特許第6877143号(P6877143)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6877143-インフルエンザワクチンおよび治療 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877143
(24)【登録日】2021年4月30日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】インフルエンザワクチンおよび治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/145 20060101AFI20210517BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20210517BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20210517BHJP
   C07K 14/11 20060101ALN20210517BHJP
   C07K 16/10 20060101ALN20210517BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20210517BHJP
【FI】
   A61K39/145
   A61K39/39
   A61K39/395 D
   A61K39/395 S
   A61P31/16
   !C07K14/11ZNA
   !C07K16/10
   !C07K16/46
【請求項の数】6
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2016-544041(P2016-544041)
(86)(22)【出願日】2014年9月21日
(65)【公表番号】特表2016-531934(P2016-531934A)
(43)【公表日】2016年10月13日
(86)【国際出願番号】US2014056703
(87)【国際公開番号】WO2015042498
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2017年9月7日
【審判番号】不服2019-10864(P2019-10864/J1)
【審判請求日】2019年8月16日
(31)【優先権主張番号】61/881,325
(32)【優先日】2013年9月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516084941
【氏名又は名称】エンゲン・バイオ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ENGEN BIO, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルフェニト,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ベーア,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ブチャー,ドリス
【合議体】
【審判長】 原田 隆興
【審判官】 齋藤 恵
【審判官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平4−500221(JP,A)
【文献】 特表2013−506682(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/120564(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K39/00
CAplus(STN)
MEDLINE(STN)
BIOSIS(STN)
EMBASE(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列番号2の6番目から24番目のアミノ酸を含む、配列番号2のアミノ酸配列由来の30〜38個の連続したアミノ酸、または、
(ii)配列番号3〜15、18〜33および35のいずれかのアミノ酸配列
からなるポリペプチドを含むインフルエンザワクチンであって、
ここにおいて前記インフルエンザワクチンは、インフルエンザに対する中和抗体に関する体液応答を誘導することができる、インフルエンザワクチン。
【請求項2】
アジュバントをさらに含む、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
ヒトにインフルエンザウイルス感染に対するワクチンを接種する方法に用いるためのものである、請求項1に記載のワクチン。
【請求項4】
前記ワクチンはB細胞応答を生じさせる、請求項3に記載のワクチン。
【請求項5】
前記ワクチンはメモリー免疫応答を生じさせる、請求項3に記載のワクチン。
【請求項6】
投与することが、硬膜内注射、皮下注射、静脈内注射、経口投与、粘膜投与、鼻腔内投与、または肺投与により実施される、請求項3に記載のワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2013年9月23日に出願された米国仮出願第61/881,325号の恩典を主張し、その米国仮出願の内容は、全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0002】
配列のリスト、表、またはコンピュータプログラムの参照
配列リストの公式コピーは、EFS−Webを介してASCII形式テキストファイルとして本明細書と同時に提出され、ファイル名は「Engn0005_25.txt」、作成日は2014年9月21日、サイズは11キロバイトである。EFS−Webを介して提出された配列リストは、本明細書の一部であり、全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0003】
発明の分野
この発明は、M1ポリペプチド、M1ポリペプチドを含有するワクチン、M1ポリペプチドに結合する抗体、およびその抗体を用いるインフルエンザ治療に関する。本発明の抗体およびポリペプチドはまた、診断にも用いることができる。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
インフルエンザは、呼吸器飛沫感染によって広がるインフルエンザウイルスによって引き起こされる急性伝染性呼吸器疾患である。無併発性インフルエンザは、通常1週間以内に回復する全身および呼吸器の症状の突然の発症によって特徴づけられる。人によっては、インフルエンザは、現存する病状を悪化させ、生命を危うくする合併症をもたらし得る。インフルエンザウイルスは、世界中で最も広範に分布するウイルスの1つであり、ヒト、イヌ、トリ、コウモリ、および家畜を冒す。インフルエンザはまた、高齢者および幼児に著しい打撃を与える。結果として、インフルエンザは、重大である、経済的負担、罹患、およびさらに死亡を生じる。
【0005】
インフルエンザウイルスは、エンベロープをもったマイナス鎖RNAウイルスであり、分節ゲノムを有し、オルトミクソウイルス科に属する。それらは、それらのコアタンパク質に基づいて3つの別個の型:A、B、およびCへ分類される(Cox,N.J.and Fukuda K.,Influenza.Infect.Dis.Clin.North Am.12:27−38,1998、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)。インフルエンザA型ウイルスは、哺乳類種および鳥類種の範囲に感染することができ、B型(宿主範囲ヒトおよびアザラシ科)およびC型は、本質的に人間に限定される。インフルエンザA型およびB型ウイルスが、主にヒト疾患の原因であり、A型が最も病原性が高い。インフルエンザA型およびB型ウイルスの主要な抗原決定基は、2つの表面糖タンパク質:ノイラミニダーゼ(NA)およびヘマグルチニン(HA)であり、どちらも人間において免疫応答を誘発する能力がある。HAは、受容体結合および膜融合に関与する。NAは、ウイルス子孫の感染細胞からの切断を促進し、ウイルス凝集を防ぎ、粘膜の気道上皮を通っての移動を助ける。
【0006】
インフルエンザウイルスの3つの型(A型、B型、およびC型)が現在知られており、A型ウイルスは動物およびヒトの病的状態の原因であり、一方、B型およびC型ウイルスは、特にヒトに対して病原性である。A型ウイルスは、ウイルスエンベロープの主要な糖タンパク質であるヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)の抗原構造により亜型へ細分される。HAの18種の亜型(H1〜H18)およびNAの9種の亜型(N1〜N11)が目立つ。したがって、A型ウイルスの亜型は、ウイルスエンベロープに存在するHA亜型およびNA亜型によって定義される。野生のトリおよびコウモリは、全てのインフルエンザA型亜型の保有宿主となる。インフルエンザウイルスA型のある特定の亜型は、飼い慣らされたトリ(H5N1およびH9N2を含む様々な亜型)、ウマ(主にH3N8)、ブタ(主にH1N1、H3N2、およびH1N2)、およびまたヒト(主にH1N1およびH3N2)に地方病的に、または流行的(毎年の流行)に感染する。イヌ、ネコ、および他の野生種もまた、たまに、ある特定の亜型(イヌにおいてH3N8およびH5N1;ネコにおいてH5N1)に感染し得る。
【0007】
パンデミック間期のインフルエンザワクチンは、受精した雌鳥の卵内で成長するウイルスから調製され、不活性化インフルエンザワクチンか、または弱毒化生インフルエンザワクチンのいずれかである。不活性化インフルエンザワクチンは、3つの可能な型の抗原調製物:不活性化されたウイルス全体、脂質エンベロープを可溶化する界面活性剤もしくは他の試薬で精製ウイルス粒子が破壊されているサブビリオン(いわゆる「スプリット」ワクチン)、または精製されたHAおよびNA(サブユニットワクチン)で構成される。これらの不活性化ワクチンは、現在、筋肉内に(i.m.)、皮下に(s.c)、または鼻腔内に(i.n.)与えられる。世界保健機関(WHO)推奨に従って、季節性インフルエンザワクチンは、通常、3つの同時循環するヒト株由来の(一元放射免疫拡散法(SRD)によって測定された場合(Wood,J.M.ら,「An improved single radial immunodiffusion technique for the assay of influenza hemagglutinin antigen:adaptation for potency determination of inactivated whole virus and subunit vaccines」,J.Biol.Stand.5:237−247,1977;Wood,J.M.ら,「International collaborative study of single radial diffusion and Immunoelectrophoresis techniques for the assay of hemagglutinin antigen of influenza virus」,J.Biol.Stand.9:317−330,1981;両方の刊行物は、全体として参照により本明細書に組み入れられている))45μgのHA抗原を含有する。それらは、一般的に、2つのインフルエンザA型ウイルス株および1つのインフルエンザB型株(例えば、H1N1、H3N2、およびB)に由来した抗原を含有する。たいていの場合、標準0.5mlの注射用用量は、各株由来の(少なくとも)15μgのヘマグルチニン抗原構成要素を含有する。ワクチン接種は、毎年のインフルエンザ流行を制御することにおいて重要な役割を果たす。さらに、パンデミック中においては、抗ウイルス薬が、ニーズをカバーするのに十分または効果的ではあり得ず、インフルエンザのリスクがある個体の数は、パンデミック間期より、多いだろう。大量に製造される潜在能力をもち、かつ効率的な配布および投与の潜在能力をもつ、長持ちする広範囲防御性ワクチンの開発が本発明の目的である。
【0008】
インフルエンザウイルスは、米国において、毎年、何百万人にも感染し、200,000人を超える入院および20,000人の死亡をもたらしている。加えて、インフルエンザの致死性株が時々生じ(例えば、1918年のスペイン風邪)、処置の有効な手段はほとんどない。季節性インフルエンザワクチンは、原因となる株がワクチン製剤化の時点から変化していないとの条件で、いくらかの防御を与える。ヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼの表面発現したウイルスタンパク質の高変異性は、毎年、組成変更を余儀なくする。集団は、有効な防御のために毎年、再免疫化されるべきである。この必要性は、製造の費用が高くつき、かつ利用能がワクチンの各ウイルス構成要素に対する力価に依存する(最高4つの異なるウイルスが現在のワクチンを構成する)ことを意味する。
【0009】
鶏卵よりむしろ、抗原作製の組換え細胞培養方法が、現在、用いられており、2つのワクチン製造物が最近、FDAに認可されている。Flucelvaxは、哺乳類細胞培養により作製された組換えウイルス調製物(3つの不活性化ウイルス)である。Flubloc(登録商標)は、昆虫細胞培養により作製された組換えHAワクチン(3つの異なるHAタンパク質)である。これらの製造物は、ワクチン供給の問題を解決することを目指しているが、HAに基づいたワクチンに関連している抗原ドリフトの課題に取り組んでいない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Cox,N.J.and Fukuda K.,Influenza.Infect.Dis.Clin.North Am.12:27−38,1998
【非特許文献2】Wood,J.M.ら,「An improved single radial immunodiffusion technique for the assay of influenza hemagglutinin antigen:adaptation for potency determination of inactivated whole virus and subunit vaccines」,J.Biol.Stand.5:237−247,1977
【非特許文献3】Wood,J.M.ら,「International collaborative study of single radial diffusion and Immunoelectrophoresis techniques for the assay of hemagglutinin antigen of influenza virus」,J.Biol.Stand.9:317−330,1981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
来る年も来る年も効力を維持するだろう新しいインフルエンザワクチンを提供することにより毎年のインフルエンザワクチン開発のニーズと費用を克服することがこの発明の目的である。新しいインフルエンザ株に対する防御を提供するだろうインフルエンザワクチンを提供することも本発明の目的である。インフルエンザにすでに感染した個体を処置するための、または個体の予防的処置のためのインフルエンザ治療を提供することは本発明のさらなる目的である。
【0012】
M1ポリペプチドに結合する抗体または抗体断片を含む組成物を用いて、感染患者においてインフルエンザ感染の重症度を低下させ、および/またはインフルエンザに感染した患者においてインフルエンザ症状の持続期間を低減することもまた本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、インフルエンザのM1タンパク質の一部に対応するポリペプチドに関する。これらのポリペプチドは、M1タンパク質のC末端領域由来のM1配列に対応する。実施形態において、インフルエンザウイルス上で表面に露出しているM1ポリペプチド配列のC末端部分が、免疫防御の標的である。実施形態において、そのポリペプチドは、M1タンパク質のC末端部分のアミノ酸残基215〜252のスパン内にある。実施形態において、そのポリペプチドは、M1タンパク質のアミノ酸残基215〜241のスパン内にある。別の実施形態において、M1タンパク質のアミノ酸残基220〜238のスパン内にある。実施形態において、M1ポリペプチドは、M1タンパク質の残基215〜252のスパン中に見出されるM1ポリペプチドの7〜37個の連続したアミノ酸を含む。実施形態において、M1ポリペプチドは、少なくとも15〜50個のアミノ酸を含む。実施形態において、M1ポリペプチドは、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、および/または50個のアミノ酸を含む。実施形態において、M1ポリペプチドは、インフルエンザに罹りやすい生物体において防御的/治療的免疫応答を生じさせるために用いられる。実施形態において、生物体は、ヒト、イヌ、または商業的価値のある家畜である。実施形態において、生物体は、ヒトである。実施形態において、M1ポリペプチド組成物は、前記M1ポリペプチドに対して、体液性免疫応答、CD4 T細胞免疫応答などのT細胞免疫応答、およびB細胞メモリー応答のうちの少なくとも1つを誘導する能力がある。
