(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877098
(24)【登録日】2021年4月30日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】高力ボルト締付け状態の検知システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20210517BHJP
【FI】
G01L5/00 103Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-140402(P2016-140402)
(22)【出願日】2016年7月15日
(65)【公開番号】特開2018-9932(P2018-9932A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年6月26日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平林 裕治
(72)【発明者】
【氏名】犬伏 昭
(72)【発明者】
【氏名】神谷 綾耶
【審査官】
大森 努
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−278116(JP,A)
【文献】
特開平05−223525(JP,A)
【文献】
特開2013−190210(JP,A)
【文献】
特開平10−317306(JP,A)
【文献】
特開2005−003658(JP,A)
【文献】
米国特許第05415508(US,A)
【文献】
構造用トルシア形高力ボルト使用の手引き,2016-フルサト総合カタログ,日本,フルサト工業株式会社,2016年 6月 1日,pp.290-293,PDF作成記録の日付(2016.6.1)およびページ数の横の"1603"との記載を確認されたい。,URL,http://www.furusato.co.jp/wp-content/uploads/2016/06/317_011.pdf
【文献】
トルシア形高力ボルト締付け終了後のナット回転角の許容範囲は?,鉄骨工事Q&A, B-2-11,日本,一般社団法人日本建設業連合会,2016年 7月 1日,URL,https://www.nikkenren.com/kenchiku/sekou/steel_frame_Q&A/B-2_boruto.htm
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00,5/24,
G01B 11/26,
G01M 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレートに座金およびナットを介して締付けた高力ボルトの締付け状態を、それぞれに締付け前に施されたマーキングを用いて検知するシステムであって、
プレートに対する座金とナットと高力ボルトの締付け状態を撮影する撮影手段と、
撮影した画像に基づいて、プレートと座金とナットと高力ボルトのそれぞれに施されたマーキングについてのマーキング角度を検出するマーキング角度検出手段と、
検出したマーキング角度に基づいて、締付け状態を判定する判定手段とを備え、
マーキング角度検出手段は、高力ボルトのピンテール破断面を色識別することによって、高力ボルトの中心軸線を算出し、算出した中心軸線からの距離に基づいて高力ボルトとナットと座金とプレートを検出するとともにマーキング角度を検出するものであり、
マーキング角度検出手段で高力ボルトの中心軸線を算出する場合において、色識別したピンテール破断面の形状を楕円で近似し、近似した楕円の中心を高力ボルトの中心位置として算出し、算出した中心位置を、予め記録してある高力ボルトの配列位置データから算出した高力ボルトの中心位置に基づいて補正し、補正した中心位置に基づいて高力ボルトの中心軸線を算出することを特徴とする高力ボルト締付け状態の検知システム。
【請求項2】
撮影手段は、複数の高力ボルトの締付け状態を同時に撮影し、
マーキング角度検出手段は、複数の高力ボルトについてマーキング角度を検出し、
判定手段は、複数の高力ボルトについて締付け状態を判定することを特徴とする請求項1に記載の高力ボルト締付け状態の検知システム。
【請求項3】
判定手段は、個々の高力ボルトについてプレートのマーキング角度とナットのマーキング角の差を算出するとともに全体の平均値を算出し、算出した全数の平均値と個々の高力ボルトにおけるマーキング角度の差が所定の角度以上である場合には、ナット回転角のバラツキが所定の規定範囲を超えていると判定するナット回転角のバラツキ判定部を有することを特徴とする請求項2に記載の高力ボルト締付け状態の検知システム。
【請求項4】
判定手段は、座金とプレートのマーキング角度の差が所定の角度以上である場合には、共回りが生じていると判定する共回り判定部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の高力ボルト締付け状態の検知システム。
【請求項5】
判定手段は、高力ボルトとプレートのマーキング角度の差が所定の角度以上である場合には、軸回りが生じていると判定する軸回り判定部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の高力ボルト締付け状態の検知システム。
【請求項6】
