(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877163
(24)【登録日】2021年4月30日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】汚染発病土での栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01N 59/08 20060101AFI20210517BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20210517BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20210517BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20210517BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20210517BHJP
A61L 101/06 20060101ALN20210517BHJP
【FI】
A01N59/08 A
A61L2/18
A01N25/00 102
A01P3/00
A01G7/00 602Z
A61L101:06
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-18232(P2017-18232)
(22)【出願日】2017年2月3日
(65)【公開番号】特開2018-123104(P2018-123104A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2020年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】517036998
【氏名又は名称】小川 敦嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】小川 敦嗣
【審査官】
水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−156016(JP,A)
【文献】
特開2013−185052(JP,A)
【文献】
特開2000−175609(JP,A)
【文献】
特開平01−171425(JP,A)
【文献】
特開2000−316453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連作障害の汚染発病土での栽培方法であって、 予め発病土壌の湿潤度を考慮して加水し、湿潤させる工程と、その後、混和発病土にpH5〜6.5の1000以上6000ppm以下の次亜塩素酸水溶液を発病土の汚染度を考慮して土壌容量の2分の1から2倍量散布し、浸透させる工程と、1〜2週間遮光フィルムで覆い殺菌する工程と、その後播種する ことを特徴とする栽培方法。
【請求項2】
次亜塩素酸水溶液濃度が1500ppm以上4500ppm以下である請求項1記載の 栽培方法。
【請求項3】
予め散布して加水する工程でpH5〜6.5の50ppm以上100ppm以下の希釈 次亜塩素酸水溶液を用いる請求項1記載の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連作障害となる発病土を、植物を栽培可能な状態に殺菌した後播種して栽培する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病害は、主に土壌中に病害菌が繁殖することによって惹き起こされ、農作物の連作障害の一因ともなる。ひとたび病害が発生すると地力を回復させることは困難であるし、除菌剤を用いると、当該除菌剤の土壌への残留及び農作物への蓄積,並びに使用者の健康に対する悪影響が懸念される。
【0003】
そこで、発病土を除菌する方法として、濃度約100,000ppmの亜塩素酸ナトリウム水溶液を水により希釈し、濃度約1,000ppmの亜塩素酸ナトリウムの水溶液を作り、この希釈液を土壌10アール当り約2,000〜2,500Lの割合で撒布した後 、二酸化塩素ガスがほぼ消失するまで約5日乃至2週間放置し、土壌を乾燥させた後施肥し植物を栽培することを特徴とする植栽用土壌の改善方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記方法は、亜塩素酸ナトリウムが土壌中で起こす化学反応を利用するものであり、それによって生じる二酸化塩素で土壌を除菌する工程を含む。二酸化塩素は反応性の高いラジカルであって、有毒であり、爆発の危険性を有する。しかも、二酸化塩素は、空気より重いから地上に滞留し易く、作業者の健康に甚大な悪影響を及ぼす虞がある。また、土壌に残留する未反応の亜塩素酸ナトリウムが、長期に亘って二酸化塩素を発生し続け、又は、土壌中で意図しない化学反応を起こす虞もある。亜塩素酸ナトリウムは変異原性を有するから、それを吸収した農作物及び当該農作物を摂食したヒトの遺伝子に 変異を起こすことも危惧される。
【0005】
他方、そこで、強い殺菌力を持ち速やかに分解する次亜塩素酸に着目し、50ppm以上100ppm以下の次亜塩素酸ソーダ水溶液を土壌10a当り500〜1000リットル散布した後、1乃至7日放置した後、施肥する土壌改良法が提案されている(例えば、 特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−156016号公報
【特許文献2】特開2013−185052号公報(特許第5582156号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、50ppm以上100ppm以下の次亜塩素酸ソーダ水溶液を土壌10a当り500〜1000リットル散布する方法では、発病土の菌種によっては除菌の有効性は少なく、健全苗率が向上しない。例えば、コマツナ立ち枯れ病汚染土壌では50ppm以上100ppm以下の次亜塩素酸ソーダ水溶液を散布する方法では健全苗率が改善されないという結果を招来した。そこで、栽培方法としてはさらに検討する必要がある。これらの問題点に鑑み、本発明は、有効な栽培方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、汚染度を調整して用いる混和発病土においては、直接高濃度の次亜塩素酸水溶液を土壌と接触させるのではなく、まず、土壌を一定の濃度に加水し、湿潤させ、混和発病土の汚染度を勘案してpH5〜6.5の1000以上6000ppm以下、好ましくは1500〜4500ppmの次亜塩素酸水溶液を散布すると、残留が問題とされやすい高濃度次亜塩素酸水溶液で直接処理するより健全苗率が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は連作障害の汚染発病土での栽培方法であって、
