【文献】
小林 大祐 外6名,“動脈グラフの閉路の真偽判定法”,電子情報通信学会論文誌,日本,社団法人電子情報通信学会,2009年 9月 1日,第J92−D巻 第9号,pp.1643−1652
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みて成されたもので、その目的は、医療現場での迅速な判断と治療に十分に供しうる処理時間及び精度を実現可能な血流解析装置、その解析方法及びそのコンピュータソフトウェアプログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の主要な観点によれば、コンピュータが患者の医用画像を受け取る入力部と、コンピュータが前記医用画像を解析し、関心血管領域を抽出する関心血管領域抽出部と、コンピュータが前記関心領域から入口血管とこの入口血管から分岐する分岐血管とを抽出すると共に、抽出した入口血管及び分岐血管のうち病変部のある入口血管/分岐血管を特定する関心血管領域解析部と、コンピュータが入口血管の血管径及び前記病変部に至るまで順次分岐する各分岐血管の血管径に基づいて、入口血管の流量及び病変部を含む分岐血管の血流量を求める境界条件計算部と、コンピュータが前記病変部を含む入口血管/分岐血管を関心領域の出口血管と設定し、数値流体解析により前記前記病変部を含む入口血管/分岐血管内の圧力場、速度場を含む血流属性を求める血流計算部と、コンピュータが前記血流属性に基づき、前記病変部を含む入口血管/分岐血管に関する前記血流特性を所定の指標として算出する血流指標算出部と、コンピュータが前記血流指標を出力表示する表示部とを有することを特徴とする血流解析装置が提供される。
【0009】
この発明の一の実施態様によれば、前記境界条件計算部は、次式:
Q=Ad
3
(ここでQは流量、Aは定数、dは血管径)
に基づいて関心血管部位の入口及び出口の血流量を求めるものである。
【0010】
この場合、前記定数Aは、コンピュータが前記患者の属性に基づいて決定するものであることが望ましい。
【0011】
前記定数AはA=τ*π/32μ
(τは適正壁面せん断応力、μは血液粘度)
で定義されるものとしてもよい。
【0012】
また前記τは、前記コンピュータが、患者の年齢、性別、高脂血漿の程度、動脈効果の程度、薬剤投与の有無、又は/及び心筋梗塞の程度により決定するものであることが好ましい。
【0013】
別の一実施態様によれば、前記関心血管抽出部は、前記医療画像を解析し、石灰化部、癒着部を含む病変部の有無を判別し、存在する場合には、病変部を除去して関心血管部位のみを抽出するものである。
【0014】
前記関心血管抽出部は、前記病変部を高輝度孤立信号に基づいて除去するのが好ましい。
【0015】
また、前記関心血管解析部は、前記画像をグラフ化処理し、その中心線上で走査しつつ短軸断面上での輝度の変化を検出することにより前記病変部位の抽出を行うのが好ましい。
【0016】
この発明のさらに別の一実施態様によれば、前記関心血管抽出部は、コンピュータが前記画像における血管を、基点及び複数の端点または分岐点と、それらを結ぶ細線からなる線分とから構成されるグラフに変換処理し、前記基点から前記複数の端点または分岐点の全てを通過して再び前記基点に至る経路上で、往路と帰路とが異なる線分を通過したときに、閉路が生じていると認識して、グラフから閉路を除去する処理を行うものである。
【0017】
さらに別の一実施態様によれば、前記関心血管部位は、冠動脈である。
【0018】
この発明の第2の主要な観点によれば、コンピュータが患者の医用画像を受け取る入力工程と、コンピュータが前記医用画像を解析し、関心血管領域を抽出する関心血管領域抽出工程と、コンピュータが前記関心領域から入口血管とこの入口血管から分岐する分岐血管とを抽出すると共に、抽出した入口血管及び分岐血管のうち病変部のある入口血管/分岐血管を特定する関心血管領域解析工程と、コンピュータが入口血管の血管径及び前記病変部に至るまで順次分岐する各分岐血管の血管径に基づいて、入口血管の流量及び病変部を含む分岐血管の血流量を求める境界条件計算工程と、コンピュータが前記病変部を含む入口血管/分岐血管を関心領域の出口血管と設定し、数値流体解析により前記前記病変部を含む入口血管/分岐血管内の圧力場、速度場を含む血流属性を求める血流計算工程と、コンピュータが前記血流属性に基づき、前記病変部を含む入口血管/分岐血管に関する前記血流特性を所定の指標として算出する血流指標算出部と、コンピュータが前記血流指標を出力表示する表示工程とを有することを特徴とする血流解析方法が提供される。
