(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877085
(24)【登録日】2021年4月30日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】ミシンの押さえ
(51)【国際特許分類】
D05B 29/06 20060101AFI20210517BHJP
D05B 35/08 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
D05B29/06
D05B35/08
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-181527(P2015-181527)
(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公開番号】特開2017-55876(P2017-55876A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年9月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】蛇の目ミシン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 邦男
(72)【発明者】
【氏名】岡田 瑞紀
【審査官】
住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第02737914(US,A)
【文献】
実開昭58−000773(JP,U)
【文献】
実開昭49−099454(JP,U)
【文献】
中国特許出願公開第101187115(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B1/00−97/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンの押さえ棒に装着する取付部と該取付部より下方に延びる支持部と該支持部の下端に紐通しのための紐案内溝をミシンの正面から見て左側に有する針通し孔を形成した押さえ部とで構成した押さえ本体と、前記押さえ部の紐案内溝を横断して、常時は該紐案内溝を閉鎖状態に被覆する溝被覆部と該溝被覆部から連続して前記支持部に沿って形成された支持板部と該支持板部の端部に形成された前記押さえ本体への取付部とで構成された被覆部材とを備え、前記押さえ本体に前記取付部で固定された前記被覆部材の支持板部は、ミシンの正面から見て右側部分が前記支持部から離間されており、更に、溝被覆部は、ミシンの正面から見て右側部分が前記押さえ部から離間されており、前記支持板部の前記支持部からの離間箇所及び前記溝被覆部の前記押さえ部からの離間箇所によって、装飾用紐を針通し孔に挿通する作業において、前記溝被覆部のミシンの正面から見て左側部分が紐案内溝上から離間し易い構成とし、装飾用紐を前記針通し孔に挿通する過程で、前記装飾用紐の押圧力にて前記溝被覆部はミシンの正面から見て左側から右側に移動すると共に前記溝被覆部のミシンの正面から見て左側部分が押さえ部から浮き上がり装飾用紐が挿通できる程度の隙間が生じるようにしたことを特徴とするミシンの押さえ。
【請求項2】
前記支持板部に設けた折り曲げ部は、前記被覆部材の前記支持板部の左右方向において前記支持部から前記支持板部が離間する方向に曲げるように形成してなることを特徴とする請求項1に記載のミシンの押さえ。
【請求項3】
前記押さえ部の前記紐案内溝の糸の挿入口に対応して前記被覆部材の前記溝被覆部から連続して立ち上がる紐ガイドが形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のミシンの押さえ。
【請求項4】
前記押さえ本体の前記支持部に固定された前記被覆部材の前記支持板部に前記支持部の後側に屈曲して前記支持部の後側裏面から離間した位置に前記支持板部の前後の振れを規制する後方規制板を有する前後振れ規制部を設けたことを特徴とする請求項1,2又は3のいずれか1項に記載のミシンの押さえ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの押さえ棒に装着し、装飾用の毛糸等の紐を生地に縫い付けるためのものであり、針通し孔に装飾用の紐を通し易く且つ外れ難くすることができるミシンの押さえに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭用ミシンにおいて、生地に装飾用の毛糸,飾り糸,リボン等を縫い付ける縫製手段、いわゆるカウチング縫いが行なえるものが存在する。カウチング縫い作業は、通常の刺しゅう縫いと同様に、上糸,下糸,刺しゅう枠をセットし、ミシンに装着された押えに、装飾用の3本目の紐を通して縫製を行うものである。そして、このカウチング縫い作業では、カウチング縫い専用の押さえが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−130056号公報