【0014】
本発明はまた、本発明のM1ポリペプチド配列に特異的な抗体に関する。実施形態において、抗M1ポリペプチド抗体は、インフルエンザウイルスに感染し、または感染する可能性がある生物体においてインフルエンザの処置および/または防止のために用いられる。実施形態において、生物体は、ヒト、イヌ、または商業的価値のある家畜である。実施形態において、生物体は、ヒトである。実施形態において、生物体の抗M1ポリペプチド抗体での処置が、インフルエンザ症状の重症度および/またはインフルエンザ症状の期間を低下させる。
【0015】
実施形態において、抗M1ポリペプチド抗体は、生物体の処置において、インフルエンザの感染を防止するために、またはインフルエンザの将来の感染を寛解させるために用いられる。実施形態において、生物体は、ヒト、イヌ、または商業的価値のある家畜である。実施形態において、生物体は、ヒトである。実施形態において、抗M1ポリペプチド抗体は、生物体において受動免疫を発生させるように予防的に用いられる。
【0016】
実施形態において、抗M1ポリペプチド抗体は、生物体において、1〜4週間またはそれ以上の半減期を有する。実施形態において、抗M1ポリペプチド抗体は、生物体において、2週間の半減期を有する。実施形態において、抗M1ポリペプチド抗体により生物体において発生した受動免疫は、少なくとも半減期の2〜3倍の間、持続する。実施形態において、抗M1ポリペプチド抗体により生物体において発生した受動免疫は、1〜6週間、または2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、もしくは6ヶ月間、持続する。
【0017】
実施形態において、抗M1ポリペプチド抗体は、4〜12週間の半減期を有するように操作される。実施形態において、抗M1ポリペプチド抗体は、キメラであり、ヒト化されており、もしくはヒューマニア化(humaneered)(登録商標)されており、またはヒト抗体である。実施形態において、抗M1ポリペプチド抗体は、生物体において半減期を増加させる分子とコンジュゲートされる。実施形態において、抗M1ポリペプチド抗体は、抗体の半減期を増加させるためにポリエチレングリコールまたは別の適切な重合体とコンジュゲートされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】2B−B10−G9によるPR/8のプラーク阻害アッセイを示す。
図2】2B−B10−G9による追加のインフルエンザ株のプラーク阻害アッセイを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、例として説明され、限定として説明されるのではない。
【0020】
定義
本明細書で用いられる場合、「抗体」は、結合性タンパク質と機能的に定義され、かつ免疫グロブリンコード遺伝子のフレームワーク領域に由来すると認識されているアミノ酸配列を含むと構造的に定義されるタンパク質を指す。抗体は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子の断片により実質的にコードされる1つまたは複数のポリペプチドからなり得る。認識されている免疫グロブリン遺伝子には、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、およびミュー定常領域遺伝子、加えて無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかとして分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンとして分類され、それらは、次に、それぞれ、免疫グロブリンクラスIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを定義する。
【0021】
典型的なガンマ免疫グロブリン(抗体)構造ユニットは、4量体を構成することが知られている。各4量体は、ポリペプチド鎖の2つの同一のペアで構成され、各ペアは、1つの「軽」鎖(約25kD)および1つの「重」鎖(約50〜70kD)を有する。各鎖のN末端は、主に抗原認識に関与する約100〜110個またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を定義する。可変軽鎖(V)および可変重鎖(V)という用語は、それぞれ、これらの軽鎖および重鎖を指す。
【0022】
抗体は、無傷の免疫グロブリンとして、またはいくつかの十分特徴づけられた断片として存在する。したがって、例えば、ペプシンは、抗体を、ヒンジ領域におけるジスルフィド結合より下で消化し、F(ab)’(それ自体、天然ではジスルフィド結合によってVH−CH1−ヒンジに連結された軽鎖であるFab’の2量体)を生じる。F(ab)’は、穏やかな条件下で還元されて、ヒンジ領域においてジスルフィド結合を切断され得、それにより、F(ab)’2量体をFab’単量体へ変換させる。Fab’単量体は、本質的に、ヒンジ領域の部分を有するFabである(他の抗体断片のより詳細な説明については、Fundamental Immunology,W.E.Paul編,Raven Press,N.Y.(1993)を参照)。様々な抗体断片が無傷抗体の消化に関して定義されているが、断片が、化学的か、または組換えDNA方法論を利用することによるかのいずれかで新規に合成され得ることを当業者は理解しているだろう。したがって、本明細書で用いる場合、抗体という用語はまた、抗体全体の改変により作製されたか、または組換えDNA方法論を用いて合成されたかのいずれかの抗体断片を含む。好ましい抗体には、可変重鎖領域と可変軽鎖領域が(直接的に、またはペプチドリンカーを通して)一緒に連結されて連続したポリペプチドを形成している一本鎖Fv抗体(sFvまたはscFv)などの一本鎖抗体(単一のポリペプチド鎖として存在する抗体)を含む、V−V2量体が挙げられる。一本鎖Fv抗体は、直接的に連結されたか、またはペプチドコード化リンカーにより連結されたかのいずれかの、Vコード化配列およびVコード化配列を含む核酸から発現し得る共有結合性に連結されたV−Vヘテロ2量体である(例えば、Hustonら,Proc.Nat.Acad.Sci.USA.85:5879−5883,1988、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)。VとVは、単一のポリペプチド鎖としてそれぞれに接続されているが、VドメインとVドメインは非共有結合性に会合している。あるいは、抗体は、別の断片であり得る。他の断片もまた、組換え技術を用いることを含め、作製することができる。例えば、Fab分子は、鎖のうちの1つ(重鎖または軽鎖)がg3キャプシドタンパク質に融合しているならば、ファージ上にディスプレイされ得、その補完的な鎖が可溶性分子としてペリプラズムに搬出され得る。その2つの鎖は、同じレプリコン上、または異なるレプリコン上でコードされ得る;各Fab分子における2つの抗体鎖は、翻訳後に集合し、その2量体が、鎖のうちの1つのg3pへの結合を介してファージ粒子へ組み込まれる(例えば、米国特許第5,733,743号参照、それは、全体として参照により本明細書に組み入れられている)。scFv抗体、ならびに天然では凝集しているが、化学的に分離した、抗体V領域由来の軽鎖および重鎖のポリペプチド鎖を、抗原結合部位の構造に実質的に類似した3次元構造に折り畳む分子へ変換する、いくつかの他の構造は、当業者に知られている(例えば、米国特許第5,091,513号;第5,132,405号;および第4,956,778号;それらの全ては全体として参照により本明細書に組み入れられている)。特に好ましい抗体には、ファージ上にディスプレイされており、または鎖が可溶性タンパク質として分泌されるベクターを用いる組換えテクノロジーにより作製されているもの全てが挙げられ、例えば、scFv、Fv、Fab、F(ab)’である。抗体にはまた、ダイアボディおよびミニボディを挙げることができる。
【0023】
本発明の抗体には、ラクダ科動物由来の抗体などの重鎖2量体も挙げられる。ラクダ科動物における重鎖2量体IgGのV領域は、軽鎖と疎水性相互作用を生じる必要がないので、普通には軽鎖と接触する重鎖における領域が、ラクダ科動物において親水性アミノ酸残基に変化している。重鎖2量体IgGのVドメインは、VHHドメインと呼ばれる。
【0024】
ラクダ科動物において、抗体レパートリーの多様性は、VまたはVHH領域における相補性決定領域(CDR)1、2、および3によって決定される。ラクダVHH領域におけるCDR3は、平均して16個のアミノ酸であるそれの相対的に長い長さによって特徴づけられる(Muyldermansら,Protein Engineering 7(9):1129,1994、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)。これは、多くの他の種の抗体のCDR3領域と対照的である。例えば、マウスVのCDR3は、平均9個のアミノ酸を有する。
【0025】
ラクダ科動物の可変領域のインビボ多様性を維持するラクダ科動物由来の抗体可変領域のライブラリーは、例えば、2005年2月17日に公開された米国特許出願公開第US20050037421号(それは、全体として参照により本明細書に組み入れられている)に開示された方法により作製することができる。
【0026】
抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)は、抗体の作用の重要な機構である。ADCCは、いくつかの方法によって増強され得、それらの多くは、Fc−受容体結合が向上した最終産物抗体に関わる。抗体Fc領域におけるアミノ酸置換は、NK細胞上のFcγRIIIa受容体に対するFc結合親和性を増加させ(Natsumeら,Drug Design,Development and Therapy,2009,3巻,pp.7−16、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)、かつADCC活性を向上させることが示されている。ADCCを向上させるための別の方法は、抗体グリコシル化の糖組成を変化させることである。これは、フコース残基を欠く抗体、すなわち、「非フコシル化(a−fucosylated)」または「脱フコシル化(de−fucosylated)」抗体を作製することにより行われる。1つの方法は、フコースが抗体に付加することができないように抗体のグリコシル化部位を変化させること/修飾することを含む(米国特許第6,194,551号、2001年2月27日)。別の方法は、例えば、任意の他の手段によるフコースの酵素的分解または除去により、抗体上の既存のフコースを除去することである。別の方法は、例えば、フコシルトランスフェラーゼ活性の抑制または欠失により、フコースが抗体に転移または付加することができないような宿主発現系の遺伝子操作を含む(米国特許出願公開第20070134759号、2007年6月14日;および第20080166756号、2008年7月10日、それらのどちらも全体として参照により本明細書に組み入れられている)。
【0027】
本明細書で用いられる場合、用語「天然に存在する」とは、構成要素が、組換え手段により変更されなかった単一の遺伝子、および生物体において既存する、例えば、抗原に曝露されたナイーブ細胞から作製された抗体ライブラリーにおける単一の遺伝子によりコードされていることを意味する。
【0028】
本明細書で用いられる場合、用語「抗原」は、適切な条件下で、特異的な免疫応答を誘導する能力があり、かつその応答の産物、例えば、特異的抗体もしくは特異的に感作されたTリンパ球、または両方と反応する能力がある物質を指す。抗原は、毒素および外来タンパク質などの可溶性物質、または細菌および組織細胞などの微粒子であり得る;しかしながら、抗原決定基(エピトープ)として知られたタンパク質または多糖分子の部分だけが抗体またはリンパ球上の特定の受容体と結合する。さらに広い意味では、用語「抗原」は、抗体が結合し、または抗体が望まれる任意の物質を指し、その物質が免疫原性であるかどうかに関わらない。そのような抗原について、抗体は、いかなる免疫応答とも無関係に、組換え方法により同定され得る。
【0029】
本明細書で用いられる場合、用語「エピトープ」は、特異的なB細胞および/またはT細胞が応答する抗原またはハプテン上の部位を指す。その用語はまた、「抗原決定基」または「抗原決定部位」と交換可能に用いられる。エピトープには、抗体の可変領域結合ポケットと相互作用する結合性相互作用を形成する能力がある抗原または他の高分子のその部分が挙げられる。
【0030】
本明細書で用いられる場合、抗体の「結合特異性」という用語は、抗体が結合する抗原のアイデンティティ、好ましくは、抗体が結合するエピトープのアイデンティティを指す。
【0031】
本明細書で用いられる場合、用語「キメラポリヌクレオチド」は、ポリヌクレオチドが、野生型である領域と、変異している領域とを含むことを意味する。それはまた、ポリヌクレオチドが、1つのポリヌクレオチド由来の野生型領域と、別の関連したポリヌクレオチド由来の野生型領域とを含むことも意味する。
【0032】
本明細書で用いられる場合、用語「相補性決定領域」または「CDR」は、KabatおよびChothiaによって例示されているような当技術分野に認識されている用語を指す。CDRはまた一般的に、超可変領域または超可変ループとして知られている(ChothiaおよびLesk,J Mol.Biol.196:901,1987;Chothiaら,Nature 342:877,1989;E.A.Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.)(1987);ならびにTramontanoら,J Mol.Biol.215:175,1990;全ての刊行物は全体として参照により本明細書に組み入れられている)。「フレームワーク領域」または「FR」は、CDRに隣接するVドメインの領域を指す。CDRおよびフレームワーク領域の位置は、当技術分野における様々なよく知られた定義、例えば、Kabat、Chothia、international ImMunoGeneTicsデータベース(IMGT)、およびAbM(例えば、Johnsonら、上記;ChothiaおよびLesk,「Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins」,J.Mol.Biol.196,901−917,1987;Chothia C.ら,「Conformations of immunoglobulin hypervariable regions」,Nature 342:877−883,1989;Chothia C.ら,「Structural repertoire of the human VH segments」,J.Mol.Biol.227:799−817,1992;Al−Lazikaniら,J.Mol.Biol 273(4):927−48,1997参照)を用いて決定することができる。抗原結合部位の定義もまた、以下に記載されている:Ruizら,「IMGT,the international ImMunoGeneTics database」,Nucleic Acids Res.,28:219−221,2000;Lefranc,M.−P.,「IMGT,the international ImMunoGeneTics database」,Nucleic Acids Res.29(l):207−9,2001;MacCallumら,「Antibody−antigen interactions:Contact analysis and binding site topography」,J.Mol.Biol.,262(5):732−745,1996;Martinら,Proc.Natl Acad.Sci.USA 86:9268−72,1989;Martinら,Methods Enzymol.,203:121−153,1991;Pedersenら,Immunomethods,1:126,1992;およびReesら,Sternberg M.J.E.(編),Protein Structure Prediction.Oxford University Press,Oxford,ページ141−172(1996);全ての刊行物は全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0033】