【0019】
この発明の第3の主要な観点によれば、コンピュータソフトウェアプログラムにおいて、以下の工程:コンピュータが患者の医用画像を受け取る入力工程と、コンピュータが前記医用画像を解析し、関心血管領域を抽出する関心血管領域抽出工程と、コンピュータが前記関心領域から入口血管とこの入口血管から分岐する分岐血管とを抽出すると共に、抽出した入口血管及び分岐血管のうち病変部のある入口血管/分岐血管を特定する関心血管領域解析工程と、コンピュータが入口血管の血管径及び前記病変部に至るまで順次分岐する各分岐血管の血管径に基づいて、入口血管の流量及び病変部を含む分岐血管の血流量を求める境界条件計算工程と、コンピュータが前記病変部を含む入口血管/分岐血管を関心領域の出口血管と設定し、数値流体解析により前記前記病変部を含む入口血管/分岐血管内の圧力場、速度場を含む血流属性を求める血流計算工程と、コンピュータが前記血流属性に基づき、前記病変部を含む入口血管/分岐血管に関する前記血流特性を所定の指標として算出する血流指標算出部と、コンピュータが前記血流指標を出力表示する表示工程と、を実行させる命令を含むことを特徴とするコンピュータソフトウェアプログラムが提供される。
【0020】
なお、この発明の上記述べた以外の他の特徴については、次に説明する「発明を実施するための形態」及び図面を参照することにより当業者にとって容易に理解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0023】
まず、本発明の基礎となる概念について説明する。
【0024】
一般に、シミュレーションによるFFR(Fractional Flow Reserve)で結果を得るには、(1)血管形状、(2)血液物性、(3)境界条件、そして(4)計算条件を入力し、数値流体解析(Computational Fluid Dynamics、CFD)を実施する。
【0025】
ここで、CFDの計算時間は、解析を行うために必要とされる離散化に用いる格子数(メッシュ数)と計算条件とに大きく依存する。このうち格子数(メッシュ数)は解析の対象とする領域を限定することで減少させることができる。
【0026】
そこで、まず、この実施形態では、解析対象である関心血管領域を冠動脈にのみに限定し、この冠動脈のみを抽出して解析対象とする。そして、その際、抽出した冠動脈で数値流体解析のための境界条件を定義する必要があるが、この計算条件においては、拍動流は考慮しない。これは前記したカテーテルと圧力センサを用いたFFRによる場合でも経時間的変動を考慮しなかったことからも可能である。したがってこの実施形態では、計算条件は時間に依存しない条件下、すなわち定常流で計算を行う。
【0027】
さらに、この実施形態では、数値流体解析を行うために用いる影響因子として、血管径を支配的な影響因子として用いて計算を簡略化する。例えばFFR値の定義は下記の式(1)である。ここでP1、P2はそれぞれ狭窄上流圧力、狭窄下流圧力である。圧力の比は流体の輸送においては本質的ではないのでこれを圧力差ΔPを用いて変換している。
【数1】
【0028】
流体力学では、流体の輸送に関して一般に下記の式(2)(ハーゲン・ポアズイユの式)が成立する。ここでμは粘度、lは輸送管(円管)の長さ、Dはその直径、そしてQは流量である。
【数2】
【0029】