予め発病土壌の湿潤度を考慮して加水し、湿潤させる工程と、その後、混和発病土にpH5〜6.5の1000以上6000ppm以下の次亜塩素酸水溶液を
発病土の汚染度を考慮して土壌容量の2分の1から2倍量散布し、浸透させる工程と、1〜2週間遮光フィルムで覆い殺菌する工程と、その後播種する ことを特徴とする栽培方法にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、病原菌による連作障害を回避することができる。その作用は土中への弱酸性次亜塩素酸水溶液の病原菌の棲む土中への湿潤による浸透殺菌作用と、遮光フィ ルムで遮蔽による塩素ガス発生による殺菌作用であり、次亜塩素酸の残留もなく、安全で有効な連作障害を防止できる。発病土に対する加水度は病原菌の棲む土中への浸透率を考慮して予め発病土壌の湿潤度を考慮して加水し、湿潤させるのがよい。単なる水であってもよいが湿潤水としては50〜100ppm以下の希薄次亜塩素酸水溶液を使用してもよい。次いで、散布する次亜塩素酸濃度はpH5〜6.5の弱酸性領域で1000〜6000、好ましくは1500〜4500ppmの範囲で使用され、発病土の汚染度を考慮して決定し、土壌容量の2分の1から2倍容量
を散布して必要領域を十分に湿潤させるのがよい。次亜塩素酸水溶液の病原菌との接触により殺菌するのが好ましい。散布後は遮光フィルムで散布箇所を覆い、遮蔽するのがよい。直射日光による次亜塩素酸水溶液の分解を避け、発生する塩素ガスを閉じ込め、高い殺菌効果を達成するためである。 因みに、本発明方法で育苗すると、健全苗率が向上する。コマツナ立ち枯れ病汚染土壌ではpH6の3000ppm次亜塩素酸水溶液は散布前に加水しておくと、50〜100ppmの希釈液処理の場合より3倍ほど健全苗率が向上することが見出された。散布前の加水の及ぼすその後の次亜塩素酸水溶液の殺菌メカニズムについては定かでないが、高濃度 次亜塩素酸水溶液を直接散布するより大きな健全苗率が向上することはその後施肥して育苗する必要のある植物の育成方法としては利用価値が高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
コマツナ立ち枯れ病汚染土壌を用いて汚染度5%の発病土を用意する。実施例1ではこの汚染発病土100gに対し100gの蒸留水を散水して加水した後、混和発病土100g当りpH6の3000ppmの次亜塩素酸水溶液を25ml散布し、10日間遮光フィルムで覆い、その後1区16粒播種して4日後の健全発病率を判定した。この試験を5回反復してその結果、平均70.1%の健全苗率を得た(
図1参照)。
【実施例2】
【0014】
pH6の3000ppmの次亜塩素酸水溶液を50ml散布する以外は実施例1と同様にして平均50.6%の健全苗率を得た(
図2参照)。
【実施例3】
【0015】
pH6の3000ppmの次亜塩素酸水溶液を60ml散布する以外は実施例1と同様にして平均45%の健全苗率を得た(
図3参照)。
【実施例4】
【0016】
コマツナ立ち枯れ病汚染土壌を用いて汚染度5%の発病土を用意する。この汚染発病土100gに対し25ml蒸留水を散水し、混和発病土100g当りpH6の3000ppmの次亜塩素酸水溶液を100ml散布し、10日間遮光フィルムで覆い、その後1区16粒播種して4日後の健全発病率を判定した。この試験を5回反復してその結果、平均4 8.7%の健全苗率を得た(
図4参照)。
【実施例5】
【0017】
pH6の3000ppmの次亜塩素酸水溶液を120ml散布する以外は実施例4と同様にして平均52.1%の健全苗率を得た(
図5参照)。
[比較例1]
【0018】
コマツナ立ち枯れ病汚染土壌を用いて汚染度5%の発病土を用意する。この汚染発病土100gに対し25mlの蒸留水を散水して加水した後、50〜100ppmの次亜塩素 酸水溶液を25ml散布し、10日間遮光フィルムで覆い、その後1区16粒播種して4日後の健全発病率を判定した。この試験を5回反復してその結果、平均21.8%の健全苗率を得た。
【0019】
pH6、3000ppmの次亜塩素酸を含む水溶液を土壌に散布すると、その強い殺菌力によって土壌中の真菌及び細菌の大部分が死んで菌数が減少し、生き残った一部も増殖する能力に乏しい状態となる。pH5〜6.5の1000〜6000ppm、好ましくは 1500〜4500ppmの次亜塩素酸水溶液は、遊離酸としては不安定であって速やかに分解されるから、土壌中に長期間残留せず、7日程度で消失する。pH5〜6.5の1000〜6000ppm、1500〜4500ppmの次亜塩素酸水溶液は、強い殺菌力 を有するが二酸化塩素のような高い反応性も爆発の危険性も有しないから、作業者の健康 を損なう虞もない。また、使用量は混和発病土100gに対し、25〜50mlの少量でも100ml以上の使用量に匹敵する効果を有するので、残留塩素の問題も生じない。
【0020】
1000〜6000ppm、好ましくは1500〜4500ppmの範囲でいずれの濃度の次亜塩素酸水溶液を用いるかは、汚染度に応じて選択される。汚染度5%の混和発病土では、pH6の3000ppmの次亜塩素酸水溶液が適切であったが、汚染度によって 、1000〜6000ppm、好ましくは1500〜4500ppmの範囲で有効濃度が 選択される。また、土壌への加水度によって1000〜6000ppm、好ましくは15 00〜4500ppmの範囲で有効濃度が選択される。本発明の育種後は、これによって 、有用な土壌微生物が優勢となり病害菌の増殖が更に抑制されるから、土壌中の微生物の バランスは、植物の栽培に適した状態となる。次亜塩素酸は、この時点では既に分解し消 失しているから、肥料に含まれていた土壌微生物の増殖を妨げない。肥料に含まれる肥効 成分も、植物の栽培に適した環境を生み出すのに資する。
【0021】
上記した実施例ではコマツナ立ち枯れ病汚染土壌への次亜塩素酸水溶液処理の効果を示したが、その他の、例えば、紋羽病,菌核病,うどんこ病,さび病等の病害に対して有効である。