特許第6877327号(P6877327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877327
(24)【登録日】2021年4月30日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】草刈機
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20210517BHJP
   A01D 34/64 20060101ALI20210517BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20210517BHJP
【FI】
   A01B69/00 303B
   A01D34/64 M
   A01B69/00 B
   G05D1/02 N
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-242687(P2017-242687)
(22)【出願日】2017年12月19日
(65)【公開番号】特開2019-106941(P2019-106941A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2019年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】川畑 雅寛
(72)【発明者】
【氏名】中村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 純一郎
(72)【発明者】
【氏名】南方 佑輔
【審査官】 大谷 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−270607(JP,A)
【文献】 特開2016−066207(JP,A)
【文献】 特開2016−189172(JP,A)
【文献】 特開昭63−032411(JP,A)
【文献】 特開2016−195546(JP,A)
【文献】 米国特許第08275506(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00−69/08
A01D 34/412−34/90、43/06−43/077
G05D 1/00− 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
草刈走行を行う走行機体と、
前記走行機体を制御する走行制御部と、
前記走行機体と、機体左右方向に位置する物体と、の距離を、機体左右両方に亘って走査する距離センサと、
前記距離センサの走査によって検出された距離及び走査角度に基づいて、機体左右両方に亘る対地高さデータを生成するデコード制御部と、
前記対地高さデータに基づく近似線によって、刈取後の地面のラインとして識別される地面基準線と、刈取前の草のラインとして識別される草基準線と、を生成する物体検出部と、
前記草基準線と前記走行機体との距離に基づいて目標距離を算出する目標距離算出部と、
前記草基準線と前記走行機体との距離が、前記目標距離と一致するように指示信号を出力する走行指示部と、
が備えられている草刈機。
【請求項2】
前記走行機体の走行モードを判定する走行モード判定部が備えられ、
前記走行モードは、手動制御モードと、自動制御モードと、を有し、
前記走行モードが前記手動制御モードの場合、前記走行制御部は手動制御の操作信号に基づいて前記走行機体を制御し、
前記走行モードが前記自動制御モードの場合、前記走行制御部は前記走行指示部の指示信号に基づいて前記走行機体を制御する請求項1に記載の草刈機。
【請求項3】
前記距離センサは、機体前後方向を軸芯に回転することによって走査するように構成されている請求項1又は2に記載の草刈機。
【請求項4】
前記距離センサは、前記走行機体の前部又は後部の何れか一方に設けられている請求項1から3の何れか一項に記載の草刈機。
【請求項5】
前記距離センサは、前記走行機体の前部及び後部の両方に設けられている請求項1から3の何れか一項に記載の草刈機。
【請求項6】
前記物体検出部は、前記対地高さデータのうち、前記距離センサの機体鉛直下方から予め設定された機体左右方向の範囲内のデータから近似線を算出することによって、前記地面基準線を生成するように構成されている請求項1から5の何れか一項に記載の草刈機。
【請求項7】
前記物体検出部は、前記対地高さデータのうち、前記地面基準線から一定値以上の高さを有するデータが一定範囲以上に亘って連続する箇所のデータから近似線を算出することによって、草候補線を生成するように構成されている請求項1から6の何れか一項に記載の草刈機。
