(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877229
(24)【登録日】2021年4月30日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】空気浄化システム
(51)【国際特許分類】
B01D 53/22 20060101AFI20210517BHJP
【FI】
B01D53/22
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-87808(P2017-87808)
(22)【出願日】2017年4月27日
(65)【公開番号】特開2018-183750(P2018-183750A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年2月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅本 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】岸本 輝雄
(72)【発明者】
【氏名】奥村 寿浩
【審査官】
関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−192927(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/065387(WO,A1)
【文献】
特許第5743639(JP,B2)
【文献】
特許第5738704(JP,B2)
【文献】
特開2017−006820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
F24F 1/00
B60H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部屋内の空気を浄化する空気浄化システムであって、
二酸化炭素および水蒸気を選択的に透過させる分離膜で仕切られた第1空間および第2空間を含む二酸化炭素除去装置と、
前記部屋内の空気を前記第1空間へ導く送り路と、
二酸化炭素が除去された清浄空気を前記第1空間から前記部屋へ導く戻り路と、
前記第2空間の二酸化炭素分圧が、前記部屋内の空気中の二酸化炭素分圧よりも低くなるように前記第2空間を真空引きする減圧ポンプと、
前記第2空間の水蒸気分圧が前記第1空間の水蒸気分圧と実質的に等しくなるように前記第2空間に水蒸気を供給する水蒸気供給装置と、
を備える、空気浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部屋内の空気を浄化する空気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物や輸送機器などにおける人を収容する部屋に対しては、二酸化炭素濃度の上昇を抑えるために換気が行われる。また、部屋には、暖房または冷房を行う空調装置が設けられる。
【0003】
上記の二酸化炭素濃度の上昇を抑えるための換気量は比較的に大きいために、その分、空調装置の負荷が高くなる。近年では、空調装置の負荷を低減するために、部屋内の空気から二酸化炭素を除去して当該空気を浄化することが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、鉄道車両に搭載される空気浄化システムが開示されている。この空気浄化システムでは、部屋内の空気を循環させる循環路に二酸化炭素除去装置が設けられている。二酸化炭素除去装置は、二酸化炭素を選択的に透過させる分離膜を含む。また、二酸化炭素除去装置には、分離膜の循環路側(分離膜で仕切られる空間の一方)と透過側(分離膜で仕切られる空間の他方)との間に圧力差を与えるために、透過側を真空引きする減圧ポンプが接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−25991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、分離膜の透過側の圧力を20kPa程度として、分離膜の循環路側と透過側との間に80kPa程度の圧力差を生じさせることで、循環される空気中の二酸化炭素が分離膜を選択的に透過すると記載されている。
【0007】
しかしながら、空気中の二酸化炭素分圧は、二酸化炭素濃度が1000ppmの場合で約0.1kPaである。従って、20kPaという圧力は空気中の二酸化炭素分圧よりもかなり高く、仮に分離膜が二酸化炭素のみを選択的に透過させる場合には、透過側の二酸化炭素分圧が即座に上昇してしまうため、透過する二酸化炭素は極めて少なくなる、もしくは優位な二酸化炭素透過量を得るためには、透過側の二酸化炭素分圧を低く維持するために二酸化炭素以外のガス成分も同時に大量に透過させる必要があり減圧ポンプの消費電力が過大となる。
【0008】
一方、分離膜としては、二酸化炭素だけでなく水蒸気をも選択的に透過させるものもある。しかしながら、分離膜の二酸化炭素透過度と水蒸気透過度とが同程度の場合でも、透過側の全圧が20kPaであれば、透過側の二酸化炭素分圧は空気中の二酸化炭素分圧よりも高く、この場合でもやはり透過側の二酸化炭素分圧が即座に上昇してしまうため、透過する二酸化炭素は極めて少なくなる、もしくは現実的な二酸化炭素透過量を得るために大量の空気を二酸化炭素と合わせて透過させることが必要となり装置が非現実的なものとなる。すなわち、引用文献1に記載された程度の真空度においては、部屋内の空気から二酸化炭素を除去することは現実的ではない。