プレートに座金およびナットを介して締付けた高力ボルトの締付け状態を、それぞれに締付け前に施されたマーキングを用いて検知する方法であって、
プレートに対する座金とナットと高力ボルトの締付け状態を撮影する撮影ステップと、
撮影した画像に基づいて、プレートと座金とナットと高力ボルトのそれぞれに施されたマーキングについてのマーキング角度を検出するマーキング角度検出ステップと、
検出したマーキング角度に基づいて、締付け状態を判定する判定ステップとを備え、
マーキング角度検出ステップは、高力ボルトのピンテール破断面を色識別することによって、高力ボルトの中心軸線を算出し、算出した中心軸線からの距離に基づいて高力ボルトとナットと座金とプレートを検出するとともにマーキング角度を検出するものであり、
マーキング角度検出ステップで高力ボルトの中心軸線を算出する場合において、色識別したピンテール破断面の形状を楕円で近似し、近似した楕円の中心を高力ボルトの中心位置として算出し、算出した中心位置を、予め記録してある高力ボルトの配列位置データから算出した高力ボルトの中心位置に基づいて補正し、補正した中心位置に基づいて高力ボルトの中心軸線を算出することを特徴とする高力ボルト締付け状態の検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高力ボルト本締め後の状態を検知する高力ボルト締付け状態の検知システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高力ボルト本締め後の状態を検知する場合には、1次締め後にボルト、ナット、座金、プレートに施したマーキングのボルト中心軸線に対するナットの回転角度を分度器や目視で測定したり、ナットと座金の共回りやボルトの軸回りなど高力ボルト締付けの状態を目視で判定していたため、検査漏れや測定ミスなどが発生しやすく、検査に手間と時間がかかっていた。また、ナットの回転角度を目視で測定する方法は、誤差を含む可能性が高くなるという問題がある。
【0003】
図7は、高力ボルト本締め後の状態を示したものである。(1)は軸回り、(2)は正常、(3)は共回りである。この図に示すように、1次締め後に高力ボルト1、ナット2、座金3、プレート4にマーキング5を施して本締めする場合、共回りや軸回りについては、全数を注意深く観察しないと見落としてしまうことがある。
【0004】
一方、ボルトやナットのマーキングにより緩みを検知する従来の方法として、例えば特許文献1の方法が知られている。この方法は、構造物を締結するボルトの緩み点検において、予めボルト締結時にボルトおよびボルト取付け部の鋼材に耐候性に優れた塗料などでマーキングを施しておき、ボルトの緩み点検時に、地上から撮像した構造物の画像から、ボルト部を拡大して、ボルトに施したマーキングとボルト取付け部の鋼材に施したマーキングの線のずれによって被検査対象ボルトの緩みの判定を行うものである。しかしながら、この方法では、ナットと座金の共回りやボルトの軸回りなど高力ボルト締付けの状態を検知することはできない。また、複数のナットの回転角を測定し、その平均値の算出やバラツキの状態検知などに活用することは示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−3658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、ナットと座金の共回りやボルトの軸回りなど高力ボルト締付け状態を検知することのできる技術の開発が求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、共回りや軸回りなど高力ボルト締付け状態を検知することのできる高力ボルト締付け状態の検知システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る高力ボルト締付け状態の検知システムは、プレートに座金およびナットを介して締付けた高力ボルトの締付け状態を、それぞれに締付け前に施されたマーキングを用いて検知するシステムであって、プレートに対する座金とナットと高力ボルトの締付け状態を撮影する撮影手段と、撮影した画像に基づいて、プレートと座金とナットと高力ボルトのそれぞれに施されたマーキングについてのマーキング角度を検出するマーキング角度検出手段と、検出したマーキング角度に基づいて、締付け状態を判定する判定手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムは、上述した発明において、マーキング角度検出手段は、撮影した画像における高力ボルトのピンテール破断面に基づいて高力ボルトの中心軸線を算出し、算出した中心軸線からの距離に基づいてボルトとナットと座金とプレートを検出するとともにマーキング角度を検出することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムは、上述した発明において、撮影手段は、複数の高力ボルトの締付け状態を同時に撮影し、マーキング角度検出手段は、複数の高力ボルトについてマーキング角度を検出し、判定手段は、複数の高力ボルトについて締付け状態を判定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムは、上述した発明において、判定手段は、個々の高力ボルトについてプレートのマーキング角