【請求項8】
前記草候補線は、複数生成され、
前記走行機体に、前記走行機体の傾斜角度を検出する慣性センサが備えられ、
前記物体検出部は、前記草候補線のうち、前記草候補線の前記地面基準線に対する傾斜角度と、前記慣性センサによって検出された傾斜角度から算出された算出傾斜角度と、が予め定められた基準範囲内である一つの前記草候補線を、前記草基準線と特定するように構成されている請求項7に記載の草刈機。
【請求項9】
前記草基準線は、前記地面基準線から予め設定された高さの範囲内に限定される請求項1から8の何れか一項に記載の草刈機。
【請求項10】
前記草基準線と前記走行機体との距離は、現在と過去複数回とに亘って算出された複数の値が記憶され、
前記目標距離は、前記複数の値の移動平均値に基づいて算出される請求項1から9の何れか一項に記載の草刈機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、草刈走行を行う走行機体と、走行機体を制御する走行制御部と、距離センサと、が備えられた草刈機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に、草刈走行を行う走行機体(文献では「車体3」)と、作業領域の範囲に存在する物体を検出する検出装置(文献では「物体検出部11」)と、検出装置により検出された物体に基づいて算出された基準線(文献では符号「SL」)から走行機体までの離間距離を演算する距離算出部(文献では「距離演算部14」)と、基準線から走行機体までの距離が予め設定された範囲内に収まるように走行制御する走行制御部(文献では符号「16」)と、が備えられている自動草刈機が開示されている。特許文献1の自動草刈機では、果樹園内の二つ以上の果樹を目標物として基準線が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−189172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明では、果樹の幹が地面から立ち上がって果樹と地面とを容易に区別可能であるため、距離算出部は、果樹を目標物とする基準線と、走行機体と、の離間距離を演算できる。しかし、例えば法面等では地面から立ち上がる幹等が存在しない場合があり、目標物の設定ができずに基準線の生成ができない虞がある。
【0005】
上述した実情に鑑みて、本発明の目的は、草刈対象領域に目標物が無い場合であっても、刈取前の草と刈取後の地面とを精度良く判別して自動走行が可能な草刈機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の草刈機は、
草刈走行を行う走行機体と、
前記走行機体を制御する走行制御部と、
前記走行機体と、機体左右方向に位置する物体と、の距離を、機体左右両方に亘って走査する距離センサと、
前記距離センサの走査によって検出された距離及び走査角度に基づいて、機体左右両方に亘る対地高さデータを生成するデコード制御部と、
前記対地高さデータに基づく近似線によって、刈取後の地面のラインとして識別される地面基準線と、刈取前の草のラインとして識別される草基準線と、を生成する物体検出部と、
前記草基準線と前記走行機体との距離に基づいて目標距離を算出する目標距離算出部と、
前記草基準線と前記走行機体との距離が、前記目標距離と一致するように指示信号を出力する走行指示部と、
が備えられていることを特徴とする。
【0007】
例えば樹木等の目立った目標物が無い草刈対象領域であっても、草刈の対象となる草は存在する。本発明によると、距離センサが走行機体の左右方向を操作することによって、刈取後の地面と刈取前の草とを識別し、草の識別に基づく草基準線と、走行機体と、が予め設定された距離を保持するように、走行機体が制御される。このことから、草刈機は、刈取後の地面と刈取前の草との境界に沿って、草刈走行を自動的に行うことが可能となる。その結果、草刈対象領域に目標物が無い場合であっても、刈取前の草と刈取後の地面とを精度良く判別して自動走行が可能な草刈機が実現される。
【0008】
本構成において、
前記走行機体の走行モードを判定する走行モード判定部が備えられ、
前記走行モードは、手動制御モードと、自動制御モードと、を有し、
前記走行モードが前記手動制御モードの場合、前記走行制御部は手動制御の操作信号に基づいて前記走行機体を制御し、
