【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、先端的低炭素化技術開発(ALCA)、「次世代蓄電池」、「無機固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池の創出」、「硫化物型全固体電池用正極活物質の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Li元素、P元素および S元素を含有し、X線波長 1.5418 オングストロームのCu−Kα線を用いた粉末X線回折測定において、2θ=17.90±0.20、29.0±0.50、29.75±0.25°の位置にピークを有し、前記2θ=17.90±0.20のピークの回折強度をIAとし、2θ=18.50±0.20のピークの回折強度をIBとした場合に、IB/IAの値が0.50未満であること、
複数のPS4四面体を含み、それぞれのPS4四面体はPS4四面体頂上の向きが互い違いになるように並び、且つ、それぞれのPS4四面体は稜を共有せず、且つ、回折測定で定まる格子定数のうち最大の軸長と最小の軸長の比が1.1以下である、結晶構造を有すること、および
25℃におけるイオン伝導度は、9.5×10−4S/cm以上であることを特徴とする硫化物固体電解質材料。
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層とを含有する電池であって、前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記電解質層の少なくとも一つが、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とする電池。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Homma, M. Yonemura, T. Kobayashi, M. Nagao, M. Hirayama, R. Kanno, Solid State Ionics, 182, 53-58 (2011)
【非特許文献2】H. Yamane, M. Shibata, Y. Shimane, T. Junke, Y. Seino, S. Adams, K. Minami, A. Hayashi, M. Tatsumisago, Solid State Ionics, 178, 1163-1167 (2007)
【非特許文献3】R. Mercier, J.P. Malugani, B. Fahys, J. Douglande, G. Robert, J. Solid State Chem., 43, 151-162 (1982)
【非特許文献4】S.T. Kong, O. Gun, B. Koch, H.J. Deiseroth, H. Eckert, C. Reiner, Chemistry - A European Journal, 16, 5138-5147 (2010)
【非特許文献5】K. Homma, M. Yonemura, M. Nagao, M. Hirayama, R. Kanno, J. Phys. Soc. Jpn., 79, 90-93 (2010)
【非特許文献6】N. Kamaya, K. Homma, Y. Yamakawa, M. Hirayama, R. Kanno, M. Yonemura, T. Kamiyama, Y. Kato, S. Hama, K. Kawamoto, A. Mitsui, Nat. Mater., 10, 682-686 (2011)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の硫化物固体電解質材料およびその製造方法、並びにこの電解質材料を含んでなる電池について、詳細に説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
まず、本発明の硫化物固体電解質材料について説明する。
本発明の硫化物固体電解質材料は、Li元素、P元素および S元素を含有し、X線波長 1.5418 オングストロームのCu−Kα線を用いた粉末X線回折測定において、2θ=17.90±0.20、29.0±0.50、29.75±0.25°の位置にピークを有し、前記2θ=17.90±0.20のピークの回折強度をI
Aとし、2θ=18.50±0.20のピークの回折強度をI
Bとした場合に、I
B/I
Aの値が0.50未満であることを特徴とするものである。
【0022】
本発明によれば、上記の特徴的なピークを有する結晶相の割合が高いため、電気化学的安定性およびイオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料とすることができる。そのため、第一実施態様の硫化物固体電解質材料を用いることにより、高出力な電池を得ることができる。
【0023】
図1は、本発明の硫化物固体電解質材料と、従来の硫化物固体電解質材料との違いを説明するX線回折スペクトルである。なお、
図1における硫化物固体電解質材料は、いずれもLi−P−S系の組成を有するものである。
図1における本発明の硫化物固体電解質材料は、2θ=17.90±0.20、29.0±0.50、29.75±0.25°の位置にピークを有する。