【特許文献2】実開平5−60477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カウチング縫い専用の押さえは、一般的に特許文献1に見られるように円板の中心に円形状の針通し孔が形成された押さえ部と、ミシン本体に装着された押え棒に接続する取付部が備わったものである。この種のものでは、装飾用の紐は、前記針通し孔に挿通しなければならないものであった。装飾用の紐で、特に毛糸等は、押えの針通し孔に挿通するときに、毛羽立っているので極めて挿通し難いものである。
【0005】
また、特許文献2では、装飾用の紐を針通し孔に挿通し易くするために、押え板における針通し孔を内外に連通する通路を設け、押えに対して水平方向から装飾用紐を挿通することができるようにしたものである。この種のものでは、装飾用紐を押えの針通し孔に挿通し易くすることができるが、その反面、針通し孔から装飾用紐が外れ易くなるという欠点も見られた。
【0006】
そこで、本発明の目的は、カウチング縫いの段取り過程において、装飾用紐を押さえの針通し孔に挿通し易いものにでき、また一旦、針通し孔に挿通された装飾用紐が針通し孔から外れ難い構成にしたカウチング縫い専用のミシンの押さえを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、ミシンの押さえ棒に装着する取付部と該取付部より下方に延びる支持部と該支持部の下端に紐通しのための紐案内溝をミシンの正面から見て左側に有する針通し孔を形成した押さえ部とで構成した押さえ本体と、前記押さえ部の紐案内溝を横断して、常時は該紐案内溝を閉鎖状態に被覆する溝被覆部と該溝被覆部から連続して前記支持部に沿って形成された支持板部と該支持板部の端部に形成された前記押さえ本体への取付部とで構成された被覆部材とを備え、前記押さえ本体に前記取付部で固定された前記被覆部材の支持板部は、ミシンの正面から見て右側部分が前記支持部から離間されており、更に、溝被覆部は、ミシンの正面から見て右側部分が前記押さえ部から離間されており、前記支持板部の前記支持部からの離間箇所及び前記溝被覆部の前記押さえ部からの離間箇所によって装飾用紐を針通し孔に挿通する作業において、前記溝被覆部のミシンの正面から見て左側部分が紐案内溝上から離間し易い構成とし、装飾用紐を前記針通し孔に挿通する過程で、前記装飾用紐の押圧力にて前記溝被覆部はミシンの正面から見て左側から右側に移動すると共に前記溝被覆部のミシンの正面から見て左側部分が押さえ部から浮き上がり装飾用紐が挿通できる程度の隙間が生じるようにしたミシンの押さえとしたことにより、上記課題を解決した。
【0008】
請求項2の発明を、前記支持板部に設けた折り曲げ部は、前記被覆部材の前記支持板部の左右方向において前記支持部から前記支持板部が離間する方向に曲げるように形成してなる請求項1に記載のミシンの押さえとしたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、前記押さえ部の前記紐案内溝の糸の挿入口に対応して前記被覆部材の前記溝被覆部から連続して立ち上がる紐ガイドが形成された請求項1又は2に記載のミシンの押さえとしたことにより、上記課題を解決した。
【0009】
請求項4の発明を、前記押さえ本体の前記支持部に固定された前記被覆部材の前記支持板部に前記支持部の後側に屈曲して前記支持部の後側裏面から離間した位置に前記支持板部の前後の振れを規制する後方規制板を有する前後振れ規制部を設けた請求項1,2又3のいずれか1項に記載のミシンの押さえとしたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明では、ミシンの押さえ棒に装着する取付部と該取付部より下方に延びる支持部と該支持部の下端に紐通しのための紐案内溝を有する針通し孔を形成した押さえ部とで構成した押さえ本体と、前記押さえ部の紐案内溝を横断して被覆する溝被覆部と該溝被覆部から連続して前記支持部に沿って形成された支持板部と該支持板部の端部に形成された前記押さえ本体への取付部とで構成された被覆部材とを備え、前記押さえ本体に前記取付部で固定された前記被覆部材の支持板部に折り曲げ部が設けられて前記被覆部材の右側部分が前記支持部から離間するように構成したものである。
