(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リチウムイオン二次電池用セパレータは、樹脂(D)をさらに含み、かつ前記ポリオレフィン樹脂(A)を含む前駆体を少なくとも縦方向(MD)又は横方向(TD)に延伸し、延伸された成形物に前記樹脂(D)を含浸させることにより得られる、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0023】
<リチウムイオン二次電池用セパレータ>
本発明の一態様は、リチウムイオン二次電池用セパレータである。本明細書では、セパレータとは、リチウムイオン二次電池において複数の電極の間に配置され、かつリチウムイオン透過性及び必要に応じてシャットダウン特性を有する部材をいう。
【0024】
本発明の第一の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用セパレータは、ポリオレフィン樹脂(A)で形成された微多孔性フィルムを備え、かつ微多孔性フィルムの表面に、特定の樹脂(B)が担持されており、かつ熱可塑性樹脂(C)を含む。第一の実施形態では、樹脂(B)は、ポリオレフィン樹脂(A)と異なるものである。
【0025】
第一の実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータは、ポリオレフィン樹脂(A)で形成された微多孔性フィルム及び樹脂(B)のみから成っていてもよいし、これら以外にフィラー多孔層を更に有していてもよい。本発明の蓄電デバイス用セパレータがフィラー多孔層を有する場合、ポリオレフィン樹脂(A)〜(C)を含む面の少なくとも一部分が露出する限り、フィラー多孔層は、微多孔性フィルムの片面若しくは両面に配置されるか、又は積層された多孔性基材層の中間層として配置されることができる。
【0026】
微多孔性フィルムの微多孔部は、ポリオレフィン樹脂(A)から構成される網目構造(以下、「フィブリル構造」ともいう。)に基づくものである。微多孔部の少なくとも1つが、ポリオレフィン樹脂(A)から構成される網目構造の最小単位(以下、「フィブリル」という。)により画定される。
【0027】
第一の実施形態では、熱可塑性樹脂(C)により電極−セパレータ間の接着性が確保される。さらに、本実施形態では、ポリオレフィン樹脂(A)との相溶性の良い樹脂(B)、好ましくは相溶性の高い樹脂(B)をバインダとして使用することにより、ポリオレフィン樹脂(A)で形成された微多孔性フィルムとの密着性を向上させることができ、電極とセパレータとの接着性が向上する。その結果として、電極−セパレータ間で生じるデフォームを抑止することができる。
ポリオレフィン樹脂(A)と相溶性の高い樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、及びポリエチレンテレフタレート(PET)からなる群から選択される少なくとも1つである。樹脂(A)の活性点が樹脂(B)の一部と共重合することにより、分解反応が起こり難くなる。その結果、ポリオレフィン樹脂(A)から構成される微多孔性フィルムと比較して、ポリオレフィン樹脂(A)の微多孔性フィルムの酸化分解によるガス発生を抑制することができる。
ポリオレフィン樹脂(A)と樹脂(B)がポリマーアロイ様の構造を成すことにより、ポリオレフィン樹脂(A)のみからなるフィブリルよりも高強度のフィブリルを得ることができ、その結果としてセパレータ表面のZ軸方向に起因する応力集中を解消し、少なくとも完全短絡現象又は微小短絡現象のいずれかを抑制する。
本明細書では、微小短絡現象とは、無放電状態において、完全短絡に比べて僅かな自己放電により端子電圧が徐々に低下する現象をいう。
【0028】
電極−セパレータ間で生じるデフォーム、微多孔性フィルムの酸化分解によるガス発生、並びに完全短絡現象及び微小短絡現象を抑制するという観点から、ポリオレフィン樹脂(A)の少なくとも一部と樹脂(B)は、グラフト重合又はブロック共重合して、ポリマーアロイ様の構造を形成していることが好ましい。
【0029】
ポリオレフィン樹脂(A)と相溶性の高い樹脂(B)の選定、ポリオレフィン樹脂(A)と樹脂(B)の熱可塑性樹脂(C)の質量比、樹脂(A)〜(C)を含む樹脂組成物への架橋剤の添加、セパレータへの架橋剤の添加、樹脂(A)〜(C)を含むセパレータへの電子線照射、樹脂組成物への架橋剤の添加などによって、セパレータにおいてポリオレフィン樹脂(A)の少なくとも一部を樹脂(B)と共重合させることができる。
【0030】
リチウムイオン二次電池用セパレータの膜厚は、突刺強度又は突刺深度とのバランス及び二次電池の小型化の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは2〜80μmの範囲内、さらに好ましくは3〜30μmの範囲内である。セパレータの膜厚は、微多孔性フィルムの製造条件を最適化することにより調整されることができる。
【0031】
上記で説明した実施形態における各構成要素について以下に説明する。
【0032】
<微多孔性フィルム>
本実施形態に係る微多孔性フィルムは、ポリオレフィン樹脂(A)を主成分として含み、かつポリオレフィン樹脂(A)とは異なる樹脂(B)が担持されている。微多孔性フィルムは、電子伝導性が小さく、イオン伝導性を有し、有機溶媒に対する耐性が高く、孔径が微細であることが好ましい。所望により、ポリオレフィン樹脂(A)のフィブリルにより形成される微多孔の表面は、樹脂(B)により、又は樹脂(A)〜(C)とは異なる樹脂(D)により、さらにコーティングされていてよい。
【0033】
[ポリオレフィン樹脂(A)]
微多孔性フィルムがポリオレフィン樹脂(A)を主成分として含むことは、微多孔性フィルム中のポリオレフィン樹脂(A)の割合が、微多孔性フィルムの質量に対して50質量%以上であることを意味する。微多孔性フィルム中のポリオレフィン樹脂(A)の割合は、フィルムの濡れ性、厚み及びシャットダウン特性の観点から、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは55質量%以上99質量%以下、特に好ましくは60質量%以上98質量%以下である。
【0034】
ポリオレフィン樹脂(A)は、フィルムの主成分として、微多孔を有するようにポリマー網目を形成し、かつポリオレフィン樹脂(A)とは異なる樹脂(B)が担持されている。ポリオレフィン樹脂(A)は、フィルムのポリマー網目を維持するという観点から、オクタン又はヘキサンに対して室温で非溶解性であることが好ましい。つまり、オクタン又はヘキサンでフィルムから抽出される抽出物には、ポリオレフィン樹脂(A)由来の成分が含まれないことが好ましい。
【0035】
ポリオレフィン樹脂(A)としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等をモノマーとして用いて得られるホモポリマー、コポリマー、又は多段重合ポリマー等が挙げられる。これらのポリオレフィン樹脂(A)は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの中でも、シャットダウン特性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの共重合体、並びにこれらの混合物が好ましく、シャットダウン特性、オクタン非溶解性及びヘキサン非溶解性の観点から、単数又は複数のポリプロピレンがより好ましい。
【0036】
ポリエチレンの具体例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等が挙げられる。本明細書では、高密度ポリエチレンとは密度0.942〜0.970g/cm
3のポリエチレンをいう。ポリエチレンの密度とは、JIS K7112(1999)に記載のD)密度勾配管法に従って測定した値をいう。
ポリプロピレンの具体例としては、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン等が挙げられる。
エチレン−プロピレンコポリマーは、ランダム若しくはブロック構造、又はエチレンプロピレンラバーの形態でよい。
【0037】
ポリオレフィン樹脂(A)を主成分として含む微多孔性フィルムは、単層型又は積層型でよい。単層型フィルムは、透気度、強度及びオクタン非溶解性の観点から、ポリオレフィン樹脂(A)としてポリプロピレンを含む1つの層で形成されることが好ましい。積層型フィルムは、透気度、強度の観点から、ポリオレフィン樹脂(A)としてポリプロピレンを含む外層を有し、かつポリオレフィン樹脂(A)としてポリエチレンを含む内層を有することが好ましい。
【0038】
[樹脂(B)]
ポリオレフィン樹脂(A)で形成された微多孔性フィルムの表面に存在する樹脂(B)は、ポリオレフィン樹脂(A)に担持されており、好ましくは、微多孔性フィルムにコーティングされているか、かつ/又は微多孔性フィルムの微多孔内に含浸している。
【0039】
微多孔性フィルムに担持されている樹脂(B)は、セパレータにおいてポリオレフィン樹脂(A)の少なくとも一部と共重合するために、ポリオレフィン樹脂(A)と相溶性の高い樹脂である。ポリオレフィン樹脂(A)と相溶性の高い樹脂(B)は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、及びポリエチレンテレフタレート(PET)からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0040】
樹脂(B)は、単独で、又は有機溶媒中の分散質、水中の分散質、有機溶媒と水の混合物中の分散質として、使用することができる。
【0041】
樹脂(B)は、粒子の形態、コアシェル形態などでよい。
【0042】
ポリオレフィン樹脂(A)に対する樹脂(B)の割合については、樹脂(A)と(B)で形成された微多孔性フィルムの気孔率が、樹脂(A)のみで形成された微多孔性フィルムの気孔率の30%〜85%であるように、樹脂(A)に対して樹脂(B)を適用することが好ましい。
【0043】
<熱可塑性樹脂(C)>
熱可塑性樹脂(C)の具体例としては、以下の1)〜4)が挙げられる。
1)共役ジエン系重合体、
2)アクリル系重合体、
3)ポリビニルアルコール系樹脂、及び
4)含フッ素樹脂。
中でも、電極とのなじみ易さの観点からは上記1)共役ジエン系重合体が好ましく、耐電圧性の観点からは上記2)アクリル系重合体及び4)含フッ素樹脂が好ましい。
【0044】
上記1)共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体である。上記共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、特に1,3−ブタジエンが好ましい。
また、共役ジエン系重合体は、後述する(メタ)アクリル系化合物又は他の単量体を単量体単位として含んでいてもよい。具体的には、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物等である。
【0045】