上記式より、FFR値の特性について分析すると、影響因子としてD(輸送管の直径)、即ち血管径が支配的である。また影響因子の低い要素に関しては高度な解析を行ったとしても結果に対する影響は少なく、かえって計算時間を増大させる要因となる。そこで本実施の態様では、血管径を最大の影響因子として捉えて、影響は少ないにも関わらず計算負荷を増大させる主要因となるその他の計算条件について簡素化を図るか、全く考慮しないこととする。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態における血流解析装置100のシステム構成図を示すものである。この血流解析装置100は、制御部1、操作部2、記録部3、及び表示部4等を有する。制御部1はCPUとメモリ(いずれも図示せず)を有し、記録部3に記録されているコンピュータ・ソフトウエアや各種の変数(後述する至適せん断応力値などを含む)を適宜読出しメモリ上に展開することにより、
図2に示すような各部として機能する。即ち、入力部11、関心血管抽出部12、関心血管解析部13、境界条件計算部14、血流計算部15、指標計算部16及び指標表示部17として機能する。各部の機能についてそれぞれの受け持つ工程とともに以下に述べる。
【0031】
(入力部)
入力部11は医用画像等を入力する入力インターフェースとして機能する。入力される医用画像は、MRA(磁気共鳴血管造影)、CTA(コンピュータ断層血管造影)、DSA(デジタル差分血管造影)等の撮像装置で撮像されたものが望ましく、医用画像は、図示しないネットワークやその他の転送手段により一旦記録部3に記録された後、制御部1に入力される。
【0032】
また、入力部11では画像(医用画像)の他、流体物性、境界条件、計算条件等の流体解析に必要なパラメータ等の入力処理をすることもできるようになっている。
【0033】
ここで流体物性は、この実施形態においては血液の密度と粘度である。また境界条件は、一般的には、各管路の端面における流速・圧力分布、および、壁面における拘束条件である。但しこの実施形態では、管路の入口や出口における流速分布、壁面での流体の滑りを無視する(ノンスリップ条件)ことで速度をゼロと設定する。また、計算条件は、与えられた流路形状に対しての計算格子生成を含み、方程式解法に関する方程式離散化、連立方程式解法である。
【0034】
(関心血管抽出部)
次に、関心血管抽出部12は、前記入力11で入力された医用画像を解析して病変部を含む関心血管領域を自動抽出するものである。より具体的には、
図3に示すように、(1)心臓領域抽出、(2)冠動脈領域抽出を行ったあと、(3)抽出した領域に病変部及び石灰化や癒着等が無いか解析して検出し、もし石灰化や癒着があった場合には病変領域分割・除去等の処理を行った上で狭窄等の病変部を特定する。
【0035】
まず、心臓領域とさらには冠動脈の自動抽出についてであるが、これは入力された医用画像を処理して、向きの判別、心臓領域の判別そして冠動脈領域の抽出までを自動的に行うものである。即ち、閾値法や勾配法ならびに領域拡張法等により抽出した三次元構造物に対して、そこから、心臓領域と、さらには冠動脈領域を自動的に抽出して三次元血管形状(3次元形状データ)を構築する。
【0036】
ただし、仮に、抽出した血管両領域に石灰化等の病変がある場合には、関心血管領域を正確に抽出できない。したがって、この実施形態では、関心血管解析部13が、病変領域分割・除去処理として、石灰化部をモデルから除去する。石灰化部は二段階抽出により領域分割する。最初の段階では、前述の石灰化部の空間輝度特性に基づいて当該石灰化部の粗抽出を行い、高輝度の孤立した信号を石灰化と判定して抽出処理を行う。
【0037】
以下、関心血管解析部13の動作を具体的に説明する。
(関心血管解析部)
関心血管解析部13は、前記最初の段階での出力に対して、
図4に示すように、(1)細線化、(2)グラフ化、(3)構造解析を行う。これにより、血管領域分割、及び病変領域分割を行う。本実施形態では、病変部領域分割とは石灰化部の精密分割及び除去である。関心血管解析部13では石灰化輝度特性を考慮して石灰化除去の処理を行う。より具体的には、グラフ化処理した各中心線上で血管中心線を走査していき短軸断面上での輝度値の変化をトラッキングする。石灰化がある場合には、サブトラクション(減算処理)することで石灰化部を除去する。そうした部位では信号値が血管外に向けて増大するので、この増大する箇所の変曲点を石灰化境界面として除去処理する。
