(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1感磁部は、前記A1相に対応する磁気抵抗パターンと前記B1相に対応する磁気抵抗パターンとを備える磁気抵抗効果素子と、前記回転体の回転軸にからみて90°相隔たった位置に配置された1対のホール素子とからなり、
前記1対のホール素子からの信号の極性の組み合わせに基づいて計数を行うことにより、ホールカウント多回転データが生成される、請求項1または2に記載のロータリエンコーダ。
前記A1相の成分と前記B1相の成分は、前記第1センサ部から出力される正弦波の信号の4分の1周期に対応する位相で相互にずれており、前記A2相の成分と前記B2相の成分は、前記第2センサ部から出力される正弦波の信号の4分の1周期に対応する位相で相互にずれている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のロータリエンコーダ。
第1センサ部と第2センサ部とを備え、前記第1センサ部は、1対のN極及びS極が着磁された第1磁石と、前記第1磁石に対向してA1相の成分と前記A1相とは位相が異なるB1相の成分とを検出する第1感磁部と、を有し、前記第2センサ部は、複数対のN極及びS極が交互に着磁された第2磁石と、前記第2磁石に対向しA2相の成分と前記A2相とは位相が異なるB2相の成分とを検出する第2感磁部とを有する第2センサ部と、を有し、前記第1磁石と前記第1感磁部の一方は固定体に設けられて他方は回転体に設けられ、前記第2磁石と前記第2感磁部の一方は前記固定体に設けられて他方は前記回転体に設けられているロータリエンコーダにおける絶対角度位置検出方法であって、
起動の時には前記第1センサ部及び前記第2センサ部の出力に基づいて前記回転体の角度位置の演算を行って初期値とする工程と、
前記起動の時に、前記初期値をカウンタでの計数値に換算した値を前記カウンタにおける計数の開始値として前記カウンタに格納する工程と、
前記起動の後に、前記第2センサ部の出力から生成される計数用のパルスについて前記カウンタによる計数を開始する工程と、
角度位置を要求されたときに前記第2センサ部の出力に基づいて前記回転体の角度位置の演算を行う工程と、
前記演算を行う工程で得られた結果と前記角度位置が要求された時点での前記パルスの計数値とから多回転絶対角度位置データを算出する工程と、
を有する絶対角度位置検出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示す第1磁石及び第2磁石を有するロータリエンコーダでは、高い分解能で回転体の絶対角度位置を求めることができるが、絶対角度位置を求めるためには、第1感磁素子の出力と第2感磁素子の出力の各々に対し、A/D(アナログ・デジタル)変換及び逆正接演算を行う必要があり、処理時間が長くなり、また演算処理負荷も大きくなる、という課題がある。
【0006】
本発明の目的は、処理時間を長くすることなく、また演算処理負荷も大きくすることなく、絶対角度位置を検出できるロータリエンコーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のロータリエンコーダは、固定体に対する回転体の角度を検出するロータリエンコーダであって、1対のN極及びS極が着磁された第1磁石と、第1磁石に対向してA1相の成分とA1相とは位相が異なるB1相の成分とを検出する第1感磁部と、を有する第1センサ部と、複数対のN極及びS極が交互に着磁された第2磁石と、第2磁石に対向しA2相の成分とA2
相とは位相が異なるB2相の成分とを検出する第2感磁部と、を有する第2センサ部と、第2センサ部の出力から計数用のパルスを生成する回路と、パルスを計数するカウンタと、
第1センサ部の出力に基づいて角度を算出する第1演算部と、第2センサ部の出力に基づいて角度を算出する第2演算部と、を備え、第1磁石と第1感磁部の一方は固定体に設けられて他方は回転体に設けられ、第2磁石と第2感磁部の一方は固定体に設けられて他方は回転体に設けられ、起動時には第1センサ部及び第2センサ部の出力に基づいて回転体の角度位置の演算を行って初期値とし、