上記2)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系化合物を単量体単位として含む重合体である。上記(メタ)アクリル系化合物とは、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つを示す。
このような化合物としては、例えば、下記式(P1)で表される化合物が挙げられる。
CH
2=CR
Y1−COO−R
Y2 (P1)
式(P1)中、R
Y1は水素原子又はメチル基を示し、R
Y2は水素原子又は1価の炭化水素基を示す。R
Y2が1価の炭化水素基の場合は、置換基を有していてもよくかつ鎖内にヘテロ原子を有していてもよい。1価の炭化水素基としては、例えば、直鎖であっても分岐していてもよい鎖状アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基が挙げられる。また、置換基としては、例えば、ヒドロキシル基及びフェニル基が挙げられ、ヘテロ原子としては、例えばハロゲン原子、酸素原子等が挙げられる。(メタ)アクリル系化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
このような(メタ)アクリル系化合物としては、(メタ)アクリル酸、鎖状アルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート、フェニル基含有(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0046】
R
Y2の1種である鎖状アルキル基として、より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、及びイソプロピル基である炭素原子数が1〜3の鎖状アルキル基;n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、及びラウリル基等の、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基が挙げられる。また、R
Y2の1種であるアリール基としては、例えばフェニル基が挙げられる。
そのようなR
Y2を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート;
フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の、芳香環を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0047】
これらの中では、電極(電極活物質)との密着性向上の観点から、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する単量体、より具体的には、R
Y2が炭素原子数4以上の鎖状アルキル基である(メタ)アクリル酸エステル単量体が好ましい。より具体的には、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、及び2−エチルヘキシルアクリレートから成る群より選択される少なくとも1種が好ましい。なお、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基における炭素原子数の上限は特に限定されず、例えば14であってもよいが、7が好ましい。これら(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0048】
(メタ)アクリル酸エステル単量体は、上記炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する単量体に代えて、或いはこれに加えて、R
Y2としてシクロアルキル基を有する単量体を含むことも好ましい。これによっても、電極との密着性が更に向上する。
そのようなシクロアルキル基を有する単量体としては、より具体的には、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。シクロアルキル基の脂環を構成する炭素原子の数は、4〜8が好ましく、6及び7がより好ましく、6が特に好ましい。また、シクロアルキル基は置換基を有していても有していなくてもよい。置換基としては、例えば、メチル基及びt−ブチル基が挙げられる。これらの中では、シクロヘキシルアクリレート及びシクロヘキシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種が、アクリル系重合体調製時の重合安定性が良好である点で好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0049】
また、アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体として、上記のものに代えて、あるいは加えて、好ましくは上記のものに加えて、架橋性単量体を含むことが好ましい。架橋性単量体としては、特に限定されないが、例えば、ラジカル重合性の二重結合を2個以上有している単量体、重合中又は重合後に自己架橋構造を与える官能基を有する単量体等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
ラジカル重合性の二重結合を2個以上有している単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。上記多官能(メタ)アクリレートは、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート、及び4官能(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種であってよい。具体的には、例えば、ポリオキシエチレンジアクリレート、ポリオキシエチレンジメタクリレート、ポリオキシプロピレンジアクリレート、ポリオキシプロピレンジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、上記と同様の観点から、トリメチロールプロパントリアクリレート及びトリメチロールプロパントリメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0050】
重合中又は重合後に自己架橋構造を与える官能基を有する単量体としては、例えば、エポキシ基を有する単量体、メチロール基を有する単量体、アルコキシメチル基を有する単量体、加水分解性シリル基を有する単量体などが挙げられる。上記エポキシ基を有する単量体としては、アルコキシメチル基を有するエチレン性不飽和単量体が好ましく、具体的には例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、2,3−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
メチロール基を有する単量体としては、例えば、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジメチロールアクリルアミド、ジメチロールメタクリルアミド等が挙げられる。
上記アルコキシメチル基を有する単量体としては、アルコキシメチル基を有するエチレン性不飽和単量体が好ましく、具体的には例えば、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド等が挙げられる。
上記加水分解性シリル基を有する単量体としては、例えば、ビニルシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0051】
また、上記アクリル系重合体は、様々な品質及び物性を改良するために、上記以外の単量体を単量体単位として更に有してもよい。そのような単量体としては、例えば、カルボキシル基を有する単量体(但し、(メタ)アクリル酸を除く。)、アミド基を有する単量体、シアノ基を有する単量体、ヒドロキシル基を有する単量体、芳香族ビニル単量体等が挙げられる。
更に、スルホン酸基、リン酸基等の官能基を有する各種のビニル系単量体、及び酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルピロリドン、メチルビニルケトン、ブタジエン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等も必要に応じて使用できる。
これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、上記他の単量体は、上記各単量体のうち2種以上に同時に属するものであってもよい。
【0052】
アミド基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
シアノ基を有する単量体としては、シアノ基を有するエチレン性不飽和単量体が好ましく、具体的には、例えば、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
ヒドロキシル基を有する単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0053】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等が挙げられる。好ましくはスチレンである。
【0054】
上記アクリル系重合体における(メタ)アクリル系化合物を単量体単位として含有する割合は、アクリル系重合体100質量%に対して、好ましくは5〜95質量%である。その下限値は、より好ましくは15質量%であり、更に好ましくは20質量%であり、特に好ましくは30質量%である。上記単量体単位の含有割合が5質量%以上であると、基材への結着性及び耐酸化性の点で好ましい。一方、より好ましい上限値は92質量%であり、更に好ましい上限値は80質量%であり、特に好ましい上限値は60質量%である。上記単量体の含有割合が95質量%以下であると、基材との密着性が向上するため好ましい。
【0055】
アクリル系重合体が、鎖状アルキル(メタ)アクリレート又はシクロアルキル(メタ)アクリレートを単量体単位として有する場合、それらの含有割合の合計は、アクリル系重合体100質量%に対して、好ましくは、3〜92質量%であり、より好ましくは10〜90質量%であり、更に好ましくは15〜75質量%であり、特に好ましくは25〜55質量%である。これらの単量体の含有割合が3質量%以上であると耐酸化性の向上の点で好ましく、92質量%以下であると、基材との結着性が向上するため好ましい。
アクリル系重合体が、(メタ)アクリル酸を単量体単位として有する場合、その含有割合は、アクリル系重合体100質量%に対して、好ましくは0.1〜5質量%である。上記単量体の含有割合が、0.1質量%以上であると、セパレータは膨潤状態でのクッション性が向上する傾向にあり、5質量%以下であると、重合安定性が良好な傾向にある。