【0038】
一方、上記工程において「癒着」が確認された場合は、関心血管解析部13において以下の様な処理がなされる。ここでいう「癒着」とは、
図5(a)(b)に示すように、近接して走行している二本の血管が、本来は癒着していないにも関わらず、抽出処理において分離されずに一体となって再現・抽出される現象である。
【0039】
こうした癒着部位の検出は、血管形状の細線化・グラフ化で生成したグラフに対して深さ優先探索を実行することにより行う。すなわち、抽出血管の3次元形状モデルを解析することによって端点と分岐点を検出しそれらの接続関係を調べる。
【0040】
例えば、
図6(a)に示す血管形状をもとに抽出処理された
図6(b)に示すゲラフでは血管の分岐構造が表現されている。この図上で、円で示したものは節点であり、端点または分岐点を示す。癒着が生じると、このグラフに閉路(ループ)として表れるようになっており、この閉路をグラフの深さ擾先探索を行うことで検出する。これは初期節点(出発点)からすべての節点を通るように辺をたどっていく操作である。たどり方の規則は以下の通りである。
(1)分岐点に来たときには、それまでに通過していない辺を選び、次の節点に進む。
(2)端点に来たときには、手前の分岐点に戻る。
(3)分岐点に戻ったときに、それまでに通過していない辺がなければ、それより手前の分岐点にさらに戻る。
【0041】
図6(c)において、各節点の番号は分岐深さ優先探索の通過順序を表す。また、実線矢印は往路、点線矢印は復路を示す。この
図6(c)に示す例では5番と6番の間に閉路が生じている。深さ優先探索を行うと、5番の節点から6番、7番、8番と進み6番に戻ってくる。ここで、往路は5番と6番との間において下側の辺を通ってきたので、上側の辺はまだ通過していない。ところが上の辺を選ぶとすでに通過済みの5番に着く。閉路がなければ通過済みの節点に戻るのは復路だけであるが、閉路が存在する場合は往路で通過済みの節点に到達することがわかる。従って、関心血管解析部13は、節点と辺の通過状況を記録しておくことによって閉路を検出し、開路と判定された時点、の節点(
図6(c)に示す例では6番)を癒着部位とみなすことができる。
【0042】
関心血管解析部13では、癒着部位を検出すると、次に当該癒着部位の分離を行う。癒着部位に接続されている血管の走行方向と形状に基づいて癒着部位を分離する。分離の処理を行う前提として、血管の領域と中心線が抽出されており、血管の走行方向および断面積が既知であるとする。
分離処理の流れは以下の通りである。
(1)血管の断面積の変化から癒着区間を求める。
(2)癒着区間の前後の血管の中心線を用いて、癒着区間の中心線を推定する。(3)癒着区間の血管断面においてこの接する楕円を血管表面の輪郭に当てはめることによって各血管の形状を推定する。
(4)癒着区間断面を二つに分割する。
【0043】
まず、癒着区間とその前後における血管の断面積を計測する。癒着している部分は二本の血管が一体となっているため、血管の走行に沿って断面積をプロットしていくと
図7(a)中の下方に示したグラフのように、癒着区間についてのみ断面積が増大する。この変化を検出して、癒着区間を決定する。
【0044】
次に血管の中心線に着目すると、元々は二本別々に存在した中心線が内側へとずれていき、ついには接して分岐点を形成する。
図7(a)上図の一点鎖線で示したものがそれに相当する。しかし、本来は二本の血管であるから、各々の中心線は、
図7(a)の点線で示したように、互いに交わることの無い二本の曲線になっているはずである。そこで、癒着区間の本来の中心線をその前後の中心線から補間することによって推定する。その次に、推定された中心線を用いて、癒着区間の断面上で各血管の輪郭を推定する。
図7(b)は癒着区間の断面を示している。二つの点71は推定された中心線を示す。血管の断面は楕円と仮定して、二つの楕円72の中心が既知であり、接しているという条件の下で癒着区間の血管の輪郭73に二つの楕円を当てはめる。