度とナットのマーキング角の差を算出するとともに全体の平均値を算出し、算出した全数の平均値と個々の高力ボルトにおけるマーキング角度の差が所定の角度以上である場合には、ナット回転角のバラツキが所定の規定範囲を超えていると判定するナット回転角のバラツキ判定部を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムは、上述した発明において、判定手段は、座金とプレートのマーキング角度の差が所定の角度以上である場合には、共回りが生じていると判定する共回り判定部を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムは、上述した発明において、判定手段は、高力ボルトとプレートのマーキング角度の差が所定の角度以上である場合には、軸回りが生じていると判定する軸回り判定部を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る高力ボルト締付け状態の検知方法は、プレートに座金およびナットを介して締付けた高力ボルトの締付け状態を、それぞれに締付け前に施されたマーキングを用いて検知する方法であって、プレートに対する座金とナットと高力ボルトの締付け状態を撮影する撮影ステップと、撮影した画像に基づいて、プレートと座金とナットと高力ボルトのそれぞれに施されたマーキングについてのマーキング角度を検出するマーキング角度検出ステップと、検出したマーキング角度に基づいて、締付け状態を判定する判定ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る高力ボルト締付け状態の検知システムによれば、プレートに座金およびナットを介して締付けた高力ボルトの締付け状態を、それぞれに締付け前に施されたマーキングを用いて検知するシステムであって、プレートに対する座金とナットと高力ボルトの締付け状態を撮影する撮影手段と、撮影した画像に基づいて、プレートと座金とナットと高力ボルトのそれぞれに施されたマーキングについてのマーキング角度を検出するマーキング角度検出手段と、検出したマーキング角度に基づいて、締付け状態を判定する判定手段とを備えるので、例えば、共回りや軸回りなど高力ボルト締付け状態を検知することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムによれば、マーキング角度検出手段は、撮影した画像における高力ボルトのピンテール破断面に基づいて高力ボルトの中心軸線を算出し、算出した中心軸線からの距離に基づいてボルトとナットと座金とプレートを検出するとともにマーキング角度を検出するので、マーキング角度を精度良く検出することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムによれば、撮影手段は、複数の高力ボルトの締付け状態を同時に撮影し、マーキング角度検出手段は、複数の高力ボルトについてマーキング角度を検出し、判定手段は、複数の高力ボルトについて締付け状態を判定するので、複数の高力ボルトの締付け状態を迅速に判定することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムによれば、判定手段は、個々の高力ボルトについてプレートのマーキング角度とナットのマーキング角の差を算出するとともに全体の平均値を算出し、算出した全数の平均値と個々の高力ボルトにおけるマーキング角度の差が所定の角度以上である場合には、ナット回転角のバラツキが所定の規定範囲を超えていると判定するナット回転角のバラツキ判定部を有するので、ナット回転角のバラツキを効率的に判定することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムによれば、判定手段は、座金とプレートのマーキング角度の差が所定の角度以上である場合には、共回りが生じていると判定する共回り判定部を有するので、共回りを効率的に判定することができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムによれば、判定手段は、高力ボルトとプレートのマーキング角度の差が所定の角度以上である場合には、軸回りが生じていると判定する軸回り判定部を有するので、軸回りを効率的に判定することができるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明に係る高力ボルト締付け状態の検知方法によれば、プレートに座金およびナットを介して締付けた高力ボルトの締付け状態を、それぞれに締付け前に施されたマーキングを用いて検知する方法であって、プレートに対する座金とナットと高力ボルトの締付け状態を撮影する撮影ステップと、撮影した画像に基づいて、プレートと座金とナットと高力ボルトのそれぞれに施されたマーキングについてのマーキング角度を検出するマーキング角度検出ステップと、検出したマーキング角度に基づいて、締付け状態を判定する判定ステップとを備えるので、例えば、共回りや軸回りなど高力ボルト締付け状態を検知することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明に係る高力ボルト締付け状態の検知システムおよび方法の実施の形態を示す概略ブロック図である。
【
図2】
図2は、検知するエリアを示す写真図である。
【
図3】
