点 参考例9よりもやや硬い。
1点 参考例9よりも硬い。
(歯切れ評価基準)
5点 参考例9よりも歯切れがよい。
4点 参考例9よりもやや歯切れがよい。
3点 参考例9と同程度
2点 参考例9よりもやや歯切れが悪い。
1点 参考例9よりも歯切れが悪い。
【0075】
【表10】
【0076】
(参考例10、実施例28、29)
浸漬液組成を表11の記載のものに変更したほかは表8の実施例と同様の手順でホタテの浸漬、加熱を行い、歩留を測定した。結果を表11に示す。また加熱したホタテを健常な成人4人の被験者(男性4名、女性1名、平均年齢42.0歳)に喫食させ、参考例10を基準とした柔らかさ、ほぐれやすさについて、下記の基準で評価させた評価点の平均点を合せて表11に示す。
【0077】
(柔らかさ評価基準)
5点 参考例10よりも柔らかい。
4点 参考例10よりもやや柔らかい。
3点 参考例10と同程度
2点 参考例10よりもやや硬い。
1点 参考例10よりも硬い。
(ほぐれやすさ評価基準)
5点 参考例10よりもほぐれやすい。
4点 参考例10よりもややほぐれやすい。
3点 参考例10と同程度
2点 参考例10よりもややほぐれにくい。
1点 参考例10よりもほぐれにくい。
【0078】
【表11】
【0079】
表7〜11から判る通り、サバ等の魚類や、イカ、ホタテ等、エビ以外の魚介類についても、本発明の浸漬剤により、炭酸塩浸漬剤と同等又はそれ以上の歩留及び食感を得ることができる。