図7(b)における点線が当てはめた二つの楕円を示す。最後に、癒着区間の内部を二つの血管の控の比に応じて二つの領域に分割し、分離処理を完了する。
【0045】
(境界条件計算部)
境界条件計算部14における工程では、前述の工程で出力された関心血管領域(この実施形態では冠動脈)の入口血管及びそれから分岐する各分岐血管を出口血管として設定して、分岐する深度が深くなる毎に血管端面での境界条件を計算する。
【0046】
この境界条件の計算は、上記抽出した関心血管領域の入口血管及び出口血管における血管径を、別途実験研究から定量化された至適せん断応力ダイアグラムに適用することで行う。
【0047】
ここで、この実施形態のシミュレーションFFRでは経時間的変動を考慮しないことから、どの時相の血管形状から血管径を求めるかはが重要である。すなわち、収縮期か拡張期かである。冠動脈流量は拡張期にピークを取ることが知られており、その時点での血管径は最大となる。また、拡張期の撮像画像は質的に良好であることが多いため、拡張期画像はCFDにおける処理に適している。
【0048】
この際、本実施形態では血管径に対して一律にスケールファクタを導入する。スケールファクタは拡張期における最大拡張径から時間平均径を抽出するためのものである。スケールファクタは、統計値を用いても実測値を用いてもよい。
【0049】
例えば、仮に血管の平均径を基準として1.2倍の血管拡張が拡張期に認められた場合、平均径が描画されるように入力された医用画像を補正する。上述した細線化及びグラフ処理によりすでに各血管についての血管径に相当の指標が得られている。以上の様に、この実施形態ではその血管径についての指標にスケールファクタを乗算することで、血管系のスケールが調整された医用画像から生成したモデルを用いる。
【0050】
至適せん断応力ダイアグラムは、年齢、性別、高脂血漿の程度、動脈効果の程度、薬剤投与の有無、心筋梗塞の程度等を変数とした場合の各冠動脈分枝で計算される至適せん断応力を統計平均したものである。この至適せん断応力の値は上記の患者の年齢等の諸条件から適宜呼び出せる様に、記録部3に蓄積しておくことができる。
【0051】
流量の算出には下記の式(3)を用いる。ここでτは上述の至適せん断応力であり、μは血液粘度、dは血管の直径である。
【数3】
【0052】
なお、ここで、τπ/32μの部分は定数(例えばA)を用いても良い。
【0053】
上記より、関心領域に含まれる各血管の流量Qはその径から求めることができる。そして、この実施形態では以下に詳しく説明するようにして関心領域の入口から分岐の深度に応じて演算して行く。
【0054】
図8(a)は、関心領域に含まれる血管群(血管1〜15)を、左手が関心領域の入口、右手が出口方向となるように模式的に示したものである。この場合、まず、最も左手にある1つの血管1を入口血管とし、その平均直径を入口血管径d(1)として求め、その3乗に比例する値として上式(数3)より入口血管の流量Q(1)を求める。なお、
図8(a)に示すように、この入口血管1の図に星印で示す位置に病変部(例えば狭窄等)があり、この病変部の血流特性を分析したい場合には、この入口血管1の流量Q(1)のみを考慮し、すなわち、下流の各分岐血管2〜15の血流特性を考慮せずに、流体解析(FFR等の算出)を行えばよい(この場合、入口血管1は同時に「出口血管」ということになる)。
【0055】
図8(b)、(c)に示すように下流の分岐血管に病変部(狭窄部等)がある場合には、まず、1つ目の分岐点で分岐する2つの分岐血管2、3を解析し、この2つの分岐血管2、3の平均径d(2)、d(3)を元に各分岐血管の流量Q(2)、Q(3)を算出する。この実施形態では、前記入口血管1の流量Q(1)を、各分岐血管2、3の血管径d(2)、d(3)の3乗に比例する割合で各分岐血管2、3に振り分けることで、各分岐血管2、3の血流量Q(2)、Q(3)を算出する。そして、
図8(b)の星印で示す位置に病変部がある場合には、その病変部を含む分岐血管2を出口血管とした数値流体解析を行い、FFR等の血流特性を算出すればよい。
【0056】