アクリル系重合体が、架橋性単量体を単量体単位として有する場合、アクリル系重合体における架橋性単量体の含有割合は、アクリル系重合体100質量%に対して、好ましくは0.01〜10質量%であり、より好ましくは0.1〜5質量%であり、更に好ましくは0.1〜3質量%である。上記単量体の含有割合が0.01質量%以上であると耐電解液性が更に向上し、10質量%以下であると膨潤状態でのクッション性の低下をより抑制することができる。
【0056】
本実施の形態におけるアクリル系重合体としては、以下のいずれかの態様が好ましい。以下の共重合割合は、いずれも、共重合体100質量部を基準とする値である。
(1)(メタ)アクリル酸エステルを単量体単位として有する共重合体(但し、下記の(2)共重合体及び(3)共重合体を除く。)、好ましくは、
(メタ)アクリル酸5質量%以下(より好ましくは0.1〜5質量%)と、
(メタ)アクリル酸エステル単量体3〜92質量%(より好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは15〜75質量%、特に好ましくは25〜55質量%)と、
アミド基を有する単量体、シアノ基を有する単量体、及びヒドロキシル基を有する単量体から成る群より選択される少なくとも1種15質量%以下(より好ましくは10質量%以下)と、
架橋性単量体10質量%以下(より好ましくは0.01〜5質量%、更に好ましくは0.1〜3質量%)と
の共重合体;
(2)芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体、好ましくは、
芳香族ビニル単量体5〜95質量%(より好ましくは10〜92質量%、更に好ましくは25〜80質量%、特に好ましくは40〜60質量%)と、
(メタ)アクリル酸5質量%以下(より好ましくは0.1〜5質量%)と、
(メタ)アクリル酸エステル単量体5〜95質量%(より好ましくは15〜85質量%、更に好ましくは20〜80質量%、特に好ましくは30〜75質量%)と、
アミド基を有する単量体、シアノ基を有する単量体、及びヒドロキシル基を有する単量体から成る群より選択される少なくとも1種10質量%以下(より好ましくは5質量%以下)と、
架橋性単量体10質量%以下(より好ましくは0.01〜5質量%、更に好ましくは0.1〜3質量%)と
の共重合体;並びに
(3)シアノ基を有する単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体、好ましくは、
シアノ基を有する単量体1〜95質量%(より好ましくは5〜90質量%、更に好ましくは50〜85質量%)と、
(メタ)アクリル酸5質量%以下(好ましくは0.1〜5質量%)と、
(メタ)アクリル酸エステル単量体1〜95質量%(より好ましくは5〜85質量%、更に好ましくは10〜50質量%)と、
アミド基を有する単量体、シアノ基を有する単量体、及びヒドロキシル基を有する単量体から成る群より選択される少なくとも1種10質量%以下(より好ましくは5質量%以下)と、
架橋性単量体10質量%以下(より好ましくは0.01〜5質量%、更に好ましくは0.1〜3質量%)と
の共重合体。
【0057】
上記(2)共重合体において、(メタ)アクリル酸エステル単量体として(メタ)アクリル酸の炭化水素エステルを含むことが好ましい。この場合の(メタ)アクリル酸の炭化水素エステルの共重合割合は0.1〜5質量%であることが好ましい。また、上記(2)共重合体がアミド基を有する単量体成分を有する場合、その共重合割合は、0.1〜5質量%であることが好ましい。更に、上記(2)共重合体がヒドロキシル基を有する単量体成分を有する場合、その共重合割合は、0.1〜5質量%であることが好ましい。
上記(3)共重合体において、(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、鎖状アルキル(メタ)アクリレート及びシクロアルキル(メタ)アクリレートから成る群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。上記鎖状アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素原子数が6以上の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(3)共重合体における鎖状アルキル(メタ)アクリレートの共重合割合は、1〜95質量%であることが好ましく、3〜90質量%であることがより好ましく、5〜85質量%であることが更に好ましい。この共重合割合の上限値は、60質量%であってもよく、特に40質量%又は30質量%であってもよく、とりわけ好ましくは20質量%である。(3)共重合体におけるシクロヘキシルアルキル(メタ)アクリレートの共重合割合は、1〜95質量%であることが好ましく、3〜90質量%であることがより好ましく、5〜85質量%であることが更に好ましい。この共重合割合の上限値は、60質量%であってもよく、特に50質量%であってもよく、とりわけ好ましくは40質量%である。
また、上記(3)共重合体がアミド基を有する単量体成分を有する場合、その共重合割合は、0.1〜10質量%であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましい。更に、上記(3)共重合体がヒドロキシル基を有する単量体成分を有する場合、その共重合割合は、0.1〜10質量%であることが好まし好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。
【0058】
アクリル系重合体は、例えば、通常の乳化重合法によって得られる。乳化重合の方法に関しては特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。
【0059】
例えば、水性媒体中で上述の単量体、界面活性剤、ラジカル重合開始剤、及び必要に応じて用いられる他の添加剤成分を基本組成成分とする分散系において、上記各単量体を含む単量体組成物を重合することによりアクリル系重合体が得られる。重合に際しては、供給する単量体組成物の組成を全重合過程で一定にする方法、重合過程で逐次又は連続的に変化させることによって生成する樹脂分散体の粒子の形態的な組成変化を与える方法等、必要に応じて様々な方法が利用できる。アクリル系重合体を乳化重合により得る場合、例えば、水と、その水中に分散した粒子状のアクリル系重合体とを含む水分散体(ラテックス)の形態であってもよい。
【0060】
界面活性剤は、一分子中に少なくとも1つ以上の親水基と1つ以上の親油基とを有する化合物である。各種界面活性剤には非反応性界面活性剤と反応性界面活性剤があり、好ましくは反応性界面活性剤が好ましく、より好ましくはアニオン性の反応性界面活性剤であり、更に好ましくはスルホン酸基を有する反応性界面活性剤である。
上記界面活性剤は、単量体組成物100質量部に対して0.1〜5質量部用いることが好ましい。界面活性剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0061】
ラジカル重合開始剤としては、熱又は還元性物質によりラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものであり、無機系開始剤及び有機系開始剤のいずれも用いることができる。また、ラジカル重合開始剤としては、水溶性又は油溶性の重合開始剤を用いることができる。
ラジカル重合開始剤は、単量体組成物100質量部に対して、好ましくは0.05〜2質量部用いることができる。ラジカル重合開始剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
上記3)ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等が;
上記4)含フッ素樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等が、
それぞれ挙げられる。
【0063】
上記の熱可塑性樹脂(C)の中でも、セパレータと電極の接着性、蓄電デバイスの高温保存特性及びサイクル特性を向上させ、かつ電極−セパレータ接着体の薄膜化を達成するためには、単量体と、乳化剤と、開始剤と、水とを含むエマルションから形成されるアクリル系コポリマーラテックスが好ましい。このアクリル系コポリマーラテックスを基材に塗工すると、基材上で粒状になり、かつ適度に凝集するので好ましい。
【0064】
熱可塑性ポリマーのガラス転移温度(以下、「Tg」とも表記する。)は、特に限定されないが、−50℃以上であってもよく、好ましくは20℃以上であり、より好ましくは20℃〜120℃であり、更に好ましくは20℃〜100℃である。熱可塑性ポリマーのTgが20℃以上であると、上記ポリマー層を備えるセパレータの最表面がべたつくことを抑制でき、ハンドリング性が向上する傾向にある。また、Tgが120℃以下であると、セパレータの電極(電極活物質)との密着性がより良好になる傾向にある。
【0065】
ここで、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)で得られるDSC曲線から決定される。具体的には、DSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の変曲点における接線との交点により決定される。
また、「ガラス転移」はDSCにおいて試験片であるポリマーの状態変化に伴う熱量変化が吸熱側に生じたものを指す。このような熱量変化はDSC曲線において階段状変化の形状として観測される。「階段状変化」とは、DSC曲線において、曲線がそれまでの低温側のベースラインから離れ新たな高温側のベースラインに移行するまでの部分を示す。なお、階段状変化とピークとが組み合わされたものも階段状変化に含まれることとする。
更に、「変曲点」とは、DSC曲線の階段状変化部分のこう配が最大になるような点を示す。また、階段状変化部分において、上側を発熱側とした場合に、上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点と表現することもできる。「ピーク」とは、DSC曲線において、曲線が低温側のベースラインから離れてから再度同じベースラインに戻るまでの部分を示す。「ベースライン」とは、試験片に転移及び反応を生じない温度領域のDSC曲線のことを示す。
【0066】
熱可塑性ポリマーのTgは、例えば、熱可塑性ポリマーの製造に用いるモノマーの種類及び各モノマーの配合比を変更することにより、適宜調整できる。熱可塑性ポリマーのTgは、その製造に用いられる各モノマーについて一般に示されているそのホモポリマーのTg(例えば、「ポリマーハンドブック」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION)に記載)とモノマーの配合比とから、概略で推定することができる。例えば約100℃のTgのポリマーを与えるスチレン、メチルメタクリレ−ト、及びアクリルニトリル等のモノマーを高比率で配合する熱可塑性ポリマーは、高いTgを有する。また、例えば約−80℃のTgのポリマーを与えるブタジエン、約−50℃のTgのポリマーを与えるn−ブチルアクリレ−ト及び2−エチルヘキシルアクリレ−ト等のモノマーを高い比率で配合した熱可塑性ポリマーは、低いTgを有する。