本明細書で用いられる場合、用語「ハプテン」は、タンパク質などのより大きい担体に付着した場合、生物体において免疫応答、例えば、(遊離した状態かまたは組み合わされた状態かのいずれかにおいて)それに特異的に結合する抗体の産生などを誘発することができる小分子である。「ハプテン」は、前もって形成された抗体に結合することができるが、単独で抗体発生を刺激することはできない可能性がある。この発明の関連において、用語「ハプテン」は、天然に存在するか、または天然に存在しないかのいずれかの修飾アミノ酸を含む。したがって、例えば、用語「ハプテン」は、ホスホチロシン、ホスホスレオニン、ホスホセリン、または硫酸化チロシン(スルホチロシン)、硫酸化セリン(スルホセリン)、もしくは硫酸化スレオニン(スルホスレオニン)などの硫酸化残基などの天然に存在する修飾アミノ酸を含み、またp−ニトロ−フェニルアラニンなどの天然に存在しない修飾アミノ酸を含む。
【0034】
本明細書で用いられる場合、用語「宿主細胞」は、本発明のベクターが導入され、発現し、および/または増殖し得る原核細胞または真核細胞を指す。微生物宿主細胞は、原核微生物または真核微生物の細胞であり、その微生物には、細菌、酵母、顕微鏡的真菌、ならびに真菌および粘菌の生活環における顕微鏡的相が挙げられる。典型的な原核宿主細胞には、様々な大腸菌株が挙げられる。典型的な真核宿主細胞は、酵母もしくは糸状菌、またはチャイニーズハムスター卵巣細胞、マウスNIH 3T3線維芽細胞、ヒト胎児由来腎臓193細胞、もしくは齧歯類骨髄腫もしくはハイブリドーマ細胞などの哺乳類細胞である。
【0035】
本明細書で用いられる場合、組成物またはワクチンに対する「免疫学的応答」という用語は、関心対象となる組成物またはワクチンに対する細胞性および/または抗体媒介性免疫応答の宿主における発生である。通常、「免疫学的応答」には、以下の効果のうちの1つまたは複数が挙げられるが、それらに限定されない:関心対象となる組成物またはワクチンに含まれる抗原に特異的に向けられる、抗体、B細胞、ヘルパーT細胞、および/または細胞傷害性T細胞の産生。好ましくは、宿主は、新しい感染に対する抵抗性が増強され、および/または疾患の臨床的重症度が低下するような治療的または防御的のいずれかの免疫学的応答を示すだろう。そのような防御は、感染した宿主によって通常には示される症状の低減かもしくは欠如のいずれか、より迅速な回復時間、および/または感染した宿主におけるウイルス力価の低下によって実証されるだろう。
【0036】
本明細書で用いられる場合、用語「単離された」は、核酸またはポリペプチドの天然の供給源中に存在する他の核酸またはポリペプチドからだけでなく、ポリペプチドからも分離された核酸またはポリペプチドを指し、好ましくは、(何かあるとしても)それの溶液中に通常存在する溶媒、緩衝液、イオン、または他の構成要素のみの存在下で、見出される核酸またはポリペプチドを指す。用語「単離された」および「精製された」は、天然の供給源に存在する核酸またはポリペプチドを包含しない。
【0037】
本明細書で用いられる場合、用語「精製された」は、指示された核酸またはポリペプチドが、他の生物学的高分子、例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質などの実質的非存在下で、存在することを意味する。一実施形態において、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、それが、存在する指示された生物学的高分子の少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99.8重量%を構成するように精製される(しかし、水、緩衝液、および他の小分子、特に1000ダルトン未満の分子量を有する分子は存在し得る)。
【0038】
本明細書で用いられる場合、用語「組換え核酸」は、天然で通常見出されない形をとる核酸を指す。すなわち、組換え核酸は、その核酸に天然では隣接していないヌクレオチド配列に隣接されており、または天然で通常見出されない配列を有する。組換え核酸は、最初、制限エンドヌクレアーゼによる核酸の操作によって、または代わりに、ポリメラーゼ連鎖反応のような技術を用いて、インビトロで形成することができる。いったん組換え核酸が作製され、宿主細胞または生物体へ再導入されたならば、それは非組換え的に、すなわち、インビトロ操作ではなくむしろ宿主細胞のインビボ細胞機構を用いて、複製するだろうことは理解されている;しかしながら、そのような核酸は、いったん組換え的に産生されたならば、その後は非組換え的に複製されるとしても、本発明の目的としては、なお組換えとみなされる。
【0039】
本明細書で用いられる場合、用語「組換えポリペプチド」は、組換え核酸から発現したポリペプチド、またはインビトロで化学的に合成されているポリペプチドを指す。
【0040】
本明細書で用いられる場合、用語「組換えバリアント」は、組換えDNA技術を用いて生じた、アミノ酸挿入、欠失、および置換により天然に存在するポリペプチドと異なる任意のポリペプチドを指す。酵素活性または結合活性などの関心対象となる活性を消失させることなしに、どのアミノ酸残基が置換、付加、または欠失され得るかを決定することにおけるガイダンスは、特定のポリペプチドの配列を相同ペプチドの配列と比較し、相同性の高い領域においてなされるアミノ酸配列変化の数を最小にすることにより見出され得る。
【0041】
好ましくは、アミノ酸「置換」は、あるアミノ酸を、類似した構造的および/または化学的性質を有する別のアミノ酸と置き換えること、すなわち、保存的アミノ酸置き換えの結果である。アミノ酸置換は、関わる残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の性質における類似性に基づいてなされ得る。例えば、無極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびメチオニンが挙げられ、極性天然アミノ酸には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが挙げられ、正荷電(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リシン、およびヒスチジンが挙げられ、負荷電(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。
【0042】
本明細書で用いられる場合、用語「レパートリー」または「ライブラリー」は、抗体、もしくはFab、scFv、Fd、LC、V、もしくはVなどの抗体断片、もしくは天然アンサンブルから得られる可変領域の細断片、例えば、交換カセットをコードする遺伝子のライブラリー、または、例えばヒトドナーに存在し、ならびに末梢血および脾臓の細胞から主に得られる抗体遺伝子の「レパートリー」を指す。いくつかの実施形態において、ヒトドナーは、「非免疫」である、すなわち、感染の症状を呈していない。本発明において、ライブラリーまたはレパートリーは、V領域の所与の部分の交換カセットであるメンバーを含むことが多い。Fdという用語は、Fab断片に含まれる重鎖のその部分を意味する。
【0043】
本明細書で用いられる場合、用語「合成抗体ライブラリー」は、相補性決定領域(CDR)の1つまたは複数が、例えばオリゴヌクレオチド指向突然変異誘発により部分的に、または完全に変化している、1つまたは複数の抗体またはFab、scFv、Fd、LC、V、もしくはVなどの抗体断片、または可変領域の細断片、例えば、交換カセットをコードする遺伝子のライブラリーを指す。「ランダム化」とは、CDRをコードする配列の部分または全部が、全ての20個のアミノ酸またはアミノ酸のいくつかのサブセットをランダムにコードする配列によって置き換えられていることを意味する。
【0044】
本明細書で用いられる場合、用語「多価の」とは、ワクチンが、異なるアミノ酸配列を有する、少なくとも2つのインフルエンザ単離物由来のM1ポリペプチドを含有すること、またはワクチンが、1つのインフルエンザ単離物由来のM1ポリペプチドおよびそのM1ポリペプチド単離物とは異なる、別のインフルエンザ単離物由来の抗原性調製物を含有することを意味する。
【0045】
本明細書で用いられる場合、用語「哺乳類」は、全てが毛を有し、かつそれらの子どもに乳を飲ませる温血脊椎動物を指す。
【0046】
本明細書で用いられる場合、用語「タンパク質」、「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「ポリペプチド断片」は、任意の長さのアミノ酸残基の重合体を指すために本明細書では交換可能に用いられる。重合体は、直鎖状または分岐型であり得、それは、修飾アミノ酸またはアミノ酸アナログを含んでもよく、アミノ酸以外の化学的部分によって中断されていてもよい。その用語はまた、天然で、または介入により、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または標識もしくは生物活性構成要素とのコンジュゲーションなどの任意の他の操作もしくは修飾により、修飾されているアミノ酸重合体も包含する。
【0047】
本明細書で用いられる場合、ポリヌクレオチドの部分に関して用いられる時の用語「異種性の」とは、天然では通常、お互いに同じ関係では見出されない2つ以上の部分配列を核酸が含むことを示す。例えば、核酸は、典型的には、新しい機能性核酸を生じるように配置された、例えば無関係の遺伝子由来の2つ以上の配列を有するように組換えで産生されている。同様に、「異種性」ポリペプチドまたはタンパク質は、天然ではお互いに同じ関係では見出されない2つ以上の部分配列を指す。
【0048】
単数形の用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈が明らかに他に規定しない限り、複数形の指示対象を含む。同様に、語「または」は、文脈が明らかに他に規定しない限り、「および」を含むことを意図される。抗原などの物質の濃度またはレベルに関して示された数値限定は、おおよそであることを意図される。したがって、濃度が少なくとも(例えば)200μgであることが示されている場合、その濃度は、少なくともおおよそ「約」または「約」200μgであると理解されることを意図される。
【0049】
M1ポリペプチド
本発明は、ヒト個体または集団においてインフルエンザウイルスに対して免疫応答、特に一次免疫応答を誘導する方法であって、前記方法が、本発明のM1ポリペプチドまたはその抗原性調製物を含むM1ポリペプチド組成物の投与を含む、方法に関する。実施形態において、免疫応答は、ナイーブの、免疫不全の、または以前に感染したヒト個体または集団において得られる。
【0050】
M−タンパク質またはマトリックスタンパク質、M1はインフルエンザウイルスの主要な構造的構成要素である(Zhangら,「Dissection of Influenza A Virus Ml Protein:pH−Dependent Oligomerization of N−Terminal Domain and Dimerization of C−Terminal Domain」,PLoS ONE 7(5):e37786,2012,doi:10.1371/journal.pone.0037786、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)。M遺伝子は2つのタンパク質、M1およびM2をコードする。M1タンパク質は、インフルエンザウイルスの全てのA型亜型に渡って高度に保存されており、A型亜型は、より高く臨床的に関連したインフルエンザ亜型である。M1タンパク質のC末端部分は、そのウイルス上で細胞外に露出しており、それの高い配列保存を考えれば、ユニバーサルなサブユニットワクチン免疫原として優れた標的であることを表している。
【0051】
実施形態において、標的M1ポリペプチドは、M1タンパク質のC末端におけるアミノ酸残基、具体的にはM1タンパク質のアミノ酸残基215〜252、または215〜240、または220〜238にわたる。実施形態において、M1ポリペプチドは、GTHPSSSAGLKNDLLENLQ(配列番号1)、AMRTIGTHPSSSAGLKNDLLENLQAYQKRMGVQMQRFK(配列番号2)、または7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37、および/もしくは38個のアミノ酸のこの配列由来の連続したアミノ酸からなるポリペプチドである。実施形態において、本発明のM1ポリペプチドには、例えば、A/Bangkok/163/2000(GTHPSSSTGLKNDLLENLQ)(配列番号3);A/PR/8/34(GTHPSSSAGLKNDLLENLQ)(配列番号1);A/AA/Huston/1945(GTHPSSSAGLKDDLLENLQ)(配列番号4);A/Berlin/6/2006(GTHPSSSTGLKNDLLDNLQ)(配列番号5);A/Brandenburg/1/2006(GTHPNSSTGLKNDLLENLQ)(配列番号6);A/Brevig Mission/1/1918(GTHPSSSAGLKDDLIENLQ)(配列番号7);A/Chile/8885/2001(GTHPSSSTGLKDDLLENLQ)(配列番号8);A/DaNang/DN311/2008(GTHPSSSTGLRDDLLENLQ)(配列番号9);A/FLW/1951(GTRPSSSAGLKDDLLENLQ)(配列番号10);A/FW/1/1950(GTHPRSSAGLKDDLLENLQ)(配列番号11);A/Fiji/15899/83(GTHPSSSAGLKNDLFENLQ)(配列番号12);A/Fort Monmouth/1−MA/1947(GTHPSSSAGLKDNLLENLQ)(配列番号13);A/HaNoi/TX233/2008(GTHPSSSTGLKSDLLENLQ)(配列番号14);A/Iowa/CEID23/2005(GTHPNSSTGLKDDLLENLQ)(配列番号15);A/Malaysia/35164/2006(GTHPSSSTGLKKDLLDN)(配列番号16);A/Managua/4086.04/2008(GTHPSSSNGLKNDLLEN)(配列番号17);A/Texas/VR06−0502/2007(GTHPSSSTGLRNDLLENLQ)(配列番号18);A/WSN/1933(GTHPSSSAGLKSDLLENLQ)(配列番号19);A/Colorado/18/2011(GTHPSSSAGLRDDLLENLQ)(配列番号20);A/Kentucky/04/2010(GTHPNSSAGLKDDLLENLQ)(配列番号21);A/Maryland/28/2009(GTHPSSSAGLKDDLLGNLQ)(配列番号22);A/New Mexico/05/2012(GTHPSSSSGLRNDLLENLQ)(配列番号23);A/Philippines/TMClO−135/2010(GTHPSSSAGLRDDLLDNLQ)(配列番号24);A/Singapore/GP4307/2010(GTHPSSSAGLKDDLLDNLQ)(配列番号25);A/Singapore/GP489/2010(GTHPSSSAGLKDALLENLQ)(配列番号26);A/Boston/14/2007(GTHPSSSTGLRDDLLEKLQ)(配列番号27);A/Brisbane/09/2006(GTHPSSSTGLRDNLLENLQ)(配列番号28);A/Hong Kong/CUH34175/2002(GTHPSSSNGLRDDLLENLQ)(配列番号29);A/Kyrgyzstan/WRAIR1256P/2008(GTHPSSSTGLRDDLLGNLQ)(配列番号30);A/Malaysia/12550/1997(GTHPSSSTGLRDDLLDNLQ)(配列番号31);A/Nanjing/1663/2010(GTHPSSSTGLRGDLLENLQ)(配列番号32);A/Wyoming/08/2010(GTHPSSSTGLRDDLLINLQ)(配列番号33);A/Berkeley/1/1968(GTPPSSSAGLKNDLLENLQ)(配列番号34);A/Korea/426/1968(GTPPSSSAGLKDDLLENLQ)(配列番号35)などの天然に存在する株バリアントが挙げられる。