前記走行モードが前記自動制御モードの場合、前記走行制御部は前記走行指示部の指示信号に基づいて前記走行機体を制御すると好適である。
【0009】
草刈対象領域の状況や走行機体の状況に対応して、草刈機は遠隔操作が可能な方が望ましい。本構成であれば、走行モード判定部による走行モードの判定から、走行制御部が入力する信号を、手動制御モードの場合における操作信号と、自動制御モードの場合における指示信号と、に切換可能となる。
【0010】
本構成において、
前記距離センサは、機体前後方向を軸芯に回転することによって走査するように構成されていると好適である。
【0011】
本構成であれば、距離センサの走査角度が前後方向を軸芯に回転するため、距離センサは、刈取後の地面のうち、走行機体の下方近傍の地面を走査できる。これにより、距離センサが刈取後の地面と刈取前の草とを精度良く走査可能となる。
【0012】
前記距離センサは、前記走行機体の前部又は後部の何れか一方に設けられていると好適である。
【0013】
本構成であれば、距離センサが走行機体の前後中央部に設けられる構成と比較して、距離センサは、距離センサの真下の地面を走査可能となる。これにより、距離センサが刈取後の地面と刈取前の草とを精度良く走査可能となる。
【0014】
本構成において、
前記距離センサは、前記走行機体の前部及び後部の両方に設けられていると好適である。
【0015】
本構成であれば、走行機体の前部に設けられた距離センサによって草刈走行が行われる前の地面及び草を走査できると共に、走行機体の後部に設けられた距離センサによって草刈走行が行われた後の地面及び草を走査できる。これにより、草刈機は、刈取後の地面と刈取前の草との境界に精度良く沿うことが可能となる。
【0016】
本構成において、
前記物体検出部は、前記対地高さデータのうち、前記距離センサの機体鉛直下方から予め設定された機体左右方向の範囲内のデータから近似線を算出することによって、前記地面基準線を生成するように構成されていると好適である。
【0017】
本構成であれば、近似線に基づいて地面基準線が生成される構成であるため、対地高さデータから刈取後の地面と草刈前の草とを効率よく判別できる。
【0018】
本構成において、
前記物体検出部は、前記対地高さデータのうち、前記地面基準線から一定値以上の高さを有するデータが一定範囲以上に亘って連続する箇所のデータから近似線を算出することによって、草候補線を生成するように構成されていると好適である。
【0019】
本構成であれば、草候補線として生成される対地高さデータは、データが一定範囲以上に亘って連続する箇所のデータに限定される。このため、一定範囲に亘って連続しないデータが、草候補線のデータから排除され、草を誤検出する虞が低減される。また、近似線に基づいて草候補線が生成される構成であるため、対地高さデータから刈取後の地面と草刈前の草とを効率よく判別できる。
【0020】
本構成において、
前記草候補線は、複数生成され、
前記走行機体に、前記走行機体の傾斜角度を検出する慣性センサが備えられ、
前記物体検出部は、前記草候補線のうち、前記草候補線の前記地面基準線に対する傾斜角度と、前記慣性センサによって検出された傾斜角度から算出された算出傾斜角度と、が予め定められた基準範囲内である一つの前記草候補線を、前記草基準線と特定するように構成されていると好適である。
【0021】
一般的に、草は傾斜地であっても特定方向(例えば鉛直方向)に沿って上方に生える場合が多い。本構成であると、慣性センサの傾斜角度に基づいて当該特定方向の算出が可能である。このため、複数の草候補線のうち、当該特定方向に沿う草候補線を草基準線と特定することによって、草の判別精度が向上する。
【0022】
本構成において、
前記草基準線は、前記地面基準線から予め設定された高さの範囲内に限定されると好適である。
【0023】
草の上部は風で揺れる場合が多いため、本構成であれば、風等の外乱による草の誤検出を防止できる。
【0024】
本構成において、
前記草基準線と前記走行機体との距離は、現在と過去複数回とに亘って算出された複数の値が記憶され、
前記目標距離は、前記複数の値の移動平均値に基づいて算出されると好適である。
【0025】
草刈走行において、草と走行機体との距離が一定範囲内に保持されている場合であっても、地面の石や杭等の検知によって草基準線と走行機体との距離が急激に大きく変化する場合も考えられる。本構成であれば、目標距離が移動平均値であるため、草基準線と走行機体との距離が急激に大きく変化する場合であっても、目標距離の変化は、草基準線と走行機体との距離の変化よりも小さなものとなり、走行指示部における指示信号が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】草刈機の構成を示す側面図である。