また、ポリマーのTgはFOXの式(下記式(2))より概算することができる。なお、熱可塑性ポリマーのガラス転移温度としては、上記DSCを用いた方法により測定したものを採用する。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+‥‥+Wi/Tgi+‥‥Wn/Tgn (2)
ここで、式(2)中において、Tg(K)は、コポリマーのTgを示し、Tgi(K)は、各モノマーiのホモポリマーのTgを示し、Wiは、各モノマーの質量分率を示す。
【0067】
熱可塑性樹脂(C)のゲル分率は、特に限定されないが、電解液中への溶解の抑制、及び電池内部での熱可塑性ポリマーの強度維持の観点から、80質量%以上が好ましく、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。ここで、ゲル分率は、トルエン不溶分の測定により求められる。
ゲル分率は、重合するモノマー成分及び各モノマーの投入比、重合条件を変更することにより、調整することができる。
【0068】
熱可塑性樹脂(C)がガラス転移温度を少なくとも2つ有している場合、上記ガラス転移温度のうちの少なくとも1つは、20℃未満の領域に存在することが好ましい。これにより、基材との密着性に一層優れることとなる。その結果、セパレータが電極との密着性により優れるという効果を奏する。同様の観点から、用いる熱可塑性樹脂(C)のガラス転移温度のうちの少なくとも1つが、15℃以下の領域に存在することがより好ましい。更に好ましくは−30℃以上15℃以下の領域に存在することである。熱可塑性ポリマーと基材との密着性を高めつつ、ハンドリング性を更に良好に保持する点から、20℃未満の領域に存在するガラス転移温度が−30℃以上15℃以下の領域にのみ存在することが好ましい。
【0069】
熱可塑性樹脂(C)がガラス転移温度を少なくとも2つ有している場合、上記ガラス転移温度のうちの少なくとも1つが20℃以上の領域に存在することが好ましい。これにより、セパレータと電極との接着性及びハンドリング性に更に優れるという効果を奏する。また、用いる熱可塑性樹脂(C)のガラス転移温度のうちの少なくとも1つが20℃以上120℃以下の領域に存在することがより好ましい。更に好ましくは、50℃以上120℃以下である。上記範囲にガラス転移温度が存在することで、更に良好なハンドリング性を付与できる。更に、電池作製時の加圧により発現する電極とセパレータとの間の密着性を一層高めることができる。熱可塑性ポリマーと基材との密着性を一層高めつつ、ハンドリング性を更に良好に保持する点から、20℃以上の領域に存在するガラス転移温度は、20℃以上120℃以下の領域にのみ存在することが好ましく、50℃以上120℃以下の領域にのみ存在することがより好ましい。
【0070】
熱可塑性樹脂(C)がガラス転移温度を少なくとも2つ有することは、例えば、2種類以上の熱可塑性ポリマーをブレンドする方法、コアシェル構造を備える熱可塑性ポリマーを用いる方法等によって達成できる。しかし、これらの方法に限定されない。コアシェル構造とは、中心部分に属するポリマーと、外殻部分に属するポリマーが異なる組成からなる、二重構造の形態をしたポリマーである。
特に、ポリマーブレンド及びコアシェル構造において、ガラス転移温度の高いポリマーと低いポリマーとを組み合せることにより、熱可塑性樹脂(C)全体のガラス転移温度を制御できる。
【0071】
例えば、ブレンドの場合は、特にガラス転移温度が20℃以上の領域に存在するポリマーと、ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在するポリマーとを、2種類以上ブレンドすることにより、耐ベタツキ性と基材への塗れ性とを更に良好に両立することができる。ブレンドする場合の混合比としてはガラス転移温度が20℃以上の領域に存在するポリマーと、ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在するポリマーとの比が、0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲であることが好ましく、より好ましくは、5:95〜95:5であり、更に好ましくは50:50〜95:5であり、特に好ましくは60:40〜90:10である。
【0072】
コアシェル構造の場合は、外殻ポリマーの種類を変えることにより、他材料(例えばポリオレフィン微多孔性フィルム等)に対する接着性及び相溶性の調整ができる。また、中心部分に属するポリマーの種類を変更することにより、例えば熱プレス後の電極への接着性を高めたポリマーに調整することができる。或いは、粘性の高いポリマーと弾性の高いポリマーとを組み合わせることにより、粘弾性の制御をすることも可能である。
なお、コアシェル構造を備える熱可塑性樹脂(C)のシェルのガラス転移温度は、特に限定されないが、20℃未満が好ましく、15℃以下がより好ましく、−30℃以上15℃以下が更に好ましい。また、コアシェル構造を備える熱可塑性ポリマーのコアのガラス転移温度は、特に限定されないが、20℃以上が好ましく、20℃以上120℃以下がより好ましく、50℃以上120℃以下が更に好ましい。
【0073】
熱可塑性樹脂(C)は、粒状であることが好ましく、熱可塑性樹脂(C)のすべてが粒状であることがより好ましい。セパレータでは、粒状の熱可塑性樹脂(C)の面積密度が、30%以上80%以下であることが好ましい。
【0074】
微多孔性フィルムに対する熱可塑性樹脂(C)の担持量は、固形分として0.05g/m
2以上1.50g/m
2以下が好ましく、より好ましくは0.07g/m
2以上1.00g/m
2以下であり、更に好ましくは0.10g/m
2以上0.70g/m
2以下である。担持量を0.05g/m
2以上1.50g/m
2以下の範囲に制御することは、得られるセパレータにおいて、基材の孔の閉塞によるサイクル特性(透過性)の低下を抑制しつつ、ポリマー層と基材との接着力を一層向上させる効果、を発現する観点から好ましい。ポリマー層の基材に対する担持量は、例えば、塗布液中の熱可塑性樹脂(C)含有量、熱可塑性樹脂溶液の塗布量等を変更することにより、調整することができる。
【0075】
熱可塑性樹脂(C)は、微多孔性フィルム一面当たりの表面積に対して、80%以下の表面被覆率でフィルムの表面上に存在することが好ましく、より好ましくは70%以下、更に好ましくは60%以下の表面被覆率でフィルムの表面上に存在する。また、熱可塑性樹脂(C)は、5%以上の表面被覆率でフィルム表面上に存在することが好ましい。熱可塑性樹脂(C)の表面被覆率を80%以下とすることは、熱可塑性樹脂(C)によるフィルムの孔の閉塞を更に抑制し、セパレータの透過性を一層向上する観点から好ましい。一方、表面被覆率を5%以上とすることは、電極との接着性を一層向上する観点から好ましい。
熱可塑性樹脂(C)の表面被覆率は、例えば、後述のセパレータの製造方法において、フィルムに塗布する塗布液中の熱可塑性樹脂(C)含有量、塗布液の塗布量、並びに塗布方法及び塗布条件を変更することにより、調整することができる。
【0076】
<樹脂(D)>
ポリオレフィン樹脂(A)、樹脂(B)及び熱可塑性樹脂(C)とは異なる樹脂(D)は、微多孔性フィルムの微多孔部の表面の少なくとも一部を覆うように、好ましくは微多孔部を構成するフィブリルの外周部を覆うように、配置されてよい。
【0077】
比較的柔らかい樹脂(D)を多数の微多孔部に送達し、微多孔部のマイクロクラックへの応力集中を防いでセパレータの突刺強度を向上させるために、樹脂(D)の25℃での弾性率は、好ましくは50〜700MPa、より好ましくは80〜700MPa、さらに好ましくは100〜700MPa、よりさらに好ましくは110〜650MPaである。
【0078】
樹脂(D)の融点は、ポリオレフィン樹脂(A)への濡れ性及び微多孔性フィルムの生産性の観点から、好ましくは130℃以下、より好ましくは50〜125℃である。本明細書では、ポリマーの融点とは、ポリマーの示差走査熱量測定(DSC)で得られるDSC曲線において、結晶性ポリマーの融解に伴う吸熱ピークと対応する温度(℃)をいう。なお、DSC曲線において2つの吸熱ピークが観察された場合には、より高温側の吸熱ピークと対応する温度を融点とする。
【0079】
樹脂(D)は、微多孔性フィルムの透気度、突刺強度及び突刺深度の観点から、疎水性樹脂であることが好ましい。本明細書では、疎水性樹脂とは、水に全く溶解しないか、又は25℃での水への溶解度が1g/kg未満である樹脂を意味する。
【0080】
樹脂(D)は、微多孔性フィルムの透気度及び強度の観点から、好ましくは、ヘキサン又はオクタンに対して溶解性であり、より好ましくは、樹脂(D)の25℃でのオクタンへの溶解度が、20g/kg以上である。同様の観点から、微多孔性フィルムの原料として使用された樹脂(D)の弾性率は、形成された微多孔性フィルムからヘキサン又はオクタンで抽出された抽出物の弾性率と概ね等しいことが好ましい。
【0081】
樹脂(D)は、微多孔性フィルムの樹脂含有量、厚み、透気度及び強度の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンに代表されるポリオレフィン樹脂およびその共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリビニルジフルオライド、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、もしくはこれらの共重合体が好ましく挙げられる。より好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンに代表されるポリオレフィン樹脂およびその共重合体、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、又はこれらの共重合体、並びにポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂が挙げられ、好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンに代表されるポリオレフィン樹脂およびその共重合体である。樹脂(D)は、より好ましくは、25℃での弾性率が700MPa以下のポリオレフィン樹脂、さらに好ましくは、110〜520MPaの25℃での弾性率と130℃以下の融点を有する低融点ポリオレフィン樹脂である。
【0082】
樹脂(D)としては、例えば、重量平均分子量140,000以下の低分子量ポリプロピレン、炭素数3のモノマーと炭素数4のモノマーの共重合体(例えば、主成分C4/副成分C3のαオレフィンコポリマー、主成分C3/副成分C4のαオレフィンコポリマーなど)、立体規則性の低いポリプロピレンなどを使用することができる。
【0083】