初期値は、起動時に第1演算部及び第2演算部での演算に基づいて生成された多回転絶対角度位置データであって、起動時において、多回転絶対角度位置データをカウンタでの計数値に換算した値がカウンタにおける計数の開始値としてカウンタに格納され、起動以後はカウンタに
おいてパルスの計数を行
い、角度位置を要求されたときに、その要求の時点でのカウンタにおける計数値と第2演算部の出力とから多回転絶対角度位置データを算出する。
【0008】
本発明のロータリエンコーダの絶対角度位置検出方法は、第1センサ部と第2センサ部とを備え、第1センサ部は、1対のN極及びS極が着磁された第1磁石と、第1磁石に対向してA1相の成分とA1相とは位相が異なるB1相の成分とを検出する第1感磁部と、を有し、第2センサ部は、複数対のN極及びS極が交互に着磁された第2磁石と、第2磁石に対向しA2相の成分とA2
相とは位相が異なるB2相の成分とを検出する第2感磁部とを有する第2センサ部と、を有し、第1磁石と第1感磁部の一方は固定体に設けられて他方は回転体に設けられ、第2磁石と第2感磁部の一方は固定体に設けられて他方は回転体に設けられているロータリエンコーダにおける絶対角度位置検出方法であって、起動
の時には第1センサ部及び第2センサ部の出力に基づいて回転体の角度位置の演算を行って初期値とする工程と、
起動の時に、初期値をカウンタでの計数値に換算した値をカウンタを前記カウンタにおける計数の開始値として前記カウンタに格納する工程と、起動の後に、第2センサ部の出力から生成される計数用のパルスについてカウンタによる計数を開始する工程と、
角度位置を要求されたときに第2センサ部の出力に基づいて回転体の角度位置の演算を行う工程と、演算を行う工程で得られた結果と角度位置が要求された時点でのパルスの計数値とから多回転絶対角度位置データを算出する工程と、を有する。
【0009】
このような本発明によれば、起動時に第1センサ部及び第2センサ部の出力に基づいて角度位置演算を行い、その後は、計数用のパルスを計数した結果(累算パルス数)に基づいて移動量を算出する。A/D変換と逆正接演算を必要とする角度位置計算に比べ、パルスの計数ははるかに短時間かつ小さな処理負荷で実行することができるので、都度に角度位置計算を実施する場合と比較して、短時間で角度位置を求めることができる。
また、角度要求があったときに第2センサ部の出力から演算された角度位置または第2演算部の出力とカウンタの計数値とから多回転絶対角度位置データを算出することにより、高分解能の絶対角度位置を得るために必要な角度位置演算は、初期値の計算を行った後は、角度位置を要求されたときに第2センサ部の出力に対してのみ行えばよく、処理時間の短縮、処理負荷の軽減を図ることができる。
【0010】
本発明
のロータリエンコーダにおいては
、起動時には第1演算部及び第2演算部での演算に基づいて多回転絶対角度位置データを生成して初期値とし、多回転絶対角度位置データをカウンタでの計数値に換算した値をカウンタに格納し、カウンタが、
その格納された値を開始
値として計数を行う
ので、カウンタの値を参照することで、概略すなわち精度が粗いものの起動以後の多回転絶対角度位置を知ることができる。
【0012】
本発明では、パルスとして、第2センサ部の出力における1周期の長さを4分割したタイミングの各々に対応するものを用いることができる。実際には、A2相とB2相との移相がずれていることにより、これらの相の各々での極性の反転が起こるタイミングからパルスを生成することができる。第2磁石において周方向にn個のN極とn個のS極とが1列に配置しているとすれば、パルスによる分解能は回転体の1回転あたり8nとなり、概略角度位置の分解能を高めることができる。
【0013】
本発明では、第1感磁部として、A1相に対応する磁気抵抗パターンとB1相に対応する磁気抵抗パターンとを備える磁気抵抗効果素子と、回転体の回転軸にからみて90°相隔たった位置に配置された1対のホール素子とからなるものを用い、1対のホール素子からの信号の極性の組み合わせに基づいて計数を行ってホールカウント多回転データを生成するようにしてもよい。この構成では、ホール素子を用いることにより、角度位置演算に用いるセンサの種類によらず、多回転データを容易に得ることができるようになる。
【0014】