図2】旋回状態の平面図である。
図3】直進状態の平面図である。
図4】制御ユニットを表すブロック図である。
図5】草刈機の草刈走行を示す正面図である。
図6】距離センサの走査に基づく二次元の座標位置情報を示すグラフ図である。
図7】未刈草の検出処理を示すフロートチャートである。
図8】刈取後の地面の判定を示す説明図である。
図9】傾斜面と未刈草との相対角度の算出を示す説明図である。
図10】草候補線及び草基準線の生成を示す説明図である。
図11】目標距離の算出を示す説明図である。
図12】草候補線の生成の別実施形態を示す説明図である。
図13】距離センサの走査の別実施形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔草刈機の基本構成〕
本発明による草刈機について、その実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示されているように、本実施形態に例示される草刈機に、走行機体1と、第一車輪2Aと、第二車輪2Bと、草刈装置3と、が備えられている。第一車輪2Aは、走行機体1における長手方向の一端側に左右一対で設けられている。第二車輪2Bは、走行機体1における長手方向の他端側に左右一対で設けられている。草刈装置3は、走行機体1の下部における第一車輪2Aと第二車輪2Bとの間に設けられている。
【0028】
走行機体1の上部に、送信機7(図4参照)と通信可能なアンテナ8が立設されている。送信機7は、操作者が持ち運びしながら草刈機を人為操作可能なように構成されている。送信機7は、例えば作業者が手元で操作するプロポーショナル方式のコントローラによる操作であったり、タッチパネル方式の表示画面を有する携帯端末機器による操作であったりしても良い。
【0029】
図示はしないが、走行機体1に、エンジンEの動力を、第一車輪2Aと第二車輪2Bに伝達すると共に、草刈装置3に伝達する伝動機構が備えられている。伝動機構は、第一車輪2A及び第二車輪2Bと、草刈装置3と、に対する動力伝達を断続できるように構成されている。エンジンEの動力が、第一車輪2A及び第二車輪2Bと、草刈装置3と、に伝達されることで、機体を走行させながら草刈作業を行うことができる。第一車輪2Aに第一操向モータ9Aが設けられ、第一車輪2Aは第一操向モータ9Aの駆動力により縦軸芯周りで揺動してステアリング操作自在なように構成されている。また、第二車輪2Bに第二操向モータ9Bが設けられ、第二車輪2Bは第二操向モータ9Bの駆動力により縦軸芯周りで揺動してステアリング操作自在なように構成されている。図2及び図3に示されているように、第一車輪2A及び第二車輪2Bは夫々、直進用姿勢、右向き揺動姿勢、並びに、左向き揺動姿勢の夫々に向き変更操作可能である。
【0030】
走行機体1の前上部又は後上部に距離センサ10が備えられている。距離センサ10は、例えば、LRF(Laser Range Finder)であって、例えばレーザー光や超音波のような空中伝搬する信号を検出信号として送信する。検出信号が検出対象物に照射されると、検出信号は検出対象物の表面で反射する。そして、距離センサ10は、検出対象物の表面で反射した検出信号を、反射信号として取得する。つまり、距離センサ10は、距離センサ10の検出用範囲に向けて検出信号を送信し、かつ、検出信号に対する反射信号を取得する。そして、距離センサ10は、検出信号を送信してから反射信号を取得するまでの時間に基づいて、距離センサ10と検出対象物との距離を算出するように構成されている。距離センサ10が検出信号を送信し、かつ、反射信号を取得する処理を、以下「走査」と称する。なお、距離センサ10は、走行機体1の前部又は後部の何れか一方に設けられる構成であっても良いし、走行機体1の前部又は後部の両方に設けられる構成であっても良い。
【0031】
傾斜角度検出部11が走行機体1に備えられ、傾斜角度検出部11は、例えば慣性センサの一例であるIMU(Inertial Measurement Unit)であって、走行機体1の傾きを検出して検出傾斜角度Imを出力する。
【0032】
〔制御構成について〕