図3は、マーキング角度検出フローを示す図である。
【
図4】
図4は、ナット回転角のバラツキ判定フローを示す図である。
【
図7】
図7は、高力ボルト本締め後の状態を示したものであり、(1)は軸回り、(2)は正常、(3)は共回りである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る高力ボルト締付け状態の検知システムおよび方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0024】
本発明に係る高力ボルト締付け状態の検知システムは、ガセットプレート(プレート)に座金およびナットを介して締付けた高力ボルトの締付け状態を、それぞれに締付け前に施されたマーキングを用いて検知するシステムである。
図1に示すように、本発明に係る高力ボルト締付け状態の検知システム10は、プレートに対する座金とナットと高力ボルトの締付け状態を撮影するカメラからなる撮影手段12と、撮影した画像に基づいて、プレートと座金とナットと高力ボルトのそれぞれに施されたマーキングについてのマーキング角度を検出するマーキング角度検出手段14と、検出したマーキング角度に基づいて、締付け状態を判定する判定手段16とを備える。
【0025】
マーキング角度検出手段14、判定手段16は、例えば各種演算処理機能を有するコンピュータとデータベースを用いて構成することができる。判定手段16は、ナット回転角のバラツキ判定部18と、共回り判定部20と、軸回り判定部22とを有する。
【0026】
(各部マーキング角度の検出)
次に、マーキング角度検出手段14による各部マーキング角度の検出フローについて説明する。
【0027】
図3は、マーキング角度検出フローを示した図である。このフローでは、撮影手段12のカメラで撮影した画像を解析処理することにより、ボルト軸、ナット、座金、プレートのマーキング角度を検出する。
【0028】
まず、
図2に示すように、予めマーキングされた高力ボルトを本締めした後に、検知対象の検査エリアRを撮影手段12のカメラで撮影し、カラー画像を取得する(ステップS11)。図の例では、検査エリアRのプレートに、格子点状に配置した4×9=36個の複数の高力ボルトが本締めしてある。
【0029】
次に、
図3に示すように、取得したカラー画像を周知の画像解析処理方法によって解析し、ガセットプレートおよび高力ボルトの位置関係を検出する。また、予めデータベース等に記録してある設計寸法と比較することにより変形量を算出するとともに、撮影時のカメラ本体の姿勢からカメラ位置を算出する(ステップS12)。なお、カメラ本体の姿勢は、本体に備わるIMU(慣性計測装置)などの姿勢センサにより取得することが可能である。
【0030】
次に、ピンテール破断面を色識別して、各ボルト断面の変形量を考慮して楕円で形状を近似し、ボルト位置を特定する(ステップS13)。高力ボルトのピンテール破断面は、プレート面から最も離れた位置にあるので、他の対象物の陰にならないで切断面全体の写真を撮影できる。また、ピンテールが破断した直後の切断面の色はバラツキが少なく、予めデータベース等に記録してあるピンテール破断面の色見本で識別するのに適している。
【0031】
次に、画像解析によって楕円の長辺と短辺を検知し、それらの交点を各ボルト中心位置として算出する(ステップS14)。
【0032】
次に、予めデータベース等に記録してあるボルトの配列位置データから各ボルト中心位置を算出し、各ボルト中心位置を補正する(ステップS15)。
【0033】
次に、予めデータベース等に記録してあるボルト・ナット・座金の3次元形状と寸法データを重ね合わせることにより、各ボルト中心軸線を算出する(ステップS16)。
【0034】
次に、各ボルト中心軸線からの距離により、ボルト、ナット上部、ナット側部、座金上部、座金側部、プレート部を識別し、各部のマーキング角度を検出する(ステップS17)。
【0035】
なお、上記のステップS14〜S17において、カメラ本体の撮影位置と姿勢は個々のボルトにより異なるので、個別に算出する。
【0036】
(ナット回転角のバラツキ判定)
次に、ナット回転角のバラツキ判定部18によるナット回転角のバラツキ判定フローについて説明する。
【0037】
図4は、ナット回転角のバラツキ判定フローを示したものである。この図に示すように、ボルト中心軸線からの距離により、ボルト、ナット上部、ナット側部、座金上部、座金側部、プレートのマーキング角度を検出した後に(ステップS21)、ナット回転角のバラツキ判定部18は、プレートのマーキング角度とナット上部またはナット側部のマーキング角の差Aをボルト全数について算出する(ステップS22)。Aの平均値と個々のボルトのAとの差が所定角度(例えば±30度)以内であるかを判定し(ステップS23、S24)、この条件を満たさない場合は、ナット回転角のバラツキが所定の規定範囲を超えていると判定し、例えばコンピュータに備わるモニタやスピーカなどを介してそれを表すアラームを出す(ステップS25)。
【0038】
(共回りの判定)
次に、共回り判定部20による共回り判定フローについて説明する。
【0039】