【0009】
そこで、本発明は、分離膜および減圧ポンプを用いて二酸化炭素を効率的に除去することができる空気浄化システムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の空気浄化システムは、部屋内の空気を浄化する空気浄化システムであって、二酸化炭素を選択的に透過させる分離膜で仕切られた第1空間および第2空間を含む二酸化炭素除去装置と、前記部屋内の空気を前記第1空間へ導く送り路と、二酸化炭素が除去された清浄空気を前記第1空間から前記部屋へ導く戻り路と、前記第2空間の二酸化炭素分圧が、前記部屋内の空気中の二酸化炭素分圧よりも低くなるように前記第2空間を真空引きする減圧ポンプと、を備える、ことを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、二酸化炭素除去装置の第2空間の二酸化炭素分圧が第1空間の二酸化炭素分圧よりも低くなるため、二酸化炭素が分離膜を選択的に透過し続ける。従って、部屋内の空気から二酸化炭素を効率的に除去することができる。
【0012】
前記分離膜は、二酸化炭素だけでなく水蒸気をも選択的に透過させるものであり、前記減圧ポンプは、前記第2空間の全圧が前記部屋内の空気中の水蒸気分圧よりも低くなるように、前記第2空間を真空引きしてもよい。分離膜が二酸化炭素のみを選択的に透過させるものである場合、すなわち、第2空間内が二酸化炭素のみである場合には、第2空間を第1空間の二酸化炭素分圧未満の圧力となるように真空引きする必要がある。例えば、部屋内空気中の二酸化炭素濃度が1000ppmである場合には、第2空間の圧力を0.1kPa未満とする必要がある。これに対し、分離膜が二酸化炭素だけでなく水蒸気をも選択的に透過さるものであれば、部屋内空気中には二酸化炭素よりも多くの水蒸気が存在するため、第2チャンバ内でも二酸化炭素よりも水蒸気の量を多くすることができる。従って、第2空間の全圧を第1空間の水蒸気分圧未満に設定すれば、第2空間の二酸化炭素分圧の増加を抑制することが可能となり、現実的な装置規模によって必要となる二酸化炭素透過量を得ることが可能となる。
【0013】
上記の空気浄化システムは、前記第2空間の水蒸気分圧が前記第1空間の水蒸気分圧と実質的に等しくなるように前記第2空間に水蒸気を供給する水蒸気供給装置をさらに備えてもよい。この構成によれば、水蒸気が第1空間から第2空間へ向かって分離膜を透過することが抑制される。従って、減圧ポンプの吸引量が減少するため、減圧ポンプの負荷を低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、分離膜および減圧ポンプを用いて二酸化炭素を効率的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る空気浄化システムの概略構成図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る空気浄化システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態に係る空気浄化システム1Aを示す。この空気浄化システム1Aは、人を収容する部屋2内の空気を浄化するものである。
【0017】
例えば、部屋2は、オフィスビルのような建物の部屋であってもよいし、鉄道車両や航空機のような輸送機器の部屋(いわゆるキャビン)であってもよい。あるいは、部屋2は、宇宙ステーション、潜水船、災害時避難設備などの部屋であってもよい。
【0018】
空気浄化システム1Aは、二酸化炭素除去装置4を含む。図例では、二酸化炭素除去装置4が部屋2外に配置されているが、二酸化炭素除去装置4は部屋2内に配置されてもよい。
【0019】
二酸化炭素除去装置4は、分離膜43で仕切られた第1空間41および第2空間42を含む。分離膜43は、第1空間41から第2空間42へ向かって、二酸化炭素を選択的に透過させる。本実施形態では、分離膜43が、二酸化炭素だけでなく水蒸気をも選択的に透過させる。
【0020】
分離膜43の二酸化炭素透過度および水蒸気透過度は、窒素透過度および酸素透過度の1000倍以上であることが望ましい。各成分についての透過度は、下記式で表される。
m=K×A×ΔP
m:特定成分の透過速度[mol/sec]
K:特定成分の透過度[mol/(m
2・sec・Pa)]
A:分離膜の面積[m
2]
ΔP:分離膜の両側での特定成分の分圧差[Pa]
【0021】
例えば、分離膜43は、中空糸膜である。この場合、多数の中空糸膜が1つの膜モジュールを構成し、二酸化炭素除去装置4が多数の膜モジュールを含んでもよい。分離膜43が中空糸膜である場合、中空糸膜の内側が第1空間41、中空糸膜の外側が第2空間42である。
【0022】
二酸化炭素除去装置4の第1空間41へは、送り路51を通じて部屋2内の空気が導かれ、第1空間41からは、戻り路52を通じて二酸化炭素が除去された清浄空気が部屋2へ導かれる。本実施形態では、送り路51に送風機53が設けられているが、送風機53は戻り路52に設けられてもよい。送風機53は、ブロアであってもよいしファンであってもよい(後述する送風機も同様)。