病変部がさらに1つ若しくはそれ以上下流の分岐血管にある場合には、分岐深度が1つ上の分岐血管の流量を元に、下流の分岐血管の径の3乗に比例する割合で流量を振り分けることでそれぞれの流量を求め、それらを出口血管の流量として境界条件を設定し流体解析を行えばよい。すなわち、分岐点が複数ある場合には、上記で入口血管の流量を分配して求めた各分岐血管の流量を、さらにその下流にある分岐血管の直径の3乗に比例する比率で各分岐血管に順次振り分けていくことで、それら下流の分岐血管の流量を求めることができ、そして、
図8(c)に示すように特定の下流分岐血管に病変部がある場合には、当該病変部を含む分岐血管の流量を出口流量として設定し流体解析を実行すれば良い。
【0057】
(血流計算部)
血流計算部15は、上記したように、前記で求めた入口血管の流速Qと、分岐レベルに応じた末端の各分岐血管を出口血管としてその流速Qとを用い、それらに基づいて既知の数値流体解析(CFD)を行うことで対象血管内の速度場・圧力場を計算する。ここで、血流計算部15には、血液粘度および計算条件が前記入力部から入力される。血液粘度は実測値を用いてもよいし、予め経験的に得られたブリセット値から選択しでもよい。計算条件は、冠動脈狭窄診断に最適化された計算条件がプリセット値から自動入力される。この実施形態では、前述した通り定常流計算による時間平均計算を行う。
【0058】
(指標計算部)
指標計算部16における工程では、血流計算部15における前工程の結果をもとに病変部(例えば、狭窄)を診断する具体的な各種指標を計算する。具体的には、(1)正力差Δp、(2)圧力比Δpr、(3)速度差Δv、(4)速度比Δvr、(5)せん断応力τs、(6)せん断応力比τr、(7)エネルギー損失Eを算出する。それぞれの定義は以下の式(4)乃至(10)に示すとおりである。
【0066】
ここで、pは圧力、vは速度、μは粘度、τはせん断応力、Qは流量である。尚、速度は進行方向速度である。サブスクリプトであるu、d、s、refは各々upstream(上流)、downstream(下流)、stenosis(狭窄部)、reference(参照部)を意味する。尚、FFRはΔprに相当する。
【0067】
(指標表示部)
最後に、指標表示部17が、指標計算部16で得られた数値などの必要な情報を表示する。なお、
図8は、ここで記載した計算処理において、圧力比Δprについての計測値と計算値とが合致することを示す。ここで各プロットは、複数の患者についての圧力値を示す。
【0068】
以上説明した構成によれば、まず、解析対象として出口血管に病変部を含む分岐血管を含めておけば良いので、関心領域に含まれる全ての分岐血管を全分岐深度に亘って解析する必要はない。すなわち、病変部が分岐深度の浅い分岐血管にあれば、さら分岐深度の深い血管を考慮する必要がないので、演算量が少なくなり計算時間を短くすることができる。
【0069】
また、たとえば、分岐深部の深い血管までたどっていった場合、血管径が小さい分岐血管については画像処理の限界を超えて抽出できない場合が考えられ、その分、分岐深度の深い部分では流量の設定が不正確になることが考えられる。しかし、本発明では、関心血管領域の上流(入口)から下流方向に向かって境界条件を設定しながら計算して行く方式であるので、分岐深度の深い部分の精度は浅い部分の分岐血管の分析結果には全く影響しない。このため、解析精度を低下させることがないという効果がある。
【0070】
その他、本発明は、さまざまに変形可能であることは言うまでもなく、上述した一実施形態に限定されず、発明の要旨を変更しない範囲で種々変形可能である。
【0071】
例えば、上記一実施形態では、境界条件設定部が分岐血管の流量を求めるのに上流の血管の流量を、分岐血管の直径の3乗に比例する割合でそれぞれの分岐血管に振り分けるという処理を行っていたが、これに限定されず、原則どおり分岐血管の直径を式(数3)に適用することで分岐血管の流量を求めるものであっても、結果は同じである。
【0072】
さらに関心血管領域は冠動脈に限定されるものでないし、病変部も狭窄に限定されるものでなくあらゆる病変を含むものである。