【0052】
実施形態において、本発明のM1ポリペプチドは、M1タンパク質の220〜238由来の配列、GTHPSSSAGLKNDLLENLQ(配列番号1)、または以下の置換の1つもしくは複数を有するバリアントを含む:222におけるHがRまたはNに変化、224におけるSがRまたはNに変化、227におけるAがTまたはNに変化、230におけるKがRに変化、231におけるNがD、S、またはKに変化、232におけるDがNまたはGに変化、234におけるLがFまたはIに変化、235におけるEがD、H、またはKに変化、236におけるNがHまたはKに変化。
220 238
GTHPSSSAGLKNDLLENLQ (配列番号1)
R R T RDN FDH (配列番号36)
N N N SG IHK
K K
実施形態において、本発明のM1ポリペプチドは、以下の配列バリアントを含む:
220 238
GTXPXSSXGLXXXLXXXLQ (配列番号37)
ただし、X=任意のアミノ酸。
【0053】
本発明のM1ポリペプチドは、インフルエンザから防御する能力がある。すなわち、それらは、動物において免疫応答を刺激する能力がある。その抗原は、単独での、もしくは担体にコンジュゲートされた、もしくはスキャフォールドにおいて提示されたM1ポリペプチド;免疫原性を有する挿入断片を含有する組換えベクター;エピトープ、ハプテン、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。
【0054】
本発明のM1ポリペプチドは、M1ポリペプチドの免疫原性断片およびバリアントを包含する。したがって、用語「免疫原性または抗原性ポリペプチド」はさらに、そのポリペプチドが、本明細書で定義されているような免疫学的応答を生じさせるように機能する限り、その配列への欠失、付加、および置換を企図する。実施形態において、その断片およびバリアントは、その配列への1つまたは複数の欠失、付加、および置換を有し得る。実施形態において、その断片およびバリアントは、その配列への1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の欠失、付加、および/または置換を有し得る。実施形態において、付加および欠失は、配列の内部、カルボキシ末端、および/またはアミノ末端においてであり得、ただし、そのバリアントは、本明細書で定義されているような免疫学的応答を生じさせる能力を保持する。用語「保存的バリエーション」とは、アミノ酸残基の別の生物学的に類似した残基による置き換え、またはコードされたアミノ酸残基が変化しておらず、もしくは別の構造的に、化学的に、もしくは他の面で機能的に類似した残基へ変化しているような核酸配列におけるヌクレオチドの置き換えを表す。この点において、特に好ましい置換は、一般的に、本来、保存的であり、すなわち、アミノ酸のファミリー内で起こる置換である。例えば、アミノ酸は一般的に以下の4つのファミリーに分類される:(1)酸性−−アスパルテートおよびグルタメート;(2)塩基性−−リシン、アルギニン、ヒスチジン;(3)無極性−−アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、ならびに(4)非荷電極性−−グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、およびチロシン。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、芳香族アミノ酸として分類されることがある。保存的バリエーションの例には、イソロイシン、バリン、ロイシン、もしくはメチオニンなどの1つの疎水性残基を別の疎水性残基の代わりに用いること、または1つの極性残基を別の極性残基に代わって用いること、例えば、リシンの代わりにアルギニン、アスパラギン酸の代わりにグルタミン酸、もしくはアスパラギンの代わりにグルタミンを用いることなど;またはアミノ酸の、生物活性に重大な効果を生じないだろう構造的に関連したアミノ酸での同様の保存的置き換えが挙げられる。したがって、参照分子と実質的に同じアミノ酸配列を有するが、タンパク質の免疫原性に実質的に影響しない微量なアミノ酸置換を有するタンパク質は、参照ポリペプチドの定義内にある。これらの改変によって生じたポリペプチドの全ては、本明細書に含まれる。用語「保存的バリエーション」もまた、置換ポリペプチドに対して産生された抗体もまた非置換ポリペプチドと免疫反応するとの条件で、非置換の親アミノ酸の代わりの置換アミノ酸の使用を含む。
【0055】
「バリアント」M1ポリペプチドは、実質的に類似した配列を意味することを意図される。ポリヌクレオチドについて、バリアントは、天然ポリヌクレオチド内の1つもしくは複数の部位における1つもしくは複数のヌクレオチドの欠失および/もしくは付加、ならびに/または天然ポリヌクレオチド内の1つもしくは複数の部位における1つもしくは複数のヌクレオチドの置換を含む。本明細書で用いられる場合、「天然」ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、それぞれ、天然に存在するヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を含む。本発明の特定のポリヌクレオチド(すなわち、参照ポリヌクレオチド)のバリアントはまた、バリアントポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと、参照ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドとの間でのパーセント配列同一性の比較により評価することができる。「バリアント」タンパク質は、天然タンパク質内の1つもしくは複数の部位における1つもしくは複数のアミノ酸の欠失もしくは付加、および/または天然タンパク質内の1つもしくは複数の部位における1つもしくは複数のアミノ酸の置換により、天然タンパク質から導かれたタンパク質を意味するように意図される。本発明により包含されるバリアントタンパク質は、生物活性があり、すなわち、それらは、免疫応答を誘発する能力を有する。
【0056】
他のインフルエンザ株および亜型由来のM1ポリペプチドのホモログは、本発明の範囲内にあることを意図される。本明細書で用いられる場合、用語「ホモログ」は、アナログおよびパラログを含む。用語「アナログ」は、同じまたは類似した機能を有するが、無関係の宿主生物体において別々に進化している2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチドを指す。用語「パラログ」は、ゲノム内の重複により関係がある2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチドを指す。パラログは通常、異なる機能をもつが、これらの機能は関係している場合がある。野生型インフルエンザポリペプチドのアナログおよびパラログは、翻訳後修飾により、アミノ酸配列の違いにより、または両方により、野生型インフルエンザポリペプチドとは異なり得る。特に、本発明のホモログは、一般的に、野生型インフルエンザポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列の全部または一部と少なくとも80〜85%、85〜90%、90〜95%、または95%、96%、97%、98%、99%配列同一性を示し、類似した機能を示す。バリアントは対立遺伝子バリアントを含む。用語「対立遺伝子バリアント」は、タンパク質のアミノ酸配列の変化をもたらし、かつ天然の集団(例えば、ウイルス種または変種)内に存在する多型を含有するポリヌクレオチドまたはポリペプチドを指す。そのような天然の対立遺伝子バリエーションは、典型的には、結果として、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドにおいて1〜5%の分散を生じ得る。対立遺伝子バリアントは、いくつかの異なる種において関心対象となる核酸配列をシーケンシングすることにより同定することができ、そのシーケンシングは、ハイブリダイゼーションプローブを用いて、それらの種において同じ遺伝子座を同定することにより容易に行うことができる。天然の対立遺伝子バリエーションの結果であり、かつ関心対象となる遺伝子の機能活性を変化させない、ありとあらゆるそのような核酸バリエーションおよび生じたアミノ酸多型またはバリエーションは、本発明の範囲内にあることを意図される。
【0057】
本明細書で用いられる場合、用語「誘導体」または「バリアント」は、(1)対応するポリペプチドが、野生型ポリペプチドと比較して実質的に等価の機能を有し、または(2)そのポリペプチドに対して産生された抗体が、野生型ポリペプチドと免疫反応性であるように、1つもしくは複数の保存的アミノ酸バリエーションまたは他の微量な改変を有する、M1ポリペプチド、またはM1ポリペプチドをコードする核酸を指す。これらのバリアントまたは誘導体は、改変されていない対応するポリペプチドと比較して実質的に等価の活性を有するペプチドを生じ得るインフルエンザポリペプチド一次アミノ酸配列の微量な改変を有するポリペプチドを含む。そのような改変は、部位特異的突然変異誘発によるように計画的であってもよいし、または自発的であってもよい。用語「バリアント」はさらに、そのポリペプチドが、本明細書で定義されているような免疫学的応答を生じさせるように機能する限り、配列への欠失、付加、および置換を企図する。用語「バリアント」はまた、天然シグナルペプチドが、宿主種からのポリペプチドの発現または分泌を促進するために異種性シグナルペプチドで置き換えられている、ポリペプチドの改変を含む。用語「バリアント」はまた、類似した構造以外、完全に異なるタンパク質配列であり、同様に交差反応性免疫を誘導する「ミモトープ(mimitopes)」を含み得る。
【0058】
本発明のM1ポリペプチドはまた、グリコシル化部位、またはM1ポリペプチドの改変もしくは誘導体化のための他の部位を導入するためのアミノ酸配列を含んでもよい。実施形態において、上記の本発明のM1ポリペプチドは、グリコシル化部位として働くことができるアミノ酸配列N−X−SまたはN−X−Tを含んでもよい。グリコシル化中、オリゴ糖鎖が、トリペプチド配列N−X−SまたはN−X−T(式中、XはPro以外の任意のアミノ酸であり得る)中に存在するアスパラギン(N)に付着する。この配列は、グリコシル化配列と呼ばれる。このグリコシル化部位は、M1ポリペプチドのために用いられるM1タンパク質配列のN末端、C末端、または内部配列内に位置し得る。
【0059】
本発明のM1ポリペプチドのいずれもハプテンコンジュゲートにおいても用いられ得る。そのようなコンジュゲートは、M1ポリペプチドエピトープを生物体の免疫系に提示するために適切な担体ポリペプチドおよび/またはスキャフォールドポリペプチドを用いてもよい。例えば、M1ポリペプチドは、モノクローナル抗体のCDR3へ挿入されてもよいし、またはCDR3と完全に置き換わってもよい。この場合、免疫化のために対象とは異なる種のモノクローナル抗体スキャフォールドを用いることにより、最も大きいアジュバント効果が達成されるだろう。これらのM1ポリペプチドハプテンは、M1ポリペプチドに対する免疫応答を増加させ、または生み出し得る。適切な担体分子は当技術分野においてよく知られており、それには、例えば、KLH、オボアルブミン、コレラ毒素、ジフテリア毒素、および破傷風毒素が挙げられる。
【0060】
DNA構築物を調製および精製するための分子生物学の標準技術は、この発明のM1ポリペプチドとのハプテンコンジュゲートの調製を可能にする。これらの分子生物学技術は、ハプテンコンジュゲートをコードする遺伝子構築物を作製するために、および適切な宿主細胞におけるハプテンの製造のための発現カセットを作製するために用いることができる。あるいは、本発明のハプテンは、本発明のM1ポリペプチドを担体ポリペプチドまたはスキャフォールドポリペプチドにコンジュゲートするための標準ポリペプチド技術を用いて作製されてもよい。したがって、分子生物学の標準技術は、この発明のハプテンの産生に十分であるが、開示された特定のハプテンは新規な治療用物質を提供する。
【0061】
本発明の態様において、M1ポリペプチドを含む1価または多価、例えば、2価、3価、もしくは4価の組成物が提供され、前記一次免疫原性組成物に存在する株の抗原性バリアントであるインフルエンザ株により引き起こされるインフルエンザ感染の重症度の低下または防止に用いられる、不活性化または弱毒化インフルエンザウイルスまたはその抗原性調製物も含んでもよい。本発明の実施形態において、多価組成物の不活性化または弱毒化インフルエンザウイルスは、血清型B型インフルエンザについてである。
【0062】
免疫応答および効力
実施形態において、本発明のM1ポリペプチドワクチンは、中和抗体価の幾何平均力価(GMT)および中和抗体応答についての血清抗体陽転率(SCR)(0日目において検出可能な抗体を含まず、ワクチン接種後に中和抗体力価における1:28の力価への増加、または4倍もしくはそれ以上の増加を示すワクチンのパーセンテージとして定義される)により測定されるように、インフルエンザに対する中和抗体に関して体液性応答を誘導することができる。
【0063】
別の特定の実施形態において、前記ワクチン接種は同様に、または追加として、インフルエンザに対してCD4 T細胞免疫応答および/またはB細胞メモリー応答を発生させる。特定の実施形態において、ヒト患者は、ワクチン株に対して血清陰性または免疫学的にナイーブ(すなわち、既存の免疫をもたない)である。実施形態において、前記M1ポリペプチド組成物の投与は、代わりに、または追加として、抗原遭遇によって抗体分泌プラズマ細胞へ分化する能力がある末梢血Bリンパ球の頻度により測定されるように、Bメモリー細胞応答を誘導する。
【0064】
本発明のインフルエンザ薬物は、ワクチンについての特定の国際基準を適切に満たす。インフルエンザワクチンの効力を測定するための標準が国際的に適用されている。血清学的変数は、インフルエンザワクチンの毎年の認可手続きに関連した臨床試験についてのヒト用医薬品の評価に関する欧州機構の基準(CHMP/BWP/214/96、医薬品委員会(Committee for Proprietary Medicinal Products)(CPMP)。インフルエンザワクチンの必要条件の調和のための覚書、1997.CHMP/BWP/214/96回覧N°96−0666:1−22)に従って評価される(表1A)。その必要条件は、成人集団(18〜60歳)と高齢者集団(>60歳)では異なる(表1A)。パンデミック間期インフルエンザワクチンについて、評価(血清抗体陽転因子、血清抗体陽転率、血清抗体保有率)の少なくとも1つは、ワクチンに含まれるインフルエンザの全ての株について、欧州の必要条件を満たすべきである。1:40以上の力価の割合が最も関連性が高いとみなされており、これらの力価が現在最良の利用可能な防御の相関物であると予想されるからである(Beyer Wら,Clin Drug Invest;15:1−12,1998)。
【0065】
70%血清抗体保有率は、毎年の季節性インフルエンザワクチンについて満たされるのに通常必要とされる3つの基準の1つとして欧州保健規制当局(CHMP−ヒト用医薬品委員会(Committee for Medicinal Products for Human Use))によって定義されており、CHMPはまたパンデミック候補ワクチンがそれを満たすことを予定している。
【0066】
しかしながら、数学的モデル化により、抗原ドリフトした1つまたは複数の異種性株に対して集団レベルで30%だけ有効であるワクチンもまた、パンデミックの規模を低下させるのを助けることに有益であり得ること、およびパンデミック株に対して30%効力(30%の交差防御)をもつ(プレパンデミック)ワクチンを用いるパンデミックワクチン接種キャンペーンが、臨床的発病率を75%、効果的に低下させ、その結果として、集団内で罹患率/死亡率を低下させ得ることが示されている。したがって、本発明の一次免疫化の促進は、インフルエンザパンデミックの初期軽減または新生のインフルエンザ株の源での封じ込めを達成するための方法である。
【0067】