【0011】
従って、押さえ部の紐案内溝の上方側は、溝被覆部によって覆われ且つ前記支持板部の弾性によって溝被覆部は常時、紐案内溝を閉鎖状態にすることができる。そして、前記押さえ本体に前記取付部で固定された前記被覆部材の支持板部に折り曲げ部が設けられて前記被覆部材の右側部分が前記支持部から離間する構成とした。
【0012】
これによって、装飾用紐を針通し孔に挿通する過程で、装飾用紐の押圧力により溝被覆部が左側から右側に移動すると共に、前記支持板部に設けられた折り曲げ部によって、支持板部の右側領域が、押さえ本体の支持部から離間する。そして、このときに、前記溝被覆部も押さえ部から浮き上がる。
【0013】
このとき、装飾用紐を紐案内溝に通す際に被覆部材に向かって前記溝被覆部の右側部分が、該溝被覆部全体の変形の逃げ場所となり、溝被覆部が容易に変形することができ、紐案内溝と溝被覆部との間に装飾用紐が挿通できる程度の隙間が生じる。このように、装飾用紐を紐案内溝の位置まで運びやすい状態にすることができる。装飾用紐が針通し孔に挿通され易い状態を構成し、挿通作業を簡易且つ迅速に行われる。
【0014】
請求項2の発明では、前記折り曲げ部は、前記被覆部材の前記支持板部の左右方向において左側端部寄りの位置に形成されたことにより、支持板部の左右方向の左側端部を除く略全体が押さえ本体の支持部から弾性を有しつつ離間し浮かび上がる構成となる。これによって、前記溝被覆部も前記押さえ部の紐案内溝の上方に対してより一層離間し易くなり、装飾用紐の挿通作業をより一層簡易且つ迅速にできる。
【0015】
請求項3の発明を、前記被覆部材の前記溝被覆部の左側端部には、紐ガイドが形成される構成としたことにより、装飾用紐の針通し孔への挿通作業において、装飾用紐が紐ガイドに当接し、相互に略面接触状態となり、特に装飾用紐を挿通作業時に集中荷重がかからないようにして保護することができる。
【0016】
請求項4の発明では、前記被覆部材の前記支持板部は幅方向左側に前方規制板と後方規制板とを有し且つ断面角C字形状とした規制部が形成され且つ前記前方規制板と、前記後方規制板との間隔は、前記支持部の厚さよりも大きくしてなる構成としたことにより、被覆部材が押さえ本体の支持部から離間する距離を規制し、且つ溝被覆部における紐案内溝の上面からの離間距離を規制し、離間しすぎることによる変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)は本発明における押さえがミシンに装着された状態を示す略示図、(B)は(A)の(α)部拡大図、(C)は本発明における押えの拡大斜視図、(D)は本発明における押えの押さえ本体と被覆部材とを分離した拡大斜視図である。
【
図2】(A)は本発明における押さえの正面図、(B)は(A)の一部断面にしたY1矢視図、(C)は(A)の一部を示すY2矢視図、(D)は(A)のX1−X1矢視拡大断面図、(E)は(A)のX2−X2矢視拡大断面図である。
【
図3】本発明における被覆部材の支持板部及び溝被覆部が本体部の支持部及び押さえ部から離間している状態を示す要部拡大側面図である。
【
図4】本発明における押さえの紐ガイドの形状の別の実施形態を示す要部拡大正面図である。
【
図5】(A)は本発明における押さえに装飾用紐を挿通さる第1行程の要部平面図、(B)は(A)のX3−X3矢視断面図、(C)は(A)のY3矢視図である。
【
図6】(A)は本発明における押さえに装飾用紐を挿通さる第2行程の要部平面図、(B)は(A)のX4−X4矢視断面図、(C)は(A)のY4矢視図である。
【
図7】(A)は本発明における押さえに装飾用紐を挿通さる第3行程の要部平面図、(B)は(A)のX5−X5矢視断面図、(C)は(A)のY5矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明は、ミシンの押さえであって、特にカウチング縫い専用の押さえとして使用されるものである。本発明の押えは、主に、
図1,
図2に示すように、押さえ本体Aと被覆部材Bとから構成される。本発明の説明において、押えには、作業員がミシンの正面から見て、左側,右側及び上下方向等の方向を示す文言が存在する。前側,後側,左側,右側及び上下方向等については、主要な図に記載されている。この方向を示す文言は、