図4に示されているように、草刈機の自動走行を可能にするための制御ユニットUが、例えばマイクロコンピュータに組み込まれた状態で、草刈機に備えられている。制御ユニットUに、デコード制御部12と、走行モード判定部13と、物体検出部14と、目標距離算出部15と、走行指示部16と、が備えられている。デコード制御部12は、距離センサ10の走査によって算出された距離と、当該算出時の走査角度と、に基づいて、距離センサ10に対する機体左右方向の水平距離と、距離センサ10に対する機体上下方向の垂直距離と、を座標位置情報として算出する。制御ユニットUは、自動制御モードと手動制御モードとに切替可能なように構成され、走行モード判定部13の判定によって、自動制御モードと手動制御モードとの何れであるかが判定される。
【0033】
物体検出部14は、詳細について後述するが、座標位置情報に基づいて刈取後の地面を近似直線(近似線)で表す地面基準線LGと、刈取前の草のラインを近似直線で表す草基準線LKと、を生成する。物体検出部14に記憶部14aが備えられ、記憶部14aは、例えばRAM(Random Access Memory)であって、デコード制御部12によって算出された座標位置情報を経時的に記憶する。地面基準線LG及び草基準線LKの生成は、記憶部14aに記憶された座標位置情報を用いることによって行われる。
【0034】
目標距離算出部15は、草基準線LKと距離センサ10との離間距離を算出する。また、目標距離算出部15は、走行機体1のうち、距離センサ10の位置する箇所が草基準線LKと離間しながら好適に草刈走行するための目標距離LMを算出する。そして、走行指示部16は、草基準線LKと距離センサ10との離間距離を、目標距離LMに保持するように制御信号を出力する。
【0035】
走行機体1に、送信機7から無線送信される操作信号を、アンテナ8を介して受信可能な通信部17が備えられている。通信部17の受信情報は制御ユニットUに入力される。手動制御モードでは、送信機7の人為操作に基づいて草刈走行等が行われる。このため、手動制御モードの状態で、走行指示部16は無効化されるが、走行指示部16と連動して物体検出部14及び目標距離算出部15も無効化される構成であっても良い。
【0036】
走行指示部16の出力対象は走行制御部Cであり、走行制御部Cに、走行制御モータ18と、前後進モータ19と、第一操向モータ9Aと、第二操向モータ9Bと、が備えられている。走行制御モータ18は、エンジンEに対する燃料供給量を調整するアクセル20と、第一車輪2A及び第二車輪2Bを制動するブレーキ21と、を操作する。前後進モータ19は、正逆転切換機構22を切り換え操作する。図示はしないが、正逆転切換機構22は、第一車輪2A及び第二車輪2BにエンジンEの動力を伝達する伝動装置に備えられ、エンジンEの動力を正転方向と逆転方向とに切換えるためのギア機構である。第一操向モータ9Aは第一車輪2Aを操向操作し、第二操向モータ9Bは第二車輪2Bを操向操作する。走行制御モータ18と、前後進モータ19と、の夫々は、電動モータであっても良いし、電磁スイッチであっても良い。
【0037】
走行モードが自動制御モードの場合、走行制御部Cは、走行指示部16の指示信号に基づく制御を行う。走行モードが手動制御モードの場合、送信機7の人為操作に基づく操作信号が、通信部17及び走行モード判定部13を介して走行制御部Cに入力され、走行制御部Cは、当該操作信号に基づく制御を行う。
【0038】
草刈機の状態は、通信部17から機体外部の機器に送信可能であり、例えば携帯端末機器の表示画面に、草刈機の現在位置や状態を表示することも可能である。草刈機の状態は、例えば、草刈走行の車速であったり、燃料の残量であったり、草刈機に搭載された各種機器の不具合を示すものであったりしても良い。
【0039】
〔未刈草の検出処理〕
図5に示されているように、草刈機が自動走行を伴って草刈作業を行うとき、距離センサ10は、走行機体1の機体前後方向を軸芯に回転しながら、機体左右両方に亘って走査を行う。即ち、地面及び未刈草(図5のGNで示された領域)の距離センサ10に対する離間距離が、距離センサ10の走査によって得られる。本実施形態では、距離センサ10による走査は、図5で示された反時計回りの回転で、走査角度Ssと走査角度Sfとに亘って270度の走査角度範囲で行われ、走査角度Ss及び走査角度Sfは、機体の真上に対して左右に夫々45度傾斜する。なお、走査角度Ss及び走査角度Sfの傾斜角度は、適宜変更可能であり、夫々同じ傾斜角度でなくても良い。
【0040】
距離センサ10の走査によって、距離センサ10の走査角度毎に、反射信号に基づく距離情報が取得される。デコード制御部12は、例えば三角関数を用いる等の方法によって、この走査角度及び距離情報を、距離センサ10に対する機体左右方向の水平距離と、距離センサ10に対する機体上下方向の垂直距離と、に変換する。これにより、距離センサ10の経時的な走査によって取得された距離情報は、二次元の座標位置情報に逐次変換され、当該座標位置情報の集合は、物体検出部14に備えられる記憶部14aに記憶される。