【0024】
図1における室温で得られる従来の硫化物固体電解質材料は、本発明の電解質材料とは異なるピークを有する。室温で得られる既報のLi−P−S系電解質とは、具体的に、γ相またはβ相のLi
3PS
4[非特許文献1]、LGPS型構造を持つLi
3.2PS
4 、Li
7P
3S
11 [非特許文献2]、Li
4P
2S
6 [非特許文献3]およびLi
7PS
6[非特許文献4]である。なお、LGPSは超イオン導電体であると報告されている[非特許文献6]。
本発明の電解質材料のピークは、Li
3PS
4のα相(α−Li
3PS
4)のピークと類似することがΧ線回折図形で確認される。このLi
3PS
4のα相(α−Li
3PS
4)は、γ-Li
3PS
4の高温相であり、室温では得られず、475℃以上の温度で熱力学的安定相として存在することが報告されている[非特許文献2]。また、室温で熱力学的に不安定な高温相は、イオン導電に適した構造を有していることがあり、α−AgIやLi
2SO
4の例が報告されている。α相Li
3PS
4もイオン導電に有利な構造であると期待される。
【0025】
本発明による硫化物固体電解質材料は、詳細は後述するが、原料の微細化および母構造への元素添加(定比組成Li
3PS
4からの変更)という手段を用いて製造され、α−Li
3PS
4に性質の近い物質が室温で得られたと考えられる。したがって、本発明で提供される、この新規に室温で合成された電解質をα型電解質と呼ぶ。
【0026】
また、本発明においては、室温で得られる従来の硫化物固体電解質材料と明確に区別するため、本発明のα型硫化物固体電解質材料は、2θ=17.90±0.20のピークの回折強度をし、2θ=18.50±0.20のピークの回折強度をI
Bとし、I
B/I
Aの値を0.50未満であることを規定している。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、I
Aのピークは、本発明のα型固体電解質材料の特徴的なピークの一要素であり、このピークI
Aを生じる結晶構造がイオン伝導性、化学的安定性と関係すると考えられる。言い換えると、I
Aのピークが明確であるほど、イオン伝導性、電気化学的安定性に優れる結晶構造が形成されていると考えられる。I
Aの比較的近傍に、I
Bのピーク(2θ=18.50±0.20の範囲)が存在すると、I
Bのピークを生じる結晶構造が形成され、相対的にI
Aのピークを生じる結晶構造が形成されにくくなり、イオン伝導性、電気化学的安定性が低下すると考えられる。
したがって、イオン伝導性および電気化学的安定性の観点からは、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、I
B/I
Aの値はより小さいことが好ましく、具体的には0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。また、I
B/I
Aの値は0であることが好ましい。言い換えると、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、I
Bのピーク位置である2θ=18.50±0.20の範囲にピークを有しないことが好ましい。
【0027】
図2のLi
2S−P
2S
4−P
2S
5系の三元組成図を参照して本発明の硫化物系固体電解質の組成を説明する。本発明の硫化物系固体電解質は、Li
3+x+5yP
1−yS
4(0<x≦0.6, 0<y<0.2)の組成を含むことができる。この組成は、
図2の網掛け部分に相当する。網掛け部の頂点は、Li
3PS
4(x=0,y=0)、Li
4P
0.8S
4(x=0,y=0.2)、Li
4.6P
0.8S
4(x=0.6,y=0.2)、Li
3.6PS
4(x=0.6,y=0)である。ただし、上記の組成は0<x、0<y、y<0.2(つまり、0≠x、0≠y、y≠0.2)であるため、白抜きで表した頂点は上記の組成(網掛け部)の範囲には含まれない。
【0028】
α−Li
3PS
4(高温相)はγ−Li
3PS
4の構造と組成が類似していることを踏まえると、γ−Li
3PS
4が生成する組成では、原料の微細化などの手段を用いることによりα型電解質が得られる蓋然性が高いと考えられる。Li
3+x+5yP
1−yS
4の組成を焼成したときに、0<x≦0.6,0<y<0.2の範囲で γ−Li
3PS
4の生成が確認されている。したがって、Li
3+x+5yP
1−yS
4の組成において、0<x≦0.6,0<y<0.2 の範囲でα型電解質が得られる蓋然性が高く、イオン伝導性、化学的安定性の優れた固体電解質が得られる。
【0029】
本発明の硫化物系固体電解質は、Li
3+5yP
1−yS
4(0<y<0.2)の組成であってもよい。これは、前述の三元図の網掛け部において、x=0の場合であり、三元図の三角形右辺に沿った線分上の組成に相当する。この線分に沿って、yを増加すると、Li
3P
1S
4を始点として、三元図の頂点Li
2Sのある方向に向かう。この方向は、Li成分が増加する傾向にあり、室温でα型電解質が得られる蓋然性がより高まると考えられ、好ましい。
【0030】
本発明の硫化物系固体電解質は、Li