樹脂(D)は、微多孔性フィルムの最表面(外面)に局在化せずに、微多孔性フィルム内の微多孔の表面に配置されていることが好ましく、微多孔の表面の全部又は一部をコーティングしていることがより好ましい。理論に拘束されることを望まないが、微多孔性フィルムの透気度を実用可能な水準で維持できる程度に樹脂(D)が微多孔表面に存在すると、微多孔性フィルムの欠陥等、応力集中部位に対する応力集中を樹脂(D)が緩和・回避し、微多孔性フィルムの破断深度及び破断強度が改良されることが考えられる。
【0084】
ポリオレフィン樹脂(A)に対する樹脂(D)の割合については、樹脂(A)と(D)で形成された微多孔性フィルムの気孔率が、樹脂(D)のみで形成された微多孔性フィルムの気孔率の30%〜85%であるように、樹脂(A)に対して樹脂(D)を適用することが好ましい。
【0085】
[その他の構成要素]
微多孔性フィルムは、樹脂(A)〜(D)以外の構成要素を含んでよい。そのような構成要素としては、例えば、無機フィラー、樹脂繊維の織布又は不織布、紙、絶縁性物質粒子の集合体などが挙げられる。
【0086】
中でも、微多孔性フィルムは、セパレータの耐熱性、内部短絡の抑制等の安全性を向上させるという観点から、樹脂(A)〜(D)以外に無機フィラーを含むことが好ましい。微多孔性フィルムに含有される無機フィラーは、後述されるフィラー多孔層を形成する無機フィラーと同じでよい。
【0087】
[微多孔性フィルムの詳細]
微多孔性フィルムの気孔率は、好ましくは30%以上、より好ましく30%超95%以下、更に好ましくは35%以上75%以下、特に好ましくは35%以上、55%以下である。イオン伝導性向上の観点から30%以上が好ましく、強度の観点から95%以下が好ましい。気孔率は、樹脂組成、樹脂と可塑剤の混合比率、延伸条件、熱固定条件などを制御することによって調整されることができる。
【0088】
微多孔性フィルムの突刺強度は、セパレータの生産性及び二次電池の安全性の観点から、好ましくは0.25kgf以上、より好ましくは0.25〜0.60kgfの範囲内である。微多孔性フィルムの突刺深度は、突刺強度、非水系溶媒への濡れ性及び耐電圧性の観点から、好ましくは2.5mm以上、より好ましくは、2.5mm超4.5mm以下であり、さらに好ましくは、2.6mm以上4.5mm以下、特に好ましくは、2.7mm以上4.5mm以下である。
【0089】
微多孔性フィルムの膜厚は、0.1μm以上100μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上50μm以下、さらに好ましくは3μm以上25μm以下、特に好ましくは5μm以上20μm以下である。機械的強度の観点から0.1μm以上が好ましく、電池の高容量化の観点から100μm以下が好ましい。膜厚は、ダイリップ間隔、延伸条件などを制御することによって調整されることができる。
【0090】
微多孔性フィルムの平均孔径は、0.03μm以上0.80μm以下が好ましく、より好ましくは0.04μm以上0.70μm以下である。イオン伝導性と耐電圧性の観点から、0.03μm以上0.80μm以下が好ましい。平均孔径は、樹脂組成、押出条件、延伸条件、熱固定条件などを制御することにより調整されることができる。
【0091】
微多孔性フィルムの粘度平均分子量は、30,000以上12,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは50,000以上4,000,000未満、さらに好ましくは100,000以上1,000,000未満である。粘度平均分子量が30,000以上であると、溶融成形の際のメルトテンションが大きくなり成形性が良好になると共に、重合体同士の絡み合いにより高強度となる傾向にあるため好ましい。粘度平均分子量が12,000,000以下であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。
【0092】
<フィラー多孔層>
フィラー多孔層は、無機フィラー及び樹脂バインダを含む。
【0093】
(無機フィラー)
フィラー多孔層に使用する無機フィラーとしては、特に限定されないが、200℃以上の融点を持ち、電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。
無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。
【0094】
これらの中でも、電気化学的安定性及びセパレータの耐熱特性を向上させる観点から、
アルミナ、水酸化酸化アルミニウム等の酸化アルミニウム化合物;及び
カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト等の、イオン交換能を持たないケイ酸アルミニウム化合物が好ましい。
【0095】
酸化アルミニウム化合物としては、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))が特に好ましい。イオン交換能を持たないケイ酸アルミニウム化合物としては、安価で入手も容易なため、主としてカオリン鉱物から構成されているカオリンがより好ましい。カオリンには、湿式カオリン及びこれを焼成処理して成る焼成カオリンが知られている。本発明においては、焼成カオリンが特に好ましい。焼成カオリンは、焼成処理の際に、結晶水が放出されており、更に不純物も除去されていることから、電気化学的安定性の点で特に好ましい。
【0096】
無機フィラーの平均粒径は、0.01μmを超えて4.0μm以下であることが好ましく、0.2μmを超えて3.5μm以下であることがより好ましく、0.4μmを超えて3.0μm以下であることが更に好ましい。無機フィラーの平均粒径を上記範囲に調整することは、フィラー多孔層の厚さが薄い場合(例えば、7μm以下)であっても、高温における熱収縮を抑制する観点から好ましい。無機フィラーの粒径及びその分布を調整する方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の適宜の粉砕装置を用いて無機フィラーを粉砕して粒径を小さくする方法等を挙げることができる。
【0097】
無機フィラーの形状としては、例えば、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、塊状等が挙げられる。これらの形状を有する無機フィラーの複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
無機フィラーが、フィラー多孔層中に占める割合は、無機フィラーの結着性、セパレータの透過性、及び耐熱性等の観点から適宜決定されることができる。フィラー多孔層中の無機フィラーの割合は、20質量%以上100質量%未満であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上99.99質量%以下、更に好ましくは80質量%以上99.9質量%以下、特に好ましくは90質量%以上99質量%以下である。
【0099】
(樹脂バインダ)
フィラー多孔層に含有される樹脂バインダの種類としては、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池の電解液に対して不溶であり、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲において電気化学的に安定な樹脂バインダを用いることが好ましい。
このような樹脂バインダの具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル等の、融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂等が挙げられる。
【0100】
フィラー多孔層のイオン抵抗を低減させるために、後述されるポリアルキレングリコール基含有熱可塑性ポリマーを樹脂バインダとしてフィラー多孔層に含有させることも好ましい。
【0101】
樹脂バインダとしては、樹脂ラテックスバインダを用いることが好ましい。樹脂バインダとして樹脂ラテックスバインダを用いた場合、該バインダと無機フィラーとを含むフィラー多孔層を具備するセパレータは、樹脂バインダ溶液を基材上に塗布する工程を経て樹脂バインダを多孔膜上に結着させたセパレータと比較して、イオン透過性が低下し難く、出力特性の高い蓄電デバイスを与える傾向にある。更に、該セパレータを有する蓄電デバイスは、異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性が得られ易い傾向にある。
【0102】
樹脂ラテックスバインダとしては、電気化学的安定性及び結着性を向上させる観点から、脂肪族共役ジエン系モノマー及び不飽和カルボン酸モノマー、並びにこれらと共重合可能な他のモノマーを共重合して得られるものが好ましい。この場合の重合方法に特に制限はないが、乳化重合が好ましい。乳化重合の方法としては、特に制限はなく、既知の方法を用いることができる。モノマー及びその他の成分の添加方法については、特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、及び連続添加方法の何れも採用することができ、重合方法は、一段重合、二段重合、又は三段階以上の多段階重合の何れも採用することができる。
【0103】
樹脂バインダの平均粒径は、50〜500nmであることが好ましく、より好ましくは60〜460nm、更に好ましくは80〜250nmである。樹脂バインダの平均粒径が50nm以上である場合、該バインダと無機フィラーとを含むフィラー多孔層を具備するセパレータは、イオン透過性が低下し難く、高い出力特性の蓄電デバイスを与え易い。更に、異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性を有する蓄電デバイスが得られ易い。樹脂バインダの平均粒径が500nm以下である場合、良好な結着性を発現し、多層多孔膜とした場合に熱収縮が良好となり、安全性に優れる傾向にある。
樹脂バインダの平均粒径は、重合時間、重合温度、原料組成比、原料投入順序、pHなどを調整することで制御することが可能である。
【0104】
フィラー多孔層の層厚は、耐熱性及び絶縁性を向上させる観点から、0.5μm以上であることが好ましく、電池の高容量化と透過性を向上させる観点から50μm以下であることが好ましい。
フィラー多孔層の層密度は、0.5〜3.0g/cm
3であることが好ましく、0.7〜2.0cm
3であることがより好ましい。フィラー多孔層の層密度が0.5g/cm
3以上であると、高温での熱収縮率が良好となる傾向にあり、3.0g/cm
3以下であると、透気度が低下する傾向にある。
【0105】
<リチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法>
本発明の別の態様は、上記で説明した微多孔性フィルムを用いてリチウムイオン二次電池用セパレータを製造する方法である。
【0106】
本発明の第二の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法の一例は、以下の:
ポリオレフィン樹脂組成物の溶融混練物又は成形シートを乾式法又は湿式法により多孔化することにより微多孔性フィルムを製造する工程;