【0041】
二次元の座標位置情報の集合は、図6に示されるような波形として表され、この波形は、当該座標位置情報の集合に基づいてプロットされるデジタルの波形である。座標の中心は、距離センサ10の走査角度の回転軸中心である。座標の下側において左右方向に沿う波形は、刈取後の地面を示す地面ラインG1であり、座標の右側において上下方向に沿う波形は、未刈草を示す未刈草ラインG2である。これにより、未刈草ラインG2の地面ラインG1に対する対地高さデータが得られる。
【0042】
なお、図6では未刈草ラインG2が機体の側部よりも離れた状態で位置しているが、これは例示である。例えば、距離センサ10が走行機体1の前端部に位置する場合、機体前方に未刈草が存在することから、未刈草ラインG2が機体と重複する状態で位置することが考えられる。また、例えば距離センサ10が走行機体1の後端部に位置する場合、未刈草ラインG2が機体の横側部と接する状態で位置することが考えられる。
【0043】
次に、未刈草を検知するための具体的な手順の例を図7に基づいて説明する。この手順では、走査角度Ssから走査が開始され、地面の走査を経て走査角度Sfで走査が完了するまでの一周期の走査の例を示しており、走査角度Ssから走査角度Sfまでの走査が繰り返し行われる。
【0044】
距離センサ10による走査が走査角度Ssから開始される(ステップ#1)。距離センサ10の走査角度が回転しながら走査が継続され(ステップ#2)、走査によって取得された距離情報は、走査が行われた時点の走査角度と紐付けられて、デコード制御部12によって二次元の座標位置情報に逐次変換される(ステップ#3)。ステップ#2の処理とステップ#3の処理とは、距離センサ10の走査角度が走査角度Sfに到達するまで継続する。
【0045】
距離センサ10の走査角度が、刈取後の地面を判定するタイミングの走査角度Sg2(図8参照)に到達し、かつ、地面基準線LGが生成されていない状態であると(ステップ#4:Yes)、刈取後の地面のラインとして識別される地面基準線LGが、物体検出部14によって生成される(ステップ#5)。図8に示されているように、距離センサ10の走査角度Sg1と、距離センサ10の走査角度Sg2との間で対応する座標情報に基づく近似直線として、地面基準線LGが生成される。地面基準線LGから上下方向の距離d1,d2の範囲内にある座標位置情報は地面の座標位置情報(地面データ)として判別される。
【0046】
走査角度Sg1及び走査角度Sg2は、距離センサ10が走行機体1に対して機体鉛直下方(機体垂直下方)を向く走査角度Sbに対して左右対称に傾斜する。本実施形態では、走査角度Sg1及び走査角度Sg2は、走査角度Sbに対して左右に夫々10度傾くように構成されているが、この傾斜角度は適宜変更可能であり、例えば走行機体1の左右幅に亘る傾斜角度であっても良い。また、走査角度Sg1及び走査角度Sg2は、走査角度Sbに対して左右対称でなくても良い。
【0047】
地面基準線LGから上下方向の距離d1,d2は、例えば夫々十センチメートルに設定されているが、この値は適宜変更可能である。また、距離d1,d2は、同じ値でなくても良い。
【0048】
地面基準線LGの生成が完了すると、刈取後の地面に対する未刈草の算出傾斜角度θ2が物体検出部14によって算出される(ステップ#6)。刈取後の地面の傾斜角度θ1は、傾斜角度検出部11によって出力される検出傾斜角度Imに基づいて算出される。傾斜角度θ1は、検出傾斜角度Imの瞬時測定値であっても良いし、周期的に出力された過去複数個の検出傾斜角度Imの平均値であっても良い。図9に示されているように、一般的に、未刈草は傾斜地であっても鉛直方向に沿って上方に生えることが知られており、刈取後の地面に対する未刈草の算出傾斜角度θ2は、下記の式で算出される。
【0049】
算出傾斜角度θ2=90°−θ1
【0050】
距離センサ10の走査は継続し、物体検出部14は、距離センサ10の走査に基づく座標位置情報が、草の座標位置情報(草データ)であるかどうかを判定する(ステップ#7)。本実施形態では、地面基準線LGから上下方向の距離d1,d2の範囲内にある座標位置情報は、地面データとして判別される。このため、物体検出部14は、距離d1,d2の範囲から外れた座標位置情報を、草データとして判定する。つまり、物体検出部14は、地面基準線LGから一定値以上の高さの座標位置情報を、草データとして判定する。