本発明では、A1相の成分とB1相の成分とが第1センサ部から出力される正弦波の信号の4分の1周期に対応する位相で相互にずれるようにし、A2相の成分とB2相の成分とが第2センサ部から出力される正弦波の信号の4分の1周期に対応する位相で相互にずれるようにしてもよい。このような位相のずれのある成分を用いることにより、それぞれの成分が正弦関数(sin)及び余弦関数(cos)によって表されるようになり、逆正接演算によって容易に回転角を算出できるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ロータリエンコーダにおいて、処理時間を長くすることなく、また演算処理負荷も大きくすることなく、絶対角度位置を検出できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照する。
図1は、本発明の実施の一形態のロータリエンコーダについて、回転角を求めるために用いられる構成の全体を示しており、
図2は、このロータリエンコーダでの磁石と感磁素子とホール素子の配置を示している。後述するようにホール素子は回転角の象限を判別するために設けられている。本実施形態のロータリエンコーダは、感磁素子から出力される信号を処理して絶対角度位置を決定するための処理回路において特許文献1に記載されたものと異なっており、外観や機械的構造に関しては特許文献1に記載されたものと同様である。したがって、本実施形態のロータリエンコーダに関し、外観や測定対象への取り付け部分についての説明は省略する。またこのロータリエンコーダは、所定の原点位置から回転体が何回転したかを知ることができる多回転ロータリエンコーダとして構成されている。
【0018】
ロータリエンコーダは、モータなどの測定対象の回転軸に結合する回転体と、測定対象の回転軸には結合せずに固定している固定体とを有する。回転体には、第1磁石20と、第2磁石30と、第1磁石
20と第2磁石
30との間に設けられて両者の間を磁気的に遮蔽するシールド部材70とが設けられている。
図1において、回転体の回転軸Lの軸線方向が一点鎖線で示されている。また、各磁石10,20に対して付された「N」及び「S」の符号は、その符号が付された位置が着磁面であり、その符号で示される磁気極性で着磁されていることを示している。固定体には、第1磁石20が発生する磁界の大きさを検出する第1感磁素子40と、第1磁石20が発生する磁界の極性を検出する第1及び第2ホール素子51,52と、第2磁石30が発生する磁界を検出する第2感磁素子60とが設けられている。第1磁石20と第1感磁素子40と第1及び第2ホール素子51,52とにより第1センサ部1aが構成され、第2磁石30及び第2感磁素子60により第2センサ部1bが構成されている。第1感磁素子40と第1及び第2ホール素子51,52によって第1感磁部が構成される。第2感磁素子60は第2感磁部を構成する。
【0019】
第1センサ部1aにおいて、回転体に設けられる第1磁石20は、N極とS極とが周方向において1極ずつ着磁された着磁面を有し、N極及びS極の両方の着磁面を合わせた形状は略円形であって、その中心は回転軸Lと一致している。固定体に設けられる第1感磁素子40は、第1磁石20の着磁面に対向して設けられている。第1及び第2ホール素子51,52は、回転軸からみて相互に90°隔たるようにして、第1磁石20の着磁面に対応して設けられている。第1感磁素子40は、例えば磁気抵抗効果素子により構成されたものであり、回転軸Lの回転の位相において相互に電気角で90°ずれた磁界の大きさの成分を検出できるように、細長い形状の4個の磁気抵抗パターン41〜44から構成されている。電気角については後述する。磁気抵抗パターン41〜44は回転軸を中心として、45°ずつ分離して扇形に配置されている。磁気抵抗パターン41,43は、A1相に対応するものであって、
図3(a)に示すように、電源電圧Vccと接地電位GNDとの間に並列に接続されてブリッジ回路を構成し、それぞれの中点から±aで表される差動出力が得られるようになっている。同様に、抵抗パターン42,44は、B1相に対応するものであって、
図3(b)に示すように、電源電圧Vccと接地電位GNDとの間に並列に接続されてブリッジ回路を構成し、それぞれの中点から±bで表される差動出力が得られるようになっている。このように第1センサ部1aでは、第1磁石20として1対のN極とS極とを有するものが使用されるから、第1センサ部1aを1分割センサ部とも呼ぶ。