FDAは、パンデミックインフルエンザワクチンの認可を裏付けるのに必要とされる臨床データに関するガイダンス草稿(CBER基準草稿)(Office of Communication,Training and Manufacturers Assistance(HFM−40),1401 Rockville Pike,Suite 200N,Rockville,Md.20852−1448から、または1−800−835−4709もしくは301−827−1800に電話することにより、またはwww.fda.gov/cber/guidelines.htmでのインターネットから入手できる)を発表しており、その提案された基準もまた、CHMP基準に基づいている。FDAはわずかに異なる年齢カットオフ点を用いている。適性評価項目は同様に以下を含む:1)HI抗体価1:40を達成した対象のパーセント、および2)ワクチン接種後、HI抗体価の4倍上昇として定義される血清抗体陽転率。幾何平均力価(GMT)は、その結果に含まれるべきであるが、そのデータは、血清抗体陽転の発生率の推定値だけでなく、95%信頼区間の下限もまた含まれるべきであり、1:40のHI力価の42日目の発生率は、目標値を満たし、または超えなければならない。したがって、これらのデータおよびこれらの評価の推定値の95%信頼区間(CI)が提供されるべきである。FDAガイダンス草稿は、両方の目標が満たされることを要求している。
【0068】
したがって、本発明の1つの態様において、M1ポリペプチド組成物の投与により誘導される前記免疫応答または防御が、インフルエンザワクチン効力についての全ての3つのEU規制基準を満たす、本明細書で主張された組成物、方法、または使用が提供される。適切には、以下の基準の少なくとも1つ、適切には2つまたは3つが、組成物のインフルエンザ株について満たされる:血清陰性集団における>30%、>40%、>50%の血清抗体陽転率;血清陰性集団における>60%、>70%、>80%の血清抗体保有率;血清陰性集団における>2.0、>2.5、>3.0、>4.0の血清抗体陽転因子。
【0069】
インフルエンザウイルス
インフルエンザA型ウイルスは、持続的に進化し続けており、結果として、抗原バリエーションを起こす(Johnson N P.およびMueller J.,「Updating the accounts:global mortality of the 1918−1920“Spanish” influenza pandemic」,Bull.Hist.Med.76:105−115,2002、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)。パンデミック間期中、循環するインフルエンザウイルスは、先行する流行由来のウイルスと関連している。ウイルスは、より若い時の感染からの様々なレベルの免疫をもつ人々の間で広がる。通常2〜3年間の期間に渡るそのような循環、およびウイルスRNAポリメラーゼによる効果的なプルーフリーディングの欠損により、表面糖タンパク質におけるアミノ酸置換を生じ得、かつ一般的な集団の間で再び流行を引き起こすのに十分変化している新しい株の選択を促す(この過程は「抗原ドリフト」と名付けられている)、高率の転写エラーがもたらされる。
【0070】
分節ウイルスゲノムは、第2の型の抗原バリエーションを可能にする。予測不可能な間隔で、2つ以上のインフルエンザウイルスが宿主細胞に同時に感染した場合には、遺伝子の再集合の結果として、新規なインフルエンザウイルスが生じるだろう。この場合、生じた抗原は、ヒトにおいて前に循環していた株の対応するタンパク質とは20%から50%まで異なり得る。「抗原シフト」と呼ばれるこの現象は、「集団免疫」を逃れて、パンデミックを確立する、新しい表面または内部タンパク質を有する新規なウイルスを発生し得る。
【0071】
「ドリフト」および「シフト」の両方のこれらの抗原変化は、予測不可能であり、結局、ウイルスが免疫系を逃れることを可能にする新しいインフルエンザ株の出現をもたらし、よく知られたほとんど毎年の流行を引き起こすように、免疫学的観点からは劇的な影響を及ぼし得る。
【0072】
毎年の流行に加えて、効率的なヒトからヒトへの伝染の能力がある新しく出現したインフルエンザウイルスは、過去においてパンデミック、すなわち、より高い感染率および死亡率での全年齢群における突然の世界的流行を引き起こしている。前世紀には、3つのインフルエンザパンデミック、世界中で2千万〜5千万人の死亡の原因となった、1918〜1919年の「スペイン風邪」、1957年の「アジア風邪」、および1968年の「香港風邪」が起こっている。
【0073】
パンデミックインフルエンザウイルス株の特徴は以下である:それは、現在循環している株におけるヘマグルチニンと比較して新しいヘマグルチニンを含有し、それは、ノイラミニダーゼ亜型の変化を伴う場合もあるし、伴わない場合もある;それは、ヒト集団において水平方向に伝染する能力がある;および、それは、ヒトに対して病原性がある。新しいヘマグルチニンは、長期間、おそらく、1957年に最後に循環したH2のように少なくとも10年間、ヒト集団において明らかになっていないものであり得、または、それは、例えば、通常トリにおいて見出されるH5、H9、H7、もしくはH6のように、かつてヒト集団において循環していたことがないヘマグルチニンであり得る。これらの場合、大きな割合(例えば、H2の場合)、または集団全体(H5、H7、H6、もしくはH9の場合)が、パンデミックインフルエンザウイルス株に対して免疫学的にナイーブである。現在、ヒトにおいてインフルエンザパンデミックを引き起こし得る可能性があるものとしてWHOによって同定されているインフルエンザA型ウイルスは、高病原性H5N1トリインフルエンザウイルスである。したがって、本発明に従って用いるパンデミックワクチンは、適切にはH5N1ウイルスを含むだろう。主張された組成物に含まれる他の適切な株は、H9N2、H7N1、H7N7、またはH2N2である。
【0074】
本発明のM1ポリペプチドは、そのような抗原バリエーションの影響を受けにくく、(1)本発明のM1ポリペプチドをコードする選択された領域インフルエンザゲノムはまたM2タンパク質の部分もコードすること;ならびに(2)インフルエンザのM1およびM2タンパク質は、ウイルス粒子に大部分、埋め込まれている構造タンパク質であることが理由である。両方のこれらの理由により、M1タンパク質は、インフルエンザ株の間でほとんど配列バリエーションがなく、ヘマグルチニンなどの表面露出した抗原に見られる急速な抗原ドリフトを支持する能力をほとんどもたない可能性が高い。
【0075】
DNAワクチンおよびRNAワクチン
本発明のM1ポリペプチドはまた、DNAまたはRNAワクチンとして生物体に導入され得る。本発明のDNAまたはRNAワクチンは、本発明のM1ポリペプチドをコードする。これらのコード化M1ポリペプチドは、担体ポリペプチドとのコード化融合タンパク質内に存在してもよいし、またはスキャフォールドポリペプチドへ融合してもよい。
【0076】
DNAまたはRNA構築物を調製および精製するための分子生物学の標準技術により、この発明のDNAまたはRNA治療用物質の調製が可能になる。この発明の産物の産生に分子生物学の標準技術で十分であるが、本明細書に開示された特定の構築物は新規な治療用物質を提供する。
【0077】
ワクチンレシピエントに導入される発現可能なDNAまたはRNAの量は、DNAまたはRNA構築物に用いられる転写プロモーターおよび翻訳プロモーターの強度、ならびに発現した遺伝子産物の免疫原性に依存する。一般的に、約1μg〜1mg、好ましくは約10μg〜300μgの免疫学的または予防的有効量が、筋肉組織へ直接、投与される。皮下注射、皮内導入、皮膚への刻印、および腹腔内、静脈内、または吸入送達などの他の投与様式もまた企図される。ブースターワクチン接種が提供される予定であることも企図される。
【0078】
そのDNAまたはRNAは、レシピエントの免疫系に影響を与える任意のタンパク質、アジュバント、または他の作用物質と付随していない裸であってもよい。この場合、DNAまたはRNAが、限定されるわけではないが、例えば、滅菌食塩水または滅菌緩衝食塩水などの生理学的に許容される溶液中にあることが望ましい。あるいは、DNAもしくはRNAは、DNA−リポソーム混合物もしくはRNA−リポソーム混合物として、レシチンリポソームもしくは当技術分野において知られた他のリポソームなどのリポソームと会合していてもよく(例えば、WO93/24640参照)、またはDNAもしくはRNAは、タンパク質もしくは他の担体などの免疫応答をブーストするための当技術分野において知られたアジュバントと会合していてもよい。限定されるわけではないが、カルシウムイオン、ウイルスタンパク質、および他のトランスフェクション促進物質などの、DNAまたはRNAの細胞取り込みを援助する作用物質もまた、促進するように用いられてもよい。これらの作用物質は、一般的に、トランスフェクション促進物質、および医薬的に許容される担体と呼ばれる。本明細書で用いられる場合、遺伝子という用語は、個別のポリペプチドをコードする核酸のセグメントを指す。医薬品およびワクチンという用語は、免疫応答を誘導するのに有用な組成物を示すように交換可能に用いられる。構築物およびプラスミドという用語は、交換可能に用いられる。ベクターという用語は、この発明の方法に従って用いられる遺伝子がクローニングされ得るDNAまたはRNAを示すように用いられる。
【0079】
少なくとも約8.0より高くから少なくとも約9.5までのpH範囲内の生理学的に許容される緩衝液、最高約300mMまでの範囲内にある塩(それには、NaCl、KCl、またはLiClが挙げられるが、それらに限定されない)、およびフリーラジカルスカベンジャーエタノール(最高約3%までの範囲内)と組み合わされた金属イオンキレーターEDTA(最高約5mMまでの範囲内)を含有する脱金属化溶液、ならびに高度に精製された、ヌクレアーゼを含まないDNAを光から保護するようにパッケージングされた滅菌ガラスバイアルにおいて生理学的に許容される緩衝液中、最高の適切なDNA濃度を含むDNAワクチン製剤。本発明の特定の態様において、DNAワクチン製剤は、高度に精製された、ヌクレアーゼを含まないDNAを光から保護するようにパッケージングされた滅菌ガラスバイアルにおいて生理学的に許容される緩衝液中、最高の適切なDNA濃度において全て、EDTAとエタノールの組み合わせ、約100mMから約200mMまでの濃度でのNaCl、約1μMから約1mMまでの範囲にあるEDTA、最高約2%までで存在するエタノールを含む。
【0080】
本開示のDNAまたはRNAワクチンは、遺伝子コードの結果として縮重している配列、例えば特定の宿主のために最適化されたコドン利用を含む。本明細書で用いられる場合、「最適化された」とは、所定の種においてポリヌクレオチドの発現を増加させるように遺伝子操作されているポリヌクレオチドを指す。インフルエンザポリペプチドをコードする最適化ポリヌクレオチドを提供するために、インフルエンザタンパク質遺伝子のDNAまたはRNA配列は、1)特定の種において高度に発現する遺伝子によって好まれるコドンを含むように;ヌクレオチド塩基組成におけるA+TもしくはG+C含有量を前記種に実質的に見出されるその含有量で含むように;3)前記種の開始配列を形成するように;または4)RNAの不安定化、不適当なポリアデニル化、分解、および終結を引き起こし、もしくは2次構造ヘアピンもしくはRNAスプライス部位を形成する配列を排除するように、改変することができる。前記種におけるインフルエンザタンパク質の発現の増加は、真核生物および原核生物において、または特定の種においてコドン利用の頻度分布を利用することにより達成することができる。用語「好ましいコドン利用の頻度」は、所定のアミノ酸を特定化するヌクレオチドコドンの利用において特定の宿主細胞により示された好みを指す。20個の天然アミノ酸があり、それらの大部分は、1つより多いコドンにより特定化される。したがって、全ての縮重ヌクレオチド配列が、ヌクレオチド配列によってコードされるインフルエンザポリペプチドのアミノ酸配列が機能的に変化していない限り、本開示に含まれる。
【0081】
種々の「ストリンジェンシー」の条件下でハイブリダイゼーション反応を実施することができる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーを増加させる条件はよく知られている。例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,第2版,Sambrookら編,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)を参照。
【0082】
本発明のDNAワクチンを作製し、投与することに関する追加の詳細は、参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第7,927,870号に見出される。RNAワクチンを作製し、用いることに関する追加の詳細は、参照により本明細書に組み入れられている、Ulmerら,「RNA−based vaccines」,Vaccine 30:4414−4418,2012に見出される。
【0083】
ワクチン調製
M1ポリペプチドの調製は当技術分野においてよく知られている。望ましい純度および免疫応答を誘導するのに十分な濃度でのM1ポリペプチドは、生理学的に許容される担体と混合される。生理学的に許容される担体は、ワクチンに用いられる投与量および濃度においてレシピエントに無毒である。一般的に、ワクチンは、注射、通常、筋肉内または皮下注射用に製剤化される。注射用の適切な担体には、滅菌水が挙げられるが、好ましくは、生理食塩水などの生理学的塩溶液、またはリン酸緩衝食塩水もしくは乳酸リンゲル液などの緩衝塩溶液である。ワクチンは一般的に、アジュバントを含有する。有用なアジュバントには、細胞傷害性T細胞を刺激するQS21(Cambridge Biotech,Worcester,Mass.から市販されているQuillaja saponaria)、およびミョウバン(水酸化アルミニウムアジュバント)が挙げられる。細胞性または局所性免疫を増強する異なるアジュバントとの製剤もまた用いることができる。特に、サイトカインなどの免疫賦活剤をワクチンに含めることができる。適切な免疫賦活性サイトカインの例には、インターロイキン−2(IL−2)およびインターロイキン−12(IL−12)などのインターロイキン、ならびに腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)が挙げられる。
【0084】
ワクチン中に存在し得る追加の賦形剤には、低分子量ポリペプチド(約10残基未満)、タンパク質、アミノ酸、グルコースまたはデキストランを含む糖質、EDTAなどのキレート剤、およびそのタンパク質を安定させ、または微生物の成長を阻害する他の賦形剤が挙げられる。
【0085】
本発明によるワクチンはまた、細胞傷害性T細胞を誘導するタンパク質を発現するように特異的に設計された1つまたは複数の操作されたウイルスを含有し得る。適切な操作されたウイルスは、例えば、カナリアポックス(Canary Pox)ウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、弱毒化ヒトヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルスなど)、および水痘帯状疱疹ウイルスに由来する。例示的な操作されたウイルスは、細胞傷害性T細胞応答を誘導する能力があるM1ポリペプチドを発現するように改変される。M1ポリペプチドワクチンでの免疫化に続いて、免疫応答をブーストするために1回または複数回の用量のM1ポリペプチド配列の投与を行うことができる。
【0086】
一実施形態において、本発明に従って用いられる一次組成物は、アジュバント添加される。特定の実施形態において、アジュバントは、水中油型乳剤に基づいたアジュバントまたはアジュバント系である。一実施形態において、水中油型乳剤は、代謝可能な油ならびに乳化剤、ならびに任意で、ステロールおよび/またはアルファ−トコフェロールなどのトコールを含む。別の特定の実施形態において、前記水中油型乳剤アジュバントは、少なくとも1つの代謝可能な油を全体積の0.5%〜20%の量で含み、輝度で少なくとも70%が1μm未満の直径を有する油滴を有する。
【0087】