図1(A),(B)に示す。
【0019】
押さえ本体Aは、押さえ部1と、支持部2と、取付部3とから構成される〔
図1(C),(D),
図2(A),(B),(C)参照〕。押さえ部1と支持部2と取付部3とは、金属板材が折り曲げ加工等によって一体成形されている。押さえ部1には、押え板11と針通し孔12と該針通し孔12に繋がる紐案内溝13によって構成されている。
【0020】
押え板11は、略円形状の板であり、その略中央の位置に針通し孔12が形成されている。該針通し孔12には、ミシン針93が貫通する〔
図1(B)参照〕。針通し孔12の所定箇所には紐案内溝13が形成されており、該紐案内溝13によって、押え板11の外周部と針通し孔12とが連通される構成となり、装飾用紐nは、押さえ部1の外部から紐案内溝13を介して針通し孔12内に挿通される。
【0021】
紐案内溝13の溝幅は、前記針通し孔12の直径よりも僅かに小さく形成され〔
図2(E)参照〕、また毛糸等の装飾用紐nが1本通過することができる程度となっている。また、前記紐案内溝13は、押さえ部1の左側側面で且つ後側付近から前側に向かう溝として形成されている。前記押え板11の後側に連続して支持部2が上方に延在するように形成される。さらに、支持部2は、押さえ部1の後側から上方に向かって後側に傾斜するように形成されている。
【0022】
また、支持部2の上端から上方に向かって取付部3が形成されている。該取付部3は、
押さえ棒92に取り付ける役目をなす部位である。取付部3は、支持部2の上端から傾斜板片31を介して、前記支持部2の右側に偏って垂直状に形成されている。取付部3の上方には、
押さえ棒92に装着固定するための固定片32,32,…が形成されている〔
図1(C),(D),
図2(A)乃至(C)参照〕。
【0023】
次に、被覆部材Bは、溝被覆部4,支持板部5,前後振れ規制部51及び幅方向振れ規制部52が形成されている〔
図1(C),(D),
図2(A)乃至(C)参照〕。被覆部材Bは、弾性を有する薄板金属材にて折り曲げ形成されたものである。溝被覆部4は、前側の端縁が円弧状に形成された円弧状端辺41を有している。該円弧状端辺41は、溝被覆部4が前記押さえ部1の紐案内溝13上に配置されたときには、該紐案内溝13によって欠けた前記針通し孔12の周部分を補う役目をなす。
【0024】
溝被覆部4の左側の側面には、立ち上がるように折り曲げて形成された紐ガイド42が形成されている。具体的には、該紐ガイド42は、押さえ部1の紐案内溝13の糸(装飾用紐n)の挿入口13aに対応して被覆部材Bの溝被覆部4から連続して立ち上がるように形成されている〔
図2(E)参照〕。該紐ガイド42は、針通し孔12内に挿通しようとする装飾用紐nが当接して、装飾用紐nの押圧力Pによって押圧され、溝被覆部4を押さえ部1上にて移動させる役目をなす部位である。紐ガイド42は、鋭角に折り曲げられて立設されている。また、紐ガイド42の別の実施形態として円弧状に形成されることもある(
図4参照)。
【0025】
支持板部5は、溝被覆部4の一部より上方に延びるように形成されたものである。そして、支持板部5には、前後振れ規制部51と幅方向振れ規制部52とが形成されている〔
図1(C),(D),
図2(A)乃至(C)参照〕。支持板部5の上端より垂直状に連続して形成された取付部6が設けられている。
【0026】
該取付部6は、前記押さえ本体Aの取付部3にリベット等の固着具7にて固着されている。そして、押さえ本体Aに被覆部材Bが固着された状態において、押さえ部1上に溝被覆部4が配設され、支持部2上に支持板部5が配設されることになる。
【0027】
そして、被覆部材Bは、装飾用紐nの挿通操作により固着具7で固定したままで、支持板部5及び溝被覆部4が支持部2及び押さえ部1から離間して浮き上がる。そして、常時、支持板部5の弾性力によって、溝被覆部4は押さえ部1の紐案内溝13上を覆うように設置される。このとき、溝被覆部4は押さえ部1に対して当接又は近接する状態にある(
図3参照)。
【0028】
支持板部5の前後規制部51は、前規制板51a,後規制板51b及び両規制板を連結する連結片51cよりなる〔
図2(D)参照〕。前後規制部51は、支持板部5の左側端部に形成され、前後規制部51の前規制板51aと後規制板51bとによって、支持部2の前後方向への移動をゆとりを持たせて規制する構成となっている〔
図2(D)参照〕。そして、前記後規制板51bは、常時は、支持板部5の背面から離間しており、装飾用紐nの挿通作業によって、支持板部5に捻じれが生じるときに、その捩じれ量を、所定の範囲内で収まるように規制する役目をなしている。