【0020】
後述するようにこのロータリエンコーダでは、回転体が実際に1回転する間に、A1相及びB1相は、いずれも正弦波形で2周期分変化する。そこで、ロータリエンコーダにおいて回転体の実際の回転角(幾何学的あるいは機械的に図られる角度)を機械角と呼び、感磁素子からの信号の位相から定まる角度を電気角と呼ぶ。磁界の大きさだけを検出でき磁界の極性を検出できない素子を用いる場合には、電気角は、機械角の2倍の値として表される。A1相に対応する磁気抵抗パターン41,43とB1相に対応する磁気抵抗パターン42,44とは電気角に換算すれば90°の位相差を発生するようにずれているから、A1相は正弦成分(sin)に対応し、B1相は余弦成分(cos)に対応する。磁気抵抗パターン41,43は、それぞれ、電気角で相互に180°の位相差を有する(sin−)成分と(sin+)成分に対応し、磁気抵抗パターン42,44は、それぞれ、電気角で相互に180°の位相差を有する(cos−)成分と(cos+)成分に対応することになる。
【0021】
第2センサ部1bにおいて、回転体に設けられる第2磁石30は、回転軸Lと同軸の環状のものであって、第1磁石20に対しては半径方向の外側で離間するように設けられている。第2磁石30は、N極とS極とが周方向において等間隔で交互に複数着磁された環状の着磁面からなる2つの環状のトラック31,32からなり、これらのトラック31,32は半径方向に相互に接している。内側のトラック31と外側のトラック32との間で、N極とS極とは周方向に1極分ずれている。その結果、回転軸Lからみて半径方向にN極とS極とを配置したものを極対として、第2磁石30では、隣接する極対間ではN極とS極との配向が逆となるように複数の極対が環状に配置されていることになる。トラック31,32の各々ごとに、n(nは2以上の整数)個のN極とn個のS極が着磁面として設けられているとすると、極対の数は2nである。極対の数2nは、
図1では説明のために16となっているが、実際には例えば128である。固定体に設けられる第2感磁素子60は、例えば磁気抵抗効果素子により構成されたものであって、トラック31,32が相互に接する位置に対応して、第2磁石30の着磁面に対向するように配置されている。第2磁石30による磁界の強さは、周方向にトラック31,32が相互に接する位置に沿って、N極あるいはS極の1極分の長さ(極対数が128であれば、360/128=2.8125であるので機械角で2.8125°)を周期として正弦波状に変化する。そこで、第2磁石30については、N極あるいはS極の1極分の長さが電気角における360°に対応するものとする。第2センサ部1bは、第2磁石
30としてN極とS極とを複数対設けているから、第2センサ部1bを多分割センサ部とも呼ぶ。
【0022】
第2感磁素子60では、周方向での1極分の長さの1/4の間隔で4個の磁気抵抗パターン61〜64が周方向に沿って配置されている。各磁気抵抗パターン61〜64は、回転体の半径方向に延びる細長い形状を有する。第2感磁素子60は、その中心がトラック31,32とが接する位置の上にくるように、第2磁石30に対応して設けられている。第2感磁素子60では、磁気抵抗パターン61〜64によって、第1感磁素子40の場合と同様に、第2磁石30の位相に対し、電気角で相互に90°の位相差を有するA2相(sin)の磁気抵抗パターンとB2相(cos)の磁気抵抗パターンが構成されている。A2相の磁気抵抗パターンは、(sin+)成分の磁気抵抗パターン64及び(sin−)成分の磁気抵抗パターン62からなり、B2相の磁気抵抗パターンは、(cos+)成分の磁気抵抗パターン63及び(cos−)成分の磁気抵抗パターン61からなっている。第1感磁素子40の場合と同様に、A2相の磁気抵抗パターン62,64は、
図3(a)に示すブリッジ回路を構成しており、B2相の磁気抵抗パターン61,63は、
図3(b)に示すブリッジ回路を構成している。なお、ここでは内側のトラック31と外側のトラック32とを設けているが、いずれか一方のトラックのみとし、そのトラックの中央位置に対応して第2感磁素子60が配置されるようにしてもよく、そのように配置した場合においても本実施形態での絶対角度位置算出の手順をそのまま適用することができる。
【0023】