代謝可能な油という用語の意味は、当技術分野においてよく知られている。代謝可能とは、「代謝によって変換され得る」と定義することができる(Dorland’s Illustrated Medical Dictionary,第25版,W.B. Sanders Company(1974))。その油は、レシピエントにとって毒性がなく、かつ代謝によって変換され得る、任意の植物油、魚油、動物油、または合成油であり得る。堅果、種、および穀物は、植物油の一般的な源である。合成油もまたこの発明の一部であり、それには、NEOBEE(商標)などの市販の油が挙げられ得る。特に適した代謝可能な油はスクアレンである。スクアレン(2,6,10,15,19,23−ヘキサメチル−2,6,10,14,18,22−テトラコサヘキサエン)は、サメ肝油中に大量に、オリーブ油、コムギ胚芽油、米糠油、および酵母中により少ない量で見出される不飽和油であり、この発明に用いられる特に適した油である。スクアレンは、それがコレステロールの生合成中に酵素的に変換されるという事実に基づいて、代謝可能な油である(Merck Index,第10版,エントリー番号8619)。一実施形態において、代謝可能な油は、免疫原性組成物の全体積の0.5%〜20%(最終濃度)の量、適切には全体積の1.0%〜10%の量、適切には全体積の2.0%〜6.0%の量で存在する。特定の実施形態において、代謝可能な油は、免疫原性組成物の全体積の0.25〜1.25%(v/v)の量で存在する。
【0088】
適切には、本発明の水中油型乳剤系は、サブミクロン範囲での小さい油滴サイズをもつ。適切には、液滴サイズは、直径が120〜750nmの範囲内、適切には、120nmから600nmまでのサイズである。典型的には、水中油型乳剤は、輝度で少なくとも70%が直径500nm未満であり、特に輝度で少なくとも80%が直径300nm未満であり、適切には輝度で少なくとも90%が直径120〜200nmの範囲内である油滴を含有する。
【0089】
本発明による水中油型乳剤はまた、ステロールおよび/またはトコフェロール、特にアルファ−トコフェロールなどのトコールを含んでもよい。ステロールは当技術分野においてよく知られており、例えば、コレステロールは、よく知られており、例えば、Merck Index、第11版、ページ341において、動物脂肪に見出される天然に存在するステロールとして開示されている。他の適切なステロールには、β−シトステロール、スチグマステロール、エルゴステロール、およびエルゴカルシフェロールが挙げられる。ステロールは、適切には、免疫原性組成物の全体積の約0.01%〜約20%(w/v)の量、適切には約0.1%〜約5%(w/v)の量で存在する。適切には、ステロールがコレステロールである場合、それは、免疫原性組成物の全体積の約0.02%から約0.2%(w/v)の間の量、典型的には、0.5mlワクチン用量体積中約0.02%(w/v)の量で存在する。
【0090】
トコール(例えば、ビタミンE)もまた油乳剤アジュバントにおいて用いられる場合が多い(EP0382271 B1;米国特許第5,667,784号;WO95/17210)。本発明の油乳剤(任意で水中油型乳剤)において用いられるトコールは、トコールが、任意で直径1ミクロン未満の、任意で乳化剤を含む、トコール液滴の分散系であり得るという点において、EP0382271 B1に記載されているように製剤化され得る。あるいは、トコールは、油乳剤の油相を形成するように別の油と組み合わせて用いられてもよい。トコールと組み合わせて用いられ得る油乳剤の例は、上記の代謝可能な油など、本明細書に記載されている。
【0091】
水中油型乳剤は乳化剤を含む。乳化剤は、免疫原性組成物の約0.01〜約5.0重量%(w/w)の量で、適切には、約0.1〜約2.0重量%(w/w)の量で存在し得る。適切な濃度は、全組成物の約0.5〜約1.5重量%(w/w)である。
【0092】
乳化剤は、適切には、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80またはTween 80)であり得る。特定の実施形態において、0.5mlワクチン用量体積は1%(w/w)Tween 80を含有し、0.7mlワクチン用量体積は約0.7%(w/w)Tween 80を含有する。別の特定の実施形態において、Tween 80の濃度は約0.1%または約0.2%(w/w)である。一態様において、ポリソルベート80の量は、ワクチン用量あたり約4.9mg、適切にはワクチン用量あたり約4.6mgから約5.2mgまでである。別の態様において、ポリソルベート80の量は、ワクチン用量あたり約2.4mg、適切にはワクチン用量あたり約2.0mgから約2.8mgまでである。別の態様において、ポリソルベート80の量は、ワクチン用量あたり約1.2mg、適切にはワクチン用量あたり約1.0mgから約1.5mgまでである。別の態様において、ポリソルベート80の量は、ワクチン用量あたり約0.6mg、適切にはワクチン用量あたり約0.4〜0.8mgである。
【0093】
水中油型乳剤アジュバントは、他のアジュバントまたは免疫刺激剤と共に利用されてもよく、したがって、本発明の重要な実施形態は、スクアレンまたは別の代謝可能な油、アルファ−トコフェロールなどのトコフェロール、およびTween 80を含む水中油型製剤である。水中油型乳剤はまた、Span 85(ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート)および/またはレシチンを含有してもよい。典型的には、水中油は、免疫原性組成物の全体積の約2%から約10%までのスクアレン、2%から10%までのアルファ−トコフェロール、および約0.3%から約3%までのTween 80を含み、WO95/17210に記載された手順に従って作製され得る。適切には、スクアレン:アルファ−トコフェロールの比率は1以下であり、これがより安定した乳剤を提供するからである。Span 85もまた、例えば、約1%のレベルで存在してもよい。
【0094】
インフルエンザワクチン調製物は、チオメルサールなどの保存剤の存在下で調製されてもよい。適切には、保存剤、特にチオメルサールは、およそ100μg/mlの濃度で存在する。あるいは、インフルエンザワクチン調製物は、20μg/mlを超えない、または適切には5μg/ml未満の濃度などの低レベルの保存剤、特にチオメルサールの存在下で調製される。別の適切な代替の実施形態において、インフルエンザワクチン調製物は、チオメルサールの非存在下で作製される。適切には、生じたインフルエンザワクチン調製物は、有機水銀化合物保存剤の非存在下で安定である;特に、その調製物は、残留性チオメルサールを含有しない。特に、インフルエンザワクチン調製物は、チオメルサールの非存在下で、または低レベル(一般的に5μg/ml以下)のチオメルサールにおいて安定化されたM1ポリペプチド抗原を含む。具体的には、B型インフルエンザ株の安定化は、コハク酸アルファ−トコフェロール(コハク酸ビタミンE、すなわちVESとしても知られている)などのアルファ−トコフェロールの誘導体により実施される。そのような調製物およびそれらを調製する方法は、全体として本明細書に組み入れられている、WO02/097072に開示されている。
【0095】
アジュバント添加されたM1ポリペプチドワクチンの1用量の体積は、約0.25〜1mlの間であり得、通常、成人用製剤については約0.5mlに相当する。適切には、0.5ml成人用量は、約0.25mlアジュバント+約0.25ml抗原に対応する。各ワクチン用量は、約15μgのM1ポリペプチドを含有し得る。代替の実施形態において、各ワクチン用量は、約15μg未満、適切には約10μg未満の量などの低量のM1ポリペプチドを含有する。適切な量は、約2μg、約4μg、約5μg、約7.5μg、もしくは約10μgのM1ポリペプチド、またはワクチン組成物が本明細書で定義されたような有効性基準の少なくとも1つを満たすような、約15μg未満の任意の適切な量のM1ポリペプチドである。有利には、上記で定義された規制基準を満たすことを可能にするだろう、約1μg、またはさらにそれより少ない、例えば、約0.5μgのM1ポリペプチド用量。約1mlのワクチン用量(約0.5mlアジュバント+約0.5ml抗原調製物)もまた適している。約0.25mlのワクチン用量(例えば、約0.125mlアジュバント+約0.125ml抗原調製物)もまた、特に小児科集団用に、適している。M1ポリペプチドワクチンの1用量の体積は、約0.25〜1mlの間であり得、通常、成人用製剤については約0.5mlに相当する。適切には、0.5ml成人用量は、約0.25mlアジュバント+約0.25ml抗原に対応する。約1mlのワクチン用量(約0.5mlアジュバント+約0.5ml抗原調製物)もまた適している。約0.25mlのワクチン用量(例えば、約0.125mlアジュバント+約0.125ml抗原調製物)もまた、特に小児科集団用に、適している。
【0096】
免疫刺激剤
別の実施形態において、組成物は、追加のアジュバント、特にTLR−4リガンドアジュバント、適切にはリピドAの無毒性誘導体を含んでもよい。適切なTLR−4リガンドは3デ−O−アシル化モノホスホリルリピドA(3D−MPL)である。他の適切なTLR−4リガンドは、リポ多糖(LPS)および誘導体、MDP(ムラミルジペプチド)、ならびにRSVのFタンパク質である。
【0097】
一実施形態において、組成物は、追加として、リピドAの無毒性誘導体、特にモノホスホリルリピドA、またはより特に3−デアシル化モノホスホリルリピドA(3D−MPL)などのトール様受容体(TLR)4リガンドを含んでもよい。
【0098】
前記リポ多糖(好ましくは3D−MPL)は、免疫原性組成物のヒト用量あたり1〜50μgの間の量で用いることができる。有利には、3D−MPLは、およそ25μg、例えば、20〜30μgの間、適切には21〜29μgの間、または22〜28μgの間、または23〜27μgの間、または24〜26μgの間、または25μgのレベルで用いられる。別の実施形態において、免疫原性組成物のヒト用量は、3D−MPLをおよそ10μg、例えば、5〜15μgの間、適切には6〜14μgの間、例えば、7〜13μgの間、または8〜12μgの間、または9〜11μgの間、または10μgのレベルで含む。さらなる実施形態において、免疫原性組成物のヒト用量は、3D−MPLをおよそ5μg、例えば、1〜9μgの間、または2〜8μgの間、または適切には3〜7μgもしくは4〜6μgの間、または5μgのレベルで含む。
【0099】
MPLの用量は、適切には、ヒトにおいて抗原に対する免疫応答を増強することができる。特に、適切なMPL量は、反応源性の側面から許容されると同時に、アジュバント無添加の組成物と比較して、または別のMPL量でアジュバント添加された組成物と比較して、組成物の免疫学的能力を向上させる量である。
【0100】
リピドAの合成誘導体は知られており、いくつかはTLR−4アゴニストとして記載されており、それらには、以下が挙げられるが、それらに限定されない:OM 174(2−デオキシ−6−o−[2−デオキシ−2−[(R)−3−ドデカノイルオキシテトラ−デカノイルアミノ]−4−o−ホスホノ−β−D−グルコピラノシル]−2−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]−α−D−グルコピラノシルジヒドロゲンホスフェート)(WO95/14026)、OM 294 DP((3S,9R)−3−[(R)−ドデカノイルオキシテトラデカノイルアミノ]−4−オキソ−5−アザ−9(R)−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]デカン−1,10−ジオール,1,10−ビス(ジヒドロゲノホスフェート))(例えば、WO99/64301およびWO00/0462参照)、OM 197 MP−Ac DP((3S−,9R)−3−[(R)−ドデカノイルオキシテトラデカノイルアミノ]−4−オキソ−5−アザ−9−[(R)−3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ]デカン−1,10−ジオール,1−ジヒドロゲノホスフェート10−(6−アミノヘキサノエート))(WO01/46127参照)。
【0101】
用いられ得る他のTLR4リガンドは、WO9850399もしくは米国特許第6,303,347号(AGPの調製のための方法もまた開示されている)に開示されたものなどのアルキルグルコサミニドホスフェート(AGP)、または米国特許第6,764,840号に開示されているようなAGPの医薬的に許容される塩であり、全ての3つの特許文書は、全体として参照により本明細書に組み入れられている。AGPはTLR4アゴニストであるものもあるし、TLR4アンタゴニストであるものもある。どちらもアジュバントとして有用であると考えられる。
【0102】
TLR−4(Sabroeら,J Immunol.171(4):1630−5,2003、それは、全体として参照により本明細書に組み入れられている)を通してのシグナル伝達応答を引き起こす能力がある他の適切なTLR−4リガンドは、例えば、グラム陰性細菌由来のリポ多糖およびその誘導体または断片、特にLPSの無毒性誘導体(3D−MPLなど)である。他の適切なTLRアゴニストは、熱ショックタンパク質(HSP)10、60、65、70、75、または90;サーファクタントプロテインA、ヒアルロナンオリゴ糖、ヘパリン硫酸断片、フィブロネクチン断片、フィブリノーゲンペプチド、およびb−デフェンシン−2、ムラミルジペプチド(MDP)、または呼吸器多核体ウイルスのFタンパク質である。一実施形態において、TLRアゴニストはHSP60、70、または90である。
【0103】
トール様受容体(TLR)は、I型膜貫通受容体であり、昆虫とヒトとの間で進化的に保存されている。これまで10個のTLRが確立されている(TLR1〜10)(Sabroeら,J Immunol.171(4):1630−5,2003、それは、全体として参照により本明細書に組み入れられている)。TLRファミリーのメンバーは類似した細胞外および細胞内ドメインを有する;それらの細胞外ドメインは、ロイシンリッチ繰り返し配列を有することが示されており、それらの細胞内ドメインはインターロイキン−1受容体(IL−1R)の細胞内領域と類似している。TLR細胞は、免疫細胞および他の細胞(それには、血管内皮細胞、脂肪細胞、心筋細胞、および腸上皮細胞が挙げられる)の間で異なって発現する。TLRの細胞内ドメインは、アダプタータンパク質Myd88(これもまたそれの細胞質領域内にIL−1Rドメインを有する)と相互作用して、サイトカインのNF−KB活性化をもたらすことができる;このMyd88経路は、サイトカイン放出がTLR活性化によって影響される1つの経路である。TLRの主要な発現は、抗原提示細胞(例えば、樹状細胞、マクロファージなど)などの細胞型においてである。
【0104】
別の実施形態において、アジュバントおよび免疫原性組成物はさらに、サポニンアジュバントを含む。本発明に用いられる特に適したサポニンは、Quil Aおよびそれの誘導体である。Quil Aは南米の木、Quillaja Saponaria Molina(シャボンノキ)から単離されたサポニン調製物であり、Dalsgaardら,「Saponin adjuvants」,Archiv.fur die gesamte Virusforschung,44巻,ページ243−254,Springer Verlag,Berlin(1974)(それは、全体として参照により本明細書に組み入れられている)によって初めて、アジュバント活性を有することが記載された。Quil Aの精製断片は、HPLCによって単離されており、Quil Aに関連した毒性なしにアジュバント活性を保持し(EP0362278)、例えばQS7およびQS21(QA7およびQA21としても知られている)がある。QS−21は、Quillaja Saponaria Molinaの樹皮由来の天然サポニンであり、CD8+細胞傷害性T細胞(CTL)、Th1細胞、および優勢なIgG2a抗体応答を誘導し、本発明の関連において好ましいサポニンである。本発明の適切な形において、免疫原性組成物内のサポニンアジュバントはsaponaria molina quil Aの誘導体、好ましくはQuil Aの免疫学的活性断片、例えば、QS−17またはQS−21、適切にはQS−21である。一実施形態において、本発明の組成物は、実質的に純粋な形をとる免疫学的活性サポニン画分を含有する。好ましくは、本発明の組成物は、実質的に純粋な形をとるQS21、すなわち、QS21が少なくとも90%純粋、例えば、少なくとも95%純粋、または少なくとも98%純粋である、QS21を含有する。
【0105】