【0051】
誤検出を防止するため、草データが予め設定された個数に亘って、連続して検出されるかどうかが、物体検出部14によって判定される(ステップ#8)。草データが予め設定された個数に亘って、連続して検出されると(ステップ#8:Yes)、物体検出部14は、当該草データに基づいて草候補線Lcを生成する(ステップ#9)。つまり、草候補線Lcとして生成される草データは、該当データが一定範囲以上に亘って連続する箇所の草データに限定される。草候補線Lcの生成の可否を判定する連続検出個数は、天候や季節や未刈草の種類に対応して適宜変更可能である。距離センサ10の走査角度が走査角度Sfに到達するまで、物体検出部14は、草候補線Lcを複数生成する。図10において、草候補線Lcは、地面基準線LGの位置する側に最も近い草候補線Lc(1)から、地面基準線LGの位置する側から最も遠い草候補線Lc(4)まで、四個の草候補線Lcが生成された状態が示されている。物体検出部14が草候補線Lcを生成する個数は、適宜変更可能である。
【0052】
距離センサ10の走査角度が走査角度Sg2に到達すると(ステップ#10:Yes)、距離センサ10の走査が完了する。その後、物体検出部14は、ステップ#10の処理とステップ#11との処理を繰り返す。つまり、夫々の草候補線Lcの、地面基準線LGに対する傾斜角度(以下、「相対角度θ」と称する)を算出する(ステップ#11)。そして、物体検出部14は相対角度θと算出傾斜角度θ2とを比較する(ステップ#12)。相対角度θが、算出傾斜角度θ2から予め設定された基準範囲内であれば(ステップ#12:一致判定)、物体検出部14は、該当する草候補線Lcを草基準線LKして確定する(ステップ#13)。図11において、草候補線Lc(2)に基づく草基準線LKが示されている。この場合、地面基準線LGに対する草候補線Lc(2)の相対角度θが、算出傾斜角度θ2から予め設定された範囲内に収まっていることが、物体検出部14によって判定され、草候補線Lcが、草基準線LKして確定する。これにより、草基準線LKが物体検出部14によって特定される。
【0053】
このとき、物体検出部14は、複数の草候補線Lcのうち、算出傾斜角度θ2から予め設定された範囲内に相対角度θが収まっていることが最初に判定された草候補線Lcを、草基準線LKして確定する構成であっても良い。また、物体検出部14は、全ての草候補線Lcの地面基準線LGに対する相対角度θを算出し、算出傾斜角度θ2に最も近似する相対角度θを有する草候補線Lcを、草基準線LKして確定する構成であっても良い。
【0054】
草基準線LKの確定後、目標距離算出部15は、地面基準線LGと草基準線LKとの交点Sを算出する。そして、交点Sと距離センサ10との離間距離を算出し、交点Sと走行機体1との離間距離のうち、走行機体1の草刈走行に好適な目標距離LMを算出する(ステップ#14)。走行機体1の草刈走行に好適な目標距離LMは、地面の傾斜角度や未刈草の種類や高さ、走行機体1における距離センサ10の取付位置、走行機体1の前進方向等に基づいて決定できる。
【0055】
このように、距離センサ10の走査角度が一回転する毎に、ステップ#1乃至ステップ#14の処理が周期的に行われる。また、目標距離LMは、毎回のばらつきを抑制するため、過去複数回に亘って周期的に算出された過去複数個の目標距離の移動平均値に基づいて目標距離LMを算出するように構成されていても良い。
【0056】
〔別実施形態〕
本発明は、上述の実施形態に例示された構成に限定されるものではなく、以下、本発明の代表的な別実施形態を例示する。
【0057】
〔1〕上述した実施形態において、物体検出部14は、距離センサ10の走査角度が走査角度Sfに到達するまで、草候補線Lcを複数生成するように構成されているが、上述した実施形態に限定されない。例えば、草データの地面基準線LGに対する対地高さが、予め設定された高さよりも高い場合、物体検出部14は、当該草データに基づいて草候補線Lcを生成しないように構成されていても良い。未刈草の上端箇所は、風等に揺れやすいことから、この構成によって、風等の外乱による草の誤検出を防止できる。
【0058】