本実施形態のロータリエンコーダでは、回転体の多回転での絶対角度位置を検出するために、第1感磁素子40、第2感磁素子60及び各ホール素子51,52の出力が、処理回路であるデータ処理部70に供給されている。
図1では、第1感磁素子40及び第2感磁素子60の各々のsin成分及びcos成分の信号線は1本の線で示されているが、
図3の等価回路図からも明らかなように、実際にはそれぞれの信号線は差動信号線である。データ処理部70には、第1及び第2ホール素子51,52の出力がそれぞれ入力してホール素子51,52で検出した磁界の向きをH/Lの二値信号で出力するコンパレータ71,72と、第1感磁素子40のcos成分とsin成分がそれぞれ入力してアナログ/デジタル(A/D)変換を行うA/Dコンバータ73,74と、第2感磁素子60のcos成分とsin成分がそれぞれ入力してそれらの成分の正負の極性を判別するコンパレータ81,82と、第2感磁素子60のcos成分とsin成分がそれぞれ入力してアナログ/デジタル(A/D)変換を行うA/Dコンバータ83,84と、が設けられている。さらにデータ処理部70には、A/Dコンバータ73,74の出力に基づいて逆正接(tan
-1)演算を行う演算部75と、A/Dコンバータ83,84の出力に基づいて逆正接(tan
-1)演算を行う演算部85と、コンパレータ71,72,81,82の出力と演算部75,85の出力とに基づいてこのロータリエンコーダの起動時における絶対位置角度を算出する初期座標計算部76と、カウンタ設定部77と、コンパレータ81,82の出力を後述するQEP信号としてこのQEP信号に基づく計数を行うQEPカウンタ86と、外部から角度要求が入力したときに、QEPカウンタ86での計数値と演算部85での演算結果とに基づいて多回転での絶対角度位置を計算して出力する絶対角度位置計算部87とを備えている。カウンタ設定部77は、初期座標計算部76での計算結果に基づき、QEPカウンタ86に計数の初期値を設定する。
【0024】
データ処理部70では、上述したコンパレータ71,72,81,82、A/Dコンバータ73,74,83,84、演算部75,85、初期座標計算部76、カウンタ設定部77、QEPカウンタ86及び絶対角度位置計算部87の各々をハードウエア回路部品として設けるようにしてもよい。あるいは、演算部75,85、初期座標計算部76、カウンタ設定部77、QEPカウンタ86及び絶対角度位置計算部87をマイクロプロセッサあるいはCPUとして設け、コンパレータ71,72,81,82、A/Dコンバータ73,74,83,84をこのマイクロプロセッサに接続するハードウエア回路として設けてもよい。コンパレータ機能及びA/D機能を有するマイクロプロセッサ(あるいはCPU)が利用できる場合には、データ処理部の全体をマイクロプロセッサあるいはCPUとして構成してもよい。
【0025】
次に、本実施形態のロータリエンコーダの検出原理について、
図4を用いて説明する。
図4(a)は、第1センサ部
1aに関し、固定体におけるある1点を考えて、回転体の機械角の変化に対し、第1磁石20によって形成される磁界の極性及び強度と、第1感磁素子40からの出力(sin及びcos)と、第1及び第2ホール素子51,52の出力とがどのように変化するかを示している。ただし、以下の説明においては、コンパレータ71,72を介して得られるHまたはLの二値信号によって、第1及び第2ホール素子51,52の出力を示している。図に示されるように、回転体が回転し機械角で第1磁石20が1回転(360°)すると、第1感磁素子40からは正弦波形の信号sin及びcosが2周期分、すなわち電気角で720°分、出力される。電気角をθとすれば、
図4(b)に示すように、これらの信号sin及びcosに基づいてθ=tan
-1(sin/cos)をしたがって計算を行うことにより、回転体の角度位置を電気角θとして定めることができる。ただし、ここで説明する例では磁気抵抗素子を使用しており機械角が1周する間に電気角は2周するから、このθだけでは絶対角度位置を求めることはできない。そこで、第1磁石20の中心からみて相互に90°隔てて設けられた第1及び第2ホール素子51,52を利用する。第1及び第2ホール素子51,52によれば第1磁石20が発生する磁界の極性が判別され、