【0023】
二酸化炭素除去装置4の第2空間42には、吸引路61が接続されている。吸引路61の下流端は、大気中に開口している。吸引路61には、減圧ポンプ62が設けられている。
【0024】
減圧ポンプ62は、第2空間42の二酸化炭素分圧が部屋2内の空気中の二酸化炭素分圧よりも低くなるように第2空間42を真空引きする。例えば、部屋2内の空気が25℃で大気圧であり、部屋2内の空気中の二酸化炭素濃度が1000ppmである場合、二酸化炭素分圧は約0.1kPaである。本実施形態では、分離膜43が二酸化炭素だけでなく水蒸気をも透過させるため、第2空間42の全圧が1.0kPa程度であっても、第2空間42の二酸化炭素分圧を第1空間41の二酸化炭素分圧未満に抑えることができる。
【0025】
例えば、第2空間42の全圧が0.1kPaの場合には、減圧ポンプ62の駆動に非常に大きなエネルギーが必要になる。しかし、第2空間42の全圧が1.0kPa程度であれば、二酸化炭素除去装置4のサイズは大きくなるものの、減圧ポンプ62の駆動に必要なエネルギーを少なくすることができる。
【0026】
部屋2内の空気が25℃で大気圧である場合、部屋2内の空気中の水蒸気分圧は、部屋2内の相対湿度が20%の場合に0.6kPa、相対湿度が80%の場合に2.5kPaである。従って、減圧ポンプ62の制御の目標値である第2空間42の全圧は、例えば0.5kPa以下としてもよい。あるいは、第2空間42の全圧は、部屋2内の相対湿度に応じて変動させてもよい。
【0027】
部屋2には、暖房および冷房を行う空調装置3が設けられている。また、部屋2には、第1換気路71および第2換気路72が接続されている。
【0028】
部屋2へは、第1換気路71を通じて大気中から外気が供給され、部屋2内の空気は、第2換気路72を通じて大気中へ排出される。第1換気路71および第2換気路72には、それぞれ送風機73,74が設けられている。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の空気浄化システム1Aでは、二酸化炭素除去装置4の第2空間42の二酸化炭素分圧が第1空間41の二酸化炭素分圧よりも低くなるため、二酸化炭素が分離膜43を選択的に透過し続ける。従って、部屋2内の空気から二酸化炭素を効率的に除去することができる。
【0030】
また、本実施形態では、分離膜43が二酸化炭素だけでなく水蒸気をも選択的に透過させる。分離膜43が二酸化炭素のみを選択的に透過させるものである場合、すなわち、第2空間42内が二酸化炭素のみである場合には、第2空間42を第1空間41の二酸化炭素分圧未満の圧力となるように真空引きする必要がある。例えば、部屋内空気中の二酸化炭素濃度が1000ppmである場合には、第2空間42の圧力を0.1kPa未満とする必要がある。これに対し、本実施形態のように分離膜43が二酸化炭素だけでなく水蒸気をも選択的に透過さるものであれば、部屋内空気中には二酸化炭素よりも多くの水蒸気が存在するため、第2チャンバ42内でも二酸化炭素よりも水蒸気の量を多くすることができる。従って、第2空間42の全圧を第1空間41の水蒸気分圧未満に設定すれば、第2空間42の二酸化炭素分圧の増加を抑制することが可能となり、現実的な装置規模によって必要となる二酸化炭素透過量を得ることが可能となる。
【0031】
(第2実施形態)
図2に、本発明の第2実施形態に係る空気浄化システム1Bを示す。なお、本実施形態において、第1実施形態と同一構成要素には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
【0032】
本実施形態の空気浄化システム1Bは、第1実施形態の空気浄化システム1Aに水蒸気供給装置8を加えたものである。水蒸気供給装置8は、二酸化炭素除去装置4の第2空間42の水蒸気分圧が第1空間41の水蒸気分圧と実質的に等しくなるように、第2空間42に水蒸気を供給する。例えば、二酸化炭素除去装置4の第2空間42の水蒸気分圧は、第1空間41の水蒸気分圧の±10%の範囲内に保たれることが望ましい。
【0033】
本実施形態では、水蒸気が第1空間41から第2空間42へ向かって分離膜43を透過することが抑制される。従って、減圧ポンプ62の吸引量が減少するため、減圧ポンプ62の負荷を低減することができる。
【0034】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、部屋2には、必ずしも空調装置3が設けられている必要はない。
【0035】
また、二酸化炭素と共に分離膜43を選択的に透過する成分は、必ずしも水蒸気である必要はなく、窒素または酸素であってもよい。つまり、分離膜43は、二酸化炭素だけでなく窒素または酸素をも選択的に透過させるものであってもよい。
【0036】
あるいは、分離膜43は、二酸化炭素のみを選択的に透過させるものであってもよい。この場合、減圧ポンプ62は、第2空間42の圧力が0.1kPa未満となるように、第2空間42を真空引きすればよい。
【符号の説明】
【0037】
1A,1B 空気浄化システム
2 部屋
4 二酸化炭素除去装置
41 第1空間
42 第2空間
43 分離膜
51 送り路
52 戻り路
62 減圧ポンプ
8 水蒸気供給装置