3+xPS
4(0<x≦0.6)の組成であってもよい。これは、前述の三元図の網掛け部において、y=0の場合であり、Li
3P
1S
4とLi
3.6P
1S
4を結ぶ線分上の組成に相当する。この線分に沿って、xを増加すると、Li
3P
1S
4を始点として、Li
3.6P
1S
4のある方向に向かう。この方向でも、Li成分が増加する傾向にあり、室温でα型電解質が得られる蓋然性がより高まると考えられ、好ましい。
【0031】
本発明の硫化物系固体電解質は、Li
3+xPS
4(0.1≦x≦0.2)の組成であってもよい。これは、前述の、Li
3P
1S
4とLi
3.6P
1S
4を結ぶ線分上の組成であって、x=0.1〜0.2である線分に相当する。この範囲では、室温でα型電解質が得られる蓋然性がより高まると考えられ、好ましい。
【0032】
本発明の硫化物固体電解質材料は、複数のPS
4四面体を含み、それぞれのPS
4四面体はPS
4四面体頂上の向きが互い違いになるように並び、且つ、それぞれのPS
4四面体は稜を共有せず、且つ、回折測定で定まる格子定数のうち最大の軸長と最小の軸長の比が1.1以下である、結晶構造を有してもよい。
【0033】
図3は、本発明の硫化物固体電解質材料の結晶構造の一例を説明する斜視図である。
図3に示す結晶構造において、PS
4四面体は、中心元素としてPを有し、四面体の頂点に4個のSを有している。
【0034】
α型電解質の構造(α−Li
3PS
4の構造)の特徴として、以下が挙げられる。
(1)複数のPS
4四面体を含み、それぞれのPS
4四面体はPS
4四面体頂上の向きが互い違いになるように並び、且つ、それぞれのPS
4四面体は稜を共有しない。
(2)回折測定で定まる格子定数の、最大の軸長と最小の軸長の比(最大/最小)が1.1以下である。
これらの特徴(1)と(2)はイオン導電に有利に働くと考えられる。特徴(1)は構造の不規則性が高く、イオンが移動する際のポテンシャルエネルギーが、構造全体で均一で、イオン導電に好ましい状態であることを示唆する。特徴(2)は異方性の少ない構造であり、イオン導電にとって好ましくない、イオン導電経路の異方性が小さいことを示唆する。そのため、本発明の硫化物固体電解質材料を用いることにより、高出力な電池を得ることができる。
【0035】
図4は、α型構造、β型構造、およびγ型構造の結晶構造の一例を説明する斜視図である。
図4には格子定数も示しており、最大の軸長と最小の軸長の比が求められる。最大の軸長と最小の軸長の比(最大/最小)が1.1以下であるのは、α型構造のみである。すなわち、β型構造、およびγ型構造は、軸長の比が1.1以下を満たさないため、α型よりもイオン導電経路の異方性が多く、イオン導電にとって好ましくないことが示唆される。
【0036】
本発明の硫化物固体電解質材料は、通常、結晶質の硫化物固体電解質材料である。また、本発明の硫化物固体電解質材料は、イオン伝導性が高いことが好ましく、25℃における硫化物固体電解質材料のイオン伝導度は、9.5×10
−4S/cm以上であることが好ましい。また、本発明の硫化物固体電解質材料の形状は特に限定されるものではないが、例えば粉末状を挙げることができる。さらに、粉末状の硫化物固体電解質材料の平均粒径は、例えば0.1μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0037】
本発明の硫化物固体電解質材料は、高いイオン伝導性と電気化学的安定性を有するものであるので、イオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、本発明の硫化物固体電解質材料は、電池に用いられるものであることが好ましい。電池の安定的な高出力化に大きく寄与することができるからである。
【0038】
本発明の固体電解質の製造方法を説明する。本発明の固体電解質材料の製造方法は、
硫化物固体電解質の構成成分を含有する原料組成物を微細化する工程と、
微細化した原料組成物を機械的混合法により非晶質化したイオン導電性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、
非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、を有する。
【0039】
本発明における原料組成物は、Li元素、P元素およびS元素を含有する。Li元素を含有する化合物は、例えば、Liの硫化物を挙げることができる。Liの硫化物としては、具体的にはLi
2Sを挙げることができる。また、P元素を含有する化合物は、例えば、Pの単体、Pの硫化物等を挙げることができる。Pの硫化物としては、具体的にはP
2S
5、P
2S
4等を挙げることができる。S元素を含有する化合物は、特に限定されるものではなく、単体であってもよく、硫化物であってもよい。硫化物としては、上述した元素を含有する硫化物を挙げることができる。
【0040】
微細化工程について説明する。微細化工程は、メカニカルミリングにより、上記原料組成物を微細化してその結晶性を低下させる工程である。結晶質の原料組成物の結晶性を一度低くすることで、電気化学的安定性およびイオン伝導性の高いα型電解質(2θ=17.90±0.20、29.0±0.50、29.75±0.25°の位置にピークを有し、前記2θ=17.90±0.20のピークの回折強度をI