図4(a)において一点鎖線で示すように、機械角による回転角が平面座標系におけるどの象限に位置しているかがわかるから、回転体の機械角による絶対角度位置を求めることができる。また、第1及び第2ホール素子51,52の信号が同時に変化することはないので、これらのいずれかにおいて信号が変化するごとに1を加算する計数を行えば、機械角での象限(90°)単位での多回転データを得ることができる。このような多回転データをホールカウント多回転データと呼ぶ。
【0026】
第2センサ部1bについても、周方向において第2磁石30における隣接する2つの極対分の長さを電気角における2周分(720°)と考えることによって、上述した第1センサ部1aの場合と同様にして、絶対角度位置(ここでは考えている周方向で隣接する2極対の中での周方向の位置)を求めることができる。電気角2周分に対して、sin及びcosの正弦波形も2周分変化する。第2センサ部1bは多分割センサ部であるので、第1センサ部1aよりも高い分解能で絶対角度位置を決定できる。そこで、第1センサ部1aによる大まかな絶対角度位置と第2センサ部1bによる細かい絶対角度位置とを組み合わせれば、全体として高い分解能での絶対角度位置の決定が可能になる。なお、第1センサ部1aでの結果により大まかな絶対角度位置が分かるので、第2センサ部1bでは、第1センサ部1aでの第1及び第2ホール素子51,52に相当するものを設ける必要はない。
【0027】
以上の説明において、演算部75,85は逆正接演算(tan
-1(sin/cos))を行っている。ここでの逆正接演算は、cos成分が0であるとゼロ除算となって実行できず、またcos成分が0に近いと演算誤差が大きくなるが、そのような場合には、周知なように、逆余接(cot
-1またはarccot)演算を行い、その値を90°から差し引けば、回転角θを求めることができる。また、逆正接関数(cot)の値域は一般に−90°<θ<+90°とされているが、本実施形態では、sin及びcosの正負を考慮して、0°≦θ<360°の範囲で回転角θを求めるようにする。本明細書において逆正接演算というときは、このようにcos成分が0に近い場合に行うべき逆余接演算も含め、0°≦θ<360°の範囲でθを求めることをいう。また、機械角の1周が電気角の2周に対応するのは、磁界の強さを検出することができるが磁界の極性を判別することができないセンサを使用しているからである。第1感磁素子40において、磁界の強さと同時にその磁界の極性を検出でき、磁界の極性に応じて出力の正負が決定する例えばホール素子などの素子を使用する場合には、上記の説明は、当業者には明らかなように、機械角の1周が電気角の1周に対応するものと変更される必要がある。この場合、回転角の象限を決定するために別途設けられている第1及び第2ホール素子51,52を設ける必要はない。また、第2感磁素子60においてホール素子などを用いる場合には、周方向で隣接する2つの極対分の長さを電気角における1周分(360°)と考えることになる。
【0028】
次に、本実施形態のロータリエンコーダでの処理について説明する。このロータリエンコーダでは、A/Dコンバータ73,74及び演算部75によって第1センサ部1aに基づく絶対角度位置を決定し、この決定された絶対角度位置とA/Dコンバータ83,84及び演算部85によって求められた結果とに基づいて、高分解能での最終的な絶対角度位置を求めることができる。しかしながら、A/D変換の処理と各演算部75,85での逆正接演算は、処理時間を要したり処理負荷が大きいので、できるだけ行わないようにすることが好ましい。そこで本実施形態のロータリエンコーダでは、起動時(あるいは指定されたとき)に高分解能での絶対角度位置を算出した後は、第2センサ部1bの第2感磁素子60からのcos及びsinの成分をそれぞれコンパレータ81,82で処理してQEP(直交エンコーダパルス;Quadrature Encoder Pulse)信号を生成してこのQEP信号の計数のみを行うようにする。そして、外部から角度要求があったときに、第2センサ部1bのみに基づく絶対角度位置の計算を行い、これとQEP信号の計数値とを組み合わせて、最終的な多回転絶対角度位置データを得る。このような動作では、第1センサ部1aに関連するA/Dコンバータ73,74及び演算部75は起動時にしか使用されないこととなる。