〔2〕上述した実施形態において、物体検出部14は、草データに基づいて草候補線Lcを生成するように構成されているが、上述した実施形態に限定されない。例えば、図12に示されているように、草データが予め設定された個数に亘って、連続して検出されると、物体検出部14は、当該草データは草基準線LKを生成するための候補データKcとして複数記憶される構成であっても良い。つまり、候補データKcは二次元の座標位置情報の集合であり、距離センサ10の走査角度が走査角度Sfに到達するまで、草基準線LKの候補データKcが複数記憶される。なお、候補データKcの記憶の可否を判定する連続検出個数は、天候や季節や未刈草の種類に対応して適宜変更可能である。複数の候補データKcの組合せに基づいて、近似直線である草候補線Lcを生成する構成であっても良い。
【0059】
例えば、図12において、候補データKc(1)〜Kc(6)が記憶されている。草候補線Lc(1)は候補データKc(1)及び候補データKc(2)の組合せに基づいて生成されている。草候補線Lc(2)は候補データKc(2)及び候補データKc(3)の組合せに基づいて生成されている。草候補線Lc(3)〜Lc(5)も、草候補線Lc(1)及び草候補線Lc(2)と同様のパターンで生成されている。そして、夫々の草候補線Lcにおいて地面基準線LGに対する相対角度θを算出し、相対角度θが算出傾斜角度θ2から予め設定された範囲内であれば、当該草候補線Lcを草基準線LKとして確定する構成であっても良い。草候補線Lcの生成において候補データKcの組合せは適宜変更可能である。例えば、相対角度θが算出傾斜角度θ2から予め設定された範囲内でなければ、複数の候補データKcの組合せをやり直し、新たな組合せに基づいて草候補線Lcを生成する構成であっても良い。
【0060】
〔3〕上述した実施形態において、距離センサ10は走行機体1の前上部又は後上部に備えられているが、上述した実施形態に限定されない。例えば、距離センサ10は、図13に示されているように、走行機体1の前上部に設けられる距離センサ10aと、走行機体1の後上部に設けられる距離センサ10bと、の二箇所に備えられる構成であっても良い。図13のGNは未刈草である。また、距離センサ10a及び距離センサ10bが、走行機体1の左右方向側端部に設けられる構成であっても良い。草刈走行が行われる前の地面と、未刈草GNと、が走行機体1の前部に設けられた距離センサ10aによって走査される。また、草刈走行が行われた後の地面と、未刈草GNと、が走行機体1の後部に設けられた距離センサ10bによって走査される。この構成であれば、走行機体1の前後で、夫々異なる目標距離LMを独立して算出可能となるため、走行指示部16が出力する指示信号を、一層好適なものにできる。また、図13における草刈走行のときに、距離センサ10aによって、例えば石や杭が検知された場合、草刈装置3の回転を停止する等の対処が可能になる。
【0061】
〔4〕上述した実施形態において、図7に示されたステップ#1からステップ#14までの手順で目標距離LMが算出されるように構成されているが、上述した実施形態に限定されない。例えば、走査角度Ssから走査角度Sfまで270度に亘る走査が行われた後に(ステップ#1〜ステップ#3)、地面基準線LGの生成(ステップ#5)と算出傾斜角度θ2の算出(ステップ#6)とが行われ、その後に草データの検出に基づく草候補線Lcの生成(ステップ#7〜ステップ#9)と、相対角度θの算出処理(ステップ#11)から目標距離LMの算出(ステップ#14)までの処理が行われる構成であっても良い。この構成であれば、例えば走査角度が走査角度Sfから走査角度Ssに向けて逆方向に回転する場合にも適用可能である。
【0062】
〔5〕上述した実施形態において、地面基準線LGと、草候補線Lcと、草基準線LKと、は夫々近似直線となっているが、上述した実施形態に限定されない。例えば、地面基準線LGと、草候補線Lcと、草基準線LKと、は夫々近似曲線であっても良い。
【0063】
〔6〕上述の実施形態では、草刈機が草刈りを行いながら自動走行するとして説明したが、例えば、手動操作による草刈走行の操向操作をアシストする草刈機であっても良い。また、草刈機以外に、芝刈機やモアであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、草刈対象領域を草刈走行する草刈機に適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 :走行機体
10 :距離センサ
12 :デコード制御部
13 :走行モード判定部
14 :物体検出部
15 :目標距離算出部
16 :走行指示部
C :走行制御部
Im :検出傾斜角度
LG :地面基準線
Lc :草候補線
LK :草基準線
LM :目標距離
θ :相対角度(傾斜角度)
θ2 :算出傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13