図5は、共回り判定フローを示したものである。この図に示すように、ボルト中心軸線からの距離により、ボルト、ナット上部、ナット側部、座金上部、座金側部、プレートのマーキング角度を検出した後に(ステップS31)、共回り判定部20は、座金上部、または座金側部とプレートのマーキング角度の差が±X度以内であるかを判定する(ステップS32、S33)。判定値Xは検査ごとに設定する。この条件を満たさない場合は、共回りと判定し、例えばコンピュータに備わるモニタやスピーカなどを介して共回りを示すアラームを出す(ステップS34)。
【0040】
(軸回りの判定)
次に、軸回り判定部22による軸回り判定フローについて説明する。
【0041】
図6は、軸回り判定フローを示したものである。この図に示すように、ボルト中心軸線からの距離により、ボルト、ナット上部、ナット側部、座金上部、座金側部、プレートのマーキング角度を検出した後に(ステップS41)、軸回り判定部22は、ボルトとプレートのマーキング角度の差が±Y度以内であるかを判定する(ステップS42、S43)。判定値Yは検査ごとに設定する。この条件を満たさない場合は、軸回りと判定し、例えばコンピュータに備わるモニタやスピーカなどを介して軸回りを示すアラームを出す(ステップS44)。
【0042】
このように、本実施の形態によれば、高力ボルト本締め後の共回りや軸回りなどの状態をその場ですぐに検知できる。また、1回の撮影で複数の高力ボルトやナットの状態を同時に検知できる。また、対象物に対する撮影角度や拡大率を調整して画像データを取り直すことで、検知精度を向上させることができる。
【0043】
以上説明したように、本発明に係る高力ボルト締付け状態の検知システムによれば、プレートに座金およびナットを介して締付けた高力ボルトの締付け状態を、それぞれに締付け前に施されたマーキングを用いて検知するシステムであって、プレートに対する座金とナットと高力ボルトの締付け状態を撮影する撮影手段と、撮影した画像に基づいて、プレートと座金とナットと高力ボルトのそれぞれに施されたマーキングについてのマーキング角度を検出するマーキング角度検出手段と、検出したマーキング角度に基づいて、締付け状態を判定する判定手段とを備えるので、例えば、共回りや軸回りなど高力ボルト締付け状態を検知することができる。
【0044】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムによれば、マーキング角度検出手段は、撮影した画像における高力ボルトのピンテール破断面に基づいて高力ボルトの中心軸線を算出し、算出した中心軸線からの距離に基づいてボルトとナットと座金とプレートを検出するとともにマーキング角度を検出するので、マーキング角度を精度良く検出することができる。
【0045】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムによれば、撮影手段は、複数の高力ボルトの締付け状態を同時に撮影し、マーキング角度検出手段は、複数の高力ボルトについてマーキング角度を検出し、判定手段は、複数の高力ボルトについて締付け状態を判定するので、複数の高力ボルトの締付け状態を迅速に判定することができる。
【0046】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムによれば、判定手段は、個々の高力ボルトについてプレートのマーキング角度とナットのマーキング角の差を算出するとともに全体の平均値を算出し、算出した全数の平均値と個々の高力ボルトにおけるマーキング角度の差が所定の角度以上である場合には、ナット回転角のバラツキが所定の規定範囲を超えていると判定するナット回転角のバラツキ判定部を有するので、ナット回転角のバラツキを効率的に判定することができる。
【0047】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムによれば、判定手段は、座金とプレートのマーキング角度の差が所定の角度以上である場合には、共回りが生じていると判定する共回り判定部を有するので、共回りを効率的に判定することができる。
【0048】
また、本発明に係る他の高力ボルト締付け状態の検知システムによれば、判定手段は、高力ボルトとプレートのマーキング角度の差が所定の角度以上である場合には、軸回りが生じていると判定する軸回り判定部を有するので、軸回りを効率的に判定することができる。
【0049】
また、本発明に係る高力ボルト締付け状態の検知方法によれば、プレートに座金およびナットを介して締付けた高力ボルトの締付け状態を、それぞれに締付け前に施されたマーキングを用いて検知する方法であって、プレートに対する座金とナットと高力ボルトの締付け状態を撮影する撮影ステップと、撮影した画像に基づいて、プレートと座金とナットと高力ボルトのそれぞれに施されたマーキングについてのマーキング角度を検出するマーキング角度検出ステップと、検出したマーキング角度に基づいて、締付け状態を判定する判定ステップとを備えるので、例えば、共回りや軸回りなど高力ボルト締付け状態を検知することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明に係る高力ボルト締付け状態の検知システムおよび方法は、例えば高力ボルト本締め後の状態を検知するのに有用であり、特に、共回りや軸回りなど高力ボルト締付け状態を検知するのに適している。
【符号の説明】
【0051】
10 高力ボルト締付け状態の検知システム
12 撮影手段
14 マーキング角度検出手段
16 判定手段
18 ナット回転角のバラツキ判定部
20 共回り判定部
22 軸回り判定部