【0029】
図5は、本実施形態での動作を説明するフローチャートである。ロータリエンコーダが起動すると、まず、S11において、A/Dコンバータ73,74,83,84と演算部75,85を動作させ、第1センサ部1a及び第2センサ部1bの各々からのcos成分及びsin成分の信号に基づいて角度位置演算を行い、これらから得られた結果と第1及び第2ホール素子51,52による結果とに基づき、初期座標計算部76が、多回転絶対角度位置の初期値を決定する。次に、S12において、カウンタ設定部77は、求めた多回転絶対角度位置をQEPカウンタ86での計数値に換算し、換算により得られた値をQEPカウンタ86に計数の開始値である初期値として設定する。その後、S13において、QEPカウンタ86における第2センサ部1bの出力(cos及びsin)に基づくQEP信号による計数を開始する。
【0030】
ここでQEP信号について説明する。QEP信号は、第2センサ部1bの出力から生成される計数用のパルスである。第2センサ部1bの第2感磁素子60から得られるcos及びsinの成分は、いずれも、第2センサ部1bでの電気角が180°変化するごとに符号が反転し、かつ両者の位相は電気角で90°ずれている。cosまたはsinのいずれかの符号が反転するごとにQEPカウンタ86の計数値に1を加算もしく減算することとすると、電気角の360°ごとに計数値が4変化する。加算を行うか減算を行うかは、回転体が正方向に回転したか逆方向に回転したかに依存する。コンパレータ81,82が出力する二値信号(HまたはLの信号)をそれぞれQc,Qsとすれば、QEP信号を(Qc,Qs)として表すことができる。回転体が正方向に回転していれば、(Qc,Qs)は、(H,L)→(H,H)→(L,H)→(L,L)→(H,L)→…のように変化する。一方、逆方向に回転してれば、(Qc,Qs)は、(H,L)→(L,L)→(L,H)→(H,H)→(H,L)→…のように変化する。したがって、ある時点からQEP信号がどのように変化したかを検出することにより、回転体の回転方向を知ることができる。例えば、(Qc,Qs)が(H,H)であるとして、この状態から(L,H)に変化すれば正転であり、(H,L)に変化すれば逆転である、と判別することができる。正転か逆転に応じて1を加算するか減算するかが選択されるので、正方向への回転を続けている途中で逆方向に回転しさらに正方向に回転するような場合であっても、回転の絶対角度位置を正しく求めることができるようになる。ここで極対の数2nが128であるとすれば、機械角の1周でQEPカウンタ86の計数値は512(=4×128)変化することになる。QEPカウンタ86の値を512で除した剰余は、その時点での機械角が、第2磁石30のどの極対に対応するものかを極対あたり2ビットで示していることになる。QEPカウンタ86での計数を続けることにより、多回転データの取得もできることになる。この多回転データは、回転の方向を考慮した絶対角度回転位置を示すデータである。
【0031】
QEPカウンタ86での累算の計数を続けながら、S14において角度要求の割込発生の有無を判定し、割込がなければS14に戻ることにより、この割込発生を待ち受ける。角度要求の割込の発生があれば、S15において、第2センサ部1b側のA/Dコンバータ83,84と演算部85を作動させ、第2センサ部1bの第2感磁素子60の出力に対して逆正接演算を実行し、回転角を求める。S16において、絶対角度位置計算部87は、求められた回転角とこの時点でのQEPカウンタ86の計数値とに基づいて、多回転絶対角度位置を求め、S17において、絶対角度位置データを出力する。この絶対角度位置データは、第2センサ部1bによる検出結果に基づいているので、十分な分解能を有するものである。また、QEPカウンタ86による累算を継続してきているから、多回転データでもある。その後、次の角度要求に備えるために、処理はS14に戻る。
【0032】
以上の動作について、
図6及び
図7を用い、機械角の変化に対する各データ、各信号の変化を示すことにより、さらに詳しく説明する。