ニトリル系樹脂、アクリル系樹脂、及び脂肪族共役ジエン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂(B)と微多孔性フィルムとを複合化する工程;及び
微多孔性フィルムに熱可塑性樹脂(C)を適用する工程;
を含む。
【0107】
リチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法は、所望により、無機フィラーを含むフィラー多孔層を微多孔性フィルム上に積層する工程をさらに含んでよい。
【0108】
[微多孔性フィルムの製造]
微多孔性フィルムは、ポリオレフィン樹脂組成物の溶融混練物又は成形シートを乾式法又は湿式法により多孔化することにより製造されることができる。
【0109】
乾式法としては、ポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させる方法、ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形した後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させる方法などが挙げられる。
【0110】
湿式法としては、ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形し、必要に応じて延伸した後、孔形成材を抽出する方法、ポリオレフィン樹脂組成物の溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させてポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去する方法などが挙げられる。
【0111】
ポリオレフィン樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂(A)を好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上100質量%以下含む。
【0112】
ポリオレフィン樹脂組成物には、ポリオレフィン樹脂(A)以外の樹脂、任意の添加剤などを含有させることができる。添加剤としては、例えば、無機フィラー、酸化防止剤、金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等が挙げられる。
【0113】
ポリオレフィン樹脂組成物の溶融混練は、例えば、押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等により行うことができる。
【0114】
孔形成材としては、可塑剤、無機充填材又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0115】
可塑剤としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコールなどが挙げられる。
【0116】
無機充填材としては、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維が挙げられる。
【0117】
シート成形は、例えば、Tダイ、金属製ロールなどを用いて行うことができる。成形シートをダブルベルトプレス機等で圧延してもよい。
【0118】
孔形成工程は、既知の乾式法及び/又は湿式法により行うことができる。孔形成工程中、又は孔形成工程の前若しくは後に、延伸工程も行ってよい。延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも用いることができるが、得られる微多孔性フィルムの強度等を向上させる観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終生成物が裂け難くなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができる。突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点からは同時二軸延伸が好ましい。また面配向の制御容易性の観点からは遂次二軸延伸が好ましい。
【0119】
同時二軸延伸とは、MD(微多孔膜連続成形の機械方向)の延伸とTD(微多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD及びTDの延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD又はTDに延伸がなされているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
【0120】
微多孔性フィルムの収縮を抑制するために、延伸後又は孔形成後に熱固定を目的として熱処理を行ってよい。熱処理としては、物性の調整を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の延伸率で行う延伸操作、及び/又は、延伸応力低減を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。延伸操作を行った後に緩和操作を行ってもよい。これらの熱処理は、テンター又はロール延伸機を用いて行うことができる。
【0121】
一例として、乾式ラメラ開孔法による微多孔性フィルムの製造方法を説明する。乾式ラメラ開孔法は、水、有機溶剤等の溶媒を用いずに、ラメラ構造を有する複数の球晶同士が非晶質ポリマーを介して結合されている前駆体を延伸することにより、ラメラ界面を開裂させて孔を形成する方法である。
【0122】
乾式ラメラ開孔法は、(i)ポリオレフィン樹脂(A)を含む前駆体を押し出す工程、及び(ii)押し出された前駆体を一軸延伸する工程を含むことが好ましい。ここで、ポリオレフィン樹脂(A)を含む前駆体は、機械方向(MD)又は横方向(TD)の少なくとも1回の延伸に供されるものであり、例えば、溶融樹脂、樹脂組成物、樹脂成形体等でよい。工程(i)で押出成形された前駆体は、例えば、押出成形体、原反シート、原反フィルム等である。工程(i)及び(ii)を含む乾式ラメラ開孔法により得られる微多孔性フィルムは、樹脂(B)による担持、コーティング、浸漬、又は含浸へ好適に供される。
【0123】
工程(i)は、従来の押出法により行うことができる。押出機は、細長い孔を有するTダイや環状ダイを備えることができる。
【0124】
工程(ii)の一軸延伸は、上記で説明したとおりに行うことができる。一軸延伸は、機械方向(MD)又は横方向(TD)に行うことができる。また、一軸延伸後に前駆体を横方向(TD)に延伸し、二軸延伸をすることが好ましい。二軸延伸では、機械方向(MD)延伸及び同時制御されたMD方向緩和を伴う横方向(TD)延伸をすることができる。ここでMD延伸は、冷延伸と熱延伸の両方を含むことができる。工程(ii)の延伸により得られる微多孔性フィルムは、樹脂(B)による担持、コーティング、浸漬又は含浸へ好適に供される。
【0125】
前駆体の内部歪みを抑制する観点から、前駆体は、工程(i)中、工程(ii)後、又は工程(ii)の延伸前に、アニールすることが出来る。アニーリングは、ポリオレフィン樹脂(A)の融点よりも50℃低い温度とポリオレフィン樹脂(A)の融点よりも10℃低い温度の間の範囲内で、又はポリオレフィン樹脂(A)の融点よりも50℃低い温度とポリオレフィン樹脂(A)の融点よりも15℃低い温度の間の範囲内で、行うことができる。
【0126】
工程(ii)中又は工程(ii)後に、MD及び/又はTD方向へ延伸された成形物をカレンダー処理することが好ましい。カレンダー処理された成形物は、樹脂(B)による担持、コーティング、浸漬又は含浸へ好適に供される。カレンダー処理は、延伸された成形物を少なくとも一対のカレンダーロールに通すことにより行うことができる。一対のカレンダーロールは、例えば、スチールロールと弾性ロールのセット、又は2つのスチールロールのセットを備えてよい。カレンダー処理時、一対のカレンダーロールは、加熱又は冷却されることができる。
【0127】
微多孔性フィルムの強度の観点から、上記で説明した乾式ラメラ開孔法において、ポリオレフィン樹脂(A)を含む前駆体を、MD及びTD方向へ逐次又は同時延伸し、カレンダー処理に供する方法(以下、「MD/TD/カレンダープロセス」という)も好ましい。強度向上の観点から、MD/TD/カレンダープロセスでは、MD延伸後にTD延伸を行う逐次延伸がさらに好ましい。
【0128】
乾式ラメラ開孔法により得られた微多孔性フィルムの微多孔部の表面の少なくとも一部を、ポリオレフィン樹脂(A)とは異なるコーティング樹脂(D)でコーティングして、コーティングされた微多孔性フィルムを形成することが好ましい。ポリオレフィン樹脂(A)、及びポリオレフィン樹脂(A)とは異なるコーティング樹脂(D)は、上記で説明したとおりである。
【0129】
微多孔性フィルムの微多孔部の表面の一部分又は全てを樹脂(D)で覆うことによって、微多孔性フィルムの最外面(すなわち、フィルムの表面)に全ての樹脂(D)が定着することなく、樹脂(D)はポリオレフィン樹脂(A)で形成される微多孔性フィルムの微多孔中の網目に浸入し、微多孔の表面に送達され、それにより微多孔性フィルムの透気度を維持しながら突刺深度を向上させることができる。セパレータの耐電圧性の観点からは、微多孔部を構成するフィブリルを樹脂(D)で覆うことが好ましい。
【0130】
より多くのフィブリルを樹脂(D)で覆うという観点から、樹脂(D)を溶解又は分散させた溶液を用いて微多孔性フィルムの微多孔部をコーティングすることが好ましい。同様の観点から、樹脂(D)を溶解させた溶液は、樹脂(D)をヘキサン、オクタン、塩化メチレン等の有機溶媒に溶解させた溶液であることがより好ましい。樹脂(D)を分散させた溶液は、樹脂(D)とイソプロピルアルコール(IPA)および/または界面活性剤と水を含む水系ラテックスであることがより好ましい。
【0131】
セパレータの強度と非水系電解液への濡れ性の観点から、樹脂(D)による微多孔性フィルムの微多孔部のコーティングは、樹脂(D)を溶解又は分散させた溶液に微多孔性フィルムを含浸させることにより行うことが好ましい。樹脂(D)による微多孔性フィルムの微多孔部のコーティングは、セパレータの強度の観点から、ポリオレフィン樹脂(A)から構成されるフィブリルに対して、樹脂(D)の構成単位であるモノマーを電子線によりグラフト重合することを含まないことがより好ましい。
【0132】
樹脂(D)を溶解又は分散させた溶液への微多孔性フィルムの含浸は、樹脂(D)を分散若しくは溶解させた溶液の槽に微多孔性フィルムをディッピングするか、又は樹脂(D)を分散若しくは溶解させた溶液を微多孔性フィルムの外表面に塗工して樹脂(D)を微多孔性フィルム内部の微多孔に浸透させることにより行うことができる。
【0133】
樹脂(D)を分散若しくは溶解させた溶液の槽への微多孔性フィルムのディッピングは、20〜60℃で0.5〜15分間に亘って行うことが好ましい。
【0134】