Aとし、2θ=18.50±0.20のピークの回折強度をI
Bとした場合に、I
B/I
Aの値が0.50未満である、硫化物固体電解質)が析出しやすい環境にすることができる。微細化は、最終目的物である硫化物固体電解質材料において、所望のピークを有する結晶相が析出しやすい環境となるように、原料組成物では所望のピークが十分にブロードになる程度まで、微細化することが望ましい。原料組成物はすべて微細化してもよく、その一部のみを微細化してもよい。特に、Li元素を含有する化合物を微細化するのが好ましい。Li元素を含有する化合物は、結晶性が高いことが多く、そのような結晶性のLi化合物が残っていると、最終目的物である硫化物固体電解質材料の析出を抑制することが考えられる。
【0041】
メカニカルミリングは、原料組成物を、機械的エネルギーを付与しながら粉砕する方法である。微細化工程においては、原料組成物に対して、機械的エネルギーを付与することで、原料組成物を微細化してその結晶性を低下させる。このようなメカニカルミリングとしては、例えば、振動ミル、ボールミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でもボールミルおよび振動ミルが好ましい。
【0042】
ボールミルの条件は、微細化したイオン原料組成物を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。一般的に、回転数が大きいほど、微細化速度は速くなり、処理時間が長いほど、微細化は進む。遊星型ボールミルを行う際の台盤回転数としては、例えば200rpm〜700rpmの範囲内、中でも250rpm〜600rpmの範囲内であることが好ましい。また、遊星型ボールミルを行う際の処理時間は、例えば1時間〜100時間の範囲内、中でも1時間〜70時間の範囲内であることが好ましい。
【0043】
振動ミルの条件は、非晶質化したイオン伝導性材料を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。振動ミルの振動振幅は、例えば5mm〜15mmの範囲内、中でも6mm〜10mmの範囲内であることが好ましい。振動ミルの振動周波数は、例えば500rpm〜2000rpmの範囲内、中でも1000rpm〜1800rpmの範囲内であることが好ましい。振動ミルの試料の充填率は、例えば1体積%〜80体積%の範囲内、中でも5体積%〜60体積%の範囲内、特に10体積%〜50体積%の範囲内であることが好ましい。また、振動ミルには、振動子(例えばアルミナ製振動子)を用いることが好ましい。
【0044】
イオン伝導性材料合成工程について説明する。イオン伝導性材料合成工程は、微細化した原料組成物を機械的混合法により非晶質化したイオン導電性材料を合成する工程である。
イオン導電性材料は、その組成が上述の好ましい組成範囲になるように、原料組成物を秤量して混合される。
機械的混合法として、前記微細化工程で用いた種々のメカニカルミリングを同様の条件で利用することができる。微細化工程に加えて、合成工程においてもメカニカルミリングを利用することにより、原料組成物の結晶性をさらに低下させ、原料組成物どうしを均一に混合して、非晶質化したイオン導電性材料を合成できる。
【0045】
加熱工程について説明する。加熱工程は、非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、上記硫化物固体電解質材料を得る工程である。
【0046】
本発明においては、非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、結晶性の向上を図る。この加熱を行うことで、電気化学的安定性およびイオン伝導性の高いα型電解質(2θ=17.90±0.20、29.0±0.50、29.75±0.25°の位置にピークを有し、前記2θ=17.90±0.20のピークの回折強度をI
Aとし、2θ=18.50±0.20のピークの回折強度をI
Bとした場合に、I
B/I
Aの値が0.50未満である、硫化物固体電解質)を積極的に析出させることができる。
【0047】
本発明における加熱温度は、所望の硫化物固体電解質材料を得ることができる温度であれば特に限定されるものではないが、α型電解質の結晶化温度以上の温度であることが好ましい。具体的には、上記加熱温度が200℃以上であることが好ましく、240℃以上であることがより好ましい。一方、上記加熱温度は、1000℃以下であることが好ましく、700℃以下であることがより好ましく、650℃以下であることがさらに好ましく、600℃以下であることがさらに好ましく、550℃以下であることがより好ましく、500℃以下であることがさらに好ましく、450℃以下であることがより好ましく、400℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱時間は、所望の硫化物固体電解質材料が得られるように適宜調整することが好ましい。さらに、加熱後に、室温まで冷却される際には、所望の固体電解質材料が得られるように、自然冷却を採用してもよいし、またはアニーリングをおこなってもよい。
【0048】