図6において[1]は、第1及び第2ホール素子51,52の出力の変化を示しており、ホール素子51,52の出力は、それぞれ、機械角の180°ごとに変化しており、かつ、相互に90°の位相差を有している。ホール素子51,52の出力をそれぞれHc,Hsとすると、(Hc,Hs)の変化の形態は、上述のQEP信号(Qc,Qs)と同様に回転体の回転方向に応じて異なる。そこで、ホール素子51,52の出力に基づき、いずれかのホール素子51,52の出力が変化したときに回転方向に応じて1を加算もしくは減算する計数を行うことによって、[2]に示すホールカウント多回転データが得られる。ホールカウント多回転データも回転の絶対回転位置に対応するデータである。
図6では、多回転データとして、第m回目の回転(m回転)におけるデータの変化が示されている。また、第1センサ部1aの第1感磁素子40の出力に対して演算部75により逆正接演算を行うことにより、[3]に示す電気角1回転データが得られる。電気角1回転データとは、回転角を示すデータであって、電気角が1回転すればもとに戻るデータ(回転の累積回数を含まないデータ)である。ここでは、機械角の1周が電気角の2周に対応するので、電気角1回転データは、機械角1回転に対して2周期となるインクリメンタル角度データであるといえる。[2]に示すホールカウント多回転データと[3]に示す電気角1回転データとを組み合わせることにより、第1センサ部1a(すなわち1分割センサ部)を基準とした、[4]に示す多回転絶対角度位置データが得られる。
【0033】
一方、第2センサ部1bの第2感磁素子60の出力に対して演算部85により逆正接演算を行うことにより、1つの極対の周方向の長さにおいて1回転する、[5]に示す電気角1回転データが得られる。極対の数が128であれば、機械角1回転の範囲内で[5]に示す電気角1回転データは128周期を有することになる。[5]に示す第2センサ部1bの電気角1回転データと[4]に示す第1センサ部1a基準での多回転絶対角度位置データとを組み合わせることにより、[6]に示す第2センサ部1b基準での多回転絶対角度位置データが得られる。[6]に示す多回転絶対角度位置データは、[4]の多回転絶対角度位置データよりも分解能が高い。[6]の多回転絶対角度位置データを求めるまでの処理が、
図5に示したS11での処理である。
【0034】
[7]は、第2センサ部1bの第2感磁素子60からのcos成分及びsin成分の極性をコンパレータ81,82判別することによって得られるQEP信号を示している。このQEP信号は、第2センサ部1bの電気角で表したとき、相互に90°位相がずれてそれぞれが180°ごとに反転する1対の信号であり、[8]に示すように、第2センサ部1bの電気角での象限を示している。ここで[6]の多回転絶対角度位置データと[8]のQEP信号での象限を組み合わせることにより、第2センサ部1bでの電気角90°ごとに階段状に変化する、[9]に示す多回転絶対角度位置データが得られる。[9]の多回転絶対角度位置データは、QEPカウンタ86の計数値に1が加算または減算されるごとに変化するデータであるので、QEPカウンタ86基準の多回転絶対角度位置データと呼ばれる。S12(
図5)においてカウンタ設定部77は、初期値としてのQEPカウンタ86基準の多回転絶対角度位置データをQEPカウンタ86に設定する。その後、QEPカウンタ86は、QEP信号に基づく計数を開始(
図5のS13)する。以上が本実施形態のロータリエンコーダにおける起動時の動作である。[9]のQEPカウンタ86基準の多回転絶対角度位置データは、QEPカウンタ86の計数動作によって次第に大きくなる。
【0035】
角度要求の割込があったときは、S15(
図5)において、割込時点での[5]に示す第2センサ部1bの電気角1回転データを求め、S16(
図5)においてこの電気角1回転データと割込時点での[9]に示すQEPカウンタ86基準での多回転絶対角度位置データとを組み合わせることにより、[10]に示す出力されるべき多回転絶対角度位置データを生成する。この多回転絶対角度位置データは、S17(
図5)において、角度要求に対する応答として、外部に出力される。ここでは、[10]の多回転絶対角度位置データは、機械角に対して滑らかに変化するデータとして示されているが、実際には、割込時点での多回転絶対角度位置データが算出されるだけである。また、[10]の多回転絶対角度位置データの精度は、[6]に示す第2センサ部1b基準での多回転絶対角度位置データと同等のものである。