樹脂(D)を分散若しくは溶解させた溶液の微多孔性フィルム外表面への塗工は、印刷機、コーター、手動での塗布、樹脂(D)溶液又は樹脂(D)分散液のフィルムへの滴加などにより行うことができる。
【0135】
樹脂(D)により微多孔部がコーティングされた微多孔性フィルムを少なくとも一対のカレンダーロールに通してよい。一対のカレンダーロールは、上記で説明した乾式ラメラ開孔法に使用されるとおりである。
【0136】
微多孔表面に樹脂(D)を定着させるという観点から、微多孔表面に樹脂(D)をコーティングした後に、大気雰囲気下または不活性ガス雰囲気下で20〜100℃の温度で、コーティングされた微多孔性フィルムを乾燥させることが好ましい。
【0137】
[樹脂(B)と微多孔性フィルムの複合化]
樹脂(B)と微多孔性フィルムの複合化は、微多孔性フィルム面に対する樹脂(B)の滴下、微多孔性フィルムへの樹脂(B)の塗工、微多孔性フィルム上での樹脂(B)含有塗料の印刷、樹脂(B)中での微多孔性フィルムの含浸、樹脂(B)への微多孔性フィルムのディッピングなどの方法により行うことができる。樹脂(B)は、上記で説明したとおりである。
【0138】
第二の実施形態において、微多孔性フィルムに対する樹脂(B)の塗工量又は塗工面積は、例えば、樹脂(B)の濃度、樹脂(B)を含む塗布液の塗布量、塗布方法及び塗布条件を変更することにより調整することができる。
【0139】
樹脂(B)を微多孔性フィルム又はフィラー多孔層の面の一部にのみ配置する場合、樹脂(B)の配置パターンとしては、例えば、ドット状、斜線状、ストライプ状、格子状、縞状、亀甲状、ランダム状等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0140】
樹脂(B)中での微多孔性フィルムの含浸及び樹脂(B)への微多孔性フィルムのディッピングは、上記で説明した樹脂(D)による微多孔性フィルムのコーティングと同様に行うことができる。
【0141】
[微多孔性フィルムへの熱可塑性樹脂(C)の適用]
熱可塑性樹脂(C)を微多孔性フィルムの少なくとも一方の面(片面)に担持する方法は、特に限定されない。
例えば、熱可塑性樹脂(C)を含有する塗布液を微多孔性フィルムの少なくとも一方の面に塗布した後、必要に応じて塗布液の溶媒又は分散媒を除去する方法が挙げられる。上記塗布液としては、重合体粒子が媒体中に分散した分散体を用いることが好ましい。
【0142】
上記分散体の固形分としては、30質量%〜70質量%であることが好ましい。
【0143】
分散体には、ガラス転移温度の異なる複数の熱可塑性樹脂(C)粒子の混合物を含有させることが好ましい。また、複数の熱可塑性樹脂(C)粒子のいずれも100nm以上の平均粒径を有することが好ましい。上記混合物を含む分散体を微多孔性フィルムに塗工すると、それぞれの粒子が微多孔性フィルム上で粒状になり、かつ適度に凝集する。
具体的には、20℃未満のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂粒子(1)と、20℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂粒子(2)との混合物を使用することが好ましい。熱可塑性樹脂粒子(1)のガラス転移温度は、15℃以下であることがより好ましく、−30℃以上15℃以下であることが更に好ましい。熱可塑性樹脂粒子(2)のガラス転移温度は、20℃以上120℃以下であることがより好ましく、50℃以上120℃以下であることが更に好ましい。その場合、熱可塑性樹脂粒子(1)及び(2)のいずれも約100nm以上の平均粒径を有することが好ましく、100nm以上1,000nm以下の平均粒径を有することがより好ましく、100nm以上800nm以下の平均粒径を有することが更に好ましい。
【0144】
塗布液に含まれる溶媒又は分散媒としては、特に限定されないが、水が好ましい。塗布液を微多孔性フィルムに塗布する際に、塗布液が微多孔性フィルムの内部にまで入り込んでしまうと、熱可塑性樹脂(C)が、微多孔性フィルムの孔の表面及び内部を閉塞し、得られるセパレータの透過性が低下し易くなる。この点、塗布液の溶媒又は分散媒として水を用いる場合には、微多孔性フィルムの内部に塗布液が入り込み難くなり、熱可塑性樹脂(C)は主に微多孔性フィルムの外表面上に存在し易くなる。そのため、得られるセパレータの透過性の低下をより効果的に抑制できるので、好ましい。また、この溶媒又は分散媒としては、水のみを用いてもよいし、水、及び水と相溶する他の溶媒又は分散媒とを併用してもよい。水と併用可能な溶媒又は分散媒としては、例えば、エタノール、メタノール等を挙げることができる。
【0145】
媒体として水を用いる場合は、長期の分散安定性を保つため、そのpHが5〜12の範囲に調整されることが好ましい。pHの調整には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジメチルアミノエタノール等のアミン類を用いることが好ましく、アンモニア(水)又は水酸化ナトリウムによりpHを調整することがより好ましい。
【0146】
上記分散体には、他の成分として、分散剤、滑剤、増粘剤、殺菌剤等が、分散体の安定性を損なわない範囲で含まれていてもよい。
【0147】
塗布液の粘度は、20mPa・s以上とすることが好ましい。塗布液をこのような粘度に調整することにより、熱可塑性樹脂粒子の好ましい面積密度を実現することが容易となる。塗布液の粘度は、1mPa・s〜50mPa・sがより好ましく、10mPa・s〜30mPa・sが更に好ましい。
【0148】
第二の実施形態においては、塗布液に含有される熱可塑性樹脂(C)は、好ましくは10nm〜2,000nmという大きな粒径を有する粒子である。そのため、熱可塑性樹脂(C)を含む塗布液は高粘度にはなり難いのが一般である。従って、塗布液には増粘剤を含有させて、塗布液粘度を上記の範囲に調整することが好ましい。ここで使用される増粘剤としては、例えば、ポリエチレングリコール類、ポリエーテル類、セルロース類、多糖類、ポリアクリルアミド類、ポリN−ピロリドン類等を挙げることができる。増粘剤の配合割合は、塗布液の全量に対して、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。
【0149】
塗布液を微多孔性フィルムに塗布する方法については、必要とする層厚及び塗布面積を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法が挙げられる。
【0150】
微多孔性フィルム上に熱可塑性樹脂(C)を担持させる時に、熱可塑性樹脂(C)から構成される層の厚さが熱可塑性樹脂粒子の直径と概ね等しくなるように、塗布装置としてグラビアコーター、ワイヤーバー等を使用することが好ましい。特に好ましくは、グラビアコーターを使用して、リバース塗布法によって、塗布液に対してせん断力をかけながら塗布することである。
【0151】
塗布液の塗布に先立ち、微多孔性フィルム表面に表面処理を施しておくことが、塗布液をより塗布し易くするとともに、微多孔性フィルムと熱可塑性樹脂(C)との接着性をより向上させる観点から好ましい。表面処理の方法は、微多孔性フィルムの構造(例えばポリオレフィン微多孔性フィルムの多孔質構造)を著しく損なわない方法であれば特に限定はない。例えば、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
【0152】
微多孔性フィルムに塗布した塗布液から溶媒を除去する場合には、微多孔性フィルムに悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はない。例えば、微多孔性フィルムを固定しながらその融点以下の温度において乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、熱可塑性ポリマーに対する貧溶媒に浸漬して熱可塑性ポリマーを凝固させると同時に溶媒を抽出する方法等が挙げられる。
【0153】
[フィラー多孔層の形成]
フィラー多孔層の形成方法としては、例えば、基材の少なくとも片面に、無機フィラーと樹脂バインダとを含む塗工液を塗工する方法を挙げることができる。この場合の塗工液は、分散安定性及び塗工性の向上のために、溶剤、分散剤等を含んでいてもよい。
塗工液を基材に塗工する方法は、必要とする層厚及び塗工面積を実現できる限り特に限定されない。樹脂バインダを含んだフィラー原料と、ポリマー基材原料と、を共押出法により積層して押出してもよいし、基材とフィラー多孔膜とを個別に作製した後に貼り合せてもよい。
【0154】
なお、上述した各種物性の測定値は、特に断りの無い限り、後述する実施例における測定法に準じて測定される値である。
【実施例】
【0155】
実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、用いた原材料及び各種特性の評価方法は下記のとおりである。
【0156】
メルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に準拠し、ポリプロピレン樹脂は210℃及び2.16kgの条件下で、ポリエチレン樹脂は190℃及び2.16kgの条件下でそれぞれ測定した値で示した(単位はg/10分)。測定される樹脂の密度はいずれもJIS K 7112に準拠して測定した値で示した(単位kg/m
3)。
【0157】
各種フィルムの特性は下記のようにして測定した。
【0158】
(1)厚み(μm)
ミツトヨ社製のデジマチックインジケータIDC112を用いて室温23±2℃で多孔性フィルムの厚さを測定した。
【0159】
(2)気孔率(%)
多孔性フィルムから5cm×5cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルの体積と質量から下記式を用いて気孔率を算出した。
気孔率(%)=(体積(cm
3)−質量(g)/樹脂組成物の密度(g/cm
3))/体積(cm
3)×100
【0160】
(3)透気度(秒/100cc)
JIS P−8117に準拠したガーレー式透気度計にて多孔性フィルムの透気度を測定した。
【0161】
(4)ガラス転移温度
熱可塑性樹脂の塗工液(不揮発分=38〜42%、pH=9.0)をアルミ皿に適量とり、130℃の熱風乾燥機で30分間乾燥した。乾燥後の乾燥皮膜約17mgを測定用アルミ容器に詰め、DSC測定装置(島津製作所社製、DSC6220)にて窒素雰囲気下におけるDSC曲線及びDDSC曲線を得た。なお測定条件は下記のとおりとした。
(1段目昇温プログラム)
70℃スタート、毎分15℃の割合で昇温、110℃に到達後5分間維持。
(2段目降温プログラム)
110℃から毎分所定の割合で降温、−50℃に到達後所定時間維持。
上記2段目降温プログラムにおける降温速度、及び−50℃の維持時間は、それぞれ、以下のとおりである。
(製造例A1及びA2)
降温速度 40℃/min
維持時間 5分間
(製造例A3〜A23及びA25)
降温速度 30℃/min
維持時間 4分間
(3段目昇温プログラム)