これらの一連の工程は、空気中の水分によって原料組成物、得られた固体電解質材料が劣化することを防止するために、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で作業することが好ましい。
【0049】
本発明の電池について説明する。
図5は、本発明の電池の一例を示す概略断面図である。
図5における電池10は、正極活物質を含有する正極活物質層1と、負極活物質を含有する負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された電解質層3と、正極活物質1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを含有する電池である。本発明においては、正極活物質層1、負極活物質層2および電解質層3の少なくとも一つが、上記の硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とする。
【0050】
本発明によれば、上述した硫化物固体電解質材料を用いることにより、高いイオン伝導性と電気化学的安定性を有する電池とすることができる。
以下、本発明の電池について、構成ごとに説明する。
【0051】
負極活物質層
本発明における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していても良い。特に、本発明においては、負極活物質層が固体電解質材料を含有し、その固体電解質材料が、上述した硫化物固体電解質材料であることが好ましい。電気化学的安定性およびイオン伝導性の高い負極活物質層を得ることができるからである。負極活物質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、電池の種類によって異なるものであるが、例えば0.1体積%〜80体積%の範囲内、中でも1体積%〜60体積%の範囲内、特に10体積%〜50体積%の範囲内であることが好ましい。また、負極活物質としては、例えば金属活物質およびカーボン活物質を挙げることができる。金属活物質としては、例えばLi、In、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。
【0052】
負極活物質層は、さらに導電化材を含有していてもよい。導電化材の添加により、負極活物質層の導電性を向上させることができる。導電化材としては、例えば、導電化材としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等を挙げることができる。また負極活物質層は結着材を含有していてもよい。結着材の種類としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有結着材等を挙げることができる。また、負極活物質層の厚さは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0053】
電解質層
本発明における電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層である。電解質層は、イオンの伝導を行うことができる層であれば特に限定されるものではないが、固体電解質材料から構成される固体電解質層であることが好ましい。電解液を用いる電池に比べて、安全性の高い電池を得ることができるからである。さらに、本発明においては、固体電解質層が、上述した硫化物固体電解質材料を含有することが好ましい。固体電解質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、例えば10体積%〜100体積%の範囲内、中でも50体積%〜100体積%の範囲内であることが好ましい。特に、本発明においては、固体電解質層が上記硫化物固体電解質材料のみから構成されていることが好ましい。高いイオン伝導性と電気化学的安定性を有する電池を得ることができるからである。固体電解質層の厚さは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内、中でも0.1μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。また、固体電解質層の形成方法としては、例えば、固体電解質材料を圧縮成形する方法等を挙げることができる。
【0054】
また、本発明における電解質層は、電解液から構成される層であっても良い。電解液を用いる場合、固体電解質層を用いる場合に比べて安全性をさらに配慮する必要があるが、より高出力な電池を得ることができる。また、この場合は、通常、正極活物質層および負極活物質層の少なくとも一方が、上述した硫化物固体電解質材料を含有することになる。電解液は、通常、リチウム塩および有機溶媒(非水溶媒)を含有する。リチウム塩としては、例えばLiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6等の無機リチウム塩、およびLiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3等の有機リチウム塩等を挙げることができる。上記有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート(BC)等を挙げることができる。