他の有用なサポニンは、植物のAesculus hippocastanum(セイヨウトチノキ)またはGyophilla struthium由来である。文献に記載されている他のサポニンには、エスチンが挙げられ、それは、セイヨウトチノキ、Aesculus hippocastanumの種子に存在するサポニンの混合物としてMerck Index(第12版:エントリー3737)に記載されている。それの単離は、クロマトグラフィおよび精製(Fiedler,Arzneimittel−Forsch.4,213(1953)、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)により、およびイオン交換樹脂(Erbringら,米国特許第3,238,190号、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)により記載されている。エスチン(scion)の画分は、精製されて、生物活性があることが示されている(Yoshikawa M.ら,Chem Pharm Bull(Tokyo)44(8):1454−1464,1996、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)。Gyophilla struthium由来のサポアルビン(Sapoalbin)(Vochtenら,J.Pharm.Belg.42:213−226,1968、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)もまた選択肢である。
【0106】
3D−MPLおよび/またはQS21の用量は、適切には、ヒトにおいて抗原に対する免疫応答を増強することができる。特に、適切な3D−MPLおよび/またはQS21量は、反応源性の側面から許容されると同時に、アジュバント無添加の組成物と比較して、または別の3D−MPLもしくはQS21量でアジュバント添加された組成物と比較して、組成物の免疫学的能力を向上させる量である。ヒト投与について典型的には、サポニン(例えば、QS21)および/またはLPS誘導体(例えば、3D−MPL)は、免疫原性組成物のヒト用量において、用量あたり10μg〜50μgまたは1μg〜25μgなどの1μg〜200μgの範囲内で存在する。
【0107】
追加の免疫刺激剤が任意で含まれる場合のアジュバントは、乳児および/または高齢者のワクチン製剤にとって特に適している。
【0108】
ワクチン接種
本発明の組成物は、皮内、粘膜、例えば、鼻腔内、経口、筋肉内、皮下、硬膜内、静脈内、粘膜、または肺などの任意の適切な送達経路により投与され得る。他の伝達経路は、当技術分野においてよく知られている。
【0109】
筋肉内送達経路は、本発明のM1ポリペプチド組成物に特に適している。本発明による組成物は、一用量容器、または代わりに、パンデミックワクチンに特に適した、複数回用量容器において、提供され得る。この場合、典型的には、使用中汚染を防ぐために、チオメルサールなどの抗菌保存剤が存在する。チオメルサール濃度は、25μg/0.5ml用量(すなわち、50μg/mL)であり得る。適切には、5μg/0.5ml用量(すなわち10μg/ml)または10μg/0.5ml用量(すなわち20μg/ml)のチオメルサール濃度が存在する。無針液体ジェット注入装置、例えば、Biojector 2000(Bioject,Portland,Oregon)などの適切なIM送達装置が用いられ得る。あるいは、ペン型インジェクター装置が用いられ得る。そのような送達装置の使用は、パンデミック中に必要とされるようなラージスケールの免疫化キャンペーンに特に応じやすくあり得る。
【0110】
皮内送達はもう1つの適した経路である。皮内送達に任意の適切な装置、例えば、無針装置、または全体として参照により本明細書に組み入れられたWO99/34850およびEP1092444に記載されたもの、ならびにそれらの機能的等価物などの皮膚への針の有効侵入長を限定する装置などの短針装置が用いられ得る。液体ジェットインジェクターを介して、または角質層を貫通し、真皮に到達するジェットを生じる針を介して、液体ワクチンを真皮に送達するジェット注入装置もまた適している。粉末形状のワクチンを皮膚の外層を通って真皮へと加速させるために圧縮ガスを用いる弾道型粉末/粒子送達装置もまた適している。追加として、皮内投与の古典的マントゥー方法における従来のシリンジを用いてもよい。
【0111】
別の適した投与経路は、皮下経路である。任意の適切な装置が皮下送達に用いられ、例えば、古典的な針または無針のジェットインジェクターサービスである。適切には、前記装置は、液体ワクチン製剤であらかじめ充填される。
【0112】
あるいは、ワクチンは鼻腔内に投与される。典型的には、ワクチンは、鼻咽頭領域へ局所的に、適切には肺へ吸入されることなく、投与される。ワクチン製剤を、それが肺に侵入することなく、または実質的に侵入することなく、鼻咽頭領域に送達する鼻腔内送達装置を用いることが望ましい。本発明によるワクチンの鼻腔内投与のための適切な装置は、当技術分野においてよく知られているスプレー装置である。
【0113】
あるいは、表皮または経皮ワクチン接種経路もまた本発明において企図される。
抗体
本発明の抗体は、本発明のM1ポリペプチドの1つまたは複数に対する結合特異性を有する。本発明の抗体は、上記で論じられているような全ての形を包含する。実施形態において、抗体は、特定の生物体のために操作される。生物体は、ヒト、イヌ、または例えば、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ニワトリ、もしくは他のトリなどの商業的に価値のある家畜であり得る。抗体のそのような操作には、例えば、当技術分野において知られたレパートリーテクノロジーもしくはモノクローナルテクノロジーのいずれかを用いる、ヒト化、ヒューマニアリング、キメラ化、またはヒト(または他の生物体)抗体の単離が挙げられる。
【0114】
抗原特異的ヒト抗体の単離のための確立された方法には、ヒト免疫グロブリン遺伝子座導入マウス由来のハイブリドーマのスクリーニング(例えば、Jakobavits,Adv Drug Deliv Rev.31:33−42,1998、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)、ならびに糸状バクテリオファージ(例えば、McCaffertyら,Nature 348:552−4,1990、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)、酵母細胞(例えば、BoderおよびWittrup,Nat Biotechnol 15:553−7,1997、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)、およびリボソーム(例えば、HanesおよびPluckthun,Proc Natl Acad Sci USA 94:4937−42,1997、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)にディスプレイされ、かつその中にコードされたヒト抗体断片の組換えライブラリーが固定化抗原に対してパニングされるインビトロ方法が挙げられる。これらの方法は、多くの有用なヒト抗体を産生している。
【0115】
ヒト免疫グロブリン遺伝子座導入マウスは、一般的に、ヒト多様性を完全に補完するものを発現しないが、これらのトランスジェニック動物において発現したヒト抗体は、親和性成熟を起こすことができる。所望のより高い親和性および特異性の抗体は、これらのトランスジェニックマウスから得ることができるが、ディスプレイテクノロジーから得られるヒト抗体は、これらのディスプレイ抗体がディスプレイシステムにおいて自然の親和性成熟を起こさないため、用いられる抗体レパートリーによって限定される。
【0116】
特異性および親和性を保持しながら、非ヒト抗体の免疫原性を最小にするための最も広く用いられている方法は、非ヒト抗体のCDRを、典型的には非ヒトフレームワークとの構造的相同性について選択されたヒトフレームワーク上にグラフトすることを含む(Jonesら,Nature 321:522−5,1986;米国特許第5,225,539号、それらのどちらも全体として参照により本明細書に組み入れられている)。最初、これらの方法は親和性の大幅な損失を生じた。しかしながら、その後、親和性の一部は、非ヒトCDR1および2の基準構造を維持するのに必要とされるフレームワークにおける重要な位置に非ヒト残基を戻すことにより回復することができることが示された(Bajorathら,J Biol Chem.270:22081−4,1995;Martinら,Methods Enzymol.203:121−53,1991;Al−Lazikani,J Mol Biol.273:927−48,1997;それらの全ては、全体として参照により本明細書に組み入れられている)。CDR3の天然の立体構造を回復することは、非常に不確かな事業であり、それらの構造がより変わりやすいからである。したがって、機能的なCDR3立体構造を回復させるためにどの非ヒト残基を戻すべきかを決定することは、大部分、可能ならば試行錯誤と併用された、モデリングの問題である。CDRグラフティングによる抗体のヒト化のための例示的な方法は、例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第6,180,370号に開示されている。
【0117】
伝統的なCDRグラフティングアプローチの改良は、様々なハイブリッド選択アプローチを用い、そのハイブリッド選択アプローチにおいて、非ヒト抗体の部分が、抗原結合についての一連の選択で補完的なヒト抗体配列のライブラリーと組み合わせられており、その過程において、非ヒト配列の大部分が、ヒト配列と徐々に置き換えられる。例えば、鎖シャッフリング技術(Marksら,Biotechnology 10:779−83,1992、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)において、非ヒト鎖の親和性は、ヒトパートナーの選択を抗原上の同じエピトープに拘束するのに十分だろうという理論的根拠に基づき、非ヒト抗体の一方の鎖が他方の鎖のナイーブなヒトレパートリーと組み合わせられる。その後、選択されたヒトパートナーは、残存する非ヒト鎖についてのヒト対応物の選択を導くのに用いられる。
【0118】
他の方法論には、鎖置換技術が挙げられ、その技術の場合、非ヒトCDR3が保持され、フレームワークならびにCDR1および2を含む、V領域の残りが、個々に、順次、実施されるステップにおいて置き換えられた(例えば、米国特許出願第20030166871号;Raderら,Proc Natl Acad Sci USA 95:8910−15,1998;Steinbergerら,J.Biol.Chem.275:36073−36078,2000;Raderら,J.Biol.Chem.275:13668−13676,2000、それらの全ては、全体として参照により本明細書に組み入れられている)。
【0119】
上記の方法論は、本発明の抗M1ポリペプチド抗体に関して、適切な抗体配列のドナーとして望ましい宿主を用いることにより抗M1ポリペプチド抗体の宿主範囲を変化させるのに用いることができる。
【0120】
実施形態において、本発明の抗M1ポリペプチド抗体は、生物体の身体において抗体の半減期を増強させる分子で修飾される。そのような修飾には、例えば、PEG化、またはデキストランもしくは他のポリカルボハイドレート、PVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニルアルコール)などの他の親水性重合体での誘導体化が挙げられる。そのような誘導体化のためのそのような重合体は当技術分野においてよく知られている。
【0121】
実施形態において、本発明の抗体には、アミノ酸220〜238に及ぶインフルエンザウイルスマトリックス(M1)タンパク質のC末端領域に結合するモノクローナル抗体2B−B10−G9が挙げられる。そのハイブリドーマはPR/8 Mタンパク質に対して産生され、それの結合性の遺伝子座が、配列GTHPSSSAGLKNDLLENLQ(配列番号1)に決定されている。
【0122】
抗体での処置方法
本発明は、有効量の抗M1ポリペプチド抗体を動物に投与することを含む治療方法であって、その結果、その後のインフルエンザウイルスによる感染が重症度において低下し、および/またはその感染がインフルエンザ症状の持続期間において低減する、治療方法を提供する。実施形態において、有効量の抗M1ポリペプチド抗体は、動物がインフルエンザウイルスに感染した後に動物に投与される。実施形態において、有効量の抗M1ポリペプチド抗体は、動物がインフルエンザウイルスに感染する前に動物に投与される。実施形態において、インフルエンザウイルスに感染した動物における有効量の抗M1ポリペプチド抗体の投与は、インフルエンザ感染の重症度を低下させ、および/または動物におけるインフルエンザ症状の持続期間を低減する。実施形態において、抗M1ポリペプチド抗体治療で処置された動物はヒト患者である。
【0123】
疾患の型および重症度に依存して、約1μg/kg〜100mg/kg(例えば、0.1〜20mg/kg)の抗M1ポリペプチド抗体が、例えば、1回もしくは複数回の別個の投与によるか、または持続注入によるかに関わらず、患者への投与についての初回投与量である。典型的な1日投与量は、患者の必要性に応じて、約1μg/kgから約100mg/kgまで、またはそれ以上の範囲であり得る。特に望ましい投与量には、例えば、5mg/kg、7.5mg/kg、10mg/kg、および15mg/kgが挙げられる。状態に依存しての数日間またはそれ以上にわたる反復投与について、処置は、当技術分野において知られた方法により測定される場合、インフルエンザ感染が処置されるまで、持続される。実施形態において、他の投与計画が有用であり得る。例えば、本発明の抗M1ポリペプチド抗体は、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、または投与と投与の間により長い期間をとって、約5mg/kgから約15mg/kgまで、例えば5mg/kg、7.5mg/kg、10mg/kg、または15mg/kgが挙げられるが、それらに限定されない、用量範囲で投与される。本発明の治療の進行は、通常の技術およびアッセイにより容易にモニターされる。
【0124】
本発明に従って用いられる抗M1ポリペプチド抗体の治療製剤は、望ましい純度をもつ抗体を任意の医薬的に許容される担体、賦形剤、または安定剤と混合することにより保存用に調製され(Remington’s Pharmaceutical Sciences 第16版,Osol,A.編(1980))、一般的に、凍結乾燥製剤または水溶液の形をとる。抗体結晶もまた企図される(米国特許出願公開第2002/0136719号、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)。許容される担体、賦形剤、または安定剤は、用いられる投与量および濃度においてレシピエントに対して無毒であり、それには、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンなどの抗酸化剤;保存剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコールもしくはベンジルアルコール;メチルパラベンもしくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性重合体;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリシンなどのアミノ酸;単糖、二糖、およびグルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む他の糖質;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属複合体(例えば、Zn−タンパク質複合体);ならびに/またはTween、Pluronic、もしくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0125】
本明細書における製剤はまた、処置に必要な場合、1つより多い活性化合物、好ましくはお互いに悪影響を及ぼさない補完的な活性を有するものを含有してもよい。活性成分は、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)において、またはマクロエマルジョンにおいて、例えば、コアセルベーション技術により、または界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンのマイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリル酸)マイクロカプセルに封入されていてもよい。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 第16版,Osol,A.編(1980)(それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)に開示されている。