−50℃から毎分15℃の割合で130℃まで昇温。この3段目の昇温時にDSC及びDDSCのデータを取得した。
そして、ベースライン(得られたDSC曲線におけるベースラインを高温側に延長した直線)と、変曲点(上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点)における接線との交点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0162】
(5)微小短絡試験及び完全短絡試験
【0163】
正極の作製
正極活物質として数平均粒子径11μmのリチウムのニッケル、マンガン及びコバルト混合酸化物と、導電助剤として数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末及び数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、混合酸化物:グラファイト炭素粉末:アセチレンブラック粉末:PVDF=100:4.2:1.8:4.6の質量比で混合した。得られた混合物にN−メチル−2−ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、ロールプレスで圧延して正極とした。圧延後のものをタブ部を除き30mm×50mmの長方形状に打ち抜いて正極を得た。
【0164】
負極の作製
負極活物質として数平均粒子径12.7μmのグラファイト炭素粉末(III)及び数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末(IV)と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース溶液(固形分濃度1.83質量%)と、ジエン系ゴム(ガラス転移温度:−5℃、乾燥時の数平均粒子径:120nm、分散媒:水、固形分濃度40質量%)とを、グラファイト炭素粉末(III):グラファイト炭素粉末(IV):カルボキシメチルセルロース溶液:ジエン系ゴム=90:10:1.44:1.76の固形分質量比で全体の固形分濃度が45質量%になるように混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、ロールプレスで圧延した。圧延後のものをタブ部を除き32mm×52mmの長方形状に打ち抜いて負極を得た。
【0165】
電解液の調製
エチレンカーボネート(表中では「EC」とも表記する)とエチルメチルカーボネート(表中では「MEC」とも表記する)とを体積比1:2で混合した混合溶媒にLiPF
6塩を1mol/L含有させて電解液Aを得た。
【0166】
電池の作製
上述のようにして作製した正極と負極とを、実施例又は比較例で得られたセパレータの両側に重ね合わせた積層体を、アルミニウム箔(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正負極の端子を突設させながら挿入した後、電解液Aを0.5mL袋内に注入し、−90kPaに減圧後、−30kPaに戻す操作を2回実施した後、−95kPaで5分間保持した。常圧に戻した後、−85kPaに減圧後、仮封止を行って、シート状ラミネートリチウムイオン二次電池を作製した。減圧、仮封止に際しては、株式会社テクニー製の減圧シール装置(型式:M−3295)を用いた。
【0167】
リチウムイオン二次電池の充電及び放電
測定用のリチウムイオン二次電池として、1C=15mAとなる小型電池を作製して用いた。リチウムイオン二次電池の充電及び放電容量の測定は、アスカ電子(株)製充放電装置ACD−01(商品名)及び二葉科学社製恒温槽PLM−63S(商品名)を用いて行った。
得られたリチウムイオン二次電池を、25℃に設定した恒温槽(二葉科学社製、商品名「PLM−73S」)に収容し、充放電装置(アスカ電子(株)製、商品名「ACD−01」)に接続し、20時間静置した。次いで、その電池を0.2Cの定電流で4.2Vまで充電し、4.2Vを保持するようにして、充電電流が0.02Cに収束するまで初回充電を行った。その後、10分間の休止を経て、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。この充放電を3回行い、コンディショニングを完了させた。
【0168】
微小短絡現象及び完全短絡現象の確認
コンディショニングを終え、再度4.2Vに充電したラミネートセルを、25℃恒温槽内に設置した試料台との間に1mmの段差を設けた状態でセットし、セルの両端を把持した。直径15.8mmのSUS製丸棒で、セルを圧壊速度0.2mm/s、1.95tonの力で押し潰し、電圧が0.5Vに到達するまで圧壊試験を行った。圧壊試験時に、電圧が4.1Vから4.0Vに到達するまでの時間(微小短絡現象が起きている時間)と、電圧が3.8Vから3.0Vに到達するまでの時間(完全短絡現象が起きている時間)とを、それぞれを測定した。
【0169】
(6)高電圧サイクル試験
【0170】
上述のようにコンディショニングを行って得られたリチウムイオン二次電池を50℃に設定した恒温槽(二葉科学社製、商品名「PLM−73S」)に収容し、充放電装置(アスカ電子(株)製、商品名「ACD−01」)に接続する。次いで、その電池を1.0Cの定電流で4.35Vまで充電し、1.0Cの定電流で6分間放電後5分間休止し、その後3.0Vまで放電した。この放電6分の終止電圧(V0)とその後の休止5分後の電圧(V1)との差を放電電流(I)で除した値(V1−V0)/Iをこの電池の抵抗(R1)とした。次いで、以下の充放電サイクル評価を行った。1.0Cの定電流で4.35Vまで充電し続いて4.35V定電圧で1時間充電し、1.0Cの定電流で3.0Vまで放電した。さらにこの一連の充放電を1サイクルとし、更に99サイクル充放電を繰り返し、全体で100サイクルのサイクル充放電を行った。次いで、1サイクル目及び100サイクル目の正極活物質質量当たりの放電容量を確認した。1サイクル目の放電容量は、120mAh/gと高く、100サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除した放電容量維持率は、80%と高い値を示した。
100サイクル後の電池をCT観察したところ、電池のデフォームは観察されなかった。
【0171】
[熱可塑性樹脂(C)の作製]
撹拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取り付けた反応容器に、イオン交換水70.4質量部と、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液、表中「KH1025」と表記。以下同様。)0.5質量部と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製、25%水溶液、表中「SR1025」と表記。以下同様。)0.5質量部と、を投入し、反応容器内部温度を80℃に昇温した。その後、80℃の容器内部温度を保ったまま、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)(表中「APS(aq)」と表記。以下同様。)を7.5質量部添加した。
【0172】
一方、メタクリル酸(MAA)1質量部、アクリル酸(AA)1質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル(EHA)10質量部、メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)83質量部、アクリロニトリル(AN)5質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(A−TMPT)1質量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(AcSI)0.5質量部、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)2質量部、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)7.5質量部、及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて、乳化液を作製した。
得られた乳化液を滴下槽から上記反応容器に滴下した。滴下は反応容器に過硫酸アンモニウム水溶液を添加した5分後に開始し、150分かけて乳化液の全量を滴下した。乳化液の滴下中は、容器内部温度を80℃に維持した。
【0173】
乳化液の滴下終了後、反応容器内部温度を80℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却し、エマルジョンを得た。得られたエマルジョンを、水酸化アンモニウム水溶液(25%水溶液)を用いてpH=9.0に調整し、熱可塑性樹脂(C)として、濃度40質量%のアクリル系コポリマーラテックスを得た(Tg:47.4℃)。
【0174】
[実施例1]
ポリオレフィン樹脂(A)としてポリプロピレン樹脂(MFR2.0、密度0.91)を、孔径30mm、L/D(L:押出機の原料供給口から排出口までの距離(m)、D:押出機の内径(m)。以下、同じ。)=30、及び温度200℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚2.5mmのTダイ(200℃)から押し出した。その後直ちに、溶融した樹脂にエアナイフを用いて25℃の冷風を当て、95℃に設定したキャストロールでドロー比200及び巻き取り速度20m/分の条件下で巻き取り、フィルムを成形した。
【0175】
得られたフィルムを、145℃に加熱された熱風循環オーブン中で1時間アニールを施した。次に、アニール後のフィルムを25℃の温度で縦方向に1.2倍で一軸延伸して、冷延伸フィルムを得た。次いで、冷延伸フィルムを140℃の温度で縦方向に2.5倍で一軸延伸して、150℃で熱固定し一軸延伸フィルムを得た。さらに、一軸延伸フィルムを145℃の温度で横方向に4.0倍で一軸延伸して、145℃で熱固定し、微多孔性フィルム(C1)を得た。
【0176】
樹脂(B)としてのポリアミドと、上記で作製された熱可塑性樹脂(C)とを、微多孔性フィルム(C1)に塗工し、電子線(EB)を照射して(トータル線量:50kGy)、セパレータを得た。
【0177】
[実施例2]
表1に示すPP/PE/PPの三層構造を有する微多孔性フィルム(C2)を、実施例1と同じ乾式多孔化法により得た。樹脂(B)としてのポリ塩化ビニル(PVC)と、上記で作製された熱可塑性樹脂(C)とを、微多孔性フィルム(C2)に塗工し、電子線(EB)を照射して(トータル線量:50kGy)、セパレータを得た。
【0178】
[比較例1]
上記で作製された熱可塑性樹脂(C)を微多孔性フィルム(C1)に塗工して、セパレータを得た。
【0179】
[比較例2]
上記で作製された熱可塑性樹脂(C)を微多孔性フィルム(C2)に塗工して、セパレータを得た。
【0180】
実施例1〜2及び比較例1〜2について、使用した樹脂と、セパレータの評価結果とを表1に示す。
【0181】
【表1】