【0055】
正極活物質層
本発明における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していても良い。特に、本発明においては、正極活物質層が固体電解質材料を含有し、その固体電解質材料が、上述した硫化物固体電解質材料であることが好ましい。イオン伝導性の高い正極活物質層を得ることができるからである。正極活物質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、電池の種類によって異なるものであるが、例えば0.1体積%〜80体積%の範囲内、中でも1体積%〜60体積%の範囲内、特に10体積%〜50体積%の範囲内であることが好ましい。また、正極活物質としては、例えばLiCoO
2、LiMnO
2、Li
2NiMn
3O
8、LiVO
2、LiCrO
2、LiFePO
4、LiCoPO
4、LiNiO
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2等を挙げることができる。なお、正極活物質層に用いられる導電化材および結着材については、上述した負極活物質層における場合と同様である。また、正極活物質層の厚さは、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0056】
その他の構成
本発明の電池は、上述した電解質層、正極活物質層および負極活物質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができる。一方、負極集電体の材料としては、例えばSUS、銅、ニッケルおよびカーボン等を挙げることができる。また、正極集電体および負極集電体の厚さや形状等については、電池の用途等に応じて適宜選択することが好ましい。また、本発明に用いられる電池ケースには、一般的な電池の電池ケースを用いることができる。電池ケースとしては、例えばSUS製電池ケース等を挙げることができる。
【0057】
電池
本発明の電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。本発明の電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。また、本発明の電池の製造方法は、上述した電池を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。例えば、本発明の電池が全固体電池である場合、その製造方法の一例としては、正極活物質層を構成する材料、固体電解質層を構成する材料、および負極活物質層を構成する材料を順次プレスすることにより、発電要素を作製し、この発電要素を電池ケースの内部に収納し、電池ケースをかしめる方法等を挙げることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。なお、下記の実施例は本発明を限定するものではない。
【0059】
(Li
2Sの微細化)
出発原料として、硫化リチウム(Li
2S、日本化学工業社製)を用意した。この粉末をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、室温でΦ2mmのZrボールを用いた遊星ボールミルにより、600rpmで100時間粉砕した。比較例では、この粉砕を行わなかった。この粉砕したLi
2SについてX線回折測定を行ったところ、未処理のもの、および比較用としてΦ10mmのZrボールを用いて400rpmで6時間粉砕したものに比べて、回折ピークのブロード化が顕著に見られ、粉砕による微粒子化の進行が確認された。
【0060】
(イオン伝導性材料の合成)
出発原料として、硫化リチウム(Li
2S、日本化学工業社製)の他に、五硫化二リン(P
2S
5、アルドリッチ社製)と、赤リン(P、高純度化学研究所製)とを用いた。これらの粉末を表1に示す組成になるように秤量、混合し、機械的混合法でイオン伝導性材料を合成した。実施例1〜4では、室温下、600rpmで、40〜100時間、Φ2mmのZrボールを用いた遊星ボールミルで混合を行った。比較例では、表1に示すように、100〜140℃の加熱下、機械的混合なし、等の条件とした。
【0061】
(硫化物固体電解質材料を得る加熱)
得られたイオン伝導性材料をペレット状に成型し、得られたペレットを、カーボンコートした石英管に入れ真空封入した。真空封入した石英管の圧力は、約30Paであった。次に、石英管を焼成炉に設置し、実施例では240〜280℃、2〜4時間の範囲で焼成し、比較例では焼成無し、または240℃〜550℃、2〜24時間の範囲で焼成した。その後室温まで徐冷した。これにより、表1に示す組成を有する結晶質の硫化物固体電解質材料を得た。
【0062】
得られた試料について、下記の測定を行った。
(粉末X線回折測定)
作製した硫化物固体電解質材料試料に含まれる結晶を同定するために、粉末X線回折装置Ulima-IV(株式会社リガク製)およびSmart Lab(株式会社リガク製)を使用して、粉末X線回折測定を行った。粉末X線回折測定には、X線波長1.5418オングストロームのCu−Kα線を使用した。10〜100°の範囲の回折角(2θ)で粉末X線回折測定を行った。