【0126】
徐放性調製物が調製されてもよい。徐放性調製物の適切な例には、抗体を含有する固体疎水性重合体の半透性マトリックスが挙げられ、そのマトリックスは成形物、例えば、フィルムまたはマイクロカプセルの形をとる。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート))、またはポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号、それは全体として参照により本明細書に組み入れられている)、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタメートの共重合体、非分解性エチレン−ビニルアセテート、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸共重合体と酢酸リュープロリドで構成される注射用マイクロスフェア)などの分解性乳酸−グリコール酸共重合体、およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
【0127】
ポリペプチドの製造
本発明のM1ポリペプチドおよび/または抗体の製造のための組換え技術は当技術分野においてよく知られている。本発明のM1ポリペプチドまたは抗体は、様々な宿主細胞型、例えば、哺乳類細胞、真菌細胞、酵母細胞、細菌細胞、昆虫細胞などにおいて製造することができる。酵母もしくは糸状菌、またはチャイニーズハムスター卵巣細胞、マウスNIH 3T3線維芽細胞、ヒト胎児由来腎臓193細胞、もしくはげっ歯類骨髄腫もしくはハイブリドーマ細胞などの哺乳類細胞、大腸菌、ある特定の昆虫細胞、および他の市販の宿主細胞系などのある特定の宿主細胞において用いられる組換え発現構築物またはベクターを作製するための技術は、当技術分野においてよく知られている。これらの宿主細胞において組換えポリペプチドを発現すること、およびこれらの宿主細胞から組換えポリペプチドを得ることもまた当技術分野においてよく知られている。実施形態において、本発明の完全長抗体は、抗体をグリコシル化する能力がある宿主細胞系において産生される。実施形態において、グリコシル化は、その抗体で処置されるべき標的生物体のグリコシル化である。実施形態において、グリコシル化は、その抗体で処置されるべき生物体のグリコシル化に似ている。代替の実施形態において、グリコシル化は、そのグリコシル化がアジュバント効果を与えるが、その抗体のエフェクター機能に実質的には影響しないという条件で、処置されるべき生物体とは異なる。
【0128】
本発明のM1ポリペプチドはまた、(例えば、試験管において)ポリペプチド合成機を用いる化学合成により作製することもできる。
【0129】
この明細書中に引用される全ての刊行物および特許は、あたかもそれぞれ個々の刊行物または特許が具体的かつ個々に示されて、参照により組み入れられているかのように、参照により本明細書に組み入れられ、かつ関連して刊行物が引用されているところの方法および/または材料を開示および記載するために参照により本明細書に組み入れられている。
【0130】
実施例
【実施例1】
【0131】
抗M1ポリペプチド抗体によるインフルエンザ感染の阻害
モノクローナル抗体2B−B10−G9を、インフルエンザ株のパネルへの結合について、およびプラーク阻害アッセイにおける中和活性について調べた。モノクローナル抗体2B−B10−G9は、アミノ酸220〜236に及ぶインフルエンザウイルスマトリックス(M1)タンパク質のC末端領域に結合する。2B−B10−G9はまた、M1タンパク質へ220〜237、220〜238、220〜239、220〜240、または220〜241に及ぶアミノ酸において結合し得る。
【0132】
寒天重層において、2B−B10−G9をMDCK細胞の部分的に感染した単層に加え、COと共に37℃で3日間、インキュベートした(図1)。結果は、15μgの抗体が、プラーク形成を完全に阻害することを示した。2B−B10−G9は、ウイルスまたは感染細胞上のMタンパク質の露出部分だけにアクセスできるため、プラーク形成の阻止は、PR/8由来のマトリックスタンパク質のC末端領域が、表面でアクセス可能でなければならないことを示している。MDCK細胞の単層上のウイルスプラークの阻害を、2つの別個の方法によりさらに分析した。細胞をウイルスに感染させ、2B−B10−G9抗体を含有する寒天重層の添加の前に30分間、インキュベートした。あるいは、ウイルスおよび抗体を混合し、細胞を感染させる前に30分間、インキュベートした。感染および追加の30分間のインキュベーション後、抗体を含まない寒天重層を加えた。結果は、2つの実験の間で、阻害された総プラークにおいて差がないことを示した。これらの結果は、ウイルス感染の阻害が、2B−B10−G9のウイルスへの結合により引き起こされ、感染細胞からのウイルス出芽の阻止により引き起こされるのではないことを示唆している。追加の試験により、2B−B10−G9が、プラークアッセイにおいて、A/South Dakota(H1N1)のプラーク形成を阻害し、A/Uruguay(H3N2)を部分的に阻害することが明らかにされた(図2)。位置231におけるアミノ酸バリエーションは、抗体の効力低下の原因である可能性がある。しかしながら、部分的でも阻害することは、(アミノ酸残基215〜252における)Mタンパク質の伸長したC末端は、表面露出しており、免疫化のための実行可能な標的であることを示している。位置231にアスパラギンかまたはアスパラギン酸のいずれかを有するウイルスのさらなる試験を実施した。PR/8およびA/South Dakota由来のMタンパク質は、位置231にアスパラギンを含有し、一方、A/Uruguayは、この位置にアスパラギン酸を含有する。加えて、PR/8およびSouth DakotaはH1N1表面糖タンパク質を有し、一方、UruguayはH3N2表面糖タンパク質を有する。2B−B10−G9が幅広い中和活性を有するかどうかを決定するために、H1N1設定における位置231でのアスパラギンとアスパラギン酸の両方のバリエーションに対してと、H3N2設定におけるアスパラギン酸設定に対しての有効性を試験するために一連の中和実験を実施した。位置231にアスパラギンを含有するMタンパク質については、H3N2において、このバリエーションは野生型ウイルスに存在しないように思われるため、試験することができなかった。2つのウイルス、A/WSN/33およびA/Port Chalmers/1/73をプラーク阻害アッセイにおいて試験した。A/WSN/33は、H1N1ウイルスであるが、PR/8とは違って、M1タンパク質において位置231にアスパラギン酸を含有する。A/Port Chalmers/1/73は、位置231にアスパラギン酸を含有するH3N2ウイルスである。同様に、以下の2つの対照ウイルスも試験した:A/PR/8およびA/USSR/90/77。PR/8およびUSSR/90は、アミノ酸220からアミノ酸236まで同じアミノ酸配列を有するが、異なるH1N1タンパク質を有する。結果は、全てのウイルスが2B−B10−G9により用量依存性様式で阻害されることを示した。プラーク形成の2B−B10−G9による阻害は、位置231におけるアミノ酸バリエーションによって影響されず、H3N2またはH1N1のいずれの糖タンパク質によっても影響されなかった。上記のデータと、NCBIデータベースに含有される野生型Mタンパク質の配列分析を組み合わせると、2B−B10−G9がM1の全ての既知のバリアントを結合すると結論づけることが理にかなっている。ワクチン設定におけるC末端ペプチド215〜252の提示は、強い抗体応答により与えられる十分に立証された効力を活用するポリクローナル応答を生じ、モノクローナル抗体とは対照的に、ワクチンにより与えられる防御の非線形的増加をもたらすだろう。このポリクローナル抗体応答は、ワクチン接種された生物体に、A型マトリックスタンパク質を有する任意のインフルエンザに対するユニバーサルな防御を与えるだろう。
【実施例2】
【0133】
新しい抗M1ポリペプチド抗体
A/PR/8/38インフルエンザウイルス由来のM1タンパク質の220〜236のアミノ酸配列を含むM1ポリペプチドを、免疫原性担体タンパク質(KLH、オボアルブミン、およびBSA)にコンジュゲートし、週齢10〜12週間の雌BALB/cマウスに注射した。このM1ポリペプチドは、アミノ酸配列GTHPSSSAGLKNDLLEN(配列番号38)を有する。それに続く2回のブーストを与え、1回のブーストは最初の注射後14日目に、1回は28日目であった。接種直前、および3回の注射のそれぞれの7日後に血清採血を収集した。収集された血清の分析は、2回目のブースト後、そのM1ポリペプチドに対してと、全M1タンパク質自体に対して強い応答を示している。
【0134】
ペプチドGTHPSSSAGLKNDLLEN(配列番号38)は、A/PR/8マトリックスタンパク質の220〜236のアミノ酸配列を含む。ペプチドを、KLH、オボアルブミン、またはBSAに化学的にコンジュゲートさせた。
【0135】
週齢10〜12週間の雌BALB/cマウスを以下の接種についての3つの群にランダム化した:A群 − 対照(マウス77〜81)、B群 − ペプチドコンジュゲート(マウス82〜86)、C群 − ペプチドのみ(マウス87〜91)。1日目、15日目、および29日目において、全てのマウスに注射した。1日目の注射は、フロイント完全アジュバントを含み、その後のブーストは、フロイント不完全アジュバントを含有した。A群マウス(対照)に、最初、50μg KLHを注射し、50μgオボアルブミンを2回(15日目および29日目)、ブーストした。B群マウスに、50μg KLH−ペプチドコンジュゲートを注射し(1日目)、50μgオボアルブミン−ペプチドコンジュゲートを2回(15日目および29日目)、ブーストした。C群マウスは、ペプチド(コンジュゲートなし)をB群とのモル等価物を示す量で注射し、かつブーストした。
【0136】
3つの群のマウスにBSAのみ(A群、マウス77〜81)、M1ポリペプチド−BSAコンジュゲート(B群、マウス82〜86)、またはM1ポリペプチドのみ(C群、マウス87〜91)を接種した。マウスを、BSAのみ(A群)か、M1ポリペプチドコンジュゲート(B群)か、またはM1ポリペプチドのみ(C群)かのいずれかで2回、ブーストした。A群(BSAのみ)から収集された血清は、BSA、M1ポリペプチド−BSAコンジュゲート、およびM1タンパク質への結合を示さなかった(図1)。B群(M1ポリペプチド−BSAコンジュゲート)から収集された血清は、M1ポリペプチド−BSAコンジュゲートへの結合、およびMタンパク質への結合を示す。BSAへの結合は観察されず、M1ポリペプチドへの結合が特異的であることを示している。M1ポリペプチドのみ(C群)から収集された血清は、BSA、M1ポリペプチド−BSAコンジュゲート、またはMタンパク質のいずれへの結合も示さなかった。
【実施例3】
【0137】
グリコシル化を有するM1ポリペプチド
M1ポリペプチドのグリコシル化型と非グリコシル化(a−glycosylated)型を用いる免疫学的応答および防御の比較を、マウスモデルにおいて評価する。位置231における主要なバリアントは、この抗原部位への抗体の結合に影響する可能性があり、位置231に突然変異を有するM1ポリペプチドに対する血清学的応答もまた試験する。
【0138】
精製された非グリコシル化M1ポリペプチドおよび突然変異体231 M1ポリペプチドを、同等の割合で組み合わせ、50μgをフロイントアジュバントと共に一群のマウス(10匹のマウス/群)に投与する。同時に、グリコシル化M1ポリペプチドを、フロイントアジュバントと共に追加の群のマウスに投与する。2週間後、各群を、10μgのそれらのそれぞれのM1ポリペプチドでブーストする。最初の注射の1日前、ブーストの1日前、およびブーストから7日後、各マウスからおよそ100μlの採血を行う。各マウスからの血清を、M1ポリペプチド(グリコシル化あり、およびなし)、M1タンパク質、および対照非特異的ペプチドへの結合について分析する。2週間後、1回の追加のブーストを行い、ブーストから7日後、血清を収集する。M1ポリペプチドのバリアントに対する血清応答は、グリコシル化型と非グリコシル化型に対する応答の定量化を可能にし、ウイルス負荷実験についての免疫化スケジュールも決定する。
【0139】
6つの群のマウス(10匹のマウス/群)を、M1ポリペプチドおよび突然変異体231 M1ポリペプチドで、免疫化し、ブーストする。アジュバントと共に、3つの群は、その組み合わされたグリコシル化M1ポリペプチドを受け(群1〜3)、3つの群は、非グリコシル化型を受ける(群4〜6)。最後のブーストから3日後、マウスに致死量のインフルエンザウイルスを負荷する。群に、以下のMタンパク質の3つの同定されたバリアントを代表するウイルスを負荷する:A/PR/8(群1、4)、A/WSNまたは等価物(群2、5)、およびA/South Dakotaまたは等価物(群3、6)。3つの追加の群に、非免疫化対照として各ウイルスを負荷する。体温および生存を7日間にわたって測定する。
【実施例4】
【0140】
抗M1ポリペプチド抗体によるインフルエンザウイルスの阻害
インビトロでの抗体中和はウイルス感染をブロックすることに有効であると判明したため、生きている生物体においてウイルス感染をブロックする2B−B10−G9の能力を試験した。生きている卵においてウイルス複製をブロックする抗体の能力に基づいて、生きた動物の代理として生きた鶏卵全体を用いた。伝統的には、インフルエンザウイルスの卵内感染を以下のために用いる:(1)ワクチン産生のための種株として多収性リアソータントウイルスの選択、および(2)ワクチン産生のためのインフルエンザ株の製造。インフルエンザウイルスの鶏卵に基づいた製造は、インフルエンザウイルスを製造するための最も頑強でかつ最も良い方法と考えられる。したがって、この宿主におけるウイルス複製のブロッキングは、治療効力の強い指標である。この実験において、ウイルスの卵内複製の阻止は、2B−B10−G9抗体の治療効力を決定するためのアッセイとして用いられる。200個の感染性ウイルス粒子(A/PR/8/34)を、750μg/mlの2B−B10−G9抗体へ混合した。A/PR/8/34は、極めて高い量のウイルスを迅速に複製するそれの能力のため、リアソータント種ウイルスの産生のために伝統的に用いられる。室温で30分間のインキュベーション後、100μlの抗体ウイルス混合物を、受精後10日の鶏卵に注射した。抗体を含まず、ウイルスからなる対照もまた、受精後10日の鶏卵に注射した。卵をパラフィンで密封し、35℃で40時間、インキュベートし、尿膜腔液を採取した。その後、尿膜腔液を、標準血球凝集アッセイによりウイルスについて試験した。試料を2倍段階希釈し、0.5%ニワトリ赤血球を加えた。室温での30分間のインキュベーション後、試料を血球凝集についてスコアをつけた。2つの別個の同一の実験を実施した。
【0141】
【表1】
【0142】
対照1、2:PR/8/34のみ、PR/8+Ab1、2:PR/8+750μg/ml 2B−B10−G9。結果は、2B−B10−G9抗体の添加が、卵内のウイルス複製を完全にブロックすることを示した(表1)。受精後10日の鶏卵における尿膜腔液の体積は10mlであり、したがって、卵内の抗体の最終濃度は7.5μg/mlであった。
【0143】
この明細書中に引用される全ての刊行物および特許は、あたかもそれぞれ個々の刊行物または特許が具体的かつ個々に示されて、参照により組み入れられているかのように、参照により本明細書に組み入れられ、かつ関連して刊行物が引用されているところの方法および/または材料を開示および記載するために参照により本明細書に組み入れられている。
【0144】
当業者は、本明細書に記載された本発明の特定の実施形態の多くの等価物を認識し、または単なる日常的実験だけを用いて確かめることができるだろう。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲により包含されることを意図される。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]