【0029】
前規制板51aと後規制板51bとの間隔Lは、支持部2の厚さTよりも大きく形成されている。
つまり、
となる。
これによって、支持板部5は、前記前後規制部51で規制された範囲で変形することができるように構成される。
【0030】
さらに、幅方向振れ規制部52は、支持板部5の右側に形成される。幅方向振れ規制部52は、前記前後振れ規制部51と共に支持部2の幅方向両側を挟持する。幅方向振れ規制部52と、前記前後振れ規制部51の連結側板51cとの間隔は、支持部2の幅方向寸法よりも大きく且つ、前記連結片51cの形成側で広くなるように設定されている〔
図2(D)参照〕。
【0031】
これによって、被覆部材Bは、押さえ本体Aに対して、前記固着具7の位置で、弾性的に左側と右側及び前側と後側との移動の規制がなされる。つまり、被覆部材Bは、支持板部5の弾性変形によって、溝被覆部4の位置が移動可能となるが、そのときの支持板部5における変形の大きさを規制するものである。これによって、被覆部材Bは、装飾用紐nの押さえ部1の針通し孔
12への挿通時に不必要に弾性変形することを防止し、被覆部材Bの耐久性を確保することができるものである。
【0032】
また、前記被覆部材Bの支持板部5の左側寄りの位置に折り曲げ部53が形成されている〔
図1(C),(D),
図2(A),(D)参照〕。該折り曲げ部53は、具体的には、支持板部5における前規制板51aの境界を直線状の折れ線として形成されたものである。
【0033】
前記折り曲げ部53を境にして、支持板部5の右側領域が、記押さえ本体Aの支持部2から離間し、浮かび上がるように設定される〔
図2(C),(D)参照〕。これによって、装飾用紐nを針通し孔12に挿通する作業において、溝被覆部4を左側から右側に移動させるときには該溝被覆部4が紐案内溝13上から離間し易くなる。
【0034】
次に、本発明の押えの針通し孔12に装飾用紐nを挿通するための行程を
図5乃至
図6に基づいて説明する。まず、最初は、被覆部材Bの溝被覆部4は、押さえ本体Aの押さえ部1の紐案内溝13上を覆うように配置されている。この状態で、毛糸等の装飾用紐nを溝被覆部4の紐ガイド42に当接させる。そして装飾用紐nを緊張させて、押圧力Pを生じさせる(
図5参照)。装飾用紐nは、前記紐ガイド42箇所で屈曲している〔
図5(B)参照〕。
【0035】
次に、押圧力Pを有する装飾用紐nをそのまま紐ガイド42に押し続けることにより、紐ガイド42と共に溝被覆部4が押さえ部1の紐案内溝13を左側(挿入口13a側)から右側(針通し孔12側)に向かって移動を開始する(
図6参照)。このとき、装飾用紐nは、紐ガイド42の位置で折れ曲っており、その押圧力Pによる押圧力が溝被覆部4にかかり、該溝被覆部4を上方に持ち上げるように作用する。そして、押さえ部1の紐案内溝13上を覆うように配置されていた溝被覆部4は、紐案内溝13から上方に向かって離間する〔
図6(B),(C)参照〕。
【0036】
次に、装飾用紐nをさらに押さえ部1の左側から右側に向かって移動させることで、溝被覆部4は、紐案内溝13上をさらに離間しつつ移動し、装飾用紐nが紐案内溝13から針通し孔12に到達する(
図7参照)。装飾用紐nが針通し孔12に完全に挿通すると、装飾用紐nは紐ガイド42から外れ、溝被覆部4は紐案内溝13上に近接し、再度紐案内溝13を閉鎖し、装飾用紐nが針通し孔12からはずれることを防止する。
【0037】
ここで、装飾用紐nを針通し孔12に挿通する過程で、装飾用紐nの押圧力Pにより溝被覆部4が左側から右側に移動すると共に、前記支持板部5に設けられた折り曲げ部53によって、支持板部5の右側領域が、前記押さえ本体Aの支持部2から離間する。そして、このときに、前記溝被覆部4も押さえ部1から浮き上がる。
【0038】
これによって、装飾用紐nを紐案内溝13に通す際に被覆部材Bに向かって前記溝被覆部4の右側部分が、溝被覆部4全体の変形の逃げ場所となり、溝被覆部4が容易に変形することができ、紐案内溝13と溝被覆部4との間に装飾用紐nが挿通できる程度の隙間が生じる。このように、装飾用紐nを紐案内溝13の位置まで運びやすい状態にすることができる。
【符号の説明】
【0039】
A…押さえ本体、1…押さえ部、12…針通し孔、13…紐案内溝、2…支持部、
3…取付部、B…被覆部材、4…溝被覆部、42…紐ガイド、5…支持板部、
51…前後振れ規制部、51a…前規制板、51b…後規制板、
52…幅方向振れ規制部、53…折り曲げ部。