【0063】
(導電率の測定)
粉砕した試料を常温用セルに入れた後、70MPaの圧力を常温用セルに適用してペレットを作製した。そのペレットの両面に金粉末を分散させた後、220MPaの圧力をペレットに適用してペレットの両面に電極を形成して測定用試料を作製した。測定用試料の導電率の測定には、インピーダンス・ゲインフェーズアナライザーSolatron1260(ソーラトロン社製)を使用した。1Hz〜10MHzの測定範囲、25℃の測定温度、50〜100mVの交流電圧および2秒の積算時間の条件で交流インピーダンス測定を行い、試料の導電率を測定した。
【0064】
(サイクリックボルタンメトリー)
電気化学的安定性は、電位窓とも呼ばれており、例えばAu箔とリチウム箔の間にリチウムイオン伝導性無機固体電解質と高分子の複合成型体を挟んだセルを組立てて、サイクリックボルタンメトリーにより評価することができる。掃引速度1mV/secで測定をした。
【0065】
(定電流充放電試験)
充放電試験では、セパレータとなるリチウムイオン伝導性固体電解質として実施例1で得られた硫化物固体電解質材料を、正極活質としてコバルト酸リチウム、負極活物質として金属リチウムを用いて、挟み込んだ全固体リチウム電池を構成した。比較試験用に、リチウムイオン伝導性固体電解質として、L
10GeP
2S
12(LGPS)を用いて、全固体リチウム電池を構成した。これらの電池に、1/20C(=7.25mA/g)で充放電を行った。
【0066】
[評価]
(粉末X線回折測定)
実施例、比較例で得られた硫化物固体電解質材料を用いて、X線回折(XRD)測定を行った。その結果を
図6、7に示す。
図6に示されるように、実施例1〜4では、以下のピーク要件1〜3を全て満足する。
ピーク要件1:回折角2θの範囲、17.90±0.20°に回折ピークが存在すること。
ピーク要件2:回折角2θの範囲、29.0±0.50の範囲にピークが存在し、かつ29.75±0.25°の範囲にピークが存在すること。
ピーク要件3:回折角2θ=17.90±0.20のピークの回折強度をI
Aとし、2θ=18.50±0.20のピークの回折強度をI
Bとした場合に、I
B/I
Aの値が0.50未満であること。
これらのピーク要件は、Li
3PS
4のα相(α−Li
3PS
4)にもあてはまり(
図1参照)、イオン導電に有利な構造であると期待される。なお、実施例2、3は第2相としてβ−Li
3PS
4の反射ピークが見られる。しかし、これらもピーク要件1〜3を満たしていた。実施例4は、実施例1に比べて結晶性が低いが、ピーク要件1〜3を満たしていた。
一方、比較例5は、β−Li
3PS
4が主相であると考えられるピークが見られ、ピーク要件1を満たさない。比較例6は結晶性の低いβ−Li
3PS
4とγ−Li
3PS
4の混相であると考えられるピークが見られ、ピーク要件1、2を満たさない。比較例7は結晶性の高いγ−Li
3PS
4が主相であると考えられるピークが見られ、ピーク要件2を満たさない。
図7には、比較例8と9のチャートを示す。比較例8と9は β−Li
3PS
4とγ−Li
3PS
4の混相であると考えられるピークが見られ、ピーク要件1、2を満たすが、ピーク要件3を満たさない。
【0067】
(導電率の測定)
実施例1で得られたα型硫化物固体電解質材料(Li
3.15PS
4)は、イオン伝導率が9.5×10
−4Scm
−1であった。比較例5のβ−Li
3PS
4は、イオン伝導率が2.0×10
−4Scm
−1であり、比較例7のγ−Li
3PS
4は、イオン伝導率が2.0×10
−6Scm
−1であった。組成Li
3.15PS
4のα型電解質が、類似の組成を持つβ−Li
3PS
4およびγ−Li
3PS
4よりも著しく高いイオン導電率を有することが明らかになった。
【0068】
(サイクリックボルタンメトリー)
実施例1で得られたα型硫化物固体電解質材料(Li
3.15PS
4)、およびL
10GeP
2S
12(LGPS)CV曲線を、
図8に示す。
L
10GeP
2S
12(LGPS)のサイクリックボルタンメトリー(CV)曲線は電位窓が広く、電気化学的に安定であると報告されている。α型電解質のCV曲線の形状は、LGPSのものに非常に良く似ており、0〜5Vの範囲で目立った酸化還元反応のピークは観測されず、この範囲で電気化学的に安定であることが示唆された。
【0069】
(定電流充放電試験)
充放電試験では、セパレータとなるリチウムイオン伝導性固体電解質として、実施例1で得られた硫化物固体電解質材料、および比較試験用のL
10GeP
2S
12(LGPS)を用いた。充放電の結果を
図9に示す。LGPSを用いた場合、1サイクル目の放電容量は48mAhg
−1、クーロン効率は61%であり、2サイクル目はそれぞれ7.05mAhg
−1、14%であった。一方、α型電解質を用いた場合、1サイクル目の放電容量は71mAhg
−1、クーロン効率は87%であり、2サイクル目はそれぞれ71mAhg
−1、97%であった。したがって、α型電解質は、電気化学的安定性が高いと報告されているLGPSよりも優れた電解質であり、理論エネルギー密度最大のLi金属を全固体電池の負極として用いることを可能にし、全固体電池の高エネルギー密度化に大きく寄与すると期待される。
【0070】
【表1】